ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1979 シュガースナップ・シュガースナッフ
最終更新:
ankoss
-
view
シュガースナップ・シュガースナッフ
ぷかり、と吐き出した紫煙が、明けの明星の浮かぶ空に融ける。
俺の目の前の畑では、朝露をまとってきらきらと光るスナップエンドウたちが、収穫を待ちわびている。
季節は6月、梅雨の晴れ間の朝。俺はスナップエンドウの収穫を行おうとしていた。
「ゆっくりいそごうね!」
「あめさんがやんでるうちに、おやさいさんをいっぱいむーしゃむーしゃしようね!!」
「おやさいしゃん!おやさいしゃんなんだじぇ!!」
「おにゃかいっぱいむーしゃむーしゃしゅるよ!!」
気分良く畑を眺めていた俺の足元を、4つの饅頭がてちてちと通り過ぎていく。
ゆっくりだ。喋るし歌うしダンスだって踊る、不思議な「生きている饅頭」。
現代に現れたファンタジーの化身たち。
だが、農家にとってゆっくりは作物を荒らす害虫害獣の一種類。見かけたら駆除が常識だ。
いつもならば物も言わずに踏みつぶして仕舞にするのだが、今日は潰す前に
一応警告を与えてやることにした。理由は特にない。強いて言うならば、今日の俺は機嫌が良いからかな。
「そこの饅頭ども」
「「「「ゆっ!?」」」」
俺の足元をぽよぽよと跳ねていた饅頭は、今俺に気付いたかのように一斉に俺を見上げてきた。
「にんげんさん!ゆっくりしていってね!!」
黒い帽子をかぶった金髪の饅頭が俺に挨拶して来た。
「れいむたちはいまからおやさいさんをむーしゃむーしゃしあわせー!するんだよ!
にんげんさんもいっしょにゆっくりしようね!」
赤いリボンを付けた黒髪の饅頭が、舐めたことを抜かしてきた。
ゆっくりは大体2種類に大別され、金髪が「まりさ」、黒髪は「れいむ」と言う。
個体名ではなく種族の名前であるが、同時に個体名でもある。
「まりさ」は全員「まりさ」という名前であり、「れいむ」も全部が「れいむ」だ。
「おいしいおやさいさんがはえてるってきいて、まりさたちずっとおやさいさんたべにきたかったんだよ!」
「きょうはあめさんがゆっくりふってないから、やっとおやさいさんでしあわせー!できるんだよ!!」
「「すーぱーむーしゃむーしゃたいむなんだよ!!」」
饅頭どもは興奮してキラキラと輝く目で、いかに自分たちが今日のことを楽しみにしていたか熱弁を振るう。
俺の知ったことではない。
「ここに生えてるのは全部俺のだ。手前ら饅頭は石でも齧って死んどけ」
俺は煙草を咥えたまま前を見つめ、饅頭の方を見もせずに言った。
「「「「どぼじでぞんなごどいうのぉー!!!!??」」」」
饅頭どもは俺の台詞を聞いた途端、目を剥いて心底驚いたかのように叫び声を上げた。
「まりさたち、ここまでゆっくりしないでがんばってきたんだよ!?」
「おにいさんはいじわるいわないでね!!」
「おやさいさんたべさせてね!」
「れいむたちのむーしゃむーしゃをじゃましないでね!!」
さっさと行ってしまえよ。命だけは助けてやると言ってるのに。
「ここは俺の畑で、ここに生えているのは俺が育てた俺の野菜だ。お前らに食う権利は無い」
「わけのわからないことをいわないでね!!」
「おやさいさんがおいしいからってひとりじめしようとしないでね!ぷんぷん!!」
「「そーだよゆっくりできないよ!!」」
あぁ、そうだった。こいつらは人間の言葉を喋るだけで、人間じゃないんだったっけ。
こいつらが振りかざす論理。それは理性のない獣の理だ。
あるいは、数学的な美すら感じさせる虫の数式と言い変えても良い。
そう、ゆっくりはある一面において驚くほど人間に似ているが、別の一面を捉えれば、それは驚くほど
簡単に「動物」の一言で言い表すことができてしまうのだ。
「お前らがどう思おうと、そんなことはどうでも良いんだよ。俺はお前らに野菜を分けたりしないし、
無理に食おうとするなら叩き潰す。今日の俺は気分が良いから、今行けば命は助けてやるよ」
だから、ゆっくりを説得しようとしてはいけない。熊と同じに、猪と同じに、猿と同じに。
他の害獣と同じように、言葉ではなく行動で示さないといけないのだ。
「ゆっ!もういいよ!これいじょうゆっくりできないにんげんさんとおしゃべりしてるじかんはないよ!」
「そうだよ!!れいむたちのすーぱーむーしゃむーしゃたいむはだれにもとめられないんだよ!!」
「むーしゃ♪むーしゃ♪するんだじぇ!!」
「きゃわいいれいむがおやさいしゃんたべるよ!!」
そして害獣どもは、俺の最終警告を無視した。ならば後には駆除があるだけだ。
腰を反時計回りに捻る。同時に上半身を時計回りに捻ると、右足が振り子の円を描く。
「むーsyゆぼぉ!!」
「まりさああぁぁぁぁ!?」
「「おとーしゃあああぁぁん!!??」」
振り子の重り・・・右足の甲で蹴り飛ばした親まりさに、他の家族が駆け寄っていった。
俺の蹴りは、学生時代にやっていた柔道の動きを応用したものだ。
地を這うように足首を刈る柔道の足払いは、体高30cmのゆっくりを攻撃するには最適だった。
「何度も言わせるなよ。ここは俺の畑、俺の縄張りで、ここにあるものは全部俺の物だ。
従わないなら、お前らまとめて殺すだけだ」
「ゆっ・・・ゆっ・・・・・・。にんげんさんは・・・・・・にんげんさんはまちがってるよ!!!」
逃げ帰るかと思ったが、意外にもまりさは俺を睨みつけてきた。
「どぼじでおやざいざんをひとりじめじようどずるの!?おいじいものはみんなでたべたほうが
おいじいにぎまっでるでじょおおおおおおおおおおおお!!!!????」
そしてだくだくと涙をこぼしながら、まりさは慟哭した。
少しだけ動揺した。しかしすぐにそれは怒りに取って代わった。
ある一面において、まりさの言っていることは正しい。
正しいが、人間以外の論理に基づいて行動しているゆっくりが、
人間に対して人間式の論理と正しさを説くことに、俺は自分でも意外なほど腹が立った。
所有権も畑の概念も何一つ持たないお前らが、なぜそんな目で人を責める?
なぜ自分たちを疑うことなく正義だと信じることができる?
お前らはどんな立場から善悪を語っている?
不愉快なんだよ、糞饅頭が。
そうして腹が立った俺は、こいつらを楽に殺してやることを、止めた。
「・・・・・・なぁ、お前ら」
目を細めて俺は饅頭どもに聞く。
「お前らは、『ゆっくり』できているのか?」
「あたりまえでしょ!?まりさたちはとってもゆっくりできるかぞくだよ!!」
「「「ゆっくりできてごめんね!!」」」
「そうかよ。じゃあ、俺はゆっくりできてるか?」
「「「「ぜんぜんゆっくりできないよ!!」」」」
まぁ、ここまでは予想通り。
「お前ら今、一人占めすることは良くないことだって言ったな?」
「そうだよ!だからにんげんさんはゆっくりしないでまりさたちにおやさいさんをたべさせてね!」
「嫌だね」
「「「「どぼじでぞんなごどいうの!?」」」」
「何故ってそりゃぁ、お前らも一人占めをする悪い奴らだからさ」
饅頭は理解できない顔をした。
「わけのわからないことをいわないでね!」
「れいむたちはいいゆっくりだよ!ひとりじめなんてしてないんだよ!!」
「いいや、やってるね」
諭すように言ってやる。
「お前らはゆっくりできているのに、俺はゆっくりできていない。
それが『ゆっくり』の一人占めじゃないって言うんなら、何だって言うんだ?」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
「どういうことなの?まりさ」
「ゆぅーん、まりさにもわからないよ・・・・・・」
ひそひそと話し始める饅頭たち。まぁしばらく待ってやろう。
「おにーさん!」
しばらくこちゃこちゃと身内で話し込んでいたが、話がまとまったようで、
親まりさの方が眉毛をきりっとさせて話しかけてきた。
「まりさたちはゆっくりしたゆっくりだよ!ゆっくりはゆっくりだからゆっくりできるんだよ!!
りかいできたらおやさいさんちょうだいね!!」
そういう結論になったらしい。
「あぁ、そうかい。じゃあ俺たちは人間で、人間は人間だから野菜を食べられるんだよ。理解できたか?」
「「「「ゆがーん!!」」」」
「お互いに一人占めしてるものがあることが分かったら、帰ったらどうだ?」
そう言ってはやるが、俺はこいつらを帰してやる気は無かった。
「「「「もういいよ!わけのわからないことをいうにんげんさんはあっちにいってね!ぷくーー!!」」」」
言葉に詰まったゆっくりたちは、一斉に頬を膨らませ始めた。
どうやらこれ以上自分の正当性を主張する気は無いようだ。
獣としてはそれでいいんだろうが、理性をもつ人間様としては、
自分より弱い奴は蹂躙しておしまい、では味気ない。
「じゃああれだな。交換しようか」
なので俺は、ゆっくりたちに野菜をやることにした。
「「「「ゆゆっ!?」」」」
「俺は野菜を持ってる。お前らはゆっくりとやらを持ってる。それを交換しようって言ってんだよ。
そうすればお互い一人占めにならないし、お互いが得できるだろ?」
「「「「ゆ!それでいいよ!にんげんさんはとってもかしこいね!!ゆっくりしていってね!!!」」」」
野菜が食えると分かったゆっくりたちは、目に星を浮かべてはしゃぎまわる。
楽しそうだなぁ。最後までその笑顔でいられるといいな?
饅頭にその場で待つように言い残すと、俺は畑に入って行った。
育ちすぎたものや小さすぎるもの、要するに商品にならない物を摘んでいく。
俺の育てているシュガースナップ・・・・・・スナップエンドウは鞘ごと食べられる上に、
その味は名前の通りに野菜とは思えないほど甘い。
中身が餡子なせいか甘党なゆっくりにはこたえられない御馳走のはずだ。
「ほらよ」
ゆっくりに元に帰った俺が掌の上にスナップエンドウを乗せて差し出してやると、
饅頭たちは目を輝かせて・・・・・・いや、目をギラつかせてそれに群がった。
「むーしゃ!むーしゃ!しあわせぇー!!!!」
「あめ!これめっちゃあっめ!?こんなのれいむむーしゃむーしゃことないよおおおぉぉぉ!!!」
「あまあま!さくさく!!うまうま!!!たべるのがとまらないんだじぇー!!!」
「おいちいよおおぉぉぉ!れいむしーしーでちゃうよおおおぉぉぉ!!」
まぁ確かに。確かにこんなに美味そうに、しーしーまで垂れ流して食ってもらえれば、
生産者冥利には尽きる。だがこいつらは消費者ではなく、人間ですらない。
害虫が作物を美味いと言って食おうが不味いと言って食おうが、人間はそれを駆除するだけだ。
「もっとちょうだいね!!!」
食べ終わった親まりさが、キラキラとした目で俺を見つめてきた。
「はやくしてね!!!」
親れいむはやっぱり舐めたことをぬかしてきた。
「「はやくもっちぇきてね!!いっぱいでいいよ!!!」」
餓鬼どもも調子に乗っている。
まぁ残念だが、今のがお前たちの最良の食事にして、最後の食事だ。
ここから先は俺が、お前たちの『ゆっくり』とやらを奪い尽くすだけ。
「まぁ待てよ。交換だって言っただろうが」
「「「「ゆっ?」」」」
「俺はお前らにちゃんと野菜を分けたんだから、今度はお前らが俺に分ける番だろう?」
俺は目を細め、笑いながら言う。
「ゆっ!そうだったね!!じゃあにんげんさんまりさたちといっしょにゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしたらもっとおやさいさんちょうだいね!!!」
「「ゆっくりしちぇいってね!!」」
「じゃあ、聞こうかまりさ。お前は何が一番ゆっくりしてるんだ?」
「ゆっ!まりさはね!!まりさのいちばんゆっくりしてるのは、このしゅんっそくっのあんよだよ!!」
親まりさは俺の周りを楽しそうに跳ねまわる。
「まりさのあんよさんはむれでいちばんなんだよ!まりさはこのしゅんっそくっで
むれでもみんなにゆっくりしてるね!っていわれてるんだよ!!」
「ゆぅー!まりさのあんよさんとってもゆっくりしてるよー!!」
「「おとーしゃんとってもかっこいいよ!!!」」
家族たちはキラキラと輝く目で親まりさの俊足ぶりを見つめる。
子供たちなどはちょろちょろとしーしーすら垂れ流しながら。
「あぁそうかい。まりさのゆっくりしている所は分かったよ。じゃあ次はれいむ、お前は?」
「ゆ?」
「お前が一番ゆっくりしているのはどこなんだ?」
俺は親れいむに水を向けた。
「ゆっ!!れいむのいちばんゆっくりしてるのは、おうただよ!!」
よくぞ聞いてくれた、とばかりに体を反りかえらせる。
「ゆっゆっ~♪れいむのおうたは~♪きけばみんながききほれる~♪とってもゆっくりしたおうたなんだよ~♪」
そして体をのーびのーびと伸ばすと目を閉じて、とんでもなくド下手くそな歌を歌いだした。
これは歌じゃない、雑音だ。その上こいつ、声量だけはそこそこありやがる。なんだこれ気持ちわりぃ。
「ゆっ!れいむのおうただよ!れいむのおうたはやっぱりゆっくりできるよぉー!!」
親まりさが足を止め、れいむの歌に合わせて体をくねらせはじめる。
「「ゆっ~♪ゆっくりゆっくり~♪」」
子ゆっくりどもも、にこにこと幸せそうに歌いだしやがった。
子ゆっくりの声は成体より若干甲高く、不安定な音程のカルテットは、俺の耳と心を容赦なく削る。
黒板に爪を立てながらアルミホイルを噛んでいる気分だ。目の前がちかちかする。
「分かった!もう分かった!!」
たまらず俺は叫んだ。
「お前らのゆっくりしている所はちゃんと分かった!!分かったから歌を歌うのを止めろ!!!」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
ぴたりと歌を歌うのを止め、こちらを見上げてくるゆっくり一家。
「おにいさんれいむのおうたでゆっくりできた?」
楽しそうに聞いてくる親れいむ。
「まりさのはにーのおうたはかんっぺきっでしょ!?」
自慢げに言ってくるまりさ。
「あぁ・・・・・・歌についてのコメントは差し控えるが、お前らが何を自慢にしているのかは、ちゃんと分かったよ」
キンキンとする頭を落ち着かせるために煙草を取り出しながら、俺は言ってやった。
「「じゃあ、おやさいさんもっとちょうだいね!!!」」
饅頭たちは心底嬉しそうに要求してくるが、俺はもうこいつらに何一つくれてやるつもりは無い。
zippoの蓋を開け、煙草に火を点ける。火の付いた煙草を口にくわえ右手でzippoを弄びながら
俺はしゃがみこみ、親まりさの髪を帽子ごとひっつかんだ。
「おそらをとんでるみたい!!」
親まりさは暢気に笑う。
「ゆゆっ!まりさとってもゆっくりしてるよ!!」
「「まりさ(れいむ)もおしょらをとびたいよ!!」」
家族はそれを羨ましそうに見つめる。
俺は家族に親まりさの顔が良く見えるようまりさを持ち直し、まりさ自慢の
俊足のあんよとやらに火を当ててやった。
ぷしっ
言葉より先に、親まりさはしーしーを噴き出した。
「あっつぅぅぅっぅい!!!これめっちゃあつ!!!!??」
一拍遅れてまりさは出鱈目に体をくねらせはじめる。
家族はまりさのしーしーを浴びながら呆然としていたが、10秒以上フリーズした後やっと正気を取り戻した。
「やめてあげてねえぇぇぇ!!??あつがってるでしょおおぉ!!!??」
「おとうしゃんをはなしてあげてにぇぇぇ!?」
「まりさしーしーあびちゃったよおぉぉぉ!!おかーしゃんきれいきれいしてねえぇぇぇ!?」
一匹アレなやつがいるが、概ね予想どおりな反応だ。
「ゆひいいいぃぃぃぃ!!あじゅいいぃぃぃぃ!!!ばりざのあんよざん!!
しゅんっそくっのあんよざんがいたがっでるううぅぅぅ!!!!やべでね!!はなじでねええぇぇぇ!!」
家族が見やすいように俺は、まりさの顔がやや下を向くように持っている。
そのために、火はまりさのあんよの前側をまんべんなく舐めている。
「どぼじでごんなごどずるのおおおぉぉぉぉ!!!」
親れいむが泣きながら俺の足に縋りついてきた。何故かって、そんなことは決まっている。
「だから、交換だよ。不思議饅頭」
言う間にも火は止めない。zippoを持つ手をゆらゆらと揺らめかせると、それに操られるように
親まりさはふりふりとあんよを振りたくる。
「どういうごどなのおおおぉぉ!いいからゆっぐりじないでばりざをはなじでねえぇぇ!?」
涙を靴に擦られるのが嫌だったので、俺はれいむを軽く蹴飛ばす。
「お前ら、野菜を喰っただろう?だからその代わりに俺はお前らの『ゆっくり』とやらを頂く。
そう言う約束だっただろうが」
ひっくり返ってゆじゆじともがくれいむのあにゃるに向けて、俺は言ってやった。
「なぁ、まりさ。俺は何も嘘はついてないよな?」
髪が抜けるほど強く掴みながら、俺はまりさに問う。ついでにzippoを少し上下してやった。
まりさのあんよからは香ばしい香りが漂ってくる。少し苦味を帯びて甘い、炭水化物の焦げ付く香り。
「どぼじでぇ・・・・・・?ばりざだぢ、ぢゃんどにんげんざんをゆっぐりざぜだでじょおぉぉぉ・・・?」
動くのに疲れたか、はたまたあんよが焼け焦げて動かなくなってきたか。
まりさは短く呼気を漏らしながら、掠れた声で反論する。
「ゆっくりさせたってのはあれか、お前の跳ねる所を見せられたり、雑音を聞かされたりしたことか?」
「ぞうだよ!?ゆっぐりでぎだでじょ!!??あとでいぶのおうたはざつおんじゃだいよ!?」
だから早く放せ、とばかりに体を揺するまりさ。
れいむの歌についての事まで聞き逃さないとは、結構余裕あるじゃないか。
「駄目だな」
「「どぼじで!?」」
置き上がったれいむとまりさの声が綺麗にハモる。
「当たり前の話じゃないか」
火がまりさの髪に燃え移らないように注意しながら答える。
「お前らに野菜をやったら、その分俺の持っている野菜は無くなるだろう?」
火はまりさを舐め続ける。パチン、と一つ鳴ったのは、熱で皮が爆ぜた音か。
「だからお前らも、俺に『ゆっくり』をくれたら、その『ゆっくり』はもう、無くなってしまうんだよ」
その言葉と共に、俺はまりさを地面に放り出した。
ぺきゃり、ぱき。
まりさが地面とちゅっちゅすると、小枝を踏み折ったような軽い音がした。
落ちた拍子に前歯が何本かヘシ折れたんだろう。
「ああ゛あぁぁぁぁー!!!うあぁぁぁー!!!ひゅっふりでひなひぃーー!!!」
顔を突っ伏したまま泣きわめくまりさ。だが体は微動だにしない。
あんよの前半分が焼け焦げているせいで、体を起こすことすらままならないのだ。
「ひゅっふい・・・ひゅっくぴぃ・・・・・・」
ひ、ひ、と呼気を漏らしながら必死になって動こうとするが、尻(?)がふりふりと左右に揺れるだけで、
肝心の体は全く動かない。あんよの後の方を使って蹴り出すようにすれば辛うじて移動することはできるだろうが、
まりさの狩人としてのゆん生は今ここで、終わった。
これから起こることをしっかり見せてやるために、まりさの体を起こしてやる。
「毎度あり、まりさ。お前の一番の『ゆっくり』、確かに貰ったぜ」
その時に、惨めったらしく地面をはいずるまりさに俺は優しく言ってやった。
さて、次だ。まりさに群がってぺーろぺーろをしてやっている家族ども。
次はこいつらの『ゆっくり』を貰い受けようか。
「れいむ」
俺は涙を流して必死に親まりさをぺーろぺーろしているれいむに声をかける。
「ぺーろ!ぺーろ!!まりざのあんよざん!!!ゆっぐりうごいであげでね!!
ばりざがゆっぐりでぎないっでいっでるよ!!いじわるじないでうごいであげでね!!??」
聞いていない。軽く蹴飛ばしてやる。
「ゆぐぅっ!?」
まりさを横からぺーろぺーろしていたれいむは、まりさの前にごろごろと転がっていった。
さて、こいつの『ゆっくり』は歌だったな。全くジャ○アンよりひどい歌歌いやがって。どうしてくれようか?
れいむに向かって歩く。最終的に地面に突っ伏すようにして止まったれいむは、尻をふりふりと振って
置きあがろうとする。動作の一つ一つが大掛かりで、こうやって見ればコミカルと言えばコミカルだ。
ゆんっと頭を上げ、置きあがろうとした所でその頭を右足で踏んづけた。そのまま左足を前に出し、
れいむを踏んでまたぎ越す。
「うっぎゅうぅうぅぅぅ!!??」
置きあがろうとした頭を踏まれてれいむが呻くが、潰れてしまうことは無い。
俺の体重移動の技術の妙だ。
「なぁ、れいむ」
またぎ越した俺はくるりと振り向き、れいむの頭に改めて足を乗せる。
「お前も野菜を喰ったんだから、『ゆっくり』を払ってもらうぜ?」
我ながら苦笑するほど粘っこく甘い声で、れいむに囁いた。
自分の頬が三日月のように吊りあがっているのが分かる。
「~~っ!?」
びくり、と足の下で一瞬跳ねると、れいむが俺の足の下から逃れようともがき始めた。
ゆじゆじともがく感覚を楽しみながら家族の方を見ると、なんと子まりさが逃げ出そうとしていた。
「ゆっひ!ゆひぃぃぃ!!ここはゆっくりできないんだじぇ!!まりさはにげるんだじぇ!!
ゆゆっ!!??こんなところにおやさいしゃんがいっぱいあるんだじぇ!!じぇんぶまりさのものなんだじぇ!?」
前後の状況を完全に見失っているようだ。幼児退行を起こしかけているのか口調まで随分と幼くなっている。
しかし、「まだ」何をされたわけでもないのに家族を見捨てるとは、ずいぶんと薄情な話じゃないか?
「おいまりさ!!」
親れいむを強く踏みつけながら大きめの声で言った。
「お前が逃げたら、お前の母親を踏みつぶしちまうぞ!!」
これ見よがしに親れいむを踏みにじってやる。
「ゆゆっ!?」
名前を呼ばれた子まりさは一瞬振りかえったが、
「なにいっでるのおおぉぉぉ!!?ばりじゃはゆっぐりじだいんだじぇえぇぇぇ!!
ごんなゆっぎゅりでぎないどころにはいられないがら、ばりざおやざいざんむーじゃむーじゃずる!!
みんだはまりざのだべにゆっぐりじでいっでねぇ!!!!」
「ゆがーん!!」
ショックの声を上げるれいむを尻目に、子まりさは涙を流して畑の方に跳ねて行ってしまった。
クズだな、あいつ。
「やべてあげてにぇ!?おがーじゃんのあたまをふまないであげてにぇ!?」
「ひゃめてあへへね!!へいむのさらはらなはみさんよごさないであげふぇね!!?」
それに比べて、残りの家族の健気なこと。親も子も必死に俺に哀願してきている。
これぞ家族愛ってもんだ。感動的だな。
特に親まりさが良い。前歯が上下ともに4,5本ずつヘシ折れている上に動きといえば
尻をぺったんぺったん上下するだけ。正直あいつが真面目な顔をすればするほどそのギャップで笑える。
さて、最初から親れいむを踏みつぶすつもりは無い。俺はれいむの上から足をどけてやった。
「ゆゆっ!?あたまがかるくなったよ!!ゆんゆーん!ゆっくりしていってね!」
れいむは嬉しそうに伸びをすると、伸びたままくねくねと体を揺すった。
なんというか、決定的に危機感と言うかシリアスさと言うか、そういうものに欠けてるんだよなこいつ・・・・・・。
親まりさが焼かれてる時も「嫌がってるよ!」だったしなぁ・・・・・・。
ぼんやりとれいむを見つめていると、れいむが俺に背を向けて(首も背も無いが)平たく潰れ、
ずるずると這いずり始めた。
「れいむはにんげんさんからゆっくりしないでにげるよ!そろーり!そろーり!!」
いや、這うなよ・・・・・・。せめて跳ねろよ・・・・・・。
もしかしてそれ、隠れてるつもりなのか?馬鹿にしてるのか?それとも馬鹿なのか?
無言でれいむの髪を掴んだ。
「おそらをとんでるみたい!!」
同じことしか言えんのかこいつら。
目の高さまで持ち上げてくるりと回してやると、れいむと目があった。
「どぼじでぞろーりぞろーりじだのにづがまっでるのおぉぉぉぉ!??」
心底驚いたようにれいむが叫んだ。あぁ、馬鹿なんだこいつ。
「あー・・・・・・、お前の一番の『ゆっくり』は何だったっけ?」
あまりの脳内お花畑っぷりに少し毒気を抜かれてしまった。気分を盛り上げるために、
努めて意地悪そうな顔と声で聞いてやる。
「ゆっ!しらないよ!!れいむはなにもしらないよ!!おうたなんてしらないよ!?」
きょときょとと目を泳がせてとぼけるれいむ。あぁそうかよ。
「そうかい。おまえはゆっくりしてないのか。そうか、お前は『ゆっくりできないゆっくり』なんだな?」
「ゆゆっ!!??」
ゆっくりは総じて『ゆっくりしていること』を誇りにし、それを追い求めることが多いようだ。
その矜持を傷つけられれば、
「れいむはとってもゆっくりできるゆっくりだよ!?れいむのおうたはゆっくりしてるって
みんないってくれるんだよ!しつれいなこといわないでね!ぷんぷん!!」
まぁ、この通り。
「そうかそうか。お前はちゃんとゆっくりできるゆっくりだったんだな。疑ってすまんな」
「ゆっゆーん!わかったらいいんだよ!!かみのけさんがいたいからそろそろおろしてね!!」
「あぁいいぜ、だけどその前に」
右手をれいむの口に突っ込み、舌を掴んだ。
「野菜の代金を頂かないとな?」
にこりと笑顔で言ってやった。
「・・・・・・ぁえ?」
間抜け面のまま固まるれいむ。
二つ折りの携帯より少し小さい舌が、俺の手の中でぐにぐにと動く。不思議な感覚だ。
見る間にれいむの顔が引きつっていく。何だ、頭の中の花畑はもう枯れ果てたのか?
そんなに怯えた顔をするな。
ほら、笑えよ。笑って、「ゆっくりしていってね!」とでも言ってみな?言えない?そう。じゃあ良いよ。
「ぉえあぁぁぁぁ!!!!!ふふゃいあいあいあああああ!!!!!!!!!」
どうせやることは変わらないんだから。
引きぬいた舌からぼたりぼたりと餡子が滴る。
狂ったように叫び散らすれいむの口からも餡子が噴き出される。
そんな有様のれいむをくるりと反転させ、家族にもよく見えるようにしてやった。
親まりさと子れいむは、しーしーと涙でぐちゃぐちゃになりながら震えている。
ぞくりと体が震えた。何だろうこの感覚は。
楽しい。こいつらを痛めつけるのが、言いようも無く楽しいのだ。
もっとこいつらを痛めつけてやりたい。ボロボロにしてやりたい。
その衝動に突き動かされるように、俺はもう一度れいむの口の中に手を突っ込んだ。
「まだまだ元気に叫び声を上げられるようだなぁれいむ。舌を抜くだけじゃ足りなかったか?
じゃあ、お前がもう声が出せなくなるまで、お前の喉を滅茶苦茶に壊してやるよ」
そのまま手を進めて行こうとすると、れいむが慌てて口を閉じた。硬い、と言ってもせいぜい
スカスカの陶器程度の硬さの歯が、俺の手に食い込んでいく。
思わず笑ってしまった。痛くない。噛まれている手が全く痛くないのだ。
おそらくれいむは全力で俺の手を噛んでいるのだろうが、正直輪ゴムを手に巻いた程度の圧迫感しかない。
額関節の無いゆっくりの咬合力は、乳幼児のそれにも劣る弱さだ。
「ほら、しっかり噛んでないとお前、二度と声出せなくなっちゃうぜ?」
噛まれたまま手を押し込んでいくと、れいむの焦りが手に伝わってくる。
必死になって俺の手を噛みしめるが、そんなことでは俺の手は止まらない。
そのうち歯の方が負荷に耐えられなくなったようで、みしり、みしりと歯がきしんできた。
そしてある一点を超えた瞬間。
「っぽああぁああああぁぁぁいあぁあぃえあああふぁふぁたぁぁああ!!!!」
俺の手に食いこんでいた歯が、まとめて内側に90度、折れ曲がった。
自由になった手を奥まで突っ込んで、手を開く。閉じる。捻る。抉る。掘削する。突き刺す。そして引き抜く。
「~!~~~っ!っ!!・・・・・・・・・・」
れいむは無言で、ぐずぐずになった口内の「自分だったモノ」を吐きだす。
これでもう、声は出せないだろう。
やさしくれいむを地面に下してやる。まりさのように地面に放り出せば、折れた歯が口の中に突き刺さって
楽しいかもと思ったが、同じことをしてもつまらないからな。
「ゆわぁーん!!おがーざゃん!!ゆっぐりじでいっでねぇー!!!」
親まりさから数歩の距離の俺に、子れいむがようやくたどり着いてきた。
健気にも必死に親れいむにすりすりと頬を擦り合わせる。
前を見れば、親まりさもびったんびったんと尻を地面に叩きつけ、れいむの元に行こうと必死だ。
歯を食いしばり、「いー」の口になっているまりさ。
前歯が無いと言うだけで、本人がどんなに真面目でもギャグになってしまうのがすこし、面白い。
さてと、次に行こうか。
俺はかがみこむと、子れいむの真っ赤なりぼんをむしり取った。
「~ー~~!?」
必死に親れいむをぺーろぺーろしている子れいむはそれに気づかないが、
親れいむと親まりさはそれに気付いた。
目を剥いてリボンを取り返そうとするのを無視して俺は子まりさを探す。あぁ、いた。
俺から親まりさまで数歩、そこからまた数歩の距離にまりさはいた。
ずかずかと大股で歩いて行けば、10歩ぴったりでまりさに追いつくことができた。
帽子の先端をつまんで持ち上げる。
「おそらをとんでるみちゃい!」
もういいからそれ。
「よっ、まりさ」
目線を合わせて笑いかけてやる。
「ゆわあああぁぁぁぁぁぁ!!!なんでにんげんさんがいるのおおぉぉ!!!」
「お前、逃げたら親れいむは踏みつぶすって言ったのにノータイムで逃げたなぁ?」
「はなじでね!ゆっぐりじでいっでね!!ばりざおこるとごわいんだよ!?」
「うるせーよ。お前からもきっちり『ゆっくり』は頂いてやるから、まぁゆっくりしていけよ」
「ゆっぐりじでいっでね!おやざいざん!ばりざのゆっぐり!ゆっぐりじでいっでね!!!」
錯乱していやがる。まぁいいや。家族の元に帰ろう。
「おかーさん!?どぼじでれいむにぺーろぺーろさせてくれないの!?」
母の身を案じる子れいむは親れいむにぺーろぺーろしようとしているが、親れいむは俺から
子れいむのリボンを取り返すのに必死だ。子れいむを無視して一直線に俺に
向かってきているせいで子れいむは完全に置いて行かれている。
「~~っ!!-----っ!!!!」
親れいむは必死の形相で俺を追いかけてくる。何故ここまで必死になるかって?
それは端的にいえば、ゆっくりにとって飾りは、命の次に大事なものだからだ。
と、断定口調で言ったが、俺の知識も人からの受け売りだ。まぁ正しいようなのでいいだろう。
ゆっくりにとって飾り・・・・・・まりさ種にとって黒帽子、れいむ種にとってリボンは、
アイデンティティそのものだ。
無くせば他者からは個体認識すらできなくなり、十把一絡げに「ゆっくりできないゆっくり」として排斥される。
今の母れいむのように目の前で取ってやれば、ぎりぎりで個体と飾りの関連付けはできるようだが、
例えば今俺が「ゆっくりしていってね!」とでも言って母れいむの認識をリセットしてしまえば、
母れいむはいともたやすく子供を攻撃するだろう。まるで虫だ。
しかも、その「ゆっくりできないゆっくり」への排斥の度合いと言ったら無い。
俺はこちらに跳ねてくる親れいむがこちらにたどり着くのを待ってから親れいむを置き去りにし、
子れいむのもとへと足を進めた。
子れいむは大分疲れているようだ。
最初俺がいた位置と今の俺の中間地点・・・・・・親まりさにもたどり着かないまま、ひぃひぃ言っている。
俺は子れいむの前に行くと、子まりさをそっと子れいむの前に下ろしてやった。
「ゆゆっ!?ゆっくりできないゆっくりがいるんだじぇ!?」
たちどころに子まりさは、子れいむに反応した。たとえ肉親であったとしても、飾りが無ければそれと
認識できない。人間から見ればそれはとても不思議で、不気味な光景だ。
「ゆっくりできないゆっくりは、ゆっくりしぬんだぜ!!」
子ゆっくりが子れいむに体当たりを仕掛けはじめた。
「やべでね!?れいむはれいむだよ!?」
「なにいってるんだじぇ!まりさのいもーとはもっとかわいいんだぜ!!
おまえみたいなゆっくりできないゆっくりじゃないんだぜ!!」
自分がリボンを無くしているということをしらない子れいむは困惑しながらも応戦する。
だが、無駄だろうな。
まりさ種はれいむ種より身体能力が高いことが多い。
その上、一方が相手を殺す気で攻めているのに対し、他方は相手に怪我をさせないように気遣っている。
子れいむが子まりさに勝てる道理は無い。
「~っ!でぃ~~ぃちゃ~~~!!!ぁぇ~~~!!!!!」
声を掠れさせながら子れいむたちの元に急行する親れいむ。親まりさも枯れ果てた涙を振り絞って
こちらに向かおうと必死だ。俺は親たちが子供同士の殺し合いを見やすいように、少しどいてやった。
「やべっ、やべでで!でいぶだよ!!でいぢゅうううぅぅうぅ!!!!」
「しんでね!ゆっくりできないゆっくりはゆっくりしんでね!!!!」
おっと、子れいむに子まりさ渾身ののしかかりが決まった。非力なゆっくりは、
普通の手段・・・・・・噛みつきや体当たりでは相手に決定的な傷を与えることはできない。
だが、重力の力を借りれば話は別だ。
「ぢゅぶれりゅうぅぅぅ!!!でいびゅちゅぶれぢゃうおおっょおおぉぉ!!」
「げらげらげらげら!!!しんでね!ゆっくりしんでいってね!!!!」
笑いながら子まりさは子れいむを踏みつけ続ける。その鬼気迫る様子はとても滑稽で、少し恐ろしい。
言葉こそ操るが、こいつらが本質的には虫や魚と同じだということが良く分かるからだ。
「ゅぼっ!もっちゅぶっ!ぇっぇっぇっぉぇっぴゅっ」
子れいむが餡子を吐き出し始めた。もう、長くはもたないだろう。
親れいむが間に合うかは・・・・・・微妙な所か。
「ひゅぅっ!ぁぴゃぁ!ぴぁ!ぅぶぇぇぇぇ!!」
「しんだんだぜ!?ゆっくりできないゆっくりがしんだんだぜ!?」
のしかかりに耐えかね、ひときわ多量の餡子を吐き出した子れいむを子まりさが見下ろす。
その行為によって子れいむにかかる体重が偏る。さらに餡子が絞り出される。
「やめっ~~!~~!!ぃぶ~~ちゃ~~っぁぁ!!!」
掠れた声を上げながら、親れいむが子供の元にたどりついた。でもあぁ、少しだけ遅かったかな。
「・・・・・・もっと・・・・・・ゅっぐり・・・・・・じだ・・・・・・がっだ・・・・・・」
あっさりと、子れいむが事切れた。
「「ぁふぁーー~~ーーっ~ー!!!???」」
それを見た親たちが絶叫した。大事な大事なおちびちゃん。おちびちゃんが死んでしまった。
しかも、大事なおちびちゃんを殺したのはこれまた大事なおちびちゃん。
訳が分からないだろう。泣くしかないんだろう。表情からその心中が伝わってくる。
「ゆっ!?おとーさん!おかーさん!!まりさゆっくりできないゆっくりをやっつけたよ!!」
その上、当の子まりさは一片の邪気もなく誇らしげに笑うのだ。
さぁ、種明かしをしてやろう。俺はむしり取ったリボンを、子れいむの残骸に落としてやった。
それは狙いたがわず命中し、「ゆっくりできないゆっくり」は、「妹の子れいむ」に戻る。
「・・・・・・ゆ?」
子まりさは一瞬きょとんとした顔で子れいむのリボンを見たが、顔をこわばらせると
そろそろと視点を下に下げて行った。そこには、潰れた妹の姿がある。
「ゆ、ゆわああぁぁぁぁぁ!?ば、ばりざはわるぐないんだぜ!?
ゆっくりごろしじゃないんだぜ!?ゆっくりできないゆっくりをせいっさいっしただけなんだぜ!
ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!!!」
狂ったように叫びながら妹の死体から飛び退く子まりさ。だがその叫びの中に妹れいむへの
謝罪は一言も含まれていない。自らの保身のことしか考えていないのは明らかだった。
「おぢぃゃん・・・・・・どふぉぃて もうとをぉろふぃあの?」
光を無くした目で親れいむは子まりさに問うた。魂を削るような声だった。
だが、それに対する子まりさの答えは無情にして無慈悲。最低だった。
「ゆゆっ!?おかーしゃんのこえもがーらがーらでゆっくりできないんだじぇ!!
ゆっくりできないゆっくりなんてこわくないんだぜ!!!!」
あぁこいつ、れいむに殺されるな。
でも、こいつは俺が直接やってやらないと、気が済まないな。
「さてと。次はお前の番だよまりさ」
そう思った俺は、親れいむにやられる前に子まりさをつまみ上げた。
「おそらをとんでるみたい!」
黙れ欠陥品。俺は煙草の炎を近づけてやりながら聞いた。
「髪を全部引き抜いてハゲ饅頭にしてやろうか、それともその目玉を二つとも抉り出してやろうか?
親と同じように足を焼かれるのがいいか?喉を潰すか?体が嫌なら帽子を差し出すか?選ばせてやるよまりさ」
ちりちりと迫る炎から逃れようとまりさは身もだえしている。
「やべでね!!ばりざはゆっくりずるんだよ!!ばりざこわいんだよ!はなざないとおこるんだじぇ!!」
「怒るなり反撃するなりしてみろよ。腐れ餡子玉。お前は俺に勝てないんだよ。
さぁ、何を滅茶苦茶にしてほしい?選べないなら俺が選んでやろうか?」
涙を流す目玉に煙草の火を押しあててやろうと決めた瞬間、まりさが叫んだ。
「ば・・・・・・っばりざは・・・・・・っ!!ばりざのいぢばんだいじなのは、がぞくなんだぜ!!!」
一瞬意味が分からなかった。そして、意味が分かった瞬間爆笑してしまった。
こいつ、家族を俺に売り渡しやがった!!!
「くっくっく・・・・・・お前、家族が大事と来たか。じゃあ、お前の家族を貰おう。
でも分かってるよな?俺はお前らの『ゆっくり』を使えないようにしてるんだ。
お前が俺に家族を売ったら、俺はお前の家族を殺すぜ?それでもいいんだな?」
「ずぎにじでね!!ばりざがゆっぐりするだめだがらしょうがないんだぜ!!!
おどーざんとおがーざんはここでゆっぐりじんでね!!!」
家族が一番大事。言葉だけ聞けば心温まる台詞だが、実際は全くの逆。
こんなひどい使われ方をするのを聞くのは初めてだよ、実際。
あぁまりさ、お前のクズさは大いに分かった。だがお前の意志は尊重させてもらおう。
「あぁ、家族ならまりさかれいむどっちか片方でいいや。選べよ」
煙草をまりさから引き、俺は条件を詰め始める。
「じゃあゆっくりできないがーらがーらごえのおかーさんを・・・・・・」
即座に選ぼうとするのを制止してやる。
「まぁ待て。声がゆっくりできなんて些細な問題じゃねーか。ほら、まりさの方を見ろよ」
顔を地べたの親まりさに向けてやる。
「ほら見ろ。あいつもう自力で動けないんだぜ?ゆっくりできないだろ?れいむの方はただ
声が出ないってだけだ。どっちがマシかって言われたら、れいむの方がだいぶマシじゃないか?」
「ゆぅ~ん・・・・・・そうだね!!」
ぺかっと晴れやかに笑う子まりさ。
「じゃあおとーさんをにんげんさんにあげることにするよ!ゆっゆーん!まりさはきれものっだね!!」
なりゆきについて行けずにぽかんとする親たち。俺は子まりさを降ろしてやると
親まりさの方に近づいて行った。
すい、と親まりさを持ち上げ、そして優しく話しかけてやる。
「なぁ、まりさ。お前自分のガキに売られちゃったな」
「ふぁ・・・・・・ふぁめてぇ?はりはにひろいことひあいでえ?」
呆然としながらも、顔を歪めて嘆願してくる親まりさ。良い顔してるよ、おまえ。
俺は笑いながら拳を構える。
「俺もこうなるとは思ってなかったが、恨むなら自分のガキを恨めよ?」
振り下ろした。
「ひったああああぁぁぁぁあっぁぁああいぃっふぃひいぃぃ!!!」
たった一発で、皮が破れた。
重い音はしない、乾いた音もしない。ゆっくりには骨が無いから。
破裂音もしない。ゆっくりには張り詰めた皮も、筋も無いから。
だから、ゆっくりは殴るととても間の抜けた音がする。
ぼすん
「ひっぴぃいあいぁぁああいいいいぃぃ!!」
ぐしゅ
「やべふぇくだっぷぇあぇぇえええぇぇぁあぁぁぁ!!」
っちゃぁ
「ふぁいさのあんこふぁんがああああああぁぁぁっゎゎあぁっぁ!!」
くじゅん
「めあああぁあぁぁみえあいよぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
粘っこい音が混じり始めるのは、皮を通り越して中身の餡子を殴っているからだ。
「ぇて~~てだぁい!!ぃうの~~んなんでぅ!!!」
ガラガラ声のれいむが俺に縋る。だが、さっきのように蹴り放そうとは思わない。
涙を擦り付けられるのも、もうどうでもよくなっていた。
殴る、殴る、殴る。もう一つおまけに殴った所で、まりさが痙攣し始めた。死の痙攣だろう。
「ゆ゛っ・・・・・・っゆ゛っ・・・・・・っゆ゛っ・・・・・・っ!」
およそ原型をとどめなくなったまりさを、子まりさにつきつけてやる。
「なぁ、まりさよ。こいつ、お前の代わりに死んじゃうんだぜ。最後に何か言ってやりな」
「ゆっ?!」
急に振られた子まりさは一瞬考え込むと、
「ゆっくりしていってね!!」
とだけ言った。満面の笑顔だった。
殴りすぎて片目が飛び出したまりさの残された目から、命の光が涙となって零れおちた。
死んでしまった親まりさから手を放す。
元ゆっくりだったモノは、何一つ動かずに重力に身を任せた。
「ぁりざーーぁぁー~!!どほぃてぉんだおおぉぃいぃぃ~~!!!!」
まりさの亡骸にれいむが身も世もなく縋りつく。
「ゆゆ~ん!これでまりさはあんっぜんっだよ!!ゆっくりしていってね!!」
親れいむとは対照的に、まりさは晴れやかな様子だ。その顔に、実の親を売り渡した
悔恨の念など微塵も見受けられない。
まりさは上機嫌に跳ねまわっていたが、ふと動きを止めると、つと俺を見上げてきた。
何を言うのかと思ったら、
「にんげんさん!でもやっぱりおかーさんのがーらがーらごえもゆっくりできないよ!!
おかーさんもあげるから、もっとおやさいさんちょうだいね!!まりさはほんとにてんっさいっだね!!」
とんでもねぇことを言いだしやがった。流石の俺も、これを笑うことは出来なかった。
馬鹿はきゃいきゃいと嬉しそうに「おやさいさん」とやらを要求してくる。
だが始めにも言ったが、俺はもうこいつらに何も与えてやるつもりは無い。加えて、
俺はもう子まりさに何をするつもりも無かった。だってこいつからはもう、野菜の対価は頂いたから。
だが、これで済むと思うなよまりさ。
再びzippoを取り出すと、新しい煙草を咥え、火を付けた。
「・・・・・・おまえさぁ」
冷たい目で子まりさを見る。
「何でそこまで野菜にこだわる?家族と引き換えにたった一回美味いもん食って、お前はそれでいいの?」
単純に好奇心から聞いた。
「おやさいさんはとってもおいしくてしあわせー!でゆっくりしてるよ!!
おとーさんもまりさがゆっくりしてうれしいはずだよ!!」
即座に単純明快な答えが返ってきた。あぁ、俺には一生、こいつの思考は理解できないんだろうな。
「だからさっさとおやさいさんちょうだいね!!おかーさんとこうかんしてあげるからね!!」
まりさの言葉を無視し、目を閉じて煙草の煙を吸いこむ。
顔の下半分が手で隠れ、俺の表情がゆっくりには分からなくなる。
「・・・・・・だってよ、れいむ」
目を閉じたまま俺は、子まりさの真後ろにまで来ていた親れいむに声をかけてやった。
子まりさが振り返るより早く、親れいむののしかかりが決まった。
「ゆげぇ!ちゅぶれりゅういぃぃいうううぅぅう!!」
「ぃね!!がぉぐを るぇすゆっぐりはぅっぐりじねええぇぇぇぇへぇ!げへぇ!!ふぅ!!」
子まりさの体の上で何度も飛び跳ねる親れいむ。その動きには一切の躊躇も遠慮もない。
「どぼじで!たべでね!!ばりざはゆっぐびゅぅ!じだがっだ!ぴぃ、だげ!!ひぃ!!!」
親に殺されかけながらも、子まりさはまだ妄言を吐き続けている。その姿は俺には、一切の誇張無しに
こいつの頭の中では自分が悪いという考えが「存在しない」かのように映る。
理解できない。
「いだぃ!!やべちぇにぇ!!がわさんがやびゅ!えぴゅぃ!ひきいいぃぃいぃ!!」
子まりさの口調がまた、甘ったれて舌ったらずなそれに戻っている。あぁ、無性に腹が立つ。
「ぃんげんじゃん!?えろぉ!!はやぎゅぅ!!このばきゃおやっぷしゅぅ!!あげりゅかりゃ!!どげで!!」
皮が破れ餡子を漏らしながら、子まりさが絶叫する。あぁ、取引ねぇ。
「断るよ、まりさ。俺はお前を、助けない」
「どぼじゅぺっぽえあええええぇえっぇぇぇっぇぇぇぇえええ!!!!」
叫ぶ様に口を開いたのが悪かったか、子まりさが大量の餡子を吐き出した。あぁ、致命傷だな。
「ゆ゛っ・・・・・・ゆ゛っ・・・・・・どぼじぢぇ・・・・・・ばりざ・・・ゆっぐぃ・・・じだがっただげなのに・・・・・・」
目から光が消えかけている子まりさは、ぶつぶつと呪い言を吐き続けている。
あぁ、嫌だ言いたく無い。だって、こいつらを破滅させたのは俺だ。
俺がこいつに言える言葉なんてどこにある?
「親れいむを見捨てて、妹を殺して、親まりさを売り飛ばして、さらに親れいむをもう一回売る?」
しかし結局、言わずにはいられなかった。
聞かせるというよりは、一人言のように言葉を吐き出す。
「お前本当に、それで上手く行くと思ったのか?幸せになれると思ったのか?
なぁ、まりさ。お前、クズだよ。脳の中身から心の中身まで、何もかもが足りなさすぎる。
どうしようもなくお前は最低だ。見ていてイラつく。自業自得って言葉を噛みしめて、死ね」
俺の言葉を聞いたのかそうでないのか。子まりさはビクンと大きく痙攣すると、
「っと・・・・・・・・っくり・・・・・・・・・・・・った・・・・・・」
末期の言葉を吐き出し、事切れた。
そして静寂が訪れた。
俺とれいむはお互いを無視するように黙りこんでいる。
煙草が一本灰になる時間が過ぎたところで、れいむが話しかけてきた。
「ぃんげんぁん」
「ん?」
「んなずっとゆっくりじあったよ」
「そうだな」
「ぇいぶはぃんげんぁんをゆるぜぁいよ」
「そうかい。でも俺は、お前らと取引をしただけだぜ」
「だあってね」
れいむの目にはもう、ここに来た時に浮かんでいたような明るい色は無い。
代わりにそこに浮かぶのは、冥く淀んで濁り、そして力に満ち溢れた光。イキモノの色。
俺たち人間と同じ色だ。
なんだ、そんな目もできるんじゃねぇか。
「おぁえがいながっふぁらぁりふぁもおふぃいちゃんもみんなぃんな!じなぁかったんら!!!
ゆっぅいでいないにんふぇんは!!ゆっぐりじね!!!!!!」
鬼気迫る表情を浮かべ、れいむが俺に噛みつきを仕掛けてくる。
俺はその目に敬意を払い、全力でれいむを蹴り飛ばした。
ぱぁん
質量同士が高速でぶつかり合う音が、高らかに鳴った。
骨と筋と肉は、その衝撃に軽々と耐えた。
饅頭皮と餡子と飴細工は、その衝撃に耐えられなかった。
そして最後に残ったのは俺一人。俺は紫煙をくゆらせながら考える。
これまで俺はゆっくりをただの害獣だと認識して、喋りかけたりはしなかった。
潰して、壊して、問答無用で殺してきた。結局それは正しかったんだろうな。
多分、直感的に分かっていたんだろう。言葉を交わしてしまえば、
ゆっくりに対して特別な感情が湧いてしまうということを。
人間の言葉を喋る人間以外の生き物。
ある部分においては驚くほど人間と近く、他方においては驚くほど動物的。
自分がそんなゆっくりに対してこれまでと同じように接することができるとは、全く思えなかった。
これ以上声を聞くことを恐れ、見かけ次第殺すようになるかもしれない。
サディズムを発揮する対象として、わざわざ捕獲してでもゆっくりをいたぶるようになるかもしれない。
もしかしたら、同情の果てに出来る限りのゆっくりを保護しようと思うようになるのかもしれない。
どうなるにせよ、俺はもうゆっくりに対して無関心でいることは出来ないだろう。
気が付くと、紫色の夜に赤が混じり始めていた。
明けの明星が空に融け、太陽の光が空を刺し始める。
あぁ、気がつかない間に結構な時間がたっていたようだ。
甘い甘い殺戮の跡地の真ん中で、俺は煙草を踏みにじって消した。
ゆっくりが命を賭して求めたスナップエンドウが、光を浴びて輝いていた。
END
あとがき
単純な、ただただ単純な虐待SSを書きたくて書きました。
気を抜くとつい挟んでしまう設定話もざっくりと削除して、ひたすら虐待に専念してみました。
いかがでしたでしょうか?
投稿頻度の少ない駄目SS書きではありますが、これからもよろしくお願いいたします。
それではここまで読んでくださったあなたに感謝をささげつつ、今日はさようなら。
by ゆンテリアあき
ぷかり、と吐き出した紫煙が、明けの明星の浮かぶ空に融ける。
俺の目の前の畑では、朝露をまとってきらきらと光るスナップエンドウたちが、収穫を待ちわびている。
季節は6月、梅雨の晴れ間の朝。俺はスナップエンドウの収穫を行おうとしていた。
「ゆっくりいそごうね!」
「あめさんがやんでるうちに、おやさいさんをいっぱいむーしゃむーしゃしようね!!」
「おやさいしゃん!おやさいしゃんなんだじぇ!!」
「おにゃかいっぱいむーしゃむーしゃしゅるよ!!」
気分良く畑を眺めていた俺の足元を、4つの饅頭がてちてちと通り過ぎていく。
ゆっくりだ。喋るし歌うしダンスだって踊る、不思議な「生きている饅頭」。
現代に現れたファンタジーの化身たち。
だが、農家にとってゆっくりは作物を荒らす害虫害獣の一種類。見かけたら駆除が常識だ。
いつもならば物も言わずに踏みつぶして仕舞にするのだが、今日は潰す前に
一応警告を与えてやることにした。理由は特にない。強いて言うならば、今日の俺は機嫌が良いからかな。
「そこの饅頭ども」
「「「「ゆっ!?」」」」
俺の足元をぽよぽよと跳ねていた饅頭は、今俺に気付いたかのように一斉に俺を見上げてきた。
「にんげんさん!ゆっくりしていってね!!」
黒い帽子をかぶった金髪の饅頭が俺に挨拶して来た。
「れいむたちはいまからおやさいさんをむーしゃむーしゃしあわせー!するんだよ!
にんげんさんもいっしょにゆっくりしようね!」
赤いリボンを付けた黒髪の饅頭が、舐めたことを抜かしてきた。
ゆっくりは大体2種類に大別され、金髪が「まりさ」、黒髪は「れいむ」と言う。
個体名ではなく種族の名前であるが、同時に個体名でもある。
「まりさ」は全員「まりさ」という名前であり、「れいむ」も全部が「れいむ」だ。
「おいしいおやさいさんがはえてるってきいて、まりさたちずっとおやさいさんたべにきたかったんだよ!」
「きょうはあめさんがゆっくりふってないから、やっとおやさいさんでしあわせー!できるんだよ!!」
「「すーぱーむーしゃむーしゃたいむなんだよ!!」」
饅頭どもは興奮してキラキラと輝く目で、いかに自分たちが今日のことを楽しみにしていたか熱弁を振るう。
俺の知ったことではない。
「ここに生えてるのは全部俺のだ。手前ら饅頭は石でも齧って死んどけ」
俺は煙草を咥えたまま前を見つめ、饅頭の方を見もせずに言った。
「「「「どぼじでぞんなごどいうのぉー!!!!??」」」」
饅頭どもは俺の台詞を聞いた途端、目を剥いて心底驚いたかのように叫び声を上げた。
「まりさたち、ここまでゆっくりしないでがんばってきたんだよ!?」
「おにいさんはいじわるいわないでね!!」
「おやさいさんたべさせてね!」
「れいむたちのむーしゃむーしゃをじゃましないでね!!」
さっさと行ってしまえよ。命だけは助けてやると言ってるのに。
「ここは俺の畑で、ここに生えているのは俺が育てた俺の野菜だ。お前らに食う権利は無い」
「わけのわからないことをいわないでね!!」
「おやさいさんがおいしいからってひとりじめしようとしないでね!ぷんぷん!!」
「「そーだよゆっくりできないよ!!」」
あぁ、そうだった。こいつらは人間の言葉を喋るだけで、人間じゃないんだったっけ。
こいつらが振りかざす論理。それは理性のない獣の理だ。
あるいは、数学的な美すら感じさせる虫の数式と言い変えても良い。
そう、ゆっくりはある一面において驚くほど人間に似ているが、別の一面を捉えれば、それは驚くほど
簡単に「動物」の一言で言い表すことができてしまうのだ。
「お前らがどう思おうと、そんなことはどうでも良いんだよ。俺はお前らに野菜を分けたりしないし、
無理に食おうとするなら叩き潰す。今日の俺は気分が良いから、今行けば命は助けてやるよ」
だから、ゆっくりを説得しようとしてはいけない。熊と同じに、猪と同じに、猿と同じに。
他の害獣と同じように、言葉ではなく行動で示さないといけないのだ。
「ゆっ!もういいよ!これいじょうゆっくりできないにんげんさんとおしゃべりしてるじかんはないよ!」
「そうだよ!!れいむたちのすーぱーむーしゃむーしゃたいむはだれにもとめられないんだよ!!」
「むーしゃ♪むーしゃ♪するんだじぇ!!」
「きゃわいいれいむがおやさいしゃんたべるよ!!」
そして害獣どもは、俺の最終警告を無視した。ならば後には駆除があるだけだ。
腰を反時計回りに捻る。同時に上半身を時計回りに捻ると、右足が振り子の円を描く。
「むーsyゆぼぉ!!」
「まりさああぁぁぁぁ!?」
「「おとーしゃあああぁぁん!!??」」
振り子の重り・・・右足の甲で蹴り飛ばした親まりさに、他の家族が駆け寄っていった。
俺の蹴りは、学生時代にやっていた柔道の動きを応用したものだ。
地を這うように足首を刈る柔道の足払いは、体高30cmのゆっくりを攻撃するには最適だった。
「何度も言わせるなよ。ここは俺の畑、俺の縄張りで、ここにあるものは全部俺の物だ。
従わないなら、お前らまとめて殺すだけだ」
「ゆっ・・・ゆっ・・・・・・。にんげんさんは・・・・・・にんげんさんはまちがってるよ!!!」
逃げ帰るかと思ったが、意外にもまりさは俺を睨みつけてきた。
「どぼじでおやざいざんをひとりじめじようどずるの!?おいじいものはみんなでたべたほうが
おいじいにぎまっでるでじょおおおおおおおおおおおお!!!!????」
そしてだくだくと涙をこぼしながら、まりさは慟哭した。
少しだけ動揺した。しかしすぐにそれは怒りに取って代わった。
ある一面において、まりさの言っていることは正しい。
正しいが、人間以外の論理に基づいて行動しているゆっくりが、
人間に対して人間式の論理と正しさを説くことに、俺は自分でも意外なほど腹が立った。
所有権も畑の概念も何一つ持たないお前らが、なぜそんな目で人を責める?
なぜ自分たちを疑うことなく正義だと信じることができる?
お前らはどんな立場から善悪を語っている?
不愉快なんだよ、糞饅頭が。
そうして腹が立った俺は、こいつらを楽に殺してやることを、止めた。
「・・・・・・なぁ、お前ら」
目を細めて俺は饅頭どもに聞く。
「お前らは、『ゆっくり』できているのか?」
「あたりまえでしょ!?まりさたちはとってもゆっくりできるかぞくだよ!!」
「「「ゆっくりできてごめんね!!」」」
「そうかよ。じゃあ、俺はゆっくりできてるか?」
「「「「ぜんぜんゆっくりできないよ!!」」」」
まぁ、ここまでは予想通り。
「お前ら今、一人占めすることは良くないことだって言ったな?」
「そうだよ!だからにんげんさんはゆっくりしないでまりさたちにおやさいさんをたべさせてね!」
「嫌だね」
「「「「どぼじでぞんなごどいうの!?」」」」
「何故ってそりゃぁ、お前らも一人占めをする悪い奴らだからさ」
饅頭は理解できない顔をした。
「わけのわからないことをいわないでね!」
「れいむたちはいいゆっくりだよ!ひとりじめなんてしてないんだよ!!」
「いいや、やってるね」
諭すように言ってやる。
「お前らはゆっくりできているのに、俺はゆっくりできていない。
それが『ゆっくり』の一人占めじゃないって言うんなら、何だって言うんだ?」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
「どういうことなの?まりさ」
「ゆぅーん、まりさにもわからないよ・・・・・・」
ひそひそと話し始める饅頭たち。まぁしばらく待ってやろう。
「おにーさん!」
しばらくこちゃこちゃと身内で話し込んでいたが、話がまとまったようで、
親まりさの方が眉毛をきりっとさせて話しかけてきた。
「まりさたちはゆっくりしたゆっくりだよ!ゆっくりはゆっくりだからゆっくりできるんだよ!!
りかいできたらおやさいさんちょうだいね!!」
そういう結論になったらしい。
「あぁ、そうかい。じゃあ俺たちは人間で、人間は人間だから野菜を食べられるんだよ。理解できたか?」
「「「「ゆがーん!!」」」」
「お互いに一人占めしてるものがあることが分かったら、帰ったらどうだ?」
そう言ってはやるが、俺はこいつらを帰してやる気は無かった。
「「「「もういいよ!わけのわからないことをいうにんげんさんはあっちにいってね!ぷくーー!!」」」」
言葉に詰まったゆっくりたちは、一斉に頬を膨らませ始めた。
どうやらこれ以上自分の正当性を主張する気は無いようだ。
獣としてはそれでいいんだろうが、理性をもつ人間様としては、
自分より弱い奴は蹂躙しておしまい、では味気ない。
「じゃああれだな。交換しようか」
なので俺は、ゆっくりたちに野菜をやることにした。
「「「「ゆゆっ!?」」」」
「俺は野菜を持ってる。お前らはゆっくりとやらを持ってる。それを交換しようって言ってんだよ。
そうすればお互い一人占めにならないし、お互いが得できるだろ?」
「「「「ゆ!それでいいよ!にんげんさんはとってもかしこいね!!ゆっくりしていってね!!!」」」」
野菜が食えると分かったゆっくりたちは、目に星を浮かべてはしゃぎまわる。
楽しそうだなぁ。最後までその笑顔でいられるといいな?
饅頭にその場で待つように言い残すと、俺は畑に入って行った。
育ちすぎたものや小さすぎるもの、要するに商品にならない物を摘んでいく。
俺の育てているシュガースナップ・・・・・・スナップエンドウは鞘ごと食べられる上に、
その味は名前の通りに野菜とは思えないほど甘い。
中身が餡子なせいか甘党なゆっくりにはこたえられない御馳走のはずだ。
「ほらよ」
ゆっくりに元に帰った俺が掌の上にスナップエンドウを乗せて差し出してやると、
饅頭たちは目を輝かせて・・・・・・いや、目をギラつかせてそれに群がった。
「むーしゃ!むーしゃ!しあわせぇー!!!!」
「あめ!これめっちゃあっめ!?こんなのれいむむーしゃむーしゃことないよおおおぉぉぉ!!!」
「あまあま!さくさく!!うまうま!!!たべるのがとまらないんだじぇー!!!」
「おいちいよおおぉぉぉ!れいむしーしーでちゃうよおおおぉぉぉ!!」
まぁ確かに。確かにこんなに美味そうに、しーしーまで垂れ流して食ってもらえれば、
生産者冥利には尽きる。だがこいつらは消費者ではなく、人間ですらない。
害虫が作物を美味いと言って食おうが不味いと言って食おうが、人間はそれを駆除するだけだ。
「もっとちょうだいね!!!」
食べ終わった親まりさが、キラキラとした目で俺を見つめてきた。
「はやくしてね!!!」
親れいむはやっぱり舐めたことをぬかしてきた。
「「はやくもっちぇきてね!!いっぱいでいいよ!!!」」
餓鬼どもも調子に乗っている。
まぁ残念だが、今のがお前たちの最良の食事にして、最後の食事だ。
ここから先は俺が、お前たちの『ゆっくり』とやらを奪い尽くすだけ。
「まぁ待てよ。交換だって言っただろうが」
「「「「ゆっ?」」」」
「俺はお前らにちゃんと野菜を分けたんだから、今度はお前らが俺に分ける番だろう?」
俺は目を細め、笑いながら言う。
「ゆっ!そうだったね!!じゃあにんげんさんまりさたちといっしょにゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしたらもっとおやさいさんちょうだいね!!!」
「「ゆっくりしちぇいってね!!」」
「じゃあ、聞こうかまりさ。お前は何が一番ゆっくりしてるんだ?」
「ゆっ!まりさはね!!まりさのいちばんゆっくりしてるのは、このしゅんっそくっのあんよだよ!!」
親まりさは俺の周りを楽しそうに跳ねまわる。
「まりさのあんよさんはむれでいちばんなんだよ!まりさはこのしゅんっそくっで
むれでもみんなにゆっくりしてるね!っていわれてるんだよ!!」
「ゆぅー!まりさのあんよさんとってもゆっくりしてるよー!!」
「「おとーしゃんとってもかっこいいよ!!!」」
家族たちはキラキラと輝く目で親まりさの俊足ぶりを見つめる。
子供たちなどはちょろちょろとしーしーすら垂れ流しながら。
「あぁそうかい。まりさのゆっくりしている所は分かったよ。じゃあ次はれいむ、お前は?」
「ゆ?」
「お前が一番ゆっくりしているのはどこなんだ?」
俺は親れいむに水を向けた。
「ゆっ!!れいむのいちばんゆっくりしてるのは、おうただよ!!」
よくぞ聞いてくれた、とばかりに体を反りかえらせる。
「ゆっゆっ~♪れいむのおうたは~♪きけばみんながききほれる~♪とってもゆっくりしたおうたなんだよ~♪」
そして体をのーびのーびと伸ばすと目を閉じて、とんでもなくド下手くそな歌を歌いだした。
これは歌じゃない、雑音だ。その上こいつ、声量だけはそこそこありやがる。なんだこれ気持ちわりぃ。
「ゆっ!れいむのおうただよ!れいむのおうたはやっぱりゆっくりできるよぉー!!」
親まりさが足を止め、れいむの歌に合わせて体をくねらせはじめる。
「「ゆっ~♪ゆっくりゆっくり~♪」」
子ゆっくりどもも、にこにこと幸せそうに歌いだしやがった。
子ゆっくりの声は成体より若干甲高く、不安定な音程のカルテットは、俺の耳と心を容赦なく削る。
黒板に爪を立てながらアルミホイルを噛んでいる気分だ。目の前がちかちかする。
「分かった!もう分かった!!」
たまらず俺は叫んだ。
「お前らのゆっくりしている所はちゃんと分かった!!分かったから歌を歌うのを止めろ!!!」
「「「「ゆゆっ!?」」」」
ぴたりと歌を歌うのを止め、こちらを見上げてくるゆっくり一家。
「おにいさんれいむのおうたでゆっくりできた?」
楽しそうに聞いてくる親れいむ。
「まりさのはにーのおうたはかんっぺきっでしょ!?」
自慢げに言ってくるまりさ。
「あぁ・・・・・・歌についてのコメントは差し控えるが、お前らが何を自慢にしているのかは、ちゃんと分かったよ」
キンキンとする頭を落ち着かせるために煙草を取り出しながら、俺は言ってやった。
「「じゃあ、おやさいさんもっとちょうだいね!!!」」
饅頭たちは心底嬉しそうに要求してくるが、俺はもうこいつらに何一つくれてやるつもりは無い。
zippoの蓋を開け、煙草に火を点ける。火の付いた煙草を口にくわえ右手でzippoを弄びながら
俺はしゃがみこみ、親まりさの髪を帽子ごとひっつかんだ。
「おそらをとんでるみたい!!」
親まりさは暢気に笑う。
「ゆゆっ!まりさとってもゆっくりしてるよ!!」
「「まりさ(れいむ)もおしょらをとびたいよ!!」」
家族はそれを羨ましそうに見つめる。
俺は家族に親まりさの顔が良く見えるようまりさを持ち直し、まりさ自慢の
俊足のあんよとやらに火を当ててやった。
ぷしっ
言葉より先に、親まりさはしーしーを噴き出した。
「あっつぅぅぅっぅい!!!これめっちゃあつ!!!!??」
一拍遅れてまりさは出鱈目に体をくねらせはじめる。
家族はまりさのしーしーを浴びながら呆然としていたが、10秒以上フリーズした後やっと正気を取り戻した。
「やめてあげてねえぇぇぇ!!??あつがってるでしょおおぉ!!!??」
「おとうしゃんをはなしてあげてにぇぇぇ!?」
「まりさしーしーあびちゃったよおぉぉぉ!!おかーしゃんきれいきれいしてねえぇぇぇ!?」
一匹アレなやつがいるが、概ね予想どおりな反応だ。
「ゆひいいいぃぃぃぃ!!あじゅいいぃぃぃぃ!!!ばりざのあんよざん!!
しゅんっそくっのあんよざんがいたがっでるううぅぅぅ!!!!やべでね!!はなじでねええぇぇぇ!!」
家族が見やすいように俺は、まりさの顔がやや下を向くように持っている。
そのために、火はまりさのあんよの前側をまんべんなく舐めている。
「どぼじでごんなごどずるのおおおぉぉぉぉ!!!」
親れいむが泣きながら俺の足に縋りついてきた。何故かって、そんなことは決まっている。
「だから、交換だよ。不思議饅頭」
言う間にも火は止めない。zippoを持つ手をゆらゆらと揺らめかせると、それに操られるように
親まりさはふりふりとあんよを振りたくる。
「どういうごどなのおおおぉぉ!いいからゆっぐりじないでばりざをはなじでねえぇぇ!?」
涙を靴に擦られるのが嫌だったので、俺はれいむを軽く蹴飛ばす。
「お前ら、野菜を喰っただろう?だからその代わりに俺はお前らの『ゆっくり』とやらを頂く。
そう言う約束だっただろうが」
ひっくり返ってゆじゆじともがくれいむのあにゃるに向けて、俺は言ってやった。
「なぁ、まりさ。俺は何も嘘はついてないよな?」
髪が抜けるほど強く掴みながら、俺はまりさに問う。ついでにzippoを少し上下してやった。
まりさのあんよからは香ばしい香りが漂ってくる。少し苦味を帯びて甘い、炭水化物の焦げ付く香り。
「どぼじでぇ・・・・・・?ばりざだぢ、ぢゃんどにんげんざんをゆっぐりざぜだでじょおぉぉぉ・・・?」
動くのに疲れたか、はたまたあんよが焼け焦げて動かなくなってきたか。
まりさは短く呼気を漏らしながら、掠れた声で反論する。
「ゆっくりさせたってのはあれか、お前の跳ねる所を見せられたり、雑音を聞かされたりしたことか?」
「ぞうだよ!?ゆっぐりでぎだでじょ!!??あとでいぶのおうたはざつおんじゃだいよ!?」
だから早く放せ、とばかりに体を揺するまりさ。
れいむの歌についての事まで聞き逃さないとは、結構余裕あるじゃないか。
「駄目だな」
「「どぼじで!?」」
置き上がったれいむとまりさの声が綺麗にハモる。
「当たり前の話じゃないか」
火がまりさの髪に燃え移らないように注意しながら答える。
「お前らに野菜をやったら、その分俺の持っている野菜は無くなるだろう?」
火はまりさを舐め続ける。パチン、と一つ鳴ったのは、熱で皮が爆ぜた音か。
「だからお前らも、俺に『ゆっくり』をくれたら、その『ゆっくり』はもう、無くなってしまうんだよ」
その言葉と共に、俺はまりさを地面に放り出した。
ぺきゃり、ぱき。
まりさが地面とちゅっちゅすると、小枝を踏み折ったような軽い音がした。
落ちた拍子に前歯が何本かヘシ折れたんだろう。
「ああ゛あぁぁぁぁー!!!うあぁぁぁー!!!ひゅっふりでひなひぃーー!!!」
顔を突っ伏したまま泣きわめくまりさ。だが体は微動だにしない。
あんよの前半分が焼け焦げているせいで、体を起こすことすらままならないのだ。
「ひゅっふい・・・ひゅっくぴぃ・・・・・・」
ひ、ひ、と呼気を漏らしながら必死になって動こうとするが、尻(?)がふりふりと左右に揺れるだけで、
肝心の体は全く動かない。あんよの後の方を使って蹴り出すようにすれば辛うじて移動することはできるだろうが、
まりさの狩人としてのゆん生は今ここで、終わった。
これから起こることをしっかり見せてやるために、まりさの体を起こしてやる。
「毎度あり、まりさ。お前の一番の『ゆっくり』、確かに貰ったぜ」
その時に、惨めったらしく地面をはいずるまりさに俺は優しく言ってやった。
さて、次だ。まりさに群がってぺーろぺーろをしてやっている家族ども。
次はこいつらの『ゆっくり』を貰い受けようか。
「れいむ」
俺は涙を流して必死に親まりさをぺーろぺーろしているれいむに声をかける。
「ぺーろ!ぺーろ!!まりざのあんよざん!!!ゆっぐりうごいであげでね!!
ばりざがゆっぐりでぎないっでいっでるよ!!いじわるじないでうごいであげでね!!??」
聞いていない。軽く蹴飛ばしてやる。
「ゆぐぅっ!?」
まりさを横からぺーろぺーろしていたれいむは、まりさの前にごろごろと転がっていった。
さて、こいつの『ゆっくり』は歌だったな。全くジャ○アンよりひどい歌歌いやがって。どうしてくれようか?
れいむに向かって歩く。最終的に地面に突っ伏すようにして止まったれいむは、尻をふりふりと振って
置きあがろうとする。動作の一つ一つが大掛かりで、こうやって見ればコミカルと言えばコミカルだ。
ゆんっと頭を上げ、置きあがろうとした所でその頭を右足で踏んづけた。そのまま左足を前に出し、
れいむを踏んでまたぎ越す。
「うっぎゅうぅうぅぅぅ!!??」
置きあがろうとした頭を踏まれてれいむが呻くが、潰れてしまうことは無い。
俺の体重移動の技術の妙だ。
「なぁ、れいむ」
またぎ越した俺はくるりと振り向き、れいむの頭に改めて足を乗せる。
「お前も野菜を喰ったんだから、『ゆっくり』を払ってもらうぜ?」
我ながら苦笑するほど粘っこく甘い声で、れいむに囁いた。
自分の頬が三日月のように吊りあがっているのが分かる。
「~~っ!?」
びくり、と足の下で一瞬跳ねると、れいむが俺の足の下から逃れようともがき始めた。
ゆじゆじともがく感覚を楽しみながら家族の方を見ると、なんと子まりさが逃げ出そうとしていた。
「ゆっひ!ゆひぃぃぃ!!ここはゆっくりできないんだじぇ!!まりさはにげるんだじぇ!!
ゆゆっ!!??こんなところにおやさいしゃんがいっぱいあるんだじぇ!!じぇんぶまりさのものなんだじぇ!?」
前後の状況を完全に見失っているようだ。幼児退行を起こしかけているのか口調まで随分と幼くなっている。
しかし、「まだ」何をされたわけでもないのに家族を見捨てるとは、ずいぶんと薄情な話じゃないか?
「おいまりさ!!」
親れいむを強く踏みつけながら大きめの声で言った。
「お前が逃げたら、お前の母親を踏みつぶしちまうぞ!!」
これ見よがしに親れいむを踏みにじってやる。
「ゆゆっ!?」
名前を呼ばれた子まりさは一瞬振りかえったが、
「なにいっでるのおおぉぉぉ!!?ばりじゃはゆっぐりじだいんだじぇえぇぇぇ!!
ごんなゆっぎゅりでぎないどころにはいられないがら、ばりざおやざいざんむーじゃむーじゃずる!!
みんだはまりざのだべにゆっぐりじでいっでねぇ!!!!」
「ゆがーん!!」
ショックの声を上げるれいむを尻目に、子まりさは涙を流して畑の方に跳ねて行ってしまった。
クズだな、あいつ。
「やべてあげてにぇ!?おがーじゃんのあたまをふまないであげてにぇ!?」
「ひゃめてあへへね!!へいむのさらはらなはみさんよごさないであげふぇね!!?」
それに比べて、残りの家族の健気なこと。親も子も必死に俺に哀願してきている。
これぞ家族愛ってもんだ。感動的だな。
特に親まりさが良い。前歯が上下ともに4,5本ずつヘシ折れている上に動きといえば
尻をぺったんぺったん上下するだけ。正直あいつが真面目な顔をすればするほどそのギャップで笑える。
さて、最初から親れいむを踏みつぶすつもりは無い。俺はれいむの上から足をどけてやった。
「ゆゆっ!?あたまがかるくなったよ!!ゆんゆーん!ゆっくりしていってね!」
れいむは嬉しそうに伸びをすると、伸びたままくねくねと体を揺すった。
なんというか、決定的に危機感と言うかシリアスさと言うか、そういうものに欠けてるんだよなこいつ・・・・・・。
親まりさが焼かれてる時も「嫌がってるよ!」だったしなぁ・・・・・・。
ぼんやりとれいむを見つめていると、れいむが俺に背を向けて(首も背も無いが)平たく潰れ、
ずるずると這いずり始めた。
「れいむはにんげんさんからゆっくりしないでにげるよ!そろーり!そろーり!!」
いや、這うなよ・・・・・・。せめて跳ねろよ・・・・・・。
もしかしてそれ、隠れてるつもりなのか?馬鹿にしてるのか?それとも馬鹿なのか?
無言でれいむの髪を掴んだ。
「おそらをとんでるみたい!!」
同じことしか言えんのかこいつら。
目の高さまで持ち上げてくるりと回してやると、れいむと目があった。
「どぼじでぞろーりぞろーりじだのにづがまっでるのおぉぉぉぉ!??」
心底驚いたようにれいむが叫んだ。あぁ、馬鹿なんだこいつ。
「あー・・・・・・、お前の一番の『ゆっくり』は何だったっけ?」
あまりの脳内お花畑っぷりに少し毒気を抜かれてしまった。気分を盛り上げるために、
努めて意地悪そうな顔と声で聞いてやる。
「ゆっ!しらないよ!!れいむはなにもしらないよ!!おうたなんてしらないよ!?」
きょときょとと目を泳がせてとぼけるれいむ。あぁそうかよ。
「そうかい。おまえはゆっくりしてないのか。そうか、お前は『ゆっくりできないゆっくり』なんだな?」
「ゆゆっ!!??」
ゆっくりは総じて『ゆっくりしていること』を誇りにし、それを追い求めることが多いようだ。
その矜持を傷つけられれば、
「れいむはとってもゆっくりできるゆっくりだよ!?れいむのおうたはゆっくりしてるって
みんないってくれるんだよ!しつれいなこといわないでね!ぷんぷん!!」
まぁ、この通り。
「そうかそうか。お前はちゃんとゆっくりできるゆっくりだったんだな。疑ってすまんな」
「ゆっゆーん!わかったらいいんだよ!!かみのけさんがいたいからそろそろおろしてね!!」
「あぁいいぜ、だけどその前に」
右手をれいむの口に突っ込み、舌を掴んだ。
「野菜の代金を頂かないとな?」
にこりと笑顔で言ってやった。
「・・・・・・ぁえ?」
間抜け面のまま固まるれいむ。
二つ折りの携帯より少し小さい舌が、俺の手の中でぐにぐにと動く。不思議な感覚だ。
見る間にれいむの顔が引きつっていく。何だ、頭の中の花畑はもう枯れ果てたのか?
そんなに怯えた顔をするな。
ほら、笑えよ。笑って、「ゆっくりしていってね!」とでも言ってみな?言えない?そう。じゃあ良いよ。
「ぉえあぁぁぁぁ!!!!!ふふゃいあいあいあああああ!!!!!!!!!」
どうせやることは変わらないんだから。
引きぬいた舌からぼたりぼたりと餡子が滴る。
狂ったように叫び散らすれいむの口からも餡子が噴き出される。
そんな有様のれいむをくるりと反転させ、家族にもよく見えるようにしてやった。
親まりさと子れいむは、しーしーと涙でぐちゃぐちゃになりながら震えている。
ぞくりと体が震えた。何だろうこの感覚は。
楽しい。こいつらを痛めつけるのが、言いようも無く楽しいのだ。
もっとこいつらを痛めつけてやりたい。ボロボロにしてやりたい。
その衝動に突き動かされるように、俺はもう一度れいむの口の中に手を突っ込んだ。
「まだまだ元気に叫び声を上げられるようだなぁれいむ。舌を抜くだけじゃ足りなかったか?
じゃあ、お前がもう声が出せなくなるまで、お前の喉を滅茶苦茶に壊してやるよ」
そのまま手を進めて行こうとすると、れいむが慌てて口を閉じた。硬い、と言ってもせいぜい
スカスカの陶器程度の硬さの歯が、俺の手に食い込んでいく。
思わず笑ってしまった。痛くない。噛まれている手が全く痛くないのだ。
おそらくれいむは全力で俺の手を噛んでいるのだろうが、正直輪ゴムを手に巻いた程度の圧迫感しかない。
額関節の無いゆっくりの咬合力は、乳幼児のそれにも劣る弱さだ。
「ほら、しっかり噛んでないとお前、二度と声出せなくなっちゃうぜ?」
噛まれたまま手を押し込んでいくと、れいむの焦りが手に伝わってくる。
必死になって俺の手を噛みしめるが、そんなことでは俺の手は止まらない。
そのうち歯の方が負荷に耐えられなくなったようで、みしり、みしりと歯がきしんできた。
そしてある一点を超えた瞬間。
「っぽああぁああああぁぁぁいあぁあぃえあああふぁふぁたぁぁああ!!!!」
俺の手に食いこんでいた歯が、まとめて内側に90度、折れ曲がった。
自由になった手を奥まで突っ込んで、手を開く。閉じる。捻る。抉る。掘削する。突き刺す。そして引き抜く。
「~!~~~っ!っ!!・・・・・・・・・・」
れいむは無言で、ぐずぐずになった口内の「自分だったモノ」を吐きだす。
これでもう、声は出せないだろう。
やさしくれいむを地面に下してやる。まりさのように地面に放り出せば、折れた歯が口の中に突き刺さって
楽しいかもと思ったが、同じことをしてもつまらないからな。
「ゆわぁーん!!おがーざゃん!!ゆっぐりじでいっでねぇー!!!」
親まりさから数歩の距離の俺に、子れいむがようやくたどり着いてきた。
健気にも必死に親れいむにすりすりと頬を擦り合わせる。
前を見れば、親まりさもびったんびったんと尻を地面に叩きつけ、れいむの元に行こうと必死だ。
歯を食いしばり、「いー」の口になっているまりさ。
前歯が無いと言うだけで、本人がどんなに真面目でもギャグになってしまうのがすこし、面白い。
さてと、次に行こうか。
俺はかがみこむと、子れいむの真っ赤なりぼんをむしり取った。
「~ー~~!?」
必死に親れいむをぺーろぺーろしている子れいむはそれに気づかないが、
親れいむと親まりさはそれに気付いた。
目を剥いてリボンを取り返そうとするのを無視して俺は子まりさを探す。あぁ、いた。
俺から親まりさまで数歩、そこからまた数歩の距離にまりさはいた。
ずかずかと大股で歩いて行けば、10歩ぴったりでまりさに追いつくことができた。
帽子の先端をつまんで持ち上げる。
「おそらをとんでるみちゃい!」
もういいからそれ。
「よっ、まりさ」
目線を合わせて笑いかけてやる。
「ゆわあああぁぁぁぁぁぁ!!!なんでにんげんさんがいるのおおぉぉ!!!」
「お前、逃げたら親れいむは踏みつぶすって言ったのにノータイムで逃げたなぁ?」
「はなじでね!ゆっぐりじでいっでね!!ばりざおこるとごわいんだよ!?」
「うるせーよ。お前からもきっちり『ゆっくり』は頂いてやるから、まぁゆっくりしていけよ」
「ゆっぐりじでいっでね!おやざいざん!ばりざのゆっぐり!ゆっぐりじでいっでね!!!」
錯乱していやがる。まぁいいや。家族の元に帰ろう。
「おかーさん!?どぼじでれいむにぺーろぺーろさせてくれないの!?」
母の身を案じる子れいむは親れいむにぺーろぺーろしようとしているが、親れいむは俺から
子れいむのリボンを取り返すのに必死だ。子れいむを無視して一直線に俺に
向かってきているせいで子れいむは完全に置いて行かれている。
「~~っ!!-----っ!!!!」
親れいむは必死の形相で俺を追いかけてくる。何故ここまで必死になるかって?
それは端的にいえば、ゆっくりにとって飾りは、命の次に大事なものだからだ。
と、断定口調で言ったが、俺の知識も人からの受け売りだ。まぁ正しいようなのでいいだろう。
ゆっくりにとって飾り・・・・・・まりさ種にとって黒帽子、れいむ種にとってリボンは、
アイデンティティそのものだ。
無くせば他者からは個体認識すらできなくなり、十把一絡げに「ゆっくりできないゆっくり」として排斥される。
今の母れいむのように目の前で取ってやれば、ぎりぎりで個体と飾りの関連付けはできるようだが、
例えば今俺が「ゆっくりしていってね!」とでも言って母れいむの認識をリセットしてしまえば、
母れいむはいともたやすく子供を攻撃するだろう。まるで虫だ。
しかも、その「ゆっくりできないゆっくり」への排斥の度合いと言ったら無い。
俺はこちらに跳ねてくる親れいむがこちらにたどり着くのを待ってから親れいむを置き去りにし、
子れいむのもとへと足を進めた。
子れいむは大分疲れているようだ。
最初俺がいた位置と今の俺の中間地点・・・・・・親まりさにもたどり着かないまま、ひぃひぃ言っている。
俺は子れいむの前に行くと、子まりさをそっと子れいむの前に下ろしてやった。
「ゆゆっ!?ゆっくりできないゆっくりがいるんだじぇ!?」
たちどころに子まりさは、子れいむに反応した。たとえ肉親であったとしても、飾りが無ければそれと
認識できない。人間から見ればそれはとても不思議で、不気味な光景だ。
「ゆっくりできないゆっくりは、ゆっくりしぬんだぜ!!」
子ゆっくりが子れいむに体当たりを仕掛けはじめた。
「やべでね!?れいむはれいむだよ!?」
「なにいってるんだじぇ!まりさのいもーとはもっとかわいいんだぜ!!
おまえみたいなゆっくりできないゆっくりじゃないんだぜ!!」
自分がリボンを無くしているということをしらない子れいむは困惑しながらも応戦する。
だが、無駄だろうな。
まりさ種はれいむ種より身体能力が高いことが多い。
その上、一方が相手を殺す気で攻めているのに対し、他方は相手に怪我をさせないように気遣っている。
子れいむが子まりさに勝てる道理は無い。
「~っ!でぃ~~ぃちゃ~~~!!!ぁぇ~~~!!!!!」
声を掠れさせながら子れいむたちの元に急行する親れいむ。親まりさも枯れ果てた涙を振り絞って
こちらに向かおうと必死だ。俺は親たちが子供同士の殺し合いを見やすいように、少しどいてやった。
「やべっ、やべでで!でいぶだよ!!でいぢゅうううぅぅうぅ!!!!」
「しんでね!ゆっくりできないゆっくりはゆっくりしんでね!!!!」
おっと、子れいむに子まりさ渾身ののしかかりが決まった。非力なゆっくりは、
普通の手段・・・・・・噛みつきや体当たりでは相手に決定的な傷を与えることはできない。
だが、重力の力を借りれば話は別だ。
「ぢゅぶれりゅうぅぅぅ!!!でいびゅちゅぶれぢゃうおおっょおおぉぉ!!」
「げらげらげらげら!!!しんでね!ゆっくりしんでいってね!!!!」
笑いながら子まりさは子れいむを踏みつけ続ける。その鬼気迫る様子はとても滑稽で、少し恐ろしい。
言葉こそ操るが、こいつらが本質的には虫や魚と同じだということが良く分かるからだ。
「ゅぼっ!もっちゅぶっ!ぇっぇっぇっぉぇっぴゅっ」
子れいむが餡子を吐き出し始めた。もう、長くはもたないだろう。
親れいむが間に合うかは・・・・・・微妙な所か。
「ひゅぅっ!ぁぴゃぁ!ぴぁ!ぅぶぇぇぇぇ!!」
「しんだんだぜ!?ゆっくりできないゆっくりがしんだんだぜ!?」
のしかかりに耐えかね、ひときわ多量の餡子を吐き出した子れいむを子まりさが見下ろす。
その行為によって子れいむにかかる体重が偏る。さらに餡子が絞り出される。
「やめっ~~!~~!!ぃぶ~~ちゃ~~っぁぁ!!!」
掠れた声を上げながら、親れいむが子供の元にたどりついた。でもあぁ、少しだけ遅かったかな。
「・・・・・・もっと・・・・・・ゅっぐり・・・・・・じだ・・・・・・がっだ・・・・・・」
あっさりと、子れいむが事切れた。
「「ぁふぁーー~~ーーっ~ー!!!???」」
それを見た親たちが絶叫した。大事な大事なおちびちゃん。おちびちゃんが死んでしまった。
しかも、大事なおちびちゃんを殺したのはこれまた大事なおちびちゃん。
訳が分からないだろう。泣くしかないんだろう。表情からその心中が伝わってくる。
「ゆっ!?おとーさん!おかーさん!!まりさゆっくりできないゆっくりをやっつけたよ!!」
その上、当の子まりさは一片の邪気もなく誇らしげに笑うのだ。
さぁ、種明かしをしてやろう。俺はむしり取ったリボンを、子れいむの残骸に落としてやった。
それは狙いたがわず命中し、「ゆっくりできないゆっくり」は、「妹の子れいむ」に戻る。
「・・・・・・ゆ?」
子まりさは一瞬きょとんとした顔で子れいむのリボンを見たが、顔をこわばらせると
そろそろと視点を下に下げて行った。そこには、潰れた妹の姿がある。
「ゆ、ゆわああぁぁぁぁぁ!?ば、ばりざはわるぐないんだぜ!?
ゆっくりごろしじゃないんだぜ!?ゆっくりできないゆっくりをせいっさいっしただけなんだぜ!
ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!!!」
狂ったように叫びながら妹の死体から飛び退く子まりさ。だがその叫びの中に妹れいむへの
謝罪は一言も含まれていない。自らの保身のことしか考えていないのは明らかだった。
「おぢぃゃん・・・・・・どふぉぃて もうとをぉろふぃあの?」
光を無くした目で親れいむは子まりさに問うた。魂を削るような声だった。
だが、それに対する子まりさの答えは無情にして無慈悲。最低だった。
「ゆゆっ!?おかーしゃんのこえもがーらがーらでゆっくりできないんだじぇ!!
ゆっくりできないゆっくりなんてこわくないんだぜ!!!!」
あぁこいつ、れいむに殺されるな。
でも、こいつは俺が直接やってやらないと、気が済まないな。
「さてと。次はお前の番だよまりさ」
そう思った俺は、親れいむにやられる前に子まりさをつまみ上げた。
「おそらをとんでるみたい!」
黙れ欠陥品。俺は煙草の炎を近づけてやりながら聞いた。
「髪を全部引き抜いてハゲ饅頭にしてやろうか、それともその目玉を二つとも抉り出してやろうか?
親と同じように足を焼かれるのがいいか?喉を潰すか?体が嫌なら帽子を差し出すか?選ばせてやるよまりさ」
ちりちりと迫る炎から逃れようとまりさは身もだえしている。
「やべでね!!ばりざはゆっくりずるんだよ!!ばりざこわいんだよ!はなざないとおこるんだじぇ!!」
「怒るなり反撃するなりしてみろよ。腐れ餡子玉。お前は俺に勝てないんだよ。
さぁ、何を滅茶苦茶にしてほしい?選べないなら俺が選んでやろうか?」
涙を流す目玉に煙草の火を押しあててやろうと決めた瞬間、まりさが叫んだ。
「ば・・・・・・っばりざは・・・・・・っ!!ばりざのいぢばんだいじなのは、がぞくなんだぜ!!!」
一瞬意味が分からなかった。そして、意味が分かった瞬間爆笑してしまった。
こいつ、家族を俺に売り渡しやがった!!!
「くっくっく・・・・・・お前、家族が大事と来たか。じゃあ、お前の家族を貰おう。
でも分かってるよな?俺はお前らの『ゆっくり』を使えないようにしてるんだ。
お前が俺に家族を売ったら、俺はお前の家族を殺すぜ?それでもいいんだな?」
「ずぎにじでね!!ばりざがゆっぐりするだめだがらしょうがないんだぜ!!!
おどーざんとおがーざんはここでゆっぐりじんでね!!!」
家族が一番大事。言葉だけ聞けば心温まる台詞だが、実際は全くの逆。
こんなひどい使われ方をするのを聞くのは初めてだよ、実際。
あぁまりさ、お前のクズさは大いに分かった。だがお前の意志は尊重させてもらおう。
「あぁ、家族ならまりさかれいむどっちか片方でいいや。選べよ」
煙草をまりさから引き、俺は条件を詰め始める。
「じゃあゆっくりできないがーらがーらごえのおかーさんを・・・・・・」
即座に選ぼうとするのを制止してやる。
「まぁ待て。声がゆっくりできなんて些細な問題じゃねーか。ほら、まりさの方を見ろよ」
顔を地べたの親まりさに向けてやる。
「ほら見ろ。あいつもう自力で動けないんだぜ?ゆっくりできないだろ?れいむの方はただ
声が出ないってだけだ。どっちがマシかって言われたら、れいむの方がだいぶマシじゃないか?」
「ゆぅ~ん・・・・・・そうだね!!」
ぺかっと晴れやかに笑う子まりさ。
「じゃあおとーさんをにんげんさんにあげることにするよ!ゆっゆーん!まりさはきれものっだね!!」
なりゆきについて行けずにぽかんとする親たち。俺は子まりさを降ろしてやると
親まりさの方に近づいて行った。
すい、と親まりさを持ち上げ、そして優しく話しかけてやる。
「なぁ、まりさ。お前自分のガキに売られちゃったな」
「ふぁ・・・・・・ふぁめてぇ?はりはにひろいことひあいでえ?」
呆然としながらも、顔を歪めて嘆願してくる親まりさ。良い顔してるよ、おまえ。
俺は笑いながら拳を構える。
「俺もこうなるとは思ってなかったが、恨むなら自分のガキを恨めよ?」
振り下ろした。
「ひったああああぁぁぁぁあっぁぁああいぃっふぃひいぃぃ!!!」
たった一発で、皮が破れた。
重い音はしない、乾いた音もしない。ゆっくりには骨が無いから。
破裂音もしない。ゆっくりには張り詰めた皮も、筋も無いから。
だから、ゆっくりは殴るととても間の抜けた音がする。
ぼすん
「ひっぴぃいあいぁぁああいいいいぃぃ!!」
ぐしゅ
「やべふぇくだっぷぇあぇぇえええぇぇぁあぁぁぁ!!」
っちゃぁ
「ふぁいさのあんこふぁんがああああああぁぁぁっゎゎあぁっぁ!!」
くじゅん
「めあああぁあぁぁみえあいよぉおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
粘っこい音が混じり始めるのは、皮を通り越して中身の餡子を殴っているからだ。
「ぇて~~てだぁい!!ぃうの~~んなんでぅ!!!」
ガラガラ声のれいむが俺に縋る。だが、さっきのように蹴り放そうとは思わない。
涙を擦り付けられるのも、もうどうでもよくなっていた。
殴る、殴る、殴る。もう一つおまけに殴った所で、まりさが痙攣し始めた。死の痙攣だろう。
「ゆ゛っ・・・・・・っゆ゛っ・・・・・・っゆ゛っ・・・・・・っ!」
およそ原型をとどめなくなったまりさを、子まりさにつきつけてやる。
「なぁ、まりさよ。こいつ、お前の代わりに死んじゃうんだぜ。最後に何か言ってやりな」
「ゆっ?!」
急に振られた子まりさは一瞬考え込むと、
「ゆっくりしていってね!!」
とだけ言った。満面の笑顔だった。
殴りすぎて片目が飛び出したまりさの残された目から、命の光が涙となって零れおちた。
死んでしまった親まりさから手を放す。
元ゆっくりだったモノは、何一つ動かずに重力に身を任せた。
「ぁりざーーぁぁー~!!どほぃてぉんだおおぉぃいぃぃ~~!!!!」
まりさの亡骸にれいむが身も世もなく縋りつく。
「ゆゆ~ん!これでまりさはあんっぜんっだよ!!ゆっくりしていってね!!」
親れいむとは対照的に、まりさは晴れやかな様子だ。その顔に、実の親を売り渡した
悔恨の念など微塵も見受けられない。
まりさは上機嫌に跳ねまわっていたが、ふと動きを止めると、つと俺を見上げてきた。
何を言うのかと思ったら、
「にんげんさん!でもやっぱりおかーさんのがーらがーらごえもゆっくりできないよ!!
おかーさんもあげるから、もっとおやさいさんちょうだいね!!まりさはほんとにてんっさいっだね!!」
とんでもねぇことを言いだしやがった。流石の俺も、これを笑うことは出来なかった。
馬鹿はきゃいきゃいと嬉しそうに「おやさいさん」とやらを要求してくる。
だが始めにも言ったが、俺はもうこいつらに何も与えてやるつもりは無い。加えて、
俺はもう子まりさに何をするつもりも無かった。だってこいつからはもう、野菜の対価は頂いたから。
だが、これで済むと思うなよまりさ。
再びzippoを取り出すと、新しい煙草を咥え、火を付けた。
「・・・・・・おまえさぁ」
冷たい目で子まりさを見る。
「何でそこまで野菜にこだわる?家族と引き換えにたった一回美味いもん食って、お前はそれでいいの?」
単純に好奇心から聞いた。
「おやさいさんはとってもおいしくてしあわせー!でゆっくりしてるよ!!
おとーさんもまりさがゆっくりしてうれしいはずだよ!!」
即座に単純明快な答えが返ってきた。あぁ、俺には一生、こいつの思考は理解できないんだろうな。
「だからさっさとおやさいさんちょうだいね!!おかーさんとこうかんしてあげるからね!!」
まりさの言葉を無視し、目を閉じて煙草の煙を吸いこむ。
顔の下半分が手で隠れ、俺の表情がゆっくりには分からなくなる。
「・・・・・・だってよ、れいむ」
目を閉じたまま俺は、子まりさの真後ろにまで来ていた親れいむに声をかけてやった。
子まりさが振り返るより早く、親れいむののしかかりが決まった。
「ゆげぇ!ちゅぶれりゅういぃぃいうううぅぅう!!」
「ぃね!!がぉぐを るぇすゆっぐりはぅっぐりじねええぇぇぇぇへぇ!げへぇ!!ふぅ!!」
子まりさの体の上で何度も飛び跳ねる親れいむ。その動きには一切の躊躇も遠慮もない。
「どぼじで!たべでね!!ばりざはゆっぐびゅぅ!じだがっだ!ぴぃ、だげ!!ひぃ!!!」
親に殺されかけながらも、子まりさはまだ妄言を吐き続けている。その姿は俺には、一切の誇張無しに
こいつの頭の中では自分が悪いという考えが「存在しない」かのように映る。
理解できない。
「いだぃ!!やべちぇにぇ!!がわさんがやびゅ!えぴゅぃ!ひきいいぃぃいぃ!!」
子まりさの口調がまた、甘ったれて舌ったらずなそれに戻っている。あぁ、無性に腹が立つ。
「ぃんげんじゃん!?えろぉ!!はやぎゅぅ!!このばきゃおやっぷしゅぅ!!あげりゅかりゃ!!どげで!!」
皮が破れ餡子を漏らしながら、子まりさが絶叫する。あぁ、取引ねぇ。
「断るよ、まりさ。俺はお前を、助けない」
「どぼじゅぺっぽえあええええぇえっぇぇぇっぇぇぇぇえええ!!!!」
叫ぶ様に口を開いたのが悪かったか、子まりさが大量の餡子を吐き出した。あぁ、致命傷だな。
「ゆ゛っ・・・・・・ゆ゛っ・・・・・・どぼじぢぇ・・・・・・ばりざ・・・ゆっぐぃ・・・じだがっただげなのに・・・・・・」
目から光が消えかけている子まりさは、ぶつぶつと呪い言を吐き続けている。
あぁ、嫌だ言いたく無い。だって、こいつらを破滅させたのは俺だ。
俺がこいつに言える言葉なんてどこにある?
「親れいむを見捨てて、妹を殺して、親まりさを売り飛ばして、さらに親れいむをもう一回売る?」
しかし結局、言わずにはいられなかった。
聞かせるというよりは、一人言のように言葉を吐き出す。
「お前本当に、それで上手く行くと思ったのか?幸せになれると思ったのか?
なぁ、まりさ。お前、クズだよ。脳の中身から心の中身まで、何もかもが足りなさすぎる。
どうしようもなくお前は最低だ。見ていてイラつく。自業自得って言葉を噛みしめて、死ね」
俺の言葉を聞いたのかそうでないのか。子まりさはビクンと大きく痙攣すると、
「っと・・・・・・・・っくり・・・・・・・・・・・・った・・・・・・」
末期の言葉を吐き出し、事切れた。
そして静寂が訪れた。
俺とれいむはお互いを無視するように黙りこんでいる。
煙草が一本灰になる時間が過ぎたところで、れいむが話しかけてきた。
「ぃんげんぁん」
「ん?」
「んなずっとゆっくりじあったよ」
「そうだな」
「ぇいぶはぃんげんぁんをゆるぜぁいよ」
「そうかい。でも俺は、お前らと取引をしただけだぜ」
「だあってね」
れいむの目にはもう、ここに来た時に浮かんでいたような明るい色は無い。
代わりにそこに浮かぶのは、冥く淀んで濁り、そして力に満ち溢れた光。イキモノの色。
俺たち人間と同じ色だ。
なんだ、そんな目もできるんじゃねぇか。
「おぁえがいながっふぁらぁりふぁもおふぃいちゃんもみんなぃんな!じなぁかったんら!!!
ゆっぅいでいないにんふぇんは!!ゆっぐりじね!!!!!!」
鬼気迫る表情を浮かべ、れいむが俺に噛みつきを仕掛けてくる。
俺はその目に敬意を払い、全力でれいむを蹴り飛ばした。
ぱぁん
質量同士が高速でぶつかり合う音が、高らかに鳴った。
骨と筋と肉は、その衝撃に軽々と耐えた。
饅頭皮と餡子と飴細工は、その衝撃に耐えられなかった。
そして最後に残ったのは俺一人。俺は紫煙をくゆらせながら考える。
これまで俺はゆっくりをただの害獣だと認識して、喋りかけたりはしなかった。
潰して、壊して、問答無用で殺してきた。結局それは正しかったんだろうな。
多分、直感的に分かっていたんだろう。言葉を交わしてしまえば、
ゆっくりに対して特別な感情が湧いてしまうということを。
人間の言葉を喋る人間以外の生き物。
ある部分においては驚くほど人間と近く、他方においては驚くほど動物的。
自分がそんなゆっくりに対してこれまでと同じように接することができるとは、全く思えなかった。
これ以上声を聞くことを恐れ、見かけ次第殺すようになるかもしれない。
サディズムを発揮する対象として、わざわざ捕獲してでもゆっくりをいたぶるようになるかもしれない。
もしかしたら、同情の果てに出来る限りのゆっくりを保護しようと思うようになるのかもしれない。
どうなるにせよ、俺はもうゆっくりに対して無関心でいることは出来ないだろう。
気が付くと、紫色の夜に赤が混じり始めていた。
明けの明星が空に融け、太陽の光が空を刺し始める。
あぁ、気がつかない間に結構な時間がたっていたようだ。
甘い甘い殺戮の跡地の真ん中で、俺は煙草を踏みにじって消した。
ゆっくりが命を賭して求めたスナップエンドウが、光を浴びて輝いていた。
END
あとがき
単純な、ただただ単純な虐待SSを書きたくて書きました。
気を抜くとつい挟んでしまう設定話もざっくりと削除して、ひたすら虐待に専念してみました。
いかがでしたでしょうか?
投稿頻度の少ない駄目SS書きではありますが、これからもよろしくお願いいたします。
それではここまで読んでくださったあなたに感謝をささげつつ、今日はさようなら。
by ゆンテリアあき