ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko0206 ゲスとかレイパーとかでいぶとか、みんな死ねばイイのに
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ankoss
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漫画にしようとしたけどシリーズ (どんなだ…)
ゲスを制裁するだけ
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ゲスとか
レイパーとか
でいぶとか
みんな死ねばイイのに
「ゆっへっへ! ここは なかなかの おうちなんだぜ! だから まりささまの ゆっくりぷれいすに してやるんだぜ!
もんくが あったら まりささまが えださんを おめめに つきさしてあげるんだぜ! まりささまに さからうんじゃないんだぜ?
そこの れいむは なかなかの びゆっくりなんだぜ! まりささまのために きれいになるなんて かわいげのあるやつなのぜ! 」
「んっほおおおおおおおおおおお!!!! いやいやいっても ここはしょうじきなのねえええ!!!! かわいいわあああ!!!
あなたったら ほんとうに つんでれなのねええええ!!!! ありすが いっぱい あいして あげるからねえええ!!!!
でも ごめんねえええ!!! ありすは みんなに あいされるうんめいなのおおおお!!!! いちやかぎりの あいなのよおおお!!!」
「なにいってるの? ばかなの? しぬの? れいむはしんぐるまざーなんだよ! かわいそうなんだよ!
やさしくしないといけないんだよ! ゆっくりしないで りかいしてね! ばかな かおして なにしてるの?
はやく れいむと かわいい おちびちゃんに あまあまを もってきてね! たくさんでいいよ!
れいむの かわいい おちびちゃん~ おかあさんが おうたをうたってあげるからね~ ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~ゆ~♪ゆ~♪ゆゆゆ~♪」
【1】
人里離れた山の奥深く。
ここにもゆっくり達がゆっくりと暮らしていた。
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!」
黒い帽子が山道を登っていく。
森が豊かに実り始めて次第に赤く染まってきたある日。
若いまりさは群れを離れて狩りに出かけていた。
「これは たべられる きのみさんだね! おぼうしさんが おもたいけど みんなと いっぱい むーしゃむーしゃ するから がんばるよ!」
良い匂いのするキノコ、丸いどんぐり、甘そうな虫、そして山菜と
張り詰めんばかりに膨れ上がった三角帽子のせいで
あっちへヨロロヨ、そっちへフラフラと跳ねていった。
「ゆ? きれいな おはなさんだよ!」
行きには気付かなかったけれども
小山の陰には赤く鮮やかな花が一輪だけ咲いていた。
森の紅葉にも勝るとも劣らない真っ赤な野花だ。
花も主食にするゆっくりだからこそ、いろんな植物を目にしているが
こんな綺麗な花は見た事がなかった。
小山をくるくると回ってみたが、やはり一輪しかない。
「すっごいあかいよ! れいむの おりぼんさんみたいだよ!」
まりさは花の周りを跳ね回っては
いろんな方向から眺めて目を輝かせている。
「おはなさん ゆっくりしてるのに ごめんなさい! まりさは れいむに ゆっくりしてほしいから おねがいだよ!」
たった一輪しかない綺麗な花に額を地面にこすり付けて謝ると
まりさは頭の帽子を落とさないように器用に花を摘んで帽子の中にしまった。
「おはなさん まりさのおぼうしさんの なかで ゆっくりしててね!」
まりさには幼馴染のれいむがいた。
れいむは群れで まりさの帰りを待っている。
群れで暮らすゆっくりならば集団で助け合いながら狩りをするものだ。
しかしまりさは怪我や迷子も恐れずに一匹で この狩場に来ていた。
元々一匹だけで来る場所ではあるのだが
皆のご飯を集める思いの傍らには
れいむだけのご飯を食べさせたい。
れいむだけの宝物を見つけてあげたい。
そういう心を持っていた。
まりさはどうして自分がそんな事を思ってしまうのか
全然わからないほど若かった。
けれど、れいむのためにゆっくりしないで頑張っていると
何故かどんなに疲れていても体の中からポカポカしてきて、とてもゆっくり出来るのだった。
「ゆっくりしないで かえるよ! まりさの ぴょんぴょんに びっくりしないでね ごはんさん!」
まりさは頭の三角帽子のバランスを確かめると急いで山を下ろうとした。
すると茂みが揺れたかと思うと山道を横切って、長~いナニカが視界に入って来た。
「ゆ~ん?」
せっせとご飯を持ち帰るまりさの前に現れたのは、遠い国から渡ってきた旅のゆっくり達だった。
「いっち にぃ~ さ~ん… ゆ~んと ゆ~んと… いっぱい いるよ!」
10匹、20匹、いいや100匹もの連なる隊列を組んでいるのは
れいむでもありすでもぱちゅりーでもなかった。
「すっごい しろいし!! すっごい みどりだよ!! まりさは はじめてみたよ! びっくりだよ!」
今まで見たこともない不思議な姿のゆっくり達は、まりさの好奇心を大いに刺激した。
一体どんな子達なのだろう。お友達になれるかな?
しかしまりさが真剣に悩む必要はなかった。
何故ならば、すぐに仲良くなれる方法があるからだ。
「ゆっくりしていってね!」
まりさが交わした挨拶に旅団は止まってくれた。
しかし、いつまで待っても返事を返してくれる様子はない。
声が届かなかったのだろうか?
それともびっくりさせてしまったのだろうか?
ちょっと済まなそうに思ったまりさだったが
相手の返事が待ちきれずに話しかけ始めた。
「………えっと、どこからきたの? ここは まりさと れいむと みんながいる もりだよ! ゆっくりしていってね!」
普通ならば同じように「ゆっくりしていってね!」と返事を返す礼儀があるのだが
やはり何も答えることもない旅団を見て まりさは首をかしげている。
「ゆ?」
白くて緑色な彼女達は まりさを一瞥すると、いくつかの集団を設けて相談をし始めた。
「まりさと ゆっくりしようね! いまは もりさんが とっても ゆっくりしているよ!」
上品で気が利くありすほどの"おもてなし"が出来るまりさではなかったが
自分が知っている限りのゆっくりで、新しい友達を作ろうと頑張った。
しかし密談を交わしあっている相手の顔は どんどん険しいものとなっていく。
「どうしたの? なにかあったの? まりさが できることだったら てつだうよ?」
集団の神妙な顔つきに山のまりさは心配すると、急いで彼女達の輪へと近寄った。
遠くからだと白や緑の帯に見えていた彼女達は
この山では見かけることがない、"ゆっくりみょん"と"ゆっくりちぇん"で構成された大きな群れだった。
まりさが今まで一度も見たこともない
白い色と綺麗なツヤを持った髪や
緑の帽子と可愛い耳や尻尾の姿に見惚れていると
相談し合っていた一つの輪から一匹のゆっくりみょんが語り掛けて来た。
『まりさは、まりさみょん?』
「まりさは、まりさだよ! よろしくね!」
挨拶も返さずに突然質問を浴びせられ驚いたまりさだったが
きっと長旅でゆっくり出来てなかったんだろう。
だったらまりさがゆっくりさせてあげようと思った。
みょんの綺麗な瞳に見つめられ澄んだ声色を聞いていると、なんだかふわふわした気分になったが
怒ったれいむの顔を何故か思い出したので、まりさは体をゆんゆんと振ってみょんの話しを聞き始めた。
『まりさは どうしてこんな山の中に独りでいるみょん?』
「まりさは かりをしているんだよ! みんなは どこへいくの? まりさが あんないしてあげるよ!」
知らない所はゆっくり出来ない。
どこでご飯を探せば良いのか。どこでお昼寝したら良いのか。
まりさは皆のために山を跳ね回り、群れの外に関しては一番の物知りさんだった。
『みょんたちは 新しい食料を探して旅をしているんだみょん』
「そうなんだ! ここは まりさのおきにいりの ばしょなんだけど いっしょに ごはんを あつめようね!
あっちに どんぐりがあるよ! あそこのおやまには きれいな おはなさんがあったんだよ! あとね! あとね!」
まりさには名乗ってはくれなかったが
白髪で黒い飾りをつけているのは"みょん"というらしい。
かっこいい外見とは裏腹に ちょっとヘンテコで可愛いしゃべり方だとまりさは微笑んだ。
一匹のみょんとお話出来たことによって、100匹のお友達が出来た気分にまりさは感じていた。
お友達はゆっくり出来る。
おしゃべりしたり、遊んだり、一緒にご飯を食べたり。
一匹の友達でもゆっくり出来るのに100匹のお友達が増えるのはとてもゆっくり出来るという事だ。
『そうだみょん ここは木の実が沢山あってゆっくり出来るプレイスだみょん』
「そうだよ! おいしい くりさんや あけびさんが あるんだよ! みんなで ゆっくりしようね!」
『…でも、みょん達は沢山いるんだみょん』
「ゆーん…そうだね こんなに たくさんだと みんなで むーしゃ むーしゃ できないね…」
一匹一個だとしても相当探さなくてはならないし
一個だけむーしゃむーしゃしても、しあわせ~にはなれない。
まりさはどうにか新しいお友達とゆっくり出来る方法はないか、ぐるぐると頭を悩ませた。
誰かがゆっくり出来ずに悲しい顔をしていると
まるで自分もゆっくり出来ない気がしてくる。
同じ森で暮らす皆だから、誰もがゆっくり出来るはずなんだ。
皆が誰かのゆっくりのために、ほんの少しゆっくりしないで頑張るだけで
皆がゆっくり出来るようになる。
幸せになれる。
それは、まりさが経験して理解して山を駆けて餌を探す今の暮らしの信条なのだ。
「ゆーんっ ゆーんっ ゆーんっ ゆーんっ」
体を捻ったり、くるくる回ったり、帽子を一旦おろして逆さまにひっくり返ったり
知恵熱で今にでも蒸気を出しそうに真っ赤になっているまりさ。
『だったら…少ないご飯は、食べても良いゆっくりだけが 食べればいいみょん』
「そうだね! そうしようね!……………………………………………………………ゆ? どういうこと?」
何も妙案が浮かばないまりさは、みょんの一声を聞くやいなや反射的に賛成してしまったが
一体全体 何がどういう話なのかわからなかった。
「ごはんは みんなで たべるものだよ? みんなで たべると ゆっくりできるよ!」
『だって 皆でご飯を食べたら全然足りないみょん 無理だみょん』
「ゆぅ… このちかくで ごはんさんのあるところは ここしか まりさは しらないの… ごめんね…」
ここからだいぶ離れたまりさの集落は、食べ物が安定して手に入れられる辺りに作られている。
しかし群れの近くは子供達の狩りの練習や、怪我をしていて跳ねれないゆっくり達
年老いてノロノロとゆっくりした家族達の狩場になっていた。
だから若いまりさは皆の知らない山道を一生懸命登り進み
美味しいご飯の落ちてるゆっくりプレイスを探すのが仕事だった。
それで見つけたのが山の上にあるこの狩場だ。
運動に長けているまりさ以外のれいむやぱちぇ達でも
楽に通ってこられる道筋などが上手く見つからないため
場所だけは教えているが、今のところ若いまりさだけが通ってきている。
もちろん独りで狩りをするのは危険な事ではあるが
そのお陰で皆の知らない綺麗な花を
群れで待っているれいむにプレゼントできる機会が出来たのだ。
今日はお友達がたくさんできた事をれいむに話してあげよう。
そんな考えが顔に出てしまいニコニコしていたまりさだったが。
『ちぇんは わかるよー 嘘なんだねー』
「ゆ!? まりさは うそなんて ついてないよ???」
みょんの横から緑色の帽子を被り、動物みたいな耳付きゆっくりが顔を出してきた。
『まりさは 嘘をついているんだねー ちぇん達が 沢山いるから お気に入りの場所を盗られないように 嘘をついているんだねー』
「ゆゆ!? ごかいしないでね! みんなで ゆっくりする ぷれいすだよ! かくしてる ばしょなんてないよ!」
耳付きゆっくりのちぇんが、どうしてこんな酷い事を言ってくるのか全く分からなかった。
喧嘩はゆっくり出来ない。
まりさに悪いところがあるのなら、すぐにでも謝りたかったが
ちぇんの考えている事が全然理解できなかったのだ。
『駄目だよー 独り占めは良くないんだよー ゆっくり出来ないよー』
「ひとりじめなんかしてないよ!!!たしかに ここは まりさの とっておきだけど
ちゃんと みんなで こようと おもってるよ!!! ぷんぷん!」
どうやら白と緑のゆっくり達は
先住しているまりさが もっと沢山の狩場を知っているのに黙っていると思っているらしい。
しかしまりさはそんなつもりどころか、そんな考えすらもなかったのに。
この場所は群れの皆へ既に教えているし、まりさが皆が来やすい道を見つけたら
ぴょんびょん跳ねるのが不得意なれいむと一緒に もちろん他の友達も誘って来ようと思っていた。
まりさがココを見つけたのを自慢する気はないし、一匹よりも皆でご飯を食べたり狩りをする方が楽しいからだ。
『…わかってるみょん 下手な演技だみょん』
「ゆゆゆ!? なにをいってるのか わかんないよ! まりさが おばかで ごめんね! ゆっくり せつめいしてね!」
あれだけ美ゆっくりだと思っていたみょんの目は
困惑しているまりさの顔をおっかなく睨んでいる。
せっかく仲良くしようと思っていたのに、あのちぇんのせいで台無しになってしまった。
みょんとちぇんは一つの群れの仲間であり、同じ群れの意見に賛成してしまうのはしょうがない。
"まりさが嘘つき"という誤解を解くのは簡単にはいかないだろう。
けれどまりさは今まで嘘をついたことはないし、嘘をついたとしても下手で すぐにバレるだろう。
この子達とちゃんとお話すれば、きっと分かってくれると考えていた。
『まりさは すぐに嘘をつくみょん 知ってるみょん』
「ま、まりさは うそなんてついてないよ?! ゆっくりしないで しんじてね!!!」
『わかるよー また嘘をついてるんだねー』
ちぇんは素早い動きで、みょんの背後から跳ね出るとまりさが眼を回すような反復運動をして近寄り
あっという間にまりさの黒い三角帽子を奪ってしまった。
「ゆ!? それは まりさの だいじな おぼうしさんだよ! ゆっくりできないから はやくかえしてね!! おねがいだよ!!!」
急いでちぇんへと跳ねるまりさをみょんが塞いだ。
『まりさは みょん達を騙して 独り占めしようとしたみょん
そんな嘘つきなんかに ご飯を食べる必要なんかないみょん もったいないみょん』
ちぇんからみょんへと受け渡された帽子の中には、今までまりさが集めた狩りの成果がたくさん入っていた。
それを躊躇なく帽子から取り出して、みょんは美味しそうに租借していく。
『こんなに美味しいものを 隠すなんて 酷いまりさみょん』
「それは まりさが さきにあつめたものだよ! だから まりさの ごはんだよ!!! どうして かってに たべちゃうの!?」
『先に見つけたから なんなんだみょん さっきは皆で むーしゃむーしゃとか 言いってたみょん』
まりさが楽しみにしていた丸々と太って甘そうなイモ虫は、みょんのお腹の中に収まってしまった。
『嘘つきに 付き合うのは 疲れるんだねー わかるよー』
「まりさは そんなこ じゃないよ! …ゆゆゆ? それは だめだよ! ぜったいに だめだよ! それは れいむの―
特別綺麗に仕舞ってあった綺麗で真っ赤なお花。
群れで待っているれいむのために摘んだ宝物は
ちぇんが舌先で散々遊んだあげく飲み込んでしまった。
「ゆあああああ!!!! ど、どうして そんなことするの?! ぜんぜん ゆっくりできないよ!!!」
『どうしてかみょん? これだから まりさは嫌なんだみょん 自分をわかってないみょん 大体みょんは ゆっくり出来てるみょん』
「みょんだけ ゆっくりするのは わるいことだよ! みんなで ゆっくりしないと ゆっくりできないんだよ!」
『みょんが悪いゆっくりだと思ってるのかみょん? そんなことを嘘吐きの悪いまりさに 言われるなんて悲しいみょん』
近くにいた同じみょんやちぇん達によって
あっという間にまりさが集めたご飯は、たいあげられてしまい
三角帽子は元の大きさに戻ってしまった。
「それは まりさたちの ごはんさんなんだよ! それは れいむのために あつめた おはなさんだよ!! もう やめてね!」
こんな酷い奴らの友達になんて絶対になってあげないとまりさは心に誓った。
こんなにゆっくり出来ないゆっくりは始めてだ。
まりさがゆっくりしないで遠くまで来て
せっかく皆のために集めたご飯は全部食べられてしまった。
れいむの為に摘んだお花も食べられてしまった。
まりさには何も残っていない。
皆を、そしてれいむを喜ばしてあげられる物は全て消えたのだ。
みょんとちぇんが笑顔でにやけている中で
まりさの心には悲しさだけが満ちている。
『微妙な 味だったんだねー』
ちぇんが花の茎を嫌そうにペッと吐き出した。
れいむの悲しい顔が浮かんだ刹那、まりさは自慢のあんよで思いっきりちぇんに飛び掛った。
「ももももう おこったよ!!!」
体を勢いよく収縮させて全力で飛び掛ったまりさ。
しかしあくまでみょん達は、性格が悪いだけなので
大怪我をさせないように痛いだけの突進をちぇんに打ち当てようとした。
『わかるよー!』
「ゆ!?」
ちぇんは素早くそれを交わすと近くにいたみょんへと、まりさは勢いよく突っ込んだ。
みょんが突き飛ばされると、咥えていた三角帽子が口元から離れて
中にあったご飯の残りカスが土の上にバラ撒かれた。
倒れて頬を薄く腫らしたみょんは、黙ったまま散らばるゴミを見つめている。
『…スめ みょん』
『わかるよー ちぇんは 知ってるよー まりさは そうやって すぐ暴力を ふるうんだよー 野蛮なんだねー ゆっくりできてないんだよー』
みょんを介抱しつつ しかめっ面をしているちぇんに
起き上がったまりさは大声で反論した。
「そ、それは みょんが まりさのごはんを かってに たべたからだよ!! ゆっくりしないで はんせいしてね!!!」
起こって体当たりをしたのは確かに悪い事だ。それは謝りたい。
だからみょんもまりさのご飯を勝手に食べた事は謝って欲しかった。
もちろんちぇんもだ。
『わかったよー だったたら みょんは 悪い子だから ゆっくりしないで 殺すんだねー
悪いゆっくりがいると ちぇん達の 群れが おかしくなるからねー』
「ゆゆゆゆゆゆゆ!?」
悪い奴は死ね。そんな一つもゆっくりしてない端的な考えにまりさは理解が及ばなかった。
確かに悪い事はしたけど、ゆっくりさせなくするつもりは全くない。
どうして同じ群れの仲間にそんな事を言えるんだろうか。
ちぇんに引き起こされたみょんは、ちぇん達から鋭い視線を投げかけられている。
まりさの帽子を咥えて勝手にご飯を横取りしたみょんだったが、まりさは心配になってきていた。
『わかったみょん…みょんは 悪いやつだみょん まりさは それに気付かせてくれて ありがとうみょん 』
みょんは何も反対しなかった。
このままでは自分の群れによって取り返しのつかない酷い扱いをされるというのに。
「べつに まりさは そこまで おこったわけじゃないよ?! だめだよ! いたいことは しちゃいけないよ! やめようね!」
まりさの怒りは既に冷めていた。しかし
『みょんは いつかきっと 取り返しのつかない事で 皆に迷惑をかけてしまうみょん』
『わかるよー なら 今すぐ殺すよー さっそく殺すよー まりさは 取り押さえてて欲しいよー 』
ちぇんの口から生えている鋭い牙が視界に入ってくると
怖い言動が真実であると、さすがのまりさも事の深刻さに気付いた。
目の前のみょんが目も当てられない悲惨な姿にされてしまうと。
「だめだよ!!!! やっちゃいけないよ!! そんなの ゆっくりできないよ! なかよくしようね!!!!
ちぇんたちも つまみぐいしたでしょ!? みんなで はんせいして ゆっくりしようね!!」
『わからないよー どうして かばうのー? そいつは まりさの ご飯を 奪ったんだよー? 早く 殺すんだよー
ちぇん達も みょんに のせられなければ 悪い事はしなかったんだよー』
「わるいことをしたら いっしょうけんめい あやまったり! ほかに ゆっくりできることを してあげればいいんだよ!
ずっと ゆっくりさせちゃうなんて ひどいよ! そんなのは ぜったいだめだよ!!!!!!」
ちぇん達は牙をカチカチと鳴らしている。
まりさの声がどれだけちぇんに届くのかは分からないが
まりさが出来るのは ひたすら叫ぶことだけだ。
「だめだめだめ! ぜったい だめだよ! まりさは みょんを ゆるしてあげるんだよ! もういいんだよ!」
『まりさ…いいんだみょん 仕方ないみょん みょんは 悪い子だったからみょん』
みょんは地面を見つめて深くうなだれたままだ。
「みんな やめてね! みょんに いたいことをするなんて まりさが ゆるさないよ!!!」
ジリジリとみょんに近寄るちぇん達の前に帽子も武器もないまりさが立ち塞がった。
あれだけ素早いちぇんには、いくら跳ねるのが得意なまりさでも相手が出来ないだろう。
けれど罪をちゃんと認めて顔を暗くしているみょんが一方的に殺されてしまうなんて許せなかった。
そんなのは間違ってる。
ゆっくり出来ないなんて間違ってる。
そしてみょんの味方は自分しかいない。
だからまりさがみょんを助けるんだ。
『わからないよー 今すぐ そこをどくんだねー』
「いやだよ! まりさは うごかないよ!」
これだけのゆっくりに囲まれて正直あんよが震えてた。
しかしまりさはどかない。
『みょんは 悪い奴なんだよー まりさは 知ってるよねー』
「でも! でも!」
沢山の牙が迫ってくる。
その一つ一つはとても痛いものだろう。
涙が出そうだった。
でも、
「みょんは まりさの ともだちになる ゆっくりだもん!!!」
山に住むゆっくりとして、いろんな危険を乗り越えてきたまりさだったが
何の策も準備もなく脅威の前に立つのはとても恐ろしく心底怖かった。
けれど
まりさが正しいと思っている事。
それに対して自分を貫ける自信が、背後に隠したみょんの温かさから沸いてて出てきた。
『わかったよー なら…まりさが死ねばいいんだねー』
「ゆ?」
ちぇんはまりさの左側に噛み付いた。
他の前歯よりも長く太い犬歯が眼球に食い込む。
吹っ飛ばされる 叩かれる 石をぶつけられる
そんなものとは比べ物にならない
予想だにしなかった激痛がまりさから悲鳴すらも奪っていた。
まりさは懸命に振り払おうとするが同じ体格のちぇんでは容易ではない。
なおかつ痛みによって思考も混濁している。
『みょんが 悪くないのなら やっぱりまりさが悪いって事なんだねー
ご飯を 独り占めするまりさは 死ねば良いよー 皆がゆっくりするには邪魔なんだよー』
「…!」
まりさのおめめは見えなくなっちゃた。
こんな顔をれいむに見せたくないよ。
れいむは泣いちゃうかな。
遠くのお父さんやお母さんが知ったらどう思うのかな。
おめめが半分見えないと ご飯を集めるのも大変なのかな。
それよりも痛いよ。
転んだ時も、おっきな虫さんに噛みつかれた時よりも、ずっとずっと痛いよ。
痛い痛い痛い。
ゆっくりしたい。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
ゆっくりし
『わかるよー 嘘つきまりさの 目玉なんて汚いよー でもしょうがないから 噛み潰すんだよー』
近くで水っぽい音がするのをまりさは聞いた。
「…ゅ………………ゅゅ……………………ゆぎぃやぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
喧嘩といっても体当たり程度しか経験したことのないまりさ。
体が欠損する。
それも眼球が破裂するという感覚は、ついに喉が枯れるほどの絶叫をまりさから産み出した。
『嘘つきでも 痛いんだねー やめてほしいかい言うんだねー? だったら 今すぐ みょんから どくんだねー じゃないと もっと痛くしてあげるんだねー』
噛み付いたまま器用に脅すちぇんの牙は、更に頬と眼孔に食い込こんで深く切り刻んでいく。
「ゆあああああああああああああああ!!!!!!!!」
もう痛いとしか考えられない。
頬を伝うのが涙なのか自分の餡子なのかも分からない。
『痛いのが嫌なら ゆっくりしないで どくんだねー そしたら みょんを さっさと殺してやるんだよー』
「ゆがああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ゆっくりなのか どうぶつなのか 判別もつかない悲鳴が山に響く。
先ほどまで思い描いていた仲良しのれいむの姿も
見えない左眼と視点の会わない右眼が、赤黒い物体にしか結んでくれない。
まりさは舌を突き出し、薄茶色の泡を吹き、体液と涙の混じったもので頬を濡らす。
まりさは正しいんだ、勝手に盗られたから怒った、新しい友達に狩場を教えた。
みょんは悪い事をした、けれどちゃんと素直に謝った、仲間の非難も受け入れた。
なら この痛みはなんだろう?
誰かが悪いからだ
まりさなの?
何かまりさが悪い事をしたの?
わからない。
誰が悪いのか分からない。
わからないなら、この痛みに意味はあるのか?
この痛みはちぇんがせいだ。
だからちぇんがいななけけれれれれいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいいたいたたた
「いだい!いだい!いだい!いだい!いだい!やべで!やべで!やぶぇべぇええ!!! まりざは ゆっぐじじだいぃいいい!!!!」
痛みが和らいだ。
ちぇんはまりさの眼孔からすぐに離れると
しばらく口をもごもごさせ、プっと潰れかけたまりさの左眼を砂の上に吐き出した。
湿った眼球は砂で全体を満遍なく汚し、やがてみょんの前に吹き飛んだ。
まりさは自分の左眼を右眼で追いかけると、今なら川で洗って元に戻せば治る気がした。
そうすれば、れいむに会える。ご飯が食べられる。群れに帰れる。 ゆっくり出来る。
舌先で左眼を拾おうとすると、瞬く間に眼球は平たくなり中身が砂に染みこんでいった。
みょんがまりさの眼球を潰すのに躊躇(ちゅうちょ)は全くなかった。
『まりさは ゲスみょん』
「…ゆ?」
まりさは枯れた喉から声を発した。
『まりさは ゲスだから ゆっくり出来ないみょん』
「…なに…いって…るの? まりさは… ゲスじゃ…ないよ…」
今まで庇っていたみょんの拒絶に、まりさはこれ以上なく困惑した。
どうしてみょんは庇っていたまりさを汚い物でも見るように目を細めているのか?
まりさは残った右眼だけで自分を睨み付けるみょんの顔をずっと見つめ続けた。
『まりさは 裏切り者みょん 自分が痛いからって みょんを 見捨てたみょん』
「…ゅ…ぁ…?」
『当然だねー まりさは ゲスだからねー 自分が痛い思いをするのが嫌だったから
すぐに裏切ったんだねー 最悪だねー みょんが どうなっても いいんだねー その程度なんだねー』
「…」
『みょんは まりさなんて ウンザリだみょん 大嫌いだみょん
ゆっくりを騙したり、暴力に訴えたり、家族も仲間も すぐに裏切ったり、まりさは ゆっくり出来ないみょん』
みょんは潰れたまりさの左眼を何度も何度も底部で擦り潰す。
「…まり…さは…わるいこと…しないよ…れいむや…ありすとも…なかよく…してるよ…みょんとも…なかよく…どうひてそふなこと―
まりさは訴え続けられなかった。
弁明を続けていた自分の頬からはヒュルヒュルと息が漏れていたのだ。
みょんはいつのまにか咥えていた棒切れを構え直すと、声の出せないまりさに再び突きつける。
「ゆふへ…? なに…ひゅるの? ゆ…ゆああああああ!!!…いたひよ! ゆっふひ でひないよぉおおお!!!! 」
『群れの平和を脅かす ゲスまりさなんかに 分けてやる食料なんて一つもないみょん
ゲスまりさがいると皆がゆっくり出来ないみょん そんなゆっくりに 皆のためのご飯を分けてやる必要はないみょん 無駄だみょん』
『わかるよー ちぇんたちも みょんたちも わかるよー』
まりさはニタニタとした顔に囲まれている。
先ほどまでも視線を浴びていたのだが全てが違っていた。
『だから…だから まりさは 死ねみょん ゲスは 今すぐ死ねみょん』
みょんの枝が高く振り上げられる。
ちぇんの太い牙がほくそ笑んだ口から見えた。
「たふへて!!! れいふ! ありふ!!! ゆあああああ!!!!!ゆあああああああああああああああ!!!!!」
逃げようとしたまりさだったが数十匹のみょんとちぇんに囲まれている。
いくら狩りの得意なまりさでも、何匹もの壁に囲まれては飛び越えることも出来ない。
「ゆっくりごろひは… いけなひんだよ!? どうぞくごろひは みんなに おこられるんだよ! ゆっくりひないで やめへね!」
『同族? ゆっくり出来ないゲスまりさが どうして同じゆっくりなんだみょん?
自分以外のゆっくりを奪い去って 一人でゆっくりするなんて最低なゆっくりだみょん
そんなのゆっくりでもなんでもない ただのゲスだみょん みょん達の仲間は お互いにゆっくりさせ合う ゆっくり達だけだみょん』
まりさの体が外側からの力でビリビリと震えだした。
耳が痛くなるほどの「ゲスを殺せ!ずっとゆっくりさせてしまえ!」という100匹の狂声が鳴り止まないからだ。
「まりさは… ゆっくひしたいよ! みんなを… ゆっくりさせたひよ! どふして… まりひゃが… こんな―
まりさの体に泥と砂の混じった枝が突き刺さる。
決して消化が出来ない砂利が目玉を刳り貫かれたまりさの中身に混じっていく。
「ゆぎぃぃぃぃいいいいい!!!!」
『ゲスでも 痛いんだねー でも心の痛みは 分かるはずないんだねー ゲスは自分の事しか考えていないからねー』
ちぇんは押さえ込まれたまりさの金髪を無理矢理毟り取ると
次は落ちていた三角帽子をビリビリと引き裂き始めた。
「やべぇでぇええ!!! いだいの やべでよぉおお!!! ばりざの おぼうじざん かえじでよぉおお!!!!」
群がった数匹のちぇんによって帽子は黒い布クズへと変わっていく。
大きな帽子も長い金髪も失ったまりさは禿饅頭に成り果てて何十匹ものゆっくりに弄ばれる。
『…やめてほしいのかみょん?』
突き刺すことを止めたみょんは、切っ先でまりさの柔らかい頬を引掻きつつ問う。
「も、もぶ…やべで…ば…ばりざは…わるいごど…じで…な……」
『なら まりさは ゲスですって言うみょん ゲスは自分がゲスって分かってないみょん それが許せないみょん
他のゆっくりを虐げて 当然の笑顔でいるみょん 最低だみょん』
みょんの枝は、まりさの残った右眼に向けられた。
「まりさは…まりさは………ゲスじゃ……ゲスなんかじゃ…………」
『これだけやられても まだ認めないのかみょん? 皆の怒りが分からないのかみょん?
いったいどれだけ図太いんだみょん 自分の罪を認めないゲスは 皆のために 今すぐ死ねば良いみょん』
ゆっくり出来ない言葉と共にまりさに向けて無数の枝と数多の牙が更に近づいてくる。
怪我では済まない殺意そのものが段々と近づいてくる。
『まりさは ゲスみょん ゲスと認めたら 助けてやるみょん』
「…まりさは……」
まりさは狩りの名人だ。
『ゲスなら 全部 殺すみょん 誰もが ゲスが居なくなる事を 望んでいるみょん』
「…まりさは……」
まりさは皆のために頑張っている。
『わかるよー ゲスは生きている価値がないんだねー』
「…まりさは……」
れいむは、まりさを褒めてくれる。
皆のために頑張るまりさを褒めてくれる。
皆がゆっくりするために頑張る
でも
れいむには もっとゆっくりしてほしい
だからまりさは頑張る 頑張って 頑張って れいむに褒めてもらって どんな まりさよりも
れいむのための
『早く言うみょん』
「…まりさは…ゲ………ゲス……………」
れいむのための よい ゆっくりに なりたい
「……………………………………………………じゃないよ…」
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
そこにゆっくりの亡骸はない。
数え切れない枝に突き刺さされ
餡子を泥と砂に混ざり合わされ
飾りを跡形もなく擦り潰され
ぬるく湿った地面が ほんのりと黒く染まっている。
返り餡(ち)を互いに舐め取って綺麗にしてあげると
今日の食事のために、みょんとちぇんの群れは山菜を探しに山へ散っていった。
【2】
れいむにとって まりさは同じ時期に生まれた唯一の幼馴染だ。
れいむが大きくなると、まりさも大きくなる。
れいむが上手に歌えるようになると、まりさも上手に跳ねれるようになった。
二匹は一緒にゆっくりとした時間を過ごした半身であり かけがえのない友達だ。
そのまりさが いつまでも狩りに行ったまま帰って来ない。
群れで帰りを待つれいむは まるで自分がここにいないような気になっていた。
れいむがれいむとしてあり続けるには足りないのだ。
自分だけが巣の中でゆっくりしていても落ち着かない。
ゆっくりするとは何か?
美味しいご飯を食べる事? 気ままにお昼寝する事?
ゆっくりするという事は
誰かと一緒に笑って過ごすこと。
どんなに甘い果物も、自由な暮らしも、それは生きているのではない。
ゆっくりではない。ただそこにいるだけなんだ。
だかられいむは跳ねていた。足の裏が泥だらけになっても、小石で擦り傷をいくら作っても。
「ゆんしょ! ゆんしょ! いしさんは あぶないよ! ゆんしょ!」
ノロノロしたイモ虫や見つけやすい木の実を拾う程度のれいむ。
群れの皆が通っていない山道を登るのはとても険しい道のりだった。
涙を浮かべて増える切り傷よりも、まりさが側にいないという不安と寂しさの方が大きい。
「ゆふぅ… やっと ついたよ! 」
悪戦苦闘しながら、まりさがいつも話していた場所へと辿り着いた。
始めての遠出にれいむが成功したのは
まりさが毎日狩りや外の話をしてあげたり、れいむもまりさの狩りの話が大好きだったからだ。
普段なんとなくご飯を集めているれいむでは
木の下を見ても落ち葉を払ってご飯を獲った後なのか
それともまりさは違う場所に行っているのか調べることもできなかった。
こんなに遠くまで、しかも群れの皆が来た事もない知らない場所。
たった独りで探しに来たれいむは きっと会えると思っていたまりさの顔が見れずに心細くなってしまった。
一匹で行動する不安、こんな経験をまりさは毎日していたのだ。
「ゆぅ…まりさ…… ゆっくりしないで でてきてね? かくれんぼは れいむきらいだよ? れいむと ゆっくりしようね?」
れいむは抜けた茂みで頬に傷を作り黒髪を葉っぱで乱され
来る前は綺麗に整っていたリボンも左右非対称になっている。
そこまでしても れいむには必要なのだ。
まりさが。
「まりさ………れいむだよ……」
もうしばらくすれば夕日が山の向こうへ隠れてしまう。
そうすれば空を飛び回る怖い奴らの襲ってくる時間だ。
「たいようさん もうすこしゆっくりしててね! れいむは まりさを さがしているんだよ! おねがいだよ!」
すぐにでも皆のいる群れへと帰りたいと考えてしまうれいむだったが
まりさが暗い山の中に取り残されてしまうのではと心配し、どうしてもここから離れる事が出来なかった。
「まりさ…けがをしているのかな? ゆっくりできてないのかな? だいじょうぶかな……どうしよう……」
れいむが体を休めている地面には
ちょうどまりさのトレードマークである大きな帽子の形に暗い染みが広がっていた。
その染みを見ていると冷たい所へ引きずり込まれるような気がしてきて れいむは直ぐに顔を上げた。
夕日は既に遠くの山の頂きに差し掛かっている。
れいむがこんな所へ無理をしてまで探しに来た事をきっとまりさは怒るだろう。
けれどどんなに怒られても良かった。
群れにいれば皆の声が聞こえるし寒い風も巣穴が防いでくれる。
とても可愛い群れの子供達や皆で纏めたご飯もある。
けれどまりさがいない。
まりさがいなければ どんな物があってもゆっくり出来ない。
むしろまりさがいれば
ご飯が少なくても
雨が何日も降り続いて遊びにいけなくても
どんな事があっても
れいむはゆっくり出来た。
まりさが怒る一言でも、きっとれいむはゆっくり出来るだろう。
ひとしきりお叱りを受けたら、まりさにゆっくりして貰おうと思う。
まりさは狩りが上手い。まりさは跳ねるのが早い。まりさはみんなの事を考えて行動してくれる。
そんな事をまりさに言ってあげると、何故かれいむも嬉しくなってくるのだ。
まりさは元気だけど、いつも擦り傷を作って帰ってきていた。
だからそれを舐めてあげるのがれいむの役割だ。
まりさがれいむをゆっくりさせてくれるから、頑張ったまりさもれいむがゆっくりさせてあげたい。
そんな関係をいつまでも続けていたい。
ずっとずっとまりさと一緒にいたい。
まりさの顔を見ていたい。
そしてまりさは何処にもいない。
お昼前にはいつも帰って来ていたまりさ。
しかし今日は何時まで経っても帰ってこない。
夜じゃないと空を飛ぶアレはいない。
なら どうして帰ってこないのか。
それは「まりさが なにかの りゆうで ゆっくり できていない」からだ
まりさと群れの優しさの中で育ったれいむには
悲惨な光景なんて、ゆっくり出来ない理由なんて想像が出来ない。
ただ心の中で思い出す優しいまりさの笑顔が どんどん黒く塗りつぶされていく。
まるで目の前の染みのように真っ黒に。
「…まりさ……………まりさ………ゆああ………………………………まりさあああ!!!!!!!」
ガサッ
れいむが心細くなった胸の内を払拭するように上げた声。
それと同時に黒い影が草むらから飛び出てきた。
「まりさ!? まりさなの!? いったい どこにいって……」
それは黒髪でも金髪でもない、綺麗に前髪が揃った真っ白な髪を持つゆっくりがいた。
「ゆ…ごめんなさい おともだちと まちがえたよ…
あ、あのね! まりさを みなかった? おぼうしが とっても おおきい まりさなの!」
れいむは見たこともない綺麗なゆっくりに跳ね寄っていった。
何故なのか、この不思議なゆっくりならば行方の知れないまりさの事が分かる気がしたのだ。
「えっと…あの…」
白いゆっくりは涙を浮かべたれいむの問いに答える代わりに
ジロジロとれいむの黒髪と赤いリボンを眺めていた。
『れいむは…れいむみょん?』
「そうだよ! れいむは れいむだよ! ねえ まりさを みなかった? まりさは れいむのね…えっとね…」
『そう れいむなんだみょん 本当にれいむは何処にでもいるみょん』
初めて聞いた白いゆっくりの声は、とても冷たく少しもゆっくりしていなかった。
『わかるよー れいむは子育てが得意らしいからねー いっぱい増えるんだねー 食って太って産むだけなんだねー』
さらに獣の耳のような物をつけたゆっくりが物陰から出てくる。
「…ゆん?」
何かとてもゆっくり出来ない事を言われているようだが
とにかくまりさに会いたい一心のれいむは
彼女達の発している異様な雰囲気を感じとる事ができなかった。
「まりさを みなかった? れいむは まりさをさがしているんだよ! れいむが いないと まりさが ゆっくりできなくなっちゃうの!」
『ほら もう言ってるみょん 自分は ゆっくりをゆっくりさせてあげてる れいむなんだって言ってるみょん』
『その自信が何処から来るのか分からないんだよー
一緒にいても我侭しか言わない存在が どうしてゆっくりさせられるのか謎なんだねー』
二匹は辟易とした顔を見合わせている。
「まりさが れいむを ゆっくりさせてくれるんだよ! でも まりさは すごく げんきで ゆっくりしてるけど とっても あぶなっかしいんだよ!
まいにち むれで まってるときも れいむは しんぱいなんだよ! れいむが まりさを とめてあげないと ゆっくりできないんだよ!」
『毎日ご飯を獲って来るのを待ってるのかみょん? 妊娠もしてないのに狩りを全部任すとか何様なんだみょん』
「れいむと まりさは いまは まだ…じゃなくて そ、そんな おともだちじゃないよ!!!
れいむは かりが へたなんだよ! とっても ちっちゃいときに おとうさんが ずっとゆっくりしちゃったから
ぴょんぴょんも かりのことも おそわってないんだよ!
だから かりをしている みんなの めいわくにならないように おうちで できるしごとをしてるんだよ!」
『親に死なれた? 可哀想だからなんなんだみょん?
狩りが下手? 馬鹿だからなんなんだみょん?
そんなの知った事じゃないみょん
不幸で無力なれいむは 優しくされるべきとか思ってるのかみょん?』
『わかるよー 子供もいないのに 既に不幸のヒロインなんだねー シングルマザーの予備軍なんだねー 群れの寄生虫なんだねー』
「ちがうよ! ぜんぜんちがうよ! れいむは れいむができることを しているんだよ!
みんなで ゆっくりするために れいむもゆっくりしないで がんばってるよ!
まりさが まいにち がんばって おいしいごはんを とってきてくれるから ちゃんと おうちで ゆっくりさせてあげているよ!!」
『どうやって ゆっくりさせているんだみょん? れいむに出来る事なんて 何一つないみょん』
『わかるよー お歌が上手で いつも ゆっくりしているれいむだから
れいむが 側にいるだけで 誰もが ゆっくり出来ると思ってるんだよねー
全部 れいむのおかげで ゆっくり出来ているんだと 思い込んでいるんだねー どんだけなんだろうねー』
「そんなことないよ! まりさは いつも れいむと たのしく あそんでるよ!
いっしょに ゆっくりしてくれるよ! まりさも ありすも みんな ゆっくりできてるよ!」
『だから 自分だけが ゆっくりしてるだけだって どうして思わないのかみょん?
ご飯を恵んでもらって ただ遊んでるだけなんて
れいむは そんな楽して暮らせる資格があるのかみょん? あるはずないみょん』
『世界の全部が れいむがゆっくりするために あるんだと思ってるんだねー 自分が世界の中心なんだねー 救いようがないんだねー』
れいむは幼馴染で大切なお友達を探していただけだ。
なのにどうして…こんなにもゆっくりできない事を言われなければならないのだろうか?
このゆっくり達は何者なんだろうか?
どうしてれいむにゆっくり出来ない事を言うのだろうか?
れいむが群れの皆のためにやっている事、まりさに毎日してあげている事
まりさとのゆっくりしている日々を頭ごなしに否定されて思わず反論してしまったが
次第に冷たくなってきた風に身震いすると
こんな事をしている場合ではないと れいむは気付いた。
「もう いいよ! れいむは ひとりで まりさを さがすよ!
れいむに いじわるする わるいこたちは はやくかえってね! れいむに ついてこないでね!」
『誰が いつ 手伝うなんて言ったのかみょん 頭がおかしいみょん』
『付き合いきれないんだねー れいむから見たゆっくりは 全部奴隷か何かなんだろうねー』
「ゆゆゆ!? そんなこと かんがえてないよ? だって れいむは―
白いゆっくり―みょんはいつのまにか研ぎ澄まされた枝を咥えていた。
しかしここには外敵などいない。
喧嘩をしている様子も何処にもない。
ならば『その切っ先は誰に向けられている』ものなのか?
「ゆ?」
『れいむは 要らないみょん 自分勝手なゆっくりがのさばると 皆がゆっくり出来なくなるみょん』
『知ってるよー れいむは 自分の子供の為なら ためらわずに同族殺しをするんだねー
このれいむも 親になったら 働きもしないで 始終文句を吐くだけなのが想像できるんだねー』
とがった牙が「だよー」という語尾の口から見えている。
白いゆっくりの咥えた枝は真っ黒に湿っていた。それは「既に使った後」の汚れだ。
ゆっくりしていない。
ゆっくりできない。
「こ、こないでね! なんだか こわいよ! れいむは まりさを さがしているから もういくね!」
れいむは迫ってくる状況を理解するよりも恐怖が先行し、一刻も早くこの場から跳ね出そうとした。
しかし底部に力を込めて跳ね上がろうとした瞬間
先ほどの獣のようなゆっくりが見たこともない素早さでれいむに体当たりをした。
「ゆべっ!?」
れいむは勢いよく土の上を転がり世界がひっくり返ったような感覚を味わった。
こんがらかった五感が復活して、やっと目を見開いてみると不思議な光景が待っていた。
何故か自分とそっくりのれいむがソコにいた。
いつかられいむの事を見ていたのだろうか?
それともこの怪しいゆっくりの仲間なのだろうか?
「そっちの れいむ! れいむを たすけて! このこたちが れいむを いじめるの!!! おねがい! たすけてね!」
「…」
「どうして おへんじ してくれないの! いっしょに にげよう! このこたちは なんだか へんだよ! れいむ! れいむ!」
懸命に助けを求めた向こうのれいむは反応しない。
何故ならば、それは知らないれいむではなかった。
【自分の黒髪と赤いリボンを付けている】先ほどの獣のゆっくりだからだ。
「ゆ? ………………………ゆあああああああああああ!!!!!!」
髪をズルリと剥がされた頭皮からは自分の中身がドクドクと垂れて来た。
生きたまま薄皮を剥かれて、その体の一部を自分以外のゆっくりがフザけて被っている。
理解できない異常な環境と恐怖によって痛みは意味を成さなかった。
飾りを取り返すとか、仕打ちに対して復讐するとか
そんな事は残された剥き出しの頭の中には微塵もなかった。
「ゆ…ぎぃ…いた…いよ………れいむの…かみさん…おりぼんさん……ま…りさ………まり…さ…たす…け…て…まり……」
もはやモミアゲしか残っていない剥げ饅頭は少しでも遠くへ逃げようと這い擦っている。
ナメクジのようなれいむの行き先をみょんが先回りする。
『どうして こんな目にあうのか 分かるかみょん?』
『ちゃんは わかるよー れいむは でいぶなんだよー 当然なんだねー』
「……ゆんやぁ…ゆっくり…したい…よ………ま…りさ……どこに…いるの………れいむ…は…ここ…だ……よ…」
ブクブクと裂けた傷口から溢れる餡子は、れいむの逃げ這う軌跡を塗っていく。
みょんが咥えて乾いていた枝は真新しく黒く湿っていた。
れいむのカツラはちぇん達が被りあって破れ始めている。
ちぇんは赤いリボンを片方引き裂いて、れいむの前でヒラヒラと躍らせた。
『れいむは 子供を育てるのが得意とか言いはって 狩りも何も出来ない 頭も足りない ただの役立たずのクズだみょん』
「…くず…じゃない……れいむは……こどもたちの…めんどうだって…ちゃんと………」
『わかるよー 子育てとか言ってて 歌って 寝かせて ご飯を食べさせるだけなんだねー そんな事はどんな親だって出来るんだよー』
「…れいむは…どんなことがあっても……むれの…おちびちゃんたちを………まもっ…て………」
『れいむ自身と子供達の為に 他のゆっくりを犠牲にしたりするし
れいむは 本当にゆっくり出来ないゆっくりだみょん しかもソレを悪いと思ってないみょん』
もう這うことも出来ないれいむは冷たい地面に額を垂れさせた。
先ほどの三角帽子の染みが目に入ると
迫り来る現実的な恐怖と染みが想像させる恐ろしい闇に挟まれて
体も心もボロボロに砕け散る感覚を覚えた。
『でいぶは ゆっくり出来ないんだよー 早く殺さないと ちぇん達が ゆっくり出来ないんだよー』
ちぇんの牙で皮が引き裂かれる。
『でいぶの言ってる まりさなら 今日 見かけたみょん』
みょんの枝が頬に突き刺さる。
すでに声も上げれないれいむは みょんの話を聞くと「まりさ…まりさ…」と唇だけが動く。
「ゅ…ぁ………………」
もう自分は助からないだろう
けれど、それでもまりさの姿を見たかった。
独りで死ぬのは怖いから。
いいや、まりさと離れる事が怖かった。
言った事はないけれど、二人だけの仲を作りたかった。
まりさと死ぬまでずっと一緒にいたかった。
今ならそれを言う決心がある。
いつか突然来る不幸によって、不条理に引き裂かれてしまうのならば
少しの間でも一緒にいたいと思った。
けれど
ここには まりさはいない。
それはれいむにとって寂しく悲しく残酷なものだったが
こんな悲劇を、れいむの悲惨な姿を決してまりさには見せたくもないし
誰かがまりさをこんな風に傷つけるのも嫌だった。
願わくばまりさが皆のところへ無事に帰り、れいむの分までずっとゆっくりと暮らして欲しい。
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
れいむの形が無くなっていく。
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
れいむの心が無くなっていく。
「…ゅ…ゅ……………」
いつもれいむとまりさを心配してくれたお姉さん
群れの優しいありすの顔が浮かんだ。
勝手に群れを飛び出してごめんなさい。
心配をかけてごめんなさい。
もう謝る事も出来ないけど、ごめんなさい。
実の家族ではないけれど、いつも面倒を見てくれたありすが大好きだ。
そして
ありすは まりさの事が好きなのだろう。
れいむと同じくらいまりさを心配していた。
れいむと同じくらいまりさをゆっくりさせたがっていた。
だから
きっと笑顔でゆっくりとした家族をまりさと築くだろう。
そこにれいむがいないのは、とても悲しくて心が張り裂けそうになるが
まりさが幸せならば
ゆっくり出来るのならばそれでいい。
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
れいむの想いが無くなっていく。
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
れいむが、無くなっていく。
「………………………」
いつも元気で皆をゆっくりさせてくれたまりさ。
まりさはれいむを幸せにしてくれた。
だかられいむの痛みがどれだけ増えようとも
ゆっくり出来ない事を れいむが全部受け止めてあげて
それで まりさがゆっくり出来るのならばそれでいい。
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
この白い子達が、どうしてこんな事をするのか分からない。
ただまりさは違う所にいて、この子達と関わりがなければそれでいい。
『そういえば そのゲスまりさは ゆっくりさせなくて潰したみょん その黒い染みが証拠だみょん』
夕暮れ時の山間から一際大きい叫び声が響くと、すぐにシンと静まり返った。
【3】
ぱちゅりーは心配していた。
ありすは少し照れ屋さんで あまり皆と騒ぐタイプではないが
誰よりも相手を気遣い とても気が利く優しいお姉さんゆっくりだ。
だからこそ産まれた群れで一緒に育った幼馴染で
妹のようなれいむとまりさが
日が暮れても一向に帰ってこない事に表情を陰らしていた。
「…まりさ…れいむ」
ありすは夕日が暮れて冷たい夜風が吹き始めても、ずっと巣穴の前で待ち続けていた。
「むきゅ…ありす…きっとだいじょうよ まりさは ちょっとかりに はりきってるだけで れいむといっしょにかえってくるわ」
「でも そとは もうまっくらよ? れみりゃにでも おそわれたらどうするの!?」
ありすの隣に来たぱちゅりーは、冷え切って白くなった頬を見つめた。
「まりさは かりも じょうずだし はねるのだって うまいわ ちょっとした れみりゃなんて
きっとどうにかできるわ ありすは しんぱいしすぎよ」
「むせきにんなこと いわないでよ!!!!!」
「……………むきゅ」
いくら身体に優れたまりさでも
空から襲い掛かるふらんや、手足をもったれみりゃには敵わないだろう。
ましてや足の遅いれいむと一緒にいるのなら二匹で無事に逃げ切れるとは限らない。
「ごめんなさい…ぱちゅりー…」
月明かりすらも滞る山の中では、夜目の効かない普通のゆっくりが捜索隊を出せるはずもない。
家族も友達も子供も、ただ仲間が無事に帰ってくるのを待つだけしかない。
「いいのよ、でも ありすがそんなかおだと あのこたちが もどってきても ゆっくりむかえられないわよ?」
ありすは森の奥から視線を外し、ぱちゅりーを見た。
「しんじて ゆっくりまつのよ いまは それしかできないわ」
「そうね…… かえってきたら いっぱい おこってやるんだから…」
崖下にある4個の横穴。
故郷を離れて集団移住してきた若い群れが
皆で助け合いながら掘り進めたものだ。
そこではいくつかの集団ごとにまとまり住居を共にしていた。
元の群れにいた何匹かの大人のゆっくり達と
新しい世代である れいむとまりさ、そしてお姉さん分のありすとぱちゅりー達が暮らしている。
ぱちゅりーとありすは、夜風に身を震わせながら横穴の巣を丁寧に閉じると巣穴の奥で体を休めた。
皆で寄せ合って寝る干草のベットは、とてもふわふわしててゆっくりできるが
ありすの隣には誰も使っていない二匹分の寝床が空いていた。
既にぱちゅりーは結論を出している。
きっとあの子達は無事ではないのだろう。
怪我をしたとしても迷子になっていたとしても
この広くて厳しい夜の森は、たった二匹で生きていくのには過酷過ぎるのだ。
夜露は体を溶かし、その匂いが捕食種を呼び寄せる。
夜が明けるまで続く恐怖を伴って。
そうでなくても辛い環境が、心を元に戻せないほど壊してしまうだろう。
「むきゅ…」
朝になったら群れの皆で探しに行く事は考えている。
それよりも心が痛いのは、ありすに「もうあの子達は帰ってこない」その事実を理解させる事だ。
れいむと駆け落ちしたとか、まりさがれいむを危険に巻き込んだとか
そんな事を言い出すような心の曲がった仲間はいない。
怪我をするような深刻な争いもなくも、互いにゆっくりさせ合う暖かい集まりだ。
けれど不幸を乗り越える事だけは逃れ得ない。
納得できない不条理な結果でも受け入れなければいけない。
ありすと同じ頃に生まれた子供は、ぱちゅりーだけだった。
ありすには甘えてくれる妹達はいるけれども、甘えさせてくれる歳の近い姉がいなかった。
だからありすの抱えている辛い事や悲しい事を全部聞いてあげたい。
それが体の弱いぱちゅりーが出来る、精一杯のありすへのゆっくり。
「…」
ウチウチとまどろみながら
心配で今にも泣きそうなありすの顔、そして泣いて震える妹分たちの姿が頭から離れず
ぱちゅりーはベットから這い出した。
目を凝らして、すぐ傍で眠っているありすの顔を探した。
どれだけ見回してもありすの姿は見つからない。
ぱちゅりーは抱いた不安の通りに、二匹で閉めた入り口を調べてみると
先ほどありすと一緒に作った木枝と落草の偽装は形が変わっていた。
ぱちゅりーは自分が通れるだけの穴を崩すと外に顔を出した。
やはりありすの姿はない。
ただ紺色で塗りつぶされた森の暗闇だけがある。
月明かりを受ける森は静まり返っていた。
もしも声を張り上げて、ありすを呼んでしまえば捕食種に感づかれてしまうかもしれない。
ぱちゅりーのほっぺに夜風が当たり
昼間の風とは全く違う冷たくて湿った冷気が身を震わせた。
しばらく当たっていれば体の弱いぱちゅりーの頬は、きっとしわがれてしまうだろう。
それよりも寒さからくる冷たい痛みで吐いてしまうかもしれない。
「どうして…」
どうして。
それは「ありすがどうして出て行ってしまったのか」ではない。
どうして自分は、
この冬の様に寒くて命を奪ってしまう暗い森の中、あの二匹が泣いて夜を過ごしているかもしれないのに
もうしょうがない。
きっと無事ではない。
ありすをどうすれば慰めてあげれるのか。
ありすの傍にいてあげよう。
それだけしか考えて無かったのだろうか。
ぱちゅりーは恥じた。
仲間からは森の賢者などと持てはやされる事もあるが、結局は皆と同じ ただのゆっくりだ。
危険な事を出来るだけ避け、今あるゆっくりを何よりも重視し、想ったゆっくりの事だけ考えていたのだ。
ここが分岐点なのだ。
賢者と言われるべき存在になれるのか
ありすの側にいられる自分なのか。
「…」
再び入り口は閉じられた。
草木によって丁寧に閉じられた横穴の中では、隙間風に眠気を邪魔されずに沢山の仲間が眠っている。
しかし二つのベットと、それよりほんの少し小さいもう二つのベットは地面の冷たさを保っていた。
【4】
ありすは身が凍る思いをした。
それは夜風によるものではない。
薄い紫色の髪と手足を持つゆっくりが目の前にいたからだ。
しかし目の前のれみりゃがありすを襲ってくる事はなかった。
体は八つ裂きに切り崩され、目玉は刳り貫かれて息をしていなかったからだ。
「…なん…なの?」
ふらんと仲違いでもしたのだろうか?
しかしこれは牙によるものではなく、枝で刺されて斬られたような傷口なのだ。
辺りには使われた枝などは落ちいていない。
しかし膝から下を原型が無くなるまで分解され、手足をもがれ、首を折られ
最期の表情すらも察することが出来ない無残な姿は、ゆっくりが為した事とは思えなかった。
追い払ったというより明確な意思で殺した。
そう考えるしかない死体だった。
「なにが…あったのかしら…」
よく見ればれみりゃの残骸には小さな羽根や帽子が沢山落ちていた。
蝙蝠羽の他にも細長く綺麗な石が並んだものは、きっとふらんだろう。
ようするに捕食種が集団で襲ってきたのに対して全て撃退したという事だ。
たとえ熟年の大人のまりさ達が枝を咥えて束でかかったとしても
これだけの数を被害も出さずに一網打尽にし、なおかつ残忍には攻撃しないだろう。
しかし捕食種によって妹達が襲われている可能性は減った。
それだけを思い描いてありすは、視界に映った気色の悪い光景を忘れることにした。
「まりさー! ありすはここにいるわ! れいむー! まりさー!」
あの光景を見る限り捕食種は撤退したと考え、ありすは妹達に向けて夜空に響くように呼びかけ始めた。
暗がりを怯えながら覗いたり跳ねて回って探していた時と違い、木々のざわめきに紛れた音へと耳を傾けた。
「まりさー! れいむー!まりさー!」
ありすの声だけが響い続けるのだと思った。
もう自分の声が届かないところに、二匹は永遠に消えしまったと。
しかし今まで聞こえていなかった声が届いてきた。
「まりさ!?」
夜虫や風にかき消されそうな誰かの声は上手く聞き取ることが出来ない。
それはれいむが泣いている声かもしれない。
それはまりさが助けを呼んでいる声かもしれない。
とにかくありすは綺麗な髪を汚す事もいとわずに草むらを走り縫って
底部を草で擦り切りながら一直線に声の元へと近づいていった。
「おねえさんが いくからね! ありすが いくからね! だいじょうぶだからね!」
獣道を跳ね、木々を抜けた。
たどり着いたのは薄暗く分かりにくいが、確かまりさが狩りを任されている辺りのはずだ。
だとすると、やはりあの子達かもしれない。
もしも深い崖に落ちてしまっていたり大きな怪我をしてしまっていたとしても
ここからなら応援を呼んで駆けつけて貰うことも出来る。
れいむ、そしてまりさは本当の妹ではない。
以前に住んでいた群れは、新しい世代が生まれると体の弱いものは群れに残り
勇気があるゆっくり、逞しいゆっくり、誰かを気遣えるゆっくり
機転の聞くゆっくりなどが、新しい巣を探しに外へ旅立つ風習があった。
それはとても名誉な事ではあるが、親と決別するという事でもあった。
そしてありすより数週間遅れで誕生し
まるで妹のように懐いていたまりさが、持ち前の明るさと狩りの才能から抜擢された。
まりさは自分の頑張りが皆に喜ばれる事を嬉しがっていたし、ありすもそれを褒めてあげた。
しかし唯一同じ時期に生まれた幼馴染のれいむは、旅団に入る事が叶わず
姉妹のようなまりさと離れてしまうのを泣いて嫌がった。
旅立つ新しい世代の中で、特に秀でているまりさ。
そのまりさが元の群れに留まってしまうのは、生き残る可能性を下げてしまうのに。
素直に我侭を言えるれいむを羨ましがった。
ありすだってまりさの良さを知っている。
狩りが上手いとか、跳ねるのが得意とかそんな事ではない。
生まれた次期がちょっと早くても、むしろ早いからこそ
まりさが一人前のまりさになって行く成長を小さな頃から見てきていたし
土に汚れた頬を擦り傷だらけにしている姿の中に、誰にも負けない優しさとゆっくりを持っている事を知っていた。
配慮で旅団に入れてもらったれいむを羨ましがった。
妹分達のめんどうを見てきた姉役の自分が、同じ我侭を言えるはずもない。
ごく普通のれいむだった妹分は見違えた。
どのれいむよりも澄み切った歌声を奏で、集めた食料の調理や保存法もすぐに覚えていった。
誰かを癒したいれいむには、誰かの為に頑張りたいまりさか必要なのだろう。
命を賭して狩場を探すまりさには、ずっと待ち続けられるれいむが必要だろう。
何よりもまりさが…好きだから。
まりさを見ていたから、これが自然なんだと受け入れられた。
自分の手を離れた妹達が眩しかった。
…ぱちゅりーには気付かれてしまっているだろうか?
いつもお姉さん顔をしている自分も、ぱちゅりーにだけは気を許してしまう。
常に平静で平等に毅然と、群れの子供達の面倒を見ていたが
ありすにも間違った事や気付けなかった事もある。
それをぱちゅりーはいつの間にか察してくれて手助けをしていてくれた。
けれどぱちゅりーがずっと助けてくれるわけではない。
時が来たらぱちゅりーも伴侶と共に、子供達とゆっくり暮らすだろう。
まりさは、まりさとして旅立って行く。
ありすは、ありすとして大人にならなくてはならない。
広場には沢山の若いゆっくり達が集まっている。
まりさとれいむと別れる朝だ。
ありすが二匹への選別の花を選んでいると
なんだか笑顔のぱちゅりーと群れの長が訪ねてきた。
夜の風は跳ねる足をこわばらせる。
次第にはっきりしてくる声を更に追いかけていくと、山道を登りきった広い場所にありすは出た。
「まりさ!? れいむ!? ありすよ! ぶじなの!? へんじをして!!! おねがい!」
赤い飾りをつけた黒い髪などなかった。
黒い帽子をつけた金の髪などなかった。
月明かりも届かぬ闇の中で、白いものが浮き上がっていた。
その"もや"には二つずつの赤い点が輝いている。
その赤い点がすべて瞳なのだと理解する頃には、200個の眼に睨まれていた。
「…ゆ?」
霧の様に見えた揺れる白い髪。
その奥のほうでは、違うモノが泣き叫んでいた。
「うー…うー…」
地面に降り立ったふらんが、白い彼女達に囲まれている。
ふらんと分かったのは、七色の羽があったからであり
それ以外ではふらんの特長を説明する要素はない。
トゲの塊。
無数の枝によって体を貫かれ
その間から片方の羽根だけがビクビクと震えていたからだ。
「うー…」
栗の実から痛々しい声が聞こえてくる。
だからあれは生き物だ。
あれはふらんなのだ。
体中に枝を刺し込まれても生きている。
あれはとても痛いだろう。
あんな目にはなりたくない。
あそこにまりさがいなくてよかった。
気持ち悪い。
ここから逃げたい。
『…』
ジリジリジリと地面を削る音がした。
赤い眼と白い髪のゆっくり達が、枝を咥えて土を引っ掻きながらコチラに近づいてるからだ。
「……………ゆ?」
そうか、違うんだ。
捕食種が集団で襲ってきたのを撃退した分けではない。
捕食種を集団で襲ってきて子供も何も皆殺しにしているんだ。
既にうーうーと鳴いていた無残なふらんの声は聞こえなくなっていた。
こいつらは逃げた一匹のふらんを全員でココまで追いかけて
必要以上に残酷な方法で確実に命を奪っていたのだ。
この白い奴らはなんなのだろうか? ゆっくりなのだろうか?
彼女達の目は明らかに友好的ではない。
「…っ」
しかしありすはそんな外見では判断せずに話しかけようとした。
ただ殺気立っているだけであり、天敵である捕食種を倒したのは間違いない。
自分が仲間である普通のゆっくりと知れれば、きっとこの空気も変わるだろうと。
「ゆ…ゆっくりしていってね?」
ありすは恐る恐るだが挨拶をした。
白いゆっくり達は歩みを止めて、顔を見合わせると
リーダー格なのだろうか少し雰囲気の違う白髪が出てきた。
『…』
黒い髪飾りに月に魅入られたような赤い目をしている。
枝についているドロリとした物はふらんのだろうか。
恐怖を押し殺すためにすぐに目を反らした。
戦いに秀でているのは、まりさと同じだ。
けれどこんな気味の悪い奴らと、まりさが同じゆっくりだとは思いたくはない。
「ゆっくりしていってね! ありすはありすよ! こ、こんばんわ! すごいわね! ふ、ふらんをたおせるなんて…」
出来る限りの笑顔でありすは挨拶をした。
主に子供達の世話や教育役をしているありす。
それ故、もしもの時には子供達を安心させるためにいつでも笑顔が作れる。
しかしこれはもしも異常の環境だった。理解が及ばない。
ひたすらゆっくり出来ない何かが迫ってくる。
『…』
白いゆっくりは体を反らし目を細めている。
ありすはこんな姿をしたゆっくりを見た事がない。
ならば相手も同じなのでは?
ありすをゆっくりと思ってないのかもしれない。
「ありすは このやまにすんでる ゆっくりよ! いっしょに ゆっく―
『そう…ありすは ありすなんだね? 言われなくも ありすって分かるみょん』
想像していない冷たい声色だった。それに嘲りが混じっている。
白いのが枝を振ると付着していたふらんの中身が地面に飛び散った。
ありすの作っていた笑顔は直ぐにでも崩れそうだった。
彼女の持っていた大人びた振る舞いも、体の芯から来る恐怖に染まっていく。
「そ、そうよ! ありすよ! ゆ、ゆっくりしてね?」
ありすが挨拶と共に小首を横にかしげたのが幸いだった。
金髪の切れ端が目の前で風に舞っているのは
間合いを詰めたみょんが、その枝先をありすの顔に向けて振り上げたからだ。
『…ありすは ありすだみょん その顔はありすみょん』
空振りをしたみょんは、ありすには向き直らず当たり前の事を言い放った。
そう彼女達はありすをゆっくりとして知っていたのだ。
「わたしは ふらんじゃないわよ! ど、どうして そんなこわいことするの!? や、やめてね! そんなこと ゆっくりできないわよ!」
『ありすが…ありすだからみょん』
ありすがありすだから、ゆっくり出来ない事、危害を加えられる。
ありすが何かしたのか? ただ声をかけただけなのに。
『都会派だか なんだか知らないけどみょん そうやって大人ぶった顔して 近寄ってくるみょん』
何か機嫌を損ねる振る舞いをしたのか?
常に周りと相手の気持ちを汲んでいるありすでも
まったく心当たりがなかった。
しかし
「ありすは べつに………………ゆ? あなた けがを しているわね? ふらんに かじられたの?」
近寄って気付いたことだが、確かに白いみょんの頬には二列の裂傷が走っていた。
「ちょっと みせてみてね! ありすは てあても できるのよ! ぱちゅりーから おそわったのよ!」
ありすは天然の素材だけを使い、巣穴のコーディネートが出来るほどの器用さを持っている。
もちろん装飾や道具だけではなく簡単な施術なども行える。
ずらしたカチューシャから怪我をした時のために貼っておく薄い綿と葉を取り出した。
『さわるなみょん』
「いいから みせてごらんなさい! むれの まりさも よくけがをするから ちりょうはとくいなのよ!」
『さわるなみょん』
「はずかしがらないで! けがは かりうどの くんしょうよ! さあ うごかないでね!」
ありすは彼女達と誤解を解き、打ち解ける機会だと思った。
難しいぱちゅりーの講釈や治療の練習がこんなところで役に立つとは思わなかった
『さわるなみょん』
「もう! あまのじゃくね! いたいときは いたいっていうのよ! そのほうが ゆっくりできるわよ!」
『気持ち悪い顔を近づけるなみょん …レイパーは黙れみょん』
「…ゆ?」
今、何と言ったのか? ありすは聞き慣れない言葉に硬直した。
『レイパーはいい加減にしろみょん』
それはゆっくりを犯しつくす物狂いの呼び名だ。
特にありすが多い。
しかしありすはもちろん、両親も最初に産まれ暮らしていた群れでも
そんなゆっくりを実際に見た事も聞いた事もない。
とうに絶えて忘れられたゆっくりの話だ。
何故そんな呼ばれ方をしなくてはならないのか?
「なにいってるの!? ありすは ふつうの ありすよ? わかるでしょう!?」
『そんなのわかってるみょん 普通のありすだみょん』
"普通のありす"と言葉を返して、みょんはふらんを屠った枝を突きつけた。
「な、なら そんなもの ありすに むけないでね あぶないわよ! ね? やめま―
ありすの右眼は、自分の左眼を見ていた。
後頭部から差し込まれた鋭い枝は、ありすの体内を突き進み
左眼を引っ掛けたまま眼底を突き抜けていた。
『わかるよー 今は普通なんだねー』
いつの間にか、いたのだ。
ありすの後ろに回りこんでいた何かは、更に後ろから枝を無茶苦茶に掻き回す。
「ゆぎぃぃいいいいいい!!!!! ゆあああああああああああ!!!!!!」
『少しでも気を許すと すぐに気持ち悪い顔をして近寄って来るみょん そして手当たり次第にゆっくりをヤるみょん』
枝を突きつけていたみょんは切っ先を高く振り上げる。
痛みで動けないありすの頭上に、ふらんを屠った枝先が固定される。
「ゆっ…ぎ…あ、ありすの……おめ…め………ゆぎぃぃぃぃい!?」
枝先に引っかかっていた左眼が、みょんの一振りで叩き落されると
みょんは咥えていた枝でグチャグチャに砂と掻き混ぜた。
そして体重を乗せて何度も跳ね潰し跡形もなくす。
『ありすは…レイパーみょん 都会派とか気取っていても 死ぬまでゆっくりを犯しつくすキ○ガイだみょん』
「ゆひっ…ゆ…ち、ちが…あり…す…は…」
『レイパーがレイパーと自覚しているなんてあり得ないみょん
どれだけ知的な振りをしていても全部すっきりをしたいがための演技みょん
孕ました相手も自分の赤子も喰ったり犯ったり、もうゆっくりでもなんでもないみょん』
「そんなこと… ありすは…しな……あ……ゆぎぃぃやあああああ!!!!!!!」
背後のちぇんは、傷をえぐる様な動きをすると
ありすを貫く痛みは中枢にさえ届いているのか確かな思考を奪っていく。
体を痙攣させていたありすの体から液体がにじむ。
『そんなのふらんと何も変わらないみょん ゆっくりを食い物にするレイパーは さっさと死ねばいいみょん ゆっくりに必要のない存在みょん』
「ゆぎっ…ゆああ…ゆぅぅぅう……あ… ありすは…れいぱー…じゃ………」
『みょんはさっき「触るな」といったみょん それに対してお前はなんて言ったのかみょん?
恥ずかしがり屋? 天邪鬼? それはレイパーのツンデレってやつかみょん? そうか わかったみょん』
そう言い放つと咥えている枝が使われ始めた。
みょんはありすの底部を回り込むように
何本も仲間から渡される枝を突き刺していき、ありすを地面に固定する。
一周すると木で作られた皿の上にありすがいるようだ。
「ゆぎゃぁああああああああああああ!!! ごんなの ゆっぐり でぎばいわぁああ!!! やべでぇええ!!!! やべでねぇえ!!!」
『やめてほしいのかみょん?』
「やべで!やべで!やべで!やべで! ありずが ずっどゆっぐりじぢゃう!!!!」
『みょんは 都会派のありすが ツンデレって知ってるみょん
"やめて"って事は "やめないで"って事みょん ゆっくり出来てるって事みょん
そんなに喜ぶなら もっとしてあげる…みょん!』
ぐじゅり。
体重を乗せて深々と差し込まれていく枝。
それはありすの下腹部にある穴を、無理やり切り広げていく。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なくなったありすの左眼からは止め処なく涙が流れ落ちた。
「ゆぎぃぃぃぃいいいい! だめぇえええええ!!!! ぬいでぇえええ!!!!!いだいいいいいいいい!!!!」
『涙を流すほど気持ちいいのかみょん? 言われなくても 抜かないみょん
そんなに体をよじって誘わなくても もっとやってあげるみょん 本当にありすは好きモノみょん』
抜き差しを繰り返す枝と共に ありすが内包していた乳白色の液体が下腹部から飛び散っていく。
歯を食いしばるありすの歯は、どれもヒビが入り欠けていく。
更に耐え難いストレスによって頭髪は少しずつ抜け落ちていった。
「やべで!やべで!やべでね! そこは いじっちゃだめぇえええ!!!! あがちゃん! あがぢゃあんが できなくなっぢゃううう!!!!!」
『こんなに喜んでもらって嬉しいみょん ここがいいのかみょん? 気持ちいいのかみょん?
ありすのふぁーすとすっきり?だかなんだかを貰えて嬉しいみょん』
血走った右目はカチューシャと同じ色になっていく。
もはや口なのか排泄口なのか、それとも子供を産む器官なのか
無残に引き裂かれ部位の区別もつかないカスタードを垂れ流す穴が一つ増えている。
「もぶ… やべで…ありずが…まりざど………ありずの……あがぢゃん……やべで もぶ…やべ…」
『まだしてほしいのかみょん? 素直じゃなくて ありすはツンデレさんで可愛いみょん
ありすのココは もうグチャグチャみょん でも頑張るみょん』
「やべで……やべ………………………………………………ゆ、ゆぐっ もっどじで じでいいばよ!!!! じでいいのよ!!」
ありすは閃いた。
みょんがありすの言葉をツンデレとして
真逆に捉えてしまうならばと、反対の事を叫んだ。
『わかったみょん』
「ゆ…」
みょんの蹂躙は止まった。
柔らかいゆっくりの体を無慈悲の破壊するだけであった硬い枝は、すぐに動きを止めた。
『ありすの望むとおり もっとしてあげるみょん』
「ゆっぎぃぃややぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!! どうじでぇえええええ!!!!」
ありすの命も
いつか出来る未来の小さな命も
たった一本の枝で、無残に削り取られていく。
「ゆぁぁぁああ……あ…ゅ……………ぁ…」
生きる事は積み重ねだ。
生きる事は受け継ぐ事だ。
自分が老いて最期は土へと還ったとしても
その経験と記憶は子供達が覚えてくれている。
だから死と呼ばれるものが怖くなくなるのだ。
だから消えてなくなる事に寂しさを覚えないのだ。
ならば子供を残せないとはどういう事か?
それは刻々と全てが無に帰えるまで、ただ何も出来ずに死を待って過ごすという事だ。
自分が感動した事も乗り越えた事も全てが消えてしまう。灰となり空へ溶けるか、土の下へ埋もれるか。
感情も結果も全てが自分だけで完結し、そして死んで何もかも無くなる。
今この時なら家族や親友が自分を覚えてくれているだろう。
しかしそれは自分と同じか、それより早くどこか遠くへ消えてしまう。
結局は親であり他人なのだ。そこで終わるのだ。
子供に自分の知識や生き様を伝える。
それは自分が世代を超えて生き続ける意味を持つ。
しかし子供を残せなければ、本当に朽ちて死ぬ為だけに…生に執着して無駄に生きているだけになるのだ。
「ゆひっ…ゆぐっ…ゆっ……ゆ? ……………………ゅ…ぁ……………………」
引き抜かれた枝先には自分の体内から取り出された袋のような物体がこびり付いている。
もう機能しない器官。
ありすが母になるためのモノ。
自分から取り除かれてしまったモノ。
もう子供が作れない。
自分が未来のない無意味な塊になった事実が、ありすを恐怖と悲しみに染めた。
「ゆああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
絶叫を放つありすの体は縮んでいく。
押し広げられた下腹部からは中身が搾り出されていった。
妹思いの優しいお姉さん。
そんな誰からも好かれた性格も
ありすが今まで生きていた思い出も
したかった事、叶えたかった事
れいむを気遣って隠していたまりさへの想いも
全てが土へ染み込んで、誰にも知られる事はなくなった。
【4】
ぱちゅりーは素早く跳ねる事も出来ないし体力もなく病弱だ。
それゆえ集落から遠く離れた森の景色を見た事がない。
しかし誰よりも危険に対して敏感であるぱちぇりーだからこそ
周りの草木の生え方、虫の声、そして肌から感じる空気から
群れで暮らしているこの森の変化に気づき始めていた。
至極丁寧に採取された花々。
踏み固めたのではなく、何かで切り開かれたような通り道。
それらは自分の属している群れの仕業ではないと思わせた。
群れの皆が知らないナニか。
ぱちゅりーすらも知らないナニか。
それが危険なのかどうか?
まりさ達が帰ってこない事と関係があるのか?
とにかく自分が持っている知識と用心深さを全て発揮し暗闇を進んでいった。
「むきゅっ むきゅっ む………けほっけほっ」
冷たい夜風を吸って咳き込みながらも、ぱちゅりーは跳ねる。
休み休み進む速度では、まりさ達を探しに行ったありすと引き離されるだけだ。
ならば賢いぱちゅりーにしか出来ないであろう方法。
消えたまりさに繋がる細かなヒントを見つけていくことが近道になるはずだ。
「…むきゅ?」
唐突に道がなくなった。
木々を縫って作れた通り道は行き止まりとなっている。
"しょうがない"、その一言を胸中で呟き、普段のぱちゅりーならば諦めていただろう。
けれど今のぱちゅりーには、あの子達の笑顔と大切なありすの姿によって
こんな暗い夜の森にいても恐怖に打ち勝つ事が出来る。
進んで暗がりに入り目を凝らす。
捕食種よりも怖い、ゆっくり出来ない怪物でも出てきそうな闇に目を反らしたくなる。
「むっきゅ!むっきゅ! がんばるのよ ぱちゅりー!」
すくむ己を自らの声で奮い立たせて、黒く塗りつぶれた奥へと近づいた。
何か鋭利な物でトンネル状に切り裂かれてしまっている茂みが目に入った。
いつもならば怪しい場所など、決して近づく事などないぱちゅりーではあったが
これがありすへ辿り着く鍵だと思うと急いで這って行った。
大人のゆっくりが ギリギリ通れるだけの幅。草木を刳り貫いたトンネルがあった。
ぱちゅりーでも無理をせずに通れるような綺麗な壁面に加工されている。
そしてトンネルの続く方向は、まりさがいつも語っていた狩場へと直線的に繋がっていた。
不意の落下や落ちている石などに注意して進めばいい。
ぱちゅりーは振るった事もない小さな枝を咥えると、心決めて暗い茂みの中に身を投じた。
茂みの地面は大きな石が取り除かれ葉っぱが堅く踏み慣らされている。
主に這って移動するぱちゅりーにとって、砂利が混じる普通の地面よりも移動しやすいものだった。
こんな芸当ができる仲間はいない。もちろん動物の仕業とも思えない。
全ての疑問も、ありすも、まりさ達も、この先にある気がしてならなかった。
「…むきゅ!?」
咥えていた小さい枝を落して呆然とした。
いつの間に冬が訪れたのだろうか。
茂みを抜けた先には真っ白い風景が広がっていた。
それが生き物だと気付くと、ぱちゅりーはウサギの群れなのではと思った。
必要な食料を集めるのに、夕暮れまで近場の狩りに同行していた時があった。
その時に出会ったウサギは、こんな風に白い姿と赤い眼をしていたのを覚えている。
しかし跳ねて逃げていったウサギと違うのは
数え切れない赤い双眸が一組、二組と次第にパチュリーに向けられていく事だった。
真っ白な髪が薄い月明かりに照らされ、対照的な赤い眼をしたゆっくり達。
それだけではない、その向こうには獣のような耳と尾を生やしたゆっくり達もいる。
かつて見たこともない奇妙なゆっくり。
しかも同じ種類が一箇所に集まって無言で佇んでいる。
異様だ。
まりさが帰ってこない事。
れいむが帰ってこない事。
ありすが見つからない事。
それを目の前の光景と論理的に考える事もなく
自然と ぱちゅりーの答えが口から漏れていた。
「あなたたちなのね!」
静かな夜空にぱちゅりーの声が響いたが、彼女達は微動だにしなかった。
唐突に現れた白い陰影に目が慣れてくると、白いゆっくり達が枝を咥えているのに気が付いた。
具体的な敵意を感じ取れる凶器を見て、ぱちゅりーは自分の置かれている状況をやっと理解した。
不慣れな長距離の登山を、息も絶え絶えに終えたぱちゅりーでは
到底逃げられる気がしなかった。
しかし黙ってどうにかされてしまうつもりはない。
相手が狼や梟ではなく、同じゆっくりならば対処する糸口があるはずだ。
「あなたたち…ありすを…れいむを…まりさを………………どこへかくしたの?」
『やっぱり ここには群れがいるみょん』
『わかるよー レイパーが 泣き叫んでた通りなんだよー』
レイパー? そんなものはこの山にはない。
独りで暮らしているありすなど聞いたこともないし、被害もない。
『ツンデレのレイパーが すぐに死んでしまって 場所が聞けなかったみょん』
『レイパーは本当に役立たずなんだねー』
死んだ? ずっとゆっくりしてしまった?
それが誰なのかわからない。
レイパーというならば、ありすのゆっくりであるハズだ。
もちろん誰よりも思いやりのある群れのありすの事ではないだろう。
ありす以外に夜の森へ出かけているゆっくりありすがいたという事か?
「あなたたち…なにをいっているの?…………………………………むきゅ!?」
ぱちゅりーへと急に投げて寄越された塊を、ぱちゅりーは避けることはできなかった。
衝撃に短い悲鳴を上げた。
恐る恐る目を空けて確かめと、幸い体に異常はなかった。
頭上に感じる重さ以外には。
ぱちゅりーの頭に覆いかぶさった物体は、ズルリと滑り落ちた。
立ち込める甘い臭いがぱちゅりーを包む。
ぱちゅりーは口を閉じた。
口内に充満する己の中身を出さないように。
「むきゅ!?…ゆぐぐっ……むきゅううう!?……ゆんぐぐぐくっ」
嘔吐を押さえ込んだぱちゅりーは、ゆっくりの上半身だけを見て震え始めた。
白目を剥いているように見えるのは眼球がないからだ。
もはや上半身とも言えない。
カスタードの内容物は残っておらず、もう皮だけしかない。
けれどカチューシャだけは、とても綺麗に残っていた。
ワザと残されたように。
「あ…りす? …ありす!?…………むきゅうううぅぅぅぅぅ…むきゅぅうううう……どうしてぇええ? どうしてなのぉお!?」
カチューチャに頬を当てると、ぱちゅりーは泣いた。
直ぐに冷たい夜風が涙を乾かしていく。
ぱちゅりーの声はありすに届かない。
ぱちゅりーがどんなに考えても知恵を振り絞っても。
何もできない。
考えるだけでは、もうどうにもできない。
ただ冷たくなったありすの欠片があるだけだ。
『どうしてかみょん? どうしてか分からないみょんか? みょん達がしたことが分からないみょんか?』
『わかるよわかるよー ちぇんは分かるんだよー』
「むっきゅあ!!」
耳付きのゆっくり達が、ぱちぇりーを跳ね飛ばすと ありすの残骸に群がった。
湿ったモノが潰れ、破かれ、踏まれ、その音がなくなると
ぱちゅりーの前には泥溜りしかなかった。
もう黄色や赤色はない。
「む、きゅ?…そ…んな……うそ……なんで………」
『わかるんだよー ちぇんが 潰したまりさや れいむと 同じなんだねー 頭が足りてないんだねー』
「なん…ですって?……あなたたち…なにを…まりさたちに なにをしたのよ! 」
『今みたいに 潰してゆっくりさせなくしたみょん ゆっくりしないで理解するみょん』
相手の名前なんか、どうでもよかった。
こいつらが全てを変えてしまった。
もう元気なまりさや、子供っぽいれいむの姿を見ることは出来ない。
ありすの笑顔も見ることは出来ない。
泣いて寄り添うことも出来ない。
何も残っていないのだ。
「むきゅううううう!!!!……………ありすを…まりさを…れいむを…かえしてよ!」
決して見ることは出来ない感情を剥き出しにしたぱちゅりーの表情。
涙を浮かべて まくし立てるぱちゅりーなど、まるで虫の雑音の様にしか思っていない顔でみょんが言い放った。
『ぱちぇりーは 頭の良い振りをした ゲスだみょん』
「むきゅ!? なにを…いってるの!? あなたたちは なんなの!? この ゆっくりごろし!!!」
『ぱちゅりーは 手足になる 子分達が潰されれば 何も出来ない ただのクズだみょん』
みょんが ありすがいた泥の上に跳ねてきた。
「こぶんですって? ありすも れいむも まりさも ぱちゅりーの たいせつなかぞくよ!!! あなたたちに なにがわかるのよ!」
『わかるよー 紫もやしのぱちゅりーだからねー あることないこと言って ゲスを率いて騙くらかすのが上手いんだねー』
「馬鹿なゲスしか引っ掛からない嘘で ゲス同士が馬鹿しあってるみょん」
ちぇんが笑いを堪えきれずに飛び跳ねている。
こいつらには悪意しか感じない。
とても同じゆっくりとは思えなかった。
どうしてこんなゆっくりが存在するのかぱちゅりーには分からない。
白いヤツは枝を咥えて座った視線を投げてくる、緑のヤツは動物のような鋭い牙を見せて笑っている。
目の前の全てを拒絶している。
何もゆっくり出来ていない。
けれどこいつらは辛そうでもなく悲しそうな表情もしていない。
『ちぇん達が追いかけっこしてあげるんだよー』
牙を見せびらかしているちぇん達は、仲間の一匹をぱちゅりーに見立てているのか
周りをグルグルと回るしぐさを見せて挑発してくる。
「むきゅ!」
ぱちゅりーは踵を返して跳ねた。
ここで ぱちゅりーも奴らの狂気にかかってしまえば全てが終わってしまう。
アレは本当にありすだったのか?
ありカチューシャを見間違えるはずは無い。
ありすの物だった。
そんな事。ありえない。信じたく無い。
もう二度と会えないのか。
言葉を交わせない。笑顔を見れない。温もりを感じられない。
続きは無い。ぱちゅりーとありすの未来は無くなった。
あずかり知らぬ所で終わらされた。
仇をとりたい。
けれどぱちゅりーにはその力がない。
今持っている感情のままに行動するのは賢者ではない。
自分の願望だけはなく、誰かを思いやる事。
それをぱちゅりーは先刻気づいた。ありすに教えられた。
だからこそ群れの皆がこいつらの暴力に出会わないためにぱちゅりーは跳ねた。
『待つんだよー 捕まえて 全部吐かせてあげるよー』
『小賢しいぱちゅりーが消えれば ゲス達に手を焼くのも 楽になるみょん』
どう逃げても追いつかれる。
だからぱちゅりーは、先ほど視界に入っていた小山に登っていった。
登りきったぱちゅりーが見下ろすと、緑色が睨み白いうねりが笑っていた。
ちぇん達はその長けた足を使わずに小山の下で待ち構えている。
まるで最期は自分で決めろと言っている様に。
『やっぱり馬鹿なんだねー そんなところに昇っても 意味がないんだねー どうするか見ものなんだねー』
『さっさと殺すみょん ゲスは まともな思考が出来ないみょん さっさと死ねばいいみょん もうウンザリだみょん』
すぐに追いかけず遊んでいるちぇん達に、枝を揺らしているみょんはイラだっているようだった。
「ゲス? ぱちゅりーの なにをみて そうおもったのよ! いいかげんにして!」
小山は囲まれ、もう逃げ道は無い。
『ぱちゅりーが ぱちゅりーだからみょん』
「むきゅ? ぱちゅりーは ぱちゅりーよ! だから なによ!」
『ぱちゅりーは 自分の手を汚さずに 他のゆっくりをこき使って 悪さをするゲスだみょん 最悪だみょん
何も知らないくせに いろんな嘘を言って 場を取り付くろうみょん 口だけは達者みょん』
『わかるよー 直ぐに吐いて死んじゃう 出来損ないのゆっくり だからだよーそうしないと 生きていけないんだよー』
『そうだみょん そんな自分で生きる力を持たないゆっくりなんかに 食料は無駄みょん 住処の邪魔みょん 今すぐ消えろみょん』
何がこいつらをそこまで思わせているか分からない。
その紅い瞳に嘘は感じられない。心底ぱちゅりーを毛嫌いしているのだ。
「そんな…そんなのって…」
『ぱちゅりーは 死ねみょん 役に立たない れいむも死ねみょん ゲスのまりさも死ねみょん レイパーのありすも死ねみょん』
「おかしいわよ! ぱちゅりーは うそをいわないわ! れいむだって がんばってるわ!
まりさも わるいこではないわ! ありすは!ありすは いちばんやさしいゆっくりなのよ! わるくいわないで!!」
『糞どもは 糞同士で 仲がイイみょん 自分のゲスさ気がつくハズがないみょん みんな糞なのにみょん』
みょんがちぇんを押しのけて進んでいく。
「わるいこも たまにはいるわ! でも みんなが ゆっくりしていれば みんな いいこになるのよ!
まちがったことをしたら なおせばいいのよ!」
『たまにいる? れいむやら まりさやら ありすやら ゆっくり出来ないゲスだけの中で 何を言ってるみょん
何も変わらないみょん ゲスはゲスのままだみょん』
「すべてが わるいゆっくりなわけないでしょう!? あなたのむれだって みんな せいかくがちがうでしょう!?」
『関係ないみょん ゲスゆっくりは れいむから まりさから ありすから そしてお前から 出てくるみょん だから殺すみょん』
『わかるよー 全部殺しちゃえば 安心なんだよー れいむや まりさがいなくなっても ちぇん達は 何一つ困らないんだよー』
悪いゆっくりは れいむ、まりさ、ありす、そしてぱちゅりーから現れる。
そして でいぶやゲスまりさやレイパーありすなどが、ゆっくりを破滅させる。
だからその源である種族を根絶やしにすればいい。元が無ければ産まれる事もない。
自分達はまったく違う種族であり、いくらそいつらが死のうと関係がない。
完全な排他的で独善的な思想があった。
「…そんなの…へんよ! おかしいわよ! ゆるされないわ!!!」
『もう いいみょん どうせ今すぐ殺されるみょん』
群れの皆が殺される。
まりさが頑張って集めた食料も
れいむが歌いゆっくりしていた巣も
ありすが世話をした幼い子供達も
全て奪われる。
こんな狂った考えによって。
「むきゅ…させないわ………ありすと れいむと まりさが だいすきだった むれを……そんなこと…」
『もういい黙れみょん そこで じっとしてろみょん』
みょんはちぇんの壁を突破し小山に跳ねた。
咥えていた枝は根元が折れるほど力がこめられ瞳は血走っている。
そして、
ぱちゅりーは叫んだ。
「ゆ っ く り し て い っ て ね !」
ぱちゅりーの声が響き渡る。
突然の大声にちぇんは耳を窄めさせて、後方のみょん達は枝を落しそうになっていた。
しかし先頭のみょんだけは怒りを露にする。
『この後に及んで 何を言ってるだみょん!? お前達に ゆっくりする資格も ゆっくりしてやる義理もないみょん!!
その帽子を引き裂いて 目玉を穿って 舌をすり潰して 砂利と泥に混ぜて 殺し尽くしてやるみょん!!!』
みょんが小山に跳ね上がろうとすると、花に眼を奪われた。
紅い花がみっつ。
ただの花だ。
どうして気になるのか分からなかった。
ここを拠点にしてから、よく地形を観察していたはずだ。
しかしこんな花を見掛けた覚えはない。
いいや、あのゲスまりさが隠していた食料と同じだ。
どうして今まで仲間から採取されていなかったのだろうか。
まるで今咲いたようにも感じられる瑞々しい赤色だった。
『…みょん?』
おぼつかない底面から地震が起きたと考えた。
が、そうではない。
山の勾配が変わったのだ。
みょんが小山から転げ落ちると、ぱちゅりーは遥か頭上にいた。
『わ、わからないよー????』
ちぇん達はとっさに小山から散っていた。
散り散りになるちぇんと入れ替わってみょん達が、リーダー格のみょんの後ろに並んだ。
『いいや、わかるみょん』
振動が収まるとゆっくりと小山は横に回転し始めた。
数メートルにも及ぶ巨大な三角錐の上にぱちゅりーがいる。
山肌は土の色と言うより灰色に濁っていた。
頂上は黒く染まり自然の色には見えない。
ふいに生暖かい風が吹き付けてきた。
それは小山から開いた口であり、巨大な緑色の瞳が草木の間からみょんを捉えていた。
『…ドゲスみょん』
『わ、わかるよー デクの坊のドスなんだよー』
反射的に一時退避してきたちぇん達が、小山の正体が判明するやいなや再び集まってきた。
『糞ゲス共が増長する根源みょん こんなのがいるから ゆっくり出来ないんだみょん』
大木のようなドスまりさに対峙しても、みょんが臆する事は無かった。
なぜならば、この群れはドスすらも葬っていたのだ。
熱線や巨体の攻撃は堪えれるものではない。
しかしあくまでゲスまりさをスケールアップしただけのドスだ。
体中を枝と牙で傷つければ泣き叫ぶし、木々を倒して追いかけて来ることも無い。
ただデカいだけだ。
無駄に頭が聞く分、こちらの挑発に乗せられたり仲間ゲスのためにじっとしていたりもする。
『なんて事ないみょん それがゲスのぱちゅりーが 無い知恵を搾り出した結果みょん?』
ぱちゅりーは惚けたような顔をしている。
このドゲスが例のオーラでも出しているのだろうか。
ならば一つ突き刺しでもすれば収まる。
ドスに振り落とされて潰れてしまえばいい。
『ゆっくりしないで ドゲスごと死ねみょん』
みょんがゆっくりの急所であるドスの底部に枝を突き刺した。
そして何度も切り刻もうとしたが
『…みょん!?』
枝が引き抜けなかった。
分厚い皮に引っ掛かったのかと、仲間から新しい枝を受け取ろうとしたが。
『わわわわわわからないよー!?』
突き刺された枝は――――――瞬く間に成長し葉を茂らせた。
『みょん!?』
棒切れが、まるで接木されたように命を宿して木になったのだ。
ドスの底部から生えた枝は風に揺れている。本物だ。
『…し、知らないみょん こんなの知らないみょん』
知らないことはそれだけではない。
そもそもドスの形自体が今まで狩っていたヤツと違っていたのだ。
巨大な三角帽子には、小山に生えていた草がそのままカビのように茂っている。
そしてハリもなくしわがれた帽子の先端には、大きなランタンが吊り下げられ火が灯っている。
それも青白い灯りだ。その灯りは暗い森を照らし浮かびあがらさせて、まるで地面に降りた月の様だった。
肌の質感も ゆっくりとは思えない。
血色の悪い頬は、まるで乾燥した泥のようにヒビ割れて剥がれ落ちてしまいそうだ。
幅の広いツバから落ちている無数の蔦(ツタ)は、蛇のように風に揺れてうねっている。
ドスは何もしゃべらない。元々言葉を発していない様に、夜の湿った空気だけを取り込んでいる。
揺れるランタンの明かりがドスの髪を青白く照らしだすと、リボンや帽子が結ばれているのが覗えた。
結ばれていた言うより、まるで何処へも逃げられないように捕まえられている様にも見える。
薄い金髪に半ば溶け込んでいたのだ。その数はみょん達の群れの比ではない。
途方も無い量の飾りは数えられるはずも無く、まるでゆっくりの死体に群がる蟻軍隊のようにビッシリと存在していた。
『み、みょん! 皆 動けみょん!』
仲間が呆気に取られている最中、みょんは早かった。
ドスが口を大きく開けるや否や口蓋から光が溢れる。
『わかるよーーーーーー!!!!!!』
直線的なドスパークなど、大振りの間抜けな行動である。
ドスの正面にさえ居なければ恐れることも無い。
ちぇんとみょん達が左右に分かれると…ドスパークは放たれた。
『馬鹿なんだねー 当たるワケないんだよー!!!!』
『無能な ドスが 群れの長とか 笑わせるなみょ―――――
熱風も振動も無い。
ドスから放たれた光は森を焦がさなかった。
ただ眩い閃光が無音で辺りを照りし尽くした。
凄まじい光に飲まれた後、みょん達はその場に無傷で残っていた。
【5】
「むきゅ?」
ぱちゅりーが眼を覚ますと、冷たい夜風に身を震わせた。
確か得体の知れないゆっくり達に追われていたはずだ。
『なん…なんだみょん………』
眼下にあの白いゆっくりがいた。
その姿には傷一つないが、とても苦しそうにしている。
「むきゅ!?」
100匹のゆっくりが ぱちゅりーを見つめていた。
そうだ、気の触れた群れから逃れて この小山に登った。
自分の知っている知識を信じて。
『みょん達が… 何をしたんだみょん…どうして…みょん…』
みょんは枝を咥えていなかった。
ちぇん達の口は閉じて牙は見えない。
他のみょん達も枝を落してぱちゅりーを向いていた。
「あなたたちは ありすを……まりさを… れいむを… みんなを うばったのよ!」
『みょん達は…ゆっくりしたいみょん…ちぇん達も…ゆっくりしたいみょん…
だから ゆっくり出来ないやつらを 殺すみょん 何も悪くない…みょん…』
体を引きずるように這って、みょんはドスの腹を登っていく。
「みんなが わるいこ じゃないわ!」
『それは たわ言みょん… どんなれいむも まりさも ありすも… どうせ いつかゲスになるみょん
だから善いとか悪いとか 違いなんてないみょん…全部 殺す…みょん…
れいむや まりさが いなくなっても…何も 困らないみょん
みょんでも ちぇんでもない やつらみょん…どうなろうと関係ないみょん…』
みょんの紅い瞳が淡くなっていた。
「それでも… いたとしても そんな ゆっくりできないゆっくりとは かかわらないわ!」
『その通りだみょん… お前達は追い出したんだみょん…
ゆっくり出来ない 普通でないゆっくりを 群れから追放したんだみょん』
ドスの足元にいたちぇんが無表情のまま倒れた。
するとぱちぇりーの足元から一本の茎が伸びる。
たちまち蕾を実らせると、見たことも無い紅い花が咲いた。
『異端を…排除してきたみょん 普通ではないから 自分達と違うゆっくりだから…
どうせ困らないみょん……自分達は沢山いるからみょん…その小さな一角を追放しても そいつらが外で野垂れ死のうが…関係なかったみょん…』
更にちぇんやみょん達が地面に倒れると
その度に ぱちゅりーの足元からは…いや草に覆われたドスの帽子には紅い花々が咲き乱れる。
『みょん達も 同じみょん…
れいむでも まりさでも ありすでも ぱちゅりーでもないから 普通じゃないゆっくりだからみょん だから…』
みょんがドスを登る度に、紅い花で三角帽子が飾られていく。
『見た事が無いから… 気味が悪いから…巣から追い出され…希少種だからと…人間に捕まえられ…
そして 仲間じゃないから…ゆっくりじゃないから…助けてもらえないみょん…』
「あなた…いったい…どこから…」
『みょんの傷は… ふらんにカジられたものじゃないみょん…
人間の里で作られたみょんが… 逃げ出して…やっと出会えた…同じゆっくりに… …切られて…』
99本の花が月を向いている。
『…ゆっくり………できない…………化け…物は……死ね………って…………みょん…………………………………………………』
ドスから落ちていくみょんの瞳は、髪と同じ色になっていた。
『……れいむは…死ね…』
『……まりさは…死ね…』
『……ありすは…死ね…』
『……みんな…死ね…』
紅い花畑に佇む ぱちゅりーの姿は、とても白く感じられた。
捜索隊が見つけたのは美しい100輪の花々だった。
きっとまりさが自分達を驚かすために黙っていたんだと、ゆっくり達は喜んだ。
少し離れた所にも寄り添う4輪の紅い花があったのだが
仲睦まじさに微笑むと「ゆっくりしていってね!」と声をかけて後にした。
by キーガー(ry
ゲスを制裁するだけ
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ゲスとか
レイパーとか
でいぶとか
みんな死ねばイイのに
「ゆっへっへ! ここは なかなかの おうちなんだぜ! だから まりささまの ゆっくりぷれいすに してやるんだぜ!
もんくが あったら まりささまが えださんを おめめに つきさしてあげるんだぜ! まりささまに さからうんじゃないんだぜ?
そこの れいむは なかなかの びゆっくりなんだぜ! まりささまのために きれいになるなんて かわいげのあるやつなのぜ! 」
「んっほおおおおおおおおおおお!!!! いやいやいっても ここはしょうじきなのねえええ!!!! かわいいわあああ!!!
あなたったら ほんとうに つんでれなのねええええ!!!! ありすが いっぱい あいして あげるからねえええ!!!!
でも ごめんねえええ!!! ありすは みんなに あいされるうんめいなのおおおお!!!! いちやかぎりの あいなのよおおお!!!」
「なにいってるの? ばかなの? しぬの? れいむはしんぐるまざーなんだよ! かわいそうなんだよ!
やさしくしないといけないんだよ! ゆっくりしないで りかいしてね! ばかな かおして なにしてるの?
はやく れいむと かわいい おちびちゃんに あまあまを もってきてね! たくさんでいいよ!
れいむの かわいい おちびちゃん~ おかあさんが おうたをうたってあげるからね~ ゆ~♪ゆゆ~♪ゆゆ~ゆ~♪ゆ~♪ゆゆゆ~♪」
【1】
人里離れた山の奥深く。
ここにもゆっくり達がゆっくりと暮らしていた。
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!」
黒い帽子が山道を登っていく。
森が豊かに実り始めて次第に赤く染まってきたある日。
若いまりさは群れを離れて狩りに出かけていた。
「これは たべられる きのみさんだね! おぼうしさんが おもたいけど みんなと いっぱい むーしゃむーしゃ するから がんばるよ!」
良い匂いのするキノコ、丸いどんぐり、甘そうな虫、そして山菜と
張り詰めんばかりに膨れ上がった三角帽子のせいで
あっちへヨロロヨ、そっちへフラフラと跳ねていった。
「ゆ? きれいな おはなさんだよ!」
行きには気付かなかったけれども
小山の陰には赤く鮮やかな花が一輪だけ咲いていた。
森の紅葉にも勝るとも劣らない真っ赤な野花だ。
花も主食にするゆっくりだからこそ、いろんな植物を目にしているが
こんな綺麗な花は見た事がなかった。
小山をくるくると回ってみたが、やはり一輪しかない。
「すっごいあかいよ! れいむの おりぼんさんみたいだよ!」
まりさは花の周りを跳ね回っては
いろんな方向から眺めて目を輝かせている。
「おはなさん ゆっくりしてるのに ごめんなさい! まりさは れいむに ゆっくりしてほしいから おねがいだよ!」
たった一輪しかない綺麗な花に額を地面にこすり付けて謝ると
まりさは頭の帽子を落とさないように器用に花を摘んで帽子の中にしまった。
「おはなさん まりさのおぼうしさんの なかで ゆっくりしててね!」
まりさには幼馴染のれいむがいた。
れいむは群れで まりさの帰りを待っている。
群れで暮らすゆっくりならば集団で助け合いながら狩りをするものだ。
しかしまりさは怪我や迷子も恐れずに一匹で この狩場に来ていた。
元々一匹だけで来る場所ではあるのだが
皆のご飯を集める思いの傍らには
れいむだけのご飯を食べさせたい。
れいむだけの宝物を見つけてあげたい。
そういう心を持っていた。
まりさはどうして自分がそんな事を思ってしまうのか
全然わからないほど若かった。
けれど、れいむのためにゆっくりしないで頑張っていると
何故かどんなに疲れていても体の中からポカポカしてきて、とてもゆっくり出来るのだった。
「ゆっくりしないで かえるよ! まりさの ぴょんぴょんに びっくりしないでね ごはんさん!」
まりさは頭の三角帽子のバランスを確かめると急いで山を下ろうとした。
すると茂みが揺れたかと思うと山道を横切って、長~いナニカが視界に入って来た。
「ゆ~ん?」
せっせとご飯を持ち帰るまりさの前に現れたのは、遠い国から渡ってきた旅のゆっくり達だった。
「いっち にぃ~ さ~ん… ゆ~んと ゆ~んと… いっぱい いるよ!」
10匹、20匹、いいや100匹もの連なる隊列を組んでいるのは
れいむでもありすでもぱちゅりーでもなかった。
「すっごい しろいし!! すっごい みどりだよ!! まりさは はじめてみたよ! びっくりだよ!」
今まで見たこともない不思議な姿のゆっくり達は、まりさの好奇心を大いに刺激した。
一体どんな子達なのだろう。お友達になれるかな?
しかしまりさが真剣に悩む必要はなかった。
何故ならば、すぐに仲良くなれる方法があるからだ。
「ゆっくりしていってね!」
まりさが交わした挨拶に旅団は止まってくれた。
しかし、いつまで待っても返事を返してくれる様子はない。
声が届かなかったのだろうか?
それともびっくりさせてしまったのだろうか?
ちょっと済まなそうに思ったまりさだったが
相手の返事が待ちきれずに話しかけ始めた。
「………えっと、どこからきたの? ここは まりさと れいむと みんながいる もりだよ! ゆっくりしていってね!」
普通ならば同じように「ゆっくりしていってね!」と返事を返す礼儀があるのだが
やはり何も答えることもない旅団を見て まりさは首をかしげている。
「ゆ?」
白くて緑色な彼女達は まりさを一瞥すると、いくつかの集団を設けて相談をし始めた。
「まりさと ゆっくりしようね! いまは もりさんが とっても ゆっくりしているよ!」
上品で気が利くありすほどの"おもてなし"が出来るまりさではなかったが
自分が知っている限りのゆっくりで、新しい友達を作ろうと頑張った。
しかし密談を交わしあっている相手の顔は どんどん険しいものとなっていく。
「どうしたの? なにかあったの? まりさが できることだったら てつだうよ?」
集団の神妙な顔つきに山のまりさは心配すると、急いで彼女達の輪へと近寄った。
遠くからだと白や緑の帯に見えていた彼女達は
この山では見かけることがない、"ゆっくりみょん"と"ゆっくりちぇん"で構成された大きな群れだった。
まりさが今まで一度も見たこともない
白い色と綺麗なツヤを持った髪や
緑の帽子と可愛い耳や尻尾の姿に見惚れていると
相談し合っていた一つの輪から一匹のゆっくりみょんが語り掛けて来た。
『まりさは、まりさみょん?』
「まりさは、まりさだよ! よろしくね!」
挨拶も返さずに突然質問を浴びせられ驚いたまりさだったが
きっと長旅でゆっくり出来てなかったんだろう。
だったらまりさがゆっくりさせてあげようと思った。
みょんの綺麗な瞳に見つめられ澄んだ声色を聞いていると、なんだかふわふわした気分になったが
怒ったれいむの顔を何故か思い出したので、まりさは体をゆんゆんと振ってみょんの話しを聞き始めた。
『まりさは どうしてこんな山の中に独りでいるみょん?』
「まりさは かりをしているんだよ! みんなは どこへいくの? まりさが あんないしてあげるよ!」
知らない所はゆっくり出来ない。
どこでご飯を探せば良いのか。どこでお昼寝したら良いのか。
まりさは皆のために山を跳ね回り、群れの外に関しては一番の物知りさんだった。
『みょんたちは 新しい食料を探して旅をしているんだみょん』
「そうなんだ! ここは まりさのおきにいりの ばしょなんだけど いっしょに ごはんを あつめようね!
あっちに どんぐりがあるよ! あそこのおやまには きれいな おはなさんがあったんだよ! あとね! あとね!」
まりさには名乗ってはくれなかったが
白髪で黒い飾りをつけているのは"みょん"というらしい。
かっこいい外見とは裏腹に ちょっとヘンテコで可愛いしゃべり方だとまりさは微笑んだ。
一匹のみょんとお話出来たことによって、100匹のお友達が出来た気分にまりさは感じていた。
お友達はゆっくり出来る。
おしゃべりしたり、遊んだり、一緒にご飯を食べたり。
一匹の友達でもゆっくり出来るのに100匹のお友達が増えるのはとてもゆっくり出来るという事だ。
『そうだみょん ここは木の実が沢山あってゆっくり出来るプレイスだみょん』
「そうだよ! おいしい くりさんや あけびさんが あるんだよ! みんなで ゆっくりしようね!」
『…でも、みょん達は沢山いるんだみょん』
「ゆーん…そうだね こんなに たくさんだと みんなで むーしゃ むーしゃ できないね…」
一匹一個だとしても相当探さなくてはならないし
一個だけむーしゃむーしゃしても、しあわせ~にはなれない。
まりさはどうにか新しいお友達とゆっくり出来る方法はないか、ぐるぐると頭を悩ませた。
誰かがゆっくり出来ずに悲しい顔をしていると
まるで自分もゆっくり出来ない気がしてくる。
同じ森で暮らす皆だから、誰もがゆっくり出来るはずなんだ。
皆が誰かのゆっくりのために、ほんの少しゆっくりしないで頑張るだけで
皆がゆっくり出来るようになる。
幸せになれる。
それは、まりさが経験して理解して山を駆けて餌を探す今の暮らしの信条なのだ。
「ゆーんっ ゆーんっ ゆーんっ ゆーんっ」
体を捻ったり、くるくる回ったり、帽子を一旦おろして逆さまにひっくり返ったり
知恵熱で今にでも蒸気を出しそうに真っ赤になっているまりさ。
『だったら…少ないご飯は、食べても良いゆっくりだけが 食べればいいみょん』
「そうだね! そうしようね!……………………………………………………………ゆ? どういうこと?」
何も妙案が浮かばないまりさは、みょんの一声を聞くやいなや反射的に賛成してしまったが
一体全体 何がどういう話なのかわからなかった。
「ごはんは みんなで たべるものだよ? みんなで たべると ゆっくりできるよ!」
『だって 皆でご飯を食べたら全然足りないみょん 無理だみょん』
「ゆぅ… このちかくで ごはんさんのあるところは ここしか まりさは しらないの… ごめんね…」
ここからだいぶ離れたまりさの集落は、食べ物が安定して手に入れられる辺りに作られている。
しかし群れの近くは子供達の狩りの練習や、怪我をしていて跳ねれないゆっくり達
年老いてノロノロとゆっくりした家族達の狩場になっていた。
だから若いまりさは皆の知らない山道を一生懸命登り進み
美味しいご飯の落ちてるゆっくりプレイスを探すのが仕事だった。
それで見つけたのが山の上にあるこの狩場だ。
運動に長けているまりさ以外のれいむやぱちぇ達でも
楽に通ってこられる道筋などが上手く見つからないため
場所だけは教えているが、今のところ若いまりさだけが通ってきている。
もちろん独りで狩りをするのは危険な事ではあるが
そのお陰で皆の知らない綺麗な花を
群れで待っているれいむにプレゼントできる機会が出来たのだ。
今日はお友達がたくさんできた事をれいむに話してあげよう。
そんな考えが顔に出てしまいニコニコしていたまりさだったが。
『ちぇんは わかるよー 嘘なんだねー』
「ゆ!? まりさは うそなんて ついてないよ???」
みょんの横から緑色の帽子を被り、動物みたいな耳付きゆっくりが顔を出してきた。
『まりさは 嘘をついているんだねー ちぇん達が 沢山いるから お気に入りの場所を盗られないように 嘘をついているんだねー』
「ゆゆ!? ごかいしないでね! みんなで ゆっくりする ぷれいすだよ! かくしてる ばしょなんてないよ!」
耳付きゆっくりのちぇんが、どうしてこんな酷い事を言ってくるのか全く分からなかった。
喧嘩はゆっくり出来ない。
まりさに悪いところがあるのなら、すぐにでも謝りたかったが
ちぇんの考えている事が全然理解できなかったのだ。
『駄目だよー 独り占めは良くないんだよー ゆっくり出来ないよー』
「ひとりじめなんかしてないよ!!!たしかに ここは まりさの とっておきだけど
ちゃんと みんなで こようと おもってるよ!!! ぷんぷん!」
どうやら白と緑のゆっくり達は
先住しているまりさが もっと沢山の狩場を知っているのに黙っていると思っているらしい。
しかしまりさはそんなつもりどころか、そんな考えすらもなかったのに。
この場所は群れの皆へ既に教えているし、まりさが皆が来やすい道を見つけたら
ぴょんびょん跳ねるのが不得意なれいむと一緒に もちろん他の友達も誘って来ようと思っていた。
まりさがココを見つけたのを自慢する気はないし、一匹よりも皆でご飯を食べたり狩りをする方が楽しいからだ。
『…わかってるみょん 下手な演技だみょん』
「ゆゆゆ!? なにをいってるのか わかんないよ! まりさが おばかで ごめんね! ゆっくり せつめいしてね!」
あれだけ美ゆっくりだと思っていたみょんの目は
困惑しているまりさの顔をおっかなく睨んでいる。
せっかく仲良くしようと思っていたのに、あのちぇんのせいで台無しになってしまった。
みょんとちぇんは一つの群れの仲間であり、同じ群れの意見に賛成してしまうのはしょうがない。
"まりさが嘘つき"という誤解を解くのは簡単にはいかないだろう。
けれどまりさは今まで嘘をついたことはないし、嘘をついたとしても下手で すぐにバレるだろう。
この子達とちゃんとお話すれば、きっと分かってくれると考えていた。
『まりさは すぐに嘘をつくみょん 知ってるみょん』
「ま、まりさは うそなんてついてないよ?! ゆっくりしないで しんじてね!!!」
『わかるよー また嘘をついてるんだねー』
ちぇんは素早い動きで、みょんの背後から跳ね出るとまりさが眼を回すような反復運動をして近寄り
あっという間にまりさの黒い三角帽子を奪ってしまった。
「ゆ!? それは まりさの だいじな おぼうしさんだよ! ゆっくりできないから はやくかえしてね!! おねがいだよ!!!」
急いでちぇんへと跳ねるまりさをみょんが塞いだ。
『まりさは みょん達を騙して 独り占めしようとしたみょん
そんな嘘つきなんかに ご飯を食べる必要なんかないみょん もったいないみょん』
ちぇんからみょんへと受け渡された帽子の中には、今までまりさが集めた狩りの成果がたくさん入っていた。
それを躊躇なく帽子から取り出して、みょんは美味しそうに租借していく。
『こんなに美味しいものを 隠すなんて 酷いまりさみょん』
「それは まりさが さきにあつめたものだよ! だから まりさの ごはんだよ!!! どうして かってに たべちゃうの!?」
『先に見つけたから なんなんだみょん さっきは皆で むーしゃむーしゃとか 言いってたみょん』
まりさが楽しみにしていた丸々と太って甘そうなイモ虫は、みょんのお腹の中に収まってしまった。
『嘘つきに 付き合うのは 疲れるんだねー わかるよー』
「まりさは そんなこ じゃないよ! …ゆゆゆ? それは だめだよ! ぜったいに だめだよ! それは れいむの―
特別綺麗に仕舞ってあった綺麗で真っ赤なお花。
群れで待っているれいむのために摘んだ宝物は
ちぇんが舌先で散々遊んだあげく飲み込んでしまった。
「ゆあああああ!!!! ど、どうして そんなことするの?! ぜんぜん ゆっくりできないよ!!!」
『どうしてかみょん? これだから まりさは嫌なんだみょん 自分をわかってないみょん 大体みょんは ゆっくり出来てるみょん』
「みょんだけ ゆっくりするのは わるいことだよ! みんなで ゆっくりしないと ゆっくりできないんだよ!」
『みょんが悪いゆっくりだと思ってるのかみょん? そんなことを嘘吐きの悪いまりさに 言われるなんて悲しいみょん』
近くにいた同じみょんやちぇん達によって
あっという間にまりさが集めたご飯は、たいあげられてしまい
三角帽子は元の大きさに戻ってしまった。
「それは まりさたちの ごはんさんなんだよ! それは れいむのために あつめた おはなさんだよ!! もう やめてね!」
こんな酷い奴らの友達になんて絶対になってあげないとまりさは心に誓った。
こんなにゆっくり出来ないゆっくりは始めてだ。
まりさがゆっくりしないで遠くまで来て
せっかく皆のために集めたご飯は全部食べられてしまった。
れいむの為に摘んだお花も食べられてしまった。
まりさには何も残っていない。
皆を、そしてれいむを喜ばしてあげられる物は全て消えたのだ。
みょんとちぇんが笑顔でにやけている中で
まりさの心には悲しさだけが満ちている。
『微妙な 味だったんだねー』
ちぇんが花の茎を嫌そうにペッと吐き出した。
れいむの悲しい顔が浮かんだ刹那、まりさは自慢のあんよで思いっきりちぇんに飛び掛った。
「ももももう おこったよ!!!」
体を勢いよく収縮させて全力で飛び掛ったまりさ。
しかしあくまでみょん達は、性格が悪いだけなので
大怪我をさせないように痛いだけの突進をちぇんに打ち当てようとした。
『わかるよー!』
「ゆ!?」
ちぇんは素早くそれを交わすと近くにいたみょんへと、まりさは勢いよく突っ込んだ。
みょんが突き飛ばされると、咥えていた三角帽子が口元から離れて
中にあったご飯の残りカスが土の上にバラ撒かれた。
倒れて頬を薄く腫らしたみょんは、黙ったまま散らばるゴミを見つめている。
『…スめ みょん』
『わかるよー ちぇんは 知ってるよー まりさは そうやって すぐ暴力を ふるうんだよー 野蛮なんだねー ゆっくりできてないんだよー』
みょんを介抱しつつ しかめっ面をしているちぇんに
起き上がったまりさは大声で反論した。
「そ、それは みょんが まりさのごはんを かってに たべたからだよ!! ゆっくりしないで はんせいしてね!!!」
起こって体当たりをしたのは確かに悪い事だ。それは謝りたい。
だからみょんもまりさのご飯を勝手に食べた事は謝って欲しかった。
もちろんちぇんもだ。
『わかったよー だったたら みょんは 悪い子だから ゆっくりしないで 殺すんだねー
悪いゆっくりがいると ちぇん達の 群れが おかしくなるからねー』
「ゆゆゆゆゆゆゆ!?」
悪い奴は死ね。そんな一つもゆっくりしてない端的な考えにまりさは理解が及ばなかった。
確かに悪い事はしたけど、ゆっくりさせなくするつもりは全くない。
どうして同じ群れの仲間にそんな事を言えるんだろうか。
ちぇんに引き起こされたみょんは、ちぇん達から鋭い視線を投げかけられている。
まりさの帽子を咥えて勝手にご飯を横取りしたみょんだったが、まりさは心配になってきていた。
『わかったみょん…みょんは 悪いやつだみょん まりさは それに気付かせてくれて ありがとうみょん 』
みょんは何も反対しなかった。
このままでは自分の群れによって取り返しのつかない酷い扱いをされるというのに。
「べつに まりさは そこまで おこったわけじゃないよ?! だめだよ! いたいことは しちゃいけないよ! やめようね!」
まりさの怒りは既に冷めていた。しかし
『みょんは いつかきっと 取り返しのつかない事で 皆に迷惑をかけてしまうみょん』
『わかるよー なら 今すぐ殺すよー さっそく殺すよー まりさは 取り押さえてて欲しいよー 』
ちぇんの口から生えている鋭い牙が視界に入ってくると
怖い言動が真実であると、さすがのまりさも事の深刻さに気付いた。
目の前のみょんが目も当てられない悲惨な姿にされてしまうと。
「だめだよ!!!! やっちゃいけないよ!! そんなの ゆっくりできないよ! なかよくしようね!!!!
ちぇんたちも つまみぐいしたでしょ!? みんなで はんせいして ゆっくりしようね!!」
『わからないよー どうして かばうのー? そいつは まりさの ご飯を 奪ったんだよー? 早く 殺すんだよー
ちぇん達も みょんに のせられなければ 悪い事はしなかったんだよー』
「わるいことをしたら いっしょうけんめい あやまったり! ほかに ゆっくりできることを してあげればいいんだよ!
ずっと ゆっくりさせちゃうなんて ひどいよ! そんなのは ぜったいだめだよ!!!!!!」
ちぇん達は牙をカチカチと鳴らしている。
まりさの声がどれだけちぇんに届くのかは分からないが
まりさが出来るのは ひたすら叫ぶことだけだ。
「だめだめだめ! ぜったい だめだよ! まりさは みょんを ゆるしてあげるんだよ! もういいんだよ!」
『まりさ…いいんだみょん 仕方ないみょん みょんは 悪い子だったからみょん』
みょんは地面を見つめて深くうなだれたままだ。
「みんな やめてね! みょんに いたいことをするなんて まりさが ゆるさないよ!!!」
ジリジリとみょんに近寄るちぇん達の前に帽子も武器もないまりさが立ち塞がった。
あれだけ素早いちぇんには、いくら跳ねるのが得意なまりさでも相手が出来ないだろう。
けれど罪をちゃんと認めて顔を暗くしているみょんが一方的に殺されてしまうなんて許せなかった。
そんなのは間違ってる。
ゆっくり出来ないなんて間違ってる。
そしてみょんの味方は自分しかいない。
だからまりさがみょんを助けるんだ。
『わからないよー 今すぐ そこをどくんだねー』
「いやだよ! まりさは うごかないよ!」
これだけのゆっくりに囲まれて正直あんよが震えてた。
しかしまりさはどかない。
『みょんは 悪い奴なんだよー まりさは 知ってるよねー』
「でも! でも!」
沢山の牙が迫ってくる。
その一つ一つはとても痛いものだろう。
涙が出そうだった。
でも、
「みょんは まりさの ともだちになる ゆっくりだもん!!!」
山に住むゆっくりとして、いろんな危険を乗り越えてきたまりさだったが
何の策も準備もなく脅威の前に立つのはとても恐ろしく心底怖かった。
けれど
まりさが正しいと思っている事。
それに対して自分を貫ける自信が、背後に隠したみょんの温かさから沸いてて出てきた。
『わかったよー なら…まりさが死ねばいいんだねー』
「ゆ?」
ちぇんはまりさの左側に噛み付いた。
他の前歯よりも長く太い犬歯が眼球に食い込む。
吹っ飛ばされる 叩かれる 石をぶつけられる
そんなものとは比べ物にならない
予想だにしなかった激痛がまりさから悲鳴すらも奪っていた。
まりさは懸命に振り払おうとするが同じ体格のちぇんでは容易ではない。
なおかつ痛みによって思考も混濁している。
『みょんが 悪くないのなら やっぱりまりさが悪いって事なんだねー
ご飯を 独り占めするまりさは 死ねば良いよー 皆がゆっくりするには邪魔なんだよー』
「…!」
まりさのおめめは見えなくなっちゃた。
こんな顔をれいむに見せたくないよ。
れいむは泣いちゃうかな。
遠くのお父さんやお母さんが知ったらどう思うのかな。
おめめが半分見えないと ご飯を集めるのも大変なのかな。
それよりも痛いよ。
転んだ時も、おっきな虫さんに噛みつかれた時よりも、ずっとずっと痛いよ。
痛い痛い痛い。
ゆっくりしたい。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
ゆっくりし
『わかるよー 嘘つきまりさの 目玉なんて汚いよー でもしょうがないから 噛み潰すんだよー』
近くで水っぽい音がするのをまりさは聞いた。
「…ゅ………………ゅゅ……………………ゆぎぃやぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
喧嘩といっても体当たり程度しか経験したことのないまりさ。
体が欠損する。
それも眼球が破裂するという感覚は、ついに喉が枯れるほどの絶叫をまりさから産み出した。
『嘘つきでも 痛いんだねー やめてほしいかい言うんだねー? だったら 今すぐ みょんから どくんだねー じゃないと もっと痛くしてあげるんだねー』
噛み付いたまま器用に脅すちぇんの牙は、更に頬と眼孔に食い込こんで深く切り刻んでいく。
「ゆあああああああああああああああ!!!!!!!!」
もう痛いとしか考えられない。
頬を伝うのが涙なのか自分の餡子なのかも分からない。
『痛いのが嫌なら ゆっくりしないで どくんだねー そしたら みょんを さっさと殺してやるんだよー』
「ゆがああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ゆっくりなのか どうぶつなのか 判別もつかない悲鳴が山に響く。
先ほどまで思い描いていた仲良しのれいむの姿も
見えない左眼と視点の会わない右眼が、赤黒い物体にしか結んでくれない。
まりさは舌を突き出し、薄茶色の泡を吹き、体液と涙の混じったもので頬を濡らす。
まりさは正しいんだ、勝手に盗られたから怒った、新しい友達に狩場を教えた。
みょんは悪い事をした、けれどちゃんと素直に謝った、仲間の非難も受け入れた。
なら この痛みはなんだろう?
誰かが悪いからだ
まりさなの?
何かまりさが悪い事をしたの?
わからない。
誰が悪いのか分からない。
わからないなら、この痛みに意味はあるのか?
この痛みはちぇんがせいだ。
だからちぇんがいななけけれれれれいたいたいたいたいたいいたいたいたいたいいたいたたた
「いだい!いだい!いだい!いだい!いだい!やべで!やべで!やぶぇべぇええ!!! まりざは ゆっぐじじだいぃいいい!!!!」
痛みが和らいだ。
ちぇんはまりさの眼孔からすぐに離れると
しばらく口をもごもごさせ、プっと潰れかけたまりさの左眼を砂の上に吐き出した。
湿った眼球は砂で全体を満遍なく汚し、やがてみょんの前に吹き飛んだ。
まりさは自分の左眼を右眼で追いかけると、今なら川で洗って元に戻せば治る気がした。
そうすれば、れいむに会える。ご飯が食べられる。群れに帰れる。 ゆっくり出来る。
舌先で左眼を拾おうとすると、瞬く間に眼球は平たくなり中身が砂に染みこんでいった。
みょんがまりさの眼球を潰すのに躊躇(ちゅうちょ)は全くなかった。
『まりさは ゲスみょん』
「…ゆ?」
まりさは枯れた喉から声を発した。
『まりさは ゲスだから ゆっくり出来ないみょん』
「…なに…いって…るの? まりさは… ゲスじゃ…ないよ…」
今まで庇っていたみょんの拒絶に、まりさはこれ以上なく困惑した。
どうしてみょんは庇っていたまりさを汚い物でも見るように目を細めているのか?
まりさは残った右眼だけで自分を睨み付けるみょんの顔をずっと見つめ続けた。
『まりさは 裏切り者みょん 自分が痛いからって みょんを 見捨てたみょん』
「…ゅ…ぁ…?」
『当然だねー まりさは ゲスだからねー 自分が痛い思いをするのが嫌だったから
すぐに裏切ったんだねー 最悪だねー みょんが どうなっても いいんだねー その程度なんだねー』
「…」
『みょんは まりさなんて ウンザリだみょん 大嫌いだみょん
ゆっくりを騙したり、暴力に訴えたり、家族も仲間も すぐに裏切ったり、まりさは ゆっくり出来ないみょん』
みょんは潰れたまりさの左眼を何度も何度も底部で擦り潰す。
「…まり…さは…わるいこと…しないよ…れいむや…ありすとも…なかよく…してるよ…みょんとも…なかよく…どうひてそふなこと―
まりさは訴え続けられなかった。
弁明を続けていた自分の頬からはヒュルヒュルと息が漏れていたのだ。
みょんはいつのまにか咥えていた棒切れを構え直すと、声の出せないまりさに再び突きつける。
「ゆふへ…? なに…ひゅるの? ゆ…ゆああああああ!!!…いたひよ! ゆっふひ でひないよぉおおお!!!! 」
『群れの平和を脅かす ゲスまりさなんかに 分けてやる食料なんて一つもないみょん
ゲスまりさがいると皆がゆっくり出来ないみょん そんなゆっくりに 皆のためのご飯を分けてやる必要はないみょん 無駄だみょん』
『わかるよー ちぇんたちも みょんたちも わかるよー』
まりさはニタニタとした顔に囲まれている。
先ほどまでも視線を浴びていたのだが全てが違っていた。
『だから…だから まりさは 死ねみょん ゲスは 今すぐ死ねみょん』
みょんの枝が高く振り上げられる。
ちぇんの太い牙がほくそ笑んだ口から見えた。
「たふへて!!! れいふ! ありふ!!! ゆあああああ!!!!!ゆあああああああああああああああ!!!!!」
逃げようとしたまりさだったが数十匹のみょんとちぇんに囲まれている。
いくら狩りの得意なまりさでも、何匹もの壁に囲まれては飛び越えることも出来ない。
「ゆっくりごろひは… いけなひんだよ!? どうぞくごろひは みんなに おこられるんだよ! ゆっくりひないで やめへね!」
『同族? ゆっくり出来ないゲスまりさが どうして同じゆっくりなんだみょん?
自分以外のゆっくりを奪い去って 一人でゆっくりするなんて最低なゆっくりだみょん
そんなのゆっくりでもなんでもない ただのゲスだみょん みょん達の仲間は お互いにゆっくりさせ合う ゆっくり達だけだみょん』
まりさの体が外側からの力でビリビリと震えだした。
耳が痛くなるほどの「ゲスを殺せ!ずっとゆっくりさせてしまえ!」という100匹の狂声が鳴り止まないからだ。
「まりさは… ゆっくひしたいよ! みんなを… ゆっくりさせたひよ! どふして… まりひゃが… こんな―
まりさの体に泥と砂の混じった枝が突き刺さる。
決して消化が出来ない砂利が目玉を刳り貫かれたまりさの中身に混じっていく。
「ゆぎぃぃぃぃいいいいい!!!!」
『ゲスでも 痛いんだねー でも心の痛みは 分かるはずないんだねー ゲスは自分の事しか考えていないからねー』
ちぇんは押さえ込まれたまりさの金髪を無理矢理毟り取ると
次は落ちていた三角帽子をビリビリと引き裂き始めた。
「やべぇでぇええ!!! いだいの やべでよぉおお!!! ばりざの おぼうじざん かえじでよぉおお!!!!」
群がった数匹のちぇんによって帽子は黒い布クズへと変わっていく。
大きな帽子も長い金髪も失ったまりさは禿饅頭に成り果てて何十匹ものゆっくりに弄ばれる。
『…やめてほしいのかみょん?』
突き刺すことを止めたみょんは、切っ先でまりさの柔らかい頬を引掻きつつ問う。
「も、もぶ…やべで…ば…ばりざは…わるいごど…じで…な……」
『なら まりさは ゲスですって言うみょん ゲスは自分がゲスって分かってないみょん それが許せないみょん
他のゆっくりを虐げて 当然の笑顔でいるみょん 最低だみょん』
みょんの枝は、まりさの残った右眼に向けられた。
「まりさは…まりさは………ゲスじゃ……ゲスなんかじゃ…………」
『これだけやられても まだ認めないのかみょん? 皆の怒りが分からないのかみょん?
いったいどれだけ図太いんだみょん 自分の罪を認めないゲスは 皆のために 今すぐ死ねば良いみょん』
ゆっくり出来ない言葉と共にまりさに向けて無数の枝と数多の牙が更に近づいてくる。
怪我では済まない殺意そのものが段々と近づいてくる。
『まりさは ゲスみょん ゲスと認めたら 助けてやるみょん』
「…まりさは……」
まりさは狩りの名人だ。
『ゲスなら 全部 殺すみょん 誰もが ゲスが居なくなる事を 望んでいるみょん』
「…まりさは……」
まりさは皆のために頑張っている。
『わかるよー ゲスは生きている価値がないんだねー』
「…まりさは……」
れいむは、まりさを褒めてくれる。
皆のために頑張るまりさを褒めてくれる。
皆がゆっくりするために頑張る
でも
れいむには もっとゆっくりしてほしい
だからまりさは頑張る 頑張って 頑張って れいむに褒めてもらって どんな まりさよりも
れいむのための
『早く言うみょん』
「…まりさは…ゲ………ゲス……………」
れいむのための よい ゆっくりに なりたい
「……………………………………………………じゃないよ…」
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
そこにゆっくりの亡骸はない。
数え切れない枝に突き刺さされ
餡子を泥と砂に混ざり合わされ
飾りを跡形もなく擦り潰され
ぬるく湿った地面が ほんのりと黒く染まっている。
返り餡(ち)を互いに舐め取って綺麗にしてあげると
今日の食事のために、みょんとちぇんの群れは山菜を探しに山へ散っていった。
【2】
れいむにとって まりさは同じ時期に生まれた唯一の幼馴染だ。
れいむが大きくなると、まりさも大きくなる。
れいむが上手に歌えるようになると、まりさも上手に跳ねれるようになった。
二匹は一緒にゆっくりとした時間を過ごした半身であり かけがえのない友達だ。
そのまりさが いつまでも狩りに行ったまま帰って来ない。
群れで帰りを待つれいむは まるで自分がここにいないような気になっていた。
れいむがれいむとしてあり続けるには足りないのだ。
自分だけが巣の中でゆっくりしていても落ち着かない。
ゆっくりするとは何か?
美味しいご飯を食べる事? 気ままにお昼寝する事?
ゆっくりするという事は
誰かと一緒に笑って過ごすこと。
どんなに甘い果物も、自由な暮らしも、それは生きているのではない。
ゆっくりではない。ただそこにいるだけなんだ。
だかられいむは跳ねていた。足の裏が泥だらけになっても、小石で擦り傷をいくら作っても。
「ゆんしょ! ゆんしょ! いしさんは あぶないよ! ゆんしょ!」
ノロノロしたイモ虫や見つけやすい木の実を拾う程度のれいむ。
群れの皆が通っていない山道を登るのはとても険しい道のりだった。
涙を浮かべて増える切り傷よりも、まりさが側にいないという不安と寂しさの方が大きい。
「ゆふぅ… やっと ついたよ! 」
悪戦苦闘しながら、まりさがいつも話していた場所へと辿り着いた。
始めての遠出にれいむが成功したのは
まりさが毎日狩りや外の話をしてあげたり、れいむもまりさの狩りの話が大好きだったからだ。
普段なんとなくご飯を集めているれいむでは
木の下を見ても落ち葉を払ってご飯を獲った後なのか
それともまりさは違う場所に行っているのか調べることもできなかった。
こんなに遠くまで、しかも群れの皆が来た事もない知らない場所。
たった独りで探しに来たれいむは きっと会えると思っていたまりさの顔が見れずに心細くなってしまった。
一匹で行動する不安、こんな経験をまりさは毎日していたのだ。
「ゆぅ…まりさ…… ゆっくりしないで でてきてね? かくれんぼは れいむきらいだよ? れいむと ゆっくりしようね?」
れいむは抜けた茂みで頬に傷を作り黒髪を葉っぱで乱され
来る前は綺麗に整っていたリボンも左右非対称になっている。
そこまでしても れいむには必要なのだ。
まりさが。
「まりさ………れいむだよ……」
もうしばらくすれば夕日が山の向こうへ隠れてしまう。
そうすれば空を飛び回る怖い奴らの襲ってくる時間だ。
「たいようさん もうすこしゆっくりしててね! れいむは まりさを さがしているんだよ! おねがいだよ!」
すぐにでも皆のいる群れへと帰りたいと考えてしまうれいむだったが
まりさが暗い山の中に取り残されてしまうのではと心配し、どうしてもここから離れる事が出来なかった。
「まりさ…けがをしているのかな? ゆっくりできてないのかな? だいじょうぶかな……どうしよう……」
れいむが体を休めている地面には
ちょうどまりさのトレードマークである大きな帽子の形に暗い染みが広がっていた。
その染みを見ていると冷たい所へ引きずり込まれるような気がしてきて れいむは直ぐに顔を上げた。
夕日は既に遠くの山の頂きに差し掛かっている。
れいむがこんな所へ無理をしてまで探しに来た事をきっとまりさは怒るだろう。
けれどどんなに怒られても良かった。
群れにいれば皆の声が聞こえるし寒い風も巣穴が防いでくれる。
とても可愛い群れの子供達や皆で纏めたご飯もある。
けれどまりさがいない。
まりさがいなければ どんな物があってもゆっくり出来ない。
むしろまりさがいれば
ご飯が少なくても
雨が何日も降り続いて遊びにいけなくても
どんな事があっても
れいむはゆっくり出来た。
まりさが怒る一言でも、きっとれいむはゆっくり出来るだろう。
ひとしきりお叱りを受けたら、まりさにゆっくりして貰おうと思う。
まりさは狩りが上手い。まりさは跳ねるのが早い。まりさはみんなの事を考えて行動してくれる。
そんな事をまりさに言ってあげると、何故かれいむも嬉しくなってくるのだ。
まりさは元気だけど、いつも擦り傷を作って帰ってきていた。
だからそれを舐めてあげるのがれいむの役割だ。
まりさがれいむをゆっくりさせてくれるから、頑張ったまりさもれいむがゆっくりさせてあげたい。
そんな関係をいつまでも続けていたい。
ずっとずっとまりさと一緒にいたい。
まりさの顔を見ていたい。
そしてまりさは何処にもいない。
お昼前にはいつも帰って来ていたまりさ。
しかし今日は何時まで経っても帰ってこない。
夜じゃないと空を飛ぶアレはいない。
なら どうして帰ってこないのか。
それは「まりさが なにかの りゆうで ゆっくり できていない」からだ
まりさと群れの優しさの中で育ったれいむには
悲惨な光景なんて、ゆっくり出来ない理由なんて想像が出来ない。
ただ心の中で思い出す優しいまりさの笑顔が どんどん黒く塗りつぶされていく。
まるで目の前の染みのように真っ黒に。
「…まりさ……………まりさ………ゆああ………………………………まりさあああ!!!!!!!」
ガサッ
れいむが心細くなった胸の内を払拭するように上げた声。
それと同時に黒い影が草むらから飛び出てきた。
「まりさ!? まりさなの!? いったい どこにいって……」
それは黒髪でも金髪でもない、綺麗に前髪が揃った真っ白な髪を持つゆっくりがいた。
「ゆ…ごめんなさい おともだちと まちがえたよ…
あ、あのね! まりさを みなかった? おぼうしが とっても おおきい まりさなの!」
れいむは見たこともない綺麗なゆっくりに跳ね寄っていった。
何故なのか、この不思議なゆっくりならば行方の知れないまりさの事が分かる気がしたのだ。
「えっと…あの…」
白いゆっくりは涙を浮かべたれいむの問いに答える代わりに
ジロジロとれいむの黒髪と赤いリボンを眺めていた。
『れいむは…れいむみょん?』
「そうだよ! れいむは れいむだよ! ねえ まりさを みなかった? まりさは れいむのね…えっとね…」
『そう れいむなんだみょん 本当にれいむは何処にでもいるみょん』
初めて聞いた白いゆっくりの声は、とても冷たく少しもゆっくりしていなかった。
『わかるよー れいむは子育てが得意らしいからねー いっぱい増えるんだねー 食って太って産むだけなんだねー』
さらに獣の耳のような物をつけたゆっくりが物陰から出てくる。
「…ゆん?」
何かとてもゆっくり出来ない事を言われているようだが
とにかくまりさに会いたい一心のれいむは
彼女達の発している異様な雰囲気を感じとる事ができなかった。
「まりさを みなかった? れいむは まりさをさがしているんだよ! れいむが いないと まりさが ゆっくりできなくなっちゃうの!」
『ほら もう言ってるみょん 自分は ゆっくりをゆっくりさせてあげてる れいむなんだって言ってるみょん』
『その自信が何処から来るのか分からないんだよー
一緒にいても我侭しか言わない存在が どうしてゆっくりさせられるのか謎なんだねー』
二匹は辟易とした顔を見合わせている。
「まりさが れいむを ゆっくりさせてくれるんだよ! でも まりさは すごく げんきで ゆっくりしてるけど とっても あぶなっかしいんだよ!
まいにち むれで まってるときも れいむは しんぱいなんだよ! れいむが まりさを とめてあげないと ゆっくりできないんだよ!」
『毎日ご飯を獲って来るのを待ってるのかみょん? 妊娠もしてないのに狩りを全部任すとか何様なんだみょん』
「れいむと まりさは いまは まだ…じゃなくて そ、そんな おともだちじゃないよ!!!
れいむは かりが へたなんだよ! とっても ちっちゃいときに おとうさんが ずっとゆっくりしちゃったから
ぴょんぴょんも かりのことも おそわってないんだよ!
だから かりをしている みんなの めいわくにならないように おうちで できるしごとをしてるんだよ!」
『親に死なれた? 可哀想だからなんなんだみょん?
狩りが下手? 馬鹿だからなんなんだみょん?
そんなの知った事じゃないみょん
不幸で無力なれいむは 優しくされるべきとか思ってるのかみょん?』
『わかるよー 子供もいないのに 既に不幸のヒロインなんだねー シングルマザーの予備軍なんだねー 群れの寄生虫なんだねー』
「ちがうよ! ぜんぜんちがうよ! れいむは れいむができることを しているんだよ!
みんなで ゆっくりするために れいむもゆっくりしないで がんばってるよ!
まりさが まいにち がんばって おいしいごはんを とってきてくれるから ちゃんと おうちで ゆっくりさせてあげているよ!!」
『どうやって ゆっくりさせているんだみょん? れいむに出来る事なんて 何一つないみょん』
『わかるよー お歌が上手で いつも ゆっくりしているれいむだから
れいむが 側にいるだけで 誰もが ゆっくり出来ると思ってるんだよねー
全部 れいむのおかげで ゆっくり出来ているんだと 思い込んでいるんだねー どんだけなんだろうねー』
「そんなことないよ! まりさは いつも れいむと たのしく あそんでるよ!
いっしょに ゆっくりしてくれるよ! まりさも ありすも みんな ゆっくりできてるよ!」
『だから 自分だけが ゆっくりしてるだけだって どうして思わないのかみょん?
ご飯を恵んでもらって ただ遊んでるだけなんて
れいむは そんな楽して暮らせる資格があるのかみょん? あるはずないみょん』
『世界の全部が れいむがゆっくりするために あるんだと思ってるんだねー 自分が世界の中心なんだねー 救いようがないんだねー』
れいむは幼馴染で大切なお友達を探していただけだ。
なのにどうして…こんなにもゆっくりできない事を言われなければならないのだろうか?
このゆっくり達は何者なんだろうか?
どうしてれいむにゆっくり出来ない事を言うのだろうか?
れいむが群れの皆のためにやっている事、まりさに毎日してあげている事
まりさとのゆっくりしている日々を頭ごなしに否定されて思わず反論してしまったが
次第に冷たくなってきた風に身震いすると
こんな事をしている場合ではないと れいむは気付いた。
「もう いいよ! れいむは ひとりで まりさを さがすよ!
れいむに いじわるする わるいこたちは はやくかえってね! れいむに ついてこないでね!」
『誰が いつ 手伝うなんて言ったのかみょん 頭がおかしいみょん』
『付き合いきれないんだねー れいむから見たゆっくりは 全部奴隷か何かなんだろうねー』
「ゆゆゆ!? そんなこと かんがえてないよ? だって れいむは―
白いゆっくり―みょんはいつのまにか研ぎ澄まされた枝を咥えていた。
しかしここには外敵などいない。
喧嘩をしている様子も何処にもない。
ならば『その切っ先は誰に向けられている』ものなのか?
「ゆ?」
『れいむは 要らないみょん 自分勝手なゆっくりがのさばると 皆がゆっくり出来なくなるみょん』
『知ってるよー れいむは 自分の子供の為なら ためらわずに同族殺しをするんだねー
このれいむも 親になったら 働きもしないで 始終文句を吐くだけなのが想像できるんだねー』
とがった牙が「だよー」という語尾の口から見えている。
白いゆっくりの咥えた枝は真っ黒に湿っていた。それは「既に使った後」の汚れだ。
ゆっくりしていない。
ゆっくりできない。
「こ、こないでね! なんだか こわいよ! れいむは まりさを さがしているから もういくね!」
れいむは迫ってくる状況を理解するよりも恐怖が先行し、一刻も早くこの場から跳ね出そうとした。
しかし底部に力を込めて跳ね上がろうとした瞬間
先ほどの獣のようなゆっくりが見たこともない素早さでれいむに体当たりをした。
「ゆべっ!?」
れいむは勢いよく土の上を転がり世界がひっくり返ったような感覚を味わった。
こんがらかった五感が復活して、やっと目を見開いてみると不思議な光景が待っていた。
何故か自分とそっくりのれいむがソコにいた。
いつかられいむの事を見ていたのだろうか?
それともこの怪しいゆっくりの仲間なのだろうか?
「そっちの れいむ! れいむを たすけて! このこたちが れいむを いじめるの!!! おねがい! たすけてね!」
「…」
「どうして おへんじ してくれないの! いっしょに にげよう! このこたちは なんだか へんだよ! れいむ! れいむ!」
懸命に助けを求めた向こうのれいむは反応しない。
何故ならば、それは知らないれいむではなかった。
【自分の黒髪と赤いリボンを付けている】先ほどの獣のゆっくりだからだ。
「ゆ? ………………………ゆあああああああああああ!!!!!!」
髪をズルリと剥がされた頭皮からは自分の中身がドクドクと垂れて来た。
生きたまま薄皮を剥かれて、その体の一部を自分以外のゆっくりがフザけて被っている。
理解できない異常な環境と恐怖によって痛みは意味を成さなかった。
飾りを取り返すとか、仕打ちに対して復讐するとか
そんな事は残された剥き出しの頭の中には微塵もなかった。
「ゆ…ぎぃ…いた…いよ………れいむの…かみさん…おりぼんさん……ま…りさ………まり…さ…たす…け…て…まり……」
もはやモミアゲしか残っていない剥げ饅頭は少しでも遠くへ逃げようと這い擦っている。
ナメクジのようなれいむの行き先をみょんが先回りする。
『どうして こんな目にあうのか 分かるかみょん?』
『ちゃんは わかるよー れいむは でいぶなんだよー 当然なんだねー』
「……ゆんやぁ…ゆっくり…したい…よ………ま…りさ……どこに…いるの………れいむ…は…ここ…だ……よ…」
ブクブクと裂けた傷口から溢れる餡子は、れいむの逃げ這う軌跡を塗っていく。
みょんが咥えて乾いていた枝は真新しく黒く湿っていた。
れいむのカツラはちぇん達が被りあって破れ始めている。
ちぇんは赤いリボンを片方引き裂いて、れいむの前でヒラヒラと躍らせた。
『れいむは 子供を育てるのが得意とか言いはって 狩りも何も出来ない 頭も足りない ただの役立たずのクズだみょん』
「…くず…じゃない……れいむは……こどもたちの…めんどうだって…ちゃんと………」
『わかるよー 子育てとか言ってて 歌って 寝かせて ご飯を食べさせるだけなんだねー そんな事はどんな親だって出来るんだよー』
「…れいむは…どんなことがあっても……むれの…おちびちゃんたちを………まもっ…て………」
『れいむ自身と子供達の為に 他のゆっくりを犠牲にしたりするし
れいむは 本当にゆっくり出来ないゆっくりだみょん しかもソレを悪いと思ってないみょん』
もう這うことも出来ないれいむは冷たい地面に額を垂れさせた。
先ほどの三角帽子の染みが目に入ると
迫り来る現実的な恐怖と染みが想像させる恐ろしい闇に挟まれて
体も心もボロボロに砕け散る感覚を覚えた。
『でいぶは ゆっくり出来ないんだよー 早く殺さないと ちぇん達が ゆっくり出来ないんだよー』
ちぇんの牙で皮が引き裂かれる。
『でいぶの言ってる まりさなら 今日 見かけたみょん』
みょんの枝が頬に突き刺さる。
すでに声も上げれないれいむは みょんの話を聞くと「まりさ…まりさ…」と唇だけが動く。
「ゅ…ぁ………………」
もう自分は助からないだろう
けれど、それでもまりさの姿を見たかった。
独りで死ぬのは怖いから。
いいや、まりさと離れる事が怖かった。
言った事はないけれど、二人だけの仲を作りたかった。
まりさと死ぬまでずっと一緒にいたかった。
今ならそれを言う決心がある。
いつか突然来る不幸によって、不条理に引き裂かれてしまうのならば
少しの間でも一緒にいたいと思った。
けれど
ここには まりさはいない。
それはれいむにとって寂しく悲しく残酷なものだったが
こんな悲劇を、れいむの悲惨な姿を決してまりさには見せたくもないし
誰かがまりさをこんな風に傷つけるのも嫌だった。
願わくばまりさが皆のところへ無事に帰り、れいむの分までずっとゆっくりと暮らして欲しい。
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
れいむの形が無くなっていく。
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
れいむの心が無くなっていく。
「…ゅ…ゅ……………」
いつもれいむとまりさを心配してくれたお姉さん
群れの優しいありすの顔が浮かんだ。
勝手に群れを飛び出してごめんなさい。
心配をかけてごめんなさい。
もう謝る事も出来ないけど、ごめんなさい。
実の家族ではないけれど、いつも面倒を見てくれたありすが大好きだ。
そして
ありすは まりさの事が好きなのだろう。
れいむと同じくらいまりさを心配していた。
れいむと同じくらいまりさをゆっくりさせたがっていた。
だから
きっと笑顔でゆっくりとした家族をまりさと築くだろう。
そこにれいむがいないのは、とても悲しくて心が張り裂けそうになるが
まりさが幸せならば
ゆっくり出来るのならばそれでいい。
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
れいむの想いが無くなっていく。
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
れいむが、無くなっていく。
「………………………」
いつも元気で皆をゆっくりさせてくれたまりさ。
まりさはれいむを幸せにしてくれた。
だかられいむの痛みがどれだけ増えようとも
ゆっくり出来ない事を れいむが全部受け止めてあげて
それで まりさがゆっくり出来るのならばそれでいい。
『ゆっくりしないで 死ぬみょん』
『ゆっくりしないで 死ぬんだよー』
この白い子達が、どうしてこんな事をするのか分からない。
ただまりさは違う所にいて、この子達と関わりがなければそれでいい。
『そういえば そのゲスまりさは ゆっくりさせなくて潰したみょん その黒い染みが証拠だみょん』
夕暮れ時の山間から一際大きい叫び声が響くと、すぐにシンと静まり返った。
【3】
ぱちゅりーは心配していた。
ありすは少し照れ屋さんで あまり皆と騒ぐタイプではないが
誰よりも相手を気遣い とても気が利く優しいお姉さんゆっくりだ。
だからこそ産まれた群れで一緒に育った幼馴染で
妹のようなれいむとまりさが
日が暮れても一向に帰ってこない事に表情を陰らしていた。
「…まりさ…れいむ」
ありすは夕日が暮れて冷たい夜風が吹き始めても、ずっと巣穴の前で待ち続けていた。
「むきゅ…ありす…きっとだいじょうよ まりさは ちょっとかりに はりきってるだけで れいむといっしょにかえってくるわ」
「でも そとは もうまっくらよ? れみりゃにでも おそわれたらどうするの!?」
ありすの隣に来たぱちゅりーは、冷え切って白くなった頬を見つめた。
「まりさは かりも じょうずだし はねるのだって うまいわ ちょっとした れみりゃなんて
きっとどうにかできるわ ありすは しんぱいしすぎよ」
「むせきにんなこと いわないでよ!!!!!」
「……………むきゅ」
いくら身体に優れたまりさでも
空から襲い掛かるふらんや、手足をもったれみりゃには敵わないだろう。
ましてや足の遅いれいむと一緒にいるのなら二匹で無事に逃げ切れるとは限らない。
「ごめんなさい…ぱちゅりー…」
月明かりすらも滞る山の中では、夜目の効かない普通のゆっくりが捜索隊を出せるはずもない。
家族も友達も子供も、ただ仲間が無事に帰ってくるのを待つだけしかない。
「いいのよ、でも ありすがそんなかおだと あのこたちが もどってきても ゆっくりむかえられないわよ?」
ありすは森の奥から視線を外し、ぱちゅりーを見た。
「しんじて ゆっくりまつのよ いまは それしかできないわ」
「そうね…… かえってきたら いっぱい おこってやるんだから…」
崖下にある4個の横穴。
故郷を離れて集団移住してきた若い群れが
皆で助け合いながら掘り進めたものだ。
そこではいくつかの集団ごとにまとまり住居を共にしていた。
元の群れにいた何匹かの大人のゆっくり達と
新しい世代である れいむとまりさ、そしてお姉さん分のありすとぱちゅりー達が暮らしている。
ぱちゅりーとありすは、夜風に身を震わせながら横穴の巣を丁寧に閉じると巣穴の奥で体を休めた。
皆で寄せ合って寝る干草のベットは、とてもふわふわしててゆっくりできるが
ありすの隣には誰も使っていない二匹分の寝床が空いていた。
既にぱちゅりーは結論を出している。
きっとあの子達は無事ではないのだろう。
怪我をしたとしても迷子になっていたとしても
この広くて厳しい夜の森は、たった二匹で生きていくのには過酷過ぎるのだ。
夜露は体を溶かし、その匂いが捕食種を呼び寄せる。
夜が明けるまで続く恐怖を伴って。
そうでなくても辛い環境が、心を元に戻せないほど壊してしまうだろう。
「むきゅ…」
朝になったら群れの皆で探しに行く事は考えている。
それよりも心が痛いのは、ありすに「もうあの子達は帰ってこない」その事実を理解させる事だ。
れいむと駆け落ちしたとか、まりさがれいむを危険に巻き込んだとか
そんな事を言い出すような心の曲がった仲間はいない。
怪我をするような深刻な争いもなくも、互いにゆっくりさせ合う暖かい集まりだ。
けれど不幸を乗り越える事だけは逃れ得ない。
納得できない不条理な結果でも受け入れなければいけない。
ありすと同じ頃に生まれた子供は、ぱちゅりーだけだった。
ありすには甘えてくれる妹達はいるけれども、甘えさせてくれる歳の近い姉がいなかった。
だからありすの抱えている辛い事や悲しい事を全部聞いてあげたい。
それが体の弱いぱちゅりーが出来る、精一杯のありすへのゆっくり。
「…」
ウチウチとまどろみながら
心配で今にも泣きそうなありすの顔、そして泣いて震える妹分たちの姿が頭から離れず
ぱちゅりーはベットから這い出した。
目を凝らして、すぐ傍で眠っているありすの顔を探した。
どれだけ見回してもありすの姿は見つからない。
ぱちゅりーは抱いた不安の通りに、二匹で閉めた入り口を調べてみると
先ほどありすと一緒に作った木枝と落草の偽装は形が変わっていた。
ぱちゅりーは自分が通れるだけの穴を崩すと外に顔を出した。
やはりありすの姿はない。
ただ紺色で塗りつぶされた森の暗闇だけがある。
月明かりを受ける森は静まり返っていた。
もしも声を張り上げて、ありすを呼んでしまえば捕食種に感づかれてしまうかもしれない。
ぱちゅりーのほっぺに夜風が当たり
昼間の風とは全く違う冷たくて湿った冷気が身を震わせた。
しばらく当たっていれば体の弱いぱちゅりーの頬は、きっとしわがれてしまうだろう。
それよりも寒さからくる冷たい痛みで吐いてしまうかもしれない。
「どうして…」
どうして。
それは「ありすがどうして出て行ってしまったのか」ではない。
どうして自分は、
この冬の様に寒くて命を奪ってしまう暗い森の中、あの二匹が泣いて夜を過ごしているかもしれないのに
もうしょうがない。
きっと無事ではない。
ありすをどうすれば慰めてあげれるのか。
ありすの傍にいてあげよう。
それだけしか考えて無かったのだろうか。
ぱちゅりーは恥じた。
仲間からは森の賢者などと持てはやされる事もあるが、結局は皆と同じ ただのゆっくりだ。
危険な事を出来るだけ避け、今あるゆっくりを何よりも重視し、想ったゆっくりの事だけ考えていたのだ。
ここが分岐点なのだ。
賢者と言われるべき存在になれるのか
ありすの側にいられる自分なのか。
「…」
再び入り口は閉じられた。
草木によって丁寧に閉じられた横穴の中では、隙間風に眠気を邪魔されずに沢山の仲間が眠っている。
しかし二つのベットと、それよりほんの少し小さいもう二つのベットは地面の冷たさを保っていた。
【4】
ありすは身が凍る思いをした。
それは夜風によるものではない。
薄い紫色の髪と手足を持つゆっくりが目の前にいたからだ。
しかし目の前のれみりゃがありすを襲ってくる事はなかった。
体は八つ裂きに切り崩され、目玉は刳り貫かれて息をしていなかったからだ。
「…なん…なの?」
ふらんと仲違いでもしたのだろうか?
しかしこれは牙によるものではなく、枝で刺されて斬られたような傷口なのだ。
辺りには使われた枝などは落ちいていない。
しかし膝から下を原型が無くなるまで分解され、手足をもがれ、首を折られ
最期の表情すらも察することが出来ない無残な姿は、ゆっくりが為した事とは思えなかった。
追い払ったというより明確な意思で殺した。
そう考えるしかない死体だった。
「なにが…あったのかしら…」
よく見ればれみりゃの残骸には小さな羽根や帽子が沢山落ちていた。
蝙蝠羽の他にも細長く綺麗な石が並んだものは、きっとふらんだろう。
ようするに捕食種が集団で襲ってきたのに対して全て撃退したという事だ。
たとえ熟年の大人のまりさ達が枝を咥えて束でかかったとしても
これだけの数を被害も出さずに一網打尽にし、なおかつ残忍には攻撃しないだろう。
しかし捕食種によって妹達が襲われている可能性は減った。
それだけを思い描いてありすは、視界に映った気色の悪い光景を忘れることにした。
「まりさー! ありすはここにいるわ! れいむー! まりさー!」
あの光景を見る限り捕食種は撤退したと考え、ありすは妹達に向けて夜空に響くように呼びかけ始めた。
暗がりを怯えながら覗いたり跳ねて回って探していた時と違い、木々のざわめきに紛れた音へと耳を傾けた。
「まりさー! れいむー!まりさー!」
ありすの声だけが響い続けるのだと思った。
もう自分の声が届かないところに、二匹は永遠に消えしまったと。
しかし今まで聞こえていなかった声が届いてきた。
「まりさ!?」
夜虫や風にかき消されそうな誰かの声は上手く聞き取ることが出来ない。
それはれいむが泣いている声かもしれない。
それはまりさが助けを呼んでいる声かもしれない。
とにかくありすは綺麗な髪を汚す事もいとわずに草むらを走り縫って
底部を草で擦り切りながら一直線に声の元へと近づいていった。
「おねえさんが いくからね! ありすが いくからね! だいじょうぶだからね!」
獣道を跳ね、木々を抜けた。
たどり着いたのは薄暗く分かりにくいが、確かまりさが狩りを任されている辺りのはずだ。
だとすると、やはりあの子達かもしれない。
もしも深い崖に落ちてしまっていたり大きな怪我をしてしまっていたとしても
ここからなら応援を呼んで駆けつけて貰うことも出来る。
れいむ、そしてまりさは本当の妹ではない。
以前に住んでいた群れは、新しい世代が生まれると体の弱いものは群れに残り
勇気があるゆっくり、逞しいゆっくり、誰かを気遣えるゆっくり
機転の聞くゆっくりなどが、新しい巣を探しに外へ旅立つ風習があった。
それはとても名誉な事ではあるが、親と決別するという事でもあった。
そしてありすより数週間遅れで誕生し
まるで妹のように懐いていたまりさが、持ち前の明るさと狩りの才能から抜擢された。
まりさは自分の頑張りが皆に喜ばれる事を嬉しがっていたし、ありすもそれを褒めてあげた。
しかし唯一同じ時期に生まれた幼馴染のれいむは、旅団に入る事が叶わず
姉妹のようなまりさと離れてしまうのを泣いて嫌がった。
旅立つ新しい世代の中で、特に秀でているまりさ。
そのまりさが元の群れに留まってしまうのは、生き残る可能性を下げてしまうのに。
素直に我侭を言えるれいむを羨ましがった。
ありすだってまりさの良さを知っている。
狩りが上手いとか、跳ねるのが得意とかそんな事ではない。
生まれた次期がちょっと早くても、むしろ早いからこそ
まりさが一人前のまりさになって行く成長を小さな頃から見てきていたし
土に汚れた頬を擦り傷だらけにしている姿の中に、誰にも負けない優しさとゆっくりを持っている事を知っていた。
配慮で旅団に入れてもらったれいむを羨ましがった。
妹分達のめんどうを見てきた姉役の自分が、同じ我侭を言えるはずもない。
ごく普通のれいむだった妹分は見違えた。
どのれいむよりも澄み切った歌声を奏で、集めた食料の調理や保存法もすぐに覚えていった。
誰かを癒したいれいむには、誰かの為に頑張りたいまりさか必要なのだろう。
命を賭して狩場を探すまりさには、ずっと待ち続けられるれいむが必要だろう。
何よりもまりさが…好きだから。
まりさを見ていたから、これが自然なんだと受け入れられた。
自分の手を離れた妹達が眩しかった。
…ぱちゅりーには気付かれてしまっているだろうか?
いつもお姉さん顔をしている自分も、ぱちゅりーにだけは気を許してしまう。
常に平静で平等に毅然と、群れの子供達の面倒を見ていたが
ありすにも間違った事や気付けなかった事もある。
それをぱちゅりーはいつの間にか察してくれて手助けをしていてくれた。
けれどぱちゅりーがずっと助けてくれるわけではない。
時が来たらぱちゅりーも伴侶と共に、子供達とゆっくり暮らすだろう。
まりさは、まりさとして旅立って行く。
ありすは、ありすとして大人にならなくてはならない。
広場には沢山の若いゆっくり達が集まっている。
まりさとれいむと別れる朝だ。
ありすが二匹への選別の花を選んでいると
なんだか笑顔のぱちゅりーと群れの長が訪ねてきた。
夜の風は跳ねる足をこわばらせる。
次第にはっきりしてくる声を更に追いかけていくと、山道を登りきった広い場所にありすは出た。
「まりさ!? れいむ!? ありすよ! ぶじなの!? へんじをして!!! おねがい!」
赤い飾りをつけた黒い髪などなかった。
黒い帽子をつけた金の髪などなかった。
月明かりも届かぬ闇の中で、白いものが浮き上がっていた。
その"もや"には二つずつの赤い点が輝いている。
その赤い点がすべて瞳なのだと理解する頃には、200個の眼に睨まれていた。
「…ゆ?」
霧の様に見えた揺れる白い髪。
その奥のほうでは、違うモノが泣き叫んでいた。
「うー…うー…」
地面に降り立ったふらんが、白い彼女達に囲まれている。
ふらんと分かったのは、七色の羽があったからであり
それ以外ではふらんの特長を説明する要素はない。
トゲの塊。
無数の枝によって体を貫かれ
その間から片方の羽根だけがビクビクと震えていたからだ。
「うー…」
栗の実から痛々しい声が聞こえてくる。
だからあれは生き物だ。
あれはふらんなのだ。
体中に枝を刺し込まれても生きている。
あれはとても痛いだろう。
あんな目にはなりたくない。
あそこにまりさがいなくてよかった。
気持ち悪い。
ここから逃げたい。
『…』
ジリジリジリと地面を削る音がした。
赤い眼と白い髪のゆっくり達が、枝を咥えて土を引っ掻きながらコチラに近づいてるからだ。
「……………ゆ?」
そうか、違うんだ。
捕食種が集団で襲ってきたのを撃退した分けではない。
捕食種を集団で襲ってきて子供も何も皆殺しにしているんだ。
既にうーうーと鳴いていた無残なふらんの声は聞こえなくなっていた。
こいつらは逃げた一匹のふらんを全員でココまで追いかけて
必要以上に残酷な方法で確実に命を奪っていたのだ。
この白い奴らはなんなのだろうか? ゆっくりなのだろうか?
彼女達の目は明らかに友好的ではない。
「…っ」
しかしありすはそんな外見では判断せずに話しかけようとした。
ただ殺気立っているだけであり、天敵である捕食種を倒したのは間違いない。
自分が仲間である普通のゆっくりと知れれば、きっとこの空気も変わるだろうと。
「ゆ…ゆっくりしていってね?」
ありすは恐る恐るだが挨拶をした。
白いゆっくり達は歩みを止めて、顔を見合わせると
リーダー格なのだろうか少し雰囲気の違う白髪が出てきた。
『…』
黒い髪飾りに月に魅入られたような赤い目をしている。
枝についているドロリとした物はふらんのだろうか。
恐怖を押し殺すためにすぐに目を反らした。
戦いに秀でているのは、まりさと同じだ。
けれどこんな気味の悪い奴らと、まりさが同じゆっくりだとは思いたくはない。
「ゆっくりしていってね! ありすはありすよ! こ、こんばんわ! すごいわね! ふ、ふらんをたおせるなんて…」
出来る限りの笑顔でありすは挨拶をした。
主に子供達の世話や教育役をしているありす。
それ故、もしもの時には子供達を安心させるためにいつでも笑顔が作れる。
しかしこれはもしも異常の環境だった。理解が及ばない。
ひたすらゆっくり出来ない何かが迫ってくる。
『…』
白いゆっくりは体を反らし目を細めている。
ありすはこんな姿をしたゆっくりを見た事がない。
ならば相手も同じなのでは?
ありすをゆっくりと思ってないのかもしれない。
「ありすは このやまにすんでる ゆっくりよ! いっしょに ゆっく―
『そう…ありすは ありすなんだね? 言われなくも ありすって分かるみょん』
想像していない冷たい声色だった。それに嘲りが混じっている。
白いのが枝を振ると付着していたふらんの中身が地面に飛び散った。
ありすの作っていた笑顔は直ぐにでも崩れそうだった。
彼女の持っていた大人びた振る舞いも、体の芯から来る恐怖に染まっていく。
「そ、そうよ! ありすよ! ゆ、ゆっくりしてね?」
ありすが挨拶と共に小首を横にかしげたのが幸いだった。
金髪の切れ端が目の前で風に舞っているのは
間合いを詰めたみょんが、その枝先をありすの顔に向けて振り上げたからだ。
『…ありすは ありすだみょん その顔はありすみょん』
空振りをしたみょんは、ありすには向き直らず当たり前の事を言い放った。
そう彼女達はありすをゆっくりとして知っていたのだ。
「わたしは ふらんじゃないわよ! ど、どうして そんなこわいことするの!? や、やめてね! そんなこと ゆっくりできないわよ!」
『ありすが…ありすだからみょん』
ありすがありすだから、ゆっくり出来ない事、危害を加えられる。
ありすが何かしたのか? ただ声をかけただけなのに。
『都会派だか なんだか知らないけどみょん そうやって大人ぶった顔して 近寄ってくるみょん』
何か機嫌を損ねる振る舞いをしたのか?
常に周りと相手の気持ちを汲んでいるありすでも
まったく心当たりがなかった。
しかし
「ありすは べつに………………ゆ? あなた けがを しているわね? ふらんに かじられたの?」
近寄って気付いたことだが、確かに白いみょんの頬には二列の裂傷が走っていた。
「ちょっと みせてみてね! ありすは てあても できるのよ! ぱちゅりーから おそわったのよ!」
ありすは天然の素材だけを使い、巣穴のコーディネートが出来るほどの器用さを持っている。
もちろん装飾や道具だけではなく簡単な施術なども行える。
ずらしたカチューシャから怪我をした時のために貼っておく薄い綿と葉を取り出した。
『さわるなみょん』
「いいから みせてごらんなさい! むれの まりさも よくけがをするから ちりょうはとくいなのよ!」
『さわるなみょん』
「はずかしがらないで! けがは かりうどの くんしょうよ! さあ うごかないでね!」
ありすは彼女達と誤解を解き、打ち解ける機会だと思った。
難しいぱちゅりーの講釈や治療の練習がこんなところで役に立つとは思わなかった
『さわるなみょん』
「もう! あまのじゃくね! いたいときは いたいっていうのよ! そのほうが ゆっくりできるわよ!」
『気持ち悪い顔を近づけるなみょん …レイパーは黙れみょん』
「…ゆ?」
今、何と言ったのか? ありすは聞き慣れない言葉に硬直した。
『レイパーはいい加減にしろみょん』
それはゆっくりを犯しつくす物狂いの呼び名だ。
特にありすが多い。
しかしありすはもちろん、両親も最初に産まれ暮らしていた群れでも
そんなゆっくりを実際に見た事も聞いた事もない。
とうに絶えて忘れられたゆっくりの話だ。
何故そんな呼ばれ方をしなくてはならないのか?
「なにいってるの!? ありすは ふつうの ありすよ? わかるでしょう!?」
『そんなのわかってるみょん 普通のありすだみょん』
"普通のありす"と言葉を返して、みょんはふらんを屠った枝を突きつけた。
「な、なら そんなもの ありすに むけないでね あぶないわよ! ね? やめま―
ありすの右眼は、自分の左眼を見ていた。
後頭部から差し込まれた鋭い枝は、ありすの体内を突き進み
左眼を引っ掛けたまま眼底を突き抜けていた。
『わかるよー 今は普通なんだねー』
いつの間にか、いたのだ。
ありすの後ろに回りこんでいた何かは、更に後ろから枝を無茶苦茶に掻き回す。
「ゆぎぃぃいいいいいい!!!!! ゆあああああああああああ!!!!!!」
『少しでも気を許すと すぐに気持ち悪い顔をして近寄って来るみょん そして手当たり次第にゆっくりをヤるみょん』
枝を突きつけていたみょんは切っ先を高く振り上げる。
痛みで動けないありすの頭上に、ふらんを屠った枝先が固定される。
「ゆっ…ぎ…あ、ありすの……おめ…め………ゆぎぃぃぃぃい!?」
枝先に引っかかっていた左眼が、みょんの一振りで叩き落されると
みょんは咥えていた枝でグチャグチャに砂と掻き混ぜた。
そして体重を乗せて何度も跳ね潰し跡形もなくす。
『ありすは…レイパーみょん 都会派とか気取っていても 死ぬまでゆっくりを犯しつくすキ○ガイだみょん』
「ゆひっ…ゆ…ち、ちが…あり…す…は…」
『レイパーがレイパーと自覚しているなんてあり得ないみょん
どれだけ知的な振りをしていても全部すっきりをしたいがための演技みょん
孕ました相手も自分の赤子も喰ったり犯ったり、もうゆっくりでもなんでもないみょん』
「そんなこと… ありすは…しな……あ……ゆぎぃぃやあああああ!!!!!!!」
背後のちぇんは、傷をえぐる様な動きをすると
ありすを貫く痛みは中枢にさえ届いているのか確かな思考を奪っていく。
体を痙攣させていたありすの体から液体がにじむ。
『そんなのふらんと何も変わらないみょん ゆっくりを食い物にするレイパーは さっさと死ねばいいみょん ゆっくりに必要のない存在みょん』
「ゆぎっ…ゆああ…ゆぅぅぅう……あ… ありすは…れいぱー…じゃ………」
『みょんはさっき「触るな」といったみょん それに対してお前はなんて言ったのかみょん?
恥ずかしがり屋? 天邪鬼? それはレイパーのツンデレってやつかみょん? そうか わかったみょん』
そう言い放つと咥えている枝が使われ始めた。
みょんはありすの底部を回り込むように
何本も仲間から渡される枝を突き刺していき、ありすを地面に固定する。
一周すると木で作られた皿の上にありすがいるようだ。
「ゆぎゃぁああああああああああああ!!! ごんなの ゆっぐり でぎばいわぁああ!!! やべでぇええ!!!! やべでねぇえ!!!」
『やめてほしいのかみょん?』
「やべで!やべで!やべで!やべで! ありずが ずっどゆっぐりじぢゃう!!!!」
『みょんは 都会派のありすが ツンデレって知ってるみょん
"やめて"って事は "やめないで"って事みょん ゆっくり出来てるって事みょん
そんなに喜ぶなら もっとしてあげる…みょん!』
ぐじゅり。
体重を乗せて深々と差し込まれていく枝。
それはありすの下腹部にある穴を、無理やり切り広げていく。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
なくなったありすの左眼からは止め処なく涙が流れ落ちた。
「ゆぎぃぃぃぃいいいい! だめぇえええええ!!!! ぬいでぇえええ!!!!!いだいいいいいいいい!!!!」
『涙を流すほど気持ちいいのかみょん? 言われなくても 抜かないみょん
そんなに体をよじって誘わなくても もっとやってあげるみょん 本当にありすは好きモノみょん』
抜き差しを繰り返す枝と共に ありすが内包していた乳白色の液体が下腹部から飛び散っていく。
歯を食いしばるありすの歯は、どれもヒビが入り欠けていく。
更に耐え難いストレスによって頭髪は少しずつ抜け落ちていった。
「やべで!やべで!やべでね! そこは いじっちゃだめぇえええ!!!! あがちゃん! あがぢゃあんが できなくなっぢゃううう!!!!!」
『こんなに喜んでもらって嬉しいみょん ここがいいのかみょん? 気持ちいいのかみょん?
ありすのふぁーすとすっきり?だかなんだかを貰えて嬉しいみょん』
血走った右目はカチューシャと同じ色になっていく。
もはや口なのか排泄口なのか、それとも子供を産む器官なのか
無残に引き裂かれ部位の区別もつかないカスタードを垂れ流す穴が一つ増えている。
「もぶ… やべで…ありずが…まりざど………ありずの……あがぢゃん……やべで もぶ…やべ…」
『まだしてほしいのかみょん? 素直じゃなくて ありすはツンデレさんで可愛いみょん
ありすのココは もうグチャグチャみょん でも頑張るみょん』
「やべで……やべ………………………………………………ゆ、ゆぐっ もっどじで じでいいばよ!!!! じでいいのよ!!」
ありすは閃いた。
みょんがありすの言葉をツンデレとして
真逆に捉えてしまうならばと、反対の事を叫んだ。
『わかったみょん』
「ゆ…」
みょんの蹂躙は止まった。
柔らかいゆっくりの体を無慈悲の破壊するだけであった硬い枝は、すぐに動きを止めた。
『ありすの望むとおり もっとしてあげるみょん』
「ゆっぎぃぃややぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!! どうじでぇえええええ!!!!」
ありすの命も
いつか出来る未来の小さな命も
たった一本の枝で、無残に削り取られていく。
「ゆぁぁぁああ……あ…ゅ……………ぁ…」
生きる事は積み重ねだ。
生きる事は受け継ぐ事だ。
自分が老いて最期は土へと還ったとしても
その経験と記憶は子供達が覚えてくれている。
だから死と呼ばれるものが怖くなくなるのだ。
だから消えてなくなる事に寂しさを覚えないのだ。
ならば子供を残せないとはどういう事か?
それは刻々と全てが無に帰えるまで、ただ何も出来ずに死を待って過ごすという事だ。
自分が感動した事も乗り越えた事も全てが消えてしまう。灰となり空へ溶けるか、土の下へ埋もれるか。
感情も結果も全てが自分だけで完結し、そして死んで何もかも無くなる。
今この時なら家族や親友が自分を覚えてくれているだろう。
しかしそれは自分と同じか、それより早くどこか遠くへ消えてしまう。
結局は親であり他人なのだ。そこで終わるのだ。
子供に自分の知識や生き様を伝える。
それは自分が世代を超えて生き続ける意味を持つ。
しかし子供を残せなければ、本当に朽ちて死ぬ為だけに…生に執着して無駄に生きているだけになるのだ。
「ゆひっ…ゆぐっ…ゆっ……ゆ? ……………………ゅ…ぁ……………………」
引き抜かれた枝先には自分の体内から取り出された袋のような物体がこびり付いている。
もう機能しない器官。
ありすが母になるためのモノ。
自分から取り除かれてしまったモノ。
もう子供が作れない。
自分が未来のない無意味な塊になった事実が、ありすを恐怖と悲しみに染めた。
「ゆああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
絶叫を放つありすの体は縮んでいく。
押し広げられた下腹部からは中身が搾り出されていった。
妹思いの優しいお姉さん。
そんな誰からも好かれた性格も
ありすが今まで生きていた思い出も
したかった事、叶えたかった事
れいむを気遣って隠していたまりさへの想いも
全てが土へ染み込んで、誰にも知られる事はなくなった。
【4】
ぱちゅりーは素早く跳ねる事も出来ないし体力もなく病弱だ。
それゆえ集落から遠く離れた森の景色を見た事がない。
しかし誰よりも危険に対して敏感であるぱちぇりーだからこそ
周りの草木の生え方、虫の声、そして肌から感じる空気から
群れで暮らしているこの森の変化に気づき始めていた。
至極丁寧に採取された花々。
踏み固めたのではなく、何かで切り開かれたような通り道。
それらは自分の属している群れの仕業ではないと思わせた。
群れの皆が知らないナニか。
ぱちゅりーすらも知らないナニか。
それが危険なのかどうか?
まりさ達が帰ってこない事と関係があるのか?
とにかく自分が持っている知識と用心深さを全て発揮し暗闇を進んでいった。
「むきゅっ むきゅっ む………けほっけほっ」
冷たい夜風を吸って咳き込みながらも、ぱちゅりーは跳ねる。
休み休み進む速度では、まりさ達を探しに行ったありすと引き離されるだけだ。
ならば賢いぱちゅりーにしか出来ないであろう方法。
消えたまりさに繋がる細かなヒントを見つけていくことが近道になるはずだ。
「…むきゅ?」
唐突に道がなくなった。
木々を縫って作れた通り道は行き止まりとなっている。
"しょうがない"、その一言を胸中で呟き、普段のぱちゅりーならば諦めていただろう。
けれど今のぱちゅりーには、あの子達の笑顔と大切なありすの姿によって
こんな暗い夜の森にいても恐怖に打ち勝つ事が出来る。
進んで暗がりに入り目を凝らす。
捕食種よりも怖い、ゆっくり出来ない怪物でも出てきそうな闇に目を反らしたくなる。
「むっきゅ!むっきゅ! がんばるのよ ぱちゅりー!」
すくむ己を自らの声で奮い立たせて、黒く塗りつぶれた奥へと近づいた。
何か鋭利な物でトンネル状に切り裂かれてしまっている茂みが目に入った。
いつもならば怪しい場所など、決して近づく事などないぱちゅりーではあったが
これがありすへ辿り着く鍵だと思うと急いで這って行った。
大人のゆっくりが ギリギリ通れるだけの幅。草木を刳り貫いたトンネルがあった。
ぱちゅりーでも無理をせずに通れるような綺麗な壁面に加工されている。
そしてトンネルの続く方向は、まりさがいつも語っていた狩場へと直線的に繋がっていた。
不意の落下や落ちている石などに注意して進めばいい。
ぱちゅりーは振るった事もない小さな枝を咥えると、心決めて暗い茂みの中に身を投じた。
茂みの地面は大きな石が取り除かれ葉っぱが堅く踏み慣らされている。
主に這って移動するぱちゅりーにとって、砂利が混じる普通の地面よりも移動しやすいものだった。
こんな芸当ができる仲間はいない。もちろん動物の仕業とも思えない。
全ての疑問も、ありすも、まりさ達も、この先にある気がしてならなかった。
「…むきゅ!?」
咥えていた小さい枝を落して呆然とした。
いつの間に冬が訪れたのだろうか。
茂みを抜けた先には真っ白い風景が広がっていた。
それが生き物だと気付くと、ぱちゅりーはウサギの群れなのではと思った。
必要な食料を集めるのに、夕暮れまで近場の狩りに同行していた時があった。
その時に出会ったウサギは、こんな風に白い姿と赤い眼をしていたのを覚えている。
しかし跳ねて逃げていったウサギと違うのは
数え切れない赤い双眸が一組、二組と次第にパチュリーに向けられていく事だった。
真っ白な髪が薄い月明かりに照らされ、対照的な赤い眼をしたゆっくり達。
それだけではない、その向こうには獣のような耳と尾を生やしたゆっくり達もいる。
かつて見たこともない奇妙なゆっくり。
しかも同じ種類が一箇所に集まって無言で佇んでいる。
異様だ。
まりさが帰ってこない事。
れいむが帰ってこない事。
ありすが見つからない事。
それを目の前の光景と論理的に考える事もなく
自然と ぱちゅりーの答えが口から漏れていた。
「あなたたちなのね!」
静かな夜空にぱちゅりーの声が響いたが、彼女達は微動だにしなかった。
唐突に現れた白い陰影に目が慣れてくると、白いゆっくり達が枝を咥えているのに気が付いた。
具体的な敵意を感じ取れる凶器を見て、ぱちゅりーは自分の置かれている状況をやっと理解した。
不慣れな長距離の登山を、息も絶え絶えに終えたぱちゅりーでは
到底逃げられる気がしなかった。
しかし黙ってどうにかされてしまうつもりはない。
相手が狼や梟ではなく、同じゆっくりならば対処する糸口があるはずだ。
「あなたたち…ありすを…れいむを…まりさを………………どこへかくしたの?」
『やっぱり ここには群れがいるみょん』
『わかるよー レイパーが 泣き叫んでた通りなんだよー』
レイパー? そんなものはこの山にはない。
独りで暮らしているありすなど聞いたこともないし、被害もない。
『ツンデレのレイパーが すぐに死んでしまって 場所が聞けなかったみょん』
『レイパーは本当に役立たずなんだねー』
死んだ? ずっとゆっくりしてしまった?
それが誰なのかわからない。
レイパーというならば、ありすのゆっくりであるハズだ。
もちろん誰よりも思いやりのある群れのありすの事ではないだろう。
ありす以外に夜の森へ出かけているゆっくりありすがいたという事か?
「あなたたち…なにをいっているの?…………………………………むきゅ!?」
ぱちゅりーへと急に投げて寄越された塊を、ぱちゅりーは避けることはできなかった。
衝撃に短い悲鳴を上げた。
恐る恐る目を空けて確かめと、幸い体に異常はなかった。
頭上に感じる重さ以外には。
ぱちゅりーの頭に覆いかぶさった物体は、ズルリと滑り落ちた。
立ち込める甘い臭いがぱちゅりーを包む。
ぱちゅりーは口を閉じた。
口内に充満する己の中身を出さないように。
「むきゅ!?…ゆぐぐっ……むきゅううう!?……ゆんぐぐぐくっ」
嘔吐を押さえ込んだぱちゅりーは、ゆっくりの上半身だけを見て震え始めた。
白目を剥いているように見えるのは眼球がないからだ。
もはや上半身とも言えない。
カスタードの内容物は残っておらず、もう皮だけしかない。
けれどカチューシャだけは、とても綺麗に残っていた。
ワザと残されたように。
「あ…りす? …ありす!?…………むきゅうううぅぅぅぅぅ…むきゅぅうううう……どうしてぇええ? どうしてなのぉお!?」
カチューチャに頬を当てると、ぱちゅりーは泣いた。
直ぐに冷たい夜風が涙を乾かしていく。
ぱちゅりーの声はありすに届かない。
ぱちゅりーがどんなに考えても知恵を振り絞っても。
何もできない。
考えるだけでは、もうどうにもできない。
ただ冷たくなったありすの欠片があるだけだ。
『どうしてかみょん? どうしてか分からないみょんか? みょん達がしたことが分からないみょんか?』
『わかるよわかるよー ちぇんは分かるんだよー』
「むっきゅあ!!」
耳付きのゆっくり達が、ぱちぇりーを跳ね飛ばすと ありすの残骸に群がった。
湿ったモノが潰れ、破かれ、踏まれ、その音がなくなると
ぱちゅりーの前には泥溜りしかなかった。
もう黄色や赤色はない。
「む、きゅ?…そ…んな……うそ……なんで………」
『わかるんだよー ちぇんが 潰したまりさや れいむと 同じなんだねー 頭が足りてないんだねー』
「なん…ですって?……あなたたち…なにを…まりさたちに なにをしたのよ! 」
『今みたいに 潰してゆっくりさせなくしたみょん ゆっくりしないで理解するみょん』
相手の名前なんか、どうでもよかった。
こいつらが全てを変えてしまった。
もう元気なまりさや、子供っぽいれいむの姿を見ることは出来ない。
ありすの笑顔も見ることは出来ない。
泣いて寄り添うことも出来ない。
何も残っていないのだ。
「むきゅううううう!!!!……………ありすを…まりさを…れいむを…かえしてよ!」
決して見ることは出来ない感情を剥き出しにしたぱちゅりーの表情。
涙を浮かべて まくし立てるぱちゅりーなど、まるで虫の雑音の様にしか思っていない顔でみょんが言い放った。
『ぱちぇりーは 頭の良い振りをした ゲスだみょん』
「むきゅ!? なにを…いってるの!? あなたたちは なんなの!? この ゆっくりごろし!!!」
『ぱちゅりーは 手足になる 子分達が潰されれば 何も出来ない ただのクズだみょん』
みょんが ありすがいた泥の上に跳ねてきた。
「こぶんですって? ありすも れいむも まりさも ぱちゅりーの たいせつなかぞくよ!!! あなたたちに なにがわかるのよ!」
『わかるよー 紫もやしのぱちゅりーだからねー あることないこと言って ゲスを率いて騙くらかすのが上手いんだねー』
「馬鹿なゲスしか引っ掛からない嘘で ゲス同士が馬鹿しあってるみょん」
ちぇんが笑いを堪えきれずに飛び跳ねている。
こいつらには悪意しか感じない。
とても同じゆっくりとは思えなかった。
どうしてこんなゆっくりが存在するのかぱちゅりーには分からない。
白いヤツは枝を咥えて座った視線を投げてくる、緑のヤツは動物のような鋭い牙を見せて笑っている。
目の前の全てを拒絶している。
何もゆっくり出来ていない。
けれどこいつらは辛そうでもなく悲しそうな表情もしていない。
『ちぇん達が追いかけっこしてあげるんだよー』
牙を見せびらかしているちぇん達は、仲間の一匹をぱちゅりーに見立てているのか
周りをグルグルと回るしぐさを見せて挑発してくる。
「むきゅ!」
ぱちゅりーは踵を返して跳ねた。
ここで ぱちゅりーも奴らの狂気にかかってしまえば全てが終わってしまう。
アレは本当にありすだったのか?
ありカチューシャを見間違えるはずは無い。
ありすの物だった。
そんな事。ありえない。信じたく無い。
もう二度と会えないのか。
言葉を交わせない。笑顔を見れない。温もりを感じられない。
続きは無い。ぱちゅりーとありすの未来は無くなった。
あずかり知らぬ所で終わらされた。
仇をとりたい。
けれどぱちゅりーにはその力がない。
今持っている感情のままに行動するのは賢者ではない。
自分の願望だけはなく、誰かを思いやる事。
それをぱちゅりーは先刻気づいた。ありすに教えられた。
だからこそ群れの皆がこいつらの暴力に出会わないためにぱちゅりーは跳ねた。
『待つんだよー 捕まえて 全部吐かせてあげるよー』
『小賢しいぱちゅりーが消えれば ゲス達に手を焼くのも 楽になるみょん』
どう逃げても追いつかれる。
だからぱちゅりーは、先ほど視界に入っていた小山に登っていった。
登りきったぱちゅりーが見下ろすと、緑色が睨み白いうねりが笑っていた。
ちぇん達はその長けた足を使わずに小山の下で待ち構えている。
まるで最期は自分で決めろと言っている様に。
『やっぱり馬鹿なんだねー そんなところに昇っても 意味がないんだねー どうするか見ものなんだねー』
『さっさと殺すみょん ゲスは まともな思考が出来ないみょん さっさと死ねばいいみょん もうウンザリだみょん』
すぐに追いかけず遊んでいるちぇん達に、枝を揺らしているみょんはイラだっているようだった。
「ゲス? ぱちゅりーの なにをみて そうおもったのよ! いいかげんにして!」
小山は囲まれ、もう逃げ道は無い。
『ぱちゅりーが ぱちゅりーだからみょん』
「むきゅ? ぱちゅりーは ぱちゅりーよ! だから なによ!」
『ぱちゅりーは 自分の手を汚さずに 他のゆっくりをこき使って 悪さをするゲスだみょん 最悪だみょん
何も知らないくせに いろんな嘘を言って 場を取り付くろうみょん 口だけは達者みょん』
『わかるよー 直ぐに吐いて死んじゃう 出来損ないのゆっくり だからだよーそうしないと 生きていけないんだよー』
『そうだみょん そんな自分で生きる力を持たないゆっくりなんかに 食料は無駄みょん 住処の邪魔みょん 今すぐ消えろみょん』
何がこいつらをそこまで思わせているか分からない。
その紅い瞳に嘘は感じられない。心底ぱちゅりーを毛嫌いしているのだ。
「そんな…そんなのって…」
『ぱちゅりーは 死ねみょん 役に立たない れいむも死ねみょん ゲスのまりさも死ねみょん レイパーのありすも死ねみょん』
「おかしいわよ! ぱちゅりーは うそをいわないわ! れいむだって がんばってるわ!
まりさも わるいこではないわ! ありすは!ありすは いちばんやさしいゆっくりなのよ! わるくいわないで!!」
『糞どもは 糞同士で 仲がイイみょん 自分のゲスさ気がつくハズがないみょん みんな糞なのにみょん』
みょんがちぇんを押しのけて進んでいく。
「わるいこも たまにはいるわ! でも みんなが ゆっくりしていれば みんな いいこになるのよ!
まちがったことをしたら なおせばいいのよ!」
『たまにいる? れいむやら まりさやら ありすやら ゆっくり出来ないゲスだけの中で 何を言ってるみょん
何も変わらないみょん ゲスはゲスのままだみょん』
「すべてが わるいゆっくりなわけないでしょう!? あなたのむれだって みんな せいかくがちがうでしょう!?」
『関係ないみょん ゲスゆっくりは れいむから まりさから ありすから そしてお前から 出てくるみょん だから殺すみょん』
『わかるよー 全部殺しちゃえば 安心なんだよー れいむや まりさがいなくなっても ちぇん達は 何一つ困らないんだよー』
悪いゆっくりは れいむ、まりさ、ありす、そしてぱちゅりーから現れる。
そして でいぶやゲスまりさやレイパーありすなどが、ゆっくりを破滅させる。
だからその源である種族を根絶やしにすればいい。元が無ければ産まれる事もない。
自分達はまったく違う種族であり、いくらそいつらが死のうと関係がない。
完全な排他的で独善的な思想があった。
「…そんなの…へんよ! おかしいわよ! ゆるされないわ!!!」
『もう いいみょん どうせ今すぐ殺されるみょん』
群れの皆が殺される。
まりさが頑張って集めた食料も
れいむが歌いゆっくりしていた巣も
ありすが世話をした幼い子供達も
全て奪われる。
こんな狂った考えによって。
「むきゅ…させないわ………ありすと れいむと まりさが だいすきだった むれを……そんなこと…」
『もういい黙れみょん そこで じっとしてろみょん』
みょんはちぇんの壁を突破し小山に跳ねた。
咥えていた枝は根元が折れるほど力がこめられ瞳は血走っている。
そして、
ぱちゅりーは叫んだ。
「ゆ っ く り し て い っ て ね !」
ぱちゅりーの声が響き渡る。
突然の大声にちぇんは耳を窄めさせて、後方のみょん達は枝を落しそうになっていた。
しかし先頭のみょんだけは怒りを露にする。
『この後に及んで 何を言ってるだみょん!? お前達に ゆっくりする資格も ゆっくりしてやる義理もないみょん!!
その帽子を引き裂いて 目玉を穿って 舌をすり潰して 砂利と泥に混ぜて 殺し尽くしてやるみょん!!!』
みょんが小山に跳ね上がろうとすると、花に眼を奪われた。
紅い花がみっつ。
ただの花だ。
どうして気になるのか分からなかった。
ここを拠点にしてから、よく地形を観察していたはずだ。
しかしこんな花を見掛けた覚えはない。
いいや、あのゲスまりさが隠していた食料と同じだ。
どうして今まで仲間から採取されていなかったのだろうか。
まるで今咲いたようにも感じられる瑞々しい赤色だった。
『…みょん?』
おぼつかない底面から地震が起きたと考えた。
が、そうではない。
山の勾配が変わったのだ。
みょんが小山から転げ落ちると、ぱちゅりーは遥か頭上にいた。
『わ、わからないよー????』
ちぇん達はとっさに小山から散っていた。
散り散りになるちぇんと入れ替わってみょん達が、リーダー格のみょんの後ろに並んだ。
『いいや、わかるみょん』
振動が収まるとゆっくりと小山は横に回転し始めた。
数メートルにも及ぶ巨大な三角錐の上にぱちゅりーがいる。
山肌は土の色と言うより灰色に濁っていた。
頂上は黒く染まり自然の色には見えない。
ふいに生暖かい風が吹き付けてきた。
それは小山から開いた口であり、巨大な緑色の瞳が草木の間からみょんを捉えていた。
『…ドゲスみょん』
『わ、わかるよー デクの坊のドスなんだよー』
反射的に一時退避してきたちぇん達が、小山の正体が判明するやいなや再び集まってきた。
『糞ゲス共が増長する根源みょん こんなのがいるから ゆっくり出来ないんだみょん』
大木のようなドスまりさに対峙しても、みょんが臆する事は無かった。
なぜならば、この群れはドスすらも葬っていたのだ。
熱線や巨体の攻撃は堪えれるものではない。
しかしあくまでゲスまりさをスケールアップしただけのドスだ。
体中を枝と牙で傷つければ泣き叫ぶし、木々を倒して追いかけて来ることも無い。
ただデカいだけだ。
無駄に頭が聞く分、こちらの挑発に乗せられたり仲間ゲスのためにじっとしていたりもする。
『なんて事ないみょん それがゲスのぱちゅりーが 無い知恵を搾り出した結果みょん?』
ぱちゅりーは惚けたような顔をしている。
このドゲスが例のオーラでも出しているのだろうか。
ならば一つ突き刺しでもすれば収まる。
ドスに振り落とされて潰れてしまえばいい。
『ゆっくりしないで ドゲスごと死ねみょん』
みょんがゆっくりの急所であるドスの底部に枝を突き刺した。
そして何度も切り刻もうとしたが
『…みょん!?』
枝が引き抜けなかった。
分厚い皮に引っ掛かったのかと、仲間から新しい枝を受け取ろうとしたが。
『わわわわわわからないよー!?』
突き刺された枝は――――――瞬く間に成長し葉を茂らせた。
『みょん!?』
棒切れが、まるで接木されたように命を宿して木になったのだ。
ドスの底部から生えた枝は風に揺れている。本物だ。
『…し、知らないみょん こんなの知らないみょん』
知らないことはそれだけではない。
そもそもドスの形自体が今まで狩っていたヤツと違っていたのだ。
巨大な三角帽子には、小山に生えていた草がそのままカビのように茂っている。
そしてハリもなくしわがれた帽子の先端には、大きなランタンが吊り下げられ火が灯っている。
それも青白い灯りだ。その灯りは暗い森を照らし浮かびあがらさせて、まるで地面に降りた月の様だった。
肌の質感も ゆっくりとは思えない。
血色の悪い頬は、まるで乾燥した泥のようにヒビ割れて剥がれ落ちてしまいそうだ。
幅の広いツバから落ちている無数の蔦(ツタ)は、蛇のように風に揺れてうねっている。
ドスは何もしゃべらない。元々言葉を発していない様に、夜の湿った空気だけを取り込んでいる。
揺れるランタンの明かりがドスの髪を青白く照らしだすと、リボンや帽子が結ばれているのが覗えた。
結ばれていた言うより、まるで何処へも逃げられないように捕まえられている様にも見える。
薄い金髪に半ば溶け込んでいたのだ。その数はみょん達の群れの比ではない。
途方も無い量の飾りは数えられるはずも無く、まるでゆっくりの死体に群がる蟻軍隊のようにビッシリと存在していた。
『み、みょん! 皆 動けみょん!』
仲間が呆気に取られている最中、みょんは早かった。
ドスが口を大きく開けるや否や口蓋から光が溢れる。
『わかるよーーーーーー!!!!!!』
直線的なドスパークなど、大振りの間抜けな行動である。
ドスの正面にさえ居なければ恐れることも無い。
ちぇんとみょん達が左右に分かれると…ドスパークは放たれた。
『馬鹿なんだねー 当たるワケないんだよー!!!!』
『無能な ドスが 群れの長とか 笑わせるなみょ―――――
熱風も振動も無い。
ドスから放たれた光は森を焦がさなかった。
ただ眩い閃光が無音で辺りを照りし尽くした。
凄まじい光に飲まれた後、みょん達はその場に無傷で残っていた。
【5】
「むきゅ?」
ぱちゅりーが眼を覚ますと、冷たい夜風に身を震わせた。
確か得体の知れないゆっくり達に追われていたはずだ。
『なん…なんだみょん………』
眼下にあの白いゆっくりがいた。
その姿には傷一つないが、とても苦しそうにしている。
「むきゅ!?」
100匹のゆっくりが ぱちゅりーを見つめていた。
そうだ、気の触れた群れから逃れて この小山に登った。
自分の知っている知識を信じて。
『みょん達が… 何をしたんだみょん…どうして…みょん…』
みょんは枝を咥えていなかった。
ちぇん達の口は閉じて牙は見えない。
他のみょん達も枝を落してぱちゅりーを向いていた。
「あなたたちは ありすを……まりさを… れいむを… みんなを うばったのよ!」
『みょん達は…ゆっくりしたいみょん…ちぇん達も…ゆっくりしたいみょん…
だから ゆっくり出来ないやつらを 殺すみょん 何も悪くない…みょん…』
体を引きずるように這って、みょんはドスの腹を登っていく。
「みんなが わるいこ じゃないわ!」
『それは たわ言みょん… どんなれいむも まりさも ありすも… どうせ いつかゲスになるみょん
だから善いとか悪いとか 違いなんてないみょん…全部 殺す…みょん…
れいむや まりさが いなくなっても…何も 困らないみょん
みょんでも ちぇんでもない やつらみょん…どうなろうと関係ないみょん…』
みょんの紅い瞳が淡くなっていた。
「それでも… いたとしても そんな ゆっくりできないゆっくりとは かかわらないわ!」
『その通りだみょん… お前達は追い出したんだみょん…
ゆっくり出来ない 普通でないゆっくりを 群れから追放したんだみょん』
ドスの足元にいたちぇんが無表情のまま倒れた。
するとぱちぇりーの足元から一本の茎が伸びる。
たちまち蕾を実らせると、見たことも無い紅い花が咲いた。
『異端を…排除してきたみょん 普通ではないから 自分達と違うゆっくりだから…
どうせ困らないみょん……自分達は沢山いるからみょん…その小さな一角を追放しても そいつらが外で野垂れ死のうが…関係なかったみょん…』
更にちぇんやみょん達が地面に倒れると
その度に ぱちゅりーの足元からは…いや草に覆われたドスの帽子には紅い花々が咲き乱れる。
『みょん達も 同じみょん…
れいむでも まりさでも ありすでも ぱちゅりーでもないから 普通じゃないゆっくりだからみょん だから…』
みょんがドスを登る度に、紅い花で三角帽子が飾られていく。
『見た事が無いから… 気味が悪いから…巣から追い出され…希少種だからと…人間に捕まえられ…
そして 仲間じゃないから…ゆっくりじゃないから…助けてもらえないみょん…』
「あなた…いったい…どこから…」
『みょんの傷は… ふらんにカジられたものじゃないみょん…
人間の里で作られたみょんが… 逃げ出して…やっと出会えた…同じゆっくりに… …切られて…』
99本の花が月を向いている。
『…ゆっくり………できない…………化け…物は……死ね………って…………みょん…………………………………………………』
ドスから落ちていくみょんの瞳は、髪と同じ色になっていた。
『……れいむは…死ね…』
『……まりさは…死ね…』
『……ありすは…死ね…』
『……みんな…死ね…』
紅い花畑に佇む ぱちゅりーの姿は、とても白く感じられた。
捜索隊が見つけたのは美しい100輪の花々だった。
きっとまりさが自分達を驚かすために黙っていたんだと、ゆっくり達は喜んだ。
少し離れた所にも寄り添う4輪の紅い花があったのだが
仲睦まじさに微笑むと「ゆっくりしていってね!」と声をかけて後にした。
by キーガー(ry