その輝きは暗闇を押し分けんとする強い光だった。それほど眩いものが、青年の瞳の中にあったのだ。だけど、リンゴォは真っ直ぐと注がれるその目を全く怯むことなく黒い双眸で平然と受け止め、青年に制止を促した。
「やめておけ。君ではおれに勝てない。戦うのは、そこのアベ・タカズだ」
銃弾を釣り糸で叩き落すという神業をやってのけた青年に対して、リンゴォは確信をもって青年の敗北を告げた。そこには自分を着飾るような見栄や自惚れはない。寧ろ、リンゴォの言葉の調子には青年を気遣う優しさすら垣間見えるものであった。だけど、そこで青年が頷くことはなかった。自らに殺意を持たないといえ、銃を平然と人に向けるような輩が、目の前にいるのだ。寺に生まれ、人の命を尊さを誰よりも心に納めてきた青年にとって、それは到底看過できるものではない。
「なるほどね、言いたいことは分かったよ。だけど、それでもこの場は譲れない。戦うのは、この俺だ」
右手の親指で自らを指し、毅然と告げる。青年の足に竦みはないし、瞳も微塵も揺れない。
銃口は依然と青年に向けられているのにも関わらずにだ。その自信に満ちた様に、リンゴォは小さな溜息を漏らし、説明を続けていった。
「悪いことは言わない……君は下がれ。もう少しだけ話をしてやろうか……? そこのアベ・タカズはいざという時には、俺を殺しにかかる『ドス黒い害意』が心の中にある……だが君はそうではない。そういう『性(さが)』だ。だから下がれ。それが理由だ」
「……そして人の命が失われるのを黙って見ていろって? 人を殺すというのなら、尚更俺はここをどけないな」
リンゴォの言に負けず青年は己の存在を主張する。彼は寺に生まれた故に人よりも強い霊力と霊感を兼ね備えて生きてきた。そんな彼が耳にしてきたのは、人の死が奏でる怨嗟や嘆きの声だ。そこに幸福はあったか? 温もりはあったか? 光はあったか? 人の死が形となった霊にあったのは、いつだって深い穴を覗き込んだような暗い絶望だ。そして人の不幸は、その暗がりを中心に膨れ上がっていく。寺に生まれたものとして、それを祓うことを自らの務めしてきたが、青年がそれを喜んで受け入れたことは一度たりともない。青年が人に望むのは、皆が生きて幸福になることだけだ。だから、人の死を呼び込もうとするリンゴォを前にして、道を譲ることは決してない。しかし、対するリンゴォにも青年のように曲げられない生き方があった。
「公正なる果し合いは自分自身を人間的に成長させてくれる。卑劣さはどこにもなく……『漆黒の意志』……アベ・タカズは『ドス黒い害意』だが、それによる殺人は、人として未熟なこのおれを聖なる領域へと高めてくれる」
それは真摯な口調であった。だけど、そこに気負いも熱意もない。
リンゴォはただ訴えかけるように淡々と言葉を紡いでいった。
「乗り越えなくてはならないものがある。『神聖』さは『修行』だ。だから君たちに全てを隠さずに話している。能力にも目的にも、おれに嘘はない」
「殺人なんかが、人を成長させるかよ。それは単に人の道を踏み外していっているだけだろう?」
「反社会的と言いたいか? だがこれが『男の世界』」
もう語るべきことはないリンゴォは口を閉じて、
阿部高和に目を向ける。その視線は意図は明らかだ。勿論、阿部はその内容を理解していたが、素直に受け入れることにした。名前すら知らないが、自分を庇った最高にイイ男を、むざむざ死地へ赴かせることを良しとしなかったからだ。
「というわけで、奴(やっこ)さんが誘っているのは、この俺だ。こっからは俺がやるよ。さっきは助けてくれてありがとうな」
阿部は青年の肩に手をかけ、朗らかに笑みと共に話しかけた。年上の人間として、一人の男として、阿部は青年の前で強がってみせる。それがイイ男なのだ、と。しかしその次の瞬間、阿部のそんな意地は儚くも霧散してしまった。胸は高鳴り、血がざわめき、身体が止まる。
阿部の言葉に振り返った青年の笑みがあまりに眩しく、阿部はまた見惚れてしまったのだ。
「大丈夫。そこで少し待っていろ」
力強い青年の言葉だった。それはとても頼もしく、阿部をもってしても容易に否定できない重みが、そこにはあった。
――
――――
――――――――
銃声と共に戦いの幕が上がる。リンゴォは自分に向かってきた青年に対して、何の遠慮もなく銃弾を放ったのだ。確かにリンゴォは青年に殺す価値を見出してはいないが、かといってそれが反撃しないということには繋がらない。リンゴォの銃弾は正確無比に青年の右足に向かう。だけどそれを予見してかのように、青年は左足を軸にして後ろに回転。音速を超える銃弾を踊るように軽やかにかわし、青年はすぐさま反撃の光の弾を掌からリンゴォに向けて放った。
それは寺での修行で培った強大な霊力を込めた攻撃。当たれば、どんな巨漢であろうと、ひとたまりもない。しかし、青年の反撃はリンゴォの予想の内のこと。リンゴォは冷静に身体を横にずらし、攻撃をやり過ごそうとする。そしてリンゴォは自らの失敗を否応なしに悟らせられた。青年の放った光の弾が目の前で弾け、閃光を発したのだ。その強烈な光はリンゴォの目をたちどころに眩ませ、青年が付け入る多大な隙を生じさせた。
「破ぁ!!」
青年の咆哮と一緒に放たれたのは、釣竿の糸だった。青白く輝く釣り糸は一直線にリンゴォの持つ銃に向かい、見事にそれをはじく。それだけでは飽き足らないと釣り糸は生きているかのように動き回り、リンゴォの身体に瞬時に巻きつき、拘束。そして再び響き渡る青年の掛け声。青年は巧みに竿と糸を動かし、リンゴォを蓑虫のように近くの木の枝に釣り上げのだ。
カチリ、と小さな音が鳴る。それはリンゴォのスタンドの能力を使用を知らせる音。そして時は6秒巻き戻る。リンゴォの手には銃があり、青年の肩には阿部の手が置かれていた。時の逆行という不条理な感覚。それにたまらず阿部はうめき声を漏らす。そして青年も阿部のように感覚が付いていけないだろうと、リンゴォは時間が戻った瞬間、すかさず銃の引き金を引いた。
「むッ」
リンゴォの言葉には僅かに驚きの色が塗られた。輝く釣り糸が、青年に迫った銃弾を雁字搦めにしていたのだ。
「一つ疑問がある」
唐突に青年は声を発した。
「何故6秒なんだ。時間を戻せると言うのなら、一分でも十分でも巻き戻して、俺がここに来る前の時間で阿部さんとの戦いをやり直せばいい。何故そうしない?」
「……6秒……それが俺が干渉できる時間の限界だ」
「なるほど。それはつまり連続して能力を使用できないというわけか」
自らが辿り着いた答えを、青年は笑みと共にリンゴォに示す。だけどリンゴォは自らの迂闊さを呪うわけでもなく、逆に青年の笑みを嘲るように、より詳しく自分の能力の説明を加えていった。
「そうだ。そして俺が再び能力を使用するには……6秒。それ以上でも、以下でもなくきっかり6秒の時間が必要だ……こんな風に説明するのが疑問か? 君としては、してやったりだったかもしれないが、別に俺は自分の能力を隠す気はない。言ったはずだ。俺は公正なる果し合いを望んでいると……」
「ご大層なことで。だけどそれが本当なら、能力を使った後の6秒以内にお前を倒せばいいってことか。なるほど、それなら…………簡単だ!!」
青年はそう言い切ると、間髪入れずに釣り糸をリンゴォに向けて放った。青年の霊力が込められたそれは銃弾をも凌ぐ勢いでリンゴォに到達。しかし、圧倒的な威力と青年の殺人の忌避から、リンゴォは容易にその攻撃箇所を判別していた。即ち、場所は先程と同じく銃。それを悟ったリンゴォは青年が釣り糸を放った瞬間に、銃を右手から左手に移し変える。その行動は僅かに遅れ、手首から先の右手は吹き飛んだが、リンゴォはそれにも構わず勢いよく地を駆け、前進。片手での射撃の精度を補うために、リンゴォは一気に詰め寄り、引き金を引こうとする。
だけど、その行動に素早く対応できたのが、寺で過酷な修行を積んだ青年であった。青年は釣竿を持つ反対の手で、即座に光弾を放つ。リンゴォは先のやり取りから、それを威力のない単なる閃光弾と思い、構わず突き進んだが、それは明らかな失策であった。何故なら次の瞬間、リンゴォの身体は重機の鉄球を受けたと思わせるような衝撃により、空中へと吹っ飛んだのだから。あまりの威力により、リンゴォの肋骨は粉砕し、口からは臓物と血が吐き出される。しかしそれでも飛びそうになる意識を何とか繋ぎ止め、リンゴォは左手首を口元にもって来た。
そこにあったのは腕時計。そしてそれに付いているつまみをリンゴォは口で捻り、秒針を戻した。それこそがリンゴォのスタンド能力発動のスイッチ。そして時間は再び巻き戻る。リンゴォの身体に怪我はなく、青年の肩には阿部の手が置かれていた。
「時間は戻った! これより6秒以内に決着をつけるッ!!」
青年はそう宣言するや否や、釣竿を振った。そこから伸びるのは、青年の手足となって動く神速の釣り糸だ。それは狙いあやまたずにリンゴォに向かうが、その軌跡を目にするのは既に三度目。そこまで技を披露されてしまえば、リンゴォほどの男なら十分に対応できる。銃に伸びる糸を半身ずらすことによってかわし、逆にその糸をリンゴォは掴み取る。間を置かずにやってきたのは、青年の掌から放たれた光弾だ。
青白く輝くそれは尾を引きながら、暗闇を引き裂き、リンゴォに向かってきた。その威力を身をもって知っている故に、リンゴォの背には氷のような戦慄が走る。だけど、リンゴォにはその恐怖を克服できる胆力があった。リンゴォは迫る死に顔色一つ変えず走り出し、斜め前方の地面に転がる。九死に一生を見出すような無茶な回避の仕方であったが、それも無事に成功。また前に飛び出ることにより光弾の閃光をも無効化。これで青年の持つ手札は全て切られた。だが、リンゴォのそんな思惑を裏切るかのように青年が弾丸の如き速さでこちらに向かってきたのだった。
銃声が鳴り響く。そして放たれた銃弾は青年の腹に当たり、服を紅く染め上げた。青年も速さも驚くべきものだったが、リンゴォのそれもまた同様のものだったのだ。しかし、リンゴォの目は驚愕によって見開かれた。青年の足は銃撃されても寸毫も止まらずに、リンゴォの目の前にまでやってきたのだ。青年の行動など、正義感などという薄っぺらな意志によるもの。だから簡単にそれは翻せる。リンゴォはそう思って疑わなかった。だが、青年の瞳に浮かぶのは、薄弱な意志を超越した太陽の如き燦然とした輝き。一点の曇りもなく、決して漆黒になど染まらない超然たる光だ。
「これは、まるで……『黄金の精神』」
青年の眩いばかりの眼光に、リンゴォはその内面を悟った。そしてそれと同時に霊力が存分に込めらた青年の青白く輝く右腕が、リンゴォの眼前で振りかぶられた。
「リンゴォォォーー!!」
「おおおぉぉぉーーー!!」
リンゴォも吼えた。この相手は、かつてない程の強敵。リンゴォをして、そう認めざるを得ないほどの実力と精神を兼ね備えた人間。それがこの寺生まれの青年だったのだ。再び銃声が鳴る。何分も、何十分も続いたと思わせるほどの熾烈な戦闘。しかし、その決着は一発の銃弾であっさりと着いた。
「強かった。殺さざるを得なかった。でなければ、俺は負けていただろう。『漆黒の意志』をも超えた君の『黄金の精神』……それに敬意を表する」
勝負を制したのはリンゴォだった。あのままだったなら、銃の引き金を引くよりも早く青年はその光り輝く拳をリンゴォに叩き込んでいただろう。それほどの説得力を持つ修練された一撃だった。だけど、その勝利を決定付ける拳は結局、振るわれなかった。その原因は威力の高さ故にだ。青年の攻撃をかわすことは無理。そう判断したリンゴォは逃げるのではなく、逆にその拳に自らの命をさらけ出した。結果、殺人への躊躇いをがある青年は、その攻撃をリンゴォの首元で止め、そしてその隙にリンゴォの銃弾を左胸に受けたのだ。
「感謝いたします」
地面に伏した青年に向かって、リンゴォは手を合わせ、呟く。それは教会の祈りのように荘厳な雰囲気に満ちていたが、現状をようやく理解した阿部によって、すぐに壊されることとなった。
「リンゴォおおおおーーッ!!!」
阿部の怒りの咆哮。恋人となってくれるはずだった青年を殺された阿部は激情に支配され、すぐさま仇を取ってやろうとその場を駆け出す。しかし、ふいに聞こえた声と、無造作に掲げられた手によって、阿部の足は止められた。まだかすかに青年が生きていたのだ。とはいえ、その傍にはリンゴォもいる。暢気な邂逅など望んでいられない。阿部は阿修羅の如き表情で彼を睨みつけた。その迫力に満ちた『漆黒の殺意』はリンゴォの食指を動かすほどの魅力だ。だけど、その裏にある意を鋭く察したリンゴォは、邪魔する気はないと後ろに下がり、距離を開けた。青年を手にかけた人間のことなど、到底信じる気にはなれなかったが、いつまでもそこで待っていられないというのも事実だった。青年の呼吸が段々と弱くなっていっているのだ。もう時間はない。阿部はたまらず青年の下に駆け寄り、彼の手を掴んだ。
「大丈夫! 大丈夫だ! 俺たちは助かる! ここから生きて帰るんだ! だから、心配するな!」
阿部は青年の手を擦りながら、必死に呼びかけた。その言葉の内容は現状では無意味ものだ。
心臓を銃で打ち抜かれ、地面におびただしいほどの血を流れ出している。もうそこには死を否定する要素はない。だけど、それでも阿部は声を掛けずにはいられなかった。ほんの少しでも青年の励ましになってほしかったから。
それはもしかしたら他に何をすることもできない自分の無力さを打ち消したいだけの独り善がりだったかもしれない。言葉の贈り物などで、苦痛が取り除かれるわけでもないし、まして失いつつある命を埋められるものではない。しかし、それは青年に対しての、阿部の真なる思いやりの表れだ。青年もそのことに気がついたのだろう。苦痛に歪めていた表情は柔らかくなり、暗くなりかけていた瞳にも光が戻った。
「……頼む」
青年の口から声が絞り出された。
「何だ!? 何をだ!? 俺はお前のためなら、何だってできるぞ! ああ、何だってやってやるさ!」
「……受け……取ってくれ」
その瞬間、青年の手に力が入り、阿部の手が痛いほどに掴まれた。そしてそれと共に青年の身体は青白く輝きだす。それは暗闇を吹き飛ばし、太陽のように世界を明るく染め上げる眩く、温かかい光。そしてその光輝の中で、青年は決然と目を開き、口を開けた。
「俺が最期に見せるのは代々受け継いだ未来に託す寺生まれの魂だ!! 俺の全霊力を受け取ってくれ、阿部ェーーーーッ!!」
青年は命を振り絞り、より一層、青白き力を輝かせた。そしてその膨大な光は、青年の右手を通し、阿部に伝わっていく。それはまさしく命の輝きだった。青年から光が失われていくと同時に、青年の瞳から光彩も薄れていく。その逆に阿部の身体は、活力に溢れたかのように肌にハリが出て、股間が膨張していったのだ。だけど、そんな阿部の顔は涙に塗れていた。自らの身体が熱をもっていく一方で、冷たくなっていく青年の手。その紛れもない青年の確かな死の感覚が伝わってたのだ。
「ア、ア、ア、アーーーーーーッ!!」
阿部の嬌声ともつかない悲鳴。それが響くと同時に温かく、そして冷たい何とも奇妙な風が吹き荒れた。その中心に立つのは阿部だ。だけど、その顔は怒りにも、哀しみにも染まっていなかった。そこにあったのは、生気の抜けたような呆然としたものだ。ドス黒い害意と漆黒の殺意も明らかに剥がれ落ちたそれは、リンゴォにとって興味の範囲外。そこに目を向けるべきものも、恐れるものもない。しかし、その事実を前にして、リンゴォの目は阿部に釘付けにされ、足も竦むのを押さえられなかった。それほど圧倒的なものが、今の阿部の中には存在していたのだ。
「君は……誰だ……?」
声を発したリンゴォですら、マヌケだと思った疑問だ。だけど、リンゴォは阿部にそう問わずにはいられなかった。今までとは違う。そう確信せずにはいられないほどの、変化が阿部にはあったのだ。そしてそれを示すように、次第に阿部の目が光を灯していく。そしてその目にリンゴォは見覚えがあった。そう、先程自らを敗北寸前にまで追いやった青年の、太陽の如き眩い黄金の精神。それが阿部にあったのだ。
「……俺か? 俺は阿部だ、阿部高和。単なる男でもゲイでもない。誇り高き寺生まれの魂を受け継いだ……阿部高和だ!」
阿部はかつての青年のようにリンゴォを毅然と見据えて、言い放った。
【寺生まれのTさん@2ch 死亡】
【一日目 黎明】
【現在地 D-5 総合公園】
【阿部高和@くそみそテクニック】
【状態】健康、哀しみと怒り
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 いい男として振舞う
1. ……
【備考】
※寺生まれの魂を受け継ぎました
※寺生まれのTさんの全霊力を受け取りました
【
リンゴォ・ロードアゲイン@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】リンゴォの銃@ジョジョの奇妙な冒険(残弾 3/6)
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 公正なる闘いを経て成長する
1. 阿部と果し合いをする
最終更新:2012年09月08日 02:47