「おにーさんこんにちは!きょうもいいてんきだね!」
「こんなひはゆっくりできるよ!」
「ゆっくち!ゆっくち!」
「こんにちは。おいしいものが手に入ったんだけど一緒に食べないかい?」
「ゆゆっ!おいしいものたべたい!」
「おにーさんありがとう!」
「じゃあ家までついてきてね!」


ある目的のためにゆっくりまりさを探していた俺は、自分の幸運に感謝しながらゆっくりまりさを丸め込んだ。
家にやってきたまりさたちは縁側の前で止まった。俺がゆっくりの方を向くと、

「おにーさんなかにはいってもいい?」
「あぁ、いいよ。」
「ゆっ!ありがとう!」
「ゆっくりおじゃまします!」
「ゆっくりちていっちぇね!」
「おにーさんのいえにはいるまえによごれをおとしてね!」
「ゆっゆっ!」

ずいぶん入り慣れているな。どこで覚えたんだろう。

「まりさたちははたけしごとてつだってるんだよ!」
「おじーさんからはだいにんきなんだよ!」
「でもおじーさんはきびしいからちょっとこわいんだよ!」
「ゆ~!」

どうやら年寄りの畑仕事を手伝って餌をもらっているらしい。そのときに覚えさせられたのか。

「じゃあ今日は畑仕事の帰りかい?」
「ちょっとちがうよ!そろそろふゆごもりじきだからえさをもっとあつめにいこうとしてたんだよ!」
「ちゃんと準備してるんだね。えらいえらい。」
「えっへん!」

たわいもない雑談をしながら、お菓子をゆっくりと食す。赤ちゃんたちはまだまだ汚い食べ方だったが、親ゆっくりの一人がなめて綺麗にしてあげていた。

「おにーさんありがとう!えさをあつめないといけないからもういくね!」

ゆっくり全員が食べ終わった後、親まりさは俺にお礼を言ってきた。しかし、このまま逃がすわけにはいかない。

「あ、ちょっといいかな?」
「どうしたの?」
「まりさたちは帽子で水の上を動けるんだよね?」
「そうだよ!まりさたちのぼうしはすごいんだよ!」
「実はまだ見たことなくてね。ちょっと見せてくれないかい?」
「おやすいごようだよ!こどもたちはまだちょっとへただけどまりさたちはじょうずだよ!」

餌付けの甲斐あってかすんなりと聞いてくれた。後は誘導するだけだ。

「じゃああっちに水を溜めてるからそこでやってみてくれないかな?」
「すいそう?まりさたちはかわでやってるよ!」
「川は今寒いだろう。ちゃんと暖かい場所を用意したからそこでやってくれないかな?」
「さむいのはいやだからすいそうでやるよ!おにーさんあんないしてね!」
「おかーちゃんたちにまけないんだから!」
「ゆゆゆ!」

先ほどの親まりさの言葉に闘志を燃やしている子供たち。
はやくはやくと周りを跳ねだしたので踏まないように倉庫近くに作った部屋に連れて行ってあげた。

「ここならあたたかくてゆっくりできるだろう?」
「ここならゆっくりできるよ!」
「じゃあ見せてくれるよね?」
「まかせてよ!でも・・・たかくてとどかないよ!」

確かにこの水槽の高さはは1m近くある。今は水を張っているが酒造りなどにも使える大型の水槽だ。
その高さの半分ぐらい水を入れてあるから、水面はまりさたちのいる水槽の上からは遠く見えたのだろう。

「水にはいるには高いとダメなのかい?」
「そうだよ!まりさたちはさきにぼうしをうかべるから、こんなにたかいとぼうしがながれちゃうよ!」
「なるほど、じゃあこうしよう。」

そういって親まりさから帽子をとる。いきなり取られて驚いたまりさを素早く持ち上げて帽子の中に入れてあげる。

「これで俺が水に入れてあげれば大丈夫かな?」
「ゆっ!これならだいじょうぶだよ!」
「じゃあ順番にいくよ。」
「まって!ぼうしのなかにきがあるからそれがいるよ!それがないとおよげないよ!」
「あぁ、ごめんごめん。」

親まりさをそっと水面に浮かべる。正直浮くとは思ってなかったんだが本当に浮きやがった。
親まりさは口に咥えた木の棒で器用に泳いでいた。他のまりさたちが急かすので順番に入れてやる。
まだ小さいまりさはうまく泳げていないようだったが親ゆっくりの手助けで何とか浮いているようだった。

「気に入ったかい?」
「ゆっ!おにーさんここひろいね!」
「ゆっくちできるね!」
「あ!おさかなさんだ!」
「ゆゆっ!くさもはえてるよ!」
「おそととおんなじー」

どうやら気に入ってくれたようだ。近くの川のものをここまで持ってきたのだからゆっくりたちも見覚えがあったのだろう。
苦労はしたが、ゆっくりがよろこんでいるのでよかった。

「じゃあ今日からそこに住んでね。」
「ここでゆっくりするね!・・・なんでええええええええ!」

俺が言ったことに素直にうなずいた後、いきなり驚き叫びだした。どうしたと言うんだ。

「聞こえなかったかい?今日からここに住んでね!」
「まりさたちはすにかえるよ!ここじゃゆっくりできないよ!」
「ここでもゆっくり出来るようになって貰うから安心していいよ。」
「ここじゃゆっくりできないいいいいいいいいいい!」
「ここじゃはねれないよ!ゆっくちちたいよ!」
「ゆ゙ゔううううううううう!」

いきなりここに住んでねと言われて、まりさたちは戸惑っているようだ。子まりさは泣き叫んだり、親ゆっくりの方を心配そうに見ている。
親まりさはそんな子供達を慰めながらもう一度話しかけてきた。

「ここにはつちがないからゆっくりできないよ!みずにはいるととけちゃうんだよ!」
「溶けちゃうのか。じゃあ、落ちないように気をつけてね!」
「おにーさんまりさたちなにかわるいことしたの?」
「わるいことしたならあやまるよ!だからたすけてね!」

どうやら自分達が悪いことをしたからお仕置きされていると思ったらしい。二匹の親まりさが俺に謝ってきた。
その様子に子まりさたちも親の後ろで謝りだす。ちょっとうるさいかな。

「勘違いしてるよ。まりさたちは何も悪くない。」
「じゃあなんでごん゙な゙ごどずる゙の゙おおおおおお!」

どうやら理由を話したら分かってくれるらしい。

「おにーさんのところにね、依頼がきたんだよ。水上で生活するゆっくりまりさがほしいって。」
「な゙に゙ぞれ゙ええええええええええ!」
「いやぁ、必死に頼んでくるもんだからさ。断りきれなくて。だからまりさたちはがんばってなれてね!」
「ゆ゙っ!じゃあこどもたちだけでもたすけてよおおおおお!」
「お゙があ゙ぢゃああああああああああああああん゙!」

どうやら自分達が犠牲になれば子供達は助かると思ったらしい。

「そうしたいんだけどね、その人は子ゆっくりがいいらしいんだ。だから逆はできるよ。」
「ぞれ゙ばだめ゙ええええええええええ!」
「まぁその人はちゃんと飼うっていってたからここで水上で生活できるようになってれば命まではとられないよ(タブン)だから親まりさはがんばって子供達をそだててね!」

そうやって話を切り上げた俺は、餌は決まった時間に持ってくるよと言ってから泣き声のする部屋を出た。
これからしばらく、やったこともないまりさの水上生活支援をしなければならない。
まりさたちが立派な水上ゆっくりになることを期待しながら初日が終わった。


何事も初めてだと失敗するものだ。
朝起きてまりさたちの確認に行くとまりさたちは寝てないようだった。

「ちゃんと寝ないとダメじゃないか。これじゃ病気になっちゃうよ。」
「ゆっ!だって、ねるとみずにおちちゃうよ!」
「なみがくるとあぶないんだよ!」
「ゆっくちちたいよ!」
「あかちゃんたちがねれないよ!はやくりくにあげてね!」

困ったな。水上で寝るのを怖がって寝れないのか。確かに、ゆっくり一匹だと波が来れば流されたり、溺れたりするだろう。
一匹じゃ無理となると・・・

「よし、お前達もっと固まってみろ。」
「ゆゆっ?かたまってどうするの?!」
「いいからいいから。」

そういってまりさたちを一箇所に集める。
まず、親二匹を皮がくっつくぐらいに近づけ、その周りに同じく皮がくっつくぐらい子まりさを近づけてやった。
遠くから見たら大きい帽子にまりさたちが詰まってるように見える。
これならば波にも耐えられるのではないか。

「よーし、いくぞー。」
「やめてね!なみをたてないでね!」
「ゆっくちできないいいいい!!」

怖がるまりさたちを気にせず、水面を叩いて波を作る。
結果、水槽から水が出るぐらいまで揺らしてもまりさたちは沈まず水上に居続けた。

「ゆゆっ!どうしてー?」
「水面に接する面積が増えてひっくり返りにくくなったからかな。」
「?」
「まぁこれで寝れるんじゃないかな?」
「ゆゆっ!これでねれるよ!おにーさんありがとう!」

昨日のことも忘れて俺に感謝してくるゆっくりまりさ。朝食を上げる予定だったがすやすやと家族で寝てしまったので止めにした。

昼にやってくるとまりさたちは起きて水面を泳いでいた。
水上で生活しなければいけなくなったので、泳げないのは死に関わる。
親まりさは子供達が少しでも上手くなる様にと、俺に気づきもせず子供達をしごいていた。
先に気づいた子まりさはこれでゆっくりできると思ったのか目を輝かしながらこっちによってきた。

「おにーさんおとーさんがまりさたちをいじめるよ!」
「いじめてないよ!まりさたちがおよげるようにしてあげてるんだよ!」
「そうだよ!でたらめいわないでね!」
「ゆゆぅ・・・ごめんなさい!」
「昼ごはんを持ってきたんだけどいらないかな?」
「ゆっ!まりさたちはおなかぺこぺこだよ!はやくたべさせてね!」
「ごはん!ごはん!」

他のゆっくりたちもご飯と言う言葉に反応してこっちに近づいてきた。
俺は持ってきた野菜にテープで糸を取り付け水槽の上に吊るしていく。

「はい、昼食だよ。」
「これじゃとどかないよ!」
「舌を伸ばしても届かないかい?」
「ゆっ!・・・ゆ゙ううううう!とどかないよー!」

懸命に舌を伸ばして餌を取ろうとするまりさたち。しかし餌は親まりさの舌よりすこし高い位置にあり、もう少しで届きそうだった。
「もうすこしでとどきそうだね。がんば!」
「ゆ゙うううううううううう!」

必死に舌を伸ばす親まりさ。舌の先がぷるぷる震えてる。
親まりさが届かないのに子が届くはずはなく。子まりさ達は親まりさを応援して少しでも役に立ったつもりになろうとしていた。
俺も応援モードになって子まりさと一緒に応援する。
一時間ほど延ばし続けるとなんと餌に舌が届いた。

「ゆっ!むーしゃ!むーしゃ!しあわせー!」
「おかーさんとおとーさんだけずるいよ!」
「まりさたちにもたべさせてね!」

文句を言う子供達に舌を伸ばして餌を与える親まりさ。
前に薬を売りにきた兎に頼んで作ってもらったゆっくり用の成長剤が効いたのだろう。
お菓子に仕込んでおいてよかった。しかし、これでは子供達の舌が伸びない。

「次から子供達と別々にして餌やりだな。」

そんな独り言も餌に夢中なまりさたちは気づかない。
餌を全部食べ終わるとまた子供に泳ぎ方を教えだしたので俺は部屋を出て行った。


それからしばらくゆっくりまりさの観察と躾は続いた。
ずっと帽子に乗ったままで運動不足にならないのかと思ったが、ゆっくりは動かなくても平気らしい。ゆっくりらしいと言えばらしいな。
帽子も腐ったり穴が開いたりせずに最初の形を保っている。命より大事な一つの帽子はそれだけの強度があるのか。ゆっくりの神秘。餌取りもだいぶ慣れたようで、別の場所で育てた茎についた野菜や枝についたままの果物を舌で上手に取って食べれるようになった。今日もゆっくりは慣れたように泳ぎ回っていたり、餌を取ったり、ぷかぷかと浮いている。
ムカついたので水槽を揺らすとゆっくりたちは慌て出す。
面白いのでもっと揺らすと、まりさたちは近くのまりさとくっつき始める。
やがて2ペア、4ペア、8ペアと増えていき、最後には一つの固まりになるのだ。
最初に教えたゆっくりできる方法をゆっくりなりに進化させたのだろう。
ゆっくりの行動に感動しながらもっと激しく揺らす。

「や゙め゙でええええええええええ!!」
「ゆ゙っぐり゙ざぜでえええええええええ!!」
「ゆ゙うううううううう!」

すばらしい。これなら依頼者も満足するだろう。
俺は電話をしに別の部屋へ向かった。明日には渡せるだろう。


その夜。餌を食べてゆっくりしてるまりさたちの元に網を持って向かう。

「ゆっくりしていってね!」
「今日はゆっくりしに来たんじゃないんだよ。」
「ゆっ?」
「明日依頼者にまりさたちを渡すことになってね。今から別の水槽に移すことにしたんだ。」
「ゆゆゆっ!?」

どうやら最初に言ったことを忘れていたらしい。
親まりさは子供達を庇うようにして俺の前に浮かぶ。

「こどもたちをつれていかないでね!」
「まりさがいくからこどもたちはおいてあげてね!」
「おとーさああああん!」
「残念だけどほしがってるのは子まりさ4匹なんだ。」

親まりさを棒でつつく。水の上では抵抗できず、子供達から離れていく親まりさ。
子供たちは親がいきなりいなくなって驚き顔だ。

「ゆゆ!こないでね!ゆっくりさせてね!」
「みんなにげるよ!」
「おにーさんはそこでゆっくりしててね!」


蜘蛛の子を散らすように逃げ出す子まりさ。
俺は用意していた網で子まりさを4匹捕まえた。
やっとも戻ってきた親まりさと子まりさが俺に文句をいう。

「こどもたちをかえしてえええええええええ!」
「おねえええちゃあああああん!」
「おねーちゃんとゆっくりしたいよおおおおおお!」
「大丈夫だよ。」
「ゆ?」
「この4匹は依頼者がちゃんと育てるって言ってたからね!」
「ゆ゙うううううううううう!」

まだ叫ぶ家族を残して俺は用意した水槽に子まりさを入れる。

「お゙がああああああああざあああああん!」
「お゙どおおおおおおざあああああああん!」
「ゆっくりできないいいいいいいいい!」
「おにーさんのばがあ゙あああああああああ!」

泣き喚く子まりさを沈めたくなったが、依頼者のことを思い出し我慢。
別にまだ子供達がいるから沈めてもいいのだが、戻るとまだうるさいだろうし。
2日分の餌を入れてから蓋を閉め、空気穴がちゃんと開いているかを確認してから水槽を一度叩く。
叩いた衝撃でまりさたちが固まって泣き叫ぶのを確認した俺は子まりさの水槽から離れた。



次の日、依頼者がやってきたので昨日準備した水槽を渡す。
依頼者は水槽のなかのゆっくりを初めて見てから水槽を突っついたりして中のまりさたちと遊んであげている。
このままではずっとそうしていそうなので声をかける。
俺に気づいた依頼者は報酬のお金を払った後スキップしながら家へと戻っていった。
あれぐらいの揺れでも固まってやり過ごせるだろう。やはり教えといてよかった。

依頼者が見えなくなると、俺はまりさの家族がいる部屋へと向かった。
あの部屋には子まりさを捕まえてから言ってなかったから少し心配だったが、どうやらちゃんと生きているらしい。
まだ親まりさは落ち込んでいたが子まりさたちが励ましている。直に元気になるだろう。

「おーい、餌を持ってきたぞ。」
「おにーさんなんかきらいだよ!」
「ずいぶん嫌われちゃったな。」
「まりさのこどもをかえしてね!」
「あいつらはもう依頼者が持っていっちゃったよ。」
「ぞん゙な゙あ゙ああああああああ!」
「まぁ元気にやってるだろうさ。じゃあこれからもそこで生活してね!」
「ゆっ!もういらいしゃにあげたんでしょ!りくにもどしてよ!」
「じつはあかちゃんまりさがいいっていう人もいるんだよね。だから何世代か育てて水上に適応した赤ちゃんまりさをつくるんだ。」「なにいってるかわからないよ!はやくそとにだしてね!」
「ダメだよ!死ぬまでそこでゆっくりしていってね!」
「ゆ゙っぐり゙でぎな゙い゙いいいいいいいいい!」

親まりさは今にも狂いだしそうだ。これはまずいか。そのとき、

「ゆっ!おかーちゃん!まりさはここでもゆっくちできるよ!」
「そうだよ!ここなられみりゃもこないしあんぜんだよ!」
「えさもずっとあるし、ふゆもないしここがいいよ!」

子まりさは陸にいた日が親より少ないからあまり気にならないのか慣れたのか、親まりさをなだめる。
親まりさも残った子供達が減るのを良しとしないのかここに残ると言い出した。
その言葉に安心した俺はいつもより多めに餌をやって部屋をでた。これなら今日の夜には大丈夫だろう。


夜になってまりさたちが寝たのを確認した後、俺はゆっくりの水槽に近づいた。
水槽の中では子まりさが減って若干小さくなった塊がすやすやと寝息を立てていた。
その中から親まりさを慎重に取り出す。そのままでは子まりさが死んでしまうので変わりにブイを入れるのも忘れない。
水槽から出された親まりさはまだちゃんと起きてはいない。完全に起きるとうるさくなって子まりさも起きてしまう。
俺は二匹をくっ付けて揺すりながら別の部屋に向かう。ここならば水槽の子供達に聞こえまい。
親まりさを離すと親まりさは発情していた。
すぐに重なって交尾を始めるまりさを見届けた後、俺は元のように水槽にもどして部屋を出た。

翌朝、水槽に向かうとなにやら騒がしい。

「どうしたんだい?」
「おにーさんまりさにあかちゃんができたよ!」
「まりさのいもうとー!」
「はやくみちゃい!みちゃい!」

昨日の交尾ですぐに芽が出たのか。多少驚きながらも成長剤のことを思い出して一人納得する。
子まりさがいなくなったことも忘れてしまったのだろう、親まりさと子まりさはとてもうれしそうだった。

「じゃあゆっくり子供を産むんだよ。」
「ゆっくりがんばるよ!・・・でもあかちゃんがこのままだとみずにおちちゃうよ!」
「産まれてすぐには帽子に乗れないか。」
「そうだよ!あるていどおおきくならないとむりだよ!だからりくにあげてね!」
「それはダメ。」
「じゃあどうするのおおおおお!」

このままでは産まれてすぐ死んでしまうか・・・
野生にあるもので水に浮いているものが必要だな。

「よし、ちょっとまってな。」

そういって俺は枯葉や小さな枝を水槽に浮かべていく。
ゆっくりは不思議そうに俺の行動を見ていた。これなら覚えてくれるかな。
俺は浮いた木の枝や枯葉をまとめる。すると小さな浮島になった。
これなら赤ちゃんゆっくりぐらいなら乗れるだろう。

「どうだい?こうすれば赤ちゃん達もゆっくりできるよ!」
「そうだね!おにーさんありがと!」
「まだ足りないかもしれないけど、後は自分で大きくしてね。やり方は分かったね?」
「だいじょうぶだよ!ゆっくり大きくするよ!」
「じゃあがんばってね!」

まりさたちは大きくしようと枝や水に浮かぶ枯葉などを捜しに散っていった。
これで赤ちゃんも育てられるだろう。
ゆっくりの交尾だけは水上でさせる方法が思いつかず陸上に上げたが、勝手に交尾して増えないのはありがたいので次もこの方法でいこう。

だいぶ浮島が大きくなった頃、とうとう赤ちゃんが生まれる瞬間になった。
俺は子まりさととともに親まりさを見守る。手助けしてしまうと次からの子育てに支障をきたす。
やがて芽が出た方のまりさの表情が変わった。

「もうすぐうまれるよ!」
「ゆっ!がんばってうけとめるよ!」

もう一方の親まりさが浮島を動かして赤ちゃんの実を受け止めるのだ。一匹でも出来そうだが二匹の方がより安全だと思ったのだろう。
口に浮島を含んだまりさも自分に生った実を見つめるまりさも真剣だ。
やがて最初の実が落ちる。

「そこだよ!」
「ゆっ!」

なんというコンビネーション!二匹の親まりさの連携で浮島の上に実が溜まっていく。
結局水に落ちた実は3個。残りは浮島の上に無事落ちた。
水に落ちた実を見た親まりさはショックを受けていたがそれも最初だけ。
すぐに落ちる次の実を受けとないと水に落ちると二個目を水に沈めて気づいたまりさは三個目に落ちた実を気にせず次の実に向かっていく。
落ちた実には興味もないのか浮島の上にある実をみて喜ぶ親子まりさ。
だが、俺は落ちた実の方に興味を持った。水中カメラを用いて落ちた実を観察する。
中に水が入っているかと思ったが中に水は漏れてないらしい。中の赤ちゃんまりさが動いているのがかすかに分かった。
実を食い破って外にでようというのだろう。外は水で満たされているとも知らずに。
だんだんと皮が薄くなる。もうすぐ出てくる。俺はじっと目を凝らした。

そして、

「ゆkkぐぼおおおおおおお!」

確かにそんな声を聞いた。
生まれてすぐ死んでしまう赤ちゃんはどんなことを思っていたのだろう。
生まれて初めて見たのは母親じゃなくて魚だったときどんな事を思ったのだろう。
ふと、溺れている赤ちゃんまりさがカメラを通してこちらを向いた気がした。

たすけて

そんな風な目だった。俺はにっこり笑うと口だけを動かした。

ゆっくりしね

口の動きでなんて言ったか赤ちゃんに分かっただろうか?
確認はすぐに魚に齧られて痛がるまりさからは出来なかった。
そんな赤ん坊を3回見てからカメラを置く。

陸上では運よく生き残った赤まりさがげんきよく飛び跳ねようとして親まりさにしかられていた。
飛び跳ねると浮島が沈んじゃうかもしれないしね。
こいつらはゆっくり飛び跳ねたりしないままいき続けていく。
まだ陸の記憶があるのだろう。すこし不満げな赤ちゃんまりさを子まりさが慰める。
後何世代か必要か。
俺は依頼者に赤ちゃんまりさを渡すのはいつごろになるのかと頭の中で予想しながら餡子に水上生活をしみこませる方法を考えていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年05月03日 18:41