ふじのスパイラル ◆MwGEcqIDcI



【0】
私は痛みがわからない人間だった。
周りの人はみんな痛みがわかる人たちだった。
だから私は彼らの気持ちがわからなかったし、
彼らも私の気持ちがわからなかった。わからない、はずだったのに。
「痛いの?」
彼はそんな私の気持ちに気づいてくれた。
痛いって何か分からなくて、
生きているって実感がわかなくて、
誰からも理解されなくて、
幽霊みたいだった私を、
わかってくれた。
それがうれしくて、だけど信じられなくて、その時は返事ができなかった。
それを、偶然再会したあの日、ようやく言えた。
「―――はい。とても……とても痛いです。わたし、泣いてしまいそうで―――泣いて、いいですか?」

【1】
ホールを出たあと僕、阿良々木暦は市街地の中をコンパスの向きに従ってひたすら北北西へと急いでいた。ビル街だろうが、住宅地だろうが、お構いなく。
しかし、住宅街は一種の天然の、されど人工的な迷路である。だいたい建物が先にできて、後から道が作られるため、道路は大概複雑になる。
これが初めから都市計画に沿って作られている札幌とか、再開発を受けている川崎みたいな大都市なら少しは違うのかもしれない。
けれど、この島はどう贔屓目に見ても日本―いや、スザクの言っていたブリタニアって国かもしれないが―の大都市には見えなかった。
要するに何が言いたいかというと、僕、阿良々木暦は住宅街の中で迷ったあげく西側の海に面した道まで出てきてしまったのだ。
こんなことで時間を取られるなら初めから大通り沿いに行けばよかったものだが、今更悔やんでも仕方がない。
手元の地図に照らし合わせて右手の橋、正面の宇宙開発局から位置を確認すると、マウンテンバイクの向きを北に変える。
道は海沿いに延びていて、道なりに行けばE-6には無事に入れそうだ。
道幅も速度を出すには十分なくらいに広い。
あとはただ急ぐ。
戦場ヶ原がE-6にいるうちに追いつかなければいけないから。
そんな調子だったせいで、橋を越えてしばらくたったころ黒い服の少女が建物の間からふらりと現れたのに気づくのがいささか遅れた。少女がこちらを見る。

「うわっ!」

と情けない悲鳴をあげてあわててハンドルを横にきるも、今まで速度を出しすぎていたのが今度は急に曲がりすぎてバランスを崩し、転倒、そのまま地面に放り出された。
本日二度目の浮遊体験である。
少女はしばらく唖然として立っていたけれど、それからこちらに駆け寄ってきて「あの…すいません。大丈夫ですか?」と声を掛けてきた。
僕はまだ痛む頭の後ろのほうをさすりながら上半身をあげて相手を見る。

「ああ…うん、なんとか生きてる。君は?」
「え?あ…はい。私は大丈夫です。」

それから彼女は、浅上藤乃と名乗った。

# # #

ライダーと藤乃はサーシェスと別れた後南から象の像を目指していた。
よく知る北側のルートではなく南側のルートを選んだのは、駅で出会った面々やセイバーやアーチャーを倒した参加者に時間を取られ像に先回りして罠をかける時間を失うのを恐れてのことだ。
そうして海が見え宇宙開発局が確認できる場所まで来た時、ライダーが声をあげた。

「フジノ、止まって下さい。誰かがこちらに向かってきます。」

それからライダーは藤乃を連れて傍らの建物の陰に身を潜め、デイパックから詳細名簿を取り出す。

「名前は阿良々木暦、職業は学生、ですか。どうやら何の変哲もないただの一般人のようですが…」

詳細名簿の「阿良々木暦」の欄を藤乃に指さしながら、ライダーは言い、しかし少し考え込んだ。
名前の横の「怪異に行き遭う少年」。そんなものはどうでもいい。
似たような説明のある人間のうち、フジノが会った「千石撫子」も、自分が殺した「神原駿河」もただの人間に過ぎなかった。
つまり、この殺し合いにおいては狩られる側の人間―自分にとっては魔力の供給源となる人間―にすぎない。
では、何が気になっているのか

「どうしたんでしょう?あの人、すごく急いでいるみたい。」

フジノがようやく相手の姿をとらえたようで、思ったままの声をあげる。そしてそれはライダーが懸念している理由そのものだった。

(急いでいる…いや、焦っている?)

この殺し合いゲームは体力が尽きて殺されればそこで終わりである。
体力は温存しておくもので、こんな何もないところで何の理由もなく全力疾走するなど通常有り得ない。
もっともこんなことをする可能性が高いのは殺し合いに乗ったものと会い逃げてきた場合だろう。
しかしもしそうだとすれば面倒極まりない。
なにせここは島の外れの半島の付け根、少年の来た方向にはホールか、自分たちの向かっている宇宙開発局しかない。
そしてホールはともかく、宇宙開発局は自分たちがこれから向かう先である。

「何があったのか聞きだしてみましょうか、フジノ」

この会場には自分にさえ想像の及ばない異能者たちがいる。戦国武将然り、雨合羽然り。リスクを回避するためにも情報は手に入れておくに越したことはない。そう思い少年の前に身を出そうとして―

「待って下さい…」

フジノの声に遮られた。

# # #

前を歩くライダーさんの背中を見ながら私は思う。この感情はいったい何なのだろうかと。
初めに持った感情は嫌悪。
出会いからして最悪だったが、人を笑いながら殺しに来る両儀式と同じように自分を「同類」とみなしてくるその目線も嫌だった。
私は自分の痛みがわかるようになった。
私は他人の痛みもわかるようになった。
私は自分が痛いって思う気持ちもわかるようになった。
私は他人の痛いって思う気持ちもわかるようになった。
私は人を殺す時、その人の痛いって気持ちがわかって、私も人並みの生きている人間なんだと実感できる。
でもそんな自分が醜くて、すごく苛立たしい。人殺しなんか本当はしたくない。
今回だって人殺しをしてるのは先輩を生き返らせるためで、私自身は人殺しなんてしたくない。
だから人を殺すことをなんとも思ってなさそうなあの人が手を組もうと言ったとき、あの人を嫌いだと思った。
だけど今は違う。
あの人への嫌悪感がまったくなくなったわけじゃないけれど、それよりもずっと大きな別の感情を抱いてる。
安心?信頼?感謝?言葉にすれば陳腐だけど、たぶんそういう感情。
理由は――単純で、愚鈍だ。
きっと、優しくされたから。
名前を褒められて。先輩が死んだ時慰めてくれて。別れた後戻ってきてくれて。
何より、死にかけて役立たずだった私をまた必要としてくれて。
彼女は私を利用したいだけだってわかっているのに、私はそんな感情を捨てられずにいる。
だから、だと思う。
「藤乃、止まって下さい。誰かがこちらへ向かってきます。」
「何があったのか聞きだしてみましょうか、藤乃」
一人でやってみようと思った。

「待って下さい…私にやらせてもらえませんか?」

そんなこと言って、ライダーさんにいいとこみせたいんじゃないの?
彼女の役に立ちたいとか思ってるんじゃないの?
冷静で冷たい私が頭の中でささやく。
…否定はできないけれど、でもライダーさんとの利用しあう関係にばかり頼ってもいられない。
私は先輩を生き返らせるため、最後の一人にならなきゃいけないから。

ライダーさんは一瞬戸惑っていたようだけど、すぐに許してくれた。私は道に出て向かってくる自転車の前に立つ。

ごめんなさい

浅上藤乃は本心からそう謝ると、凶げんとして自転車を見る。
―――その彼女の口元は小さく歪に笑っていた。

【2】
後ろ
アパート
一階の部屋は庭付きで二階より上はベランダがついている。
もっともその一階の部屋は、庭がついているといってもそれはちょっとした盆栽ができそうな程度の小さなものでしかない。
しかも庭と道との間にある柵が針金を張り巡らせた機密性皆無なもので部屋の中が容易に外から垣間見えて、あまり住み心地はよくなさそうだった。
もっとも今は西日が射しているため中の様子よりガラス戸に映る僕の姿の方がよく見えるのだけれど。

正面
海と夕日。
夕日が射して朱色に染まった水面に垂直に切り立った崖の上に、僕のいる海沿いの道路がある。
そして黒い服の少女―浅上藤乃というらしい。
腰まで届く長い髪にどことなく儚げな雰囲気をまとったお嬢様然とした少女。
ここまでなら戦場ヶ原そっくりかもしれないが、別に勝気なわけでも傲慢なわけでもサデイストなわけでもない。と、思う。
まだ名前を交換した程度しか話はしてないけれど、彼女は人見知りのする大人しい少女といった感じを受けた。
…まあ、初対面の感想をホッチキスとカッターを口に突っ込んでくる女と比べること自体間違ってる気がしないでもないが。

僕らはひとまずお互いに交戦の意思がないことを確認したあと、情報交換を始めた。
すぐに戦場ヶ原のもとに向かいたくもあったけど、原村和が「危険です」と伝えてきたE-6に付近の情報が欲しかった。
とはいってもそう簡単に彼女を信用したわけではない。
彼女に改めて向き合ってようやく気づいたことだが、彼女は頬をはじめ体中に傷があった。正直顔を背けていたいくらい痛々しく思う。
しかし彼女はおそらく複数回の戦闘を経て生き残っており、単独で行動している。まったく疑わないのは無理な話だ。
さらに言うなら僕は既に二度、殺し合いに乗っていないという人間から不意打ちを受けている。…よく生きてるな、僕。

それに、彼女が殺し合いに乗っていようと乗っていまいと放っていくことは出来ない。
また僕が失敗したせいで彼女が死ぬのも、彼女が誰かを殺すのも御免だった。



浅上藤乃は男性経験が乏しい。
もともと人見知りのする性格だったし、入った礼園女学院は外出すらも許可制でほとんど許されない(もっとも藤乃自身は特例扱いだったが)女子高だった。
だから知っている男といえば「先輩」黒桐幹也か、あるいはあの汚らわしい男たちぐらいのものだ。
そして暦の話を聞きながら、相手は前者に近いごく普通の学生だろうと実感していた。
この人を騙して情報を引き出してから殺そうとしていると思うと少し罪悪感が頭をかすめる。

もともと藤乃は自転車ごとこの相手を「凶げ」て力づくで情報を引き出すつもりだった。
しかしいざ凶げようとした時この相手は藤乃をかわそうとして勝手に転んだ。
なんというか、機を逸して毒気を抜かれた、そんな気分だった。
だから最初はただの会話で情報を引き出し、それから拷問にかけようと方針を変えた。

# # #

まず阿良々木さんが口を開いた。
平沢憂に不意打ちにあったこと。
D-6駅で「仲間」と会い、電車に乗った敵に襲われ駅から離れたこと。
政庁で東横桃子、ルルーシュ・ランペルージ、平沢憂の三人に襲われ「仲間」が命を落としたこと。
そして
「ああーえっと、これを信じるかは君次第だけど」
とすこし躊躇って、
政庁からホールへ「ワープ」したことを告げ、今は駅付近の「仲間」のもとに急いでいるのだと言った。
おそらく駅の「仲間」というのは幸村やセイバーのことだろう。
あの時姿が見えなかったということは一人不自然に駅から離れたセイバーとともに避難していた、といったところだろうと推測する。
しかし幸村もセイバーも放送で呼ばれたはず。
つまり駅付近の「仲間」には彼ら以外にもいることになる。
後で聞かなきゃいけないのは「仲間」の詳細と明らかに怪しい「ワープ」のことと確認する。



僕は、最悪他に迷惑がかかりそうなこと、つまり駅で会った仲間の名前やE-6にいるらしい戦場ヶ原のことは伏せておいた。
逆に言えばそれ以外のこと、つまり殺し合いに乗ったものの情報やワープなんていう不可解な体験のことは教えた。もっともまだホールのことは教えてないけれど。
そんな胡散臭い情報も聞き入れてくれた様子を見て、素直って単語を彼女を形容する言葉に加えておいた。
あと話してる間にわざと隙を見せてみた。後ろを見せてみる、下を向いて考えことをしてみるなどなど。
だけど特に何の反応もなかった辺り、殺し合いに乗っている可能性は低いと判断する。

# # #

次に浅上が口を開き始めた。
スタート地点が学校だったこと。
そこから東に移動してきたこと。
そしてD-6駅で黄色い雨合羽の化物と白髪の少年に襲われたこと―

「え?あ、ちょっと待って」
「? 知っている人がいたのですか?」

彼女もD-6駅にいたらしい。
すれ違いになったのだろうか、なんて思ったけれど、今はもっと考えなければいけない単語があった。

黄色い雨合羽―十中八九それは神原駿河、レイニーデビルのことだ。
まさか60人程度しか集められていないこのゲームで二つも三つもあの「猿の手」があるわけじゃないだろうし。
話を聞く限り悪魔の力を借りたみたいだけど、おそらく神原駿河自身はゲームには乗っていなかっただろうと思う。
しかし何らかの危機に陥って戦場ヶ原の無事をレイニーデビルに願ったのなら、心の底では戦場ヶ原以外の人間を皆殺しにしようと思っていても不思議はない。
彼女が最後まであの怪異に振り回されて命を落としたかと思うと、どうしようもなくやるせなくなった。

そして白髪の少年―会ったことはない。
だけど、『おくりびと』で見た中に思い当たる顔があった。

「一人はよく知ってるやつかもしれない。もう一人は…名前は知らないけどやばいやつかもしれないってのは知ってる。」
「詳しく、教えていただけますか?」
「ああ、いいけど、君の話があと少しなら先に教えてくれないか?」

浅上は少し不満そうな顔をしたが、前と変わらない口調でその後を続ける。
駅から逃れた後、少し休んだこと。
E-6で白髪の少年とツンツン頭、それに褐色の人が漆黒の鎧の人と戦っており、それを避けてきたことを告げる。

「って、E-6!?」
「え?そうですけど、何か…」
「あ、いや…」

思わず反応してしまった。
まだE-6に戦場ヶ原がいると知っていることは話していないのだから我ながらまずい反応だと思う。
けれど、流石にE-6で戦いがあったことを実際に聞くと落ち着いてもいられない。
とりあえずこっちが言うべきことをまとめて言っておこう。

「えっと、ごめん。急がなきゃならないみたいだ。
さっきのことだけど、雨合羽のやつは多分僕が知ってるやつで、…もう死んでる、と思う。
白髪のやつは「人が死んだ時一番近くにいた人が表示される」支給品があってそれで見た。
もっともその支給品は持ってた仲間が政庁でやられて今手元にはないけれど。
それからホールの方はしばらく誰もいなかったから安全だと思う。
あと、誰かここにきてから信用できる人はいる?」

彼女も自分を警戒しているのだろう、危険な人物の名前しかまだ明かされていない。
けれど、もし彼女に信用できる人がいるのなら「原村和」のことを教えておけば合流しやすくなる。
そう思って聞いてみたのだが、

「はい。その…さっき別れたばかりなので、この辺りにいると思います。」

要らぬお世話みたいだった。
そんな素振り今までまったくなかったんだがなあ。
でも今教えてくれたということはそれなりに信用してくれたということか。

「ならよかった。その名前、教えてもらえる?」
「あ…、それは、できません。ごめんなさい」

そりゃそうだ。こっちも仲間の名前を教えてないし、一方的に聞くのはフェアじゃないよな。

「いや、別に謝るほどのことじゃないけど…。
僕はもう行くけど、さっき言った通りこの先は安全そうだったからその人と合流したらこのまま南に進むといいと思う。
他に聞きたいことあったら手短に頼む。」
「いえ……。その、ごめんなさい」

そんなことを思いながらだったからか、いや思っていなくても同じことだっただろうか。
彼女の「ごめんなさい」の意味が変わっているのに、僕はまったく気付けなかった。

# # #

(…宇宙開発局で何があったか聞ければ、それで十分だったのですが)

ライダーは一人苦笑していた。
彼女は今、二人からは見えないが二人の位置を確認しながら会話の内容が確認できる位置、アパート二階のベランダに潜んでいた。
フジノは魔眼を使って強引に情報を引き出すつもりだろうと思っていたところに普通の情報交換が始まったのには面くらった。
…しかしいきなりあんなことがあれば、やる気を失うのもわからないでもない。
フジノが最後まで何もしなければ自分が出ていけばいいだけだと思い直してライダーは今の位置を確保した。
しかしフジノが一人でやる、と言いだした時には驚いたものだ。もっとも、理由に大体の見当はつくが。
(サーシェスの一件が原因でしょうが…私に依存している自分に気付いたから、といったところでしょうか。)
殺し合いで勝ち残れるのはたった一人。いずれ一人立ちせねばならず、あの普通の人間なら練習台にはちょうどいいと思ったのだろう。
そこまで考えて…少し、さびしく思った。

(何を考えているのでしょうね、私は…)

私とフジノは利用しあう関係にすぎないと―これで何度目だろうかなどと思いながらも―また彼女は自分に言い聞かせた。
そして、胸中のもやもやを振り払うように阿良々木暦のもたらした情報の整理へと思考を切り替える。

暦が自分たちの攻撃から逃れ「仲間」とともに政庁に行ったのだという情報。
政庁で「仲間」が命を落としたのだという情報。
ここからセイバーがあれから暦とともに政庁に行き、「東横桃子」「ルルーシュ・ランペルージ」「平沢憂」の三人の戦い命を落としたのは推測できた…が。

(三人がかりとはいえ…セイバーをただの人間が倒せるものでしょうか)

詳細名簿を見ながら考える。

東横桃子 学生 影の薄い少女
ルルーシュ・ランペルージ 皇帝 頭の切れる少年
平沢憂 学生 姉思いの少女

少なくともライダーの苦戦した戦国武将のような人間はいない。
皇帝と書いてあるルルーシュ・ランペルージは少し気にかかったが、写真を見る限り体つきも一般人のそれとかわらなく見える。
ならばフジノや一方通行のように名簿には載っていない能力を持っているか、あるいは彼らとは別の第三者が現場にいたのか―。
真相はわからないが、ひとまず彼ら三人の名前と顔を覚えておくことにした。
そして「仲間」の内わけだが、幸村、セイバー、阿良々木暦は―阿良々木暦が嘘をついていなければだが―確定。
残る仲間だが、少なくとも自分を知っていた「枢木スザク」「レイ・ラングレン」「神原駿河」の誰かは入っているだろうと推測する。

次にワープ。
わけがわからない。
もっとも本人も戸惑っていた様子なので、本当に起きたことなのかもしれない。こればかりは体に聞いてみるしかないだろう。


阿良々木暦が話終わると、フジノが話始めた。
わざわざ聞く必要もないのに真面目なものだと思う。
ここにはいないマスターのことが少し頭に浮かぶ。
しかし阿良々木暦の反応からは予想以上に大きな収穫が得られた。

フジノは今まであったことのうち、駅で徒党も組まず乱入してきた二人と、自分の目撃したE-6での事件について話した。
幸村のことは言わずもがな、スザクらは「仲間」の可能性が高く、学校の件も二人を逃した以上話すにはリスクが高いと判断したのだろう。
ここで彼は駅の二人どちらともに反応を示した。
白髪の少年―詳細名簿によれば一方通行というらしい―に対する反応からは、「人が死んだ時一番近くにいた人が表示される支給品」の存在が。
そして雨合羽に対する反応からはあれが阿良々木暦の知る者だとわかる。
それを「おそらく死んでる」と判断したのは、例の支給品のおかげだろう。
あの異能についての情報が得られそうなのは僥倖といえた。


フジノが同行者の存在に触れた。
阿良々木暦が警戒しようがしまいがもう関係ない、ということだろう。
それからフジノが「凶れ」と言った。
阿良々木暦の足が凶がった

【3】

「がぁっ」
呻き声をあげた。それはすぐに絶叫に変わった。
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

浅上の聞きたいことに答えたらすぐに出発しようとマウンテンバイクにまたがろうとした時、それが起きた。

「凶れ」

声がした。
僕の足―正確には左足が―凶がりだした。
曲がりだした、でもなく、折れ始めた、でもなく、壊れ始めた、でもなく、「凶がり」だした。
緑色と赤色の螺旋につつまれ、どこか神秘的に、しかし絶望的に起こったそれを表すには、一番適切な表現だろう。
それから呻き、絶叫した。
だけど幸か不幸か、僕は正気を失わずに済んだ。
足が凶がる。理解は出来ない。でも受け入れられる。
激痛が走る。でも耐えられる。

―これは腕をもがれ、内蔵を引きずり出され、それでも怪異と出会い乗り越えてきた阿良々木暦だからこそできることなのだろう。

僕は正面の黒い服の少女を見た。
彼女は俯いたまま繰り返し繰り返し「ごめんなさい」と呟いていた。
その様子は僕とさっきまで会話していた少女の様子と同じ変わらない自然な姿に思え、おそらく本心からそう思っているのだろうと思える。
それから彼女は顔を上げた。
心の底から自分のやっていることを悔いているように身を震わせながら

その顔は、笑っていた。

心底愉しそうに、生まれて初めておもちゃを与えられた子供のように笑っていた。
「凶れ」
彼女がそういうと、その目から生じた赤と緑の螺旋が僕の左腕をゆっくりと凶げ始める。

僕は恐怖した。
自分が殺されることにではなく、常識的な理性を保ちながら、それでいて人を殺すのを楽しむ狂気に浸っている、その異様さに絶望した。
キット僕ハココデ殺サレル。そう思った。

次に――不思議に思った。
「ごめんなさい」
これが本心なら、常識的な理性を保っているのなら。
「凶れ」
―どうして彼女は、人を殺すのを愉しんでいられるのだろう?
僕は、誰もいなければ泣いてしまいたいくらいに、苦痛を感じているのに。
僕の左腕が彼女の目から生じた緑色と赤色の螺旋に凶がっていく。
でも僕は、目の前の彼女が、もろく、歪んで見える彼女の方が心配になった。

それに―
殺される 納得のいく理由で相手に殺されるのなら、まだ仕方ない、と思える。
だけど、歪で壊れた理由で彼女に殺されるのはまっぴらごめんだった。
だから僕は、彼女に尋ねた。

# # #

聞きたいことは聞けた。
この相手からこれから何を聞きださなくちゃいけないのかは大体分かった。
また相手がごく普通のまともな人間だとも分かった。
だけど、ごめんなさい、先輩のために―

「凶れ」

私が言うと、緑色と赤色の螺旋が阿良々木さんの左足を曲げていく。
阿良々木さんは悲鳴をあげて地面に倒れた。
この人はあの不良たちと違う。
殺し合いにさえ乗っていない優しい人間なのだろう。
だから余計にすごく申し訳ないと思う。
でもこれを見て、生きているって実感している私がいる。
どうしようもなく醜い。虫唾がはしる。
だから、私はせめて今は、謝ることにした。

それから私は顔を上げて、もう一度「凶れ」と言った。
今度は阿良々木さんの左腕が凶がっていく。
また虫唾がはしる。
同時に、気付く。
彼は正気を保ったまま私の方を見ていた。
こんなことができるのは両儀式や戦国武将のようなおかしな人たちだけだと思っていたから、素直に驚いた。
そして、声をかけてきた。

「お前は…痛くないのか?」

# # #

「お前は…痛くないのか?」
自分がやられてる状況で、何を言いたいのだろうと思った。
先輩が昔かけてくれたのと反対の言葉だな、とも思う。
「何で、笑ってるんだ?」
言葉が続いて、また何をいいたいのだろう、と思った。
両儀式と同じ、不愉快なことを言うんだな、とも思う。
私は痛みがわかる。あなたの痛みも分かるし、こんなことをして申し訳ないと思う。
だから笑えるわけがないのに。でも少し気になって、私は脇のアパートのガラス戸を見た。

それは―――沈む夕日を背景にして、醜く、笑っていた

一瞬の静寂

そんなわけ、ない。
私は、人殺しを■■■なんかいない―――

常識と狂気の矛盾。
認められない。
認めるわけにはいかない。

浅上藤乃の脳―ココロは、その思考を遮断した。
「凶がれえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
そう叫ぼうとして、藤乃の意識は暗転した。

# # #

「フジノ!?」

叫んだのはライダー。
阿良々木暦の悲鳴が響き、左足が捻じれ、左腕も捻じれていくのを見て安心して目を背けたのが仇となった。
次に見たとき、フジノは男、阿良々木暦の腕に沈んでいた。
ベランダを飛び出し着地する。
相手はマウンテンバイクを蹴り飛ばす。
避け、肉薄しようとして今度は家電その他が飛んできた。
あるものは避け、あるものは受けて接近しようとして、不意に相手の姿が消えた。
一瞬考え、そしてすぐに相手が崖下の海に飛び降りたのだと気付く。
崖に近づき下を見ると阿良々木暦が―あろうことかフジノごと―海に落下していた。
急いで天の鎖を取り出そうとして、突然轟音が響き、動きが止まる。
次に海を見たときには二人の姿は海中に消えていた。

急いで追おうとして、立ち止まった。自分は何をしようとしているのか。
崖はこの高さ、フジノが無事でいる保証はない。
それにここで自分まで海に飛び込んで探せば、間違いなく象の像を襲撃する計画は破綻する。
さらに、轟音の方を見やると今まで視認していた建物が一つ消えていた。
政庁が、ない?
あまりに予想外の事態に、ただ戸惑う。
象の像に向かうのか、政庁を探るのか、―――それともフジノを追いかけるのか。
一人となった騎乗兵のクラスを持つサーヴァントは、己の行動を決めかねていた。

雑音―孤独を嫌い、しかし孤独を強いられた魔女の残した呪い、束縛、あるいは忠告。
藤乃と出会い、弱まっていたそれが再び彼女の頭に響き始める。

【F-6 /一日目/夕方】
【ライダー@Fate/stay night】
[状態]:右腕に深い刺し傷(応急処置済み) 若干の打撲 、両足に銃痕(応急処置済み) 、雑音(小)
[服装]:自分の服
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式x3、簡易版魔女狩りの王@とある魔術の禁書目録、ライダーの眼帯、不明支給品x0~4、眼鏡セット(魔眼殺しの眼鏡@空の境界 を含む)@アニロワ3rdオリジナル、
    天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、デリンジャーの予備弾薬@現実、
    ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード 、参加者詳細名簿@アニロワ3rdオリジナル、デリンジャー(0/2)@現実
[思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。
1:どうしましょうか…
2:象の像にてサーシェスを利用する
3:サーヴァントと戦国武将に警戒。
4:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
5:戦闘の出来ない人間は血を採って放置する。
6:次の行動を考える。
7:できれば首輪を回収したい。
[備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
※C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
※忍者刀の紐は外しました。
※藤乃の裏切りに備えて魔眼で対応できる様に、眼帯を外しています。
※藤乃の千里眼には気づいていない様子です。
※戦国BASARA勢の参加者をサーヴァントと同様の存在と認識しました。
※以下の石化の魔眼の制限を確認しました。
 通常よりはるかに遅い進行で足元から石化。
 魔眼の効果を持続させるには魔力を消費し続けないといけない。
 なお、魔力消費を解除すれば対象の石化は解ける。
※E-3の象の像の前に、第三放送前に対主催派の人間が集まる事を知りました。

# # #

F-6かその隣の、どこかのエリアの海岸に僕、阿良々木暦と浅上藤乃の姿があった。
デイパックの中にエドペンとギー太が残ってるのを見てほっとする。
…思い返してみて、あれを生き残れたのは奇跡的だったと改めて思う。
あの時声をかけた後、一瞬だったけれどあの螺旋が弱まった。いやむしろ、消えたといった方が適切かもしれない。
ともかく痛みから抜け出せた僕は、なんとかなにやら茫然としていた彼女のみぞおちをグーで殴って気絶させた後、ご覧の要領で彼女の同行者の追撃を振り切って今に至る。
左足はろくに動かなくて、左腕もぎこちなかったのによくやれたもんだと思う。本当に。
それとあの同行者、あれはほぼ間違いなくライダーだった。
あんな紫色の派手な服に、『おくりびと』で見た写真、見間違えるわけがない。
となれば、この横で寝ているのがセイバーの言っていた「駅でライダーの脇にいた少女」とやらなのだろう。つまりは幸村の仇というわけだ。
だけど殺してやろう、という気にはなれない。
何であんな言葉がクリティカルヒットしたのか分からないけれど、それ一つや二つくらいで大きく動揺してしまうくらい、彼女はもろく歪んでいた。
だから―むしろ助けになってやりたいと思う。
忍野「お人良しだねー阿良々木君は。自分を殺そうとした相手だよ?本当に優しいねー。優しくて胸がむかつくねー。」
わかったから、こんなところまで出てこないでくれ忍野。
こんなことしてたら、もう戦場ヶ原に追いつけないってのもわかってる。
でもこのままこのまま放ってはおけないから。憂の二の舞は御免だから。
だから、ごめん戦場ヶ原。生き残っててくれよ…

【?/一日目/夕方】
【阿良々木暦@化物語】
[状態]:疲労(大)、全身に打ち身(治癒中)、左手に裂傷(治癒中)、頭に小さなタンコブ(治癒中) 左腕歪曲(小、治癒中)左足歪曲(中、治癒中)
[服装]:直江津高校男子制服
[装備]:マウンテンバイク@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、ギー太@けいおん!、エトペン@咲-Saki-
     沢村智紀のノートパソコン@咲-Saki-、毛利元就の輪刀@戦国BASARA、USBメモリ@現実
    (政庁で使った物品は適当に回収したため他に何が残っているかは不明、後の書き手にお任せします)

[思考] 誰も殺させないし殺さないでゲームから脱出。
基本:知り合いと合流、保護する。
0:浅上をどうにかする
0:戦場ヶ原…
1:憂をこのままにはしない。
2:モモ、ルルーシュを警戒。
3:……死んだあの子の言っていた「家族」も出来れば助けてあげたい。
4:支給品をそれぞれ持ち主(もしくはその関係者)に会えれば渡す。原村和とは一方的な約束済。
5:千石……八九寺……神原……
6:太眉の少女については……?
7:落ち着いたら【ホール】を再調査してみる。

[備考]
※アニメ最終回(12話)終了後よりの参戦です。
※回復力は制限されていませんが、時間経過により低下します。
※会場に生まれた綻びは、あくまで偶発的なものであり、今後発生することはありません。
※巨神像はケーブルでコンソールと繋がっています。コンソールは鍵となる何かを差し込む箇所があります。
※原村和が主催側にいることを知りました。
※サポート窓口について知りました。

【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:千里眼覚醒・頬に掠り傷(応急処置済み)疲労(大)後頭部に打撲(応急処置済み) 全身に軽い刺し傷(応急処置済み)
[服装]:黒い服装@現地調達
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、拡声器@現実
[思考]
基本:幹也を生き返らせる為、また自分の為(半無自覚)に、別に人殺しがしたい訳ではないが人を殺す。
0:気絶中
1:南の方面からライダーさんと象の象を目指す。
2:サーシェスを敵視。象の像へと罠をかける。
3:人を凶ることで快楽を感じる(無自覚)。
4:断末魔サービスを利用したい
5:サーヴァントと戦国武将に警戒。
6:できれば式を凶る。
7:それ以外の人物に会ったら先輩の事を聞き凶る。
8:逃げた罰として千石撫子の死体を見つけたら凶る。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている

※藤乃の無痛症がどうなっているか、二人がどこの海岸に流れついたかは後の書き手にお任せします。


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207:ペンギンの問題 阿良々木暦 222:『REACH OUT TO THE TRUTH』(前編)
210:とある蛇の観測的美学 浅上藤乃 222:『REACH OUT TO THE TRUTH』(前編)
210:とある蛇の観測的美学 ライダー 225:迷い路-其の先に在るモノ-


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最終更新:2010年03月29日 19:01