※根はいいゆっくりなんですが、非道い目に遭うお話です。
※前作「お化けまりさ」に続くお話です。
また、前々作「スーパー赤ゆっくりボール」とも繋がりがあります。
前二作の内容を知らないと意味が通じない箇所があると思います。
えすえすさんはまいにちかってにはえてくるんだよ!
空気作家の書いた駄作なんて読んでもいちいち内容まで覚えてられないよ!
ばかなの?しぬの?ゆぎゃっやめてねやめてねれいぶっ
は重々承知の上での、作者オナニ○仕様であります。ごめんなさい。
まりさのおうた
「ゆぅぅ・・・もう・・・・やだぁ・・・・・・・」
そう呟きながら、まりさは今日も暗い闇をただ見つめていた。
まだ日が落ちる時間ではない。
そこはある人間の家。その中のある一室。
一つも窓の無いその部屋は、いつでも闇に包まれている。
その部屋の主がやって来る時を除いて。
暫くして、ギィ・・・と音がしたかと思うと、部屋の扉が開いた。
その音に、まりさはカタカタと震え出す。
部屋の外から差し込む明かりに、うっすらと部屋の中の光景が浮かび上がる。
そこは、広いが簡素な作りの部屋だった。
開いたドアの先、部屋のほぼ中央には、ドアに背を向ける形で
ゆったりとした座り心地の良さそうな一人用のソファ。
その脇には、ガラス製の小さなサイドテーブル。
ソファと、その正面の壁との間には、
黒檀でできた、古めかしい細身のチェストが鎮座している。
その上には、何かの機械が置かれていた。
そして、ソファの左右の壁面は、作りつけの棚となっていた。
一段の高さが40センチ程度の四段の棚が、壁の全面を覆っている。
それ以外におよそ家具と呼べそうな物と言えば、
強いて挙げるなら、天井に埋め込まれる形で設置された照明器具と、
後は入り口のドアぐらいだろうか。
そして、およそ家具と呼べそうにない物と言えば、
壁面の棚にずらりと並んだ透明な箱。
その中に閉じこめられたゆっくり達。
棚のゆっくりは、れいむとまりさが大半、少数のありす。
他には一匹ずつだが、みょんとちぇん。
いずれもバスケットボール大の成体ゆっくりだ。
ゆっくり達の体にぴったり合わせたサイズの透明な箱に閉じこめられているので
自由こそ利かないが、皆、目立つ外傷などは負っていない。
また、饅頭肌の張り具合や、しっかりとした体つきから、
食事も必要十分な質・量の物が与えられていることが窺える。
にも関わらず、そのゆっくり達全てが、まりさと同じように恐怖に震えていた。
ドアから入ってきたのは、一人の人間の女性だった。
持っていた、陶磁器のシュガーポットとコーヒーマグが乗ったお盆を
サイドテーブルの上に置く。
そして、ソファの肘掛けについている、何かのボタンを操作すると、
天上の照明が灯され、部屋の中が明るく照らし出された。
「・・・・・・・」
入ってきた入り口のドアを閉ざすと、
女は無言のままソファに腰を下ろす。
「ふぅ・・・」
仰向くようにソファの背にもたれかかり、
右手で眼鏡を外した後、その腕で少し赤くなっている目を覆った。
その様子をいまだ震えながら固唾を飲んで見守るゆっくり達。
沈黙の中、数分が経過し、女は立ち上がる。
そして、ソファの右手の壁に向かう。
女は、棚の前を移動しながら、そこに並んだ数十匹のゆっくり達を
品定めするかのような視線で端から順に眺めてゆく。
いやだよ、こないでね、こっちこないでね
こちらに背を向けて、対面の壁のゆっくり達を眺めている
女の背を見つめながら、まりさは心の中で必死に祈る。
女の足が棚の端で止まった。
おねがいだよ、そこのこにしてね、こっちこないでね
期待と恐怖にまりさの餡子が早鐘を打つ。
だが、まりさの期待を裏切り、恐怖にだけ応えて、
女はくるりと向きを変えると、まりさ達が並ぶ側の棚の前に歩いて来た。
同じように、こちら側の棚の前をゆっくりと歩いて来る。
ドクン、ドクン
女がこちらに近づくにつれ、餡子の鼓動が大きくなるのを感じる。
やめてね、こっちこないでね、まりさのまえまで、こないでね
だが、女は一歩一歩、確実にまりさへと近づいてくる。
そして、ピタ、とまりさがいる棚の正面で止まった。
やめてね、やめてね、やめてね、やめてね、やめてね、
まりさをえらばないでね、まりさのうえにいる、れいむをえらんでね
まりさのしたにいる、ありすでもいいよ
女と目が合い、ブルブルと震え、涙を流すまりさ。
だが、一言も声を発することなく、ただ心の中だけで、悲痛な叫びを漏らす。
女は暫くまりさを見つめ、次いで、まりさの上下の段にいる
他のゆっくり達に視線を向け、それからまた、まりさに視線を戻した。
やべでぇ、までぃざをえらばないでぇ、おねがいじばすぅ
恐怖の余り、叫び声を漏らしそうになるのを必死の思いで堪える。
すると、まりさの願いが通じたのか、女は再び歩きだし、
まりさの目の前から消えた。
ゆぅ・・・・・たすかったよ・・・・・・・
まりさが声に出さずに安堵の溜息をついた、その時、
「・・・・・・・」
スッと、女が踵を返して再びまりさの前に立った。
ど、ど、どおじで
じっとまりさの目を見ている。
女の冷たい目で見つめられ、
まりさは目を背けたくなる衝動に駆られるが、
それはできない。
そんな事をすれば・・・
ゆっぐりざぜでぐだざいぃぃ、
までぃざ、もうゆっぐりでぎないごどは、いやなんでず
だが、女はまりさを見つめたままだ。
そして、白い手がそっと伸びて、まりさが閉じこめられた透明な箱を掴んだ。
ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
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まりさは、まだ子ゆっくりだった頃、
ゆっくりできない家族の元を飛び出した家出ゆっくりだった。
元々、家族はとてもゆっくりとした家族だった。
強かったまりさのお父さんまりさは、ある日、狩りに出かけたきり、
そのまま帰ってこなかったけれど、
でも、優しいれいむお母さんと、同じ蔦から生まれたお姉ちゃん達、
そして、とても可愛くてゆっくりできる赤ちゃんの妹達と一緒に、
毎日ゆっくりと過ごしていた。
だが、そのゆっくりとした日々は、ある日、終わりを告げた。
れいむお母さんが、大怪我をした可愛そうな赤ちゃんまりさを連れてきた。
悪い人間に虐められ、親まで殺された上に、
美味しいご飯をむーしゃむーしゃするためのお口まで取られてしまった
ゆっくりできない赤ちゃんだったけれど、
まりさ達が家族代わりになって、ゆっくりさせてあげようと頑張った。
でも、その赤ちゃんは、とても怖いお化けだったのだ。
自分の妹の赤ちゃん達は、ゆっくりできないそのお化けを怖がって泣き続けた。
まりさ自身も怖くて泣いていた。
最初に、可愛い妹の赤ちゃんれいむが、お化けに襲われて、
小さな体を半分潰されて、苦しそうに泣きながら、
ゆっくりできなくなってしまった。
優しくてしっかりものだった、一番上のまりさお姉ちゃんは、
そのお化けを退治しようとして、
逆にゆっくりできなくされてしまった。
その後、もうひとりのお姉ちゃんのれいむお姉ちゃんは、おかしくなってしまい、
その内に、おかしな声で叫びながら、頭をお家の壁に何度も打ち付けて、
そのまま、ゆっくりできなくなってしまった。
ごはんを食べているときも、夜寝ているときも、何もしていないときも、
いつも、怖いお化けがこっちを見ていた。
こっちを見て、クスクスと笑い声を上げていた。
怖くて怖くて、たまらなかった。
逃げ出したかったけど、何日も雨が降り続いて、お外に出ることはできなかった。
そして、優しくて大好きだったお母さんまで、おかしくなってしまった。
まりさは何も悪いことをしてないのに、怒られ、ゆっくりできない言葉で罵られた。
まりさも泣きながらお母さんを怒って、罵った。
妹達はいつも泣いていた。
優しかったお母さんは、おにばばになってしまった。
だから、まりさは、もうゆっくりできなくなったお家から逃げ出した。
その日も雨が降っていて、お外に出るのが怖かったけど、
もう一秒でも、あんなゆっくりできないお家にはいたくなかった。
少しでもお家から離れたくて、段々と体が溶けてゆくのも構わずに、
夢中で走り続けた。
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「はふっ!はふっ!うっめっ!これめっちゃうっめ!」
森の中にあったお家を飛び出した子まりさは、いつしか人里まで降りてきていた。
人里を目指していたわけではない。
何のアテもなく、ただ、お家から離れたい一心で、
まっすぐに跳ね続けた結果、そこに辿り着いただけだった。
子まりさにとって幸運だったのは、
人里近くでは、雨が小降りになっていたため、
なんとかお帽子や、濡れた地面に接している底部が溶け切る前に、
人里の外れまで辿り着けたことだった。
そこにあったお地蔵様を祀った祠で疲れ切った体を休め、夜を明かした。
翌日は、朝から強い雨が降り、祠から一歩も出られなかった。
お腹が空いてたまらなかったが、雨水を少し飲んだだけで我慢した。
季節はもうすぐ雪が降ろうかという頃。
凍てついた空気に、餡子を震えさせながら、ただじっとしていた。
そして、今日、ようやく雨があがり、
ご飯を探して人里をうろつく内に、その畑を見つけた。
子まりさは生まれてこのかた、人里まで降りてきたことはなかった。
それ故に、そこが人間の畑であり、
そこに生えている野菜を食べているのを見つかったら、
人間にゆっくりできなくされるという事も知らなかった。
もっとも、知っていたとしても、
丸一日以上何も食べておらず、空腹に苛まれていた子まりさが、
盗み食いをしなかったかは怪しい物であるが。
「むーしゃむーしゃ!しあわせぇー!
ゆゆーん♪とってもおいしいごはんなのぜ!」
嬉し涙を流しながら、ガツガツと、大根や白菜を貪り喰らう。
「やっぱり、ゆっくりできない、おにばばぁからにげてよかったんだじぇ!
ゆっ!そうだよ!ここをまりさのゆっくりぷれいすにするよ!
ここなら、おいしいごはんさんがいっぱいあるから、
まりさはとってもゆっくりできるのぜ!」
憎たらしい言葉を吐きながら、あっちの野菜が旨い、こっちの野菜も旨いと、
次々に野菜を囓って歯形をつけてゆく。
その時だった。
「うぅ~・・・今日は一段と冷える・・・あ・・・!
こらぁっ!!こんのクソゆっくりがぁっ!!
またウチの畑荒らしにきやがったかぁ!!」
一人の人間が子まりさを見つけ、猛スピードで走り寄ってきた。
「ゆゆっ・・・!?ゆっ!ここはまりさのゆっくりぷれいすなんだぜ!
ばかなおじさんはゆっくりでていってね!
さもなくば、まりさにおいしいあまあまをちょうだいね!
ゆっくりしないで、はやくくれないと・・・」
人間を見て、身の程知らずにも小さな体をぷっくぅ!と膨らませ、
どんな幻想を抱いたか、これでもっと美味しいご飯にありつけると笑みを浮かべて、
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら逆に文句を言う子まりさ。
勿論、そんなゆっくりが辿る末路は一つだ。
「ざっけんなぁ!ド腐れ饅頭がぁぁぁっ!!」「ゆっべぇぇっ!?」
男の蹴りを食らって、子まりさは畑の外まで飛んでいった。
ひゅぅぅぅ・・・・ぼすっ、べしょっ。
汚らしい音を立ててあぜ道に落ちる。
「ゆっ・・・いじゃい・・・ゆぐ・・・いじゃいよぉ・・・おかあしゃあん・・・」
「だじぇぇぇ・・・ゆべっ・・・!あんこしゃん・・・でないでぇ・・・・・」
子まりさは、まだ死んでいなかった。
幸運にも当たり所が良かった上に、
跳ねている最中に蹴られたため、その衝撃の大半は空中に逃がれていた。
子まりさが、体重の軽い子ゆっくりであった事も幸いした。
重量のある成体ゆっくりであれば、蹴りの衝撃をモロに受け止め、
空中に舞うのと同時に餡子を四散させていただろう。
無論、無傷とはいかない。
蹴られた時に、衝撃で大量の餡子を吐き出した上、お腹の饅頭皮も破れてしまった。
そして、地面に落下した時の衝撃で、更にお口とお腹から餡子を漏らしていた。
「ゆぅぅぅ・・・いだいんだじぇぇ・・・いだいぃぃ・・・
まりざの・・・あんござん・・・でないじぇぇ・・・
ゆっぐり・・・でぎないよぉ・・・」
己の体から出た餡子を目の当たりにしたまりさが、泣き声を上げる。
この数日間で、相次いだ死んでいった姉妹達。
地面に横たわり、苦悶の表情に凍り付いたまま、
ピクリとも動かなくなった、かつて姉妹だったモノ。
そして、常にその周りに広がっていた、黒い餡子。
その光景が、目の前の光景と重なり、
己の死が間近まで迫っている事を実感する。
冷たい木枯らしが、まりさの残り僅かな体力を更に奪ってゆく。
「ざぶいぃ・・・おじざぁん・・・たじゅげでぇ・・・だじゅげでよぉ・・・
まりざ・・・まりざ・・・まだじにだくないぃぃ・・・
ざぶいよぉぉ・・・・じにだく・・・ないよぉぉぉ・・・・・・」
男は既に黙々と畑仕事を開始していた。
子まりさの声が聞こえていないのか、或いは、聞こえていても、
単に畑を荒らす饅頭にかける情けなど持ち合わせていないだけか、
子まりさには目もくれない。
しばらくかぼそい声で泣き続けた子まりさだったが、
餡子を出し過ぎたことと、凍えるような寒さにより、
やげて意識が朦朧としてくる。
「あら、ゆっくり。」
その時、子まりさの頭上で声がした。
「ゆ・・・?」
頭上を仰ぐまりさ。
そこでは人間の女性がしゃがみこんで、子まりさを見下ろしていた。
「まあ・・・ひどい怪我ね。」
悲しそうな表情で子まりさの様子を眺めている。
「ゆ・・・おねえしゃん・・・たしゅけてね・・・まりさをたしゅけてね・・・」
子まりさが、最後の望みに縋るべく、必死の思いで声を絞り出す。
「いいわよ。私の家へ来なさい。怪我を治してあげるわ。
美味しいご飯もあげる。ゆっくりさせてあげるわよ。」
微笑みながら、お姉さんが子まりさの目の前に手を差し伸べる。
「ゆゅぅ・・・・」
その言葉に、これで助かると希望を抱いた子まりさは
残された力を振り絞り、痛む体に鞭を打ち、
夢中でずーりずーりと這ってお姉さんの手に乗った。
そして、そこで子まりさの意識は途絶えた。
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お姉さんの家に連れて行かれた子まりさは、
水溶き小麦粉で破れた皮の補修をしてもらった後、
とっても美味しいオレンジジュースをたっぷりと飲ませてもらった。
その後、お姉さんは、とても暖かくて美味しい
「しちゅー」というご飯を一杯食べさせてくれた。
「むーしゃむーしゃ!し、し、し、しあわじぇぇ!!なんだじぇぇ!!!」
冬の冷気に晒され、凍てついていた餡子が、
内側からポカポカと暖かくなってくる、その美味しい「しちゅー」を、
子まりさは涙を流しながらガツガツと食べ続ける。
お姉さんは、そんなまりさを微笑みを浮かべて眺めていた。
その後、子まりさは、
ゆっくりできる、ふかふかのお布団さんで丸一日眠り続けた。
子まりさが目が覚ますと、お姉さんが朝ご飯を作ってくれた。
「ねえ、まりさ。どうして一人であんなところにいたの?
まりさのお母さんは一緒じゃなかったの?」
お姉さんの作ってくれた、おむらいすをたいらげ、
ゆっくりしていた子まりさに、お姉さんがそんな質問をした。
「・・・ゆぅ・・・・・・・・・」
途端に子まりさの表情が翳る。
「どうしたの?何かあったの?良かったらお姉さんに聞かせて。」
「ゆ・・・・・」
しばしの逡巡の後、子まりさはポツリポツリと語り始めた。
ゆっくりできていたお家の事。
怖いお化けの事。
ゆっくりできなくなってしまった家族の事。
話をしている内に、自然に涙がポロポロと零れてきた。
「そうだったの・・・・ごめんなさいね、まりさ。
辛い事を思い出させちゃったわね・・・」
「ゆぅぅ・・・」
「まりさ・・・そうだ!まりさ、甘いお菓子食べたい?
お姉さん、まりさのために用意しておいたのよ。
とっても甘くて美味しいわよ?」
「ゆっ!?・・・あまあまさん・・・たべたい!たべたい!
ゆっくりしないで、はやく、あまあまさんもってきてね!」
「はいはい、ちょっと待っててね。ゆっくりしないで早く持って来るわ。」
「あ~んだぜ!ゆっ!ゆゆぅ~ん♪とってもあまいんだじぇぇ!!」
「ねえ・・・まりさ。」
デザートのあまあまをスプーンで掬い、テーブルの上の子まりさに食べさせながら、
お姉さんが言った。
「ゆ?」
「まりさ、お姉さんの家の子にならない?」
「ゆ・・・?おねえさんの・・・いえのこ・・・?」
「ええ、そうよ。お姉さんが、まりさのお姉さんになってあげる。
これからずっと、美味しいご飯もあげる。
お姉さんと一緒に、ゆっくりしましょう。」
「ゆ・・・・・・な・・・なりだい・・・なりだいよ・・・・
まりざ・・・おねえざんのいえのごに、なりだいんだじぇぇぇ・・・!」
まりさが、泣きながら、元気になった体でぴょんぴょんと飛び跳ね
お姉さんの胸の上に飛び乗り、そこから這い登って、
お姉さんの頬にすーりすーりをする。
「ふふ・・・くすぐったいわ、まりさ。」
「おねえざぁん・・・おねえざぁん・・・・・・」
こうして、まりさは、お姉さんの家で暮らすことになった。
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お姉さんと共に暮らすことになった子まりさは、
とても大事に育てられた。
お外は寒かったが、家の中はいつも暖かく、
その暖かいお家で、お姉さんが作った美味しいご飯を一杯食べさせてもらった。
一緒に遊ぶゆっくりの姉妹や友達がいないのは寂しかったが、
その替わり、お姉さんは毎日お仕事から帰ってくると、まりさと遊んでくれた。
見たこともない色々なおもちゃで遊んだり、
一緒にかくれんぼをしたりした。
まりさのために、お歌を歌ってくれることもあった。
勿論、甘やかすだけではない。
子まりさが、悪戯をして物を壊したりした時などは、叱られることもあった。
ごはんを食べさせてもらえなかったり、遊んでもらえなかったりした。
でも、子まりさが反省してちゃんと謝れば、お姉さんは笑って許してくれた。
そして、その後は、いつもより優しくしてくれた。
子まりさの「だぜ」口調も、お姉さんから
「女の子は、そんな言葉使っちゃいけないわよ。」
と言われてからは、やめるようにした。
大好きだったお父さんまりさの真似をして使い始めた言葉だったが、
同じくらい大好きなお姉さんの笑った顔を見ていたかったから、
頑張ってやめるようにした。
びっくりした時や、興奮した時は、
時々、元の「だぜ」口調が出てしまうこともあったが、
そんな時は、お姉さんも
「まりさは、しょうがないわね、だぜ。」
と言いながら笑ってくれた。
そして、美味しいご飯を十分に与えられた子まりさは、すくすくと成長し、
やがて成体サイズと呼べる程までに大きくなる。
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そんなある日、お姉さんがまりさに言った。
「あなたもすっかり大きくなったわね、まりさ。もう立派な大人ゆっくりね。」
「ゆっ!まりさはもうおとなだよ!」
まりさが、誇らしげな声でピョンピョンとジャンプしながら答える。
「ふふ、そうね。うちに来たときには、こ~んなに小さかったのにね。」
そう言ってお姉さんは両手の親指と人差し指で輪っかを作る。
ピンポン玉ぐらいの輪っか。
「ゆぅ~・・・まりさ、そんなにちいさくなかったよ!?
それじゃ、あかちゃんだよ!!ゆっくりいじわるいわないでね!」
「ふふふ、冗談、冗談。・・・ねえ、まりさ。
お姉さんのお話、ゆっくり聞いてね。」
楽しそうに笑っていたお姉さんの表情が、途中から真顔になる。
「ゆっ!ゆっくりきくよ!」
まりさが元気良くお返事をする。
「いいこと、まりさはもう大人のゆっくり。
大人のゆっくりは働かないといけないものなのよ。」
「ゆぅ~?はたらく・・・?」
聞き慣れない言葉に、まりさが首を傾げるかのように体を傾ける。
「ええ、そうよ。
まりさのお父さんやお母さんは、ずっとお家でゆっくりしてた?」
「ゆ・・・?ゆ~ん・・・・・・ゆっ!!
ちがうよ!おとうさんたちは、まりさたちのために"かり"にいってたよ!
ゆっくりできる、おいしいごはんをいっぱいもってきてくれたよ!」
「・・・ゆぅん・・・おとうさん・・・おかあさん・・・」
自分の言葉に、幸せな日々の中でいつしかその記憶を薄れさせていた
親ゆっくり達の事を思い出し、まりさの瞳がじんわりと滲む。
「・・・ごめんね。思い出させちゃったわね・・・」
「ゆ・・・だいじょうぶなんだぜ!・・・だよ!」
まりさは、またやっちゃたという風に「ゆへへ・・・」と照れ笑いする。
お姉さんも、それを見て微笑む。
それから、また言葉を続ける。
「まりさには、やさしいおねえさんがいてくれるから、さみしくないよ!
とってもゆっくりできてるよ!!」
「ふふ・・・ありがとう、まりさ。」
「ゆ!」
「・・・それでね、まりさも大人になったから、
まりさのお父さんたちと同じように、今日からは働いてもらいたいの。」
「ゆっ!ゆっくり、りかいしたよ!まりさも"かり"にいくよ!!」
「ふふふ・・・狩りはいいのよ。ご飯はお姉さんがあげるから。」
「ゆぅ・・・?じゃあ、まりさはなにをすればいいの・・・?」
「もっと大事なお仕事よ。あのね、まりさにはね、・・・・」
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「・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
透明な箱から出され、お姉さんの両手で抱えられたまりさの体が、
女の腕にまで伝わる程にブルブルと震える。
じっとりと、饅頭肌にヌメヌメとした汗が滲み出る。
必死に何かを訴えかけるような瞳を女に向けている。
その瞳からは、涙が止めどなく溢れ出している。
だが、女は、その瞳に冷たい一瞥を返しただけで、
ゆっくりと歩き出す。
まりさの、その反応は、恐怖。
これから何が起こるのか、正しく理解しているが故の恐怖。
だが、恐怖の中にあって、まりさは普通のゆっくりのように、
やべでぇ どおじでごんなごどずるのぉ ゆっぐりでぎないぃ
等と濁った声で泣き叫んだりはしない。
いや、"しない" のではなく、"できない"。
それは、まりさだけではなく、
この部屋にいる全てのゆっくりに共通した事だった。
『お姉さんがいる時に、声を出してはいけない。』
それが、この部屋のゆっくり達に与えられた絶対のルール。
二つの例外を除いて。
女がまりさを抱えたまま、部屋の中央のソファに向かって歩いてゆく。
まりさに向かって、ソファが近づいてくる。
その前にあるチェストが、その上にある機械が近づいてくる。
近づいてくる恐怖に、まりさは声を上げぬまま、
逃れようとするかのように身を捩らせるが、
女にしっかりと抱えられている状態では、空中でグネグネと体が動くばかり。
やめでね、やめでぇ、ばりざ、そのぎがいざんはいやなんでずぅ
ゆっくりできないんでずぅ、ゆっぐりざぜでぐだざぁい、
おねえざぁん、おねがいじまずぅぅ、
むがじの、やざじいおねえさんにもどっでぐだざいぃぃぃぃぃ
漏れそうになる絶叫を必死に飲み込みながら、
まりさは、ただひたすら涙を流す。
だが、女は、まりさの方を見ようともしない。
だずげで!だれがだずげでぇ!!
今度は、助けを求め、両側の壁にいる、"仲間"のゆっくり達を見回す。
まりさの視線から目を逸らして俯くもの、
自分が選ばれなかった事に安堵の表情を見せているもの、
悲しげにまりさをみつめているもの、
まりさに向かって嘲るような笑みを見せるもの、
ただ虚空を見つめているもの、
"仲間"達の反応は様々。
全員に共通している事と言えば、
誰も言葉を発しない事と、誰もまりさを助けようとしないこと。
はぐじょうものぉぉぉ どおぉじでまりざをだずげでぐれないのぉぉ!!
まりさが恨みの籠もった視線を"仲間"達に向ける。
別の日には、まりさ自身も"仲間"達に同じ反応を返していたことなど、
思い返しもしない。
あの機械が段々と近づいてくる。
やだ、やだ、やだ、やだ、やじゃ、やじゃ、やじゃ、やぢゃぁぁぁ
まりさは、少しでも、その恐怖から遠ざかろうとするかのように、
後ろに身を反らす。
その時不意に、機械が近づいてくるのを止めた。
お姉さんは、再び柔らかいソファに身を沈めていた。
そして、手で抱えていたまりさを膝の上に置く。
ゆ・・・・・・・・・・?
まりさは、顔に疑問を浮かべたまま、
どうしていいのかわからず、固まっている。
それは、壁にいる"仲間"達も同様だった。
棚から出されたゆっくりは、あの恐ろしい機械に直行する。
それ以外の光景は、どのゆっくりもいまだ見たことがなかった。
「・・・・・ねえ。まりさ。」
お姉さんが、膝の上のまりさに向かって呼びかけた。
「ゆ・・・ゆっ!な、なんでずが!おねえざん!!」
まりさが、始めて言葉を発する。
ゆっくり達に与えられた"ルール"の例外。その一つ目。
『お姉さんに話しかけられた時には答えてよい。』
いや、正確には、『答えなければならない』か。
ここで無視でも決め込もうものなら、想像を絶する苦痛を味わうことになる。
だから、まりさは、慌てて返事をした。
「・・・お姉さんのお話、ゆっくり聞いてくれる?」
「は、はい゛ぃ!!ぎぎまずぅ!ゆっぐりぎぎまずぅ!!」
「ふふ・・・ありがとう。」
お姉さんは、そう言ってから、サイドテーブルに置いてあった
コーヒーマグを口に運ぶと、コーヒーを一口飲む。
そして、縁に紅い色のついたマグを再びサイドテーブルに戻す。
「お姉さんのね、お友達だったお兄さんが、死んじゃったの。」
ポツリと、呟くように言った。
「ゆぅぅ・・・・・ゆっくりできないね・・・・・」
悲しげな表情を浮かべたまりさが、ゆっくりなりの表現で同情の言葉を漏らす。
決して、お姉さんへのご機嫌取りではなく、本心からの言葉だった。
自分も、姉妹を失った時には、とても悲しかった。
だから、お姉さんも、きっとまりさに負けないくらい、
とても悲しいに違いない。そう思った。
「そうね、ゆっくりできないわね。
ふふ・・・ホント、バカなのよ。
お兄さんはね、とっても大好きな趣味があったんだけど、
それをやり過ぎてね、体を壊して死んじゃったの・・・」
「ゆぅぅぅ・・・もしかして、その人お姉さんの好きな
「それはない。」
「ゆ・・・」
クイ、と持ち上げられたお姉さんの眼鏡が冷たく光ったので、
まりさは黙った。
まあ・・・そういう対象ではなかったけど・・・
女は思い起こしていた。
今日、村の虐待仲間から、その死を知らされた、
同じ虐待仲間であった男の事を。
男は、何よりも赤ゆを踏み潰すのが好きだった。
単純と言えば、あまりに単純な虐待。
ゆっくりをどのように苦しめるか、どのように痛めつけるか、と
日々、競うように、新しい虐待方法、凝った虐待方法を
編み出す事に腐心している他の虐待仲間達から見れば、
一つの虐待に執心している男は"変わり者"であり、
周りの仲間からはその事を揶揄されていた。
そして、女もまた、一つの虐待だけに執心している"変わり者"だった。
虐待の内容は全く違う二人だったが、
ただ己の望む一つの虐待に執心する、それもまた、
一つのゆ虐の形として認める者同士での共感のようなものがあった。
だから、男とは性別や年齢を超えて、良い友人であった。
そういえば、年齢の話は、仲間内での御法度だったけ。
そう思い出して、クスリと笑う。
以前、仲間の一人が、三年物のゆっくり酒を開けるからというので、
村の虐待仲間が集まって酒宴を開いた事があったが、
その席で誰かがうっかり口を滑らせた。
あの時は、
「どおぉぉじでねんれいのはなじをずるのぉぉ!?
さんじゅうだいごうはんでも、
『ぎゃくだいおにいざん』なんだがら、『おにいざん』でじょお!?」
と泣き叫び出してしまい、皆でなだめるのが大変だった。
正直、あれはウザかったなぁ、と思わず苦笑する。
そんな男も逝ってしまった。
赤ゆを殺さずに何度も踏み潰せる画期的な虐待方法を考えた、
だいぶ前に楽しそうにそんな話をしていたっけ。
それで、夢中になるあまり、寝食を忘れて没頭し、
終いには興奮しすぎて、心臓麻痺を起こした、だって。
彼らしいと言えば、彼らしい。
あまりにもバカだ。
そして、女は、そんな男がどこか羨ましくもあった。
まりさは、不思議そうな表情で、お姉さんの顔を見上げていた。
いつも、箱から出された後は、
あの、とてもゆっくりできない、"お仕事"をやらされた。
でも、今日は違った。
お姉さんは、昔のように、まりさとお喋りをしてくれた。
今は、まりさの顔を見ておらず、どこか違う所を見ているが、
時々、楽しそうに笑う。昔のお姉さんのように。
そうだ。きっとそうだ。
まりさは、希望と期待に餡子胸を高鳴らせる。
お姉さんは、昔のお姉さんに戻ってくれたのだ。
あの日から、優しかったお姉さんは、変わってしまった。
怖いおにばばに変わってしまった。
まりさの、優しかったお母さんと同じように。
でも、優しいお姉さんに戻ってくれたんだ。
ううん。きっとお姉さんは、まりさのことをからかって、
意地悪してただけなんだよね。
ひどいよ、おねえさん。
まりさ、ほんとうに、いたかったんだよ?
ほんとうに、くるしかったんだよ?
でも、いいよ。
まりさ、ちゃんといいこで、がまんしていたから、
もういじわるは、おわりなんだよね。
また、まりさといっしょに、ゆっくりあそんでね。
「ゆっ・・・おねえさん」
ゆっくりしていってね
昔みたいに、そう言おうとした時、お姉さんが再び口を開いた。
「ねえ、まりさ。」
「ゆっく・・・ゆ?」
「可愛そうなお兄さんのために、お歌を歌ってあげて。」
「まりさのお歌を。」
「ゆ・・・・・・・・・・・・?ゆ・・・・・・・・・」
まりさがその言葉を理解するのに、数秒を要した。
その言葉の意味する所を、まりさは知っている。
正確に知っている。
だから、今その言葉を聞く筈がない、
優しいお姉さんから、その言葉を聞く筈がない、
そう考えたが故に、理解が遅れた。
そして、まりさは、また声を出さずに涙を流して震えた。
スッ・・・とお姉さんが、まりさを抱えて立ち上がる。
そのまま、前へと進む。怖い機械に向かって。
どおじでぇぇ!?どおじでなのお゛ぉぉ!?
もういじわるはおわりなんでじょおぉ?!
やめでね!やめでね!やめでぐだざいぃ!!おねえざぁぁん!!
己の頭の中で勝手に描いた妄想に縋り付き、
まだ助かると、お姉さんは助けてくれると、
その思いで、涙を流し、訴えかけるような顔でお姉さんの顔を見上げ、
声には出さずに心の中で絶叫する。
だが、『声を出さない』。
おにばばになってしまったお姉さんから与えられた、
そのルールに未だ従っていることが、
その妄想が幻想に過ぎないという事を自覚している、何よりの証。
そして、まりさは機械の上に乗せられた。
最終更新:2025年06月29日 16:41