アットウィキロゴ
決死の覚悟。


トキはラオウの姿を捉えた瞬間、それだけの気構えを持った。何せ相手は世紀末の世において、覇を唱えんとする拳王ラオウである。そんな彼に生き様と反するような愛や情を、幾ら実弟だからといって自分に求めるのは、あまりに無理な話だ。この場でもラオウは決して闘いを止めることはないだろう。ラオウを良く知るトキだからこそ、そんな確信を持っていた。だが不思議といつまで経っても、ラオウからは攻撃の気配が漂ってこなかった。


「ラオウ、あなたは……?」


トキは思わず疑問の声を上げた。相手が依然と違っている様が、トキの目に見て取れたのだ。絶えず余裕を持ち、万物をひれ伏させんとしていた覇気がどこにもない。今は何かに追われているような焦燥が、その顔に際立っている。そしてそんな気持ちに駆り立てられたように、ラオウから口から言葉が漏れてきた。


「トキよ……哀しみとは何だ? うぬならば、それが分かるはずだ」

「ラオウ、何を言っている?」

「…………ケンシロウだ」

「ケンシロウ?」

「奴は北斗神拳究極奥義 無想転生を完成させおった」


驚愕が電流となってトキの中を走りぬけた。ケンシロウが無想転生を体得した。それ自体も驚きの一つだが、同時にケンシロウがそれをラオウに見せたということは、否応なしに一つの事実に辿り着いてしまうこととなる。


「ラオウ、あなたはケンシロウに……」


負けたのですか。その言葉をトキは口から出せなかった。ラオウの誇りの高さは知っている。敗北などという言葉を、無遠慮に他人から投げかけられれば、いたずらに傷つけるだけだ。しかし意外にもそのことを肯定するような台詞が、ラオウから放たれてきた。


「どうすればケンシロウに勝てる? あやつが、あそこまで上り詰めたのは、哀しみのおかげという。……答えよ、トキ! うぬならば、哀しみの正体を知っているはずだ」

「哀しみ……」


トキは静かにその言葉を反芻した。ラオウを負かせるまでに強くさせたケンシロウの哀しみ。そのことに思いを馳せて浮かんできたのは、ケンシロウの強敵(トモ)と呼べる男たちであった。彼らが自らの命の代わりに残した意志。それをケンシロウは受け継ぎ、今も尚心に刻んでいる。本来なら強敵(トモ)と分かち合うはずのそれを、ケンシロウはたった一人で背負い、歩き続けているのだ。生きていく上では、死者の念など必要ない。しかし、それを受け入れることを良しとしたケンシロウの情こそ、彼を強く突き動かしたのではないか。トキはそこまで頭を巡らして、ラオウに答えを差し出した。


「ラオウ、あなたは既に気がついているはずだ。ラオウとケンシロウの違いを」

「ケンシロウとの違い……だと? まさかケンシロウの甘さのことを言っているのか? そんなものは、己の拳を鈍らせるだけの重石に過ぎぬわ!」

「そうやってあなたは全てを切り捨ててきた。だが、ケンシロウはあなたが切り捨てた全てのものを、その背に負ってきたのだ」

「それが哀しみだというのか、トキよ!! 何たる惰弱!! そんなものを誇るなど、恥辱でしかないわ!!」

「だが、あなたはその情に負けたのだ」


凛と響かれるトキの声にラオウは言葉を失った。いまだ自分の中に居座る恐怖を拭えぬ以上、自らの放言は負け惜しみでしかない。だが、己の拳に情を纏うなど、力こそ正義としてきた今までの自分を否定するようなもの。自らを誇るラオウには、到底真似などできるはずもない。しかし、幾らそこから目を背けても、ケンシロウへの恐怖が消えて無くなるわけではないことも、また事実だった。


「哀しみ……」


再び同じ言葉を吐いて、ラオウはトキを睨みつけた。哀しみの根源とも言える他者への情。もしラオウがそれを持っているとしたら、向ける相手は、目の前の実弟たるトキだろう。そしてケンシロウと同じように哀しみを背負うには、ラオウが己自身でトキを殺せばいいことだ。いまだ情を肯定する気になれないが、ケンシロウに勝つには、それしかないとなれば是非もない。ラオウは問答するだけの口を閉じ、ついにその身体を動かした。




      ――

   ――――

     ――――――――




結局、ラオウはトキを殺さなかった。理由は簡単だ。既に過去の立ち合いで、弟である拳法家のトキは死んだのだ。今、目の前にいるのは病と闘う単なる男でしかない。そんな人間を殺したところで哀しみなど生じるはずもない。だとしたら、誰を手にかければ、哀しみを背負うことができるのだろうか。答えとなる相手を、ラオウは最早この世にただ一人しか思い浮かべることができなかった。己が手に収めんとした女性――ユリアだ。だが、ラオウはそこで自分の変化に気がついた。いつの間か、涙が頬を濡らしているのだ。トキを殺した時に、枯れ果てたはずのラオウの涙。それはユリアを殺すことを決意した途端、再び溢れるように湧き出ている。
これは哀しみなのか。前へ進むラオウの足は、それに答えるかのように次第に重くなっていった。



一方のトキも北斗神拳の構えを解き、静かにラオウを見送った。道を誤ったなら、その悪しき拳を封じる。幼き日のラオウとの約束を胸に抱くトキは、己が宿命をラオウとの決着に置いていた。しかし、今のラオウは暴凶星としてあった姿は消えうせ、ただ一人の人間として苦悩しているのが見受けられる。その姿はどこか正しき飛び方を模索する雛鳥のようにすら思えた。
ラオウにしろ、ケンシロウにしろ、いつの間に勝敗を分けたのだ、という疑問はある。しかし、それでもラオウの変化には好ましいものがある。もしこれを機にラオウがケンシロウのように情を身につけたなら、それ以上のことはやはりトキにはないのだから。



【一日目 黎明】
【現在地 D-8】
【ラオウ@北斗の拳】
【状態】健康、涙シトシト
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 ケンシロウに勝つ
 1. ユリアを……
【備考】
※哀しみとは、他者への情にあると思っています
※哀しみを背負うには、情を向けた相手を殺すべきだと思っています
※ユリアを殺すことに、躊躇いを覚えています


【トキ@北斗の拳】
【状態】死の病、胸部裂傷(止血済み)、失血により貧血気味、ラオウの変化にちょっぴり笑顔
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
 基本 殺し合いを止める
 1. シグナムを止める
 2. 修羅の身に落ちた者は殺す
【備考】
※ラオウが正道に戻りつつあると思っています



39:Beautiful <BACK  NEXT> 41:Safe And Sound
02:Wonderwall ラオウ 65:The Long and Winding RoadCreep
03:Like A Rolling Stone トキ 57:Creep



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年10月28日 00:16