今までに書いたもの

  • 神をも恐れぬ
  • 冬虫夏草
  • fuku4385(タイトル付け忘れた……)

※注意事項
  • 人間は介在しません。
  • 登場するゆっくりは全滅しません
  • ぼくのかんがえたさいきょうゆっくりが登場します。
  • ……最強っていうか、ゆっくりしろよ的ゆっくりか。




 ここは、人里から遠く離れた博麗大結界に間近い山の中。
 妖怪の山からも遠い幻想郷の外れでは、人間どころか妖怪の姿さえほとんど目にする事はできない。
 そんな幻と現の境界地帯の主は、大きく分けて二種類だった。
 一つには、結界の内外いずれの側にも満ち溢れた自然の具象である妖精たち。
 そしてもう一つには、生き物と食べ物の境界に位置するナマモノ――ゆっくりと呼ばれる生き饅頭たちだ。

 山際に残る朱の色が、月が高くに上ると共に紫へと塗り替えられてゆく。
 冬の太陽は早くに沈む。日のある内はまだ温みを残していた山の空気も、空に紺と紫の領域が増すに連れて
突き刺すような冷気で地上を満たし始めていた。
 野山から生けるモノの気配が極端に少なくなる、死と静寂に満ちた季節。厳しいこの時期をやり過ごす為、
巣穴に閉じ篭るという習慣は捕食種のゆっくりにとっても例外ではない。

「うー! よるがきたどぉー!」

 ここは、厚く堆積した柔らかい土壌を掘り進めて作られたれみりゃ一家の巣穴である。
 もともとは、彼女らのモノではない。先住者は子連れのれいむとまりさのつがいだった。その先住者はこの秋、
老幼あわせて十匹残らずこの冬の入りにれみりゃ一家の保存食となっている。
 晩秋、より中心部――紅魔館の近くに適当な住処を見つけられず、辺境を流れ流れてここまで来た家族だった。

「みゃんみゃ〜、にぇみゅいぢょぉ〜」
「うりゅさきゅちぇよくねむれなかったぢょぉー……」

 親に続いてもそもそと起き出してくる、体のない子れみりゃや赤れみりゃ、その数五匹。
 器用に羽根で眠い目を擦る。どうやらまるで寝たりないらしい。それは両親――体つきと体なしのつがいだった――も同じらしく、
二匹揃ってみっともない大あくびをすると疎ましげな眼差しを入り口へと送る。

「ふぁ〜。まんまたちもねむいんだどぉ〜……」
「らぶり〜なれみりゃをゆっくりさせないなんて、ひどいかぜさんなんだどぉ〜」

 ぐるぐる頭の中をかき回す眠気のせいで、楽しい家族の会話もどこへやら。きちんと戸口の閉じられた巣穴は
地中の温もりもあって眠気を覚ますほどの寒さもない。家族揃って言葉もなく、じーっと扉の様子を見詰めてみる。
 ばたん、もしくは、ごつん。
 静かになった部屋の中は、木の皮を引っぺがして接着用餡子で固めた扉は、今もガタガタいってる物音だけに
支配されてしまった。
 今日は日中ずっとこんな感じだった。夜もこんな感じのままなのかもしれない。うるさいのは扉が立てる音ばかり
ではなく、外の枯れ葉が擦れあう音、モノが落ちたり転がったりするような物音なんかも同じこと。
 きっと、今日はとても冷たい風さんがゆっくりしていない一日なのだ。
 さすがに閉じた戸をわざわざ開けてまで外の『かぜさん』に抗議する気にもならず、れみりゃ家族は寒気の
差し込まないおうちの奥からせめても大声を張り上げて呼びかける。

「かぜさん、ゆっくりするんだどぉ〜♪」
「ゆっくりしなきゃ、あとでさくやにいいつけるどぉ〜♪」
「「「ちゃくやにいいしゅけるどぉ〜♪」」」

 ……と。
 まるで、間延びした二匹の呼びかけをまるで理解したかのように、戸を叩く音が一時に止まった。
 もちろん、れみりゃたちが風をどうこうできる訳もないのだが、餡子脳は全てを都合よく解釈するものだ。

「う〜♪ かぜさん、れみりゃがこわくてだまったんだどぉ〜」
「おちびちゃんたち、これでまんまぁとゆっくりできるどぉ♪」
「「みゃんみゃ、しゅごいんだどぉ〜♪」」

 勝ち誇る両親に、それを真に受けて褒め称える子供たち。
 万が一にも風の妖精がれみりゃの言葉に従ったのだとしても、それは引き合いに出された『さくや』が怖かったんじゃ?
なんて謙虚な発想はゆっくりにはないわけで。

「「おちびちゃん、すーりすーり♪だどぉ〜♪」」
「「「すーり、すーり♪しゃわしぇだどぉ〜♪」」」

 勝利の余韻に浸った家族、一頻り体を寄せ合わせる。
 既に変な空気になった餡子脳の中では『かぜさんもさからえないこうまかんのおぜうさま』は伝説にすらなっているらしい――が。


 ―――どがあぁぁんっ!!―――


 伝説、粉砕。文字通りに。

「うーっ!?」
「と、とびらさんがこわれたどぉぉ!?」
「みゃんみゃーっ!? さささっ、さむいんだっどぉ〜!!」
「ゆぐっ、ゆっぐぢぢだい゛どぉ〜……」

 いったい、何事が起きたのか。
 突然入り口から大きな破壊音が響いたと思うと、薄く立ち上った土煙の向こうに壊れた扉と真っ暗な空が見えた。
 お外とおうちの間を遮るものはすでになく、びゅうびゅうと吹き込んでくるのは、冬の夜の容赦ない寒気。
 両親れみりゃには一つ思い当たることがあった。こんな時期、

「う〜っ……もしかして、れてぃがきた!?」
「れてぃやだどおおぉぉっ!!?」
「「みゃんみゃぁ、きょわいどぉ〜!!」」

 地中の巣に篭っていたのでは、長く伸びるれてぃの舌からは逃げられない。
 かといって、出口が一つしかないこの巣では、外に出るのはわざわざ「おたべなさい!」するのと同じ事だ。
 進むは地獄、引く事は出来ず。まさしく進退窮まった状態で、一家はお星様が綺麗に覗くおうちの入り口から
長く伸びる死への誘いがやってくるのを、ただ身を寄せ合い震えながら待ち受ける。
 両親はせめて子供だけでもと、背中、巣の奥に子供たちを押し込めて守るが……蟷螂の斧、報われるまい。

「……う〜?」
「う〜、う〜?」

 そう、親子揃って観念して、しばらく縮こまっていた。

 扉が壊されてからすぐ。れてぃの舌は入ってこない。
 扉が壊されてからちょっと。れてぃの舌は入ってこない。
 扉が壊されてから少し。れてぃの舌は入ってこない。
 扉が壊されてから大分。れてぃの舌は入ってこない。
 扉が壊されてからしばらく。れてぃの舌は入ってこない。
 扉が壊されてからかなり。れてぃの舌は、入ってこなかった。

「……う〜? れてぃ、ちがったどぉ?」
「うっう〜♪ ちびちゃんたち、もうしんぱいないどぉ〜」
「「「……う〜?もうだいじょうぶだど?」」」

 さすがにこれは、れてぃではないらしい。
 恐怖がゆっくり溶け、疑念に変わり、安堵に移り変わるまでたっぷり十分ほどは待った。
 最後まで、れてぃの舌が入ってくることはなかった――怖がる必要なんてなかったのだ。

「うっう〜♪ おぜうさまのれみりゃにこわいものなんかないどぉ♪」
「みゃんみゃはとてもつよいんだどぉ〜♪」
「つよいまんまぁはおうちのとびらもさくやがいなくてもなおせるんだどぉ〜♪」
「みゃんみゃはなんでもできるんだどぉ〜」

 そうと知ると、一転して強気である。餡子脳には先ほど見せた自分の(親の)みっともない姿なんて欠片も残ってない。
 扉が壊れた原因を、突き止めようという考えすらなかった。
 ただ、そんな餡子脳でも流石に扉を直さなければというぐらいの思考はあるらしく、両親を先頭に寒気厳しい外界との
入り口に向かう。一応野生で生きてきたれみりゃである。扉の作り方、治し方ぐらいは知っている。

「……とっ、とびらさんがどこかいくんだどぉ〜」

 ただ、一から作るとなるとさすがにこの時期、面倒だ。
 壊れた扉に逃げられては困る。だから真っ二つに割れた扉の片割れが、急に巣穴の外の方へと動き出したことにれみりゃは
少し慌てて這う速度を上げる。

「う〜、おいかけっこだどぉ〜♪ とびらさん、ゆっくりまつんだどぉ〜♪」
「はやくつかまえるんだ……どぉ?」

 どうして扉が動き出したのだろうか。
 風の仕業だろうか? そんなはずはない。扉は中から外に動いているのに、風は外から中に吹き込んでいる。
 巣穴が斜面になっているから? それなら滑り落ちる方角が逆だし、巣穴はそんなに急な角度で地面に潜っている訳ではない。
 その答えを知らず、考えもせず、家族は無防備に入り口近くまで近づいた。

「どうした……う〜?」
「「「うゅ〜?」」」

 そしてそこで目にした光景に、全員が思わずぽかんとした。
 巣穴の入り口、そのすぐ側。覗き込む顔がいくつも、いくつも。見知ったものばかり並んでいたからだ。

「う〜!? あまあまがいっぱいいるどぅ〜♪」
「あまあまがいっぱ……い……」

 やがてれみりゃたちの口から漏れたのは、喜び半分、驚き半分。
 巣穴から見えるのは、れいむが三匹にまりさが四匹。
 喜びはおいしいあまあまが向こうから巣の近くまで来てくれたからで、驚きはこんな冬場に外をうろつくゆっくりがいる
なんて思っていなかったからだ。

「……う〜☆ たべきれないんだどぉ〜♪」
「「「うー! たーべちゃうぞー!!」」」

 よく考えたら起き抜けで、ちょうどおなかがすいていたところだ。
 親れみりゃと子れみりゃたちは、みんなそろってお決まりの台詞をごはんになってくれるあまあまたちに投げかけた。

 もそり、もそもそ。
 ……反応が、おかしい。まるで恐れる様子のない獲物たちの様子が、ちっぽけなれみりゃの肥大したプライドに小さな
棘となって突き立った。

「……? あまあまのくせに、さからうつもりなんだどぉ〜?」

 のそり、のそのそ。
 反応は、変わらない。
 恐れるでなく、猛るでなく、のっぺりとした笑顔を浮かべたままで蠢くだけ。
 まるでこちらの存在を軽視――むしろ無視するかのようなその態度。自分が軽んじられていることを自覚するに至って、
ようやく状況に思考が追いついた。

 扉を壊したのは、こいつらではないか。
 おひさまがある間から、おうちの周りでがたがた物音を立てていたのもこいつらではないか。

 たかがあまあまが。
 このこうまかんのおぜうさま相手に。
 勝てるわけもないのに、一体なんのために?

「……う〜。どっちでもいいどぉ〜」
「はやくごはんにするどぉ〜♪」
「「「うっう〜♪ ごはんだどぉ〜♪」」」

 その理由がなんであるにしても、食ってしまえば同じことだ。それ以上小難しいことを考えるのは、れみりゃの脳には
手に余ることだった。
 もういい、めんどうだ。何匹いるか知らないが、こいつらをご飯にしよう。みんなおなか一杯になってもまだ残るなら、
この冬の保存食としてありがたく巣の奥に保管させてもらえばいいのだから。
 早々に思考を打ち切って、両親れみりゃは子を引き連れて寒い巣穴の外へと這い出していく。

 そして、外の空気にじかに触れたれみりゃ家族の体はたちまちのうちに凍りついた。

「……だれつかられみりゃたちのごはんになってくれる……んだ……ど……?」

 いや、凍りついたのは体ではなく心だ。だぶついた顔からは、満面の笑みが凍って砕けて消し飛んでいる。

 巣穴を、出た。
 外の景色が見渡せるようになった。
 見渡す限りに、あまあまがいた。

 そう、見渡す限りに。

 数十、といった数ではない。
 成体のれいむとまりさを中心に、百を軽く超えるゆっくりがひしめいていた。
 れみりゃが空を飛ぶことを思い出していれば、百や二百で利かない数と、ずらりと敷かれた陣列の後ろの方にみょん種や
めーりん種の姿がある事にも気が付いたかもしれない。
 だが、どうせ三つ以上の数を数えられない餡子脳だ。『とてもたくさん、いろんなあまあま』ぐらいにしか考えられなかった
かもしれないが……。
 それでも。同じ高さで目の前に見える数しか把握することができなくても、流石に今なにが起ころうとしているかぐらいはわかる。

 襲うものと襲われるもの。
 その逆転が、今まさに起ころうとしているのだ。

「……っ。あまあまは、たべられるものなんだるどぉーっ!!」

 気付かなければいいのに、察してしまった。
 知性などないに等しいれみりゃなのに、気付かされてしまった。
 心の中に急激に広がる真っ暗な何かを、知ってしまった恐怖を振り払う為に親れみりゃは叫んだ。
 叫ばなければ、子供の為に立ち向かう意志が挫けそうだった。必死の形相へと変じた顔色からは、狩猟者としての精神的
優位など疾うの昔に消え去っている。
 まるで風のように、親れみりゃたちは奔った。
 父れみりゃの正面すぐ近くにいたれいむの顔面が弾け、突き抜けた腕がその後ろのちぇんの眼球を抉り出した。死んだれいむの
両脇にいたまりさとれいむが振り向くより早く、二匹の側頭部を父れみりゃの左右の腕が貫いていた。
 母れみりゃの側方、仲間のれいむやまりさを挟んでやや間合いを取っていたぱちゅりーは、跳躍して直上から襲い掛かる
母れみりゃに踏み潰され、あっさりと大量の生クリームを吐いて死んだ。その周囲を固めていた四匹のれいむとまりさも、力尽くの
強襲にろくに抵抗することもできないままただの動かぬ饅頭へと変えられた。

 両親れみりゃが進むところ、たちまち取り囲むれいむやまりさ、ちぇんやぱちゅりーはただの中身を垂れ流す饅頭へと変えられてゆく。
 両親れみりゃが進むところ、たちまち取り囲むゆっくりたちの陣列に穴が開く。
 両親れみりゃが進んだ後には、たちまち孤島を取り巻く潮の満ち引きのごとく、取り囲むゆっくりに新たなゆっくりが補充される。

 声もなく屠られ、声もなく足されてゆく。
 それはれみりゃと同じゆっくりというナマモノではなく、ただのゆっくりという記号、数字として親れみりゃの前に分厚く、
冷たく立ち塞がった。

「う、ひぁっ……!」

 一体、あまあまはどれほどの数がいるというのだ。
 幾ら殺しても目の前の獲物がまったく減らないという事実にやっと気が付き、父れみりゃが乱れた息にやがて来るべき破局への
怯えの色を滲ませた。
 夫婦それぞれ十を潰し、十を引き裂き、十を貫き、十を噛み破り、その全てを容赦なくばらばらの餡子の塊へと変えた。その間、
無言で襲い掛かる無言のゆっくり達を蹴散らし寄せ付けず、れみりゃは傷一つ受けていない。
 でも、あまあまは逃げない。逃げずに、最初のゆっくりできない笑顔を浮かべたままで突出した二匹を取り巻いている。
 にこにこではなく、にやにやと。一様に作ったような、相手を、獲物を。
 れみりゃという、狩られるべき獲物を、明らかに作られた笑いを一様に浮かべて。

「ゆっくりしていってね!」

 ただ、明るい呼び掛けが返ってきた。
 散々仲間を殺されたというのに、何の心も篭らない、無駄に明るい呼びかけだった。

 ああ、と両親れみりゃはようやく理解する。
 こいつらには、怒りはない。恐怖も知らない。笑顔を浮かべているけど、楽しいことすら知らない。
 役割以外の何も知らないから、何もかも失っても平気なのだ――命を失うことの恐怖すら、この連中は知らないのだ、と。

「うぎゃああぁぁっ、まんまぁああぁぁぁあっ!!」
「だずげでええええええぇぇぇっ!!」

 愕然として棒立ちになるれみりゃ夫婦の後ろの方から、求める子供たちの悲痛な叫びが聞こえたように思う。
 気が付けば、すでに巣穴から遠い。意図したものか、そうではないのか……いずれにしても、戦ううちに両親と巣穴は遠く離れ、
子供たちは敢え無く敵の手に落ちてしまったのだ。
 悲鳴は長く、しかし元気に続いている。
 どうやら子供たちはその身柄を抑えられただけで、すぐに危害に晒されているわけではないらしい。
 でも、今の両親にとってもうそんなことはどうでもよかった。

「……うっ……うぅっ、うううううぅぅぅああぁぁぁっ!?」
「ぐるな゛っ、ぐるな゛っ! じゃぐや゛! じゃぐや゛あああぁぁぁっ!!!」

 死が、あまりにも確実な死が、自分たちの目の前にも迫っていた。
 例え今は捕まるだけでも、後で必ず殺されて食べられる。飛んで逃げるにしても、間合いがあまりに近すぎた。体がふわりと
浮かんだと思った瞬間には、無防備な足や腹に食いつかれ、力尽くで地上に引き降ろされるだろう。
 そうなった時にはもう戦う力も残っていない。そこから先は、なぶり殺しだ。
 その確実な未来を、目の前の『生きていない』笑顔の群れが担保している。
 無機質な笑顔を連ね、瞬きのごとに縮まる彼女らとの距離。それはれみりゃたちが三途の川へたどり着くまでの道のりに等しい。
 どれほどれいむを殺しても、どれほどまりさを壊しても、ただの黒ずんだ餌になったあまあまたちからすらその不気味な笑いを
消し去ることはできない。
 それを、思い知ってしまった。何もかもが無駄だと、すでに二匹は知ってしまったから。

「ウサウサ☆ミ」
「ゲラゲラ☆ミ」

 連中の作り出した分厚い壁、後ろの方から聞こえる二組の笑い声。その声にだけ、意志の存在がはっきりしていた。
 そしてその二匹の意志が、ここにいる全てのあまあまの意志を支配している。そのことに、母れみりゃも気付いた。
 それと気付いた所で、この分厚い壁がある以上どうなるということでもないのだが。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりさせてあげるね!」
「ひめさまをゆっくりさせてね!」
「ゆっくりしね!」

 ――虐殺がはじまった。

 一斉に、だがばらばらな内容の言葉を叫んで無数のゆっくりが全周囲で動いた。
 不気味な笑顔は崩れない。まるで同じ笑いを浮かべた連中が、れみりゃたちを『ゆっくり』させるために襲い掛かる。

「でびりゃのおべぶぇぼびゅぁっ!?」
「ゆっくりしね!」
「ゆっくりしね!」

 心がほとんど折れかけていた父れみりゃは、その動きに反応することができなかった。
 前から飛びついたれいむに腹を噛み破られ、服を毟り取られてようやく我を取り戻すがもはや遅い。
 後頭部にちぇんが、肩口にまりさが、左右の足にまた別のまりさが、次々と食いつくゆっくり達の中にたちまちれみりゃの
体が消えてゆく。

「でっ、でびりゃのでびりゃがあああぁぁぁ!!」

 母性の役割を受け持ったれみりゃの性質だろうか、まだ生きる意志を強く失わなかった母れみりゃが、襲い来るゆっくりを
力任せに振り払いながら、目にした惨状に何度目かの絶叫を上げた。
 連れ合いに食らい付いたゆっくりが歪な形に固まって、その姿はまるで葡萄の房のよう。
 中の様子をうかがい知ることはできない、だがもはや生きてはいないだろうことは母れみりゃにも容易に知れた。れみりゃ種の
再生力といっても、限度はあるのだ。

「ゆっくりかむよ!」
「ぎや、いぎゃっ! ご、ごろじでやるううぅぅ!」
「ゆっくりひめさまにもってかえるよ!」

 右の腕を噛み砕かれ、羽根を食い千切られ、あられもない悲鳴をあげて、なおいきり立つ。
 捕食種のプライドではない。囚われた子を救う為でもない。殺された伴侶の仇だからでもない。
 ただ単に、そうしないと、生きられないから。
 早くも再生を始めた傷口から迸る肉汁。それが一張羅を汚すことを気にする暇もない。
 残った左腕でなぎ払い、叩き落しためーりんを踏み潰し、咥えた枝を顔面に突き立てようと襲い掛かってきたみょんを
真っ向から噛み潰す。

「う゛あああぁっ!! ごろずっ、ごろじでやるううどおぉぉ!!」
「ゆっくびゅべっ」

 口を餡子まみれにして、天に向かって吼え猛る様はまさに獅子奮迅――だが、悲しいかな。もはやれみりゃは単騎であった。
 さらに不用意に近づいたみょんを蹴り飛ばす間に、今度は左腕が噛み千切られた。両腕がなくなると、腹と足が噛み千切られる
まで一瞬だった。

「ううぅぅぅっ、う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!」

 もはや立つ事もできなくなった体をパージして顔だけとなり、それでもなお前へ、前へと目指す。
 そこに、さっき聞こえた笑声の主がいるはずだった。この群れの意志を支配する存在がいるはずだった。
 そいつさえ殺せば、そいつを殺す事にしか、この場を切り抜ける可能性をれみりゃは感じとることができなかった。

 そして、その可能性は結局の所、ほんの欠片ほども残ってはいなかった。

「うううぅっ……うびゅいいぃぃぃっ!!」
「うさっ♪」
「げーら♪」

 頭をパージして、二度ジャンプした。
 二度ジャンプしただけで、両脇から飛び掛ってきたゆっくりにプレスされ、地べたに落ちた。

「う゛ぅぅ……う゛ーっ! う゛っう゛う゛ぅ゛ぅ゛!!」

 最初に感じたのは潰された痛みと、地面に打ち付けられた痛み。
 それを圧倒したのは、助かる見込みが完全にゼロになったという恐怖。

「ぼうやべべええぇ、おでがいじまづうぅぅ!!」

 聞き入れられることなんかない、そう知りつつれみりゃは命乞いを叫んだ。
 自分が何匹殺したか、自分の家族がどれだけ殺されたか、そんなことは頭の中になかった。


「うさうさ☆ いいよやめてあげるよ♪」
「……うー?」

 一瞬、痛みと恐怖が消し飛ぶかと思った。
 次の一瞬に、それが錯覚だったと思い知った。

「……これいじょうばらばらにして、あんたまでおうちでひめさまのごはんになるまえにしなれちゃこまるからね♪」
「げーらげーら!!」

 それくらいなら、まだしなないでしょ。
 うさぎ耳のゆっくりたちは、そう冷たく囁いて笑っている――当たり前の事だが。母れみりゃの最初の予感が、正しかったのだ。

「ぃ……ィやだどおおおおおぉぉぉぉぉぉ……!!」
「れいむのおくちのなかでゆっくりしていってね!」
「ばらばられみりゃをうんぱんするね!」
「ゆっくりひめさまのごちそうになってね!」

 泣き喚くれみりゃの体に数多のゆっくりが群がり、その体を手際よく解体していく。
 れみりゃの強力な生命力も見越して、生死のぎりぎり、中身が漏れぬよう、適度に塞がるよう。
 周囲を削り取るように、抵抗力を完全に奪って運ぶのだ。

「ゆっくり!」
「ゆっくり!」

 作業が進むにつれ、長く響いていた泣き声は徐々に擦れ、小さくなり、ゆっくりたちの声の中に消えてゆき。
 やがて一際大きなれいむの口に収まる程度にまで縮小される頃には、限界ぎりぎりまで体を剥ぎ取られたもうれみりゃの声は
聞こえなくなっていた。





 五体ばらばらにした母れみりゃ、肉片となった父れみりゃ、完全に怯えて抵抗の意志も見せない赤れみりゃ。
 そして両親れみりゃに殺された、百に迫る仲間のゆっくりたちの死体。
 その全てを『獲物』として、未だ数百を数えるゆっくりたちの隊列は『おうち』への帰路に着く。

「……んーっ。かなりへったかな」
「げらげら!」
「まあもんだいないよね」
「げらげら!」

 わかっているのかいないのか。
 同じように仲間――というより配下の隊列を後ろから眺めながら、ただげらげらと笑うだけのうどんげに構わず、てゐは体を
前に傾けて頷くような仕草を見せた。

「うーん、だよね。へったぶんは、ひめさまとおししょうさまがつくればいいんだし」
「げーらげらげら!」

 少し、うどんげの笑い方が変わった。何か意味のある内容なのかもしれない。
 それの証拠にゆっくりてゐのウサギ耳がぴょこんと動き、彼女はにんまりと皮肉っぽい笑顔を見せてうどんげの方に頷いた。

「うさうさ☆ じゃ、かえろっか」




    *           *           *




「ゆっくりしないでね!」
「ゆっくりいそいでね!」

 既に季節は冬の入り。本格的な降雪はまだだが、外界には既にろくな食べ物がない。
 本来なら、ゆっくり達は既に餌を巣穴に溜め込んでゆっくり冬篭りに入っていなければならない季節のはず。
 となると、今聞きなれた挨拶の声に送られて落ち葉に埋もれた巣穴から飛び出してきたみょんとちぇんの二匹は、十分な食べ物を
集め損ねた怠け者ということになる。

 ここが普通の巣であるなら、という但し書きがつくのだけど。

「ちんぽー!」
「わかるよー、ゆっくりいそぐんだねー!」

 凍月は既に山の上に上り、飛び出したみょんとちぇんはちっともゆっくりしてない忙しなさで一直線に走り去ってゆく。
 周囲の様子には脇目も振らない二匹の表情には、どこかしら作り物めいた笑顔が張り付いていた。
 愛で派と呼ばれる人々からは愛くるしいと、虐待派と呼ばれる人々からはふてぶてしいと称されることの多い大きな双眸には意志の
存在が見られない。
 生き饅頭がゆっくりと呼ばれる所以、『こころ』の存在が、どこにも感じられず――しかしこの生き饅頭たちもまた、ゆっくりと
同じように喋り、飛び跳ね、駆けて行くのだ。

「ゆぅ……もんだいなくおわれば、いいのだけどね」

 全速力で徐々に遠ざかっていく二匹の姿を見送って、入り口に佇むえーりん種がぽそりとかすれた呟きを洩らした。
 このえーりん種は、ゆっくりであると確かにいえる。見詰める両の眼差しには、確かな意志と知性の力が宿っているからだ。むしろ
ゆっくりにしては不相応なほどの強い光を宿した両眼を不安に揺らがせ、えーりんはその場を動かない。

「じゃお?」

 まるでアストロンでも掛かったかのように身動きを止めたえーりんに、背後に控えるめーりんが気遣わしげな声を掛けた。
 どうやらこの巣穴の門番らしい。その気遣いはえーりんの様子というよりはこの寒い中に開け放たれたままの入り口へと向けられて
いるのだろう、自分と『扉』――枯れ枝と枯葉を組み合わせ、少量の餡子で固めたもの――を見交わすめーりんに冷ややかな一瞥を投げ、
えーりんはわざとらしい溜息を一つ吐く。

「……ゆっ。わかったわ、しめてちょうだい」
「じゃおっ!」

 きびすを返すえーりんの後ろで、手馴れた様子で数匹のめーりんが手早く扉を閉ざしていく。
 扉が覆う面積を増すに伴って巣穴の中を照らす光量は乏しくなり――だがしかし、ゼロにはならなかった。
 ぼぉっと巣穴を包み込むのは、月のように淡く儚い金緑色の光。
 その光が照らし出すのは、深く深く、冥府まで招き入れるような外界の光を拒む大きな洞穴。

「ひめさまにほうこくしないと」

 その光――巣穴(それは既に洞穴に近い)一面にヒカリゴケが生み出すエメラルドの輝きに照らされて、えーりんはゆっくり二匹が
行き交えるほどの道を急いだ。
 目指すはこのコロニーの長、何もしない支配者、『ひめさま』と称されるゆっくりかぐやの下である。




 真社会性動物、という生き物の一群が、外の世界には存在している。
 というよりも、幻想郷の中にもそれらはいる。スズメバチやアリの仲間がその代表で、哺乳類にもネズミの仲間が一種のみ存在する。
 名前に社会性とあるように、その特徴は多数の同種で共同社会を作り上げて生活する点にあるが、真社会性動物は人間他の哺乳類の
ような社会性動物とは幾つかの点において違っている。

 一つには、繁殖活動を行う個体と行わない個体がカーストとしてはっきり分かれていること。
 一つには、共同して子供の養育を行うこと。
 一つには、複数の世代に渡って共同生活を営むこと。

 少なくともこの三点、特に不妊の個体が存在する事が重要な要素となる。
 繁殖個体は目的にあわせて数多くの子を生む。
 生むだけで、育てない。子を育てるのは、ある程度育った他の子供。その中でも労働カーストに育った個体だ。
 兵隊カーストも育児や餌集めには参加しない。その代わりに、巣穴の防衛という重要な任務がある。

 この巣穴に暮らすゆっくりの群れも、まさにその真社会性に区分される成り立ちから形作られた群れだった。
 辺境にしか住まない上、地中でその生活の大半を過ごす生態のために、一つの群が大きい割には人にはその存在を知られていない。
 ゆっくり達も、辺境地域の群れ以外はあまり知ることはないだろう。
 実際、不幸にして中央から流れてきたあのれみりゃの家族はこんな存在を知らないがために、安易に彼らが支配する領域に
住居を構えてしまったのだ(もちろんこの地にも彼らの巣の先住者のように、家族単位で暮らすゆっくりも多くいるのだが)。
 全てのカーストに属するゆっくり達が、ほとんど例外なく目的別に産み分けられた親族だ。真社会性を持つゆっくり種は、女王が
どの種であるかに関わりなく、作業目的によって子を産み分けられるらしい。
 働きゆっくりはれいむやまりさ、ぱちぇりーやちぇんなどに。
 兵ゆっくりはめーりんやみょん、より上位の個体としててゐやうどんげに。
 昆虫や鼠に比べれば多少の知恵を持つゆっくり独自の特徴的な例として、知的労働階級としてえーりんが存在する。
 そして繁殖階級即ち女王として――まあ、この巣では女王はおらず、ひたすらに怠惰な姫君が代わりに君臨しているのだけれど。




「ひめさま」
「ゆっ。えーりん、ゆっくりしなさい。おいしいれみりゃはてにはいった?」

 報告に入るなり、奥の間から掛けられた言葉に側近のえーりんは脱力する思いだった。
 もともと、この冬場に働きゆっくりと兵ゆっくりを大勢繰り出してれみりゃ狩りなんぞを試みたのは、完全にこの引き篭もりの姫君が
唐突に言い出したわがままのせいである。
 最大で数千にもなるこの種のゆっくりの巣だが、通常種でも同種を捕食するようになる特性にあわせて、枯れ葉と排泄物を混ぜ合わせた
『畑』で巨大キノコを栽培するなどして食料状況に問題はないのだ。
 ……支配者の気まぐれでこの手の贅沢を言い出さない限りは。
 普段はほぼ先天的に自由意志を奪われた働きゆっくりの姉妹を馬鹿にしながらも、こういう理不尽に付き合わされる時ばかりは
自由意志があるばかりに直面させられる悩みに苦しむえーりんである。

「ゆっ、今はそれどころじゃないの。じゅんかいの『つきのししゃ』が、よそのむれにこうげきされたのはおぼえてる?」

 目標を捕獲した、という情報は入っていたが、えーりんはとりあえずその問い合わせを一蹴した。
 れみりゃを捕獲したうどんげとてゐの狩猟部隊が、同時にもたらした報告のほうが何倍も重要だったからだ。
 つきのししゃ――かぐやの巣では、兵ゆっくりはそう呼ばれる。冬場であるにも関わらず、縄張りの巡回に借り出された『ししゃ』が
正体不明のゆっくりに襲撃されたのは、一週間ほど前のことだった。
 正確には最初に次々と襲われたのは働きゆっくりで、兵ゆっくりは生き残りの連絡を受けて見回りに出かけたところを襲われたという
順番である。
 ただ、地上に出かけた働きゆっくりが天敵に襲われて連絡を絶つなんて事はいつものことなので、生き残りの報告が出るまで誰も問題
だとも思っていなかっただけだ。
 この群れのゆっくり達は、かぐや種とえーりん種以外の生命の維持に関心を払わないのである。

「ゆぅ? おぼえてるけど……もこうのしわざじゃなかったの?」

 そのことは、かぐやもまだ覚えていた。しかし、同時にすでに解決したものだとも思っていた。
 このかぐやの巣から森を一つ挟んだ向こうに、やはり真社会性を持ったゆっくりもこうを女王とする群れの巣穴があった。
 かぐやの群れとは代々縄張りを巡って対立し、何度かお互いの巣の奥深くにまで攻め入るほどの激しい戦い――増えすぎたゆっくり
人口の調節という側面を強く持つ――を交えた宿敵と呼ぶべき相手だ。
 お互いに同等の勢力を持つ群れである為に、屋外の戦いで勝利しても相手の巣穴を攻め切るまでには至らないまま泥沼の抗争が続いて
いる両者が、そろそろ前の戦いから随分時間が経っている。
 そろそろあちらの動きがあってもおかしくない頃合だから、どうせまた小競り合いでも起きたのだろうと思っていたのだが。

「それもかのうせいとしてはきえていないけれど……」
「ゆぅん。べつのよそものがみつかったのね」

 言いよどむえーりんの様子に、かぐやはその先を察して面白そうに口の端に笑みを灯す。
 かぐやもえーりん同様、ゆっくりにしては知性の高い種だ。普段は何事にも面倒くさがりな正確が災いして通常種ゆっくり以下の
鈍重さを見せるのだが、興味が沸いたことには積極的になることもある。

「どこからきたかしらないけど、ながれゆっくりをみつけたわ。ドス、とかいうまりさがじょおうらしいの」

 ドス、という言葉を口にした時、えーりんはまるで知らない未知の何かについて話す人特有のあいまいな表情をした。
 ゆっくりかぐやにしても、人間が首を傾げるように頭部しかない体をやや右に傾けて、聞きなれない言葉が意味する所を探りあぐねている。
 二匹は『ドス』が何を意味するか知らなった。通常のゆっくりと異なる習性に生きる彼女たちに、ドスとなる個体は存在しない。
 繁殖種はゆっくりを他のゆっくりさせる存在ではなく、他のゆっくりにゆっくりさせられる存在だからだ。
 だが、群れの経験が培ってきた知識としては知らずとも、どこかざらついた感覚が『ドス』について思うたびに餡子脳を這い上がる。
 なにか、ゆっくりとしての本能というべき部分が二匹に強く訴えかけていた。それと戦うべきではないと。
 それはただ大きいだけではない。まともに正面から戦ってはいけない存在だ。
 戦いを挑めばゆっくりできなくなってしまうかもしれない、と。

「……ゆぅ。どうせふゆなんだし、ゆっくりしすぎたやどなしなんてほっておいてもいいんじゃないの?」
「いいえ、ながたびでよわってるみたいだもの。いまたたかったほうがらくにかてるわ」

 だがその本能から来る警告が二匹に齎した結論は、まるで正反対のものだった。

 即ち、根が怠惰なかぐやが選んだのは、いずれ消え去るだろう存在をはじめから無視するという選択肢。
 即ち、根が慎重なえーりんが選んだのは、或いは生き延びるかもしれない存在をあらかじめ除去するという選択肢。

 どうして、とは聞かない。理由ならお互いわかっているから。
 相反する結論を得た二匹はお互いにしばし無言で見詰めあい、沈黙の中に相手の反応を待ち続ける。

「……ゆゆ。わかったわ、えーりんにまかせる」

 ……ほどなく、先に折れたのはかぐやだった。
 この群れの『ひめさま』であるかぐやの役割は、考えることでも決断をくだすことでもない。それはえーりんの役割だ。
 だから、かぐやはえーりんの判断にことを委ねた。

 そうだ。群れでのかぐやの役割は、知的労働ではない。

「わかりました。ではひめさま……なにを?」

 兵ゆっくりや働きゆっくりに新たな指示を出す為、ひめの間を辞去しようとしたえーりんが、当惑を隠さぬ声で問うた。
 それもそのはず、いつの間にかえーりんのすぐ側に寄り添ったかぐやが彼女の頬を甘噛みしてきたからだ。

「ゆっくり、していきなさい」
「かぐや、いまはそんなこと」
「ちいさいけど、いくさなんでしょう?」

 かぐやは、繁殖相手としてえーりんを求めているのだ。このゆっくりできそうにない忙しい時に。
 えーりんもこの世代が一つ下の主君とは、もう長い付き合いである。呆れと共に姪の意図を理解して、とんっと軽く突き放す。
 だが窘めようとするえーりんにさらに体を寄せて、ゆっくりの姫君は蕩けるような笑みを血縁でいえば叔母にあたる腹心へと向ける。

「ししゃのかずがへるぶん、かわりをつくっておかないと……ね?」
「……もう、かぐやったら」

 かぐや種は同種に働く強力なフェロモンを持つという。
 それでなくともかぐや種と強い相互依存性で結ばれたえーりん種が、その誘いを拒むことはゆっくり離れした知性をもってしても難しい。
 それ以上えーりんは拒絶の言葉を口にすることなく、かぐやを受け入れた。



 ヒカリゴケの燐光の中、二匹の影が一つに重なる。
 明日には多くの働きゆっくりの実が、かぐやが長く延ばした茎に連なるだろう。
 そして巣は何事もなかったように日常を続けるのだ。

 一握りのゆっくりを、ひたすらに他のゆっくりがゆっくりさせ続けるだけの日常を。


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最終更新:2022年04月11日 00:08