あなたは無駄だと笑いますか? ◆1aw4LHSuEI
人間は本能的に闇を恐れる性質があるという。
果たしてそれはかつて灯によって野生生物を遠ざけた頃の名残か。
はたまた、闇の象徴たる夜に、「死」にもっとも近しい「眠り」につくためなのか。
諸説あれども、自らの起源を知りようがない以上、明確な答えなどでようはずもない。
ひょっとしたら。
恐ろしいものは、ただ恐ろしいと、それだけで良くて。
そこに、理屈など必要ないのかもしれない。
一点の曇りもない、闇。
そう、ならばそこはヒトという生物にとって恐怖の体現と言えただろう。
一筋の光も差し込まぬ世界。単色に染められた空気。
全てを飲み込んでしまいそうな空間。生も死も包み込むような漆黒。
そこにはそれが広がりを見せている。
暗順応すら起こらぬほどの深い闇の中に、ひとつの気配があった。
吐かれる吐息が静寂を割き。蒸発した汗の香りが確かに生きるものがここに存在することを感じさせる。
嗚呼。塞がれた視界で確認することはできないが、其れは少女のようだった。
やがて、微かに空気が震える。
溶けてしまいそうなその声は生きる少女の調べ。
其れは正に天使の声、魔女の歌。
奏でる題目は『ローレライの歌』。
ライン川に伝承される乙女の唄。
響かせる静かに。
震わせる微かに。
落ち着いて、物悲しく聞こえるその唄は。
どこか鎮魂を捧げているようにも聞こえた。
ふと、少女の唄が止まる。
目を閉じて、なにか感じ入るようにし。
咀嚼するように息を止め。
『それら』を取り込んだ。
息を吐いた彼女は独り言を口にする。
それは謝罪の言葉。
忠義を尽くした従者への侘び。
何を謝ることがあるというのだろうか。
身命を尽くしても主を救うことのできなかった従者が言うならば兎も角。
誰にも救われぬ囚われの姫の言葉ではない。
「ごめんね、シロウ」
それでも、彼女は言葉を続ける。
血の繋がらぬ弟へ。
自分こそが、全ての元凶であるとでも言うように。
「……ごめんね」
どこからか、声が聞こえてくる。
いや、それは少女の中から響いてくるようだった。
「お、まっ…! がふっ!」
そうか、これが私の――――――――。
「皆で……全国……行きたかった……なぁ」
―――――きっと、田井中さんの笑顔が急速に冷えていったことを見て連想してしまったからだろう。
――――――――――――――けど、もうおわりなんだよ。モモ。
「うおおおおおおおおっ!! 」
―――――――――――――――最初からどこにも居なかったんだ。私。
「もう、上条ちゃんはしょうがないですね」
負け……る……はず…………!
――血……?血っ!?
「み……、…ヴ………ァ…………」
「―――――――暦お兄ちゃん」
「え――」
「ぶっ壊れろ――――!!!!」
「……お、やか、た……さま……」
(宗一郎……さ、ま…………)
「式……僕は君を――」
「澪――」
――――あるべきところにかえるだけなんだから。
「なあに、彼女は幽霊なのであろう?死にはしないさ!」
――世界を……変えろ。頼んだ、ぞ――
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
嫌なの。
「―――え!?」
シロウ―――――貴方を…………。
『済まない刹那。やはり私が勝者であろうと行動するのには無理があったようだ……最後に敗者たらんとする覚悟あっての……
トレーズ・クシュリナーダ、なのだろうな……』
「…ああ、確かに俺は日本人だけど、それが一体何の─」
「死ぬのは二度目ですが……ああ……ほんとうに、癖になってしまいそうだ……」
(阿良々木先輩、ごめんなさい。)
「……どうだいじいさん、俺は最後まで、
正義の味方で通せたよ……」
「俺はもう逝くからよ。お前もぶっ壊しちまえ。このクソッタレのゲームをよ」
「御坂さ――」
――負るんじゃねえぞ。
「はあああああああああ!!!」
「―――だってわたしは、憂のお姉ちゃんだから」
「――――――見事だ」
「あの娘を撃ったことは……済まなかった。これだけは、心から詫びておく」
「どうか……幸せになってください……」 「―――」
「任務、完了」
多くの、声。
死んだ者たちの声。
体が、蝕まれていることを感じさせる。
思い重い想い。
体が動かなくなっていくことを感じている。
心が削られていく感覚を覚える。
魂を取り込むということは、人としての機能を失っていくということ。
そう、本来の限界はとうに超えている。
サーヴァント以外の魂まで取り込んでいるのだから、当然のことと言えた。
遠くない未来、確実に少女は破滅する。
ならば、苦しいはずだ。痛いはずだ。辛いはずだ。
蝕まれる体も。削られる心も。
だけれども。
「それでも、私は―――」
少女は短く息を吸い込んだ。
唄を、歌おうというのか。
断末魔に合わせるように、レクイエムの如く。
しかし。
* * *
「やあ、イリヤスフィール。具合はどうだい?」
その刹那。闇を切り裂いて光が生まれる。
声が響かれようとする直前で、世界が切り開かれる。
開け放たれた扉。差し込む光。光順応が間に合わず白く染まる視界。
クロマク。裏に潜むもの。この殺し合いを仕組んだ張本人。
薄い笑みを顔に浮かべ、
リボンズ・アルマークが舞台へと現れた。
それに対峙するは白き少女。赤い瞳をそちらにむける。
少女、イリヤスフィールは急な登場に少々面食らっていたようだったが。
気を取り直すと、慣れぬ光に目を細めながら答えて言った。
「―――あまり良くないわ。でも、まだ、大丈夫だと思う」
その言葉にリボンズは少しだけ笑みを消して言う。
「歌を唄っていたんだね。あまり無理はよくないよ」
彼は自分がそこへ入る前のことをあっさりと口にする。
この状況を常に監視していると暗に示したような発言。
しかし、イリヤスフィールは動じることはない。
当たり前のようにそれを受け止めて返すだけだ。
「……別に、私が壊れてしまっても、機能さえ保っていればあなたの望みはかなうと思うけど」
「それは確かにそうだろう。でも僕としては、せっかくだから君のささやかな願いも叶えてあげようと思っているんだけどね」
ささやかな願い。
その言葉を聞いて、イリヤスフィールは目を閉じる。
確かに、確かに彼女にも望みはあるのだから。
けれども、それを振り払うかのように目を見据え答える。
「別に、それこそ私が壊れてしまってもいいことじゃない。……それに、私は今出来ることがしたかったのよ」
健気、と言ってしまっていいものか。
少女の行うおまじないのような小さな行為。
しかし、そんな一途な言葉をリボンズは切り開く。
「イリヤスフィール。そんな行為に意味はないんだよ。今更、僕らが何をしようが彼らは殺し合い、そして死ぬ」
そうだ。バトルロワイアルという殺し合いの中で、もう何人もの人間が死んだ。
そして、これからも死ぬことになるだろう。
それは最早必然に近しいことなのだと。
彼は笑みを浮かべながら語る。
「そういうふうに、したんだからね」
「ええ、わかってるわ。でも、いいじゃない、少しぐらい」
拗ねたような顔をしたイリヤスフィールにリボンズは笑みを深めて呼びかける。
「ふっ、それに少しぐらい心配をさせてくれてもいいだろう?」
「まあ、そうね」
しぶしぶ、といったふうであるが彼女も頷く。
今の互いの立場ぐらい承知しているのだから。
「そう、僕らは」
リボンズは笑い。
「ええ、私達は」
イリヤスフィールは目を伏せて。
「「共犯者なのだから」」
決定的な言葉を、口にした。
* * *
私、イリヤスフィールは思うことがある。
死を覚悟した人間のことを。死という恐怖を乗り越えた人間のことを。
自分の命よりも、大切なものを見つけることができた人間のことを。
今起こっている殺し合いを見ていないから細かい経緯はわからないけれど。
私の身に集められた魂から読み取る限り、この場にも多くそんな人間がいたようだ。
そして、彼らは皆一様に、『使命感』のようなものを持っていた。
かつては私もそうだった。
聖杯となって、死ぬことに何も疑問も恐れも持つことはなかった。
いずれ死ぬことが分かっていても笑っていられた。
それは、尊いことなのだと私は思う。
少しだけ昔の話をしよう。
私の聖杯戦争が終わった後の話だ。
聖杯としての運命から解放されて、シロウ達と暮らした、そのあとの話。
はじめに気付いたのはリンだった。
隠しごとは得意なつもりだったんだけど、やっぱり勘がいい。
反応の遅れやちょっとした運動能力の低下から読み取ったらしい。
私が、もう限界であると言うことに。
私は聖杯戦争で小聖杯となるべく作られたホムンクルスであり。
また、聖杯戦争のマスターとして最適となるように調整されている。
もともとアインツベルンのホムンクルスの大半は短命ということもあるが。
そういった事情もあり、私は聖杯戦争よりも後まで生きられることを考えて作られてはいない。
だから、限界が来てしまう。
リンは私のために手を尽くしてくれた。
私が雰囲気が悪くなるのは嫌だから黙ってて、と頼んだら誰にも言わなかった。
彼女は基本的にお人好しだ。でも、それが嬉しかった。
でも、そんな献身も目立った効果はなく、程なくしてシロウ達にも露見した。
まともに立ち上がれないほどに疲弊した私を見れば、隠し通すことなんてできない。
問い詰められた私は、ついに話してしまうことになる。
全てを知ってしまったシロウの顔はそれはひどいものだった。
そんなだから、知って欲しくなかったのだけれども。
それからというもの。
リンは全力を尽くしてくれたし、シロウも少しでも出来ることはないかと色々考えてくれた。
でも、シロウは勿論、専門でないリンにすらどうしようもなくて。確実に私は限界へ近づいていった。
そして、怖くなった。
今でさえどうしようもないほどに追い詰めているシロウは、私が死んでしまったらどうなるのだろうか。
私を救えなかったらどうなるのだろうか。
それに、まずどうしようもないほどの恐怖を感じた。
そして。
自分の死期を悟った時でさえ乱れなかった心が、それを考えるとどうしようもないほどに震えているという事実が。
私の心を揺さぶった。
いやだ。
なんでこんなに死ぬのが怖いんだろう。
どうして、自分が死んだ後のシロウのことなんて、気にしているんだろう。
平穏がとても居心地よくて。
……私は、弱くなってしまったのか。
ああ、どこかに消えてしまいたい。
どうしようもなく、全てから逃げたくなった。
だから、逃げた。
誰も、追ってこれない場所、並行世界へ。
幸い、と言っていいのかはわからないけど。
まだ私が普通に動けた頃、リンの家で見つけた奇妙な杖のおかげで、第二魔法の存在は知っていた。
だったら、後は魔力さえあればいい。私は魔力さえあればあらゆる奇跡を行うことができるのだから。
こんな死にぞこないにも一度世界移動をする程度の魔力は残っていたようで。
私は『魔法』の発動に成功した。
そして移動した世界は、どうやら私の『誰も追ってこれないような遠く』という願いをこの上なく叶えていて。
二足歩行の機動兵器が戦場の主役になっているような世界だった。
ジャパニーズ・アニメーションじゃあるまいし、無茶苦茶な世界だ。
でも、ここでならひとりで死ねる。
そう、たったひとりで。
誰一人私を知ることのない世界で。無為に。
不意に胸が締め付けられるような感触を覚えた。
苦しい、寂しい。
それでも。私を看取るシロウなんてものを見なくても済むだけ、いいのかもしれない。
そう、思うことにする。
いいことなのだ、と。
でも、できれば。
こんな無意味な死に方でなくて。
私だって、なにか。
なにか生きた意味を持って死にたかった。
胸を張って死にたかった。
どうせ死ぬなら。
こんなところで死んでしまうと言うのなら。
だって、私。
何のために生まれてきたの?
キリツグはいつまでも帰ってこなくて。
恨んだ。呪った。憎んだ。
私の代わりに育てているという子供を、心に刻みつけた。
血の繋がらない弟に、どうしようもなく渦巻いた感情が浮かんだ。
聖杯としてアインツベルンの悲願を今度こそ果たすはずだった。
そのために痛い思いを、苦しい思いをいっぱいした。
でも、負けちゃった。
私を支えてくれたバーサーカーを、失くしてしまった。
聖杯として機能することもできなかった。
やっと、暖かい生活を手に入れた。
でも、自分から捨てた。
だって、だって、怖かった。
大切なものが、これ以上自分から離れていくのは。
だから、私は独りでここで死ぬ。
うう、ああああああ。
気がつけば、目から涙が零れていた。
仕方ないよ、私。
最初から、そういうことだってわかってたでしょ?
聖杯戦争が終われば、どういう結末にしろ私は死んでしまうんだって。
そうだよ、わかってた。
でも、暖かい生活を知ってやりたいことがいっぱいできた。
生きていたい理由が増えた。
なのに。
どうしてだろう。
なんで、こんなことになっちゃったんだろう。
こんなことなら、いっそ。
あのとき、聖杯として死ねたら良かったのに―――。
そうすれば、きっと。
生きた意味を得て。
こんな苦しみも、迷いもなかっただろうに。
そうしたら、私。
しあわせに、なれたかな。
あは。
…………っ。
「死にたく、ないよぅ……」
「―――へえ、君も人間じゃないのか」
倒れた私の上から声が聞こえた。
驚いて、伏せた姿勢ながらもそちらを見ると、そこにいるのは笑みを浮かべたひとりの男。
そこで、私はリボンズ・アルマークと初めて出会った。
* * *
「どうしたんだい、イリヤスフィール。体調でも悪いのかな」
「……それは元々。ただ、ちょっと昔のことを思い出してただけよ」
少々、遠い目をしていた白い少女に男は話しかける。
だが、その返答は素っ気ないものだった。
「そうかい。ならいいけど。まあ、体には注意して欲しいな」
君が死んでしまってはどうしようもないのだし、と。
リボンズは笑いながら言う。
この顔だ。
だからリボンズはいまいち信用し切れない。
そんなことをイリヤスフィールは考える。
きっと彼もイリヤスフィールを信用していないのだろう。
それほど長い付き合いじゃないし、相手の目的を互いに理解できないんだから、当然とも言える。
だから監視なんてするのだ。
とはいえ、目的のために協力してもらってもいる。
願いのための助力に恩を感じていなくもない。
だから、彼の願いもいっしょに叶えてあげたっていい。
そんなことを、思わないでもない。
きっと、リボンズも同じように考えている。
利害の一致、思想の違い、ほんの少しの連帯感。
うん。だから、二人は「共犯者」なのだ。
「……もしかして、それだけ言いに来たの?」
「まあ、途中経過が気になったというのが一番だけど。概ねそんなところだ」
暇人なのね、とイリヤスフィールが言い。
部下が優秀なんでね、と皮肉げにリボンズは答えた。
「じゃあ僕はそろそろ行くよ」
「……任せたわよ。そっちのことは」
そしてリボンズは退場し、扉が閉じられてそこは再び暗闇に包まれた。
暗い世界でイリヤスフィールは考える。
現在イリヤスフィールが身に宿している聖杯は、冬木市のものとは似て非なるものだ。
そもそも冬木の聖杯とは、「根源」という魔術師の最終目的に到達するために、サーヴァントの魂を留めるための器である。
英霊が「座」に戻る際には「根源」に至る孔が開く。しかし、これは利用出来るほど大きな孔ではない。
そのため、十分に活用することが可能となるだけの孔を開くために、七騎の英霊の魂を同時に解放することで極大の孔を開け、小聖杯により孔を固定。「根源」に至ろうというものである。
この際には、根源より漏れる膨大な魔力も同時に手に入るので、事実上、「願望実現機」としての利用も可能である。
しかし、この聖杯は。
小聖杯の設定を変更し、サーヴァント以外も会場で死亡した人間の魂も取り込むようにしてある。
これにより、特別に調節した会場内に揃った多数の世界の人間を殺しあわせることによって、魂を回収。
その魂を一度に解放し、各並行世界への孔を開き、それを小聖杯により固定する。
冬木の聖杯とは違い、ナノマシンによる治療を行っても、イリヤスフィールが回復しきらなったため許容サーヴァントは五騎までであるため、「根源」の観測は不可能である。
しかし、十二の並行世界へ向けて開いた孔から、第二魔法『並行世界の運用』のちょっとした応用で魔力を引き出すことができるので、単なる「願望実現機」としては冬木の聖杯を遥かに上回る力を持つ。
また、かの聖杯とは別に新しく作られた聖杯なので、アンリマユに汚染されていない。
このため、ただ願いを叶えることが目的なら、理想的とすら言える性質を持っている。
さらに、この聖杯戦争を支えるための準備も十分に用意してある。
場を整えるために、短期間でいいので冬木並みの霊地、結界を整える必要があったので、そのための結界の専門家。
人を使えばどうしてもかかる費用を捻出するための、世界規模に影響力のある企業。
スポンサーを喜ばせるための盛り上げ役として敏腕テレビディレクターと見目麗しい少女たち。
殺し合いを出来る限り公平に行わせるための――これはイリヤスフィールの希望したことでもある――バランス取りの専門家。
他世界の魔術法則と接触しないかという考証を行うための十万三千冊。
聖杯戦争に詳しい人物が欲しかったこともあり、二度の参戦者にして監督役も召喚した。
準備は万全と言ってもいい。
本当に、この段階になってしまえばイリヤスフィールにできることなんて、死なずに待つこと。
ただそれぐらいなのだろう。
しかし、それだけではどうにも気が収まらなくて。
イリヤスフィールは再び、『ローレライの歌』を口にすることにした。
「―――ごめんね、シロウ」
一言だけ、その前に告げたあとで。
ああ、それと。
『ローレライの歌』には鎮魂の意味などはない。
其れは人を死に誘う魔女の歌である。
【???/???/一日目/夜中】
【リボンズ・アルマーク@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:???
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:聖杯を用いて望みを叶える。
?:妹達とサーシェスを通じて運営を円滑に進める。
[備考]
妹達と情報を共有しています。各妹達への上位命令権を所持しています。
※具体的な望みがなにかはのちの書き手にお任せします。
【
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]:限界に近い
[服装]:???
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:聖杯としての役割を果たして、優勝者の望みを叶える。
1:この殺し合いを完遂し、優勝者の望みを叶える。
2:それまでは死なない。
3:リボンズの望みを叶える。
[備考]
※参戦時期は本編終了後から一年経過程度です。
* * *
ここから先は余談になるが。
もう少しだけこの闘争について話をしよう。
アンリマユに汚染されていない聖杯。
イリヤスフィールはそう語った。
しかし、奇妙に思わないだろうか。
アンリマユは、会場内に存在している。
しかも、紛れ込んだという量ではない。
明らかに、何者かが目的を持って仕込んでいると考えられるほど、多量にだ。
当然、聖杯に歪まれては困るだろうリボンズの指示ではない。
特別な魔術的知識を持たない帝愛の仕業でもない。
魔術的な知識、アンリマユ、悪をばら撒くという動機。
その全てを持つものが独断でやったことなのだろう。
さて、それは誰なのだろうか。
他にも奇妙な点がある。
とある人物は、サーヴァントの体を手に入れて魂を回収することを目的としているようだ。
だが、良く考えて欲しい。
一般人すら死ぬだけで魂を回収できるというのに、本来の聖杯戦争で回収されるサーヴァントの魂が、体ごとでなければ回収出来ない、というのはおかしくないだろうか。
それと、もう一つ。
いくらナノマシンによる助けがあるといっても、この段階でここまでイリヤスフィールが意識を保っているのは妙でないか。
限界近くまで魂を取り込んだ彼女は、人としての自我を保てない。
そして、彼女のサーヴァントの保有限界は今では五騎。
とっくに意識を失っていてもいいはずである。
根性とか、補正とか、信念とか。そんな曖昧な要素が絡む隙などないはずなのに。
どういうことなのだろうか。
簡単なことである。
つまりは、サーヴァント死亡時にその身から開放された魂は一部で、残りは肉体に留まった、ということだ。
そう、だからこそイリヤスフィールは一部でしかない英霊の魂では限界を迎えず。
かの人物はわざわざ肉体の回収をおこなったということだ。
不完全ながらも。擬似的な聖杯となりうるだろう英霊の魂の一部を、主催者側に感知されない方法で得るために。
そもそも何故サーヴァントの死体がその場に残り、魂の一部が残るようになっているのか?
イリヤスフィールやリボンズが肉体の回収について言及していないようだし、それがこのゲームの本来の設定だとは思い難い。
そう、それも彼ならなんとか出来る。
制限は基本的に
忍野メメが単独で行っているが、彼ほどサーヴァントに詳しい人間は主催者側に他にいない。
そのことについて言及すれば、少しぐらいその制限に付け加えることはそう難しいことではなかったはずだ。
さて、これらの行動により、彼はアンリマユを会場にばら撒き、主催者側に感知されず、サーヴァント五騎の魂の一部を集めることに成功している。
この世全ての悪と、願望実現機として十分な強度を持つそれを用いて、彼は一体何をするつもりなのだろうか。
また、知己の友の計画に加担していることにもなにか関係があるのだろうか。
あるのかもしれない。ないのかもしれない。
深遠な計画があるのかもしれないし、ただの気まぐれかも知れない。
しかし、その真実が語られることとなるのは。
もう少し後の物語である。
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最終更新:2010年08月06日 22:52