夏。
太陽は飽きもせずに燦々としており、空は突き抜けてしまった様にどこまでも蒼く、雲は何を恐れているのかまったく姿を見せようとしない。
入道雲でもあればまだ涼しげな気持ちにもなれるが、目を皿のようにしても空に白みは見当たらない。
「あっづい」
僕は川原で寝転んでいた。草が気持ちいい。
何をしているのかと問われれば、涼をとっていると答えるしかない。
いや、そもそも今日であればそんな問いを発するようなモノは、人間妖怪問わずいないだろう。まさに一目瞭然。
さらに言えば、川に足を突っ込んでただ寝転んでいるだけではない。
足元をよく見て欲しい。
そう。西瓜が二玉入った網がくくりつけられている。
大きなあくびをする。
日光と水流が程好い案配になり、眠気が襲ってきた。このまま寝入れば起きる頃、夕方には美味しく冷やされていることだろう。

ふと、足がなにかに引っ張られる感覚に襲われた。
河童か?勘弁願いたい。
馬すら引き摺りこむ力に人間がかなうわけなかろうよ。
相撲も御免こうむりたい。どうしてもと言うなら、せめて仏さんのご飯を食べさせてからにして欲しい。
「おかーさん!ゆっくりひっぱるよ!」
「ゆっゆっ!」
「よくひえてるね!」
「さぁ、みんなもてつだって」
そんな声がした。
あぁ、ゆっくりどもか。こいつらも涼みに来たのだろうなぁ。よくひえてる?
目を開けるとすでに夕方だった。
蒼ざめた空もすっかり薄くなり、夕映えの気配が徐々に、だが確実に濃くなっている。
かたわらに目をやると、西瓜と同じくらいのゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙が網を押し上げようとしている。
僕の足元、というか太もものあたりにこいつらの子供と思しきゆっくりたちが群がっており、一生懸命に網の端を銜えて引っ張っていた。
林檎ほどの大きさのそれらは、7匹はいた。総勢9匹の群れか。
「ふぉいふぉ!ふぉいふぉ!」
「ゆっふりひっふぁるほ!」
「うみゅみゅ!」
僕は身を起こし、川原で顔を洗う。汗もかいていたので、幾分かさっぱりとした気分で目も完全に覚めた。
ゆっくりたちのほうを見ると、突然動き出した僕を黙って見上げていた。
「さて」
びくり。
そう音がしても不思議でないほどに身じろぎをするゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。
反面、子供達は好奇心に染まった目で僕を見ている。
「おまえらは何をしてたのかな?」
「ゆっ、ゆっくりしていたよ!」
「そうそう。とってもゆっくりしてたよ?」
「あのね!おいしそうなのすいかがあったからとろうとしてたの!」
せっかく両親が取り繕うとしているのに、子供がぶち壊した。うむ。純真な瞳できらきらしてる。
「へぇ~、それってこれのこと?」
僕は足を上げて網を川辺に引き上げる。
「そうだよ!おにーさん、ありがとう!みんなでひっぱってもびくともしなかったんだ!」
「ありがとね!ちからもちさんだね!」
「おかーさんたちもはやくあがっておいでよ!」
「みんなでゆっくりたべよう!」
わいわいと、本当に嬉しそうにはしゃぐ小さなゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙たち。
親ゆっくり霊夢と親ゆっくり魔理沙はおどおどしながら、川から上がってきた。犬猫がやるようにぶるるるっ!と身を震わせて水気を切る。
「さて、こどもたち。これは僕のなんだ、わかるね?」
「ゆっ?なにいってるの?」
「これはまりさたちがみつけたんだよ!」
「そうだよ!」
「ふむ。でもよく見てくれ、これは僕の足についてるね」
網をくくりつけてあるところをぴしゃりと叩く。14のつぶらなお目目がそこに集まった。
親ゆっくりたちはやや蒼ざめて僕の顔を見ている。どうやら人間になにかをやらかしたことのあるやつらみたいだ。
「ゆ!?」
「おまえらも帽子とかリボンとか取られたら嫌だろう?それとも嫌じゃないのか?取ってやろうか」
「ゆ!やだよ!とらないでよ!」
「これはまりさのだよ!」
わかりやすい例えにふるふるとしながら答える幼子達。
「じゃぁこれが僕のだってこともわかるな?取られたくないってのもわかるだろう?」
「ゆ、ゆぅ~」
「ゆっくりわかったよ……」
「うゆぅ~」
とても残念そうにしょげている。よほど育ちがいいのか、生まれがいいのか何故だか物分りがよい。
思わず仏心が出たとしても、まぁおかしくは無いだろうと思う。
「そんなに食べたいのなら食べさせてやってもいいよ」
「ゆっ!ほんとう!!」
「おにーさん、いいにんげんなんだね!」
子供達よりもすばやく親ゆっくりが反応する。現金な奴らだ。
「うわぁい!」
「ゆっくりしないで、はやくたべさせて!」
親ゆっくりに続いて、子ゆっくり達も歓声をあげていく。
「じゃぁ、僕の家にいこうか、後をついておいで」
「ゆ゛っ!?おうち!!!」
「うん。いこういこう!」
「だ、だめだよ!にんげんのおうちはあぶないよ!」
「そうだよ!ゆっくりできなくなるよ!!!」
「ゆ~?なにいってるの、おかーさんたち?」
「おいしそうなのをたべられるんだから、ゆっくりできないわけないじゃん」
僕の言に素直に従おうとする子供達を引きとめようとする両親。
しかしどれほど苦言を呈しても子供たちが聞き分けることはなさそうだ。すでに食欲に制されている。
「ゆ~~~、じゃぁおかーさんたちだけ、そこでゆっくりしてればいいよ!」
「そうだよ!まりさたちはおにーさんのおうちでゆっくりするからさ!」
「ふんだ!おかーさんたちなんてしらないよ!!!」
「うあああああ!だめだよ!れいむもいくよ!」
「わかったよ!まりさもいく!おかーさんをおいていっちゃだめだよ!」
「やったね!みんなでゆっくりできるね!」
「そうだね、たのしみだね!」
「話もまとまったみたいだし、出発しようか」
十分に冷えた西瓜を担いで僕はあぜ道を往く。その後ろには9匹のゆっくり親子。
子供達の顔は明るく、期待に満ちて輝いているが、親の顔はむしろ精彩を欠いており、不安でたまらないということが誰にでも見て取れただろう。

茅葺き屋根の簡素な家にゆっくりたちを入れると、戸を閉めてからつっかえ棒をかけて開けられないようにした。
すでにゆっくりたちは土間から上がっており、板張りの床を跳ねて堅い感触を思い思いに楽しんでいた。
「さて、注目!」
手を打ち鳴らして声を上げると、足元に群がってくる。
「ゆっくりしていってね!」
「はやくたべさせて」
「まだ?まだ!?」
「西瓜を食べるにはまず割らないといけない」
「ゆ!じゃぁはやくわってね」
「はやくはやく!」
「静かにしないと食べさせないよ、僕の話を最後まで聞くように」
「ゆ゛!」
「ゆっくりきくよ!」
「よろしい。まず西瓜を割るときは危ないから、十分に離れるように」
僕がそう言うと、ゆっくりたちは名残惜しそうに西瓜から少し離れた。
けれど、その程度じゃあ、楽しめないんだ。
「ほらほら、それくらいじゃぁ潰れてしまうよ」
ゆっくりたちの裁量に任せていたら日が暮れてしまうので、僕が手ずから距離をとる。
西瓜からおおよそ3メートルほどは離れただろう。ここから動かないでじっとしているように言い含める。
もちろん、約束を破ったら食べられないと言い聞かせる。
「さて、ここからが本題だ。西瓜を割るときには、目隠しをしないといけない」
「めかくし?」
「そんなことしたらみえなくなっちゃうよ!」
「そう。だから、そこでお前達が僕に西瓜の位置を教えるんだ。右とか左とか言ってね」
「ゆ!まかせてよ!」
「きちんとおしえるよ!」
得意な顔で言い切るゆっくりたち。
土間に置いてある竹の棒を手に取り、軽く振る。
ひゅん、と風を切る音がして心地よい。
そして僕は懐から手ぬぐいを出して顔に巻いた。もちろんしっかりと周りが見えるように緩めてある。
だがゆっくりたちには目元が隠されているように見えているから、これで僕が前を見れないと信じているはずだ。
「さ、始めるぞ。西瓜はどこにある?」
矢継ぎ早に指示する声が飛んでくる。
右!左!前!斜め!もうちょっと後ろ!ゆっくり進んで!などなど。
当然西瓜の正確な位置は僕にはわかっている。
それでもゆっくりたちの指示に従って西瓜の周囲を行ったり来たりするのは、なかなかに楽しい。
断っておくが、ゆっくりたちが感じているもどかしさが楽しいのだ。
「そう、そこだよ!ゆっくりたたいてね!」
「よし!」
丁度いい位置で的確な指示が出る。なかなかやるじゃあないか。けどね?
ぱしんと乾いた音が室内に響く。
目隠しを外すとそこには無傷の西瓜が。
「どおしてわれないのぉおぉおお~~~!!」
「おにいさん、ふざけてないでちゃんとたたいてね!」
「はやくわってよね!」
「あはは、ごめんごめん。これだと少し弱かったみたいだね」
「わらってるひまがあるんだったら、いますぐわってね!ゆっくりしてられないよ!!」
口々に好き勝手文句を言うゆっくりたち。
僕は土間に降りて竹の棒を放ると、竈に立てかけておいた樫の木の棒を手に取った。
振ると、びゅん!と風を切り裂く音がする。なかなかの重量感。力加減をしっかりしないと一撃でいけそうだ。
さて、本番だ。
振り向くといつのまにか、ゆっくりたちが西瓜のまわりにたむろしていた。それだけでなく、体当たりして西瓜を割ろうと試みているようだ。
少しいらっとした。
動くなと言ったのになぜ動く。雉も鳴かずば撃たれまいに。
まぁいい。最初の場所よりも面白くなる。
「よし!今度こそ割るぞ!また西瓜の場所を教えてね!」
言って目隠しをする。
再び飛び出す指示。それに従うふりをしてふらふらと左右に進路をずらしながら、ゆっくりと西瓜へと近づいていく。
やがて先ほどと同じく、
「とまってね!そこでゆっくりわってね!」
と制止の声がかかった。
僕の目線の先には、期待にきらきらと目を輝かすゆっくりの群れ。
「ここでいいんだね?いくよ!」
「いいよっ!きて!!」
親ゆっくり魔理沙の声に従って、思い切り振り下ろした!

ところで樫の木は、その名前に「堅い」という字がつくことからも分かるように、とても頑丈だ。
和太鼓の撥や木刀にも使用されているので、上手く当てれば人間も殺せる。
その堅い棒ッ切れが、親ゆっくり魔理沙の身体にめり込んでいた。
「…………ッ!?ひゅぐぅっ!!!」
あまりの激痛に顔をゆがめ、息すら止める親ゆっくり魔理沙。手加減したので中身がブチ撒けられるようなことはない。
親ゆっくり魔理沙は痛みに耐えるように震え、涙と鼻水を垂れ流し、口からは泡を吹いている。
「ん~、割れないなぁ。よっほっとりゃ!」
「べこっ!めこぉっ!へっこぉぅっ!!!」
そのまま何度も叩きつける。力加減がちょうどよかったのか、悲鳴を上げているけれど、餡子を吐き出してはいない。
しかし、その代わりに涙やよだれのようなものを垂れ流していた。
「ま゛っま゛っま゛り゛ざぁぁああぁぁぁっ!!!」
「お゛、お゛がぁざぁーーん!」
「や゛め゛でよ゛ぉお゛ぉおおお~~!!」
「ちがうよ!それはまりさおかーさんだよ!すいかはとなり!となりにあるよ!!」
目隠しをしているからわざとではないと判断したのか、僕に文句を言うゆっくりはいなかった。
それともあまりの衝撃に、親ゆっくり魔理沙の身を案じるのが精一杯なのだろうか?
子ゆっくり霊夢が新たな指示を出していた。隣か。
「そうか、こっちか!!そりゃっ!」
西瓜があるのは、親ゆっくり魔理沙の右!だが振り下ろしたのは左!
「ぶぎゅっ!!」
そこにいた子ゆっくり霊夢の脳天に樫の木の一撃が叩き込まれる!
手加減が不十分だったのか、その子ゆっくり霊夢は顔面が潰れてしまい、動かなくなった。林檎ほどの大きさとはいえ、気をつけないといけない。
こいつらは基本饅頭程度の耐久力しかないのだから。
「それはすいかじゃなくて、れいむだよぉおぉ~」
「れーむのかわいいこどもがぁぁああぁぁぁっ!!!」
「あはは!ごめんごめん、西瓜はどこ?」
「だから、みぎにあるってばぁ!!」
「ここだね!?」
怒ったような子ゆっくり霊夢の声。指示を出したその子ゆっくり霊夢に樫の木をねじ込んでやった。もはや叩いてすらいない。
そのまま抉るように手首を捻る!
「ぶげっ!ぎゅるるるっ!!!ぶりゅりゅっ!!」
「れ゛、れ゛い゛む゛ぅう゛ぅぅっっ!!」
「や゛め゛でっ!ぞれ゛ばずい゛がじゃな゛ぐっでお゛ね゛ぇぢゃんだよっ!!」
「ん~~~まちがったかなぁ~?」
口から貫通し、すでに何も言わなくなったそれを捨てて、次の獲物を探す。
棒ッ切れの先っちょには餡子がこびりついている。甘い匂いが鼻をつく。ゆっくりの血臭にかすかに酔う。
「こっちかな?」
一番大きな子ゆっくり魔理沙をぶっ叩く!!ぶちゅりと音を立ててそいつは割れた。
「おげぇ……」
「うわわわぁあぁっ!!まりざがぁっ!まりざがうごがなぐなっぢゃっだよ!!」
「なんで!ずいがはあっぢだよ!!」
「どこだ!?」
「あっぢだっでばぁっ!!!ここにはれいぶたちしかいないよぅ!」
「ここかっ!!」
「ひぎぃっ!」
床をたたいた音が響く。頬にかすった親ゆっくり霊夢は恐怖に目をむき、歯を食いしばっている。
「はずれたか?」
ゆらりと樫の木の棒を振り上げると、慌てたように飛び跳ねて逃げ出す。
それを追いかける4匹の子供達。
「おーい、西瓜はどこだ?教えておくれ」
「ひぃっひぃっひぃっ!」
「そ、そ、そのままみぎをむいてね!」
「そ、そうだよっ、そこだよぅ」
棒の範囲から離れた場所から指示を飛ばす。
ちなみに最初に叩かれた親ゆっくり魔理沙は、まだ西瓜の隣で横たわっている。
ところどころ陥没し、まるで反応が無いが、時折痙攣しているので死んでいるということは無いはずだ。
「えい!」
ごつん。また床に当たる。もちろんわざとだ。本当に見えてないことを強調してみた。
「んもう!そこじゃないよ!もちょっとみぎなの!」
射程外に逃れたことが余裕を生み出したのか、すでに泣き止み、いつもの調子に戻っている。
「右~?」
ごんっごんっごんっ!ごんっ!!ごんごんごんごん!!!と調子よく床を叩き、音をたてながらゆっくりたちに近づいていく。
見る見る蒼ざめていくゆっくりたちの顔。面白い、色の急激な変化が面白い。
「ちっちっちちがうよぅ!どんどんとはなれているよ!」
「こっこっちにはまりざたぢしかいないよぅ!!」
「こっちにこないでね!もっとゆっくりさがってね!」
「ちがうっていってるのにぃ!こっちこないでねぇ!!」
かたかた震えだし、声に怯えが混じる。
「ここかな?」
棒を掲げると一目散に逃げ出すゆっくりたち。まさに蜘蛛の子を散らすという感じだ。
「どこ?ねぇ。どこ~?」
「こっちじゃないよ!あっちだよ!こ、こっちじゃないっていってるのに!」
「どおしてこっぢに゛ぎぢゃう゛の゛ぉぉおぉぉぉおぉっ!!」
「ゆっくりさせっぶげぇっ!!」
「ま゛あ゛~~~り゛じゃぁあぁあぁっ!」
4匹目を潰した。眉間に直撃したので、顔の真ん中が陥没して目玉が餡子と一緒に飛び出ている。ぴくぴくと痙攣するたびに餡子が広がっていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
「ま゛り゛ざぁがあ゛ぁぁっ!」
「そっちか!?」
「ひっ!」
声をたてると叩き潰されるとわかったのか、息を呑み、できるだけ声を出さないようにして僕から逃げていく。
やや膨れて一生懸命に口をつぐんでは跳ねていくその姿は、一種の愛らしさを感じさせるし、それ以上に攻撃性を高めさせてもくれる。
逃げる獲物というのは狩猟者から見ればとてもそそるものなのだ。

「どこにいった~?出ておいでぇ!」
もはや西瓜に対しての発言ではないが、ゆっくりたちはそんな些細なことを気にしていられない。
声を出せば叩かれる。その結果どうなるかは今までを見ればわからないわけがない。
口をずっとつぐんで息をしているのに加え、恐怖と緊張で呼吸音がやけに大きくなっている。
人間で言えば「鼻息が荒くなっている」ようなものだ。
「そこかぁ」
いかにも荒い呼吸音で見つけたというようにゆっくりたちに近づいていく。
慌てふためくゆっくり霊夢たち。大きく息を吸い、膨らんでから飛び跳ねていく。できるだけ呼吸をしないようにと息を思い切り吸ったのだろう。
だが、飛び跳ねながら長持ちするはずもなく、じょじょに顔中に脂汗が流れていく。
「……ッ!~~~~!!!っっぶっはぁあぁぁああぁっ!!!」
「おかーさん!だめだよ!!」
「あっ!まりさ!こえをだしちゃだっぷんっ!」
親ゆっくり霊夢を案じた子ゆっくり魔理沙を諫めた子ゆっくり魔理沙にフルスイング!
見事にジャストミートしたそれは、まるでコルク栓を抜いたように、とまで綺麗にはいかなかったが、子ゆっくり魔理沙の右顔面を目玉ごと抉り取っていった。
べちゃり。家の柱にその右顔面がぶつかり張り付いた。
そのままずぅるりと餡子の足跡をつけて床に滑っていく。
「おっおねぇぢゃぁあぁぁああん!ほっぺがっ!ほっぺがぁあぁっ!!」
「がわいいまりざのほっぺがらながみがでてきでるぅぅううぅぅっ!!!」
「ゆっ、ゆぅ、ゆ……」
そのままほっぺ、というより右顔面の穴から餡子をうどん玉のようにこぼしながら動かなくなった。
足音を立てて寄っていく。
ずん。ずん。ずん。ずん。ずん。
「ひぃっ……!~~~ッ!!」
「ふぅっ、ふぅっ!」
親ゆっくり霊夢たち3匹は声をたてずに息を潜め、身動きを極力しないようにして、僕をやり過ごそうとしている。
ゆっくりたちの顔色は悪く、蒼褪めているのを通り越して白くなっている。中でも親ゆっくり霊夢のそれは他と比較にならない。
目は血走っていて、うっすらと隈が出来ている。歯の根が合わないように震えているし、汗もかいている。目じりにたまっているのは涙に違いない。
今、3匹は僕の目の前にいる。目を堅くつぶり、かたかたと打ち震えながら身を寄せ合っている。突付いただけで絶叫しそうなほどだ。
僕はそんな3匹をおいて、ゆっくりと離れた。
「!?」
「ゆぅ~?」
「しっ!」
そんな声がしたが、無視する。
「西瓜、西瓜、西瓜はどこ~?」
そんな歌ともいえないものを口ずさみながら、部屋の真ん中、西瓜が置かれた場所に歩いていく。
そこにはいくつかのゆっくりたちの残骸と、まだ生きている親ゆっくり魔理沙がいる。
棒切れをぶんぶん振り回しながらそこに近づく僕を、3匹はどんな気持ちで見守っているのか、後ろを向いているので僕にはわからない。
こんこんと、棒切れで床に何があるかを探るふりをしながら進む。
「ゆっくりたちは何処に逝っちゃったのかなぁ。西瓜を食べたくなかったのかなぁ。どこー西瓜どこー?」
逝くの字が違うのはご愛嬌。
こつんと棒の先に親ゆっくり魔理沙が触れる。こんこんと何度も確かめる。ぶにぶにと変形する親ゆっくり魔理沙の身体。
「ゆ、ゆ、ゆぅ……おにぃさん、やめて……」
「お、ここにあったか」
いつ目を覚ましたのか、親ゆっくり魔理沙は僕に訴えてくる。
じつにゆっくりとした弱々しい声。おもわずにっこりと笑ってしまう。
「ち、ちがうよぅ……まりさ、っはぁ、すいかじゃないんだよ?」
「ようし、さっさと割ってゆっくりたちに食べさせてやらないとね!」
「まりさだよぅ、まりさだよぅ」
「甘くて美味しいぞぅ!」
「い、いやだよぅぅううぅぅぅぅっ」
ごんっ!
親ゆっくり魔理沙をかすめて床に叩きつけられる棒。
「ひぃ、ひぃ、ゆっくり、できないよぅ」
体中痛めつけられたのがこたえているのか、逃げようとすらしない。きっと激痛が走るので喋るのが精一杯なのだろう。
「ん~、はずれたみたいだなぁ。失敗失敗♪」
「お、おにいさん!おねがいだよぅ、やめてよぅ!」
「西瓜はどこかしらん~♪」
「れ、れいむぅうぅ~~、たすけてぇーっまりさをたすけてよぅ~」
耳をすませても背後からはすすり泣きしか聞こえてこない。
虫の息の親ゆっくり魔理沙を助けようと危地に飛び込むよりも、ここで息を殺し、西瓜が割れるまでじっとしたほうが助かるかもという考えだろうか。
ごめんね、という声が聞こえた気がした。



終わり。

うん、当初の予定と違ってよくわかんない話になった。


著:Hey!胡乱





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最終更新:2022年05月03日 17:05