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愛と死の予感(後編) - (2023/05/04 (木) 14:35:41) の最新版との変更点
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**愛と死の予感(後編)◆DNdG5hiFT6
* * *
――Dボゥイは夢を見る。
それは先程も見た夢、敵にゆたかが連れ去られ、それを阻止できない無力な自分がいる夢だ。
だが一つだけ違いがある。
ゆたかをさらった“敵”の姿がシンヤではなく、ラッドに置き換わっている。
『いやぁ! 離してください! Dボゥイさーん!!』
『オイオイオイ、そう言われて離す奴がいるのかよ?
いやぁ、背負うものが沢山あると大変だよなぁ、タカヤ兄さん?』
その光景が夢だと分かっている。現実ではないと知っている。
だがDボゥイの憎しみは止まらない。
無駄だと知りつつも四肢に力を込め、呪縛を打ち破ろうと、もがく。
「何でそんなに助けたいんだい?」
そんな時だった。
隣から聞き覚えのある声がかけられたのは。
「ゆたかをミユキと重ねているのかい?
だとしたらそれは彼女にもミユキにも失礼じゃないのかい、兄さん」
「黙れ! ミユキを殺したお前に言う資格は――」
だがその顔を見たDボゥイは言葉を失う。
そこにいたのは予想通り、確かに相羽シンヤだ。
だが、その顔には穏やかな表情が浮かんでいる。
まるで、二度と戻らないあの日のような。
「シン……ヤ……?」
「まあ、彼女を助けたいのなら急いだほうがいい。
何の力も持たない彼女は何時死んだっておかしくない……
いや、この場所では誰だって同じことなのかもしれないけどね」
そう呟くシンヤの姿はどこか諦観していて、らしくない。
まるで『さっさとゆたかを助けに行け』と言っているようだ。
「シンヤ……何故……」
「さあね、ただ……兄さんもゆたかも、あの男に殺されるのだけは我慢がならなかっただけさ」
次第に白い霧に覆われていくシンヤの姿。
Dボゥイの意識も覚醒に向かっていく。
もう、殆どシンヤの顔も見えない。その声も聞こえなくなっていく。
だが最後にシンヤの口が動くのが見えた。
――負けないでくれよ、兄さんは
そう、言われた気がした。
* * *
自身の鼓動でDボゥイは目を覚ました。
激しい動悸に呼応するように全身に嫌な汗が浮かんでいる。
Dボゥイの心には言いようのない不安が浮かび上がっていた。
その心を占めるのは先程まで見ていた夢のこと。
夢にしてはあまりにも暗示的だ。
今まで見た悪夢とは違う、警告めいた夢。
そのことを考えるだけで焦りとも何とも言えない感情が湧く。
そうだ、もともと早く合流するつもりだったのだ。
一刻も早く行動を起こそう。
今すぐに舞衣を起こして、病院を発つ……そう決意した瞬間、やっと気付く。
自分のベッドのすぐ傍に舞衣が立っている事に。
「どうした……舞衣」
だが舞衣は答えない。
ただ、答えの代わりとでも言うかのように、右手を振りかざす。
そこでDボゥイは初めて気付く。その右手に握られた凶器の姿に。
振り下ろされる右手の鋏。
だが、刃が顔に触れるすんでのところで手首を押さえ、食い止める。
「何を……!!」
腕にかかる力は少女のものと思えないほどに強い。
それが意味するのは舞衣は本気で殺す気だということ。
Dボゥイの頭の中を疑問ばかりが駆け抜ける。
先程流した涙は偽りだったのか?
『もう誰からも奪いたくはない』という言葉は嘘だったのか?
「何故だ……答えろ、舞衣!」
その言葉にも舞衣は答えない。
だが、その答えは言葉以外の形でDボゥイに告げられた。
それは、Dボゥイの頬にポロポロと零れる冷たい雫。
舞衣は泣いていた。
瞳に僅かな緑色の渦光を宿らせて。
「逃げ……て……Dボゥイ……」
「……どうしたんだ」
「……もう、奪い、たくない! 失うのも、消えるのも、もう嫌、なのに!」
しゃくりあげるようにすすり泣く。
「どうしようもなく憎いの!!
結城さんや会長さん、あの男や、ゆたかって娘――それに何よりアンタを殺したくてたまらないの!!」
口から出る言葉は憎悪そのもの。
だがそれを語る少女の顔は訳も分からず泣きじゃくる子供のようで、あまりにもちぐはぐだ。
――嫌な、予感がする。
先程シンヤの夢を見たせいだろうか? それとも自身のうちに眠るラダムの力が共鳴しているのだろうか?
感情が、本能が、直感が……理性以外のすべてがその答えを指し示している。
だが、そんなことが、あるはずが――ない。
「……ねえ、Dボゥイ、聞いてもいい?」
呆然とするDボゥイに向かって、舞衣は泣きながら笑いかける。
「ラダムに取り付かれたら、助かる方法って、ある?」
そして目の前の少女自身が最悪の可能性を突きつけた。
「何を……言っている」
ありえない。こんな場所にラダムがいるはずがない。
ありえない。ラダムに取り付かれたものが涙を流すことはない。
だが舞衣がいきなり凶行に走る理由が見当たらない。
そしてやはり自分の中の何かが、舞衣の言葉を肯定している。
「あはは……やっぱり、無いんだ……
さっきから、無理やり、さ、頭の中に流れ込んでくるんだ……
人間を殺せ、破壊しろ……って。裏切り者のブレードを始末しろ……って。
その手で何もかも奪ってしまえ、……って!」
あまりの出来事にDボゥイの両手から力が抜ける。
舞衣はその隙に腕を振り解くと、窓に足をかけた。
その両手両足には飛行を可能とする戦輪の姿がある。
「待て! 待つんだ舞衣ッ!」
「こないで! ついてきたら私は、きっと……!!」
――貴方を殺してしまうから。
それ以上話せばその言葉に引きずられてしまう、とでも言うかのように言葉を切り、俯く。
「ねぇ……Dボゥイ」
月明かりに照らされたその顔はやはり泣き笑いの表情で。
「もう一度会った時、私が私じゃなくなってたら……殺して。
もう私は……誰からも奪いたくなんて……ない……」
最後にそう言い残して飛び去っていく。
漆黒の闇夜の中へ、飛び込んでいく。
「舞衣ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
伸ばされた手は届かない。
空を舞う少女の後姿はあっという間に見えなくなっていく。
「くそっ!」
苛立ちのまま、ベッドに拳を叩きつける。
これが彼女に与えられた罰だというのか?
ふざけるな。そんなもの俺は認めやしない。いや、認めてなどなるものか!
一縷の望みに懸けて、ふらつく体を叱咤し舞衣を追いかける。
そう、もしも彼女が完全にラダムに支配されているのなら、鋏などではなく火によって焼き尽くせばいい。
何故かは分からないがラダムの支配が完全ではないことだけは確かだ。
ならばまだ間に合うかもしれない。助けられるかもしれない。
血は取り戻したものの、内臓は依然傷ついたままだ。
それでも意志を螺旋の力と変え、ボロボロの体を突き動かす。
『あなたの30分を私にちょうだい。
例え、あなたが悪魔になり、あなたに殺されるその瞬間でも、私はあなたを信じる。
あなたの心の中に息づく人間の心を、私は信じる。だから、あなたの30分を私にちょうだい!』
彼の心に浮かぶのは仲間がかつて言った信頼の言葉。
あの時、ラダムの本能によって暴走した自分は仲間達のお陰で元に戻れた。
たとえ取り付かれたのだとしても大して時間は経っていない。
支配が不完全な今のうちなら、まだ何か方法があるかもしれない。
希望は意志を後押しし、Dボゥイの足は一層速まる。
だが、玄関へ向かう最中でその足は止められた。
何よりも濃密な血の匂いが四角の左側――丁度玄関に向かうDボゥイの視界の中――病室から臭っている。
誰かが殺されたのだろう。この場所では決して珍しいことではない。
だが、ならば何故、こんなに心臓が脈打っているのだ?
言いようの無い予感めいた衝動がDボゥイをその病室へ進ませる。
その部屋の中央、血だまりの中に鎮座していたのは頭と右腕のない男。
人を人として判別するべき顔がないのではその人物の判別は難しい。
だがDボゥイは人物のその服装に見覚えがあった。
それは忘れもしない。数時間前、戦いそしてゆたかを連れ去った男の服。
ライバルであり、愛憎入り混じった感情を抱く男の服。
いや、服などが違ったとしても、例えどんな姿になったとしても、
Dボゥイがその男を見間違えることなどなかっただろう。
何故ならばその男は自分の半身なのだから。
そしてDボゥイは理解する。ここにあるのが間違いなく、弟の成れの果てだということを。
「シン……ヤ……!」
それだけでここ数時間のうちに病院であったことを理解する。
『ラッドに殺されたシンヤの体からラダム虫が脱出し、衰弱した舞衣に取り付いた』
言葉にすればただそれだけの出来事。
なのにその言葉の中には、Dボゥイにとっての絶望が幾つも散りばめられていた。
死体に触れてみればまだ僅かに暖かい。
ああ、こんなに近くで、俺はお前を失ったのか。
「う……おおおおおおおおっ!!」
Dボゥイの原動力は憎しみだ。
弟を殺したラッド・ルッソへの、こんな殺し合いを強要する螺旋王への憎しみ。
だがそれらを上回るほどに彼の心に渦巻くのは、すべての元凶であるラダムへの憎しみ。
「ラダム……!! シンヤが死んだのに、貴様らは何故生きている……!
それどころかあの少女を慰み者にして生き延びようというのか、貴様らは……!!」
許せない。絶対に許すことは出来ない。
仲間達のおかげで薄まっていたそれは弟の死と、
救えるはずだった少女を奪われたことによって再び激しく燃え上がる。
そしてその心に呼応するように螺旋の力もより強く、瞬く。
「貴様らは……俺から父を! 兄を! 弟を! 妹を! 仲間を奪っておいて! それでもまだ足りないというのか!?
罪を償おうと、新しい一歩を踏み出そうとしていた舞衣からも未来を奪おうというのか!!
何処まで貴様らは……俺の、人間の運命を踏みにじれば気が済む!!!」
噛み締めた奥歯が砕け、握り締めた拳から血が滲む。
身体に滾るマグマのような激情は、慟哭へと変わる。
Dボゥイは吼える。怒りと憎しみを、傷だらけの魂に深く刻み付けるかのように。
「お……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ラダムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
【D-6/病院内/1日目/真夜中】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置尾済)、激しい怒り
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1:???
2-A:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
2-B:ゆたかと合流し、守る。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:ラッドをこの手で殺す。
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
***
鴇羽舞衣の本質は守ること。
言い換えれば彼女の本質は愛であるとも言える。
巧海に対する家族愛と姉弟愛。
命という少女に対して抱いた母性愛。
そして祐一やDボゥイに抱いた少女としての愛。
そのどれも心優しい少女が持つ深い愛の形だ。
だがラダムの悪意はそんな人間の美徳すら容易く歪ませる。
テッカマンソードとなったフォン・リーが、相羽ケンゴ――テッカマンオメガを愛するゆえに、他の者を利用することに躊躇わなくなったように。
――鴇羽舞衣は自分の弱さが嫌だった。
そのせいでとても多くのものを取りこぼしてしまったから。
取り返しのつかない過ちを幾つも重ねてしまったから。
だから舞衣は、折れることも、曲がることもない鋼のような心を欲した。
そう、まるでDボゥイのような。
Dボゥイの心の強さは、逆境という槌とラダムに対する憎しみという炎で鍛えられた刃(ブレード)のようなものだ。
ならば自分もそこを目指せば――同じ状況になれば、あの強さを得られるのではないだろうか?
普通ならばありえない発想。だがラダムはそれを肯定する。
ある少年の抱いた兄を超えるという目標を、兄を殺すということに置き換えたように。
強い心に憧れれば憧れるほど、結城奈緒と藤乃静留に対する殺意が膨れ上がっていく。
二人を殺せば、彼と同じステージに立てるという狂った論理を肯定する。
そして『彼と同じ』という単語はどうしようもなく舞衣の感情をくすぐった。
――鴇羽舞衣はDボゥイに心惹かれていた。
それはまだ恋心とも呼べないような漠然とした好意であった。
だからこそ彼を傷つけたラッド・ルッソが許せなかった。
だからこそ彼の心を支える“ゆたか”に嫉妬した。
その心は矛盾している。
彼を傷つけたくないのなら、ゆたかを殺してしまっては本末転倒だ。
もしそうなれば彼は誰よりも悲しみ、傷つくだろう。
だというのに、彼女に対する敵意が止まらない。
それは単なる嫉妬心だけではない。
彼の底にあるものは怒り。ラダムに対する、自分の愛するものを傷つけるものたちへの怒り。
ゆたかを殺せばその矛先が自分にも向くのは想像に難くない。
その事実はどうしようもないほど舞衣を悲しませる。
なのに、その一方で途方も無い歓喜に包まれる。
そして理解する。きっと相羽シンヤもこの喜びのために戦っていたのだと。
彼の心を独り占めに出来る。
弟を殺したラッドに対して放った、あの激しく真っ直ぐな怒り(こころ)を。
ああ、それはどんなに幸せなことだろう。
「……違うっ! そんなの幸せなんかじゃない!」
何より彼女の最大の不幸は、完全に乗っ取られなかったことかもしれない。
フォーマットせずに取り付いたが故のエラーなのか、これもまた螺旋王の設けた制限なのか、
――それとも舞衣の内部に渦巻く螺旋の力の恩恵なのか。
ラダムは舞衣の意志を完全に乗っ取りきれてはいなかった。
だがラダムによって歪まされたとは言え、生まれた考えは確かに自分自身のものなのだ。
友人を殺して強さを得るという狂った閃きも、
殺人鬼なら殺してもいいという短絡的な殺意も、
彼の心を支える少女への醜い嫉妬も、すべてが自身の心に巣食う闇。
自分の醜い面を常に見せ続けられる――これが拷問でなくて何と言うのだろう?
ラダムの本能は圧倒的で、このままではいつか、完全に自分が自分ではなくなってしまう。
強くなるために知り合いを殺そう/嫌だ。もう誰からも奪いたくなんてない
Dボゥイを傷つけるあの男を殺す/確かに許せないけど、もう誰も殺したくなんてない。
まだ死ねない。この力をラダムに持ち帰るまでは/まだ死ねない。なつきの願いを果たすまでは。
二つの意識が常に鬩ぎあい、その苦しみが舞衣を襲う。
だがこの苦しみに膝を折ったとき、鴇羽舞衣という存在は消え去ってしまうだろう。
それはきっと、死ぬよりも怖いことだった。
だがなつきから託された願いが自ら命を断つことも良しとしない。
二重拘束――狂うに狂えない、絶望の地獄。
そのあまりの苦しみに御伽噺の王子様のように誰かに助けて欲しいという弱い考えが頭をよぎる。
その脳裏に浮かぶのは一人の男の姿。
傷ついて、ボロボロになりながらも前へと進む男の姿。
「――助けて、Dボゥイ」
助けを呼ぶ声は誰にも届かないままで夜空に消えていく。
その両目から流れ出すのは透明な雫。
その雫が告げるのは今にも壊れそうな愛と、自らが撒き散らしてしまうかもしれない死の予感。
【D-6/上空/1日目/真夜中】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、ラダム虫寄生
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、鋏
[思考]:鴇羽舞衣としての意識と、ラダムとしての意識がせめぎあっています。
※鴇羽舞衣としての思考
1:もう誰からも奪いたくない
2:なつきに託されたとおり、藤乃静留を助ける
※ラダムとしての思考
基本:最終的にDボゥイを殺害する
1:“ゆたか”を探し出し、殺害する
2:結城奈緒、藤乃静留の両名を殺害し、“Dボゥイ”に近づく。
3:ラダム樹を探し出し、この身体のフォーマットを行う。
4:Dボゥイを守る為、力を手に入れ、ラッドを殺す
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHIMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※螺旋力半覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※どの方角へ向かっているかは不明です
* * *
舞衣の体内のラダム虫は新たに手に入れた個体に満足していた。
これほどの状態ならばあの脆弱な個体を見逃した甲斐があったというものだ。
先程まで病院内にいた雄雌のつがいも選択肢にはあったが、
どちらも健康体であり、取り付く隙があるようにも思えなかった。
それ故に見逃したが、その直後に衰弱したあの2人組がやってきたのは僥倖という他ない。
性能で見ればあの雄の個体のほうが上だろう。
そもそもあの個体にはその為にフォーマットを施したのだから、相性という点でも申し分ない。
だがあの個体はあまりにも損傷が大きすぎる。
クリスタルを手に入れ、テックセットしたとしても、今後の行動に耐えられる可能性は低い。
それに何より……観察の結果、あの個体はまもなく“崩壊する”。
不完全なフォーマット、戦いに次ぐ戦いの先に待つ答えは破滅。
それがテックシステムを作り出したラダムとしての結論であった。
そのような理由で消去法で選んだこの肉体だが、存外に悪くない。
ある程度の強度と運動能力を有し、目立った外傷もない健康体だ。
それに予想外の副産物も手に入れた。
エレメントと呼ばれる特殊な武器を物質化する能力。
さらにこの個体の記憶によればラダムマザーに匹敵する大きさの巨大な龍を召喚することもできるようだ。
――ラダムはそこに新たな進化の可能性を見出した。
何処かはわからないが、この場所には確かにラダム樹の反応がある。
この個体をフォーマットすれば、通常と順序は逆になるが新たなるテッカマンを生み出せる。
ラダム樹さえ見つけることができればHiMEの力と併せることで新たな進化の可能性を見出せるかもしれない。
ただ唯一気になるのは支配が完全でないということだろうか。
未フォーマット体に取り付いたデータ不足のため推測しか出来ないが、内部に感じる奇妙なエネルギーのせいだろうか。
だが、それも所詮は風前の灯。
人間の抵抗など高が知れている。我らラダムの目的の前には抵抗は無意味。
我らの目的とはすべての知識を得てラダムに持ち帰ること。
そう、すべてはラダムの進化と生存のために。
***
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|332:[[愛と死の予感(前編)]]|Dボゥイ| 240:[[天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds-]]|
|332:[[愛と死の予感(前編)]]|鴇羽舞衣|234:[[ファイアスターター]]|
|228:[[刻無―キズナ― 零 完全版]]|ラダム|234:[[ファイアスターター]]|
**愛と死の予感(後編)◆DNdG5hiFT6
* * *
――Dボゥイは夢を見る。
それは先程も見た夢、敵にゆたかが連れ去られ、それを阻止できない無力な自分がいる夢だ。
だが一つだけ違いがある。
ゆたかをさらった“敵”の姿がシンヤではなく、ラッドに置き換わっている。
『いやぁ! 離してください! Dボゥイさーん!!』
『オイオイオイ、そう言われて離す奴がいるのかよ?
いやぁ、背負うものが沢山あると大変だよなぁ、タカヤ兄さん?』
その光景が夢だと分かっている。現実ではないと知っている。
だがDボゥイの憎しみは止まらない。
無駄だと知りつつも四肢に力を込め、呪縛を打ち破ろうと、もがく。
「何でそんなに助けたいんだい?」
そんな時だった。
隣から聞き覚えのある声がかけられたのは。
「ゆたかをミユキと重ねているのかい?
だとしたらそれは彼女にもミユキにも失礼じゃないのかい、兄さん」
「黙れ! ミユキを殺したお前に言う資格は――」
だがその顔を見たDボゥイは言葉を失う。
そこにいたのは予想通り、確かに相羽シンヤだ。
だが、その顔には穏やかな表情が浮かんでいる。
まるで、二度と戻らないあの日のような。
「シン……ヤ……?」
「まあ、彼女を助けたいのなら急いだほうがいい。
何の力も持たない彼女は何時死んだっておかしくない……
いや、この場所では誰だって同じことなのかもしれないけどね」
そう呟くシンヤの姿はどこか諦観していて、らしくない。
まるで『さっさとゆたかを助けに行け』と言っているようだ。
「シンヤ……何故……」
「さあね、ただ……兄さんもゆたかも、あの男に殺されるのだけは我慢がならなかっただけさ」
次第に白い霧に覆われていくシンヤの姿。
Dボゥイの意識も覚醒に向かっていく。
もう、殆どシンヤの顔も見えない。その声も聞こえなくなっていく。
だが最後にシンヤの口が動くのが見えた。
――負けないでくれよ、兄さんは
そう、言われた気がした。
* * *
自身の鼓動でDボゥイは目を覚ました。
激しい動悸に呼応するように全身に嫌な汗が浮かんでいる。
Dボゥイの心には言いようのない不安が浮かび上がっていた。
その心を占めるのは先程まで見ていた夢のこと。
夢にしてはあまりにも暗示的だ。
今まで見た悪夢とは違う、警告めいた夢。
そのことを考えるだけで焦りとも何とも言えない感情が湧く。
そうだ、もともと早く合流するつもりだったのだ。
一刻も早く行動を起こそう。
今すぐに舞衣を起こして、病院を発つ……そう決意した瞬間、やっと気付く。
自分のベッドのすぐ傍に舞衣が立っている事に。
「どうした……舞衣」
だが舞衣は答えない。
ただ、答えの代わりとでも言うかのように、右手を振りかざす。
そこでDボゥイは初めて気付く。その右手に握られた凶器の姿に。
振り下ろされる右手の鋏。
だが、刃が顔に触れるすんでのところで手首を押さえ、食い止める。
「何を……!!」
腕にかかる力は少女のものと思えないほどに強い。
それが意味するのは舞衣は本気で殺す気だということ。
Dボゥイの頭の中を疑問ばかりが駆け抜ける。
先程流した涙は偽りだったのか?
『もう誰からも奪いたくはない』という言葉は嘘だったのか?
「何故だ……答えろ、舞衣!」
その言葉にも舞衣は答えない。
だが、その答えは言葉以外の形でDボゥイに告げられた。
それは、Dボゥイの頬にポロポロと零れる冷たい雫。
舞衣は泣いていた。
瞳に僅かな緑色の渦光を宿らせて。
「逃げ……て……Dボゥイ……」
「……どうしたんだ」
「……もう、奪い、たくない! 失うのも、消えるのも、もう嫌、なのに!」
しゃくりあげるようにすすり泣く。
「どうしようもなく憎いの!!
結城さんや会長さん、あの男や、ゆたかって娘――それに何よりアンタを殺したくてたまらないの!!」
口から出る言葉は憎悪そのもの。
だがそれを語る少女の顔は訳も分からず泣きじゃくる子供のようで、あまりにもちぐはぐだ。
――嫌な、予感がする。
先程シンヤの夢を見たせいだろうか? それとも自身のうちに眠るラダムの力が共鳴しているのだろうか?
感情が、本能が、直感が……理性以外のすべてがその答えを指し示している。
だが、そんなことが、あるはずが――ない。
「……ねえ、Dボゥイ、聞いてもいい?」
呆然とするDボゥイに向かって、舞衣は泣きながら笑いかける。
「ラダムに取り付かれたら、助かる方法って、ある?」
そして目の前の少女自身が最悪の可能性を突きつけた。
「何を……言っている」
ありえない。こんな場所にラダムがいるはずがない。
ありえない。ラダムに取り付かれたものが涙を流すことはない。
だが舞衣がいきなり凶行に走る理由が見当たらない。
そしてやはり自分の中の何かが、舞衣の言葉を肯定している。
「あはは……やっぱり、無いんだ……
さっきから、無理やり、さ、頭の中に流れ込んでくるんだ……
人間を殺せ、破壊しろ……って。裏切り者のブレードを始末しろ……って。
その手で何もかも奪ってしまえ、……って!」
あまりの出来事にDボゥイの両手から力が抜ける。
舞衣はその隙に腕を振り解くと、窓に足をかけた。
その両手両足には飛行を可能とする戦輪の姿がある。
「待て! 待つんだ舞衣ッ!」
「こないで! ついてきたら私は、きっと……!!」
――貴方を殺してしまうから。
それ以上話せばその言葉に引きずられてしまう、とでも言うかのように言葉を切り、俯く。
「ねぇ……Dボゥイ」
月明かりに照らされたその顔はやはり泣き笑いの表情で。
「もう一度会った時、私が私じゃなくなってたら……殺して。
もう私は……誰からも奪いたくなんて……ない……」
最後にそう言い残して飛び去っていく。
漆黒の闇夜の中へ、飛び込んでいく。
「舞衣ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
伸ばされた手は届かない。
空を舞う少女の後姿はあっという間に見えなくなっていく。
「くそっ!」
苛立ちのまま、ベッドに拳を叩きつける。
これが彼女に与えられた罰だというのか?
ふざけるな。そんなもの俺は認めやしない。いや、認めてなどなるものか!
一縷の望みに懸けて、ふらつく体を叱咤し舞衣を追いかける。
そう、もしも彼女が完全にラダムに支配されているのなら、鋏などではなく火によって焼き尽くせばいい。
何故かは分からないがラダムの支配が完全ではないことだけは確かだ。
ならばまだ間に合うかもしれない。助けられるかもしれない。
血は取り戻したものの、内臓は依然傷ついたままだ。
それでも意志を螺旋の力と変え、ボロボロの体を突き動かす。
『あなたの30分を私にちょうだい。
例え、あなたが悪魔になり、あなたに殺されるその瞬間でも、私はあなたを信じる。
あなたの心の中に息づく人間の心を、私は信じる。だから、あなたの30分を私にちょうだい!』
彼の心に浮かぶのは仲間がかつて言った信頼の言葉。
あの時、ラダムの本能によって暴走した自分は仲間達のお陰で元に戻れた。
たとえ取り付かれたのだとしても大して時間は経っていない。
支配が不完全な今のうちなら、まだ何か方法があるかもしれない。
希望は意志を後押しし、Dボゥイの足は一層速まる。
だが、玄関へ向かう最中でその足は止められた。
何よりも濃密な血の匂いが四角の左側――丁度玄関に向かうDボゥイの視界の中――病室から臭っている。
誰かが殺されたのだろう。この場所では決して珍しいことではない。
だが、ならば何故、こんなに心臓が脈打っているのだ?
言いようの無い予感めいた衝動がDボゥイをその病室へ進ませる。
その部屋の中央、血だまりの中に鎮座していたのは頭と右腕のない男。
人を人として判別するべき顔がないのではその人物の判別は難しい。
だがDボゥイは人物のその服装に見覚えがあった。
それは忘れもしない。数時間前、戦いそしてゆたかを連れ去った男の服。
ライバルであり、愛憎入り混じった感情を抱く男の服。
いや、服などが違ったとしても、例えどんな姿になったとしても、
Dボゥイがその男を見間違えることなどなかっただろう。
何故ならばその男は自分の半身なのだから。
そしてDボゥイは理解する。ここにあるのが間違いなく、弟の成れの果てだということを。
「シン……ヤ……!」
それだけでここ数時間のうちに病院であったことを理解する。
『ラッドに殺されたシンヤの体からラダム虫が脱出し、衰弱した舞衣に取り付いた』
言葉にすればただそれだけの出来事。
なのにその言葉の中には、Dボゥイにとっての絶望が幾つも散りばめられていた。
死体に触れてみればまだ僅かに暖かい。
ああ、こんなに近くで、俺はお前を失ったのか。
「う……おおおおおおおおっ!!」
Dボゥイの原動力は憎しみだ。
弟を殺したラッド・ルッソへの、こんな殺し合いを強要する螺旋王への憎しみ。
だがそれらを上回るほどに彼の心に渦巻くのは、すべての元凶であるラダムへの憎しみ。
「ラダム……!! シンヤが死んだのに、貴様らは何故生きている……!
それどころかあの少女を慰み者にして生き延びようというのか、貴様らは……!!」
許せない。絶対に許すことは出来ない。
仲間達のおかげで薄まっていたそれは弟の死と、
救えるはずだった少女を奪われたことによって再び激しく燃え上がる。
そしてその心に呼応するように螺旋の力もより強く、瞬く。
「貴様らは……俺から父を! 兄を! 弟を! 妹を! 仲間を奪っておいて! それでもまだ足りないというのか!?
罪を償おうと、新しい一歩を踏み出そうとしていた舞衣からも未来を奪おうというのか!!
何処まで貴様らは……俺の、人間の運命を踏みにじれば気が済む!!!」
噛み締めた奥歯が砕け、握り締めた拳から血が滲む。
身体に滾るマグマのような激情は、慟哭へと変わる。
Dボゥイは吼える。怒りと憎しみを、傷だらけの魂に深く刻み付けるかのように。
「お……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
ラダムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」
【D-6/病院内/1日目/真夜中】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置尾済)、激しい怒り
左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1:???
2-A:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
2-B:ゆたかと合流し、守る。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:ラッドをこの手で殺す。
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
* * *
鴇羽舞衣の本質は守ること。
言い換えれば彼女の本質は愛であるとも言える。
巧海に対する家族愛と姉弟愛。
命という少女に対して抱いた母性愛。
そして祐一やDボゥイに抱いた少女としての愛。
そのどれも心優しい少女が持つ深い愛の形だ。
だがラダムの悪意はそんな人間の美徳すら容易く歪ませる。
テッカマンソードとなったフォン・リーが、相羽ケンゴ――テッカマンオメガを愛するゆえに、他の者を利用することに躊躇わなくなったように。
――鴇羽舞衣は自分の弱さが嫌だった。
そのせいでとても多くのものを取りこぼしてしまったから。
取り返しのつかない過ちを幾つも重ねてしまったから。
だから舞衣は、折れることも、曲がることもない鋼のような心を欲した。
そう、まるでDボゥイのような。
Dボゥイの心の強さは、逆境という槌とラダムに対する憎しみという炎で鍛えられた刃(ブレード)のようなものだ。
ならば自分もそこを目指せば――同じ状況になれば、あの強さを得られるのではないだろうか?
普通ならばありえない発想。だがラダムはそれを肯定する。
ある少年の抱いた兄を超えるという目標を、兄を殺すということに置き換えたように。
強い心に憧れれば憧れるほど、結城奈緒と藤乃静留に対する殺意が膨れ上がっていく。
二人を殺せば、彼と同じステージに立てるという狂った論理を肯定する。
そして『彼と同じ』という単語はどうしようもなく舞衣の感情をくすぐった。
――鴇羽舞衣はDボゥイに心惹かれていた。
それはまだ恋心とも呼べないような漠然とした好意であった。
だからこそ彼を傷つけたラッド・ルッソが許せなかった。
だからこそ彼の心を支える“ゆたか”に嫉妬した。
その心は矛盾している。
彼を傷つけたくないのなら、ゆたかを殺してしまっては本末転倒だ。
もしそうなれば彼は誰よりも悲しみ、傷つくだろう。
だというのに、彼女に対する敵意が止まらない。
それは単なる嫉妬心だけではない。
彼の底にあるものは怒り。ラダムに対する、自分の愛するものを傷つけるものたちへの怒り。
ゆたかを殺せばその矛先が自分にも向くのは想像に難くない。
その事実はどうしようもないほど舞衣を悲しませる。
なのに、その一方で途方も無い歓喜に包まれる。
そして理解する。きっと相羽シンヤもこの喜びのために戦っていたのだと。
彼の心を独り占めに出来る。
弟を殺したラッドに対して放った、あの激しく真っ直ぐな怒り(こころ)を。
ああ、それはどんなに幸せなことだろう。
「……違うっ! そんなの幸せなんかじゃない!」
何より彼女の最大の不幸は、完全に乗っ取られなかったことかもしれない。
フォーマットせずに取り付いたが故のエラーなのか、これもまた螺旋王の設けた制限なのか、
――それとも舞衣の内部に渦巻く螺旋の力の恩恵なのか。
ラダムは舞衣の意思を完全に乗っ取りきれてはいなかった。
だがラダムによって歪まされたとは言え、生まれた考えは確かに自分自身のものなのだ。
友人を殺して強さを得るという狂った閃きも、
殺人鬼なら殺してもいいという短絡的な殺意も、
彼の心を支える少女への醜い嫉妬も、すべてが自身の心に巣食う闇。
自分の醜い面を常に見せ続けられる――これが拷問でなくて何と言うのだろう?
ラダムの本能は圧倒的で、このままではいつか、完全に自分が自分ではなくなってしまう。
強くなるために知り合いを殺そう/嫌だ。もう誰からも奪いたくなんてない
Dボゥイを傷つけるあの男を殺す/確かに許せないけど、もう誰も殺したくなんてない。
まだ死ねない。この力をラダムに持ち帰るまでは/まだ死ねない。なつきの願いを果たすまでは。
二つの意識が常に鬩ぎあい、その苦しみが舞衣を襲う。
だがこの苦しみに膝を折ったとき、鴇羽舞衣という存在は消え去ってしまうだろう。
それはきっと、死ぬよりも怖いことだった。
だがなつきから託された願いが自ら命を断つことも良しとしない。
二重拘束――狂うに狂えない、絶望の地獄。
そのあまりの苦しみに御伽噺の王子様のように誰かに助けて欲しいという弱い考えが頭をよぎる。
その脳裏に浮かぶのは一人の男の姿。
傷ついて、ボロボロになりながらも前へと進む男の姿。
「――助けて、Dボゥイ」
助けを呼ぶ声は誰にも届かないままで夜空に消えていく。
その両目から流れ出すのは透明な雫。
その雫が告げるのは今にも壊れそうな愛と、自らが撒き散らしてしまうかもしれない死の予感。
【D-6/上空/1日目/真夜中】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、ラダム虫寄生
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、鋏
[思考]:鴇羽舞衣としての意識と、ラダムとしての意識がせめぎあっています。
※鴇羽舞衣としての思考
1:もう誰からも奪いたくない
2:なつきに託されたとおり、藤乃静留を助ける
※ラダムとしての思考
基本:最終的にDボゥイを殺害する
1:“ゆたか”を探し出し、殺害する
2:結城奈緒、藤乃静留の両名を殺害し、“Dボゥイ”に近づく。
3:ラダム樹を探し出し、この身体のフォーマットを行う。
4:Dボゥイを守る為、力を手に入れ、ラッドを殺す
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHiMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※螺旋力半覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※小早川ゆたかについては、“ゆたか”という名前と、“自分より年下である”という認識しかもっていません。
※どの方角へ向かっているかは不明です
* * *
舞衣の体内のラダム虫は新たに手に入れた個体に満足していた。
これほどの状態ならばあの脆弱な個体を見逃した甲斐があったというものだ。
先程まで病院内にいた雄雌のつがいも選択肢にはあったが、
どちらも健康体であり、取り付く隙があるようにも思えなかった。
それ故に見逃したが、その直後に衰弱したあの2人組がやってきたのは僥倖という他ない。
性能で見ればあの雄の個体のほうが上だろう。
そもそもあの個体にはその為にフォーマットを施したのだから、相性という点でも申し分ない。
だがあの個体はあまりにも損傷が大きすぎる。
クリスタルを手に入れ、テックセットしたとしても、今後の行動に耐えられる可能性は低い。
それに何より……観察の結果、あの個体はまもなく“崩壊する”。
不完全なフォーマット、戦いに次ぐ戦いの先に待つ答えは破滅。
それがテックシステムを作り出したラダムとしての結論であった。
そのような理由で消去法で選んだこの肉体だが、存外に悪くない。
ある程度の強度と運動能力を有し、目立った外傷もない健康体だ。
それに予想外の副産物も手に入れた。
エレメントと呼ばれる特殊な武器を物質化する能力。
さらにこの個体の記憶によればラダムマザーに匹敵する大きさの巨大な龍を召喚することもできるようだ。
――ラダムはそこに新たな進化の可能性を見出した。
何処かはわからないが、この場所には確かにラダム樹の反応がある。
この個体をフォーマットすれば、通常と順序は逆になるが新たなるテッカマンを生み出せる。
ラダム樹さえ見つけることができればHiMEの力と併せることで新たな進化の可能性を見出せるかもしれない。
ただ唯一気になるのは支配が完全でないということだろうか。
未フォーマット体に取り付いたデータ不足のため推測しか出来ないが、内部に感じる奇妙なエネルギーのせいだろうか。
だが、それも所詮は風前の灯。
人間の抵抗など高が知れている。我らラダムの目的の前には抵抗は無意味。
我らの目的とはすべての知識を得てラダムに持ち帰ること。
そう、すべてはラダムの進化と生存のために。
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