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振るわれた剣戟は、烈火の如く苛烈なものであった。空気を切り裂き、音を振り払い、猟犬のように対象にしつこく迫り来る。そこに秘められた技量に北斗神拳伝承者候補であったトキは、思わず舌を巻いた。しかし、同時に彼は気づいていた。その剣には、言いようのない悲しみが含まれていることに。故にトキは再び問わずにはいられなかった。


「何故です、シグナムさん。何故あなたは剣を振るう? あなたの剣に悲しみがある。殺し合いなど、あなたの本意ではないはずだ!」

「くどい! 私は私の意志で貴様を斬るのだ! 戦場で言葉など不要と知れ!」


裂帛の気合と共に放たれる剣閃は、トキの頬をかすめ、僅かな出血を強いる。その剣は、トキがかわさなかったとしたら、たちまち命を奪っていたことは確かな一撃だ。桃色の髪を風にたなびかせる目の前の剣士シグナムには悲壮とはいえ、躊躇いのない覚悟がある。言葉では引き止めるのは、もう無駄な段階なのであろう。そしてこのまま彼女を放っておいたら、多くの命があたら露と消えてしまう。それを悟ったトキは防御の構えから、ついに攻撃のそれへと移した。


「せめて痛みを知らずに、安らかに逝くがいい」


死を予言する言葉を吐けど、そこに殺気やそれに類する気構えも見せない。枯れ木のように静かに佇立するトキの様子にシグナムはいぶかしみはしたが、結局の所、己のすることに変わりはない。ただ殺すだけ。ただ一本の刃と成り果てる。ただそれだけのことだ。だからシグナムはトキを殺すべく、自らが誇る刃レヴァンティンを全力で振り下ろした。


「北斗有情断迅拳!」


シグナムの耳に聞こえてきたのは、自分の勝ち鬨ではなく、トキの冷酷なる声だった。彼女の放った必殺の剣は柳のように受け流され、更にそのすれ違い様にトキの無数の拳をくらってしまったのだ。その拳は北斗神拳の奥義。人間を絶命させるための秘孔を、瞬時に突く恐るべき技だ。この技を受けては、必死は免れない。それが最強の暗殺拳である北斗神拳、その二千年の歴史において、有数の実力者に数えられるトキであるならば、尚更だった。しかし、その結果に誰よりも先に戸惑いの声を上げたのは、肝心のトキであった。


「バ、バカなっ! 確かに秘孔を突いたはず……!」


トキの放った奥義を受けても、シグナムは平然としていたのだ。トキの様子にシグナムは僅かに首を傾げるが、これを好機として、すぐさま瞬息の剣を横に薙ぐ。とはいえ、一滴の水がトキの心に落ちた程度では、その水面は波立ちはしない。彼に攻撃を当てるには、程遠い隙というものだ。それならば、今彼がシグナムの剣をその身に受けた理由とは何なのだろうか。


「……病か」


剣による傷とは別に、咳と共に血の塊を吐くトキを見て、シグナムは自ら出した答えに納得した。丹念に鍛え上げられた肉体に目を奪われがちだが、よく目を凝らしてみれば、トキの病苦が見て取れる。生気が抜け落ちたように色を失った頭髪に、抉り取られたかのようにごっそりと痩せこけた頬、そして敵を前にしても抑えることができない咳。そのどれもが、トキから戦う力を奪い取っているのは、明らかなことだった。


「残念だ。万全の貴様と戦ってみたかったが…………いや、この場合は僥倖というのだろう。これで労せず貴様を殺すことができる」


シグナムの顔に喜びの色はなかった。既にシグナムの勝利は確定事項だ。だけど、トキを悠然と見下ろしながらも、彼女は逡巡の色を隠せていなかった。


「手向けになるかは知らん。だが、トキ、貴様の名前だけは覚えておこう。……さらばだ」


その言葉は自分でも驚くほど滑らかに口から出ていった。確かにそこには躊躇いはあった、抵抗はあった。だけど、それ以上に大切なものが、彼女にはあったのだ。だから、シグナムは容赦なく冷たい刃をトキに振るった。


「……無念」


最後にそんな胸中を残し、トキの意識は闇に沈んでいった。



濃厚な血の匂いが辺りを充満する。それはかつての騎士としての誓いを、明確に否定するものだ。人は殺さない。それは自らが仕える八神はやてを悲しませまい、と仲間の騎士たちと共に誓約したものだった。だけど、それをたった今裏切った。血の海に横たわるトキを見つめ、シグナムはその事実を飲み込んだ。それは苦渋に満ちた決断だった。他に方法があれば、喜んでそれを選んだだろう。しかし、八神はやてを最後の一人にする。それ以外に、シグナムは彼女を救う手段を思いつかなかったのだ。


「主はやて……私は騎士として誇りを捨てます。だが、あなたの刃として私をここにいさせて下さい。私はあなたを必ずこの地獄から救い出してみせます」



【一日目 深夜】
【現在地 E-8】
【シグナム@魔法少女リリカルなのは A's】
【状態】健康
【装備】レヴァンティン@魔法少女リリカルなのは A's
【道具】武器支給品、ランダム支給品×2、支給品一式×2
【思考】
 基本 八神はやてを最後の一人にする
 1. 八神はやて以外は全員殺す
 2. 八神はやてが心配
【備考】
※トキを殺したと思っています
※殺人にはいまだ躊躇いがあります





数刻後、トキは目を覚ました。肩から胸にかけての裂傷はひどいものだったが、そこには確かに息をしているトキがいた。シグナムの剣は一流の腕だった。故に、間違っても殺すことを仕損じることはない。それ程卓越した技量の持ち主だったのだ。それなのに自分は生きている。トキは止血の処置を行いながら、そのことに思いを馳せ、やがて溜息と共に一つの答えに辿り着いた。


「迷い……か」


トキはシグナムには、既に修羅の道を歩む覚悟があると断じた。殺意を含んだ刃に、決意に満ちた目。それらは自らの足を躊躇わせずに進ませる強靭な意志の表れだと思い込んだ。だが、それは違ったのだ。彼女の鋭利な刃を鈍らせたのは、殺人に対する躊躇。その殺すか、殺さないかの葛藤を、斬りつけるその最後の瞬間まで彼女は続けていたのだ。それなのにトキは、そのことに気がつかず、焦燥とも取れる速断によって、拳を振るてしまった。


「先の秘孔のことに関してもそうだ。私はまだまだ未熟の身ということなのだろう。だが、今度は間違いはしない。シグナムさん、私はあなたを必ず止めます」


シグナムの剣は悲哀に満ちていた。その悲しみの根源にあるのは、殺人を忌避する優しさだ。だからこそ、自分は生きていた。そしてだからこそ、まだ引き返せる余地がある。この繋ぎとめられた命は、彼女の最後の良心であり、地獄の底に伸ばされた手でもあるのだ。なればこそ、シグナムの手を掴み、彼女を止めてやらねばならない。彼女の本質は、修羅ではなく、人間そのものなのだから。トキはシグナムの後を追うべく、その足を力強く前へ進めていった。



【一日目 深夜】
【現在地 E-8】
【トキ@北斗の拳】
【状態】死の病、胸部裂傷(止血済み)、失血により貧血気味
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
 基本 殺し合いを止める
 1. シグナムを止める
 2. 修羅の身に落ちた者は殺す



【支給品説明】
  • レヴァンティン
剣・連結刃・弓の3形態に変形するアームドデバイス。武器としての機能が非常に優れている反面、魔法補助能力はほとんど持ち合わせていない。



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シグナム 45:Hello, Good Bye
トキ 40:Can't Fight This Feeling



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最終更新:2012年04月15日 01:01