鷹の団(後編) - (2007/03/02 (金) 11:55:23) の編集履歴(バックアップ)
鷹の団(後編) ◆WwHdPG9VGI
荒い呼吸音の二重奏が、室内で不快なハーモニーを奏でている。
心臓の拍動数が増大し、恐怖、焦りといった感情の波が押し寄せる。
ゲイン・ビジョウは鋭い視線を前方に向け、神経を研ぎ澄ませていた。
目の前の女剣士の像がゲインの視界の中で拡大。
「ハァッ!!」
自分の頭を縦に割らんと切り下ろされた斬撃を、サイドステップと左足を軸として
体を捻って回避。だが次の瞬間、刃が閃き横薙ぎに軌道変化。手首をひねり、
バットで受ける。
手から衝撃。木片が宙を舞い、手から伝わった衝撃が腹部に到達。
鋭い痛みが体を貫き、ゲインは自分の眉が小さく上がるのを感じた。
反撃の右ローキックが、キャスカの左足に衝突するのに一瞬先んじて、
キャスカがバックステップ。
同時にゲインもバックステップで距離を開け、両者は再び距離を取って睨み合った。
(武器の性能の差が大きすぎる。受けることもできん)
バットで素人目にも分かる名刀の刃を受ければ、バットがどうなるかは自明の理。
既にバットにはいくつも深い傷がついており、いつ折れ飛ぶとも分からない状況だ。
剣士でないゲインが不利な得物でなんとかしのいでいられるのは、
ひとえにキャスカの怪我、特に――
キャスカの剣先が上段に跳ね上がり、重心が前に傾いた。
「そこぉっ!」
ゲインはキャスカの顔面に向けて打突を放った。ゲインのカウンター気味の一撃を、
キャスカ首を捻って回避。キャスカの体勢が左にかしぐ。キャスカの体を支えたのは、
怪我をしていると思しき左足。
(ここだっ!)
だが、キャスカの隙に乗じて踏み込もうとした瞬間、ゲインの背筋に氷塊が落ちた。
咄嗟に腰を引いて緊急回避。
高速で弧を描いた剣の刃がゲインの胴に向かって殺到。
刃がコートを切り裂き、白い毛先がひらひらと宙で踊った。
体には届かなかったもの、背筋に嫌な汗をタップリ2?ほどかき、ゲインは大きく息を吐いた。
怪我の影響で、キャスカの昼間見せた疾風のようなスピードは影を潜め、体裁きにも乱れがある。
今の攻防も、キャスカの左足が満足なら胴を叩ききられている。だが、このままではジリ貧だ。
このバットが砕けた時が自分の最期だろう。素手でキャスカの剣を避けきる自信はない。
(当たらなければどうということはない、と強がりたい所だが、無理なものは無理だ)
認めたくなくても認めなくてはならない。
先ほどの婦人が逃げてくれれば、こちらも機を見て退くという選択肢を取れるのだが、
足場の悪さに加えて、どうやら足に怪我を負っているらしく、その動きは遅々としている。
女性とはいえ、人一人を抱えて逃げようとしては後ろからバッサリだ。
(光やセラスが戻ってくることに期待したい所だが、ヒーローコミックじゃあるまいし
、危機に仲間がタイミングよく駆けつけてきてくれることを期待するのは建設的とはいえん。
となると自力で何とかするしかないんだが――)
突如ゲインの瞳の中のキャスカの像が巨大化。
心臓の拍動数が増大し、恐怖、焦りといった感情の波が押し寄せる。
ゲイン・ビジョウは鋭い視線を前方に向け、神経を研ぎ澄ませていた。
目の前の女剣士の像がゲインの視界の中で拡大。
「ハァッ!!」
自分の頭を縦に割らんと切り下ろされた斬撃を、サイドステップと左足を軸として
体を捻って回避。だが次の瞬間、刃が閃き横薙ぎに軌道変化。手首をひねり、
バットで受ける。
手から衝撃。木片が宙を舞い、手から伝わった衝撃が腹部に到達。
鋭い痛みが体を貫き、ゲインは自分の眉が小さく上がるのを感じた。
反撃の右ローキックが、キャスカの左足に衝突するのに一瞬先んじて、
キャスカがバックステップ。
同時にゲインもバックステップで距離を開け、両者は再び距離を取って睨み合った。
(武器の性能の差が大きすぎる。受けることもできん)
バットで素人目にも分かる名刀の刃を受ければ、バットがどうなるかは自明の理。
既にバットにはいくつも深い傷がついており、いつ折れ飛ぶとも分からない状況だ。
剣士でないゲインが不利な得物でなんとかしのいでいられるのは、
ひとえにキャスカの怪我、特に――
キャスカの剣先が上段に跳ね上がり、重心が前に傾いた。
「そこぉっ!」
ゲインはキャスカの顔面に向けて打突を放った。ゲインのカウンター気味の一撃を、
キャスカ首を捻って回避。キャスカの体勢が左にかしぐ。キャスカの体を支えたのは、
怪我をしていると思しき左足。
(ここだっ!)
だが、キャスカの隙に乗じて踏み込もうとした瞬間、ゲインの背筋に氷塊が落ちた。
咄嗟に腰を引いて緊急回避。
高速で弧を描いた剣の刃がゲインの胴に向かって殺到。
刃がコートを切り裂き、白い毛先がひらひらと宙で踊った。
体には届かなかったもの、背筋に嫌な汗をタップリ2?ほどかき、ゲインは大きく息を吐いた。
怪我の影響で、キャスカの昼間見せた疾風のようなスピードは影を潜め、体裁きにも乱れがある。
今の攻防も、キャスカの左足が満足なら胴を叩ききられている。だが、このままではジリ貧だ。
このバットが砕けた時が自分の最期だろう。素手でキャスカの剣を避けきる自信はない。
(当たらなければどうということはない、と強がりたい所だが、無理なものは無理だ)
認めたくなくても認めなくてはならない。
先ほどの婦人が逃げてくれれば、こちらも機を見て退くという選択肢を取れるのだが、
足場の悪さに加えて、どうやら足に怪我を負っているらしく、その動きは遅々としている。
女性とはいえ、人一人を抱えて逃げようとしては後ろからバッサリだ。
(光やセラスが戻ってくることに期待したい所だが、ヒーローコミックじゃあるまいし
、危機に仲間がタイミングよく駆けつけてきてくれることを期待するのは建設的とはいえん。
となると自力で何とかするしかないんだが――)
突如ゲインの瞳の中のキャスカの像が巨大化。
――疾い!
思考にかまけて気を緩めたわけではない。単に今までよりキャスカの速度が上がった。
ただそれだけのこと。
(怪我をおして勝負に出たか)
一瞬で間合いが消滅。
「セヤァぁっ!!」
キャスカの絶叫が大気を震わせ、高速の太刀筋がゲインに左肩に向かって発生。
首を捻り体を捩る。
刃がゲインの頭髪を切り裂き、耳を掠めて下方へと流れていく。
正に間一髪。
「おおっ!」
ゲインのショルダータックルが炸裂。キャスカがたたらを踏む。奥歯を噛み、
ゲインは満身の力を込めてキャスカの頭部にバットを振り下ろした。
肘に衝撃、いや打撃。
ゲインの視線の先に映ったのは、左腕の掌と右手の剣の柄で自分の肘を抑えるキャスカの姿。
あろうことか、キャスカは身長差を逆手にとり、後ろに引くのではなく前に踏み込むことにより、
ゲインの攻撃を下から止めたのだ。
武器に対して引くのではなく、氷の冷静さを維持して前に踏み込んでいく。
生死の狭間を潜り抜けたものだけがなしえる荒技だ。
キャスカの殺意で燃え上がる視線がゲインの視線と衝突。
だんっとキャスカの右脚が床を叩いた。キャスカの体が伸び上がり、
首筋に向かって一気に体重をかけて刃を押し込んできた。
「終わりだ!」
耳をつんざく叫びがゲインの耳元で轟き、キャスカの剣がゲインの左首筋に接触。
鋭い痛みが電流となって脳に伝わる。
痛みと恐怖をねじ伏せ、ゲインは左手でキャスカの右手首を探る。
ただそれだけのこと。
(怪我をおして勝負に出たか)
一瞬で間合いが消滅。
「セヤァぁっ!!」
キャスカの絶叫が大気を震わせ、高速の太刀筋がゲインに左肩に向かって発生。
首を捻り体を捩る。
刃がゲインの頭髪を切り裂き、耳を掠めて下方へと流れていく。
正に間一髪。
「おおっ!」
ゲインのショルダータックルが炸裂。キャスカがたたらを踏む。奥歯を噛み、
ゲインは満身の力を込めてキャスカの頭部にバットを振り下ろした。
肘に衝撃、いや打撃。
ゲインの視線の先に映ったのは、左腕の掌と右手の剣の柄で自分の肘を抑えるキャスカの姿。
あろうことか、キャスカは身長差を逆手にとり、後ろに引くのではなく前に踏み込むことにより、
ゲインの攻撃を下から止めたのだ。
武器に対して引くのではなく、氷の冷静さを維持して前に踏み込んでいく。
生死の狭間を潜り抜けたものだけがなしえる荒技だ。
キャスカの殺意で燃え上がる視線がゲインの視線と衝突。
だんっとキャスカの右脚が床を叩いた。キャスカの体が伸び上がり、
首筋に向かって一気に体重をかけて刃を押し込んできた。
「終わりだ!」
耳をつんざく叫びがゲインの耳元で轟き、キャスカの剣がゲインの左首筋に接触。
鋭い痛みが電流となって脳に伝わる。
痛みと恐怖をねじ伏せ、ゲインは左手でキャスカの右手首を探る。
――掴んだ
ゲインの体が螺旋を描く。
キャスカの右手を引き上げ引きあげたキャスカの体を腰に乗せ乗せた
「エクソドゥア――スッ!!」
ゲインの気合と共に、二つの体がもつれ合うようにして床に落下。
降り積もった粉塵が舞い上がる。その粉塵を裂いて二つの体が飛び出し、
間隔を取って対峙した。
「貴様ぁ……」
「いかがな? ヤーパン忍法、一本背負い。おそらくあんたの世界にはない技だと思って
披露してみたんだが」
憎憎しげにうめくキャスカに、ゲインは不敵に笑ってみせた。
キャスカの右手を引き上げ引きあげたキャスカの体を腰に乗せ乗せた
「エクソドゥア――スッ!!」
ゲインの気合と共に、二つの体がもつれ合うようにして床に落下。
降り積もった粉塵が舞い上がる。その粉塵を裂いて二つの体が飛び出し、
間隔を取って対峙した。
「貴様ぁ……」
「いかがな? ヤーパン忍法、一本背負い。おそらくあんたの世界にはない技だと思って
披露してみたんだが」
憎憎しげにうめくキャスカに、ゲインは不敵に笑ってみせた。
――ハッタリである。
ガウリ達の訓練で見たことがある技を、咄嗟に使ってみただけであり、
幸運の女神が微笑んだ結果以外の何物でもない。
だが、これでキャスカは、ゲインに接近戦における奥の手があるのではないか、
という疑念をわずかなりとも抱いただろう。
(キャスカは焦っているはずだ。いつこちらの仲間が戻ってくるか、分からないんだからな)
自分のバットが破壊されるのが先か、キャスカが形勢不利とみて引くのが先か。
(倒すのも逃げるのも困難。となれば引いてもらうしかないわけだ。はてさて……。)
脇腹の痛みは間断なく襲い、首筋からの出血もあまり浅くはない。
しかし、ゲイン・ビジョウには、足を怪我をした女性を一人置いて逃げる、という選択肢はない。
エクソダス請負人のプライドにかけて、男のプライドにかけてそれだけはできない。
ゲインは、バットの柄を握りなおした。
幸運の女神が微笑んだ結果以外の何物でもない。
だが、これでキャスカは、ゲインに接近戦における奥の手があるのではないか、
という疑念をわずかなりとも抱いただろう。
(キャスカは焦っているはずだ。いつこちらの仲間が戻ってくるか、分からないんだからな)
自分のバットが破壊されるのが先か、キャスカが形勢不利とみて引くのが先か。
(倒すのも逃げるのも困難。となれば引いてもらうしかないわけだ。はてさて……。)
脇腹の痛みは間断なく襲い、首筋からの出血もあまり浅くはない。
しかし、ゲイン・ビジョウには、足を怪我をした女性を一人置いて逃げる、という選択肢はない。
エクソダス請負人のプライドにかけて、男のプライドにかけてそれだけはできない。
ゲインは、バットの柄を握りなおした。
(強い……)
焦燥感に駆られ、キャスカは奥歯を噛んだ。目の前の男、ゲインは強い。
昼間は、不意打ちとゲインがこちらを過小評価したことで簡単に勝ちを拾えたが、今は違う。
(体さえ、体さえまともなら……)
左足の損傷が何より痛い。元々力ではなく軽量を生かした素早さと精密な剣さばきが、
体力で劣るキャスカの生命線だ。それに深い亀裂が生じてしまっている。
足の痛みは激痛を通り越して最早、地獄の責め苦のよう。一歩踏み出すごとに脳天まで痛みが駆け抜ける。
さらに、疲労と昼間の戦いで血を流しすぎたことが相乗効果を起こし、目がくらむ。
この体調では、切り札のあの技を使うことはできない。
あの技を使えば昏倒してしまう可能性が高いからだ。
いつ、ゲイン達の仲間が戻ってくるか分からない状況で使うのは危険すぎる。
(だけど、ゲインは今、殺しておかなくてはならない)
目の前の男は、身を休め強力な武器を手に入れたならグリフィスの脅威となりうる男だ。
キャスカは視線を横に走らせた。
視線の先には、足を引きずって遠ざかろうとする無力な女。
キャスカと女との間に丁度小高い瓦礫の山がある。軽く飛び越せるくらいの高さの山が。
キャスカの目がギラリと光った。
床を蹴り、キャスカは足を引きずる女めがけて走り出す。
一歩左足を踏み出すたびに痛みがつきぬける。だが、キャスカの表情は揺らがない。
もっと重症を負った状態で剣を振ったこともある。5本の矢傷を受けて十倍の敵に囲まれて戦ったことがある。
その時に比べればこの程度の傷いかほどことがあるというのか。
背中からゲインが追ってくる気配を感じる。
(やはり追ってきた)
昼間の接触、そして今の戦闘で分かった事だが、ゲインは仲間を、特にそれが弱い女ならなさら、
見捨てて逃げることができる類の人間ではない。
こちらが標的を変えれば、誘いと疑念を抱いたとしても追ってくるだろうことは予想がついていた。
意識を二つに分散させ、隙を作るのが目論みだ。
しかし、ゲインに対してはそれだけでは足りない
前方に瓦礫の山が迫る。跳躍し、片足で着地。二、三歩進む。
ここで緊急停止。
(行軍している時によく見た光景がある。前の者が丸太をまたげば、次のものもまたぐ。
前の者が飛び越えれば次の者は飛び越える。つまり――)
背後に気配。
「ハァァア!!」
自然と気合が漏れた。体の回転を最大限に利用した、
飛燕の太刀筋は空中で身動きの取れないゲインを両断――
焦燥感に駆られ、キャスカは奥歯を噛んだ。目の前の男、ゲインは強い。
昼間は、不意打ちとゲインがこちらを過小評価したことで簡単に勝ちを拾えたが、今は違う。
(体さえ、体さえまともなら……)
左足の損傷が何より痛い。元々力ではなく軽量を生かした素早さと精密な剣さばきが、
体力で劣るキャスカの生命線だ。それに深い亀裂が生じてしまっている。
足の痛みは激痛を通り越して最早、地獄の責め苦のよう。一歩踏み出すごとに脳天まで痛みが駆け抜ける。
さらに、疲労と昼間の戦いで血を流しすぎたことが相乗効果を起こし、目がくらむ。
この体調では、切り札のあの技を使うことはできない。
あの技を使えば昏倒してしまう可能性が高いからだ。
いつ、ゲイン達の仲間が戻ってくるか分からない状況で使うのは危険すぎる。
(だけど、ゲインは今、殺しておかなくてはならない)
目の前の男は、身を休め強力な武器を手に入れたならグリフィスの脅威となりうる男だ。
キャスカは視線を横に走らせた。
視線の先には、足を引きずって遠ざかろうとする無力な女。
キャスカと女との間に丁度小高い瓦礫の山がある。軽く飛び越せるくらいの高さの山が。
キャスカの目がギラリと光った。
床を蹴り、キャスカは足を引きずる女めがけて走り出す。
一歩左足を踏み出すたびに痛みがつきぬける。だが、キャスカの表情は揺らがない。
もっと重症を負った状態で剣を振ったこともある。5本の矢傷を受けて十倍の敵に囲まれて戦ったことがある。
その時に比べればこの程度の傷いかほどことがあるというのか。
背中からゲインが追ってくる気配を感じる。
(やはり追ってきた)
昼間の接触、そして今の戦闘で分かった事だが、ゲインは仲間を、特にそれが弱い女ならなさら、
見捨てて逃げることができる類の人間ではない。
こちらが標的を変えれば、誘いと疑念を抱いたとしても追ってくるだろうことは予想がついていた。
意識を二つに分散させ、隙を作るのが目論みだ。
しかし、ゲインに対してはそれだけでは足りない
前方に瓦礫の山が迫る。跳躍し、片足で着地。二、三歩進む。
ここで緊急停止。
(行軍している時によく見た光景がある。前の者が丸太をまたげば、次のものもまたぐ。
前の者が飛び越えれば次の者は飛び越える。つまり――)
背後に気配。
「ハァァア!!」
自然と気合が漏れた。体の回転を最大限に利用した、
飛燕の太刀筋は空中で身動きの取れないゲインを両断――
――するはずだった
(手応え……。ない!?)
剣に白いものがまとわりついている。
(服だけ!? 何処だ!?)
答えは視界に大写しになった靴の先によってもたらされた。
「ごっ!」
気を失わなかったのは僥倖といえた。
鼻柱から後頭部まで衝撃がつきぬけ、視界が白く染まる。
白く染まった視界に火牡丹のごとく赤い点が咲き乱れている。
自分の血だと気づくのには、数瞬を要した。
バットが唸りを上げて迫る。
幾多の修羅場をくぐりぬけてきたキャスカの体が危機に自動反応し、
右手が剣が持ち上げ頭部を防御。
「あぅっ!」
ゲインの一撃を受け止めるには、腕に力が足りなさ過ぎた。
エクスカリバーがキャスカの手から吹き飛び、刃がキャスカの頭部に軽く衝突。
刃と接触した箇所から焼けるような痛み。
「ぐぅ!」
揺れる体の手綱を取り直し、飛ばされた剣を拾うため、後ろに跳躍行動。
だが、ゲインがキャスカに一刹那先んじた。右足の甲を踏み抜かれ、
キャスカの跳躍行動は強制停止させられる。反動で首が揺れ、脳がシェイクされる。
キャスカの目に映る世界が揺れた。
揺れる世界の中でゲインがバットを振りかぶる。
「がっ……」
頭部に衝撃。刀傷から鮮血が飛び散り、床に血の花が咲く。
キャスカの視界が回り、床が猛烈な勢いで接近してくる。
剣に白いものがまとわりついている。
(服だけ!? 何処だ!?)
答えは視界に大写しになった靴の先によってもたらされた。
「ごっ!」
気を失わなかったのは僥倖といえた。
鼻柱から後頭部まで衝撃がつきぬけ、視界が白く染まる。
白く染まった視界に火牡丹のごとく赤い点が咲き乱れている。
自分の血だと気づくのには、数瞬を要した。
バットが唸りを上げて迫る。
幾多の修羅場をくぐりぬけてきたキャスカの体が危機に自動反応し、
右手が剣が持ち上げ頭部を防御。
「あぅっ!」
ゲインの一撃を受け止めるには、腕に力が足りなさ過ぎた。
エクスカリバーがキャスカの手から吹き飛び、刃がキャスカの頭部に軽く衝突。
刃と接触した箇所から焼けるような痛み。
「ぐぅ!」
揺れる体の手綱を取り直し、飛ばされた剣を拾うため、後ろに跳躍行動。
だが、ゲインがキャスカに一刹那先んじた。右足の甲を踏み抜かれ、
キャスカの跳躍行動は強制停止させられる。反動で首が揺れ、脳がシェイクされる。
キャスカの目に映る世界が揺れた。
揺れる世界の中でゲインがバットを振りかぶる。
「がっ……」
頭部に衝撃。刀傷から鮮血が飛び散り、床に血の花が咲く。
キャスカの視界が回り、床が猛烈な勢いで接近してくる。
――負ける
そう思った瞬間、頭に閃光の如くいくつもの影が閃いた。
ジュドー、ピピン、コルカス、リッケルト、数多の部下達。罪人の汚名を着せられ、
討伐軍の襲撃に怯えながら、森の中を虫けらのように逃げ回りながら、
それでもグリフィスさえ取り戻せればと、グリフィスが戻ってくればと、
グリフィスが戻る日を信じて耐え忍んできた仲間達の顔、顔、顔。
抜けていく力を堰きとめ、残った力を振り絞ってキャスカは左足の靴底を
前方の床に叩きつけた。
痛みが爪先から脳天まで瞬時に駆け上がり、神経が焼ききれるかと思うほどの激痛が、
頭を埋め尽くすが、その痛みで意識と体を強引に接続。
食いしばった奥歯がギヂリと鳴った。
「ケやァあっ!」
膝のバネを跳ね上げ、自分自身を弾丸としてゲインの顎に向けて射出。
衝撃と痛みが同時に頭頂から首に突き抜け、刀傷から刺すような痛み。
視界が半分赤く染まった。
仰け反ったゲインに前蹴りで追い討ちをかけ突き放す。吹き飛ぶゲインを尻目に、
エクスカリバーに走りより、拾い上げて踵を返す。
既にゲインは構えを取っていた。
(負けない! グリフィスのために。鷹の団の再起を信じて戦ってきた仲間のために、
私は負けるわけにはいかないんだ)
黒い瞳に飽くなき闘志を燃やし、キャスカは剣を握りなおした。
キャスカの策を見破り、コートを囮にして顔面に会心のハイキックを叩きこんだ時は
これで勝ったと思った。なのに、どうだ。
そのハイキックを叩きこんだ相手は、鼻と頭部から流れ出た血で顔の半分を朱に染め、
荒い息を吐きながらも衰えぬ闘志の炎をその双眸に宿している。
ふうっと息を吐きゲインはバットを下げると居住まいを質した。
何かの罠かとキャスカの眉間に困惑の皺がよる。
かまわずゲインは優雅に一礼してみせた。
「略式で失礼。私は、シャルレ・フェリーベ。ウッブスのフェリーベ侯爵が実子。
ご婦人のお名前を今一度お聞かせ願いたい」
しばし沈黙が続き、
「――何の冗談だ?」
圧倒的な警戒とわずかな呆れの成分を込めた答えが返ってきた。
「これはしたり。故人も『軽蔑すべき味方よりも尊敬すべき敵を見よ』と言っております。
尊敬すべき相手の名前を知りたいと思うことは当然の心理。ましてやそれが、
見ているだけで心洗われる美しき花ならばなおさらのこと」
顔面に蹴りを入れて、さらに刀傷を作らせ、念入りに傷口をバットで殴っておいて、
『心洗われる美しき花の名前を知りたい』ときたものだ。
心底呆れたというように、キャスカは額に手を当てて嘆息をもらし、
「キャスカは本名だ。姓はない」
それでもぶっきらぼうに返答した。同時に、さり気なく目を塞ぐ血を拭い取っているところに、
会話に応じた意図が透けて見えてはいたが。
「ときめくお名前です」
「……ときめいて死ね」
嫌そうに顔をしかめるキャスカに、ゲインは苦笑した。
「いや、尊敬に値すると思う気持ちは嘘じゃない。少なくとも、お前さんが、自分の命惜しさのために、
剣を振るう類の人間じゃないことは分かった」
素の口調に戻ってゲインは言った。これからの交渉が、キャスカを引かせることが目的であるのは事実だが、
本当に敬意を抱いてもいる。正直、自分はキャスカという人間を見誤っていた。
キャスカの目には強い真っ直ぐな意志の煌きがある。我欲に溺れた人間の目には宿ることはない輝きだ。
「今度は世辞か? 褒めても何もでないぞ。それに見逃してやる気もない!」
再び殺気を発し始めたキャスカに、
「俺はご婦人に対して言葉を発するときは、真実しか口にしない」
マジメくさった顔つきでゲインは言った。
殺気を受け流され、キャスカの肩が落ちる。
「――結局何が言いたいんだ!? お前は!」
苛立ちを滲ませてキャスカが怒鳴る。ゲインは飄然と、
「俺としては、尊敬に値する女性を殺すには忍びない。でだ、ここは一つ引いてくれないか?
ここにこれ以上留まり続けるとマズイことになるのはお前さんの方だ。今度は、多分セラスを抑えられん。
あの子は、仲間の仇を討ちたがっているからな。タダでとも言わん、こちらの支給品をいくつか進呈してもいい」
「断る。ゲイン・ビジョウ、お前はここで必ず殺す」
「そこまで嫌われるようなことをした覚えはない……こともないが……」
完全な拒絶の意思が込められたキャスカの言葉に、ゲインの眉間に皺が寄った。
(鼻血はともかく、拭おうとしているが、あんなことで頭部の出血はとまらん。
キャスカの視界はいいところ半分だ。名剣というアドバンテージは変わらんとはいえ、
ここまで不利な条件が増えても戦うというのは、どういうことだ?)
何故かは分からないが、キャスカは絶対に勝ち残ろうとする一方で、
相手を倒すためには命を捨ててもいと思っているかのようだ。
この状況下でまだ引こうとしないのがその理由だ。
生き残ることを優先する人間なら、多分、ここは引く場面。
(つまり、キャスカはこのゲームで生き残りたいのではなく、
生き残らせたい人間がいる、ということか?)
そう考えれば二律背反の行動にも合点がいく。
ゲインは頭の中に参加者名簿を広げた。
大量の人間を移動させるエクソダスを生業とするゲインは、人名を書いた書類に目を通し、
記憶することには慣れている。
(俺の名前のすぐ上にゲイナーの名前、ヒカルの名前の次に、ウミの名前が来ていたことから考えて、
同じ世界から来た人間ごとに固めて書いてあると考えて間違いないだろう。
確か、キャスカの上にはガッツ、下にはグリフィスという名前があった。グリフィスという名前の下は、
ヒカル達と同じ古代ヤーパン文字に似た文字で書かれた名前だったから、二択……。いやまて、
さっきあのご婦人が「ガ――」と誰かの名前を呼ぼうとしていたな)
どうせなら、確率の高そうな方にかけたほうがいい。
「何故そこまでグリフィスとやらに忠義をつくす? 部下にばかり危ない橋を渡らせるような男だろうに。
思うんだが、お前さんはもっといい男を知るべきだと――」
烈風の如く切り込んで来たキャスカに、ゲインの言葉は強制的に中断させられた。
「グリフィスを侮辱するな! これは私が勝手にやっていることだ!」
顔面スレスレを刃が通りすぎた。剣風に煽られ、ゲインの前髪が浮き上がる。
(当たりだったか。それにしても、分かりやすい反応だ)
「なるほど。その男のために障害物はすべて斬るといわけだ!」
「そうだ! 私はグリフィスの剣。グリフィスの敵はすべて私が斬る。
私は必ずグリフィスを仲間の下へ返す!」
ジュドー、ピピン、コルカス、リッケルト、数多の部下達。罪人の汚名を着せられ、
討伐軍の襲撃に怯えながら、森の中を虫けらのように逃げ回りながら、
それでもグリフィスさえ取り戻せればと、グリフィスが戻ってくればと、
グリフィスが戻る日を信じて耐え忍んできた仲間達の顔、顔、顔。
抜けていく力を堰きとめ、残った力を振り絞ってキャスカは左足の靴底を
前方の床に叩きつけた。
痛みが爪先から脳天まで瞬時に駆け上がり、神経が焼ききれるかと思うほどの激痛が、
頭を埋め尽くすが、その痛みで意識と体を強引に接続。
食いしばった奥歯がギヂリと鳴った。
「ケやァあっ!」
膝のバネを跳ね上げ、自分自身を弾丸としてゲインの顎に向けて射出。
衝撃と痛みが同時に頭頂から首に突き抜け、刀傷から刺すような痛み。
視界が半分赤く染まった。
仰け反ったゲインに前蹴りで追い討ちをかけ突き放す。吹き飛ぶゲインを尻目に、
エクスカリバーに走りより、拾い上げて踵を返す。
既にゲインは構えを取っていた。
(負けない! グリフィスのために。鷹の団の再起を信じて戦ってきた仲間のために、
私は負けるわけにはいかないんだ)
黒い瞳に飽くなき闘志を燃やし、キャスカは剣を握りなおした。
キャスカの策を見破り、コートを囮にして顔面に会心のハイキックを叩きこんだ時は
これで勝ったと思った。なのに、どうだ。
そのハイキックを叩きこんだ相手は、鼻と頭部から流れ出た血で顔の半分を朱に染め、
荒い息を吐きながらも衰えぬ闘志の炎をその双眸に宿している。
ふうっと息を吐きゲインはバットを下げると居住まいを質した。
何かの罠かとキャスカの眉間に困惑の皺がよる。
かまわずゲインは優雅に一礼してみせた。
「略式で失礼。私は、シャルレ・フェリーベ。ウッブスのフェリーベ侯爵が実子。
ご婦人のお名前を今一度お聞かせ願いたい」
しばし沈黙が続き、
「――何の冗談だ?」
圧倒的な警戒とわずかな呆れの成分を込めた答えが返ってきた。
「これはしたり。故人も『軽蔑すべき味方よりも尊敬すべき敵を見よ』と言っております。
尊敬すべき相手の名前を知りたいと思うことは当然の心理。ましてやそれが、
見ているだけで心洗われる美しき花ならばなおさらのこと」
顔面に蹴りを入れて、さらに刀傷を作らせ、念入りに傷口をバットで殴っておいて、
『心洗われる美しき花の名前を知りたい』ときたものだ。
心底呆れたというように、キャスカは額に手を当てて嘆息をもらし、
「キャスカは本名だ。姓はない」
それでもぶっきらぼうに返答した。同時に、さり気なく目を塞ぐ血を拭い取っているところに、
会話に応じた意図が透けて見えてはいたが。
「ときめくお名前です」
「……ときめいて死ね」
嫌そうに顔をしかめるキャスカに、ゲインは苦笑した。
「いや、尊敬に値すると思う気持ちは嘘じゃない。少なくとも、お前さんが、自分の命惜しさのために、
剣を振るう類の人間じゃないことは分かった」
素の口調に戻ってゲインは言った。これからの交渉が、キャスカを引かせることが目的であるのは事実だが、
本当に敬意を抱いてもいる。正直、自分はキャスカという人間を見誤っていた。
キャスカの目には強い真っ直ぐな意志の煌きがある。我欲に溺れた人間の目には宿ることはない輝きだ。
「今度は世辞か? 褒めても何もでないぞ。それに見逃してやる気もない!」
再び殺気を発し始めたキャスカに、
「俺はご婦人に対して言葉を発するときは、真実しか口にしない」
マジメくさった顔つきでゲインは言った。
殺気を受け流され、キャスカの肩が落ちる。
「――結局何が言いたいんだ!? お前は!」
苛立ちを滲ませてキャスカが怒鳴る。ゲインは飄然と、
「俺としては、尊敬に値する女性を殺すには忍びない。でだ、ここは一つ引いてくれないか?
ここにこれ以上留まり続けるとマズイことになるのはお前さんの方だ。今度は、多分セラスを抑えられん。
あの子は、仲間の仇を討ちたがっているからな。タダでとも言わん、こちらの支給品をいくつか進呈してもいい」
「断る。ゲイン・ビジョウ、お前はここで必ず殺す」
「そこまで嫌われるようなことをした覚えはない……こともないが……」
完全な拒絶の意思が込められたキャスカの言葉に、ゲインの眉間に皺が寄った。
(鼻血はともかく、拭おうとしているが、あんなことで頭部の出血はとまらん。
キャスカの視界はいいところ半分だ。名剣というアドバンテージは変わらんとはいえ、
ここまで不利な条件が増えても戦うというのは、どういうことだ?)
何故かは分からないが、キャスカは絶対に勝ち残ろうとする一方で、
相手を倒すためには命を捨ててもいと思っているかのようだ。
この状況下でまだ引こうとしないのがその理由だ。
生き残ることを優先する人間なら、多分、ここは引く場面。
(つまり、キャスカはこのゲームで生き残りたいのではなく、
生き残らせたい人間がいる、ということか?)
そう考えれば二律背反の行動にも合点がいく。
ゲインは頭の中に参加者名簿を広げた。
大量の人間を移動させるエクソダスを生業とするゲインは、人名を書いた書類に目を通し、
記憶することには慣れている。
(俺の名前のすぐ上にゲイナーの名前、ヒカルの名前の次に、ウミの名前が来ていたことから考えて、
同じ世界から来た人間ごとに固めて書いてあると考えて間違いないだろう。
確か、キャスカの上にはガッツ、下にはグリフィスという名前があった。グリフィスという名前の下は、
ヒカル達と同じ古代ヤーパン文字に似た文字で書かれた名前だったから、二択……。いやまて、
さっきあのご婦人が「ガ――」と誰かの名前を呼ぼうとしていたな)
どうせなら、確率の高そうな方にかけたほうがいい。
「何故そこまでグリフィスとやらに忠義をつくす? 部下にばかり危ない橋を渡らせるような男だろうに。
思うんだが、お前さんはもっといい男を知るべきだと――」
烈風の如く切り込んで来たキャスカに、ゲインの言葉は強制的に中断させられた。
「グリフィスを侮辱するな! これは私が勝手にやっていることだ!」
顔面スレスレを刃が通りすぎた。剣風に煽られ、ゲインの前髪が浮き上がる。
(当たりだったか。それにしても、分かりやすい反応だ)
「なるほど。その男のために障害物はすべて斬るといわけだ!」
「そうだ! 私はグリフィスの剣。グリフィスの敵はすべて私が斬る。
私は必ずグリフィスを仲間の下へ返す!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
突然聞こえた別の声にキャスカとゲインは思わず同時に動きを止め、
声のした方に視線を送る。
その先には、足を怪我した女、野原みさえがいた。
声のした方に視線を送る。
その先には、足を怪我した女、野原みさえがいた。
――しまった。
野原みさえは後悔していた。
何故、こんなことを言ってしまったのか? だが言い始めた以上
言わざるを得ない。
「あなたってガッツの恋人じゃなかったの?」
自分の口から出てきた言葉に、みさえは自分ながら呆れ果てた。
殺し合いの場でいったい自分は何を聞いているんだろう?
「ガッツなんて男は知らない!」
答えが返ってきてしまった。
それにしてもこれはまあ、何とも分かりやすい……。
「つまり、無かったことにしたいってわけ?」
「さっきから、あなたは一体何を言ってるんだ!?
そんな男は知らないと言ってるだろう。聞いているのか!」
「だって、嘘じゃない。それ」
絶句する気配が伝わってきた。
(駄目ねえ、ここでしれっと、切り返せるくらいじゃないと……。女
友達とかが、少ないのかしらねえ? この子)
「嘘だと? 一体何を根拠に嘘と言うんだ?」
大分間があってそんな言葉が返ってきた。
「知らない男の名前なんて、そんな風に感情込めて呼んだり、
目を伏せていったりしないと思うんだけど……。ていうか、あなたね」
呆れて半眼になりつつ、みさえは言った。
「分かりやすすぎ」
キャスカの体が雷に打たれたようにびくりと震えた。
(大したご婦人だ。こんな殺伐とした場に、日常を持ち込んでしまった)
ゲインは感心していた。
場所にはすべからく空気がある。
そして人間とはその空気にしたがって行動する生き物なのだ。
その場所の空気を破壊するような行為は、そう簡単に行うことが出来ない。
故に、キャスカが今漂っている日常の空気を打ち破り、殺す気で剣を抜き
殺し合いを再開する危険は遠ざかったといえる。
それは、キャスカを倒すのではなく、引かせるというゲインの方針にも適合する。
(本当にそろそろヤバイからな、このバット)
よくぞ、剣の猛攻に耐えてくれたものだと思う。
だが、流石にそろそろ限界だ。
(それにしても、『分かりやすい』か)
ゲインにはキャスカの言葉が嘘かどうかなど、まったく分からなかったというのに
(妙齢の女性にのみ備わる力か…。ああ、それは神秘だ)
万が一に備え、みさえをガードする場所に身を置きつつ、ゲインはそんなことを考えていた。
何故、こんなことを言ってしまったのか? だが言い始めた以上
言わざるを得ない。
「あなたってガッツの恋人じゃなかったの?」
自分の口から出てきた言葉に、みさえは自分ながら呆れ果てた。
殺し合いの場でいったい自分は何を聞いているんだろう?
「ガッツなんて男は知らない!」
答えが返ってきてしまった。
それにしてもこれはまあ、何とも分かりやすい……。
「つまり、無かったことにしたいってわけ?」
「さっきから、あなたは一体何を言ってるんだ!?
そんな男は知らないと言ってるだろう。聞いているのか!」
「だって、嘘じゃない。それ」
絶句する気配が伝わってきた。
(駄目ねえ、ここでしれっと、切り返せるくらいじゃないと……。女
友達とかが、少ないのかしらねえ? この子)
「嘘だと? 一体何を根拠に嘘と言うんだ?」
大分間があってそんな言葉が返ってきた。
「知らない男の名前なんて、そんな風に感情込めて呼んだり、
目を伏せていったりしないと思うんだけど……。ていうか、あなたね」
呆れて半眼になりつつ、みさえは言った。
「分かりやすすぎ」
キャスカの体が雷に打たれたようにびくりと震えた。
(大したご婦人だ。こんな殺伐とした場に、日常を持ち込んでしまった)
ゲインは感心していた。
場所にはすべからく空気がある。
そして人間とはその空気にしたがって行動する生き物なのだ。
その場所の空気を破壊するような行為は、そう簡単に行うことが出来ない。
故に、キャスカが今漂っている日常の空気を打ち破り、殺す気で剣を抜き
殺し合いを再開する危険は遠ざかったといえる。
それは、キャスカを倒すのではなく、引かせるというゲインの方針にも適合する。
(本当にそろそろヤバイからな、このバット)
よくぞ、剣の猛攻に耐えてくれたものだと思う。
だが、流石にそろそろ限界だ。
(それにしても、『分かりやすい』か)
ゲインにはキャスカの言葉が嘘かどうかなど、まったく分からなかったというのに
(妙齢の女性にのみ備わる力か…。ああ、それは神秘だ)
万が一に備え、みさえをガードする場所に身を置きつつ、ゲインはそんなことを考えていた。
(一体私は、何をやっているんだ!?)
キャスカは憤懣やるかたない思いを持て余していた。
「うっ……」
血が止まらない。ゲインに付けられた頭部の傷は思った以上に大きい。
時間も大分たってしまった。
いつ、ゲイン達の仲間が戻ってくるか知れたものではない。
それなのに。
(どうして私は、この年増とこんな話しをしているんだ!?)
剣を放り出して頭をかきむしりたい衝動に駆られる。
「あなたは一体何なんだ! ズケズケと人の心に踏み込んできて!」
「ごめんなさい……」
素直な謝罪にキャスカの不機嫌の皺が少し和らいだ。
「ガッツが、あなたのことを、とても大事に思っているみたいだったから」
「ガッツが?」
正直驚いた。
確かに共に戦場を駆けた戦友同士では在るが、対立していた期間も長かった。
キャスカは憤懣やるかたない思いを持て余していた。
「うっ……」
血が止まらない。ゲインに付けられた頭部の傷は思った以上に大きい。
時間も大分たってしまった。
いつ、ゲイン達の仲間が戻ってくるか知れたものではない。
それなのに。
(どうして私は、この年増とこんな話しをしているんだ!?)
剣を放り出して頭をかきむしりたい衝動に駆られる。
「あなたは一体何なんだ! ズケズケと人の心に踏み込んできて!」
「ごめんなさい……」
素直な謝罪にキャスカの不機嫌の皺が少し和らいだ。
「ガッツが、あなたのことを、とても大事に思っているみたいだったから」
「ガッツが?」
正直驚いた。
確かに共に戦場を駆けた戦友同士では在るが、対立していた期間も長かった。
――嬉しい
そう思っている自分に気づき、キャスカは愕然とする。
(何を考えている! 今、グリフィスが投獄されているのも、鷹の団が壊滅の危機に
立たされるほど苦境にあるのも、全部あいつのせいだ)
憎い。殺してやりたいほど憎い。
でも…それだけではない。
ガッツが出て行ったとき、崩れ落ちるグリフィスではなく、
去っていくガッツから目を離せなかった自分。
あの日の気持ちは、まだ――
「できればあなた達、話し合った方がいいって思うんだけど」
その言葉をくや否や、キャスカは自分の心の温度が急速に冷えていくのを感じた。
「あなたは馬鹿か?」
「馬鹿ですって!? そりゃ短大卒だけど――」
「何のことだか分からないが、私達が今、何をしていると思っているんだ?
殺し合いのゲームだぞ?」
「誤解が解けたら、一緒にゲーム脱出を目指せばいいじゃいの!」
「脱出? そんなことができると思っているのか!」
キャスカは鼻で笑い飛ばした。
「できるわよ!」
「その強がりに何か根拠があるのか?」
「今はないけど。他の人とも協力すればきっと――」
「冗談じゃない!!」
割れ鐘のような怒鳴り声が響き渡った。激情に駆られ、キャスカは言葉を紡ぐ
「元の世界では、仲間達がグリフィスのことを待っているんだ。不確かな行動に
賭けることなんてできるものか」
「自分の行動の言い訳に、仲間がどうとかって理由を使うんじゃないわよ!」
「いい訳だとぉ!?」
憤激に駆られ、キャスカは思わず剣の柄に手を伸ばす。
「一応あんたより、長い時間女やってる人間として忠告するわよ。
他人のことを考えることも必要だけどね、自分の気持ちを大事にしないと、
どんな人生生きても結局後悔するわよ! 特に男に関してはね。自分が誰が好きなのか、
誰と共に歩みたいのか、答えって割と既に出てるものよ。後は、それに嘘をつかないこと!」
一気に言いきったせいで疲れたのか、みさえは少し肩で息をした。
その様子が可笑しくてキャスカはクスリと笑い、みさえも笑い返した。
「な~んて、私もまだ29年しか生きてないから、えらそうなこといえないけどね」
「いえ……」
少し躊躇った後、キャスカは一礼した。
「ありがとう。ええと……」
「みさえよ。野原みさえ」
「ありがとう、みさえ。あなたとは、違う形で会いたかった」
キャスカはそう言って踵を返した。
「命拾いしたな。ゲイン・ビジョウ」
ゲインの側を通りながら、キャスカはゲインに鋭い視線を送った。
「まったくだ。引いてくれて何より。アーメンハレルヤナマンダブツだ」
「次に会った時は、必ず殺してやる」
「ご婦人の相手をする時は、ムードのある場所で洒落た格好をしてと決めてるんだ。
剣と鎧じゃなく、ワインを持ってドレスで来る気はないか? 君のようなご婦人を
エスコートできる名誉を是非とも賜りたく……。速いんだな、歩くの」
ゲインは誰もいない空間に向かって肩をすくめた。
(何を考えている! 今、グリフィスが投獄されているのも、鷹の団が壊滅の危機に
立たされるほど苦境にあるのも、全部あいつのせいだ)
憎い。殺してやりたいほど憎い。
でも…それだけではない。
ガッツが出て行ったとき、崩れ落ちるグリフィスではなく、
去っていくガッツから目を離せなかった自分。
あの日の気持ちは、まだ――
「できればあなた達、話し合った方がいいって思うんだけど」
その言葉をくや否や、キャスカは自分の心の温度が急速に冷えていくのを感じた。
「あなたは馬鹿か?」
「馬鹿ですって!? そりゃ短大卒だけど――」
「何のことだか分からないが、私達が今、何をしていると思っているんだ?
殺し合いのゲームだぞ?」
「誤解が解けたら、一緒にゲーム脱出を目指せばいいじゃいの!」
「脱出? そんなことができると思っているのか!」
キャスカは鼻で笑い飛ばした。
「できるわよ!」
「その強がりに何か根拠があるのか?」
「今はないけど。他の人とも協力すればきっと――」
「冗談じゃない!!」
割れ鐘のような怒鳴り声が響き渡った。激情に駆られ、キャスカは言葉を紡ぐ
「元の世界では、仲間達がグリフィスのことを待っているんだ。不確かな行動に
賭けることなんてできるものか」
「自分の行動の言い訳に、仲間がどうとかって理由を使うんじゃないわよ!」
「いい訳だとぉ!?」
憤激に駆られ、キャスカは思わず剣の柄に手を伸ばす。
「一応あんたより、長い時間女やってる人間として忠告するわよ。
他人のことを考えることも必要だけどね、自分の気持ちを大事にしないと、
どんな人生生きても結局後悔するわよ! 特に男に関してはね。自分が誰が好きなのか、
誰と共に歩みたいのか、答えって割と既に出てるものよ。後は、それに嘘をつかないこと!」
一気に言いきったせいで疲れたのか、みさえは少し肩で息をした。
その様子が可笑しくてキャスカはクスリと笑い、みさえも笑い返した。
「な~んて、私もまだ29年しか生きてないから、えらそうなこといえないけどね」
「いえ……」
少し躊躇った後、キャスカは一礼した。
「ありがとう。ええと……」
「みさえよ。野原みさえ」
「ありがとう、みさえ。あなたとは、違う形で会いたかった」
キャスカはそう言って踵を返した。
「命拾いしたな。ゲイン・ビジョウ」
ゲインの側を通りながら、キャスカはゲインに鋭い視線を送った。
「まったくだ。引いてくれて何より。アーメンハレルヤナマンダブツだ」
「次に会った時は、必ず殺してやる」
「ご婦人の相手をする時は、ムードのある場所で洒落た格好をしてと決めてるんだ。
剣と鎧じゃなく、ワインを持ってドレスで来る気はないか? 君のようなご婦人を
エスコートできる名誉を是非とも賜りたく……。速いんだな、歩くの」
ゲインは誰もいない空間に向かって肩をすくめた。
廊下を歩きながら、
(しかし酷い有様だな。ボロボロじゃないか)
荒れ果てたホテルの惨状をみて、キャスカは眉を潜めた。
廊下もかなり瓦礫にうもれている。
(下の階に下りる階段はどこだ?)
キャスカが首をかしげた時、曲がり廊下の角の向こうから人が走って来る音が聞こえた。
(ちぃ! セラス・ヴィクトリアじゃないといいんだが)
舌打ちし、キャスカは逆走を始めた。だが、思うようにスピードが出ない。
酷使に酷使を重ねた左足は主の超超過労働に大分お冠のようだ。
必死になだめすかし懇願しながら、キャスカは走る。
「キャスカ!!」
聞き覚えのある声にキャスカは足を止めて振り返った。
大剣を背負った、大男の人影が、息を切らしている。
「ガッツ……」
口から漏れ出たその言葉が、思った以上に、胸を締め付けるのをキャスカは感じた。
自分の気持ちを自覚したからだろうか。
しばし沈黙が満ちた。
近づいてこようとしないガッツを不審に思ったキャスカだが、すぐにその理由に気づく。
思わず苦笑が漏れた。
「ごめん、ガッツ。記憶がないというのは嘘だ、本当は全部覚えている」
男が息を呑むのが分かった。ややあって、
「俺は、何も気にしねえ。お前もするな」
ガッツの声にキャスカは目を丸くする。
その声が聞いた事もないほど、優しさに満ちていたからだ。
一年というのは、短いようで長い。ガッツにも色々あったのだろうと思う。
「そうしてくれると、助かる……」
またも沈黙が満ちた。
(相変わらず、口下手な奴だ。ゲイン・ビジョウのように
口がやたら達者な奴も困るが……)
久しぶりに会ったと言うのに、ダンマリといのはどうかと思う。
「覚えているか、ガッツ? 最初に会った時のこと」
懐かしさを込めてキャスカは言った。
「ああ……」
だが、返ってきたのは暗く沈んだ声。
(団を抜けて罰が悪いのは分かるが、もう少しなんとかならないのか……)
キャスカは少しムッとした。
(しかし酷い有様だな。ボロボロじゃないか)
荒れ果てたホテルの惨状をみて、キャスカは眉を潜めた。
廊下もかなり瓦礫にうもれている。
(下の階に下りる階段はどこだ?)
キャスカが首をかしげた時、曲がり廊下の角の向こうから人が走って来る音が聞こえた。
(ちぃ! セラス・ヴィクトリアじゃないといいんだが)
舌打ちし、キャスカは逆走を始めた。だが、思うようにスピードが出ない。
酷使に酷使を重ねた左足は主の超超過労働に大分お冠のようだ。
必死になだめすかし懇願しながら、キャスカは走る。
「キャスカ!!」
聞き覚えのある声にキャスカは足を止めて振り返った。
大剣を背負った、大男の人影が、息を切らしている。
「ガッツ……」
口から漏れ出たその言葉が、思った以上に、胸を締め付けるのをキャスカは感じた。
自分の気持ちを自覚したからだろうか。
しばし沈黙が満ちた。
近づいてこようとしないガッツを不審に思ったキャスカだが、すぐにその理由に気づく。
思わず苦笑が漏れた。
「ごめん、ガッツ。記憶がないというのは嘘だ、本当は全部覚えている」
男が息を呑むのが分かった。ややあって、
「俺は、何も気にしねえ。お前もするな」
ガッツの声にキャスカは目を丸くする。
その声が聞いた事もないほど、優しさに満ちていたからだ。
一年というのは、短いようで長い。ガッツにも色々あったのだろうと思う。
「そうしてくれると、助かる……」
またも沈黙が満ちた。
(相変わらず、口下手な奴だ。ゲイン・ビジョウのように
口がやたら達者な奴も困るが……)
久しぶりに会ったと言うのに、ダンマリといのはどうかと思う。
「覚えているか、ガッツ? 最初に会った時のこと」
懐かしさを込めてキャスカは言った。
「ああ……」
だが、返ってきたのは暗く沈んだ声。
(団を抜けて罰が悪いのは分かるが、もう少しなんとかならないのか……)
キャスカは少しムッとした。
「――てなこともあったな」
「ああ……」
さっきから、まったく弾まない昔話にキャスカは小さくため息をついた。
(多分、ガッツは知っているんだ。自分が抜けた後、鷹の団がどうなったか……)
キャスカはかまわずに続けた。
「私は最近、よく考えるんだ。ガッツ。お前があの時団を抜けなかったらって――」
ガッツの体が彫像のように動きを止めた。
「グリフィスが国王、シャルロット様が王妃。私とお前はそうだな……。騎士団の長か何か、
かな?」
「……もうやめろ」
「ジュドーは何やっても上手いから、案外大臣になったり――」
「やめろ、キャスカ!!」
凄まじいガッツの絶叫が大気を震わせた。
「そんなことはありえねえんだ!! 俺達の鷹の団は、あの時」
「まだ終わってなんかいない!!」
今度はキャスカの覇気に満ちた声が廊下に響き渡った。
「グリフィスさえ、グリフィスさえいれば、鷹の団は何度でも蘇る!」
「キャスカ……」
驚愕に満ちたガッツの声が聞こえる。
「ガッツ……。私は、お前のことが好きだ」
こうして対峙していると良く分かる。自分はガッツに惹かれている。
自分の思いに嘘はつかないと決めたから、それがハッキリとわかる。
それでも。
「でも、お前とは行けない。私はまだ、鷹だから!!」
仲間を捨ててガッツとは行けない。
そんな生き方をしたら、きっと自分で自分を許せなくなる。
「キャスカ!?」
悲鳴のようなガッツの声。心が痛んだ。
そんなにも思っていてくれたのかと、喜びと悲しみがないまぜになって
キャスカの心を満たす。
それでも自分の思いを振り切り、断ち切るために、キャスカは宣言する。
「私は、一人の鷹として生きる。グリフィスの振るう剣となり、鷹の団の旗の下で生き
鷹の団の旗の下で死ぬ。これが私の決めた私の道だ!」
私は共に生きていく相手として、鷹の団の仲間達を選んだ
だから、ガッツへの思いは、ここに全て置いていく。
主の決意に反応したか、エクスカリバーが眩い光を放った。
「さよなら、ガッツ」
「ああ……」
さっきから、まったく弾まない昔話にキャスカは小さくため息をついた。
(多分、ガッツは知っているんだ。自分が抜けた後、鷹の団がどうなったか……)
キャスカはかまわずに続けた。
「私は最近、よく考えるんだ。ガッツ。お前があの時団を抜けなかったらって――」
ガッツの体が彫像のように動きを止めた。
「グリフィスが国王、シャルロット様が王妃。私とお前はそうだな……。騎士団の長か何か、
かな?」
「……もうやめろ」
「ジュドーは何やっても上手いから、案外大臣になったり――」
「やめろ、キャスカ!!」
凄まじいガッツの絶叫が大気を震わせた。
「そんなことはありえねえんだ!! 俺達の鷹の団は、あの時」
「まだ終わってなんかいない!!」
今度はキャスカの覇気に満ちた声が廊下に響き渡った。
「グリフィスさえ、グリフィスさえいれば、鷹の団は何度でも蘇る!」
「キャスカ……」
驚愕に満ちたガッツの声が聞こえる。
「ガッツ……。私は、お前のことが好きだ」
こうして対峙していると良く分かる。自分はガッツに惹かれている。
自分の思いに嘘はつかないと決めたから、それがハッキリとわかる。
それでも。
「でも、お前とは行けない。私はまだ、鷹だから!!」
仲間を捨ててガッツとは行けない。
そんな生き方をしたら、きっと自分で自分を許せなくなる。
「キャスカ!?」
悲鳴のようなガッツの声。心が痛んだ。
そんなにも思っていてくれたのかと、喜びと悲しみがないまぜになって
キャスカの心を満たす。
それでも自分の思いを振り切り、断ち切るために、キャスカは宣言する。
「私は、一人の鷹として生きる。グリフィスの振るう剣となり、鷹の団の旗の下で生き
鷹の団の旗の下で死ぬ。これが私の決めた私の道だ!」
私は共に生きていく相手として、鷹の団の仲間達を選んだ
だから、ガッツへの思いは、ここに全て置いていく。
主の決意に反応したか、エクスカリバーが眩い光を放った。
「さよなら、ガッツ」
キャスカはエクスカリバーの真名を開放した――
「どうやら、少しはいう事を聞いてくれるようになったみたいだな」
エクスカリバーを鞘に収めながら、キャスカは呟いた。
使った後、昏倒するのは避けられた。キャスカはチラリと前方の破壊の後を見る。
(威力を抑えすぎたか……。ガッツのことだ、きっとまだ生きてる)
このゲームが続く限り、戦うこともあるだろう。
その時は。
エクスカリバーを鞘に収めながら、キャスカは呟いた。
使った後、昏倒するのは避けられた。キャスカはチラリと前方の破壊の後を見る。
(威力を抑えすぎたか……。ガッツのことだ、きっとまだ生きてる)
このゲームが続く限り、戦うこともあるだろう。
その時は。
――迷わず斬る
真名開放の時に吹き飛ばした瓦礫の下に埋もれていたディパックを、これ幸いと拾い上げ、
キャスカは廊下を歩き出す。
そして、二度と振り返らなかった。
キャスカは廊下を歩き出す。
そして、二度と振り返らなかった。
キャスカは知らない。
自分の相手にしていたガッツは、自分の考えている1年前に分かれたガッツではないというこを。
故に知らない。
目の前の『ガッツ』が、『キャスカ』と思いを交わした記憶を持っていたことを。
目の前の『ガッツ』がどれほどグリフィスのことを憎悪しているかを。
自分のやったことが、『ガッツ』にとって最悪の裏切りであることを――
自分の相手にしていたガッツは、自分の考えている1年前に分かれたガッツではないというこを。
故に知らない。
目の前の『ガッツ』が、『キャスカ』と思いを交わした記憶を持っていたことを。
目の前の『ガッツ』がどれほどグリフィスのことを憎悪しているかを。
自分のやったことが、『ガッツ』にとって最悪の裏切りであることを――
キャスカは知らない。
「これは……。大砲か?」
最後の道具を取り出し、キャスカはため息をついた。
目当ての傷薬は見当たらなかった。
(ハズレか……)
とにかく、今日はこれまでだ。どこか休める場所を探さなくてはならない。
そう思って、立ち上がり歩き出そうとした時。
ふわりと頭上から何かが、道に降り立った。
咄嗟に、キャスカは剣の柄に手をかけようとして――
呆然と立ち尽くす。
最後の道具を取り出し、キャスカはため息をついた。
目当ての傷薬は見当たらなかった。
(ハズレか……)
とにかく、今日はこれまでだ。どこか休める場所を探さなくてはならない。
そう思って、立ち上がり歩き出そうとした時。
ふわりと頭上から何かが、道に降り立った。
咄嗟に、キャスカは剣の柄に手をかけようとして――
呆然と立ち尽くす。
――これは夢だろうか?
キャスカは、自分の頬をつねりたい衝動に駆られた。
身動き一つできない 。
目の前にグリフィスがいた。
白銀の髪。名工の手によって造詣されたような顔立ち。
一年前に分かれたあの日と同じ姿。
身動き一つできない 。
目の前にグリフィスがいた。
白銀の髪。名工の手によって造詣されたような顔立ち。
一年前に分かれたあの日と同じ姿。
「――ただいま、キャスカ」
そう言って微笑むグリフィスの瞳は、優しかった。
この瞳が全軍に号令を発する時、覇気溢れるものになることをキャスカは知っている。
時に少年のような眼差しになることも。冷酷極まる光をたたえる事も
その千変万化の神秘的な光を称えたアメジストの瞳が自分をみている。
この瞳が全軍に号令を発する時、覇気溢れるものになることをキャスカは知っている。
時に少年のような眼差しになることも。冷酷極まる光をたたえる事も
その千変万化の神秘的な光を称えたアメジストの瞳が自分をみている。
――本物だ
感情が溢れて、言葉にならない。
ぎこちなく微笑むのが精一杯だ。
左肩に手が置かれた。
ぎこちなく微笑むのが精一杯だ。
左肩に手が置かれた。
――この手だ
自分を救い出し、いつも震えを止めてくれた手。
その手にそっと触れ、キャスカは言った。
「お帰り、グリフィス」
その手にそっと触れ、キャスカは言った。
「お帰り、グリフィス」
剣を手に入れた。よく斬れる剣を。
キャスカと接触できたのは、今回の作戦で最も大きい戦果と言っていいだろう。
しかも、キャスカが傷つき、正面にいた人間と合流せずに一人でホテルから出てきたと言う事は
キャスカはホテルにいた集団の敵であったと言う事。
外観から判断するよりはるかに確度の高い情報が手に入りそうだ。
(ホテルにいた集団を、いかに攻めるか……)
グリフィスの目が妖しく輝いた。
キャスカと接触できたのは、今回の作戦で最も大きい戦果と言っていいだろう。
しかも、キャスカが傷つき、正面にいた人間と合流せずに一人でホテルから出てきたと言う事は
キャスカはホテルにいた集団の敵であったと言う事。
外観から判断するよりはるかに確度の高い情報が手に入りそうだ。
(ホテルにいた集団を、いかに攻めるか……)
グリフィスの目が妖しく輝いた。
最高の剣を手に入れた鷹の爪が最初に誰に突き立てられるのか、
それはまだ誰も知らない。
それはまだ誰も知らない。
同じ頃、瓦礫に埋もれた暗い穴の底から笑声が響いていた。
狂ったような笑い声は、とめどなく続き、いつしか慟哭へと変わっていく。
怨嗟、恨み、憎悪、悲しみ、怒り、殺意全ての負が込められた慟哭は途義れることなく響き続ける。
狂ったような笑い声は、とめどなく続き、いつしか慟哭へと変わっていく。
怨嗟、恨み、憎悪、悲しみ、怒り、殺意全ての負が込められた慟哭は途義れることなく響き続ける。
最愛の者からの裏切りを、再度味わった男の振るう剣は何処へ振り下ろされるのか。
それはまだ、誰も――
それはまだ、誰も――
【D-5/ホテル周辺(ただし、正面玄関付近以外)/1日目/夜】
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大
:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、頭部に裂傷(大)
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、
[道具]:支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、
破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、 ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[思考・状況]
1:目に付く者は殺す
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:セラス・ヴィクトリア、獅堂光、ゲイン・ビジョウと再戦を果たし、倒す。
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:左脚複雑骨折+裂傷(一応処置済み)、魔力(=体力?)消費甚大
:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、頭部に裂傷(大)
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発 劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING、
[道具]:支給品一式×4、オレンジジュース二缶、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、
破損したスタンガン@ひぐらしのなく頃に、 ビール二缶、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[思考・状況]
1:目に付く者は殺す
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:セラス・ヴィクトリア、獅堂光、ゲイン・ビジョウと再戦を果たし、倒す。
【D-5/ホテル周辺(ただし、正面玄関付近以外)/1日目/夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分)、ヘルメット
[思考・状況]
1:ホテル組の襲撃
2:剣が欲しい(エクスカリバーはキャスカが使うので、もう一本欲しい)
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる。
4:ガッツは殺す
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:全身に軽い火傷
[装備]:マイクロUZI(残弾数50/50)、耐刃防護服
[道具]:ターザンロープ@ドラえもん、支給品一式×2(食料のみ三つ分)、ヘルメット
[思考・状況]
1:ホテル組の襲撃
2:剣が欲しい(エクスカリバーはキャスカが使うので、もう一本欲しい)
3:手段を選ばず優勝する。殺す時は徹底かつ証拠を残さずやる。
4:ガッツは殺す
【D-5/ホテル3階(倒壊寸前)/1日目/夜】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲
[装備]:<スペツナズナイフ×1>
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ガッツ本人と、役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。
3:セラスら捜索隊と合流。
4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。
5:しんのすけ、無事でいて!
6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:中度の疲労、全身各所に擦り傷、左足に打撲
[装備]:<スペツナズナイフ×1>
[道具]:なし
[思考・状況]
1:ガッツ本人と、役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルが完全に崩壊する前に逃げる。
3:セラスら捜索隊と合流。
4:契約によりガッツに出来る範囲で協力する。
5:しんのすけ、無事でいて!
6:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:ギガゾンビを倒し、いろいろと償いをさせる。
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:なし
[思考・状況]
1:役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルからエクソダス。
3:市街地で信頼できる仲間を捜す。
4:ゲイナーとの合流。
5:ここからのエクソダス(脱出)
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
[状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)
[装備]:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に
[道具]:なし
[思考・状況]
1:役に立つ物を掘り起こす
2:ホテルからエクソダス。
3:市街地で信頼できる仲間を捜す。
4:ゲイナーとの合流。
5:ここからのエクソダス(脱出)
[備考]:第三放送を聞き逃しました。
【D-5/詳細位置不明(瓦礫の下?)/夜】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:詳細不明【元の状態:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)、精神的疲労(中)】
[装備]:カルラの剣@うたわれるもの、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:なし
[思考]
0:
1:グリフィスとキャスカを見つけ出して必ず殺す
2:殺す気で来る奴にはまったく容赦しない。ただし相手がしんのすけなら一考する。
3:ドラゴン殺しを探す。
4:グリフィスがフェムトかどうか確かめる。
基本行動方針:グリフィス、キャスカ及び剣の捜索、情報収集
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:詳細不明【元の状態:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)、精神的疲労(中)】
[装備]:カルラの剣@うたわれるもの、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:なし
[思考]
0:
1:グリフィスとキャスカを見つけ出して必ず殺す
2:殺す気で来る奴にはまったく容赦しない。ただし相手がしんのすけなら一考する。
3:ドラゴン殺しを探す。
4:グリフィスがフェムトかどうか確かめる。
基本行動方針:グリフィス、キャスカ及び剣の捜索、情報収集
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ 死亡】
[残り38人]
FNブローニングM1910(弾:2/6+1)@ルパン三世
が、ホテルの何処かに落ちています
[残り38人]
FNブローニングM1910(弾:2/6+1)@ルパン三世
が、ホテルの何処かに落ちています
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221:鷹の団(前編) | 翠星石 |