丘の上に花畑がある 赤、青、黄、紫、白 兎も角様々な花が咲き乱れる
丘の上からは大きく開いた海が見える 水平線まで広がる青い青い海
その花畑の丘の下にある小さな村 村には50人ほどの人々が居て、裕福では無いが楽しい暮らしがそこにはあった
その花畑に毎日祈りを捧げる青年が居た この花畑はただの花畑では無い
この村の周辺や、この小さな村で無くなった人々がこの花畑の下には埋められている
この花達は死者の肉体に生を貰いうけ、花は育っているのだ
野生の熊に襲われて亡くなったもの 崖から落ちてなくなったもの 病で亡くなったもの 最後まで人生を歩み、力尽きたもの
ここに死体を埋めてくれというものは少なくない だからこの花畑はそれなりの広さになっている
もちろん、そんなことをしては死体に虫も沸く 臭いが風に流れて村が死臭だらけになるだろう
だが、それもこの花のおかげで無い 不思議な花だ、死臭を無くし、外に虫を沸かすことは無い(土の中にはうじゃうじゃいるのだが) 
この花は死体を一つ植えるごとに埋めた一面に種をまき、そこから花が出て 死体が栄養素を失おうと花は咲き続ける
花の種をくれたお姉さんによると、そういうものなのだという 死者の姿を花として美しく残す その為のものだからこういうものなのだと
なんとも強引な気もするが 事実、それがここに存在するので どういうことも出来ない
そして今日も咲き続ける 過去に無くなったものの変わりに生きるように力強く




「オヤジー オーヤージー」
声に目を覚ます 気づいたら寝ていたようだ 今日もいい天気だ、花の香りに誘われて眠くなってくる・・・
愛する場所 ここが俺にとっての究極の場所 視界が霞む 嗚呼、至福
「おい、コラ」


殴られた



「畑の収穫がまだ終わって無いんだよ、早くして」手早く言うと少女は俺の耳を抓った
「あーあー、解った解った 起きるから千切らないでくれ」花畑の近くにある岩の上、俺は起き上がった
起こしにきた少女は俺と同居している、とは言ってもこの少女の家族がある物(ショックにより彼女自身はそれが何かを忘れてしまった)に殺されてしまい、その抜けた空間を埋める為、彼女の保護者となるために俺が住み込んだ
悪く言えば居候 最初、彼女は心を閉ざしていた 愛するものを失った悲しみからこれ以上失うことを恐れた為だろう
俺は元々、ここから遠く遠くの何処かに居た用心棒だった・・・と思う 詳しくは覚えていな
実はあるものに襲撃にあい、護っていた人を殺され 自分も記憶が曖昧になり、そこから当ても無く旅に出た
そしてたどり着いた、この村に そして心の優しい村長に拾われて 今の生活がある
境遇が似た俺達は少しずつだが打ち解けた そして、村人とも仲良く暮らせるようになった
とは言っても俺とコイツとはショックが違うだろう 俺は雇われた身で、仕事として護っていたものを壊されただけだ
深い情は無い 彼女は最も強い家族という絆を断ち切られたのだ、強い子だと思う
今となってはそんな陰なんて一つも見せない 事煩く俺に仕事しろ仕事しろ言ってくる してるつもりなのだが、まぁ彼女の目からみたら足りないのであろう


彼女の名は茜 俺の好きな花の名前だった 男が花好きとかきもーいとか言わない 確かここら辺にも咲いてたと思うが・・・
流石に季節が違う、咲いているわけも無いか 丘を降りた先にあるちょっとした林の間を見ながら草むらを見渡していても、それは無かった
変わりに、違うモノを見つけた

「「「「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」」」」

ゆっくりの家族、親れいむと親まりさが一匹ずつ 子れいむが3匹 子まりさが2匹居た
「ゆっくりか・・・この辺りにも沸くようになったんだな」
ここから村へは人間の脚で3分とかからない もう少し村から離れた場所から罠を設置してある
村の作物を荒らされない為にも周辺に罠を置き
「ここら辺はゆっくり出来ない場所だ」
そう理解させて近づかなくさせるのが目的だ だが、それをもゆっくりの餡子脳には通用しなかったか
冬に備えて食料を備蓄するために活動範囲を伸ばしたのだろう 罠があり危険なことも承知で
「ねぇオヤジ、これ捕まえていかない?甘いものなんてご無沙汰・・・」茜がそう言って一歩踏み出すが俺はそれを制する
「野良ゆっくりなんて食うもんじゃ無い もの拾って食べちゃいけませんって教えたでしょうが」そう言うと少し膨れる素振りを見せたが、踵を返して歩きだした
だが、こいつらを放っておくわけにもいかない
「おら、ちょいと御免よ・・・っと」俺は懐からある物を取り出し、こちらに気づいていない親れいむと親まりさに突き刺した
「ゆぐっ」「おぶぇっ」その瞬間親れいむと親まりさ鈍い声を上げて白目を剥いて倒れてしまった

「お゙ぎゃ゙じ゙ゃ゙あああああん!」
「どお゙゙じでごん゙な゙ごどっ゙じゅ゙り゙ゅ゙の゙お゙お゙お゙お゙!!!!」
「といやっ」俺はその煩く騒いでいる奴らにもそれを突き刺す、先端が細く、握る部分にボタンのようなものがある
それを突き刺した瞬間に押すと小さく、細い針が先端から出てそれがゆっくりのツボを押す
「ゆぎゃ」「ゆっ」「y」(ry
これによりゆっくりは瞬時に気絶する 殺さずにこいつらを無力化できるというわけだ いや、大して強くないけどさ

「お値段なんと27万6000円!」

何処の国の金の単位か知らないが、ふんどしのお兄さんがそう言ってタダでくれた
この作業、相当な技術が必要なのだが 俺は村の防衛役として害虫のゆっくりをいかにして村に近づけないかという勉強をさせられた為、こういうのは慣れた
もはやただの饅頭となった7個を袋に詰めて、遠くでその作業を見ていた茜に合流する
「なんだ、オヤジもそれが食いたいんじゃん」「いや、こいつ等は後で防衛ライン圏外に出しておく 今は収穫作業を手伝うぜ」
そういってまた村へと歩き出した

そんな面倒なことをせずとも殺せば良いじゃないかと言う者ももちろん居る
だが、この饅頭とて生物 喜怒哀楽を知る饅頭だ 殺すのは可愛そうだと それが村の決まりごととなった
そして、俺が殺さずに村が危険な場所だと言わしめるトラップと作り、ゆっくりの被害を受け付けないようにした

すぐ村についたと思ったら畑の収穫はひと段落していた 残りの作物は明日まで収穫は待つのだそうだ
「なんだ、意味無かったじゃねーか」と茜に言うと そこには既に茜の姿は無い 饅頭が入った袋だけが置いてあった
「・・・逃げたか まぁ、良い こいつ等をっと」そう呟いて袋を持ち上げる
「オヤジ、どうだい 少し休んでいったら」村の叔父さんがそう言って俺を止める その叔父さんは椅子ほどの大きさの岩に腰掛けて、茶を飲んでいた
「いや、速めにやっておきたいんで、やめときますぜ」そういうと叔父さんは残念そうな顔をしたが、すぐ茶をすすりだした
俺はダレにでもオヤジと呼ばれる 顔がふけているからだろうが、結構気にってる


また来た道を引き返し、防衛ラインの圏外へと出る そこはゆっくりが「ゆっくりぷれいす」としている草原だった
まぁ、あいつらが言ってるだけでなんとでもないが 袋から饅頭を取り出し、そっとそこに置いてやる
これでこいつ等はここから先には怖い人間がいる と一回でも理解しただろう 数日はあそこへ近づくまい
明日までゆっくりが荒らしに来なければ、作物の収穫は終わるから 戸締りを徹底すれば問題は無いのだ
しかしおかしなものだ、これまで俺が防衛についてから防衛ラインを超えてきたゆっくりなんて居ないというのに・・・




帰り、得にやることも無く、あの丘へと行った
日は沈もうとしている 丘からは夕焼けが沈んでいくのが見えた
日ごろの疲れを癒すのもここだし、考え事をするときもここに着ていた
この村で一番好きな場所だ もちろん村のみんなも好きだし、茜だって俺にがんばりをくれる 強引に
この環境は理想的だった 昔の記憶はちょっと飛んでいるけれども 今が幸せなのだからそれは良いことだ


そこにはいつもと同じように、たくさんの花が咲き乱れていた


だが、一つの異変が存在するだけで

それは全く違うものへと変わり、俺の脚は罠に掛かったかのように動かなくなり、一瞬にして全身の動きが止まった



「「「むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせーっ♪♪」」」


「このおはなおいしいね!ここをれいむたちのゆっくりぷれいすにするよ!」

「ここのつちはやわらかいぜ!さいきょうのまりさはここにおうちをつくってやるんだぜ!」

「すてきよまりさ!とかいはのありすのためにとってもゆっくりしたおうちをつくってね!」

「ここでずーっとゆっくりするよ!みんな!」

「「「ゆっくりしていくよ!!!」」」


死者を冒涜するかのように、ゆっくりがゆっくりしていた

本当に ゆっくりしていた

ゆっくり





ゆっくり?

いや、ゆっくり

ゆっくりゆっくり

ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり


ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり


ゆっく ゆっく ゆっくくくくくく



「ゆっ?ほねがあるんだぜ!きたないんだぜ!」

「むきゅ!これはにんげんのほねよ!」

「わかるよー ドスたちがころしたにんげんのほねだよー ドスがいってたよー」

「そうよまりさ ドスがいってたでしょ おはなのしたはにんげんのおはかだからほってもほねがでてじゃまなのよ!」

「とかいはのありすにくずにんげんのほねなんてみせないでね!めがくさっちゃうわ!」

「うっかりしててんだぜ!こんなきたないものほりだしたらくさくてたまらないんだぜ!!」

「そうだよ!どすにころされたばかなにんげんたちのほねなんていらないよ!はやくうめてね!!!」

「おきゃーしゃん、くちゃくてゆっくりできないよ」

「すぐうめてやるからまってるんだぜ! そしたらゆっくりできるんだぜ!」

「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」

「「「ゆっくりしていってね!!!」」」








気づけば 甘い臭いが辺りに充満していた




――続くんじゃないかな?

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最終更新:2022年05月18日 20:54