友達の定義 ◆EvXLhHD0yY
「少し、質問を宜しいでしょうか」
その少女に話しかけられた時、彼女――
宮永咲が感じたモノは恐怖と、そして僅かな疑問だった。
その時、咲は自室のベッドの隅で膝を抱え、小さく丸まって震えていた。
血で汚れた制服は新しい物が支給され、鼻血もすでに止まってる。
腹部はまだ痛むが、我慢が出来ないほどでもない。
それでも黒服の男に与えられた恐怖と、その男の身に起きた出来事が、咲を未だに怯えさせていた。
「お腹、いたい……。
ひっく……。のどかちゃんに、みんなに会いたいよぉ~」
ただ小さくつぶやかれる泣き事。
今も何処からか聞こえてくる、小さな歌声も響かない。
咲の心はもう、限界だった。
そんな時だった。
コンコン、と小さくドアがノックされたのは。
ビクリと肩が震える。
先の恐怖に心が締め付けられる。
また嫌な事になるのではと体が縮こまる。
そしてゆっくりと扉が開かれ、白い修道服を着た少女――
インデックスが入って来た。
そのすぐ後に言われた第一声が、先の言葉だった。
咲が彼女について知っている事は少ない。
せいぜいが、主催者の仲間の一人で、六時間毎の放送を任されている、という事ぐらいである。
そんな彼女が自分なんかに何の用なのか、咲にはまったく解らなかった。
咲が返答に窮していると、インデックスはどこからか折りたたみ式の小さなテーブルを取りだした。
それにまたどこからか取り出した白い布を掛け、その上に一つの見慣れたケースを置く。
「これって、麻雀牌?
なんでこれを?」
「今の貴女は軽い恐慌状態に陥っています。
その状態では私の質問に対し、正確な返答を頂けないと判断しました。
故に、貴女にとって日常的な物事。つまり麻雀によって、その安定化を図ります」
「麻雀、出来るの?」
「基本的なルールは記憶しています。問題はありません」
機械的に返される返答。
けれどその内容、麻雀を行う事を、咲は拒否しなかった。
前回のとは違う、普通の麻雀をしている間なら、嫌な事を考えずに済むと思ったからだ。
ジャラジャラと牌が混ぜられる。
対局はすでに後半。
その間、咲は一度もアガル事が出来ずにいた。
「麻雀、強いんだね。やってた事あるの?」
「いえ、麻雀を行ったのは今回が初めてです」
「へ?」
その事に素直に感心し、気になった事を聞いてみればそんな回答が返って来た。
咲はその衝撃の事実に絶句する。
その様子を見かねたのか、インデックスが勝てる理由を教えてくれた。
「私は“完全記憶能力”を有しています。
その為、私は一度認識したモノを決して忘ません。
それは直接見聞きしたモノは勿論の事、僅かでも認識可能な範囲にあるモノなら、総ての事象に適用されます。
そしてそれは、どんなに精巧に作られた麻雀牌であっても、例外ではありません」
「へ、へぇ~……」
よく理解できなかった咲は、曖昧に返事をする。
要するに、どの牌が何の牌か、見れば判ると言う事なのだろう。
とりあえずはそう考え、すごいなぁ~、と感心する。
「つまりそれって、今の私の手牌がわかるって事だよね」
「はい。その通りです。
ついでに言えば、現在の貴女の手牌は順に、万子が117、索子が69、筒子が4888、四風牌が東、三元牌が中中中、と成っています。
いつも通りの嶺上開花狙いですね」
「うぐっ」
大当たりである。
そこまで判るのなら、勝てないのも道理であろう。
咲がインデックスに勝つには、天和などを除けば、完全な運によるツモしかない、という事である。
咲はその反則じみた状況に、泣く泣く牌を切るしかなかった。
「………………友達とは、何でしょうか」
「え、友達?」
その後、結局一度も咲がアガル事はなく、対局も最終局に突入した。
その時、インデックスが不意を突くような形で訊いてきた。
咲は思わず手を止め、インデックスに訊き返した。
「……どうして、そんな事を聞くの?」
「第四回放送前に、諸事情により
天江衣と接触しました。
その際、彼女に言われました。『私と友達にならないか?』、と。
こちらを惑わせる甘言とは、天江衣の人物像からは考え難いでしょう。
ならば何故その様な事を言うのか、私には理解が出来ませんでした。
当初は考えない様にと務めたのですが、気が付けばその事を考えてしまいます。
このままでは業務に支障が出かねないので、早急な解決を検討した結果、天江衣の友達である貴女に訊くのが適切であると判断しました」
「そうなんだ。ころもちゃんが………」
止まっていた手を進める。
友達とは何か。
言われてみれば何なのだろう。
部活の皆は、うん。友達だって言える。
けどそれは、気がつけば友達になっていた、という感じだ。
友達は何かって言う答えにはならないと思う。
「う~ん…………。
ごめんね、よくわかんないや」
「そうですか」
インデックスの表情は変わらない。
けれどその様子は、何処か落胆しているように感じられた。
だからだろうか。
私は纏まらない思考を集めて、一生懸命考えて言った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う~ん…………。
ごめんね、よくわかんないや」
「そうですか」
その答えは、インデックスにとって予測できた答えの内の一つだった。
『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』全てに該当項目がなかったのだ。
もとより正確明瞭な答えなど期待していなかった。
だからこの事はここで終り。
これまで通り、なるべくその事を考えない様にしよう。
自分に与えられた役割、存在理由を果す為に。
そう考えた時だった。
「けどね、私にとっての友達は、ここの人たちみたいな嫌な事を考えないで、一緒にお話や麻雀を楽しく出来る人たちの事かな」
「……一緒に…………?」
「うん。だからね、きっところもちゃんも、甘言とかそんなんじゃなくて、インデックスさんと一緒に遊びたかっただけなんじゃないかな」
「一緒に……遊ぶ…………」
ノイズ――――――
『はい。 。半分こ』
『―――、―――』
『これがガッコー生活かぁ。いいないいなぁ』
知らない筈の記憶を思い出す。
知らない場所、知らない光景。
そこで私は、知らない誰かと歩いている。
―――ザッ――――――
「私ね、麻雀、最初はあんまり好きじゃなかったの。子供のころ、家族麻雀でお年玉取られてばっかりだったから。
けどね。のどかちゃんや、部活のみんなが……あ、のどかちゃんはね、私の一番の友達なんだ」
「一番の………ともだち……………」
ノイズ――――――
『よく分かんない。でも友達』
『―――――――――』
『よく分かんなくても■■■■は友達だもん!』
そんな筈はない。
知らないなんて事はありえない。
私は“完全記憶能力”を有している。
ならば私は彼女を知っていなければならない。
―――ザァーーーッ―――
「うん、一番の友達。
のどかちゃんやみんなが居てくれたから、私は麻雀を好きになることが出来たんだよ。
だから、のどかちゃんもころもちゃんも、みんな私にとって大切な友達なんだ」
「……たいせつな………………」
ノイズ――――――
『あの……ボタン押さなくちゃ』
『ありがとう。あなた、名前は?』
『……私、――――』
“思い出せ”。私は彼女を知っている。
『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』にはない。
ある訳がない。魔導書はあくまで魔術を記録するモノ。
魔術ではないモノを探そうと思うのなら、その外側を探しだせ。
―――ザザァーーーーーーッ
―――『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』“以外”から『ともだち』を完全一致で検索開始。
所要予定時間約30秒。…………………………………………………………………
………………………………………………………………ファイルプロテクトを確認。
プロテクトを構成する情報より、未知及び既知の複合魔術式による封印と推定。
ファイルプロテクト?
何故そんなモノが……。
いや。今それは後回し。
情報の取得を優先する。
―――『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』によるハッキングの後、再検索を開始。
所要予定時間約70秒。………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………検索終了。該当項目、一件。
……そうだ。彼女は、私の、たいせつな、トモダチ――――――
「……………………ひょうか……………………?」
―――ガギッッッ
「ッ……………………!」
再びこめかみに鋭い痛みが走る。
呼吸が乱れ、思考が乱れる。
痛い。苦しい。何故。
「? インデックスさん、どうしたんですか?」
「ッ……いえ。何も問題はありません」
宮永咲を心配させない様に、外見上は平静を保つ。
その裏で、自身に何が起こったのかを確認する。
―――ファイルプロテクトによる攻性障壁を確認。
これ以上のハッキングは危険と判断。
以降の検索はプロテクトの解除後を推奨。
なお、取得した断片情報により、封印されているのは自己の記憶と推定。
ファイルプロテクトと攻性障壁。
私の記憶を封印し、それを思い出そうとする事を阻害している。
つまりはそう言う事か。
何故、何の為に。
私は一体―――
「あっ、ツモ、嶺上開花!
やった! 最後に一回だけだけどアガレたよぉ」
「……おめでとう御座います。宮永咲さん。
元気も出たようでなによりです」
「うん。ありがとう」
宮永咲は無邪気に喜んでいる。
確かに、前回、彼女が行った麻雀の時と違う。
前回、彼女は勝利したというのに嬉しそうではなかった。
そして今回は、敗北したというのにとても嬉しそうだ。
命が掛っていないからだ、と言ってしまえばそれまでだが、それでも違うと思う。
「いたっ……」
「どうしました?」
「なんでもないよ。大丈夫」
「ふむ……」
そう言えば、彼女は黒服の一人に暴行を加えられたそうだ。
そしてその際に起きた事象で、恐慌状態に陥ったのだった。
「少々待っていて下さい。すぐに戻りますので」
そう言ってインデックスは、宮永咲の部屋から退室した。
それから五分くらい経っただろうか。
インデックスが戻って来た。
ただし、一人の男を連れて。
「どうしたんだい、シスターちゃん? こんな所まで連れてきて。なにか用なのかな?」
「いえ。貴方自身には大して用はありません。
人手が必要でしたので、たまたま近くにいた貴方を呼んだだけです。
それよりも、依頼した仕事は進んでいるのですか?」
「ああ、それなら大丈夫。半分は終わらせたからね。
ここに寄ったのは休憩さ。キッチリ働くのも悪くないけど、根を詰め過ぎると逆効果だからね」
「そうですか。進んでいるのであれば、問題ありません」
あれから依頼された作業の、残りの内二つを済ませた
忍野メメであった。
彼は休憩の為に飛行船に戻った所をインデックスに見つかり、ここへと連れて来られたのだ。
「あの、インデックスさん。その人は」
「彼は忍野メメ。私達からの依頼を受けて、働いて貰っている人物です」
「やあ。初めまして、お穣ちゃん」
「こちらこそ初めまして。宮永咲です」
「ああ、君がおっぱいちゃんの友達だね」
「はい? おっぱいちゃん?」
忍野メメの変わった呼称に、咲は首を傾げている。
きっと誰の事を言っているのか判らないのだろう。
確かにあんな呼称では、胸が大きければ誰でも適用出来てしまう。
仕方ないので助け船を出す事にする。
「
原村和の事です。
それより、忍野メメ」
「はいはい。それで、僕は何の手伝いをすればいいのかな?」
「彼女に治癒魔術を行使します。貴方はその協力をしてください」
「りょーかい。でもいいのかい? 勝手にそんな事をして。上に判断を仰いだ方がいいんじゃないの?」
「……必要ありません。彼女は原村和に対する人質です。彼女に後遺症等が発生した場合、原村和が反旗を翻しかねません。
上層部とて、それは避けたい状況でしょう」
「そう。君がそれでいいんなら、僕もそれで構わないよ。
さ、始めようか」
これは建前だ。
けど、ならば本音は何か、と聞かれると、自分にも判らない。
そしてそれは、忍野メメにはすぐに分かったのだろう。
その事を一言も洩らさず、忍野メメは準備に入る。
「ではこれより、治療魔術を開始します。
貴女は気を落ち着かせ、安静にしていて下さい」
私も続く様に準備に入った。
「……………………。
術式終了。力場を拡散します」
部屋に満ちていた圧迫感がなくなる。
それと同時に咲は自分の状態を確認する。
「わぁ、すごい! 痛いのがなくなっちゃった」
無邪気に喜ぶ咲。
怪我はちゃんと完治出来たようだ。
もう訊くべき事もない。
本来の業務に戻ろう。
「では、宮永咲さん。私はこれで失礼させて頂きます。
それと、麻雀の道具一式は、このままここに置いておきます」
「うん。ありがとう、インデックスさん!」
「……………………」
“此処”に来てから感謝されたのは初めてだ。
どう返したらいいのか判断がつかない。
何も言わず部屋の出口まで歩いて行く。
その時、咲から話しかけられた。
「あ、そうだ。インデックスさん」
「……何でしょう」
「私と、友達になりませんか?」
友達。
天江衣が言ったのと同じような言葉。
多分、意味も同じ。
ならば私の答えは―――
「……………………………………………………………………………………考えておきます」
「そっか。うん、お返事、待ってるね!」
「はい。分かりました」
熟考の末の返答。にしては曖昧な答えだ。
多分。私の中で答えが出ていないからだろう。
けど、そんな事には目もくれず、咲は待っていると言った。
ならばちゃんと返事をしなければ。その為に、答えを見つけなければ。
そう考えながら、私は彼女の部屋を退出した。
飛行船の廊下を歩く。
後ろには忍野メメ。
何故か未だについて来る。
「……私に何か」
「いや、何も。でも、君の方があるんじゃないのかな。訊きたい事」
私が忍野メメに訊きたい事。
特筆しては無い。
詰問するべき事はあるが、現状では明確な証拠がない。
はぐらかされて終わるだろう。
「現時点では何も。……ですが、そうですね。
参考程度に訊いておきましょう。
友達とは何ですか?」
「友達、ねえ。
ごめんねシスターちゃん。僕はほら、“普通”の友達がいないからさ。君の望む答えをあげることは出来ないかな」
ならば“普通”じゃない友達とは何なのか、とは訊かない。
というか、どうやら訊いた相手が悪かったらしい。
それ以前に、世間一般で言う“普通”に該当する人物が、此処には居ない事を失念していた。
けれど、忍野メメの話はまだ続く。
「けどそれは、君自身が動かなきゃ見つからないモノなのは確かかな」
「私から動く?」
「そう。君から動く。
友達っていうのは作るモノでもあるし、いつの間にか出来ているモノでもある。
それに、一言に友達と言ってもイロイロあってね。親友、悪友、戦友、盟友。時には強敵と書いて友と読むことだってある。
けどそれらは総じて、他者との繋がりの中で生まれるモノだ。何もしないで友達が出来るのは、ごく稀だよ」
「そうですか。
有り難うございます。参考にはなりました」
「そうかい。それはよかった。
それじゃあ休憩も終わったし、僕は仕事に戻るとするよ」
忍野メメはそう言って、通路の奥へと消えた。
さて、私も自分の仕事に戻るとしよう。
けれど―――
「自分から動く、ですか。
そうですね。それも良いかもしれません。
百聞は一見に如かず、という諺もありますし」
再び天江衣と話すのも良いかも知れない。
何より、この問題の発端は彼女だ。
彼女なら答えを知っているかもしれない。
もし彼女が借金を返済出来たなら、その確認と言う名目で会いに行けるだろう。
それに。
「…………風斬氷華、ですか」
断片的な記憶しか取得できなかった少女。
何故か無性に、彼女に会いたくなった。
ザァッ―――――――――
『……ひょうか。また遊べるよね……』
『もちろん!』
【?-?/飛行船・通路/二日目/深夜】
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ペンデックス?
[服装]:歩く教会
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
0:バトルロワイアルを円滑に進行させる。
1:友達が何なのかを知りたい。
2:天江衣にもう一度会ってみる。
3:自分に掛けられた封印を解除する?
4:友達が何か解ったら、咲に返事をする。
5:風斬氷華とは…………。
※インデックスの記憶は特殊な魔術式で封印されているようです。
【忍野メメ@化物語】
[状態]: 健康
[服装]: アロハシャツ
[装備]:???
[道具]: 煙草、通信機
[思考]
基本:この場でのバランスを取る
0:【死者の眠る場所】、もしくは【神様に祈る場所】にある"門"へ向かう。
1:結界を修復する。
2:参加者が主催者を打倒する「可能性」を仕込んでおく。
[備考]
※参戦時期は不明。少なくとも、
阿良々木暦と面識はあるようです。
※忍野の主催への推測があっているかは不明です。
※忍野への依頼、達成すれば一億円。
【敵のアジト】、【城】、【神様に祈る場所】、【廃ビル】、【円形闘技場】、【学校】の結界の修復
及び〈太陽光発電所〉の代替地での結界作成、《政庁》での状況確認
※【ホール】に〈太陽光発電所〉の代替地として魔法陣を作成しました。
ただし、従来通りの機能かどうかは判明していません。
※【敵のアジト】の結界は修復しましたが、直後に【敵のアジト】が崩壊しました。
※【憩いの館】に結界を敷きましたが、まだ不完全です。何らかの異常が生じているかもしれません。
※【櫓】を中心としたA-7エリア全体に進入不可能な強力な結界を敷きました。
※上記の他に二つ、依頼された仕事を終わらせました。
その為、[思考] 0番目も終わらせた可能性があります。
“何”を“どう”終わらせたかは、後の書き手に任せます。
※【櫓】がこの島における最重要施設に対する鬼門封じの施設だと考察しました。
※地図の東西南北がずれていることに気付いています(何度ずれているかは後の書き手にお任せ)
【?-?/飛行船・咲の自室 /二日目/深夜】
【宮永咲@咲-Saki-】
[状態]:疲労(中)
[服装]:清澄高校夏服
[装備]:???
[道具]:麻雀道具一式、???
[思考]
基本:のどかちゃんと一緒に帰りたい。
1:死にたくない。
2:インデックスさんの返事を待つ。
3:インデックスさんは、実はいい人?
4:歌を歌う少女にお礼がしたい。
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最終更新:2011年09月02日 01:02