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バーンの放送の声を聞いて、まず阿部に訪れたのは後悔だった。
リンゴォほどの男なら上手く立ち回ってくれるだろうと信じて、裸のままで置き去りにしてきてしまったが、その結果は最悪なものとなってしまった。
己の迂闊さ、見込みの甘さに嫌気が差す。自分の愚かな状況判断によって、一人の男を殺してしまったのだ。
その否応なしの事実が、阿部の心を苛んでやまない。


勿論、バーンの言うことを嘘だと決め付けて、自分の失態から目を逸らすのは楽なことだ。
そうすれば、自分が背負うべき責任は、全くの無しになる。これほど気安いことはあるまい。
だけど、多くの人を連れ去り、まして殺し合いを強いる輩が、この段になって虚報を流すなど、どう考えても不自然なことだった。
死の否定に繋がるような事実を残せば、それはバーン自身が掲げたお題目の意味が空虚なものとなる。
あれほどの力を持つ者であれば、わざわざそのような馬鹿なことをするはずもないだろう。
阿部はその結論と共に、己の身に降りかかる命の重さを噛み締めた。


「しっかし、寺生まれのアイツの名前は、結局分からずじまいか……まさかTさんっていうのが、本名じゃないよな?」


悲壮感が渦巻く中だったが、溜息と共に思わず阿部は愚痴を零した。
責任を感じるのはいいが、悲嘆に暮れていては、受け継いだ寺生まれの魂まで、無為なものとしてしまう。
そうしてもう一つの責任に頭を向けて気になったが、自らに全てを託して逝ってしまった寺生まれの青年であった。


バーンの放送と名簿にある名前を確認して、該当しそうなのは「寺生まれのTさん」だけだ。
自分の生き方を決定的に変えてくれた人物の名前ぐらいは、心に留めておきたい。そういった思いがあっただけに、どうにもやるせなさが残ってしまう。
尤もそんなことに拘泥する暇もないほど、この状況――バトルロワイアルは差し迫ったものがあるのだ。
前に進むための一歩を躊躇っていては、それこそ寺生まれのTさんが守ろうとしていたものに唾を吐きかけてしまうこととなる。
リンゴォ、寺生まれの青年に対するやり切れなさを脇に押しやり、阿部は勇んで足を動かしていった。



      ――

   ――――

     ――――――――



学校……なのだろう。目の前にある建築物を見て、阿部はいよいよ憂慮の念を露にした。
四階建て鉄筋コンクリートの校舎の至る所に、人が通れるくらいの大きな穴が開きまくっているのだ。
崩壊を思わせるような危なっかしさがあることから、元からそういったデザインだったとは考えられない。
またわざわざ主催者側が、参加者のために用意した施設を、こんな初っ端から破壊するということもないだろう。
ということは、この下手人はバトルロワイアルの参加者となる。


ただの人間が、例え武器を持っていたとしても、校舎をこのように壊すことなど可能なのだろうか。
笑って否定してやりたいところだが、既に阿部は人知を超えた超常現象を、その身一つで起こすことの出来る存在に出会っている。
だとしたら、本当に恐ろしいことだが、単騎で漫画やアニメ出てくるような馬鹿らしい現象を起こす化け物がいる可能性も十分にあるということだ。
それを理解した阿部は警戒の念を強めて、まだその当人や被害者がいるかどうか、入念に校舎の探索を始めていった。


「にょほ♪」


しばらく校舎の廊下を歩いていると、穴の開いた壁から、太った何かが阿部の前に転がり込んできた。
マーダーの登場を考慮していた阿部は、緊張のあまりか、堪らず唾を飲み込む。


「ゴクリ、これはまた……」

「……これはまた?」

「美味しそうなブタじゃないの」

「誰がブタかあああぁぁぁーーーーー!!」


その言葉と共に阿部にドロップキックをかましたのは、ニャンコ先生であった。
阿部の放つ強大な霊気の存在に感づいたニャンコ先生は、これは自らの探し人かもしれぬと、学校に立ち寄ったのである。
そしてお出迎えとなった言葉が、己の誇る美しさを無情にも否定するものだ。
ニャンコ先生は怒り心頭となって、阿部の歓迎に抗議を行った。


「よ、よりにもよって、この高貴で美しい私をブタだとおお!? ええーい、貴様の眼は腐っておるのか!? どう見ても、プリチーなネコであろうがああぁぁ!!」

「ウッ……ネコ? すまんすまん。腹が減っていたし、あまりに美味そうなものだったもんでな、つい」

「謝罪になっておらんわぁ!! 美味そうなネコがいてたまるか!! 鬼か!? 貴様は鬼なのか!?」


ニャンコ先生は唾を吐き飛ばしながら、声高にののしる。
そしてそのままニャンコ先生は勢いに任せて、阿部の顔を殴りつけようとするが、夏目貴志とは違う阿部の太い腕が、ニャンコ先生の首根っこを掴むことになった。 


「ええーい、放せ! 放さんかああ!! 私は美味くないぞー!! だから、放せえー!!」


宙ぶらりんのまま、食われてたまるか、と必死にジタバタと騒ぐニャンコ先生。
そしてタプンタプンと動くニャンコ先生のふくよかなお腹を見せられた阿部はまさか、と疑問を口にした。


「その胸の印……参加者ってわけか? ブ……ァじゃなくて、ネコなのに?」

「貴様ァーー!! 今、何て言おうとしたーー!! ブって聞こえたぞ、ブって!! そこになおれ、人間!! この私手ずから成敗してくれる!!」


ニャンコ先生は怒りに任せて、短い腕で遮二無二なって何発もパンチを放つ。
しかし哀しいかな、真っ直ぐに伸ばされた阿部の腕は、ニャンコ先生のより遥かに長い。
ニャンコ先生の抵抗は、全て虚空へとすかされてしまった。
その振る舞いこそ、獰猛であり、またバカらしいものであったが、同時に人間のように感情豊かでもある。
阿部はそのことを面白く思いながら、柔らかにニャンコ先生に話しかけた。


「ネコのお前さん」

「にゃんだ、人間、その生温かい目は!! この私を舐めるなよ! 私がちょーーッと本気を出せば、お前など一ひねりなのだぞ!」

「分かった、分かった。それでこの穴だらけになった学校の惨状は、お前さんの仕業かい?」

「フン、私がそれほど暇そうに見えるか? こんな疲れるような真似は一々せんわ!」

「……出来ない、とは言わないんだな。参ったな、こりゃあ」


本当にとんでもないことに巻き込まれてしまったもんだ、と阿部は頭の後ろを掻きながら、重い溜息を吐いた。
化け物が一匹ということであれば、受け継いだ寺生まれの力で何とか対処のしようがあったかもしれないが、何体もいるとなれば、話は別だ。
当初は周りに迷惑をかけないよう独力で全てを解決すると考えていたが、脅威が増えれば、到底一人でどうこうなる問題にはならないだろう。
となれば、この殺し合いの打破するに当たって、仲間との協力が不可欠となってくる。
その結論に達した阿部は申し訳ないと思いつつも、手の中でジタバタと暴れている太ったネコに再び話しかけることにした。


「そういや、お前さん、このバトルロワイアルについて、どう思っているんだ?」

「……何故その質問に答えてやらねばならんのだ?」


ふんぞり返った態度に、実にふてぶてしい顔。余人であるならば、それこそニャンコ先生をブン殴りたくなる衝動に駆られるだろう。
しかし、今そこにいるのは、イイ男の阿部である。彼は言外の意味を巧みに察知すると、ニャンコ先生から手を離し、自らのデイパックを開けた。
そこから取り出されたのは、ランダム支給品の箱入り饅頭16コ。それを目にしたニャンコ先生は、先とは打って変わって喜色に富んだ声を発する。


「おおおーー!! それは七辻屋の饅頭ではないかぁぁーーーー!! 寄こせぇぇーー!!」


よだれを撒き散らしながら、ニャンコ先生はジャンプして饅頭に手を伸ばしてくる。
しかし、阿部はそれを予期していたかのように、その饅頭をひょいと上に上げることでかわす。
その残酷無比な所業に、ニャンコ先生は身の張り裂けそうなほど哀切じみた声で怒鳴り散らした。


「おのれえ、卑怯だぞ、人間! 七辻屋の饅頭を人質に取るとは!!」

「まあ、そう怒りなさんな。ちゃんと質問に答えくれれば、饅頭くらいくれてやるさ」 

「本当かあ!? 本当だな、人間!!?」

「あ、ああ、俺は嘘は吐かないさ。それでこのバト……」

「……興味ない! さあ、答えたぞ。さっさと饅頭を寄こせ、人間」


そんなに食いたいのかよ、と半ば呆れつつ、阿部は律儀に饅頭を一つ、ネコに放り投げてみる。
目にも止まらぬとは、こういうことを言うのだろうか。饅頭が手から離れた次の瞬間には、もうニャンコ先生の口に収まっていたのだ。
げに恐ろしきネコである。そういった感想を胸に、ニャンコ先生が饅頭を食い終わるのを確認すると、阿部は続けて質問を発した。


「じゃあ、誰かを殺すつもりはないんだな?」

「フン、そんな面倒くさいことなどせんわ。まあ、この大妖たる私に愚かにも刃向かってくるというなら、話は別だがな」

「それは重畳。じゃあ、話を続けるが、お前さん……」

「……待て。その前に饅頭だ。ちゃんと質問に答えたぞ♪」

「あ、ああ」


ヒョイッと放り投げて、パクッと食いつく。芸術的とも言える無駄のない流れだが、感心ばかりでは終えられない。
阿部は再び口を開こうとする。が、それは僅か一言も発する暇もなく、ニャンコ先生に呼び止められることになった。


「人間……貴様の言いたいことぐらい分かる。大方、バーンを倒すのに協力しろというのだろう?」

「まあ、そうだが……その調子じゃ、あまりいい返事は聞けそうにないな」

「最初に言ったろう? 私は暇じゃないと。それにな、人間、貴様は大きな勘違いをしておる」

「へー、それは何だ?」

「バーン如きを倒すのに誰の協力もいらん。それはこの私一人で十分可能なことだ。こうちょちょいのちょい、とな」


どうだ、と胸を張り、視線に相手を射殺すかのような覇気を伴う姿勢は何とも頼もしい。
しかし、それを一から十まで肯定するには、どうしても無理な疑問点が阿部の中に思い浮かんだ。


「それじゃあ、お前さん、バーンより強いというのなら、何故こんな所にいるんだ?」


たらり、とニャンコ先生の額から汗が零れ落ちる。毅然としていた目も、今は虚ろにさ迷っている。
そういえば、ニャンコ先生の口の周りには饅頭の餡子がついており、頼もしいどころか、情けない姿であった。
まあ、答えは言わずもがなである。


「人間! 貴様ァ、信じておらんなあ! 私がここにいる破目になったのは、ほんのちょっとばっかし油断したからに過ぎん。それにだな、私は夏目の用心棒をしてい……」

「……分かっているさ。そういや、朝飯がまだだったな。お前さんが、美味そうに饅頭を食っているところを見たら、俺も腹が減ってきちまったよ。
で、物は相談だが、一緒に飯でも食わないか? これからの親睦を深めるついでにな」


惨めな言い訳を捲くし立てようとしたニャンコ先生を制して、阿部は朝食への誘いの言葉を投げかけた。
あのままでいたら、ニャンコ先生は余計な醜態を晒していたかもしれない。しかし、阿部は相手のことを思いやれる実にイイ男なのである。
そのことを察したニャンコ先生はプイッと横に顔を向けながら、阿部に向かってしっかりと呟いた。


「ふん、そこまで言うのなら、一緒に食べてやろうではないか。せいぜい感謝をするのだな、人間!」

「あいよ」


阿部は温和な微笑でニャンコ先生の台詞を受け止め、朝食を食べるべく、再度自らのデイパックを開いた。



      ――

   ――――

     ――――――――



お互いの話を交えながらも、ニャンコ先生はガツガツと音を立てて、物凄い勢いでご飯を食べ漁っていった。
阿部が自分のためにと用意した朝食の半分は、ニャンコ先生の胃袋の中に消えた。勿論、ニャンコ先生の分は、別に用意したのにだ。
その健啖ぶりは呆れはするものの、ネコという人間より小さな身体のことを考えると、やはり感心せざるを得ない。
そうして阿部が目を丸くしていたのに気がついたのだろう。ニャンコ先生は、そういえば、と語りかけた。


「今更だが、阿部よ、私が人間の言葉を喋るのに驚かないな?」

「本当に今更だな。まあ、こんな所に連れ去られたことを初めに、色々と妙な超常現象を、実際にこの目で目の当たりにしちまったからな。
ネコが話す。それくらいのことなら、もう普通に受け入れられるさ」

「ふむ、もう少し人間の身勝手な常識に固執するのが、人の常なのだがな。まあ、それほどの霊力があれば、不思議ではないか」

「あ~、ありがとう……なのか?」

「別に褒めておらんがな。それで阿部よ、これから先、貴様はどうするつもりなのだ?」

「それなんだが、お前さんの人探しを手伝おうと思っているんだが……迷惑か?」

「ふん、足手纏いがいるのには慣れたことよ。しかし、あやつらに会ったところで、別に貴様の目的の助けになるとは思えんがな」

「いや、大丈夫さ。ポルポルだったか? 話を聞いただけだが、そいつからイイ男の気配を感じる。きっと俺を熱く満足させてくれるに違いないさ」


ニャンコ先生が語ったポルナレフ。確かにニャンコ先生の視点からでは、ポルナレフの格好いいところは伝わってこなかった。
しかし、数々の益荒男を見て、食べてきた阿部の勘は、確信に近い形で伝えてきてくれる。ポルナレフはイイ男なのだ、と。
対面するニャンコ先生をよそに、阿部は鼻息荒く、まだ見ぬポルナレフへとマグマのように熱く、滾る想いを寄せた。




【一日目 朝】
【現在地 D-5 学校】
阿部高和@くそみそテクニック】
【状態】健康、ムラムラ
【装備】寺生まれのTさんのお守り@寺生まれの先輩Tさんのまとめ、釣り糸のサラシ
【道具】リンゴォの銃@ジョジョの奇妙な冒険(残弾 1/6)、七辻屋の饅頭@夏目友人帳(残り14/16)、武器支給品、支給品一式
【思考】
 基本 殺し合いの打破
 1. ポルナレフを探す
 2. 殺し合いを打破するための仲間を探す
【備考】
※寺生まれの魂を受け継ぎました
※寺生まれのTさんの全霊力を受け取りました


斑(ニャンコ先生)@夏目友人帳】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】武器支給品、支給品一式
【思考】
 基本 夏目を連れてさっさと家に帰る
 1. ポルナレフと夏目貴志を探す
 2. 禁呪の解呪



【支給品情報】
  • 七辻屋の饅頭@夏目友人帳
夏目レイコ、ニャンコ先生が太鼓判を押す老舗和菓子屋の饅頭。箱入りで16コ。



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64:The Rose 阿部高和 :[[]]
61:Against All Odds 斑(ニャンコ先生) :[[]]




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最終更新:2013年03月27日 23:08