※短編3部。つながりはありません。つながりはありません。
※←これってパチュリーの通常弾幕に見えるよね。
【月とゆっくり】
1
人工衛星。
宇宙ステーションのようなものを想像するが、定義上はそんなに難しいものではない。
「惑星の周りを公転する、人間の手によって打ち上げられた物体」である。
つまりは、やかんであれカメラであれ、惑星の周りを回っていればいいのである。
それが、ゆっくりでも。
「や”め”でぇぇぇぇ!!!ぼどい”でぇぇぇぇ!!!」
とある村の一角に、不相応な『ロケット』が一台。大きさは、大人二人程の小さなものだ。
積載されているものが最低限なので、非常に簡素な見た目と構造になっている。
紅魔館のパチュリー氏の指導のもと、村のみんなで協力して作ったものだ。
材料には村にないものも多くあり、他の村や河童達の協力も得て、ようやく完成した。
「どぉぉじでぇぇ!!!どお”じでごんな”ごどずる”の”ぉぉぉぉ!!!」
今日は待ちに待った打ち上げ当日である。
風も雲もない、素人目でもわかる絶好の打ち上げ日和である。
村の人たちは、奇跡の瞬間を一目見ようと全員が打ち上げ台に集まっていた。
「ま”り”ざばま”だな”ん”も”じでな”い”よ”ぉぉぉぉ!!!」
…さっきからうるさいこいつだが、名をまりさという(らしい)。
(※、ひらがな明記をゆっくり種と定義させてください)
先ほど村のじいさん家に侵入を試みていたところを発見し、縛り付けた。
しかし縛り付けた先が、発射する予定の『ロケット』だった。
これはまずいと思って外そうとしたが、村人はこれを止めた。制裁である。
『ロケット』の打ち上げに支障をきたすのではないかと思い、パチュリー氏に相談したら
「饅頭ひとつぐらいの負荷なら問題ないわ」とのこと。
なかなかにやかましいまりさ。
しかし今、村人の関心のほとんどは魔理沙にはない。『ロケット』が気になってしょうがないのであった。
血の気のある者は黙らせようと手を出そうとするが、『ロケット』になにかあってはいけないと制止する。
日が高く昇り始め、発射予定時間を迎えようとしていた。
村長が、歳に似合わぬ高々とした声で、発射宣言を行う。
村の代表が、たいまつをもって『ロケット』へ近づく。
人々は物陰に隠れて、発射台を見つめる。
「ゆ”っ!お”に”い”ざん”!びを”ごっぢに”も”っでごな”い”でね”!」
再び騒ぎ出すまりさ。緊張感が台無しである。
代表が火を下ろす。予定まであと数十秒。ちょっとした気持ちで、代表はまりさに話しかけた。
「おい饅頭、これからお前は『宇宙』に行くんだ」
「うぢゅう?」涙声だ。
「あぁ、『宇宙』だ」
「どんなどご?」
「さぁな。空より広いらしい」
「ゆっぐりでぎる?」
「さぁな。ゆっくりしてこい。じゃあな」
下ろした火を導火線に近づける。火がついたのを確認すると、代表も物陰に飛び込んだ。
短くなる導火線。息を呑む観衆。視点はやがて導火線と本体のつなぎ目に収束し、
火が、消えた。
「びゅっ!!!」
ばしゅううううぅぅぅぅ!という音と共にロケットが飛び出す。
悲鳴は、一瞬でフェードアウトした。あっという間に最高速度に達したようだ。
村人は煙の中呆然と空を見上げている。
飛行機雲のような、まっすぐ伸びた煙は、『宇宙』へと伸びていった。
パチ、パチパチ、パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
拍手と歓声が村を包む。打ち上げは成功である。
(むきゅう、実際にロケットは宇宙に行ったのかしら)
パチュリーは、打ち上げた後にそれを確認する手立てがないことを思い出した。
2
「こちらお兄さんA、着陸軌道に乗る事に成功、オーバー」
「こちらお兄さんB、着陸軌道に乗っていることを確認、あと5分後に着陸、オーバー」
『ゆっくりプレイスを求めてゆっくり達が宇宙に逃げた』との情報を聞きつけたお兄さんズは、
本気で宇宙を目指した。
果たして月でゆっくり達はゆっくりしているのだろうか、どんな風になっているのだろうか、
お兄さんが来たらどんな反応をするだろうか、どう虐待してやろうか…
全お兄さんが宇宙に旅立つわけにも行かないので、代表として俺、お兄さんAが旅立つことになった。
ガガ…「こちらお兄さんB、まもなく着陸、着陸準備せよ、オーバー」
「こちらお兄さんA、着陸準備了解、オーバー」
音もなく着陸。動作の停止が確認され次第、俺は宇宙船を下りる。
妖怪だから生身?いややっぱり宇宙服は必須。
あれが地球か。丸くて、まるでゆっくりのようだ。感慨深い。
しかしそうのんびりもしていられん。逃げたはずの月面ゆっくりを探し出さねば。
いた!ゆっくりだ!
こいつら宇宙でもゆっくりしてやがる!
まぁ落ち着け俺。まずは月面ゆっくりの観察だ。
こいつらは当たり前だが宇宙服もなんも身につけてない、地上となんら変わりない。
重力の影響も小さくて、地上より高くぽんぽん跳ねてやがる。
…ん?何かしゃべってるようだが…いかんせん聞き取れん。
観察してわかった。こいつらは話すときに互いの体をくっつけて、直接振動を伝えてる。
空気がない月だ、それなりに知恵も身につけたのだろう。
「ようゆっくり共、ゆっくりしてるか?」
ゆっくり達が俺の存在に気づく。宇宙服も着ているし、俺が誰かはわかっていないようだ。
「お前ら月でも生きれるんだな…ってそうか、聞こえてないのか」
さっき体をくっつけて話してたんだった。なら俺もそうでもしなけりゃ声は聞こえないのか。
「…!………!」
「……………!」
何か話しているようだが聞き取れるはずがない。
まずは怖がらせないようにゆっくりと近寄る。
動きと表情から、怯えている様子はない。興味津々、といったところだろうか。
大きめのれいむの頭に手をポンと置き、話しかける。
「ようゆっくり、ゆっくりしてるか?」
「ゆっくりしてるよ!おにいさんもゆっくりしていってね!!!」
お、お兄さんだってわかってる。でもお兄さんがどういう生き物かは知らないようだ。
そのまま手を下に回し、そっと抱き上げる。おぉ軽い軽い。
「おにいさんはゆっくりしにきたの?」
「いや、お前らを虐待しに来た。ところでお前ら仲間はどんだけいるんだ?」
「ぎゃくたい?なに言ってるのかわかんないよ!
なかまはもっといっぱいいるよ!ここにいるのはれいむのかぞくだよ!」
「あぁそうかい。それを聞いて安心した」
「ゆ”っ!!!」
渾身の力をこめて握りつぶす。思ったより感覚は軽い。
餡子がスロー映像のように地面に落ちてゆく。おぉスペクタクルスペクタクル。
少し餡子が漏れただけのようだが動く気配はない。重力のせいか、地上のと比べて皮がやや薄かった。
「………!!!」
「…!…!………!」
子れいむ達がなにか叫んでやがる。あーあー聞こえない聞こえない。
端から聞く気もない。また一匹持ち上げる。こいつは試しに地上に持ち帰ってみよう。
さて、残りを徹底的に潰すとしよう。
「…………!……!!」
「……!!!」
「…………!…………!……………………!」
まぁ聞こえないわけで。しかもあいつら逃げるのに必死で仲間の声も聞けないだろうに。
となれば相当なパニック状態、さぞかし餡子はうまいのだろう。気になってしょうがない。
だが宇宙服を脱いでここで食うわけにもいかん。もう1匹連れてくか。
さっと追いつき、もう1匹も捕獲。
あとは迎えの宇宙船が来るまで、残った子供達と(一方的な)鬼ごっこ。
ゆっくり追いかけては踏み潰し、ゆっくり追いかけては握りつぶし。なんだか刺激が足りないが我慢我慢。
空間に漂う餡子がここまで汚いものだとは思わなかったね。視界が餡クズだらけだ。
そう思うと餡子が落ちる地上は素晴らしいと思えてくる。
ザザ、ザ「こちらお兄さんB、まもなく迎えの宇宙船が軌道に乗る、準備するように、オーバー」
「こちらお兄さんA、離陸準備了解、おみやげに1匹連れてくぜ、オーバー」
「こちらお兄さんB、そいつぁいいや、オーバー」
宇宙船に乗り込み、捕まえた子れいむ達をどサディスティックな目で眺めながら、地球へと帰還した。
3
まりさは、やけに冷静だった
見渡せば星空。いや、星空の元である隕石クズ。
他にはない青い大きな星、あそこに仲間達が住んでいるのだろうと、直感で感じた。
今、まりさは急降下している。
小さな星屑を蹴り飛ばし、青い星めがけて進んでいたら、ふと吸い込まれるような感覚に襲われた。
これでみんなのところに帰れる。あとはゆっくりしていればいい。
「……………………!!!」
ゆっくりしていってね!!!と言ったつもりだった。
しかしそれは誰にも、自分にすら聞こえていない。
もちろんまりさはそれを知っていた。だが言わずにはいられなかった。性である。
段々と速度があがっていく。星屑が瞬く間に視界を流れていく。
ふと、体が温かくなるのを感じた。冷たく寒い宇宙で、まりさが初めて感じた熱だった。
その熱は次第に、まりさの体を焼き始める。
「…………!!!……!!!」
もちろん何も聞こえない。ただ体が焼けていくことは感じた。
熱い、痛い、辛い、ゆっくりできない、涙も蒸発していく。
その饅頭は、地上に落ちることなく、燃え尽きた。
【あとがき】
どうもっす、タカアキです。
31スレ>>120を見たら書かずにはいられなかった。
どうもうちのゆっくりは台詞が少ない。
最終更新:2022年05月03日 09:53