ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko2010 足りないらんと足りすぎるちぇん(後編)
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「むきゅ! みんな、今日から群れに新しい仲間が加わることになったわ!」
次の日の朝、群れのゆっくりたちを広場に集合させてぱちゅりーはまず前提情報から提示することから始めた。
「昨日、かきさんの木の下のれいむの帰りが遅かったわよね? あれはあんよを怪我して干からびて死にかけてからだそうよ。でも通りすがりのゆっくりがれいむを助けてくれたのよ! それも、自分のおぼうしを何度も川さんに浸して、それでお水さんをれいむに運んだそうよ」
どよどよとゆっくりたちの間で私語が交わされた。なぜおぼうしで水を運べたか理解できないゆっくりが半数以上。それを理解して恐怖におののいたゆっくりや、その英雄的行動を理解できないゆっくりに教えようとするもの、とかいはじゃないわで切り捨てるありす、ちーんぽ、etc...
「そのれいむの命の恩ゆんが群れの仲間になるゆっくりよ。むきゅ、そうね? れいむ」
「そうだよ! ちぇんとらんはちょっと変わっているけどとても優しくてゆっくりしたゆっくりだよ! みんな仲良くしてあげてね!」
長ぱちゅりーにあらかじめ呼ばれていたれいむは元気良く答えた。
と、今まで私語を交し合っていたゆっくりのうち、猫耳頭が活発に動き出す。ぱちゅりーが次の言葉を口にしようとしたのを遮って、群れのちぇんたちは大声を上げた。
「らんしゃまあああ! らんしゃまがいるの!?」
「らんしゃまだって!」
「らんしゃまが群れの仲間になるなら、ちぇんたちはだいっかんっげいだよ!」
「らんしゃまあああああああ!!」
突然のらんしゃまコールが落ち着くまで結構な時間がかかった。ぱちゅりーは改めてこほんと咳払いする。
「でもそのちぇんとらんは生まれつき尻尾の数が他のゆっくりと違うのよ! ちぇんはちょっと多くて、らんはちょっと少ないけど、とてもゆっくりしたゆっくりであることに変わりないわ! さあ、ちぇん、らん、出てきてみんなにご挨拶なさい」
「ゆっくりしていってね!」
「ちぇぇぇぇぇん!!」
木陰に隠れていた姉ちぇんと妹らんは飛び出し、ぱちゅりーが席をゆずった切り株の上に飛び乗って、群れのゆっくりたちに精一杯の挨拶をした。
その時、姉ちぇんのチョコレートを凍りつかせるほど未曾有の恐怖が襲い掛かってきた。
これほど多くのゆっくりに、この身を晒したことは未だかつて一度たりとてなかった。
これほど多くのゆっくりに、この尻尾を注視されたことは未だかつて一度たりとてなかった。
これほど多くのちぇんに、妹のらんをお披露目することは未だかつて一度たりとてなかった。
だが、これも群れの仲間に入るためだ。妹と一緒に幸せになるためだ。今すぐ逃げ出したくなるあんよをぐっと抑え、姉ちぇんは群れの反応を待った。
「ゆ――」
「ゆっくりできないいいいいいいぃぃぃいいぃぃいい!!!」
「らんしゃまあああああああああああああああああ!!」
集団パニックが、二重に起こった。
長のぱちゅりーも、姉ちぇんも、姿を見せる前にちぇんとらんの身体的特徴を伝えたならばきっと受け入れてくれる、そうでなくとも混乱は事前に防げると考えていた。だが私語に夢中で長の言葉をきちんと聞いていなかったゆっくりが過半数を占めた群れのゆっくりたちはちぇんたちを見て、我先にと逃げ出し一部のみょん種は髪に挿した枝を引き抜いて臨戦態勢に入り、そしてゆっくりの流れに逆らって突進する一部のゆっくりがいた。
これこそが二つ目の集団パニック群である、らんに見惚れて我先にすーりすりしようと突撃してくるちぇん種たちだ。
姉ちぇんは梅雨の出来事を思い出し、妹らんをその身を盾にして庇った。今まで見たこともない数のちぇんたちにあんよも尻尾も震えていたが、妹を守るためと思えば震えは収まった。
「ゆっくりできないキモい尻尾のちぇんは、はやくどけええええ!!」
「わかるよーーー! あのちぇんはらんしゃまをひとりじめする気なんだよ!」
「らんしゃまはみんなのものだよー!」
「ゆっくりできないちぇんはー!!」
十何匹というちぇんたちは一斉にに姉ちぇんへと飛び掛り、殺意を剥き出しに宣言した。
「「「「「「「「「ゆっくりしね!!!」」」」」」」」」」
姉ちぇんは妹らんを頭に載せて一目散に逃げ出した。
「ちぇんたち、やめなさ――むきゃ!」
長ぱちゅりーの制止も全く見えず、ちぇんたちは姉ちぇんとらんを追った。地面に伸びた長ぱちゅりーはえれえれとクリームを吐き、れいむや番のまりさが泣きながら安否を気遣う。
もはやこの場にちぇんたちを止められるゆっくりはいなかった。姉ちぇんは歯を食いしばりながら、全速力で逃げ続けている。
「尻尾がキモいちぇんがらんしゃまをさらうよ!」
「らんしゃま、今助けるからね!」
「ちぇええええええええええええええん!!」
頭上で妹らんが泣いていた。ゆっくりできない状況に怯えて出た涙だったのだが、何を勘違いしたのかさらに追っ手のちぇんたちは増長したように姉ちぇんへと罵詈雑言を浴びせかける。
「あのキモいちぇんがきっとらんしゃまの尻尾を食べちゃったんだ!」
「わかるよー! 尻尾はきっとらんしゃまから取ったんだねー!」
「キモい尻尾を一本ずつちぎられてゆっくりしんでねー!」
「キモいちぇんは生きている価値なんてないよ!」
「しね!」
「はやくしね!」
「ゆっくりしね!」
「しね!」「しね!」「しね!」「しね!」
(わからないよ! わからないよ! ちぇんの尻尾の数が多いことがそんなにゆっくりできないことなの? 悪いことなの? ちぇんの尻尾が多いかららんしゃまはゆっくりできないの? ちぇんがこんな体で産まれてきたかららんしゃまも……?)
姉ちぇんの瞳からも涙がぼろぼろと零れた。今まで自分がらんを守り、育ててきたと思っていた。しかしそもそも自分がこの世に産まれなければ、みんなゆっくりしあわせーに暮らせたのではないか。父も、母も、雨宿り先で殺してしまった家主ちぇんも、長ぱちゅりーも、あの群れのみんなも……。
今までの過酷な生活の中で築き上げてきたゆん生観とアイデンティティが音を立ててがらがらと崩れ去るのを、姉ちぇんは確かに感じた。
(そうだよ! わかったよ! ちぇんはなんでこんな簡単なことも今まで思いつかっなかったの? 馬鹿なの? 死ぬの?
尻尾が多くてゆっくりできないっていうんなら、ちぇんは尻尾を七本ちぎっちゃえば良かったんだよ。そうすればこんなことにはならなかったよ。
それを思いつかなかったのは、ちぇんが自分が痛くてゆっくりできないことを考えたくなかったからだよ! ちぇんはわかったよ! ちぇんはゆっくりをゆっくりさせなくする、さいっていのゲスで劣等種でクズのどうしようもないゆっくり以前の糞袋だよ!!)
後ろから浴びせかけられるちぇんたちの非難中傷と姉ちぇんが今まで積み上げてきた劣等感が交じり合い、自虐の念がぐるぐるとチョコレートクリームにマーブルされていった。
そして、背中に透明の弾丸でも喰らったかのように突然姉ちぇんは口からチョコレートを吹き出した。
「ゆべへぇっ!?」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
姉ちぇんは倒れた。必死に走っていた勢いが余って地面に茶褐色の跡がべったりと残り、妹らんははるか彼方へと吹っ飛んで行った。
その場にいるゆっくりの誰もが姉ちぇんが起こした突然の吐餡原因を知りえなかった。非ゆっくり症という極度のストレス状態に置かれたゆっくりが起こす発作であるが、それが今最悪のタイミングで起きたのだ。
追ってきたちぇんたちはここぞとばかりに姉ちぇんへと次々に飛び乗り、攻撃を加え始める。
「しね! ゆっくりできないちぇんはゆっくりしね!」
「ゲスのちぇんはしね!」
「クズのちぇんはしね!」
「し――」
姉ちぇんの意識は途絶えた。十数匹ものちぇんたちに何度も何度も体を潰され、中枢餡が衝撃に耐え切れず、遂に砕けたのだ。
非ゆっくり症の真っ只中にあった姉ちぇんには最早思考を紡ぐ力はなかった。ただ最期まで自分を否定する言葉を聞きながら、死んでいった。
「……ゆ?」
姉ちぇんは目覚めた。記憶がひどく混乱しており、一体自分に何が起きていたのか覚えていない。ただ、とてつもなくゆっくりできない感覚が残っているが……。
「らんしゃまああああああああああああああああああああ!!!」
かけがえのない、命より大切なものの名前を聞いても姉ちぇんはしばらくその言葉の意味を把握しきれなかった。
「――は! らんしゃま!?」
だが、姉ちぇんはスイッチが入ったかのようにはっきりと意識を取り戻した。そうだ、らんしゃまを連れて逃げていたはずだ。それから、それから何が起こったか、覚えていない。
しかし、しかし――
「らんしゃまはど……」
顔を地面から上げ、姉ちぇんの全てと言っても足りない妹らんの姿を探そうとして、そしてすぐ見つかった。
頭から茎を茂らせていた。
黒ずんでいた。
まむまむもあにゃるもおくちですらもちぇんたちのぺにぺにに貫かれ、精子餡を浴びていない所はどこにもなく、おぼうしまで残さずチョコレート漬けになっていた。
完全に我を失ったちぇんたちが、とっくの昔に永遠にゆっくりしてしまったであろう妹らんを、りんっかんし続けていた。
何があっても「ちぇん」としか言えない、「ゆっくりしていってね」とすら言えない妹らんはちぇんを際限なく興奮させる。加えて尻尾も頭も通常のらんより足りない妹らんは本来ちぇん種がらん種へと抱く尊敬や崇拝の念を起こさせられなかった。いわば侮られ、下に見られた。よって、妹らんに寄せられるちぇん種の好意は本来のものより少しだけ俗っぽく、下劣なものになってしまった。
その結果が、これだった。
妹らんは身をよじりちぇんたちに噛み付き全身で拒絶の意思を伝えたのだが、れいぱーと化したちぇんたちにはなんの意味も無かった。
そんな経緯を姉ちぇんは知らなかったし、知ろうともしないし、知りたくもないだろう。
姉ちぇんの体のどこからか「ぶちっ」という音が確かに聞こえた。
跳ねた姉ちぇんの後に、一本の尻尾が残されていた。
「らんしゃまあああああああああああああああ……あ? あ゛にゃ!? あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」
干からび罅の入ったらんの口にぺにぺにを突き立て、思うがままにかくかくしまくっていたちぇんが吐く欲情の声が、苦悶の絶叫と化した。
だがそのちぇんは断末魔すら上げられなくなった。かわりに背中から突き込まれ貫通した尻尾の束が口から飛び出た。
「らんしゃまあああああああああ!! しゅっきりいいいいぃぃぃぃぃぃぃ(びしゃ)」
尻尾の突きの勢いで傷口から噴き出たチョコが、後ろからまむまむを犯していたちぇんの顔面にかかった。
そのちぇんの頭の中はらんとのすっきりでいっぱいだった。しかしそれを茶褐色の液体とカカオの香りが突然邪魔した。
人間に置き換えるならそれは赤黒い液体と金臭い感覚が鼻の穴に直接突っ込まれたようなものだった。
「あ゛にゃああああああああ! わからないいいぃぃぃい! ゆっくりできないよおおおおお!! らんしゃまああああ!!」
黒ずんで死後硬直が始まったまむまむにぎんぎんに勃起したぺにぺにを挿入していたものだから、そのちぇんは逃げたくても逃げられなかった。全身をよじり、顔面をぶんぶんと振ってなんとか返りチョコを振り払おうとする。
それによって周囲でりんっかんに参加していた他のちぇんにも返りチョコが浴びせられ、至福のすっきりタイムが死臭漂う地獄の時間に変わったことを告げた。
ところで、背中から口まで貫通する一撃を加えられたちぇんは中枢餡を抉り出され、抜き取られていた。その中枢餡を掴んだままの尻尾はちぇんの死体の中でバネのようにたわみ、前方へ向けてパチンコ玉のように撃ち出す。
「ゆぎゃっ!!」
返りチョコをもろに浴びたちぇんの右の眼窩に中枢餡は直撃し、目玉ごとチョコクリーム内に埋め込まれた。
「ゆ、ゆぴぃっ、ぎにゃっ、ぎちゃ、りゃ、りゃにゅ、みゃゆっぺっぴゃ?」
二匹のゆん格を強制的に混ぜられたちぇんは残った目玉をぐるぐると回し、涎を吐きながら意味の無い言葉を壊れたテープレコーダーのように断続的に漏らす。
「ゆにゃああああああああ! もうやだよーーーーー! わからないよおおおお! おうちかえるよおおおおお!!」
「ちぇんはしにたくないよ! ゆっくりしないではやくにげるよ!!」
「たすけてらんしゃまあああああ!!」
その様を真横に見ていたりんっかん参加者のちぇんたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
赤らんと、それを前後に貫く二匹のちぇんの死体。その場に生きているのは返りチョコを全身に浴びて、殺意に目を爛々と輝かせた姉ちぇんだけだった。
姉ちぇんはすっ、と一本の尻尾を地面におろし、適当な小石を掴んだ。
投げた。
「ゆにゃ!?」
逃げ出したちぇんたちを跳ねることすらせず、ずりずり移動で姉ちぇんは追う。しかし八本の尻尾はそれぞれ全てが別の生き物のように絶え間なく地面をまさぐっては小石を掴み、四方八方へと投げつけるのだ。
ちぇんたちの悲鳴があちこちから聞こえてきた。時には捕食種すら退け、二匹の赤ゆが成体ゆっくりになるほど大量の獲物を恵んでくれた投石による狩りの技術は、今全く別の目的のために使われている。
「たしゅけ……たしゅけて、らんしゃまああああああああああ!!」
的確にあんよを射抜かれて動けなくなったちぇんは叫んだ。ちぇん種にとってらん種は崇拝に値する対象。信心する者が死を間際にした時、南無阿弥陀仏を唱えマイガと叫び、手を合わせ神に祈る。それを誰が止められるか。
後光のように燦然と輝く九尾を背負ったらんが助けに来ることを願って叫び続けたそのちぇんは、頭から姉ちぇんに押し潰された。
「らんしゃまはいないよ?」
どこからか調達してきたらしい小枝を咥えた姉ちぇんは、おぼうしごとちぇんの頭を突き刺し始める。
「やめて! やめてね! いますぐでいいよ! ゆにゃあああああああ! ちぇんのふわふわでかじゅあるななちゅらるぐりーんのすてきにむてきなおぼうししゃ――」
中枢餡を突かれたのか、ちぇんの言葉は突然途切れて死んだ。
姉ちぇんは次の獲物を求めて跳ねた。
ちぇんの断末魔が絶え間なく山林に響き渡った。今や逃げ出したちぇんたちは全てあんよを射抜かれ、身動きもままならない。自分が殺される番が来るまで目を閉じ耳を寝かせて待つことだけが、ちぇんたちに残された最後の抵抗だった。
「らんしゃま……助けて……らんしゃま、おねがいだよ助けて……。ちぇんはいままで何もわるいことなんかしてこなかったよ。おなかを空かせたおちびちゃんがいるしんぐるまざーのれいむにごはんさんをわけてあげたよ! まりさとたくさん狩りをして群れのみんながえっとうできるようにごはんさんをいっぱい集めたよ! なかまはずれにされているありすといっしょにあそんであげたよ! ぱちゅりーがぜんそくのほっさをおこしたら、せなかをすーりすりしてあげたよ! それから、それから……」
自分の今までゆっくりしたゆん生を振り返ったそのちぇんは、天を見上げて叫んだ。こんなにゆっくりした美ちぇんの自分が、あんなキモい尻尾のちぇんに永遠にゆっくりさせられるはずがない。いや、そんなことはあってはならない。
「わかるよーーーーー! ちぇんはとってもゆっくりしたゆっくりなんだねぇぇぇぇぇ!! らんしゃまはゆっくりしないで助けてねええええええ!!」
「らんしゃま……」
越冬時にも覚えなかったほどに冷たい声が、ちぇんの真正面から聞こえてきた。
「らんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃま……」
ゆらゆらと、夕日に照らされて八本の尻尾が陽炎のように揺らいでいた。
逆光になった姉ちぇんの表情は、そのちぇんには見えなかった。だが未だかつて感じたことがない、れみりゃやふらんですらまだこれに比べたらおちびちゃんのように可愛いとすら思えるほど禍々しい、溶岩のように凝った憎悪だけは感じて取れた。
「ちぇんはそれしか言えないの? それしか考えてないの? 都合良くらんしゃまが助けてくれると思っているの?」
遂に眼前へと迫ってきた姉ちぇんの表皮はチョコレートでパリパリに乾いていた。口を動かすたび、ずりずりと動くたびにどこからかチョコレートの欠片がぱらぱらと落ちる。
「『わかるよー』もよく言うよね? でもそれ本当にわかってて言ってるの? テキトーに相槌打っていたら仲間外れにされないから言ってるんじゃないの?
『わからないよー』も言うよね? でもなんで次に出てくるのが『らんしゃまあああ』なの? 馬鹿なの? 死ぬの? わからないことは自分でなんとかするものだよ。誰も助けちゃくれないよ?」
「キモくてゆっくりできなくて頭のおかしいちぇんがわからないこと言ってくるよおおおおお!! 助けてよ! なんで助けに来てくれないの!? らんしゃま! らんしゃま! らんしゃまああああああああああ!!!」
どすっ、と大口を上げて叫ぶちぇんの舌に枝が突き刺さった。
「殺す!」
姉ちぇんは耳ごとちぇんにかぶりつき、皮を食いちぎった。
ゆっくりは『殺す』や『殺せ』などという言葉は滅多に使わない。同族殺しをしたものを「ゆっくり殺し」と呼ぶことはあっても、能動的な意味で使う時は「ゆっくりしね」やせいぜい「永遠にゆっくりさせてやる」などだ。
それは、基本的にゆっくりしたいがために生きているゆっくりは、他者の命を奪うというストレスを真正面から受け止めたくないからだという説がある。「しね」も「ずっとゆっくりさせてやる」も全ては結果的にそうなってしまっただけであり、自分は直接手を下していない、という考え方だ。
だが、姉ちぇんは明確に言った。
「ちぇんは殺す!」
ずたずたに表皮は噛み切られ、皮の張力を失ったチョコクリームはとめどなく溢れる。
「全て殺す!!」
既に絶命してしまったちぇんの中枢餡をとどめとばかりに噛み砕き、体の外からも内からもチョコレートを出しながら姉ちぇんは赫怒の咆哮を上げた。
空には月が昇ろうとしていた。その仄かな黄金色は、どこからんの尻尾の色に似ていた。
山は紅葉に燃えていた。
「わかるよおおおお!! ちぇんはこれからしあわせになるんだねええええ!! おかあさんにもおとうさんにも、いっぱいいっぱいおせわになったんだよおおおお! ありがとうねえええええ!!」
咽び泣きながら別れを告げた最後の我が子を涙ながらに見送った母らんはすっかり広くなったおうちで、父ちぇんと頬をすり合わせた。
「これで……ちぇんとらんしゃまのおちびちゃんはみんなひとり立ちしたんだねー、わかるよー」
「そうだな……」
らんは目を閉じ、この春の終わり頃に産まれた三匹の我が子の思い出をゆっくりと反芻した。
おませな長女ちぇんは一番早く夏に見つけたとかいはなありすと番になった。先日生まれたばかりのゆっくりしたおちびちゃんを母らんと父ちぇんによく見せに来る。
おっとりした次女ちぇんはつい先ほどお嫁に行った子だ。隣群れで最強のゆっくりと名高いみょんと番になったのだ。さぞゆっくりした暮らしを送ることだろう。
末っ子の三女ちぇんは夏の終わり頃旅に出た。母らんも父ちぇんも必死に止めたのだが、ある朝目覚めると次女ちぇんにだけ「おかあさんによくにたらんしゃまをおよめさんにして、いつかきっと帰ってくるから」とだけ言い残して去って後だった。あの子は今頃どこかで素敵ならんとゆっくりすることができているだろうか……。
残念ながら、この番の間には母らんそっくりの子は生まれなかった。母らん自身の姉妹にも同じらん種はいない。元々産まれてくる確率が低いからこそ人間には希少種と呼ばれ、ちぇんには憧れの的となるのだろう。
「さいしょにうまれたおちびちゃんがゆっくりしていないゆっくりだったときはわからないことだらけだったけど、ちぇんにそっくりなゆっくりしたおちびちゃんたちをちゃんとうみなおしてくれて、らんしゃまありがとーね」
「あれのことは口にするな」
「ゆ゛!? ご、ごめんなしゃいらんしゃま……」
この番は思い出すだけで餡子を吐きそうなほど醜悪な子供が最初の子供だったという苦い記憶がある。産まれた直後に追い出したのですぐ死んだだろうが、未だに実の親をゆっくりさせなくするとはどれだけ親不孝な奴らだろう。
二匹はしばらく子供たちのことを語らっていたが、やがて母らんは身支度を整えて出かける準備を終えた。
「それじゃあちぇん、私が出かけている間、しっかり狩りを頼むぞ」
「わかったよらんしゃま! いってらっしゃーい!」
母らんは赤や黄に染まった落ち葉が絨毯のように敷き詰められた地面を跳ね、山上の方にある隣の群れまで向かった。
積極的に長距離を移動しないゆっくりでも越冬準備に忙しいこの季節は、盛んに他の群れとコミュニケーションを取る。狩り場の関係で不足しがちな種類の食糧を交換し合ったり、器用なゆっくりを貸しておうちを越冬用に作り変えるなど、みんなが協力して生き残ろうと努力するのである。
去年母らんが自分の群れでたくさんのおうちにしてやった越冬用の模様変えは好評で、今年は他の群れからお呼びがかかったのである。おかげで母らんは毎日忙しかったが、報酬として貰えるたくさんの食料は自分たちだけでなく群れ全体を生き延びらせる力となると思えば苦では無かった。
「ありがとうねらん!」
「とってもとかいはこーでぃねーとだわ、さすがねらん!」
「わかるよー! らんしゃまはやっぱりすごいんだねー!!」
その日もたくさんの賞賛とそれ以上にたくらん貰った食糧を載せたすぃーを引っ張り、母らんは家路につこうとした。
「あそこの群れもやられたんだって……」
「ゆっくりしてないよぉ……こわいよぉ……この群れにも来たらどうしよう……」
何やら不穏な会話をしている集団がいた。気になった母らんは「ゆっくりしていってね!」と会話に参加する。
「どうしたの? 人間さんでも出たのか?」
「あ、らん。ちがうよ。出たのはね……ちぇんだよ」
「ちぇんなららんのだーりんだが……」
「そうじゃないよ! そのちぇんは、殺ゆんなんだよ! それもちぇんしかずっとゆっくりさせないんだよ!」
もっとも情報通であるれいむが言うその話は常軌を逸していた。
まずそのちぇんの特徴だが、ぱちゅりーなら姿形が見えずとも近くに寄ってきただけでえれえれを催させるほどの、咽せ返るようなちぇんの死臭を帯びているらしい。そして肌の色は完全にチョコレート色に染まっており、尻尾は数え切れないほどあるとも、また三本だけだともいう。
殺ゆんちぇんはちぇんしか殺さない。邪魔をする他種を傷つけることもあるが、殺しまではしない。だがちぇんは例外なく、群れの中に一匹たりとも残さず、子ちぇんであろうが赤ちぇんであろうが、それどころか茎から実らせたまだ生まれてもいないちぇんですら殺す。その有様は徹底的で、中には噂を聞いただけでビビったある群れなどはとばっちりを受けるのはごめんだとばかりに群れの中のちぇんを全て追い払ってしまったり、ひっそりと家族に何も言わず消えるちぇん、ゆっくりできないストレスで死んでしまったちぇんすらもいるという話だ。
「わからないな。ちぇんだけ永遠にゆっくりさせるというのなら、みょんやまりさなんかが必ず反撃に出るはずだ」
「そうだよ。けどその殺ゆんちぇんは、死んでも死んでも……いきかえってくるんだよ!!」
ひぃぃっ、と話を聞いていた他のゆっくりは怯えた。
群れのちぇんを殺し尽くし、無防備なった殺ゆんちぇんは確かに何度か殺されたらしい。だがその死体は翌日になると一本の尻尾だけ残して消える。
殺ゆんちぇんはちぇんの命を吸い取り、別の意味で『永遠にゆっくりする』ゆっくりなのだという。おそらく、この世のちぇんを全て刈り尽くすその日まで……。
「よくわかったよ、ありがとう。それじゃ」
母らんはすぃーをがらがら引いて山を下った。その足はいつもよりやや速い。
(ただの噂話に決まっている……だが、ちぇんを殺そうとする『何か』は本当にいるのかもしれない。早く帰って、ちぇんに気をつけるよう言わなければ)
「まらーさま!?(母らん様であらせられぬではないか!?)」
すっかり暗くなった山道の向こうからみょんの声が聞こえた。それは聞き覚えのある声……次女ちぇんと番になったみょんのはずだった。
暗がりから飛び出してきたみょんの姿は、凄惨なものだった。片目に枝が突き刺さり、体中は泥だらけの擦り傷まみれだった。そして残った片目からはとめどなく涙が溢れていた。
仮にも群れ最強のゆっくりと言われたみょんの半死半生な体に母らんは尋常ではない危機感を覚えた。
「みょんか、どうした!?」
「ち~んぽ!(見苦しいこと甚だしい姿をその目に晒すことをお許しくだされ。某は母らん様にどれだけ土下座しても足りぬ! かくなる上は腹を切るべきかと思ったが、父ちぇん様のことを思うと居ても立ってもおられず、このように生き恥を晒してお伝えに来たのだ。
殺ゆんちぇんだ。彼奴めが某の里を襲い、そして我が妻までも手にかけたのだ! 某は亡き妻の仇を討ったのだが死体を埋めようとした途端、なんと彼奴めは息を吹き返しおった! 彼奴は某の片目と白楼剣を奪い、母らん様の里へ向かっていった! 一刻も早くお帰りくだされ。そして父ちぇん様を……)」
母らんは、すぃーを捨てた。全速力で山を駆け、群れに戻った。
だがそこは既に濃密なカカオの香りが充満するチョコレート地獄だった。
「殺す! ちぇんは殺す! 全て殺す!!」
頭から潰されたちぇんが死んでいた。中枢餡を抉り出されたちぇんが死んでいた。大量出チョコでちぇんが死んでいた。体中に小石を埋め込まれたちぇんが死んでいた。むしられた茎で頭から地面まで突き刺された親ちぇんが死んでいた。赤ちぇんの小さな耳が耳輪ごと落ちていた。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
被害者ちぇんに何度も何度も小枝を突き刺していた殺ゆんちぇんは、母らんの体当たりで吹っ飛ばされた。
「ちぇん、大丈夫か! ちぇ……ちぇぇぇぇぇぇん!!」
「ら……しゃま……?」
一体どのちぇんが襲われているのか確認もせず、熱くなった酢飯に導かれるがまま殺ゆんちぇんを撃退した母らんだったが、奇しくも今救ったちぇんは、見間違えるはずもない番の父ちぇんだった。
いや、救えてなどいない。目玉もおぼうしも体も穴だらけのずたずたにされ、引っこ抜かれた二本の尻尾が眼窩にねじ込まれていた。もうどうやっても助からない致命傷を数え切れないほど父ちぇんは受けてしまっていた。
「おそ……すぎ……りゅよ、らんしゃま……ちぇんは…………なんども、なんども……たしゅけて……って、よんだじゃない……わからにゃいよ……にゃんで……もっと……ゆっくり……」
「殺す!」
不穏な声に母らんが振り返った時、そこには既に殺ゆんちぇんはいなかった。だが、背後でびしゃりと何かが破け、母らんの尻尾を熱いチョコが汚した。
「ちぇんは殺す! 全て殺す!!」
既に元型を残さぬほど潰れてしまった父ちぇんの亡骸を、まだ気が済まないのか何度も何度もその殺ゆんちぇんは踏みつけた。
「やめろ! やめろおお! ちぇんが、ちぇんが、ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
殺ゆんちぇんの尻尾に噛みつき、らんは父ちぇんの亡骸から憎き仇を退かそうとした。
だがその仇は、憑き物が落ちたかのように突然跳ねるのを止めた。
ゆっくりと振り返り、母らんの顔を凝視する。
「……お母さん?」
母らんの中で生涯最高の、未曾有の恐怖が酢飯の中に溶けて、落ちた。
尻尾は、二本だ。だがその背中下半分は無数の尻尾跡が残っている。
顔は湖面や水溜りを見たかのように、母らんそっくり。
産まれ落ちてすぐに、捨てたはずの我が子。
「し、知らない! お前なんか知らない! 知らないぞ!!」
気がつけば、母らんはそんなことを口走っていた。九つの尾が、耳が、群れの仲間を殺した仇を凝視するゆっくりたちを感じ取っている。
もし、いや、そんなことは絶対ありはしないが、それでも仮にこのちぇんの母親だということにされてしまったら、母らんは必ずせいっさいされるだろう。群れのやり場のない怒りの捌け口にされて殺される。
それだけは絶対に避けねばならなかった。
そんな母らんの様子を見た殺ゆんちぇんは、とてもゆっくりできる笑顔を浮かべた。
「わかるよー。お母さんは殺さないよー」
「違う! らんはこんなゆっくりしていないキモいちぇんは知らないよ!」
「でも、ちぇんは殺すよー。わかってねー」
はっ、とらんは顔を上げた。ちぇんは返りチョコですっかり乾いた顔を歪ませ、滴るような憎悪を滲ませた。
「殺す。ちぇんは殺す。全て殺す」
「や……やめろ。お前もちぇんだろ!?」
「それがどうしたの? 最後に殺すちぇんがちぇんなだけだよ?」
「殺す。ちぇんは殺す。全て殺す」
この群れにもう用はないとばかりに殺ゆんちぇんは跳ねた。ぶつぶつと呟きながら。
母らんは止められなかった。体中の酢飯が凍るような恐怖で動けなかった。
こんな悪魔を世に放ってしまったのが自分だと気づいて、その恐怖で動けなかった。
くるりと、最後にちぇんは振り返って言った。満面の笑顔で。
「それじゃあらんしゃま、ゆっくりしていってね!!!」
翌年の春が来た。
その山にはもう、ちぇんはいなかった。当然、その名前を呼ぶゆっくりもいるわけがなかった。
初。
作中オリ設定の元ネタ http://www.youtube.com/watch?v=5adJA7KMS0U
作中パクリセリフのアレ http://jumpsq.shueisha.co.jp/contents/embalming/index.html
次の日の朝、群れのゆっくりたちを広場に集合させてぱちゅりーはまず前提情報から提示することから始めた。
「昨日、かきさんの木の下のれいむの帰りが遅かったわよね? あれはあんよを怪我して干からびて死にかけてからだそうよ。でも通りすがりのゆっくりがれいむを助けてくれたのよ! それも、自分のおぼうしを何度も川さんに浸して、それでお水さんをれいむに運んだそうよ」
どよどよとゆっくりたちの間で私語が交わされた。なぜおぼうしで水を運べたか理解できないゆっくりが半数以上。それを理解して恐怖におののいたゆっくりや、その英雄的行動を理解できないゆっくりに教えようとするもの、とかいはじゃないわで切り捨てるありす、ちーんぽ、etc...
「そのれいむの命の恩ゆんが群れの仲間になるゆっくりよ。むきゅ、そうね? れいむ」
「そうだよ! ちぇんとらんはちょっと変わっているけどとても優しくてゆっくりしたゆっくりだよ! みんな仲良くしてあげてね!」
長ぱちゅりーにあらかじめ呼ばれていたれいむは元気良く答えた。
と、今まで私語を交し合っていたゆっくりのうち、猫耳頭が活発に動き出す。ぱちゅりーが次の言葉を口にしようとしたのを遮って、群れのちぇんたちは大声を上げた。
「らんしゃまあああ! らんしゃまがいるの!?」
「らんしゃまだって!」
「らんしゃまが群れの仲間になるなら、ちぇんたちはだいっかんっげいだよ!」
「らんしゃまあああああああ!!」
突然のらんしゃまコールが落ち着くまで結構な時間がかかった。ぱちゅりーは改めてこほんと咳払いする。
「でもそのちぇんとらんは生まれつき尻尾の数が他のゆっくりと違うのよ! ちぇんはちょっと多くて、らんはちょっと少ないけど、とてもゆっくりしたゆっくりであることに変わりないわ! さあ、ちぇん、らん、出てきてみんなにご挨拶なさい」
「ゆっくりしていってね!」
「ちぇぇぇぇぇん!!」
木陰に隠れていた姉ちぇんと妹らんは飛び出し、ぱちゅりーが席をゆずった切り株の上に飛び乗って、群れのゆっくりたちに精一杯の挨拶をした。
その時、姉ちぇんのチョコレートを凍りつかせるほど未曾有の恐怖が襲い掛かってきた。
これほど多くのゆっくりに、この身を晒したことは未だかつて一度たりとてなかった。
これほど多くのゆっくりに、この尻尾を注視されたことは未だかつて一度たりとてなかった。
これほど多くのちぇんに、妹のらんをお披露目することは未だかつて一度たりとてなかった。
だが、これも群れの仲間に入るためだ。妹と一緒に幸せになるためだ。今すぐ逃げ出したくなるあんよをぐっと抑え、姉ちぇんは群れの反応を待った。
「ゆ――」
「ゆっくりできないいいいいいいぃぃぃいいぃぃいい!!!」
「らんしゃまあああああああああああああああああ!!」
集団パニックが、二重に起こった。
長のぱちゅりーも、姉ちぇんも、姿を見せる前にちぇんとらんの身体的特徴を伝えたならばきっと受け入れてくれる、そうでなくとも混乱は事前に防げると考えていた。だが私語に夢中で長の言葉をきちんと聞いていなかったゆっくりが過半数を占めた群れのゆっくりたちはちぇんたちを見て、我先にと逃げ出し一部のみょん種は髪に挿した枝を引き抜いて臨戦態勢に入り、そしてゆっくりの流れに逆らって突進する一部のゆっくりがいた。
これこそが二つ目の集団パニック群である、らんに見惚れて我先にすーりすりしようと突撃してくるちぇん種たちだ。
姉ちぇんは梅雨の出来事を思い出し、妹らんをその身を盾にして庇った。今まで見たこともない数のちぇんたちにあんよも尻尾も震えていたが、妹を守るためと思えば震えは収まった。
「ゆっくりできないキモい尻尾のちぇんは、はやくどけええええ!!」
「わかるよーーー! あのちぇんはらんしゃまをひとりじめする気なんだよ!」
「らんしゃまはみんなのものだよー!」
「ゆっくりできないちぇんはー!!」
十何匹というちぇんたちは一斉にに姉ちぇんへと飛び掛り、殺意を剥き出しに宣言した。
「「「「「「「「「ゆっくりしね!!!」」」」」」」」」」
姉ちぇんは妹らんを頭に載せて一目散に逃げ出した。
「ちぇんたち、やめなさ――むきゃ!」
長ぱちゅりーの制止も全く見えず、ちぇんたちは姉ちぇんとらんを追った。地面に伸びた長ぱちゅりーはえれえれとクリームを吐き、れいむや番のまりさが泣きながら安否を気遣う。
もはやこの場にちぇんたちを止められるゆっくりはいなかった。姉ちぇんは歯を食いしばりながら、全速力で逃げ続けている。
「尻尾がキモいちぇんがらんしゃまをさらうよ!」
「らんしゃま、今助けるからね!」
「ちぇええええええええええええええん!!」
頭上で妹らんが泣いていた。ゆっくりできない状況に怯えて出た涙だったのだが、何を勘違いしたのかさらに追っ手のちぇんたちは増長したように姉ちぇんへと罵詈雑言を浴びせかける。
「あのキモいちぇんがきっとらんしゃまの尻尾を食べちゃったんだ!」
「わかるよー! 尻尾はきっとらんしゃまから取ったんだねー!」
「キモい尻尾を一本ずつちぎられてゆっくりしんでねー!」
「キモいちぇんは生きている価値なんてないよ!」
「しね!」
「はやくしね!」
「ゆっくりしね!」
「しね!」「しね!」「しね!」「しね!」
(わからないよ! わからないよ! ちぇんの尻尾の数が多いことがそんなにゆっくりできないことなの? 悪いことなの? ちぇんの尻尾が多いかららんしゃまはゆっくりできないの? ちぇんがこんな体で産まれてきたかららんしゃまも……?)
姉ちぇんの瞳からも涙がぼろぼろと零れた。今まで自分がらんを守り、育ててきたと思っていた。しかしそもそも自分がこの世に産まれなければ、みんなゆっくりしあわせーに暮らせたのではないか。父も、母も、雨宿り先で殺してしまった家主ちぇんも、長ぱちゅりーも、あの群れのみんなも……。
今までの過酷な生活の中で築き上げてきたゆん生観とアイデンティティが音を立ててがらがらと崩れ去るのを、姉ちぇんは確かに感じた。
(そうだよ! わかったよ! ちぇんはなんでこんな簡単なことも今まで思いつかっなかったの? 馬鹿なの? 死ぬの?
尻尾が多くてゆっくりできないっていうんなら、ちぇんは尻尾を七本ちぎっちゃえば良かったんだよ。そうすればこんなことにはならなかったよ。
それを思いつかなかったのは、ちぇんが自分が痛くてゆっくりできないことを考えたくなかったからだよ! ちぇんはわかったよ! ちぇんはゆっくりをゆっくりさせなくする、さいっていのゲスで劣等種でクズのどうしようもないゆっくり以前の糞袋だよ!!)
後ろから浴びせかけられるちぇんたちの非難中傷と姉ちぇんが今まで積み上げてきた劣等感が交じり合い、自虐の念がぐるぐるとチョコレートクリームにマーブルされていった。
そして、背中に透明の弾丸でも喰らったかのように突然姉ちぇんは口からチョコレートを吹き出した。
「ゆべへぇっ!?」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
姉ちぇんは倒れた。必死に走っていた勢いが余って地面に茶褐色の跡がべったりと残り、妹らんははるか彼方へと吹っ飛んで行った。
その場にいるゆっくりの誰もが姉ちぇんが起こした突然の吐餡原因を知りえなかった。非ゆっくり症という極度のストレス状態に置かれたゆっくりが起こす発作であるが、それが今最悪のタイミングで起きたのだ。
追ってきたちぇんたちはここぞとばかりに姉ちぇんへと次々に飛び乗り、攻撃を加え始める。
「しね! ゆっくりできないちぇんはゆっくりしね!」
「ゲスのちぇんはしね!」
「クズのちぇんはしね!」
「し――」
姉ちぇんの意識は途絶えた。十数匹ものちぇんたちに何度も何度も体を潰され、中枢餡が衝撃に耐え切れず、遂に砕けたのだ。
非ゆっくり症の真っ只中にあった姉ちぇんには最早思考を紡ぐ力はなかった。ただ最期まで自分を否定する言葉を聞きながら、死んでいった。
「……ゆ?」
姉ちぇんは目覚めた。記憶がひどく混乱しており、一体自分に何が起きていたのか覚えていない。ただ、とてつもなくゆっくりできない感覚が残っているが……。
「らんしゃまああああああああああああああああああああ!!!」
かけがえのない、命より大切なものの名前を聞いても姉ちぇんはしばらくその言葉の意味を把握しきれなかった。
「――は! らんしゃま!?」
だが、姉ちぇんはスイッチが入ったかのようにはっきりと意識を取り戻した。そうだ、らんしゃまを連れて逃げていたはずだ。それから、それから何が起こったか、覚えていない。
しかし、しかし――
「らんしゃまはど……」
顔を地面から上げ、姉ちぇんの全てと言っても足りない妹らんの姿を探そうとして、そしてすぐ見つかった。
頭から茎を茂らせていた。
黒ずんでいた。
まむまむもあにゃるもおくちですらもちぇんたちのぺにぺにに貫かれ、精子餡を浴びていない所はどこにもなく、おぼうしまで残さずチョコレート漬けになっていた。
完全に我を失ったちぇんたちが、とっくの昔に永遠にゆっくりしてしまったであろう妹らんを、りんっかんし続けていた。
何があっても「ちぇん」としか言えない、「ゆっくりしていってね」とすら言えない妹らんはちぇんを際限なく興奮させる。加えて尻尾も頭も通常のらんより足りない妹らんは本来ちぇん種がらん種へと抱く尊敬や崇拝の念を起こさせられなかった。いわば侮られ、下に見られた。よって、妹らんに寄せられるちぇん種の好意は本来のものより少しだけ俗っぽく、下劣なものになってしまった。
その結果が、これだった。
妹らんは身をよじりちぇんたちに噛み付き全身で拒絶の意思を伝えたのだが、れいぱーと化したちぇんたちにはなんの意味も無かった。
そんな経緯を姉ちぇんは知らなかったし、知ろうともしないし、知りたくもないだろう。
姉ちぇんの体のどこからか「ぶちっ」という音が確かに聞こえた。
跳ねた姉ちぇんの後に、一本の尻尾が残されていた。
「らんしゃまあああああああああああああああ……あ? あ゛にゃ!? あ゛、あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」
干からび罅の入ったらんの口にぺにぺにを突き立て、思うがままにかくかくしまくっていたちぇんが吐く欲情の声が、苦悶の絶叫と化した。
だがそのちぇんは断末魔すら上げられなくなった。かわりに背中から突き込まれ貫通した尻尾の束が口から飛び出た。
「らんしゃまあああああああああ!! しゅっきりいいいいぃぃぃぃぃぃぃ(びしゃ)」
尻尾の突きの勢いで傷口から噴き出たチョコが、後ろからまむまむを犯していたちぇんの顔面にかかった。
そのちぇんの頭の中はらんとのすっきりでいっぱいだった。しかしそれを茶褐色の液体とカカオの香りが突然邪魔した。
人間に置き換えるならそれは赤黒い液体と金臭い感覚が鼻の穴に直接突っ込まれたようなものだった。
「あ゛にゃああああああああ! わからないいいぃぃぃい! ゆっくりできないよおおおおお!! らんしゃまああああ!!」
黒ずんで死後硬直が始まったまむまむにぎんぎんに勃起したぺにぺにを挿入していたものだから、そのちぇんは逃げたくても逃げられなかった。全身をよじり、顔面をぶんぶんと振ってなんとか返りチョコを振り払おうとする。
それによって周囲でりんっかんに参加していた他のちぇんにも返りチョコが浴びせられ、至福のすっきりタイムが死臭漂う地獄の時間に変わったことを告げた。
ところで、背中から口まで貫通する一撃を加えられたちぇんは中枢餡を抉り出され、抜き取られていた。その中枢餡を掴んだままの尻尾はちぇんの死体の中でバネのようにたわみ、前方へ向けてパチンコ玉のように撃ち出す。
「ゆぎゃっ!!」
返りチョコをもろに浴びたちぇんの右の眼窩に中枢餡は直撃し、目玉ごとチョコクリーム内に埋め込まれた。
「ゆ、ゆぴぃっ、ぎにゃっ、ぎちゃ、りゃ、りゃにゅ、みゃゆっぺっぴゃ?」
二匹のゆん格を強制的に混ぜられたちぇんは残った目玉をぐるぐると回し、涎を吐きながら意味の無い言葉を壊れたテープレコーダーのように断続的に漏らす。
「ゆにゃああああああああ! もうやだよーーーーー! わからないよおおおお! おうちかえるよおおおおお!!」
「ちぇんはしにたくないよ! ゆっくりしないではやくにげるよ!!」
「たすけてらんしゃまあああああ!!」
その様を真横に見ていたりんっかん参加者のちぇんたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
赤らんと、それを前後に貫く二匹のちぇんの死体。その場に生きているのは返りチョコを全身に浴びて、殺意に目を爛々と輝かせた姉ちぇんだけだった。
姉ちぇんはすっ、と一本の尻尾を地面におろし、適当な小石を掴んだ。
投げた。
「ゆにゃ!?」
逃げ出したちぇんたちを跳ねることすらせず、ずりずり移動で姉ちぇんは追う。しかし八本の尻尾はそれぞれ全てが別の生き物のように絶え間なく地面をまさぐっては小石を掴み、四方八方へと投げつけるのだ。
ちぇんたちの悲鳴があちこちから聞こえてきた。時には捕食種すら退け、二匹の赤ゆが成体ゆっくりになるほど大量の獲物を恵んでくれた投石による狩りの技術は、今全く別の目的のために使われている。
「たしゅけ……たしゅけて、らんしゃまああああああああああ!!」
的確にあんよを射抜かれて動けなくなったちぇんは叫んだ。ちぇん種にとってらん種は崇拝に値する対象。信心する者が死を間際にした時、南無阿弥陀仏を唱えマイガと叫び、手を合わせ神に祈る。それを誰が止められるか。
後光のように燦然と輝く九尾を背負ったらんが助けに来ることを願って叫び続けたそのちぇんは、頭から姉ちぇんに押し潰された。
「らんしゃまはいないよ?」
どこからか調達してきたらしい小枝を咥えた姉ちぇんは、おぼうしごとちぇんの頭を突き刺し始める。
「やめて! やめてね! いますぐでいいよ! ゆにゃあああああああ! ちぇんのふわふわでかじゅあるななちゅらるぐりーんのすてきにむてきなおぼうししゃ――」
中枢餡を突かれたのか、ちぇんの言葉は突然途切れて死んだ。
姉ちぇんは次の獲物を求めて跳ねた。
ちぇんの断末魔が絶え間なく山林に響き渡った。今や逃げ出したちぇんたちは全てあんよを射抜かれ、身動きもままならない。自分が殺される番が来るまで目を閉じ耳を寝かせて待つことだけが、ちぇんたちに残された最後の抵抗だった。
「らんしゃま……助けて……らんしゃま、おねがいだよ助けて……。ちぇんはいままで何もわるいことなんかしてこなかったよ。おなかを空かせたおちびちゃんがいるしんぐるまざーのれいむにごはんさんをわけてあげたよ! まりさとたくさん狩りをして群れのみんながえっとうできるようにごはんさんをいっぱい集めたよ! なかまはずれにされているありすといっしょにあそんであげたよ! ぱちゅりーがぜんそくのほっさをおこしたら、せなかをすーりすりしてあげたよ! それから、それから……」
自分の今までゆっくりしたゆん生を振り返ったそのちぇんは、天を見上げて叫んだ。こんなにゆっくりした美ちぇんの自分が、あんなキモい尻尾のちぇんに永遠にゆっくりさせられるはずがない。いや、そんなことはあってはならない。
「わかるよーーーーー! ちぇんはとってもゆっくりしたゆっくりなんだねぇぇぇぇぇ!! らんしゃまはゆっくりしないで助けてねええええええ!!」
「らんしゃま……」
越冬時にも覚えなかったほどに冷たい声が、ちぇんの真正面から聞こえてきた。
「らんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃまらんしゃま……」
ゆらゆらと、夕日に照らされて八本の尻尾が陽炎のように揺らいでいた。
逆光になった姉ちぇんの表情は、そのちぇんには見えなかった。だが未だかつて感じたことがない、れみりゃやふらんですらまだこれに比べたらおちびちゃんのように可愛いとすら思えるほど禍々しい、溶岩のように凝った憎悪だけは感じて取れた。
「ちぇんはそれしか言えないの? それしか考えてないの? 都合良くらんしゃまが助けてくれると思っているの?」
遂に眼前へと迫ってきた姉ちぇんの表皮はチョコレートでパリパリに乾いていた。口を動かすたび、ずりずりと動くたびにどこからかチョコレートの欠片がぱらぱらと落ちる。
「『わかるよー』もよく言うよね? でもそれ本当にわかってて言ってるの? テキトーに相槌打っていたら仲間外れにされないから言ってるんじゃないの?
『わからないよー』も言うよね? でもなんで次に出てくるのが『らんしゃまあああ』なの? 馬鹿なの? 死ぬの? わからないことは自分でなんとかするものだよ。誰も助けちゃくれないよ?」
「キモくてゆっくりできなくて頭のおかしいちぇんがわからないこと言ってくるよおおおおお!! 助けてよ! なんで助けに来てくれないの!? らんしゃま! らんしゃま! らんしゃまああああああああああ!!!」
どすっ、と大口を上げて叫ぶちぇんの舌に枝が突き刺さった。
「殺す!」
姉ちぇんは耳ごとちぇんにかぶりつき、皮を食いちぎった。
ゆっくりは『殺す』や『殺せ』などという言葉は滅多に使わない。同族殺しをしたものを「ゆっくり殺し」と呼ぶことはあっても、能動的な意味で使う時は「ゆっくりしね」やせいぜい「永遠にゆっくりさせてやる」などだ。
それは、基本的にゆっくりしたいがために生きているゆっくりは、他者の命を奪うというストレスを真正面から受け止めたくないからだという説がある。「しね」も「ずっとゆっくりさせてやる」も全ては結果的にそうなってしまっただけであり、自分は直接手を下していない、という考え方だ。
だが、姉ちぇんは明確に言った。
「ちぇんは殺す!」
ずたずたに表皮は噛み切られ、皮の張力を失ったチョコクリームはとめどなく溢れる。
「全て殺す!!」
既に絶命してしまったちぇんの中枢餡をとどめとばかりに噛み砕き、体の外からも内からもチョコレートを出しながら姉ちぇんは赫怒の咆哮を上げた。
空には月が昇ろうとしていた。その仄かな黄金色は、どこからんの尻尾の色に似ていた。
山は紅葉に燃えていた。
「わかるよおおおお!! ちぇんはこれからしあわせになるんだねええええ!! おかあさんにもおとうさんにも、いっぱいいっぱいおせわになったんだよおおおお! ありがとうねえええええ!!」
咽び泣きながら別れを告げた最後の我が子を涙ながらに見送った母らんはすっかり広くなったおうちで、父ちぇんと頬をすり合わせた。
「これで……ちぇんとらんしゃまのおちびちゃんはみんなひとり立ちしたんだねー、わかるよー」
「そうだな……」
らんは目を閉じ、この春の終わり頃に産まれた三匹の我が子の思い出をゆっくりと反芻した。
おませな長女ちぇんは一番早く夏に見つけたとかいはなありすと番になった。先日生まれたばかりのゆっくりしたおちびちゃんを母らんと父ちぇんによく見せに来る。
おっとりした次女ちぇんはつい先ほどお嫁に行った子だ。隣群れで最強のゆっくりと名高いみょんと番になったのだ。さぞゆっくりした暮らしを送ることだろう。
末っ子の三女ちぇんは夏の終わり頃旅に出た。母らんも父ちぇんも必死に止めたのだが、ある朝目覚めると次女ちぇんにだけ「おかあさんによくにたらんしゃまをおよめさんにして、いつかきっと帰ってくるから」とだけ言い残して去って後だった。あの子は今頃どこかで素敵ならんとゆっくりすることができているだろうか……。
残念ながら、この番の間には母らんそっくりの子は生まれなかった。母らん自身の姉妹にも同じらん種はいない。元々産まれてくる確率が低いからこそ人間には希少種と呼ばれ、ちぇんには憧れの的となるのだろう。
「さいしょにうまれたおちびちゃんがゆっくりしていないゆっくりだったときはわからないことだらけだったけど、ちぇんにそっくりなゆっくりしたおちびちゃんたちをちゃんとうみなおしてくれて、らんしゃまありがとーね」
「あれのことは口にするな」
「ゆ゛!? ご、ごめんなしゃいらんしゃま……」
この番は思い出すだけで餡子を吐きそうなほど醜悪な子供が最初の子供だったという苦い記憶がある。産まれた直後に追い出したのですぐ死んだだろうが、未だに実の親をゆっくりさせなくするとはどれだけ親不孝な奴らだろう。
二匹はしばらく子供たちのことを語らっていたが、やがて母らんは身支度を整えて出かける準備を終えた。
「それじゃあちぇん、私が出かけている間、しっかり狩りを頼むぞ」
「わかったよらんしゃま! いってらっしゃーい!」
母らんは赤や黄に染まった落ち葉が絨毯のように敷き詰められた地面を跳ね、山上の方にある隣の群れまで向かった。
積極的に長距離を移動しないゆっくりでも越冬準備に忙しいこの季節は、盛んに他の群れとコミュニケーションを取る。狩り場の関係で不足しがちな種類の食糧を交換し合ったり、器用なゆっくりを貸しておうちを越冬用に作り変えるなど、みんなが協力して生き残ろうと努力するのである。
去年母らんが自分の群れでたくさんのおうちにしてやった越冬用の模様変えは好評で、今年は他の群れからお呼びがかかったのである。おかげで母らんは毎日忙しかったが、報酬として貰えるたくさんの食料は自分たちだけでなく群れ全体を生き延びらせる力となると思えば苦では無かった。
「ありがとうねらん!」
「とってもとかいはこーでぃねーとだわ、さすがねらん!」
「わかるよー! らんしゃまはやっぱりすごいんだねー!!」
その日もたくさんの賞賛とそれ以上にたくらん貰った食糧を載せたすぃーを引っ張り、母らんは家路につこうとした。
「あそこの群れもやられたんだって……」
「ゆっくりしてないよぉ……こわいよぉ……この群れにも来たらどうしよう……」
何やら不穏な会話をしている集団がいた。気になった母らんは「ゆっくりしていってね!」と会話に参加する。
「どうしたの? 人間さんでも出たのか?」
「あ、らん。ちがうよ。出たのはね……ちぇんだよ」
「ちぇんなららんのだーりんだが……」
「そうじゃないよ! そのちぇんは、殺ゆんなんだよ! それもちぇんしかずっとゆっくりさせないんだよ!」
もっとも情報通であるれいむが言うその話は常軌を逸していた。
まずそのちぇんの特徴だが、ぱちゅりーなら姿形が見えずとも近くに寄ってきただけでえれえれを催させるほどの、咽せ返るようなちぇんの死臭を帯びているらしい。そして肌の色は完全にチョコレート色に染まっており、尻尾は数え切れないほどあるとも、また三本だけだともいう。
殺ゆんちぇんはちぇんしか殺さない。邪魔をする他種を傷つけることもあるが、殺しまではしない。だがちぇんは例外なく、群れの中に一匹たりとも残さず、子ちぇんであろうが赤ちぇんであろうが、それどころか茎から実らせたまだ生まれてもいないちぇんですら殺す。その有様は徹底的で、中には噂を聞いただけでビビったある群れなどはとばっちりを受けるのはごめんだとばかりに群れの中のちぇんを全て追い払ってしまったり、ひっそりと家族に何も言わず消えるちぇん、ゆっくりできないストレスで死んでしまったちぇんすらもいるという話だ。
「わからないな。ちぇんだけ永遠にゆっくりさせるというのなら、みょんやまりさなんかが必ず反撃に出るはずだ」
「そうだよ。けどその殺ゆんちぇんは、死んでも死んでも……いきかえってくるんだよ!!」
ひぃぃっ、と話を聞いていた他のゆっくりは怯えた。
群れのちぇんを殺し尽くし、無防備なった殺ゆんちぇんは確かに何度か殺されたらしい。だがその死体は翌日になると一本の尻尾だけ残して消える。
殺ゆんちぇんはちぇんの命を吸い取り、別の意味で『永遠にゆっくりする』ゆっくりなのだという。おそらく、この世のちぇんを全て刈り尽くすその日まで……。
「よくわかったよ、ありがとう。それじゃ」
母らんはすぃーをがらがら引いて山を下った。その足はいつもよりやや速い。
(ただの噂話に決まっている……だが、ちぇんを殺そうとする『何か』は本当にいるのかもしれない。早く帰って、ちぇんに気をつけるよう言わなければ)
「まらーさま!?(母らん様であらせられぬではないか!?)」
すっかり暗くなった山道の向こうからみょんの声が聞こえた。それは聞き覚えのある声……次女ちぇんと番になったみょんのはずだった。
暗がりから飛び出してきたみょんの姿は、凄惨なものだった。片目に枝が突き刺さり、体中は泥だらけの擦り傷まみれだった。そして残った片目からはとめどなく涙が溢れていた。
仮にも群れ最強のゆっくりと言われたみょんの半死半生な体に母らんは尋常ではない危機感を覚えた。
「みょんか、どうした!?」
「ち~んぽ!(見苦しいこと甚だしい姿をその目に晒すことをお許しくだされ。某は母らん様にどれだけ土下座しても足りぬ! かくなる上は腹を切るべきかと思ったが、父ちぇん様のことを思うと居ても立ってもおられず、このように生き恥を晒してお伝えに来たのだ。
殺ゆんちぇんだ。彼奴めが某の里を襲い、そして我が妻までも手にかけたのだ! 某は亡き妻の仇を討ったのだが死体を埋めようとした途端、なんと彼奴めは息を吹き返しおった! 彼奴は某の片目と白楼剣を奪い、母らん様の里へ向かっていった! 一刻も早くお帰りくだされ。そして父ちぇん様を……)」
母らんは、すぃーを捨てた。全速力で山を駆け、群れに戻った。
だがそこは既に濃密なカカオの香りが充満するチョコレート地獄だった。
「殺す! ちぇんは殺す! 全て殺す!!」
頭から潰されたちぇんが死んでいた。中枢餡を抉り出されたちぇんが死んでいた。大量出チョコでちぇんが死んでいた。体中に小石を埋め込まれたちぇんが死んでいた。むしられた茎で頭から地面まで突き刺された親ちぇんが死んでいた。赤ちぇんの小さな耳が耳輪ごと落ちていた。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
被害者ちぇんに何度も何度も小枝を突き刺していた殺ゆんちぇんは、母らんの体当たりで吹っ飛ばされた。
「ちぇん、大丈夫か! ちぇ……ちぇぇぇぇぇぇん!!」
「ら……しゃま……?」
一体どのちぇんが襲われているのか確認もせず、熱くなった酢飯に導かれるがまま殺ゆんちぇんを撃退した母らんだったが、奇しくも今救ったちぇんは、見間違えるはずもない番の父ちぇんだった。
いや、救えてなどいない。目玉もおぼうしも体も穴だらけのずたずたにされ、引っこ抜かれた二本の尻尾が眼窩にねじ込まれていた。もうどうやっても助からない致命傷を数え切れないほど父ちぇんは受けてしまっていた。
「おそ……すぎ……りゅよ、らんしゃま……ちぇんは…………なんども、なんども……たしゅけて……って、よんだじゃない……わからにゃいよ……にゃんで……もっと……ゆっくり……」
「殺す!」
不穏な声に母らんが振り返った時、そこには既に殺ゆんちぇんはいなかった。だが、背後でびしゃりと何かが破け、母らんの尻尾を熱いチョコが汚した。
「ちぇんは殺す! 全て殺す!!」
既に元型を残さぬほど潰れてしまった父ちぇんの亡骸を、まだ気が済まないのか何度も何度もその殺ゆんちぇんは踏みつけた。
「やめろ! やめろおお! ちぇんが、ちぇんが、ちぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
殺ゆんちぇんの尻尾に噛みつき、らんは父ちぇんの亡骸から憎き仇を退かそうとした。
だがその仇は、憑き物が落ちたかのように突然跳ねるのを止めた。
ゆっくりと振り返り、母らんの顔を凝視する。
「……お母さん?」
母らんの中で生涯最高の、未曾有の恐怖が酢飯の中に溶けて、落ちた。
尻尾は、二本だ。だがその背中下半分は無数の尻尾跡が残っている。
顔は湖面や水溜りを見たかのように、母らんそっくり。
産まれ落ちてすぐに、捨てたはずの我が子。
「し、知らない! お前なんか知らない! 知らないぞ!!」
気がつけば、母らんはそんなことを口走っていた。九つの尾が、耳が、群れの仲間を殺した仇を凝視するゆっくりたちを感じ取っている。
もし、いや、そんなことは絶対ありはしないが、それでも仮にこのちぇんの母親だということにされてしまったら、母らんは必ずせいっさいされるだろう。群れのやり場のない怒りの捌け口にされて殺される。
それだけは絶対に避けねばならなかった。
そんな母らんの様子を見た殺ゆんちぇんは、とてもゆっくりできる笑顔を浮かべた。
「わかるよー。お母さんは殺さないよー」
「違う! らんはこんなゆっくりしていないキモいちぇんは知らないよ!」
「でも、ちぇんは殺すよー。わかってねー」
はっ、とらんは顔を上げた。ちぇんは返りチョコですっかり乾いた顔を歪ませ、滴るような憎悪を滲ませた。
「殺す。ちぇんは殺す。全て殺す」
「や……やめろ。お前もちぇんだろ!?」
「それがどうしたの? 最後に殺すちぇんがちぇんなだけだよ?」
「殺す。ちぇんは殺す。全て殺す」
この群れにもう用はないとばかりに殺ゆんちぇんは跳ねた。ぶつぶつと呟きながら。
母らんは止められなかった。体中の酢飯が凍るような恐怖で動けなかった。
こんな悪魔を世に放ってしまったのが自分だと気づいて、その恐怖で動けなかった。
くるりと、最後にちぇんは振り返って言った。満面の笑顔で。
「それじゃあらんしゃま、ゆっくりしていってね!!!」
翌年の春が来た。
その山にはもう、ちぇんはいなかった。当然、その名前を呼ぶゆっくりもいるわけがなかった。
初。
作中オリ設定の元ネタ http://www.youtube.com/watch?v=5adJA7KMS0U
作中パクリセリフのアレ http://jumpsq.shueisha.co.jp/contents/embalming/index.html