※東方キャラ出現注意
※性格の悪いゆっくり出現注意
よく晴れたコバルトブルーの空を鴉天狗の少女が忙しそうに飛んでいた。
「号外~号外だよ~幻想郷一早くて正確な『文々。新聞』だよ~」
名前は射命丸文。
彼女は『文々。新聞』という新聞の発行を行っている。
とは言ってもこの新聞の発行は不定期で多くても月五回ほどしかなく、ほとんど趣味のようなものである。
「お~い、文ちゃ~ん」
文を見つけた老人が縁側から手を振る。
それに気付き文はゆっくりと速度を落とし庭先に降りる。
「こんにちわ、田中のお爺さん。はい、『文々。新聞』です」
「いつもすまないねぇ。歳をとると出掛けるのも億劫でな。文ちゃんの持ってきてくれる新聞は数少ない楽しみの一つなんじゃよ」
「あやや、ありがとうございます」
老人の嬉しそうな顔に思わず営業スマイルも崩れ、素の笑みが浮かぶ。
どちらかというと『文々。新聞』は内容を叩かれる事が多い(主に記事にされた人間や妖怪から)。
しかし里の人間には人知を超えた熱く華麗な弾幕ファイト、そして稀に特集される美少女たちを目当てになかなかの人気を博している。
お世辞にも娯楽が盛んだとは言えない幻想郷においてこの老人のように文の発行する新聞を楽しみにする人間は珍しくないのだ。
「おおぅ、そうじゃ。これを持って行きなせぇ。あのわんちゃんと一緒に食べてくれ」
「あややや! これはおいしそうなおはぎですね。ありがとうございます」
「それでは今後とも『文々。新聞』をご贔屓に」
「おう、気ぃつけてなぁ~」
その様子を縁の下から見ていた一匹のゆっくりがいた。
*
所変わって同日の夕方、人間の里付近のゆっくり集落にて。
「ゆゆっ? しんぶんをつくるの?」
「そうだよ! しんぶんをつくってにんげんからたべものをもらうんだよ!」
文の新聞配達を老人宅で見ていたゆっくりまりさは集落に帰るとゆっくり会議でみんなにその出来事を伝えた。
この会議では冬篭りのための食料収集が芳しくない状況をどう打破するかを話し合っていた。
昨年までは人間の家から盗んできた食べ物で賄っていたが人間たちがゆっくり対策を始めたせいで容易には侵入できなくなった。
そして会議と言っても所詮は餡の集合体でしかないのでいつも碌な案が出ずにお開きになっていた。
そんな状況の中、まりさから得られた情報はこの集落のゆっくりたちが春まで生き延びるための最後の望みになった。
だが一匹のゆっくりがまりさに疑問をぶつける。
「でもしんぶんってなにをかけばいいの?」
「ゆっ!? う~ん……」
まりさは新聞というものを人間にあげれば食料を貰えるということを知っているだけで新聞自体がなんであるかは知らなかったのだ。
せっかく見えてきた希望がまた遠ざかろうとしている。
困り果てていたみんなのところへ集落一の知識者であるゆっくりぱちゅりーが現れた。
「むきゅ! ごめんなさい! ばんごはんをゆっくりたべていておそくなったわ!」
「ゆゆっ! ぱちゅりー! ちょうどいいところにきたよ! 」
「ねぇぱちゅりー! しんぶんってなにがかいてあるかしらない?」
「ちんぽー?」
打ってつけのゆっくりの登場にみんながぱちゅりーに質問する。
その辺にいる見せ掛けだけのぱちゅりー種とは違い、まともに知識を持つこのぱちゅりーは冷静に答えを導き出した。
「しんぶんはおこったできごとやいろいろなじょうほうをみんなにつたえるためのものよ! でもそれがどうしたの?」
「ゆゆっ! まりさたちでしんぶんをつくるんだよ!」
「そしてたべものをもらうんだよー! わかるよー!」
取らぬ狸のなんとやらと言う言葉がお似合いのように、ゆっくりたちはまだ見ぬ食べ物を思い浮かべ涎を垂らしている。
新聞を作るという話を聞いたぱちゅりーはみんなとは対照的に浮かない表情をしている。
「むきゅう……でもしんぶんはつくるのがむずかしいわ! そんなことよりじみちにたべものをあつめたほうが……」
「そんなこというならぱちゅりーはひとりでたべものをあつめてね!」
「れいむたちはしんぶんをつくってらくしてたべものをあつめるからね!」
「わけてあげないよー!」
「おお、みじめみじめ」
ぱちゅりーの意見はもう食べ物が手に入った気でいるゆっくりたちの耳には届かなかった。
こうしてぱちゅりーも渋々新聞作りをやらざるを得なくなったのだ。
翌日。
ゆっくりたちは食料集めもせず朝から新聞制作を開始した。
紙はその辺の民家から盗んでいた和紙、筆記具は同じく盗んできたクレヨンと鉛筆だ。
大量に作らないといけないためゆっくりは家族ごとや気の合う仲間に分かれて作業をする。
「ゆゆっ! みんなおえかきしちぇるよ!」
「れいみゅもかかしぇちぇね!」
作業を見た赤ちゃんゆっくりが勝手に新聞に絵を描きだす。
「ゆゆっ! これはあそびじゃ……」
「まってよれいむ! あかちゃんたちのえをみてごらん!」
「ゆゆ?……うわあ! すっごくかわいいね!」
「でしょ? きっとにんげんもこのえをみてゆっくりできるよ!」
「そうだね! れいむたちのあかちゃんはてんさいだね!」
また別の場所では、
「まりさたちでれみりゃをたおしたことをかくんだぜ!」
「ゆゆっ! しんぶんにかいてみんなにつよさをしらしめるんだぜ!」
自身の武勇伝を書くものや、
「とかいはのありすはしんぶんにすっきりすとをかくわ!」
「やっぱりいちばんはまりさね! あのふわふわのかみとすてきなぼうしをみるとおもわずすっきりしたくなっちゃうわ!」
どのゆっくりが一番すっきりできるかを書くものや、
「きのうはばんごはんにおさかなをたべたよー!」
「それをしんぶんにかくんだねー! わかるよー!」
昨日食べた晩御飯を書くものや、
「ちんぽー!」
「ちんぽー!」
ひたすら卑猥な言葉を書くものがいた。
そして丸一日かかって新聞を作り次の日の早朝、ゆっくり新聞の配達の日がきた。
*
「ゆっくりおきてね! ゆっくりしんぶんだよ!」
「ゆっくちちんぶんだよ!」
民家の前で家族揃って大声で叫ぶゆっくり。
程なくして住民が現れた。
「朝っぱらからうっせぇぞ! 饅頭共が何の用事だ!」
非常に機嫌の悪い男が出てきた。
早朝から不快な声で起こされ玄関に並ぶ気味悪い大小の饅頭家族が目に入ったのだ。
これで機嫌を悪くしないほうがどうかしてる。
しかしこのゆっくりの一家は全く空気が読めなかった。
「ゆゆっ! おじさん! まりさたちしんぶんをもってきたよ!」
「だからゆっくりたべものをちょうだいね!」
「ちょうらいね!」
まりさは頭の上に乗せた新聞と思われるものを男の前に差し出す。
子供たちはれいむに輪唱する形で食べ物を要求する。
「次大声出したらぶっ飛ばすぞ!」
男はゆっくりを無視しさっさと玄関を閉めてしまった。
「ゆゆぅ! どおしてうけとってくれないのおぉ!? れいむのあかちゃんもいっしょうけんめいかいたのにぃぃ!」
「きっとまりさたちのげいじゅつがわからなかったんだよ!」
「ゆゆっ! そうだね! おじさんはばかだからわからなかったんだね!」
「つぎのおうちでゆっくりたべものをもらおうね!」
今度はその隣の家の前に整列した。
「ゆっくりおきてね! ゆっくりしんぶんだよ!」
「ゆっくちちんぶんだよ!」
しばらくして中年の男が出てくる。
扉を半開きにしてゆっくりの様子を窺っているようだ。
「ゆっくりしんぶんだよ! ゆっくりよんでね!」
「よんだらたべものをちょうだいね! おかねでもいいよ!」
「おきゃねでもいいよ!」
まりさが玄関の男の前まで行き口で新聞を差し出す。
やっとこのゆっくりたちが何をしているのかを把握した男は無言でまりさを蹴り抜いた。
「ゆぶぅぅ!!」
「ま、まりざあああぁぁぁ!」
「おとおしゃぁぁん!」
まりさは木に強く叩きつけられ持ってた新聞は宙を舞った。
餡子を吐き出しながらビクビク痙攣している。
幸いにも命に別状は無いようだ。
「ゆぐぐうぅぅ! どぼぢでこんなごとずるのおおぉぉ!?」
「ゆっくちおとうしゃんにあやまっちぇね!」
「あやまれー!」
れいむと子供たちが男の入っていった家に抗議の声を上げる。
だがそれがいけなかった。
「うるせえっつたろうがこのクソ饅頭が!」
さっきの家の男である。
隣でも大声を出しているのを聞いてとんできたのだ。
男は手に持っている爆竹の束をゆっくりに投げつけた。
快音を立ててゆっくりの近くで爆竹が破裂する。
「あちゅいよ! ゆっくちやめちぇね!」
「ゆぎいいぃぃ!」
「いだい! ゆっくちできない!」
爆竹は殺傷力の低いものだったが貧弱なゆっくりには大ダメージだった。
「次はねぇぞ! いいな!」
男は爆竹でところどころ焦げたゆっくりを見ると再び家に帰っていった。
新聞は蹴られた時に遠くへ飛んだので幸いにも引火する事だけはなかった。
「ゆゆぅぅ……ここはゆっくりできないよ!」
「ほかのところでゆっくりしんぶんをくばろうね!」
「ゆゆっ! きっとこんどはたべものもらえるよ!」
まりさたちは体に負った火傷も気にせず、食べ物が貰えると信じてまた配達を始めた。
しかしその希望も空しくどこの家でも追い返されてしまった。
このままではいけないと作戦を練ったまりさたちは一旦子供たちだけで新聞を配達させる事にした。
「「「ゆっくちおきちぇね! ゆっくちちんぶんだよ!」」」
「あかちゃんたちだけならきっとうけとってくれるよ!」
「ゆゆっ! れいむのあかちゃんたちかわいいもんね! これならきっとせいこうするよ!」
子供だけならかわいさのあまり受け取ってくれるかもしれない。
自分たちなら絶対引っかかってしまうすばらしい作戦だ。
まりさとれいむは近くの木の陰に隠れて子供たちの様子を見ていた。
玄関では男と子供たちが会話しているようだ。
今まで会話すら出来なかったのだから大きな進歩だ。
やはり作戦に間違いは無かったのだと両親は思った。
「……これは何が書いてあるのかな?」
ゆっくりたちが書き殴った文字のような絵。
当然人間に読めるわけが無い。
新聞を配達し始めて初めて話を聞いてくれる人間の登場に子供たちが饒舌に説明しだす。
「これはにぇ、かっこいいおとおしゃん!」
「こっちはおかあしゃんでふたりはらぶらぶなんだよ!」
「それでにぇ、こっちはかわいいれいみゅたち!」
説明を聞いたが絵はさっぱり分からない。
果たしてこれを新聞と言ってもいいものなのか。
聞いた限りだとこれはただの絵だ。
興味本位で見てみたがどうみてもただの紙ゴミにしか見えない。
断ろうと思っていた男に驚くべき言葉が聞こえてきた。
「よんだらゆっくちたべものをちょうらいね!」
「おきゃねでもいいよ!」
「いちまんえんでもいいよ!」
どうやら新聞と引き換えに食べ物を貰おうという魂胆らしい。
しかも向こうの影でこっちの様子を窺っているゆっくりがいる。あれはこの子の両親だろう。
男はゆっくりが赤ちゃんをだしに食料を集めている事を把握した。
そしてその腐った根性に腹を立てた。
赤ちゃんを隠れる両親にも分かるように高々と摘み上げる。
「ゆゆっ!おしょらをとんでいるみたい♪」
「ああ、今飛ばしてやるよ」
そのままの体勢から赤ちゃんを傍にあった井戸に投げる。
両親が止めに行こう駆け出した時には既に遅く、赤ちゃんが発した着水音だけが響いてた。
「ま゛、まりざのあがぢゃんがあああぁぁ!!」
「れいむ゛のあがぢゃんがえじでええぇぇ!!」
「まりしゃのおねえちゃんがあああぁぁぁ!!」
「あの子みたいになりたくなかったら二度と来るなよ!」
男は音を立てて玄関の扉を閉めた。
まりさとれいむは急いで子供の落ちた井戸に駆け寄る。
井戸の縁に登って中を見ると蟻のように小さい子供が見えた。
「ぶぐぶぐ……しじゅんじゃうよ! ゆっくちたしゅけてね!」
子供は両親を信じて必死に助けを求めていた。
「おとおしゃんたしゅけてね!はやくたしゅけてね!」
しかし人間の作った井戸はゆっくりにとっては深く、降りたら最後だ。
「ごぼっどぼじてえぇぇ! なんでみんなみてるだけなおおぉぉごぼごぼ!」
普段なら助けてあげてと騒ぐゆっくりの姉妹もこの深さに黙り込んでしまった。
「もっどゆっぐぢ……しだがっだよ……」
子供の最後を見届け、れいむとまりさは悲しみに暮れながらその家を後にした。
そして悲しみに暮れたゆっくりは変貌した。
「れいむ! まりさいいことかんがえたよ!」
「どおしたのまりさ?」
「にんげんがしんぶんにきをひかれているうちにやっつければいいんだよ!」
「そうだね! れいむたちのしんぶんをりかいできないにんげんがわるいよね!」
「そーだ! そーだ!」
「まりしゃはちゅよいもんね!」
ただの強盗に成り下がっていた。
だがこのゆっくりたちは非常に運が悪かった。
普通の人間に当たっても結末は変わらないのによりによって一番当たってはいけない人間に当たってしまった。
「ゆっくりしんぶんだよ! ゆっくりよんでね!」
「よんじぇね!」
まりさたちは他の家よりも少し大きくて豪華な屋敷の前にいた。
どうせ狙うのならお金持ちの家がいいと判断した結果だ。
しばらくすると家の中から女の子がでてきた。
頭に飾った綺麗な花と黄緑と黄色と赤のカラフルな着物が印象的なかわいい女の子だ。
(「ゆゆっ! よわそうなにんげんだよ!」)
(「これなららくしょうだね!」)
まりさとれいむは目を合わせニヤリと笑う。
「まあ、こんな朝早くから何の御用かしら?」
女の子は他の人間とは違い早朝に押しかけたゆっくりに対してとても礼儀正しかった。
まりさは新聞を口で差し出す。
「ゆっくりしんぶんだよ!」
「へぇ! 新聞を書いたんですか? どれどれ……」
そして女の子が新聞を手に取った瞬間、
「ゆっくりしね!」
隣にいたれいむが女の子に襲いかかる……がその言葉がれいむの最後の言葉になってしまった。
襲い掛かったれいむに女の子の手が貫通していた。
れいむは口をぱくぱくさせるがそれはもはや声にならなかった。
想定外の事に残ったゆっくりも悲鳴を上げるだけだった。
「れいむがあああぁぁぁ!!」
「おかあしゃああん!!」
「へんじしてええぇ!!」
騒ぐゆっくりをよそに女の子はれいむから腕を引き抜くと瞬く間に子供たちを捕らえた。
今、彼女の広げられた左右の手の指と指の間には子供たちが全員、合計で八匹挟まれている。
その一連の動きは非常に洗練されていて、とても普通の少女が成せる動きとは思えなかった。
「ゆゆっ! ゆっくちはなしちぇね!」
「くるしいよぉぉ!」
「おとうおしゃぁぁん!」
「ふふっ、早起きは三文の得と言いますけれどもまさか本当に得になるとは……私も驚きです」
女の子は指に挟まれた赤ちゃんゆっくりを観察する。
「あら? よく見たらところどころ焦げてるわね……なかなかのセンスね」
火傷を見て何かを把握したかのように女の子は頷いていた。
まりさはあの手馴れた赤ちゃんゆっくりの捕獲を見て思った。勝てる相手ではないと。
こうなるとその後の行動は早かった。
「ゆゆっ! ずらかるんだぜ!」
「どぼじでみずでるのおおぉぉ!?」
「おとおしゃんだずげでええぇぇ!」
「うらぎりも゛のおおぉぉぉぉぉ!」
まりさは子供たちの助けを無視し逃走してしまった。
「あらら……ここに玄翁があれば始末できたのに残念……まいっか、今日はこの赤ちゃんで楽しみましょう♪」
「ゆゆぅぅぅ! たしゅけてぇぇぇ!」
「いやあぁぁぁ! だれかあぁぁぁ!」
女の子は「稗田」と書かれた表札の付いた屋敷の中へ戻った。
連れて行かれた赤ちゃんゆっくりがどうなったかは誰も知らない。
*
その日の夕方。
朝出発してなかなか戻ってこないゆっくりたちに留守番していたぱちゅりーは不安になっていた。
秋の天気は崩れやすく黒い雲が空を覆い、強い風が周りの木をギリギリと軋ませている。
「むっきゅ~ん……みんなどうしたのかしら?」
そこへ瞳を涙でぬらしたありすが帰ってきた。
ただならぬ事態にぱちゅりーが動揺する。
「むきゅう! ありすどうしたの? なんでないてるの?」
「かわいいあかちゃんがみんないけにしずめられちゃったああぁぁ! ありすはとかいはのしんぶんをくばっていただけなのにいいぃぃ!」
ありすを宥めていると続々とぼろぼろになったゆっくりたちが帰ってきた。
それぞれ配達先でひどいことをされたというのが見てわかる。
ぱちゅりーは他のゆっくりたちにも話を聞いた。
そして冬篭りの食料を集めるどころか多くの仲間を失う結果となったことを知った。
子供たちを見捨てたまりさもようやく帰ってきた。
「……た、ただいまなんだぜ」
「まりさ! あなたのかぞくはどうしたの?」
「まりさはすきをついてにげたけどれいむとあかちゃんは……」
「それいじょういわなくてもいいわ! つらかったわね……」
「ううっ、ぱちゅりーはやさしいんだぜ……」
ぱちゅりーに頬を擦り付けられるまりさ。
家族を失った悲しさなどここに帰ってくるまでにどうでもよくなっていたがぱちゅりーの肌が心地よくて悲しんだ振りをしていた。
そしてれいむがいなくなった代わりにぱちゅりーと結婚しようとなどと考えていた。
ぱちゅりーの肌を堪能していたまりさだがその帰宅に気付いたゆっくりたちがぞろぞろと詰め寄ってきた。
「もとはといえばまりさがしんぶんをつくろうっていったのがいけなかったのよ!」
「そうだねー! まりさのせいだよー!」
「おかあさんをかえせ!」
「ちんぽー! ちんぽー!」
ゆっくりたちが怒りの表情でまりさを責める。
まりさ種に優しいありす種でさえ怒っている。
雲行きのよくない状況を見たぱちゅりーが間に割って入る。
「むきゅー! まりさもかぞくをうしなってかなしんでるのよ! せめるなんてひどいわよ!」
「そうだぜ! まりさはひがいしゃなんだぜ! やさしくしてほしいんだぜ!」
まりさもいつも通り自分は悪くないと言い張る。
そんな陳腐な言い訳も今のゆっくりには火に油を注ぐだけだった。
「ぜんぶまりさのせいよ! まりさのせいでありすのかわいいあかちゃんはしんだのよ!」
「ぱちゅりー! どくんだよー! まりさはここにいちゃいけないゆっくりなんだよー!」
「おかあさんのかたきいぃぃ!」
「ちんぽー!」
ぱちゅりーの必死の静止も聞かず大人から赤ちゃんまでみんなでまりさに襲い掛かる。
「やめるんだぜ! いだいんだぜ! はなずんだぜ!」
「ゆっぐりじね! ゆっぐりじね!」
「わかるよー! まりさのようなやつがいるからせんそうがおわらないんだよー!」
「くるしんでしね!」
「ちんぽー!」
運動神経が高いまりさ種だがこの人数差ではなす術もなかった。
自慢の帽子は破れ、頬も食い破られ餡子が漏れ出している。
それでもゆっくりたちはまりさを攻撃するのをやめない。
「だれかああぁ! けんかをとめてぇぇ! まりさがしんじゃうううぅぅ!」
ぱちゅりーの叫びが巣の中を木霊する。
願いが届いたのか一人の少女が巣の前に現れた。
「あやや、やっと見つけましたよ! 貴方たちが新聞を配ってたゆっくりですね? 取材を伺いに来ました射命丸文です。どうぞよろしく」
いつもの営業スマイルをゆっくりにも向ける文。
ゆっくりたちもまりさへの攻撃を止め視線を射命丸へと移す。
ぼろ布になったまりさにもその姿が目に映る。
あの時縁の下で見た光景が、みんなで楽しく新聞を作る光景がまりさの頭の中にフラッシュバックする。
「お……おまえさえいなければ……まりさは……」
まりさがずるずると這いながら文に近づく。
「あやや!? どうしたんですか? このゆっくりボロボロじゃないですか?」
「おまえさえ……いなければっ!」
自分の方を激しい憎悪を込めた瞳で睨むまりさに文は疑問符を浮かべる。
面識の無い他のゆっくりはまりさが何故文を睨んでいるのかがわからない。
「あの……私、何か粗相をしましたでしょうか?」
「まりさはわるくない! おまえのせいでこうなったんだ! ゆっくりしね!」
まりさは質問に答えず文の足首に噛み付いた。しかし相手が人間ならいざ知らず、人間を遥かに越える鴉天狗である。
渾身の力を込めた噛み付きも文の白く細い足に傷一つ負わせる事ができなかった。
「……椛」
「はい、先輩!」
文の合図に草むらに隠れていた椛が写真機のシャッターを切る。
「今の光景を写真に撮りました。今度の新聞にあなた方が非常に危険で排除するべき存在であることを写真付きで掲載させて頂きます。取材ご協力ありがとうございました」
まりさに噛み付かれながらも笑顔を崩すことなくゆっくりにお辞儀をする文。
その笑顔に見る見るうちにゆっくりたちの顔が青ざめていく。
「むきゅううぅぅぅ! それだけはやめてぇぇぇ!」
「やめてよー! ゆっくりできなくなるよー!」
「おねえさんおねがいいぃぃ!」
「私のモットーは『清く、正しく』ですのでありのままをみなさんに伝えるだけです。それでは」
文は飛び立とうとしてまだ足に噛み付いているまりさに気がついた。
「……そしてこれは正当防衛です」
腰に挿していた団扇を一振りすると目の前に巨大な竜巻が現れた。
竜巻はその場にいた全てのゆっくりを巻き込み、巣を削り壊し、草を刈り取り、木をなぎ倒し、岩を跳ね飛ばした。
「せんぱーい、少しやりすぎじゃないですか?」
先を飛ぶ文に山から伸びる一本の竜巻を見ながら椛が問う。
「新聞記者に危害を加えてきたんだから当然です……あ、田中のお爺さんからおはぎを貰ってるんで夕飯後に一緒に頂きましょう♪」
「……はーい♪」
椛はこの人だけは敵にまわさないでおこうと決心するのであった。
*
まりさは水滴の滴りで意識を取り戻した。
正確には雨が降り出していた。
ボロボロになった体を起こし周りを見渡す。
そこにはまりさの家も草も木も岩もなく、小石と抉れた大地だけが広がっていた。
「ゆうううぅぅ!? みんなどこ? おうちは? ぱちゅりーは!?」
まりさは体を引きずりながら仲間を探す。
帽子を失い、頭に雨が降ってくるのも構わなかった。
しばらくして折れた木の前に髪飾りが集められている場所を見つけた。
そしてそこにぱちゅりーがいた。
「ゆゆぅ! ぱちゅりー! いきてたんだね!」
「……」
「みんなしんだかとおもったよ! でもよかったよぱちゅりーだけでもいきてて!」
「……」
「ねぇ、ぱちゅりー! いきなりだけどまりさとけっこんしてほしいんだぜ!」
「……」
「みんなしんじゃったけどまりさといっぱいすっきりしてあかちゃんつくってまたたのしくやっていこうだぜ!」
「……」
「ぱちゅりーきいてる?」
呼びかけても反応の無いのでまりさが覗き込もうとした瞬間ぱちゅりーは振り返った。
ぱちゅりーの口には尖った枝が咥えられていた。
とっさの出来事に避ける事ができず腹を貫かれる。
まりさは目の前の現実が信じられないといった顔でぱちゅりーを見た。
「ゆ゛ぐっ……どぼじで……」
「まりさの……まりさのせいでれいむもありすもちぇんもみょんも……みんなしんだのよ! なんでまりさだけいきてるのよ!」
枝が引き抜かれそしてもう一度まりさに刺さる。
「ゆ゛っ……ぱ、ぱちゅり……や゛めで……」
「きやすくなまえをよぶな!しねっ! ゆっくりしねっ! このやくびょうがみ! ごみくず!」
もう一度まりさに刺さる。
「ゆ゛っ……ゆ゛ぶっ……」
もう一度。
「ゆ゛っ……」
ぱちゅりーは自分の体が雨で溶けて動かなくなるまで何度もまりさを刺し続けた。
後日、『文々。新聞』にゆっくりが非常に危険な生物であると書かれ、人々がゆっくりを殲滅していくことになるのだがそれはまた別のお話。
―ゆっくり新聞―おしまい
<あとがき>
かぶってしもた上にかなり遅れた/(^o^)\ナンテコッタイ
『文々。新聞』って幻想郷の人里の人間から見ればすごく面白いものだと思うんだけどどうなんだろ?
求聞史紀見てもカフェーで人気程度しか書いてなくてわかんね。
あとこんなかわいい子が配達してくれるなら文自身にもかなりファンが多いと思う。
そんなことを妄想しながら書いた。
(積み重なる黒歴史)
最終更新:2022年05月04日 22:43