まっくらクライクライ
――魔法使いは、どこだろう?
少女は想う。
意識を取り戻し、ゆっくりと視界が開ける。
薄靄のように広がる視界はピントの合っていないカメラだ。
少しだけ滲んだ涙を指先で拭う。ちょっと目脂が付いている。汚い。
人差し指の腹で瞼の端を軽く擦る。完全に乾いていたソレは造作もなく剥ぎ落ちた。
意識を取り戻し、ゆっくりと視界が開ける。
薄靄のように広がる視界はピントの合っていないカメラだ。
少しだけ滲んだ涙を指先で拭う。ちょっと目脂が付いている。汚い。
人差し指の腹で瞼の端を軽く擦る。完全に乾いていたソレは造作もなく剥ぎ落ちた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
キョロキョロと見回した世界は太陽が姿を消したクライクライまっくら森。
キョロキョロと見回した世界は太陽が姿を消したクライクライまっくら森。
外。木々。見えない空。
シン、と静まり返った森の中では梢が枝葉をすり合わせる音さえ聞こえない。
まるで匣の中に閉じ込められているみたいだ。
静謐にして閑静な動きを止めた空間がそこにあった。
シン、と静まり返った森の中では梢が枝葉をすり合わせる音さえ聞こえない。
まるで匣の中に閉じ込められているみたいだ。
静謐にして閑静な動きを止めた空間がそこにあった。
眼を閉じて、また開けば隣では妖怪が笑っているかもしれない。
耳を塞いで、また済ませば木霊のようなオバケの叫び声が聞こえるかもしれない。
肩を抱いて、ぶるぶると震えていても魍魎が首筋を冷たい舌先で舐めるかもしれない。
耳を塞いで、また済ませば木霊のようなオバケの叫び声が聞こえるかもしれない。
肩を抱いて、ぶるぶると震えていても魍魎が首筋を冷たい舌先で舐めるかもしれない。
スッと立ち上がり、身体を捩る。両腕を思い切りグッと上に伸ばして屈伸。乳酸の溜まった関節が嬉しい悲鳴を上げる。
処女雪のような白いロングストレートヘアーがふわり、と舞う。
風の吹かない冷え切った空気が広がっている。もう一度、キョロキョロと。
処女雪のような白いロングストレートヘアーがふわり、と舞う。
風の吹かない冷え切った空気が広がっている。もう一度、キョロキョロと。
ずっと意識がなかったせいか、それなりに眼は暗闇に慣れているようだ。
それに、完全に光源がない訳でもない。
与えられたヤミはクラくて不気味だけれど、それは完全な黒じゃない。
パレットで薄めた紺に近い黒色。星や月が鏡のように光る世界がきっと近くにあるのだと思う。
それに、完全に光源がない訳でもない。
与えられたヤミはクラくて不気味だけれど、それは完全な黒じゃない。
パレットで薄めた紺に近い黒色。星や月が鏡のように光る世界がきっと近くにあるのだと思う。
「恋太郎、沙羅ちゃん」
放り込まれた境遇を自分はどう捉えればいいのだろうか。
取り乱し、涙を流すことが最善ではないのは分かる。自分が、この現実を未だに百パーセント信じられた訳ではないことだって理解は届く。
じゃあ、どうすればいい?
取り乱し、涙を流すことが最善ではないのは分かる。自分が、この現実を未だに百パーセント信じられた訳ではないことだって理解は届く。
じゃあ、どうすればいい?
少女は決して勇敢な戦士などではない。
当たり前のように笑い、泣き、悲しみ、怯える何処にでもいる普通の人間だ。
そうだ、今だって胃の中身がジェットコースターに揺られてフワフワと漂っている感覚が抜けない。
怖いか怖くないか、尋ねられればそりゃあ怖い。
それに何かの使命に燃えていたりする訳ではないのだ。
だから、少女の頭に引っ掛かる問題なんて高が知れているというモノだ。
熱く燃焼する反逆の心も、遊戯を楽しむ狂人の笑みも、保身に走るべく与えられた道具を漁る余裕の無さも、少女には当て嵌まらない。
当たり前のように笑い、泣き、悲しみ、怯える何処にでもいる普通の人間だ。
そうだ、今だって胃の中身がジェットコースターに揺られてフワフワと漂っている感覚が抜けない。
怖いか怖くないか、尋ねられればそりゃあ怖い。
それに何かの使命に燃えていたりする訳ではないのだ。
だから、少女の頭に引っ掛かる問題なんて高が知れているというモノだ。
熱く燃焼する反逆の心も、遊戯を楽しむ狂人の笑みも、保身に走るべく与えられた道具を漁る余裕の無さも、少女には当て嵌まらない。
気付くと、大切な人達の顔が脳裏に浮かんでいた。
何か予感めいた衝動に引き摺られて傍に転がっていたデイパックの口を開く。
見知らぬ名前が幾つも記されている紙が一番上に無造作に置かれていた。何となく手に取り、目を通す。
何か予感めいた衝動に引き摺られて傍に転がっていたデイパックの口を開く。
見知らぬ名前が幾つも記されている紙が一番上に無造作に置かれていた。何となく手に取り、目を通す。
【双葉恋太郎】
【白鐘沙羅】
【白鐘双樹】
【白鐘沙羅】
【白鐘双樹】
そこには「三人でいる」ことを誓った大好きな二人の名前があった。
当然、少女の名も――白鐘双樹――刻まれている。
嬉しい気持ちと悲しい気持ちが少女の頭の中で鬩ぎ合っている。
一人ではないという喜び、心強さ。
そしてその感情と真っ向からぶつかり合う残酷な要求と、二人の身の安否。
当然、少女の名も――白鐘双樹――刻まれている。
嬉しい気持ちと悲しい気持ちが少女の頭の中で鬩ぎ合っている。
一人ではないという喜び、心強さ。
そしてその感情と真っ向からぶつかり合う残酷な要求と、二人の身の安否。
「……行かなくちゃ」
――魔法使いは、どこだろう?
そんな言葉が頭を過ぎった。
出来事はあまりにも唐突で、シュールで、ソレをどのように捉えればいいのか双樹にはよく分からない。
だから己の中の非常識な体験とイマとを重ね合わせてしまう。
出来事はあまりにも唐突で、シュールで、ソレをどのように捉えればいいのか双樹にはよく分からない。
だから己の中の非常識な体験とイマとを重ね合わせてしまう。
あの日のことを。
魔法がニコタマの町を覆い尽くした日の出来事を想起する。
魔法がニコタマの町を覆い尽くした日の出来事を想起する。
何もかもが夢だとしても、
世界の中心が見つけられなかったとしても。
世界の中心が見つけられなかったとしても。
……うん、大丈夫。私は平気だ。恋太郎と沙羅ちゃんさんいれば……。
でも、もしも――恋太郎と沙羅ちゃんがいなくなってしまったら?
どうなるだろう。
ただ、目の前から消えるだけではなくて、ソレが永遠だとしたら――?
ただ、目の前から消えるだけではなくて、ソレが永遠だとしたら――?
「行か、なくちゃ」
…………考えたくない。だけど、考えなくてはいけない。
ぼんやりとそんなことを思った。
ぼんやりとそんなことを思った。
▽
銀髪の男が妙に痛む身体の節々を擦りながらゆっくりと森の中を歩いていた。
「……くっ」
男の名前は国崎往人。
流浪の人形使い……と言えば聞こえはいいが、その実態は固定収入や勤め先を持たないちょっとダメな大人だ。
今はとある町でとある少女の家庭で厄介になっている。まぁこれもつまりは居候なのだが。
流浪の人形使い……と言えば聞こえはいいが、その実態は固定収入や勤め先を持たないちょっとダメな大人だ。
今はとある町でとある少女の家庭で厄介になっている。まぁこれもつまりは居候なのだが。
鋭い目付きとキッと締まった流麗な顎のライン。
ここで彼の名誉のために断っておくべきことは、往人は決して「ヒモ」などではないということだ。
言質だけを取れば、彼は町を渡り歩き少女をかどわかす女衒のような最低人間に思えてしまうかもしれない。
が、彼はどちらかと言えば「最低」よりは「最高」と呼ばれることの多いタイプであって、女性だけではなく子供からお年寄りまで幅広い層に園人間性を認められている。
ここで彼の名誉のために断っておくべきことは、往人は決して「ヒモ」などではないということだ。
言質だけを取れば、彼は町を渡り歩き少女をかどわかす女衒のような最低人間に思えてしまうかもしれない。
が、彼はどちらかと言えば「最低」よりは「最高」と呼ばれることの多いタイプであって、女性だけではなく子供からお年寄りまで幅広い層に園人間性を認められている。
(どうすればいい……?)
注意深く周囲を見回しながら、深淵なる森を移動する往人の右手には黒光りする鉄の塊が握られていた。
マカロフPb――戦後にロシアで開発された傑作自動拳銃だ。
特徴はやはり銃口に取り付ける形で使用されるサイレンサーだろう。
他のサイレンサーピストルと比べて、極めて運用しやすい形状と付属の革製のホルダーの存在も大きい。
マカロフPb――戦後にロシアで開発された傑作自動拳銃だ。
特徴はやはり銃口に取り付ける形で使用されるサイレンサーだろう。
他のサイレンサーピストルと比べて、極めて運用しやすい形状と付属の革製のホルダーの存在も大きい。
掌からは重く、そして冷たい金属の感触が伝わって来る。
子供の頃に触ったモデルガンとは「人を殺すための武器」には大きな違いがある。
子供の頃に触ったモデルガンとは「人を殺すための武器」には大きな違いがある。
(撃てるのか、俺に)
自らの心に問い掛けてみるも、答えは見えない。
生まれて初めて持つ本物の拳銃だ。
引き金に力を込める単純な動作だけではない。
構えて相手を狙い撃つことも、安全装置を外すことも忌むべき行為の筈だ。
生まれて初めて持つ本物の拳銃だ。
引き金に力を込める単純な動作だけではない。
構えて相手を狙い撃つことも、安全装置を外すことも忌むべき行為の筈だ。
これは人を殺すための道具だ。
そして奪った命と同じ重みの何かを自分から削ぎ落としていく道具だ。
殺し合い……という極限状態であるとはいえ「これがアレば敵なんていない。百人力だな」なんて馬鹿げた思考へと到ることだって出来ない。
……ましてや積極的に誰かの命を奪いに行く? 馬鹿も休み休み言え、だ。
そして奪った命と同じ重みの何かを自分から削ぎ落としていく道具だ。
殺し合い……という極限状態であるとはいえ「これがアレば敵なんていない。百人力だな」なんて馬鹿げた思考へと到ることだって出来ない。
……ましてや積極的に誰かの命を奪いに行く? 馬鹿も休み休み言え、だ。
往人はふぅ、と小さくため息を吐いた。
夜風は冷たく、まるで生き物の気配を感じないクライ森。
支給品の中に入っていたランタンを使うべきかどうか、少しだけ考える。
夜風は冷たく、まるで生き物の気配を感じないクライ森。
支給品の中に入っていたランタンを使うべきかどうか、少しだけ考える。
だが、固形燃料を使用するバーナータイプのそれは重量もそこそこはある。
加えて、こんな視界の悪い森の中では自殺行為と言えるだろう。
ここは自分の眼だけが頼りだ。一刻も早く平地に出なければ……、
加えて、こんな視界の悪い森の中では自殺行為と言えるだろう。
ここは自分の眼だけが頼りだ。一刻も早く平地に出なければ……、
「止まってください。それと……絶対にこっちを見ないで」
「な――ッ」
「な――ッ」
背中に押し付けられる「硬い金属」の感触と、鈴の鳴るような少女の声が同時に往人へと突き刺さった。
ぽっかりと空いた孔。そして、円筒。背中に押し当てられているのは明らかに――銃口だ。
ぽっかりと空いた孔。そして、円筒。背中に押し当てられているのは明らかに――銃口だ。
(いつの間に……!?)
往人の背筋に生温い汗がじわり、と湧き出す。
振り向くことは、出来ない。本能が全力でその行動にストッパーを掛ける。
振り向くことは、出来ない。本能が全力でその行動にストッパーを掛ける。
「すいません、私の質問に答えてもらえませんか」
「……質問、だと」
「……質問、だと」
ザァッと音のない筈の森で梢が鳴いたような気がした。
吹き荒む風などありはしないのに。
クラくてクラくて、星の光さえ届かないような空間に背後を映す水鏡すらその存在に期待出来ない。
吹き荒む風などありはしないのに。
クラくてクラくて、星の光さえ届かないような空間に背後を映す水鏡すらその存在に期待出来ない。
相手はおそらく女だ、それもかなり若い。
声が発せられる位置から判断するに身長はかなり低いだろうと予測出来る。
淀みのない淡々とした口調からは不気味さを通り越して幾分かの威圧感さえ覚えずにはいられない。
声が発せられる位置から判断するに身長はかなり低いだろうと予測出来る。
淀みのない淡々とした口調からは不気味さを通り越して幾分かの威圧感さえ覚えずにはいられない。
ゴクリ、と往人は息を呑んだ。首筋をツーッと汗が伝う。
いったいどんな質問が飛んで来る?
もしくは何かを奪おうとしている可能性も高いだろう。
金……は関係ないか。武器か、それとも……まさか身体かっ!?
いや、待て国崎往人。相手は(多分)小さな女の子だぞ……? さすがにソレはないだろう……。
もしくは何かを奪おうとしている可能性も高いだろう。
金……は関係ないか。武器か、それとも……まさか身体かっ!?
いや、待て国崎往人。相手は(多分)小さな女の子だぞ……? さすがにソレはないだろう……。
「あなたは、人を殺しますか?」
「……は?」
「……は?」
思わず、往人の口から間抜けな呻きが漏れた。
黒のカットソー越しに突き付けられているのは間違いなく銃だ。
一方的に銃を突きつけておきながら、こちらに殺人の是非を問おうということか?
黒のカットソー越しに突き付けられているのは間違いなく銃だ。
一方的に銃を突きつけておきながら、こちらに殺人の是非を問おうということか?
……何を、考えている?
「……今のところ、そんなつもりは更々ないな」
「そうですか」
「俺としては……そうだな。まずは背中の物騒なもんを何とかして欲しいところだな。
そう硬いモノを押し付けられちゃあ、落ち着いて話も出来ん」
「なるほど」
「そうですか」
「俺としては……そうだな。まずは背中の物騒なもんを何とかして欲しいところだな。
そう硬いモノを押し付けられちゃあ、落ち着いて話も出来ん」
「なるほど」
返って来る言葉がやけにたどたどしい。
後ろで銃を構えているのが九九を覚えたばかりの子供、という可能性はさすがに低いだろう。
まるで何かに躊躇っているような、まだ決心が付かないような――そんな印象だ。
後ろで銃を構えているのが九九を覚えたばかりの子供、という可能性はさすがに低いだろう。
まるで何かに躊躇っているような、まだ決心が付かないような――そんな印象だ。
迷っている……? 何を、迷っているんだ?
仮にも俺達は殺し合いを強要されている身だ。
そんな状況で無手の相手に銃を突きつける意味が分からない、なんてことはさすがにないだろう。
仮にも俺達は殺し合いを強要されている身だ。
そんな状況で無手の相手に銃を突きつける意味が分からない、なんてことはさすがにないだろう。
そもそも、銃の存在を甘く見てはならない。あれは魔性の武器だ。こうして手にとってみて確信した。
一般人が手を出した時に覚える感想はおそらくこの二つのどちらかだと思う。
少なくとも今の俺にはこの二つしか思いつかない。
一般人が手を出した時に覚える感想はおそらくこの二つのどちらかだと思う。
少なくとも今の俺にはこの二つしか思いつかない。
「狂喜」と「恐怖」
玩具の道具とは違う確固たる「重さ」に威圧され、肩を震わせる可能性。
そしてもう一つが銃が発する独特な世界に飲み込まれる可能性だ。
そしてもう一つが銃が発する独特な世界に飲み込まれる可能性だ。
この子は、どっちだ――?
「それじゃあ、」
小さく言葉を切る。そして、
「私は、どうだと思いますか?」
「は……!?」
「は……!?」
あまりに素っ頓狂な台詞に思わず――往人は後ろを振り返った。
完全に迂闊な行動だったと思う。
相手が「その気」だったならば確実にトリガーは引かれ、鉛弾が彼の身体を貫いていただろう。
カラカラと金色の薬莢が落葉と湿った大地にばら撒かれていた事だろう。
相手が「その気」だったならば確実にトリガーは引かれ、鉛弾が彼の身体を貫いていただろう。
カラカラと金色の薬莢が落葉と湿った大地にばら撒かれていた事だろう。
色素の薄い髪がふわり、と舞った。
「な――っ!?」
往人の眼に映ったのは彼の想像通り、小さな女の子だった。
どこかの学校のモノと思しきクリーム色の制服に今時の子にしては異様なほど長い黒のロングスカート。
踝に掛かるかどうか、という一昔前のスケバンスタイルに近いものがある。
柳のように長い髪を黒無地のリボンで二つに結んでいる。
だが、何よりも印象に残るのは鮮明な輪郭――凛とした強さを携えた双眸だった。
どこかの学校のモノと思しきクリーム色の制服に今時の子にしては異様なほど長い黒のロングスカート。
踝に掛かるかどうか、という一昔前のスケバンスタイルに近いものがある。
柳のように長い髪を黒無地のリボンで二つに結んでいる。
だが、何よりも印象に残るのは鮮明な輪郭――凛とした強さを携えた双眸だった。
「あ……っ」
吹かない筈の突風が薄暗い森を駆け抜ける。
少女の唇が微細な筋肉の動きを示したのと全く同じタイミングで、往人は再度身体を翻していた。
少女の唇が微細な筋肉の動きを示したのと全く同じタイミングで、往人は再度身体を翻していた。
その瞳は一縷の憂いと悲しみと戸惑いに憑りつかれた人間の瞳だった。
戦慄のような感覚が往人の背筋を駆け上った。
殺られる――!?
戦慄のような感覚が往人の背筋を駆け上った。
殺られる――!?
「……見ちゃ、ダメだって言ったのに」
瞬間、少女が構えたサブマシンガンが火を吹いた。
「ぐっ……!!」
斜線軸一直線に放たれた弾丸を往人は右斜め前方へと飛び退くことで回避する。
顔を守るように両の手を重ね合わせ、来るべき地面との衝突に備える。
そして、激突。すぐさま、肘を地面に叩きつけ衝撃を殺しソレを前方へと逃がす。
顔を守るように両の手を重ね合わせ、来るべき地面との衝突に備える。
そして、激突。すぐさま、肘を地面に叩きつけ衝撃を殺しソレを前方へと逃がす。
生まれて初めて耳にする銃声は意外なまでに呆気ないモノだった。
腹の底に染み渡るような重く暗い音ではなかった。
火薬が弾け飛び、爆発する音は予想以上に軽い。いや、それでも十分過ぎる程の爆音ではある。
とはいえ、飛行場やパチンコ店よりはそれでも涼やかだ。
腹の底に染み渡るような重く暗い音ではなかった。
火薬が弾け飛び、爆発する音は予想以上に軽い。いや、それでも十分過ぎる程の爆音ではある。
とはいえ、飛行場やパチンコ店よりはそれでも涼やかだ。
往人は知る訳もない事柄だが、少女が使用した銃――MP5SD3――の使用弾丸は9mmパラペラム弾。
最もオーソドックスな銃弾と知られる9mmパラの発射音はせいぜい九十デシベル程度だ。
加えてMP5SD3は往人に支給されたマルコフPbと同様、サイレンサーが銃身に装着されたモデルだ。
その発射音は約七十デシベル。これは街角の喧騒と同レベルで、鼓膜が破れるような爆音という訳ではない。
最もオーソドックスな銃弾と知られる9mmパラの発射音はせいぜい九十デシベル程度だ。
加えてMP5SD3は往人に支給されたマルコフPbと同様、サイレンサーが銃身に装着されたモデルだ。
その発射音は約七十デシベル。これは街角の喧騒と同レベルで、鼓膜が破れるような爆音という訳ではない。
少女の第一射こそ回避したものの、銃口をこちらに向けられればすぐさま蜂の巣だ。
往人は身体を地面に転がし、視線を上げた。
背後の少女がどのような表情をしているのかは分からない。
だが、一度引き金を引いてしまった以上、こちらを逃がしはしないだろう。
どこかに障害物は……!?
往人は身体を地面に転がし、視線を上げた。
背後の少女がどのような表情をしているのかは分からない。
だが、一度引き金を引いてしまった以上、こちらを逃がしはしないだろう。
どこかに障害物は……!?
「くそっ!!」
少し乾いた金属が弾け、ぶつかり合う音。
第二射だ。射軸は一直線ではなく、まるで相手をなぎ払うかのような掃討射撃。
背中を地面に転がして、体勢を低く。
映画のスタントマンのような動作で何とかこれも躱すことが出来た。
第二射だ。射軸は一直線ではなく、まるで相手をなぎ払うかのような掃討射撃。
背中を地面に転がして、体勢を低く。
映画のスタントマンのような動作で何とかこれも躱すことが出来た。
が、このような無理な動きはそう何度も続けることなど可能な訳もない。
地面に膝を付いている往人では素早い回避運動など不可能だ。
少女との距離はおそらく約数メートル。とはいえ、無様にも相手に背中を晒した状態だ。
このままでは反撃を試みることも出来ず、ただの的になるしか――!?
地面に膝を付いている往人では素早い回避運動など不可能だ。
少女との距離はおそらく約数メートル。とはいえ、無様にも相手に背中を晒した状態だ。
このままでは反撃を試みることも出来ず、ただの的になるしか――!?
「う……ッ、あっ……」
が、発射されるべき弾丸は到来しなかった。
背後から少女の声を押し殺したような呻きが聞こえたような気がした。
背後から少女の声を押し殺したような呻きが聞こえたような気がした。
何が起こったのか、一瞬そんな疑問が往人の脳裏を過ぎったがすぐさま振り払う。
ここでの無駄な行動はそのまま命を落とす結末へと繋がってしまうからだ。
ここでの無駄な行動はそのまま命を落とす結末へと繋がってしまうからだ。
国崎往人は深い海原のような優しさと、勇敢な精神を持ち合わせた高潔な男だ。
普段の彼ならば、すぐ傍でこのような苦しげな声を漏らした相手を放って置くことなど出来なかった筈だ。
普段の彼ならば、すぐ傍でこのような苦しげな声を漏らした相手を放って置くことなど出来なかった筈だ。
だが、彼は――その選択を放棄した。
「っ……!」
両脚に力を入れグッと大地を蹴る。前のめりになりながら往人は駆け出す。
撃って来ないならば幸いだ。
フルオートでパラベラム弾をばら撒いたせいで、マガジンが空になったのかもしれない。
撃って来ないならば幸いだ。
フルオートでパラベラム弾をばら撒いたせいで、マガジンが空になったのかもしれない。
これは、殺し合いなのだ。
優しさで少女の心の傷を癒すことが目的なのではない。
優しさで少女の心の傷を癒すことが目的なのではない。
命を奪うこと、そして命を守ること。
その二つだけが価値を持ち、それ以外の全てはゴミ屑同然の薄っぺらい存在でしか持たない。
その二つだけが価値を持ち、それ以外の全てはゴミ屑同然の薄っぺらい存在でしか持たない。
往人は聖人などではない。彼だってただの人間だ。
全ての人間に等しき福音をもたらそうなどという思考は――彼には存在しない。
全ての人間に等しき福音をもたらそうなどという思考は――彼には存在しない。
【F-3 森/1日目 深夜】
【国崎往人@AIR】
【装備:マカロフPb サイレンサー付属(8/8)@現実】
【所持品:支給品一式×1、9㎜×18マカロフ弾x32、不明支給品(0~2)】
【状態:健康】
【思考・行動】
0:少女の銃撃から逃げる。森を抜ける。
【装備:マカロフPb サイレンサー付属(8/8)@現実】
【所持品:支給品一式×1、9㎜×18マカロフ弾x32、不明支給品(0~2)】
【状態:健康】
【思考・行動】
0:少女の銃撃から逃げる。森を抜ける。
【備考】
※参戦時期未定。
※双樹の外見を見ただけなので彼女の名前は知りません。
※参戦時期未定。
※双樹の外見を見ただけなので彼女の名前は知りません。
【マカロフPb@現実】
ドイツのワルサーPPKに近いシルエットを持つマカロフPMはハンマー露出式の撃発機構を持つダブルアクション・ピストルである。又、この拳銃は比較的圧力の低い9㎜×18マカロフ弾を使用している。
他にもマカロフの発展型として威力を向上させ、他のヨーロッパ拳銃と互換性のある弾薬を使用したバリエーションもある。
マカロフは現在最も多く用いられているロシア製拳銃でもある。
ドイツのワルサーPPKに近いシルエットを持つマカロフPMはハンマー露出式の撃発機構を持つダブルアクション・ピストルである。又、この拳銃は比較的圧力の低い9㎜×18マカロフ弾を使用している。
他にもマカロフの発展型として威力を向上させ、他のヨーロッパ拳銃と互換性のある弾薬を使用したバリエーションもある。
マカロフは現在最も多く用いられているロシア製拳銃でもある。
▽
「あ、あはははは……」
ペタリ、と双樹は服が汚れてしまうことを気にもせずに地面にへたれ込んでしまった。
腰が抜けた……のかもしれない。
銃器を扱ったことがない訳ではないのだ。ただ、その銃口を向ける相手が問題だ。
腰が抜けた……のかもしれない。
銃器を扱ったことがない訳ではないのだ。ただ、その銃口を向ける相手が問題だ。
――『私は、どうだと思いますか?』
ああ、自分はどんな答えを期待してこんなことを言ったのだろう。
否定して欲しかったのかな。
それとも、肯定して欲しかったのかな。
否定して欲しかったのかな。
それとも、肯定して欲しかったのかな。
……よく、分かんないや。
『世界が終わっちゃう時にはこうやって三人で一緒になっていようね。私と、沙羅ちゃんと、恋太郎で』
怖かった。
自分は三人でいられなくなることが、本当に怖くて怖くて堪らなかったのだ。
自分は三人でいられなくなることが、本当に怖くて怖くて堪らなかったのだ。
だから森の中であの男の人を見つけた時、思わず銃を向けてしまった。
あの人が手に拳銃を持っているのを見かけたからだ。
撃たれるかと、思ったからだ。殺されるかと思ったからだ。
あの人が手に拳銃を持っているのを見かけたからだ。
撃たれるかと、思ったからだ。殺されるかと思ったからだ。
ずっと、ずっと、私は――三人でいたい。
一人が欠けてしまった時点で全てが終わってしまう。
私でも、沙羅ちゃんでも、恋太郎でも。
誰か一人でもいなくなったら、何もかもが崩れ落ちてしまうのだ。
私でも、沙羅ちゃんでも、恋太郎でも。
誰か一人でもいなくなったら、何もかもが崩れ落ちてしまうのだ。
一度失って、私達は三人でいることの大切さを知った。
素晴らしさを、愛しさを、幸せを知った。
特別ではないただの一日が――何よりも尊い存在であることを知った。
素晴らしさを、愛しさを、幸せを知った。
特別ではないただの一日が――何よりも尊い存在であることを知った。
――魔法使いは、いない。
掛けられた魔法はそのチカラを失ってしまったのだろうか。
双樹が引き金に指を掛けたのは、顔を見られたからだった。
沙羅と双樹は一卵性双生児だ。つまり、顔や外見がほとんど変わらない。
こちらが迂闊な行動を取ってしまえば、それがそのまま沙羅へと跳ね返ってしまう。
双樹が引き金に指を掛けたのは、顔を見られたからだった。
沙羅と双樹は一卵性双生児だ。つまり、顔や外見がほとんど変わらない。
こちらが迂闊な行動を取ってしまえば、それがそのまま沙羅へと跳ね返ってしまう。
あの男の人に銃を向けた時から撃ってしまう可能性がある……とは思っていた。
当たり前だ。出会ったばかりの人間を頭ごなしに信用する馬鹿がどこにいるだろう。
どんなに優しい言葉を掛けられたとしても、心の奥底では臆病な自分が膝を抱えて警鐘を鳴らしてしまう筈だ。
それが自然な反応だ。人を信頼するということは、決して軽くなんてない。
命のやり取りの場ならば、尚更……。
どんなに優しい言葉を掛けられたとしても、心の奥底では臆病な自分が膝を抱えて警鐘を鳴らしてしまう筈だ。
それが自然な反応だ。人を信頼するということは、決して軽くなんてない。
命のやり取りの場ならば、尚更……。
だから、彼がこちらを見た時、私は引き金を引くしかなかった。
殺すしかないと思った。
殺すしかないと思った。
だけど――私は、最後の一瞬であの人を殺すことを躊躇った。
それが幸福だったのか、それとも失敗だったのか……正直判断が付かない。
それが幸福だったのか、それとも失敗だったのか……正直判断が付かない。
「沙羅……ちゃん、ぅ……っ……恋……太ぁ郎ぅ……」
涙だけがポロポロと雨の雫のようにこぼれ落ちる。
マシンガンを地面に放り出して、双樹は壊れた人形のように涙を流すことしか出来なかった。
簡単に覚悟なんて決められる訳がない。白い色と黒い色しかない訳がない。
マシンガンを地面に放り出して、双樹は壊れた人形のように涙を流すことしか出来なかった。
簡単に覚悟なんて決められる訳がない。白い色と黒い色しかない訳がない。
星も、月も、暖かい大好きな人達が握り締めてくれる手の感触もない。
冷たい掌は涙に濡れて冷たく光るだけ。
冷たい掌は涙に濡れて冷たく光るだけ。
光の中で見えないものが闇の中で見える訳がなかった。
ヤミ色の世界に抱かれながら、双樹は声を押し殺して震える身体を抱き締める。
ヤミ色の世界に抱かれながら、双樹は声を押し殺して震える身体を抱き締める。
シン、と静まり返った森にほのかに漂う火薬の臭いが頭を朦朧とさせる。
指先が痙攣を起こしたみたいに動き続けてしまう。
奥歯がカチカチと忙しなくかみ合わされる。口の中はカラカラだ。喉が乾いた。。
指先が痙攣を起こしたみたいに動き続けてしまう。
奥歯がカチカチと忙しなくかみ合わされる。口の中はカラカラだ。喉が乾いた。。
まっくら森はずっとずっとクライまま。少女の心を蝕み続ける。
【F-3 森/1日目 深夜】
【白鐘双樹@フタコイオルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備: MP5SD3(0/30)@現実】
【所持品:支給品一式×1、 MP5SD3の予備マガジンx4(9mmパラベラム弾)、S&W M36 チーフスペシャル(5/5)@現実、
.38スペシャル弾x30】
【状態:健康】 健康、恐慌状態
【思考・行動】
0:恋太郎と沙羅以外の人間と会いたくない。出会った場合は……?
【装備: MP5SD3(0/30)@現実】
【所持品:支給品一式×1、 MP5SD3の予備マガジンx4(9mmパラベラム弾)、S&W M36 チーフスペシャル(5/5)@現実、
.38スペシャル弾x30】
【状態:健康】 健康、恐慌状態
【思考・行動】
0:恋太郎と沙羅以外の人間と会いたくない。出会った場合は……?
【備考】
※アニメ「フタコイオルタナティブ」後日談、「フタコイオルタナティブG」終了後より参戦。
※アニメ「フタコイオルタナティブ」後日談、「フタコイオルタナティブG」終了後より参戦。
【MP5SD3@現実】
H&K MP5のサイレンサー仕様モデルのサブマシンガン。使用弾薬は9mmパラベラム弾。マガジン式。
H&K MP5のサイレンサー仕様モデルのサブマシンガン。使用弾薬は9mmパラベラム弾。マガジン式。
オープンボルト方式ではなく、ボルトを閉鎖した状態で発砲するクローズドボルト方式とローラーロッキングシステムを取り入れている。
そのため銃自体の振動が抑えられ、フルオートマチック(連射)時のコントロールが容易となった。
このおかげで命中精度が向上し、それまでのサブマシンガンとは一線を画す銃器となった。
そのため銃自体の振動が抑えられ、フルオートマチック(連射)時のコントロールが容易となった。
このおかげで命中精度が向上し、それまでのサブマシンガンとは一線を画す銃器となった。
【S&W M36@現実】
アメリカのスミス&ウェッソン社が1950年に開発した小型回転式拳銃。使用弾薬は38口径スペシャル弾。装弾数は五発。
アメリカのスミス&ウェッソン社が1950年に開発した小型回転式拳銃。使用弾薬は38口径スペシャル弾。装弾数は五発。
1965年に発売された史上初のステンレス製リボルバーでもあり、発売当時は「錆びないリボルバー」として人気を集めた。
耐久力を向上させるために数々の改良を施すことで、Jフレームを持つ小型リボルバーでありながら高威力の.357マグナム弾を使用できるようになった。
しかし、強化銃身(排莢ロッドを収めるバレルシュラウドを同時装備)や可変照準器を採用したことによって、従来(通常型.38口径弾専用、照準は固定)のM36やM60とは全く違う外観となってしまった。
耐久力を向上させるために数々の改良を施すことで、Jフレームを持つ小型リボルバーでありながら高威力の.357マグナム弾を使用できるようになった。
しかし、強化銃身(排莢ロッドを収めるバレルシュラウドを同時装備)や可変照準器を採用したことによって、従来(通常型.38口径弾専用、照準は固定)のM36やM60とは全く違う外観となってしまった。