※ちょっとだけオリ設定、しかし核心





【めーりんが気功を覚えました】





「はぁーやっこらせーのーどっこいさっと」
俺は紅魔館につづく湖のほとりの道を、荷台を押しながら歩いている。
荷台には、よく育った野菜達と、我が家特製の紫もやし(本当のもやし)。
うちの野菜が紅魔館の方々に気に入られて以来、こうして届けに出るのである。
やや遠出だが、儲けも悪くない。

道中野菜のにおいに釣られ、ゆっくりが何度か襲撃してきたが、運搬に影響はない。
湖近くまでくればれみりゃを恐れ、ゆっくりの数は激減するしれみりゃは野菜を食べない。
ここにある野菜より、畑が心配でならない。
対策はしているのだがいつ破られるかわからない。手短にすませるとしよう。

紅魔館正門前。
降り注ぐ日差しの中、紅さんはいつも通り昼寝をしていた。
いつもの風景に笑顔でいると、ふと異変に気づいた。

彼女のまわりに、ゆっくりが三匹。
しかも全部めーりんで、仲良く昼寝をしている。和やかムード2,5倍。
足音に気づいたのか、一匹のめーりんが目を覚ます。俺の姿を確認するなり、一鳴き。

「じゃおおおおぉぉぉぉ!!!」

うぉう、ゆっくりとは思えない威圧感。
その声に他の二匹も目を覚まし、威嚇するように吠える。

「じゃお、じゃおおぉぉ!!!」
「じゃおおぉぉ!!!」

妙な威圧感にたじろいでいると、紅さんが目を覚ました。
寝起きの細い目で俺を確認すると、ゆっくり達に声をかけた。
とたん、ゆっくり達の威嚇は止み、大人しくなった。

「やぁ俺さん、いつもどうも」
「いえいえ、昼寝の邪魔しちゃってすいません紅さん」
「いやいや、起こしてくれて何より。
 あと美鈴でいいよ。いろいろ世話になってるし」
「はぁ…じゃあ、美鈴さん、ひとついいですか?」
「ん?なんだい?」

足元では、興味津々で俺を見上げる三匹。
しかもむちゃくちゃ大人しい。
「こいつらはなんです?」
「なにって、ゆっくりだよ」
「いやまぁ、でもなんでここに?」
「いやねぇ、街に出た帰りにいじめられてるのを見つけてね。拾っちまったのさ。
 しかもこいつら、私みたいに門番しようとするんだ。かわいいだろ?」
「まぁ、かわいいといえばかわいい…ですね」
「だろ~」

「あともうひとつ、こいつらやけに威厳ありません?見た目に反して」
「いうねぇ。いいけどさ。
実はこいつらに、気功を教えたんだ」
「気功?ゆっくりにそんなことできるんですか?」
「苦労したさ。しつけから始めてかなりね。
 時間はたっぷりあったし、焦らずゆっくり教えてやった。
 私に似て素質があるんだろうねぇ、こいつら」
「はぁ…ゆっくりが気功…か…」

ちょっと気になり、しゃがみこんで目を合わせる。…よくわからない。
頭を撫でてみる。お、かなりあったかい。
「やっぱりまだ難しいらしくてねー、うまく使いこなせないみたいなんだ」
「そうですか…」
撫でられためーりんは気持ちよさそうに目を細めている。ふと、思いついた。

「美鈴さん、この子一匹いただけません?畑番をさせたいんですけど」
「私は一向に構わないけど…。俺さんの畑を荒らされちゃうちにも被害は出るし。
 おい、お前」
撫でられていためーりんが美鈴さんを向く。無垢な目だ。
「じゃお?」
「このお兄さんが、お前に畑を守ってほしいらしい。出来るか?」
「じゃお!」
「よし決まりだ。いじめたり加工所に連れていったりするなよ?」
「しませんよ、大事な畑番ですもの」
「そうかい、なら安心だ」

交渉が済んだところで、野菜の精算を行う。
これだけあれば生活に困りはしないだろう。
足元では、三匹が体を寄せ合っていた。
何を言ってるのかは分からないが、別れのあいさつか何かだろう。
たまには、連れてきてやろう。

空になった荷台に頂いためーりんを載せ、来た道を戻る。
帰りは野菜がないので、ゆっくり達も無害だ。
道行くまりさ親子を潰さないように、道を逸れてやる。

「今日からよろしくな、めーりん」
「じゃお!」
めーりんの目は、輝いていた。
あとなんか波動的なものが漏れていたがまぁ大丈夫だろう。

長い道を歩き終え、村に帰ってくる。
家につく頃には、めーりんは気持ちよさそうに眠っていた。
畑は…とりあえず無事である。まぁ収穫したばかりで作物もないし、当然なのだが。
とりあえず寝床を準備していなかったので、布団の上に乗せてやって、その日は床に就いた。



「じゃおおおおぉぉぉぉ!!!じゃおおおおぉぉぉぉ!!!」
普段起きるより少し早い時間、めーりんの鳴き声で目を覚ます。しかし声でかいな。
「おはよう、めーりん」
「じゃおっ!」

飯はどれぐらい食わせてやればいいんだろうか。
とりあえず、茶碗1杯の米を出してやった。結構きれいに食べるな。
俺が数回箸をつける間に、もう食べ終わってしまった。
「もっと食うか?そんなに多くはやれないけど」
「じゃお?じゃおっ、じゃおーっ」
「うーむ、わからん」
とりあえずにんじんを1本与えてみた。
おぉ、生でも食うのかこいつ。ってか野生で生きるためには普通そうだよな。

朝食も身支度も終わり、畑仕事の時間。さて、こいつの働きぶりはいかほどなものか。
「ついたぞ」「じゃー」
家の裏にある畑、紅魔館用ではないがそこそこに優良な野菜が育つ、いい畑である。
それゆえゆっくりの襲撃も少なくなく、一応柵を立ててある。
襲撃と日当たりを考えなければならず、これがめーりんに任せられるなら安心なんだが。
「それじゃあ、今日1日ここを守ってほしい。俺は中で仕事してるから」
「じゃおっ!」
柵の外にめーりんを置いて、俺は柵を越えて畑に入る。
さて、一匹にして大丈夫だろうか。ちらほらと目配せしながら作業を始める。

日差しが頭のてっぺんに昇る頃、そいつらは現れた。
「ゆっ!はたけがあるよ!」「おやさいがたべられるね!」
パッと見5匹、れいむとまりさ混合の群れだ。
さてお手並み拝見。…寝てやがる。おーい起きろー。
「ゆー!クズめーりんがいる!」「クズめーりんだ!」
クズ呼ばわりとはまたひどい。こいつそんなに立ち位置悪いのか?
…お、起きた。ただうるさくて起きたのだろう。目が線だ。
「やいめーりん!まりさたちはそこのはたけにようがあるんだよ!
 わかったらさっさとどいてね!」
「どかないといじめるよ!」
めーりんは、まりさ達を見つけ次第ひと吼え。

「じゃおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ゆ”っ!」
おぉ、ひるんでるひるんでる。鳴き声だけでこれか。
「なんかあのクズめーりんへんだよ!」「ちょっぴりこわいよ!」
「だいじょうぶだよ!クズめーりんはクズめーりんだよ!」
「どかないならゆっくりたおすよ!!!」
一番大きなまりさが、めーりんめがけて突っ込んでいく。
「ゆっくりつぶれてね!」
「じゃおっ!」
自分めがけての体当たりとわかるや、めーりんは…身構えた(ように見える)
そのまま加速をつけて仕掛けるまりさ。

ドッ!
「ゆ”っ」
ゆっくり同士の衝突とは思えない鈍い音を立てて、まりさが吹っ飛ぶ。
めーりんは構えた姿勢から微動だにしていない。
その光景に、グループのゆっくり達も目を疑う。
吹っ飛んだまりさは、もう1匹のまりさの上に落ちた。
「ゆ”っ」
「うゆ”ぅ~」
「まりさ!しっかりしていってね!!!」
「まりさ!」
外傷はない、ただ目を回したかなにかで、ダウン状態だ。
あれか、気であんこだけに衝撃を伝えたのか。…よくわからないが。
とにかく、これが美鈴さん直伝の気か。すげーこいつ。

「じゃおっ!」宣言するように吼える。
「ゆっ!ひとりがだめならみんなでいじめるよ!」
「ゆーっ!」
「じゃおおおおぉぉぉぉ…」
めーりんがうなりだす。そして漏れ出す波動的ななにか。
昨日の帰り道で見たアレに似ている。

「ゆ”ゆ”ゆ”っ!すっごくこわいよ!」
「まりさぁぁ!にげようよぉぉ!」
「クズめーりんなんかこわくないよ!ゆっくりしね!!!」
もう1匹のまりさが再び突っ込む。学習能力がないってのはこういうことなのか。

「…じゃおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
めーりんが、天に向かって吼える。
今まで聞いた中で、もっとも大きく力強い。
周囲の砂が舞い上がる、柵が細かく震えている。
その咆哮は空気を、大地を震わせ、まりさを吹き飛ばした。

「ゆーっ!!!」
こわくなった残りのれいむ達は、ダウンしたまりさを背負って(?)逃げ出した。
めーりんは…追いかけはしないようだ。関心関心、それでこそ守護者。
吹き飛ばされたまりさもやがて目を覚まし、めーりんを一目見ると一目散に走り出した。
これがトラウマでこなくなればいいんだけどなぁ…

「じゃおぉ~」
ちょっとお疲れのご様子。まだ波動的な何かがうっすら漏れている。
「お疲れさん。すごいんだなお前」
「じゃお!」
それでも目は、昨日と同じように輝いていた。
畑の一角に腰かけ、昼飯にする。
俺のおかずの干し肉を、ほうびにめーりんに食わせてやった。
いい顔しやがる。これからも頼むぜ、門番さん。





【あとがき】
うっす、タカアキです。
「じゃお」しか言わないめーりんですが、書いてて意外に楽しかったです。
妙に前半が長いけど気にしない。

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最終更新:2022年05月04日 22:33