麗「──というわけで、これが"こっち"の結末、まとめれば美代聖樹が暴走して星を喰らおうとしたから父さんが原初のVenomを取り込んで対抗、世界から表向きはVenomがいなくなってめでたしめでたし、蓋を開けたらまだVenomはいるしその能力を生かして技術は進歩しましたとさってこと、OK?母さん」
夏希「……全くOKじゃないですが納得します…頭痛い……」
神城製薬へと美代聖樹を連れて帰還した早乙女麗は、この世界の母親である早乙女夏希との対話、及び事情の説明を行っていた…が、その態度は良くなく、未来では関係は良くないことが伺える…とはいえ、この世界の早乙女夏希に娘などいないし、別世界の話をされたところで予め知ってはいたとはいえ理解が及ばない所も多々ある。
わかったのは美代の暴走の原因が"神城夏希の選択"にあるということで、その時点で別世界の自分は自分と思考が違うのかもしれないと思うしかなかった。
わかったのは美代の暴走の原因が"神城夏希の選択"にあるということで、その時点で別世界の自分は自分と思考が違うのかもしれないと思うしかなかった。
麗「そう、じゃあ私は怪我人の治療に行くから…これでも医者なので、こっちの技術フル投入で全員一週間以内には前線復帰させますよー、チャオ☆」
夏希「あ、その…まだ聞きたいことが……はぁ…いきなり娘とか言われても困るんですよ…27歳とか言われても困るし、どうしよ……」
夏希の話など聞かず部屋を出ていく麗、一人残された執務室で額に手を乗せ背もたれに身を投げながら溜息を吐き天井を眺めること数秒、遂にアニマギアの解析を終え、黒塚の回収した予言書に軽く目を通して感じた疑問、大したことではないが"早乙女夏希"ならやらないはずがない選択──
夏希「アニマギアはコアドライバーさえあれば理論上幼児でも使える…なら、コアドライバーの量産ができる以上、一般市民にも配布してアニマノイドに対する自衛策とするべき…なのに何故未来ではそうなっていないの?」
インジェクトドライバーはVenomとの適合が必要だったが、アニマギアは違う、コアドライバーを付けさえすれば使えるギアとの兼ね合いはあるが何かしら一つは使える筈なのだから、コアドライバーを量産しているのだから自衛策として市民に与えるべきなのだと考える…"そうすれば市民も戦力となるのだから"
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稲荷崎「今から10年前、世界は滅びかけた…これはウチらの世界も同じや、差異はあるけどどちらの世界も"英雄"の登場によって救われた、数多の犠牲が出たけれど、最大多数の幸福を得たのでめでたしめでたし…物語ならハッピーエンドで拍手喝采やろな、けど物語が終わっても救われた世界には先がある
さて、世界が滅びかけたその原因、Venomは偶然この星に落ちた、きっかけは確かに偶然やった…けれど、世界を滅ぼそうとしたのはどっちも人や、人為的に引き起こされようとしてた…そしてそれは実現一歩手前まで行ってしまった、意味…わかる?」
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稲荷崎「今から10年前、世界は滅びかけた…これはウチらの世界も同じや、差異はあるけどどちらの世界も"英雄"の登場によって救われた、数多の犠牲が出たけれど、最大多数の幸福を得たのでめでたしめでたし…物語ならハッピーエンドで拍手喝采やろな、けど物語が終わっても救われた世界には先がある
さて、世界が滅びかけたその原因、Venomは偶然この星に落ちた、きっかけは確かに偶然やった…けれど、世界を滅ぼそうとしたのはどっちも人や、人為的に引き起こされようとしてた…そしてそれは実現一歩手前まで行ってしまった、意味…わかる?」
その部屋は手術室のようで、手術台の上には手足を拘束された西園寺桃胡の姿があった。
西園寺「世界は人の手で滅ぼせてしまう…ですわ」
稲荷崎「せやな、条件さえ揃えば人は世界を滅ぼせる、それなら悪人ならば一度くらい世界を滅ぼしたいと思うもんなんよ…まぁ、それはどうでもええねん、ウチは正義の味方やからそんなことになったら戦うねん…
大事なのは、最大多数の幸福の方や…これって卑怯やと思うんよ、世界を救った結果の最大多数の幸福なんてそりゃ全人類が当てはまるわ、そんな中で"私は幸せじゃありません"なんて言ってみよか…誰も相手にせんわ」
大事なのは、最大多数の幸福の方や…これって卑怯やと思うんよ、世界を救った結果の最大多数の幸福なんてそりゃ全人類が当てはまるわ、そんな中で"私は幸せじゃありません"なんて言ってみよか…誰も相手にせんわ」
その声音はシンプルで、怒り。
誰もが幸せな中で不幸だと嘆くその声を封殺する多数に対する明確な憎悪。
誰もが幸せな中で不幸だと嘆くその声を封殺する多数に対する明確な憎悪。
稲荷崎「だから見方を変えようや、世界を救って何を失い何を得たか、それで考えよう、羽矢蔵碧琉は世界を救って何を失い何を得た?岡村忠道は?神凪歩夢は?初草雪は?豊奥果因は?美代聖樹は?早乙女涼雅は?神城夏希は?
世界は一部の者に犠牲を強いすぎる、負担を背負わせすぎてる、そんな世界おかしいやろ?なんで功績者が不幸になっとるんや…些細なことやない、重要なことや、これを理解しないから何もわからない豚でいられるんや、どいつもこいつも生き汚い愚鈍で惨めで救いようのない豚ばかり…」
世界は一部の者に犠牲を強いすぎる、負担を背負わせすぎてる、そんな世界おかしいやろ?なんで功績者が不幸になっとるんや…些細なことやない、重要なことや、これを理解しないから何もわからない豚でいられるんや、どいつもこいつも生き汚い愚鈍で惨めで救いようのない豚ばかり…」
簡単な話だ、「虐げられた者」と、「虐げた者」がいる。
虐げられた者は虐げた者を絶対に許さない、何を言おうと、何を成そうと、謝罪の方法も贖罪の機会も最初から無い。
虐げられた者が虐げた者に復讐を果たす、それだけの物語。
めでたしめでたし──
だが、ここに追加する役者達がいる。
「何もしなかった者達」と、「何も知らなかった者達」がいて、「そういうものだ」とそれを許した世界がある。
こうなれば最早全てが混沌と化す、無辜の加害者が多過ぎるのだ──
ではどうするか?縺れた紐など全て切ってしまえば良い。
つまりは、世界を憎むなどあまりに簡単な話である。
虐げられた者は虐げた者を絶対に許さない、何を言おうと、何を成そうと、謝罪の方法も贖罪の機会も最初から無い。
虐げられた者が虐げた者に復讐を果たす、それだけの物語。
めでたしめでたし──
だが、ここに追加する役者達がいる。
「何もしなかった者達」と、「何も知らなかった者達」がいて、「そういうものだ」とそれを許した世界がある。
こうなれば最早全てが混沌と化す、無辜の加害者が多過ぎるのだ──
ではどうするか?縺れた紐など全て切ってしまえば良い。
つまりは、世界を憎むなどあまりに簡単な話である。
稲荷崎「けど、そんなもんもどうでもええわ、世界を変えるなんて難しすぎてやる気にならん、せやから妥協に妥協を重ねた上でもう一個妥協してバグズに乗った、争いのない世界で満足しようやないか…せやから、その邪魔する奴は目障りなんよ…意味、わかるな?」
西園寺「えぇ、予言書を奪われた私が目障りなのでしょう?あぁ…予言書を奪わせたと言い換えましょうか?貴方の前では隠し事など無意味ですし」
稲荷崎「せやな、わかっとるならええわ、ウチへの嫌がらせは楽しいんかねぇ…予言書が無くて次何すればええかわからんくて内容知っとるキミに頭下げて頼む姿でも見たら満足?
でも残念、先生にも言っとらんかったんやけど、ウチも白ギア作れるねん」
でも残念、先生にも言っとらんかったんやけど、ウチも白ギア作れるねん」
白いアニマギアを作れる、それは大きな前提条件がある、つまりは西園寺桃胡の視界に見えるライフストリームと呼ばれるエネルギーを目視し、それを操る技術が要求される。
そして予言書はライフストリームで文字を書かれていて、つまり能力を持たない人間には読めない。
逆に言えば、白いアニマギアを作れるということは、予言書を読むことが出来るということ。
そして、西園寺桃胡は一度、稲荷崎恭弥に予言書を読ませている、その際は「何も書いてないやん」と返されたが…
そして予言書はライフストリームで文字を書かれていて、つまり能力を持たない人間には読めない。
逆に言えば、白いアニマギアを作れるということは、予言書を読むことが出来るということ。
そして、西園寺桃胡は一度、稲荷崎恭弥に予言書を読ませている、その際は「何も書いてないやん」と返されたが…
西園寺「読めていた…?あの時、読んでいた…と?」
稲荷崎「そやで、全部読んで覚えとる…キミが読めもしないのに必死になってるウチを見て笑ってたけど、その間にじっくり読ませてもらったわ…見えんフリするのも疲れるんやで?なぁ…根上桃胡はん」
その呼び方に、西園寺の表情が固まる。
誰も知らない筈の名字、"根上"姓を名乗らせないために結婚も何もしなかった為に正式には西園寺姓が正しいのだが、正しく結ばれていたならば"根上"を名乗っていた少女。
誰も知らない筈の名字、"根上"姓を名乗らせないために結婚も何もしなかった為に正式には西園寺姓が正しいのだが、正しく結ばれていたならば"根上"を名乗っていた少女。
稲荷崎「バグズに入った本当の理由は父親に会うため…で、会えたん?キミの父親には…会えとらんよなぁ、あの人会う気ないもんなぁ…そんじゃ、話はここら辺にして、死なない程度にお仕置きしよか」
西園寺「稲荷崎っ!貴方やはり──!!!!!」
西園寺の言葉は最後まで続かず、手術室には工具の音と鈍い音に甲高い悲鳴の唄が響き渡る──
その一週間後、神城製薬本社ビルに稲荷崎恭弥が出頭した。
"全ては部下の暴走を止められなかった己の責任であり、バグズは活動を停止し独断で命令を下していたカサートカ=オフショアの処刑、及び同氏の指示によりばら蒔かれたアニマノイドの処分に尽力し、その証として己を拘留し、全ての案件が片付き次第釈放すること"を要求し、それが承諾された。
こうして、神城製薬本社ビルの地下に作られた拘留所に稲荷崎恭弥が収容されることになったのだった。
"全ては部下の暴走を止められなかった己の責任であり、バグズは活動を停止し独断で命令を下していたカサートカ=オフショアの処刑、及び同氏の指示によりばら蒔かれたアニマノイドの処分に尽力し、その証として己を拘留し、全ての案件が片付き次第釈放すること"を要求し、それが承諾された。
こうして、神城製薬本社ビルの地下に作られた拘留所に稲荷崎恭弥が収容されることになったのだった。
稲荷崎「さぁ、フェーズ2の始まりだ」
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