「ヒャハハハ!! 切れろ、切れろぉ!!」
ユダの怒り心頭の叫びと共に、真空波が地面を伝い、なのはに襲い掛かった。
魔力や妖気によらない不可思議な物理現象。その正体こそ、南斗紅鶴拳 伝衝裂波。
目にも止まらぬ高速で手刀を振り上げる事により、真空波を発生させ、遠方にいる敵の体を切り刻むという恐るべき技だ。
だが、その手法がどれだけ凄まじかろうが、その威力はカマイタチのように肉の表面を切る程度のもの。
それではなのはが纏う魔法の防護服――バリアジャケットを破るに至らない。
それを瞬時に見破ったなのはは、ユダを僅かに一瞥するだけで、鴉に向き直り、声をかけた。
「ねえ、あなたの名前は何ていうの!? 私の名前は高町なのは!! あなたの名前を教えて!!」
なのはの声に続いて、爆音が連続して響き渡った。なのはの魔法と鴉の攻撃が、またしてもぶつかり合ったのだ。
敵意で満たされた鴉の行動に、堪らずなのはの顔に苦渋が広がるが、それでも負けじと彼女は声を振り絞る。
「ねえ、私の言っていること、聞こえる!? 私が訊いていることって、そんなに難しいことかなぁ!?」
「この世で最も美しく、強いのは、おれだ!! そのおれから目を背けるなああぁぁーー!!」
鴉に必死に語りかけるなのはの声を遮るように、ユダが爆発の煙に紛れて、突如と彼女の眼前に出現。
今度は真空波などという生易しい物ではなく、名刀をも超えた切れ味を持つ南斗紅鶴拳の手刀を放つ。
しかし、なのははそれを高速移動魔法――フラッシュムーブでユダの背後へと一瞬で退避してのける。
「ユダさんも話を聞いて!!」
怒号のように、なのはは声の限りを尽くして叫んだ。
だけどユダはそれを無視し、まるで鴉を倣うように、なのはへ奥義を見舞う。
空気を切り裂き、押し迫るそれを、なのはは間一髪とばかりにフラッシュムーブで上空へ回避。
そして鴉とユダの行動を「答え」として受け取ったなのはは、状況を悲観するでもなく、決意も新たに毅然と二人を見据えた。
「二人とも、分からず屋さんなんだね!! だったら、私も頑張るよ!! 二人が話を聞いてくれるまでッ!! 全力全開でッッ!!」
なのはの言葉を追従するようにレイジングハートが点滅。そして鴉とユダを中心に、ピンク色に輝く幾つものが輪が現れた。
今までと違って攻撃の気配を漂わせない魔法に、彼らは僅かに首を傾げる。しかしその次の瞬間、その輪が急速に狭まり、二人を力強く締め付けた。
レストリクトロック。上位に位置する拘束魔法であり、また最初期から練習を積み重ねてきたなのはの練度もあり、優れた魔導士でも脱出は困難な代物だ。
そしてその強固な光の輪に捕らえられ、身じろぎ一つ出来ない二人に向かって、なのははレイジングハートの杖の先を向けた。
「ディバイーーーーーン」
『Divine』
なのはの声を合図に、膨大な量の魔力が杖の先端に集まり出した。
力の質は彼ら二人の知識の外にあれど、そこに秘められた圧倒的な破壊エネルギーは容易に察せられる。
そして顔を蒼ざめさせたユダと鴉に向かって、なのはは何の遠慮も無しに、溜め込んだエネルギーを解放した。
「バスタァーーーーーーーーーー!!!!!」
『Buster』
ピンク色の強大な光の帯は、瞬時に二人を飲み込んでいった。
平和的解決を望もうとするなのはの猛然たる意志を示すように、破壊エネルギーは大地を穿ち、土砂を空高く巻き上げ、大きなクレーターを作り上げる。
三人による混沌とした戦場は、なのはのたった一発の砲撃によって、落ち着きを取り戻したのである。
といっても、なのはは何も殺人によって、場を収めたのではない。
会場を襲った惨状を考慮すれば、そう思われがちだが、彼女が使用する魔法は非殺傷性であり、物理破壊を伴えど、生命には何ら危険性を与えないのである。
彼女の攻撃魔法がもたらすのは、あくまで魔力や体力といったものへのダメージ。故に鴉とユダが地面に転がっているのは、単にスタミナを削られたからに過ぎない。
これにて万事解決。なのはの頬は目の前の結果に思わず緩んだが、残念なことにそれもすぐにまた引き締められることになった。
一人の男――鴉は乱れた髪を直しながら、何事もなく立ち上がってきたのだ。
「……美しい花には、棘があるということか。確かにそれは可憐ではあるが……やはり脆弱だ」
鴉の声が空気を伝わって、先程よりも良く聞こえてきた。が、それも当然だろう。
鴉の口を覆っていたマスクが、なのはの攻撃により、どこかへと吹き飛んでしまったのだから。
露になった鴉の唇は、なのはを嘲るように妖しく微笑む。
対するなのはは、今度こそ話し合いに持っていこう、とレイジングハートを力強く構え、より一層気力を充実させいく。
小揺るぎもせずに真っ直ぐと注がれる視線。その顔に表れた意気込みは、必ずや彼女の意志を実現させるであろう。
そう思わせる力が確かにあったが、彼女を邪魔するように一つの声が会場となる島に響き渡った。
このバトルロワイアルを主催する大魔王バーンの
第一回放送である。
何を喋るのだろうか、と両者は一旦矛を収め、放送に耳を傾ける。
だが、その判断は
高町なのはに決定的な隙を与えることになった。
死者を告げるバーンの口から、あろうことか彼女の親友であるフェイト・T・ハラオウンの名前が聞こえてきたのだ。
『Master! Behind you!』
なのはが死の知らせに自失しているところに、突然とレイジングハートの警告が響く。
僅かに残った理性がなのはに働きかけ、彼女を振り向かせるが、それはレイジングハートの悲痛な叫びを無意味とするような、あまりに緩慢な動作であった。
「闘いの最中に呆けるとは……所詮は子どもか」
眼前に現れた鴉はレイジングハートを取り上げる同時になのはを地面に叩きつけ、その小さな背中を踏みつけた。
電光石火の早業ではあったが、それは本来のなのはのであれば、十分に対応できたものだ。
従って、この結末は彼女の不注意によるものに他ならない。しかし、それでもなのはの心中に湧き上がるのは後悔ではなく、言いようのない空虚な寂しさであった。
――死
そんな筈はない、となのはは土を噛みながら、心の中で何度も否定の言葉を叫ぶ。
念話をすれば、きっとフェイトの明るい声が返ってくるはず。きっと彼女は生きて、母親との再会を願っているはずなのだ。
なのははそんな藁に縋ってみるが、肝心のフェイトに声を届けるどころか、魔力のラインすら繋がる気配がない。
何度やっても、どれだけやっても、ありったけの魔力を念話に注ぎ込んでも、フェイトへ繋がらない。
その事実を前にして、唐突に高町なのはは理解してしまった。もうフェイト・T・ハラオウンは、「ココ」にはいないということを。
彼女と一緒に過ごした学校生活、一緒に遊んだゲーム、一緒に笑いあった日々。それらはもう過去の遺物となり、未来には永遠に築けない。
これからも一緒になって記憶の中に彩られるはずだった当たり前の日常は、フェイトの消失と共に、この世から全て無くなってしまったのだ。
あるべきものがない。ただそれだけで、なのはの心にポッカリと穴が開き、深い喪失感を彼女にもたらした。
高町なのはからは戦闘意欲が消え、代わって無気力が支配する。
確実であった未来が消えるに伴って、彼女はそれへ続くはずだった今という時間に対して、努力する意義を見失ってしまったのである。
「やはり太陽のように輝いていた顔の方が美しかったな。が、安心しろ、なのは。もうこれ以上その顔には傷をつけん…………死ね」
陰鬱としたなのはの顔を目に留めた鴉は溜息一つ零し、もうこれ以上は日を翳らせん、と彼女に死の餞別を贈った。
たちまち音を立てて、鴉の手の平から爆発が生じる。それは子ども一人を殺すのに十分なものだったが、不思議と鴉の舌打ちが鳴り響いた。
いきなり飛んできた真空波が鴉の右腕を切り裂き、肝心の爆発はなのはの横の地面を抉るだけで終わってしまったのだ。
鴉は腕から流れる血を一瞥してから、忌々しげに傷の下手人――ユダを睨む。
「まだいたのか、不細工が」
「フッ……フハハハハ!! その様子……勝ったつもりでいるのか、愚か者が!! 既におまえの技など見切っているわ!!
南斗六聖拳のひとつ南斗紅鶴拳!! フフフ……おのれに立ち向かった者の血で身を染めた美しき鶴!! 今からおまえら全員、おれの拳で切り刻んで、化粧をしてやる!!」
鴉の侮蔑に、ユダは嘲笑で以って答える。そしてそこに含まれる自信は確かなものであると、ユダは己の拳法ですぐに知らしめた。
残像すら残さず振るわれるユダの両腕。旋風のような、凄まじい風がユダの周りを吹き荒れると同時に、鴉が放った必殺の爆弾がユダを遠くにして爆発したのである。
「妖星が告げておるわ! 神がおれを選んだと!」
鴉の技を無効化し、己の勝利を絶対と確信したユダは天に指を差し、陽光に照らされる自らの美を惜しげもなく披露した。
最初の爆傷により、身体は傷だらけであるし、なのはの砲撃により、体力も残り少なくなった。
それでも自らの強さと美しさは、変わらずここにあるとユダは主張する。
「その神は、よほどマヌケと見える。おまえのような醜悪な愚者を、この世に生み出してしまったのだからな」
「クフフフ、おまえがどれだけ吼えようと、所詮は負け犬の遠吠えよ!! おまえの輝きなど、石ころ以下のクズ、ゴミ!! 妖(あやかし)の星には遠く及ばぬわ!!」
鴉とユダは互いに舌鋒鋭く応戦する。
だけど哀しいかな、鴉の言葉には、その内容を立証するだけの攻撃が含まれていたのだ。
「私もおまえの技は見切ったということだ」
手向けとも思われる鴉の台詞が、口から吐き出されると同時に、再びユダの周りで爆発が起きた。
だが、今度はそれだけで終わることなく、ユダの肉体に接触した部分でも、続けざまに爆発が生じたのだ。
弾け飛ぶ血肉。身体にもたらされるダメージと痛みに、ユダは堪らず膝をついた。
鴉が見せた手品の種は、実に簡単なものだった。鴉の能力は、自らの妖気で爆弾を作り出すというもの。
敵を追いかけるもの、敵を捕らえるもの、動きの素早いもの、目に見えないものと言った具合に、鴉の思うがまま、自由自在に爆弾を作ることが出来る。
そして今しがた鴉がユダに向けて放ったのは、空気の流れに反応し、避ける特性を持った爆弾だったのである。
つまり有り体に言ってしまえば、鴉の爆弾はユダの攻撃をかわして、彼に到達したというわけだ。
無論、ユダの攻撃も素早く、鋭いために、全ての爆弾がユダに直撃したというわけでもない。
だけど、それでも一つ一つの攻撃は針を刺した微細な傷なのではなく、爆発による怪我なのだ。
筋肉、神経、骨にまで及ぶその損傷は、ユダの命を確実にすり減らしていっていった。
――
――――
――――――――
ふと目に入る。ふと耳に聞こえる。
閉じ行くなのはの目に、塞ぎこむ耳に、それは割り込んできた。
下手なマリオネットのように身体を躍らせ、苦悶の声と共に血肉を辺りに飛散させていくユダの姿だ。
それを目の当たりにした彼女の目は、瞬時に大きく見開かれた。
彼女の親友にも訪れた死が、再び目の前にやってこようとしているのだ。
途端に彼女の内に、力が湧いて出てくる。その理由は、当初こそなのは自身にも分からなかった。
だけど、その次に行動を起こした時には、もう理解し終えていた。
まだ今は終わってはいないのだから、と。
確かにフェイトの死により、彼女自身の未来は閉ざされた。またフェイトと一緒にいるはずだったなのはの未来も同様に霧散した。
しかしだからといって、全ての道が潰えたというわけではない。世界にはフェイト以外の無数の人が、今を生きていて、明日を待ち望んでいるのだ。
それから目を背けてしまっては、全ての命が無意味なものとなってしまう。どんなに状況が悲惨であれ、親友の死をそんなつまらないものに繋げていい筈がない。
「話を……! 話を聞いてってばあぁぁぁーーーーーー!!!!!」
なのはから、魔法――ジャケットパージが暴風のような勢いで発動された。
その魔法は、バリアジャケットを構成する全魔力を瞬間的に解放し、周囲に対して零距離からの衝撃を放ち、拘束を打ち破るというものである。
それにによりなのはは無防備な状態となってしまったが、彼女を押さえつけていた鴉は木っ端のように宙へ吹き飛ばされ、なのはは無事には自由を得た。
そしてすぐさま対話への手段を、となのはは鴉が手に持つレイジングハートを奪い返そうとする。
しかし、羽のように軽く地面に着地した鴉の口から、なのはの意志を遮るような不穏な台詞が、彼女の耳に入ってしまった。
「醜男を見てみろ」
醜男が誰を指すのかを光よりも早く理解したなのはは慌ててユダへと振り返る。
そしてそんな素直な彼女に向かって、鴉の優しい言葉で説明が届けられた。
「数は40だ。なのは……杖を奪われたおまえにアレが見えるか? 最早、醜男にアレを凌ぐだけの体力はないぞ?」
鴉の言うアレも、なのはには理解できた。
だから、彼女は何ら迷うことなく、ユダに向かって飛んでいった。
勿論、彼女のパートナーたるレイジングハートは大切なものである。
だけど、今失われようとしている命と比べるなら、答えなど決まっている。
「ジ・エンド」
全方位からの爆撃。40も連続した爆発。そこから得られる確固たる二人の死。
鴉は穴の開いた大地から吐き出される濛々とした煙を見つめながら、満足気な笑みを零した。
――
――――
――――――――
目の前の現実を理解した瞬間、ユダの目から涙が零れていった。
なのはの身体にはユダの貫手が突き刺さり、そして殺到する見えぬ爆弾は、なのはとユダを中心として覆った魔法の障壁が、ひび割れながらも、見事に防いでいたのだ。
それほど強固なバリアを張れるのなら、ユダの攻撃さえ、防ぎきってみせてくれただろう。だけど、彼女はそれをせずに、ユダを守るために障壁を広範囲に張った。
そしてあろうことか、ユダはなのはがこちらに高速で向かってきたのを、攻撃のためと受け取ってしまい、彼女に反撃の手を上げてしまったのだ。
バリアジャケットを纏わない彼女の小さな身体に、ユダの丸太の如き腕は容赦なく突き刺さり、血を噴出させる。
なのはは自分を助けるために近寄ってきたことを知ったユダは、血の気の失せていくなのはの顔を慄きながら見つめた。
自分が心から認めた美が、失われていく。そのことにユダは、恐怖と後悔を覚えてしまったのだ。
「ああぁ、なのは……おれは一体何を……」
ユダの悔恨の声と懺悔の涙。
堪らず漏れたそれは、すぐに拭われることになった。
「ケンカは……やめてくだ……い、ユダさん」
腹を突き破られ、腕で宙吊りにされたままのなのはは、その小さな手を精一杯伸ばし、ユダの頬に流れた涙を優しく払ったのだ。
自らの怪我と痛みを省みることなく、他者に心を配る。その慈母の如き姿は血塗れにあって尚、美しいものであった。
いや寧ろ、その美は今こそ本当に輝いていたように思える。何故ならユダの顔から険が取れ、慈愛に満ちた顔が広がったのだから。
「クク……ま、またしてもおれはお前に魂を奪われてしまった。フ……フフフ、だからこそ!! おれはこんな結末は認めん!!
なのは……おれより強く美しい女よ!! お前の輝きは、こんな所で潰えてはならんのだッッ!!!」
南斗六聖拳。それは皇帝の居城を守る六つの門の衛将とされる。今となっては、記憶がかすれる程の遠い昔のことだ。
だが、それは確かな事実として、南斗六聖拳の伝承者に語り継がれている。南斗聖拳は皇帝を守るべき拳法だと。
そして今、ユダの中に眠る伝承者としての血が、声高に叫んだ。目の前の美しく、優しく、気高い少女こそ、守るべきお方だと。
「フッ……なのは、お前は初めて会った時から、このおれの心の中に住み着いた。おれはずっとお前の姿を、美しさを見ていたかった。それこそが、おれがお前を認める証」
なのはに突き刺さった腕を、ゆっくりと、慎重に抜き、ユダは少女の小さな身体を地面に横たえる。
まだかろうじて息は残っているものの、その先は決して長くは無いだろう。
そんな彼女に対して一体何をしてやれるか。しかし、そんなことを考える暇も与えないと、ユダに無粋な鴉の台詞が届けられる。
「茶番は結構だが、些か飽いた。少し予定が狂ってしまったが、まあいい。お前も死ね、不細工!」
鴉はそう言って、妖気を練り上げ、爆弾を生成し、自らの勝利を誇示するかのように、悠々とユダの元に歩いていった。
その爆弾を作る様はユダには見えないまでも、攻撃と死を臭わせる雰囲気は、十二分に伝わる。
だけど、それに抗おうにも、ユダの身体は傷ついていた。度重なる爆発によって、傍目からでも分かるほど身体は損壊していたのだ。
動けないとまでも言わないが、先の戦闘で鴉の攻撃を振り払ったような軽やかさを再現するのは、もう無理なことだろう。
それを誰より知るユダは、悔し紛れに歯を噛み締めた。
「逃げて……さい……」
生を諦めたユダの耳になのはの声が聞こえた。そしてそれと同時に鴉の身体が彼女の魔法――チェーン・バインドによって、再び強固に拘束された。
なのはの口からは血を吐き出され、穴の開いた身体からは依然止め処なく血が流れている。そんな瀕死の状態にあって、まだなのは意思を繋ぎ止め、ユダを思いやったのだ。
再びユダの瞳から涙が零れる。この優しい少女は、何としても守らなければならない。例え命を尊ぶ彼女の意に背くことがあってもだ。
それこそが己の宿命と定めたユダは、なのはの小さな頭を撫でると、魔法の鎖に捕らわれた鴉に向かって、死せる身体に鞭を振り、一目散に駆け出した。
「お前はここで何としても仕留める!! とどめだ!! 南斗紅鶴拳奥義 血粧嘴!!」
その技は怪我によってか、あまりに鈍重なものであった。それこそ往時のユダなら、鼻で笑ってしまうスピードだ。
だけど、そこにはかつての技とは決定的な違いがあった。闘気である。
なのはを想うユダの意志が、未だかつてないほど闘気を湧き上がらせ、ユダの身体を厚く覆ったのだ。
ユダが一歩を足を進めるごとに、闘気は空気を切り、地面を裂き、その鋭さを増していく。
絶対なる死。ユダの闘気の奔流を目の当たりにした鴉の脳裏に思わずそんな未来が思い浮かんだ。
しかし、そんな鴉の口から出てきたのは、不敵ともいえる不穏な台詞であった。
「……俺を本気にさせたな」
その言葉を吐くと、鴉は口から爆弾を生成する火気物質を一気に体内に集めた。
それによって夜よりも尚暗い鴉の髪の色は、金色の髪へと妖しく変わっっていく。
そして十分に溜め込んだ火気物質を、極限までに高めた自らの妖気と混ぜ合わせ、鴉は向かってくるユダに向けて無慈悲に解き放った。
「目障りだ……消えろ!!」
炎と熱を伴った爆風が鴉を中心にして、瞬時に吹き荒れた。烈風が大地を、木を、展望タワーの壁を抉り、その上から高熱の炎が猛然と焼き尽くす。
更に鴉の妖気によって後押しされたそれは、貪欲なってその荒れ狂う範囲を広げていく。鴉が起こした大爆発。
その後には最早鴉と灰燼を残すのみで、木々も展望タワーもユダもなのはも欠片残さず消えてなくなっていた。
尤も圧倒的な破壊現象を引き起こした代償は、鴉自身にも重く圧し掛かるものだった。
妖気の消費、手に入れたかったなのはの死体の消失、そしてユダの奥義による怪我。
僅か一瞬。たったそれだけの時間だったが、ユダの奥義である血粧嘴が爆発よりも早くに鴉に到達したのだ。
その結果、大きなドリルで抉ったかのような穴が、鴉の腹に開いてしまった。
堪らず地面を膝に付き、鴉は息を喘がす。傷口からは血が止め処なく溢れ、鴉を死に追いやろうとしていたのだ。
妖気を集中して治療に専念せねば、それは間違いなく事実となるであろう。なのはを失ったことといい、全く以って忌々しいことだ。
鴉は目に焼き付いてしまった不細工な面構えを振り払うかのように口に溜まった血痰を吐き出すと、瓦礫に背を預け、妖気による回復を始めた。
――
――――
――――――――
湖の中で気を失ったなのはを抱え、ユダは必死に水を掻き分けていた。
その身は腰より下の身体の部分はなく、焼け焦げた内臓は虚ろに胴にぶら下がるばかり。
最早それは死体と言っても過言ではない。しかし、ユダとなのはは確かに生きて、湖の対岸に辿り着いたのだ。
鴉が起こした爆発。それはユダの下半身を一瞬にして弾き飛ばし、彼の残り少ない命をも奪おうとした。
そしてその猛威はそれだけで飽き足らず、無慈悲になのはへと押し迫った。勿論、その先にあるのは紛れもない死だ。
だけど、それを否定せんと、なのはの前にユダが立ち塞がった。彼が振るうのは南斗紅鶴拳。その技は空気を切り裂き、真空波を生み出す。
ユダはその奥義でもって爆炎と爆風を分かち、自らの身体となのはを決定的な死から救い出したのだ。
殊勲に値する立派な行動だが、それでも消えゆく命の炎を、どうにかできたというわけでもない。
それは徒労と言えるであろう。だがそれでも、とユダはバッグから支給品として配られた手鏡を取り出した。
当初は自らを美の全てを写し出せない余りの小ささに嘆息を漏らしたが、今は藁にも縋る思いで鏡を握り締める。
支給品の名は暗黒鏡。使用者の命を対価に、願いを叶えるという霊界三大秘宝の内の一つだ。
眉唾とも取れる内容だが、最早これ以外に道を拓く選択肢などない。
ユダを己の全てを投げ出すように鏡に向かって吼えた。
「暗黒鏡よ!! 頼む!! このおれの命など幾らでも持って行け!! だが、なのはを!! なのはの命だけは助けてくれ!!
なのはの美しさこそ、このおれを!! この世界を照らしてくれる太陽なのだ!!! だから!! どうかなのはの美しさを永遠にッッッ!!!!!」
本来ならば、暗黒鏡は魔力の満ちた満月の晩にしか、願いを叶えることができない。
しかし、大魔王バーンのからくりか、はたまたユダの必死な願い故にか、暗黒鏡は禍々しい光を放ち、魔力の奔流をそこに引き起こした。
己の身が鏡に引きずり込まれるような感覚。それはとても恐ろしく、おぞましいものだが、ユダは喜んでそこに身を委ねた。
何故なら、意識が薄くなるにつれて、光に包まれ高町なのはの身体の傷は癒えていき、その顔にも血の気が戻っていったのだから。
「フッ……このおれがなのはに心魅かれた時から、おれはなのはによりその光を消す運命にあったのだ。
高町なのは……おれが認めた強く美しい女よ……せめてその胸の中で!!」
ユダの命の炎は、願いの代償に消えた。だが、その最後のくすぶりで、ユダは死せる身体を必死に動かし、なのはの懐に顔をうずめた。
南斗紅鶴拳のユダ。狂乱の人生だったが、その最期の顔は母に抱えられる赤子のように穏やかで安らぎに満ちていた。
【ユダ@北斗の拳 死亡】
【一日目 朝】
【現在地 B-7 湖の左岸】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは A's】
【状態】健康 、気絶
【装備】なし
【道具】暗黒鏡@幽遊白書、武器支給品、支給品一式×2
【思考】
基本 殺し合いの打破
1. ZZZzzz
2. 協力してくれる人を探す
3. フェイトとはやてと合流
【備考】
※暗黒鏡(ユダの願い)によって、なのはの美しさは永遠のものとなりました
【現在地 B-7 展望タワー跡】
【鴉@幽遊白書】
【状態】腹にドデカイ穴(回復中)、妖気消費(大)
【装備】レイジング・ハート@魔法少女リリカルなのは A's
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 美しいものを殺す
1. 治療に専念
2. 蔵馬を探す
3. 美しいものを探す
【備考】
※
ジャギを
ケンシロウだと思っています
※高町なのは死んだと思っています
※展望タワー周辺は爆発により全て吹っ飛びました
※爆発音は辺り一体に響き渡りました
【支給品情報】
霊界の闇の三大秘宝の一つである小さな手鏡。満月の日に魔力を放ち、使用者の命を対価にどんな願いも叶える。
直接、人に語りかけた描写はないものの、確かな意志を持っている模様。尚、本ロワでは、満月の晩でなくとも使用可能。
最終更新:2013年10月22日 02:12