闘いの幕は、驚くほど簡単に上がった。二人の男が出会う。ただそれだけで、闘争が始まってしまったのだ。
「それがうぬの得物か? そのようなもの、北斗神拳の前ではゴミ屑同然よ」
山の如く泰然とその場に佇む巨漢の男
ラオウは失笑した。目の前の全身に鎧を纏った武威という男が、巌のような巨大な斧だけで己に攻撃を加えてきたのだ。形こそ大仰ではあるけれど、その質は至って粗悪。その持ち主の技量も、お粗末に過ぎるものだ。そんなもので己は恐怖は感じるか。その問いにラオウは、すぐさま明瞭な答えを出すことができた。
否、と自らを押し潰さんと猛然と迫る巨塊を、ラオウは指二本で軽くつまみ、それを押しとめた。更に返礼としての拳を武威に打つ。その拳は斧よりも重く、武威よりも卓越した技術を内包したもの。闘いの教本として差し出された攻撃は、吸い込まれるように武威の胸に当たった。
その衝撃は苛烈の一言。重厚な武威の鎧を打ち砕き、彼を数メートルも後ろへやったのだ。そしてそんな武威の前に、ラオウによって握りつぶされ、刃を失った斧の残骸が投げ捨てられる。それを見て、武威は相手が自分の本気を見せるに相応しいと判断した。
「普通、鎧とは身を守るために使うためのものだ。だが、おれの場合は少し違う」
武威は自分の鎧を外しながら、説明を加えていった。驚くべきは、その外された鎧の重みであろう。武威が無造作に放り投げるそれは闘技場の石の舞台に容易くめり込み、ヒビを加えていく。
「おれは自分の本当の力を抑えつけるために使っている。そしてこれがおれの本当の鎧だ」
やがて全ての鎧を外した武威が、己の力をさらけ出した。それは圧倒的な闘気の放出であった。目視できるほどのケタ違いの闘気が武威を包み込み、彼の足をも大地と隔絶させ、宙に浮かせる。しかし、それは時代の覇者たらんとするラオウを怯ませるには足りない。ラオウは悠然と構える武威に、自らが誇る拳を振るった。
「ぬっ!?」
それは驚愕の色を含んだラオウの声であった。ラオウの放った拳が武威には届かず、彼の放つ闘気によって押しとどめられていたのだ。数々の敵を一撃の下に屠ってきた文字通りの必殺の拳を、闘気のみによって止められるなど、さすがのラオウも予想外のこと。そしてその驚倒に、武威は闘気を纏った拳を遠慮なく打ってきた。自らを宙に浮かせるほどの闘気が与える威力は、それこそ死に等しいもの。しかし、ラオウは簡単にそれを打ち払い、逆に自らの一撃を武威に放った。相手の踏み込みを利用してのその打撃は、先程より威力は上。だが残念なことに、その結果は先と変わらず、武威の嘲笑をそこに残すのみとなった。
「おれの攻撃はおまえに当たらず、そしておまえの攻撃はおれにダメージを与えない。どうやらおれたちは互角のようだな」
武威は余裕をもってラオウに語りかけた。今のところ、天秤は水平を保っているが、自分の拳が一発でも当たれば、それは容易に傾く。それとは反対に相手の攻撃が、自分にどれだけ当たっても、天秤には影響を与えない。つまりこの勝負は、自分が攻撃を当てるまでの時間の問題。それが武威の見解だった。しかし、ラオウはそれに対して盛大に否定を唱えた。
「互角? うぬはこの拳王と互角と申すか。面白い。ならば、うぬに北斗神拳の真髄を見せてくれよう」
その言葉の終わりと共にラオウの闘気が高まりだした。それは北斗神拳の奥義の一つ、闘勁呼法。呼気と共に体内の闘気を蓄え、吐気と共に一気に拳に集約する剛拳の呼法である。次第に武威の顔からは色が失せていった。際限がない。そう思わせるほどの闘気を、ラオウは己の内に築き始めていたのだ。
「うわぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
やがて恐慌をきたした武威はラオウに堪らず殴りかかった。ラオウの急激な闘気の上昇によりに天秤は向こうに傾いた。それを少しでもこちらに戻さなければならないのである。そうでなければ、敗北は必至。武威はそれを打破せんと我武者羅になった。だが、ラオウはそれを一笑に付した。息を吐くと同時に高まった闘気を拳に集中する剛の拳。それは武威の拳を貫き、武威の闘気を押し分け、轟音と共に武威の胸を打ち叩いたのだ。
「がはぁーーーーっ!!」
武威は堪らず血を吐き出しながら、空中に吹き飛ばされた。それでもラオウが与えた衝撃は止むことなく、そのまま武威は20メートルほど宙を舞い、闘技場の客席の壁へとめり込んだ。完全なる敗北。最早言うことを聞かない自らの身体を省みて、武威はその事実を否応なしに悟った。
「殺せ……。おれは必死に修行をして、限界まで強くなった。だが……この有様だ。もうおれに生きる意味はない」
「よかろう! この世紀末覇者ラオウの名を天にて語り尽くすが良い!!」
ラオウは何の遠慮もなく武威の頭蓋を手刀で叩き割った。武威の殺したことにラオウは何の感慨も覚えない。北斗神拳の奥義を繰り出させた相手ではあったが、恐怖を自分に与えなかったからだ。
そう、恐怖。
ラオウはいまだに
ケンシロウへ恐怖が拭えていなかった。哀しみの目をし、北斗神拳究極奥義 無想転生を放ったケンシロウへの恐怖を。この殺し合いの直前、恐怖を克服するために挑んだフドウの戦いでも、それは叶わず逆に彼らの哀しみの前に自らの後退を許してしまった。フドウは言った。哀しみを知らぬ人間に勝者はいない、と。ならば、自らを凌駕する哀しみとは、一体何のなのか。それに答えを得なければ、到底ケンシロウに勝つことなどはできない。
「哀しみとは…………、強さとは…………」
【武威@幽遊白書 死亡】
【一日目 深夜】
【現在地 E-7 闘技場】
【ラオウ@北斗の拳】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 ケンシロウに勝つ
1. 哀しみとは何か……
2.
ユリアを己のものとする
【備考】
※武威のバッグは闘技場に落ちています
最終更新:2012年04月15日 00:56