夜の進軍/FootstepsFromDarkness
吹き付ける風と、潮の香り。
離れていても聞こえてくる潮騒の囀り。
上を見上げてみれば、太陽のように照らす月の光。
夜ながらどこまでも薄く、それでいて永遠に掴めないような空の暗い青色。
離れていても聞こえてくる潮騒の囀り。
上を見上げてみれば、太陽のように照らす月の光。
夜ながらどこまでも薄く、それでいて永遠に掴めないような空の暗い青色。
まだこの景色を見るのは当分先のことだと思っていたのに。
琥珀色の瞳を若干失望の形に細めて、西園美魚はぼんやりと空を眺めていた。
正直なところ美魚にとっては殺し合いをしろと命じられても今ひとつ実感が湧かなかった。
さりとてこの状況を何とかしようとする気にもならず、茫漠とした思いを漂わせているだけだ。
琥珀色の瞳を若干失望の形に細めて、西園美魚はぼんやりと空を眺めていた。
正直なところ美魚にとっては殺し合いをしろと命じられても今ひとつ実感が湧かなかった。
さりとてこの状況を何とかしようとする気にもならず、茫漠とした思いを漂わせているだけだ。
それもそうだ、と考える。
自分は終わりを待ち、孤独という願いを叶えるために人と関わることを捨て、また罪を贖うために存在しているに過ぎない。
己が忘れ、殺してしまった存在……美鳥という影にして、妹。世界に馴染めなかった自分を支えてくれたもう一人の『わたし』。
自分は終わりを待ち、孤独という願いを叶えるために人と関わることを捨て、また罪を贖うために存在しているに過ぎない。
己が忘れ、殺してしまった存在……美鳥という影にして、妹。世界に馴染めなかった自分を支えてくれたもう一人の『わたし』。
いつまでも一緒だと誓い合ったはずの彼女を、残酷に、そしてあっけなく切り捨てた。
無意識に。そう、人が呼吸するように。簡単な引き算をするように。彼女なんていなかったと無かったことにした。
それはどうしようもない罪だ。半身を切り捨てたという無自覚の罪。究極の無関心の果ての殺人だ。
無意識に。そう、人が呼吸するように。簡単な引き算をするように。彼女なんていなかったと無かったことにした。
それはどうしようもない罪だ。半身を切り捨てたという無自覚の罪。究極の無関心の果ての殺人だ。
どんなときでも励ましてくれた美鳥を、わたしは捨てた。
そんな自分がどうしてここにいていいと思えるだろうか。そう断じて、忘れたということを思い出したあの日から待ち続けている。
自分が孤独になり、美鳥が知覚される日を。『わたし』が望み、『わたし』も望んだことを。
だがその前に、自分はここに連れてこられた。誰のどういう意図なのかは知らないし、知りたくもない。
自分が孤独になり、美鳥が知覚される日を。『わたし』が望み、『わたし』も望んだことを。
だがその前に、自分はここに連れてこられた。誰のどういう意図なのかは知らないし、知りたくもない。
ただ一つ思うことは、この空白の時間をどう使えばいいのだろうという問いだった。
美鳥をまだ感じているわけでもなく、かといって自分がここでしたいこともない。
空白の中で薄ぼんやりと漂っている。孤独でもなければ、在るわけでもない。
そう、まるで境界線だった。海と空の『あを』の、僅かな間。
皮肉なことに、立てるはずもないと思っていたそこに立っているということだった。
美鳥をまだ感じているわけでもなく、かといって自分がここでしたいこともない。
空白の中で薄ぼんやりと漂っている。孤独でもなければ、在るわけでもない。
そう、まるで境界線だった。海と空の『あを』の、僅かな間。
皮肉なことに、立てるはずもないと思っていたそこに立っているということだった。
更に困ったことには、どうも知り合いがここにいるらしいということだ。
あまりにも突然過ぎる事象の連続で何が起こっているのかついてゆけず、
何やらクラッカーが破裂したような音が聞こえている間にここに飛ばされ、
どんな人達がいるのかも分からないままに今に至っている。
あまりにも突然過ぎる事象の連続で何が起こっているのかついてゆけず、
何やらクラッカーが破裂したような音が聞こえている間にここに飛ばされ、
どんな人達がいるのかも分からないままに今に至っている。
正確には、夢を見ていたような気分だというのが正しい。遠目ながらも次々と舞い散る赤い色は色が違うだけの噴水としか思えなかった。
それも常識の中の自分の知っている事象に照らし合わせただけに過ぎず、実際見た景色とは全然違うはずだった。
前に自分で語ったことと同じだった。記憶は曖昧模糊なものに過ぎず、脳の中で整理し都合のいいように書き換えたものになっているだけだ。
それも常識の中の自分の知っている事象に照らし合わせただけに過ぎず、実際見た景色とは全然違うはずだった。
前に自分で語ったことと同じだった。記憶は曖昧模糊なものに過ぎず、脳の中で整理し都合のいいように書き換えたものになっているだけだ。
それとも、自分が空っぽだからこのような視線で見ているのだろうか、とも思う。
孤独を望み、染まずにただただ漂うことを希望とした自分に、現実を正しく見る力など残っていないということか。
分析に入ろうとしたところで、当初考えていたこととずれてきていることを自覚した美魚はそうじゃないと首を振った。
孤独を望み、染まずにただただ漂うことを希望とした自分に、現実を正しく見る力など残っていないということか。
分析に入ろうとしたところで、当初考えていたこととずれてきていることを自覚した美魚はそうじゃないと首を振った。
知り合いがいるらしいということについて考えていたのだったと思い出した美魚は、足元にあったデイパックを開く。
中身は色々あるらしかったが、今は気にしない。現実感のない記憶の中で名簿が配られるということは覚えていた。
無論、それも本当かどうか分かったものではないが――そう思いつつごそごそと漁ると、A4くらいのサイズの紙が出てきた。
中身は色々あるらしかったが、今は気にしない。現実感のない記憶の中で名簿が配られるということは覚えていた。
無論、それも本当かどうか分かったものではないが――そう思いつつごそごそと漁ると、A4くらいのサイズの紙が出てきた。
びっしりと文字の並んでいるそれをじっくりと見渡してみる。文字を見るのは得意だ。
せわしなく目を動かしていた美魚だったが、途中でその動きが止まる。あった。本当に。
見知った名前が5つほど、名簿に並んでいる。そのうちの一つは自分の名前だった。
他は4人。それも一緒に野球をしている……『リトルバスターズ』の面々。
せわしなく目を動かしていた美魚だったが、途中でその動きが止まる。あった。本当に。
見知った名前が5つほど、名簿に並んでいる。そのうちの一つは自分の名前だった。
他は4人。それも一緒に野球をしている……『リトルバスターズ』の面々。
本当にいたのだという実感と驚きが伴う一方、さてどうしようと他人事のように思っている自分もいる。
探すか、探さないか――そこまで思って、どうしてそんな選択肢を出したのだろうと美魚は思った。
探すか、探さないか――そこまで思って、どうしてそんな選択肢を出したのだろうと美魚は思った。
孤独でありたいと願っているはずの自分。なら、探す必要性なんてどこにもないはずだ。
誰からも気にされず、忘れ去られて。
その時にこそ自分は『海のあをにも染まずただよふ』ことが出来るはずなのに。
出会ってしまうことは、誰かを苦しめることだというのに。
誰からも気にされず、忘れ去られて。
その時にこそ自分は『海のあをにも染まずただよふ』ことが出来るはずなのに。
出会ってしまうことは、誰かを苦しめることだというのに。
そうなりたくはない……? 思い浮かべた美魚だったが、そんなわけはないし、その資格もないと強く否定する。
触れ合ってしまったからなのか。彼らとの関わり合いの中で笑い、楽しみ、こういうのも悪くないとどこかで思っていたから?
そのように思っているものか。罪を贖うだけの時間しか残されていないことを知り抜いている自分が、そんな風に考えるはずはない。
きっと、錯覚だ。たまたまつられて笑っていたから、楽しいと思い込んでいるだけだ。
記憶とはそういうものではないかと自分で言ったばかりだというのに……
触れ合ってしまったからなのか。彼らとの関わり合いの中で笑い、楽しみ、こういうのも悪くないとどこかで思っていたから?
そのように思っているものか。罪を贖うだけの時間しか残されていないことを知り抜いている自分が、そんな風に考えるはずはない。
きっと、錯覚だ。たまたまつられて笑っていたから、楽しいと思い込んでいるだけだ。
記憶とはそういうものではないかと自分で言ったばかりだというのに……
これ以上名簿を見ていると、また良からぬ考えが出てきそうだった。美魚は半ば乱暴に名簿をデイパックに入れる。
すると今度は何やら長い棒のようなものが手に当たる。
何かと思って引き抜くと、そこには使い慣れた……そして己の影を隠すための日傘があった。
いつも持ち歩いている日傘。ひょっとすると、ある程度の手荷物は没収されずに返されるのかもしれない。
夜ではあるが、月光が強いので、何もないような場所では影が出来てしまう。『カゲナシ』が見えてしまう。
故にそれを、いつものように開く。勢いも良く広げられた日傘は美魚の肌を影で包み、一瞬の孤独へと彼女を導いた。
すると今度は何やら長い棒のようなものが手に当たる。
何かと思って引き抜くと、そこには使い慣れた……そして己の影を隠すための日傘があった。
いつも持ち歩いている日傘。ひょっとすると、ある程度の手荷物は没収されずに返されるのかもしれない。
夜ではあるが、月光が強いので、何もないような場所では影が出来てしまう。『カゲナシ』が見えてしまう。
故にそれを、いつものように開く。勢いも良く広げられた日傘は美魚の肌を影で包み、一瞬の孤独へと彼女を導いた。
やはりそうだと美魚は知覚する。自分が望むのは誰も見ず、誰からも省みられない孤独。
誰を嫌う必要もなく、嫌われることもない永遠に『わたし』だけがいる場所。
西園美魚という人間は、そこで本当の希望を得られる。
だから、関わらなくていい。自分はただ見ているだけだ。観察し、しかしそれ以上のことはしない存在。
誰を嫌う必要もなく、嫌われることもない永遠に『わたし』だけがいる場所。
西園美魚という人間は、そこで本当の希望を得られる。
だから、関わらなくていい。自分はただ見ているだけだ。観察し、しかしそれ以上のことはしない存在。
美鳥が自分に代わる、そのときまで――
考えを深め、目を閉じようとしたとき、風が変わった。
「君は、何をしているんだ?」
後ろから撫で付けていた風が、逆向きのものへと変わる。
髪が後ろに流れ、隠れるようにしていた美魚の表情が世界に晒される。
どうやら、まだ孤独は遠いようだと認識した美魚は、声のする方へと振り向いた。
空白の時間を消費するための、観察を始めるために。
髪が後ろに流れ、隠れるようにしていた美魚の表情が世界に晒される。
どうやら、まだ孤独は遠いようだと認識した美魚は、声のする方へと振り向いた。
空白の時間を消費するための、観察を始めるために。
* * *
生温い風と、血の香り。
耳にこびりついて離れない悲鳴。
目を閉じてみれば、脳裏に描き出されるのは穏やかな喧騒。
どこまでも温かく、いつまでも身を委ねていたくなるような幸福。
耳にこびりついて離れない悲鳴。
目を閉じてみれば、脳裏に描き出されるのは穏やかな喧騒。
どこまでも温かく、いつまでも身を委ねていたくなるような幸福。
もう二度と手に入れることの出来ないものだ。遠すぎる彼方の夢……
黒曜石の色をした瞳は、傍から見れば何を映しているのか判別できないほど一色に塗り揃えられていた。
海岸線沿いを、俯きながら歩く男――ハクオロ――は、声を聞き続けている。
黒曜石の色をした瞳は、傍から見れば何を映しているのか判別できないほど一色に塗り揃えられていた。
海岸線沿いを、俯きながら歩く男――ハクオロ――は、声を聞き続けている。
なぜ。
エルルゥの声色がハクオロに問いかける。
なぜ。
その先は続かない。ただ一言、それだけを言ってくる。
なぜ。
ハクオロもまた答えようとはしない。問いが分からないからだというのではなく、
どんな問いだとしても答えられる資格がないと思っているからだった。
突然鳴り響く異音。不自然に明滅を繰り返す首輪。戸惑うばかりで、怯えることしか出来ない彼女。
自分は駆け寄りもせず、呆然として途方に暮れた顔で見つめるばかりの彼女の死を見送るしかなかった。
何も出来なかった……いや、しようとしなかった。
どんな問いだとしても答えられる資格がないと思っているからだった。
突然鳴り響く異音。不自然に明滅を繰り返す首輪。戸惑うばかりで、怯えることしか出来ない彼女。
自分は駆け寄りもせず、呆然として途方に暮れた顔で見つめるばかりの彼女の死を見送るしかなかった。
何も出来なかった……いや、しようとしなかった。
異変が起こっていることは明らかだったはずなのに、自分の体は硬直したままだった。
本能的に危険だと悟ったからか。あまりにも突然過ぎる出来事の連続に頭がついていけなかったからか。
けれども、そんなものは言い訳に過ぎない。
本能的に危険だと悟ったからか。あまりにも突然過ぎる出来事の連続に頭がついていけなかったからか。
けれども、そんなものは言い訳に過ぎない。
何よりも彼女が大切だったのはとうの昔に分かっていたはずなのに、どうして側にいてやろうとしなかった?
最初から、側にいてやれば……少なくとも、こんな後悔はしなかった。
だが結局は何もかもが後の祭りだ。残された事実は、自分が彼女を見殺しにしたこと――その一事だった。
最初から、側にいてやれば……少なくとも、こんな後悔はしなかった。
だが結局は何もかもが後の祭りだ。残された事実は、自分が彼女を見殺しにしたこと――その一事だった。
大木となって、皆を守るはずの皇がこの有様か。中々に、無能だな?
己を憎んでさえいるような笑みは、既に自嘲というにも程遠いものになっていた。
未だのうのうと生き恥を晒している自分。あの場所に確かにいたはずの仲間を探しもせず、ただふらふらと歩いているだけの自分。
死に場所を求めて彷徨う亡霊だ。戦の敗北者が辿る末路と同じ、ただ死に向かうだけの行進……
普段のハクオロからすれば信じられないような挙動だった。自分でさえ、今の自分はおかしいと思っている。
未だのうのうと生き恥を晒している自分。あの場所に確かにいたはずの仲間を探しもせず、ただふらふらと歩いているだけの自分。
死に場所を求めて彷徨う亡霊だ。戦の敗北者が辿る末路と同じ、ただ死に向かうだけの行進……
普段のハクオロからすれば信じられないような挙動だった。自分でさえ、今の自分はおかしいと思っている。
だがこの事実を見てどうしろというのだ? 大切な人さえ見殺しにした己が、今また誰かを守れるのか?
それこそ戯言ではないのか。そんなものは自分を誤魔化すための慰めに過ぎず、また無力を晒すだけではないのか。
もう自分には誰を守れるだけの力も、資格もない。あるのは罪の意識。どうしようもない罪を犯した自覚だった。
それこそ戯言ではないのか。そんなものは自分を誤魔化すための慰めに過ぎず、また無力を晒すだけではないのか。
もう自分には誰を守れるだけの力も、資格もない。あるのは罪の意識。どうしようもない罪を犯した自覚だった。
ただ、このような姿を仲間に見られたくないという思いもあった。
こんな姿を見せれば、きっと仲間まで絶望してしまう。
信頼を裏切り、抜け殻となってしまった自分を見て、諦めてしまう。
そうはなって欲しくはなかった。仲間達には生き延びて欲しかった。
こんな姿を見せれば、きっと仲間まで絶望してしまう。
信頼を裏切り、抜け殻となってしまった自分を見て、諦めてしまう。
そうはなって欲しくはなかった。仲間達には生き延びて欲しかった。
都合のいい話だと思う。しかし彼らには未来がある。生きる価値がある命がある。
絶望に屈することなく、戦い抜いて欲しかった。
そのためにも自分は、ひとりで死にたかった。
戦いの果てに傷つき、斃れ、その意思を継いだ仲間達がこの殺し合いを打ち壊す。
絶望に屈することなく、戦い抜いて欲しかった。
そのためにも自分は、ひとりで死にたかった。
戦いの果てに傷つき、斃れ、その意思を継いだ仲間達がこの殺し合いを打ち壊す。
最後にハクオロが考えた策とも言える。己の死を糧にして、皆を奮起させる。
どうやら自分は軍人としての性を捨て切れてはいないらしいと苦笑したハクオロは、これでいいと再度確認する。
自分はただ死ねばいい。その死を乗り越えて皆には生き残ってもらいたい。己が生を全うしてもらいたい。
勝手すぎる願いだとは思うが、もう自分に生きる資格などないのだから……
どうやら自分は軍人としての性を捨て切れてはいないらしいと苦笑したハクオロは、これでいいと再度確認する。
自分はただ死ねばいい。その死を乗り越えて皆には生き残ってもらいたい。己が生を全うしてもらいたい。
勝手すぎる願いだとは思うが、もう自分に生きる資格などないのだから……
しかし、ただ自殺するという気はない。もしもこの殺し合いに参加している人物がいるのだとしたら、相打ちとなって死んでやろう。
それが少しでも彼女への……もう名前を呼ぶのさえ憚られる、エルルゥへの罪滅ぼしとなるのなら。
それが少しでも彼女への……もう名前を呼ぶのさえ憚られる、エルルゥへの罪滅ぼしとなるのなら。
敵となる相手を探すべく、顔を上げて人の姿を探したハクオロに、白い点が映る。
波打ち際の砂浜。淡い紺と深い紺、空と海の狭間に、ぽつねんとして存在している少女がいた。
手に持っているのは傘……だろうか? それにしてはハクオロが知っているものとは形状が少し違う。
だが取っ手の形や、少女の使い方からして傘には違いなさそうだ。
波打ち際の砂浜。淡い紺と深い紺、空と海の狭間に、ぽつねんとして存在している少女がいた。
手に持っているのは傘……だろうか? それにしてはハクオロが知っているものとは形状が少し違う。
だが取っ手の形や、少女の使い方からして傘には違いなさそうだ。
それよりも、ハクオロが見るその姿には不安を感じさせるものがあった。
特に理由はない。けれどもどこまでも白い傘のその色は、世界から隔絶されているように見える。
いやそうなりたいと願っているようでもあった。風景の全てに馴染まず、居場所を失った色……
特に理由はない。けれどもどこまでも白い傘のその色は、世界から隔絶されているように見える。
いやそうなりたいと願っているようでもあった。風景の全てに馴染まず、居場所を失った色……
傘に隠れて分かりづらかったが、少女は海を見ているようでもあり、空を見ているようでもあった。
あるいは、そのどちらをも見ていないのかもしれない。
吹きさらす風で少女の短い髪は揺れ、白と黒を基調にした、自分が見たことも無いような服がゆらりとはためいている。
そのせいで挙動も、表情も窺えなかった。けれども立ち尽くし、自分には分からない遠くを見つめている彼女にはどこか危ういものがあった。
あるいは、そのどちらをも見ていないのかもしれない。
吹きさらす風で少女の短い髪は揺れ、白と黒を基調にした、自分が見たことも無いような服がゆらりとはためいている。
そのせいで挙動も、表情も窺えなかった。けれども立ち尽くし、自分には分からない遠くを見つめている彼女にはどこか危ういものがあった。
少女の視線が、やや下を向く。その先には寄せては繰り返す波の群れ。
靴――これも見たことのないようなもの――に僅かにかかっているそれを、少女は見ている。
自分の中の何かがそそけ立つのをハクオロは感じた。声をかけようと口を開きかけて、そんなことをしてどうするという疑問が浮かぶ。
靴――これも見たことのないようなもの――に僅かにかかっているそれを、少女は見ている。
自分の中の何かがそそけ立つのをハクオロは感じた。声をかけようと口を開きかけて、そんなことをしてどうするという疑問が浮かぶ。
己に声をかける資格などないはずではなかったのか。誰かと共に在ろうとすることなど、自分には許されないはずではなかったのか。
ただ死を待つだけの身に人と関わり合うことは出来ない。そうではなかったのか。
そうだ、自分に残されているのはそれだけだ。それ以外のものを得るなど間違っている。
立ち去ろう。ここに自分の求める死に場所はないのだから。
そう断じて踵を返そうとしたとき、ハクオロの中に響く声があった。
ただ死を待つだけの身に人と関わり合うことは出来ない。そうではなかったのか。
そうだ、自分に残されているのはそれだけだ。それ以外のものを得るなど間違っている。
立ち去ろう。ここに自分の求める死に場所はないのだから。
そう断じて踵を返そうとしたとき、ハクオロの中に響く声があった。
『ハクオロ……さん』
なぜ、という声ではなかった。不安に揺れ、最後に名前を呼んだときの表情が蘇る。
ハクオロの動きが止まる。声の響きがあまりにも、白い少女と似たものを宿していたからだ。
取り残され、途方に暮れた声。残してしまうことの辛さと、残されてしまうことの辛さを含んだ声。
ハクオロの動きが止まる。声の響きがあまりにも、白い少女と似たものを宿していたからだ。
取り残され、途方に暮れた声。残してしまうことの辛さと、残されてしまうことの辛さを含んだ声。
これでいいのか? ハクオロの中に疑問が生まれる。
少女に感じた危うさは、所詮自分の主観が物語ったものでしかない。けれども、それが間違っていないのだとしたら?
こうして手が届く場所に立っているというのに、こうして自分はまた何もしないのか?
そんな資格はないと割りきって、ただ楽になれる場所を探すために?
それでいいのか? ハクオロは無意識に、少女の方へと歩み寄っていた。
少女に感じた危うさは、所詮自分の主観が物語ったものでしかない。けれども、それが間違っていないのだとしたら?
こうして手が届く場所に立っているというのに、こうして自分はまた何もしないのか?
そんな資格はないと割りきって、ただ楽になれる場所を探すために?
それでいいのか? ハクオロは無意識に、少女の方へと歩み寄っていた。
今自分がしていることが正しいことなのか、間違っていることなのか、それは分からない。
けれども繰り返してはいけないという強い感情がハクオロにはあった。
ここでまた見捨ててしまっては、彼女への贖罪どころか、更なる悲しみを増やしてしまうだけだからと思ったから。
けれども繰り返してはいけないという強い感情がハクオロにはあった。
ここでまた見捨ててしまっては、彼女への贖罪どころか、更なる悲しみを増やしてしまうだけだからと思ったから。
……そうだな? エルルゥ。
思い切って内奥で呟いたその名前は、以前よりの息苦しさはなかった。
少女の横にやってきたハクオロは、少女に尋ねる。
少女の横にやってきたハクオロは、少女に尋ねる。
「君は、何をしているんだ?」
数秒の間を置いて、ようやく意識が戻ってきたかのように少女が顔を向ける。
傘の下に隠れた白く、きめ細やかな肌。どこまでも深い琥珀色の瞳がハクオロを捉える――興味もなさそうに。
傘の下に隠れた白く、きめ細やかな肌。どこまでも深い琥珀色の瞳がハクオロを捉える――興味もなさそうに。
「不躾ですね」
「……あまりに、ぼうっとしていたように思えたからな」
「隙だらけだったと忠告しに来たということですか」
「まあ、な。こんな場所では人に見つかりやすい」
「でしょうね。あなたがここにいるのですから」
「……あまりに、ぼうっとしていたように思えたからな」
「隙だらけだったと忠告しに来たということですか」
「まあ、な。こんな場所では人に見つかりやすい」
「でしょうね。あなたがここにいるのですから」
淡々とした口調で答える。殺し合いの中で出会ったとは思えないほどひどく冷静で、色のない声。
少女はまるで――透明だった。
少女はまるで――透明だった。
「特に何も。強いて言うとするなら、鳥がいないかどうか見ていました」
「観察か」
「観察か」
そんなところです、と少女は曖昧に笑う。ハクオロも空を見ているが、海鳥の一匹も見られることはなかった。
ただ空にはたくさんの星が浮かび、月があるだけで他には何も見えない。というより、夜に鳥が飛んでいることは殆どないはずだ。
いるはずもない鳥を探して、どうするつもりだったのだろうとハクオロは思いながら話題を切り替える。
ただ空にはたくさんの星が浮かび、月があるだけで他には何も見えない。というより、夜に鳥が飛んでいることは殆どないはずだ。
いるはずもない鳥を探して、どうするつもりだったのだろうとハクオロは思いながら話題を切り替える。
「だが、ずっとそうしているわけにもいかないだろう。ここもじき戦場になるかもしれん」
「そうなると危険だから、ここから離れて自分と行動しろ、と?」
「そこまでは言っていないが……」
「別に、いいんです。待っていられるならどこでだって」
「そうなると危険だから、ここから離れて自分と行動しろ、と?」
「そこまでは言っていないが……」
「別に、いいんです。待っていられるならどこでだって」
待つと言った少女の目は生硬いものだった。そうすることしか出来ないと知っている目だ。
何を待っているのか。仲間だろうか、それとももっと別の何か……
今も少女から滲み出る危うい感覚。何か関係しているのか。
憶測するもののそれで答えが分かるはずもなく、訊けるだけのものであるはずもない。
しかし、少なくともここにいさせる理由にはならないと思いハクオロは話を進める。
何を待っているのか。仲間だろうか、それとももっと別の何か……
今も少女から滲み出る危うい感覚。何か関係しているのか。
憶測するもののそれで答えが分かるはずもなく、訊けるだけのものであるはずもない。
しかし、少なくともここにいさせる理由にはならないと思いハクオロは話を進める。
「ともかく、一人でいては危険だ。ここで待ち合わせしているにしても目立ちすぎる」
「そうかもしれませんね」
「そうかもしれませんね」
ようやくという風に周りを見回し、ここが広い海岸だというのを今知ったように少女は呟いた。
もしかして、ずっとここから動いていなかったのではないだろうか。視線すら、ほとんど動かさずに。
そうなるとかなりの時間そこに立ち尽くしていたということになる。たった一人で……
自らの不安が大きくなっていくのを感じながらも、ハクオロは手を差し出す。
もしかして、ずっとここから動いていなかったのではないだろうか。視線すら、ほとんど動かさずに。
そうなるとかなりの時間そこに立ち尽くしていたということになる。たった一人で……
自らの不安が大きくなっていくのを感じながらも、ハクオロは手を差し出す。
「来てくれるなら、私と握手だ。自己紹介しておくよ、私の名前はハクオロ、という」
「……西園、美魚です」
「……西園、美魚です」
ミオ。そう名乗る前に若干の空白があったように感じたのは気のせいだろうか。
そして、僅かに握手に躊躇いがあったのにも。
そして、僅かに握手に躊躇いがあったのにも。
「ニシゾノミオか。……どう呼べばいい?」
「別に、どうでもいいです」
「別に、どうでもいいです」
そう言う美魚の表情は本当に興味のなさそうな……というより、まるで自分のことを話題にしているという風ではなかった。
「それよりも、ハクオロさん……でしたか」
「ああ、どうした?」
「ああ、どうした?」
尋ねてきた美魚の顔は今までとは違う、じろじろと見回す目つきだった。
まるで珍しい動物でも見られているかのような気配に若干たじろぎつつ、「どうしたんだ」と再度訊く。
そこでようやく、それほどまでに見つめていたことを悟ったらしい美魚はこほん、と一つ咳払いをして、言った。
まるで珍しい動物でも見られているかのような気配に若干たじろぎつつ、「どうしたんだ」と再度訊く。
そこでようやく、それほどまでに見つめていたことを悟ったらしい美魚はこほん、と一つ咳払いをして、言った。
「つかぬことをお聞きしますが」
「ああ」
「それは……コスプレなのですか?」
「……は?」
「ああ」
「それは……コスプレなのですか?」
「……は?」
気付く。美魚が見つめているのは自分の目ではなく、その周り。
「あまりデザイン性はよくありませんね。服装ともマッチしていませんし……落第点です」
何故かダメ扱いをされたらしいハクオロだったが、よく分からなかった。
というより――
というより――
「……済まない。こすぷれとは何だ?」
【A-1 海岸沿い 北部/一日目 深夜】
【西園美魚@リトルバスターズ!】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:『美鳥』に存在が変わるまで待ち続ける
1:ハクオロを観察する
2:ハクオロにコスプレのセンスはない。ダメダメです
【装備:なし】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:『美鳥』に存在が変わるまで待ち続ける
1:ハクオロを観察する
2:ハクオロにコスプレのセンスはない。ダメダメです
【備考】
共通ルートからの登場。野球が終わったあとくらい
共通ルートからの登場。野球が終わったあとくらい
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らないが、生き残る気もない
1:死に場所を探して、敵を倒す
2:仲間には見つかりたくない
3:美魚の様子に不安感を持つ
4:こすぷれとはなんぞ?
【装備:なし】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らないが、生き残る気もない
1:死に場所を探して、敵を倒す
2:仲間には見つかりたくない
3:美魚の様子に不安感を持つ
4:こすぷれとはなんぞ?
【備考】
時期未定
時期未定