戦う理由は人それぞれ(前)
「バトルロワイヤル、といったところか」
殺し合いが始まって最初に男が呟いたのはそんな言葉だった。
年齢は中年を過ぎて壮年に差し掛かろうというほど。スーツにネクタイ、右手で杖を付いている。
年齢を感じさせる皺は顔に深く刻まれており、不健康そうな顔色は妙な威圧感を醸し出す。
年齢は中年を過ぎて壮年に差し掛かろうというほど。スーツにネクタイ、右手で杖を付いている。
年齢を感じさせる皺は顔に深く刻まれており、不健康そうな顔色は妙な威圧感を醸し出す。
「特別高等人試験にも似たようなものがあったが……まさか、私が巻き込まれることになるとは、な」
男の名は法月将臣。
特別高等人という最も過酷で偉大な職業に就いた男だ。
その試験を突破するだけで九割近くの人間が死亡する。
法月、という名前も本名ではないが、この名前はかつて阿久津将臣だった彼を強く縛り付ける名前だ。
特別高等人という最も過酷で偉大な職業に就いた男だ。
その試験を突破するだけで九割近くの人間が死亡する。
法月、という名前も本名ではないが、この名前はかつて阿久津将臣だった彼を強く縛り付ける名前だ。
さて、どうするか、と法月は思案した。
これから先、己がどのように行動するべきか、という問いを己にしなければならなかった。
だが、それは呆気なく裏切られる。
これから先、己がどのように行動するべきか、という問いを己にしなければならなかった。
だが、それは呆気なく裏切られる。
すっ、と人の気配を感じたときには全てが手遅れだった。
法月が咄嗟に身体を捻るも、突如として現れた一人の人物は構うことなく法月に強烈な一撃を見舞う。
不意を突かれ、そのうえ武器の確認をする暇も与えられなかった法月は呆気なく倒される。
受身を取って起き上がろうとするが、既に大勢は決していた。
不意を突かれ、そのうえ武器の確認をする暇も与えられなかった法月は呆気なく倒される。
受身を取って起き上がろうとするが、既に大勢は決していた。
「むっ……」
「法月将臣だな」
「法月将臣だな」
上から声が響いた。
どうやら若い男のようであるらしい。
自分の名前を知っていることに驚きはなかった。
これでも法月将臣という名前は知名度が高い。時期、鉄人候補だという意味でも。
どうやら若い男のようであるらしい。
自分の名前を知っていることに驚きはなかった。
これでも法月将臣という名前は知名度が高い。時期、鉄人候補だという意味でも。
「私を殺すか」
「そうすることもできるが、俺にそのつもりはない」
「そうすることもできるが、俺にそのつもりはない」
落ち着いた声色だった。
年齢は若いはずなのに妙に落ち着いた静かで威圧感のある声。
歳を取った者が身に着けるような凄みを己が制圧した青年は持っていた。
年齢は若いはずなのに妙に落ち着いた静かで威圧感のある声。
歳を取った者が身に着けるような凄みを己が制圧した青年は持っていた。
「手を組まないか?」
圧倒的優位を保ったまま、青年が唐突に告げる。
僅かな驚きを法月は表に出すことはなく、値踏みするように青年を見上げた。
僅かな驚きを法月は表に出すことはなく、値踏みするように青年を見上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
戦いは五秒も掛からずに終結した。
世界は闇に彩られていた。
時刻は深夜。太陽の加護はなく、月の魔力が周囲を照らし続けている。
月明かりと人工の明かりが織り交ざり、不思議な光を醸し出す。
輝く月光は二人の人物を照らしていた。影は伸びて二つにも三つにも割れ、不気味な雰囲気を作り上げる。
時刻は深夜。太陽の加護はなく、月の魔力が周囲を照らし続けている。
月明かりと人工の明かりが織り交ざり、不思議な光を醸し出す。
輝く月光は二人の人物を照らしていた。影は伸びて二つにも三つにも割れ、不気味な雰囲気を作り上げる。
一人は銀髪の青年だった。
ラフな格好とは裏腹にこの殺し合いの舞台の中でも落ち着いている。
まるで何百年も生きてきた、と言わんばかりの『不可思議なほどの落ち着き具合』が青年を異質なものへと変えていた。
ラフな格好とは裏腹にこの殺し合いの舞台の中でも落ち着いている。
まるで何百年も生きてきた、と言わんばかりの『不可思議なほどの落ち着き具合』が青年を異質なものへと変えていた。
「どうだ、悪い取引ではないだろう?」
悪く見れば尊大な言動を、見た目では自分よりも二倍ほど歳の差がある壮年の男性へと叩きつける。
そこにあるのは余裕だった。それ以外に表現の方法はなかった。
顔に彫りを刻んだ年代を感じさせる男性の名は法月将臣。特別高等人という職業についた国家の重鎮だった。
名前を聞けば飛び上がる人までいる、そんな法月を相手に青年は飄々と語っていた。
そこにあるのは余裕だった。それ以外に表現の方法はなかった。
顔に彫りを刻んだ年代を感じさせる男性の名は法月将臣。特別高等人という職業についた国家の重鎮だった。
名前を聞けば飛び上がる人までいる、そんな法月を相手に青年は飄々と語っていた。
「手を組まないか、だと?」
「ああ。俺としてはどちらでもいいが、できるだけそのほうがいい」
「ああ。俺としてはどちらでもいいが、できるだけそのほうがいい」
青年が尊大である理由は、彼らの体勢にもよるだろう。
法月将臣が倒れたまま青年を睨み、青年はその法月の首元に足を乗せて刀を突きつけている。
どちらが優位だ、など論じるまでもない。
青年が少しだけ法月に殺意を抱けば、その時点で彼らの勝敗は決するのだ。
法月将臣が倒れたまま青年を睨み、青年はその法月の首元に足を乗せて刀を突きつけている。
どちらが優位だ、など論じるまでもない。
青年が少しだけ法月に殺意を抱けば、その時点で彼らの勝敗は決するのだ。
法月将臣に失態はなかった。
ゲーム開始直後に襲われ、武器を確認する暇もなく制圧されただけのことだ。
失態はなかった。ただ、勝つ機会も与えられなかった。
法月とて身体能力は並みの男などよりは高かったが、いかんせん奇襲を受けて制圧されるまでの時間が短かった。
一目で分かる。目の前の青年は戦闘能力において格上だということを。
ゲーム開始直後に襲われ、武器を確認する暇もなく制圧されただけのことだ。
失態はなかった。ただ、勝つ機会も与えられなかった。
法月とて身体能力は並みの男などよりは高かったが、いかんせん奇襲を受けて制圧されるまでの時間が短かった。
一目で分かる。目の前の青年は戦闘能力において格上だということを。
「そうだ。このまま殺すだけでは芸がない。ならば、有効活用してみたい、と思うのは真理だろう?」
「……貴様は何を考えている。私に何をやらせたいのだ?」
「……貴様は何を考えている。私に何をやらせたいのだ?」
命の危機にあるにも関わらず、法月の口調に怯えといったものはなかった。
例え倒されている現状だとしても、法月はあくまで対等かそれ以上といった態度を崩さない。
例え倒されている現状だとしても、法月はあくまで対等かそれ以上といった態度を崩さない。
「殺し合いを進めること、それだけだ」
「それで貴様に何の得がある」
「お前がそれを知る必要はない。さあ、どうする。このまま死ぬか、それとも俺に利用されるか」
「それで貴様に何の得がある」
「お前がそれを知る必要はない。さあ、どうする。このまま死ぬか、それとも俺に利用されるか」
青年の有無を言わさぬ最終問答。
答えによっては一瞬で命を奪われる現状を前にして、法月はあくまで静かに思案する。
己がやるべきことはなんだ?
法月将臣として、阿久津将臣として、この殺し合いの中で己がやらなければならないことはなんだ?
それを改めて認識する。最初から選択の余地はなかった。
答えによっては一瞬で命を奪われる現状を前にして、法月はあくまで静かに思案する。
己がやるべきことはなんだ?
法月将臣として、阿久津将臣として、この殺し合いの中で己がやらなければならないことはなんだ?
それを改めて認識する。最初から選択の余地はなかった。
「詳しい話を聞こう。名前は?」
「上泉信綱」
「上泉信綱」
くつくつ、と。
悪魔のような手腕とは裏腹に屈託なく青年は笑った。
悪魔のような手腕とは裏腹に屈託なく青年は笑った。
◇ ◇ ◇ ◇
漆黒、暗黒という言葉がある。
文字通り、目の前が真っ暗となってしまうことだ。
世界が真っ暗闇に閉ざされた瞬間を彼女は何度も経験してきた。
文字通り、目の前が真っ暗となってしまうことだ。
世界が真っ暗闇に閉ざされた瞬間を彼女は何度も経験してきた。
交通事故。
度重なる実験。
愛する人との離別。
度重なる実験。
愛する人との離別。
その全てを乗り越えてきたはずだった。
その先にようやく幸せを見つけたはずだった。
所詮、脆いものだったのか。
小町つぐみという存在に幸福というものは決して与えようとはしないのか。
神というものがいるのならば恨む。
恨んで、恨んで、恨んで、憎しみのままにぶっ飛ばしてやりたいとつぐみは思う。
その先にようやく幸せを見つけたはずだった。
所詮、脆いものだったのか。
小町つぐみという存在に幸福というものは決して与えようとはしないのか。
神というものがいるのならば恨む。
恨んで、恨んで、恨んで、憎しみのままにぶっ飛ばしてやりたいとつぐみは思う。
「ホクト……」
少女は名を呼ぶ。
もうこの世にはいない息子の名前だった。
自分がつけた本当の名前ではないけど、それでもその名前には愛情を込めるものだった。
奪われた、また理不尽に奪われた。
やっと手に入れた最愛の息子を、もう抱きしめることはできない。目の前で頭が破裂した息子はもう冷たかった。
もうこの世にはいない息子の名前だった。
自分がつけた本当の名前ではないけど、それでもその名前には愛情を込めるものだった。
奪われた、また理不尽に奪われた。
やっと手に入れた最愛の息子を、もう抱きしめることはできない。目の前で頭が破裂した息子はもう冷たかった。
「ホクトぉ……っ……」
人生で何度、慟哭しただろうか。
人生で何度、挫折しただろうか。
人生で何度、絶望しただろうか。
人生で何度、挫折しただろうか。
人生で何度、絶望しただろうか。
もう、この手には取り戻せない大切な家族を思う。
ふつふつ、とあの時の憎しみが蘇ろうとしていた。もう一度、あのときの激情が小町つぐみを焼き尽くそうとしていた。
ライプリヒ製薬の上層部を片っ端から殺し尽くすと決めた絶望の日々。
それを止めたのはお腹の中の子供たちだったが、その子供もまた奪われることとなった。
ふつふつ、とあの時の憎しみが蘇ろうとしていた。もう一度、あのときの激情が小町つぐみを焼き尽くそうとしていた。
ライプリヒ製薬の上層部を片っ端から殺し尽くすと決めた絶望の日々。
それを止めたのはお腹の中の子供たちだったが、その子供もまた奪われることとなった。
「殺す……」
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
憎い憎い憎い憎い憎い。
「殺すっ……殺す、殺すッ……!!」
目の前が真っ暗だった少女の瞳が歪む。
黒から赤へ、紅から黒へ。
真っ赤になった視界は激情の証。赤い激情は黒い殺意へと変換されていく。
沙羅がいなくてよかった、と思う。それだけが唯一の慰みだった。
黒から赤へ、紅から黒へ。
真っ赤になった視界は激情の証。赤い激情は黒い殺意へと変換されていく。
沙羅がいなくてよかった、と思う。それだけが唯一の慰みだった。
紫の髪の女を殺す。
白髪の少年も殺す。
武を殺そうとする奴も殺す。
白髪の少年も殺す。
武を殺そうとする奴も殺す。
もう、いい加減自覚するべきだ、小町つぐみ。
受身でいるから奪われ続ける。
ホクトと沙羅を奪われたあの日も、日常に浸っていたからこそ結果的にライプリヒに奪われることになったのだ。
だからこの殺し合いをぶっ潰し、あいつらの思うとおりにさせないようにしてゲームを打破。
最終的にあいつらを殺せばいい。
受身でいるから奪われ続ける。
ホクトと沙羅を奪われたあの日も、日常に浸っていたからこそ結果的にライプリヒに奪われることになったのだ。
だからこの殺し合いをぶっ潰し、あいつらの思うとおりにさせないようにしてゲームを打破。
最終的にあいつらを殺せばいい。
そうと決まれば自衛の手段が必要だった。
黒い鞄の名はデイパック。
そこに殺し合いの道具が入っているのだとすれば、これを利用しない手はない。
吠え面をかくことになるだろう。支給した武器がそのまま自分たちに向けられるというのだから。
黒い鞄の名はデイパック。
そこに殺し合いの道具が入っているのだとすれば、これを利用しない手はない。
吠え面をかくことになるだろう。支給した武器がそのまま自分たちに向けられるというのだから。
「……剣、ね」
入っていたのは剣だった。
些か大きい。人というより馬を切るために使うような大剣だった。
普通なら扱うのも苦労するだろうが、キュレイのキャリアである小町つぐみは難なくそれを持ち上げる。
何度か振り回してみるが、なかなか使い勝手がいい。
些か大きい。人というより馬を切るために使うような大剣だった。
普通なら扱うのも苦労するだろうが、キュレイのキャリアである小町つぐみは難なくそれを持ち上げる。
何度か振り回してみるが、なかなか使い勝手がいい。
「良い武器ね。他には……」
そこで、気づいた。
デイパックの中には食料や地図、名簿などの基本的なものが入っている。
その他に入っていたものは小物だった。アクセサリーのようにも思う。
殺し合いに関係ないだろうと思われる無駄な支給品だが、それを見た瞬間に小町つぐみの顔色が真っ青になった。
デイパックの中には食料や地図、名簿などの基本的なものが入っている。
その他に入っていたものは小物だった。アクセサリーのようにも思う。
殺し合いに関係ないだろうと思われる無駄な支給品だが、それを見た瞬間に小町つぐみの顔色が真っ青になった。
「嘘……」
信じられない面持ちのままにそれを拾い上げた。
知っている。これをつぐみは知っている。
それだけではない。これの持ち主のことも知っている。知らないはずがない。
知っている。これをつぐみは知っている。
それだけではない。これの持ち主のことも知っている。知らないはずがない。
「ホログラムペンダント……? 沙羅……?」
何故、これがこの中に入っているのか。
沙羅は運良く殺し合いには巻き込まれていない。
ホクトが死に、自分と武の二人が殺し合いの舞台に立たされたが、それでも沙羅はいなかった。
沙羅はいなかった。なら、ここなあるはずがない。
沙羅は運良く殺し合いには巻き込まれていない。
ホクトが死に、自分と武の二人が殺し合いの舞台に立たされたが、それでも沙羅はいなかった。
沙羅はいなかった。なら、ここなあるはずがない。
「あっ……」
そんなはずがない。
嘘だ。
何かの間違いだ、と信じたかった。
嘘だ。
何かの間違いだ、と信じたかった。
「あああ……」
家族がこれだけ巻き込まれていて沙羅だけが『運良く』助かるなんて有り得るのか?
そんな都合良くつぐみの思ったとおりに世界は形作られていたか?
そんなに優しい世界だったか?
そんな都合良くつぐみの思ったとおりに世界は形作られていたか?
そんなに優しい世界だったか?
「あっ、ぁぁぁああああああぁぁぁあぁぁあああああああっ!!!!!」
そんなはずがない。
武とホクトと自分がいて、沙羅だけが助かるなんて思えない。
なら、これはどういうことか。
どうしてよりにもよって小町つぐみの中にホログラムペンダントが入っていたのか。
主催者はどういう意図を持ってこれを自分のデイパックの中に入れたのか。
武とホクトと自分がいて、沙羅だけが助かるなんて思えない。
なら、これはどういうことか。
どうしてよりにもよって小町つぐみの中にホログラムペンダントが入っていたのか。
主催者はどういう意図を持ってこれを自分のデイパックの中に入れたのか。
決まっていた。
お前の娘は預かった、と言っているのだ。
妙なことをすれば娘の命すらも奪ってみせると告げているのだ。
お前の娘は預かった、と言っているのだ。
妙なことをすれば娘の命すらも奪ってみせると告げているのだ。
慟哭が近辺に広がった。
絶望の吐露は重々しく、獣のように狂った悲鳴は女のソレではなかった。
小町つぐみに選択の余地はなかった。
絶望の吐露は重々しく、獣のように狂った悲鳴は女のソレではなかった。
小町つぐみに選択の余地はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
夜の闇の中、一人の女が月を見上げていた。
人ではない証としての獣耳と尻尾が淡い光に照らされて艶やかに光る。
地獄というものを女は知っている。
戦場という名の地獄は形こそ違えど、多くの人々が死に、時には無力な女子供も死に、悲劇を作っていく。
人ではない証としての獣耳と尻尾が淡い光に照らされて艶やかに光る。
地獄というものを女は知っている。
戦場という名の地獄は形こそ違えど、多くの人々が死に、時には無力な女子供も死に、悲劇を作っていく。
カルラという女性にとって、この殺し合いは戦場とは変わらない。
結局は血と肉と内臓で真っ赤に彩られた人々が、優先的に悲劇を作っていくに過ぎない。
ただ、ひとつだけ違うものがある。
その悲劇は決して己が頑張れば回避できるとか、死に物狂いでやればどうにかなる、というものではないということだ。
結局は血と肉と内臓で真っ赤に彩られた人々が、優先的に悲劇を作っていくに過ぎない。
ただ、ひとつだけ違うものがある。
その悲劇は決して己が頑張れば回避できるとか、死に物狂いでやればどうにかなる、というものではないということだ。
カルラの首についている銀色の無骨な首輪。
今まで付けていた重い鉄の首輪を外され、勝手に爆発する危険極まりないものへと摺り返られた。
そして、カルラが何をするまでもなく悲劇が起こった。
今まで付けていた重い鉄の首輪を外され、勝手に爆発する危険極まりないものへと摺り返られた。
そして、カルラが何をするまでもなく悲劇が起こった。
「エルルゥ……」
仲間が死んでしまった。
戦場でなら当たり前のことではあるが、その事実が重く重くカルラに圧し掛かっている。
彼女は別に戦場に立つべき少女でもなかった。死んでいい少女でもなかった。
カルラの主であるハクオロのお気に入りである彼女が、どうしてこんなにもあっさりと死んでしまったのか。
戦場でなら当たり前のことではあるが、その事実が重く重くカルラに圧し掛かっている。
彼女は別に戦場に立つべき少女でもなかった。死んでいい少女でもなかった。
カルラの主であるハクオロのお気に入りである彼女が、どうしてこんなにもあっさりと死んでしまったのか。
「主様が、悲しみますわよ……」
酒でも飲んで忘れてしまいたかった。
悪夢だと割り切って今からでも醒めてほしいと切に思う。
それでも、これが現実だということは痛いほどに分かっていた。それが分かるぐらいには血を啜りすぎていた。
どうすればいいのだろう。
これから、カルラという一人の奴隷剣士は何をするべきなのだろう。
悪夢だと割り切って今からでも醒めてほしいと切に思う。
それでも、これが現実だということは痛いほどに分かっていた。それが分かるぐらいには血を啜りすぎていた。
どうすればいいのだろう。
これから、カルラという一人の奴隷剣士は何をするべきなのだろう。
カルラは支給品として用意されたバットを握り締めた。
正直、あまりにも軽すぎて使いづらい。もっと大きくて太くてずっしりとしたモノがカルラのお好みだ。
そもそもカルラには『バット』が何であるかも分からないが、それでも何となく『人を殴る道具』として認識している。
正直、あまりにも軽すぎて使いづらい。もっと大きくて太くてずっしりとしたモノがカルラのお好みだ。
そもそもカルラには『バット』が何であるかも分からないが、それでも何となく『人を殴る道具』として認識している。
「主様」
首輪の解除方法など考え付かない。
戦場で殺し合いが収束するのは片方が勝利条件を満たしたときだけだ。
この場合でのカルラの勝利条件とはなんだ。
伊集院御影という女が告げた一人だけが帰れる、という事実。そしてカルラとはいったいどのような存在であるということか。
戦場で殺し合いが収束するのは片方が勝利条件を満たしたときだけだ。
この場合でのカルラの勝利条件とはなんだ。
伊集院御影という女が告げた一人だけが帰れる、という事実。そしてカルラとはいったいどのような存在であるということか。
「わたくしは主様の奴隷。髪の毛一本から血の一滴に至るまで。魂さえも主様の物」
再確認した。
カルラはハクオロの奴隷であり、そして主を敬愛する部下だ。
ならばやることなど決まっているじゃないか。
ハクオロを生かすために全ての手を尽くす。最愛の主のために手を血で汚すことに何の躊躇いがあろうか。
共に戦ってきた同僚たちと戦うのも、最期に己が命を絶つことになることも、何の躊躇いがあるだろうか。
カルラはハクオロの奴隷であり、そして主を敬愛する部下だ。
ならばやることなど決まっているじゃないか。
ハクオロを生かすために全ての手を尽くす。最愛の主のために手を血で汚すことに何の躊躇いがあろうか。
共に戦ってきた同僚たちと戦うのも、最期に己が命を絶つことになることも、何の躊躇いがあるだろうか。
「アルルゥたちのような子がいたとしたら、迷っていましたわね」
それでも、己の知り合いは全て戦場で肩を並べた者たちだ。
ハクオロのために命を懸けることも、命を捨てることも出来るだろう。
もしも意見が合わないのであれば、戦うしかない。そんな骨肉の争いもカルラは割り切ることが出来た。
ハクオロのために命を懸けることも、命を捨てることも出来るだろう。
もしも意見が合わないのであれば、戦うしかない。そんな骨肉の争いもカルラは割り切ることが出来た。
「さーて、まずは」
カルラの瞳が細められた。
戦場で見せるような酷薄な笑みと、獲物をねめつけるような瞳孔の開いた瞳。
それはさながら死神のように見えた。
彼女が臨戦態勢に入る理由などひとつ。眼前に倒すべき敵がいるときだけだ。
戦場で見せるような酷薄な笑みと、獲物をねめつけるような瞳孔の開いた瞳。
それはさながら死神のように見えた。
彼女が臨戦態勢に入る理由などひとつ。眼前に倒すべき敵がいるときだけだ。
「あなたから始末して差し上げることにしようかしら」
「………………」
「………………」
カルラの目の前に立つのは黒尽くめの女だった。
小町つぐみは前髪で表情が見えないが、よほど精神的にダメージを受けているらしい。
幽鬼のような少女の弱弱しい姿とは裏腹に、彼女が持っているものは無骨な大剣のようなもの。
カルラはその武器の名前を知っていた。
小町つぐみは前髪で表情が見えないが、よほど精神的にダメージを受けているらしい。
幽鬼のような少女の弱弱しい姿とは裏腹に、彼女が持っているものは無骨な大剣のようなもの。
カルラはその武器の名前を知っていた。
「あら、良く見ればクロウの得物ですわね。あなた、見た目以上に力持ちで――――」
言葉は最後まで続けられなかった。
小町つぐみが裂帛の気合と共にカルラへと襲い掛かったからだ。
小町つぐみが裂帛の気合と共にカルラへと襲い掛かったからだ。
「ちっ……っ」
カルラはバットで大剣を受け止めようとして、やめる。
こんな棒切れでは受けただけで叩き落されてしまう。つぐみは見た目以上の筋力で遺憾なく大剣を振るっていた。
身体能力は高いが、それでもカルラのほうが上だ。
何とか距離を取ると、必殺の間合いを取るために油断なくつぐみを睨みつける。
こんな棒切れでは受けただけで叩き落されてしまう。つぐみは見た目以上の筋力で遺憾なく大剣を振るっていた。
身体能力は高いが、それでもカルラのほうが上だ。
何とか距離を取ると、必殺の間合いを取るために油断なくつぐみを睨みつける。
「あなた、どうしてわたくしを襲いますの? 一応、聞いておきたいのですけど」
「…………あなたには関係ないわ」
「関係ないのに殺されるというのもあんまりな話ではありませんの?」
「…………あなたには関係ないわ」
「関係ないのに殺されるというのもあんまりな話ではありませんの?」
両者の間合いが測られる。
一歩でも近づけばそれが相手の間合いであり、互いに硬直するしかなかった。
実力では実践で何度も人を殺し続けたカルラだが、武器の優劣が戦いを互角としている。
勝負は一瞬、それでどちらかが確実にゲームから退場する。
一歩でも近づけばそれが相手の間合いであり、互いに硬直するしかなかった。
実力では実践で何度も人を殺し続けたカルラだが、武器の優劣が戦いを互角としている。
勝負は一瞬、それでどちらかが確実にゲームから退場する。
緊迫した空気が辺りを包む。
その空気が一瞬で霧散するように一人の青年の声が響いた。
その空気が一瞬で霧散するように一人の青年の声が響いた。
「はーい、そこまでー! ちょっとこっちを向いてくれないか、お嬢さんがた!」
ギロリ、と二つの敵意が青年と、その横に立つ壮年の男性に向けられた。
上泉信綱と法月将臣。
対するは小町つぐみとカルラ。
四人の間に流れる緊張感がビリビリと周囲を威圧するように感じた。
その緊張感を吹き飛ばすために信綱はもう一度叫ぶ。
上泉信綱と法月将臣。
対するは小町つぐみとカルラ。
四人の間に流れる緊張感がビリビリと周囲を威圧するように感じた。
その緊張感を吹き飛ばすために信綱はもう一度叫ぶ。
善意ではなく悪意をこめて。
「俺は上泉信綱。このゲームの運営係の一人だ」
なに、とその場にいたカルラとつぐみが凍りついた。
事前に話を聞いた法月だけが、驚くこともなく平静を保ち続けている。
逆に混乱したのがつぐみだった。
目の前の男がゲームの運営係ならば、ホクトの仇の一人と考えて間違いない。
だが、この男を殺せば沙羅の命まで奪われる恐れがあると思うと、思い切った行動は出来そうになった。
事前に話を聞いた法月だけが、驚くこともなく平静を保ち続けている。
逆に混乱したのがつぐみだった。
目の前の男がゲームの運営係ならば、ホクトの仇の一人と考えて間違いない。
だが、この男を殺せば沙羅の命まで奪われる恐れがあると思うと、思い切った行動は出来そうになった。
「まずは話を聞いてもらおうか。俺たちにとって、良い話だ」
悪魔の囁きのような言葉が響く。
カルラもつぐみも様子見をすることしか出来ず、静かに自分の安全な距離を保って信綱へと向き直るのだった。
カルラもつぐみも様子見をすることしか出来ず、静かに自分の安全な距離を保って信綱へと向き直るのだった。
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