アットウィキロゴ
熱い緑茶をすする。味に深みもない、至って淡白な代物だが、食堂の備え付けの物であれば、それも当然のことだろう。病院の食堂のキッチンから洗い物のする音を遠くに聞きながら、蔵馬と夏目は食卓のイスに腰掛け、食後のお茶を共にしていた。


「はやてちゃんは、もう大丈夫ですかね」


夏目はお茶を一口飲むと、蔵馬に向かって、おもむろに口を開いた。


「身体のことかな? それともさっきの……」

「……さっきのです。飛影君! 飛影君! って、ずっと泣き叫んでいて、ちょっと普通の様子ではありませんでしたし……。その、空に映った映像……飛影君って言う人が斬られるところを見てから、何だかひどく気持ちが落ち着いていないというか、すごく危ういというか。勿論、今は泣くのを止め、ユリアさんと一緒に食事の後片付けをしてくれていますが……その、心配で」

「まだ小さな子どもでもあるしね。飛影にしろ、このバトルロワイアルにしろ、あんな子に平然と受け止めろというのは無理な話だ。でもまあ、大丈夫だと思うよ。バーンの放送を聞く分には、飛影は死んではいないし、ユリアさんもはやてちゃんの側にいてくれているしね」

「……そうだといいんですけれど」

「それよりも問題は、飛影を無傷同然で倒しうる相手がいるということと、この胸の禁呪の方かな。こっちの方をどうにかしなければ、はやてちゃんを心配する意味もなくなるからね」

「えと、飛影君って人は、そんなに強いんですか?」

「強いよ。その点については、自信を持って言えるかな」

「飛影君は、はやてちゃんと蔵馬さんの仲間なんですよね? じゃあ、やっぱり飛影君を斬った少年は、マーダーなんでしょうか?」

「いや、その可能性はないと思う。一番最初の開幕の時を覚えているだろう? あれは到底殺人を肯定できるような子には思えない」

「でも、飛影君は実際にッ!」

「夏目君、そのことついて俺たちはどうやって知った? 他の参加者がたくさん死んでいる中で、わざわざ飛影と少年の闘いだけを、ああいった形で知らせるのは、どう考えてもおかしい。何か悪意が潜んでいると考えて然るべきだ。それにあの映像自体が虚偽だということも、十分に考慮に入れる必要がある。……あと非常に言いづらいことなのだけれど、闘いが本当に起こったというのなら、飛影の方から無理矢理勝負を仕掛けたという話もあり得なくはない。というよりも、十中八九そうだと思う」

「え? そ、そんなに危険な人なんですか? あんなにはやてちゃんが懐いているのに?」


夏目の疑問を耳にすると、蔵馬はゆっくりお茶を口に含み、優しく笑いかけた。その笑顔の意味を悟った夏目は、恐る恐る蔵馬に自らの危惧を訊ねる。


「飛影君は仲間なんですよね?」

「安心していいよ。自分勝手な性格ではあるけれど、根は優しいから。俺が保証する」


マーダーではないということだろうか。相対した八神はやてが、生き残っていることだから、それは確かなことかもしれない。それに蔵馬とは初対面ではあるが、今まで見て、そして話してみて、信用に足る人物だということは、夏目にも何となく分かった。だから夏目は黙って、その言を受け入れることにした。


「それで蔵馬さん、飛影君を倒せる人がいるってことが、どう危ないんですか? さっきの空の映像の子はマーダーではないと思っているんですよね?」


夏目は乾いた喉をお茶で潤すと、再び蔵馬に話しかけた。


「夏目君はバトルロワイアルを開こうと思ったなら、参加者は誰を集める?」

「……いきなり何ですか?」

「例えばの話だけど、蟻と象を戦わせようとはしないだろう? やるとしたら、蟻と蟻、もしくは象と象を戦わせようとするはずだ」

「えーと、つまり蔵馬さんは、飛影君を倒した子と同程度の強さを持った人が他にいると? そしてその人がマーダーかもしれないと、考えているわけですか?」

「うん、誰かと違って理解が早いね、夏目君は。絶対という話ではないけれど、そういった可能性は高いと俺は考えている。だから、俺たちは早い段階で戦力を整え、そういった相手に対処できるようにしなければならない。でなければ、呪いを解いてめでたしめでたしという話にならなくなってしまうからね。それにバーンに対抗する意味でも、力は集めておきたい」

「話し合いとかは無理なんでしょうか? それにまだマーダーだと決まったわけでもないですし」

「俺も出来る限りは穏便な手を取りたいとは思っている。だけど、皆の命が掛かっているのなら、保険というのは必要だろう、夏目君?」

「そうですね……僕にもっと力があれば、皆の役に立てるんでしょうけれど……」

「フム、夏目君は十分に強い力を持っていると俺は思うけど?」

「下手な慰めはよしてください! トキのことにしても、はやてちゃんのことにしても、僕は何の助けにもなれていないッ!!」


そう叫んだ瞬間、夏目の持っていた湯飲みが粉々に砕け散った。卑屈さから感情的になるあまり、思わず彼の腕に力が入ってしまったのだ。アミバ(夏目たちにとってのトキ)が突いた秘孔によって、夏目の腕が厚い筋肉に覆われた今、その力は常人の域を軽く凌駕している。故に、ちょっとしたことでも、破壊へと繋がってしまうのだ。


それこそ夏目の求める力なのではないだろうか。夏目自身もそれを肯定したかったが、アミバが施した秘孔であることからして、残念ながらその力には利点だけが存在しているわけではなかった。秘孔を突かれた時に両肩が内部から弾けてしまい、腕を動かすのが、ひどく不自由になってしまったのだ。当初はそれこそ全く腕を動かせないほどの痛みだった。今は蔵馬の念入りの治療によって、ある程度は良くなってきているが、それでも秘孔を突かれる前とは比べるべくもない。


「どうかしたの、夏目?」


キッチンから顔を出したユリアから、心配げな声が聞こえてきた。どうやら夏目の叫びは向こうにまで届いていたらしい。


「いえ、すいません。湯飲みを割ってしまいまして……」

「気をつけなあきませんよお。夏目さんは、えらい力持ちみたいですし。待っててください、いますぐ布巾と新しい湯飲みを持っていきますから」


ユリアの脇からひょっこりと顔を出した八神はやては、笑みと共に告げた。そこにある顔は泣き叫んでいたせいたせいか、目は赤く、瞼も腫れぼったい。子どもの無邪気さとは遠くかけ離れた暗い影も、その顔にいまだに色濃く残っている。だけどそれでも八神はやては、夏目のささくれ立った感情を和らげようと、精一杯笑顔を作り、明るく振舞った。それに気づいた夏目に、忸怩たる思いが訪れる。小さな子どもに気を使われるほど、今の自分は情けないのか。無力であろうと、せめて邪魔にはなるまい、と夏目はゆっくりと深呼吸をし、自らを落ち着かせた。


「すいませんでした、蔵馬さん。急に叫んだりしてしまって……折角、気を使ってくださったのに」


八神はやてとユリアが再び奥に引っ込むのを確認すると、夏目は蔵馬に向き直り、謝罪した。冷静になってみれば、蔵馬に対して激昂してしまったことは、ひどく自分勝手な物言いだ。蔵馬に非など、どこにもない。尤も蔵馬とて、夏目の発言に悪感情がなかったのは、容易に察せられることだった。だから、蔵馬は怒ったりなどせず、素直に謝罪を受け入れた。


「いや、気にしていないよ。それよりも腕の方は大丈夫?」

「はい…………若干の痛みと違和感は、いまだにありますけれど、動かす分には問題ありません。治療については、本当にありがとうございました、蔵馬さん」


夏目は丁寧に頭を下げると、その逞しい腕で平気だと言わんばかりに空中に軽いパンチを放った。たちまち空気が唸り声を上げて、蔵馬の横を通り過ぎていく。何とも頼もしい振る舞いだが、無理をするべき容態ではないことは、血の滲む肩を見れば明らかだ。蔵馬がその旨をやんわり伝えてようとしたところで、突如横から少女の幼い声が割って入ってきた。


「もう! 夏目さん、オイタはあきませんよって言いませんでした? これ布巾と新しい湯呑みです。もう壊さんといてくださいね」

「えっと、ごめんね、はやてちゃん」


腰を落とし、車椅子に座ったはやての目線に合わせると、夏目は渡されたものを受けとった。そして夏目はテーブルを拭き、割れた湯飲みの欠片を集めようとする。


「怪我したその腕では大変でしょう? どうやら夏目も反省しているみたいだし、後は私がやるわ」


はやての車椅子を押していたユリアが、夏目の前に出て、彼の手の中から布巾を奪い取った。申し訳なさから、堪らず遠慮の声が夏目の口から漏れ出たが、それもユリアによって、ピシャリと押し留められる。


「いいから、座ってなさい! 怪我人は大人しくしているものよ!」

「ハ、ハイッ!」


何だか子どもが母親と妹に叱られたかのような寸劇だった。その三人のやり取りに目にした蔵馬は、思わず浮かんだ笑みを隠すようにお茶を飲んだ。悪党には、割と容赦のない蔵馬だが、それとは逆に善性に富んだ人間になら、彼は価値を見出す。やはり目の前の三人の命は、下衆が催したこんな下らないバトルロワイアルなどで、散らせていいものではない。蔵馬がそんな所感を抱いた所で、ユリアの後片付けは終わり、四人は新しいお茶と共に同じテーブルに着くことになった。


「それで二人は何を話していたの?」


ユリアはお茶で、その唇をしっとりと濡らすと、湿布が張られた頬を撫でながら呟いた。その頬はアミバによって、散々な目にあったが、これも蔵馬の治療によって、腫れも治ってきている。そういったユリアの容態をつぶさに確認しながら、蔵馬は彼女に返答を放つ。


「そうですね。まあ、簡単にいって、これからどうすべきか、といったところでしょうか」

「それで何か妙案は出て?」

「妙案というほどではないですけれど、一つの考えがあります」

「考え?」

「はい。俺たちが生き残るには差し当たって、危険な参加者から身を遠ざければいい。だけど、それだけではこの先の命の保証ができない」

「胸にある呪い……ですか?」


蔵馬が言わんとしたことを察知した夏目は、その言葉を重々しく呟いた。それに対して蔵馬は軽く頷き、説明を続けていく。


「バーンは開幕の時に禁呪について、こう言っていました。禁止エリアに入ると発動する、と」


まさか、とユリアと夏目が同時に叫んだ。二人とも顔を蒼くし、悲壮感さえ漂わせている。しかし、蔵馬は大丈夫とばかりに、殊更笑顔を作った。


「安心してください。勿論、ユリアさんたちに、それを強要するつもりはありません。俺自身が禁止エリアに入って禁呪を発動させ、その仕組みを解析してみるつもりです」

「安心できません!」


と、ユリアが叫び、それに続いて夏目も大きく口を開いて抗議を加える。


「そうですよ! その役目は僕がするべきです!」

「夏目! あなたは怪我人、それも子どもでしょう! この場合が大人である私がするべきです!」


そして再びユリアの怒号が食堂に響き渡った。これは年嵩の人間としての矜持と優しさの現われなのだろうか。とはいえ、これは予想だにしなかった展開である。こういった反発ではなく、もっと単純な疑問が皆の口から出るのではないか、と蔵馬は思っていたのだ。さて、どうしたものか、と蔵馬は頭を悩ませながら頬をポリポリと掻く。


「えっと、蔵馬さん、それってどうしてもせなあかんことなんですか?」


感情的になる皆をなだめるように八神はやてはポツリと疑問を呟いた。


「そうだね。俺たちの胸に実際にあるけれど、今のままだと禁呪の大まかな形でしか分からないんだ。どういった種類か、どこに組み込まれたか、どういった結果になるかとかね。それだけじゃ、勿論何もできない。だから禁呪を発動させて、その作用する過程を確認して、解呪への足がかりを築こうかと俺は思っているんだ」

「私、アホやからよう分からんのですけれど、それって危ないこととちゃいますの?」

「禁呪は開幕の時、一度発動されたよね? 彼は即座に死んだのだったかな?」


蔵馬は八神はやてをからかうかのように疑問を返す。死を孕んだ言葉に戸惑う彼女に代わって、夏目は叫ぶように答えた。


「思いません! ですけれど、危険であることは変わりません!」

「でも、わざわざバトルロワイアルを開いていることからして、バーンは俺たちを戦わせることに目的があるはずだ。それから外れるような仕掛けはないと思う。勿論、あまりに無茶なことをすれば、それこそ命を奪うということで警告はされると思うけれど、禁止エリアについてはどうだろう。不慮の事態ということも考えれば、ある程度の余裕は与えられて然るべきだ。それに夏目君たちに、呪いの解析なんて出来るのかな?」

「それは……」


と、夏目の口からは、その先の言葉は出てこなかった。自分にそんな能力がないことは分かりきっていたし、代案など出せるほど知識もなかったのだ。こんな時にニャンコ先生がいれば、と思わず悪態をつこうとしたところで、ユリアの凛とした声が響く。


「蔵馬、他に案はないのね?」

「……ええ」

「そう……だけど、このような暗き世界には、まだまだあなた必要とする人間がいることは覚えておいて。身勝手に死ぬことは、この私が許さないわ」

「心に留めておきますよ、ユリアさん」


全員が全員、その話に納得したというわけではないが、一応話の終わりは迎えた。残ったお茶を全員が飲み干し、席を立つことにする。が、八神はやての泣き叫ぶ顔を思い返した夏目は、新たな疑問を口にすることにした。


「このまま禁止エリアに向かうんですか、蔵馬さん? できれば……」

「……分かっているよ、夏目君」


夏目の視線に気づいた蔵馬はかすかな笑みを零して、答えを放つ。


「勿論、飛影を助けてからにする。彼が早々に死ぬことはないということは知っているけれど、さすがにこの状況で見捨ててはおけないからね。それに飛影の力はバーンや他の強敵を倒すのに必要なものだ」

「あ、ありがとうございます! 蔵馬さん!」


途端にはやては涙を目の端に溜めて、何度も頭を下げてきた。飛影を助けたいという気持ちは溢れるほどにあったが、足の不自由な自分一人では、どうしたって限界がある。かといって、死と隣り合わせのバトルロワイアルで、自分の我儘で他の皆を頼りにするのは、迷惑この上ない。その二つの感情のせめぎ合いの中で、はやてはようやく自分の望みを打ち殺し、皆の命を優先させることにしたのだ。悔しさもやり切れなさは残るが、一人の命と多数の命は、やはり引き換えには出来ない。そう思って諦めていたのに、蔵馬ははやてに救いの手を差し伸べてくれたのだ。はやての目から、歓喜の涙が零れてしまうのは、無理のない話だった。


「気持ちは嬉しいけれど、そこまで感謝されることではないよ。俺たちは単に……」


大仰な感謝を述べようとするはやてを宥めようと声を掛けた蔵馬だが、それは途中で止まってしまうことになった。意識がはやてから、違うものへと無理矢理引っ張られたのだ。急に食堂のドアをねめつけた蔵馬を不思議に思って、皆もドアを凝視する。そしてその後すぐに、蔵馬の懸念を示すように、見知らぬ第三者によって、ドアが盛大な音と共に蹴破られたのだ。


現れたのは一人の男だった。黄色とオレンジ色のツナギを身に纏い、肩には灰色のプロテクターを付けるというブッチギリのファッションセンス。その妙な格好は思わず笑い飛ばしたくなるが、彼の顔に浮かぶ表情は、その滑稽さを全て彼方へ吹き飛ばしていた。泣いていたのだ。彼は食堂に入り、蔵馬たちを見回すと、顔に笑みを浮かべ、そしてそれから一筋の涙を目から流したのだ。


「ユリア……良かった……生きていたのか」


感動が過ぎるのか、彼の足には力は入らなかった。それでも一歩一歩、よろよろとだが、足を進めていき、彼はユリアに歩み寄る。そしてようやくユリアの元に辿り着くと、彼は彼女の頬をゆっくりと、愛情たっぷりに、優しくなで上げた。目の前のユリアが本物であるかどうかを確かめるように何度も何度も。


ジュウザ……ええ、この通り生きていてよ。貴方は死んだとは聞いていたけれど、よくぞ無事で」


ユリアは男の名前を心を込めて呼ぶと、彼の手を手に取り、自らの存在をしかと伝えた。ジュウザは既に死んだとユリアは聞かされていた。故に名簿にあった名前は赤の他人だと決め付けていたが、彼は実際に生きていて、今ここにいる。南斗最後の将ユリアを守る南斗五車星の雲のジュウザがだ。バトルロワイアルを打破するに当たって、これほど心強い人間はいるだろうか。ユリアは喜びを隠さずに蔵馬たちに皆にジュウザの紹介を行った。


「この方はジュウザ。とても強く、また信頼できる人よ」


ユリアの言葉に、皆は闖入者への警戒と戸惑いの念をかき消した。僅かな出会いであったとはいえ、ユリアの慈母のような輝きは、既に皆の心の中に入っていたのだ。そのユリアが言うのであれば、信用できる。蔵馬たちは肩の力を抜き、殺し合いに反対する旨を告げ、自己紹介を行っていった。そしてジュウザは一通りの名前を聞くと、蔵馬に向かって愉快げに声をかけた。


「そうか、貴様が蔵馬か。桑原とかいう中々面白い奴が、貴様を探していたが、どうだ? 奴にあったか?」

「桑原君に? いえ、まだ会っていませんが、どこで会いましたか?」

「さあて、どこだったかな? なんせ森の中で会ったもんだからな。詳しい所までは分からん。すまんな」

「いえ、桑原君の息災が聞けて何よりです。それに桑原君なら、そう遠くない内に向こうからやって来てくれるでしょう」

「随分と信頼しているだな。そういえば蔵馬、貴様ならこの禁呪やバーンをどうにか出来ると桑原が呟いていたが、どうなんだ?」

「桑原君の期待を裏切るようで心苦しいのすが、正直な所、まだ何とも言えません。ですが、解呪に向けての足がかりなら、これから得られると思っています」

「ふむ……何か算段があるということか。いいだろう、貴様はまだ生きていても良かろう」

「一体何を……ッ!?」


意図が不明な言葉の連なり。それに蔵馬が疑問の声を上げたところで、ジュウザの腕が容赦なく二度振るわれた。一つは夏目の方へ、もう一つは八神はやての方へ、と。たちまち赤い血が飛び散り、食堂のテーブルと床を真っ赤に染め上げた。


「ジュウザ!!!? 貴方はいきなり何をして!!?」


ユリアの沈痛な叫び声を無視して、ジュウザは蔵馬に声をかける。


「見かけによらず、中々素早いな。あの一瞬で移動し、二人を庇うとはな」


血を流したのは夏目とはやてではなく、それを庇った蔵馬であった。ジュウザが攻撃すると察知するや否や、蔵馬は夏目の前に自らの右腕を盾として差し出し、はやてを自らの背で覆ったのだ。結果、夏目とはやては無事であったものの、蔵馬は重傷を負うことになってしまった。
それでも蔵馬は後悔など微塵も見せずに二人を後ろに隠し、無事な左手でローズウィップを構える。


「おっと、すまんな、蔵馬。足手まといはいらんと思ったが、その分だと大丈夫なようだ。どうやら余計なお節介だったらしい」


血を流すような怪我にも関わらず、その瞳に苛烈な闘志を宿す蔵馬を見て、ジュウザは参ったと言わんばかりに両手を上げた。


「……何が望みだ?」


返答次第では、即座に鞭で切り刻んでやる。そう言わんばかりに目を鋭くし、蔵馬はジュウザに訊ねた。


「ハハハ、そう怒るなよ。おれはユリアのためを思ってしたことなんだ」

「ユリアさんの?」

「ユリアの優しさは、このおれが誰よりも知っている。ユリアなら、先の貴様のように弱い奴を庇って死ぬってこともあるからな。おれは単にその可能性を減らしたかったのさ」

「彼女が、そのことを喜ぶとでも思っているのか?」

「おいおい、そう睨むなよ、蔵馬。おれは別にユリアを喜ばすために、こんなことをしたわけじゃない。おれはユリアを生かすために、やったのさ」

「……彼女を最後に一人にするということか?」

「ユリアを優勝させるっていうのも確かに視野に入っちゃいるがな、別にそれだけを目的としてはいない。あんなバーンとかいうクサレジジイの言うことなんかを全て信じるほど、おれはマヌケじゃねえ。だから、それ以外にここを脱出することができるっていうのならば、喜んでそっちに手を貸すさ。だが現状を顧みるに、先行きは不透明だし、マーダーは跋扈している。ならば、問題解決の手段が講じられるまで、少しでも危険性を減らすというのは、まあ分かることだろう?」

「分からないわ、ジュウザ!! この子たちは、明日の光よ!! 例え私だけが生き残ったところで、どうして世紀末の未来に光を照らすことができると思って!!?」


蔵馬に代わって、ユリアが叫ぶように答えた。そこには確かに南斗の将としての相応しい威圧と、答えを譲らない確固とした意志があった。だけど、そんなユリアに向かって、ジュウザは軽く首を振り、優しく諭すように口を開く。


「悪いな、ユリア。おれは問答する気などない。おれは雲。おれは自分の意志で決めて、自分で動く。例えおまえの言葉でも、それは変わらない」

「ジュウザ…………雲はただ流離うだけではなく、大地を覆い、恵みを与えるものよ。貴方はそのことも忘れて?」

「恵みなら与えるさ。もっともおれの相手は一人だけだがな」

「それは恵みではないわ。ジュウザ、貴方のすること喜ぶ者など誰一人いない」

「……生きていれば、いつか芽吹くものがある。おれはそう信じている。だから、ユリア、お前さえ生きていてくれれば、他はどうでもいいんだ」

「ジュウザ、貴方は思い違いをしているわ! 私は……ッ!?」


ユリアの言葉は途中で終わってしまった。会話は無意味だと断じたジュウザは、ユリアに当身を食らわせ、気絶させたのだ。


「言っただろう、ユリア? おれに問答する気はない、と」


ジュウザは倒れ行くユリアの身体を優しく受け止めると、警戒の念を露にする蔵馬の間合いに遠慮なく踏み入り、彼女を渡した。


「俺たちの結果を待つという選択肢はないんですか?」


ユリアを手放して踵を返すジュウザの背中に、蔵馬は声を放り投げた。危険性を減らす意味でマーダーを殺すのは蔵馬としても歓迎することだが、弱者を弱者だからといって切り捨てるのは、到底喜ぶ気にはなれない。ならば、と蔵馬は禁呪を解呪するまでの猶予を申し出る。だが、その返答はにべもないものだった。


「悠長にしている暇などない」

「待たなければ、ユリアさんを殺す。そう言ってもですか?」

「ほう?」


蔵馬の剣呑な言葉に、ジュウザは足を止めて振り返る。


「笑えないジョークだな」

「もしかしたら、本気かもしれませんよ?」


そのまま二人はお互いの真意を確かめるように静かに見詰め合った。が、何かを察したのだろうか、やがてジュウザは豪快に笑い声を上げた。


「ワハハハ! 桑原といい蔵馬といい本当に面白い奴だ。こんな状況でなかったら、ひょっとしたら友になれたかもしれん」

「……さっきの言葉、信じないんですか?」

「信じんさ。貴様は何のために、あんなことを言った。大方おれに人殺しをさせないため、ユリアを悲しませないためとかだろう? それなのにユリアを手にかけてしまえば、貴様の目的に反してしまうし、そこの足手まとい二人がら得た信用も無くしてしまう。ガキなんざ、とうでもいいうというのなら、それこそおれを止める必要などなかったしな」 

「フ……では、試してみますか?」


蔵馬は凍てつくような冷たい目をユリアに向け、すかさずナイフのように尖ったバラの花弁を彼女の首に目掛けて、振りかぶった。その目は、その勢いは、とても冗談とは思えない。蔵馬の後ろにいた夏目とはやては殺気に当てられ、声すらも失った。だけど、肝心のジュウザはそれらを無視して、何とも冷めた目つきで蔵馬に言葉を放り投げる。


「……それに何より、ここでおれと敵対関係を築くほど愚かには見えん」


その場を微動だにせずに発せられるジュウザの台詞に、蔵馬の動きはユリアへ達することなくピタリと止まった。最後の確認とばかりにジュウザに目を向けてみるが、彼の動く気配は全く見られない。しょうがない、と蔵馬は溜息混じりに呟いた。


「参りました。俺の負けです」

「残念だったな、蔵馬。意外にゲームが好きなようだが、おれも随分と遊びなれているもんでな」

「……確かに俺は負けました。でも、ユリアさんは負けていないし、勝負も諦めていないと思いますよ?」

「構わんさ。ユリアはそういう奴だ。蔵馬、ちゃんと守ってやれよ。でなければ、容赦などせぬぞ!」

「元よりそのつもりです」


蔵馬の答えを聞くと、殺人を肯定した男とは思えぬ柔和な笑みを送り、その場を後にする。しかし扉を前にして、ジュウザは「そうだ」と声を放ち、再び蔵馬たちに振り返った。


「ユリアの顔の傷……一体誰がやった? まさか貴様らではないと思うが……?」

「トキ……ユリアさんは、そう言っていました」


温かな感情を一切排したジュウザの質問に、蔵馬は深夜のことを思い返しながら答えた。そして蔵馬の答えを聞くや否や、ジュウザの顔は驚愕に染まっていった。


「バッ、バカな!? トキだと!? 信じられん!! 嘘は許さんぞ、蔵馬!!」

「俺にはそれが嘘かどうかは分かりません。しかし、少なくとも犯人とユリアさんは知り合いの様子でした。そして犯人のことを知った時、ユリアさんもあなたと同じような反応をしていました。俺が確かだと言えるのは、そのことだけです」

「そ、そうか……ユリアは間違いなくトキ、と言ったのだな?」

「ええ」

「世紀末とは、バトルロワイアルとは、本当に恐ろしい世界だ。あのトキすらも、変貌させてしまうとはな。こんな時だ。あるいは同情をかけてやるべきなのかもしれん。だが、既におれの命の使いどころは決まっている。トキよ、必ず見つけ出して、殺してやる!!」


憤然と吼えると、ジュウザは今度こそ扉を通り抜け、病院を後にしていった。




【一日目 朝】
【現在地 C-3 病院】
【ジュウザ@北斗の拳】
【状態】健康
【装備】詳細名簿@オリジナル
【道具】武器支給品×3、ランダム支給品×2、支給品一式×3
【思考】
 基本 ユリアを生き残らせる
 1. トキを殺す
 2. 弱者とマーダーの排除
【備考】
※詳細名簿はユリアの項しか見ていません
※ユリアを傷つけたのはトキだと思っています
※解呪、脱出手段を持っている人は、殺害の対象外です


【ユリア@北斗の拳】
【状態】顔がヒリヒリ
【装備】気絶
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 殺し合いを止める
 1. ZZZzzz……
 2. トキ、ジュウザの凶行を止める
 3. ケンシロウに会いたい
【備考】
※アミバをトキだと思っています


【蔵馬@幽遊白書】
【状態】右腕と背中に裂傷
【装備】ローズウィップ@幽遊白書
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 禁呪の解呪
 1. 飛影を回収して、禁止エリアに移動する
 2. 浦飯、桑原、幻海を探す
【備考】
※アミバをトキだと思っています
※北斗神拳についての知識を得ました


夏目貴志@夏目友人帳】
【状態】両腕の筋肉増大 、両肩いてぇ
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
 基本 皆を元の世界に返す
 1. 力が欲しい
【備考】
※アミバをトキだと思っています
※バトルロワイアルは自分のせいで開かれたと思っています
※腕力とパンチ力は、ボクシングのヘビー級チャンピオンよりも上です


【八神はやて@魔法少女リリカルなのは A's】
【状態】下半身麻痺??
【装備】闇の書@魔法少女リリカルなのは A's、アバンの書@DRAGON QUEST-ダイの大冒険
【道具】支給品一式
【思考】
 基本 飛影君!飛影君!飛影君!飛影君!!!
 1. 飛影を助ける
 2. 皆についていく
【備考】
※DRAGON QUEST-ダイの大冒険における一般的な呪文と契約を行いました
※アミバをトキだと思っています



74:Bent <BACK  NEXT> 76:You Are So Beautiful
62:I Miss You ジュウザ :[[]]
66:Don't Worry Baby ユリア :[[]]
66:Don't Worry Baby 蔵馬 :[[]]
66:Don't Worry Baby 夏目貴志 :[[]]
66:Don't Worry Baby 八神はやて :[[]]




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年06月06日 23:53