※ご覧頂く前の注意書き※

  • 初SSです。宜しくお願いします。
  • 「ぺにぺに」表現が1ヶ所ですがございます。
  • 俺設定込みです。
  • 原作キャラがほんの少しですが登場します。

注意書きは以上です。それでは、お楽しみ頂けると幸いです。

2/21 加筆しました。 by 作者



少し前に「サッカー」というスポーツが流行した幻想郷。最近は違うスポーツが流行り始めている。
名を「野球」。外から来た友人曰く、守備側がボールを持つ珍しいスポーツらしい。
必要な道具が少し多いのが難点ではあるが、面白さはサッカーに匹敵する。むしろ私は野球の方が気に入ってたりする。

この野球、「ボール」という丸い物体を多く使う。初めの頃は香霖堂で調達していたのだが、
だんだん在庫が少なくなってきたので、仕方なく代替案を考えることになった。
そこで出た案が幻想郷のどこにでもいる饅頭、ゆっくりを使うというものだ。
確かに数は多いし、タダで手に入る。皮を硬化させるスプレーを使えば強度も問題ない。
しかも硬くなっているとはいえ野球ボールより柔らかいし、女性や子供用の軽くて軟らかいバットも開発されたので安全に楽しめる。

まあ、主にやってるのは大人の男と子供たちが中心だ。意外と女性がやってるのも見るが。
……そういえば子供達が野球をやってるのを見たことがあるが、稗田さん家の阿求ちゃんがものすごい打球かっ飛ばしてたなあ。
あの小さい体のどこにあんなパワーがあるんだろう。しかも女の子なのに。
そんな訳で、当初とは違った形で野球が浸透していったのである。



今日の営業を終了し、友人と飲みに行った。友人はいわゆる「虐待お兄さん」である。
ちなみに彼は私が所属する人里商店街チームの4番バッター。打席に入ると目の色が明らかに変わるのは私の気のせいか。
私はあまりゆっくりの虐待を好まない(野球用ゆっくりは悪事を働いたものが殆どなので、まあ仕方ないかと思っている)ので、
彼がする虐待の話は適当に流しているが、まあ良いやつだ。

今日も野球談議(と、友人のするゆっくりの話)に花を咲かせ、飲み終わって家に帰ることになった。
……先週の試合は4の0だったからなー、しかも来週は強豪の加工所チームと対戦だし。帰ったら素振りでもしておこう。
そんなことを考えつつ家に帰り着くと、中で物音がしていた。


――泥棒か?



慌てて扉を開けると、何かがいるようだった。明かりを点けてみると何てこった。部屋が荒らされているじゃないか!
大きいのが2つ、小さいのが8ついる。大きいのは香霖堂で見たバスケットボールとかいうやつと同じ大きさぐらいで、
小さいのは4つが野球ボールより一回りか二回り大きく、あとの4匹は野球ボールと同じぐらいの大きさ。
そう、ゆっくりである。
半分の5つが帽子をかぶり、あと半分はリボンを付けている。まりさ種とれいむ種だ。
私が呆然としていると全員がこっちを向いて「「「ゆっくりしていってね!!!」」」とか言ってきた。うるさい。
その言葉で我に返り、とりあえず部屋を見回していると帽子をかぶった大きな饅頭が口を開いた。

「ここはまりさたちがみつけたゆっくりプレイスだよ! あとからきたおにいさんはでていってね!」
「しょーだしょーだ!」
「きょきょはれいみゅたちのゆっきゅりぷれいちゅだよ!」
「おにいさんはゆっくりできるひと?」
「ゆっくりできないならでていってね!」
「ごはんをくれたらいてもいいよ!」
「ゆえーん、おきゃーしゃんあんよいぢゃいよう……」
「ゆー、ゆー、ゆゆゆー……。れいみゅだいじょぶ?」
「ぺーろぺーろ……。ゆっ! こどもたちにごはんをちょーだいね! あとけがをしたこをなおしてね!」
帽子が口を開いた途端、リボン付きと小さな饅頭たちも口々に騒ぎ出した。



一方的に喋られるのもなー、と思ったのでこちらからも質問してみる。
「えーと、君たちはここで何をやってるのかな?」
すると大きな饅頭2匹が答えを返してきた。大きさから見て親だろう。
「ゆっ? まりさたちがみつけたゆっくりプレイスでゆっくりしてたんだよ!」
「でもごはんがあんまりなかったんだよ! こどもたちにごはんをあげてね! あとけがしたこをなおしてね!」
あー、今日は外で食べるつもりだったから食べ物があんまり無かったんだっけ、そういえば。明日買いに行こう。
「おにいさん! きいてるの?」とリボン付き饅頭。親れいむか。
「今日は食べ物がないんだよ、ごめんな。それよりどうやってここに入ったんだい?」
一応友好的に聞いてみる。

小さいが商店を経営しているので戸締りは欠かさない。今日も飲みに行く前に3回確認した。
明かりもちゃんと消している。となると……。
「これをつかってはいったんだよ!」と石を取り出す親まりさ。
やはりゆっくり達は石を使い、窓を割って入ってきたに違いない。窓割れてるし。
しかも明かりの無い部屋を荒らせるとは、こいつら多少なりとも夜目が利くようだ。
そういえばガラスの破片付近に1匹動きが悪いのがいて、何匹か周りで雑音を撒き散らしている。
友人から聞いたところによると歌で励ましているらしいが、私には雑音以外に聞こえない。

「れいむのけがしたかわいいあかちゃんをなおしてあげてね!」親れいむはさっきからこれしか言わないな。
もしくはガラスの破片で怪我した赤ちゃんれいむの底を舐めてるかどっちかだ。
「あーはいはい」自業自得なので適当に返事をしておく。
ゆっくり達とそんなやりとりをしているうちに、ある重要なことに気がついた。


――店は大丈夫なのか?


迂闊だった。家は奥が居住スペース、道沿いが店になっている。
奥から入ってきたが、すぐ店の方に注意がいかないなんて商売人失格だ。
慌てて店に走り、見るとそこは瓦礫の山とでも言えばいいのだろうか。大切な商品が散乱していた。
取り扱っている割れ物は半分以上が割れたか欠けたかという状況だ。完全に酔いが醒めた。
明日の営業は休止にするか、良くて午後からである。相当な損害も受けた。完全復旧までには結構な時間と資金がかかるだろう。

あの饅頭ども……。土足で上がりこんで人の生活荒らしやがって……。しかも飯よこせたあいい根性してんじゃねえか……。
私はゆっくり虐待派では無い。だが人間に迷惑をかけるようなゆっくりを懲らしめるのには全く躊躇しない。
別に殺しても構わないと思う。

今回は人の家に土足で上がり込み、窓ガラスと大事な商品に損害を与えた。少ない額では無い。
損害額を弁償させるのが最も良いが、連中は金など持っていない。


――だから、あのゆっくり親子には相応の罰を与えなければならない。



さて罰を与えるのは決まったが……どう与えよう? ゆっくりに危害を加えたことが無かったので方法がすぐに思いつかなかった。
しばらく思案していたら、あることに思い至った。私は家に入る前、帰ったら何をしようとしていただろうか?
……やることは決まった。道具はあるが、足りないものもある。足りないものを借りに行くついでに、友人も呼んでこよう。
放っておいてもゆっくり共にこれ以上部屋を荒らされることはないだろう。もう荒らすものが無いからだ。

家から走って1分のところに住んでいる友人にこれからやることを手伝ってほしいと言うと、二つ返事で来てくれた。
加工所製の透明な箱持参である。
あと紐が必要だが、家にあるので問題なし。家について扉を開けて中に入る。
するとまた「ゆっくりしていってね!!!」だとか「おじさんはでてけ」だとか言ってくる。
さっきはお兄さんだったのにおじさんに格下げですか。
怪我してるやつも死んではいないようだ。良かった。ゆっくり共は口々にわめいている。
さて……。

「ゆっくりしていってね!」
注目を集めるためにはこの台詞が一番だそうだ。
「「「ゆっくりしていってね!!!」」」と本能に従って返してくる。実に単純。
親まりさが「はやくごはんをもってきてね! そしたらまりさたちのおうちからでていってね!」とか言ってきたが無視。
今は私のターンなのだ。

「ご飯もいいんだけど、もっとゆっくり出来ることをしてあげるよ」と言うと、すぐに反応が返ってくる。
「ゆっ? ごはんよりもゆっくりできるの?」
「はやきゅまりしゃたちにちょうだいね!」とか何とか好き勝手わめいている。
「うん、物をあげるんじゃないんだけどね。いいところにお兄さん達が連れて行ってあげよう」
後ろでは友人がニヤニヤしている。

「この箱に入れば連れて行ってあげるよ。親はこっちの箱、子供はこっちの箱に入ってね」
そう言ったらもう入れ食い状態である。子ゆっくり共が我先にと透明な箱に入り込んできた。
「れーみゅがしゃきだよ!」
「ゆっ! れーみゅよりもきゃわいいまりしゃのほうがしゃきだよ!」
「おねーちゃんにゆずってね!」
「おねーちゃんこそかわいいれいむにさきにはいらせてね!」
軽い喧嘩になっている。親は「けんかはだめだよ!」とか「ゆっくりしてね!」とか言っている。

よし、全部入った。怪我した赤れいむは親の箱に入っているが、まああんまり関係無いので良しとする。
「それじゃあ皆が入ったから、どこに連れて行ってあげるか発表します」
子ゆっくり共の眼が輝いてる。「わくわく」とか言ってるがそれは言葉にすることなのだろうか。
「ぺーろぺーろ」とかの擬音も。

「えー今回は、君達をお月様とお星様の所に連れて行ってあげます!」
「しゅぎょーい!」
「おつきさまってまんまるでれいむたちみたいだよね!」
「今日は丸くないけどね。さあ外に出よう。外からじゃないと行けないんだ」
「おにーしゃんはまほーちゅかいしゃんだね!」
魔法使いか。使うのは黒魔法だがな。



外へ出てきた。箱を置いて物干し竿に紐を引っかける。子ゆっくり共は
「れーみゅはおちゅきさまのところにいきたいよ!」
「まりしゃはおほちちゃまがいいよ!」だとか
「まりさがさきにいくんだよ!」
「ゆっ! かわいいまりさのほうがさきにおつきさまのところにいくよ!」
「ぶちゃいくなおねーちゃんはだまっててね!」だとか言ってる。
親はなだめるのに必死だ。怪我した赤れいむは少し回復しているみたい。まあゆっくりはしばらく放っておこう。

まずは子ゆっくりと赤ゆっくり、8匹の処刑だ。
「じゃあ半分ずつにするか」と友人に言う。
すると「いや、お前の家荒らされたんだし俺は2匹でいいわ」と返ってきたので、ありがたく6匹貰うことにした。
準備運動として3、4回ほど素振りをする。よし、そろそろ始めよう。



ゆっくり共はまだ騒いでいる。静かにできないもんかね。
パンパン
「はいはい、皆聞いてねー。静かにしないとお月様もお星様も怒っていなくなっちゃうよー」
と言うと効果テキメン。一気に静かになった。
「では説明しまーす。これから一匹づつ」
「まりさたちは『ひき』じゃないよ! ちゃんと『にん』でかぞえてね!」


――うっさいなあ。他のゆっくりはどうか知らんが店と家荒らした時点で俺の中じゃあてめーら動物以下なんだよ、ゴミども。


と思ったが顔には出さず、「ごめんねー。それじゃあ説明するよ」と営業スマイルで優しいお兄さんを演じる。
……後ろでニヤニヤしてる男がいるが気にしない。
「これから君達をこのバットっていう棒を使って、一人ずつお兄さんの魔法でお月様かお星様に連れて行きます。
 で、選ばれた子はこの紐を体に結び付けてもらいます」
紐とバットを取り出すと子ゆっくり共はこちらに寄ってきた。箱で遮られてはいるが。

「最初は誰がいいかな?」と立候補を募ると、
「れーみゅがいちばんしゃきだよ!」
「ゆっ! まりちゃがしゃきにきまってるでしょ!?」
「いちばんぷりちーなれいみゅをさきにおつきさまにゆっくりちゅれていってね!」
「ぶさいくないもーとはだまっててね! おおきいじゅんだよ!」
「「どぼぢでぞんなごというのおおおお?」」
「ゆっ! いもーとにそんなわるぐちをゆうわるいおねえちゃんはしね!」
「ちね! ちね!」
「おねーちゃんにそんなひどいことをいういもーとたちこそゆっくりしんでね!」

実力行使には至っていないが大喧嘩である。無事に解放されても今まで通りには暮らせないだろうなー。帰さないけど。
親は「げんがはやめでねええええええ」だとか
「どぼぢでながよぐでぎないのおおお? いままでながよじだっだでじょおおおお?」
とか言って何とか収めようとしている。もちろん涙目。



収拾がつかないので静かにさせることにする。
パンパン
「静かにしてねー。あんまり煩かったり喧嘩してたりする悪い子達はお月様のところに行けないよー?」
これで収まるはず。
すると子ゆっくり共は「ゆっ! いいこにするよ!」といった感じで静かになった。よろしい。
「君たちに任せるとなかなか決まらないから、お兄さんたちが決めさせてもらいます。皆行けるから安心してね!」
子ゆっくりは了承したようで静かにしている。不満顔のやつもいるが無視。

「じゃあ、最初は怪我をしてたれいむから連れて行ってあげよう! おめでとう!」2人で拍手。
一方の怪我赤れいむは戸惑っていたようだったが、親に「よかったね! いってらっしゃい!」と言われて行く気になったようだ。
怪我で死ななくて良かった。私が殺す楽しみが残っていて良かった。
つまんで箱から出してやり、紐に結びつけて吊るす。
「ゆゆっ! おちょらをとんでるみちゃい!」
そうかそうか。これから本当に飛んでもらうけどな。魂だけ。

「れいむは月と星、どっちに行きたい?」
「ゆっ? んーとにぇ、それじゃあね、れーみゅね、おほちちゃまにいきたいな!」
「分かりましたー。それじゃあ呪文を唱えるから皆静かにしてね! 煩いと魔法が利かなくなっちゃうからね」
「ゆっ! みんなしずかにするよ!」
「ゆっくりわかったよ! し〜ん……」
それも口に出すのかい。

「じゃあ行きます。アブラカタブラエコエコアザラクムニャムニャムニャユックリシテイッテネ……」
適当な事を言っているが、ゆっくり共は呪文だと思っているようで興味津々の顔をしている。
気合いを入れた後、ニコニコしていた赤れいむをフルスイング。飛び散る餡子と空飛ぶ皮。
顔だった部分を見ると笑顔に驚きが入ったような表情をしていた。れいむは星になった。おめでとう。
星に「いった」と星に「なった」、わずか3文字の違いである。大して変わらないだろう。
漢字だと「行った」と「逝った」の違いだな。れいむ良かったね!



しばらくの静寂の後、親ゆっくりが騒ぎ出した。
「れいむのあかちゃんがあああああ!?」
「まりさのあかちゃんどこいったのおおおお!?」
子ゆっくり共はいきなり赤れいむが消えたので頭の上に「?」を浮かべたような顔をしている。
「ゆっ、おにーさん。れいむはどこいったの?」と聞いてきたので
「お星様のところに行ったんだよ。言ったでしょ?」と言うと、
「ゆゆっ! れいむよかったね! つぎはれいむをつれてってね!」と言ってきたのではいはいと適当に返しておいた。

子供は喜んでいるが親はどうやら月云々が嘘だと気付き始めたようで、必死に箱から出ようと体当たりを繰り返している。
「でいぶのあがぢゃんをがえぜええええ!!」
「どぼじでごんなごどずるのおおおおお!?」といった具合である。
無視して続けてもいいが、思いついたことがあるので子ゆっくり共に話しかけてみる。

「あのさあ、君たちのお父さんとお母さんがさっきから煩いでしょ?」
「うん! まりさたちおつきさまにいけるのにゆっくりしてないね!」
「さっきも言ったけど、周りが煩いとお月様やお星様の所に行けないんだ。君たちで親を静かにさせてくれないかな?」
「わかったよ! みんな、おかあさんたちをゆっくりしずかにさせようね!」
「「「はーい!」」」
よしよし。

「おかあさんたちがしずかにしてくれないとまりさたちがおつきさまにいけないよ!」
「おきゃーしゃんたちはちずかにちてね! ゆっくりできないよ!」
「まりしゃたちをおつきしゃまにいきゃせたきゅにゃいの? ばきゃなの?」
「さっきもごはんをくれなかったしこんどはゆっくりさせてくれないしむのうなおやだね!」
「むのうなおやはいらないよ! ゆっくりいなくなってね!」
うーむ。自分で言っておいて何だが、もう少し穏やかな言い方は無いのだろうか。
「「どぼじでぞんなごどいうのおおおおお!?」」
親は滝のように涙を流している。



子供たちが浴びせる罵詈雑言の酷さに親たちは沈黙してしまった。
「じゃあ、2人目行きまーす。次は……2番目に大きいまりさ、行こうか」
「ゆっへん!」
選ばれて嬉しそうである。姉妹達も祝福している。しかし親は
「おぢびぢゃんだめえええええええ!!」
「おぢびぢゃんをはなぜええええええ!!」
と叫んだり箱に体当たり(効果:自分にダメージ)したりで忙しい。
「またれいむたちのじゃまするの? ばかなの?」
「「ばかなの? しぬの?」」
それを聞いて子ゆっくり共は親にまた罵詈雑言を浴びせている。放っておこう。

「はい注目ー。今度は君たちに呪文を唱えてもらいます」
「「「ゆっ?」」」
「お兄さんが合図をしたら、皆で『いち、に、さん!』って言ってほしいんだ」
「「ゆっくりわかったよ! いーち、」」
「ストーップ! お兄さんが合図をしてからって言ったでしょ? ……じゃあ行くよ、さんはい!」
「「「いーち、にーい、さぁん!」」」
「「だめええええええええええええええええええ!!!」」
スパァン!
「ゆぶっ」
うむ、良い感触。間違いなく芯で捕らえた。
外から来た友人が言ってた「コーシエン」って所でも長打コース、もしかしたらホームランだろう。

「ゆぎゃあああああああ!!」
「じじいはじねえええっ! じねええええっ!!」
おーおー好き勝手言いなさる。今度はじじいですか。意味の無い体当たり、御苦労様です。
「さて、どんどん行こうか。次は――」
「あー、ちょっと待った」傍で見ていた友人が声をかけてきた。



「あのさあ」
「ん? どした?」どうしたのだろうか。
「ちょっと思いついたことがあるんだよ。んでさ、必要な物があるからしばらく待っててくんない?」
「いいけど、何持ってくるんだ?」
「それは持ってきてから説明するわ。じゃ、ちょっと待っててな」
「おー。焦んなくていいぞー」友人は自分の家に何かを取りに行った。

ゆっくり共は……。
「「おぢびぢゃんがえぜえええええええ!!」」
「「「うるさいおやはしんでね! おほしさまにいけないよ!」」」
「「どぼじでぞんなごどいうのおおおおお!?」」
大体こんな感じである。見ていて面白くなってきたので、そのままにしておくことにした。



2、3分で友人は戻ってきた。
「それは何だ?」
「防音仕様の透明な箱だよ。普通のよりちょっと高いんだ」
「ほー」
「蓋を閉めると外からの音を防ぐんだ。でも中の音は漏れてくるんだよ」
「不思議アイテムだな……。で、何に使うんだ?」
「とりあえず、子ゆっくりを移し替えてくれ」
「分かった」

ゆっくり共に目を戻すと、まだ子供が親を罵っていた。
パンパン
「皆聞いてねー。こっちのお兄さんが今より魔法が効きやすくなる特別製の箱を持ってきてくれましたー。皆感謝してね!」
「おにいさんありがとう!」
「おにいさんはゆっくりできるひとだね!」
「ゆっくりしていってね!」
子ゆっくり共は大喜びだ。友人は……一応ニコニコしている。

箱から子ゆっくり共を出して防音箱に移し替えようとすると、親ゆっくりが
「お゛ぢびぢゃんいまのうぢににげでええええ!!」とまた箱に意味の無い体当たり(笑)を繰り出している。
それを見た子ゆっくりは「うるさくてゆっくりできないよ!」とか
「れいみゅたちがおほちちゃまにいきゅじゃまちないでね!」とか、また罵っている。
このまま生きててもろくな大人にならないだろう。やはりここで始末するのが正しい。



詰め替えが終了した。さて。
「詰め替え終わったけど、この後どうするんだ?」
「今まで通り続けてくれ」
だったら今までの箱でも良かったんじゃないかと思ったが、何か思惑があるんだろう。続けることにした。
「おにいさんゆっくりしすぎだよ! はやくつれてってね!」
「まいちゃたちはかんぢゃいだけど、おにーしゃんがあんみゃりゆっきゅりちてるとぴゅんぴゅんしゅるよ!」

「待たせてごめんね。次は……一番小さいまりさにしよう」
「ゆっ! やっちゃね!」
「まりしゃおめでとー! さきにゆっきゅりちてね!」
赤まりさを箱から出し、紐に結び付けて吊るした。
「おちょらをとんでるみちゃい!」
これから好きなだけ飛べるからな。……永遠に降りられないが。
と、そこで友人が子ゆっくり共に近づいた。何かするのか。

「お兄さんが持ってきた魔法の箱は、この蓋を閉めると外からの音が聞こえなくなるんだ。
 音を聞こえなくすると、魔法がかかりやすくなるんだよ」
「「おにいさんすごーい!」」
「じゃあ、閉めるよ」
「まりちゃゆっくりちてね!」
「さきにいったいもーととおねーちゃんによ……しく……」

おっ、声が小さくなった。こっちからの音は聞こえるのだろうか?
「おーい、ゆっくり達聞こえる?」
結構大きめの声で言ったが無反応である。本当に外からの音は聞こえなくなったようだ。
「待たせたな、そろそろ始めてくれ」
「分かった」



私は打つ準備に入る。するといきなり友人が
「おい、そこで吊るされてるゆっくりよ。お前本当に月になんて行けると思ってるのか?」
「ゆっ!?」

お?

「やっぱゆっくりは馬鹿で間抜けだな、バットなんかで月になんか行けるわけねーだろ。
 馬ぁ鹿なのぉ? 死ぃぬのぉ? あっ、これからお前死ぬんだっけ、悪い悪い」
「おにーちゃんにゃにいっちぇるにょ? まりしゃはおちゅきちゃまにいきゅんだよ!」
「だから、それは嘘なの! 魔法使いってのも大嘘!
 お前の姉だか妹だかはこいつが持ってる棒で死 ん だ ん だ よ っ!! ハハッ!」
「ゆううううううっ?」

……そう来たか。虐待お兄さんから見ると虐待分が足りなかったのだろうか。
親ゆっくりは「だがらいっだでじょおおおお!?」
「あ゛がぢゃんにげでええええええ!!!」
と、またも叫びながらの体当たり(爆笑)だ。だから無駄なんだって。
「親は気付いてたのになー。お前ら子供は耳も傾けもしないでなにやってたんだろうね」
「おぎゃーじゃんぎょめんなじゃいいいいい!」
「謝っても遅いぜ。お前は死ぬんだ。第一、親じゃなくてこいつに先に謝るべきだろうよ。
 というわけで、俺の友の家を荒らした馬鹿でゲスなゆっくりは死んでね! さあっ! 殺れっ!」

よっしゃ行くぜい。
「ぎょめんなじゃいいいいい!」
「あ゛がぢゃんにげでえええええ!!」
「ゆるじでぐだざいいいいいい!!」
いいや駄目だねっ! ぶら下がってるまりさを強っ振ッ! ボンッ!!
「ゆぴっ」
「ゆぎゃあああああああ!!!」
「でいぶのあ゛がぢゃんんんんん!!!」
飛び散る餡子と宙を舞う皮。先ほどの2匹とは違い、苦悶の表情である。また新しい星が誕生した。

友人を見ると……とてもいい顔をしていた。
子ゆっくり共に目を向けると……皆楽しそうな顔をしている。
私は……あれ? 楽しい?



「さあ次だ! 早く早く早く早くっ!」
「んな急かすなって……」
友人のテンションの上がりっぷりにタジタジになりながらも、蓋を開ける。
「まりさよかったね! つぎはれいむをつれていってね!」
「まりさをつれていってね!」
「れいみゅだよ!」
「じゃあ今度は……真ん中ぐらいのれいむ! おめでとう!」
「ゆーっ! やったね!」
「おねーちゃんおめでちょー!」
「さきにゆっくりしてね!」
「みんなありがとうね!」

箱から出して蓋を閉めると、親ゆっくりの命乞い大合唱&体当たり祭だ。無視無視。
蓋を閉じると子ゆっくり共の声が小さくなった。
「れいむよかったね!」
「ちゅぎはまりしゃがいきちゃいな!」
蓋を閉じる前よりかなり声の大きさは小さくなったが、まだ聞こえる。



さて、殺ろう。れいむを紐に結び付けてぶら下げ、スイングの態勢に入る。
「なあれいむ。今から行くところがお月様じゃなくてあの世だってことが分かったらどう思う?」
「ゆっ? おにいさん、なにいってるの? おばかさんなの?」
「あー、親達があんな必死に教えようとしてたのに気づいてなかったんだね。
 今からお前は死 ぬ ん だ よ。二度とゆっくりできないの!
 魔法で月に行くなんてのはお お う そ な の!」
「ゆうううううううっ!?」
「ハハハハハッ! ねえねえ今まで月に行けると思って有頂天だったのに、
 本当は殺されるって聞いてどんな気持ち? ねえねえっ、どぉんな気ぃ持ちぃ?」
「ゆえええええええん!! おとーさんたすけてえええええ!!」

さっきまで散々虚仮にしてきたのに助けてくれとは。どういう神経をしているのだろう。
しかし効果があったのか、親がさっきから箱にやっている体当たりの勢いが少し増しているように思える。
顔も今までより必死になっている。もちろん無駄ですよ?
そういえば、もし箱の側面に棘が付いてたらこいつら体当たりするのかな。まあいいや。

「勝手に人間の家に入り込んだり大事な商品壊したり、お前は間違いなく地獄行きだな!
 知ってる? 地獄ってのはそりゃあつらくて辛くてぜえーったいにゆっくりなんてできないんだぞ!」
「やぢゃあああああ!! おうぢがえるううううう!!」
「何言ってんだよ、てめーらコイツの家の窓割って勝手に入り込んで『おうち』って宣言したんだろ?
 お望み通り『おうち』のお庭でゆっくりしていけや」
「ゆわああああああん! ごめんなざあああああああいいいい!!!」
「ばりざのおぢびじゃんはなぜえええええ!!!」
「おねがいでずうううう!! ゆるじでぐだざああああいい!!!」
「貴様等饅頭の言うことなど聞く耳持たぬわっ! さあっ! レエエエエエッツ! キイイイイイル!!!」
待ってました。俺のターン!
今度は実際の試合でバッターボックスに立ってるときをイメージして打った。心なしか振りが鋭かった気がする。



そんな感じで、残り2匹も箱から出す→友人の罵詈雑言→フルスイング→星という順で片づけていった。
これで私の分は終了である。正直言ってスッキリした。
友人の番になるのでバットを渡し、同じように残った2匹のうち子れいむを星にした。
さすがは我がチームの主砲、私より振りが鋭かった。
そして箱から最後に残った赤まりさを取り出し、紐にぶら下げていく。親はまだ騒いでいるが、子供は幸せそうな顔をしている。

「なあそこの腐れ大福、お前姉妹が全部月とか星に行けたと思ってる?」
「ゆうっ? あちゃりまえでちょ? おにーちゃんのまほうでみんにゃゆっきゅりちてるよ!
 あとまいしゃはくちゃってないちだいぷきゅでもにゃいよ! ゆっきゅりあやまっちぇね! ぴゅんぴゅん!」
「あー、ゆっくりは馬鹿だから困るよ。何でさっきからお前の両親が箱に体当たりしたり叫んだりしてたか分からない?」
「ゆっ! まりしゃたちがしゃきにおちゅきしゃまにいけるからうらやまちいんだよ!」
「あがぢゃんぢがうううううう」
「おねがいにげでええええええ」
「うるちゃいね! ゆっきゅりできにゃいよ!」
「ブッブー、はっずれえー。答えは他の子供が殺されようとしてて、それを助けるためでしたー」
「なにいっちぇるの? おねーちゃんたちはしゃきにゆっくりちてるんだよ! ばきゃにゃの?」
「馬鹿なのはお前さんだよ。ただの人間に魔法なんて使えるわけねーだろ。みーんなこの棒で殺されたんだよ! なぁ?」
こっちに振ってきたので、肯定の頷きを返す。

「ゆっ? じゃあ、みんにゃおちゅきちゃまいけてにゃいにょ?」
「ピンポーン。正解でーっす。みーんな死んじゃいましたー。という訳でユーもこれから死にます。オーケー?」
「ゆうううううっ? やぢゃよ! まりしゃちにちゃくにゃいよ!!」
「喜んでよー。今のクイズに正解したご褒美なんだからさ」
「いやぢゃあああああ!! ごほうびじゃにゃいいいいいい!!!」
「まっ、本当は俺の友の家を荒らして暫く商売できなくしたからなんだけどね。
 という訳で、正解不正解に関わらずお前は死ぬのでした。おめでとうっ! 拍手っ!」
ハチパチパチパチ。
「ぎょめんなじゃああああああああい!!!」
「饅頭の命乞いなんて聞くと思ったの? 馬鹿なの? 死ぬの? あ、これから死ぬんだっけ。ごめんごめん」



今までのように罵声を浴びせると、赤まりさは大泣き。親も大泣き。
さてスイングタイムかな、と思っていたら友人は赤まりさを半分食べてしまった。
すると顔がほころび、
「あー、やっぱ上げて落とした赤ゆっくりは旨いねー」と言い、
「お前も食べないか? 旨いぞ」と勧めてきた。
私は甘い物をあまり食べない。従ってゆっくりもほとんど食べたことが無い。
一度親ゆっくりを食べたことはある。甘いがパサパサしていて、あまり美味しいとは言えなかった。

ゆっくりは旨いのか? まあ勧められたんだし食べてみよう。
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」とか言いながら痙攣してやがる。いただきます。
パクッ
おお? 何だこれは? 甘くて旨いぞ! 甘いものはあまり食べないがこれは良いぞ!
私の様子を見た友人は嬉しそうに解説してくれた。



「ゆっくりの親は餡子がパサパサしててそんなに旨くないんだけど、子ゆっくりとか赤ゆっくりは親に比べてかなり甘いんだ。
 それに、恐怖を与えるとより甘くなるんだよ。恐怖を与える前にゆっくりさせてるとさらに甘くなる。
 打つ前にあれこれ言ってたのはそういう訳なのさ」
「へえーっ。初めて知った」
「前に話したはずなんだがなぁ……。まぁいいや。そうだ、親どうする?」
「そうだなぁ……。甘くなってるんだろうけど食う気にはならないしなあ」
「うーん……。そうだ。こいつらでゆっくり作って、しばらく経ったらまた打撃練習用の球にすればいいじゃん。
 生きてる球の方がいいって言うしな」
いやあの、生きてる球の意味が違うんですが。

「どうする? 俺の言ったとおりにするんだったらこいつら預かってほしいんだけど」
「何で?」
「いやさあ、俺虐待趣味じゃん? 衝動的に潰しちゃったりするんだよ。
 こいつらはお前の家荒らしたんだし、虐待好きじゃなくてもくたばる瞬間見たいだろ?」
「まあ……そりゃあ……」
「打撃練習以外にも赤ん坊産ませて食べられたりするからさ。どうよ? 飯はゴミでも食わせときゃいいんだし」
「分かった。そこまで言うなら引き取るよ」
「おっ、サンキュー」
「赤ん坊は何日ぐらいでボールぐらいに育つんだ?」

「赤ん坊がボールの大きさまで育つのは大体3日ってところだな。繁殖方法分かるか?」
「確か揺らすと発情して、放っておいたら子供が出来るんだろ」
「正解。植物型妊娠だと一回に10匹は出来るから、そっちの方がいいだろ。
 そうだ、動物型の妊娠しないようにしてやるからちょっと待ってろ」
言うと友人は家の方へ走り、2、3分で戻ってきた。持ってきたのはペンチと大きめの透明な箱である。



友人は疲れた様子で
「じじいはじねえええ……。ぢびぢゃんがえぜえええ……」
「ぢびぢゃん……あがぢゃん……ごべんねえええ……」
とか言ってる親ゆっくりを箱から取り出し、顎の下をまさぐって突起物をペンチで切り取った。
「ゆぎゃあああああ!!」
「でいぶのべにべにがああああああ!!!」
おお、まだ叫ぶ元気があったとは。

「よし、これで動物型の妊娠はしない、っと。んじゃあ、こいつら宜しく。
 家族ごと入るように大きめの箱やるからさ、ちゃんと入れとけよ」
「おお、悪いな。もう家荒らされるのは勘弁だからな、しっかり入れとくよ。またこれやる時に呼ぶよ」
「楽しみにしてるわ。じゃあ帰るな。お休みー」
「お休みー」



こうしてボール兼菓子生産用ゆっくりを手に入れたおかげで、素振りのみだった頃よりも効果のある練習ができるようになった。
練習の効果が出たのかは分からないが、週末の試合は4の4で2打点。
翌週の試合はホームランまで打ってしまい、チームの連勝に貢献することができた。
成績が良くなったのはゆっくりを打つことに対してためらいが無くなったこともあるのだろう。
飲みに行った際に友人のゆっくり虐待話も前よりは聞くようになっている。

打つ時に親を入れる箱は側面に棘が付いているタイプに変えた。
これだと親が体当たりを尻込みするので、助けようとしない親を子供が罵りまくってさらに楽しくなる。
子供にゲス気質がある時なんて爆笑ものだ。
友人に話したらその発想は無かった、と大笑いされた。
……もしかしたら虐待お兄さんに近づいてたりするのだろうか。打ってるとき楽しいし。
今日は育てた赤ゆっくりを打つ日だ。
「はーい、皆聞いてねー。これから魔法使いのお兄さんがお月様やお星様に連れて行ってあげるからねー」



おしまい



あとがきのようなもの

お読み頂き、ありがとうございます。
少し前の話ですが、我らが魔将ガイエルの残留が決定しました。という訳で(でもないんですがw)、野球をネタにしたSSです。
書いているうちに去年SSを書いてた某超魔神スレを思い出しました。懐かしい。
ゆっくりの表記が変わっているのは(達→共)、主人公のゆっくりに対する心境の変化を表してるとお思いください。
幾つかネタはあるんですが、色々と忙しいのとドが付く遅筆なので、ゆっくり書いていきたいと思います。
就活こわい。

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最終更新:2022年05月21日 22:49