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決死夜行、されど真実に手は届かず◆BEQBTq4Ltk


 きっかけとは時に困難であると感じる――そう思うのは佐倉杏子
 マオと別れ、来た道を戻りタスク達と合流を図ろうとする彼女の心の中で一つの議題が上がっていた。

 煙草を咥えてからというものの、どうにも過去を振り返ろうとする気持ちに理解を示せないでいた。
 まるで全てが終わったような感覚に包まれるようだった。何も決着の時を迎えていないというのにセンチな感情になっている。
 理由は理解しているつもりだ。認めるも何もそれ程までにノーベンバー11の存在が殺し合いに於いて描かれた出会いと別れに比重を置いているのだろう。

 佐倉杏子にとって巴マミは偉大な存在であった。参加者の一人として招かれ、放送で別れを告げられた大切な人。
 彼女の死に流れる涙は本物だった。喧嘩別れに近い決別から仲を戻すことなく逝ってしまった。言葉を伝えられなかった過去の自分に哀れの刃を突き立てる。
 少しでも寄り添っていれば、きっかけさえ掴めていればこんな別れにはなっていなかったかもしれない。たられば論に過ぎないかもしれないが、そんなものはどうでもいい。
 失ってから初めて気付く――などという淡い言葉は魔法少女の契約を結んだ時点で気付いていた筈だ。遅れている、遅れているのだ。佐倉杏子は遅れている。
 大切な人がこの世を去り、自分だけがのうのうと生き残る。巴マミのように、ノーベンバー11のように、ジョセフのように、田村玲子のように、ウェイブのように。

 己の弱さが招いた結果である。無論、全ての責任が彼女にある訳でも無く、寧ろ、責任など零に等しいだろう。
 しかしだ。多くの仲間は己と別れてから死んでいる事実が偶然であろうと彼女を苦しめる。まるで疫病神のようだと。己は他人に死を告げる冥界の案内人だと。
 所詮はくだらぬ自称であり哀れな自嗤である。そのような事実は真一つに存在せず、思い込みが現実に侵食しているに過ぎない。
 それでも中学生である彼女にとっては十分過ぎる重縛となって身体を想いを最下部へ固定する。

 独りで居る方が楽である。
 元々がそうだったのだ。家族と別れ、巴マミと別れた後の生活に気苦しいことなど無かっただろう。
 住む場所は廃墟を使えば誰にも迷惑を掛けない。ホテルへ侵入しても気付かれなかれば問題などあるものか。
 衣食住全てに於いて困ることはあれど諦めることは無かった。この晴天に見えて地平線の果てまで淀んでいる世界でさえも困らなかった。

 それでも、心の隙間を埋めることは不可能だった。

 他人の暖かさを求める衝動を抑えることなど少女である彼女には無理な話。
 触れ合うことで得る心を知っていて、なのに感じることが出来ずに、知人ばかりが離れて行く。
 家族が亡くなり巴マミと別れた時点で彼女に気を許せる他人などこの世に存在していない。心の隙間など元から埋めるなどと――不可能。

殺し合いに於いても独りで生きてきた彼女――いや、仲間がいた。
 失う者もいるが、生きている者もいる。彼女は決して独りじゃない。


「――で、どちらさんだい?」


 少々……と称するには厳しい程にセンチメンタルな気分に浸っていたが、その間にも時計の針は動き続ける。
 仲間との合流を一番に掲げているものの、襲来する人物が現れれば足を止ざるを得ない。最も襲来とは限らず新たな仲間の可能性もある。
 北西を向けば時計塔が確認でき、更に北寄りへ瞳を動かせば病院を捉える。タスク達は文字通り目と鼻の先だろうが、寄り付く害虫を駆除しなくてはならない。
 害虫――勝手に判断しているが、この男から感じるのは碌でもないものだと彼女の本能が告げていた。

「どちらさん……ねぇ。名簿上の記載じゃ足立透って名前だけど」

 と、名乗った男に対する佐倉杏子の評価は二つ。
 一つにこの状況で隠れることも無く堂々と名乗り出る度胸は見上げたものがある。
 そしてもう一つ、生命の危険を顧みずに我が道を行くように振る舞う人間は仮に正義の味方だとしても、何かしらの欠陥があることだ。

「足立……雪ノ下が言ってた名前……っ!」

 評価を下すまでもなく目の前の男に対するスタンスは決定した。
 スーツ姿に若干だが頼り無さそうな雰囲気を醸し出す男。油断することなく魂の煌めきが佐倉杏子を包み――魔法少女が顕現する。

「雪ノ下……へえ、生きてたんだね。じゃあ生き残りってのは案外もう分かりそうな――げっ……げえ!?」

 薄ら笑いを浮かべ背伸びをするように誇張した少女を見ていた足立透だが、急速に顔色が悪くなる。
 唇が青く、肌は白い。彼にとってもう見ることも無いだろうと思っていたあの存在が再び目の前に立ってしまった。
 彼の予定としては佐倉杏子から情報を聞き取り次第殺す――筈だったが、狂うようだ。あの生き残りを見つけてしまった。
 恨みがある訳でも無い。とりわけ佐倉杏子本人に対するそれは無に等しい。言ってしまえば八つ当たりがこれから始まるのだ。
 足立透にとって地獄と絶望の象徴たる魔法少女が邪魔をするならば、殺す他の手段などあるまい。

「……これだから嫌なんだよ、夢見がちなガキは」

 ペルソナ――と魔法少女に届かないように呟く。すると足立透の周囲に顕現するは己の仮面でありもう一人の自分たる存在、マガツイザナギ。

「スタンド使いかよ……いや、大きい!?」
「俺をあんな奴と一緒にするなよ」

 人間体よりも二回り程かそれ以上に大きいペルソナが振るう刃から発生する衝撃。
 大気を振動させる疾風は大地に立つ足を吹き飛ばすが如く佐倉杏子に襲い掛かる。これに対し槍を地中に突き刺すことによって耐え凌ぐ。
 瞳を開けるのも困難な状況であるが戦場にて標的から視線を外すことは死に直結する。故に対象を見続けるのだが、ペルソナは上空に移動していた。


 振り下ろされる刀を回避するために後方へ跳んだ彼女は槍を握り直し、着地と同時に大地を蹴り上げるように接近を行う。
 獲物の大きさからリーチは相手が上だ。懐に飛び込み身体の小ささを活かす戦闘を仕掛けるが、流石に読まれていた。
「へっ、吹き飛びな……!」
 ぐるりと禍津が獲物を振るう。小規模の台風が発生したかのような風圧が佐倉杏子を包み込み、彼女の身体は空中に打ち上げられた。
「やば……来る」
 空中での身動きが取れない彼女に対しペルソナはお構いなしに空を自在に駆け回り、彼女の真上に到達すると刃を振り下ろす。
 単純な重さの差により、強力な一撃を受け止める――ことを外し受け流すことを選択。佐倉杏子は槍を分解し多節棍へ変形させる。
 衝突による衝撃を持ち手に一点集中させることなく後方へ受け流すことに成功すると、その勢いを利用して彼女は地上へ槍先を投擲するように腕を奮った。
「届け……届いた」
 槍先が地上に届いたことを目視すると握る鎖を己に引き寄せ――加速する。
 空中で身動きが取れないならば、地上と接点を持つことにより移動すればよい。大地へ急降下を行うことによりペルソナの範囲から離脱する。しかし

「甘いねえ……意表を突いたつもりだけど、それぐらいならもう驚かないわ」

 空中で加速する佐倉杏子にリアクションを取ることもなく、無造作だ。
 特に感想を抱かず、慣れたルーチンのようにペルソナを地上へ顕現させ獲物をただ待つ。
「じゃあ――これならッ!」
 黙ったまま降下すれば首を取られる。
 この生命は最早己独りで扱えるような価値を超越しており、黄泉で誘う彼らに会うにはまだ、早過ぎる。
 二の腕に筋力を集中させ持ち手を引き上げる。槍先が地中から外れると勢い良く空中へ飛び出す形となり、落下点にて待ち受ける禍津へ強襲。
 刃を握る掌に衝撃か走ったのか獲物を落としたペルソナの姿を視界に捉えた佐倉杏子は口元を緩ませる。
 好機だ――引き寄せた槍先を再度、アンカーを射出するように禍津へ放つ。しかし、何事も思い通りに動くとは限らない。そうでもあれば生存者の人数は跳ね上がっているだろう。

 消えたのだ。
 槍先は地中に深々と突き刺さり、獲物たる禍津は消えていた。
「危ない危ない……全く、物騒だねえ」
 空間へ割り込むように顕現するマガツイザナギは足立透の背後に聳え立つ。
 大型スタンドだろうか、と考察とも呼べない軽い思考を持ちながら佐倉杏子は着地し、槍を構え直す。
 次なる一手を考えろ。リーチで劣るならば機動性を活かせ。空間を超越しろ、奇跡に縋ったその力を見せろ。魔法ならば状況を打開しろ。

「気に食わない……なんだよその目は」

 つま先が大地と擦れ砂利の音が響く。力んでいる証拠であり、佐倉杏子の瞳は彼に怒りと似ている何かを抱かせているのだ。
 どんな状況でも諦めないその瞳は彼らに似ている。そして彼女が口走ったスタンドという言葉があったせいか
空条承太郎みたいな目をしやがって」と憎き敵の名前が自然と口から零れていた。
 ねっとりとした発音であり、憎しみを込めている事は佐倉杏子に伝わっただろう。この男は一杯食わされたのだろうと。



 その意外な名前が跳び出したことにより彼女はまたも口元を緩める。まさか、だ。まさかその名前を聞くとは思っていなかった。

「……どうしたんだよ」

 足立透は純粋に疑問を抱いたため問を投げる。お前は何故、笑っているのかと。
 佐倉杏子は一瞬だけ天を見上げる。瞳に差し込む陽光が眩しい、これ程までに煌めきを感じたことがあるだろうか。
 視線を落とし、問に答えるべく口を開く。偽りのない正真正銘の言葉で。
「あいつと似ているってのはちょっと……嫌、かな」
 乾いた笑いと共に彼女は最初を振り返っていた。本当の最初、殺し合いに巻き込まれ上条当麻と呼ばれた男が死んでからのことだ。
 現実に絶望し己を悲劇の姫君のように彩り、偽り――悲観的に、自嗤し彼を襲った。初遭遇者である空条承太郎のことである。
「奇遇だね。もしかして一発殴られたとか?」
「さあね……少なくとも悪いのはあたしだから……あいつは悪くないよ。まあちょっと目付きは悪いし近寄りがたいイメージはあるけど」
 思わぬ名前を耳にした……と、苦笑を浮かべつつ佐倉杏子はその場でくるりと回り、槍の胴体が崩れ多節に渡る。
 なにやら面倒なことになりそうだと本能で感じ取った足立透は彼女とあの男の関係性を聞こうと開いていた口を閉じ、禍津を向かわせる。

 レンジの差は圧倒的である。
 魔法少女と云えど身体は所詮人間程度の大きさであり、強度や身体能力が強化されようが器そのものに変容はない。
 槍を伸ばそうが操り手には限界が存在し、加えて相手は人間とは異なる存在――ペルソナ。
 大きさからして人間の数倍はある相手に対しレンジの差を埋めるにはどうするか。などと考える時間が勿体無いと佐倉杏子は吐き捨てる。

 互いが交差する手前に禍津が刃を振るう。
 流れる方向へ合わすように鎖を這わせ卍絡めにし身動きを封じる算段だった。だったのだ。
「お前みたいなガキに止められる訳無いだろォ!!」
 飛び纏う小蝿を落とすような振る舞いだった。鎖に絡め取られたこの状況で、特段気にすることもなく。
「あっ……これは、ちょっとヤバイかも……っ」
 刃の一振りは鎖毎――操り手たる佐倉杏子をも巻き込み遥か上空へ舞い上がる。
 対処法などあるものか。単純な力比べである。マガツイザナギが佐倉杏子を空中へ放り投げた。ただそれだけの話だった。

 奥歯を噛み締める佐倉杏子は迫る禍津に対し……さて、どうするか。
 自然と心は落ち着いていた。自分でも説明出来ないが危機的状況のはずなのに焦りは生まれていない。
 空中から地上へ落下するだけの運動中に迎撃のプログラムを組み込むだけ。脳内が必要のある情報だけを拾い上げ、雑音は生まれない。


「出会ってまともに言葉も交わさないで戦闘なんて野蛮すぎて気色悪いけどさぁ……仕方ないよね」


 空気を切る音よりもクリアに耳に届いた声。
 その瞬間に佐倉杏子の心臓の鼓動は激的に加速する。



「どうせ人数は少ないんだよ。お前みたいなガキに……しかも女の子相手ってのは気が引ける感じがあるかもしれない。
 でもねえ……魔法少女ってのは別なんだよ……ああそうだ、お前らは碌でもない奴なんだから生かしといちゃまた俺が危険になんだよ!」


 この男は何を激怒しているのか。初対面にも関わらずよくもこれだけ口が回るものだ。
 足立透――雪ノ下雪乃から少しは聞いていたが、やはり例外に漏れず積極的に殺し合いを加速させる人間にまともな人種などあるものか。


「もう俺に迷惑かけんじゃねえよ……お前を殺して次は雪ノ下雪乃に泉新一とかそこら辺だ。
 独りぼっちなんかじゃないから安心しな。すーぐにお友達をお兄さんが送り込んであげるから」


 勝手に盛り上がり決定する。子供だからと言ってあの男は自分を見下している。
 言われるがままに行動していたら死ぬ。そもそも、そんな消極的な性格をしていれば佐倉杏子はとうに死んでいる。
 契約しこの身を奇跡の泥に捧げたあの日から、彼女は止まれずに、止まらない。



「バイバイだ――もう二度とお前らは俺の前に姿を見せるな」



「――ヤバい、かな……ははっ」



 もう二度とお前の前に現れない。そして死ぬつもりもない。バイバイなどと嘲笑わせるな。去るのはお前の方だ。



 槍を強く握り締めたところで佐倉杏子の視界に飛び込んだのは、悔しいと思うほどに美しい雷光だった。





 強さとは。





 時計塔内部に響く音声は誰もが――参加者ならば誰もが記憶している。
 始まりの犠牲者である上条当麻でさえも広川の顔と声を一致させることが出来よう。
 太陽が再び昇るこの段階にまで生き残っているタスクと雪ノ下雪乃からすれば、広川の声を忘れることな不本意ながら不可能である。

 室内に蔓延る反響具合からスピーカーを通じて声が届けられているのだろう。
 参加者には互いを互いの血で彩らせるが、主催者たる己は一人安全圏で見下している。
 その姿を想像し怒りの感情が湧き上がるタスクだが、今は冷静に広川が紡ぐ言葉を待っている。
 今までに主催者側から接触を図ることは無い。気まぐれによる行いかもしれないが、それでも例外であろう。
 本意は言葉を交わしてすらいないため汲み取れないが、この会話に特別な意味が付与されることは明らかだ。そうでもなければ接触など行うはずもないだろう。

『改めてお疲れ様と言わせてもらおう。君たちはよくぞここまで生き残った』

 話の上手い人間は言い換えれば人々の心を掌握することに長けている存在だ。
 話術師などと呼ばれる存在にまで昇華されれば、言葉一つ一つが言霊となって場を支配する。

『残り人数も僅かだが……ドラマはあったかね』

 才能だ。言葉とは才能であり、誰もが持ち合わせる最強の武器である。
 隣の人間から数多の世界まで。全てに対し干渉出来るのが言葉だ。優劣こそあれど本質は同じ。

『私から言わせてもらえばどれも人間の醜さが生み出した酷い有様だが』

 近しい表現をすれば話の上手い友人がそうであり、観衆を己の世界に引き込む演説も同義である。
 言葉は一種の魔術であり魔法。紡がれた文字の数だけ価値観を産み出し、時にはあらぬ結果を引き起こす。

『……君達にとっての大切な人とやらは…………無駄死にだった』

 よくぞ此処まで黙って聞いていたとタスクは己を心の中で静かに褒める。
 荒ぶる感情を言葉に乗せ、舞台の奥でほくそ笑む相手を弾劾するように。


「お前が皆の生き様を語るな――ッ!!」


「乗せられては……駄目」



 彼の肩にそっと置かれた掌と優しい声色の奥底に感情を抑え込んだ理性的な意見。
 周囲を探索していた雪ノ下雪乃が広川の音に釣られタスクの傍に到達していた。額に浮かぶ汗から彼女も相当堪えているだろう。
 言った。広川は言ったのだ。無駄だと。散った生命全てが無駄、だと。
 誰が許すものか。元を辿れば死の原因を作ったのは紛れもなくお前だろう。何を神気取りで採点しているのか。

「今まで黙っていたのに表へ出て来たのだから、何か思惑があるはず」

『話が早くて助かるよ。まずは首輪の考察等……お疲れ様と言っておこうか』

 頑なに表出しない主催者が接触を図るなど今までの殺し合いに対する無関心さからは考えられない行いだ。
 参加者の知らぬ所で干渉していたのならば話は別だが、現に生存者が壊滅的な状況に陥っている中で数少ない彼らはそれを知らない。
 裏があるのだろうと勘ぐるのは当然である。警戒に慢心などしていなかったが、首輪に対する考察すら主催者の手の内らしい。
 監視カメラでも備わっていたのか。それとも科学を超えた超常現象によって全てが見抜かれているのか。
 常に後手に回ってきた参加者であるが、下手な博打に出るよりは相手の言葉を待つことが賢明である。

『このゲームについて頭を働かせる人間は意外と多くない。何せ時間と安全な場所が確保されないからな。
 例えばエドワード・エルリック御坂美琴白井黒子もそうだろう……明快な頭脳を持ち合わせていても己が安定していなければ頭が働かない。
 エスデス……知性と理性と野性。全てが共存している人間は本能が赴くがままに戦場を蹂躙してしまう。自力で答えに辿り着ける人間は少ない。
 世界の壁に阻まれるからだ。科学が発達した者には魔術が、その逆も然り。そう考えればタスク……柔軟さを持ち合わせている』

「……褒められてもこれ程嬉しくないなんて初めてだよ」

 科学と魔術の調和。
 単なるプラスとマイナスでは表現仕切れぬ記号。
 枷となる首輪に多くの参加者が難色を示し、解除を試みた。
 結果は言わずもがな。生存者残り九名となった現段階で解除成功は一名のみ。
 それも自力では無く主催者側による加入である。無論、そこまでに至った過程を考えれば全てが他人任せでもあるまい。

 本当に柔軟さを持ち合わせているならば、相手の言葉に惑わされるな。

 わざわざ接触を図ったからには――虚偽の裏に潜む真実を、解き明かせ。




 この世に神が存在するとしよう。醜いまでに、愚かである。



神の怒りに触れた人間がどうなるかなど物語としてはパターン化されている。
 概ね災害が発生、不治の病が流行、喜びを感じることのない人生――人間にとって不利益な現象だ。
 神格の大小に差など関係無く、一概に神と呼べる存在に歯向かった人間へ試練が与えられるのは最早常識となっている。

 真理に触れた鋼の錬金術師と焔の錬金術師は己の一部を代償とし剥奪された。
 数多の世界を渉り歩き因果を歪めた時の魔法少女は大切な存在を失った。
 因果を束ね全ての結末を背負う魔法少女は誰にも声を掛けてもらえない神格へと昇華してしまった。
 その身、人間が得ることのない奇跡を追い求め聖杯を争う者は必ずに人の愚かさを知る。

 そして――エンブリヲの怒りに触れたヒースクリフ。
 情報交換の名目で行われた各々が隠す心理の探求は蓋を開ければ彼の独壇場で終わる。
 首輪について声を交わすも、ヒースクリフにとってはエンブリヲがどの段階まで全知全能かを確かめるだけの茶番だ。
 枷を外せない神でも問題はあるまい。何せ対する人間は既に首輪の解除に算段がついていた。
 エンブリヲの程度さえ知ることが出来たのならば、神が所詮は自称に過ぎぬ愚者であろうと問題は何も無かった。

 神の眼前で枷を外す姿は正に冒涜と言えよう。
 たかが人間の身一つで神を超越。神聖を堕とされた神に対する侮辱であり、自尊心すら地に堕とす。
 事の裏に茅場晶彦としての側面が絡んでいるのだが、本人含めこの事実に気付くのは数刻先の話となる。

「何者だ」

「想像通りの存在だと思うが」

「……そうか。今更貴様が内通していた事実を認識しようと変わらない」

「つまり何が言いたい」

「私の前にその事実を見せつけた――からには何かがあるのだろう。それを早く言え」

 激昂。
 陳腐な表現ではあるが神の気質を表すには丁度良い言葉である。
 けれど決して感情を露わにし醜態を晒すこと無く、唯々目の前の状況を理解するために言葉を待つ。

「私から話すことは特に思い当たること……そうだな」

 含みを持たす切り口から一時の間を空かせ。

「首輪が外された事、これは生命の祝福を受けたようなものだ」

「己の安心を確保――爆死のリスクが減ったのは事実だな。続けろ」

「今の私なら全てを気にすることなく君を殺害出来るのかもしれないな」

「くだらん」

 道化を司るような振る舞いを見せれば神は一言で切り捨てる。

「その主――広川とは異なるとみたが……何者だ」


 求める解は一つ。
 ヒースクリフが所有するデバイスに表示された文面の送り主――参加者側に手引きする内通者の正体である。
 佳境も佳境、一つの終着点が見え始めるこの段階でわざわざ尻尾を掴ませた存在が何も干渉してこないとは思えない。
 加えて参加者の中でも特に質の悪いエンブリヲに接触を図るのだから、内通者も腹を括ったのだろうと彼らは察する。
 口にこそ出さないが終焉は近い。幕引きは誰の手に任せられるのか。最後に笑うのは誰なのか。いや、舞台の上に役者は残っているのか。

「私の口から勝手に名前を出すのは憚れ――いや、許しが出たようだ」

 席を立ち上がるヒースクリフは慣れた手際でこの部屋の持ち主であろう存在の机に向かう。
 雑賀譲二と呼ばれているらしいが彼を知る者は最早、この会場に生存していない。
 数多くの資料や並べられたファイルからプロファイリングを主に活動していた存在であることが窺える。
 しかし彼自身に興味の欠片も抱かないエンブリヲ達からすれば、偶然立ち寄った部屋の持ち主であろうこと以上の情報は要らないだろう。
 最も部屋に置かれていた珈琲は美味だったためその点は評価されるだろうが。

「電気を消してくれないか」
「…………」

 この男は何を言っているのか。デバイスを机の上に置かれていたパソコンに連結しなにやら調整を行っていたヒースクリフの心境は如何に。
 室内に光りが溢れているため分かり難いが、デバイスから薄らと光りが延びており、壁一面に照らされている。
 この手の類いで予想するならばプロジェクター代わりになるのだろう。
 デバイスにそのような機能が備えられていたのだろうか。くだらぬ疑問を抱くも口にせずにエンブリヲは黙ってリモコンに手を伸ばす。
 一連の動作により映写されるは目立つ特徴も無い文字列のみ。ただ一つ、お疲れ様。と表示されているだけ。

この言葉の持ち主が接触を図ってきた存在であることに疑問は抱かない。言うなれば敵か味方かはさほど重要なことでも無く、ただ、エンブリヲにとって利益となるかならないだけ。
 彼にとってやはりと云うべき、最も気がかりなことを解決するならば忌々しくも生命を束縛する首輪の解除だろう。
 試行錯誤を繰り返し、異なる世界の魔術や錬金術を始めとする理にすら触れた。
 信号を送ることにより、目に見えぬ主催者と連絡をも試みた。その結果はどうだ、どうであったか。
 首輪を外すことに至らず、目の前に立つ唯の人間――ヒースクリフが解除している。

 主催者の技術或いは能力には一定の評価を与えるべきだろう。
 エンブリヲの力を抑制し、それもある程度の調律を保ちつつ殺戮の宴を進行させる手腕も大したものだ。
 彼をそのまま人間と同じ立ち位置で放り込めば、戦闘問わずに一方的なワンサイドゲームになる可能性が高い。
 調律者としての力は正真正銘であり、彼がまともな性格や倫理観を持っていれば、太陽が昇る前に優勝者は決まっていただろう。

参加者には多くの強者が存在する。錬成を行う者、雷光を操る者、時を止める者。

それらとは別次元に存在するのが調律者たるエンブリヲ。

彼を抑え込む首輪の存在は謂わば参加者にとって最大の味方であり、敵である。
生きてさえいれば神をも殺せる可能性があり、生を司っていようが最後の一人になるまで帰還の術が無い証明。
 認めるしかあるまい。現時点において主催者の能力は全ての参加者を上回っている。
 元を辿れば、各々が一種の瞬間的な記憶喪失に陥っているのだ。先手は打たれ、全員が敗北していることに変わりない。

「まずは名前でも答えてもらおうか。話し合いならば少なくとも最低限の礼儀は弁えろ」

それもこの邂逅を経て終わりを迎える。首輪を解除すれば能力が元に戻る保証は無い。
枷が外れる確約も無い。だが、確信がある。次なる一手が全てを決めることになると、誰もが口を揃えて言うだろう。
全参加者の中で最も主催者と接触を図ってはいけない存在が交わるのだ。神だろうが悪魔だろうが、その足を掴まれ己の土俵に持ち込まれるのは確実だろう。つまり。

「用件を言え。そちらの条件を全て飲み込んでやる――それが狙いだろう」

受け入れだ。調律者たる尊厳やプライドなど、今は世界の片隅に放置すればいい。相手と表向きは対等な立場になれ。

【アンバー。そう呼ばれているよ】

 文字列に込められた感情を図るなど無駄な作業である。用件を言え――そう言い放ったエンブリヲは内通者に相槌すら打つこと無く、次の言葉を待つ。
 その強気な姿勢にヒースクリフはなにやら含みを持たせる薄い笑みを浮かべていた。
 数刻前には盗聴の可能性に配慮し筆談を行っていた者とは思えない立ち振る舞いだ。最もエンブリヲはアンバーと黒幕の亀裂を承知の上だろう。
 実際に亀裂が生じている事実は無い――とも言い切れないが、イレギュラーを利用しない手はない。

【単刀直入に言うとあの人たちと一緒に指定する場所まで行ってほしい】

 それでいいと呟いたエンブリヲはイスへ腰を落とすとカップに手を伸ばし、珈琲を口に運ぶ。あの人たちと言われたが、心当たりは無い。
 生存者であることに間違いは無いだろう。逆算的に考えると高坂穂乃果のような特異的能力を持たない人間は除外する。
 この場に立つ自分とヒースクリフも選考外だ。顔見知りの生存者を振り返れば、可能性があるのは御坂美琴、足立透、黒といったところか。
 学院内で顔を合わせた彼らが真っ先に思い浮かぶが、エドワード・エルリック。異なる世界での錬金術師。それに単純な近接戦闘ならば破格であるホムンクルス、キング・ブラッドレイ
 まさかとは思うがタスクの存在もある。手持ちの情報だけで導き出すのは不可能だろう。相手の思考の先を超えるにも、所詮は憶測の領域内に留まるのが目に見えている。

「あの人たち……達とくるか。彼以外にもオーダーがあるとは私も初耳だよ」

 思考の繊維を少量でありながらも束にしつつ、一つの解へ歩み寄る。
 ヒースクリフと己が遭遇した時、既にアンバーと接触していた可能性が高い。学院内で分身体を消去されたことから、あの瞬間に取引をしていた可能性も高いだろう。
 アンバーはあの人と言い放ち、ヒースクリフは彼と言う。つまり、一人は男だ。当然であるが新規の情報に変わりない。最も生存者の中で女性は片手の指以下となっているが。
 学院内に滞在していた男性は鳴上悠と足立透。彼と言われた存在の対象になるが、ヒースクリフは彼らの味方になるような行動はしていない。
 鳴上悠を庇い足立透を問い詰めた場面もあるが、その後の波乱を考えるに、干渉しなかったことから対象は彼らでは無いと判断。
 事前にアンバーと接触を図ったと仮定し、学院にキング・ブラッドレイが迫っていることを告げていたが、ホムンクルスも対象外とする。
 今更、連れて来るなど話が噛み合わないだろう。ならば学院内に留まり交渉なり言葉を交わし、真実へ近づいているはずだ。

「それで、誰を連れ出すつもりだ……銀の肉体、まさかとは思うがそんなことを言うつもりか?」

【おかしなことを言うね、ヒースクリフ】

「なに、知人絡みかと予想しただけさ」
 肉体そのものに価値を見出すことには必ず、常識を逸脱した思惑がつきまとう。
 それが単なる個人の愛情が肥大化した故のエゴの場合もあれば、世界の理を揺るがすような神の依り代となる場合もある。
 彼らの発言から銀の知り合い――あの人たちとやらの一人は黒で確定だろう。口数の少ない男であるが、明確な仲間とも呼べる存在が銀。知り合いに当て嵌まる。

 首輪を外す前の茶番からすると、報酬とは黒に纏わる顛末だろう。大方、彼が生存するための策だろうと推測。その扱いからアンバーにとって黒の存在は好意的、或いは必要な鍵なのだろう。

「黒絡みで動いていたか。学院で合流しなくてよかったのか?」

「状況が状況……それは知っているだろう。それに私が依頼されたのは彼を救うこと……何もしていないに等しいが結果として役目は果たしたさ

 ――つまりアンバーから依頼された事項は生きてさえいればクリア、と。
 殺し合いに於いて安息の時間など無に等しいため、生存は最優先事項である。しかし、根本的な疑問が当然のように浮かび上がる。
 大切な生命ならば最初から参加させなければいいだけの話であり、アンバーの依頼はそもそも主催側の立場からすれば見当違いもいいところ。

【いいかな?】

 映写される文字列から彼、或いは彼女の思惑を察知することは不可能である。この程度の会話の脱線によって腹を立てる小物でもあるあい。
 話を進めることに異存は無いため、エンブリヲはヒースクリフとの会話を切り上げると小さく、構わんと呟く。
 声が届いたのか、アンバーは更なる文字列を刻んでいた。

【結果から先に言うと貴方達全員の首輪を外すことが可能になるの】

「ほう――何ら一つのデメリット無しでか

【残念ながらそれはない。可能なら貴方以外の首輪も一緒に外しているもの。
 一斉に首輪の解除は参加者全員の生体反応が途絶えることと一緒。お父様への説明が困難になるの】

「一切の戦闘音も響かせる事無く皆が死ぬ……有り得ないな」


「……お父様? 誰だその男は」


アンバーの記述どおり ならばお父様――つまりは父親。説明という表現から同じく殺し合いの主催者であり、その中でも最上位に位置すると思われる。
新たなる存在の登場に ヒースクリフは無反応であるが、アンバーと事前に接触している手前、どこかで話を聞いているのだろう。


【ヒースクリフにしか言っていなかったね。予想はしていると思うけど、このゲームを起動してしまった張本人。
 そしてお父様は私の親とは違う。遭遇した参加者で云えば――そう、エンヴィーとキング・ブラッドレイ。彼らホムンクルスの生みの親】



 ククク。



 映写光のみが自己を主張する常夜の空間に笑いが響く。
 小さいけれど空間そのものを支配するように、聞き入る人間の内部へ浸透するように。



「ククク――クハハハハハハハハハ!! ホムンクルス、ホムンクルスと言ったか!」




 調律者は笑う。この世界に、この事実に、滑稽な己を、嗤う。



「人間にも満たない造られた実験動物が遊技盤の主――嘲笑わずにいられるか」



 広がる両腕、天を仰ぐ瞳。
 神に首輪を嵌めし存在は、造られた存在であるホムンクルス。



「どこまでも舐めた真似をしてくれる。ならばキング・ブラッドレイも最初から全てを知っていたというのか」



【いいやそれは違うよ。参加者は皆、平等な立場だった】




「ふん――まあいい。続きを話してもらおうか。ヒースクリフはその懐に伸ばした腕を引け」




「……わかった」




 意外な反応であるとヒースクリフは一種の驚きを内心に浮かべつつも、表情には出さず剣に伸ばした腕を戻す。
 黒幕を明かされたエンブリヲ。彼の性格やプライドの高さから逆上し暴れることも想定していたが、脳内は想像よりもクリアらしい。

怒りを抱いたことに変わりは無いだろう。それも自分自身が数分前に目の前で首輪を見せびらかすように外したのだ。
 挑発に継ぐ挑発により思考回路が単純化しているかと思いきや、流石は調律者――神を名乗るだけのことはある。目的と状況、達成するための手段と方法の模索を続ける。


【黙っていてごめんなさい。でも、知らせることも可能じゃなかったの】


「見張りがあるのかはしらん。お前にどんな仕事が与えられているかもしらん。私に必要なのは――首輪を外すこと。その先にあるくだらぬ遊びから脱出することだけだ」



「それには私も同意する。アンバー、手短に頼む。盗聴機能などは切っているようだが、長く時間を取っていては勘付かれる」



【そうね。あの人はエドワード・エルリック。二人とも会ったことがあるはず】



 鋼の錬金術師。まだ少年でありながら真理を垣間見た男。金髪で少々背丈の低いエドワード・エルリック。
 彼の名前が表示された時、二人は脳裏にその姿を思い出す。ヒースクリフからすれば錬金術を扱う少年の域を出ない存在だ。
 エンブリヲにとっては己に歯向かった生意気な男といったところか。好ましい評価では無いが、錬金術の力には一定の評価を与えなくてはあるまい。
 世界が異なり多様な進化を遂げたその神秘。その中でもエドワード・エルリックは掌を合わせるのみで己の知識が許す限りの錬成を行う。
 その力、世界単位で観測した中でもおそらくだが希少な能力と云えよう。それらを考えた上で彼の存在意義――約束の場所へ迎え、アンバーはそう続ける。


【理由は先に言ったとおり、首輪を外すためには彼の力が必要なの】


 ピクリと両者の眉が上がる。エドワード・エルリックの力――それは錬金術で確定だろう。疑う余地も無く、彼を彼として扱うならばやはり、その力頼りだ。
「錬金術で首輪を外す……か。可能ならば彼はとうに自由の身だと思うが」
 ヒースクリフの発言は真理である。錬金術での解除が可能ならば現時点で枷を嵌めている理由が無い。無論、彼と遭遇した時点では首輪があったのだ。
 つまり、何かしらの障害があったが故に不可能だったのだろう。調律者としてエンブリヲの力に枷が宛行われているのと同じように。
 それでもエドワード・エルリックの力が必要というのならば、アンバーには術があるのだろう。
「制限されているこの現状を打破する事が可能、そう捉えるぞ」
 エンブリヲの文字列を見つめる視線が一層険しくなる。
 錬金術での解除など彼とて考えはあった。錬金術に限らず遭遇した参加者の力や技を見定めた上で、だ。

 誰もが外すという結果に向かうために過程を経た。それでも首輪を嵌めているのが答えであり、調律者も他の参加者と同じである。
 可能になるとすれば、殺し合いを取り巻く環境に直接介入するしか手段は残されていないだろう。

「システムの枠へ働きかけることが出来るのか」

【騙し騙しで勝負は一瞬だと思う。今も貴方達の音声をカットしているからね。マークはとっくにされているの】

「お父様とやらは直接監視をしている訳じゃないのか」

【そうだよ。広川や私が基本的な監視を行っていて、お父様が全てを知っている訳じゃないの。もちろん嘘は憑けない】

「言葉で虚偽の申請を行った所でお父様もマスターの立場か。ならば私は死人として扱われているのか?」

【貴方は次の放送で名前を読み上げられることになっているわ。死因はエンブリヲに殺害された――とでも偽って、ね】

「通用するとは思えんな」

【だから騙し騙しの一瞬なの。相手は馬鹿じゃないから。その一瞬に全てを賭けないと首輪はそのままで、貴方達は全員――死ぬ】

「……全員、か」

 この場で全員を示す範囲は参加者を表すのだろうか。たった一つの奇跡に縋り続けた存在からすれば、願いを叶えるという目標が全てである。
 言葉の綾だろうが、お父様は願いを叶えない――最後の一人となっても、答えは出るのだろうか。そもそも何故、このような催しを主催したのだろう。
 全員。それはアンバーすら含む関係者の粛清の線もあるだろう。ここまで参加者に加担すれば裏切りも当然である。

「全員とは最後の一人すら殺されることでいいのか。滑稽な話だな、とんだ茶番だ」

【それは無いと思う。貴方達によって満たされた奇跡はきっと還元されると思うから】

「満たされた奇跡? お前は何を言って――む」

 アンバーの言い回しは当事者だけが理解しうる言ってしまえば己の自己満足のために真実を遠回しに表す手法だ。質の悪いことに真実が隠されているのだろう。
 奇跡が満ち足りたため、参加者に還元される。この言葉にエンブリヲは幾つか思い当たる節があるのだが、アンバーは文字列を並べ続けた。

【エドワード・エルリックは入れ違いで学院にいる。私が貴方達と同時進行でコンタクトを図っているの】

「では合流すればいい」

【そうだね。一通りの説明を受けた後に】

「だが」

 切り出したその一言にアンバーが紡ぐ文字列は停止した。
 映像の奥ではどのような瞳で彼らを監視しているかなど確かめる術もない。けれど、ヒースクリフが発する一種の殺意めいた圧は感じ取れるだろう。
 何も彼らは真実を隠され、傀儡のように動く人形とは異なる。相手の真意も汲み取れないままに動く阿呆とは違うのだ。
 数手先を見据えた者達だからこそ、一定のラインにしか到達していない情報の吐き出しを黙って聞き続けるなど、有り得ない。


「少しは真実を話したらどうだ」


【嘘は無いよ】


「そもそもの話だよアンバー。私達は君や広川、それにお父様が何故殺し合いなどを開催したのか、見当もついていない。
 無論、分かるつもりもない。だが、君はこちらに命令を下すのだ。そちらの背景も明かしてもらおうか。生命を握られている立場だとは理解している。
 そろそろ潮時だろう。君も私達もとうに腹は括っているのだ」


 つまり。



「運命共同体――違うか? 君の情報に虚偽があれば私達は間違いなく死ぬ。
 君の命令に背き私達がお父様とやらと連絡を取り、この裏切りを耳打ちすれば君が死ぬ。
 私達は首輪を外すどころか最後の一人になるまで殺し合う――これは異存も無いがね。元より脱出の手段が無いのなら殺害するしかないだろう」


「当たり前だ。情報も手段も与えられないのなら、やるべき事も最初から決まっている。
 お前の頼みにメリットがあるから乗るだけに過ぎん。黒を救おうが始末しようが私にとっては些細な事なんだよ」



 殺し合い。たった一つの結末である最後の一人になるまで互いが互いを殺害し、願いを叶える儀式。
 迷路であればゴールは最初から決まっているのだ、迷う必要など無い。
 遊技盤の主は一つ、勘違いをしている。彼らは駒などに収まるような雑兵などでは無い。国どころか世界を取る男達である。
 生命が握られていようと、二つ返事で頭を垂れるような器など、それこそ有り得ぬ話である。
 糸を繋がれた傀儡に成り果てるぐらいなら、彼らは迷わずその身体を血に染め、屍の上で凱歌を浴びる選択を取る。




『全く……こっちがその気なら首輪を爆発させることだって出来るかもしれないよ?』



 正体を表さないその不気味さ。闇に混在する影を追うには、人間の瞳は暗闇に慣れていない。
 追いかけても、追いかけても。いずれは目的さえ見失い、全ては振り出しに戻る。捧げた時間全てが無に帰すのだ。
 故に人間は進化を遂げる。相手が闇に溶け込むならば、こちら側に引き摺り出せばいいだけの話である。

 文字列を一方的に送り付けていた相手がその肉声を表した。その響きにエンブリヲはアンバーが彼女と呼ぶべき存在であることに気付く。
 それも下手をすれば声色から察し、外見だけならば成人にも満たない可能性も考慮する必要があるだろう。無論、相手が人間と呼べる存在であるならばの話である。

「……何か言いたそうな表情だな」

「気の所為さ。私も……そうだな、面を喰らっていると言おう。君と同じだよ」

 アンバーの声が聞こえ始めた時、ヒースクリフの視線が気になっていた。まるで私は最初から知っていたなどとこちらに訴える勝ち誇ったような瞳がエンブリヲの気に触れる。
 しかし、睨み返されたその意図を汲み取っており、ヒースクリフは己も同類だと言い放つ。些細なやり取りながら全てが彼に先を行かれる現状に調律者の心に軋みが生まれる。

「爆破させるつもりなら私の首は既に無い。参加者側に完全な善意で介入するなど到底有り得ん話だ。
 大方……いや、いい。この期に及んでくだらぬハッタリは止めてもらおうか。黒とエドワード・エルリックを率いる役目は果たそう――だが」

 一呼吸置かれたその空白に詰まる刹那の価値。手段も目的も整った。この遊技盤を文字通り覆すことも可能だろう。残りのピースは。

「少しは真実――そもそも何故、私達にこのようなくだらぬ宴に招いたのだ。お父様とやらが元凶とは理解した。だが、足りん。情報が圧倒的に不足している。
 ヒースクリフの言葉を借りればゲームを開いた理由だ。虐殺を望むならば今回のようなくどい真似をする訳がない」

 始まりが欠けていた。
 多くの参加者がその事実に疑問を抱いた。
 空白を埋めるように考察を重ねるも進展は無かった。
 たしかなことは広川の宣言と共に、上条当麻と呼ばれる男がこの世を去った。
 短くも長い最悪の日常が開かれ、多くの血が流れ、生命が消えゆき、アンバーの言葉を借りれば奇跡が満たされたのだろう。

「お父様は何を企んでいる。この際、お前の思惑などどうでもいい」

 終局へ向かう。
 起源へと至る物語。
 禍の果てに人間達は何を見る。
 調律者だろうが錬金術師だろうが超能力者だろうが魔法少女だろうが契約者だろうが関係は無い。
 その瞳で全ての終局を捉えた時、始まりを知らぬ人間に何が得られるというのか。
 仇も調律者と名乗り、全知全能に匹敵する力を所有する彼に一切の真実を告げずに手綱を握るなど、不可能な話だ。
 故に彼は求める。全ての始まりを、我が身に屈辱を味合わせた黒幕の思惑を。

「お父様――ふん、ホムンクルスのことだ、完全な存在を夢見たのか?」


 珍しい話ではない。不完全な生命体はその身丈に不釣り合いな夢へ憧れを募らせる。
 少しばかりの力を持ってしまったが故に自分が世界単位で見つめれば小さな虫けら同然であることにも気付け無い。

「人間への復讐、或いは己を神へ昇華させる。手順は不明だが奇跡を満たす――真意も不透明だが願いを叶えられるのだろう?
 ホムンクルスにすれば定番も定番だ。醜く生き恥を晒し、天へ手を伸ばす……届くはずもない。
 神という表現も遠くないだろう。そうだな――例えばイザ」

「イザナミとイザナギ――本当に神という表現も……捨てたものでは無いな」

 やはりか。エンブリヲの胸に眠る疑問が一つ、回答こそ得られていないものの輪郭を帯び始める。
 ヒースクリフもその情報を知っている。自分と同程度、或いはその先を行く何かを握っている可能性もある。
 イザナミにこのタイミングで食い付いたとなれば、疑う余地も無い。複数の参加者に知識が行き渡っているのならば、主催者側の存在が意図的に残した情報だ。

「ペルソナにもイザナギと呼ばれる個体があったようだが、偶然でも無いだろう。とある世界の神々でも模したのか?
 情報の欠片をわざと用意しているからには罠の線――は無いだろう。餌でも無い。本気で覆そうとしている、違うか」

 ピースを集めパズルを完成させた時、主催者側に有利なことが働くとは考えにくい。
 しかし、この主催者側をホムンクルス一人と仮定すれば自然と納得が――行くわけでもないが、少しは道が見える。
 アンバーの参加者側への過度な干渉はゲームそのものを破壊してしまうような行動である。現に一人の首輪が外されている。
 続く今の接触も鋼の錬金術師を活用した参加者全ての首輪解除だ。黒一人の生命如きでは釣り合わない提案である。
 イザナミとイザナギ。
 会場内に提示されたこの単語が意味のないものなど、今更考えられるものか。アンバーは此方に何かを気付かせようとしている。

『……全く、君達にちょっとでも情報を渡すと怖いなあ。お父様が目指していた場所、悪い線じゃない』

「……本当なのか。つまらん遊戯に巻き込まれたものだな」

『神という表現はとても曖昧で、彼に当て嵌まるようで当て嵌まっていないかもしれない。
 それでも力を求めていることに変わりは無くて、真理を得て更なる次元へ己を高める――なんて言い方がぴったりかもね』

「私が知るものか。

 興味があると言ったが、いざ知ってしまえばそれは最早、過去の対象に過ぎん。知った段階で不要な情報だ。
 ホムンクルスが殺し合いを開催した理由など問題でもあるまい。奴は殺す。それで全てが終わるんだからな」








『へぇ……この手のゲームはみんなが起因に興味を持つのが定番なのに、あなたは違うのね』

「興味ならあった……言ったばかりだ。もう理解した、頭の片隅には入れておく。だが……それ以上の価値は無い」

『……話を戻すけど、イザナミとイザナギについては――聞く?』

「まだ興味の対象内に収まっているからな。話してもらおうか」

 さて、ここからが本題である。
 殺し合いの始まりを辿るのも重要であるが、極論を言ってしまえば知らなくても問題がある訳ではない。
 思惑など知ったところで対処のしようも無く、価値がある情報としては理由よりも方法になる。
 何故、誰にも気付かれずに参加者を集めることが出来たのか。首輪はどうしたのか。この箱庭とも呼べる会場はなんなのか。
 聞き出すべき欠片は多い。しかし、イザナミとイザナギ。日本と呼ばれるとある世界、とある島国由来の神。
 ヒースクリフも耳にしているこの単語、殺し合いと関係が無いとは言い切れないだろう。
 優劣や重要さなど全てをアンバーの口から語ったあとに考えればよい。対処が必要ならばこの場に留まるヒースクリフをも巻き込めばい。
 エンブリヲが右へ視線を流す。先程からおとなしいヒースクリフだが、少量の書物をデスクに置き、パソコンを見つめていた。
 部屋の持ち主は雑賀譲二、参加者の名前ではないため、元々の主なのだろう。
 会場内に置かれている施設は何かしらの世界に存在していたオリジナルがあるようだ。模倣でもしたのだろう。

 用意された箱庭もここまで来れば、何かしらの意図が絡んでいるように構えてしまう。
 神々の字、恵まれぬ存在、造られた生命――奇跡を満たした先に待ち受けるは神の浄化か獄の禍津か。
 来たるべき終局は近い。自ずと真実から正体を表すのも時間の問題だろう。飲み込まれるか、無に帰されるか。

 全てが精算されるなどと、高望みはしない。此度の宴に潜む真意を見抜け――全ての参加者を弄んだその落とし前、有耶無耶にさせてなるものか。





 奇跡とは曖昧である。目の前にあろうと、錯覚であるとは言い切れない故に。




 差し出されたピースを嵌め込めるとパズルは完成するだろう。
 出口の無い迷路に変化が訪れる。外の世界の明かりだ。求めし答えが近くにまで転がっている。
 一連の言葉を交わすも、タスクは広川の真意を見抜けずにいた。

「お前は何を言って……そんなことが出来るって言うのか!?」

 しかし、その欠片は台座に示しがつかないのだ。既製品とは異なる掟破りの一手である。
 広川の提案は狂っているとタスクはその要求に難儀を示す。可能な選択だと真剣に考える者が何処に居るのだと。

『冗談だと思うか? ならば心外だな。元より……他に手立ては無いだろう』
 対して提案者たる彼の声に遊戯を感じる者もいない。文字通り他に手立ては無い。
 語られた真偽を確かめる術はタスク達に存在しない。博打と云うには筋が違う。これは賭けにも満たぬ無謀な作戦である。

「仮に成功したとしても、僕達だけじゃ全てが繋がる訳でも無いだろう!
 お前の言う通り、確かに他に手立ては無い。だからその提案に乗ってやる……だけど、穴が多過ぎる」

 一人には限界が存在する。
 百の軍に対し生身の人間が勝てる道理などたかが知れている。情けない反抗が関の山だろう。
 もしも百の軍に対し十の精鋭で挑んだならば、結末は変わってくるだろう。
 諦めぬ者に訪れる奇跡。彼らは成功を掴み取る事に関せば最高の逸材である。

「足りない……全てが予想を上回ったとしても、その先に辿り着ける筈がない……無理よ」

 それは力無き者が聞いても同じである。雪ノ下雪乃から――所謂、普通の人間から見ても広川の提案には穴がある。

『当たり前だ。私が君達だけに話を通しているとでも思うのか?』

「まさか……」

「それなら話が成立するわね……それでも、無理には無理だと思うけれど」

 手が回らないならば人員を補強する。当然の話であり、広川とて頭が回らぬ男でもあるまい。
 仮にも殺戮の宴を開催するまでに働いた男だ。殺し合いに詳しい彼の言葉を信じるのが常となろう。
 彼の口から語られる情報――なんとも巫山戯た話であるとタスク達は思っていた。

 答えに辿りつくなど不可能だろう。
 初めからヒントを求めたとしても、根本的に不可能である。
 首輪を外せたとしよう。されども真実に触れることすら叶わない。
 あるとすれば――例外はヒースクリフのみだろう。あの男ならば全ての因果が収束した結果により或いは可能なのかもしれない。







「……一つ、聞きたかったことがある」


『一つと言わずに幾らでも答えてやろう――最も全てを答えれるとは限らないかもしれないがな』


 タスクの声が震える。喉元にまで迫っているその言葉が今は火傷をするように熱い。
 早く体外へ放出したいが、それをしてしまえば引き下がれない気もしてしまう。しかし、元より引き返せぬ身だ。


「エドワード・エルリックとヒースクリフ……この二人が生きていることは分かった。
 他は……あとどれだけ生き残っているんだ。みんなは、仲間は今、何処に居るんだ!?」


 鍵となる存在と礎たる存在。
 彼らの生存は話の筋から確定だろう。


 深淵に手を伸ばせ、大切な仲間は今――生きているのか。












『君達も含めて残り九名――七十を超えていた参加者も残りたったの九名だ』






 我々は何故、思考までに辿り着かないのか。


 此度の宴――箱庭を構成し用意した者は、誰なのか。





 体感とは時に現実世界から己を引き離す、誰もが持ち合わせた現象である。
 タスクと雪ノ下雪乃。彼らの耳に届いた広川の言葉は全身を駆け巡り、全てを支配するようだった。
 生存人数の発表から、彼が語る狙い――謂わば主催者側からタスク達に依頼を行ってきたのだ。

 信じられないとタスクは叫んだ。誰がそのような言葉を受け入れるものか。
 雪ノ下雪乃は悩む。仮にそのようなことが達成した暁には、事態が好転するかもしれない。
 けれどもそれは罠だろう。有り得ない、ゲームの存在意義を覆すような行為だ。広川は何を考えているのか。

 時計塔に響く声色のみで彼の顔色を伺うなど、一級品の千里眼でも所持していなければ不可能である。

 しかし、だ。

 広川の提案を実行し、成功に辿り着けば、タスク達にとって絶好の機会である。
 常々受け身になってしまい、流されるだけ流されて、大切な者を失い続けた。心を蝕む闇を振り払うなど、真の意味に不可能也。
 言葉でどれだけ取り繕うと、身体を侵食する腐敗に歯止めなど効かず、いずれはその身を汚すことになるだろう。

『さて……悪くない提案だが、君達の最終的な返事を聞こう』

 地獄に垂らされた糸は天国へ通ずるのか。
 その意図を読み違えば、破滅の道は間違い無し。その身、悉く利用され、無残に散るだろう。

「………………」

「…………任せて」

 男の決め時。
 タスクは雪ノ下雪乃の一歩前に踏み出し、左腕で彼女を制す。
 君が背負う必要なんてない――背中で語り、その思考は様々な過程と結果を弾き出す。
 広川の言葉に虚偽と真意の割合を導き出せ、彼のメリットとデメリットを考えろ。その先を見据えろ。

 欠片は充分に集まった。けれど、肝心な台座に亀裂が生じる。
 殺し合いの影に潜む彼らに信頼など存在せず、このゲームに対する感情も異なるのだろう。
 彼らがどんな人間なのか、欠片の興味も抱かない。貴様らが存在しなければ、こんなことにはならなかった。

 彼も、彼女も、あの人も、大切な人も。
 誰も、死ぬことなんてなかったのだ。




 この選択は運命分岐点の集大成だ。
 人生は常に選択肢の繰り返し。その中でも最上級に位置する、天下の分け目と言っても過言ではない。

 全てを救うか、全てを殺すか。

 最も選んだだけでは、辿り着くことなど不可能。
 言ってしまえば挑戦権である。挑まなければ、これまで通り血と汗と涙を流し、最後の一人になるまで殺し合うだけ。
 逆に挑戦すれば、失敗すれば全員がこの世を去り、成功すれば――どうなるかは不明だ。

 けれど、賭けに出る場面かどうかなど、誰が決めようか。
 常に遊技盤の上を弾が廻っている。永遠に、脱落に生命が嵌まるまで。

「広川――こっちは」

 遊技盤の主は絶対だ。
 マスターに逆らうなど、プレイヤーには許されない行為である。
 しかし、出し抜いた場合は別の話となり、気付かなかった主に非が存在する。


 一回限りの掟破り。一世一代の大勝負。最初で最後、神の喉元に刃を突き立てろ。


「お前の提案に――の……!?」











「あ……あぁ!! クソ、面倒なことになったじゃねえかよ……ッ」


 緊張の糸が途切れたかと思えば、緊迫の刹那が場を支配する。
 広川の言葉に集中していた神経は、突如現れた乱入者の補足に世界を駆ける。

「悪い……余計なモンを連れ込んじまった」

 時計塔の外壁は戦闘により所々が崩壊しており、人間一人が簡単に出入り出来るほどの大穴が空いている。
 その空間に飛び込むは紅き魔法少女――佐倉杏子。その後に続くは哀れな道化師――足立透だ。
 彼女の登場に生存を喜んだだろう。彼の登場に表情を歪めただろう。雪ノ下雪乃からすれば、見たくも無い相手の一人。

「まとめて死ねよ……殺してやる。
 今更内面外面全部取り繕ったってよぉ……だーれも信じねえんだからな」


 空間に顕現する禍津。握る刃から放たれる殺気が敵対する相手の神経を尖らせる。
 広川の声が時計塔に響かなくなり、タスクは否が応でも目の前の相手に集中することとなった。無論、手抜きで勝てる相手でも無いだろう。

「使わせてもらうよ……少しでも、明日の光を浴びるためにも」

 雪ノ下雪乃のバッグに手を伸ばし、彼女の許可を取ること無く刃を引き出すと、煌めき刀身を鞘から解き放つ。


『久々の登場かもなあ……ってあいつ、もしかしてコンサートホールで見たか?』


 身体を支配させろ。愚かな行為では無く、勝率を僅かにでも上昇させるために。


「あいつの説明は必要かい? なんならあたしが知りたいぐらいだけど……そうだ、雷に気を付けな。
 この数時間は本当に雷と相性が悪くてトラウマになるよ……実際に死にかけたし。まぁ、負ける気はゼロだよ」

 隣に立つ形となった味方に、魔法少女は苦い笑みを浮かべながら槍を握る。

「説明することはあるよ。でもそれは、あいつのことじゃない。もっと大事な話があるんだ」


「朗報……だっけ? 良い話っぽいけど期待するよ」


「じゃあご期待に応えるように――まずは」





「生意気な目をしやがって……ガキ共、これからお前達は絶対に負けねえなんて熱意マシマシみたいだけど、最後に立っているのは俺だから」





 試練を乗り越えろ。先に立つ、大きな壁を乗り越えるために。


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198:不安の種 雪乃下雪乃
タスク
202:天上の青は遥か彼方へ 足立透
204:DEEP BREATH 佐倉杏子
205:黄金の夜明け エドワード・エルリック
206:無題『刹那』 エンブリヲ
ヒースクリフ
最終更新:2017年02月23日 15:49