散歩の最中、苦悶の表情で事切れているゆっくりを見つけた。
虐待を受けたらしい、明らかに人為的な傷痕が生々しく残っている。
気持ち悪いので道を変えようと思ったが、人里から多少離れたこの辺りでは、妖怪に遭う危険性がないとは言えないため、諦めてそのまま行く事にした。
不快感を覚えつつそこを通り過ぎると、今度は生きているゆっくりを見つけた。
「ゆっくりしていってね!」
お決まりの台詞。先ほどの事もあり、腹立たしかったため全力で踏み潰した。
柔らかく生暖かい物を踏むおぞましい感触が足の裏に伝わると同時に「それ」は「ゆ”っ」と一声鳴いた。
――生きていても死んでいても迷惑な饅頭だな。
ため息を一つつき、アンコのペーストになるまで踏み潰してからその場を後にした。
家に戻ると、合わせて5~6匹程度の黒白饅頭が、我が物顔で居座っていた。
どうせ食料は消え、部屋は荒らされているのだろう。またため息が出た。
「「「ゆっくりしていってね!」」」
無言で一匹、一番大きい黒白をつかみ上げる。
「ゆ? お兄さんはゆっくりどんな遊びをしてくれるの?」
「ゆっくりおかあさんだけずるーい」
「ゆっくりまりさもあそぶー」
――うるさい。
顔面に思い切り拳を叩き込みたい衝動を堪え、近くに捨ててあったボロ切れ……恐らく服だった物だろう、忌々しい……を風呂敷代わりにして黒白をくるみ、そのまま背負う。
「ゆっくりおんぶされてるよ!」
「まりさもゆっくりおんぶしてね!」
「ゆっくりおかあさんのつぎはまりさだよ!」
好き勝手にわめくチビ饅頭を、母ゆっくりの上に投げてそのまま加工場へと向かう。
「「「みんなでゆっくりしようね!!!」」」
――好きなだけゆっくりしていろよ、加工場でな。
「ゆっゆっゆ~♪ ゆっくりあるくよりはやいよ!」
「「「あるくよりはやーい!!!」」」
無言で歩く。
「おなかがすいたよ! おんぶはいいからそろそろおろしてね!」
「「「おろしてね! おなかすいた!」」」
無言で歩く。
「おにいさん、なにかたべさせてね!」
「「「おなかすいた! おなかすいた!」」」
無言で歩く……着いた。
加工場の門をくぐった途端、ゆっくり達は怯えだした。
ゆっくり間にどんなネットワークがあるのかは分からないが、ここの恐ろしさを知らないゆっくりはいないのだろう。
「……ゆ”っ! ここはおいしいものないよ! さっさとでてね!!!」
「「「さっさとでてね!!!」」」
風呂敷を無言で職員に引き渡す……と同時に、ゆっくりとは言い難いほどの動きで職員の手を振り払い、散り散りに逃げ出した。
「「「がごう”じょ"う”い”や”ー!!!」」」
急いで捕まえようとする俺の肩に、職員が手を置いた。
「焦る事はないですよ、あいつらは本能に忠実ですからね……ゆっくりしていってね!」
言い終わるか終らないかの辺りで、鉄の筒を取り出して何やら操作する。
「「「ゆっくりしてぇー……」」」
筒は睡眠ガスの噴霧装置か何かなのだろう、お決まりの台詞を最後まで言う事もなく、ゆっくり達はすぐに眠ってしまった。
親ゆっくりを抱え上げるのに手間取っている職員を手伝い、恐縮されながら礼金を受け取る。
「ゆ……した……だよ!」
加工場の門を出る直前、目が覚めたらしい黒白が何やら叫んでいた。
帰宅途中、紅白の親子に遭ったため、お決まりの台詞を言わせずに全て踏み潰した。
――家の修理と食料の調達に、掃除に……今日中に終らないな。
「ゆっくり散歩した結果がこれだよ……か」
疲労感に襲われつつ、家路についた。
最終更新:2019年12月16日 16:59