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S・O・S - (2007/10/26 (金) 00:04:00) のソース
**S・O・S ◆1sC7CjNPu2 舞衣はC-5の東南にある橋の、東側の端で座り込んでいた。 手には地図とペンが握られており、禁止エリアと放送された死亡者の欄にはバッテンが書かれていた。 死亡者の数は九人。そのうち、三分の一が舞衣の近くで死んでいた。 一人はシモンで、一人は道に転がっていた死体で、一人は舞衣が絞め殺した帽子の少年だ。 実の所最後の一人は違うのだが、舞衣には知りようはなかった。 「私、周りを不幸にする力でも持っているのかしら?」 舞衣は、ポツリと呟いた。 飛躍した考えだった。でもなんだが正解のような気がして、段々と笑いがこみ上げてくる。 「くく、そっか。私、ぷっ……はは、不幸を呼んでたんだ……あはは」 次第に、舞衣は口を大きく開けて笑っていた。大爆笑だ。 「あはははははははははっ、あはははははははははははははは!」 そっか、私がいたからお母さんが死んで、巧海が難病にかかって結局死んで、シモンも死んだ。 そうかそうか、なのほど――冗談じゃない!! 笑い顔から一転して、舞衣の顔は憤怒に染まった。 「私はもう、これ以上苦しまないから!誰の思い通りにもなんないからね!」 誰に聞かれようと構わず、舞衣は何かに対して叫んでいた。 よほど興奮したのか、呼吸は荒く、鼓動は早鐘のようだった。 ■ 呼吸が落ち着いてきた所で、舞衣は移動することにした。 つい先ほど馬鹿みたいに声を張り上げたというのに、人が近づいてくる気配はない。 つまり周囲に人がいないのか、それともこちらの様子を窺っているのかだ。 空を飛べば人影が確認できるかもしれないし、何者かが潜んでいた場合は何らかの反応が期待できる。 そう思って舞衣は地図とペンをデイパックに戻し、立ち上がった。 そして、エレメントを発動させようとして―― 「……あれ?」 ――エレメントが、現れることはなかった。 思わず、舞衣は自分の手首を見つめる。そこに彼女のエレメントは存在せず、細い腕があるだけだ。 再度試して見たが、結果は同じだった。指を動かすように自然に行えていた行為が、急に出来なくなっていた。 「嘘!どうして!」 舞衣は身震いした。 カグツチに加え、エレメントまで呼び出せなくなった。舞衣はただの一介の女子高生に戻ってしまったのだ。 この異常な、殺し合いの最中でだ。 舞衣は恐怖した。このままでは自分は何も奪えず、また何かを奪われて終わってしまう。 必死になって、考える。前兆はあった、カグツチが呼び出せなかったことだ。 そして、エレメントすら呼び出せなくなった。 HiMEの力が消えた。そういうことだ。でもなぜ、しかもこんなタイミングで? 「もう、訳が分かんないわよぉ」 頭を振って、一度考えを整理する。 そもそも、HiMEの力とはいったい――そこまで考えて、舞衣は一つの答えを見つけた。 「……あ、そうか。なんだ簡単なことじゃない」 HiMEの力には、大切な人への思慕の思いが関係している。 舞衣は詳しいことを知らない。しかし、これだけは分かる。 大切な人がいなければ、HiMEの力は使えない。 つまりは、舞衣に大切な人がいないということが証明されたのだ。 「あはは、なんだ。そういうことなら、むしろ大歓迎じゃない。ははははは」 ――きっと帽子の少年を殺した時だ。私が、大切なものを奪う側に回ると決めた時からだ! ――その時から、私はHiMEの宿命なんてものから解放されたんだ! 舞衣は再び笑い出した。笑いながら、喜びに打ち震える。 殺し合いの最中だろうと関係無い。忌むべきものから解放されたのだ。 もう二度と、戦うための操り人形になって踊ることなんてない! ――ああ、でも、この寂しさはいったい何なんだろう? 舞衣の考えた通り、転機は帽子の少年を殺した時だ。 その時から、舞衣は人を信じることが出来なくなった。そう決意してしまったのだ。 人への思いが無かれば、HiMEの力は現れない。そういうことだ。 しかし、舞衣はまだHiMEだ。 チャイルドが倒されるか、本当に大切な人が死ぬまで、HiMEの宿命は付きまとう。 そのことが舞衣にとって吉と出るのか凶と出るのか、答えはまだ分からない。 ■ 舞衣は、周囲に誰もいないと判断した。馬鹿みたいに騒いだのに何の反応もないのだから、当然とも言える。 舞衣は、まず武器を調達することにした。 HiMEの力を失っても、舞衣のやることに変わりはない。そしてエレメントが使えない以上、代わりになるものが必要だった。 「近くだと、病院と学校かな……」 舞衣は、地図を眺めながら呟いた。 映画館も近くであったが、舞衣は意図的に外した。できるなら、思い出したくもなかったことだ。 「……学校かな」 病院より、学校の方がよく知っている。 舞衣は短絡的にそう考え、B-6の学校に向かうことにした。 普段の舞衣なら、もっと考えて行動を決めていただろう。もちろん、これには理由がある。 舞衣は、思考を単純化することで心を保たせていたのだ。 大切なものを奪う側になったから、殺す。 大切なものを作らないために、殺す。 そうしなければ、舞衣はきっとシモンが死んだ時に廃人のようになっていただろう。 憎しみでも何でもいい、この状況から生き残るためには強い感情が必要だったのだ。 「……?あれ、なんで?」 そしてHiMEの力を使えなくなったことで、それはさらにひどくなった。 余計なことは考えず、思考はできるだけシンプルに。 これ以上苦しむことのないように、過剰に排他的に。 だから、舞衣には自分が泣いている理由が分からなかった。 「おかしいな、目にゴミでも入ったかな?あれ?」 目をゴシゴシと擦りながら、舞衣は頭を捻る。 なかなか涙が止まらないので、舞衣はしかたなく泣きながら歩くことにした。 誰かに、気が付いて欲しくて。 【C-5・南東部/一日目/朝】 【鴇羽舞衣@舞-HiME】 [状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷、全身が血塗れ [装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS [道具]:支給品一式 [思考]:かなり短絡的になっています。 1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。 2:もう二度と、大切なものは作らない。 3:B-6の学校に行って、武器を手に入れる。 [備考] ※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。 ※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。 ※クラールヴィントの正体に気づいておらず、ただの指輪だと思っています。HIMEの能力と魔力に近い物があるかどうかは不明。 ※参戦時期の影響で、静留がHIMEである事は知りませんでしたが、ゲームに呼ばれている事から「もしかしたら…」と思っています。 ※帽子の少年(チェス)を殺したものと思っています。 *時系列順で読む Back:[[三つの心が一つにならない]] Next:[[片道きゃっちぼーる2・伝言編]] *投下順で読む Back:[[三つの心が一つにならない]] Next:[[片道きゃっちぼーる2・伝言編]] |088:[[阿修羅姫(後編)]]|鴇羽舞衣||