ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3667 一緒にゆっくりしたかったいく 3
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ankoss
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『一緒にゆっくりしたかったいく 3』 31KB
制裁 愛情 自業自得 差別・格差 追放 駆除 番い 群れ 飼いゆ 野良ゆ 都会 愛護人間 独自設定
10.
「ゆっゆっゆっ」
「ゆぐっゆぐっゆぐっ」
「むきゅっむきゅっむきゅっ、ぐっ、けほけほ」
「ゆ、ぱちゅりー!だいじょうぶ?!」
「けほ・・・だいじょうぶよ、ごめんなさい」
みんな、一心不乱に硬い道路を蹴って進んだ。
ぱちゅりーを支えてのぴょんぴょんは辛い。当たり前だが普段より大きく体力を使うし、着地のときの振動も、
支えているぱちゅりーの分まで被る事になるので、あんよに強く衝撃が走る。
だが自分はまだいいほうだ。
妊娠しているれいむは、なるべくお腹に振動が来ないように、お腹を少し上に向けてあんよの後ろ側で着地するよう、
無理な体勢で走っていた。着地に使えるあんよの面積が狭い分、あんよに負担がかかり、鋭い痛みに耐えている。
そもそも、お腹の中におちびちゃんがいるゆっくりは、黙って立っているだけでも体力の消費が激しく、
ぴょんぴょんによる移動には相当難儀していた。
怪我が浅くないまりさ、みょんも、はやくも傷口が開いてしまい、餡子を漏らしながらの移動となっている。
目的地に着く前に失餡死してしまうほどの傷ではないが・・・体を削りながらの移動に、
苦痛に耐えるのに慣れているはずのまりさ、みょんの表情も険しい。
ぱちゅりーも、休む事無い行軍に、何度かクリームを吐き出しそうになるも飲み込み、黙々と走り続ける。
(ゆう・・・みんなだいじょうぶかな)
なるべくみんなの負担を軽減しようと、自分はみんなの様子を確認し、辛そうな仲間がいれば声を掛けた。
ゆっくり一人でも脱落者は出させない、みんな揃って、新しい群れにたどり着くんだ。
だけど、問題はみんなの様子だけではない。
(にんげんさんにあったら、おしまいだよ・・・)
この時間帯は、人間さん、特に小さい人間さんが、大勢歩いている事が多く、普段だったら絶対に群れから出ない。
もし出会ってしまったら、素早く物陰に隠れなくてはいけない。
勿論、時間に関係なく出会う可能性のある、大きなすぃーや、ノラ猫さんに会った時だって同じである。
いつもは一人で行動していたから、隠れる際も迅速に行動できた。
だが今は、移動の不自由なゆっくりが大勢いるのだ。いつもよりも早く危険を察知し、素早く行動しなくては。
そうして移動しているうちに、曲がり角に差し掛かる。
「ゆ、みんないったんとまってね」
(((((コクリ)))))
みんなに止まってもらい、角の電信柱からそっと様子を伺う。
よ・・・し、誰もいない。
「ゆ、だいじょうぶだよ!いくよ!」
「「「「「ゆっくりりかいしたよ」」」」」
また走る。
人も車も動物にも、群れを出てから一度も会っていない。
みんな、苦しそうな顔をしながらも、一人も脱落することなく、走り続けている。
運が向いているのだろうか。このまま新しい群れまで走り切れるだろうか。
だが、目的地へたどり着く途中の、狩場にしている空き地の前に来たところで、その幸運は尽きた。
「ゆっ!」
突然脇道から、小さい人間さんが大勢飛び出してきた。
人間さんたちは、群れ最速のちぇんの何倍もの速さでこちらに向かって走ってくる。
間に合わない、見つかる。だが、黙っているわけにはいかない。
「みんな、はやくあきちにかくれるんだねーー!」
「はやくあきちのくさむらにかくれて!」
「ゆ、はやくぅ!」
みんな、空き地の草むらに入り込む。だが、目敏い人間さんたちは、こちらに気付いていた。
こうなっては仕方がないと、みょんは自慢の刀を咥えて身構えた。自分を含めたまりさも、水上移動用のオールを
帽子から取り出し、刀代わりに咥え、物陰から人間さんの方を睨んだ。
『わ、おい、ゆっくりの団体だぜー』
『あ、珍しー』
『ほっとけよ、遅刻するぞ。また殴られんのやだよー』
『そうだなー』
ばたばたと、小さい人間さんは走り去っていってしまった。
「・・・・・・」
「ゆ・・・・・・」
見逃されたらしい・・・
「ちぇん・・・」
「あ、あぶなかったんだねーー・・・」
「ゆうぅぅ・・・」
幸運は、完全に尽きていたわけではなかったようだ。
だが、問題は何も解決していない。今度こそ危なくなったら身を隠しつつ、新しい群れまで走らなくてはならない。
「むきゅ、まりさ。あたらしいゆっくりぷれいすまで、あとどれくらい?」
「ゆ・・・むれからここまでと、またおなじくらい、はしらないといけないよ・・・」
「じゃあ、ちゅうかんちてんなのね。みんな!がんばりましょう!」
「「「ゆ、ゆ、おーー!」」」
みんな、危険な目に遭ったばかりなのに、再び気力を振り絞り、立ち上がってくれた。
自分も、一人も脱落することなく、新しい群れにみんなを連れて行く目的を果たすため立ち上がる。
長たちも、もういい加減、群れを出発している頃だろう。
第二陣の方が、ゆっくりの数も多く荷物を持っているため、危険が大きいはずだ。
自分もへこたれているわけにはいかない。
「ゆ、じゃあまたしゅっぱつ・・・」
そう言い掛けて、思わず言葉を飲み込んだ。
これは・・・大きなすぃーの音だ!人間さんのすぃーが近付いている!
「みんなまたかくれて!すぃーがきたよ!」
みんな草むらに隠れる。まりさやみょんも、今度は武器を加えたりせずに、身を屈めた。
ぶろろおおおおおおおおおーーー
巨大なすぃーは、不気味な唸り声を上げつつ空き地に近付いてきて、
ぶろろおおおおぉぉぉぉぉ・・・
空き地の前を通り過ぎて、去っていった。
自分は頭を上げて、巨大なすぃーが通り過ぎた後の道路を見やる。他のみんなも、恐る恐る頭を上げた。
よかった・・・すぃーには気付かれなかった・・・。
すぐ傍にいたかいちぇんと目が合うと、思わず安堵の顔になった。
「よかった・・・こんどこそだいじょうぶだよ」
「そうだねーー、ちょうどあきちさんに・・・みゃっ、みゃ?!」
すると、突然かいちぇんが奇声を上げた。
かいちぇんの安堵の顔が、みるみる歪み、そして、
「み、みぎゅえーーー!」
激しく嘔吐した。苦しそうにチョコレートを吐き出し、咳き込む。
予想だにしなかった事態に、自分は驚き、介抱しようとお下げをかいちぇんの背中に回そうとした。
「かいちぇん、ゆっくりして!どうし・・・ゆ?!」
そのとき、自分も強烈な不快感のある匂いを嗅いだ。途端に気分が悪くなり、喉の奥から餡子がこみ上げる。
「ゆ、ゆぐーー!!ぐぐ!!」
何とか気分の悪さを飲み込み、吐き気を抑えた。
吐いて餡子を失うわけにはいかない。ただでさえこの緊急事態、無駄に体力を失うことは許されない。
しかし、この強烈な匂いは何だ?
そう思って何とか顔を上げた。すると、
「ゆげええええ・・・・」
「ゆうえええああああ・・・」
「む、ぎゅ・・・れ、れいむ、あんこさんをはいては、だめよ、のみこむのよ・・・」
「ゆ、ぐるしいんだぜ・・・」
みんな、かいちぇんや自分と同じように、気分を悪くしていた。
驚いて、みんなを介抱する。
「みんな、ゆっくりして、おちついて!」
「なんなのお・・・いまのは・・・」
一通り落ち着いて、全員を見渡した。多少餡子を失ったが、みんな再び行軍が出来そうだ。
特に、最も体力的にきつそうな老ぱちゅりーが、クリームを吐かずに耐え切っていた。
だが、さっきの匂いが、ここら一帯に充満しているとしたら・・・
「ゆ、だいじょうぶだとおもうみょん・・・さっきのにおい・・・」
「ゆ、れいむもきづいたよ・・・にんげんさんのすぃーから・・・においがしてたんだよ・・・」
「にんげんさんの・・・?」
言われてみれば、確かにそうだ。
人間さんのすぃーが通り過ぎ去った後、匂いが残された感じだ。
だったら、あの匂いはもう拡散してしまっているだろう。
だけど、あんな不快な匂いをばら撒くすぃーとは何なのだろう。
何か、ゆっくりできないことが、すぐ背後から迫ってきている感じがした。
「いこう、ゆっくりできないよ!」
「そうだぜ、にんげんさんをきにしてばかりいてはすすめないのぜ!またはしるのぜ!」
再び隊列を組み、空き地を飛び出して走り出した。
勿論、今まで以上に周囲に気を配りながらだ。
ここからまた、かなりの距離を走らなければならないが、もう曲がり角はない。
一直線に走り続け、目印となる自動販売機を目指す。
11.
それから、ひたすら走り続ける。
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!」
「ゆはっゆはっゆはっゆはっ」
「ゆううっ、ゆううっ」
途中で、大きい人間さんに出くわしたが、先ほどと違って、ゆっくり歩いており、身を隠す時間があった。
ここら一帯は、つい最近探索したばかりなので、何とか地形も覚えている。
行き止まりになっている脇道にみんなで隠れ、何とか人間さんをやり過ごした。
そして・・・遠くに、目印の自動販売機が見えてきた。
「みんな、あのじどうはんばいきさんだよ!」
「ゆう、あそこかなのぜ!!」
「あとちょっとなんだねーー」
「むきゅ、がんばりましょう、あとすこしよ」
走る。
今まではあんよへの負担を考慮しつつ走っていたが、目標が見えてきた以上、何も遠慮する必要はない。
あんよに激痛が走るが、かまわず酷使し続ける。
そんな強さで地面を蹴れば、あんよを傷つけかねないと分かっているが、それでも走る。
あと少し。
豆粒のように小さく見えた自動販売機は、見る見る間に大きく見えた。
飛び込むべき細道もはっきり見え始めた。
あと少し。
あと少し。
自動販売機のすぐ下までやってきた。細道の入り口が手招きしている。
周りに人間さんもすぃーもない。後ろにも、多分いないだろう。
いや、この細道に飛び込むところを、人間さんに見られてはいけない。
思い切って後ろを振り向く。
後ろには・・・ゆっくりのみんなが懸命に走る姿が目に入る。
だが、人間さんもすぃーも、ノラ猫さんもいなかった。
みんなも自分も、細道に走り込んだ。
人間さんが通れるほど広くはない細道は、まるでゆっくりを歓迎しているようだ。
そして、細道を抜けた。壁に囲まれた空き地が目前に広がる。
「や、やったよ、ついたよ!」
「むきゅぅーー、ここなのね!ここでだいじょうぶなのね!」
「よかったんだねーー、みんなぶじなんだねーー!!」
新しいゆっくりぷれいすで、みんなひっくり返った。
壁に囲まれた広間。虫さんのいる草地。お家となる捨てられたダンボールなど。
自分が先日見付けたままだった。
「よかった・・・よかったよぉーー!!」
「むきゅ、みんなそろっているわね?!」
「ええと・・・だいじょうぶだぜ、みんないるんだぜ!」
安全圏に入った事に安堵し、みんな喜びを分かち合った。
だが、まだ終わってはいない。
ここに来るまでの行軍で、みんな大きく消耗している。怪我をしていたゆっくりは傷が開いてしまったし、
妊娠ゆっくりのケアもしなければならない。
それに間もなく、長たち第二陣のゆっくりが来る。迎えに行くなどの軽率な行動は取れないが、
少なくとも受け入れ態勢は整えなくては。
「みんな、たいちょうは?けがとかは、だいじょうぶ?」
「みょんたちは・・・もうこれいじょう、うごきたくないみょん・・・」
「わるいけど、まりさもすこし、あんこがですぎたのぜ・・・」
「むきゅ・・・れいむが、たいりょくてきに、かなりまずいわ・・・」
「ゆう、ゆう、ゆ・・・」
怪我ゆっくりは、傷が治療前よりも悪化してしまい、これ以上の行動は危険な状態になった。
妊娠ゆっくりも、まだ食事をしていないに加え、過酷な行軍と胎児からの栄養の搾取によって、
栄養失調になっている。
みんな危機的状態に陥っているが、食糧もお薬も、全て第二陣が輸送しており、手元には全く無い。
「おさたちがくれば、ごはんさんもたべられるし、けがのてあてもできるんだねーー。
もうすこししたらつくはずだから、それまでのしんぼうなんだねー」
「ここには、むしさんもすこしはいるから、それをつかまえてくるよ!」
「むきゅ、ぱちぇたちはみんなを、やわらかいくささんのうえに、つれていくわ!」
まだ体力に余裕の有るぱちゅりー達が、怪我ゆっくりや妊娠ゆっくりを、草地にまで連れて行き、横に寝かせた。
ぺーろぺーろやすーりすーりでだが介抱し、何とか落ち着かせた。
自分とかいちぇんは、空き地内にいるバッタや芋虫を狩る。自分たちがここに来て騒いだせいか、
虫たちは逃げ始めているようだ。いずれここには虫は居なくなるだろう。
そうして少し時間が経った頃、
「ゆ?」
「にゃ?」
細道の向こうから、何やら声が聞こえてきた。
ゆっくりの声だ。
「おさだ!おさたちがきたんだよ!」
「よかったんだねーーはやくむかえにいくんだねーー」
ぱちゅりーや介抱されていたゆっくりも、ぱっと笑顔が戻る。
「むきゅ、まりさ、でむかえにいってあげて!」
「ゆっくりでむかえにいくよ!!」
口に咥えていたバッタを放り出し、出入り口の細道に向かった。かいちぇんも一緒に走ってくる。
よかった、長も、子ぱちゅりーも、みんな無事にたどり着いた。
一時はどうなるかと思っていた、今回の騒動も、これで解決する。
長たちを中に招き入れたら、すぐにあまあまを貰って、怪我しているみんなを助けよう。
おうちを作って、前よりも立派な、ゆっくりプレイスにする。
そうしたら、自分から改めて、子ぱちゅりーにぷろぽーずをするんだ。
細道の終わりが見える。
左右に高い壁さんがあり、人間さんでは通れない程の幅しかない細道は、ゆっくりプレイスを守る堅固な扉だ。
その扉にみんなの招きいれようと、細道の終端に辿り着いた時。
ぐしゃあ!!
生理的に受け付けられない不快な音と共に、餡子がぶちまけられた映像が目に映った。
「・・・・・・」
何が、起きたのか分からなかった。
その餡子は、うんうんでもなく、吐いた餡子でもなく、ゆっくりの、内臓だった。
ぐしゃあっという音が、その餡子はゆっくりの内臓だと、認識させた。
「・・・・・・」
視線が動く。
潰れたまりさがいる。
あのお飾りは・・・剣の扱いならみょんにも引けをとらないと言われた、群れ一番の剣使いの、まりさだ。
そのまりさが、うつ伏せにに倒れ、大きく裂けた横腹から餡子を撒き散らし。
そして背中に、何か巨大な棒のようなものが、乗せてあって。
「・・・・・・」
『おい!あんまり潰すな!生け捕りにするんだ!』
『あ、すいません!』
余りにゆっくりできない人間さんの声に、我に返る。
潰されたまりさの背中に乗っているのは、人間さんのあんよだ!
「ゆわあああああ、たすけてぇ!!」
「やめてええええぇぇ!!」
「やめるみょん!!みんなをはなすみょん!!」
『痛いな、突っつくな』
目的地を目の前にして、人間たちに襲われたんだ!
群れの仲間たちが、次々と潰されたり、掴まれて袋に放り込まれている!
驚きと怒りのあまり、叫び声を上げつつ、人間さんに飛び掛った。
「ゆわああああ!!やべ、むぐ?!」
だが、思いっきり地面を蹴って飛んだはずの自分の体は、再び地面に叩きつけられ、口も押さえられた。
目の前で惨劇が繰り広げられているのに、自分は身動きが取れない!
後ろにも人間が居たのか?!と思い激しくもがいて抵抗しようとしたが。
「みゃ、やめるんだねーー!」
自分を押さえつけたのは、かいちぇんだった。
やめて、みんなを助けないと。
そう言いたくて、かいちぇんを振りほどこうとするが、かいちぇんはがっしりと自分を抑えて離さない。
「まりさがでていってもかてないんだねーー!ここはこらえるしかないんだねーー!がまんしてねーー!!」
「むぐ、むぐーー」
そんなこといったって!
みんなを見捨てられるもんか!離して!
かいちぇんを睨み、ひたすら離すよう目で哀願していたが、突如、外の様子を見るかいちぇんの表情が凍りつく。
何だ、と思ってかいちぇんの視線の先を見ると、おぞましい光景が現れた。
長が、人間の手に掴まれ持ち上げられていた。
「むきょおおおぉぉぉ、やめてえぇぇ、みんなをはなしてぇぇ」
『くそ、暴れるなよ』
「むぎゅ、えれえれえれぇ・・・」
『うわ、汚え!!』
人間の手に掴まれたまま、長は大量のクリームを吐いた。人間は驚いて手を払う。
あっと言う間すらなかった。長の体は人間の手を離れ、地面に向かって。
べちゃああぁ
叩きつけられた。
「んーーー!!んーーーー!!」
「まりさ!こらえて・・・!」
長の下半身はあっけなく半壊し、道路をクリーム塗れにした。
断末魔も吐かれることなく、長は永遠にゆっくりした。
許さない、許さない、何で殺した!
今まで数多くのゆっくりを統率し、人間に迷惑を掛けずに群れのみんなが生きていくために腐心し続けた、
人間にとってもゆっくりしているゆっくりだったのに!
そのとき、
「むきゅあ!」
一匹のぱちゅりーが、弾かれたように細道の近くに投げ出された。
それは、自分にぷろぽーずをしてくれた、子ぱちゅりーだった。
『あ、逃げるな!』
「ゆひっ」
人間の怒声に恐れおののく子ぱちゅりーが、視線を逸らすために真正面を見て、
「!」
「んーーー!!」
自分と、子ぱちゅりーの、目が合った。
反射的にお下げを伸ばす。今必死に跳ねれば、子ぱちゅりーは細道に逃げ込める。
この細道は狭すぎて、人間は通れない。
子ぱちゅりーは助かる!
「んーーー!!」
必死にお下げを伸ばした。子ぱちゅりーを助けたくて、子ぱちゅりーに助かって欲しくて、お下げを伸ばした。
なのに。
「んーーー!!」
子ぱちゅりーは自分の姿を見て、涙を浮かべながら、にっこり笑い、まるでお辞儀をするようにうつむいた。
「んー!んーー!!」
何をしてる、早くこっちに来て!人間が子ぱちゅりーに駆け寄る。人間に捕まってしまう!
早く、早く、何故逃げないんだ!
「んーー!!!」
「まりさ!さがるんだねーー!!」
かいちぇんが、自分の体を思いっきり引っ張る。
ずりずりと、自分の体は、子ぱちゅりーから離されていく。
そして、
ぐにゃり
「んんーーーー!!!」
子ぱちゅりーの体は、人間の手に捕まれ、持ち上げられた。
口からクリームを吐き散らしながら、もはや視界の届かぬ上空に持ち上げられ、姿が見えなくなった。
子ぱちゅりーは、最早・・・助からない。
「んーんーー!!」
何故、何故何故何故何故!!どうしてどうしてどうしてどうして!!
「まりさ!ぱちゅりーは、ちぇんたちをまもるために、にげなかったんだねーー!」
「?!」
混乱する自分に、かいちぇんは話し続ける。
「ぱちゅりーが、このほそみちににげこんだら、このほそみちのおくにむれがあるって、
にんげんたちにばれてしまうんだねーー!」
「そうしたらにんげんたちは、このへいのうえをのりこえてでも、むれをしまつするために、やってくるんだねーー!」
「ぱちゅりーは、じぶんのいのちをぎせいにして、むれをすくったんだね!わかってねーー!」
「・・・」
ああ、なんで・・・
全身の餡子が、様々な感情で沸きあがり、雄たけびを上げる。
だが全身の餡子が、軽率な行動をとれば群れを滅ぼす、すなわち子ぱちゅりーの犠牲を無駄にする、
ということを理解させ、自分自身を押さえつける。
『これで全部ですね』
『そうだな、どこにも隠れて・・・ないな』
人間の声が聞こえる。
『こいつらが、あの空き地に住んでたゆっくりどもなのか・・・』
『恐らく。どうやってなのか、一斉駆除を事前に察知して、逃げたんでしょうね』
『リーダーはよっぽど頭良かったんでしょう』
『うん・・・じゃあこいつら、どこに行こうとしてたんだろうな』
「!」
「!!」
自分とかいちぇんが目を見合わせた。
まずい、この細道の奥に、空き地が有ることに気付くか?
『あ、主任。少し行ったところに・・・公園ありますよ!』
『ああ本当だ、あそこか。よし行くぞ!』
『『『はい!』』』
バタバタバタ、と足音が遠ざかる。
ああ、よかった・・・。
「みゃああ、たすかったんだね・・・まりさも、・・・」
人間は去っていった。よかった、よかった。
よかった、たすかった、群れは救われた。
「まり・・・?どう・・・たの?」
ゆふふ、ゆふふ・・・あれ、気が抜けたせいか、体に力が入らない。
かいちぇん、重いよ。もう人間はいなくなったんだから、どいてよ。
かいちぇん、前に立たないでよ・・・前が良く見えないよ・・・
「・・・りさ!・・・・・・!!」
かいちぇん、なんで、そんな、小さい、声で、しゃべるん・・・だ・・・
12.
ふと、目が覚めた。
見えるのは、空と太陽。仰向けになって寝ていたのか?
お日様の位置から察するに・・・夕方前だろうか。
のろのろと、起き上がる。何か、起き上がっただけで、体力の半分ぐらいを、使い切った、気分。
「・・・!・・・!」
何だろう、何か聞こえる。様な気がする。
「・・・?・・・!」
鬱陶しいな、そんな小さい声じゃ聞こえないよ。
それよりここは・・・?
よく前を見ると、ゆっくりのみんなが、ダンボール箱を組み立ててる。
そうか、そういえば、新しい空き地に、引っ越した、ような・・・
「・・・!・・・!」
がくがく。
突然体が、左右に揺れた。
なんだよ、地震が起きたの?
すると、顔を無理やり、右に向けられた。
すぐ間近に、群れで一番医療について詳しい、お医者さんぱちゅりーがいた。
なんだ、さっきから鬱陶しいのは、お医者さんぱちゅりーか。
「・・・。・・・?」
何か言ってる。
だから、聞こえないってば。
ああ、喋るのも面倒。喋りたくない。ほっといてよ。起きなきゃ良かった。
お医者さんぱちゅりーの、顔を見るのも面倒で、視線を正面に戻した。
「・・・!!・・・・・・・・!!」
また何か言ってる、と思ったら。ダンボール箱を組み立てていたゆっくりの一人が、こちらを振り向き、近付いてきた。
誰かと思ったら、かいちぇんだった。
「・・・!・・・・・・・・・!・・・?」
「・・・。・・・・・・・・。」
何か話してる。
話をするなら、かいちぇんと話してよ。
自分に話しかけないでよ。面倒くさい。
すると、ひょいと、目の前に何かを出された。
何かと思ったら、芋虫さんだった。
ああ、つまり、ご飯さんか。
「・・・・・・?・・・・・・。・・・・・・?」
「・・・!・・・・・・・・・!・・・?」
ああ、面倒。食べるの面倒。
要らないよ。ご飯さんなんか食べなくても、自分は・・・。
ふと、自分の、体を見る。
膨らみがなく、べっこり凹んでいる。あきらかに餡子が足りない状態だった。
あれ、何で、こんなにぐっすり眠ったのに、餡子さんが、足りないんだ。
そういえば、最後にご飯を食べたのいつだっけ・・・。
ん・・・。
ああ、面倒くさい、どうでもいい。
「・・・・・・。・・・・・・!・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
しばらくすると、かいちぇんは、組み立て中の、ダンボール箱に、戻っていく。
かいちぇんも、大変だね。みんなのおうち作りか。
なんで、かいちぇんが?
そうか、みんなも、長も、永遠にゆっくりしちゃったからか。
長も・・・子ぱちゅりーも・・・
・・・
うん・・・ぐらぐら揺れる・・・
「・・・!・・・!!・・・!!!」
ゆっくり出来ない揺れに、思わず目が覚める。
というか、寝てたのか。
辺りは真っ暗。れみりゃやふらんの時間。そして目の前には、ゆっくりしていない顔の、かいちぇん。
「・・・・・・!!・・・・・・!!!」
相変わらず、何言っているのか分からない。
それに、体を揺らすのを、止めてくれないかな。
気持ち悪い。
いや、気持ち悪さは感じないけど、ゆっくりできない。
「・・・!!・・・・・・!!!」
かいちぇんの、すごい怒りの形相に、思わず顔を背けた。
何を怒っているんだろう。
かいちぇんの向こう側を見ると、立派なダンボールのおうちが二つ、できている。
みんな、そのおうちで、窮屈そうにしながら、心配そうにこちらを見ている。
そうか、おうち作りをサボっていたから、怒っているんだ。
じゃあ、自分は、あのおうちに住まないよ。それでいいじゃない。
「・・・・・・!!!・・・・・・!!!」
すると、かいちぇんは、怒りの形相をそのままに、目の前に芋虫さんを突き出してきた。
え・・・
ああ、ひょっとして、ご飯さんを食べなかったから、怒ってるのかな。
面倒くさい、かいちぇんが食べたらいいじゃん。
段々鬱陶しさが我慢できなくなって、かいちぇんを無視してうつむいた。
「・・・・・・!!・・・・・・!!」
すると今度は、自分の体が思いっきり、引っ張られた。
何だと思ってみると、かいちぇんが、自分をおうちの方に引っ張ろうとしていた。
「・・・・・・!!!・・・!!」
何故かかいちぇんの表情から怒りが消え、泣きながら自分の体を抱えている。
でも動かない。かいちぇんが動かせるほど、自分の体は小さくない。
それに、自分も体を動かしたくない。
ああ、鬱陶しい。放してよ。離れてよ。ゆっくり出来ないよ。
「・・・・・・・!!!!!」
突然、視界が横になり、地面がすごい勢いで近付いた。
・・・いや、自分は、倒れたのだ。
かいちぇんに、張り倒されたのかな。
ん?
突然、お腹の中に変な違和感を感じる。
よく分からない違和感は、お腹から、喉を通って、口にとどき、
「ゆげ!」
面倒くさくて喋りたくなかったのに、言葉が出た。
気が付くと、口の周りと目の前に、餡子が散らばっていた。
「・・・!・・・!」
どうしたんだろう、と思っていたら、今度はかいちぇんが、泣きながら自分を起こそうとしていた。
どうしたんだよ、かいちぇん。怒ったり、泣いたり、ゆっくりしてないよ。
すると、かいちぇんのすぐ後ろに、お医者さんぱちゅりーが歩き寄っていて、かいちぇんに何か話しかけていた。
ああ、面倒くさい・・・かいちぇんの相手は、みんなに任そう・・・。
また、目が覚めた。
辺りは明るい。朝だろうか。
「・・・ーーー!!」
なんだ、遠くから、何か聞こえる気がする。
真正面を見ると、また、ダンボールのおうち。
そこに、異様な光景を目にした。
妊娠していたれいむ達のお腹が、餡子塗れになっていた。
「・・・ちゃんが!!!おちびちゃんがあぁーーー!!!」
え、おちび・・・ちゃん・・・。
よくみると、餡子塗れになっているのはまむまむで、あんこには、出来損ないの目玉やお飾りが混じっていた。
見た事などあるはずも無いが、あれは、お腹の中で、育っている途中の、赤ゆっくりだ。
「むきゅ、れいむ、おちついて、おちついてきいてちょうだい!」
お医者さんぱちゅりーが、妊娠れいむ達を宥めながら話しかける。
「れいむににたおちびちゃんがあ!!まりさににたおちびちゃんがあ!!」
「ぱちゅりー、どうしてえ!!ごはんさんがたりなかったから!?」
「おちびちゃんは、おかあさんをまもるために、でてきちゃったのよ!」
「ゆ・・・?」
お母さんを守るために・・・?
「にゃ、ぱちゅりー。どういうことかおしえてねーー」
「おなかのおちびちゃんは、きづいたのよ。これいじょう、おかあさんからえいようをもらったら、
おかあさんがしんじゃうって」
「ゆ・・・」
「おちびちゃんは、じぶんたちがしねば、おかあさんはたすかると、ほんのうてきにわかったの。
だから、じぶんのいしで、でてきたの」
「そ、そんなああああああ!!!」
ご飯さんが、足りなくて、おちびちゃんは死んじゃったのか。
そういえば、長たちが人間に捕まっちゃったんだ。運んでいたご飯さんも、お薬も、無くなったのか。
「れいむは、れいむはああ!!れいむがしんじゃっても!!おちびちゃんをうみたかったのにぃぃ!!」
「ゆわああああああ!!!」
「れいむ、おちつくんだねーー!れいむがしんじゃったら、だれがおちびちゃんのおせわをするんだねーー?」
「むきゅ、そうよ。おちびちゃんは、じぶんをぎせいにしてでも、おかあさんをたすけたかったの。つらいだろうけど、
ゆっくりりかいしてね」
「・・・」
(ぱちゅりーは、じぶんのいのちをぎせいにして、むれをすくったんだねーー。わかってねーー)
「・・・あんなうまれてもいないおちびちゃんだって、おかあさんをまもるために、しんだ。
ぱちゅりーだって、むれをまもるために、しんだ。だったら、まりさだって・・・」
あんよに力をいれる。何だか体が、すごく軽い。
「でもお、でもおおおぉぉ!!!」
「ゆわああああ、ああ、ああ・・・」
「ああ・・・ゆ・・・ゆ・・・」
「れいむ?!れいむ!!しっかりするんだねーー!!」
「むきゅ、だいじょうぶよ。きぜつしただけだわ」
「だ、だけど。このままだと、れいむたちのいのちも、あぶないんだねーー・・・」
「やむをえないわ。かいちぇん。おちびちゃんを、れいむにたべさせて」
「お、おちびちゃんを・・・にゃ・・・しかたないねーー。でも、れいむたちがいしきをとりもどしたあと、
じぶんのおちびちゃんたちをたべたとしったら、じさつするかもしれないねーー」
「きぜつしているうちにたべさせましょう。あとで、おちびちゃんたちは、てあつくまいそうした、そういいましょう」
「にゃああ、わかったんだね・・・」
かいちぇんとお医者さんぱちゅりーは、死んだおちびちゃんを、れいむ達の口の中に押し込み、
れいむの口の周りを丹念に拭いた。
共食いと似たような行為だが、確かにやむを得まい。
それに、これでれいむ達は助かるだろう。
「ゆ・・・」
れいむ達の周りを見渡すと、苦痛に顔を歪ませたまま、寝ているみょんがいる。
昨日の行軍で、最も酷く傷が悪化したみょんだ。
一日では傷は治らず、まだ立ち上がることが出来ないのだろう。
第一この食糧不足の状態だ。自然治癒が遅すぎる。
・・・みると、自分の足元に、芋虫がある。昨日、自分が食べずに居たものだ。
「・・・みょん」
芋虫を咥えて、ぴょんぴょんと、寝ているみょんに近付く。
みょんの口に、芋虫を入れた。
「ゆゆ・・・むぐ・・・むーしゃむーしゃ・・・?」
みょんは横になったまま、芋虫をむーしゃむーしゃして、飲み込んだ。
「にゃ?まりさ!」
「まりさ!」
かいちぇんとお医者さんぱちゅりーが、自分に気付いたらしい。声を掛けられた。
だけど自分は無視し、横になっているみょんを見守った。
「みょ、みょん?・・・ま、りさ・・・?」
よかった、みょんは気付いたようだ。
喜んでいると、かいちぇんとお医者さんぱちゅりーが近付いてきて、なお大声で声を掛けてきた。
「ま、まりさ。まりさ!おきたんだねーー。うごけるんだねーー」
「まりさ!まさか、いまのいもむしさんは・・・あなたのぶんの、ごはんさんじゃないの?!」
「ん・・・そうだよ。まりさは、おなかすいてないし」
何をつまらない事を、というつもりで答えると、二人はまるで焦っている様に騒ぎ始めた。
「まりさ、きのうからなにもたべてないんだねーー!おなかすいてないはず、ないんだねーー!!」
「だいたいまりさ、いまのあなた、すぐにもたおれそうな、おかおしているわよ!」
「まっているんだねーー!ええと・・・そこのくさむらから、むしさんをとってくるんだねーー!」
かいちぇんは大慌てで、空き地の壁際に残っている草むらに駆け出した。
ばかばかしい。昨日群れがあんなに大騒ぎしているのに、虫さんなんて居る訳が無い。
すぐにも倒れそうなって、なんだよ。本当にお腹はすいてないし、体が軽くて、最高の気分だよ。
自分は、空き地の出入り口になっている、細道の方へ跳ねた。
「ま、まりさ!どこにいくの!」
「にゃっ?!まつんだねーー!」
「もう・・・そこにはむしさんなんて、いないよ」
また声を掛けられ、仕方なく足を止め、言った。
「にゃ・・・?」
「とっくにむしさんは、にげちゃってるよ。ごはんさんがほしかったら、そとにでてかりをするしかないよ。
いつものかりばにいって、むしさんをとってくるよ」
そういうと、今度こそ、地面を強く蹴って細道を抜けていった。
「にゃっ!まつんだねーー!まって・・・」
かいちぇんの声が後ろに響いたが、すぐに聞こえなくなる。
かけっこで追いつく事も出来ないくせに。まずはかいちぇん自身の心配をするべきじゃないだろうか。
細道を抜ける。
昨日の惨劇の場を思い出した。
「・・・」
仲間達の死体は無い。
綺麗さっぱり洗いおとされ、死臭さえ残っていない。
左右を見た、人間はいないことを確認し、狩場に向けて、走りだした。
13.
ぴょん、ぴょん。
無心に跳ね続けると、確かに体に違和感があった。
一回蹴るたびに、体の中の餡子が減って、体が軽くなるような・・・
いや、どうでもいい。体が軽くなるのなら、早く走れていいじゃないか。
角を曲がる。
すると、
「ゆ・・・」
人間が居た。大きい人間だ。
どうしよう。隠れてやりすごすか・・・
「ゆ、べつにいいよ。もう、めんどうだよ・・・」
いいや、面倒だ。人間に捕まって殺されれば、群れも食い扶持が減って、助かるだろう。
そう思い、ごく自然に、人間に向かって跳ねた。
『お・・・』
人間に見られたのを感じた。だが完全に無視し、普通に人間のすぐ隣をすれ違った。
ぴょん、ぴょん。
人間は、何もしてこなかった。
「ふうん・・・」
そのあと、二人ほど人間とすれ違った。
近寄りたくないと言わんばかりに、大きく避けた人間も居たが、むしろ自分に道を開けたかのようで、可笑しかった。
結局、自分は何もされなかった。
「・・・いがいと、なにもされないものだね・・・」
そんなことを考えつつ、走り続けた。
そして、狩場にたどり着いた。
「ゆ・・・ゆ・・・?どういうこと・・・」
狩場の空き地を見て、愕然とした。
荒らされている。
草地は踏み荒らされ、はっきり足跡が残っている。
「にんげん・・・くそにんげんたちだ・・・!」
きっと糞人間達が、この空き地にもゆっくりがいないか調べたんだろう。
考えてみれば、こんな目立つ場所にある空き地を、糞人間達が怪しまないはずが無い。
慌てて空き地の中を探ったが、虫さんは一匹も見つからない。糞人間に荒らされ逃げたんだ。
「ゆ、ゆゆ・・・。ほかの、ほかのかりばは?」
大急ぎで、別の狩場に走った。
無事であってくれ、そう願いながら辿り着いた第二の狩場は、
「ここも・・・・」
やはり同じように荒らされている。
ここでも虫は狩れなかった。
「ゆゆ、だったら・・・」
距離的に遠かったので、殆ど行った事の無い第三の狩場に走った。
「ああ・・・」
ここも、糞人間の手で、荒らされていた。
かろうじて、蝶々さんが一匹だけ狩る事が出来たが、狩りの成果としては少なすぎる。
「ゆゆう・・・ごはんさんが、ごはんさんが・・・どうすれば、どうすれば・・・」
もう昼過ぎである。群れのみんなも、自分の狩りの成果を当てにしているかも。
だが、狩場がこの様子では、ご飯さんは手に入らない。明日からはどうすればいいんだ。
「ゆ、ゆぐぐぐぐ・・・・そういえば、いままですんでいたあきちは・・・」
今まで、一昨日まで住んでいた場所に、何か残されていないだろうか。
長も、全ての食糧やあまあまを、持ち出せたわけじゃないだろう。
それを持って帰れば、みんなは、群れは救われる!
「ゆっ、ゆっ、ゆっ!」
体はより軽く、跳ねる事を容易にしてくれるような気がしたが、何故か、あんよに力が入りずらくなってきた。
でも、そんな事は構わず、あんよの皮が破けるのを覚悟で、地面を蹴った。
ゆっくりなんか、していられない。一刻も早く、群れの前の住んでいた場所へ!
そうして走っている最中に、
「ゆうっ、ゆうっ、ゆ?」
立派な門がある、糞人間のおうちの前を通りかかった。
ピカピカに門は磨き上げられており、お日様も照っていたので、門に自分の姿が映った。
「ゆ、ゆ・・・?!」
自分の姿を見て、思わず声を上げる。
その、あまりにゆっくりしていない姿に。
「これ・・・が・・・これが・・・まりさ・・・?」
まるで餓死したゆっくりが、ゾンビのように立っているようだ。
どうみても、生きるには中身の餡子が足りてないように見える。これは、ゆっくりの標本か?
違う、何言っているんだ。これは自分だ。自分は、生きている。
だけど、中身は減りすぎてて皮は凹み、その皮も、目玉も、水気を失ってかさかさだ。
おまけに、お飾りのお帽子も、髪も、泥だらけ。
「なんで、いつのまに・・・ゆゆ?!」
途端に、体がぐらりと倒れそうになった。
あんよだけでは力が足りず、お下げもつかって、体を支えなくてはならなかった。
さらに、周りから視界がじわじわとせばまる。
まるで眼球が、物を視認する能力を放棄すると言わんばかりに。上下左右から暗闇がにじり寄ってくる!
「ゆゆ、ゆゆ、ゆわあああーー!!」
叫び声を上げながら、死ぬ気で力を振り絞り、走り出した。
何か今、気付いてはいけないものを、気付きそうになった。
だが知らない。今の自分には関係ない。
ほら、目は見える。体は動く。こんなに早く走れるじゃないか!
早く、早くみんなに、ご飯とあまあまを、沢山持って帰るんだ!
あんな糞人間なんかに、負けてたまるか。
「ゆう!ゆう!ここ、だよ・・・!」
着いた。
群れが一昨日まで住んでいた空き地に。
今となっては門番もいない空き地の中に駆け込んでいく。ひょっとしたら糞人間がいるかもしれない、
そんな危険も頭をもたげたが、止まれなかった。
「・・・ゆ・・・」
そして、空き地には、なんにも、なかった。
ぴょん・・・ぴょん・・・
群れのみんなが集まって住んでいた、ダンボール箱のおうちの列は、綺麗に片付けられていた。
いや、まるで、元からここに群れなど無かったかのようだ。
ぴょん・・・ぴょん・・・
それに、長の住処だったひときわ大きいおうちも、ご飯やあまあまを蓄えていた食料庫も、
なにも残っておらず、虫一匹残されていなかった
もちろん、自分のおうちが有ったところも。
制裁 愛情 自業自得 差別・格差 追放 駆除 番い 群れ 飼いゆ 野良ゆ 都会 愛護人間 独自設定
10.
「ゆっゆっゆっ」
「ゆぐっゆぐっゆぐっ」
「むきゅっむきゅっむきゅっ、ぐっ、けほけほ」
「ゆ、ぱちゅりー!だいじょうぶ?!」
「けほ・・・だいじょうぶよ、ごめんなさい」
みんな、一心不乱に硬い道路を蹴って進んだ。
ぱちゅりーを支えてのぴょんぴょんは辛い。当たり前だが普段より大きく体力を使うし、着地のときの振動も、
支えているぱちゅりーの分まで被る事になるので、あんよに強く衝撃が走る。
だが自分はまだいいほうだ。
妊娠しているれいむは、なるべくお腹に振動が来ないように、お腹を少し上に向けてあんよの後ろ側で着地するよう、
無理な体勢で走っていた。着地に使えるあんよの面積が狭い分、あんよに負担がかかり、鋭い痛みに耐えている。
そもそも、お腹の中におちびちゃんがいるゆっくりは、黙って立っているだけでも体力の消費が激しく、
ぴょんぴょんによる移動には相当難儀していた。
怪我が浅くないまりさ、みょんも、はやくも傷口が開いてしまい、餡子を漏らしながらの移動となっている。
目的地に着く前に失餡死してしまうほどの傷ではないが・・・体を削りながらの移動に、
苦痛に耐えるのに慣れているはずのまりさ、みょんの表情も険しい。
ぱちゅりーも、休む事無い行軍に、何度かクリームを吐き出しそうになるも飲み込み、黙々と走り続ける。
(ゆう・・・みんなだいじょうぶかな)
なるべくみんなの負担を軽減しようと、自分はみんなの様子を確認し、辛そうな仲間がいれば声を掛けた。
ゆっくり一人でも脱落者は出させない、みんな揃って、新しい群れにたどり着くんだ。
だけど、問題はみんなの様子だけではない。
(にんげんさんにあったら、おしまいだよ・・・)
この時間帯は、人間さん、特に小さい人間さんが、大勢歩いている事が多く、普段だったら絶対に群れから出ない。
もし出会ってしまったら、素早く物陰に隠れなくてはいけない。
勿論、時間に関係なく出会う可能性のある、大きなすぃーや、ノラ猫さんに会った時だって同じである。
いつもは一人で行動していたから、隠れる際も迅速に行動できた。
だが今は、移動の不自由なゆっくりが大勢いるのだ。いつもよりも早く危険を察知し、素早く行動しなくては。
そうして移動しているうちに、曲がり角に差し掛かる。
「ゆ、みんないったんとまってね」
(((((コクリ)))))
みんなに止まってもらい、角の電信柱からそっと様子を伺う。
よ・・・し、誰もいない。
「ゆ、だいじょうぶだよ!いくよ!」
「「「「「ゆっくりりかいしたよ」」」」」
また走る。
人も車も動物にも、群れを出てから一度も会っていない。
みんな、苦しそうな顔をしながらも、一人も脱落することなく、走り続けている。
運が向いているのだろうか。このまま新しい群れまで走り切れるだろうか。
だが、目的地へたどり着く途中の、狩場にしている空き地の前に来たところで、その幸運は尽きた。
「ゆっ!」
突然脇道から、小さい人間さんが大勢飛び出してきた。
人間さんたちは、群れ最速のちぇんの何倍もの速さでこちらに向かって走ってくる。
間に合わない、見つかる。だが、黙っているわけにはいかない。
「みんな、はやくあきちにかくれるんだねーー!」
「はやくあきちのくさむらにかくれて!」
「ゆ、はやくぅ!」
みんな、空き地の草むらに入り込む。だが、目敏い人間さんたちは、こちらに気付いていた。
こうなっては仕方がないと、みょんは自慢の刀を咥えて身構えた。自分を含めたまりさも、水上移動用のオールを
帽子から取り出し、刀代わりに咥え、物陰から人間さんの方を睨んだ。
『わ、おい、ゆっくりの団体だぜー』
『あ、珍しー』
『ほっとけよ、遅刻するぞ。また殴られんのやだよー』
『そうだなー』
ばたばたと、小さい人間さんは走り去っていってしまった。
「・・・・・・」
「ゆ・・・・・・」
見逃されたらしい・・・
「ちぇん・・・」
「あ、あぶなかったんだねーー・・・」
「ゆうぅぅ・・・」
幸運は、完全に尽きていたわけではなかったようだ。
だが、問題は何も解決していない。今度こそ危なくなったら身を隠しつつ、新しい群れまで走らなくてはならない。
「むきゅ、まりさ。あたらしいゆっくりぷれいすまで、あとどれくらい?」
「ゆ・・・むれからここまでと、またおなじくらい、はしらないといけないよ・・・」
「じゃあ、ちゅうかんちてんなのね。みんな!がんばりましょう!」
「「「ゆ、ゆ、おーー!」」」
みんな、危険な目に遭ったばかりなのに、再び気力を振り絞り、立ち上がってくれた。
自分も、一人も脱落することなく、新しい群れにみんなを連れて行く目的を果たすため立ち上がる。
長たちも、もういい加減、群れを出発している頃だろう。
第二陣の方が、ゆっくりの数も多く荷物を持っているため、危険が大きいはずだ。
自分もへこたれているわけにはいかない。
「ゆ、じゃあまたしゅっぱつ・・・」
そう言い掛けて、思わず言葉を飲み込んだ。
これは・・・大きなすぃーの音だ!人間さんのすぃーが近付いている!
「みんなまたかくれて!すぃーがきたよ!」
みんな草むらに隠れる。まりさやみょんも、今度は武器を加えたりせずに、身を屈めた。
ぶろろおおおおおおおおおーーー
巨大なすぃーは、不気味な唸り声を上げつつ空き地に近付いてきて、
ぶろろおおおおぉぉぉぉぉ・・・
空き地の前を通り過ぎて、去っていった。
自分は頭を上げて、巨大なすぃーが通り過ぎた後の道路を見やる。他のみんなも、恐る恐る頭を上げた。
よかった・・・すぃーには気付かれなかった・・・。
すぐ傍にいたかいちぇんと目が合うと、思わず安堵の顔になった。
「よかった・・・こんどこそだいじょうぶだよ」
「そうだねーー、ちょうどあきちさんに・・・みゃっ、みゃ?!」
すると、突然かいちぇんが奇声を上げた。
かいちぇんの安堵の顔が、みるみる歪み、そして、
「み、みぎゅえーーー!」
激しく嘔吐した。苦しそうにチョコレートを吐き出し、咳き込む。
予想だにしなかった事態に、自分は驚き、介抱しようとお下げをかいちぇんの背中に回そうとした。
「かいちぇん、ゆっくりして!どうし・・・ゆ?!」
そのとき、自分も強烈な不快感のある匂いを嗅いだ。途端に気分が悪くなり、喉の奥から餡子がこみ上げる。
「ゆ、ゆぐーー!!ぐぐ!!」
何とか気分の悪さを飲み込み、吐き気を抑えた。
吐いて餡子を失うわけにはいかない。ただでさえこの緊急事態、無駄に体力を失うことは許されない。
しかし、この強烈な匂いは何だ?
そう思って何とか顔を上げた。すると、
「ゆげええええ・・・・」
「ゆうえええああああ・・・」
「む、ぎゅ・・・れ、れいむ、あんこさんをはいては、だめよ、のみこむのよ・・・」
「ゆ、ぐるしいんだぜ・・・」
みんな、かいちぇんや自分と同じように、気分を悪くしていた。
驚いて、みんなを介抱する。
「みんな、ゆっくりして、おちついて!」
「なんなのお・・・いまのは・・・」
一通り落ち着いて、全員を見渡した。多少餡子を失ったが、みんな再び行軍が出来そうだ。
特に、最も体力的にきつそうな老ぱちゅりーが、クリームを吐かずに耐え切っていた。
だが、さっきの匂いが、ここら一帯に充満しているとしたら・・・
「ゆ、だいじょうぶだとおもうみょん・・・さっきのにおい・・・」
「ゆ、れいむもきづいたよ・・・にんげんさんのすぃーから・・・においがしてたんだよ・・・」
「にんげんさんの・・・?」
言われてみれば、確かにそうだ。
人間さんのすぃーが通り過ぎ去った後、匂いが残された感じだ。
だったら、あの匂いはもう拡散してしまっているだろう。
だけど、あんな不快な匂いをばら撒くすぃーとは何なのだろう。
何か、ゆっくりできないことが、すぐ背後から迫ってきている感じがした。
「いこう、ゆっくりできないよ!」
「そうだぜ、にんげんさんをきにしてばかりいてはすすめないのぜ!またはしるのぜ!」
再び隊列を組み、空き地を飛び出して走り出した。
勿論、今まで以上に周囲に気を配りながらだ。
ここからまた、かなりの距離を走らなければならないが、もう曲がり角はない。
一直線に走り続け、目印となる自動販売機を目指す。
11.
それから、ひたすら走り続ける。
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!ゆっ!」
「ゆはっゆはっゆはっゆはっ」
「ゆううっ、ゆううっ」
途中で、大きい人間さんに出くわしたが、先ほどと違って、ゆっくり歩いており、身を隠す時間があった。
ここら一帯は、つい最近探索したばかりなので、何とか地形も覚えている。
行き止まりになっている脇道にみんなで隠れ、何とか人間さんをやり過ごした。
そして・・・遠くに、目印の自動販売機が見えてきた。
「みんな、あのじどうはんばいきさんだよ!」
「ゆう、あそこかなのぜ!!」
「あとちょっとなんだねーー」
「むきゅ、がんばりましょう、あとすこしよ」
走る。
今まではあんよへの負担を考慮しつつ走っていたが、目標が見えてきた以上、何も遠慮する必要はない。
あんよに激痛が走るが、かまわず酷使し続ける。
そんな強さで地面を蹴れば、あんよを傷つけかねないと分かっているが、それでも走る。
あと少し。
豆粒のように小さく見えた自動販売機は、見る見る間に大きく見えた。
飛び込むべき細道もはっきり見え始めた。
あと少し。
あと少し。
自動販売機のすぐ下までやってきた。細道の入り口が手招きしている。
周りに人間さんもすぃーもない。後ろにも、多分いないだろう。
いや、この細道に飛び込むところを、人間さんに見られてはいけない。
思い切って後ろを振り向く。
後ろには・・・ゆっくりのみんなが懸命に走る姿が目に入る。
だが、人間さんもすぃーも、ノラ猫さんもいなかった。
みんなも自分も、細道に走り込んだ。
人間さんが通れるほど広くはない細道は、まるでゆっくりを歓迎しているようだ。
そして、細道を抜けた。壁に囲まれた空き地が目前に広がる。
「や、やったよ、ついたよ!」
「むきゅぅーー、ここなのね!ここでだいじょうぶなのね!」
「よかったんだねーー、みんなぶじなんだねーー!!」
新しいゆっくりぷれいすで、みんなひっくり返った。
壁に囲まれた広間。虫さんのいる草地。お家となる捨てられたダンボールなど。
自分が先日見付けたままだった。
「よかった・・・よかったよぉーー!!」
「むきゅ、みんなそろっているわね?!」
「ええと・・・だいじょうぶだぜ、みんないるんだぜ!」
安全圏に入った事に安堵し、みんな喜びを分かち合った。
だが、まだ終わってはいない。
ここに来るまでの行軍で、みんな大きく消耗している。怪我をしていたゆっくりは傷が開いてしまったし、
妊娠ゆっくりのケアもしなければならない。
それに間もなく、長たち第二陣のゆっくりが来る。迎えに行くなどの軽率な行動は取れないが、
少なくとも受け入れ態勢は整えなくては。
「みんな、たいちょうは?けがとかは、だいじょうぶ?」
「みょんたちは・・・もうこれいじょう、うごきたくないみょん・・・」
「わるいけど、まりさもすこし、あんこがですぎたのぜ・・・」
「むきゅ・・・れいむが、たいりょくてきに、かなりまずいわ・・・」
「ゆう、ゆう、ゆ・・・」
怪我ゆっくりは、傷が治療前よりも悪化してしまい、これ以上の行動は危険な状態になった。
妊娠ゆっくりも、まだ食事をしていないに加え、過酷な行軍と胎児からの栄養の搾取によって、
栄養失調になっている。
みんな危機的状態に陥っているが、食糧もお薬も、全て第二陣が輸送しており、手元には全く無い。
「おさたちがくれば、ごはんさんもたべられるし、けがのてあてもできるんだねーー。
もうすこししたらつくはずだから、それまでのしんぼうなんだねー」
「ここには、むしさんもすこしはいるから、それをつかまえてくるよ!」
「むきゅ、ぱちぇたちはみんなを、やわらかいくささんのうえに、つれていくわ!」
まだ体力に余裕の有るぱちゅりー達が、怪我ゆっくりや妊娠ゆっくりを、草地にまで連れて行き、横に寝かせた。
ぺーろぺーろやすーりすーりでだが介抱し、何とか落ち着かせた。
自分とかいちぇんは、空き地内にいるバッタや芋虫を狩る。自分たちがここに来て騒いだせいか、
虫たちは逃げ始めているようだ。いずれここには虫は居なくなるだろう。
そうして少し時間が経った頃、
「ゆ?」
「にゃ?」
細道の向こうから、何やら声が聞こえてきた。
ゆっくりの声だ。
「おさだ!おさたちがきたんだよ!」
「よかったんだねーーはやくむかえにいくんだねーー」
ぱちゅりーや介抱されていたゆっくりも、ぱっと笑顔が戻る。
「むきゅ、まりさ、でむかえにいってあげて!」
「ゆっくりでむかえにいくよ!!」
口に咥えていたバッタを放り出し、出入り口の細道に向かった。かいちぇんも一緒に走ってくる。
よかった、長も、子ぱちゅりーも、みんな無事にたどり着いた。
一時はどうなるかと思っていた、今回の騒動も、これで解決する。
長たちを中に招き入れたら、すぐにあまあまを貰って、怪我しているみんなを助けよう。
おうちを作って、前よりも立派な、ゆっくりプレイスにする。
そうしたら、自分から改めて、子ぱちゅりーにぷろぽーずをするんだ。
細道の終わりが見える。
左右に高い壁さんがあり、人間さんでは通れない程の幅しかない細道は、ゆっくりプレイスを守る堅固な扉だ。
その扉にみんなの招きいれようと、細道の終端に辿り着いた時。
ぐしゃあ!!
生理的に受け付けられない不快な音と共に、餡子がぶちまけられた映像が目に映った。
「・・・・・・」
何が、起きたのか分からなかった。
その餡子は、うんうんでもなく、吐いた餡子でもなく、ゆっくりの、内臓だった。
ぐしゃあっという音が、その餡子はゆっくりの内臓だと、認識させた。
「・・・・・・」
視線が動く。
潰れたまりさがいる。
あのお飾りは・・・剣の扱いならみょんにも引けをとらないと言われた、群れ一番の剣使いの、まりさだ。
そのまりさが、うつ伏せにに倒れ、大きく裂けた横腹から餡子を撒き散らし。
そして背中に、何か巨大な棒のようなものが、乗せてあって。
「・・・・・・」
『おい!あんまり潰すな!生け捕りにするんだ!』
『あ、すいません!』
余りにゆっくりできない人間さんの声に、我に返る。
潰されたまりさの背中に乗っているのは、人間さんのあんよだ!
「ゆわあああああ、たすけてぇ!!」
「やめてええええぇぇ!!」
「やめるみょん!!みんなをはなすみょん!!」
『痛いな、突っつくな』
目的地を目の前にして、人間たちに襲われたんだ!
群れの仲間たちが、次々と潰されたり、掴まれて袋に放り込まれている!
驚きと怒りのあまり、叫び声を上げつつ、人間さんに飛び掛った。
「ゆわああああ!!やべ、むぐ?!」
だが、思いっきり地面を蹴って飛んだはずの自分の体は、再び地面に叩きつけられ、口も押さえられた。
目の前で惨劇が繰り広げられているのに、自分は身動きが取れない!
後ろにも人間が居たのか?!と思い激しくもがいて抵抗しようとしたが。
「みゃ、やめるんだねーー!」
自分を押さえつけたのは、かいちぇんだった。
やめて、みんなを助けないと。
そう言いたくて、かいちぇんを振りほどこうとするが、かいちぇんはがっしりと自分を抑えて離さない。
「まりさがでていってもかてないんだねーー!ここはこらえるしかないんだねーー!がまんしてねーー!!」
「むぐ、むぐーー」
そんなこといったって!
みんなを見捨てられるもんか!離して!
かいちぇんを睨み、ひたすら離すよう目で哀願していたが、突如、外の様子を見るかいちぇんの表情が凍りつく。
何だ、と思ってかいちぇんの視線の先を見ると、おぞましい光景が現れた。
長が、人間の手に掴まれ持ち上げられていた。
「むきょおおおぉぉぉ、やめてえぇぇ、みんなをはなしてぇぇ」
『くそ、暴れるなよ』
「むぎゅ、えれえれえれぇ・・・」
『うわ、汚え!!』
人間の手に掴まれたまま、長は大量のクリームを吐いた。人間は驚いて手を払う。
あっと言う間すらなかった。長の体は人間の手を離れ、地面に向かって。
べちゃああぁ
叩きつけられた。
「んーーー!!んーーーー!!」
「まりさ!こらえて・・・!」
長の下半身はあっけなく半壊し、道路をクリーム塗れにした。
断末魔も吐かれることなく、長は永遠にゆっくりした。
許さない、許さない、何で殺した!
今まで数多くのゆっくりを統率し、人間に迷惑を掛けずに群れのみんなが生きていくために腐心し続けた、
人間にとってもゆっくりしているゆっくりだったのに!
そのとき、
「むきゅあ!」
一匹のぱちゅりーが、弾かれたように細道の近くに投げ出された。
それは、自分にぷろぽーずをしてくれた、子ぱちゅりーだった。
『あ、逃げるな!』
「ゆひっ」
人間の怒声に恐れおののく子ぱちゅりーが、視線を逸らすために真正面を見て、
「!」
「んーーー!!」
自分と、子ぱちゅりーの、目が合った。
反射的にお下げを伸ばす。今必死に跳ねれば、子ぱちゅりーは細道に逃げ込める。
この細道は狭すぎて、人間は通れない。
子ぱちゅりーは助かる!
「んーーー!!」
必死にお下げを伸ばした。子ぱちゅりーを助けたくて、子ぱちゅりーに助かって欲しくて、お下げを伸ばした。
なのに。
「んーーー!!」
子ぱちゅりーは自分の姿を見て、涙を浮かべながら、にっこり笑い、まるでお辞儀をするようにうつむいた。
「んー!んーー!!」
何をしてる、早くこっちに来て!人間が子ぱちゅりーに駆け寄る。人間に捕まってしまう!
早く、早く、何故逃げないんだ!
「んーー!!!」
「まりさ!さがるんだねーー!!」
かいちぇんが、自分の体を思いっきり引っ張る。
ずりずりと、自分の体は、子ぱちゅりーから離されていく。
そして、
ぐにゃり
「んんーーーー!!!」
子ぱちゅりーの体は、人間の手に捕まれ、持ち上げられた。
口からクリームを吐き散らしながら、もはや視界の届かぬ上空に持ち上げられ、姿が見えなくなった。
子ぱちゅりーは、最早・・・助からない。
「んーんーー!!」
何故、何故何故何故何故!!どうしてどうしてどうしてどうして!!
「まりさ!ぱちゅりーは、ちぇんたちをまもるために、にげなかったんだねーー!」
「?!」
混乱する自分に、かいちぇんは話し続ける。
「ぱちゅりーが、このほそみちににげこんだら、このほそみちのおくにむれがあるって、
にんげんたちにばれてしまうんだねーー!」
「そうしたらにんげんたちは、このへいのうえをのりこえてでも、むれをしまつするために、やってくるんだねーー!」
「ぱちゅりーは、じぶんのいのちをぎせいにして、むれをすくったんだね!わかってねーー!」
「・・・」
ああ、なんで・・・
全身の餡子が、様々な感情で沸きあがり、雄たけびを上げる。
だが全身の餡子が、軽率な行動をとれば群れを滅ぼす、すなわち子ぱちゅりーの犠牲を無駄にする、
ということを理解させ、自分自身を押さえつける。
『これで全部ですね』
『そうだな、どこにも隠れて・・・ないな』
人間の声が聞こえる。
『こいつらが、あの空き地に住んでたゆっくりどもなのか・・・』
『恐らく。どうやってなのか、一斉駆除を事前に察知して、逃げたんでしょうね』
『リーダーはよっぽど頭良かったんでしょう』
『うん・・・じゃあこいつら、どこに行こうとしてたんだろうな』
「!」
「!!」
自分とかいちぇんが目を見合わせた。
まずい、この細道の奥に、空き地が有ることに気付くか?
『あ、主任。少し行ったところに・・・公園ありますよ!』
『ああ本当だ、あそこか。よし行くぞ!』
『『『はい!』』』
バタバタバタ、と足音が遠ざかる。
ああ、よかった・・・。
「みゃああ、たすかったんだね・・・まりさも、・・・」
人間は去っていった。よかった、よかった。
よかった、たすかった、群れは救われた。
「まり・・・?どう・・・たの?」
ゆふふ、ゆふふ・・・あれ、気が抜けたせいか、体に力が入らない。
かいちぇん、重いよ。もう人間はいなくなったんだから、どいてよ。
かいちぇん、前に立たないでよ・・・前が良く見えないよ・・・
「・・・りさ!・・・・・・!!」
かいちぇん、なんで、そんな、小さい、声で、しゃべるん・・・だ・・・
12.
ふと、目が覚めた。
見えるのは、空と太陽。仰向けになって寝ていたのか?
お日様の位置から察するに・・・夕方前だろうか。
のろのろと、起き上がる。何か、起き上がっただけで、体力の半分ぐらいを、使い切った、気分。
「・・・!・・・!」
何だろう、何か聞こえる。様な気がする。
「・・・?・・・!」
鬱陶しいな、そんな小さい声じゃ聞こえないよ。
それよりここは・・・?
よく前を見ると、ゆっくりのみんなが、ダンボール箱を組み立ててる。
そうか、そういえば、新しい空き地に、引っ越した、ような・・・
「・・・!・・・!」
がくがく。
突然体が、左右に揺れた。
なんだよ、地震が起きたの?
すると、顔を無理やり、右に向けられた。
すぐ間近に、群れで一番医療について詳しい、お医者さんぱちゅりーがいた。
なんだ、さっきから鬱陶しいのは、お医者さんぱちゅりーか。
「・・・。・・・?」
何か言ってる。
だから、聞こえないってば。
ああ、喋るのも面倒。喋りたくない。ほっといてよ。起きなきゃ良かった。
お医者さんぱちゅりーの、顔を見るのも面倒で、視線を正面に戻した。
「・・・!!・・・・・・・・!!」
また何か言ってる、と思ったら。ダンボール箱を組み立てていたゆっくりの一人が、こちらを振り向き、近付いてきた。
誰かと思ったら、かいちぇんだった。
「・・・!・・・・・・・・・!・・・?」
「・・・。・・・・・・・・。」
何か話してる。
話をするなら、かいちぇんと話してよ。
自分に話しかけないでよ。面倒くさい。
すると、ひょいと、目の前に何かを出された。
何かと思ったら、芋虫さんだった。
ああ、つまり、ご飯さんか。
「・・・・・・?・・・・・・。・・・・・・?」
「・・・!・・・・・・・・・!・・・?」
ああ、面倒。食べるの面倒。
要らないよ。ご飯さんなんか食べなくても、自分は・・・。
ふと、自分の、体を見る。
膨らみがなく、べっこり凹んでいる。あきらかに餡子が足りない状態だった。
あれ、何で、こんなにぐっすり眠ったのに、餡子さんが、足りないんだ。
そういえば、最後にご飯を食べたのいつだっけ・・・。
ん・・・。
ああ、面倒くさい、どうでもいい。
「・・・・・・。・・・・・・!・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」
しばらくすると、かいちぇんは、組み立て中の、ダンボール箱に、戻っていく。
かいちぇんも、大変だね。みんなのおうち作りか。
なんで、かいちぇんが?
そうか、みんなも、長も、永遠にゆっくりしちゃったからか。
長も・・・子ぱちゅりーも・・・
・・・
うん・・・ぐらぐら揺れる・・・
「・・・!・・・!!・・・!!!」
ゆっくり出来ない揺れに、思わず目が覚める。
というか、寝てたのか。
辺りは真っ暗。れみりゃやふらんの時間。そして目の前には、ゆっくりしていない顔の、かいちぇん。
「・・・・・・!!・・・・・・!!!」
相変わらず、何言っているのか分からない。
それに、体を揺らすのを、止めてくれないかな。
気持ち悪い。
いや、気持ち悪さは感じないけど、ゆっくりできない。
「・・・!!・・・・・・!!!」
かいちぇんの、すごい怒りの形相に、思わず顔を背けた。
何を怒っているんだろう。
かいちぇんの向こう側を見ると、立派なダンボールのおうちが二つ、できている。
みんな、そのおうちで、窮屈そうにしながら、心配そうにこちらを見ている。
そうか、おうち作りをサボっていたから、怒っているんだ。
じゃあ、自分は、あのおうちに住まないよ。それでいいじゃない。
「・・・・・・!!!・・・・・・!!!」
すると、かいちぇんは、怒りの形相をそのままに、目の前に芋虫さんを突き出してきた。
え・・・
ああ、ひょっとして、ご飯さんを食べなかったから、怒ってるのかな。
面倒くさい、かいちぇんが食べたらいいじゃん。
段々鬱陶しさが我慢できなくなって、かいちぇんを無視してうつむいた。
「・・・・・・!!・・・・・・!!」
すると今度は、自分の体が思いっきり、引っ張られた。
何だと思ってみると、かいちぇんが、自分をおうちの方に引っ張ろうとしていた。
「・・・・・・!!!・・・!!」
何故かかいちぇんの表情から怒りが消え、泣きながら自分の体を抱えている。
でも動かない。かいちぇんが動かせるほど、自分の体は小さくない。
それに、自分も体を動かしたくない。
ああ、鬱陶しい。放してよ。離れてよ。ゆっくり出来ないよ。
「・・・・・・・!!!!!」
突然、視界が横になり、地面がすごい勢いで近付いた。
・・・いや、自分は、倒れたのだ。
かいちぇんに、張り倒されたのかな。
ん?
突然、お腹の中に変な違和感を感じる。
よく分からない違和感は、お腹から、喉を通って、口にとどき、
「ゆげ!」
面倒くさくて喋りたくなかったのに、言葉が出た。
気が付くと、口の周りと目の前に、餡子が散らばっていた。
「・・・!・・・!」
どうしたんだろう、と思っていたら、今度はかいちぇんが、泣きながら自分を起こそうとしていた。
どうしたんだよ、かいちぇん。怒ったり、泣いたり、ゆっくりしてないよ。
すると、かいちぇんのすぐ後ろに、お医者さんぱちゅりーが歩き寄っていて、かいちぇんに何か話しかけていた。
ああ、面倒くさい・・・かいちぇんの相手は、みんなに任そう・・・。
また、目が覚めた。
辺りは明るい。朝だろうか。
「・・・ーーー!!」
なんだ、遠くから、何か聞こえる気がする。
真正面を見ると、また、ダンボールのおうち。
そこに、異様な光景を目にした。
妊娠していたれいむ達のお腹が、餡子塗れになっていた。
「・・・ちゃんが!!!おちびちゃんがあぁーーー!!!」
え、おちび・・・ちゃん・・・。
よくみると、餡子塗れになっているのはまむまむで、あんこには、出来損ないの目玉やお飾りが混じっていた。
見た事などあるはずも無いが、あれは、お腹の中で、育っている途中の、赤ゆっくりだ。
「むきゅ、れいむ、おちついて、おちついてきいてちょうだい!」
お医者さんぱちゅりーが、妊娠れいむ達を宥めながら話しかける。
「れいむににたおちびちゃんがあ!!まりさににたおちびちゃんがあ!!」
「ぱちゅりー、どうしてえ!!ごはんさんがたりなかったから!?」
「おちびちゃんは、おかあさんをまもるために、でてきちゃったのよ!」
「ゆ・・・?」
お母さんを守るために・・・?
「にゃ、ぱちゅりー。どういうことかおしえてねーー」
「おなかのおちびちゃんは、きづいたのよ。これいじょう、おかあさんからえいようをもらったら、
おかあさんがしんじゃうって」
「ゆ・・・」
「おちびちゃんは、じぶんたちがしねば、おかあさんはたすかると、ほんのうてきにわかったの。
だから、じぶんのいしで、でてきたの」
「そ、そんなああああああ!!!」
ご飯さんが、足りなくて、おちびちゃんは死んじゃったのか。
そういえば、長たちが人間に捕まっちゃったんだ。運んでいたご飯さんも、お薬も、無くなったのか。
「れいむは、れいむはああ!!れいむがしんじゃっても!!おちびちゃんをうみたかったのにぃぃ!!」
「ゆわああああああ!!!」
「れいむ、おちつくんだねーー!れいむがしんじゃったら、だれがおちびちゃんのおせわをするんだねーー?」
「むきゅ、そうよ。おちびちゃんは、じぶんをぎせいにしてでも、おかあさんをたすけたかったの。つらいだろうけど、
ゆっくりりかいしてね」
「・・・」
(ぱちゅりーは、じぶんのいのちをぎせいにして、むれをすくったんだねーー。わかってねーー)
「・・・あんなうまれてもいないおちびちゃんだって、おかあさんをまもるために、しんだ。
ぱちゅりーだって、むれをまもるために、しんだ。だったら、まりさだって・・・」
あんよに力をいれる。何だか体が、すごく軽い。
「でもお、でもおおおぉぉ!!!」
「ゆわああああ、ああ、ああ・・・」
「ああ・・・ゆ・・・ゆ・・・」
「れいむ?!れいむ!!しっかりするんだねーー!!」
「むきゅ、だいじょうぶよ。きぜつしただけだわ」
「だ、だけど。このままだと、れいむたちのいのちも、あぶないんだねーー・・・」
「やむをえないわ。かいちぇん。おちびちゃんを、れいむにたべさせて」
「お、おちびちゃんを・・・にゃ・・・しかたないねーー。でも、れいむたちがいしきをとりもどしたあと、
じぶんのおちびちゃんたちをたべたとしったら、じさつするかもしれないねーー」
「きぜつしているうちにたべさせましょう。あとで、おちびちゃんたちは、てあつくまいそうした、そういいましょう」
「にゃああ、わかったんだね・・・」
かいちぇんとお医者さんぱちゅりーは、死んだおちびちゃんを、れいむ達の口の中に押し込み、
れいむの口の周りを丹念に拭いた。
共食いと似たような行為だが、確かにやむを得まい。
それに、これでれいむ達は助かるだろう。
「ゆ・・・」
れいむ達の周りを見渡すと、苦痛に顔を歪ませたまま、寝ているみょんがいる。
昨日の行軍で、最も酷く傷が悪化したみょんだ。
一日では傷は治らず、まだ立ち上がることが出来ないのだろう。
第一この食糧不足の状態だ。自然治癒が遅すぎる。
・・・みると、自分の足元に、芋虫がある。昨日、自分が食べずに居たものだ。
「・・・みょん」
芋虫を咥えて、ぴょんぴょんと、寝ているみょんに近付く。
みょんの口に、芋虫を入れた。
「ゆゆ・・・むぐ・・・むーしゃむーしゃ・・・?」
みょんは横になったまま、芋虫をむーしゃむーしゃして、飲み込んだ。
「にゃ?まりさ!」
「まりさ!」
かいちぇんとお医者さんぱちゅりーが、自分に気付いたらしい。声を掛けられた。
だけど自分は無視し、横になっているみょんを見守った。
「みょ、みょん?・・・ま、りさ・・・?」
よかった、みょんは気付いたようだ。
喜んでいると、かいちぇんとお医者さんぱちゅりーが近付いてきて、なお大声で声を掛けてきた。
「ま、まりさ。まりさ!おきたんだねーー。うごけるんだねーー」
「まりさ!まさか、いまのいもむしさんは・・・あなたのぶんの、ごはんさんじゃないの?!」
「ん・・・そうだよ。まりさは、おなかすいてないし」
何をつまらない事を、というつもりで答えると、二人はまるで焦っている様に騒ぎ始めた。
「まりさ、きのうからなにもたべてないんだねーー!おなかすいてないはず、ないんだねーー!!」
「だいたいまりさ、いまのあなた、すぐにもたおれそうな、おかおしているわよ!」
「まっているんだねーー!ええと・・・そこのくさむらから、むしさんをとってくるんだねーー!」
かいちぇんは大慌てで、空き地の壁際に残っている草むらに駆け出した。
ばかばかしい。昨日群れがあんなに大騒ぎしているのに、虫さんなんて居る訳が無い。
すぐにも倒れそうなって、なんだよ。本当にお腹はすいてないし、体が軽くて、最高の気分だよ。
自分は、空き地の出入り口になっている、細道の方へ跳ねた。
「ま、まりさ!どこにいくの!」
「にゃっ?!まつんだねーー!」
「もう・・・そこにはむしさんなんて、いないよ」
また声を掛けられ、仕方なく足を止め、言った。
「にゃ・・・?」
「とっくにむしさんは、にげちゃってるよ。ごはんさんがほしかったら、そとにでてかりをするしかないよ。
いつものかりばにいって、むしさんをとってくるよ」
そういうと、今度こそ、地面を強く蹴って細道を抜けていった。
「にゃっ!まつんだねーー!まって・・・」
かいちぇんの声が後ろに響いたが、すぐに聞こえなくなる。
かけっこで追いつく事も出来ないくせに。まずはかいちぇん自身の心配をするべきじゃないだろうか。
細道を抜ける。
昨日の惨劇の場を思い出した。
「・・・」
仲間達の死体は無い。
綺麗さっぱり洗いおとされ、死臭さえ残っていない。
左右を見た、人間はいないことを確認し、狩場に向けて、走りだした。
13.
ぴょん、ぴょん。
無心に跳ね続けると、確かに体に違和感があった。
一回蹴るたびに、体の中の餡子が減って、体が軽くなるような・・・
いや、どうでもいい。体が軽くなるのなら、早く走れていいじゃないか。
角を曲がる。
すると、
「ゆ・・・」
人間が居た。大きい人間だ。
どうしよう。隠れてやりすごすか・・・
「ゆ、べつにいいよ。もう、めんどうだよ・・・」
いいや、面倒だ。人間に捕まって殺されれば、群れも食い扶持が減って、助かるだろう。
そう思い、ごく自然に、人間に向かって跳ねた。
『お・・・』
人間に見られたのを感じた。だが完全に無視し、普通に人間のすぐ隣をすれ違った。
ぴょん、ぴょん。
人間は、何もしてこなかった。
「ふうん・・・」
そのあと、二人ほど人間とすれ違った。
近寄りたくないと言わんばかりに、大きく避けた人間も居たが、むしろ自分に道を開けたかのようで、可笑しかった。
結局、自分は何もされなかった。
「・・・いがいと、なにもされないものだね・・・」
そんなことを考えつつ、走り続けた。
そして、狩場にたどり着いた。
「ゆ・・・ゆ・・・?どういうこと・・・」
狩場の空き地を見て、愕然とした。
荒らされている。
草地は踏み荒らされ、はっきり足跡が残っている。
「にんげん・・・くそにんげんたちだ・・・!」
きっと糞人間達が、この空き地にもゆっくりがいないか調べたんだろう。
考えてみれば、こんな目立つ場所にある空き地を、糞人間達が怪しまないはずが無い。
慌てて空き地の中を探ったが、虫さんは一匹も見つからない。糞人間に荒らされ逃げたんだ。
「ゆ、ゆゆ・・・。ほかの、ほかのかりばは?」
大急ぎで、別の狩場に走った。
無事であってくれ、そう願いながら辿り着いた第二の狩場は、
「ここも・・・・」
やはり同じように荒らされている。
ここでも虫は狩れなかった。
「ゆゆ、だったら・・・」
距離的に遠かったので、殆ど行った事の無い第三の狩場に走った。
「ああ・・・」
ここも、糞人間の手で、荒らされていた。
かろうじて、蝶々さんが一匹だけ狩る事が出来たが、狩りの成果としては少なすぎる。
「ゆゆう・・・ごはんさんが、ごはんさんが・・・どうすれば、どうすれば・・・」
もう昼過ぎである。群れのみんなも、自分の狩りの成果を当てにしているかも。
だが、狩場がこの様子では、ご飯さんは手に入らない。明日からはどうすればいいんだ。
「ゆ、ゆぐぐぐぐ・・・・そういえば、いままですんでいたあきちは・・・」
今まで、一昨日まで住んでいた場所に、何か残されていないだろうか。
長も、全ての食糧やあまあまを、持ち出せたわけじゃないだろう。
それを持って帰れば、みんなは、群れは救われる!
「ゆっ、ゆっ、ゆっ!」
体はより軽く、跳ねる事を容易にしてくれるような気がしたが、何故か、あんよに力が入りずらくなってきた。
でも、そんな事は構わず、あんよの皮が破けるのを覚悟で、地面を蹴った。
ゆっくりなんか、していられない。一刻も早く、群れの前の住んでいた場所へ!
そうして走っている最中に、
「ゆうっ、ゆうっ、ゆ?」
立派な門がある、糞人間のおうちの前を通りかかった。
ピカピカに門は磨き上げられており、お日様も照っていたので、門に自分の姿が映った。
「ゆ、ゆ・・・?!」
自分の姿を見て、思わず声を上げる。
その、あまりにゆっくりしていない姿に。
「これ・・・が・・・これが・・・まりさ・・・?」
まるで餓死したゆっくりが、ゾンビのように立っているようだ。
どうみても、生きるには中身の餡子が足りてないように見える。これは、ゆっくりの標本か?
違う、何言っているんだ。これは自分だ。自分は、生きている。
だけど、中身は減りすぎてて皮は凹み、その皮も、目玉も、水気を失ってかさかさだ。
おまけに、お飾りのお帽子も、髪も、泥だらけ。
「なんで、いつのまに・・・ゆゆ?!」
途端に、体がぐらりと倒れそうになった。
あんよだけでは力が足りず、お下げもつかって、体を支えなくてはならなかった。
さらに、周りから視界がじわじわとせばまる。
まるで眼球が、物を視認する能力を放棄すると言わんばかりに。上下左右から暗闇がにじり寄ってくる!
「ゆゆ、ゆゆ、ゆわあああーー!!」
叫び声を上げながら、死ぬ気で力を振り絞り、走り出した。
何か今、気付いてはいけないものを、気付きそうになった。
だが知らない。今の自分には関係ない。
ほら、目は見える。体は動く。こんなに早く走れるじゃないか!
早く、早くみんなに、ご飯とあまあまを、沢山持って帰るんだ!
あんな糞人間なんかに、負けてたまるか。
「ゆう!ゆう!ここ、だよ・・・!」
着いた。
群れが一昨日まで住んでいた空き地に。
今となっては門番もいない空き地の中に駆け込んでいく。ひょっとしたら糞人間がいるかもしれない、
そんな危険も頭をもたげたが、止まれなかった。
「・・・ゆ・・・」
そして、空き地には、なんにも、なかった。
ぴょん・・・ぴょん・・・
群れのみんなが集まって住んでいた、ダンボール箱のおうちの列は、綺麗に片付けられていた。
いや、まるで、元からここに群れなど無かったかのようだ。
ぴょん・・・ぴょん・・・
それに、長の住処だったひときわ大きいおうちも、ご飯やあまあまを蓄えていた食料庫も、
なにも残っておらず、虫一匹残されていなかった
もちろん、自分のおうちが有ったところも。