ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2869 境界線 中編
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ankoss
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『境界線 中編』 39KB
制裁 自業自得 群れ ゲス ドスまりさ 希少種 独自設定 ナナシ作
*注意
・anko2757 境界線 前編 の続きです。
・この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、国家とは一切関係ありません。
・独自設定の希少種が出ます。
・人間が犯罪行為を犯す場面が出てきます。
・いつも通り過去作品の登場人物や世界観が出ますが読んでなくても大丈夫です。
「たっだいまー!」
陽気な声をあげながら、開け放たれた窓から一匹のゆっくりが部屋に飛び込んでくる。
ちなみにここの部屋は三階である。当然普通のゆっくりがおいそれと入ってこれる場所ではない。
「あいよ、おかえりー」
それに対して別段驚いた風でもなく応える男。
「むきゅ!ぬえ!いったいどこに行ってたの!」
「うん、ちょっと山にいるっていう群れの連中の様子を見にね!
いやー、あれがドスまりさかぁ、はじめて見たよ。でもただでかいだけで普通のまりさって感じだったね」
突然窓から入ってきたのはゆっくりぬえ。
飛行能力と他のゆっくりに擬態することのできる能力を持つ、希少種の中でも正体不明とされるゆっくりである。
ぬえもまた、ぱちゅりーと同じように男とある群れで出会い、色々あって男と行動を共にすることになったゆっくりである。
「へえ、お前ドスを見るのは初めてだったのか?」
「まあね、昔ちょろっと住んでた希少種の群れにはドスはいないし、今まで旅先で回った群れにもドスはいなかったからね」
「むきゅ?希少種の群れにはドスはいないの?ドスも希少種なのに?」
男とぬえとの会話に疑問を口にするぱちゅりー。
ドスと言えばゆっくりの希少種の中でも代表格のような存在のはずだ。
それが希少種の群れにいないとは何事なのだろうかとぱちゅりーは疑問を持ったのだ。
「ああ、そういえば話したことなかったっけかな。
昔は希少種の群れのにドスも一緒に加えてたんだけど、その結果酷いことになったことがあってね。
ドスも通常種と同じように希少種の群れには入れないことになったのさ。まあ、この話についてはいつかやるよ。
で、そんなことよりもさ」
男はぬえに向き直る。
「いまふと思ったんだが、お前一度見たゆっくりに擬態できるんだよな。てことはさ、ドスに擬態することもできんの?」
「もちろんなれるよ。でもドスに成りすまして、あの群れの連中の言う事を聞かせようってつもりなら多分無理だよ」
「ほう、別にそんなこと全く考えてないが、そりゃ何故だい?
お前さんの擬態は、姿形なら完璧に同じになれるずだが?現に初めて会った時はそれで上手く長を演じたりしてたじゃないか?」
ぬえの言葉に意外そうに驚く男。
「えーっとねえ、ちょっと勘違いしてるんだと思うんだけど、私の擬態っていうのはさ、別に私自身が擬態対象に変身しているわけじゃないんだよ。
そういう風に相手に見せているだけで、私自身には何の変化もないのさ、わかるかな?
だからドスに擬態しても多分すぐばれちゃうと思うよ」
「……なるほどそういうことか」
「え?え?どういうことなの?」
ぬえの話を聞いて、納得して頷く男。
が、それに対してぱちゅりーはイマイチ話を理解できていないようだった。
そんなぱちゅりーにぬえはさらに説明を補足する。
「だからさぱちゅりー、例えば私があの群れの連中に対して、ドスに擬態したら確かに姿形はまったくドスと同じに見せることはできるよ。
でもそれは私がドスに変身したんじゃなくて、群れのゆっくりたちが私の姿をドスだと勘違いしてるだけなんだ。
私自身に全く変化はないわけ、当然身体が大きくなったわけでもない」
「あっ!そうか!」
ぱちゅりーは何かに気づいたように声を上げる。
「わかったみたいだね。察しの通りドスに見合うだけの身体の大きさは私にはない。
だから群れの連中とすーりすーりとかしたら一発でばれちゃうって訳さ。なにせドスの身体に触れようとしても、そこには何もないんだからね。
まっ、何より私があんな連中とすーりすーりするなんて絶対にゴメンだってのもあるけどさ」
そう説明するぬえ。
ぬえの擬態の能力とは、正確には相手に対して自分が望んだゆっくりの姿を見せる能力と言い換えることもできる。
つまりドスのように、身体のサイズが著しく異なるゆっくりに擬態する場合、自身の体積以上の部分は、
映像として認識させることはできるものの、触ることは出来ない。
仮に触れようと手を伸ばしても、まるで実態のないホログラムのように手が空を切るばかりである。
一時的に騙す事は出来ても、すぐにボロが出てしまうだろう。
「擬態のことは大体わかったよ。それよりも群れにいた連中はどんな感じだった?直に見てきたんだろ?」
「そうそう!なんか自分たちの領土で捕まったまりさを返すように、ドスが強く訴えに行くとか何とか言って張り切ってたよ。
何でも人間がゆっくりにいきなり攻撃を仕掛けてきたって、随分おかんむりみたいだったね、協定違反だーってさ」
「むきゅ!何言っているの!今捕まってるまりさが、突然人間さんに体当たりしてきたのよ!協定違反はそっちじゃないの!」
「いや、そんなこと私に言われても……」
ぬえからゆっくりの群れの話を聞いて、憤慨するぱちゅりー。
ゆっくりにしてはやや真面目な性格であるこのぱちゅりーは、ルールや掟を守らない輩には同じゆっくりでも厳しい態度を取るのだった。
「別にいいさ、この際人間とゆっくりのどっちが先に仕掛けたなんてことはさ」
だがそんなぱちゅりーに対して男はのんびりと言う。
「どうして?どちらに非があるかを明確にすることは交渉の上で大切なことじゃないの?」
「それが人間同士、ゆっくり同士の問題ならなそうかもね。
だが残念ならがらこれは人間とゆっくりの問題なわけだ。
こういっちゃうと実も蓋もないけどね、ゆっくりと人間は対等じゃないのさ。
つまり極端な話、人間が黒と言ったらゆっくりは白いものでも黒ってことにしなきゃいけない、そもそも交渉の余地がないわけだ。
だから、どれだけゆっくりたちがこの件でこっちが悪いと言ってきたところで、結局のところそれは意味のない行為なのさ。
まあドスもいるっていうし、なるべく遺恨を残さないように上手く立ち回るつもりではあるけどね」
「要は力が全てってことだね、自然界の大原則!」
男の話にうんうんとぬえが頷く。
「そういうことだな。まあドスが向こうからやってきてくれるっていうのなら、わざわざこっちから出向く手間が省けていい。
そしてだだ一つわかっていることは人間が譲ることはないってことだ、ことの善悪関係なしにね
ていうか、そもそも今回の件は人間は全然悪くないわけだし、遠慮する事じゃないわな」
そう男が話を終えたとき、ドン!ドン!扉を叩く音が室内に響いた。
『突然すいません!少々事件がおきまして、どうか一緒に来てもらえませんでしょうか?』
扉の外から慌てた様子の声が聞こえてくる。
どうやら何かあったようだ。
ひょっとしてもうドスが村に抗議とやらをしにきたのだろうか?
「ほら、噂をすればもうドスが村にやってきたみたいだぜ。随分とゆっくりとしてないことでいらっしゃる。
はいはい、今開けますよ」
軽口を叩きながら部屋の扉をあける男、扉の前にはここまで走ってきたのか、村長の使いの男がゼイゼイと息を切らしながら立っていた。
「一体どうしました?そんなに慌てて」
男はにこやかに村長の使いに尋ねる。
「はあ、はあ、いやそれが、何でもゆっくりの関係者を何名乗る人が突然やってきて、捕まえていたあのまりさを勝手に逃がしちまったみたいなんです!」
「何…だと…?」
あまりの予想外の返答に呆然と呟く男であった。
村の端の方にあるまりさが捕まって閉じこめれれていた倉庫の前には、関係者一同が集まっていた。
倉庫の扉は開け放たれており、鍵として機能していた南京錠にはもう用はないとばかりに鍵が刺さったまま放置されている。
そして倉庫内には空になった透明の箱、当然どこにも捕まっていたまりさの姿は見当たらない。
「まりさが自力でここから脱出したって可能性は……、まあ考えるだけ時間の無駄だわな」
男は倉庫内を見回しながら言う。
まりさが閉じこめられていた透明の箱は、外からボルトを捻ってロックをかけるタイプのものだ。
もし万が一まりさがこの箱から自力で抜け出したのなら、箱は破損してなければおかしい。
だが、透明な箱には傷一つなく、代わりにロックが外されパッカリと上部の蓋の部分が開いていた。
誰か人間の手によって外側から取り出されたというのは明らかである。
っていうか、そもそもこの倉庫が空いているということ事態が、もうゆっくりの仕業では絶対に不可能なことである。
考えたくはないが、まりさは人間の手によって連れ出されたのはほぼ間違いないことだろう。
「どうして部外者に勝手に鍵を渡したりしたんだ!」
鍵を管理していた村人を叱責する村長。
「すっ、すいません。ゆっくりについての代表とかなんとか、それっぽいこと言ってたんでてっきり関係者かと思って…」
申し訳なさそうに頭を下げる村人。
まあ無理もないことだ、今この村にゆっくりの国営機関の人間がやってきているのは皆周知の事実である。
そんなとき、村外の人から自分は関係者だからちょっと鍵を貸してくれてと言われれば、ああそうなのかと鍵を渡してしまってもそうおかしな話ではない。
もとより金品などが保管してあるならともかく、村などでたまに使う道具などを押し込んでおく共有倉庫なのだ、
若干管理が甘かったとしても過剰に攻めるのは酷というものである。
「くっ!ゆっくりを誘拐するなんていったい何が目的なのか」
「私の経験上一番可能性が高いのは、まりさを群れの帰したか、あるいは自分たちの手で保護したか……」
「そんなことして犯人には一体何の得があるんです?」
「さてそこまではわかりませんね。
ですが、ゆっくりに対しては様々な思惑を持った民間の団体や組織がその他の動植物なんかよりも多く存在していることは確かです。
中には過激派と呼ばれるような少々危険な連中の存在も確認されています、時に彼らはゆっくりのために犯罪すら犯すことがある」
「じゃあ、今回の件もそんな厄介な連中がかかわっていると?」
ただ事じゃない話の話題に眉をひそめて訪ねる村長。
「ああ、すいません。別に脅かす気はぜんぜんないんですよ。
ただそういう可能性もありえるという話しです。
そもそも鍵が掛かっている倉庫のまりさを、わざわざ関係者のフリまでして助け出すなんて普通じゃないでしょ?
その辺の道端にいるゆっくりを拾うのとは訳が違う。
組織にしろ個人の犯行にしろ、衝動的ではなく何かしらの強い意図を持っての行動だとは思いますね」
「むむむむむむむ」
男の最もな発言に唸る村長。
この辺の村一体を預かる身としては、ゆっくりに対しての過激団体と係わり合いになるなんて絶対にゴメンだろう。
小さな田舎村では厄介ごとは極端に嫌われるものなのだ。
「とにかくオレは今から森に入ってみることにします。
犯人の目的がまりさの保護ではなくゆっくりの群れの返還だった場合、ちと厄介なことになりかねません」
「厄介なこというと?」
恐る恐る尋ねる村長。
「もしまりさが人間の手によって返還されてしまった場合、ゆっくりたちは人間がゆっくりに屈したと考えるでしょう。
そうなった場合ゆっくりは増長し付け上がるんですよ、それこそ際限なくね。
今の段階では、まだ元の鞘に収まる可能性だって十分有り得るんですが、一度そうなってしまうとゆっくりはこっちの話は聞く耳持たなくなる。
収まる話も収まらなくなってしまんですよ」
「なんてことだ、穏便にすませようと考えていたのに……」
呆然と呟く村長。
「それじゃオレはもう行きます。
ああ、その前に少し電話借りますね」
そんな村長を尻目にさっさと行動を開始する男。
近場にある民家から電話を借りて、とあるダイヤルを素早く回す。
しばらくのコールの後、目的の人物が電話に出た。
「あー、もしもし、先輩ですか」
「おや君か、視察先から電話とは珍しい。どうしたんだい?何か問題でも?」
電話先の声の主は、男が所属するゆっくりの国営機関の上司に当たる人物であった。
通常ではゆっくりに関しての問題で、男がいちいちこういった相談事を持ちかけることはない。
だが、今回のように人間がかかわっていると予想される場合は、事前に話を通しておくのが常だった。
なぜなら、男がさっき部屋でぱちゅりーに語ったように、人間対ゆっくりならば個人の裁量でいかようにも扱えるのだが、
はなしが人間対人間の問題になった場合は、男の一存では判断できない事態が発生しうるからだ。
「残念ながらそうなんですよ、こっちで確保していたゆっくりが、部外者の手によって奪われたみたいなんです」
「あらら、それは少々面倒なことになったね。
しかしそんな強引な犯罪まがいのやり方をする奴らとなると、相手はゆーシェパードの連中かな?」
先輩はそう男に尋ねる。
ゆーシェパードとは、ゆっくりに対する民間組織の一つである。
詳しい話は省略するが(いつか本編でやる)『世界のゆっくりの生息環境の破壊と虐殺、虐待の終焉』を建前に活動している非営利集団である。
が、しかしそれは建前の話。
裏ではメディアなどで環境保護をお題目にし、企業や何も知らない一般時から多額の寄付を集めたり専用のグッズを販売している、バリバリの営利集団だ。
「オレもはじめはそう思ったんですけどね、ただいつもの連中の手口とちょっと違うような気がするんですわー。
先輩も知ってのとおり、もしやつらだったらこう、大人数でマスコミなんかも引き連れてきてガーっとやってくるはずなんですよ。
んでもって、大声で村人に対してまりさを釈放しろーみたいなデモや抗議をしつつ、同時に森にも入っていかにゆっくりが人間によって虐げられているか、
みたいないわゆる絵になる演出やら写真やら映像やらのやらせを大量にやりながら、大々的に外部にアッピールすると思うんですよね。
それで頃合をみて、市やら県やらの代表に、帰って欲しかったら金払えみたいことをオブラートに包んで要求していく。
さらに本国に帰った後もゆっくりの特別番組で視聴率を稼いでスポンサーからも金を貰う。
とまあ、なるべく目立ちまくって注目を浴びて金をせしめようとするうとするのがやつらのお決まりののパターンなんですが、今回はむしろ逆なんですよ。
犯人は恐らく個人でこの村にやってきて、まりさを手に入れるまでは、事態が発覚しないように関係者のふりをして倉庫の鍵を入手したりしてる。
ゆーシェパードの連中がこんな事するメリットは何もないわけです、というかそもそもこんな寂れて金のなさそうな村を奴らが狙うとは考えにくい」
「ふむ、なるほどなるほど。ということは君はこの件は組織ではなく個人の犯行だと考えているということかな?」
先輩が男の意見に相づちを打つ。
「いやまあ必ずしもそうとは限らないんですけどね。
今のところ姿を現したのが一人だけでって話で、実は後方に大軍が控えてましたとかありえるわけですし。
そんなわけで各組織で何か大きな動きがなかったかちょっと調べてもらいたいんですよ」
「うむ了解した。ちょうどいま手が空いているから至急調べてみよう。
やばそうなら無理はするなよ、人間相手ではゆっくりのようにはいかないからな」
「十分わかってますよ。傷害罪でタイーホとかゴメンですからね」
「そうだな暴力はいかんぞ、何を言われても手を出したら我々の負けだからな」
「ああ、それがこの仕事しんどいところですよね、人間のための仕事のはずなのに、
結局一番手を焼くのはゆっくりではなく、人間を相手するときってのがなんとも皮肉めいている」
「そういうなよ、この件が終わったら飯でもおごろう」
「ああ、そりゃ楽しみだ。そんじゃそろそろ行きますよ」
ガチャンと受話器を置く男。
そしてそのまま山の方へ向かって走り出したのであった。
その頃、山のゆっくりの群では
「ゆおおおおおおお!まりさがかえってきたよおおおおおおおお!」
「ゆわーい!くそにんげんどもが、あやまちをみとめたよ!れいむたちのかんっぜんしょうりだね!」
「まりさああああああ!こっちむいてええええええええ!」
今現在、ゆっくりの群れは大歓声の真っ只中にあった。
それもそのはずである、今までまりさを不当に監禁していた人間が、自らの過ちを認めまりさを釈放したのだ。
無事卑劣な人間たちの手から帰ってきたまりさを、群れのゆっくりたちは総出で歓迎している。
それはさながら英雄の凱旋式が如くの扱いであった。
「まりさぁあああ!おかえりぃ!」
「ぶじでよかったよー!」
「すごいよ!まりさはむれのえいっゆうだね!」
まりさに向かって次々に賞賛の言葉を浴びせるゆっくりたち。
「ゆっへっへっへ!それほどでも………あるのぜえええええええええええ!
まりささまは、せいっぎのおこないをしただけなのぜえ!まあ、こうなるのはとうっぜんのことなのぜええええええ!」
歓声の呼びかけに対してドヤ顔で応えるまりさ。
これがもし人間だったら、ピースサインの一つでもしていただろう。
それぐらいこのまりさは有頂天になっていた。
「ゆゆ!まりさ!よくかえってきてくれたね!」
得意顔のまりさに話しかけるドス。
「ゆふん!とうっぜんなのぜ!まりささまは、じぶんたちのむれのりょうどで、ゆっくりしたただけなのぜ!
そもそもつかまるとういうことじたいが、おかしいことなのぜ!
それなのにあのくそにんげんたちは、まりささまをふとうにこうそくしていたんだぜ!
これはもう、あやまってすむもんだいじゃないのぜ!」
「そうだ!そうだ!」
「まったくゆるせないね!」
「どす!とうぜんこのままじゃおわらないよね!くそにんげんをせいっさいしてよ!」
まりさの発言に同調する周りのゆっくりたち。
捕まっていたまりさは無事解放されたが、しかしそれだけではゆっくりたちの気はおさまるはずもない。
協定を破り、神聖なゆっくりの領土を犯した人間を許すなという声が次々に上がる。
「むぎゅ!みんなのいうとおりね!くそにんげんどもは、これほどのあやまちをおかしたのだもの!
とうっぜんまりさをしゃくほうして、それでおわりというわけにはいかないわね!
おろかで、あさましいくそにんげんどもには、しゃざいとばいっしょうをようきゅうすることにするわ!
もちろんいいわよね?どす!これはせいっとうなけんりなのよ!」
皆の意見を代表して、幹部ぱちゅりーがドスに同意を求める。
対するドスは、
「もちろんだよ!こんかいのけんは、あきらかにくそにんげんがわるいよ!
そしてまりさがかえってきたことで、それをにんげんどももみとめているんだ!
どすはだんことしてこうぎするよ!そしてにどとこんなことがおきないように、くそにんげんたちに、
きっちりとしたしゃざいとばいっしょうをようきゅうするよ!」
「「「「ゆおおおおおおおおおお!」」」」
そうぱちゅりーの提案を二つ返事で同意したドスに対して、喜びの雄叫びを上げるゆっくりたち。
そのドス姿はかつての弱気で頼りないものではなかった。
自信に溢れ、皆を導くリーダーの様相を呈していた(様にゆっくりたちの目からは見えた)のだ。
事実今のドスにはもうかつてのような迷いはなかった。
自分は最強のリーダーなのだ、それを人間の対応を見て理解する事ができた。
かつてドスになる前のまりさにとって人間とは巨大で、ただ見上げるばかりの存在であった。
あれに逆らうなんてとんでもないことであり、自分には到底出来ないことだ、そう思っていた。
だがしかし、さっき群れにまりさを釈放しにきた人間はどうだ。
自分たちに向かって頭を下げたではないか!
その時の人間の姿は、酷く矮小なものにドスの目には映った。
何だこれは?今まで見上げることしかできなかったはずの存在が、今ではずいぶんと小さく見えるじゃないか!
ちょっと自分が踏みつければ、それで簡単に潰れてしまいそうだ。
そうだ!今は昔とは逆の立場、自分の方が見下ろす立場だったんだ。
そう理解した瞬間ドスの中で何かがはじけた。
そうだ!そうだったんだ!
自分は何者にも負けることのない、この世でもっともゆっくりとした存在、ドスまりさなのだ!
あんな小さな体のクソ人間の一体何を怖れることがあろう!
現にクソ人間どもはドスを怖れているのだ。まったく今まで弱気になっていたのがバカみたいだ。
そう!自分には力がある!
人間どもを従え、全てのゆっくりをゆっくりさせることのできる力が!
「ゆふ、ゆふふふふふふふふ!」
ドスの口からは自然と陶酔的な笑みがこぼれだす。
自身が人間の群れに抗議に向かうと決めた途端、人間の方からまりさを返還し謝罪に来た。
この事実によりドスは自分が願えば何でも思い通り行くような、いわば全能感的ものを感じるに至っていたのだ。
「むっきょきょきょきょきょ!」
そしてそれは幹部ぱちゅりーにも同じことが言えた。
(何もかもがけんじゃのぱちぇの計画通り!
まったくてんっさいすぎちゃって、ごめんねえええええええ!
むっきょきょきょきょきょきょきょきょ!)
自身の作戦の予想以上の結果を前に、まったく我がことながら自分のけんっじゃの才能が恐ろしいと悦に入る幹部ぱちゅりー。
幹部ぱちゅりーのけいっさんでは、人間がまりさを返還するのはドスによる圧力の後に、それに人間が屈する形で行われる算段であった。
だがしかし人間どもは、ゆっくりを怖れてこちらが何もせずとも、自分からまりさを釈放してきたのだ。
まったく、どうやら自分は今まで人間という存在をを過大に評価しすぎていたらしい。
流石のけんっじゃのぱちぇも、人間どもがここまで根性なし腰抜けのヘタレだったとは予想できなかった。
普段身内にはでかい顔をしているくせに、ちょっと外部とトラブルになるとすぐに相手の機嫌を伺いながら土下座外交をしだす。
今まで仕方がなかったとは言え、あんな連中に従っていたと思うと腹が立ってしょうがない。
だが、まあそれはもういい、問題はこれからなのだから。これを期に人間どもとは新たな協定を結ぶのだ。
この調子ならば、あの境界線にある小さなお野菜プレイスだけと言わずに、もっと沢山のものを人間どもから奪えるだろう。
何せ相手はあの腰抜けの人間どもなのだ、ちょっと強気にでれば、すぐゆっくり様に最大限配慮した外交をしだすのは目に見えている。
最終的には人間どもが所有している領土の半分くらいは奪う形となる新しい協定を結ぶつもりだ。
もちろん今までの協定に盛り込まれていた、すっきり制限などの掟は廃止させ、自由にゆっくりの数を増やせるようにする。
さらに何人かの人間をゆっくりの奴隷として提供させてもいい。日々の食料やあまあまを税として人間がゆっくりに献上する内容の掟も協定に盛り込むつもりだ。
他にも沢山の協定のアイデアがあるが、それはおいおいまとめていくとしよう。
「むっきょきょきょきょきょ!さあ!これからいそがしくなるわよ!くそにんげんどもとむすぶ、あたらしいきょうっていのないようを、
かんがえなきゃならないからね!
ああ、うでがなるわ!きっとすばらしいないようのきょうていになることまちがいないわね!
なんといっても、ないようをかんがえるのはこのけんじゃのぱちぇなんだからね!むっきょきょきょきょきょ!」
こうしてドスと幹部ぱちゅりーの人間に対する増長は決定的なものとなったである。
ゆっくりとは、元来思い込みの激しいナマモノだ。
一度こうなってしまったゆっくりを説得することは最早不可能といっていだろう。
双方の和解への道は閉ざされたと言ってよかった。
さて、そんなふうにゆっくりたちがお気楽な笑顔で騒いでいたとき、群れから離れた別の場所では厳しい顔をした男女が向かい合っていた。
「えーっとさ、実は人間に対して悪さをして捕まえていたまりさを、勝手に持ち出したキチガイを探してるですけど、
この辺で見てませんかねお嬢さん?」
男がそう目の前の、山をうろついていた女に話しかける。
「あらあら、どうやら随分と酷い言われ方をされているようですね私は」
対する女の方は、意外にもあっさりとそれは自分の行為だと認める。
「やっぱりお前がそうだったか。こんな山の中に村人でもない人間が一人でうろついているはずないもんな。
手ぶらなところを見ると、まりさはもう群れに帰した後か?」
「ええそうです。皆さんとても喜んでいましたよ」
「クソッ遅かったか。
テメェなに勝手な事してくれやがる」
男が女を睨みつける。が、対して女は涼しい顔だ。
「どうも何か、誤解があるようですね。私はただ人間の勝手な都合で拘束、虐待されているまりさを解放しただけですよ」
女はさも心外だというふな口調で言う。
「それにもし仮にゆっくりの側に多少の非があったとしてもです、あのまりさは即座に釈放されるべきでした。
なぜならばそれが、人間とゆっくりとの関係を配慮した上での政治的判断というやつだからです。
あなたも子どもではないのですからそういった事情くらいわかるでしょうに」
「……あのなあ、いろいろツッコミどころはあるが、一番の問題として何でその政治的判断とやらを一民間人で何の権限もないお前が勝手に判断して、
実行しているのかよかったら教えていただけませんかねぇ」
女のトンチンカンな理屈に対して、男はやや呆れた口調で溜息まじりに問う。
「それは当然の話しでしょう。この国でゆっくりの事を最も考えて行動しているのは私たちです。
よってゆっくりに対する人間の代表として行動したまでのこと」
きっぱりと当然のことのように応える女。
対して男は呆れ顔のままだ。
「……あー、ていうかさ、そもそもそのお前さんの言ってるその政治的判断だのゆっくりに対する人間の代表ってのはなんなんだ?
外交問題じゃあるまいし、何だかどうにも話しが大仰で現状と噛み合ってない気がするぞ。
これはさ、ただ単にゆっくりが悪さをしたから、駆除するかしないかっていうただそれだけの問題なんだよ。
そこに、お前さんの言うような人間の代表とか、複雑な政治判断とやらが入り込む余地なんか一切ないんだがねぇ」
男は諭すように女に説明する。
が、それを聞いた女はキッと男を睨みつけ、ビシッと男に人差し指を突きつけた。
「そう!それです!その姿勢こそが間違いだと言っているのです!
まるでゆっくりたちをモノか何かのように事務的に扱うあなた方の態度!
ゆっくりたちは我々人類の隣人たりえる知的生命体なのですよ。
それらの言葉を無視し、一方的に駆除など断固として許されることでは有りません!
ゆっくりは我々に対して明確に自らの意志を主張することが出来るのです。
なればこそ、それを尊重し一つの独立した国家として扱うべきなのです」
そう興奮気味に一気にまくし立てる女。
「はぁ……サーセン。
あっ、それと初対面の人に向かっていきなり指を指さないようにね」
「おっと、これは失礼しました。つい興奮してしまいまして」
女はそう言い素直に腕を引っ込める。
そんな様子を見ながら男は何だかなぁと頭の裏側を掻きながらあらためて女に問いかける。
「まあ、お前さんの言いたいことは大体わかったよ。
けどさ、この際オレが正しいかお前が正しいかは脇においておくとしよう。ここで延々議論しても水掛け論になるだけで何の意味もないしね。
だがね、現実問題としてこの村に住んでいる人たちはゆっくりたちの行動に迷惑してるわけだ。
それを村の住人でもなんでもない部外者のアンタが、勝手にどうこうするってのはおかしくないかい?」
男は腕を組み、じっと女を見据える。
「そもそも結局のところアンタ一体何がしたいんだ?
捕まってるまりさをゆっくりたちの群れの返して事態が収まったと考えてるならとんだお門違いだぜ。
もしかしたらアンタはこれでゆっくりたちに恩を売ったつもりかもしれないが、奴らは多分今回のまりさが釈放されたことに感謝なんかしない。
なぜならばゆっくりたちにとって、人間がそうそうるのは当然のことだと認識するからだ。
それどころか自分たちは悪くない、悪いのは人間だという意識をより強く持つことになり、さらにいろいろなものを要求してくることになだろうよ。
ゆっくりについて少しでも知識があるならば、一度増長したゆっくりがどれだけ厄介な連中か知らんわけじゃあるまい。
どれだけ与えても、もっとよこせ、もっとゆっくりさせろと要求に際限がなくなるぞ。
お前さんはゆっくりの意思を尊重しろと言っていたが、その要求のままにこの世の全てをゆっくりにくれてやるつもりか?」
「そうは言ってません。
私が言いたいのは何か問題が起こったからと言って、ゆっくりの言い分を聞かずに一方的に駆除や虐待を行うのは間違っていると言っているのです。
何でもかんでも人間が全て正しいわけではありません。時には人間が間違い、ゆっくりが正しいこともあるでしょう。
そんなときに今の風習の様に、有無を言わさずゆっくりが悪というレッテルを貼り、虐げることで本当に我々人類は幸福になれるのでしょうか?
確かに自らを正しいと確信し、他を悪として断罪することは心地よいことでしょう。ですがそんなことを続けていけばいずれ人類は己の進むべき道を誤ります。
今こそ、人間よりも圧倒的にに弱く、しかし意思の疎通できる生物であるゆっくりの声にも耳を傾けることにより、人類全体が啓蒙するときが来ているのです」
「…………………」
(………どうしよう。コイツめんどくせえ)
女の言葉にげんなりとする男。
男ははじめ女がまりさを助け出した理由を、ゆっくりが閉じ込められているから可哀相、とかそんな軽い気持ちで助けたのではないかと思っていた。
が、話を聞いた感じどうも彼女には彼女なりのややっこしい考えや信念があるということがわかってきたのだ。
男は経験上こういう輩が一番メンドクサイと知っていた。自分が正しいと思っているため絶対に引かないからである。
むしろはじめから金が目的で行動しているゆーシェパードの連中の方がよほど与しやすい相手だ。
男とて、彼女の言っていることを一から十まで全て否定する気はないし、自分が絶対的に正しいとも思っていない。
しかしだからと言って女のやっていることを、認めるわけには絶対にいかないのもまた事実であった。
なぜならば、
「なんかそのセリフだけ聞くとそれっぽく聞こえるけどさ、それって実は今回の件についての理由になってないよね。
さっきも言ったけど実際に被害を被ってるのはこの麓の村の人たちなんだぜ。
お前さんがゆっくりに対してどんな大層な思想を持っていてもそれは別に構わないし、そのことを他人に主張するのも構わない、
その主張のままにゆっくりと接するのいいだろう。
でも、それで他の人に迷惑掛けちゃだめでしょ、自分勝手にやっていいことの裁量の区別をつけろよ。
はっきりいってそれができない奴はこの社会で生きる資格はないぜ」
「申し訳ございませんでした」
女は突然ガバッと腰を折って頭を下げた。
「……………」
(………どうしよう。コイツ謝っちゃったよ。えっ、いやこれでいいのか)
予想外の展開に一瞬混乱しかける男。
だが女は構うことなく喋りだす。
「例えばゆっくり一匹と人間一人が命の危機にさらされているとします。
助けられるのはその内一方だけ。さてどちらを助けるべきでしょうか」
「?………??」
突然謝ったと思えば、今度は男に対して意味不明の質問をしだす女。
「そりゃお前、人間を助けるに決まってるだろ。
まさかゆっくりを助けるのが正しいとか言い出す気じゃないだろうな」
「いいえ、人間を助けるのが正しいと思いますし、私もきっとそうするでしょう」
「じゃあ一体何が言いたいんだよ」
「私が言いたいのは、私がゆっくりのためだけに動いているというわけではないと言う事です。
今回の事で私は村の人々の迷惑をかけるでしょう。それは自覚していますし、本当に申し訳ないと思っています。
しかし勘違いしてほしくないのは、私は最終的に人間の利益のために行動しているということなのです」
「ゴメン、きっとオレの頭が悪いせいだろう、さっからお前の言ってることがさっぱりわからん」
「そうでしょうね。実のところ、わざとわかりづらく話してたりします」
「……ナメてんのか」
「いいえ、めっそもうない。
わざともって回った言い方をして、気をもたせようという乙女心です」
「……………」
(………どうしよう。コイツうぜぇ)
男はがっくりと肩を落とした。
ぶっちゃけ何を言っても話しが通じない女に対して何か段々面倒臭くなってきていた。
「はぁ、わかったもういいよ。
おいお前、悪いと思ってるならオレじゃなくて、後できちんと村の人たちに謝るんだぞ。
それとこの付近のゆっくりのことはオレが始末をつける。
お前はもう余計なことすんなよ、わかったな!」
「はい、わかりました」
女はにっこり笑って頷いた。
「はあ、やれやれ……。頼むぜほんとに」
いつまでも山にいても仕方ないのでいったん引き上げることにする男。
まりさが群れに返還された後というならば、今から興奮状態のゆっくりの群れにいっても恐らくは逆効果だろう。
一日時間を置いた方がいい。
「例えば……」
「あ?」
山を降りていく男の背中に向かって女が話しかける。
「人間の男と女が命の危機にさらされているとします。
助けられるのはその内一方だけ。さてどちらを助けるべきでしょうか」
「知るかんなもん、状況次第だろそんなの」
「そうですね。それが正しいことだと私も思います。そしてそれこそが私の目指す理想なのです」
「あー、はいはいそうですか。そりゃよかったね」
もう男はつき合わなかった。振り返ることなくまっすぐ道を降って行く。
「おっと、どうやら呆れさせてしまったようです、まあでもしかたありませんよね。
今私の計画を悟られるわけには行きませんから」
去っていく男を見送りながら、女は一人呟くのであった。
次の日。
「それでぇ、何もしないですごすごと帰ってきちゃったんだぁ?」
「そうは言うがな、本人が一応謝るって言ってわけだし、これ以上オレにどうしろと?
村の村長も大事にしたくないから警察とかの連絡はいいっていってたわけだしな。
そもそも人間をどうこうする権限はオレたちにはないんだぜ」
「まあ、そういことになるね。素直に引いてくれるなら、それに越した事はないだろうな」
宿屋の一回の食堂で食事をとっている人物が三人。
男が一人に女が二人、いずれもゆっくり国営機関の関係者である。
女の内一人は、男が昨日電話をかけた上司に当たる先輩、もう一人の女は男の同僚で時々仕事を頼んだり頼まれたりする腐れ縁ともいえる人物であった。
「あまい!あまいわぁん!悪い子にはお仕置きが必要よん。
その場で○イプでもしちゃえばよかったのよぉ」
「するかアホ!そんなことしたら普通に捕まるわ!人間を相手にする場合は、ゆっくりと違って絶対に手出し無用って決まりを知らんわけじゃあるまい。
てか、そもそもお前何故来たんだ?別に呼んでねーぞ」
「あらぁん、ずいぶんなものいいねえ。
何かトラブルってるって聞いたから、ヒマだし応援に来てやったっていうのにぃ。
きた!お姉さんきた!これで虐待も期待できる!って喜ぶところでしょおぉ?ここは」
「帰ってくださいお願いします」
「………そっ、そうストレートに言われるとちょっと傷つくわね」
がっくりとする女。
男はちょっと言い過ぎたかなとも思ったが、この女が騒いでいるといつまでも話しが進まないのでまあいいかと気を取り直す。
「あーゴホン!
それで君の話に出てきたまりさを逃がした犯人というのはこの人物かな?」
話しが収まったと見るや、すぐさま手もとにある資料から数枚の枚写真を男に見せる先輩。
「おお!コイツだ、間違いない。
何だ、写真があるってことは、この女どっかの組織の大物だったっんですか?」
写真をまじまじと見つめながら尋ねる男。
ことゆっくりに関しては民間の組織とは言え、その規模がバカにならない大きさのものは幾つも存在している。
そして組織が大きければ当然その影響力も大きい、時にはそれが様々な弊害をもたらすこともあるだろう。
そのため、男たちの組織は規模が大きい団体のリーダー及びその幹部の簡単なプロフィールや顔写真くらいは、データとして所持しているのだ。
先輩が女の素性を入手できているということは、即ちこの女がそれなりの組織の人物であることを意味している。
「いや、そうだともいえるが、そうだともいえない」
「?」
先輩の矛盾する発言に眉をひそめる男。
「この写真に映っている女性だがね、実は一週間前までゆっくりんピースの幹部の一人だったのさ」
「だった?」
「そう、だった。つまり突然組織を脱退したというわけさ。
理由は不明、自分からやめたのか、何らかの不始末を起こして除名されたのかすらわからない。
ここ最近のゆっくり関係団体の中では一番大きな動きだったからもしやと思ったが、どうやら大当たりだったようだな。
ふふ、何だ私のカンもまだまだ衰えてないじゃないか」
「あー先輩のカンはよくあたりますからねー」
以前彼女が違和感を感じると言っていたドスの群れが、人間に対して大規模な反乱を計画していた事件のことを思い出しながら呟く男。
「で、どうだったのかな?彼女と直接話をした君の感想は?」
「うーん、なんかちょっとよくわからんヤツって印象でしたかね。
何がしたいのかまるで読めないって言うか、そもそも理由があるのかすら定かでないような…。
金の気配がしないからゆーシェパードの連中じゃないとは思ってたけど、ゆっくりんピースかあ。
そもそもオレはこいつらとはバッティングすること事態初めてですからねぇ」
「ふむ、確かにゆっくりんピースの連中はどちらかと言えば、街ゆや飼いゆ関係の主張をよく行う団体だからね。
野生のゆっくり関してはあまり触れてこない性質上、君が詳しくないのも無理はないか」
「はい!はい!はーい!私くわしいわよぉゆっくりんピースのことぉ!」
さっきまで落ち込んでいた女が、ここぞとばかりに勢いよく手を上げて主張した。
「ああそうか、お前飼いゆ担当だからな。こいつらとやり合う機会も多いのか。で、どんな感じの連中なんだ?」
男が尋ねる。
「そうねぇ、はっきりいってウザイ連中よぉ。
飼いゆっくりにも人間と同等の権利を与えろだとかぁ、野良ゆっくりをむやみに駆除するなとかぁ、無茶苦茶いう連中ね!
特にうるさいのが、ゆっくりのバッジシステムの廃止の訴えよねぇ。
金だ銀だっていうのは差別に繋がるからやめろってい言うのよぉ!まったく鬱陶しいったらありゃしないわぁ!
何でもかんでも平等、公平って、お手て繋いでみんな一緒にゴールの徒競争かってのアホらしい。
あー、思い出したらイライラしてきたわぁん!」
ギリギリと握りこぶしをつくる女。
一応男たちの所属する組織は国の機関である。
そのためどんなにバカげていても、民間団体からの主張を頭から無視することもできず、きちんとその話を聞かなければならないことが多い。
そんなわけで彼女は実際にストレスを感じることも多いのだろう。
「平等ねえ、そういえばあの女もそれに近いようなことを言ってな。
ゆっくりの話にもきちんと耳を傾けて国として扱うべきだとかなんとか」
「んーまっ!なんてことでしょう!
飼いゆとかだけならまだしもぉ、野生のゆっくりにまでそんなことを言い出すなんてぇ!
これでこの女が組織から脱退させられたわけがわかったわぁん。
キチガイ組織のゆっくりんピース内ですら手に余る、トップクラスのマジキチだったというわけねぇん!」
「お前……そりゃ言い過ぎだ」
流石に言葉が過ぎると男が注意しようとしたその時、
「すいません!ゆっくりのプロの方々ですか!
今、村の境界線の辺りにドスまりさが現れて、村の代表との交渉を要求しているらしいんです!
どうか対応していただけませんでしょうか!」
食堂に駆け足で村の若者が入ってきた。
「ほら、そんなこと話している間にドスがおいでなすったようだぞ」
「まあとりあえず女の問題は後回しで、先にこっちを何とかしないとな」
「うふふふ、ゲスゆの相手はおねいさんにまかせてもらおうかしらぁん」
三人は揃って席を立ち上がったのだった。
さて、ドスが現れたという場所は、話の発端となった例の畑である。
そこにはドスのほかに、幹部ぱちゅりー、さらに捕まっていたまりさとその取り巻きのゆっくりたちが集合していた。
「ようドス、来たぜ、人間に対して何か話しがあるんだってな」
男が軽く手を上げてドスに対して挨拶する。
するとドスは、
「ゆゆ!くるのがおそいよ!いったいいつまでこのどすさまをまたせておくつもりなの!ふざけないでね!まったくぐずはきらいだよ!
おまえら、じぶんたちのたちばってものが、わかっているのおおおおおおおお!」
「むっきょきょきょきょきょ!まったくずにんげんは、なにをするにもぐどんで、のろまねぇ!
そんなことでこのひろいぷれいすをおさめられるのかしら?やはりゆうりょうしゅたるゆっくりが、くそにんげんをしはいすべきということよね!」
「おらおらああああ!まりささまがわざわざやってきてやったのぜえええええええええ!
さっさとまりささまに、しゃざいをするのぜえええええええ!
まりさまはかんっだいだから、くそにんげんのぷれいすをぜんぶわたして、どれいになるというのなら、はんごろしでかんべんしてやるのぜえええええええ!」
「ゆう!とっとと、むらにあるあまあまをもってきてね!ぜんぶでいいよ!」
男たちがやって来た途端にピーチクパーチク勝手な事を騒ぎ立てるゆっくりたち。
「………………」
「うわぁ」
「これは酷い」
ゆっくりたちの人間に対する態度に黙る男、溜息を付くおねいさんと先輩。
このゆっくりたちの、人間を舐めきり、あからさまに見下す様を見れば、別段ゆっくりのプロでなくても一目でゲス化しているとわかるだろう。
そして、ドスをはじめとした群れの首脳陣がこういった態度を取っているということは、必然的に群れのゆっくり全てがそれに感化され、
すでに全体がゲス化していると想像するのは容易だった。
正直なところ男はこの有様を見るまでは、まだゆっくりたちの和解の道も諦めてはいなかった。
が、しかしこの惨状を目前にしてまで、また元通りの関係の戻れると考えるほど理想主義者ではなかった。
「えーと、ドス?何か人間に対して言いたいことがあってわざわざここまでやって来たんじゃないのかな?」
人間たちを前にして、いつまでもガナリ立てているゆっくりたちに向かって男が口を開く。
「ゆゆ、そうだよ!こんかいのけんでどすは、とってもおこっているんだよ!
ゆっくりたちのしんせいなりょうどをおかし、しかもむれのどうしであるまりさをいためつけ、
あまつさえそのことをかくそうと、まりさをふとうにこうそくしつづけた!
こんなしゃかいてき、あくを、どすはだんじてみのがさない!
くそにんげんどもには、きっちりとした、しゃざいとばいっしょうをようきゅうするよ!」
「そうだ!そうだ!」
「どす!もっといってやって!」
「くそにんげんどもは、さっさとしゃざいしろおおおおおお!」
「むっきょきょきょきょ!それとこのけんとはべつに、けんっじゃのぱちぇがかんがえた、あたらしいきょうっていもむすんでもらうわよ!
もちろんいやとはいわないわよねぇ!なにせきょうっていいはんをしたのはそっちだもんねぇ!」
ドスのセリフに呼応して、またもやあきもせず騒ぎ続けるゆっくりたち。
(ねーえぇ、もういいでしょお、さっさとやっちゃおうよぉ、ばかばかしい)
後ろからおねいさんがつんつんと男の背中をつつく。
もうこのゆっくりたちがゲスであり、人間の言う事にこれっぽっちも従う気がないことは確定しているのだから、
さっさと虐待、もとい駆除をさせろという催促だ。
確かにこいつらに対して今さら何を言っても無駄だろう。
ここでゆっくりたちの矛盾点や説明の不合理性を指摘したところでどうせ聞く耳を持つことはないのだから。
そんなわけで、
「あー、ドス、残念だけどその要求は全て受け入れられない」
男はそっけなく言った。
「「「「「はあああああああああああん!なにいってるのおおおおおおおお!」」」」」
信じられないといった様子で一斉ゆっくりたちが絶叫を上げる。
「ふざけないでね!わるいことをしたのにしゃざいもばいっしょうもしないなんてどういうことなのおおおおおおおおお!」
「理由は簡単だ。オレたちは何も悪い事はしていない、以上」
「むぎょおおおおおおおお!つかまってたばりざをしゃくっほうしたでしょうがあああああああああああ!
これはあやまちをみとめたってことでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ぱちゅりーが目を血走せながら興奮気味に男に詰め寄る。
「ああ、そうだったな。まりさを釈放してしまったことだけは人間の責任だな。
そのことだけはこっちが悪いから、ちゃんと謝罪しておこう。
悪いことをしたまりさを釈放してしまって本当にすまなかった、ごんなさい。
はい謝罪終了。
うん、これで一件落着だな、よかったよかった。じゃあもう帰っていいよね」
「いいっかげんにしろおおおおおおおおおおおおおお!しゃざいとばいしょうっていったら、
あまあまと、おやさいぷれいすのことだろうがああああああああああああああああ!
ごちゃごちゃいってないでさっさよこせえええええええええええええ!
いちいちくちにだしていわれないと、そんなこともわからないのかあああああああああ!」
男の軽い挑発に怒り沸騰のドスが吼える。
「ゆうううううううう!ふざけやがってえええええええええ!
ばじゅりいいいいいい!こうなったらしゅだんをえらばないよおおおおおお!
このごみくずにんげんどもに、あれをみせてやってねええええええええ!」
「むぎゅ!わかったわ!」
「アレ?」
怪訝な表情をする男たちを尻目に幹部ぱちゅりーはドスの帽子から何かをゴソゴソと取り出す。
ドススパークを撃つためのキノコだろうか?
身構える三人、ここでドスがドススパークを撃てばそれで交渉は決裂、開戦の合図となり戦闘が始まるだろう。
そしてそれはイコールでドスの死を意味するのだ。
何故ならここにはゆっくりに対してのプロが三人もいるのだ、最近ドス化したばかりのドスなどあっといまに始末されてしまうだろう。
が、しかし、はたして幹部ぱちゅりーがドスの帽子から取り出したものは、キノコではなかった。
それは、
「カードか?あれ」
幹部ぱちゅりーが口にくわえているのは、長方形のカードだった。
よく目にするポイントカードやクレジットカードと同じくらいの大きさをしている。
「むっきょきょきょ!これをみてからでもどすのようっきゅうをことわれるかしら?」
カードをくわえた幹部ぱちゅりーが男にカードを口渡しながら言う。
そのカードを覗き込む三人。
「………これ、車の免許書か?」
「そのようだな」
「ていうかぁ、この写真のおんなぁ、さっきまで話したあのまりさを釈放したやつじゃないのぉ!」
おねいさんの言うとおり、その免許書に映っていたのは、例のゆっくりんピースを脱退したといかいう女性のものであった。
しかし、身分証明にも使える貴重な免許書を何故ゆっくりたちが持っているというのか。
「なんだ!これは!どういうつもりだ!」
流石の男も、これには語気を強めてドスに問う。
「ゆっへっへっへっへ!わからないのおおおおお?
そのしゃしんさんにうつっているおねいさんを、どすたちはひとじちとしてむれであずかっているんだよおおおおおおお!
もしどすたちのようっきゅうがうけいれられないばあい、そのおねえさんがどうなるかわからないよおおおおおおおお!」
「なん…だと…」
完全に予想外の展開に絶句する男たちであった。
つづく。
制裁 自業自得 群れ ゲス ドスまりさ 希少種 独自設定 ナナシ作
*注意
・anko2757 境界線 前編 の続きです。
・この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、国家とは一切関係ありません。
・独自設定の希少種が出ます。
・人間が犯罪行為を犯す場面が出てきます。
・いつも通り過去作品の登場人物や世界観が出ますが読んでなくても大丈夫です。
「たっだいまー!」
陽気な声をあげながら、開け放たれた窓から一匹のゆっくりが部屋に飛び込んでくる。
ちなみにここの部屋は三階である。当然普通のゆっくりがおいそれと入ってこれる場所ではない。
「あいよ、おかえりー」
それに対して別段驚いた風でもなく応える男。
「むきゅ!ぬえ!いったいどこに行ってたの!」
「うん、ちょっと山にいるっていう群れの連中の様子を見にね!
いやー、あれがドスまりさかぁ、はじめて見たよ。でもただでかいだけで普通のまりさって感じだったね」
突然窓から入ってきたのはゆっくりぬえ。
飛行能力と他のゆっくりに擬態することのできる能力を持つ、希少種の中でも正体不明とされるゆっくりである。
ぬえもまた、ぱちゅりーと同じように男とある群れで出会い、色々あって男と行動を共にすることになったゆっくりである。
「へえ、お前ドスを見るのは初めてだったのか?」
「まあね、昔ちょろっと住んでた希少種の群れにはドスはいないし、今まで旅先で回った群れにもドスはいなかったからね」
「むきゅ?希少種の群れにはドスはいないの?ドスも希少種なのに?」
男とぬえとの会話に疑問を口にするぱちゅりー。
ドスと言えばゆっくりの希少種の中でも代表格のような存在のはずだ。
それが希少種の群れにいないとは何事なのだろうかとぱちゅりーは疑問を持ったのだ。
「ああ、そういえば話したことなかったっけかな。
昔は希少種の群れのにドスも一緒に加えてたんだけど、その結果酷いことになったことがあってね。
ドスも通常種と同じように希少種の群れには入れないことになったのさ。まあ、この話についてはいつかやるよ。
で、そんなことよりもさ」
男はぬえに向き直る。
「いまふと思ったんだが、お前一度見たゆっくりに擬態できるんだよな。てことはさ、ドスに擬態することもできんの?」
「もちろんなれるよ。でもドスに成りすまして、あの群れの連中の言う事を聞かせようってつもりなら多分無理だよ」
「ほう、別にそんなこと全く考えてないが、そりゃ何故だい?
お前さんの擬態は、姿形なら完璧に同じになれるずだが?現に初めて会った時はそれで上手く長を演じたりしてたじゃないか?」
ぬえの言葉に意外そうに驚く男。
「えーっとねえ、ちょっと勘違いしてるんだと思うんだけど、私の擬態っていうのはさ、別に私自身が擬態対象に変身しているわけじゃないんだよ。
そういう風に相手に見せているだけで、私自身には何の変化もないのさ、わかるかな?
だからドスに擬態しても多分すぐばれちゃうと思うよ」
「……なるほどそういうことか」
「え?え?どういうことなの?」
ぬえの話を聞いて、納得して頷く男。
が、それに対してぱちゅりーはイマイチ話を理解できていないようだった。
そんなぱちゅりーにぬえはさらに説明を補足する。
「だからさぱちゅりー、例えば私があの群れの連中に対して、ドスに擬態したら確かに姿形はまったくドスと同じに見せることはできるよ。
でもそれは私がドスに変身したんじゃなくて、群れのゆっくりたちが私の姿をドスだと勘違いしてるだけなんだ。
私自身に全く変化はないわけ、当然身体が大きくなったわけでもない」
「あっ!そうか!」
ぱちゅりーは何かに気づいたように声を上げる。
「わかったみたいだね。察しの通りドスに見合うだけの身体の大きさは私にはない。
だから群れの連中とすーりすーりとかしたら一発でばれちゃうって訳さ。なにせドスの身体に触れようとしても、そこには何もないんだからね。
まっ、何より私があんな連中とすーりすーりするなんて絶対にゴメンだってのもあるけどさ」
そう説明するぬえ。
ぬえの擬態の能力とは、正確には相手に対して自分が望んだゆっくりの姿を見せる能力と言い換えることもできる。
つまりドスのように、身体のサイズが著しく異なるゆっくりに擬態する場合、自身の体積以上の部分は、
映像として認識させることはできるものの、触ることは出来ない。
仮に触れようと手を伸ばしても、まるで実態のないホログラムのように手が空を切るばかりである。
一時的に騙す事は出来ても、すぐにボロが出てしまうだろう。
「擬態のことは大体わかったよ。それよりも群れにいた連中はどんな感じだった?直に見てきたんだろ?」
「そうそう!なんか自分たちの領土で捕まったまりさを返すように、ドスが強く訴えに行くとか何とか言って張り切ってたよ。
何でも人間がゆっくりにいきなり攻撃を仕掛けてきたって、随分おかんむりみたいだったね、協定違反だーってさ」
「むきゅ!何言っているの!今捕まってるまりさが、突然人間さんに体当たりしてきたのよ!協定違反はそっちじゃないの!」
「いや、そんなこと私に言われても……」
ぬえからゆっくりの群れの話を聞いて、憤慨するぱちゅりー。
ゆっくりにしてはやや真面目な性格であるこのぱちゅりーは、ルールや掟を守らない輩には同じゆっくりでも厳しい態度を取るのだった。
「別にいいさ、この際人間とゆっくりのどっちが先に仕掛けたなんてことはさ」
だがそんなぱちゅりーに対して男はのんびりと言う。
「どうして?どちらに非があるかを明確にすることは交渉の上で大切なことじゃないの?」
「それが人間同士、ゆっくり同士の問題ならなそうかもね。
だが残念ならがらこれは人間とゆっくりの問題なわけだ。
こういっちゃうと実も蓋もないけどね、ゆっくりと人間は対等じゃないのさ。
つまり極端な話、人間が黒と言ったらゆっくりは白いものでも黒ってことにしなきゃいけない、そもそも交渉の余地がないわけだ。
だから、どれだけゆっくりたちがこの件でこっちが悪いと言ってきたところで、結局のところそれは意味のない行為なのさ。
まあドスもいるっていうし、なるべく遺恨を残さないように上手く立ち回るつもりではあるけどね」
「要は力が全てってことだね、自然界の大原則!」
男の話にうんうんとぬえが頷く。
「そういうことだな。まあドスが向こうからやってきてくれるっていうのなら、わざわざこっちから出向く手間が省けていい。
そしてだだ一つわかっていることは人間が譲ることはないってことだ、ことの善悪関係なしにね
ていうか、そもそも今回の件は人間は全然悪くないわけだし、遠慮する事じゃないわな」
そう男が話を終えたとき、ドン!ドン!扉を叩く音が室内に響いた。
『突然すいません!少々事件がおきまして、どうか一緒に来てもらえませんでしょうか?』
扉の外から慌てた様子の声が聞こえてくる。
どうやら何かあったようだ。
ひょっとしてもうドスが村に抗議とやらをしにきたのだろうか?
「ほら、噂をすればもうドスが村にやってきたみたいだぜ。随分とゆっくりとしてないことでいらっしゃる。
はいはい、今開けますよ」
軽口を叩きながら部屋の扉をあける男、扉の前にはここまで走ってきたのか、村長の使いの男がゼイゼイと息を切らしながら立っていた。
「一体どうしました?そんなに慌てて」
男はにこやかに村長の使いに尋ねる。
「はあ、はあ、いやそれが、何でもゆっくりの関係者を何名乗る人が突然やってきて、捕まえていたあのまりさを勝手に逃がしちまったみたいなんです!」
「何…だと…?」
あまりの予想外の返答に呆然と呟く男であった。
村の端の方にあるまりさが捕まって閉じこめれれていた倉庫の前には、関係者一同が集まっていた。
倉庫の扉は開け放たれており、鍵として機能していた南京錠にはもう用はないとばかりに鍵が刺さったまま放置されている。
そして倉庫内には空になった透明の箱、当然どこにも捕まっていたまりさの姿は見当たらない。
「まりさが自力でここから脱出したって可能性は……、まあ考えるだけ時間の無駄だわな」
男は倉庫内を見回しながら言う。
まりさが閉じこめられていた透明の箱は、外からボルトを捻ってロックをかけるタイプのものだ。
もし万が一まりさがこの箱から自力で抜け出したのなら、箱は破損してなければおかしい。
だが、透明な箱には傷一つなく、代わりにロックが外されパッカリと上部の蓋の部分が開いていた。
誰か人間の手によって外側から取り出されたというのは明らかである。
っていうか、そもそもこの倉庫が空いているということ事態が、もうゆっくりの仕業では絶対に不可能なことである。
考えたくはないが、まりさは人間の手によって連れ出されたのはほぼ間違いないことだろう。
「どうして部外者に勝手に鍵を渡したりしたんだ!」
鍵を管理していた村人を叱責する村長。
「すっ、すいません。ゆっくりについての代表とかなんとか、それっぽいこと言ってたんでてっきり関係者かと思って…」
申し訳なさそうに頭を下げる村人。
まあ無理もないことだ、今この村にゆっくりの国営機関の人間がやってきているのは皆周知の事実である。
そんなとき、村外の人から自分は関係者だからちょっと鍵を貸してくれてと言われれば、ああそうなのかと鍵を渡してしまってもそうおかしな話ではない。
もとより金品などが保管してあるならともかく、村などでたまに使う道具などを押し込んでおく共有倉庫なのだ、
若干管理が甘かったとしても過剰に攻めるのは酷というものである。
「くっ!ゆっくりを誘拐するなんていったい何が目的なのか」
「私の経験上一番可能性が高いのは、まりさを群れの帰したか、あるいは自分たちの手で保護したか……」
「そんなことして犯人には一体何の得があるんです?」
「さてそこまではわかりませんね。
ですが、ゆっくりに対しては様々な思惑を持った民間の団体や組織がその他の動植物なんかよりも多く存在していることは確かです。
中には過激派と呼ばれるような少々危険な連中の存在も確認されています、時に彼らはゆっくりのために犯罪すら犯すことがある」
「じゃあ、今回の件もそんな厄介な連中がかかわっていると?」
ただ事じゃない話の話題に眉をひそめて訪ねる村長。
「ああ、すいません。別に脅かす気はぜんぜんないんですよ。
ただそういう可能性もありえるという話しです。
そもそも鍵が掛かっている倉庫のまりさを、わざわざ関係者のフリまでして助け出すなんて普通じゃないでしょ?
その辺の道端にいるゆっくりを拾うのとは訳が違う。
組織にしろ個人の犯行にしろ、衝動的ではなく何かしらの強い意図を持っての行動だとは思いますね」
「むむむむむむむ」
男の最もな発言に唸る村長。
この辺の村一体を預かる身としては、ゆっくりに対しての過激団体と係わり合いになるなんて絶対にゴメンだろう。
小さな田舎村では厄介ごとは極端に嫌われるものなのだ。
「とにかくオレは今から森に入ってみることにします。
犯人の目的がまりさの保護ではなくゆっくりの群れの返還だった場合、ちと厄介なことになりかねません」
「厄介なこというと?」
恐る恐る尋ねる村長。
「もしまりさが人間の手によって返還されてしまった場合、ゆっくりたちは人間がゆっくりに屈したと考えるでしょう。
そうなった場合ゆっくりは増長し付け上がるんですよ、それこそ際限なくね。
今の段階では、まだ元の鞘に収まる可能性だって十分有り得るんですが、一度そうなってしまうとゆっくりはこっちの話は聞く耳持たなくなる。
収まる話も収まらなくなってしまんですよ」
「なんてことだ、穏便にすませようと考えていたのに……」
呆然と呟く村長。
「それじゃオレはもう行きます。
ああ、その前に少し電話借りますね」
そんな村長を尻目にさっさと行動を開始する男。
近場にある民家から電話を借りて、とあるダイヤルを素早く回す。
しばらくのコールの後、目的の人物が電話に出た。
「あー、もしもし、先輩ですか」
「おや君か、視察先から電話とは珍しい。どうしたんだい?何か問題でも?」
電話先の声の主は、男が所属するゆっくりの国営機関の上司に当たる人物であった。
通常ではゆっくりに関しての問題で、男がいちいちこういった相談事を持ちかけることはない。
だが、今回のように人間がかかわっていると予想される場合は、事前に話を通しておくのが常だった。
なぜなら、男がさっき部屋でぱちゅりーに語ったように、人間対ゆっくりならば個人の裁量でいかようにも扱えるのだが、
はなしが人間対人間の問題になった場合は、男の一存では判断できない事態が発生しうるからだ。
「残念ながらそうなんですよ、こっちで確保していたゆっくりが、部外者の手によって奪われたみたいなんです」
「あらら、それは少々面倒なことになったね。
しかしそんな強引な犯罪まがいのやり方をする奴らとなると、相手はゆーシェパードの連中かな?」
先輩はそう男に尋ねる。
ゆーシェパードとは、ゆっくりに対する民間組織の一つである。
詳しい話は省略するが(いつか本編でやる)『世界のゆっくりの生息環境の破壊と虐殺、虐待の終焉』を建前に活動している非営利集団である。
が、しかしそれは建前の話。
裏ではメディアなどで環境保護をお題目にし、企業や何も知らない一般時から多額の寄付を集めたり専用のグッズを販売している、バリバリの営利集団だ。
「オレもはじめはそう思ったんですけどね、ただいつもの連中の手口とちょっと違うような気がするんですわー。
先輩も知ってのとおり、もしやつらだったらこう、大人数でマスコミなんかも引き連れてきてガーっとやってくるはずなんですよ。
んでもって、大声で村人に対してまりさを釈放しろーみたいなデモや抗議をしつつ、同時に森にも入っていかにゆっくりが人間によって虐げられているか、
みたいないわゆる絵になる演出やら写真やら映像やらのやらせを大量にやりながら、大々的に外部にアッピールすると思うんですよね。
それで頃合をみて、市やら県やらの代表に、帰って欲しかったら金払えみたいことをオブラートに包んで要求していく。
さらに本国に帰った後もゆっくりの特別番組で視聴率を稼いでスポンサーからも金を貰う。
とまあ、なるべく目立ちまくって注目を浴びて金をせしめようとするうとするのがやつらのお決まりののパターンなんですが、今回はむしろ逆なんですよ。
犯人は恐らく個人でこの村にやってきて、まりさを手に入れるまでは、事態が発覚しないように関係者のふりをして倉庫の鍵を入手したりしてる。
ゆーシェパードの連中がこんな事するメリットは何もないわけです、というかそもそもこんな寂れて金のなさそうな村を奴らが狙うとは考えにくい」
「ふむ、なるほどなるほど。ということは君はこの件は組織ではなく個人の犯行だと考えているということかな?」
先輩が男の意見に相づちを打つ。
「いやまあ必ずしもそうとは限らないんですけどね。
今のところ姿を現したのが一人だけでって話で、実は後方に大軍が控えてましたとかありえるわけですし。
そんなわけで各組織で何か大きな動きがなかったかちょっと調べてもらいたいんですよ」
「うむ了解した。ちょうどいま手が空いているから至急調べてみよう。
やばそうなら無理はするなよ、人間相手ではゆっくりのようにはいかないからな」
「十分わかってますよ。傷害罪でタイーホとかゴメンですからね」
「そうだな暴力はいかんぞ、何を言われても手を出したら我々の負けだからな」
「ああ、それがこの仕事しんどいところですよね、人間のための仕事のはずなのに、
結局一番手を焼くのはゆっくりではなく、人間を相手するときってのがなんとも皮肉めいている」
「そういうなよ、この件が終わったら飯でもおごろう」
「ああ、そりゃ楽しみだ。そんじゃそろそろ行きますよ」
ガチャンと受話器を置く男。
そしてそのまま山の方へ向かって走り出したのであった。
その頃、山のゆっくりの群では
「ゆおおおおおおお!まりさがかえってきたよおおおおおおおお!」
「ゆわーい!くそにんげんどもが、あやまちをみとめたよ!れいむたちのかんっぜんしょうりだね!」
「まりさああああああ!こっちむいてええええええええ!」
今現在、ゆっくりの群れは大歓声の真っ只中にあった。
それもそのはずである、今までまりさを不当に監禁していた人間が、自らの過ちを認めまりさを釈放したのだ。
無事卑劣な人間たちの手から帰ってきたまりさを、群れのゆっくりたちは総出で歓迎している。
それはさながら英雄の凱旋式が如くの扱いであった。
「まりさぁあああ!おかえりぃ!」
「ぶじでよかったよー!」
「すごいよ!まりさはむれのえいっゆうだね!」
まりさに向かって次々に賞賛の言葉を浴びせるゆっくりたち。
「ゆっへっへっへ!それほどでも………あるのぜえええええええええええ!
まりささまは、せいっぎのおこないをしただけなのぜえ!まあ、こうなるのはとうっぜんのことなのぜええええええ!」
歓声の呼びかけに対してドヤ顔で応えるまりさ。
これがもし人間だったら、ピースサインの一つでもしていただろう。
それぐらいこのまりさは有頂天になっていた。
「ゆゆ!まりさ!よくかえってきてくれたね!」
得意顔のまりさに話しかけるドス。
「ゆふん!とうっぜんなのぜ!まりささまは、じぶんたちのむれのりょうどで、ゆっくりしたただけなのぜ!
そもそもつかまるとういうことじたいが、おかしいことなのぜ!
それなのにあのくそにんげんたちは、まりささまをふとうにこうそくしていたんだぜ!
これはもう、あやまってすむもんだいじゃないのぜ!」
「そうだ!そうだ!」
「まったくゆるせないね!」
「どす!とうぜんこのままじゃおわらないよね!くそにんげんをせいっさいしてよ!」
まりさの発言に同調する周りのゆっくりたち。
捕まっていたまりさは無事解放されたが、しかしそれだけではゆっくりたちの気はおさまるはずもない。
協定を破り、神聖なゆっくりの領土を犯した人間を許すなという声が次々に上がる。
「むぎゅ!みんなのいうとおりね!くそにんげんどもは、これほどのあやまちをおかしたのだもの!
とうっぜんまりさをしゃくほうして、それでおわりというわけにはいかないわね!
おろかで、あさましいくそにんげんどもには、しゃざいとばいっしょうをようきゅうすることにするわ!
もちろんいいわよね?どす!これはせいっとうなけんりなのよ!」
皆の意見を代表して、幹部ぱちゅりーがドスに同意を求める。
対するドスは、
「もちろんだよ!こんかいのけんは、あきらかにくそにんげんがわるいよ!
そしてまりさがかえってきたことで、それをにんげんどももみとめているんだ!
どすはだんことしてこうぎするよ!そしてにどとこんなことがおきないように、くそにんげんたちに、
きっちりとしたしゃざいとばいっしょうをようきゅうするよ!」
「「「「ゆおおおおおおおおおお!」」」」
そうぱちゅりーの提案を二つ返事で同意したドスに対して、喜びの雄叫びを上げるゆっくりたち。
そのドス姿はかつての弱気で頼りないものではなかった。
自信に溢れ、皆を導くリーダーの様相を呈していた(様にゆっくりたちの目からは見えた)のだ。
事実今のドスにはもうかつてのような迷いはなかった。
自分は最強のリーダーなのだ、それを人間の対応を見て理解する事ができた。
かつてドスになる前のまりさにとって人間とは巨大で、ただ見上げるばかりの存在であった。
あれに逆らうなんてとんでもないことであり、自分には到底出来ないことだ、そう思っていた。
だがしかし、さっき群れにまりさを釈放しにきた人間はどうだ。
自分たちに向かって頭を下げたではないか!
その時の人間の姿は、酷く矮小なものにドスの目には映った。
何だこれは?今まで見上げることしかできなかったはずの存在が、今ではずいぶんと小さく見えるじゃないか!
ちょっと自分が踏みつければ、それで簡単に潰れてしまいそうだ。
そうだ!今は昔とは逆の立場、自分の方が見下ろす立場だったんだ。
そう理解した瞬間ドスの中で何かがはじけた。
そうだ!そうだったんだ!
自分は何者にも負けることのない、この世でもっともゆっくりとした存在、ドスまりさなのだ!
あんな小さな体のクソ人間の一体何を怖れることがあろう!
現にクソ人間どもはドスを怖れているのだ。まったく今まで弱気になっていたのがバカみたいだ。
そう!自分には力がある!
人間どもを従え、全てのゆっくりをゆっくりさせることのできる力が!
「ゆふ、ゆふふふふふふふふ!」
ドスの口からは自然と陶酔的な笑みがこぼれだす。
自身が人間の群れに抗議に向かうと決めた途端、人間の方からまりさを返還し謝罪に来た。
この事実によりドスは自分が願えば何でも思い通り行くような、いわば全能感的ものを感じるに至っていたのだ。
「むっきょきょきょきょきょ!」
そしてそれは幹部ぱちゅりーにも同じことが言えた。
(何もかもがけんじゃのぱちぇの計画通り!
まったくてんっさいすぎちゃって、ごめんねえええええええ!
むっきょきょきょきょきょきょきょきょ!)
自身の作戦の予想以上の結果を前に、まったく我がことながら自分のけんっじゃの才能が恐ろしいと悦に入る幹部ぱちゅりー。
幹部ぱちゅりーのけいっさんでは、人間がまりさを返還するのはドスによる圧力の後に、それに人間が屈する形で行われる算段であった。
だがしかし人間どもは、ゆっくりを怖れてこちらが何もせずとも、自分からまりさを釈放してきたのだ。
まったく、どうやら自分は今まで人間という存在をを過大に評価しすぎていたらしい。
流石のけんっじゃのぱちぇも、人間どもがここまで根性なし腰抜けのヘタレだったとは予想できなかった。
普段身内にはでかい顔をしているくせに、ちょっと外部とトラブルになるとすぐに相手の機嫌を伺いながら土下座外交をしだす。
今まで仕方がなかったとは言え、あんな連中に従っていたと思うと腹が立ってしょうがない。
だが、まあそれはもういい、問題はこれからなのだから。これを期に人間どもとは新たな協定を結ぶのだ。
この調子ならば、あの境界線にある小さなお野菜プレイスだけと言わずに、もっと沢山のものを人間どもから奪えるだろう。
何せ相手はあの腰抜けの人間どもなのだ、ちょっと強気にでれば、すぐゆっくり様に最大限配慮した外交をしだすのは目に見えている。
最終的には人間どもが所有している領土の半分くらいは奪う形となる新しい協定を結ぶつもりだ。
もちろん今までの協定に盛り込まれていた、すっきり制限などの掟は廃止させ、自由にゆっくりの数を増やせるようにする。
さらに何人かの人間をゆっくりの奴隷として提供させてもいい。日々の食料やあまあまを税として人間がゆっくりに献上する内容の掟も協定に盛り込むつもりだ。
他にも沢山の協定のアイデアがあるが、それはおいおいまとめていくとしよう。
「むっきょきょきょきょきょ!さあ!これからいそがしくなるわよ!くそにんげんどもとむすぶ、あたらしいきょうっていのないようを、
かんがえなきゃならないからね!
ああ、うでがなるわ!きっとすばらしいないようのきょうていになることまちがいないわね!
なんといっても、ないようをかんがえるのはこのけんじゃのぱちぇなんだからね!むっきょきょきょきょきょ!」
こうしてドスと幹部ぱちゅりーの人間に対する増長は決定的なものとなったである。
ゆっくりとは、元来思い込みの激しいナマモノだ。
一度こうなってしまったゆっくりを説得することは最早不可能といっていだろう。
双方の和解への道は閉ざされたと言ってよかった。
さて、そんなふうにゆっくりたちがお気楽な笑顔で騒いでいたとき、群れから離れた別の場所では厳しい顔をした男女が向かい合っていた。
「えーっとさ、実は人間に対して悪さをして捕まえていたまりさを、勝手に持ち出したキチガイを探してるですけど、
この辺で見てませんかねお嬢さん?」
男がそう目の前の、山をうろついていた女に話しかける。
「あらあら、どうやら随分と酷い言われ方をされているようですね私は」
対する女の方は、意外にもあっさりとそれは自分の行為だと認める。
「やっぱりお前がそうだったか。こんな山の中に村人でもない人間が一人でうろついているはずないもんな。
手ぶらなところを見ると、まりさはもう群れに帰した後か?」
「ええそうです。皆さんとても喜んでいましたよ」
「クソッ遅かったか。
テメェなに勝手な事してくれやがる」
男が女を睨みつける。が、対して女は涼しい顔だ。
「どうも何か、誤解があるようですね。私はただ人間の勝手な都合で拘束、虐待されているまりさを解放しただけですよ」
女はさも心外だというふな口調で言う。
「それにもし仮にゆっくりの側に多少の非があったとしてもです、あのまりさは即座に釈放されるべきでした。
なぜならばそれが、人間とゆっくりとの関係を配慮した上での政治的判断というやつだからです。
あなたも子どもではないのですからそういった事情くらいわかるでしょうに」
「……あのなあ、いろいろツッコミどころはあるが、一番の問題として何でその政治的判断とやらを一民間人で何の権限もないお前が勝手に判断して、
実行しているのかよかったら教えていただけませんかねぇ」
女のトンチンカンな理屈に対して、男はやや呆れた口調で溜息まじりに問う。
「それは当然の話しでしょう。この国でゆっくりの事を最も考えて行動しているのは私たちです。
よってゆっくりに対する人間の代表として行動したまでのこと」
きっぱりと当然のことのように応える女。
対して男は呆れ顔のままだ。
「……あー、ていうかさ、そもそもそのお前さんの言ってるその政治的判断だのゆっくりに対する人間の代表ってのはなんなんだ?
外交問題じゃあるまいし、何だかどうにも話しが大仰で現状と噛み合ってない気がするぞ。
これはさ、ただ単にゆっくりが悪さをしたから、駆除するかしないかっていうただそれだけの問題なんだよ。
そこに、お前さんの言うような人間の代表とか、複雑な政治判断とやらが入り込む余地なんか一切ないんだがねぇ」
男は諭すように女に説明する。
が、それを聞いた女はキッと男を睨みつけ、ビシッと男に人差し指を突きつけた。
「そう!それです!その姿勢こそが間違いだと言っているのです!
まるでゆっくりたちをモノか何かのように事務的に扱うあなた方の態度!
ゆっくりたちは我々人類の隣人たりえる知的生命体なのですよ。
それらの言葉を無視し、一方的に駆除など断固として許されることでは有りません!
ゆっくりは我々に対して明確に自らの意志を主張することが出来るのです。
なればこそ、それを尊重し一つの独立した国家として扱うべきなのです」
そう興奮気味に一気にまくし立てる女。
「はぁ……サーセン。
あっ、それと初対面の人に向かっていきなり指を指さないようにね」
「おっと、これは失礼しました。つい興奮してしまいまして」
女はそう言い素直に腕を引っ込める。
そんな様子を見ながら男は何だかなぁと頭の裏側を掻きながらあらためて女に問いかける。
「まあ、お前さんの言いたいことは大体わかったよ。
けどさ、この際オレが正しいかお前が正しいかは脇においておくとしよう。ここで延々議論しても水掛け論になるだけで何の意味もないしね。
だがね、現実問題としてこの村に住んでいる人たちはゆっくりたちの行動に迷惑してるわけだ。
それを村の住人でもなんでもない部外者のアンタが、勝手にどうこうするってのはおかしくないかい?」
男は腕を組み、じっと女を見据える。
「そもそも結局のところアンタ一体何がしたいんだ?
捕まってるまりさをゆっくりたちの群れの返して事態が収まったと考えてるならとんだお門違いだぜ。
もしかしたらアンタはこれでゆっくりたちに恩を売ったつもりかもしれないが、奴らは多分今回のまりさが釈放されたことに感謝なんかしない。
なぜならばゆっくりたちにとって、人間がそうそうるのは当然のことだと認識するからだ。
それどころか自分たちは悪くない、悪いのは人間だという意識をより強く持つことになり、さらにいろいろなものを要求してくることになだろうよ。
ゆっくりについて少しでも知識があるならば、一度増長したゆっくりがどれだけ厄介な連中か知らんわけじゃあるまい。
どれだけ与えても、もっとよこせ、もっとゆっくりさせろと要求に際限がなくなるぞ。
お前さんはゆっくりの意思を尊重しろと言っていたが、その要求のままにこの世の全てをゆっくりにくれてやるつもりか?」
「そうは言ってません。
私が言いたいのは何か問題が起こったからと言って、ゆっくりの言い分を聞かずに一方的に駆除や虐待を行うのは間違っていると言っているのです。
何でもかんでも人間が全て正しいわけではありません。時には人間が間違い、ゆっくりが正しいこともあるでしょう。
そんなときに今の風習の様に、有無を言わさずゆっくりが悪というレッテルを貼り、虐げることで本当に我々人類は幸福になれるのでしょうか?
確かに自らを正しいと確信し、他を悪として断罪することは心地よいことでしょう。ですがそんなことを続けていけばいずれ人類は己の進むべき道を誤ります。
今こそ、人間よりも圧倒的にに弱く、しかし意思の疎通できる生物であるゆっくりの声にも耳を傾けることにより、人類全体が啓蒙するときが来ているのです」
「…………………」
(………どうしよう。コイツめんどくせえ)
女の言葉にげんなりとする男。
男ははじめ女がまりさを助け出した理由を、ゆっくりが閉じ込められているから可哀相、とかそんな軽い気持ちで助けたのではないかと思っていた。
が、話を聞いた感じどうも彼女には彼女なりのややっこしい考えや信念があるということがわかってきたのだ。
男は経験上こういう輩が一番メンドクサイと知っていた。自分が正しいと思っているため絶対に引かないからである。
むしろはじめから金が目的で行動しているゆーシェパードの連中の方がよほど与しやすい相手だ。
男とて、彼女の言っていることを一から十まで全て否定する気はないし、自分が絶対的に正しいとも思っていない。
しかしだからと言って女のやっていることを、認めるわけには絶対にいかないのもまた事実であった。
なぜならば、
「なんかそのセリフだけ聞くとそれっぽく聞こえるけどさ、それって実は今回の件についての理由になってないよね。
さっきも言ったけど実際に被害を被ってるのはこの麓の村の人たちなんだぜ。
お前さんがゆっくりに対してどんな大層な思想を持っていてもそれは別に構わないし、そのことを他人に主張するのも構わない、
その主張のままにゆっくりと接するのいいだろう。
でも、それで他の人に迷惑掛けちゃだめでしょ、自分勝手にやっていいことの裁量の区別をつけろよ。
はっきりいってそれができない奴はこの社会で生きる資格はないぜ」
「申し訳ございませんでした」
女は突然ガバッと腰を折って頭を下げた。
「……………」
(………どうしよう。コイツ謝っちゃったよ。えっ、いやこれでいいのか)
予想外の展開に一瞬混乱しかける男。
だが女は構うことなく喋りだす。
「例えばゆっくり一匹と人間一人が命の危機にさらされているとします。
助けられるのはその内一方だけ。さてどちらを助けるべきでしょうか」
「?………??」
突然謝ったと思えば、今度は男に対して意味不明の質問をしだす女。
「そりゃお前、人間を助けるに決まってるだろ。
まさかゆっくりを助けるのが正しいとか言い出す気じゃないだろうな」
「いいえ、人間を助けるのが正しいと思いますし、私もきっとそうするでしょう」
「じゃあ一体何が言いたいんだよ」
「私が言いたいのは、私がゆっくりのためだけに動いているというわけではないと言う事です。
今回の事で私は村の人々の迷惑をかけるでしょう。それは自覚していますし、本当に申し訳ないと思っています。
しかし勘違いしてほしくないのは、私は最終的に人間の利益のために行動しているということなのです」
「ゴメン、きっとオレの頭が悪いせいだろう、さっからお前の言ってることがさっぱりわからん」
「そうでしょうね。実のところ、わざとわかりづらく話してたりします」
「……ナメてんのか」
「いいえ、めっそもうない。
わざともって回った言い方をして、気をもたせようという乙女心です」
「……………」
(………どうしよう。コイツうぜぇ)
男はがっくりと肩を落とした。
ぶっちゃけ何を言っても話しが通じない女に対して何か段々面倒臭くなってきていた。
「はぁ、わかったもういいよ。
おいお前、悪いと思ってるならオレじゃなくて、後できちんと村の人たちに謝るんだぞ。
それとこの付近のゆっくりのことはオレが始末をつける。
お前はもう余計なことすんなよ、わかったな!」
「はい、わかりました」
女はにっこり笑って頷いた。
「はあ、やれやれ……。頼むぜほんとに」
いつまでも山にいても仕方ないのでいったん引き上げることにする男。
まりさが群れに返還された後というならば、今から興奮状態のゆっくりの群れにいっても恐らくは逆効果だろう。
一日時間を置いた方がいい。
「例えば……」
「あ?」
山を降りていく男の背中に向かって女が話しかける。
「人間の男と女が命の危機にさらされているとします。
助けられるのはその内一方だけ。さてどちらを助けるべきでしょうか」
「知るかんなもん、状況次第だろそんなの」
「そうですね。それが正しいことだと私も思います。そしてそれこそが私の目指す理想なのです」
「あー、はいはいそうですか。そりゃよかったね」
もう男はつき合わなかった。振り返ることなくまっすぐ道を降って行く。
「おっと、どうやら呆れさせてしまったようです、まあでもしかたありませんよね。
今私の計画を悟られるわけには行きませんから」
去っていく男を見送りながら、女は一人呟くのであった。
次の日。
「それでぇ、何もしないですごすごと帰ってきちゃったんだぁ?」
「そうは言うがな、本人が一応謝るって言ってわけだし、これ以上オレにどうしろと?
村の村長も大事にしたくないから警察とかの連絡はいいっていってたわけだしな。
そもそも人間をどうこうする権限はオレたちにはないんだぜ」
「まあ、そういことになるね。素直に引いてくれるなら、それに越した事はないだろうな」
宿屋の一回の食堂で食事をとっている人物が三人。
男が一人に女が二人、いずれもゆっくり国営機関の関係者である。
女の内一人は、男が昨日電話をかけた上司に当たる先輩、もう一人の女は男の同僚で時々仕事を頼んだり頼まれたりする腐れ縁ともいえる人物であった。
「あまい!あまいわぁん!悪い子にはお仕置きが必要よん。
その場で○イプでもしちゃえばよかったのよぉ」
「するかアホ!そんなことしたら普通に捕まるわ!人間を相手にする場合は、ゆっくりと違って絶対に手出し無用って決まりを知らんわけじゃあるまい。
てか、そもそもお前何故来たんだ?別に呼んでねーぞ」
「あらぁん、ずいぶんなものいいねえ。
何かトラブルってるって聞いたから、ヒマだし応援に来てやったっていうのにぃ。
きた!お姉さんきた!これで虐待も期待できる!って喜ぶところでしょおぉ?ここは」
「帰ってくださいお願いします」
「………そっ、そうストレートに言われるとちょっと傷つくわね」
がっくりとする女。
男はちょっと言い過ぎたかなとも思ったが、この女が騒いでいるといつまでも話しが進まないのでまあいいかと気を取り直す。
「あーゴホン!
それで君の話に出てきたまりさを逃がした犯人というのはこの人物かな?」
話しが収まったと見るや、すぐさま手もとにある資料から数枚の枚写真を男に見せる先輩。
「おお!コイツだ、間違いない。
何だ、写真があるってことは、この女どっかの組織の大物だったっんですか?」
写真をまじまじと見つめながら尋ねる男。
ことゆっくりに関しては民間の組織とは言え、その規模がバカにならない大きさのものは幾つも存在している。
そして組織が大きければ当然その影響力も大きい、時にはそれが様々な弊害をもたらすこともあるだろう。
そのため、男たちの組織は規模が大きい団体のリーダー及びその幹部の簡単なプロフィールや顔写真くらいは、データとして所持しているのだ。
先輩が女の素性を入手できているということは、即ちこの女がそれなりの組織の人物であることを意味している。
「いや、そうだともいえるが、そうだともいえない」
「?」
先輩の矛盾する発言に眉をひそめる男。
「この写真に映っている女性だがね、実は一週間前までゆっくりんピースの幹部の一人だったのさ」
「だった?」
「そう、だった。つまり突然組織を脱退したというわけさ。
理由は不明、自分からやめたのか、何らかの不始末を起こして除名されたのかすらわからない。
ここ最近のゆっくり関係団体の中では一番大きな動きだったからもしやと思ったが、どうやら大当たりだったようだな。
ふふ、何だ私のカンもまだまだ衰えてないじゃないか」
「あー先輩のカンはよくあたりますからねー」
以前彼女が違和感を感じると言っていたドスの群れが、人間に対して大規模な反乱を計画していた事件のことを思い出しながら呟く男。
「で、どうだったのかな?彼女と直接話をした君の感想は?」
「うーん、なんかちょっとよくわからんヤツって印象でしたかね。
何がしたいのかまるで読めないって言うか、そもそも理由があるのかすら定かでないような…。
金の気配がしないからゆーシェパードの連中じゃないとは思ってたけど、ゆっくりんピースかあ。
そもそもオレはこいつらとはバッティングすること事態初めてですからねぇ」
「ふむ、確かにゆっくりんピースの連中はどちらかと言えば、街ゆや飼いゆ関係の主張をよく行う団体だからね。
野生のゆっくり関してはあまり触れてこない性質上、君が詳しくないのも無理はないか」
「はい!はい!はーい!私くわしいわよぉゆっくりんピースのことぉ!」
さっきまで落ち込んでいた女が、ここぞとばかりに勢いよく手を上げて主張した。
「ああそうか、お前飼いゆ担当だからな。こいつらとやり合う機会も多いのか。で、どんな感じの連中なんだ?」
男が尋ねる。
「そうねぇ、はっきりいってウザイ連中よぉ。
飼いゆっくりにも人間と同等の権利を与えろだとかぁ、野良ゆっくりをむやみに駆除するなとかぁ、無茶苦茶いう連中ね!
特にうるさいのが、ゆっくりのバッジシステムの廃止の訴えよねぇ。
金だ銀だっていうのは差別に繋がるからやめろってい言うのよぉ!まったく鬱陶しいったらありゃしないわぁ!
何でもかんでも平等、公平って、お手て繋いでみんな一緒にゴールの徒競争かってのアホらしい。
あー、思い出したらイライラしてきたわぁん!」
ギリギリと握りこぶしをつくる女。
一応男たちの所属する組織は国の機関である。
そのためどんなにバカげていても、民間団体からの主張を頭から無視することもできず、きちんとその話を聞かなければならないことが多い。
そんなわけで彼女は実際にストレスを感じることも多いのだろう。
「平等ねえ、そういえばあの女もそれに近いようなことを言ってな。
ゆっくりの話にもきちんと耳を傾けて国として扱うべきだとかなんとか」
「んーまっ!なんてことでしょう!
飼いゆとかだけならまだしもぉ、野生のゆっくりにまでそんなことを言い出すなんてぇ!
これでこの女が組織から脱退させられたわけがわかったわぁん。
キチガイ組織のゆっくりんピース内ですら手に余る、トップクラスのマジキチだったというわけねぇん!」
「お前……そりゃ言い過ぎだ」
流石に言葉が過ぎると男が注意しようとしたその時、
「すいません!ゆっくりのプロの方々ですか!
今、村の境界線の辺りにドスまりさが現れて、村の代表との交渉を要求しているらしいんです!
どうか対応していただけませんでしょうか!」
食堂に駆け足で村の若者が入ってきた。
「ほら、そんなこと話している間にドスがおいでなすったようだぞ」
「まあとりあえず女の問題は後回しで、先にこっちを何とかしないとな」
「うふふふ、ゲスゆの相手はおねいさんにまかせてもらおうかしらぁん」
三人は揃って席を立ち上がったのだった。
さて、ドスが現れたという場所は、話の発端となった例の畑である。
そこにはドスのほかに、幹部ぱちゅりー、さらに捕まっていたまりさとその取り巻きのゆっくりたちが集合していた。
「ようドス、来たぜ、人間に対して何か話しがあるんだってな」
男が軽く手を上げてドスに対して挨拶する。
するとドスは、
「ゆゆ!くるのがおそいよ!いったいいつまでこのどすさまをまたせておくつもりなの!ふざけないでね!まったくぐずはきらいだよ!
おまえら、じぶんたちのたちばってものが、わかっているのおおおおおおおお!」
「むっきょきょきょきょきょ!まったくずにんげんは、なにをするにもぐどんで、のろまねぇ!
そんなことでこのひろいぷれいすをおさめられるのかしら?やはりゆうりょうしゅたるゆっくりが、くそにんげんをしはいすべきということよね!」
「おらおらああああ!まりささまがわざわざやってきてやったのぜえええええええええ!
さっさとまりささまに、しゃざいをするのぜえええええええ!
まりさまはかんっだいだから、くそにんげんのぷれいすをぜんぶわたして、どれいになるというのなら、はんごろしでかんべんしてやるのぜえええええええ!」
「ゆう!とっとと、むらにあるあまあまをもってきてね!ぜんぶでいいよ!」
男たちがやって来た途端にピーチクパーチク勝手な事を騒ぎ立てるゆっくりたち。
「………………」
「うわぁ」
「これは酷い」
ゆっくりたちの人間に対する態度に黙る男、溜息を付くおねいさんと先輩。
このゆっくりたちの、人間を舐めきり、あからさまに見下す様を見れば、別段ゆっくりのプロでなくても一目でゲス化しているとわかるだろう。
そして、ドスをはじめとした群れの首脳陣がこういった態度を取っているということは、必然的に群れのゆっくり全てがそれに感化され、
すでに全体がゲス化していると想像するのは容易だった。
正直なところ男はこの有様を見るまでは、まだゆっくりたちの和解の道も諦めてはいなかった。
が、しかしこの惨状を目前にしてまで、また元通りの関係の戻れると考えるほど理想主義者ではなかった。
「えーと、ドス?何か人間に対して言いたいことがあってわざわざここまでやって来たんじゃないのかな?」
人間たちを前にして、いつまでもガナリ立てているゆっくりたちに向かって男が口を開く。
「ゆゆ、そうだよ!こんかいのけんでどすは、とってもおこっているんだよ!
ゆっくりたちのしんせいなりょうどをおかし、しかもむれのどうしであるまりさをいためつけ、
あまつさえそのことをかくそうと、まりさをふとうにこうそくしつづけた!
こんなしゃかいてき、あくを、どすはだんじてみのがさない!
くそにんげんどもには、きっちりとした、しゃざいとばいっしょうをようきゅうするよ!」
「そうだ!そうだ!」
「どす!もっといってやって!」
「くそにんげんどもは、さっさとしゃざいしろおおおおおお!」
「むっきょきょきょきょ!それとこのけんとはべつに、けんっじゃのぱちぇがかんがえた、あたらしいきょうっていもむすんでもらうわよ!
もちろんいやとはいわないわよねぇ!なにせきょうっていいはんをしたのはそっちだもんねぇ!」
ドスのセリフに呼応して、またもやあきもせず騒ぎ続けるゆっくりたち。
(ねーえぇ、もういいでしょお、さっさとやっちゃおうよぉ、ばかばかしい)
後ろからおねいさんがつんつんと男の背中をつつく。
もうこのゆっくりたちがゲスであり、人間の言う事にこれっぽっちも従う気がないことは確定しているのだから、
さっさと虐待、もとい駆除をさせろという催促だ。
確かにこいつらに対して今さら何を言っても無駄だろう。
ここでゆっくりたちの矛盾点や説明の不合理性を指摘したところでどうせ聞く耳を持つことはないのだから。
そんなわけで、
「あー、ドス、残念だけどその要求は全て受け入れられない」
男はそっけなく言った。
「「「「「はあああああああああああん!なにいってるのおおおおおおおお!」」」」」
信じられないといった様子で一斉ゆっくりたちが絶叫を上げる。
「ふざけないでね!わるいことをしたのにしゃざいもばいっしょうもしないなんてどういうことなのおおおおおおおおお!」
「理由は簡単だ。オレたちは何も悪い事はしていない、以上」
「むぎょおおおおおおおお!つかまってたばりざをしゃくっほうしたでしょうがあああああああああああ!
これはあやまちをみとめたってことでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ぱちゅりーが目を血走せながら興奮気味に男に詰め寄る。
「ああ、そうだったな。まりさを釈放してしまったことだけは人間の責任だな。
そのことだけはこっちが悪いから、ちゃんと謝罪しておこう。
悪いことをしたまりさを釈放してしまって本当にすまなかった、ごんなさい。
はい謝罪終了。
うん、これで一件落着だな、よかったよかった。じゃあもう帰っていいよね」
「いいっかげんにしろおおおおおおおおおおおおおお!しゃざいとばいしょうっていったら、
あまあまと、おやさいぷれいすのことだろうがああああああああああああああああ!
ごちゃごちゃいってないでさっさよこせえええええええええええええ!
いちいちくちにだしていわれないと、そんなこともわからないのかあああああああああ!」
男の軽い挑発に怒り沸騰のドスが吼える。
「ゆうううううううう!ふざけやがってえええええええええ!
ばじゅりいいいいいい!こうなったらしゅだんをえらばないよおおおおおお!
このごみくずにんげんどもに、あれをみせてやってねええええええええ!」
「むぎゅ!わかったわ!」
「アレ?」
怪訝な表情をする男たちを尻目に幹部ぱちゅりーはドスの帽子から何かをゴソゴソと取り出す。
ドススパークを撃つためのキノコだろうか?
身構える三人、ここでドスがドススパークを撃てばそれで交渉は決裂、開戦の合図となり戦闘が始まるだろう。
そしてそれはイコールでドスの死を意味するのだ。
何故ならここにはゆっくりに対してのプロが三人もいるのだ、最近ドス化したばかりのドスなどあっといまに始末されてしまうだろう。
が、しかし、はたして幹部ぱちゅりーがドスの帽子から取り出したものは、キノコではなかった。
それは、
「カードか?あれ」
幹部ぱちゅりーが口にくわえているのは、長方形のカードだった。
よく目にするポイントカードやクレジットカードと同じくらいの大きさをしている。
「むっきょきょきょ!これをみてからでもどすのようっきゅうをことわれるかしら?」
カードをくわえた幹部ぱちゅりーが男にカードを口渡しながら言う。
そのカードを覗き込む三人。
「………これ、車の免許書か?」
「そのようだな」
「ていうかぁ、この写真のおんなぁ、さっきまで話したあのまりさを釈放したやつじゃないのぉ!」
おねいさんの言うとおり、その免許書に映っていたのは、例のゆっくりんピースを脱退したといかいう女性のものであった。
しかし、身分証明にも使える貴重な免許書を何故ゆっくりたちが持っているというのか。
「なんだ!これは!どういうつもりだ!」
流石の男も、これには語気を強めてドスに問う。
「ゆっへっへっへっへ!わからないのおおおおお?
そのしゃしんさんにうつっているおねいさんを、どすたちはひとじちとしてむれであずかっているんだよおおおおおおお!
もしどすたちのようっきゅうがうけいれられないばあい、そのおねえさんがどうなるかわからないよおおおおおおおお!」
「なん…だと…」
完全に予想外の展開に絶句する男たちであった。
つづく。