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ジョセフは驚愕した。相手は殺し合いを肯定して攻撃を仕掛けてくるマーダー。そんな人間と会話をするとなれば、普通はその行為を諌めるための発言をするものだ。それが常識を持った人間のすることであろう。しかし、あろうことか、幻海はその逆にマーダーを励ましにいっているのだ。その事実を前にして、歴戦のジョセフもさすがに動揺を隠すことができなかった。


「まるでなっちゃいないねぇ。おまえに比べれば、まだうちのバカ弟子の方がマシってもんさ」


幻海は相対するシグナムを剣を余裕を持ってかわし、溜息混じりに呟いた。落胆を意味する言葉にシグナムは屈辱を感じた。外道に身を染めたとはいえ、己が強さにはまだ矜持を抱いているのだ。それを傷つけられてしまえば、当然怒りは湧く。シグナムは幻海の言葉を否定すべく、力を込めて、より一層素早く剣を振るった。だけど、その結果は痛烈なるカウンター。必殺の剣は柳のように受け流され、老人の細腕とは思えない力でシグナムは、その頬を打ち抜かれたのであった。


「……勘違いしているようだから、教えといてやるよ。おまえは強い」


幻海は口から血を流すシグナムを指差して凛と話しかけた。
さっきとは打って変わった言葉の意味に、シグナムは痛みを忘れて眉を顰める。


「ご老人、先程はそれを否定していなかったか?」

「フン、同じさ。おまえは強い。その歳にしては剣のスピードも振り方も、飛び抜けたものがある。まったくたいしたもんだよ。だけどね、同時におまえは老人一人殺せないほどに弱いのさ」

「何を言っているか、分かりかねる」

「分からないかい? おまえの剣に躊躇いが見えるのさ」

「躊躇い?」

「ああ、そうさ。おまえはこの今にも死にそうな老人一人を殺すことに、ご大層な悩みを抱えている。それがおまえの剣を鈍らせているのさ。笑っちまうよ。おまえの剣は、既に血に濡れているというのにね」


既に血は拭われたシグナムのレヴァンティンだが、幻海の洞察はその痕跡を容易に看破してみせた。言われたシグナムも、切り捨てた男のことを思い出し、自分の決意を口にする。


「そうだ! 既に私は人を一人殺した! そんな身で今更殺人に迷いを持ち込むことなどない!」

「おまえにそんなことが言えるのかい? 最初の出会いが何よりもの物語っているよ。殺すことを目的としているんだったら、わざわざわたしらの前に出て、名乗り上げる必要なんざないだろう。おまえほどの腕で奇襲に徹していれば、最初の一撃でわたし達の内一人は十分に殺せたさ。それなのにおまえは相手を殺す機会を先延ばしにしている。それが迷い以外の何だって言うんだい?」

「それは迷いではない! 騎士としての誇りだ!」

「その誇りとやらは、おまえの目的を逸してもいいものなのかい? 人を殺したってことは最後の一人になることを決めたんだろう。おまえさんが何故そんなことを選んだのかというのは、さらさら興味はないが、おまえのやり方は迂遠過ぎる。そんなんじゃ、道も半ばで倒れるのが目に見えているよ。その点では、うちの幽助の方がまだマシさね。あいつはバカだが、一度決めたことは曲げずにやり遂げる根性はある。見ていて気持ちがいいよ」


幻海の指摘にシグナムは堪らず臍を噛んだ。自分の目的を何よりも優先とするなら、確かに自分の行動は不合理なものだ。無論、騎士としての誇りという答えに間違いはない。だけど、それ以上に自分の振る舞いに枷をかけたのは、やはり迷いがあったからなのではないか。シグナムは自分の主である八神はやての顔を思い浮かべて、そう思ってしまった。


「だったら、どうしろと言う? まさか皆で仲良く手を取り合って呪いを解き、バーンを倒せというのか? 馬鹿馬鹿しい」


シグナムは嘲笑と共に幻海に訊ねた。今ある現実を見据えれば、間違いなく自分の行動は正しいと言えるものだ。もしそれが違うというのなら、呪いを解き、バーンを倒すまでの道のりを提示しなければ、反証になどならない。だけど、幻海はそんなことを必要としない、実に簡単な答えをシグナムに与えてくれた。


「決まっているさ。おまえが抱えている迷い。そんなものは犬にでも食わせちまえば、いいんだよ」

「なに?」


てっきり改心を狙ったお節介な言葉が返ってくると思っていたシグナムは、驚きの余り開いた口をしばらく閉じることができなかった。一方の幻海は僅かに尻込みすることなく、普遍の真理を告げるように迷いなく口を開いた。


「あたしゃ、どっちつかずっていう中途半端が大嫌いなのさ。この島にいる全員を殺してバーンに命を乞う。合理的な判断だよ。別に恥じることなんざ、ありゃしない。自分の命は誰だって大切なもんだ。悠長に天秤にかける暇などないくらいにね。殺したきゃ、殺せばいい。良心が咎めるかい? なに、全員を死体にすれば、文句を言う奴なんか出てこないよ」


幻海は明るく殺人を肯定。その常軌を逸した行動に堪らずジョセフを二人の間に口を挟んできた。


「こら、待たんかい、バーさん! 普通、逆じゃろ!? ここは殺人を諌めるところじゃろうが!」

「そんな面倒くさいことは、ごめんだね。そんなお節介を焼きたいたら、おまえさんがすればいいさ」

「なん……じゃと?」


シグナムの方に目を向けてみると、眼光鋭くこちらを睨んでいる。更には、こちらを突き刺さんとするかのような刺々しい気配すら漂っている。そのこれでもかと警戒を露にした姿勢は、とてもではないが言葉など入り込む余地などない。


「このクソババア、なんちゅうパスを寄こすんじゃ! そんな無理矢理なものでゴールが決められるか!!」


ドッシリとゴール前にキーパーを居座らせた原因である幻海に、ジョセフは文句をつけずにはいられなかった。ゴールを決めさせたいなら、もっと警戒心を与えない、ごく自然な形でパスを寄こすべきなのだ。それなのに幻海はシュートしろ、と命令しながらキーパーの目の前で、これみよがしにパスする。そんなあからさまなものでは、どんな名選手だってゴールなんか決められるはずもない。とはいえ、ボールが足元にまで来てしまったなら、やはり蹴らなければならないのだろう。


「いやいや、お嬢さん。殺人は良くないぞ。そんなことを知ったなら、親御さんも悲しむ。それにじゃな、これは若いからって、やり直しがきくものではない。人の命は失ったら、また取り戻せるというものではないしな。だからここは一つ慎重になってじゃな、色々と検討してから物事を確実に進めていくというのが筋じゃないか」


よろよろの態勢になりながらも、ジョセフは何とかボールを前に蹴り出す。果たしてゴールは決まってくれるだろうか。ジョセフは隙を見逃すまいとシグナムの一挙一動を見つめた。


「ご老人、お気遣い痛み入ります。確かにあなたの言うとおり、失った人の命は取り戻せるものではない」


意外な好感触にジョセフはビックリした。あんな熱もないありきたりの言葉では、説得できる自信など微塵もなかったのだ。些かしっくりとこないが、ここは喜ぶべきところなのだろう。ジョセフは相好を崩して、シグナムを迎え入れる姿勢を取った。しかし悲しいかな、それとは反対にシグナムの瞳は、より冷たくなっていった。


「そう、取り戻せるものではない。だから、私に逡巡している暇などないのだ。もしまだ私にそれがあるというのなら、今ここであなたの血でそれを拭おう!」


シグナムはすかさず剣を取り出し、ジョセフに向かって走り出した。自分の躊躇いで主である八神はやての命を取りこぼしてしまったのなら、それこそ騎士の名折れだ。シグナムの足は力強く地面を踏みつけながらも、軽やかな動きでジョセフを向かっていった。だけど、その決意に満ちた顔が残した結末は、何とも無様なものだった。何故なら次の瞬間、シグナムは転んで、地面に強かに顔をぶつけてしまったのだから。


「……な、何だ?」


シグナムの頭は疑問で埋め尽くされた。急に足が何かに掴まれ、バランスを失ってしまったのだ。確認の為の目を自らの足に向けてみるが、そこには何もない。だが感触としては、間違いなくそこに何かがあるのだ。


「貴様の仕業かッ!?」


不可思議な現象に唯一顔に疑問を浮かべていなかったジョセフを、シグナムは睨みつけた。そのジョセフは質問に答えるかのように、新たな言葉をシグナムに送りつける。


「……アンド波紋」


特殊な呼吸法によって生み出される太陽の力――波紋。それはジョセフの手からシグナムの足に伸びていたスタンド――ハーミット・パープルを通って伝わっていく。普通なら、見ず知らずの力が自分に向かって襲ってくれば、恐怖に陥る。だが、その力の伝導をシグナムは笑みでもって迎え入れた。スタンドはスタンド使い以外にとっては不可視の存在だ。しかし、波紋はそうではない。その神秘が生み出す輝きは常人の目にも留まるもの。波紋の軌跡は、ハーミット・パープルの存在を確かな形でシグナムに知らせてくれた。


「ハアッ!!」


掛け声と共に一閃。シグナムの剣は、ジョセフとの間にあったハーミット・パープルを確実に捉えた。シグナムの技量とレヴァンティンの切れ味を以ってすれば、切れぬものなどはそうそうない。しかし、その結果として残されたのは、シグナムが物の見事に波紋に身を焼かれることであった。


スタンドは、スタンド使いに見えないと共に干渉も不可能な存在なのだ。そこに個人の技も武器の良し悪しも関係ない。そのことをシグナムは否応なしに理解させられた。だけど、太陽を苦手とする吸血鬼ならまだしも、そうではないシグナムが波紋程度の威力で音を上げることはない。身体に走る痛みを振り払うかのようにシグナムは急加速。一瞬でジョセフに詰め寄ったシグナムは、彼を一刀の元に切り伏せようと剣を頭上に掲げた。


気絶するぐらいの波紋を流したジョセフにとって、その燃え立つようなシグナムの様は些か予想外のこと。驚きにより、ジョセフの目は見開く。しかし、それも僅か一瞬のことで、ジョセフの顔はすぐに嫌らしい笑みに変わった。


「次におまえさんは、何がおかしい、と言う」

「何がおかしい! ……ハッ!」


そしてジョセフがシグナムに巻きついたままのハーミット・パープルを動かそうとして、今度こそ驚愕によって顔を歪めた。横合いから来た幻海の蹴りによって、シグナムがいきなり吹っ飛ばされてしまったのだ。音も気配もなく、そんなことをやってのけた老女には、ただただ息を呑むばかりである。しかもその威力は折り紙つきだ。シグナムはハーミット・パープルの射程距離から離れてしまったのだから。


「……どうした、バーさん、わしの尻など拭きたくないと言ってなかったか? それともわしに惚れてしまったか?」


確かに驚きはしたが、それを殊更表に出すのは癪なので、ジョセフは努めて軽口を放った。


「フン、あたしゃ、ただ道案内がいなくなったら、困ると思っただけさ」

「フフフ、まあ、そういうことにしておいてやろうかのう。日本人はシャイというからのぉ」

「やれやれ、随分とめでたい頭の持ち主のようだねえ」


幻海との会話を楽しみながら、ジョセフは改めてシグナムが飛んでいった方に目を向けてみた。しかし、そこにはもう誰もいない。シグナムの影一つ、残っていなかった。これでは説得も何もあったものではない。このままマーダーを野放しにしおくわけにもいかないし、後を追いかけるべきなのだろう。その為の確認を、と幻海に向き直った途端、彼女から新たな言葉が掛けられた。


「放っておきな。この島の皆を殺さなきゃいけない以上、どの道私らとの出会いは避けられないんだ。その内、向こうからやってくるよ」

「いや、まあ、それはそうじゃろうが……」

「それでもあの女を何とかしたいというのなら、さっさと道案内することだね。そうすれば、すぐにでも後を追わしてやるさ」


全く他人を慮ることのない幻海に、ジョセフはただ溜息を吐くしかできなかった。



【一日目 黎明】
【現在地 D-7】
【幻海@幽遊白書】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 浦飯幽助に奥義を伝授し、戸愚呂弟と闘う
 1. 浦飯幽助を探す
 2. 戸愚呂弟を探す


ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
 基本 DIOとバーンを倒す
 1. 幻海と協力しつつ、仲間を集める
 2. シグナムの動向に気を配る




老人たちから少し離れた木の影で、シグナムは己の愚かさに歯噛みした。ジョセフを殺せたであろう機会を自ら逸してしまったのだ。何故あの時、疑問を感じる前に刃を振り下ろさなかったのだろうか。以前なら相手に言葉も掛ける暇など与えずに殺すことができた。だけど、今はどうしても相手のことを斟酌(しんしゃく)してしまう。そんな必要など全くないのにも関わらずだ。これも老人の言う迷いのせいなのだろうか。


そこでシグナムは迷妄を振り払うように、頭を振った。先程も思い至ったはずだ。島にいる人間を殺すことに遅れが生じれば、その分八神はやてに危機が迫るのだ、と。思い悩む必要など、どこにもない。何よりも大切なものは、八神はやての命だと決まっているのだ。


そのための闘いは、随分と無様なままで終わってしまったが、シグナムにとって全く収穫もなかったというわけでもない。老人は言った。奇襲に徹っしていれば、自分たちは殺されていたと。それならば、シグナムがすることなど決まっている。


「私に残った騎士としての僅かな誇り……それもドブに捨てよう。それで主が生き残れるのなら、私はどうなろうと構わない」


シグナムは決意も新たに、遠ざかる二人の老人の背中を冷徹に見据えた。



【シグナム@魔法少女リリカルなのは A's】
【状態】健康
【装備】レヴァンティン@魔法少女リリカルなのは A's
【道具】武器支給品、ランダム支給品×2、支給品一式×2
【思考】
 基本 八神はやてを最後の一人にする
 1. 八神はやて以外は全員殺す
 2. 八神はやてが心配
【備考】
※トキを殺したと思っています
※殺人にはいまだ躊躇いがあります
※以降の闘いは、奇襲に徹するつもりです



44:I Will Get There <BACK  NEXT> 46:Love Me Do
23:Come Together 幻海 65:The Long and Winding Road
23:Come Together ジョセフ 65:The Long and Winding Road
03:Like A Rolling Stone シグナム 67:Party Hard

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最終更新:2012年11月06日 00:20