(滅びの予言)
「やあ、いらっしゃい。久しぶりだね。」

「お久しぶり。何か見せたいものがあるんだって?
 どうせ貴方のことだから、ろくなものじゃないんでしょうけど。」

「ふふふ。まずはこれを見てくれないか?」

「何これ?予言書って書いてあるね。」

―全ての世界。砂褐色の空。鋼色の月。鳴りやまぬ不協和音。その矛に震える大地。
 狂った始祖の末裔は再び現れ、新たな世界を創ろうとする。
 貪食の抗体は世界を蹂躙し、全ての異物を食らいつくすだろう。

「うーん。さっぱり解んないんだけど。」

「予言というのは悪用されない様に、内容を解り難く書くものなんだ。
 関係の無い意味不明な単語を文中に入れたりしてね。それらのノイズを排除し
 更に解り易い様に意訳するとこうなる。」

―恐怖の大王があらゆるものを食いつくす魔物を召喚する。
 魔物が全てを食べつくした後、新しい世界が創られる。

「実はこの予言は世界の終末を示しているんだ。
 つまりこのままでは世界は滅びてしまうんだよ!」

「えーと・・・ここは『な、なんだってー』って言わないといけないのかしら?」

「だが安心して欲しい。この予言を現実のものとしないために、既に手を打ってある。」

「あの・・・展開が早すぎてついていけないんだけど・・・」

「では早速その対策をお見せしよう。実験棟まで来てくれるかな。」

「私の話聞いてる?」


(悪食の姫)
「はい、到着ー。見てくれ。これが対『世界を食らう魔物』用兵器ゆっくりゆゆこだ。」

「うわ、デカッ。こんなのどこで見つけて来たの?」

「作ったんだよ。まず野生のゆゆこを捕まえて改造手術をした。
 餡子の中枢の一部、食欲を制御する部分と成長を抑制する部分を壊したんだ。
 後は毎日大量の餌を摂取させるだけ。満腹になる事が無いから際限無く食べ続け
 食べたら食べた分だけ成長する。いずれ『世界を食らう魔物』すら食らう魔物に成長するだろう。」

「はあ・・・」

「まあ、まだ実験段階だから実戦投入は無理なんだけどね。
 現在の課題はこのゆゆこを繁殖させる事だ。無茶な改造をした所為で生殖機能が失われてしまってね。
 このゆゆこの量産化に成功したらどんな魔物が出てきても大丈夫。
 世界の平和は守られるよ。きっとノーベル平和賞を貰えるね。」

「いや、イグノーベル賞すら無理だと思うわ。」

「先生、そろそろ餌の時間です。」

「うん。丁度いい、餌を食べるところをお見せしよう。餌は四時間おきにゆっくりを与えているんだ。
 じゃあ君、ゆっくりを捕まえてきてくれたまえ。」

「はい、先生。」

「ゆっくりにゆっくりを食べさせているの?」

「うん。こいつは悪食でね、何でも食べるんだよ。たとえ仲間でもね。
 それにゆっくりならその辺にいくらでもいる。タダでいくらでも手に入る。
 実はこの実験棟の建設にお金が掛かり過ぎてね。餌なんぞにお金を掛けられないのさ。」

「実験棟って・・・ただの温室じゃない。どんだけお金無いのよ。
 て言うかそもそも何で温室なの?」

「ゆっくりの成長には太陽光が欠かせないんだ。餌を食べただけじゃ大きく成長できない。
 外敵のいない安全な場所でゆっくり日向ぼっこする事が重要なんだ。」

「で、大丈夫なの?」

「何が?」

「このゆっくりが逃げ出さないのかって事。3メートル位あるわよね、体長。
 こんなのが外に逃げ出したら危ないわよ。」

「大丈夫さ。このガラスは特別な素材でできている強化ガラスだ。絶対に破られる事は無い。
 僕の考えた計画にミスは無い。大丈夫、この実験は絶対成功するよ。」

「何そのフラグ・・・失敗して欲しいの?」

「?何を言っているのか良く解らないな。」

「先生、ゆっくりの親子を連れて来ました。親まりさ、親れいむ、子ゆっくり、全部で10匹です。」

「うん。それ位いたら十分だろう。早速中へ入れてくれたまえ。」


「さあ、君達。この大きなゆっくりがさっき説明した我々が飼っているゆっくりゆゆこだ。
 今日一日ゆゆこと一緒に遊んでやってくれ。夕方までちゃんとゆゆこの面倒を見てくれたら
 報酬のお菓子を支払おう。」

「ゆー。わかったよおにいさん。」
「うわあ。おおきなゆっくりだね。」
「とてもゆっくりしているね。」
「ゆゆこおねえさん!れいむたちといっしょにあそぼうね!」

「おーい。起きろゆゆこ。(ご飯の)時間だぞー。」

『ゆ~ゆ~~~。お~は~よ~う~~~~~。』

「おはよう、ゆゆこおねえさん。」
「いっしょにゆっくりしようね!」
「なにをしてあそぶ?」
「おにごっこ?それともおうたをうたう?」

『ゆ~~~。あ~ま~あ~ま~~~。』

「ゆゆっ!おねえさん、くすぐったいよ!」
「ああ、れいむがおそらをとんでるよ!」
「ゆ!れいむだけずるい!まりさも!まりさも!」
「ゆ。おねえさんをこまらせたらだめだよ。じゅんばんだよ、じゅんばん。」

『い~た~だ~き~ま~~~す。』

「ゆーーー!!!ゆゆこおねえさんがれいむをたべたあああああ!!!」
「ちがうよおねえさん!れいむはごはんじゃないよ!」
「やめてね!まりさのかわいいこどもだよ!たべないでね!」
「ゆっくりしてね!ゆっくりおくちからだしてね!」

『む~しゃ、む~しゃ、し~あ~わ~せ~~~~~。』


「みんな食べちゃった。随分と豪快な食べ方をするのね。舌でゆっくりを持ち上げて丸飲みなんて。」

「食事が終わったらまた睡眠の時間だ。寝る子は育つって言うしね。」

『ゆ~~~。お~に~い~さ~~~ん。た~り~な~い~~~。』

「もう十分食べただろう。次の食事は四時間後だ。それまで寝てなさい。」

『む~~~。』

ドシーン。ドシーン。

『あ~ま~あ~ま~~~。ほ~し~い~~~~~。』

「あら、怒っちゃったんじゃない?ガラスに体当たりを始めたわよ。大丈夫?」

「はっはっは。何を言っているんだい。心配いらないよ。さっき説明しただろう。
 このガラスは特別製だ。ゆっくり100匹が体当たりしても壊れない様設計されている。」

「いや・・・通常のゆっくり100匹よりもゆゆこの方が明らかに重いと思うけど・・・」

ガッシャーン。

『ゆ~~~。で~れ~た~。あ~ま~あ~ま~、さ~が~す~~~。』

「壊れたわね、特別製のガラス。」

「・・・」

「ねえ、どうするの恐怖の大王?『世界を食らう魔物』が逃げ出したわよ。」

「僕は恐怖の大王じゃない!それにゆゆこは『世界を食らう魔物』じゃなくて『世界を食らう魔物を食らう魔物』だ!」

「あらそう。で、どうするの?『ミスの無い』『絶対成功する』実験じゃなかったの?」

「う・・・こうなったら仕方無い。事が公になる前にゆゆこを処分しよう。
 後は君さえ黙っていてくれたらこの件は無かった事にできる。」

「処分?あんな大きなゆっくりを?どうやって?」

「簡単さ。ゆゆこを残さず食べてしまう位大きなゆっくりを新たに作るのさ。
 新しいゆゆこ、『世界を食らう魔物を食らう魔物』を食らう魔物をね。」

「・・・」

end

作者名 ツェ

今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」
         「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」
         「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」  「狂気」 「ヤブ」
         「ゆ狩りー1」 「ゆ狩りー2」 「母をたずねて三里」 「水夫と学者とゆっくりと」
         「泣きゆっくり」 「ふゅーじょんしましょっ♪」 「ゆっくり理髪店」
         「ずっと・・・(前)」 「ずっと・・・(後)」 「シャッターチャンス」
         「座敷ゆっくり」 「○ぶ」 「夢」

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最終更新:2022年05月22日 10:47