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寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB.



ひゅうひゅうと、かぜを切るような音がする。
タスクの掠れた呼吸だ。
全身をなます切りにされ、とめどなく血を流している。
その手のデスガンの刺剣は、更に切っ先を短くされている。
だが、それでも。
執行官から受け継いだ牙は、仲間を護るための殺意の牙は、未だ折れていない。

ブラッドレイは剣を構え、改めてタスクと向き合う。

実力差があろうとも、決して退かず喰らいつく執念。
絶望的な状況に陥ろうとも、諦めなどとは程遠いその眼光。
見事なり。
改めて認めよう。
きみを、強敵だと。
だからこそ。
全力を持って、きみを殺そう。

ブラッドレイが駆ける。
タスクを屠るために振るわれるカゲミツを受け止めたデスガンの刺剣は、しかしタスクごと弾かれ、その衝撃により落としてしまう。
もはやなすすべもない。
タスクには、ブラッドレイの追撃を躱す力はなく、ブラッドレイもまた、彼を見逃すつもりはない。

(ここまでか...)

振るわれるカゲミツG4。その脇で、タスクの右腕は自然と動いていた。
無意識の内に、ポケットにある物を握りしめていた右手は、盾のようにかざされた。
だが、それも先程の新一のように、諸共斬り捨てられる

「!?」

はずだった。
カゲミツの刃が、タスクの手に触れる寸前に消えたのだ。

タスクが右手にかざしていたのは、首輪。
首輪に備えられている異能の弱体化機能が、カゲミツを異能だと判断し、消し去ったのだ。
無論、タスクはまだ首輪のその機能について知っていたわけではない。
ただ、気が付けば首輪をかざしていたのだ。

――――食らいつけ。

彼の声が聞こえる。
首を落とした時と、同じ声が。


――――お前の執念で、奴らの喉笛を引き裂いてやれ。

例え幻聴でも。
その言葉が、限界を迎えつつあるタスクの身体に力を与える。

「うおおおおおお!!」

吼える。
ただ、己を鼓舞するためだけに。

狡噛の首輪ごと握りしめた拳が、ブラッドレイの左ほほを―――

「―――見事」

捉えることはなかった。


その言葉と同時に、タスクの身体は宙を舞い、遙か遠くに投げ捨てられた。
全ての力を使い果たしたタスクに、受け身をとる余裕などあるはずもなく、木にぶつかると同時に意識は途絶えてしまう。

執行官の託した牙がブラッドレイに届くことは―――なかった。

「さて。残るはきみだけだが」

倒れたタスクを庇うように立つ雪乃を睨みつける。
その鋭い眼光に脚が震えるが、しかし無理矢理奮い立たせるようにショットガンを構え、睨み返す。

なにもできなかった。
ただ、アカメが、新一が、タスクが傷つき倒れていくのを見ていることしかできなかった。
自分は無力だ。どうしようもないほどに弱者だ。
だが、それでも一矢報いるくらいはやってやる。
弱者には弱者の意地があるのだ。


「そういえば、由比ヶ浜くんもそうやってそれを構えていたな」

ふと呟かれたブラッドレイの言葉。
それは、雪乃の友、由比ヶ浜結衣がこの銃を使っていたという事実だった。
もしかして、比企谷の時と違い、今まで狙いを外していないのは彼女が見守ってくれているお蔭か―――
非科学的だと思いつつも、何故だかそれを否定する気にはなれなかった。
むしろ、震えていた身体が収まった気すらする。

「そう。わざわざ教えてくれるなんて随分余裕があるのね。ナメてるのかしら」
「...フフッ。言いよるわ」

薄く笑みを零しつつ、ブラッドレイは走りだし、雪乃は引き金を握り絞める。

(まだ...まだ、ダメ...!)

このまま撃ったところで、ただ躱されるだけなのは既に証明済だ。
狙うのは、躱す暇のないゼロ距離射撃。
それしかない。

そして、その時はすぐに来た。

(いまだ!)

目の前にまでブラッドレイが迫ったその時、引き金にかける指に力を込め。

スッ。

微かに空気が揺れたかと思えば、ショットガンの銃身が綺麗に裂け、雪乃の胸元から血が滲み出る。
彼女の傷は大したことはない。薄皮が一枚斬られた程度だ。
だが、もうどうすることもできない。



「なにか残す言葉はあるかね」

ブラッドレイの剣先が、雪乃の心臓部へと向けられる。
仲間も武器も、全て奪われてしまった。
言葉を発した数秒後、雪ノ下雪乃は死ぬ。
それは覆しようのない未来だ。



「...お笑いね、キング・ブラッドレイ」

それでも、雪ノ下雪乃の辞書に屈服という文字はない。

「そうやって大物ぶったところでみっともないだけ。考え無しに戦うことを選んだ時点であなたの敗北は決まってるのよ」

転んでもただでは起きない。やられてなくてもやり返す。それが彼女のやり方だ。

「知らないのかしら。古今東西、怪物とされる者は決まって人間に淘汰されるのが運命なのよ。いえ、あなたを怪物と定義するのは怪物に失礼ね」

正々堂々、真正面から、尊大に、直球に。

「楽しみに待ってるわ、あなたが敗れ去るその姿を見るのをね。その時が来るのを、精々怯えて待っていることね、猛禽類さん」

ここで命が尽きるというのなら、最後まで彼女らしくあるだけだ。


―――あんたたちなんかに、絶対に負けないから。

ふと、渋谷凛の言葉を思いだす。
怯えるだけの存在だった彼女が、最期に放った煌めきを。

雪乃の言葉を待ったのも、油断からくるものなどではない。
雪乃もまた強敵だと認めているからこそ、最期の言葉を聞いておきたかったのだ。


(まったく、人間というやつは...)

いつまでも成長しない哀れな生き物かと思えば、彼女のように僅かな時間で恐怖を乗り越え成長してみせる者もいる。
いや、彼女だけではない。
エドワード・エルリックやロイ・マスタング。アカメや新一、タスク。そして雪乃。この会場で出会った多くの者がそうだ。
ちっぽけな存在でも、ホムンクルスを脅かしうる強さを持っている。
だからこそ

(思い通りにならなくて腹が立つ)

嫌いにはなれない。








「まだ終わっちゃいねえんだよ!!!」



―――時は僅かに遡る。


『オイ、しっかりしろ!』

倒れ伏すアカメにアヌビスは呼びかける。
アカメが死ねば、アヌビスはこのまま放置されてしまう。
せっかくコンサートホールから脱出できたというのにこの結末は勘弁したい。

(だからってあのおっさんに使われるのも嫌だしよぉ...)

キング・ブラッドレイは怪物である。
そんな彼とこの殺し合いに臨めば、その先に待つのは破滅だけ。
そもそも、彼がアヌビスを持ち去ってくれる可能性も高くは無い。

アヌビスが望む最高の形は、アカメが目を覚まし、この場から無事に逃げおおせることだ。

『チックショウ、このままじゃあ...!』
『アヌビス』

かけられた声に、意識を向ける。
声の主は、いつの間にかアヌビスに触れていたミギーだった。

『生き残りたいのなら、落ち着いて私のいう事を聞け』
『な、なんだよ。何か策があるのか?』
『まずはお前の透過能力でアカメの身体から出てくれ』
『待てよ、そんなことしたら』
『いいから』

アヌビスがこのままアカメの身体から抜ければ、多量出血でたちまちに死に至る。
それがわからないミギーではない。
だが、そのミギーがそうしろというのなら、なにか考えがあるはずだ。
この場はミギーの言葉を信じ、アヌビスは透過能力を発動―――しようとするが、使えない。

『だ、ダメだ...たぶんあの制限って奴だ。透過能力が使えねえ』
『...仕方ない。こうなれば、アカメの生命力に賭けるしかない』

ミギーは、アヌビスに手を添えアカメの身体から抜き取ることだけに意識を集中させる。
そして。
一切のブレなく刀は一気に引き抜かれ、アカメの身体にこれ以上の傷が増えることなくアヌビスが抜けた。

『おい、どうすんだよこの後は!?』
『アカメの心臓へと移動し、傷を塞ぐ。そのためにはきみが邪魔だった』
『な、なんだ。そういうことか』

ミギーの言葉に、ホッとするアヌビス。
どうやるかはわからないが、ミギーはアカメを治療してくれるらしい。
あとはタスクたちが時間を稼いでいる間に、アカメをどうにか起こし説得してこの場から退散するだけだ。
いや、なんならミギーの宿主である新一でもいい。
とにかくいまは―――

(あれっ)

アヌビスが新一の方へと意識を向けるが、彼の傷はそのままで倒れ伏している。ピクリとも動かない。
彼はミギーの宿主だ。
何故ミギーはこちらに来ている。

『お前、新一は―――』
『アヌビス』

その答えをアヌビスが知る前に。

『後は頼んだぞ』

ミギーは、アカメの手にアヌビスを握らせ、彼女の傷口へと入っていった。




ミギーの背中が遠ざかっていく。


(これで、いいんだよな)

傷が酷いのは、アカメよりも俺。
俺たちの中で一番戦えるのは、アカメ。
だったら、どちらが生き残るべきかは考えるまでもない。

(...ミギー)

ミギー。
あいつは、自分の自我が無くなってしまうリスクを捨ててでも、俺を助けようとしてくれた。
「俺はいい、アカメを頼む」って言ったら、珍しく動揺したみたいに「馬鹿を言うな」って叱ってくれた。
でも、ミギーもわかっていたはずだ。
俺よりもアカメを治した方がみんなの生存率があがるって。
それでも助けようとしてくれたのは嬉しかった。
けど、俺は言った。掠れた、けれどあいつに届くくらいの声で言った。
このままだと全員共倒れになるから。話す時間も惜しいから。
「なにやってんだ、このまぬけ!はやくいけ!」...って。

それから少しの間だけ見つめ合って、ミギーはアカメのもとへ向かうために背を向けた。

遠ざかっていく背中を見つめていると、どこか救われたような、寂しくなるような、申し訳なくなるような。
そんな奇妙な気持ちになった。
...比企谷や巴たちも、こんな気持ちだったのかな。

そして。

ミギーがアカメの身体へ入っていくのを見届けると、走馬灯のように、色々な思い出が瞬く間に流れていく。

母さんが、俺のドジで落ちてきた鉄鍋から庇ってくれたこと。
それを呆然と見ていた俺を父さんが静かに叱ってくれたこと。
俺が恋した村野里美のこと。
学校の友達のこと。
俺と同じ境遇になった宇田さんと出会ったこと。


死んだはずの田村怜子が、俺たちの味方として生き返っていたこと。
アカメや雪乃、タスク達と出会えたこと。

不思議と、俺にとって辛いことはほとんど出てこなかった。

それから。
加奈の、比企谷の、巴の、園田の、サリアの、狡噛の、槙島の最期の姿がよぎると。
ああ、俺ももうすぐそうなるんだなとぼんやりと思った。

そして。
最後に頭をよぎるのは、俺の友達で、本当のヒーローのことだった。

(さようならミギー、これでお別れだ)

ミギー。
お前に出会えてよかったよ。

おかげで友達として...いろいろな楽しい...思い出を...

......



意識が薄れてきた...

妙に眠い...

それなのに孤独感だけがくっきりと大きく...


そうか...



これが...死か...





もう二度とやることはないと思っていた。
何故ならこれは私の意思が無くなる、即ち私という個が消滅してしまうリスクの高い行為だからだ。
だが、それでも私はシンイチを、この場の誰かを治せるのならそれでも構わないと思っていた。
これが自己犠牲というやつなのだろう。
...以前はとんと理解できなかったが、いまならなんとなく理解できる。
すべての終わりが告げられても、「ああ、そうか」と思うだけだ。

今まで、生きるためにはどんな手段でも考えたが、不思議と私はこの最期に不満はない。


『なにやってんだ、このまぬけ!はやくいけ!』


それでも。
シンイチ、そうするしかなかったとしても、正しい答えだったとしても。
きみに拒否されたことだけは辛かったぞ。

もし逆の立場だった時、きみもそうだったら...少し嬉しいな。

......

...意識が朦朧としてきた。
傷は塞げたが...それだけだ。
とても...彼女の意識が戻るまでに...完治は...

あとは...彼女に...賭けるしか...

......








―――改めて約束する。俺は死なねえから!!お前を悲しませたりしねぇから!!

声が聞こえる。

いつかの約束の声が。

「ごめんな...約束、護れなかった」



振り返ると、そこは真っ白の景色だった。

そこには、色んな人たちがいた。

帝都の見習い時代での仲間たち。

シェーレやブラート、ナイトレイドの仲間たち。

私の最愛の妹、クロメ。

そして―――タツミ。

私の大好きな人たちは、私へと微笑みかけながら、迷わずまっすぐに進んでいた。
なぁんだ、こんなに近くにいたんだ。
私は、彼らに触れようと手を伸ばして。


『...アカメ』

また声が聞こえた。
今度はタツミじゃない。
誰だろう。

わからない。
だけど、いかなくちゃいけない。
でも、みんなとも一緒にいたい。
そんな想いの板挟みになった私は。

「まだこっちにはくるなよ、アカメ」

タツミのその言葉で、全てを思い出す。
そうだ。私は、まだ彼らと会うわけにはいかない。
大好きなみんなに背を向け、血なまぐさい道へと突き進む。

だって

「おまえは」

私は


一人じゃ、ないから。



ひたすらに道を進んでいると、掌に収まりそうなほど小さな光がふわふわと舞い降りてきた。
私は、それをそっと掌で受け止め―――


『後は頼んだぞ、アカメ』




『気が付いたか!』

アヌビス神のやかましい声が、アカメのみに響き渡る。
意識を取り戻したアカメは真っ先に行ったのは、状況の確認。

血だまりに沈む新一。
ショットガンを構えつつ、援護のタイミングを見測る雪乃。
そして、いまもなお、一人で奮闘するタスク。

ならば、為すべきことはただ一つ。

アヌビスを地面に突き立て、杖代わりに立ち上がろうと力を込める。

『た、戦うつもりかよ』
「当然だ。そのために、私は...」
『無茶だ!まだ傷が塞がっただけだ、治ったわけじゃねえ!』

アヌビスの言葉に、アカメは貫かれたはずの胸に触れてみる。
まだ痛みは残っているが、傷は確かに塞がっていた。
なぜ?誰が?
この状況で動ける者は誰もいない。―――『彼』を除いて。
その『彼』は、どこにもいない。

(まさか―――)

どうやって傷を塞いだか、なんてことは知らない。
わかることは一つ。
『彼』は、その身を賭してアカメの命を救ったのだ。

『あ、あいつらには悪いけどよ、いまはチャンスだ。タスク達に気をとられている内に、どうにかして逃げ...』
「アヌビス」

言葉にして確認する。
アカメを救ってくれた友を。その喪失を。

「私を救ってくれたのは、新一とミギーなんだな」
『あ、ああ...』

死んだ。
護ると決めた心優しい少年たちは、自分のために命を落とした。

辛い。苦しい。逃げたい。泣きたい。
何度経験しても慣れないこの現実から目を背けられればどれほど楽だろうか。



「だったら、尚更退くわけにはいかない」

だが、それでも。
アカメの剣は護るためにある。
そのために己の手を汚す。
友が命を繋いでくれたなら、その命をもって友を救う。
タスクと雪乃が命を賭けて時間を稼いでくれたから、ミギーがアカメを治療する時間が作れた。
新一とミギーが生かしてくれたから、こうしてアカメは息を吹き返している。
皆が与えてくれた命は、決して無駄にはしない。
だからこそ、退くわけにはいかない。


(なんだってんだよ...)

アヌビスは思う。
どうしてこいつらはこうも諦めずにいられるのか。
どうしてここまでして他者のために戦えるのか。

わかっていることはひとつ。

(情けねえじゃねえかよ、ちくしょう...!)

このままでは、アヌビスはただの負け犬だということだけだ。


ブラッドレイと戦って、自分はなにができた。一度声を挙げただけだ。
その圧倒的な力に屈服するどころか、目を逸らして逃げたいとまでビビリあがった。
幾多の猛者に、肥大する力の恐怖を植え付けてきたこのアヌビス神がだ。
いざ敵わない敵に出会えば、己の与えてきた力に身を晒されれば、こうまでちっぽけなものになってしまうのか。

負け犬の称号すら惜しい。
いまここにいるのは喋るだけのガラクタだ。
この場の誰よりも劣る鉄クズだ。

そんな事実―――認めてなるものか。

俺を誰だと思っている。
五百年の時を生きてきたアヌビス神様だ!
その俺がDIO様ほどの力も持たない青臭いガキ共以下だと!?
そんなこと、絶対に、絶対に、ぜっ~~~~~~対に!許さなああああぁぁぁいィ!


『...俺に身体を渡せ』
「アヌビス?」
『てめえが闘るっつったんだからな!内臓飛び出ようが力尽きてなます切りにされようがコキ使ってやるって言ってんだ!』

その言葉に思わずアカメはキョトンとしてしまう。
先程までの怯えきった態度はどこへ行ってしまったのか。
だが、力を貸してくれるというのなら。
もう一度チャンスを与えてくれるというのなら、喜んで身を捧げよう。

「...頼んだぞ、アヌビス」

その言葉と共に、アカメの目の色が変わる。

死にかけの身体などと感じさせないほどに力強く、彼女の足は地面を蹴った。



―――そして、現在。



「ウッシャアアアアァァァ!!」

雄叫びと共に振るわれる剣を、ブラッドレイは振り向き様に捌く。
舌打ちを交えつつ放たれる蹴りは、咄嗟に飛び退いたアカメの腹部を軽く押すだけに留まり、充分な威力を持たせられない。

「いまの攻撃...覚えたぞ」

アカメは僅かに空いた距離を即座に詰め、ブラッドレイとの鍔競り合いに臨む。

「むうっ...!?」

死人同然のはずのアカメの剣の重さに、鋭さに思わず困惑の色を浮かべる。
この瞬間、一瞬だけだがブラッドレイは純粋に力で押されてしまう。

ブラッドレイは上体をのけ反らし、バク転の用量でアカメの腹部へと蹴りをいれる。
アカメは咄嗟に右腕を挟み込むことでダメージを軽減。
吹きとばされる勢いのまま、雪乃のもとへと着地する。

「アカメさん...?」
「...雪ノ下。てめえはそこの死にぞこない連れてとっとと逃げろ」

普段のアカメとは似ても似つかない口調により、雪乃は理解した。
妖刀アヌビス神、彼がアカメの身体を操っているのだと。
イマイチ信用はおけなかった彼だが、いまは味方として戦ってくれるらしい。
だが。

「あなたを置いて逃げられないわ。それに泉くんは」
「死んだよ。こいつを生かすためにな」

アヌビスの告白に、雪乃は息をのむ。
そして、嫌でも思い出してしまう。
比企谷を、由比ヶ浜を、戸塚を喪ってしまった時のあの感覚を。
まただ。また、頭の中が―――

「何遍も言わせんな!さっさと逃げろって言ってんのがわからねーのか、このトンチキが!」

再び思考が停止しそうになった雪乃へ、自身の持つ支給品一式を投げ渡すと共にアヌビスは一喝する。

その言葉が、雪乃の思考を、視界を全てクリアにしていく。
そうだ。どんなに苦しくても、現実から逃げ出したくても。
足を止めることは決して許されないのだ。


「...アカメさん」

タスクをデイバックに詰めながら、雪乃は告げる。
悲しみも、己の無力さも、全てを詰め込んで。
けれど。
この別れを最後にしないために、ただ一言だけ。

「また会いましょう」

そして、雪ノ下雪乃は走りだす。
もう彼女は振り返らない。
一秒でも早く友を救うために、ただ走りだす。

―――当然だ。

その背中にかけられた声は、彼女たちのどちらのものだったのだろうか。




「逃がさんよ」

ブラッドレイにとっては、雪乃もまた強敵の一人である。
だが、この会場は未だに強者犇めく孤独の壺。
いつ果てるともしれぬこの身で、ここで彼女を逃がせば再び会えるやもわからない。
故に、逃がしたくはない。


「てめえの相手はこのアヌビス様だ!」

アヌビスがブラッドレイに斬りかかり追跡を防ぐ。
またもや鍔迫り合いになり、次いで刀同士の打ち合いへと変わる。
その最中に覚えた奇妙な感覚と違和感。

(パワーが増している...!)

この死にぞこないの身体のどこにそんな力が隠されているというのか。
いや、違う。
あの刀に触れていた時、一瞬だけ響いた声。
イリヤや美遊が使っていたステッキのように、あの刀も意思をもっているのではないか?

そしてなにより、いまのアカメの斬撃は、ブラッドレイの力に比例して強さを増している...!

ギィン、と甲高い音が鳴り、ブラッドレイとアカメ、両者の距離が離れる。

「...立ち塞がるのは私の剣ということか」

間違いない。
いまのアカメ―――いや、あの刀は、ブラッドレイの攻撃の強さを、太刀筋を全て学習し成長している。
先程の攻防でそれを確信していた。

「面白い。受けてたとう」

だが、それが彼の心を折ることなどない。
むしろ逆だ。
己の剣を相手にするという、シンプル且つこれ以上ない壁に、彼の闘争心には火が点いていた。



「...このアヌビス神は、戦えば戦うほど強くなる」

アヌビス神の勝機は零である。
本来の力を発揮できればまだわからなかったかもしれない。
だが、いまのアヌビス神が、アカメの身体を操れるのは、十分。
ブラッドレイの攻撃を学習できる時間は最大で五分。
いや、それ以上に、アカメ自身の身体がそこまでもたない可能性も充分に高い。

加えて、ブラッドレイもまた窮地に陥れば陥る程その剣の鋭さが増す男である。
生身である以上、限度はあるかもしれない。
だが、未だ彼の底は見えていない。

互いに喰い合えば、先に果てるのはアヌビス神であるのは明白だ。

「だから、俺に負けはない」
『そうだ。私は、決して負けるわけにはいかない』


だが、それはアヌビス一人の場合だ。
アカメとアヌビス。
二人が協力すれば、勝機は必ず生まれる。

「そう!俺たちは、絶対に、絶対に」

だからこそ、吼える。
これは予言だ。
キング・ブラッドレイの死は絶対だという、覆しようのない未来だ。

「ぜぇ~~~~~~~ったいに、負けなぁぁぁあぁああぁぁい!!」


月夜が照らす中、咆哮と共に白刃が煌めく。

最早名もなき一人の老兵か。
友から想いを託された少女と魔性の刀か。

果たして勝者は―――――





【泉新一@寄生獣 セイの格率 死亡】
【ミギー@寄生獣 セイの格率 アカメの身体に同化】




【C-1/病院付近/二日目/深夜】

※デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)が付近に落ちています。
※泉新一の死体が付近に放置されています。


【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、出血(中)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済)、腹部より出血(中)、左目にダメージ(中)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:とにかく楽しめる戦いをしたい。
0:何者にも縛られず、己のためだけに戦い続ける。なんとも心地よいものか。
1:アカメと戦う。
2:最後の枷(エドワード)に決着を着ける。
3:御坂との休戦を破棄する。一刻も早く強者と戦いたい。
4:弱者に興味はない。


[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情がむき出しています。
※糸(クローステール)が賢者の石で出来ていることを確認しました。
※放送をほとんど聞けていません



【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕、仲間を失った精神的ダメージ(極大) 、胸の傷が塞がった跡
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:サリアのナイフ
[思考]
基本:悪を斬る。
0:ブラッドレイを葬る。
1:新一...ミギー...タツミ...!
2:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
3:村雨を取り戻したい。
4:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂と足立は次こそ必ず葬る。

[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※ミギーがアカメの身体に同化し、心臓の傷が塞がりました。
※現在、アヌビス神が身体を操っていますが、意識ははっきりとしています

【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
0:やってやる、やってやるよチクショウ!


※500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の二つになります。
  • 一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
  • 精神を乗っ取る

※アヌビス神の制約は以下の通りです
  • アヌビスが精神を乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
  • アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
  • 精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。その10分間は身体の所有者はアヌビス神の精神を押しのけることはできない。ただし、アヌビスの意思で使用者の精神を戻すことは可能。
  • 通り抜ける力は使用不可。
  • 最初の学習から一定時間(約5分)を過ぎると、それまで覚えたパワーを忘れ、最初の強さに戻ってしまう。
  • 首輪が鍔の部分についており、無理に外そうとすると爆発する。首輪ランクは3。
  • 折れた刀身にはアヌビスは宿らない。
  • 覚える能力のON/OFFは可能。OFFにした場合、最初の強さに戻ってしまう。

※参戦時期はチャカが手にする前です




【C-1/二日目/深夜】




【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小)
[装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0~1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:この場から離れ、アカメの助っ人の探索及びタスクの治療をする。
2:泉くん、アカメさん...!

[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(超極大)、ダメージ(超極大) 、出血(絶大)、アンジュと狡噛の死のショック(超絶大)、狡噛の死に対する自責の念(超絶大)、後悔(超絶大)、気絶
[装備]:刃の予備@マスタング製×1
[道具]:基本支給品、前川みくの首輪 、狡噛の首輪
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:......
1:アンジュを探し、弔いたい。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:御坂美琴、DIOを警戒。
5:エドワードから預かった首輪を解析したい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。

※変わり身の術は連続しては使えません。また、体力を大幅に消耗します。





186:息もできないほど責めたてる現実に アカメ 193:アカメが斬る(前編)
泉新一 GAME OVER
雪ノ下雪乃 193:アカメが斬る(前編)
タスク
179:WILD CHALLENGER(前編) キング・ブラッドレイ

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最終更新:2016年10月25日 09:51