「ゆっくりありがとう!」
「これはおれいだよ!ゆっくりもっていってね!」
「またゆっくりしようね!うーぱっく!」

「うー!うー!」

赤みが混じり始めた陽の光が照らす湖畔の草原、そこからダンボール状の物体が上昇していく。
よく目を凝らせばダンボールが飛び立った場所に妙な装飾を施された饅頭が転がっているのが分かる。

ゆっくりれいむやゆっくりまりさ、ゆっくりみょんがうーぱっくにここまで運んで貰ったのだ。
にこやかな顔でうーぱっくからおりてきたゆっくり達は、スリリングな空の旅のお礼として相場よりも多目の果物をうーぱっくの中に残していた。

「うー!?うー!!うー!!」

「たのしかったからいいんだみょん!」
「ゆっくりもっていってね!」

「うー!」

予想以上の報酬を得たうーぱっくは満面の笑顔で湖の彼方へと飛び去っていく。
ゆっくり達はしばしの間、湖のほうを向いてうーぱっくを見送り、ゆっくりの貧弱な視力で追えなくなってから仲間の方へ互いに向き合った。

「もうおそいからゆっくりかえろうね!」
「そうだね!」

「ゆっくりたのしかったね!」
「むこうのどすはりっぱだったみょん!」
「まりさたちもあんなりーだーがほしいね!」
「ねー!」

一月に一回、会うことができれば良いといえるほど離れた場所に住む群れへと行ってきたゆっくり達は、次はいつ会えるかどうか分からない同種と思い切りゆっくりしてきたことを思い出して興奮していた。
そんな状態のゆっくり達は移動するには過剰なほど飛び跳ねながら森の奥へと消えていった。
家族や友人、仲間の待つ巣で長旅の疲れを癒し、「どす」から貰ったお土産を披露するのだろう。




 そんな幸せそうに去るゆっくり達を見つめる瞳が茂みの中にふたつ。
ゆっくり達の姿が消えて暫くすると、そこの茂みがガサリと揺れた。

お約束のパターンで出てきたのは──「ゆっくりしていってね!」──ゆっくりまりさだった。

誰に宛てたか分からない独り言のような挨拶を放つという奇怪な芸当を見せたまりさは、先ほどの同種たちが消えた先を暫く見つめ、続いて湖の彼方に顔を向ける。
うーぱっくが飛び去った方向、当然だが明るい茶色の箱はとっくの昔に視認できなくなっている。
それでもまりさは湖の向こうを見続けた。

突然、まりさ以外のゆっくりが存在しない草原に妙な音が響き渡る。
まりさはおなかを空かせていた。
今日の狩に失敗したまりさは朝から何も食べていないから当然だ。

なるべくエネルギー消費を減らすため、茂みの中でゆっくりと昼寝をしていたまりさは、がやがやと騒がしい同種の声を聞き、食べ物を分けてもらえないだろうかと起きた。
しかし、まりさ種にしては引っ込み思案気味な彼女は結局巣に帰る仲間を見送るだけで動けなかった。
「ゆっくりながめたけっかがこれだよ!」といったところだろうか。

空腹のためにぼんやりとした表情で暫く黄昏ていたまりさ。
そのまま永遠にゆっくりするのかという勢いであったが、太陽が西の山の頂と重なり始めたとき、急に伸び上がり、次いで大声を上げた。

「そうだ!まりさもゆっくりをはこべばたべものがもらえるよ!」

祖先に多くのぱちゅりー種を持つ彼女はまりさ種の平均よりも身体能力が低めの代償として、まりさ種ではあり得ないほどの(一部のぱちゅりー種すら凌駕する)知性を持っていた。
その知性がまりさに自身の能力を生かして食料を得る方法をもたらしたのだ。
まりさは「水上を移動できるというまりさ種の能力でゆっくりを運び、報酬を貰う」という事を思いついたのだった。


思わぬ思い付きにはしゃぎ回ったまりさはもうすぐ日が落ちることにハッと気づき、慌てて巣へと帰っていった。






 それから、まりさの困難と挑戦の日々が始まった。
自身の帽子には当然ながら自身しか乗れない。
自身が乗らなければ他のゆっくりを運ぶことなど不可能。
ゆえに、他のゆっくりを乗せるためのイカダが必要だった。

まりさが所属する群れのリーダーである通常サイズのゆっくりはまりさに協力してくれたが、それでもイカダの開発は困難を伴う物だった。




 最初に提案されたのは板切れを利用する方法だった。
ゆっくりですら木が水に浮くことは知っていたからだ。
幸いにもリーダーの巣に補強財として人里のゴミ捨て場から調達された板切れが置いてあった為、それを流用することとなった。

結果から言うと散々な物だった。
チビゆっくりや子ゆっくりが乗る分には何の問題も無かったが、親ゆっくりが飛び乗った瞬間、当然というべきか板切れは思い切りひっくり返り、ゆっくりれいむの一家は哀れ水底へとまっしぐらに沈んでいったのだった。

この「不幸な事故」に、群れのゆっくり達は1日中泣き通した。




 次に提案されたのはもう少し上等な方法で、オオオニバスの葉に乗るというものだった。
その葉を小さい頃に飛び石として池を渡ったことがあるゆっくりが提案した方法だ。
成体でも乗れるかどうか確かめるため、ゆっくりの群れはガヤガヤと騒ぎながらオオオニバスの群生地へと移動した。

結果は前回よりはマシなだけだった。
目の前でゆっくりれいむが急速に沈むのを見ていたゆっくりみょんは、そろりそろりと慎重に葉の上へと体を移した。
ゆっくりみょんが完全に葉の上に乗った瞬間には歓声があがった。
暫くはそうやって騒いでいたのだが、皆あることに気がつき始めた。

──どうやってみずうみまでもっていくんだろう…?

何とか移動させようと5匹のまりさが帽子に乗った状態で葉を引っ張ったり押したりしたが、ある程度は動くものの、ある程度以上には何かに引っ張られて動かないという事が分かっただけだった。
水面より上ではどこにも繋がってない様に見える以上、水中で繋がっているというのはゆっくりでも分かる。
問題は水中に潜れないゆっくりがどうやって切り離すかということだった。

結局、どうしようもないという事になってこの案は廃された。




 3つ目に提案された「死んだゆっくりまりさの帽子を使う」というのはハナからダメだった。
まりさ種を殺して帽子を奪うなど論外であったし、寿命などで普通に死んだまりさの物にしても家族が許さないからだ。






 「イカダ」の件が解決を見ないまま1週間が過ぎ、餡子脳の限界をゆっくりと感じ始めた頃に一つの光明がもたらされた。

何か使える物はないかと足しげく人里のゴミ捨て場に通ったまりさの努力は報われた。
ゆっくりがこんな所で何を探しているのだろうかという人間の視線を背に受けたまりさが発見した物体。

「これならのれそうだよ!」
「ゆっくりもっていこうね!」

それは薄汚れた白い箱、大きさの割にやたらと軽く、ゆっくりまりさでも運べそうな程だ。
3つ以上の数を数えられないゆっくりの感覚で、大量に捨てられていたそれを早速運び出す。
4匹で来ていたまりさ達は、その物体に都合よく取り付けられていた紐を加えて引きずる様に持ち去っていった。

その様子を偶然眺めていた人間は、妙なことをするゆっくりだ、と疑問を覚えたがしかし、いらない物を持っていくのに文句など無くすぐにその事を忘れた。

その白い箱は偶然に外界から入ってきた発泡スチロールの箱だった、まりさが知る由も無かったが。






 通常サイズの成体ゆっくりがぎゅう詰めで8体も乗れる(2x4で長方形に乗る)その白い箱。
それを利用したゆっくりまりさによる水上輸送は直ちに開始された。

初期こそ速達性と利便性で勝るうーぱっくの輸送よりも不便だと見られていたが、一度に大量のゆっくりを運ぶことができると知られてからは、湖の対岸同士や湖の中に浮かぶ小島への輸送に大活躍し始めた。
何せまりさが箱を1つ引っ張ると、うーぱっく4匹と同じだけ運べるのだ。
家族毎や群れ毎といった移動手段として重宝された。

運ぶ量が多いために報酬の野菜や果物、木の実といった食べ物を大量に獲得でき、まりさたちの群れはこの世の春を謳歌していた。

まりさがこの水上輸送を思いついてから1月が経った頃には、箱を前から引っ張ってゆっくりと岸を離れるまりさや、逆に後ろから引っ張ってゆっくりと減速しつつ岸へ近づくまりさを、湖のあちこちで見ることができるようになっていた。


それだけ目立つ状況こそが不運を呼んだ、後にそう語られている。






 湖の近くに住む妖精の間で一時期流行っていた遊びがある。
ゆっくりを湖へ放り投げて飛距離を競うという物である。
気まぐれな妖精の間にあって比較的長続きした方に入るのだが、それでも何時しか誰もやらなくなっていたその遊び。
まったく珍しい事に、それが最近また流行り始めたのである。
形こそ少々変わっていたが、紛れも無くゆっくりを投げるあの遊びであった。
飛距離は重要であるものの競う対象とはならなくなった点を、少々と表現するかは人それぞれだが。


「ようせいだああぁーーー!」
「みんな!ゆっくりすばやくのってね!すぐにしゅっぱつするよ!」

森のほうを見ていたゆっくりれいむが悲鳴のような声を上げた直後、船着場となっている岸に集まったゆっくり達の動きが慌しくなる。
乗船客のゆっくりは慌てて白い箱に乗り込みだす。

「おさないでね!ゆっくりしてね!」
「ここはもうのれないよ!べつのにのってね!」
「れいむものせてね!ゆっくりさせてね!」
「なんて゛のせ゛て゛く゛れないの゛おお゛ぉ゛ぉ゛!!??」

あちこちでゆっくりの叫び声があがり始めた。
混乱気味なほど慌てた1匹のれいむが箱に乗り込もうと思い切り飛び上がったときに悲劇は起きた。
れいむが着地点を見極めきれず、箱の縁に直撃した結果、箱がぶおんとひっくり返ったのだ、既に乗っていたぱちゅりー種ごと。
いつぞやもあった様な光景だが、半月以上前の出来事などゆっくりの餡子脳では教訓にはできる訳が無かった。
2匹のゆっくりが水中に叩き込まれ、衝撃でバラバラになりつつ溶け出したが、周りの慌しさはそんな不幸な出来事すら気にせず進行していく。

白い箱の後ろにゆっくりまりさが2匹付き、思い切り押していく。
加速を少しでも良くしようという涙ぐましい努力だ。

結局、幸いというべきか先ほどの2匹の被害だけで残り39匹となったゆっくり達は出発できた。
出発できたからといっても、これで不幸が終わったわけではなかったが。




 先ほどまでゆっくりでごった返していた岸辺には白い山が出来ていた。
妖精たちがどこかで捕獲し、持ってきたゆっくりを氷精が凍結したのだ。

「ざっとこんなもんよ!」
「チルノちゃん、ありがとう!」
「お疲れ様、チルノちゃん。」

ゆっくり十数匹を高速で凍結したチルノに、緑髪の妖精や他の妖精たちが声を掛ける。
彼女の冷気を操る程度の能力は大活躍だ。
妖精たちや特に仲の良い大妖精から言葉を掛けてもらうチルノは満更でもない様子だ。
チルノは賞賛を浴び、気分が良くなったところでゆっくりの山から凍結したゆっくりを引っ張り出す。

「アタイから投げるよ!」
「チルノちゃん!頑張ってね!」
「いきなり当てないでね!」

ゆっくりを凍結させた対価として初めに投げる権利を得たチルノは、カチコチのゆっくりれいむを持って振りかぶる。
必死の様子で遠ざかっていく水上のゆっくりまりさに狙いを付け、全力で放つ!


「ゆう゛う゛ぅっ!き゛た゛よお゛ぉっ!!」
「はやくすすんでね!はやくすすんでね!」
「ゆっく゛りし゛ないて゛ええぇぇぇ!」

箱に乗っているゆっくりが高速で飛来する白い塊を見て悲鳴を上げた。
一方狙われている事をここ数日の経験から分かっているまりさ達は、何とか移動速度を上げようと四苦八苦する。

ゆっくりれいむは白く輝く氷の結晶を彗星の尾のように残しながら湖上を飛翔、ゆっくりが乗せられた箱を必死に押しているゆっくりまりさ、その後方に着水した。


人間の子供の背丈ほどの高さがある水柱が轟音を上げてそそり立つ。

「あーっ、外れたぁ!」

餡子が欠片も混じっていないきれいな水の柱を見たチルノは、自分の投てきが外れたことを知って悔しがる。

「次は絶対当ててやるんだから!」

「次は私だね!」

チルノは大妖精に慰められながら下がり、凍ったゆっくりちぇんを持った別の妖精が出てきた。


「また゛き゛た゛よ゛お゛お゛おぉぉっ!?」
「は゛やく゛おし゛て゛え゛え゛ぇ゛ぇぇっ!」
「うし゛ろのまりさ゛はは゛らは゛らににけ゛て゛ねええぇっ!」

再び水上を飛んでくる氷塊にゆっくりは悲鳴を上げる。

「まりさはこっちにいくよ!」
「こっちがねらわれてないんだぜ!」
「おいて゛か゛ないて゛え゛え゛ぇぇ!!」

後ろで箱を押していたゆっくりまりさ達は、もう箱は十分早くなったという事で散開。
バラバラに分かれて対岸を目指し逃走を開始する。
その瞬間、不運なまりさが氷塊の餌食になった。

「け゛ひ゛ゅっ゛!?」

氷塊はまりさの体組織を粉砕するほどの威力は無かったが、表皮に穴を開ける程度の運動エネルギーは持っていた。
氷塊がまりさの後頭部に命中した瞬間、まりさの表皮が弾ける様に破れ、そこから餡子が撒き散らされる。
体中の餡子を氷の命中により凄まじくシェイクされたまりさは一瞬で意識を失った。
運動エネルギーを受けてまりさの体は勢いよく前方へ傾斜し、顔面が水面に叩きつけられた。
まりさに当たったことにより運動方向を変えられ、放物線を描いた氷塊が水面に落ちると同時に、ゆっくりまりさだった物体から茶色の液体が滲み出してきた。

岸のほうが騒がしくなる。
命中を確認した妖精達が歓声をあげているのだ。


さらに3個の氷塊が等間隔で投げられ、2個はむなしく水柱を立てるもののさらに1匹のゆっくりまりさを沈めた。


もっとも酷かったのは距離的に最後となるチルノが投げた氷塊がもたらした惨劇だった。
リヴェンジを誓う彼女が投げた剛速球は、箱の後部に命中。
発泡スチロールの脆い背面を粉砕して大穴を作った後、その背面のすぐ前方に居たゆっくりれいむの体を貫いた後に、箱の底面を叩き割って湖底へと消えていった。
雪のように小さくなった発泡スチロール片がれいむの餡子と共に他のゆっくりに降り注ぐ。

「て゛、て゛いふ゛う゛う゛ぅぅぅ!」
「みす゛か゛は゛いって゛く゛るよお゛おぉ゛ぉぉ!?」
「と゛け゛ち゛ゃう、と゛け゛ち゛ゃうよ!」
「い゛やた゛あああぁ!ゆっく゛りし゛た゛いいいぃ!!」

発泡スチロール製の箱は例え浸水しても、8匹のゆっくりを支える程度の浮力は持っていたが、浸水によりゆっくりが解けてしまっては浮いていても意味が無かった。
少しでも水の無い場所に行こうとゆっくりが醜いもみ合いを始める。

「ゆっ!そこはれいむのばしょだよ!ゆっくりどいてね!」
「れいむがどくんだみょん!」

底面のど真ん中に開いた穴からなるべく離れようとゆっくり達が動いた結果、箱の外周部分にのみ体重が掛かることになった。
穴が開いているために力を分散できず、箱のあちこちに無理な力が掛かってゆっくりとたわんでいく。
ミシミシと音がしたと思った次の瞬間に箱は真っ二つに折れた。

「ゆ゛ふ゛っ゛!!」
「み゛ょん!」
「け゛は゛っ!?」

そんな状態の箱にゆっくりが乗っていられるはずも無く、全て着水した。

「こ゛ほ゛ほ゛ほ゛ほ゛ほ゛ほ゛ほ゛っほ゛!!!!??」
「ひ゛やた゛ぁ゛ぁ!!と゛け゛た゛く゛な゛いぃ!」
「は゛か゛らは゛い゛よ゛ほ゛ほ゛ほ゛ほ゛!!」

水面に落ちたゆっくり達は暫くの間もがいていたが、すぐに1匹ずつ力尽きては周囲に中身を出しつつ沈んでいった。


ゆっくり達が妖精の射程から逃れるまでに箱3つのうち1つと12匹のゆっくりが犠牲になった。
出発した岸から目的の対岸までちょうど半分の行程に差し掛かろうというゆっくりは27匹に減っていた。

行程はまだ半分も残っていた。つまり、苦難も妖精によるものと同程度のがあと一回ある訳で…




 ゆっくりが仲間を失った悲しみから立ち直り、目的地をまっしぐらに目指すようになったとき、最後の苦難が始まった。
引いていた箱がバラバラになった為、手持ち無沙汰だったゆっくりまりさが急に悲鳴を上げ、「と゛け゛る゛う゛う゛ぅぅぅ…」、と言いながら沈んでいったのだ。

「は゛りさ゛っ!と゛ほ゛ち゛て゛え゛ぇ゛ぇっ゛!?」
「なに!?なんなの!?」
「わからないよー!」
「ゆっく゛りし゛た゛いよぉぉぉ!」

今までこの苦難を突破したゆっくりはいない為、何が起こったか誰も分からない。


「ゆ゛ひ゛ゅっ!いた゛いよ゛お゛ぉっ!」

箱の周囲から1匹だけ離れて進んでいたまりさが痛みを訴える。
次の瞬間、まりさの体が急速に下がっていき、帽子に水が流れ込む。

「た゛す゛け゛へ゛!ほ゛へ゛ち゛ゃうよお゛おぉぉっ゛!!」

先ほどのまりさと同じようにこのまりさも進路を湖底へと変更し、沈んでいった。
水中に意識が向いていないゆっくりには、何故まりさが沈んだか分からない。

「い゛やあ゛あ゛ぁぁぁぁ!」
「お゛う゛ち゛か゛え゛る゛うぅぅぅ!」
「れ゛い゛む゛う゛ううっ゛!」

箱を牽引していたまりさはとうとう職務を放り出し、他のまりさと一緒になって四方八方へと逃げ出し始めた。
オール代わりの枝を、漕ぐというよりメチャメチャに振り回すと言った方が妥当な動きで、操作しながら進んでいく。。
しかしその努力は実らず、まりさは1匹また1匹と悲鳴を上げながら沈んでいく。


「なんて゛まりさ゛か゛いな゛いのおお゛ぉ!」
「これし゛ゃうこ゛け゛ないよ゛おお゛ぉぉぉ!」
「た゛れか゛た゛す゛け゛て゛ね゛え゛えぇぇっ゛!」

放り出された箱はしばらくは慣性により前進していたが、水の抵抗によりすぐに速度が失われる。
あっという間に湖面を漂うだけの物体に成り下がった。
それに乗るゆっくりは流石にまりさがいなければ脱出不可能ということは分かっており、悲鳴を上げ助けを求めた。
全く無駄な行為だったが。






 ゆっくり達の目的地の岸には先ほどの妖精と同じような体格の生き物が集まっていた。
先ほどと違う点を上げるとすれば、その生き物は人間の子供──少年であるという点だろうか。
少年たちの視線の先では、最後のゆっくりまりさの帽子が今まさに水面に隠れようとしていた。
帽子の先端はあっという間に水面下へ消え、僅かに出るアブクが生き物が沈んだことを示していた。

細長い銀の棒が生えた直方体を握る少年が歓声を上げる。

「やった!最後のヤツが沈んだ!」
「お、凄いな。ヨシちゃん、箱のほうも狙える?」

ヨシと呼ばれた少年に工具箱を持った少年が問いかける。
ヨシは直方体を握ったままブツブツと暗算をする。

「うーん、ちょっと分かんないなぁ。ノリ、何匹沈めたか覚えてる?」
「7匹だよ、全部ゆっくりまりさ。」

双眼鏡で湖面に浮かぶ箱のほうを見ていたノリは、ヨシが突然聞いてきた事にも慌てず答える。
それを聞いたヨシは再び暗算。

たしか10本積めて、1匹に1本使ったから…10ひく7で…

「ってことはあと三本か。正吉、かたっぽだけならやれるよ。」
「じゃー沈めちゃおうよ。」
「りょーかい。」

ヨシは直方体──何かを電波で操縦する機械のようだ──を再び操りだす。
双眼鏡を構えたノリは、その視界の中央にぼんやりとうつる水滴のような形をした物体をみては、ヨシちゃん右だ!、だとか、もうちょい左!、などと声を上げる。

草の上に座り込んだ正吉はいつの間にか取り出した単眼鏡を調節。
正吉は工具に用が無い今の状況では酷く暇だからだ。

「ヨシちゃん!真正面!今だ!」
「りょーかい!一番から三番、一斉発射!」

ノリが出した合図にあわせ、ヨシは操縦機械のボタンのうち1から3の数字が書かれたものを勢い良く押した。

湖面の上で騒ぐゆっくり達の手前で僅かに気泡が発生した。




 ゆっくりれいむが“それ”に気が付いたのは全くの偶然だった。
さんざん声を上げて助けを求め、流石に疲れてきた為にうなだれるように下を向いたのが原因だ。
“それ”は水面の下を滑るように向かってきた。

「ゆっ!みんな!なにかくるよ!」
「なんなの?!たすけてくれるの?」
「ゆっくりしたいよ!」

れいむの方を向ける体勢のゆっくりが一斉にれいむの視線の先を注視する。
そこには細長い筒のような物体が3つ、横に並んでいる。
れいむ達に分かるはずも無かったが、“それ”はラジコン潜水艦から発射された魚雷だった。
“それ”はまっしぐらにれいむたちの乗る箱へと突き進んでいた。

れいむは、なんなんだろうね?、と疑問を発しようとした瞬間、轟音と共に自分の体が浮き上がった感覚をおぼえた。

──わぁい、おそらをとん────。




 水面が針山のようにささくれ立つ。
爆発により吹き飛ばされた水が無数の水滴となって落ちてきたからだ。
その針山の中に時々茶色の柱が現れる。
爆発により吹き飛ばされたゆっくりが水面と激突した衝撃で粉々になり、水と混ざりながらそれでも周りの水を押しのけ、逃げ場の無い餡子水が上空へと飛び出したからだ。

あっというまに針山は消え去り、元の静寂な水面が戻る。
最後の箱に乗っているゆっくりたちは騒ぐことすらしない。

木っ端微塵になった箱があった場所に浮いているのは、粉々の発泡スチロール片と、バラバラになったゆっくりの装飾だった。




 ゆっくりが満載の箱が木っ端微塵になるのは少年の方でも確認できていた。

「うおお!バラバラになった!」
「三本も使うとすっげえな。」

あまりに派手な爆発だった為に歓声は意外にも小さな物だった。
ヨシが何かを思い出したようにノリへ聞く。

「あれって何匹乗ってた?」
「うーん、確か10匹。」

あっというまにスコアが二倍になった事を聞いたヨシは、今日は向こうの妖精に勝ったな!早く自慢してやろうぜ!、と言い操縦機械のレバーを操作する。

17匹のゆっくりを湖の藻屑と変えた物体──ラジコン潜水艦を回収するために岸へと変針させたのだ。




 やがて岸にたどり着いた涙滴型潜水艦を模したそれを回収した少年達は、どこか壊れていないか工具で点検した後に岸を去っていった。

湖面には騒ぎ疲れたゆっくり10匹の乗る箱が未だに残っていた。






 湖面に放置された箱が対岸に到着したのは次の日の朝だった。
朝一番に水上輸送を行う為、昨日少年達がいた岸にやってきたゆっくりまりさが漂流している箱を発見したときには、乗っているゆっくりの半数が餓死していた。

少年達が妖精にスコアを散々自慢して里に帰った。
そこまでは良かったが、火薬入りの魚雷で遊んだ事が親に発覚して大目玉を喰らった挙句、子供だけでラジコン遊びをするのは禁止された。
もっとも、暇な虐待お兄さんが休みの時には相変わらずゆっくりを沈めることができたのだが。






 ゆっくりまりさの水上輸送は全盛期を迎えてから半月足らずで窮地に追い込まれた。
その後、うーぱっくの空中輸送も猟銃等であっさり撃墜されるようになってからは、里の周囲では見られなくなった。

ゆっくりが何かを思いついてもロクな事にならないのは世の摂理なのだろうか。



人様のSSの設定パクりすぎ\(^o^)/

by sdkfz251

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最終更新:2022年05月18日 20:53