「ゆっくりしていってね!」
お馴染みの掛け声と共に、三匹は笑いながら跳ね回る。
れいむとまりさとぱちゅりー。この三匹は何時も一緒だった。
皆早くに両親を亡くしてしまったために、協力し合って生きてきたのだ。
「あのれみりゃばかだったねー」
「たべちゃうぞー、だってさ。おお、こわいこわい」
「むきゅ。ぱちゅりーたちにかてるわけないのに、むちはつみね」
そしてこの三匹はご機嫌だった。
あの天敵であるれみりゃを倒したからだ。
ぱちゅりーの策によってれみりゃを誘導し、木の枝にぶつけてやった。
当然その程度でれみりゃは死なないが、痛みでのたうち回って三匹を追うどころではない。
そこを体当たりで散々甚振り、満足気に帰路についたのだ。
「れいむたちにかかればにんげんだってらくしょうだね!」
「むれのおさはばかだぜ。にんげんにはかてない、なーんてまぬけなこというんだぜ」
「しかたないのよ。いまのそうだんやくのぱちゅりーがばかなんだから」
そして調子に乗った三匹は現実を直視してない発言を繰り返す。
三匹は人間など見た事もないのだが、三匹の中では自分たち以下になっている。
「そうだよ、いまのそうだんやくのぱちゅりーはばかだよ!」
「ならそいつをころしてぱちゅりーがそうだいやくをやればいいんだぜ。
ばかなゆっくりなんてひゃくがいあっていちりなしだぜ」
「そうね。わたしももうおとなになったし、そろそろあのばかをおいだすべきかしら」
通常ゆっくりの群れには長を補佐する相談役がいる。
相談役は大抵周囲に認められたぱちゅりー種が就き、群れのために知恵を絞るのだ。
が、ぱちゅりー種は病弱であり、中には自分で餌も満足に取れない固体も存在する。
だから群れがぱちゅりーに餌を分ける事になるのだが、それに良い顔をするゆっくりは多くはない。
そういった理由で群れには相談役と副相談役、そして後継者である数匹の子どもしかぱちゅりー種は存在していない。
今三匹が属している群れには存在するぱちゅりー種は五匹。
群れ全体でゆっくりが三百匹ほど居る事を考えると、かなり少ない数だ。
「ぱちゅりーならぜったいかてるよ! はやくあのばかをおいだしてやって!」
「いまのそうだんやくはまりさたちにいちいちうるさいぜ。
ぬすみぐいするなとか、まりさたちはそだちだかりなんだからしかたないんだぜ」
「じぶんがたべようとしてたからおこるのよ。まったく、やくにたたないくせにくいじだけはいちにんまえね」
通常、相談役が死亡した場合を除いて代替わりが起こる事はない。
だが、群れの皆を説得すれば追い出せる筈。三匹はそう信じて疑わなかった。
「いまかえったよ、ゆっくりごはんちょうだいね!」
「まりさたちはおなかぺこぺこだぜ。たくさんほしいんだぜ!」
「むきゅー、かしこいわたしたちがおおくたべるのはとうぜんよ」
そうこうしているうちに群れの食料庫までたどりつき、見張りのゆっくりれいむに餌を強請る。
遊びに夢中で三匹は今日の分の餌を取るのを忘れたからだ。
「ばかいわないでね! このしょくりょうはみんなのものなんだよ!」
この食料庫は通常怪我をして動けないゆっくりや、緊急時のための食料を溜めるためのものだ。
現相談役のぱちゅりーの進言によって作られ、多くのゆっくりたちを助けてきたものだ。
間違っても遊びほうけていた三匹のためのものではない。
だが三匹はここのところこの食料庫から餌をもらっている。
狩りが下手なゆっくりにも食料を分け与えているので、三匹はそう言えば餌を貰えると分かっていた。
が、今回は事情が違う。
三匹の行動に頭を悩ませている長まりさから、餌を渡すなと見張りれいむは言い付けられているのだ。
「みんなのだかられいむがもらうのもとうぜんだよ!」
「おお、こわいこわい。わたしたちだってその『みんな』のなかにはいってるんだぜ」
「むきゅ、そういうことよ。わかったらさっさとだしなさい」
三匹の反撃に、見張りれいむは臆してしまう。
逆らったら攻撃されてしまいそうだし、なるべくなら痛い思いはしたくない。
だがあげてしまえば自分が罰を受ける。
見張りれいむが迷っていたその時、まりさが何者かに吹き飛ばされた。
「ばかいわないわないでね! さんにんはゆっくりはんせいしてね!」
突然の乱入者、長まりさの登場で三匹は後ずさる。
長まりさは体付きれみりゃほど大きく、バスケットボールほどしかない通常種など簡単に潰されてしまう。
三匹も戦って敵わないことは薄々分かっている。
「それにぱちゅりーはどうしてじゅぎょうさぼったの! べんきょうしないといいゆっくりになれないよ!」
「むきゅ、あんなばかにおそわることなんてなにもないのよ! じかんのむだでしかないわ!」
そういうとぱちゅりーは憎らしく舌を出し、まりさの上に飛び乗る。
そうして三匹は長まりさの話も聞かず、一目散に逃げ出した。
それを見て長まりさは溜息を吐く。どうしてこんな事になってしまったのか。
あの三匹の親は立派だった。群れのために命を投げ出し、見事群れを救ったのだ。
だからこそあの三匹は大切に育てられ、多少の悪事も目を瞑ってきた。
それがいけなかったのか、今では手が付けられなくなっている。
長の言う事は聞かないし、自分たちが群れで一番偉いと思っている節もある。
溜息を吐きながら長まりさは相談役も下へ向かった。
今は後継者の育成で忙しい時期なのだが、三匹を何とかする知恵を貸してもらいたい。
三匹の親は長まりさの友人でもあったために、殺したり追放するのは忍びないのだ。
「ぱちゅりー、なにかいい方法ない?」
「……むりよ。おさだってほんとはわかってるんでしょ?
あのこたちはもうずっとまえからおべんきょうもおてつだいもしてない」
「……もう、だめなのかな?」
「むきゅー……つらいのはわかるわ。けど、どうしようもないのよ……」
ぱちゅりー種は生まれた時から知識があるわけではない。
親や周囲のゆっくりから教えられ、少しずつ知識を蓄えていくのだ。
だが肝心のぱちゅりーは大切に育てられたためか、仲間と居るのが楽しかったからか。
普通のぱちゅりー種よりも体が強く、何時も三匹で遊び回っていた。
当然受け継ぐべく知識は手に入らず、ぱちゅりーが知ってるのは挑発による誘導法くらいなものだ。
後は石の使い方も、餌のある場所も、家の作り方や入り口の塞ぎ方も何も知らない。
真面目に勉強してきた後継者候補たちとの差は天と地ほどもあるだろう。
そして間違いなく後継者には選ばれず、群れから去る事になる。
そして餌も取れずにのたれ死ぬか、周囲に生息するれみりゃや動物に食われるか――
群れに戻ろうとして殺されるか。
遅かれ早かれ、結局はそうなるのだ。
そして二匹は黙り込んでしまった。
三匹の親には長や相談役だけでなく、群れの大人ゆっくりの大半は世話になっている。
だからこそ、群れに三匹の追放を伝えるのは気が重い。
自分たちが育て方が間違った事を後悔しながら、二匹は溜息を吐いた。
「まったく、しつれいしちゃうね!」
「そうだぜ。まりさたちがれみりゃをたいじしなかったらどうなってたことか」
「むれがぜんめつしたかのうせいもあるのに。えいゆうをたたえないなんてばかね」
三匹は長から逃げ出したあと、家の周りの花畑で愚痴っていた。
その花畑は三匹が来る前は群れの皆の憩いの場だったのだが、今では三匹専用になっている。
三匹が強引に占拠し、他のゆっくりを追い払ったからだ。
もっとも、三匹が食い荒らして無残になった花畑になど誰も来ないだろうが。
「もうがまんのげんかいだよ、くーでたーをおこすよ!」
「そのとおりだぜれいむ! まりさたちのあつかいがわるすぎるよ!」
「ばかにひきいられたむれにまっているのはしよ。そうなるまえになんとかしないと」
今まで何を我慢してきたのか、三匹は話している内にどんどんヒートアップしていく。
そうだ、間抜けどもを排除して自分たちが指導者となる。それこそがむれのためだ。
そんな幸せな考えを持って、三匹は遂に決心した。
もう追放だなんて甘ったるい事など言ってられない。
100%の私怨の逆恨みだが、長を殺す事が群れのためになると三匹は決め付けた。
「じゃあれいむはあっちのいえのこをさそってくるね!」
「なかまはおおいほうがいいんだぜ! まりさはあっちのほうにこえをかけてくる!」
「ぱちゅりーはばかどもをまとめてしまつするさくせんをかんがえておくわ」
互いにやるべき事を確認し、三匹はゆっくりと頷く。
そして散り散りの方向へ走り出し、群れを乗っ取るべく動き出した。
群れの親世代には三匹は好かれていないが、反面子世代の中では英雄だ。
家から離れられず、群れのために毎日勉強や狩りをしている子どもたちにとって、自由な三匹は憧れる存在なのだ。
そして三匹から実際の百倍ほど誇張された自慢話を信じ、ますます憧れを増していく。
三匹曰く今日は多くの人間を戦っただの、百匹のれみりゃと全て殺してきたなど。
そんな作り話を信じているからこそ、今の長には不満を覚えてしまうのだ。
長にはまりさこそが、相談役にはぱちゅりーこそが相応しい。群れにもそういった考えを持つゆっくりは少なくはないのだ。
そして全ての準備が終わったあと、疲れ果てて眠る三匹は共通の夢を見た。
新しい長にまりさがつき、相談役にはぱちゅりーが。そしてれいむと一緒に喜び合う、そんな夢を。
翌朝、クーデター軍は行動を開始した。
クーデター軍の数は群れの八割にものぼる。
普段から厳しい規則を押し付ける長たちに対し、皆鬱憤が溜まっていたのだ。
作戦は日の出と共に作戦開始の筈だったが、三匹が寝坊したため作戦は大幅に遅れた。
もっとも、作戦など長と相談役と副相談役を殺すといった事しか決まっていないが。
しかし決行が遅れたのがよかったのか、長が一匹でいるところを強襲することができた。
長は三匹のところを訪ねるつもりだったらしいが、クーデーター軍からすれば鴨ねぎだ。
「どお゛じで゛ご゛ん゛な゛ごどす゛る゛の゛お゛」
そして長まりさを散々痛め付け、三匹はニヤニヤと笑っていた。
体の大きい長まりさととは言え、集団で攻撃されれば文字通り手も足もでない。
「りゆうがわからないなんてやっぱりばかだね!」
「じぶんのむねにてをあててかんがえてみるといいんだぜ」
「ぱちゅりーたちをそまつにあつかったむくいよ。くるしんでしになさい」
痛みと絶望で泣き喚く長まりさに対し、三匹は嬲る様に体当たりを加える。
体の弱いパチュリーも、反撃できない相手に対しては容赦なく攻撃する。
「こんなきたないぼうしはいらないよね! れいむがふんであげるね!」
「まりさはおさのことすきだぜ。だからきずぐちにほおずりしてやるぜ!」
「むきゅー、あんまりおいしくないわね。せめてしょくりょうとしてやくにたちなさいよ」
既に長まりさは体中のあちこちから餡子を垂れ流し、もう長くは持たないだろう。
それでも三匹は長踏み付け、体当たりして、少しずつ食らっていく。
「そうだよ、おさはばかだよ!」
「なにもしてないのにえらそうにしすぎだぜ!」
「むれのきそくがきびしすぎるんだねー、わかるよー」
そうして長まりさは次々とクーデター軍から罵声を浴びせれる。
三匹を英雄視するクーデター軍からすれば、長などただの役立たず。
人間を何十人も殺したと言っていた三匹の方が強くて頼りになる。
そう判断しての行動だ。
「ぞん゛なんじゃゆ゛っぐり゛でぎな゛いよ!」
「うるさいよ! だまってゆっくりしんでね!」
「そうだぜ! ゆっくりしね!」
れいむとまりさにとどめを刺される長まりさを見て、ぱちゅりーは満足気に頷く。
既に別働隊から他のぱちゅりー種を皆殺しにしたと報告がった。
これで群れは三匹のものだと確信し、ぱちゅりーはクーデターの成功を宣言した。
「これでようやくゆっくりできるね!」
「あたらしいおさがいればにんげんだってこわくないよ!」
「ぱちゅりーがそうだんやくならどんなことがあってもだいじょうだぜ!」
そして新たな長の誕生に、クーデター軍は沸きあがった。
これでずっとゆっくりできると。毎日自由に遊び回れると。
「これからまいにちゆっくりできるね!」
「まりさがおさになったからにはにんげんたちからおいしいものをいただきにいくぜ!」
「むきゅー、ごほんもいっしょにうばうのよ! やっとごほんがよめるのよ!」
だがゆっくりたちは知らない。
長は直ぐそこにまで迫っている冬を越すために、皆に餌を集める様に言ってた事を。
餌を奪おうとした人間の里はここから五km以上離れた場所にあることを。
人間たちはとっくの昔にゆっくり対策を済ませている事を。
長はその巨体を持って周囲のれみりゃたちを退治していた事を。
そして何より、自分たちの行く末を知らなかった。
あとがき
タイトルに反して三匹が死んでないや
最終更新:2022年05月19日 15:20