ここは地獄だ。
だから、ここは暗く、怨嗟に満ち、絶望に塗れている。そこに光など決して降り注がない。いつだってそんなものは、頼りなく消えてしまう。そしてそんな世界だからこそ、最悪の声が届けられる。
「これから殺し合いをしてもらう」
それは耳に留まる言葉だった。そしてここにあっては、それが当然の理、誰もが抗えぬ自然の摂理。もしそれに不満の声をあげる者がいるとすれば、それは世界の規定を知らぬ物狂いか子ども。現に真っ先に否定の句を告げたのは、背も低く、顔も幼い子どもだった。
「大魔王バーン! 俺たちをこんな所に集めてどういうつもりだ!」
「久しいな、竜の騎士ダイよ。だが、人の話を聞かないというのは、余り感心はせん。余はそちらに殺し合いをしてもらう。そう言ったのだ」
「そんなことを聞くとでも思っているのか!」
「そちの意志などは関係ない。そちらは余に黙って従っていれば良いのだ」
闇に覆われるドス黒い空間に、突如と明かりが灯される。それは竜の騎士ダイの竜闘気。殺し合いという道理に向けられる純然たる怒り。光り輝くそれは温かく、漆黒を純白へと瞬く間に染め上げる。更に後ろから追随するかのように新たな闘気の光がダイに当てられた。
「僕も加勢する!」
「ノヴァ!」
ノヴァと呼ばれた者の手にある剣も闘気によって眩く発光した。ダイも自らの剣を輝かせ、いざ二人で大魔王バーンに攻撃を加えんと迫る。だけど、言っただろう。ここには光などない、あってもそれはすぐに消えてしまう、と。それは紫に妖しく染め上げられた雷だった。その神鳴は、瞬時に二人に襲い掛かり、光を呆気なく霧散させた。
「バーン様、お怪我はありませんか?」
「プレシアか……そちの忠誠は嬉しく思うが、それが過度となれば侮辱ともなる。余があの程度で、傷を負うとでも思ったか?」
「も、申し訳ありません、バーン様」
光は消え、再び暗闇が辺りを支配する。そしてそれはより暗澹たるものだった。何故なら今度は黒の色に加えて、血の匂いと焼け焦げた肉の不快な臭気が、そこに立ち込めていたのだから。
「ノヴァ! 大丈夫か!? 頼むから、返事をしてくれ!」
竜の騎士ダイは傍らに横たわるノヴァの必死に声をかける。ノヴァが発した光など、所詮は嵐の夜の小さな松明のようなもの。ダイのように力強い光明ではない。ノヴァは、その身で余すことなく攻撃を受け、その命の灯火は今まさに消えんとしていた。
「どけ、ダイ! 俺がベホマをかける!」
新たな光が、ノヴァを再び包み込む。それは命を慈しみ、守らんとする尊い光。それは何よりも眩しく、全ての人の目を奪う。そしてだからこそ、ここは地獄なのだ、と誰もが気づかされた。
パチンッと、バーンの指を鳴らす音が、暗がりの中で静かに木霊する。
それは終焉の角笛よりも、なお恐ろしいもの。それは北斗七星の脇に輝く蒼星よりも、なお残酷なもの。次の瞬間、ノヴァは胸を押さえて苦しみだした。耳を閉じたくなるような絶望に満ちたうめき声。それはまるで魂の奥底から搾り出されるような、悲痛な叫び声だった。
やがてノヴァの口から、血の塊が吐き出される。一度、二度、三度。そして彼の息は途絶え、静かになった。そう、彼は死んだのだ。神聖なるベホマの残光の下で、誰もがそのことを否応なしに知らされた。
「バーン! よくもッ! よくもノヴァをッ!」
「そう急くな、竜の騎士ダイよ。そちを含め、ここいる参加者たちには、先ほど死んだ者と同じ禁呪を施してある」
「き、禁呪だと!?」
「己が胸元を見てみるがよい。そこに証拠がある。そしてそれは余の意志一つで、そちらの魂を食い破り、死へと誘うものだ」
そう、ここは地獄なのだ。光などない。ここからは誰だって逃げられない。
「そちらには一日分の食料、一枚の地図と名簿、そして一つの支給品を渡そう。なに、そう案ずることはない。武器を持たねば、戦うことが出来ないという者には、そちらの愛用の武器を別途に渡す。また六時間ごとに死者の名前と禁止エリアを発表させてもらう。禁止エリアに入った者には、そちらの首にある禁呪が発動する仕掛けとなっている。 勿論、そこにいる愚か者のように余に歯向かえば、同じように発動する。そのことはゆめゆめ忘れるな」
だから、その言葉を受け入れるより他はない。だから、殺し合うより他はない。
「最後の一人になるまで殺すが良い。その者には、この先を生きる権利と何かしらの褒美も与えよう。さあ、とくと殺し合え」
何故なら、ここは地獄なのだから。
【ノヴァ@DRAGON QUEST-ダイの大冒険 死亡】
最終更新:2013年02月17日 22:31