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俺にはさっぱりわからねえ!(前編) - (2008/04/15 (火) 00:53:37) の最新版との変更点
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**俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk
「ブルゥゥゥゥウウウァァアアアアアアアアア!!!」
雄たけびと共に海面から謎の物体が飛び出した。
それを一言で言えば“V”
見るからに“V”
明らかに“V”
美しいまでに“V”
海水を飛沫に変えて全身から飛ばす“V”
月明かりに照らされてるよ“V”
意味もなく飛んじゃってるよ“V”
何でポーズ決めてんだよ“V”
そりゃVだからだろ“V”
ま、Vじゃしょうがねぇな“V”
“V”だしな。
うん、“V”だから。
て名感じで、まさに全身で“V”の字を表現している謎の生命体である。
「ビクトリーーーーーーム!!!!」
人の認識する常識を一足飛びで飛び越えた想像外の容姿を持つそれは、一旦中空で華麗にポーズを決める。
そして、恍惚とした表情を浮かべた後、その表情のまま確かな地面へと着地する。当然、“V”の体勢を維持したままで。
さて、ではわかりやすいように現状の説明を挟もう。
謎の生命体こと、ビクトリームは空に消えた少女二人を追うために会場のループに従って再び海へと飛び出した。
改めて言う事でもないが、これでもビクトリームとて魔物の子である。
身体能力は常人を軽く凌駕している存在であり、そもそも、さほど高くもない波で溺れる事自体ありえないのだ。
先ほど溺れた理由はただ一つ、頭部と胴体が離れていたため、泳ぐために必要なバランスを失ってしまったから、という他ない。
バランスを失えば、当然泳ぎ方は醜く崩れる。加えて準備運動もせずに泳ぐなど愚の骨頂。
結果として、心身ともに不安定なままバランスを保てず不自然な体制になり、足を攣り、そのまま溺れるのは必然といえよう。
つまり、頭部と胴体がしっかりと繋がってさえ居れば、ビクトリームが溺れる事などありえないのである。
その反省点を踏まえ、今回は事前対策も万全だ。
先ほど出会った額に“X”の傷跡を持つ男から手に入れた鎖で体と頭部を強引につなぎ合わせ、頭部と胴体が分離しないようにしている。
これでバランスも万全。もう波に流される事もない。
ビクトリームは意気揚々と対岸に向かって泳ぎ始めた。
そして結果として辿り着いたのが今の状況である。
想定どおり、波を物ともしない泳ぎで視界に捉えていた対岸まで泳ぎきったどころか、勢いに任せたまま飛び上がり、Vの姿勢で着地。
自身の泳ぎっぷりと、『一度溺れた』という事実を跳ね除ける事ができたという達成感。
その事実に酔いしれるあまり、恍惚とした表情でついお決まりのポーズを作ってしまったのである。
「いいぞぉ!我が体よ!素晴らしいまでに美しいVの体勢だ!」
両足を綺麗に揃え、両手を自身の頭部のVの字と寸分狂わぬ角度で頭上へと上げたその姿は、本人曰く、華麗なるVの体勢との事。
この体勢こそが彼にとっての至高の体勢なのであろう。
この瞬間だけは、自身の目的すらも一瞬とはいえ忘れさせるのかもしれない……。
「と、それどころではない!
早く小娘どもを探さねば!」
数秒間の後、自身の目的をようやく思い出したようにVの体勢を解き、空へと視線を滑らせる。
だが、残念ながら目に映る範囲に目的の存在を見つけられない。
まぁ、考えてみれば当然ある。
二人の少女、シータとニアを見失ってから既に30分以上が経過している。
高速で飛び去ってしまった最後の姿を思い出す限り、こんな近くに二人の姿を確認できるはずはない。
それこそ、ループを利用して、会場を一周して再びここに戻ってくるでもない限り見つかる事はないだろう。
「クッソォォ~、私とした事がぁぁ……」
全身に鎖を巻きつけたVの字を模った奇妙なオブジェに、人の四肢とは明らかに掛け離れた手足を生やしているそれが、見るからに肩を落として落ち込み始める。
いはやは、なんとも奇妙な光景だ。
まぁ、そもそも、人ならざるものが落ち込んでいる時点で、それは人の認識の範囲外の出来事。
いうなれば、ビクトリームの一挙手一投足全てが奇妙な行動という括りで片付ける事ができるのである。
もしこの光景を誰かが見ていたら、奇妙すぎるあまり近づこうとさえ思わない事だろう。ま、関係ない話だ。
「こうなったら、何が何でもあやつらを見つけてくれるわ!
必ず私が貴様らを、いや、ベリィ~なメロンを取り戻してやる!
まってろ小娘どもォォォ!!!」
僅か5秒で気を取り直したのは流石は“V”といった所か。この際、何が流石なのかは考えたくもない。
ビクトリームは確かな進路をも定めぬまま走り出した。
ただ闇雲に、ただ全力で、たった一つの目的のために走り出したのだ。
当然、頭上で響いている放送など聞き流して。
そして数分後、その闇雲に動かし続けた足が不意に止まった。
◆ ◆ ◆
ピクリと小指が動き、固い感触に触れた。
濡れた指がザラリとした物を撫でる。
これは……、石?砂?
あれ?私は、死んだはずでは……。
理解できない状況のまま閉じていた瞼を持ち上げる。
すると、そこには先ほど落ちていく時に見たと同じような星空が広がっていた。
――助かった……のでしょうか……。
濡れた髪を重たく感じながら、私は視界を左右に走らせる。
すると、少し離れた場所に立っている金色の髪をした子供と、青い髪をした男の人が見えた。
――あの方達が助けてくれた?
疑問に思いながらも、これまで受けてきた教育のせいか、お礼を言わなければという衝動に駆られる。
体を起こそうとする。
どうやら体に異常はないらしい。
少し力を入れただけで起き上がる事ができた。
――お礼を、お礼を言わなければ……。
そう考えて声を発しようとした瞬間、離れた場所に立っている青い髪の男の方から声が聞こえてきた。
それに自然と耳を傾けてしまう。
『……カミナ。彼女を保護しますか? 万一ゲームに乗っていたら……』
「……ああ。ま、そん時はそん時だ」
一人しかいないというのに二人分の声が聞こえてきた。
一瞬疑問に思ったが、今はその会話を耳に入れることだけで精神的にも精一杯だ。
仕方ないので、会話の中から最優先で考えるべき単語のみを拾い上げる。
――か、みな……。
何でしょう、どこかできいた事があるよう……。
それは何度も聞いた気がする単語。
いや、単語じゃない。
それは名前だ。
誰か、大切な、大切な人の名前……。
そう思った瞬間、私はある事に気がついた。
目の前の男の人、よく見れば、その姿形にはどこか見覚えがある。
そう、それは、シモンが部屋で一人で作っていた、あの……。
――か、み、な……、カミナ……、もしかして!?
気が着けば目の前に左右が鋭くとがったサングラスが浮かんでいた。
数秒間思考の渦の中に居たため、目の前まで探し人の接近に気付けなかったのだ。
「よう、目が覚めたか? 気分はどうだ?」
シモンのアニキさんが、そこに居た……。
◆ ◆ ◆
少女が目を覚ました時、もう一つの生命も意識を取り戻していた。
『あれぇ?何だ…、ボク、いったい……』
それは魚。
ブリと呼ばれる全長1.5メートルほどある回遊魚である。
『あ、まただ、また呼吸ができない』
目覚めたばかりだが、ブリは早速死に掛けていた。
理由は単純。
本来深海100メートルほどで生息しているはずの存在が、なぜか現在は陸に上がっているからである。
『く、苦しいよ! 早く、早く戻らなきゃ……、ボクの居場所に……』
本能が囁くのだろうか、ブリは漠然とだが海がある方向と距離を理解していた。
ゆえに、必死にその方向へ体を向けようとする。
だが、残念なことにどうしても体が動かない。
本来帰るべき場所である海までは僅か1メートルもないというのに……。
『なんで……、どうして……』
必死になって理由を探し始める。
すると、理由はすぐに見つかった。
自身の体に巻きつけられていたロープが近くに居た人間に掴まれていたからだ。
『そんな!離して!離してよ! このままじゃボク、死んじゃうよ!』
ブリの訴え。
勿論届かない。
ブリの言葉が人に通じるはずはないのだ。
『嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……、こんなとこで死ねないよ!
さっき決意したばかりじゃないか!』
理不尽な事態にブリは必死に抵抗を始める。
それこそ、先ほど抱いた決意のままに自身の体に湧き上がる『生存』という単純な本能に身を任せる。
『ボクは死にたくない!
死んでたまるか!
絶対に生き延びてやる!』
それはもう必然の事態になっているのかもしれない。
ブリがそう思った瞬間、再び自身の体に力が沸いた。
見ればあの緑色の光がまたも彼を包んでいる。
『いける!』
ブリの決意は再び体を動かす事に成功した。
絶対的な『生きたい』という願いと共に体に巻きつけられたロープを振りほどき、ブリは海へと自身の体を躍らせたのだった。
◆ ◆ ◆
「ンヌ?」
「あっ!」
背後で聞こえたるは響く様な水を叩く音。
その音に反応し、二人の男は目の前の少女の事を一時的に忘れ、慌てて音の聞こえた方に視線を向ける。
すると案の定、そこにはあるべき物が既に無い光景が映し出されていた。
「ブ、ブリがぁぁーーーー!!!!」
状況を受け止め、真っ先に飛び出したのは金色の髪を海水で濡らした少年の方。
改めて言うことでもないが、少年、ガッシュにとっての“彼”は、単なる栄養源等という言葉では収まりきれない。
言ってしまえば、これは既に愛だ。
好きで好きで好きで好きで、まっしぐらという言葉を猫如きに独占されるのが我慢なら無いほど、『ブリ』という名の彼を愛しているのである。
ガッシュにとってブリとは幸福だ。それさえあれば自身の欲求の内の『食欲』という欲求は肉体的にも精神的にも確実に満たされる。
それを理解しているからこそ、目の前の光景、さっきまでそこにあったはずの“彼”=『ブリ』が逃げ出したという事実は、今のガッシュには耐えられないのだ。
欲求の内の大半を食欲で占めてる彼だからこそ、現状さえも視界から消し、何を置いても欲望に順ずるまま行動に移すのも当然といえよう。
少年は何も考えない。ただ、自身の衝動が示すままに行動しただけだ。
その先に何が待っているのか、また、自身の行動が世界にどう影響を齎すかなど、一ミリたりとも考えはしない。
確保していた獲物が逃げた焦りと僅かな怒りに翻弄されるまま、獲物を奪われた狼のように瞳をギラつかせつつ、追いかけるようにその身を再び海面へと羽ばたかせる。
それだけだ、本当にただそれだけ。
そんな容易い感情一つで、少年は明かりも何も無い漆黒の海へと消えていく。
数瞬後、先ほど聞こえてきたと同種の水音が虚しく響き渡った。
「ま、待て!ガッシュ!」
ブリが逃げ出したことに気づいたのは隣に居た青い髪の青年、カミナも同じ。
だが、カミナはガッシュほどブリに執着は無かった。
船での食事で幾分かは腹は満たされている上に目の前の少女の存在の方が遥かに気にかかる。
ゆえに、ガッシュの様に勢いに任せたまま飛び出すということはない。
カミナはただ見ていただけだ。ガッシュが海へと飛び込む瞬間を。
響き渡る水音に水飛沫。
ガッシュが海へとダイブした証拠である。
「クッソ!……チッ!クロミラ!!」
言葉尻は慌てながらも、即座に最善の判断を下す。
この状況でガッシュの追う最善の一手は唯一つ、クロスミラージュにガッシュの魔力を探知してもらい、決して見失ってはいけないということだ。
『マズイですよカミナ!
魔力の反応は海岸沿いを北に向かって高速で移動しています。
このままでは直ぐにでも禁止エリアに飛び込む事に……』
クロスミラージュの言葉にカミナの顔に焦りの色が浮かぶ。
「マジかよ!?何でそうなんだ!
しょうがねぇ、俺達も追うぞ」
少女の事が気になりながらもカミナは決断する。
大切な仲間が生命の危機に瀕しているとわかった以上、少女の事ばかりに気を取られるわけにはいかないからだ。
だが、だからといってガッシュと同じように海へ飛び込むという無謀な事はしない。
いまだ泳ぎが覚束ないカミナに常人を遥かに超える体力を持つ魔物の子、ガッシュを追うのは不可能というものだからだ。
それはクロスミラージュの反応からも十分に理解できる。
ゆえに、飛び込んで追いかけるという選択肢はない。
カミナが下した判断は、ガッシュを見失わないように陸路を使って追うという一般的なものとなった。
『当然です。ですが、彼女をこのままというわけにもいきません、どうするつもりですか?』
クロスミラージュの言葉に走り出したい衝動を抑えカミナが一瞬の思考をめぐらす。
目の前の少女をどうするか、それは重要な問題だ
そもそも、少女の名前さえも聞いていない上に、安全か危険かの漠然とした判断もまだなのである。
こんな状況で、もし何も考えずにガッシュを追うという選択肢を選んでしまったせいで背後から襲われでもしたら、それこそ笑い話ではすまない。
ここは冷静な判断をすべき場面である。だが……。
「んな事は、走りながら考える!
おい、いきなりで悪ィが一緒に来てもらうぜ、立てるか?」
カミナの下した決断、それは、この状況ではもっとも愚かで、もっとも軽率なものだった。
いまだキョトンと状況を理解できていない少女に向かって右手を伸ばし、立ち上がらせようとするカミナ。
それをクロスミラージュが慌ててとめる。
『ま、待ってくださいカミナ、まだ殺し合いに乗った人間かどうかの判別もまだです。そんな軽率な行動は……』
「うるせぇ!黙ってろ!
理由ははっきりわかんねぇし、説明もできねぇが、コイツは大丈夫なんだよ!
こいつを信じろ、こいつを守ってやれ、そんな風に、なんかこう、心の奥底で色んなもんがざわめくんだよ」
『で、ですが……』
「いいから!テメェは俺を信じればいい!こいつを信じる俺を信じやがれ!」
相も変わらず、独自の理論で切迫した状況の中で自身を貫こうとする。
それに振り回される方は正直たまったものじゃないだろう。
だが、カミナという男、それを平然と貫き通してなお、人を惹きつける魅力を持つ男なのだ。
短い時間とはいえ、それを何度も目の当たりにしてきたクロスミラージュは続く言葉を失ってしまったのは必然といえよう。
こうなってしまえば、何を言っても無駄というものである。
ちなみに、カミナ自身なぜ自分がこんな事を言い出すのか分かってはいない。
ただ、漠然と記憶、いや、心に刻んでいるのだ。
目の前の少女は守らなければならない、と……。
「おい、どうした?なにボケッとした目で見てんだよ。やっぱどっか調子悪いのか?」
ガッシュを追うために移動しながら少女から事情を聞こうとしたカミナは、少女を立ち上がらせるために右手を伸ばしていた。
しかし、いつまでたっても少女はその手を取らない。
恐れているのだろうか?一瞬そう考えたが、そういうわけでもない。
手を伸ばすカミナに呆気に取られた様な二つの瞳を無遠慮に突き刺したまま固まっているからだ。
「なんだぁ?俺の顔になんかついてんのか?」
その眼差しをむず痒く感じたカミナは強引に少女の手を取って立たせようとする。
すると、その瞬間、まるで意識を取り戻したように少女の表情が光ったように綻んだ。
「貴方が、シモンの……、シモンの言っていたアニキさん、なのですね!?」
そして突然、そんな言葉が少女から発せられた。
目を見開くカミナ。
そのカミナを太陽のような笑顔で見つめる少女。
タイミングを合わせるかのように、いや、あざ笑うように、螺旋王の放送が始まった。
◆ ◆ ◆
『禁止エリアへの侵入を確認しました。
警告を無視して一分後までに退避しない場合、首輪の爆破機能が起動します』
ブリを追いかけるガッシュには当然そんな声は聞こえない。
警告音が聞こえていないという事は、当然放送の事など知る由もない。
ガッシュが見ているもの、それは猛スピードで泳いでいる一匹の魚のみだ。
「ウヌゥ~!待つのだぁ~!」
水中でその言葉が正常に発せられたかは定かではない。
だが、目前に居るブリにはそれで十分なのだ。
ガッシュにとっては何が何でも捕まえるという決意の現われ。
対するブリにしてみれば、それは確かな開戦の狼煙。
弱肉強食の理に従い、捕まったら自分の人生はそこで終わるという生存をかけた戦いなのである。
ゆえにこれは、確かに命を掛けた一対一の戦いと言っていいだろう。
泳ぐ、泳ぐ、螺旋力に目覚めたブリの速さは尋常ではない。
既に常識的な回遊魚の泳ぐ速度を遥かに凌駕している。
対するはガッシュ。
本来は、ただの子供が水泳の王者とも言うべき1メートルを越す巨体を誇るブリの泳ぎに適うはずはない。
だが、ガッシュは普通の子供ではないのだ。
ガッシュは魔物の子。
それも、幾多の戦いを潜り抜けたお陰で、魔物の中の常識をも超えた身体能力を獲得した子供なのである。
その泳ぐ速度は普通の回遊魚に勝るとも劣らない。
加えて、螺旋力に目覚めているのはガッシュも同じ。
自力の差が同じであり、螺旋力にも目覚めているとあらば、この戦いの勝敗を決めるのは、双方の決意。
つまり、螺旋力をどれだけひねり出せるかという事である。
逃げるブリ。
追いかけるガッシュ。
数分後、戦いはあっけなく結末を迎えた……。
◆ ◆ ◆
ビクトリームは一つの事実の前に時を止めていた。
彼の見つけたもの、それは、一人の男の死体。
大きく広がった血溜まりの上にうつ伏せで倒れている肉の塊。
頭が割られ、頭蓋が完全に砕かれ、脳みそどころか顔のパーツ一つ一つですら原形をとどめていない、男の死体。
大量に広がった血を掃除するように吸い上げたのだろう、白いシャツが赤く染まっている。
加えて、割られた頭部に張り付いている髪も、それが元は金髪だったという事実も、おそらく科学捜査でもしないと判別しない事だろう。
つまり、男の死体を一言で表すとしたら、『赤一色』、それ以外ない。そんな死体だ。
男の死体を目の当たりにした瞬間、ビクトリームは固まった。
勿論、死体に恐怖したというわけじゃない。
ビクトリームとて魔物同士の戦いで相手の命を奪いかねないような術を幾重にも見てきた。
戦いに敗れた場合、そのような結末を予期していないはずもなく、心を乱さない程度の覚悟は常に持っている。
まぁ、流石にここまで凄惨な死体を想定していたわけではないので一瞬は息を呑んだが、
それ以上に、その死体が放つ何ともいえぬ存在感がビクトリームの足を止めさせたのだ。
ビクトリームは何かを感じ取っていた。
それまで行使してきた我道を貫くような振る舞いが一旦鳴りを潜めてしまうほど、冷静な思考が求められる事態に直面したと感じ取ってしまったのである。
なぜなら、男はビクトリームを動揺させるものを持っていたからだ、抱えるように、守るように……。
「これは……、魔物のパートナーか?」
そう呟いた理由はただ一つ。
うつ伏せに倒れた男の死体から、僅かに自分の良く知る魔力の反応を感じ取ったからだ。
それは――言うなれば『心の力』。
人間が魔本と呼ばれる本に『心の力』と呼ばれる力を込め、魔物の力を人間界で発現させる為に必要なエネルギー。
人間界で魔物が戦うために、なくてはならない代わりのきかない力だ。
それを微かに感じ取ってしまったのだ。
恐る恐る死体に手を伸ばし、うつ伏せの体を起こして懐に手を入れる。
両手に大量の血が付着するのも構わず、魔力の発信源を追い求めるように“それ”をとりだした。
それはやはり、一冊の本だった……。
「や、やはり魔本か……。
という事は、この男は死ぬ寸前まで魔物と共に戦っていたという事か?
だとしたら、この男のパートナーは今どこに……」
そう言葉にした瞬間、ビクトリームは背後に人の気配を感じ取る。
「おぬし……」
声が掛けられた。
あわてて振り返ると、そこにはある意味捜し求めていた見知った顔が立っていた。
「な、何をやっておるのだ……」
呆然とした表情の中に明らかに動揺の色が浮かんでいるのが見える。
目を凝らさなくてもわかった。
そこに居たのはブリを小脇に抱えたガッシュだった……。
【C-1東部/道路上/2日目/深夜】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(中)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO! -バッカーノ!-、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ビクトリームと……死体?
1:カミナたちのところに戻る。
2:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:今すぐにでもブリは食べたいが、一応カミナたちのところに戻ってから。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※螺旋力覚醒
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0~1つ ジェット・高遠確認済み)
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING、
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night、
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1~6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:肉体的にも精神的にも色んな意味で大ダメージ、鼻を骨折、歯二本欠損、股間の紳士がボロボロ、ずぶ濡れ
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay nightで、頭と体を縛り付けている。
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、
ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!! 、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考・状況]
0:ガッシュ!?
1:こんどこそ小娘達を追うぞ! 小娘どもを追うのはメロンが欲しいからで、別に心配なぞしておらん!?
2:パートナーの気持ち? 相手を思いやる?
4:吠え面書いてるであろう藤乃くぅんを笑いにデパートに行くのもまぁアリか…心配な訳じゃ無いぞ!?
5:カミナに対し、無意識の罪悪感。
6:シータに対し、意味の分からないイライラ
7:F-1海岸線のメロン6個に未練。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいていません。
※モヒカン・エースは諦めかけており、カミナに希望を見出し始めています。ニアが魔本を読めた理由はかけらも気にしていません。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。 ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
※変態トリオ(クレア、はやて、マタタビ)、六課の制服を着た人間を危険人物と認識しています。
※ニアとジンにはマタタビの危険性について話していません。
※第四回放送は聞いていましたが、無我夢中で走っていたので断片的にしか頭に入ってません。
*時系列順で読む
Back:[[第四回放送]] Next:[[俺にはさっぱりわからねえ!(後編)]]
*投下順で読む
Back:[[リ フ レ イ ン]] Next:[[俺にはさっぱりわからねえ!(後編)]]
|235:[[幻想のアヴァタール(後編)]]|ガッシュ・ベル||
|235:[[幻想のアヴァタール(後編)]]|カミナ|244:[[俺にはさっぱりわからねえ!(後編)]]|
|235:[[幻想のアヴァタール(後編)]]|ニア|244:[[俺にはさっぱりわからねえ!(後編)]]|
|237:[[Ready Steady Go]]|ビクトリーム||
**俺にはさっぱりわからねえ!(前編) ◆j3Nf.sG1lk
「ブルゥゥゥゥウウウァァアアアアアアアアア!!!」
雄たけびと共に海面から謎の物体が飛び出した。
それを一言で言えば“V”
見るからに“V”
明らかに“V”
美しいまでに“V”
海水を飛沫に変えて全身から飛ばす“V”
月明かりに照らされてるよ“V”
意味もなく飛んじゃってるよ“V”
何でポーズ決めてんだよ“V”
そりゃVだからだろ“V”
ま、Vじゃしょうがねぇな“V”
“V”だしな。
うん、“V”だから。
てな感じで、まさに全身で“V”の字を表現している謎の生命体である。
「ビクトリーーーーーーム!!!!」
人の認識する常識を一足飛びで飛び越えた想像外の容姿を持つそれは、一旦中空で華麗にポーズを決める。
そして、恍惚とした表情を浮かべた後、その表情のまま確かな地面へと着地する。当然、“V”の体勢を維持したままで。
さて、ではわかりやすいように現状の説明を挟もう。
謎の生命体こと、ビクトリームは空に消えた少女二人を追うために会場のループに従って再び海へと飛び出した。
改めて言う事でもないが、これでもビクトリームとて魔物の子である。
身体能力は常人を軽く凌駕している存在であり、そもそも、さほど高くもない波で溺れる事自体ありえないのだ。
先ほど溺れた理由はただ一つ、頭部と胴体が離れていたため、泳ぐために必要なバランスを失ってしまったから、という他ない。
バランスを失えば、当然泳ぎ方は醜く崩れる。加えて準備運動もせずに泳ぐなど愚の骨頂。
結果として、心身ともに不安定なままバランスを保てず不自然な体勢になり、足を攣り、そのまま溺れるのは必然と言えよう。
つまり、頭部と胴体がしっかりと繋がってさえいれば、ビクトリームが溺れる事などありえないのである。
その反省点を踏まえ、今回は事前対策も万全だ。
先ほど出会った額に“X”の傷跡を持つ男から手に入れた鎖で体と頭部を強引につなぎ合わせ、頭部と胴体が分離しないようにしている。
これでバランスも万全。もう波に流される事もない。
ビクトリームは意気揚々と対岸に向かって泳ぎ始めた。
そして結果として辿り着いたのが今の状況である。
想定どおり、波を物ともしない泳ぎで視界に捉えていた対岸まで泳ぎきったどころか、勢いに任せたまま飛び上がり、Vの姿勢で着地。
自身の泳ぎっぷりと、『一度溺れた』という事実を跳ね除ける事ができたという達成感。
その事実に酔いしれるあまり、恍惚とした表情でついお決まりのポーズを作ってしまったのである。
「いいぞぉ!我が体よ!素晴らしいまでに美しいVの体勢だ!」
両足を綺麗に揃え、両手を自身の頭部のVの字と寸分狂わぬ角度で頭上へと上げたその姿は、本人曰く、華麗なるVの体勢との事。
この体勢こそが彼にとっての至高の体勢なのであろう。
この瞬間だけは、自身の目的すらも一瞬とはいえ忘れさせるのかもしれない……
「と、それどころではない!
早く小娘どもを探さねば!」
数秒間の後、自身の目的をようやく思い出したようにVの体勢を解き、空へと視線を滑らせる。
だが、残念ながら目に映る範囲に目的の存在を見つけられない。
まぁ、考えてみれば当然ある。
二人の少女、シータとニアを見失ってから既に30分以上が経過している。
高速で飛び去ってしまった最後の姿を思い出す限り、こんな近くに二人の姿を確認できるはずはない。
それこそ、ループを利用して、会場を一周して再びここに戻ってくるでもない限り見つかる事はないだろう。
「クッソォォ~、私とした事がぁぁ……」
全身に鎖を巻きつけたVの字を模った奇妙なオブジェに、人の四肢とは明らかに掛け離れた手足を生やしているそれが、見るからに肩を落として落ち込み始める。
いやはや、なんとも奇妙な光景だ。
まぁ、そもそも、人ならざるものが落ち込んでいる時点で、それは人の認識の範囲外の出来事。
言うなれば、ビクトリームの一挙手一投足全てが奇妙な行動という括りで片付ける事ができるのである。
もしこの光景を誰かが見ていたら、奇妙すぎるあまり近づこうとさえ思わない事だろう。ま、関係ない話だ。
「こうなったら、何が何でもあやつらを見つけてくれるわ!
必ず私が貴様らを、いや、ベリィ~なメロンを取り戻してやる!
まってろ小娘どもォォォ!!!」
僅か5秒で気を取り直したのは流石は“V”といった所か。この際、何が流石なのかは考えたくもない。
ビクトリームは確かな進路をも定めぬまま走り出した。
ただ闇雲に、ただ全力で、たった一つの目的のために走り出したのだ。
当然、頭上で響いている放送など聞き流して。
そして数分後、その闇雲に動かし続けた足が不意に止まった。
◆ ◆ ◆
ピクリと小指が動き、固い感触に触れた。
濡れた指がザラリとした物を撫でる。
これは……石?砂?
あれ?私は、死んだはずでは……
理解できない状況のまま閉じていた瞼を持ち上げる。
すると、そこには先ほど落ちていく時に見たと同じような星空が広がっていた。
――助かった……のでしょうか……
濡れた髪を重たく感じながら、私は視界を左右に走らせる。
すると、少し離れた場所に立っている金色の髪をした子供と、青い髪をした男の人が見えた。
――あの方達が助けてくれた?
疑問に思いながらも、これまで受けてきた教育のせいか、お礼を言わなければという衝動に駆られる。
体を起こそうとする。
どうやら体に異常はないらしい。
少し力を入れただけで起き上がる事ができた。
――お礼を、お礼を言わなければ……
そう考えて声を発しようとした瞬間、離れた場所に立っている青い髪の男の方から声が聞こえてきた。
それに自然と耳を傾けてしまう。
『……カミナ。彼女を保護しますか? 万一ゲームに乗っていたら……』
「……ああ。ま、そん時はそん時だ」
一人しかいないというのに二人分の声が聞こえてきた。
一瞬疑問に思ったが、今はその会話を耳に入れることだけで精神的にも精一杯だ。
仕方ないので、会話の中から最優先で考えるべき単語のみを拾い上げる。
――か、みな……
何でしょう、どこかで聞いた事があるよう……
それは何度も聞いた気がする単語。
いや、単語じゃない。
それは名前だ。
誰か、大切な、大切な人の名前……
そう思った瞬間、私はある事に気がついた。
目の前の男の人、よく見れば、その姿形にはどこか見覚えがある。
そう、それは、シモンが部屋で一人で作っていた、あの……
――か、み、な……カミナ……もしかして!?
気がつけば目の前に左右が鋭くとがったサングラスが浮かんでいた。
数秒間思考の渦の中に居たため、目の前まで探し人の接近に気付けなかったのだ。
「よう、目が覚めたか? 気分はどうだ?」
シモンのアニキさんが、そこに居た……
◆ ◆ ◆
少女が目を覚ました時、もう一つの生命も意識を取り戻していた。
『あれぇ?何だ…ボク、いったい……』
それは魚。
ブリと呼ばれる全長1.5メートルほどある回遊魚である。
『あ、まただ、また呼吸ができない』
目覚めたばかりだが、ブリは早速死にかけていた。
理由は単純。
本来深海100メートルほどで生息しているはずの存在が、なぜか現在は陸に上がっているからである。
『く、苦しいよ! 早く、早く戻らなきゃ……ボクの居場所に……』
本能が囁くのだろうか、ブリは漠然とだが海がある方向と距離を理解していた。
ゆえに、必死にその方向へ体を向けようとする。
だが、残念なことにどうしても体が動かない。
本来帰るべき場所である海までは僅か1メートルもないというのに……
『なんで……どうして……』
必死になって理由を探し始める。
すると、理由はすぐに見つかった。
自身の体に巻きつけられていたロープが近くに居た人間に掴まれていたからだ。
『そんな!離して!離してよ! このままじゃボク、死んじゃうよ!』
ブリの訴え。
勿論届かない。
ブリの言葉が人に通じるはずはないのだ。
『嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……こんなとこで死ねないよ!
さっき決意したばかりじゃないか!』
理不尽な事態にブリは必死に抵抗を始める。
それこそ、先ほど抱いた決意のままに自身の体に湧き上がる『生存』という単純な本能に身を任せる。
『ボクは死にたくない!
死んでたまるか!
絶対に生き延びてやる!』
それはもう必然の事態になっているのかもしれない。
ブリがそう思った瞬間、再び自身の体に力が湧いた。
見ればあの緑色の光がまたも彼を包んでいる。
『いける!』
ブリの決意は再び体を動かす事に成功した。
絶対的な『生きたい』という願いと共に体に巻きつけられたロープを振りほどき、ブリは海へと自身の体を躍らせたのだった。
◆ ◆ ◆
「ンヌ?」
「あっ!」
背後で聞こえたるは響く様な水を叩く音。
その音に反応し、二人の男は目の前の少女の事を一時的に忘れ、慌てて音の聞こえた方に視線を向ける。
すると案の定、そこにはあるべき物が既に無い光景が映し出されていた。
「ブ、ブリがぁぁーーーー!!!!」
状況を受け止め、真っ先に飛び出したのは金色の髪を海水で濡らした少年の方。
改めて言うことでもないが、少年、ガッシュにとっての“彼”は、単なる栄養源等という言葉では収まりきれない。
言ってしまえば、これは既に愛だ。
好きで好きで好きで好きで、まっしぐらという言葉を猫如きに独占されるのが我慢ならないほど、『ブリ』という名の彼を愛しているのである。
ガッシュにとってブリとは幸福だ。それさえあれば自身の欲求の内の『食欲』という欲求は肉体的にも精神的にも確実に満たされる。
それを理解しているからこそ、目の前の光景、さっきまでそこにあったはずの“彼”=『ブリ』が逃げ出したという事実は、今のガッシュには耐えられないのだ。
欲求の内の大半を食欲で占めてる彼だからこそ、現状さえも視界から消し、何を置いても欲望に順ずるまま行動に移すのも当然といえよう。
少年は何も考えない。ただ、自身の衝動が示すままに行動しただけだ。
その先に何が待っているのか、また、自身の行動が世界にどう影響を齎すかなど、一ミリたりとも考えはしない。
確保していた獲物が逃げた焦りと僅かな怒りに翻弄されるまま、獲物を奪われた狼のように瞳をギラつかせつつ、追いかけるようにその身を再び海面へと羽ばたかせる。
それだけだ、本当にただそれだけ。
そんな容易い感情一つで、少年は明かりも何も無い漆黒の海へと消えていく。
数瞬後、先ほど聞こえてきたと同種の水音が虚しく響き渡った。
「ま、待て!ガッシュ!」
ブリが逃げ出したことに気づいたのは隣に居た青い髪の青年、カミナも同じ。
だが、カミナはガッシュほどブリに執着は無かった。
船での食事で幾分かは腹は満たされている上に目の前の少女の存在の方が遥かに気にかかる。
ゆえに、ガッシュの様に勢いに任せたまま飛び出すということはない。
カミナはただ見ていただけだ。ガッシュが海へと飛び込む瞬間を。
響き渡る水音に水飛沫。
ガッシュが海へとダイブした証拠である。
「クッソ!……チッ!クロミラ!!」
言葉尻は慌てながらも、即座に最善の判断を下す。
この状況でガッシュを追う最善の一手は唯一つ、クロスミラージュにガッシュの魔力を探知してもらい、決して見失ってはいけないということだ。
『マズイですよカミナ!
魔力の反応は海岸沿いを北に向かって高速で移動しています。
このままでは直ぐにでも禁止エリアに飛び込む事に……』
クロスミラージュの言葉にカミナの顔に焦りの色が浮かぶ。
「マジかよ!?何でそうなんだ!
しょうがねぇ、俺達も追うぞ」
少女の事が気になりながらもカミナは決断する。
大切な仲間が生命の危機に瀕しているとわかった以上、少女の事ばかりに気を取られるわけにはいかないからだ。
だが、だからといってガッシュと同じように海へ飛び込むという無謀な事はしない。
未だ泳ぎが覚束ないカミナに常人を遥かに超える体力を持つ魔物の子、ガッシュを追うのは不可能というものだからだ。
それはクロスミラージュの反応からも十分に理解できる。
ゆえに、飛び込んで追いかけるという選択肢はない。
カミナが下した判断は、ガッシュを見失わないように陸路を使って追うという一般的なものとなった。
『当然です。ですが、彼女をこのままというわけにもいきません、どうするつもりですか?』
クロスミラージュの言葉に走り出したい衝動を抑えカミナが一瞬の思考をめぐらす。
目の前の少女をどうするか、それは重要な問題だ
そもそも、少女の名前さえも聞いていない上に、安全か危険かの漠然とした判断もまだなのである。
こんな状況で、もし何も考えずにガッシュを追うという選択肢を選んでしまったせいで背後から襲われでもしたら、それこそ笑い話ではすまない。
ここは冷静な判断をすべき場面である。だが……
「んな事は、走りながら考える!
おい、いきなりで悪ィが一緒に来てもらうぜ、立てるか?」
カミナの下した決断、それは、この状況ではもっとも愚かで、もっとも軽率なものだった。
いまだキョトンと状況を理解できていない少女に向かって右手を伸ばし、立ち上がらせようとするカミナ。
それをクロスミラージュが慌ててとめる。
『ま、待ってくださいカミナ、まだ殺し合いに乗った人間かどうかの判別もまだです。そんな軽率な行動は……』
「うるせぇ!黙ってろ!
理由ははっきりわかんねぇし、説明もできねぇが、コイツは大丈夫なんだよ!
こいつを信じろ、こいつを守ってやれ、そんな風に、なんかこう、心の奥底で色んなもんがざわめくんだよ」
『で、ですが……』
「いいから!テメェは俺を信じればいい!こいつを信じる俺を信じやがれ!」
相も変わらず、独自の理論で切迫した状況の中で自身を貫こうとする。
それに振り回される方は正直たまったものじゃないだろう。
だが、カミナという男、それを平然と貫き通してなお、人を惹きつける魅力を持つ男なのだ。
短い時間とはいえ、それを何度も目の当たりにしてきたクロスミラージュは続く言葉を失ってしまったのは必然といえよう。
こうなってしまえば、何を言っても無駄というものである。
ちなみに、カミナ自身なぜ自分がこんな事を言い出すのか分かってはいない。
ただ、漠然と記憶、いや、心に刻んでいるのだ。
目の前の少女は守らなければならない、と……
「おい、どうした?なにボケッとした目で見てんだよ。やっぱどっか調子悪いのか?」
ガッシュを追うために移動しながら少女から事情を聞こうとしたカミナは、少女を立ち上がらせるために右手を伸ばしていた。
しかし、いつまでたっても少女はその手を取らない。
恐れているのだろうか?一瞬そう考えたが、そういうわけでもない。
手を伸ばすカミナに呆気に取られた様な二つの瞳を無遠慮に突き刺したまま固まっているからだ。
「なんだぁ?俺の顔になんかついてんのか?」
その眼差しをむず痒く感じたカミナは強引に少女の手を取って立たせようとする。
すると、その瞬間、まるで意識を取り戻したように少女の表情が光ったように綻んだ。
「貴方が、シモンの……シモンの言っていたアニキさん、なのですね!?」
そして突然、そんな言葉が少女から発せられた。
目を見開くカミナ。
そのカミナを太陽のような笑顔で見つめる少女。
タイミングを合わせるかのように、いや、あざ笑うように、螺旋王の放送が始まった。
◆ ◆ ◆
『禁止エリアへの侵入を確認しました。
警告を無視して一分後までに退避しない場合、首輪の爆破機能が起動します』
ブリを追いかけるガッシュには当然そんな声は聞こえない。
警告音が聞こえていないという事は、当然放送の事など知る由もない。
ガッシュが見ているもの、それは猛スピードで泳いでいる一匹の魚のみだ。
「ウヌゥ~!待つのだぁ~!」
水中でその言葉が正常に発せられたかは定かではない。
だが、目前に居るブリにはそれで十分なのだ。
ガッシュにとっては何が何でも捕まえるという決意の表れ。
対するブリにしてみれば、それは確かな開戦の狼煙。
弱肉強食の理に従い、捕まったら自分の人生はそこで終わるという生存をかけた戦いなのである。
ゆえにこれは、確かに命を懸けた一対一の戦いと言っていいだろう。
泳ぐ、泳ぐ、螺旋力に目覚めたブリの速さは尋常ではない。
既に常識的な回遊魚の泳ぐ速度を遥かに凌駕している。
対するはガッシュ。
本来は、ただの子供が水泳の王者とも言うべき1メートルを越す巨体を誇るブリの泳ぎに敵うはずはない。
だが、ガッシュは普通の子供ではないのだ。
ガッシュは魔物の子。
それも、幾多の戦いを潜り抜けたお陰で、魔物の中の常識をも超えた身体能力を獲得した子供なのである。
その泳ぐ速度は普通の回遊魚に勝るとも劣らない。
加えて、螺旋力に目覚めているのはガッシュも同じ。
自力の差が同じであり、螺旋力にも目覚めているとあらば、この戦いの勝敗を決めるのは、双方の決意。
つまり、螺旋力をどれだけひねり出せるかという事である。
逃げるブリ。
追いかけるガッシュ。
数分後、戦いはあっけなく結末を迎えた……
◆ ◆ ◆
ビクトリームは一つの事実の前に時を止めていた。
彼の見つけたもの、それは、一人の男の死体。
大きく広がった血溜まりの上にうつ伏せで倒れている肉の塊。
頭が割られ、頭蓋が完全に砕かれ、脳みそどころか顔のパーツ一つ一つですら原形をとどめていない、男の死体。
大量に広がった血を掃除するように吸い上げたのだろう、白いシャツが赤く染まっている。
加えて、割られた頭部に貼り付いている髪も、それが元は金髪だったという事実も、おそらく科学捜査でもしないと判別しない事だろう。
つまり、男の死体を一言で表すとしたら、『赤一色』、それ以外ない。そんな死体だ。
男の死体を目の当たりにした瞬間、ビクトリームは固まった。
勿論、死体に恐怖したというわけじゃない。
ビクトリームとて魔物同士の戦いで相手の命を奪いかねないような術を幾重にも見てきた。
戦いに敗れた場合、そのような結末を予期していないはずもなく、心を乱さない程度の覚悟は常に持っている。
まぁ、流石にここまで凄惨な死体を想定していたわけではないので一瞬は息を呑んだが、
それ以上に、その死体が放つ何ともいえぬ存在感がビクトリームの足を止めさせたのだ。
ビクトリームは何かを感じ取っていた。
それまで行使してきた我道を貫くような振る舞いが一旦鳴りを潜めてしまうほど、冷静な思考が求められる事態に直面したと感じ取ってしまったのである。
なぜなら、男はビクトリームを動揺させるものを持っていたからだ、抱えるように、守るように……
「これは……魔物のパートナーか?」
そう呟いた理由はただ一つ。
うつ伏せに倒れた男の死体から、僅かに自分の良く知る魔力の反応を感じ取ったからだ。
それは――言うなれば『心の力』。
人間が魔本と呼ばれる本に『心の力』と呼ばれる力を込め、魔物の力を人間界で発現させる為に必要なエネルギー。
人間界で魔物が戦うために、なくてはならない代わりのきかない力だ。
それを微かに感じ取ってしまったのだ。
恐る恐る死体に手を伸ばし、うつ伏せの体を起こして懐に手を入れる。
両手に大量の血が付着するのも構わず、魔力の発信源を追い求めるように“それ”をとりだした。
それはやはり、一冊の本だった……
「や、やはり魔本か……
という事は、この男は死ぬ寸前まで魔物と共に戦っていたという事か?
だとしたら、この男のパートナーは今どこに……」
そう言葉にした瞬間、ビクトリームは背後に人の気配を感じ取る。
「おぬし……」
声が掛けられた。
あわてて振り返ると、そこにはある意味捜し求めていた見知った顔が立っていた。
「な、何をやっておるのだ……」
呆然とした表情の中に明らかに動揺の色が浮かんでいるのが見える。
目を凝らさなくてもわかった。
そこに居たのはブリを小脇に抱えたガッシュだった……
【C-1東部/道路上/2日目/深夜】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:おでこに少々擦り傷、全身ぼろぼろ肉体疲労(中)、精神疲労(中)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意 螺旋力増加中
[装備]:バルカン300@金色のガッシュベル!!
リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/6、予備カートリッジ数12発)
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アンディの衣装(手袋)@カウボーイビバップ、アイザックのカウボーイ風の服@BACCANO バッカーノ!、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考]
基本:やさしい王様を目指す者として、螺旋王を王座から引きずり落とす。 絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:ビクトリームと……死体?
1:カミナたちのところに戻る。
2:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
3:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
4:ジンとドモンと明智を捜す。銀髪の男(ビシャス)は警戒。
5:今すぐにでもブリは食べたいが、一応カミナたちのところに戻ってから。
[備考]
※剣持、アレンビー、キール、ミリア、カミナと情報交換済み
※螺旋力覚醒
※ガッシュのバリアジャケットは漫画版最終話「ガッシュからの手紙」で登場した王位継承時の衣装です。
いわゆる王様っぽい衣装です。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※第四回放送はブリを追いかけていたので聞き逃しました。
[持ち物]:支給品一式×8(ランダムアイテム0~1つ ジェット・高遠確認済み)
[全国駅弁食べ歩きセット][お茶][サンドイッチセット])をカミナと2人で半分消費。
【武器】
巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING
東風のステッキ(残弾率40%)@カウボーイビバップ、ライダーダガー@Fate/stay night
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、スペツナズナイフ×2
【特殊な道具】
テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード、ドミノのバック×2(量は半分)@カウボーイビバップ
アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、砕けた賢者の石×4@鋼の錬金術師、アイザックの首輪
【通常の道具】
剣持のライター、豪華客船に関する資料、安全メット、スコップ、注射器と各種薬剤、拡声器
【その他】
アイザックのパンツ、アイザックの掘り当てたガラクタ(未識別)×1~6、血塗れの制服(可符香)
ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:螺旋力覚醒)
【ビクトリーム@金色のガッシュベル!!】
[状態]:肉体的にも精神的にも色んな意味で大ダメージ、鼻を骨折、歯二本欠損、股間の紳士がボロボロ、ずぶ濡れ
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay nightで、頭と体を縛り付けている。
[道具]:支給品一式、CDラジカセ(『チチをもげ』のCD入り)、ランダム不明支給品x1、
ビクトリームの魔本@金色のガッシュベル!! 、キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考・状況]
0:ガッシュ!?
1:今度こそ小娘達を追うぞ! 小娘どもを追うのはメロンが欲しいからで、別に心配なぞしておらん!?
2:パートナーの気持ち? 相手を思いやる?
4:吠え面書いてるであろう藤乃くぅんを笑いにデパートに行くのもまぁアリか…心配な訳じゃないぞ!?
5:カミナに対し、無意識の罪悪感。
6:シータに対し、意味の分からないイライラ
7:F-1海岸線のメロン6個に未練。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも石版から復活し、モヒカン・エースと出会った後。ガッシュ&清麿を知ってるようです。
※会場内での魔本の仕組み(耐火加工も)に気づいていません。
※モヒカン・エースは諦めかけており、カミナに希望を見出し始めています。ニアが魔本を読めた理由はかけらも気にしていません。
※静留と話し合ったせいか、さすがに名簿確認、支給品確認、地図確認は済ませた模様。お互いの世界の情報は少なくとも交換したようです。
※分離中の『頭』は、禁止エリアに入っても大丈夫のようです。 ただし、身体の扱い(禁止エリアでどうなるのか?など)は、次回以降の書き手さんにお任せします。
※変態トリオ(クレア、はやて、マタタビ)、六課の制服を着た人間を危険人物と認識しています。
※ニアとジンにはマタタビの危険性について話していません。
※第四回放送は聞いていましたが、無我夢中で走っていたので断片的にしか頭に入ってません。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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