これは、育児放棄? そんなもんじゃないんだぜ!! 後編その2でカットした部分です
お兄さんに赤まりさたちの教育を任された、ゆっくりゆうかの視点です。
彼の虐待部屋にたどり着くまでの間に、ゲスと判断された妹まりさがどんな目にあっていたのか気になる方はどうぞ。

赤ゆ言葉が多いです。一応翻訳もつけていますが、ご注意ください。








所変わって、こちらはゆっくりゆうか率いる赤まりさたち。
赤ゆたちは解放感溢れる外の空気と土の感触が嬉しいのか、早速駆け回って遊び回っている。
しかしいつまでも自由にさせるわけにもいかない。それらを見渡すと、ゆうかは早速畑や野菜について説明を始めた。
通常、野菜は勝手に生えると信じているゆっくりたちの固定観念を覆すのは容易なものではない。
本来ならばこの赤まりさたちも、早々とゆうかの説明に異論を唱えただろう。
だが、今回はそのようなことは起きない。
赤ゆたちは元母親のゲスまりさによって、姉を半死半生にされたうえ捨てられたからだ。
母とはいえ、自分たちを売ったゲスまりさへの信頼などとうに放棄している。
しかも、先ほどまで散々とお兄さんからゲスまりさの教えについて指摘されていた。
それにより赤ゆたちは、今まで母まりさの教えてくれたこと全てにも疑いを持ち始めていたのだった。
お兄さんから知恵を授けられた同族、ゆっくりゆうかの指導。頼るものを失った赤ゆたちの縋るべきものは、最早彼女しかいない。
そうなればどんな話でも鵜呑みにするだろう。そこを利用すれば、赤まりさたちの価値観を塗り替えるのは容易いことだ。
お兄さんたちの計画など露ほども知らない姉まりさたちは、彼の考え通り素直に彼女の説明に耳を傾けていた。
対するゆうかは、真面目に聞いているとはいえ、本音を言えばしっかりと赤ゆたちに畑の仕組みを説明をしたかった。
しかしまだ幼い赤まりさ達ではそれを理解することは難しいと判断し、畑はあくまでも人間の所有物であることと、野菜は育てるものだということのみを教えるにとどめたのだった。

「ゆぅ……、まりしゃたちがまちぎゃっちぇたよ……」
「おやしゃいしゃんはかっちぇにはえにゃいんだにぇ……」(お野菜さんは勝手に生えないんだね)
「どりょぼーしゃんはゆっきゅりできにゃいよ!!」(泥棒さんはゆっくりできないよ)
「そういうこと。……いい? わかった?」
「「「「「ゆっきゅりりきゃいしちゃよ!!」」」」」」

おおまかではあるが必要最低限の説明を終えたゆうかに対し、赤まりさたちは声を揃えて返事をした。
中には理解出来たことで反省する様な個体もいる。それらはすべて、お兄さんが印をつけた赤まりさたちであった。
やはり、このゆっくりたちはただの餡子脳というわけではないらしい。
だが、どの世界にも落ちこぼれと言うものは存在した。
印をもらえなかった赤まりさたちはすぐにゆうかの話に飽きて、走り回って遊んだり昼寝を始めていた。
酷いモノは説明されたばかりだというのに、早速庭に生えていた花にかじりついている。

「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇえええええ!!」
「まりざなにじでるのおおおおおおおお!?」

驚いたのはそれを見つけた印まりさたち。
慌てて花を食べていたまりさに駆け寄っていく。名前の方で呼んだことから、問題を起こしたのは妹だろう。
ちなみにその花はたんぽぽだ。いずれ間引かなければならないモノだったので、あえてゆうかは何も言わない。
むしろ、これはちょうどいいきっかけになると判断する。

「ゆーかのおにぇーしゃんからおしえられたでしょおおおお!?」(ゆうかのお姉さんから教えられたでしょ!?」
「しっちぇりゅよ!! じぇんぶまりしゃのためにありゅんだよにぇ!!」(全部まりさのためにあるんだよね?)
「ぞんなわげないでじょ!? おはなじぎいででよおおおおお!!」

決心した直後に出鼻をくじかれた印のある姉まりさ達。そりゃ泣きたくもなるだろう。
姉のまりさと違い、問題のまりさには全く話が通じていない。やはりゲスの餡子を色濃く継いでしまっていたようだ。
先ほどのお兄さんの判断とこの状況を見て、ゆうかは冷静に考える。

「きょきょをまりしゃのゆっきゅりぷれいしゅにすりゅよ!! みんにゃでていっちぇね!!」(まりさのゆっくりプレイスにするよ。みんな出ていってね)
「「「どおじでぞんなごどいうのおおおおお!?」」」
「おいしいおはにゃしゃんも、おやしゃいしゃんも、みんにゃまりしゃのちゃめにあるんだよ!?」(お花さんもお野菜さんも、みんなまりさのためにあるんだよ)
「「「ぢがうでじょおおおおおおおお!?」」」
「うるちゃいよ!! おねーしゃんたちがまりしゃのちゃめにがんばっちぇね!! できにゃいにゃらちね!!」(まりさのために頑張ってね、できないなら死ね)

ゆうかの説明を丸っきり無視する形で、好き勝手に喋る妹まりさ。
どうにかして説得しようと試みる印付きまりさたちだが、問題の赤まりさはもう会話もしたくないのか、別の花を探し始める。

「やっぱり、げすのこね……」

ぼそりと呟いたゆうかの声が、その場の赤まりさ全員の耳に届いた。

「ぜんぜんはなしきいてないわね。ゲスだからかしら。そうね、ゲスじゃむりよね。だってゲスだもの」

問題のまりさへ向けていた視線が全てゆうかに注がれる。それを彼女は見下すような表情で受け止めていた。
ゲス発言していたまりさも、驚いた表情で振り返っていた。そして、頬を膨らませて怒りをあらわにする。
そんなまりさを、ゆうかは何も言わずただにやにやと見下ろすだけだ。

「ぷくー!! まりしゃはげすじゃにゃいよ! みんにゃがやきゅたたじゅにゃんだよ!!」(みんなが役立たずなんだよ)
「「「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!!!」」」
「ゆぅ……、まりしゃ、そんなこといったらだめだよ……」

そう言って近づいてきたのは、一体の印付きまりさ。足を引きずっていることから長女だろう。
ほぼ這う様にして移動するため、蝸牛と同じような速度である。
姉にしてみれば、妹のことを思っての注意であるが、それを問題のまりさは面白くなかったようだ。
姉まりさを正面から睨みつけた次の瞬間、失われた目に向けて全力の体当たりをお見舞いする。
姉とはいえ、互いにほぼ同時に生まれた関係。二匹のサイズに違いはほとんど見られない。
小さいながらも妹の体当たりを受けた姉まりさは、歩く速度の倍以上でころころとゆうかの方へ戻ってきた。

「ゆぎゅっ……!?」
「「「おねえじゃああああああああん!?」」」
「げらげらげら! しょんにゃゆっきゅりできにゃいきゃらだのおにぇーしゃんにゃんてまりしゃはいりゃないよ!!」(そんなゆっくりできない身体のお姉さんなんてまりさはいらないよ)
「「「「どぼじでええええ!?」」」」

あまりにも身勝手な妹の言葉に、ただ涙目で声をあげる姉まりさたち。
しかもその自由(身勝手)な姿に羨望を抱いた別の妹たちが、問題のまりさの方に感化されてしまった。
残りの3体も、揃って自分たちを守ろうとした姉に向けて罵詈雑言を放つ。

「ゆっきゅりしにぇ! ゆっきゅりしにぇ!!」
「ゆ! しょうだにぇ! ゆっきゅりできにゃいおねーしゃんにゃんていらないにぇ!」
「まりしゃもおはなしゃんむしゃむしゃしゅりゅよ! むーちゃ、むーちゃ!!」
「「「「ゆああああああああああん!!!!」」」」

妹たちの傍若無人にショックを隠せない姉たちは、ただ泣くだけ。
その様子を、ゆうかは冷たい眼差しで見つめていた。そして落ち着いた頭で、冷徹な判断を下す。
お兄さんは印のない赤まりさ達のゲスさを抑えられればと考えていたようだが、これらから推測するに矯正は無理だろう。
残念ながら、この妹たちにはゲス度しか無い。
教育したくとも、そもそも知性と理性が欠けたゆっくりなのだ。ゲス-ゲス=ただの餌用饅頭にしかすぎない。
ならばせめて、出来のいい姉たちへの反面教師として役立てることにしよう。
矯正が無理だと判断した場合の対処法として、ゆうかはお兄さんから伝えられた内容をそのまま口に出した。

「『ははおやそっくりね。ゲスばかりでゆっくりできないわ』」
「「「「「ゆっ!?」」」」」
「『ははおやとおなじゲスまりさとは、とてもゆっくりできないのよ』」
「ま、まりしゃたちはあんにゃにょとちぎゃうよ!?」
「『あなたたちはやっぱりいらないわ』」
「ま…まっちぇ、おにぇーしゃん、すちぇないで……!」
「げすまりさはきらいなの、よらないで」

お兄さんから伝えられた言葉を復唱するゆうか。
台所での出来事を思い出して、赤まりさ達は全身を硬直させる。
そんな中で真っ先に反応したのは、妹に体当たりされた姉まりさだった。
それをゆうかは素の感情で拒絶する。元々彼女もゲスは嫌いなのだ。
姉まりさに非はなくとも、まりさ種自体を嫌っているので躊躇しない。

「お、おねーしゃん、まっちぇね。まりしゃとしゅりしゅりしちぇね?」(まりさとすりすりしてね)
「げすまりさはきたないの、さわらないで」

次に理解したのも、別の印付きまりさだった。
妹まりさのせいで、ゆうかが怒ったと思ったらしい。
どうにか機嫌を直してもらうため、すりすりして親愛の情を伝えようと近づくが、それすら拒絶されてしまう。
もう少しで肌が触れ合うというところで、ゆうかはそれを後ろに跳ねて避ける。
体当たりをしないのは、お前たちに触りたくないからだというのをアピールするかのように。
そもそもゆうか種はドSではあるが、無闇に他のゆっくりを潰すような真似はしない。
捕食種なりの強さ故に、うっかり攻撃しようものなられいむ種やまりさ種ではすぐに潰してしまうことがあるからだ。
それではすぐ終わってしまうため楽しめない。
だからこそ彼女たちは、暴力を振うよりも苦しむゆっくりを見ることに楽しみを見出す傾向が強い。
このゆうかも同じように、そしてお兄さんのように言葉でゆっくりを惑わすタイプだった。
また捕食種特有の身体能力は、狩りの得意なまりさ種よりも高い。体力知力、どちらにおいても普通のゆっくりでは敵わないのだ。
幼い赤まりさがかなうなど、到底無理な話である。
それでも諦めきれないのか、印付きのまりさたちはゆうかを追いかけ続けた。
最初はただ見ているだけだったゲス赤まりさたちも、ただ事ではないと感じ、輪の中に乱入してきた。
前後左右。あらゆる方向から赤まりさ達はゆうかへ飛びつこうと奮闘する。だがゆうかはそれを避けることで全て拒絶した。

「ゆええええん!! どおぢでしゅりしゅりしちぇくりぇないの!?」

最初に疲れて泣き出したのは、問題を起こしたまりさだった。
つられて全ての赤まりさたちも泣き始める。
まともに動けない長女まりさは、姉として耐えているようだが、その目にはたっぷりの涙。
そろそろ潮時だろう。ゆうかはお兄さんからトドメとして用意された言葉を発する。

「『ゲスなゆっくりがいるからよ。いなければよかったのにね』」

その言葉に、全ての赤まりさの視線が一体の妹に集中する。
言わずもがな、対象は最初に花を食べた妹まりさだ。

「ゆぁ……ま、まりしゃはちがうよ!? そにょまりしゃだよ!?」
「ち、ちぎゃうよ!? まりしゃはちゃべちぇないよ!?」
「うりゅしゃいよ!! まりしゃはいもうちょにゃんだよ!? いちびゃんきゃわいいんだよ!!」

早速他の姉妹に罪をなすりつける妹まりさ。慌てたのは、無実の赤まりさである。
すぐさま否定するが、それを妹まりさは怒鳴りつけて黙らせた。
それらをゆうかは無視して話を続ける。

「いっぴきゲスがいると、みんなおなじゲスにみえるのよ」
「ち、ちぎゃうよ……まりしゃは……」
「だって、おなじははおやでしょ?」
「あ、あんにゃのおやじゃ……」
「じゃあ、あなたたちのおかあさんはだれ?」
「ゆ……ゆぁ…」
「わたしはゲスがきらいなの」
「……ま、まりしゃたちも……?」
「だいきらいよ、ゲスまりさ」
「「「「「「ゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」」」」」」

お兄さんが付けた心の傷に、今度はゆうかが言葉の爪を立てる。
せっかく助けてもらったのに……。姉まりさをはじめ、赤まりさたちはショックを隠せない。
それと同時に、赤まりさたちの心に燻り始めるとある感情。
最初に泣き止んだのは、長女まりさだった。ゆうかの一言に、思うことがあったのだろう。
いや、そもそも反応しやすい言葉を選んだのはお兄さんだ。正確には釣れたといったほうが正しい。

「おねー……しゃん?」
「……なに?」
「まりしゃたちがげしゅじゃなきゃったりゃ、きりゃいになにゃない?」(まりさたちがゲスじゃなかったら嫌いにならない?)
「………………そうね、考えてあげる」
「わかっちゃよ! まっちぇちぇね!!」

ゆうかは決して安易な肯定をしない。あくまでも可能性の一つとして示唆しておく。
それでも長女まりさはゆうかの言葉に一筋の光明を見出したようだ。
動かない片足を引きずって、最も泣き喚いている問題の妹へと再び近づいていく。
欠伸の出るほどに遅い移動だが、確実に距離を詰めていく。
今度は心配や思いやりの感情からではない。その残された片目に宿る物は、濁った憎悪。
他の赤まりさたちも、やがて一匹二匹と泣き声が収まるに連れて妹まりさへ近づいていく。

「ゆえええええええん!! ゆあああああああん!! みんにゃまりしゃのいうきょちょきいちぇよおおおお!!」
「うるしゃいよ!!」
「ゆびぇっ!?」

妹まりさの泣き声を遮ったのは、別の印付きの赤まりさだった。
長女まりさがされた時のように顔に体当たりをして、妹を弾き飛ばす。

「きょのげしゅ!!」(このゲス)
「おみゃえにょしぇいで!!」(おまえのせいで!!)
「ゆべっ!! ゆびぇ!?」

転がった先にも他の姉妹が待ち構えており、各々罵りながら問題の妹へ暴力を振るう。

「しにぇ!! しにぇ!!」
「おみゃえにゃんかいもうちょじゃにゃいよ!!」(お前なんか妹じゃないよ!!)
「ゆげぇ…、ゆ……げぇれ…」

四方八方あらゆる角度からの体当たりを受け、あっという間に弱っていく妹まりさ。
その表情は、どうして自分がこんな目にあうのか理解できないようだった。
やがて、その輪に追いついた長女まりさが妹まりさの傍へ寄る。

「お、おねーちゃ……たしゅけ……」
「げしゅはちんでね」(ゲスは死んでね)
「みゃりちゃのおびょうじぎゃああああ!?」(まりさのお帽子があああ!?)

完全な拒絶。動かない身体を引きずりながらも、長女まりさは憎き妹の帽子を噛みちぎった。
自分が見捨てた姉に、今度は自分が見捨てられる形となった妹まりさ。
姉以上に動けなくなった体を痙攣させて、帽子の破片へと近づいていくが、それを他の姉たちが妨害する。

「いいきみだにぇ!! ばきゃはちね!!」(いい気味だね)
「おみゃえにゃんきゃしんじゃえ!!」
「ぼうしぎゃにゃいきゃら、ゆっきゅりじゃにゃいにぇ!!」(帽子がないからゆっくりじゃないね)
「おお、みじめみじめ」
「ばーきゃばーきゃ!!」
「ゆっきゅりできにゃいげしゅはちね!!」(ゆっくりできないゲスは死ね)
「まりしゃのおぼうじがえじぇえええええ!!」

ひたすら続く姉たちの体当たりの中、破れた帽子をどうにかかき集めようとする妹まりさ。
だがすでに帽子を成していた素材はコマ切れとなり、土の色と混ざり合って探すことは不可能になっていた。
そして目に見えて弱っていく妹まりさへの暴力は、さらに加速する。

「おみゃえのぼうちにゃんきゃ、もうにゃいよ!!」(お前の帽子なんかもう無いよ)
「ゆ……ゆげぇ…、まりしゃのぼーちしゃ……」
「ゆっ!! あんきょしゃんはいちゃよ、きちゃないにぇ、しにぇ!!」(餡子さん吐いたよ、汚いね)
「ゆひゅ……ひゅ…ま、まりしゃきちゃなく……」
「きちゃにゃいよ!! おみゃにゃんきゃだいきりゃいだ!!」(汚いよ、お前なんか大嫌いだ!!)

賢い個体ではあるが、やはりゲスの餡子だけある。
長女まりさをはじめ、弱っていく妹に対し、最早姉妹であった時の感情は無くなっているようだ。
むしろ元凶への制裁という正当性が集団心理で生まれているのか、弱っていく饅頭を見て笑みを浮かべている個体さえいる。




お兄さんの言った通りになった。その様子を傍観しているゆうかは、内心驚きを隠せないでいた。
彼がゆうかに伝えたのは、ゲスと不必要を強調して印付きの赤まりさを貶せというものだった。
お兄さんは台所で赤まりさ達の親に見捨てられたというトラウマを植え付け、また軽蔑すべき親と同列に扱うことで過度なジレンマを与えることに成功した。
すると、「あんなのと自分は同じ」というそれは、赤まりさたちに強く根付くこととなり、ゲスと呼ばれることに強い抵抗感を見せるようになった。
これにより、ゲスを繰り返し否定することで赤まりさ達にはゲスという存在を憎むように仕向けることができるのである。
自分たちはあの母とは違う。赤まりさ達は母を否定するように行動するだろう。
だが、お兄さんやゆうかは赤まりさ達をゲスとしてしか扱わない。

「自分は違う。けれど、ゲスとして見られる」

何度否定しても、お兄さんたちは全く相手にしてくれない。
ならばどうすればいいか。餡子脳は幼いながらも考えるだろう。
そんな中、特に長女まりさの視界に映ったのは、問題の妹まりさであった。
印を付けられなかった妹まりさは、見事ゲスの素質に恵まれていた。

「まりさ種はゲスでしかない」

繰り返し教えられたことで、ただでさえジレンマを抱えた赤まりさ達は餡子脳を存分に刺激されたことだろう。
同時に印のある赤まりさ達にとって、妹まりさは目の上のたんこぶになったに違いない。
注意しても言うことを聞かないならば、あとは力づくである。
本来ならば暴力に訴えることは無かったのかもしれないが、そもそも親がゲスなのだから仕方ない。
まりさ種特有の賢さと、粗暴さを含む深層のゲスさが相まってしまったが故に、考えが極論に至ってしまったのだろう。
最初は注意していた長女まりさも姉妹の情よりゲスへの憎悪が優ったようで、帽子を破り捨てるなど徹底した拒絶を示した。

「こいつみたいなゲスがいなければ、お兄さんもお姉さんも、自分たちをゲス呼ばわりしなくなる」

全員が迷いなく妹まりさへ襲いかかったところを見る限り、その考えは一緒だったのだろう。
全ては、お兄さんの計画通りに誘導された結果であった。

「ゆげぇ……、やべじぇね……、がわいいまりじゃが……ゆごえっ!?」
「いいきゃげんしゃべりゅにゃ!!」
「うるしゃい!!」
「きちゃにゃい!!」
「ぶしゃいきゅ!!」
「げしゅが!!」

小さな身に憎しみを込めて、姉まりさ達はお仕置きを続けている。
だがそれも、すでに制裁の域を超えて遊びと変化しているようだった。

「ゆぴゅっ! ……ゆひゅ……ぴゅっ!? ぴゅ……ぇぷっ!?」
「げらげらげら!! きょのげしゅ、あんきょはいちぇるよ!!」(このゲス、餡子吐いてるよ)
「きちゃないにぇ!! きちゃないにぇ!!」

妹のまりさももう限界だろう。身体は殆ど黒ずみ、時折餡子を噴き出しては痙攣するだけである。
もちもちだった饅頭の肌は、ぶよぶよに潰れている。餡子が汚らしく口元にこびり付き、円らな瞳(爆笑)は半分ほど押し出されていた。
それでもまだ「遊び」足りないのか、姉まりさたちは妹から噴き出した餡子を踏みつぶし、土を口に含んでは潰れかけた体へとぶつける。

「ゆびゅ…だじゅぎぇ、じに……だ、ぎゅ…にゃ……」
「にゃにいっちぇるきゃわきゃんにゃいにぇ!!」
「しょうだにぇ! だきゃらもっちょしぇいしゃいしゅりょ!!」(だからもっと制裁するよ)
「やべじぇ……おにぇ…じゃ…まりじゃ………ゆげぇっ」
「うるしゃいよ!!」
「おみゃえはしゃべりゅな!!」

さすがのゆうかも顔をしかめるしかない。制裁の意味がわかって言っているのか。
これではどちらがゲスかわかりやしない……。
とにもかくにもお兄さんに言われた通り、ゲスと判断されたまりさには別の用事があるらしいのでそろそろ止めるべきだろう。
ゆうかは近くにあった植物の茎を咥えると、それを振っていまだ妹まりさを囲んでいた姉たちを全て吹っ飛ばす。
ゆぎゃ!? と姉まりさ達は悲鳴を上げるが、手加減はしっかりしているのでダメージはないはずだ。
ゆうかは茎を離すと、何事かと自分を見上げる赤まりさ達を睨みつけた。
その捕食種特有の眼差しに、小さな饅頭達は言葉を失う。

「これじゃおべんきょうなんてむりね、おにいさんのとこにもどるよ」
「ゆっきゅりりきゃいしちゃよ!!」

そう答えたのは、印の付いていない赤まりさ。

「そうね、ちゃんとりかいできるゆっくりはゲスじゃないわ」

ゆうかは頷きながら近くに生えていた葉っぱを咥えてくると、それを地面に敷いて妹まりさを乗せるように指示する。
姉まりさ達が言われた通りに行動したのを確認すると、ゆうかは自分についてくるよう言って、お兄さんの家へと戻り始める。

「おねーじゃ……だじゅげ…」

その間、餡子を吐きながら助けを求める赤まりさを彼女は一度も振り返ることはなかった。
たまにゆうかの目を盗んで、姉たちが唾を吐きかけてくるのを、妹まりさは涙を流して受け続けていた。

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最終更新:2022年05月22日 10:41