※この作品はあねきィィ氏の作品ゆっくりいじめ系2012 ドッペルゲンガー?を見たときに思いついたものです
※虐待お兄さんがゲッペルドンガーします。しかも、申し訳程度の登場です
※非レイパーありす、非ゲスまりさなども登場します





ショーウインドウの向こう側。1匹の小さなれいむがガラス越しにお空を見上げていた

「ゆゆっ!おかーさん、あのれいむすごくゆっくりしているよ!」
「そうだね!すごくゆっくりしたこだね!」

木枯らしの吹きすさぶ街の通りに並ぶ大小2つの帽子を被った顔付き饅頭

「でも、あのれいむ、おかあさんといっしょじゃないよ!」
「そうだね!それにせまいおうちでじっとしてるね!」

言うまでもないだろうが、彼女達はゆっくりまりさ
もう1匹の母親はれいむ種だったらしいが、形見のリボンしか知らない
ほかの姉妹もいなかった。ぽんぽんから産まれたから

「まりさ、おかーしゃんといっしょだとゆっくりできるよ!」
「まりさもだよ!おちびちゃんといっしょがいちばんゆっくりできるよ!」

じゃあ、あのれいむはゆっくりしていないの?
お肌も綺麗で、寒さも知らず、まりさ達が食べたことのないものを食べているのに?

「おかーさん!ゆっくりってなあに?」
「ゆっくりはゆっくりだよ!ゆっくりりかいしてね!」

人間だったら突っ込めただろう。それ説明になってない、と
けれど、小さなまりさには難しかった

「ゆぅ・・・ゆっくりりかいするよ・・・」

もやもやとした感情を抱えたまま、まりさはれいむから視線を逸らす
何故か、彼女をこれ以上直視することが出来なかった

「まりさ、ゆっくりおうちにかえるよ!」

お母さんまりさに連れられて、人間たちの行きかう歩道を跳ねて行く
疲れた顔の人間たちは皆早足で、全然ゆっくりしていない

「にんげんさん、ゆっくりしていってね!」

試しに声をかけてみる。けれど、誰ひとりとして歩みを止めようとはしなかった
人間さんはまりさ達よりずっと大きく、ずっと強い。なのに全然ゆっくりしてない

「おかーさん、どうしてにんげんさんはゆっくりしないの?」
「ゆゆっ!だめだよ、まりさ!にんげんさんはゆっくりできないからね!」

お母さんまりさはそう言ってすたこらさっさと家路を急ぐ
小さいまりさは振り返り、さっきの子れいむをちらりと見つめる

「ゆぅ・・・」

一組のカップルがれいむを見て笑っていた
馬鹿にしているわけではなく、ゆっくりしているね、と笑っていた

「ゆぅ?」

それを見ながらまりさは思った
ゆっくりしたいならゆっくりすれば良いのに、と



ゆっくりショップの入り口で1組のまりさの母子がガラス越しにれいむを見上げていた
声をかけても届かない、近くて遠い世界の住人

「ねえ、おねえさん?」
「んあ?」

小さなれいむの視線の先で、寝ぼけ眼で返事をしたのは店番しているお姉さん

「あのまりさたちゆっくりしてなかったね」
「ああ、そうだな」

ガラスの向こうは寒そうで、人も多くてゆっくり出来ない

「でも、あのおかーさん、やさしそうだったよ」
「ああ、そうだな」

お姉さんは繰り返す。気のない返事におんなじ言葉
けれど、れいむの話し相手をしてくれる、ちょっと変わったお姉さん
面倒臭いと言いながら、ゆっくりしてる変な人

「おかーさんがいるとゆっくりできる?」
「多分な。親次第だけど」

じゃあ、れいむはゆっくりしてないの?
まりさ達よりずっと綺麗で、暖かいお店に居るはずなのに?

「おねーさん、ゆっくりってなあに?」
「んあ?お前達のことじゃないか?」

人間だったら突っ込めただろう。種族の話はしていない、と
けれど、小さなれいむではその間違いに気付けない

「ゆぅ・・・ゆっくりりかいしたよ・・・」

釈然としない気持ちのまま、れいむは再び空を見つめる
ガラスの向こうの青い空はどこまでも広がっていて、とてもゆっくりしているように見えた

「おねえさん、おそとはゆっくりできるかな?」
「それはれいむ次第かな?」

まりさが去っていったほうをちらりと見る
まりさがれいむを見つめていた。不思議そうに首をかしげて






ある日、子まりさはお店に行った。もちろん、れいむに会うために
けれどれいむはいなかった

「ゆゆっ!おねーさん、れいむはどこいったの?」
「一昨日の昼ごろ買われたよ」

まりさには言ってる意味がわからなかった
買われたってどういうことなの?ここはれいむのおうちじゃないの?

「ここはゆっくりを売るお店だよ」

腰をかがめて視線を下げ、肩をすくるお姉さん
買われたれいむは人間さんのおうちでゆっくりしていると教えてくれた

「にんげんさんはゆっくりできるの?」
「人それぞれ、結局は飼い主次第だよ」

そう言って立ち上がったお姉さんはのっそりとお店に戻っていった
まりさはひとりガラスの向こうをゆっくり見つめる

「ゆぅ・・・あのこはゆっくりしてないよ?」

ショーウインドウ向こう側。1匹のありすが泣いていた
まりさには聞こえないけれど、お母さんはどこ、と泣いていた

「ゆぅ・・・おかーさん、しんぱいしてるかなぁ」

子まりさは急に不安になった
おうちに帰って謝ろう。こっそり出てきてごめんなさい

「おかーさん、いっしょにむしさんをたべようね!」

まりさはちょっぴり幸せだった。自分がゆっくりしてるから
れいむもありすも持っていない、まりさだけの強くて優しいお母さん

「ゆゆ〜ん!まりさ、ゆっくりしてるよ!」

おうちはぼろくて寒いけど、ダンボール製の安物だけど
ご飯は葉っぱと虫さんだけど、あまりたくさん食べられないけれど
大好きなお母さんといつでも一緒

「ゆゆっ!おかーさ、ん・・・?」
「ゆ゛っ・・・おぢびぢゃ、ん・・・どごぉ・・・?」

まりさの優しいお母さん。強くて大きいお母さん
道路の隅で弱ってた
大きな身体はすり減って、今ではもとの半分くらい

「おかーぢゃん!まりぢゃだよ!まりぢゃはごごだよ!」

急いで駆け寄る子まりさを見つめ、お母さんは微笑んだ

「まりさ、の・・・かわいい、おちび・・・ちゃ、ん」
「おがーじゃん・・・ゆっぐぢぢでいってね!」

だけど返事は来なかった。お母さんは死んじゃった
ゆっくりにっこり微笑んで、ゆっくりどこかに旅立った



「ゆっくりしていってね」
「ゆゆっ、ゆっくりしていってね!」

ある日、れいむはお姉さんに綺麗な箱に入れられた
ゆらゆら揺れてどこかに着いた

「おねーさんはゆっくりできるひと?」

箱から出たとき、目に付いたのは見知らぬ綺麗なお部屋
そして見知らぬお姉さん

「とってもゆっくり出来る人よ」
「ゆっ!だったられいむとゆっくりしてね!」

にっこり微笑むお姉さん。うんと頷き、お菓子をくれた
お店のお姉さんはくれなかった甘いクッキー

「むーしゃむーしゃ、しあわせ〜!」

あまりの美味しさに涙が溢れる
お姉さんはそんなれいむの頬を撫でてくれた

「ずっと一緒にゆっくりしようね」

その手はとても暖かくて、触れていると安心できた

「す〜りす〜り・・・」

お姉さん、れいむと一緒にゆっくりしてね!
ずっと一緒にゆっくりしてね!

「れいむね!おねーさんのこと、だいすきだよ!」

会って、5分しか経ってないけど
まだお名前も知らないけれど

「おねーさん!おねがいがあるよ!」
「なあに?」

お姉さんはれいむを見つめてまた微笑んだ
その笑顔にほっとして、れいむは初めてのワガママを口にした

「れいむね!おねーさんにれいむのおかーさんになってほしいんだよ!」
「お母さんに?」

それかられいむは頑張った
お母さんはゆっくり出来る、お母さんとゆっくりしたい
お母さんがどれだけゆっくり出来るかを必死に説いた

「うん、いいよ。それじゃあ、私のことお母さんって呼んでね」

そう言って“お母さん”はまた微笑んだ
それから頭を撫でてくれた

「やったー!これでゆっくりできるよ!」

れいむはあまりの嬉しさに笑顔を浮かべて飛び跳ねた






みなしごまりさは許せなかった
黙って出かけた自分が許せなかった

「ゆえーん・・・おかーしゃぁん・・・」

小さなまりさはひとりぼっち。泣いても誰も見向きもしない
今日も朝からゴミ捨て場へ行って、がさごそ食べ物を探してる
目にいっぱいの涙を溜めて、心にいっぱいの悲しみを溜めて

「おかーさん!れいむ、はやくすこーんさんたべたいよ!」
「あわてちゃダメよ。これは公園に着いてから」

すれ違ったのはあの日の子れいむ。それと微笑む人間さん
どっちもとてもゆっくりしていて、どっちもとても幸せそうだった

「ゆぅ・・・おかー、さん・・・?」

あの人間さんはれいむの本当のお母さんじゃない
きっとれいむも本当のお母さんを知らない
そのくらいは分かったけれど、それでもまりさは羨ましかった

「ゆぅ・・・まりさも、だれかとゆっくりしたいよ・・・」

そして、ちょっぴり憎かった。笑顔のれいむが許せなかった
だって、れいむが居なければ・・・
まりさはれいむに会いに行かなかったのに。お母さんはまりさを探さなかったのに
八つ当たりだって分かっていても、まりさはれいむが憎かった

「ゆゆっ!だめだよ!・・・そんなことかんがえたら、ゆっくりしていないっておこられるよ!」

お母さんまりさは言っていた。ゆっくり出来ない気持ちを持ったらダメ、と
それは自分も相手も周りのみんなもゆっくり出来ない気持ちにさせてしまうから
まりさはれいむから目を逸らし、ゴミを漁ってご飯を見つけた
人間さんが食べ残したハンバーガー。まりさにとってはご馳走だった
帽子の中にちゃんと隠して、取られないよう急いで帰る
お母さんと過ごした素敵なおうちに

「ゆゆっ!ここはぱちゅりーのおうちよ!」

けれど、そこは知らないゆっくりに奪われていた
体の弱いゆっくりぱちゅりー。けれど大人はまりさより強い
彼女の後ろには小さな赤ちゃん
種族はゆっくりぱちゅりーとゆっくりありす
ぱちゅりーはずっと咳をしていて、ありすもなんだか弱っていた

「ちがうよ!ここはまりさとおかーさんのおうちだよ!」

まりさは必死に抗議した。けれどぱちゅりーは出て行けの一点張り
結局、力の弱いまりさが大事なおうちを追い出された

「ゆぅ・・・ゆっくりしたいよぉ・・・」

おうちも無くしたみなしごまりさ。当ても無く街をさまよって、気がついたら公園に居た
そこではさっきのれいむと人間さんが幸せそうにくつろいでいた
楽しそうにボールとじゃれて、楽しそうにご飯を食べて、空を見上げて笑ってた
まりさは近くの植え込みに隠れて、涙を堪えてご飯を食べた



ある日、れいむは捨てられた。理由は全く分からない
きっと聞いても分からない。人間さんが飽きたから

「ゆぅ・・・おかーさぁん、ここどこなのぉ?」

辺りを見渡し“おかーさん”を探す。けれど、居るはずがない
お店とお店の境界の、狭い路地から見えるのは、行きかう人の群ればかり
お店にいた時に見ていた、ショーウインドウの向こう側
音をさえぎるガラスは無くて、風を凌ぐ壁も無い

「ゆぅ・・・ぜんぜんゆっくりできないよぉ・・・」

れいむは昔を思い出した。暖かいお店とゆっくりしているお姉さん
そして、れいむを見上げていたまりさの母子
あの子は本当にゆっくりしてた?こんなに寒くてみすぼらしいのに

「・・・おなかがすいたよ・・・。おかーさん!おかーさぁん!れいむ、おなかがすい、ゆぐっ!?」

“おかーさん”を呼びながら、れいむは通りに躍り出た
そして人間さんに蹴り飛ばされた。何度も何度も蹴り飛ばされた
避けてく人もいたけれど、多くは素知らぬ顔でれいむを蹴って、すました顔で去っていった

「いぢゃいいいい!いぢゃいよおお!?」

痛がりながらも植え込みに逃げて、そこでめそめそ泣き続けた
きっと“おかーさん”が来てくれる、きっと“おかーさん”が助けてくれる
そう信じて待ち続けた。けれど、彼女は来なかった

「ゆっぐ・・・どうぢで、どうぢで・・・でいぶ、ずでられぢゃっだの・・・?」

やがて、全てを受け入れて、植え込みの中を這いずっていった
通りを歩く勇気は無くて、もちもちお肌を土で汚して、綺麗な髪を枝に引っ掛け
ず〜りず〜りと地面を這った

「ゆぅ・・・なにしてるのかな?」

しばらくそうして這っていると、途中でぱちゅりーを見つけた
“おかーさん”が言っていた。黒い袋はゴミを入れている、って
ぱちゅりーは必死にそれを破って、中のものを漁ってた

「ゆげぇ・・・きたいないよぉ・・・」

このときれいむはまだ知らない。いつか自分もああなることを
野良ゆっくりが生きるには、ああするしかないことを

「ゆゆっ・・・ぱちゅりーがかえっていくよ」

ひ弱な体でご飯を集め、口に含んだぱちゅりーは、飲み込むことなく何処かへ行った
しばらく、じっとしていると今度はまりさがやって来た
どこかで見たことのある帽子。それはあの日の子まりさだった

「ゆ〜しょゆ〜しょ・・・」

一生懸命ご飯を集めて、帽子に隠して何処かへ行った
一緒のはずのお母さんの姿はなく、れいむは思わず笑ってしまった
あいつもゆっくり出来ないんだ、と






まりさはおうちを見張っていた
ぱちゅりーに奪われた大事なおうちを

「むきゅ、おかーさんはもういちどごはんをとりにいくわ!」
「「おかーさん、いってらっしゃい」」

お母さんぱちゅりーが出て行く時を待っていた
ぱちゅりーの姿が消えたのを見て、おうちへ急ぐ
帽子の中にはさっきのご飯、口には可愛いお花を咥えて

「ぱちゅりー、ありす!ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!」」

まりさは2匹と友達だった。お母さんには内緒の友達だった
おうちを奪ったぱちゅりーが憎くて憎くて許せなかった
だから、彼女の大事なものを奪ってやろうとおうちに入った
さっきみたいにこっそりと、子どもを殺してやろうとおうちに入った
そこにいたのはか弱い子ども。まりさよりも小さくて、お目目の見えないゆっくりありす
まりさと同じくらいの大きさだけど、会話も必死のゆっくりぱちゅりー

「ゆぅ?きょうはぜんそくさんゆっくりしてる?」

その時、まりさをみてぱちゅりーは言った
ごめんなさい、ぱちゅりー達が病弱なせいで、と
怒りを削がれたまりさは訊いた。どうしてそんなに弱っているの?
ぱちゅりーは生まれつきだと静かに答え、ありすは人間さんに虐待されたと泣き出した

「ありす、まりさおねーちゃんがおいしいごはんをもってきたよ!」

その時、まりさは気付いてしまった。このありすを知っている、と
お母さんが死んだあの日、ガラスの向こうで泣いていた、小さな赤ちゃんありすだと
そしてまりさは気付いてしまった。ありすはぱちゅりーの子どもじゃないと

「ありすは・・・ぱちぇのおはなしあ・・・ゲフゲフ」

まりさはすぐに理解した。お母さんぱちゅりーが優しいことを
それでも彼女が許せなかった。けれど憎みたくもなかった
だからまりさは諦めた。ゆっくり出来るおうちを諦めた
そして、代わりに友達を得た。ゆっくり出来る友達を得た

「むきゅ・・・まりさ、きょうもおはなしをきかせて、ね・・・」
「ゆゆっ!ありすもまりしゃのおはなしだいすきよ!」

あの日を思い出して、上の空のまりさを、か弱い2匹が呼び戻す
そして、一緒におねだりをする。お外の話を聞かせてね

「ゆっくりりかいしたよ!きょうはね・・・」

拾ったご飯を2匹に渡し、それからまりさはお話を始める
やんちゃなまりさの大冒険を
ハンターまりさの華麗な腕前を
嘘はないけど大げさに、まりさの見たもの全部を話した

「ゆゆっ!ぱちゅりーたちのおかーさんがかえってくるよ!まりさはゆっくりかえるね!」

時間を忘れて話したまりさは荷物を纏めてそそくさと逃げた



綺麗だったゆっくりれいむ。今は汚れたゲスれいむ
ゴミ捨て場の傍におうちを構えて、ゴミを漁って雑草を食む

「ゆふん!ばかなおちびがれいむにさからうからだよ!」

弱いゆっくりからご飯を奪う、嫌われ者のゲスれいむ
れいむの日課はご飯集めともう一つ

「むきゅ・・・これだけあればだいじょうぶね」

あのお母さんぱちゅりーを追いかけること
そして、あのおうちを見張ること
まりさの出入りもちゃんと見張って、こっそりおうちに入ること

「ゆゆっ!きょうもおいしそうなごはんがあるね!れいむがぜんぶもらってあげるよ!」

そう言って、有無を言わさず奪っていった
お母さんぱちゅりーの集めたとっておきのご飯を
まりさの集めた大事なご飯を

「もし、はなしたらゆっくりできなくするよ!」

最後にそう言って脅しをかけて、悠々とおうちを後にした
この家族を狙う理由は一つ
みすぼらしいのに、何故か幸せそうだったから
何も出来ないくせにお母さんに守られて
まりさに大事にしてもらって
だけど、お母さんぱちゅりーにもまりさにも敵わないから、弱い2匹を狙い続けた

「ゆへへ・・・こんなにかんたんにごはんがあつまるなんて、さすがれいむだよ!」

2匹は決して告げ口をしなかった
万が一にもお母さんやまりさにゆっくり出来ない目に遭って欲しくなかったから
そんな2匹の気持ちも知らず、れいむは2匹を寄生虫だと馬鹿にした
自分も似たようなものなのだけど、ワガママれいむは気付かない

「れいむはゆっくりしてるからひとりでもゆっくりできるよ」

その独り言にすら気付かない。気付いても、強がりだとは気付かない
植え込みに袋をかぶせて作ったおうちで、れいむは独り静かに眠る
ショーウインドウのない今ではうるさくて仕方のない雑踏に耐えながら
夢に出てくる幸せだった日々の思い出に悩まされながら

「ゆぅ・・・ゆぅ・・・おかーしゃん・・・」

気付かないことばかりのれいむだけれど、一つだけ気付いていた
もう、自分はあの頃の自分には戻れない






ある日、まりさは見つけてしまう
誰かに噛まれて死にかけの、お母さんぱちゅりーの有様を

「ゆゆっ!どうしたの?!ゆっくりだいじょうぶ?!」

思わず駆け寄る小さかったまりさ。いつの間やらサイズは同じ
まりさと目が合ったぱちゅりーは呟いた
あなたなのね、と呟いた

「む、きゅ〜・・・あなたが、ぱちぇのおちびちゃんたちに・・・ごはんをわけてくれて、たのね?」

お友達だから当たり前だよ、と頷くまりさ
急いでおうちに連れ帰ろうと、髪を咥えて引っ張るが、中身が漏れそうで動かせない
瀕死のぱちゅりーは首を横に振り、それよりこどもをおねがいね、と囁いた

「ぱちぇを・・・おそったのは、れいむよ」

そう告げてからお願いをした、子どもを守ってとお願いをした
それからごめんなさいと謝った
おうちを取ってごめんなさい、と

「む・・・きゅぅ〜・・・・・・」

まりさは黙って背中を向けて、聞こえていないふりをした
何を今更とも思ったけれど、別に怒っては居なかった
それ以上に感謝していた。ありすを拾ってくれたことを

「ゆっくりいそぐよ!」

まりさは大事なおうちに急いだ
母と過ごした大事なおうちに。ありす達と過ごした大事なおうちに
ゆんしょゆんしょと通りを跳ねて、一直線におうちを目指す

「ゆっくりとうちゃくしたよ!」

おうちの中を覗いたら、一匹のれいむがレイプをしていた
弱ったぱちゅりーに頬をこすりつけ、下品な顔ですっきりしていた
止めに入るその前に、すっきりーの声をあげた

「ゆっくりやめてね!」
「ゆゆっ!?」

待ったなしで飛びかかるまりさ
れいむは奇襲に対応できず、いきなり右目を噛み千切られた
傍らではぱちゅりーが額に蔦を生やして朽ちていた

「もうゆるさないよ!ゆっくりしね!」
「ゆぎぃ!?」

何度も何度も噛み付くまりさ。れいむは痛がることしか出来ない
何とかおうちの外まで逃げて、れいむはそのまま逃げ出した
まりさが我に帰ってみると、おうちには怯えるありすと赤ちゃんれいむ

「ゆっぐ・・・こわいよぉ・・・おねーちゃん、どこぉ?」
「ゆゆっ?おきゃーしゃんはどきょ?」

たった一匹産まれた赤ちゃんはゆっくりれいむだったらしい



必死で逃げたゆっくりれいむ
だけど、あまり意味がない。餡子を失い、虫の息
彼女に明日は訪れない。二度とゆっくり出来ないだろう

「ゆぎぃ・・・どうぢで、どうぢででいぶが・・・」

生まれた時からひとりぼっちで、“おかーさん”には捨てられて
気がつけばただのゲスれいむ
いつでも他人を羨むばかりの、可哀想なゲスれいむ

「ゆぐぅ・・・“おかーさん”・・・・・・」

呼んでも来るはずがないけれど、来ても困るだけだけど
それでも気がつけば呼んでいた。大好きだった“おかーさん”を
けれど、やっぱり返事は無く、れいむは全てに絶望した

「ゆ゛・・・ぜんぜん、ゆっぐぢ・・・でぎなかったよ・・・」
「ゆゆっ!やっとみつけたよ!」

餡子を駆け巡る思いでから、れいむを現実へ引き戻したのはまりさだった
あの日、ショーウインドウの向こうにいたゆっくりまりさの声だった

「ゆ゛・・・なにしに、きたの・・・?」

止めを刺しにきたの?だったら無駄だよ、どうせすぐ死ぬから
そう言おうにも力が出ない。動くこともままならない
たった一つ出来るのは輝きの失せた瞳で、ぎょろっとまりさを見つめることだけだった

「おきゃーしゃん!」
「ゆ゛ゆ゛っ!?」

声がしたのはまりさの後ろ。そこには小さなゆっくりれいむ
可愛いれいむのおちびちゃん、ぽよんぽよんと飛び跳ねて、れいむの傍までやってきた

「おきゃーしゃん!ゆっきゅちちていっちぇね!」

久しく忘れていた言葉。とっても大事なゆっくりした言葉
気がつけばれいむは泣いていて、力を振り絞って立っていた
ゆっくり、ゆっくり這いずって、赤ちゃんれいむの傍へ行く
それからお顔を舌で舐め、頬をゆっくりすり合せた

「まりざぁ・・・でいぶのあがぢゃん、ゆっぐぢぢでるよぉ・・・」
「そうだね!とってもゆっくりしたあかちゃんだね!」

まるで“おかーさん”と一緒に居た時のれいむのように
お母さんまりさと一緒に居た時のまりさのように
だから、れいむは悲しかった
可愛い赤ちゃんに寂しい思いをさせてしまうことが

「お、おぢびぢゃん・・・ゆっぐぢきいて、ね・・・」
「にゃに、おきゃーしゃん?」

にっこり微笑む赤ちゃんれいむ。つられてれいむも笑いそうになる。笑う余力もないけれど
それでもゆっくり頑張った。赤ちゃんとまりさにお願いをした

「れいむがぢんだら・・・たべて、ね・・・」
「それと、まりさ・・・」

赤ちゃんれいむは泣き出した。どうしてそんな事言うの、一緒にゆっくりしようよ、と
その傍らでまりさは頷く。この子はぱちぇの子どもだよ、見捨てるなんてゆっくり出来ない
それを訊いたれいむは微笑み、一言喋って動かなくなった

「ゆっくり、していって・・・ね」






ある日、まりさは捕まった。虐待お兄さんに捕まった
今では立派な大人のゆっくり。だけど人間さんには敵わない
けれどまりさは怖くなかった。失うものは何も無い

「さあて、これから虐待してやんよ」
「ぎゃくたいしたらおにいさんはゆっくりできるの?」

失うものは何も無い。つがいのありすはとっくに死んだ
子まりさと子ありすを残して死んだ
子ども達はとっくに自立した。もちろん、あのれいむの子どもも

「ああ、そうさ。ゆっくり虐待するんだよ!」

げらげら笑うお兄さん。けれどまりさは怖くなかった
何故ならまりさは知っていたから。本当にゆっくり出来ないことは何なのか

「ゆゆっ!おにーさんはゆっくりできるんだね!」
「でも、お前は全然ゆっくり出来ないけどな!」

それがまりさの気持ちだった。誰かがゆっくり出来るなら、それが自分のゆっくりだ
一番ゆっくり出来ないことは、誰かをゆっくりさせてあげないことだ
それがゆっくりのあるべき生だ

「おにーさんがゆっくりできるなら、まりさはへいきだよ!」
「・・・・・・は?」

まりさと一緒に居た時のお母さんと同じように
まりさのお話を聞いていたときのぱちゅりーのように
赤ちゃんとすりすりしていた時のれいむのように
赤ちゃんを産んだ時のありすのように
すくすく育った子ども達のように
そしてまりさは気がついた。これこそゆっくりだということに

「まりさはね!いろんなこをゆっくりさせてあげてきたんだよ!」
「おかーさんやぱちゅりーやれいむはしなせちゃったけど・・・」
「まりさのまわりでみんなゆっくりしてくれたんだよ!」

臆することは何もない
予想外の言葉に驚く男を、じっと見つめて笑顔を浮かべ
いつものようにこう言った

「ゆっくりしていってね!」



気付けば男は泣いていた
怯えぬまりさに苛立って、拳を振り下ろしたその瞬間、自分の姿を見て泣いた
まりさの瞳の向こう側の、虚ろな瞳のゲス野郎

「俺・・・なんでこんな事してるんだろう・・・」

結局潰れたゆっくりまりさ。最後までゆっくり笑っていた
きっとあいつには親が居て、仲間も子どももいたのだろう
なにの今の自分は何だ?弱者をいたぶり、悦に浸って
馬鹿で間抜けな社会不適合者
こんなはずじゃなかったのに、そう思いながら泣いていた




‐‐‐あとがき‐‐‐

げっぺるどんがーって言葉の響きの中てられて、気がついたらこんなのを書いていた
何故だ!俺はゲッペる虐待お兄さんを書きたかっただけなのに!教えてあねきィィ!?

余談ですが、まりさを捕まえた虐待お兄さんはありすの目を潰した人と同一人物です。

byゆっくりボールマン

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最終更新:2022年04月15日 23:44