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かくして亡者の意思は継がれず ◆dKv6nbYMB.



「...ほむらちゃん」

傷ついた承太郎をマスタングたちに先に追わせ、一人残ったセリュー。
彼女が見つめるのは、ほんの少し前まで『仲間』だったものの骸。

側に並べられているのは、桃色の髪の少女―――まどかの遺体。

コンサートホールで殺された筈のまどかの遺体は、なぜかここまで運ばれていた。
誰が運んできたのか―――いうまでもない。

「彼女のこと...まどかちゃんのこと、それほどまでに大切だったんですね」

死体を持ち運ぶメリットなどほとんどない。他者を警戒させ、出会ったばかりの卯月のように精神が弱い者なら気絶すらしてしまうかもしれない。
だが、ほむらはまどかの遺体を持ち運んでいた。首輪を回収しようともせずにだ。
きっと、彼女はせめて綺麗なままで埋葬したいと思っていたのだろう。
それがせめてもの手向けになると信じていたのだろう。

「...ほむらちゃん。あなたたちの仇は必ずとります。どうかまどかちゃんと見守っていてください」

刀を持つ手が震える。
わかっている。これが、ほむらの生前の意志を穢すことになるのは。
嫌だ。やりたくない。
今まで躊躇いも無く行えたこの行為を、本能から拒否するかのように涙が流れてくる。
だが、やらなければならないのだ。
彼女の意志―――足立透を殺すという意志を継ぐために。
彼女が守った(と、発見現場から判断した)承太郎を守るために。
これ以上、大切なものを失わないために。

「――――――」

そして、涙と共に握られた刃は、初めてできた『友』へ振り下ろされた。


「こ、ここまでくれば...」

息を切らしながら、卯月はその足を止める。
未央や真姫、田村との戦闘により、卯月は"死"の実感を掴んだ。
殺し、殺されるということは、こういうことなんだと。
そして、セリューのように殺し合いに正面から立ち向かうには力が足りないことを自覚した彼女は、クローステールを駆使して田村からひたすらに逃げ回っていた。
疲労は随分溜まってしまったが、どうにかうまく撒けたようで、田村が追ってくる気配はない。

「でも...」

ここはどこだろう。
近くの施設にいてはすぐに見つかってしまう恐れがあるとふんだ卯月は、DIOの館を抜け、ただひたすらに動き回っていた。
勿論、セリューのように戦場に慣れていない卯月では、正確な方角などわかるはずもなく、そのうえ焦っていたのだ。
いまの自分の正確な位置など、わかるはずもなかった。

(あ...この辺り、見覚えがあるような...)

しかし、彼女の不安とは裏腹に、きょろきょろと辺りを見渡せば、そこは確かに見覚えのある風景。
果たしてここがどこだったか、皆目見当もつかずにあてもなくさまよい続ける。
そして、辿りついたのは崩落した線路。染みついた血痕。

(ここって...)

地図を確認してみる。
やっぱりだ。
ここは、足立透がほむらちゃんを殺したところだ。
無事、目的地に辿りつけたことにホッと胸を撫で下ろす。
これでセリューさんと合流できる。
南下する線路は崩れていたのは見えたが、少々の崩壊ならクローステールで乗り越えられるはずだ。
卯月は、早速線路を渡ることにした。

が、しかし。

「うーん...やっぱり駄目ですかね...」


いくら糸を伸ばしても、向かい側へと届く前に糸はその勢いを殺してしまう。
これではセリューのもとへ向かうことができない。

(このままだとセリューさんがこっちに渡る時に困るかも)

セリューはおそらく自分達を、卯月を心配してくれる。
そんな彼女に、東側から遠回りさせるのは申し訳が立たないし、下手に動けばすれ違うことになるかもしれない。
ならば、こちらからも渡れるようにしておいた方がいいだろう。

「えーっと...」

とはいうものの、そもそも、崩落した線路を繋げる道具など皆目見当もつかない。
なんでもありなこの空間だが、果たしてどうやって繋げればいいものか。

きょろきょろと辺りを見まわすと、ふと目に留まるのは駅員室。
ここなら何か手がかりが掴めるかもしれない。
そんな期待を込めて、卯月は駅員室の戸を開けた。

そこで見たものは

「あ...」

見たものは

「...ほむら、ちゃん」


「......」

血の匂いが充満する駅員室。
頭部を失った二つの遺体を、床に並べる。
そこに、まどかの身体にはまどかの、ほむらの身体にはほむらの頭部をできるだけ近づける。
遠くから見れば、首が切断されているなどとは思えないだろう。

「大丈夫、大丈夫ですよ」

ほむらは、最期まで手を伸ばし続けていた。その先にあったまどかの遺体に触れる寸前でこと切れていた。
最期は形だけでもまどかのもとで。それが、ほむらが望んだ願いなのだろう。
届かなかったほむらとまどかの掌を握らせて。
震えそうになる声で、それでも優しく語りかけられるように努めて笑顔を作り、セリューは二人の掌をそっと握る。

「もう、離ればなれにならなくていいんです」

わかっている。
ほむらもまどかももう死んでいる。
こんなことは無意味だ。ただの自己満足だ。
それでも、いまのセリューには必要だった。
度重なる無力な現実に打ちのめされ、いまにも崩れそうな正義を保つために。
セリューは、それほどまでに精神的にも肉体的にも追い詰められていた。

「...ごめんなさい、ほむらちゃん、まどかちゃん」

本当は、もっと丁寧に埋葬してあげたい。もっといい場所に連れていってあげたい。立派なお墓を立ててあげたい。
しかし、こうしている間にも承太郎やマスタング達は先に進んでいる。
埋葬している時間は、ない。

「あいつを殺して、みんなを守ったら、必ずここに戻って来ますから。もっと太陽が当たって、もっと気持ちいい場所に連れて行きますから」

そうして、自己満足に過ぎない約束を交わして彼女は二つの骸に背を向ける。
ほむらたちの形見ともいえるリボンは、持っていかない。
無力だった自分にはそれをつける資格がないから。
それが、自分への戒めでもあったから。

―――せめて、これ以上誰も彼女たちを傷つけないで。

そんな願いと共に、セリューは扉に手をかけて。
もう一度だけ、ほむらたちへと振り向いた。


駅員室の中にあった書類には、線路は破壊されても自動で修復されると記載されていた。
また、駅に付けられていた電光掲示板から、セリューのいる民宿のあるエリアからの線路は東西北全ての線路が壊されていることが判明した。
なぜ広川がこんな処置を施したのか...そんなことは彼女にとってどうでもよかった。
線路が壊れているということは、逆に言えば誰もあの場所には近づけないということ。
更に言えば、セリューの身の安全が保証されているということ。
セリューがあんな"悪"に負けるはずがない。マスタングを送りだしたということは、一人でも勝てる策があったということであり、あの爆発はキンブリーの最期の悪あがきだ。
片目を抉られても銃弾に撃たれても生きていた彼女が、あんなもので死ぬはずがない。
ならば、自分は自分にできることをやるだけだ。


「うーん。ちょっと小さいかも...」

脱ぎ捨てられた卯月の衣類。それに代わって彼女の身を包むのは、見滝原中学の制服。
もちろん、それは支給品などではなく、この場で調達したもの。
繋がれた手を解いて、死体から拝借したもの。
身長からいって、ほむらの方がまだ卯月に近かったが、生憎彼女は下半身を失ったことでスカートも服もほとんど消失しており、胸の部分も風穴が空いているためとても使用できる物ではなかった。
それに対して、まどかのものは大して傷ついておらず、血もほとんどついていない。きっと首の切り方がよかったのだろう。
そのため、わざわざ小さいまどかの制服を拝借しているのだ。

「着れないわけじゃないですし、ガマンガマン」

別に、卯月は服が破れて替わりが欲しいわけではない。
マスタングや田村からは警戒されている現状、こうして服だけでも変えておけば遠目からはわかりにくいはずだ。
自分の仕事仲間たちはもう誰もいないため、一目で卯月とわからなくてもなにも問題はない。
そうすれば、下手な不意打ちや奇襲を受ける可能性は格段に減るはずだ。

「あ、あとコレも」

ほむらとまどかの頭についているリボンを解き、自分の髪に結び付ける。

「うんしょ、うんしょ...できた!」

髪型はツインテールにして。
こうすれば、直接接触するまでは誰も自分を島村卯月とは思わないだろう。
兼ねてよりの髪型が崩れるのにはちょっぴり不満もあるが、正義の味方としてそんな程度のことも我慢できなければどうするというのだ。

「ほむらちゃん。私、いまならわかるんです。あの時、なぜ私が笑顔でいれたのか」

卯月は、物言わぬ骸に背を向けたまま語る。
卯月の言うあの時。
去ったほむらを追いかけたセリューと合流したあの時だ。

「私が笑顔でいれたのは、あなたが嫌いだからじゃありません」

ほむらが死んだことを理解したとき、卯月は悲しかった。
ほむらは悪でも敵でもなかったから。去る直前に、セリューだけでなく、こんな自分にも『ありがとう』と言ってくれたから。
南ことりや由比ヶ浜結衣とは違い、最後までセリュー【私】を否定しなかったから。
だから、卯月も涙を流すことが出来た。純粋に悲しむことができた。

ならば独占欲?
それも違う。
そもそもセリューの正義の果てにある理想は、自らの掲げる正義を否定する悪のない世界だ。
そこにいるのがセリューと卯月しかいないということはあってはならない。より多くの者に共感を得てこそ、セリュー【私】の正義は意味を為す。
ならば、セリューを否定しなかったほむらは共にあるべき存在だった。
失ってはならない存在だった。

ならば、なぜ?

「あの時、私は上っ面の言葉ではなく心で理解できたんです。こんな私でも、セリューさんの力になれるって」

ほむらの遺体を抱き、泣いていたセリューを抱きとめたのは、卯月だけだった。
未央はほむらの死やセリューに怯えているだけで何もしようとしなかった。
マスタングはよくわからなかったが、警戒心を抱いていたことだけは確かだった。
セリューの痛みも苦しみも悲しみも、全て正面から受け止めたのは島村卯月だけだった。

「誰にでもできることじゃない。セリューさんの正義を受け入れたからこそ、私は私なりに力になれると理解できたからです」

そこで、くるりと踵を返し、ほむらと向き合う卯月。
その瞳に、もはや悲しみなどない。

「ほむらちゃん。私、セリューさんと一緒にほむらちゃんの分も頑張りますから!」

そうして、卯月は用済みとなった駅員室をあとにする。
そして、扉に手をかけもう一度振り向いた。



まるで眠っているかのように、綺麗に整えられた二人の遺体。
セリューは、流れる涙も拭わず、懺悔するようにそれに告げた。

「力になれなくて、ごめんなさい」





死体など所詮は肉の塊だ。スクールアイドルも器量のいい女子高校生も魔法少女も関係ない。尊厳など無い。
解かれた掌はそのままで。脱がされた衣類も、転がる頭部も、気に掛ける必要などない。
卯月は、文字通り一片の曇りもない笑顔でそれに告げた。

「力になってくれて、ありがとう」


駅員室を出たところで、卯月はこれからのことを考える。

(セリューさんと合流した時にスムーズに執行できるよう、情報を整理しておかないと)

卯月は、名簿を取り出しペンで印をつけていく。

「DIO、悪。アンジュ、悪。サリアさん、正義」

セリュー【私】が悪と判断した者の名前の横に、悪党には『ア』の文字を。正義の味方には『セ』の文字を記入していく。

「高坂穂乃果、悪。小泉花陽、悪。アカメ、悪。ウェイブさん、せいg...」

ウェイブの名前でピタリとペンを止める。

(...ウェイブさんは、本当に正義でしょうか?)

ウェイブは、確かにイェーガーズの一員であり、セリューの仲間だ。
しかしセリューはこんな大変な目に遭っているというのに、彼はなにをしている?なぜ助けに来ない?
そもそもだ。ほむらが死にセリューが傷ついたのは、ウェイブがセリューを撃った高坂勢力の男に騙され手を組んだ挙句グリーフシードを持ってどこかへ行ってしまったせいだ。
そんな男が、仲間?赤の他人から聞かされた悪評一つで掌を返すような男が、仲間?
エンヴィーの疑いをかけたとはいえ、それを知ったうえでセリューと共に戦ったマスタングの方がまだ仲間と言えるだろう。

(いいえ、そもそもウェイブさんは本当に仲間だったのでしょうか)

セリュー属するイェーガーズも正義の味方とはいえ一組織だ。
もし、自分と未央のように仕事上で、たまたま居合わせただけの、作られた関係なら。
悪評一つで立場をころころと変える程度にしか信頼していないのなら。
セリューがピンチでも助けにも来ないで、わが身かわいさに平気で悪と共謀するような男なら。

(仲間とは、いえませんよね)

とはいえ、彼を悪と断定するにはまだはやい。
西木野真姫のように、直接会わないとわからないこともある。
だが、もし彼が本当に悪に染まり、セリュー【私】を、私たちの正義を否定しようものなら。
その時は、私が、島村卯月が彼を執行しよう。



その後も順々に名簿に印をつけていく。
覚えている限りの名前は確認し終えたが、その中でも、マスタングと雪ノ下雪乃は判断に困った。
マスタングは、疑心暗鬼だったとはいえ、ウェイブ達から悪評を吹き込まれてもセリューを裏切りも見捨てもしなかった。共に戦い、卯月たちも守ってくれた。未央を殺した現場に現れたのも、セリューに様子を見てくるように頼まれたからだろう。
あの時はとっさに逃げてしまったが、未央を殺した事情を話せば味方についてくれるかもしれない。戦闘力の高い彼が味方につけば、セリュー【私】の負担はかなり減るだろう。
雪ノ下雪乃は、由比ヶ浜結衣の友達らしい。μ'sの例もあるため、悪の可能性は高いが、比企谷八幡という少年のように、悪党の切り捨て対象になっているだけかもしれない。ならば、セリュー【私】の保護対象となる。
だから、ウェイブを含めた三人。特にマスタングに関してはしっかりと見極めなければならない。
それが、セリュー【私】の正義のためだから。


「んー...まだ線路は直らなさそうですね」

電光掲示板から見る限り、線路が修復するまではまだ時間がかかりそうだ。
ならば、ただ待っているのも勿体ない。

(できれば、いまのうちにコレの練習をしたいですけど...)


この、幾度も卯月を護ってくれた帝具『クローステール』。
それなりには使えているものの、完全に使いこなしているとは到底言えない。
西木野真姫に対してもそうだったが、一瞬で人体を切断することはできなかった。
田村怜子相手には、おそらくこのままでは通用しない。
せめて、どの程度の力でどこまで斬れるかを理解するべきだろう。
そのための練習台は...

「あっ、そうだ」

どうせ練習するなら、より人間に近いもののほうがいいだろう。
所詮死体は死体だ。放置するよりもこっちの方がいい。
卯月は、再び駅員室の戸を開けた。




【D-6/駅員室/一日目/夕方】

※線路は自動修復されています。どの程度で修復が完了するかは他の書き手の方にお願いします。


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(大)
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!  まどかの見滝原の制服、まどかのリボン、髪型:ツインテール
[道具]:ディバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:島村卯月っ、笑顔と正義で頑張りますっ!!
0:線路の修復が完了次第、セリューのもとへと向かう。
1:高坂穂乃果の首を手に入れる。
2:高坂勢力、及びμ'sを倒す。
3:田村玲子に対する恐怖を克服できるように強くなりたい。そのために、少し休憩した後、まどかとほむら【ふたつの死体】でクローステールの『練習』をする。

[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※本田未央は自分が殺したと思っています。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。

『悪』:高坂穂乃果、白井黒子、小泉花陽、アカメ、泉新一、田村怜子、後藤、足立透、キング・ブラッドレイ、セリム・ブラッドレイ、エンヴィー、キンブリー、魏志軍、アンジュ、槙島聖護、DIO、セリューを撃った高坂勢力の男(名前は知らない)
『正義』:エスデス、ヒースクリフ、ほむらの友達(佐倉杏子、美樹さやか)、サリア、エンブリヲ
『保留』:マスタング、雪ノ下雪乃、ウェイブ




149:NO EXIT ORION 島村卯月 156:ずっといっしょだよ

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最終更新:2016年01月12日 23:01