ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko3386 ちぇんはがんばった(野良ゆ編)
最終更新:
ankoss
-
view
『ちぇんはがんばった(野良ゆ編)』 35KB
野良ゆ 現代 10作目
秘書に連れられたちぇんは社長夫人宅のある高級住宅街から離れ、県外の住宅街にある小さな公園に捨てられた。
野良ゆっくりと一口に言っても暮らす場所次第でその生活環境は大きく変わる。例えばビル街などに生まれたり捨てられた野良ゆの生涯は悲惨だ。生まれ落ちた直後からカラスやハト、野良猫といった捕食動物に命を狙われる。成長してからも調達できる食料は九割近くが人間の出したゴミであり、狩りには常に命の危険が伴う。どこへ行ってもアスファルトかコンクリばかりに覆われた地面は堅く、夏は熱した鉄板のように熱く冬は氷のように詰めたい。挙句車の廃棄ガスをひっきりなしに浴びゴミ漁りのせいで非常に汚らしい姿となり、病気に冒されやすいので平均寿命はひどく短い。
そういった点や都会は人が集まりやすいので万が一でも正体がバレると面倒ということで、山野を切り開き建売住宅や集合住宅をありったけ建てた、自然の色濃く残る住宅街がちぇんを捨てる場所に選ばれた。
「さぁ、これで君は自由です。正体や略歴さえ言わなければ飼いゆっくりになることも禁じません。どこへでも、どのようにでも好きに生きてください」
「わかったよー! ありがとうなんだねー! ほんとうにありがとうなんだねー!!」
「ありがちょーなんだにぇー!!」
秘書に数日分の食糧となるゆっくりフードを渡されながら、ちぇんは赤ちぇんと共にお礼を言った。その発音は以前テレビに出演していた時のはきはきとした物言いではなくなっており、幼児じみた舌っ足らずな普通のゆっくりらしいものになってしまっている。小麦粉の依存症は療養期間と暴力を受けていた期間の間に抜けたものの、このような形で後遺症として残ってしまったのだろう。
「さぁおちびちゃん! きょうのねどこさんをさがすんだねー。ママとはなれずについてくるんだよー」
「わきゃりゅよー! おきゃーしゃんといっしょにねりゅのはゆっくりできゅりゅんだねー!」
ゆっくりフードの入った布袋を引きずりながらちぇんは公園を跳ね始めた。時刻は既に真夜中。夜目の効くちぇん種でなければ街灯の下でもまともに歩くのは苦労しただろう。
「ママはのらゆっくりになったのははじめてだけど、ドラマさんでおしごとしていたときにみたりきいたりちょっとだけたいけんもしたりしたんだねー。だからおちびちゃんはなーんにもしんぱいせずに、ママにぜんぶまかせてくれたらいいんだよー」
「わきゃりゅよー! おきゃーしゃんはすっごいんだにぇー!!」
「あっ! さっそくゆっくりできそうなねどこさんをみつけたんだねー! こんばんはあのベンチさんのしたでゆっくりねむるんだよー、おちびちゃん!」
「わきゃりゅよー!」
ちぇん親子はベンチの下に潜り込み、持ってきた布袋をあんよの下に敷いて身を寄せ合った。しかしそれでも赤ちぇんは夜気にぶるぶると震え、寒そうにしているのでちぇんは自分の尻尾で赤ちぇんを巻きつけるようにしてやった。
すると赤ちぇんはちぇんの尻尾の毛に頬ずりし、嬉しそうな声を上げる。
「わきゃりゅよー! おきゃーしゃんのしっぽしゃんはもふもふでらんしゃまみたいにあったきゃしゃんなんだねー!!」
「うふふ、そうなんだよー。ちぇんのおちびちゃん、いままでいっしょにいられなくってごめんねー。でも、これからはどんなことがあってもずっとずっといっしょだからねー」
「わきゃりゅよー! ちぇんもおきゃーしゃんとずっとずっとゆっきゅりしちゃかっちゃんだねー!」
無邪気に笑う我が子を見て、ちぇんは堅い決意をチョコの中に結んだ。この子を必ず幸せにしてみせる、そのためならばどんな努力も苦労もいとわない、と。
生まれてこの方人間の用意したゆっくり用のクッションやおふとんで眠ってきたちぇんに、フードが入っただけの布袋はひどく堅く冷たい寝床だった。だが、我が子と頬を擦り寄せ合って眠ったその夜は、ちぇんの生涯の中でもっともゆっくりできた一夜であった。
夜が明け、東の空が白々としてくるのを瞼の裏から直接感じ取ったちぇんは目を覚ました。
傍らでは既に目を覚ましていたらしい赤ちぇんが顔を上げ、どこか元気のなさそうな表情で挨拶してくる。
「おきゃーしゃん、おはよーなんだにぇー……ゆっきゅりしちぇいっちぇねー」
「ゆにゃ? おちびちゃん、どーしたのー? なんだかげんきがないんだねー。わかるよー」
「ちょっとだけぽんぽんしゃんがぺーこぺこしゃんにゃんだよー……」
「ゆにゃ!? それならママをすぐおこしてくれていいんだよー。さ、はやくごはんさんをむーしゃむしゃしよーねー」
「わきゃりゅよー! ごはんしゃんはゆっくりできゅりゅんだねー!!」
赤ちぇんは布袋から飛び跳ねて退き、中からフードの入った包みを口にくわえて引っ張り出した。
ちぇんはその包みを自分の牙で裂き、中身を空けてやる。小さな口でフードを頬張り、一生懸命むーしゃむしゃする赤ちぇんの姿を見下ろしながら、ちぇんは考えていた。
(ゆにゃーん。この子はいい子なんだけど、ちょっと遠慮っぽいというか気を遣いすぎなところがあるんだねー。でも、それはきっとちぇんが頼りないのがいけないんだねー。わかるよー。もっともっとしっかりして、おちびちゃんを安心してゆっくりさせてあげられるようにならないんとだめなんだねー!)
「おかーしゃん、おかーしゃん!」
「ゆにゃ?」
一ゆっくりの親としての意識を改めたちぇんに、赤ちぇんは口にくわえた一欠けらのゆっくりフードを差し出した。
「おきゃーしゃんもいっしょにむーしゃむしゃしよーねー! ごはんしゃんはいっしょにたべりゅともっともっとゆっきゅりできゅりゅんだねー! わきゃりゅよー!」
「おちびちゃん……わかるよー! おちびちゃんはやさしーんだねー!」
「てれてれー。しょんなことないんだにぇー」
顔を赤くしてうつむき、もじもじしる赤ちぇんにちぇんは愛おしさでいっぱいになった。そしてその気持ちに応えようと、改めて差し出されたフードの欠片に口をつけようとした。
その時である。
「わっがるよおおおお!! いただぎまああああああす!!!」
「わがらにゃ!?」
突然後方から聞こえてきたゆっくりできない声にちぇん親子が固まった瞬間、赤ちぇんのくわえるゆっくりフードを何者かが突進の勢いのまま奪い取った。
赤ちぇんはその勢いで吹き飛ばされ、ベンチの足にぶつかり目を回す。慌ててちぇんは我が子に駆け寄り、ぺーろぺろを始めた。
「だ、だいじょうぶ!? ちぇんのおちびちゃん、しっかりするんだよー!!」
「わ、わきゃりゅよー? わきゃりゅ、わきゃりゅんだにぇー?」
あいかわらず赤ちぇんは目を回したままのようだが、幸い命に別状はないようだ。少し安心したちぇんは赤ちぇんを尻尾でくるみ庇いながら先ほど突っ込んできた何者かに目を向けた。
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせなんだねえええぇぇ!!」
「にゃ……!?」
そこには、一匹の薄汚れた野良ちぇんがいた。赤ちぇんの食べかけていたフードを横取りし、我が物顔でがっついている。
ちぇんは注意の声をかけようとした。しかしその瞬間には、野良ちぇんの大きな声を聞きつけて四方八方からゆっくりの声が響き渡ったのである。
「わかるよー! だれかごはんさんをむーしゃむしゃしてるんだねー」
「ちぇんもむーしゃむしゃいしたいんだよー! わかれよー!」
「ちぇんのごはんさんなんだねー! だれにもわたさないんだよおお!!」
いつの間にやらどこからか現われた野良ちぇんの大群は次から次へとフードにかぶりつき、布袋ごと包みを噛み破ってちぇんに渡されたはずの数日分のフードを喰い尽くそうとしていた。
焦ったちぇんは十匹ばかりもの野良ちぇんの群れに体当たりし、止めようとした。
「だめなんだよー! それはちぇんとおちびちゃんのごはんさんなんだよー! かってにたべないでねー!!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせなんだねー!」
「ゆべにゃ!?」
野良ちぇんたちは、ちぇんに目すら向けなかった。ただうっとうしい蚊でも追い払うかのように振り回した尻尾ではたかれただけでちぇんは追い出され、そうこうしているうちにフードは空になった。
「あああああ!? ちぇんとおちびちゃんのごはんさんがあああ!?」
「それなりだったんだねー。さ、あさごはんさんをさがしにいくよー」
「いくよー。こんなんじゃぜんぜんたりないんだねー。わかるよー」
「ちょっとまってねえええええ!! ちぇんとちぇんのおちびちゃんのごはんかってにぜんぶたべたのになんでひとこともあやまってくれないのおおお!? わからないよおおおお!!」
十匹ばかりの野良ちぇんはさっさと解散しようとしたが、ちぇんの言葉に反応した野良ちぇんが三匹ばかり残った。
その野良ちぇんたちはちぇんのおぼうしのバッジを取った後のほつれがまだ真新しいことに気づき、下卑た笑みを浮かべる。
「またばかなちぇんがすてられたんだねー。わかるよー」
「しんせつなちぇんはおしえてあげるよー。のらゆっくりはこんなことなーんにもわるくないっておもわなきゃやってられないんだねー。わかれよー」
「でも、まぬけなちぇんにありがとーくらいはいってあげるよー。あさごはんごちそーさまなんだねー」
「な……んにゃ……!?」
驚きで開いた口が塞がらないとはこのことだった。それほどちぇんのチョコ脳の中の野良ゆっくり像と、目の前の野良ちぇんたちの実態はかけ離れていたのである。
無理もない。ちぇんは出演したドラマの中で架空の野良ゆっくりと共演したことは何度もあったが、皆ちぇんに親切にする至って善良な野良ゆっくりばかりしかいなかったのである。だからちぇんは野良ゆっくりは皆協力し合い、困っていたら助け合い、困難には一致団結して立ち向かう健全なゆっくりだと思い込んでいたのである。
「ひどいんだねえええ! せめて、せめておちびちゃんのぶんだけでもかえしてよおお! おねがいなんだねえええ!!」
「たべちゃったものはかえせないよー。わかれよー」
「ねぇねぇそんなことより、あんまりさわいでいると――」
「ちぇえええええええええええええええん!!」
一匹の野良ちぇんが他の野良ちぇんに注意を促そうとした時、はるか彼方からちぇん種にとって本能に刻まれたゆっくりした叫び声が響いてきた。
ちぇんはその声に、今ついさっき食糧を奪われたことも忘れてぱっと顔を輝かせた。
一方、野良ちぇんたちの表情にははっきりとした戦慄が走り素早くちぇんたちに背中を向け全速力で走り出した。
「きたああああ! らんしゃまなんだねえええ! わかるよおおおお!!」
「らんしゃまはわからないよおおおお!」
「ゆっくりしないでちぇんははやくにげるよおおおお!!」
そんなことを叫びながら、らんの声がした方向とは反対の方向に全力で逃げ出す野良ちぇんの図は明らかに異常だった。しかしそんなことにはまるで目もくれず、ちぇんは浮き足立った様子で叫び声を上げる。
「わかるよおおおおお! らんしゃまなんだねええええ!!」
「ちぇええええええええええええん!!!」
「らんしゃまああああああああああ!!!」
はたして、公園の入り口からゆっくりらんは黄金色の九尾からジェット噴射のような土煙を吹きながら現われた。
「ゆにゃ!? らんしゃまにゃんだねー! わきゃりゅよー!!」
突き飛ばされて目を回していた赤ちぇんも回復してらんを認識したのか、嬉しそうな様子でベンチから飛び出し、ゆっくりらんを出迎えた。
「らんしゃまああああああああああ!!!」
「らんしゃまああああああ!!」
「ちぇええええええええええええん!!!」
二匹のちぇん親子とゆっくりらんはお互いに向かって駆け寄り、そして最後の一歩をらんは大きく踏み切った。
ところで、らんのぺにぺにはなぜかぎんぎんにおっ勃っていた。
「わぎゃ!?」
「ちぇえええええええええええん!!!」
ぶすっ、という鈍い音と共にチョコレートクリームの飛沫が散った。
ちぇんはらんとすーりすりしようとした笑顔の体勢のまま、固まり、凍りついた。
一方らんはすこすこと残像を伴うような速度で腰を前後に振り、ぺにぺにをしごいていた。そのたびチョコレートクリームが飛び散り、小さな目玉やおぼうしといった残骸が死体から零れ落ちていく。
ギ、ギ、ギ、とでも音がしそうなほど錆びついたロボットのような動きでちぇんはらんの方へと顔を向ける。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああわがががががががががらあああああああああああああああああああああわがああらないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?!??!?」
そこには、ちぇんが命にかえても惜しくない赤ちぇんをご立派なぺにぺにで文字通り貫通し、ヘブン状態で腰を振るゆっくりらんがいた。
ピンポン球ほどの赤ちぇんに、成体ゆっくりであるらんのぺにぺにはもはや人間で言えば赤ん坊にパイルバンカーをぶち込むようなものだった。一瞬にして即死した死体をオナホールにしてしごいているも同然である。
それでも性的快感は得られたのか、ゆっくりらんは恍惚の表情で叫びながらぺにぺにから精餡である麹を発射した。
「す、す、す、すっきり~~~~~~っ!!」
「あ、あ、あ、ああああ…………お、おちびちゃん……? ちぇんの……おちびちゃん……」
地面にへたばり、ちぇんは愛する我が子の残骸を呆然と眺めた。らんがぺにぺにを引き抜くと赤ちぇんはもはや皮もチョコクリームもほとんど残っていない、何がなんだかよくわからないモノになってしまっていた。ただ、そこに残るチョコクリームと麹液の飛沫だけが惨状を示していた。
滝のように涙を流すちぇんはせめて尻尾で我が子の名残をかき集めようとする。
「おちびちゃん、おちびちゃ、おちびちゃ――わがらな!?」
「はっはっは。わざわざ尻尾さんをどけてまむまむを晒すなんてちぇんはいんっらんっさんだなぁ♪」
爽やかな声でらんは未だ収まらぬぺにぺにをなんの用意も整っていないちぇんのまむまむにぶち込み、相手の痛みや快感など全く考慮しない動きでかくかくやり始めた。
「や、やめてらんしゃま!? まだごあいさつもしてないのに!? ぜんぜんわからないよおおおお!?」
「なんにもわからなくていいぞ~~! ちぇんはただらんのためにまむまむを締めてくれているだけでいいんだからな!! す、す、すっ」
「「すっきり~~~っ!!」
ちぇんの額から茎が伸び、実ゆが実る。一瞬にして我が子を失った衝撃からすぐに次の我が子を授かったちぇんはあまりのスピード展開に全然ゆっくりできなかった。
しかしらんはまだまだ全然すっきりしたりないのか、さらに腰を振りちぇんを孕まそうと次の精餡をチャージし始めている。
「やめてねらんしゃまあああ~~!? なんでこんなひどいことするのかわからないんだってばああああ~~!!」
「すっきり~~!!」
結局、らんはちぇんを相手に五回もすっきりしてからぺにぺにをまむまむから引き抜いた。
頭上に覆い茂る茎の多さにちぇんは青ざめる。これほどの実ゆを養う栄養を調達できるアテなどあるわけもない。いや、今の朝ごはんですらちぇんは食べられるかどうか怪しいのだ。
しかしちぇんのそんな心配すら杞憂だった。
「むーしゃむーしゃ。それなりー」
「わが!?」
らんはちぇんの茎にかぶりつき、まだ形もろくにできていない実ゆごと食いちぎり咀嚼してごっくんと嚥下した。
「な、な、な、なにしてるのらんしゃま~~~!?」
「なにって、朝食前の運動が終わったからな。朝ごはんをいただいているところさ!」
「らんしゃまがたべているのはおちびちゃんだよおおおお!? らんしゃまとちぇんのおちびちゃんなんだよおおおおお!?」
「ああ、とってもおいしいぞ♪ あ、これにはらんによく似たおちびちゃんが成っているな。ラッキーだなちぇん! ちぇんは希少種のらんのおちびちゃんを授かったんだからな! 大切に育てるんだぞ! じゃ、他の実ゆと茎さんはありがたくいただきまーす」
「いやああああああああああああああ!!!?」
茎に絶賛栄養を吸い取られている最中であるちぇんは、らんの暴食に対して抵抗することも逃げることもできなかった。
結局宣言通り、一匹だけ実った赤らんの茎だけ残されてちぇんへの非道をらんは止めた。
満腹になってげっぷするらんに、なんとか動けるだけの体力を取り戻したちぇんは涙を流しながら訴えた。
「ひどいよ、ひどいよらんしゃまあ~~! ちぇんが、ちぇんがなにかしたっていうのおお~~!? わからないよおおお!!」
「え? 別にちぇんは何も悪いことなんかしてないぞ? っていうか、らんがすっきりしたい時はちぇんがまむまむを差し出すのは当然だろ?」
「な、なにいってるのらんしゃま?」
「何って……おまえたちちぇんなんて、どこに行っても数え切れないほどいるじゃないか。人間さんも言っていたぞ。ちぇんを増やさずにすっきりするなら好きなだけすればいいって。だかららんは、ちぇんの成った茎さんは全部食べてあげたわけだ! えっへん」
もはやちぇんの理解できる範疇を越えた理屈をらんは当たり前のように、かつ自慢気に言ってのけた。
このらんはバッジをどこにも付けていないただの野良だ。親は飼いゆっくりのちぇんとらんの番で、生まれた直後に飼い主に捨てられた経緯を持つ。ちなみに育ての親はそこらへんの野良ちぇんである。
そんならんがなぜ本能的に愛情を覚えるはずのちぇんにこんな凶行をしでかしたのかというと、現在日本では膨大な数の野良ちぇんが溢れているので、らんの中でちぇん種に対する愛情がインスタントで消耗品扱いな方向へとシフトチェンジしたのである。
また、このらんは野良ちぇんに辟易している人間にちぇんを殺せば殺すほど生存権を認めてやると吹き込まれたせいで、愛情と殺害を両立させるすっきり死をちぇんに強要する死神となってしまったのである。
「なんでもドラマさんでちぇんブームが来たけど、結局みんな飽きちゃって捨てたらしいぞ。でも大丈夫だ、心配ない。らんはどんなちぇんでも分け隔てなく愛情を注いで永遠にゆっくりさせてあげるからな。あ、でもちぇんはらんのおちびちゃんがいるからそんなことはしないぞ♪」
「え……?」
命を見逃すというらんの発言より、明らかにゆっくりしていない一言でちぇんは我に返った。
「ドラマ……さんで? ちぇん……ブーム? みんな……あきて…………すてた?」
「ああ、なんでも親のらんを探すちぇんががんばりまくるっていうおはなしだったらしいな。というわけで、ちぇんもらんのおちびちゃんを育てるのにがんばりまくってくれ。それじゃ、またねー」
始終軽い調子でらんは言い切り、ちぇんの前から姿を消した。
呆然としてちぇんは、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「ちぇんブーム……ドラマさんで……みんなあきて……すてられた……
……じゃあ……じゃあ……じゃあ!?
いやだいやだいやだわからないよおおおおおおおお!! わかりたくないよおおおおおお!!」
だが、ちぇんは完全に理解してしまった。
日本全国を巻き込んだ「らんをたずねて三千ゆん」の人気は空前のちぇんブームを起こし、老いも若きもちぇんを買った。もちろんそんな流行に流されただけの人間が徐々に成長しかつての赤ゆ子ゆ時代の可愛さを失い、さらにきちんとした飼いゆ知識を持たずしつけも仕込まなかったためゲス化させてしまったちぇんを飼い続けるわけもなく、数ヶ月で無責任に捨てた。
捨てられた飼いちぇんはさらに子どもを増やし、結果がこんな住宅地の小さな公園に出現する野良ゆっくりがちぇん種オンリーという異常事態である。
頭の良いちぇんは、らんの言葉と自らが体験した状況から何もかも理解した。
それからちぇんは我が子を失ったショックとその遠因を知って呆然としていたが、しばらくするとスイッチが切り替わったかのようにもしゃもしゃと牛のような無感情な動作でそこらへんの雑草を食べ始めた。
通常の飼いゆと比較しても圧倒的に舌が肥えているはずのちぇんだったが、もはや味わったり楽しんで食事をしようというゆっくりの生物的本能が凍りついていた。ピンピンに尖った葉先などは容赦なくちぇんの口内や舌を切り裂きチョコだらけにするが、その痛みすら感じていないかのようにちぇんはひたすら雑草を腹の中に詰め込んでゆく。
ほんの幼い頃からストレス死しないのが不思議な環境で育てられたちぇんは、ある一定以上の精神負荷がかかるとこのように何も感じない状態になって精神的逃避を計る術を身につけてしまっていた。
今ちぇんの中を満たす心はたった一つだけだった。
(おちびちゃん……ちぇんにはまだおちびちゃんがいるよ……おちびちゃんのためにもちぇんはまだ死ねないよ……)
らんに殺害された愛する赤ちぇんはもういない。だがそのらんに授けられた実ゆっくりのらんが今のちぇんの子どもだ。この子を無事に産み落とし、立派に育てることだけが今のちぇんを動かすたった一つのエネルギーだった。
そうしてちぇんは、起きている間はひたすら雑草を腹の中に入れ、それ以外の間はベンチの下で眠るという生活を送り続けた。
他の野良ちぇんたちはこの新参者に対しどう対処すべきか迷っていたが、今のところ雑草を食べているだけなので食糧の奪い合いになることはなく、とりあえず様子見ということでなんとなく方向性が定まった。
公園の管理者が行う年に一、二度の草むしりの手間が省けるようになった頃、ちぇんの額に生えた茎からピンポン玉サイズにまで成長した赤らんが生まれ落ちた。
「ちぇんのおちびちゃん、ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしちぇいっちぇね? なにをいっちぇるんだこのグズちぇん! つーじょーしゅ! きしょーしゅのらんはおなきゃがぺーこぺこしゃんでじぇんじぇんゆっきゅりできちぇにゃいんだぞ! ゆっきゅりしないでいましゅぐごはんしゃんをよういしろ!!」
それが、生まれ落ちた次の我が子である赤らんの産声だった。
ちぇんはそんな我が子の酷い第一声にうろたえることも落ち込むこともなく茎を地面にすりつけて折り、赤らんの前に出してやった。
「はいおちびちゃん。ごはんさんなんだねー」
「こんにゃかちゃいのたべれりゅわけないだろ!? ばきゃなのか!? しね!!」
「ごめんねー。ごめんねー。いまやわらかくするからねー」
ちぇんは茎をもっきゅもっきゅと噛み潰し、改めて赤らんの前に出す。すると赤らんはいただきますの挨拶もお礼の言葉も無しに速攻でがっつき始めた。
どこでどのような因子が出てこの赤らんが生まれついてのゲスになったのかはわからない。もしかすると今を生き延び出産を迎えるために、ゆっくりにとってほとんど栄養のない雑草で栄養を補ったこと、そして胎教という言葉からはかけ離れた感情の無いロボットのようなサイクル生活が、赤らんの精神を実ゆの時点で歪めさせたのかもしれなかったが、それはもはや神のみぞ知る領域だ。
しかしいずれにせよ、ちぇんはげっそりと痩せこけた顔でにっこり微笑んで赤らんに言った。
「おちびちゃんがげんきにうまれてちぇんはうれしいんだねー。わかるよー」
「しょくじちゅうにはなしかけりゅな! グズ! つーじょーしゅ!!」
そして、ちぇんの本格的な野良としての子育て生活が始まった。
とは言っても食糧の調達方法などドラマに出演した知識で補えるものではないし、他の野良ちぇんは命を取らないかわりに生き延びる術を教えてやることもなく、ちぇん親子を放置状態のままでいたのでまともな方法で赤らんを育てることなどちぇんにはできなかった。
赤らんにどやされながらドラマで培った知識を総動員しちぇんが考え出した方法は、結局芸で喰っていくことだった。
「ほら、見てよ見てよあのちぇん! あれがわたしの言ってたすごい芸するちぇんだよ!」
ショートカットの活発そうな小学生くらいの少女が、同じ年頃の眼鏡の少女をちぇんが住処とする公園に引っ張っていった。
そこではシーソーをジャンプ台にしたちぇんが1メートル近くもの高さを跳躍して空中で二回転半捻りし、見事にシーソーの反対側に着地していた。
見物人である幼児たちのどよめきの中、さらにちぇんは着地の勢いをバネにしてさらなる跳躍を行い空中で尻尾を大きく広げぐるぐるとスピンしながら向こう側の砂場に着地。尻尾の先端が美しい旋条の軌跡を砂地に描き出す。
その芸を見た幼児たちは拍手を送りながらちぇんに給食の残りや駄菓子の欠片などをやるのだった。
「……す、すご」
「ね? 言ったでしょ? それにあのちぇんができる芸はジャンプだけじゃないのよ。ちぇ~~ん!」
「あ、おねーさん! ゆっくりしていってね~!」
手を振りながら近づいてきた少女にちぇんは営業スマイルを浮かべる。一方少女はポッキーの包み袋を破いて一本投げ渡してから、ちぇんにリクエストを出した。
「一曲お願い!」
「わかったよー」
「ちょ、ま、あんたゆっくりに歌わせるなんてマジやめ――」
ゆっくりの音楽感覚が人間で言えばひどい音痴だと知っていたらしい眼鏡の少女は止めようとしたが、その時には大きく息を吸い込んだちぇんは歌詞の第一節を歌い始めていた。
眼鏡の少女の目がレンズの奥で大きく開かれる。そのレンズには小気味の良いステップを刻み、時にターンを交え尻尾を振り振り耳をパタパタ、おぼうしをダイナミックに投げてキャッチするアクションも含んだ、実に見事なダンスを踊りながら一級の歌声を披露するちぇんの姿が映っていた。
今度もさらなる拍手喝采を受けて歌い終えたちぇんに、少女はポッキーを袋ごと渡してやる。そのお捻りを受け取って仕舞う間もなく次から次へと他の幼児たちがちぇんのやる次の芸のリクエストを言い出していた。
そんな様子を見ていた眼鏡の少女は、ショートカットの少女に十円玉を一枚渡す。
「……私今食べ物持ってないからそれでなんか買ってきてまた今度ちぇんにやっといて」
「え? 奢りじゃないの?」
「誰がそんなことするかバカ。というか、あのちぇんただごとじゃないわよ。明らかに人間の訓練……それもしっかりとしたプロの指導を受けた本物の芸よ。こんな寂れた公園で見れるレベルじゃないわ」
「うん、お得よね!」
「だからそこじゃないの問題は! 私が疑問なのは、あそこまですごい芸をできるちぇんを捨てる人間がいるなんて信じられないってことなの」
ポッキーを齧っていた少女は、そう眼鏡の少女に指摘されてはたと気づいたかのように口の動きを止め、あらぬ方向を見上げる。
「……そういやそうね。いや、でも逃げてきたのかもよ?」
「辛い練習に耐えかねて、とかかしらね? あーもう、話をしてみたいってのに他の連中が邪魔でできそうにもない」
「どんな話したいのさ?」
「まずはなんで飼いゆにならないのかってことね。あれだけ芸ができるってことは、つまりそれだけ基礎がしっかりしているってことよ。下手な金バッジのゆっくり飼うよりずっと飼いやすいと思うわ」
「あ、その理由ならあれ」
「どれ?」
少女がポッキーで指差す方向を、少女は眼鏡のズレを直しながら身を乗り出して眺めた。
そこには、ベンチの下で散乱したお菓子のクズに囲まれて腹を出しながら眠る、ふてぶてしい表情の子らんがいた。
眼鏡の少女は嫌なものでも見たというかのように眉間に皺を作りながら目線を逸らす。
「何よあのうすぎったないの」
「あのちぇんの子ども」
「ふーん。そういや最近なんでか野良ちぇんが連れている子どもってらん種しか見かけないんだけど、なんかおかしくない?」
「あ、そうなん? まぁともかく、あれが外見も口も汚くって、とてもじゃないけど飼いたくない奴だからさー。親のちぇんはあのらんを飼わないと自分は嫌だっていうし、むしろらんだけでもって頼み込んでくるし」
「まるで葉っぱ付き大根買ったら大根が腐っていたみたいな話ね……」
「例えの意味がわからん。で、他にも聞きたいことって?」
「捨てられたのか逃げてきたのか」
「悪趣味~」
「いいじゃない減るもんじゃなし。いやでも、私としてもあいつが心配で聞きたいってのもあるのよ? 逃げてきたっていうのなら、こんな目立つことをしていたら――見つかって捕まっちゃうゾ――ってね」
「ああなるへそ」
「あと最後に一つ」
「まだあんの?」
「知識や力を見せびらかすことはやめた方がいいってね」
そういう少女の眼鏡の奥の瞳は鋭く険しかった。
合点がいかないらしいショートカットの少女は、眼鏡の少女に解説を求める。
「どゆこと?」
「世の中には私たちのような、あのちぇんに食べ物あげていいもの見せてもらっただけで満足する人間しかいないわけじゃないってこと」
「そりゃあゆっくりを虐待するのが大好きって人もいるからね」
「それもあるけど……いずれにせよ、無力な奴、純粋な奴が無自覚にだろうがなんだろうが才能を周りに見せびらかすのは良くないわ。その才能や能力を利用して美味い汁を吸おうっていう奴が、まるでハエやカビのように湧いて出てくる」
眼鏡の少女はそう言うと、ベンチに置いていたポッキーに群がろうとしていたアリを指で弾いた。
「はい、おちびちゃん! きょうもしんせつなにんげんさんにたくっさんっ、ごはんさんをもらってきたよー」
「はやくそこにおけクズおや! がーつがーつ、しあわせー!」
子らんがちぇんの稼ぎを遠慮なく貪る光景も、すっかりいつものものとなった。
カロリーの豊富な人間の食事を腹いっぱい食べて育てられた子らんは、既に小柄な親ちぇんの一回り小さい体格にまで育っていた。他の野良ちぇんも、ここまで立派に育ったらんに手出しして無事で済むはずはないと、ちぇんの稼ぎを横取りしようとする者は出なかったくらいである。
ここまで来ると野良ゆっくりならばそろそろ独り立ちを考える頃合いなのだが、ちぇんはげっそりとしながらもゆっくりとした表情でらんの食事する姿を眺めている。
どれだけ罵られようとそしられようと、ちぇんにとってはたった一匹の愛する我が子だ。もちろん失った素直な赤ちぇんを思い出すと涙が止まらなくなるが、だからと言って今の子らんが可愛くなくなるわけではない。少なくとも、ちぇん種の本能によって外見だけは実にゆっくりしている姿には見えているのだ。
「あ、いたいた」
そんな歪んではいるが幸せな親子の風景に、一人の少年の声が割り込んできた。
既に陽は暮れている。こんな公園にやってくる人間などもういないはず――そう思いながらちぇんが顔を上げると、学生服を着た少年は鞄から彫刻刀を出しキャップを外していた。
そして突然ベンチの下に手を突っ込んできたかと思うと、ちぇんの髪の毛を乱暴に掴んで街灯の下に引きずり出した。
「いだだだ!? わ、わからないよー!?」
「だまれクズおや!」
「黙れだってさー」
「わがっ!?」
子らんは何が起こっているのか見もせずに食事を続けていた。当然助けてくれるはずもなく、ちぇんは少年が出してきた空き缶を口の中に突っ込まれて即席の猿轡を噛まされる。
少年はちぇんを押さえ込んだまま彫刻刀を逆手に握ると、その下腹部へと容赦なく刃を振り下ろした。
「わっがあああああ!!?!?」
「うっわマジチョコ吹いてくる。キッモ。マジキモいわ。しかもぬる! 温度的な意味と質感的な意味で二重にぬる! ああ彫刻刀これじゃバカになっちまうじゃん。ふざけんな。マジ弁償しろ」
「わが! わがあ! わがあああああああああああ!!」
ノコギリのように乱暴な手つきで少年はちぇんの体を切除しようとしていた。そこは狙いは乱雑だが、間違いなくちぇんのまむまむであり、子供を作るための大事な器官である。
結局彫刻刀ではまともに切れないとわかったらしい少年は、中途半端に切れた部分に嫌そうな顔で手を突っ込み、みちみちとちぇんの膣を引きちぎって抉り出し、公園の茂みに投げ捨てた。
「きったねぇ~~~! あーくそ、なんでこの公園水道も用意してねーんだよ! ハンカチ……出すのも汚れるな。貸せ」
「あ!? なにするんだクソジジイ!!」
子らんの頭に手を伸ばした少年は、取り上げたおぼうしでちぇんのチョコまみれになった手を拭いてやっぱり捨てた。
唖然とした表情でその惨状を見ていた子らんは、チョコで汚れよれよれになってしまったおぼうしに駆け寄り、必死でぺーろぺろを始めた。
「わーん! らんのイケてるおぼうしさんがー!!」
「ま、あっちはあっちでじゃれているからいいとして、おーいちぇん。意識はあるかー?」
「わ、わからな……わからないよぉぉぉ……」
空き缶を口から外した少年はちぇんの頬を叩き、意識をしっかりさせるとどっこいしょとベンチに座り込んで鞄の中から財布を取り出した。
それを虚ろな目をするちぇんの前に振りかざし、にやにやと笑みを浮かべる。
「わかるかちぇん? これはお財布さんだ」
「わか……るよー? おかねさん……いれるんだよねー……」
「おお、話がはえーじゃん。本当に頭いいんだなお前。じゃ、俺がこれから言うのもわかるよな? この――」
「ああ、らんのおぼうしさん!?」
チョコとらんの唾液まみれになったおぼうしを嫌そうにつまんだ少年はちぇんにそれを見せびらかし、次の言葉を吐いた。
「おちびちゃんのおぼうしを返してほしけりゃお財布さんを取ってこい」
「………………え?」
「手段は問わない……が、一番簡単なのはたぶん空き巣だろうなぁ~。誰もいない家に入り込んで、財布取ってくる。OK? 入る手段? そりゃガラス割って入ればいいんじゃねぇの? ま、お前が考えろ。財布手に入れたら誰にも見つからないようにここで持ってて待ってろ。たまーに取りに来て、ある程度の金額たまったらおぼうしさんは返してやるよ」
ケラケラと笑った少年はらんのおぼうしをビニール袋に入れてしっかりと口を縛り、鞄の中に仕舞う。
呆気に取られるちぇん親子に、少年はとどめの一言を置いて去って行った。
「あ、新しいおちびちゃん作ってどうにかしようとか無理だからな。お前のまむまむぐっちょんぐっちょんにして二度と子供が産めない体にしてやったから。じゃーねー」
来た時と同じくらい突然に少年は去っていった。
後には、まむまむをひきちぎられ破壊された息も絶え絶えのちぇんと、おぼうしをなくし狐耳を夜気にさらけ出した子らんだけが残された。
「……で、今に至ると」
「はぃぃ……」
ちぇんはバラバラに砕け散ったガラス片の脇でボロボロの体になって横たわっていた。この家の住人である青年に割れた窓ガラスの掃除に必要な雑巾がわりに使われ、無数のガラス片をその身に突き刺されたのである。
だが、子らんに比べればまだマシであった。
おぼうしを失った子らんは、さらに尻尾まで全部失い狐耳も片方をひきちぎられてしまっていた。それら全ての残骸はゴミ箱の中である。
青年はため息をついた。
「最近ここらへんで空き巣がよく出没しているって聞いたが、なぜだか通帳とかカードとかは盗られなくって財布だけが盗られていたんだよな。窓ガラスぶち破るなんて乱暴な入り方の割には足跡とか残ってなくてちぐはぐだと言われていたら、まさかゆっくりが犯人とは……いや人ですらないって」
ちぇんは、少年の言いつけ通りらんのおぼうしを取り返すため空き巣を始めた。
最初は上手く言っていた――つもりだった。なるべく人のいない家、時間帯を選び、素早く仕事を終えていた。自分のおぼうしがかかっているのだからと、珍しく子らんも財布探しなどを手伝ってくれた。
だが、いつも昼間は静かだと思い込んでいたこの家には、なぜか男のくせにやたらと長い髪を伸ばし無精髭を生やしただらしのない姿の青年がいて、ちぇんたちをとっ捕まえたのである。
青年は子らんを人質に、一体なぜこんなことをしたのかと聞いてきた。そしてちぇんは、なぜだか一番最初の最初、自分が生まれた所から話したのである。主人に口封じされていたはずの、自分があの「らんをたずねて三千ゆん」の主演ちぇんだということまでバラして。
一時間ばかりもの長い話を青年は割られた窓ガラスの掃除をしながら聞き終え、やっと膠着状態は終わったのである。
「わがっだららんをだずげろおおお~~~!! だずげだらどっどどじね、グゾニードおおおお!!」
「クソニートと磁界王様って似てるって思わね?」
「いだぁ!?」
「おちびちゃん!?」
あんよにガラス片を滅多刺しにされて身動きを取れない子らんの最後の耳を青年はひきちぎり、一際巨大なガラス片を手に取った。
何をするのか悟ったちぇんは、青年に懇願した。
「やめてねー! ちぇんはどうなってもいいんだよー! だから、だからおちびちゃんだけはたすけてあげてほしいんだよー! わかってねー!!」
「そうだ、らんはきしょうしゅなんだぞ! おまえみたいなくってねるだけのニートなんかよりずっとずっときしょうなんだぞ!!」
「ちぇんはもうおちびちゃんをつくれないんだよー! そのらんしゃまがずっとゆっくりしちゃったら、ちぇんにはもうなにものこされていないんだよー!! おねがいです! ほんとうにおねがいです!! どうか、どうかみのがしてねー!!」
「そうか」
青年はガラス片を広げた新聞紙に置き、子らんを両手で抱えた。
「だが断る」
「びにゃ!?」
引きちぎられた耳の間に両指を突き刺した青年は、子らんを真っ二つに引き裂いた。
ほかほかと湯気を上げる酢飯の山を見て、ちぇんは魂の絶叫を上げた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! わがらなああああああああ!! わからないいいいいいいい! わからないよおおおおおおおおおお!!!!」
「あ、これ生ゴミに出していいのか? 足にガラス突っ込んだままだったっけ」
とりあえず上辺だけ取っちまおうと青年はゴム手袋を嵌めた手で子らんの残骸をゴミ袋に詰めてゆく。
その身を己の流した涙で溶かしながら、身動きの取れないちぇんは青年に叫び、問いかけた。
「どうして、どうしてこんなひどいことするのおおおお!? わからないよおおおおおおお!!」
「まぁ……確かにお前のゆん生には同情するところがないでもない。それに対し、俺の対処は非道と言えるだろう……が、なぜか俺の心はあんま痛まない。だから生かしておいても処理が面倒だなーって思ったので、殺しました」
「そんなの、そんなのってないよおおおおおお!! ちぇんがなにしたっていうのおおおお!? おしえてよ、おしえてよにんげんさん!! ちぇんがなにかした!? ちぇんはがんばってきたんだよおおおお! ただ、かぞくといっしょにゆっくりしたくてがんばってがんばってがんばりまくってきただけなのにいいいいいい!!」
「あーそれだ!」
青年はそのちぇんの言葉に対し、びしっと指差した。
「お前が本当にあのテレビに出てたちぇんなのかどうかってことはともかく、あのテレビに出ていた時分から『がんばるんだねー』がイラッときてたんだよ俺は! 見てなかったけどな」
「にゃ、にゃんで!? ちぇんはただ、らんしゃまに……パパやママにあいたかっただけだよおお! おちびちゃんとゆっくりしたかっただけだよおおおお! そのためにがんばってなにがわるいのおおおおお!? わからないよおおおお!!」
「いや、それは悪くない。それは良いことだ。夢を叶えるために努力することは大切だ。お前のその姿勢は何一つ間違っていないぞ」「なら、ならにゃんで!?」
「お前のゆん生を聞いてきて、ドラマの中だけじゃなくお前自身が頑張ってきたのはわかった。だが、その頑張り方が間違っていた。それだけだ」
「……わからないよー?」
青年はらんのあんよをかき集めて広げた新聞紙に捨て、ゴム手袋を脱いだ。
そしてちぇんを指差す。
「お前、実の親と会うために具体的な方法を一度でも考えたことあるか?」
「え……それは……ちぇんが……ゆうめいになれば……」
「いかにも周りの連中に吹き込まれましたって理屈だ。いいか、ちぇん。夢を叶えるために努力は必要だ。だが、周囲に『これが夢を叶える方法ですよ』と言われて、それを盲目的にこなすことを努力とは言わん。それは決して夢を叶える本当の方法とは限らないからだ。いや、自分で探した方法ですらそうだ。最終的に叶わなかった夢に費やした頑張りは……ただの徒労だ。努力とは言わない」
「え……え……?」
「そりゃお前が頑張れば周囲はよく褒めただろうよ。得するのは褒めている連中だからな。頑張りの中身を吟味せずに、お前は利用されてし尽くされて、結局空き巣なんてヤクザな真似までするハメになって、しかもやっぱりまだ利用されている。あのなぁお前、そのおぼうし取ったってガキが本当に約束守るとでも思ってんのか?」
「そんな……そんな……」
「ま……俺だって同じバカやってニートやっているハメになっているわけだから、ゆっくりのお前にもっと上手くやれってのは酷な話なんだろうがな。それと俺が今迷惑喰っているのは別だ」
「わからない……わからないよおおおおお……ちぇんはがんばったのに……がんばったのに、どうしてにんげんさんは……ひどい……ひどすぎるよおおお……こんなのあんまりだよおおおおお!!」
青年に指摘され、今までのゆん生を振り返ったちぇんは誰も彼もがちぇんを利用して自分の欲望を満たそうとしているだけにすぎなかったということを、理解した。
そんなちぇんを悲しそうに見つめた青年は、電話をかけに出かけて、五分くらいしてから戻ってきた。
「おにいさん……どうして、どうしてにんげんさんはこんなひどいことができるの!? ぜんぜんわからないよー!」
「そりゃあなぁ……お前らゆっくりが、消耗品だからじゃね?」
「そんなの……なっとくできないよぉ……わからないよおおお……」
「あ、ごめん訂正。全部とは言わないが、大抵の人間は人間も何もかも消耗品として見てるわ。つまり……お前の送った苦労多きゆん生は、別にゆっくりに限るもんじゃない。慰めになるかどうかわからんが……」
「わからないよ……わからないよ……わかりたくないよぉ……」
「別にわかんなくてもいいがなぁ。でもお前に空き巣させたガキだけは覚えておけよー。こういうクソったれがいるから世の中ロクでもねぇんだ。今から事情説明した加工所がお前迎えに来るからさー」
「わかりたくない……わかりたくなひぃ……」
ぴんぽーん、というチャイムの音が玄関から響いてきた。
青年はちぇんを抱え、玄関へと出て行った。
anko2009 anko2010 足りないらんと足りすぎるちぇん(前後)
anko2227 anko2228 保母らん(前後)
anko2295 ブリーダーお兄さんの一日
anko2356 anko2357 浮気(前後)
anko2402 飛び魚のアーチをくぐって
anko2422 anko2423 ねこっかぶりと太陽に向く花(前後)
anko2645 野良ゆ生活はゆっくりできるね!!!
anko2646 anko2647 らんしゃまとちぇんの楽園(繁栄編)(衰退編)
anko3284 今日からちぇんを飼う貴方へ
※後日談
ちぇん「あのあとかこうじょさんのしょくいんのおにーさんにじじょうをせつめいしたらおにーさんはゆっくりのペットほうあんについてぎもんをいだいているひとでイギリスさんのどうぶつあいごだんたいさんにれんらくしてゆっくりペットほうあんのかいせいうんどうをしてさいばんでしょうそしてちぇんもゆんせいのたいけんだんをほんにしたらばかうれしていまはみよりのないかわいそうなすてゆっくりをほごしているおねーさんといっしょにしあわせー! にくらしているんだよー! それもこれもおにーさんのアドバイスさんのおかげなんだねー! わかるよー!!」
おにーさん「クソッたれリアゆん爆発しろ」
野良ゆ 現代 10作目
秘書に連れられたちぇんは社長夫人宅のある高級住宅街から離れ、県外の住宅街にある小さな公園に捨てられた。
野良ゆっくりと一口に言っても暮らす場所次第でその生活環境は大きく変わる。例えばビル街などに生まれたり捨てられた野良ゆの生涯は悲惨だ。生まれ落ちた直後からカラスやハト、野良猫といった捕食動物に命を狙われる。成長してからも調達できる食料は九割近くが人間の出したゴミであり、狩りには常に命の危険が伴う。どこへ行ってもアスファルトかコンクリばかりに覆われた地面は堅く、夏は熱した鉄板のように熱く冬は氷のように詰めたい。挙句車の廃棄ガスをひっきりなしに浴びゴミ漁りのせいで非常に汚らしい姿となり、病気に冒されやすいので平均寿命はひどく短い。
そういった点や都会は人が集まりやすいので万が一でも正体がバレると面倒ということで、山野を切り開き建売住宅や集合住宅をありったけ建てた、自然の色濃く残る住宅街がちぇんを捨てる場所に選ばれた。
「さぁ、これで君は自由です。正体や略歴さえ言わなければ飼いゆっくりになることも禁じません。どこへでも、どのようにでも好きに生きてください」
「わかったよー! ありがとうなんだねー! ほんとうにありがとうなんだねー!!」
「ありがちょーなんだにぇー!!」
秘書に数日分の食糧となるゆっくりフードを渡されながら、ちぇんは赤ちぇんと共にお礼を言った。その発音は以前テレビに出演していた時のはきはきとした物言いではなくなっており、幼児じみた舌っ足らずな普通のゆっくりらしいものになってしまっている。小麦粉の依存症は療養期間と暴力を受けていた期間の間に抜けたものの、このような形で後遺症として残ってしまったのだろう。
「さぁおちびちゃん! きょうのねどこさんをさがすんだねー。ママとはなれずについてくるんだよー」
「わきゃりゅよー! おきゃーしゃんといっしょにねりゅのはゆっくりできゅりゅんだねー!」
ゆっくりフードの入った布袋を引きずりながらちぇんは公園を跳ね始めた。時刻は既に真夜中。夜目の効くちぇん種でなければ街灯の下でもまともに歩くのは苦労しただろう。
「ママはのらゆっくりになったのははじめてだけど、ドラマさんでおしごとしていたときにみたりきいたりちょっとだけたいけんもしたりしたんだねー。だからおちびちゃんはなーんにもしんぱいせずに、ママにぜんぶまかせてくれたらいいんだよー」
「わきゃりゅよー! おきゃーしゃんはすっごいんだにぇー!!」
「あっ! さっそくゆっくりできそうなねどこさんをみつけたんだねー! こんばんはあのベンチさんのしたでゆっくりねむるんだよー、おちびちゃん!」
「わきゃりゅよー!」
ちぇん親子はベンチの下に潜り込み、持ってきた布袋をあんよの下に敷いて身を寄せ合った。しかしそれでも赤ちぇんは夜気にぶるぶると震え、寒そうにしているのでちぇんは自分の尻尾で赤ちぇんを巻きつけるようにしてやった。
すると赤ちぇんはちぇんの尻尾の毛に頬ずりし、嬉しそうな声を上げる。
「わきゃりゅよー! おきゃーしゃんのしっぽしゃんはもふもふでらんしゃまみたいにあったきゃしゃんなんだねー!!」
「うふふ、そうなんだよー。ちぇんのおちびちゃん、いままでいっしょにいられなくってごめんねー。でも、これからはどんなことがあってもずっとずっといっしょだからねー」
「わきゃりゅよー! ちぇんもおきゃーしゃんとずっとずっとゆっきゅりしちゃかっちゃんだねー!」
無邪気に笑う我が子を見て、ちぇんは堅い決意をチョコの中に結んだ。この子を必ず幸せにしてみせる、そのためならばどんな努力も苦労もいとわない、と。
生まれてこの方人間の用意したゆっくり用のクッションやおふとんで眠ってきたちぇんに、フードが入っただけの布袋はひどく堅く冷たい寝床だった。だが、我が子と頬を擦り寄せ合って眠ったその夜は、ちぇんの生涯の中でもっともゆっくりできた一夜であった。
夜が明け、東の空が白々としてくるのを瞼の裏から直接感じ取ったちぇんは目を覚ました。
傍らでは既に目を覚ましていたらしい赤ちぇんが顔を上げ、どこか元気のなさそうな表情で挨拶してくる。
「おきゃーしゃん、おはよーなんだにぇー……ゆっきゅりしちぇいっちぇねー」
「ゆにゃ? おちびちゃん、どーしたのー? なんだかげんきがないんだねー。わかるよー」
「ちょっとだけぽんぽんしゃんがぺーこぺこしゃんにゃんだよー……」
「ゆにゃ!? それならママをすぐおこしてくれていいんだよー。さ、はやくごはんさんをむーしゃむしゃしよーねー」
「わきゃりゅよー! ごはんしゃんはゆっくりできゅりゅんだねー!!」
赤ちぇんは布袋から飛び跳ねて退き、中からフードの入った包みを口にくわえて引っ張り出した。
ちぇんはその包みを自分の牙で裂き、中身を空けてやる。小さな口でフードを頬張り、一生懸命むーしゃむしゃする赤ちぇんの姿を見下ろしながら、ちぇんは考えていた。
(ゆにゃーん。この子はいい子なんだけど、ちょっと遠慮っぽいというか気を遣いすぎなところがあるんだねー。でも、それはきっとちぇんが頼りないのがいけないんだねー。わかるよー。もっともっとしっかりして、おちびちゃんを安心してゆっくりさせてあげられるようにならないんとだめなんだねー!)
「おかーしゃん、おかーしゃん!」
「ゆにゃ?」
一ゆっくりの親としての意識を改めたちぇんに、赤ちぇんは口にくわえた一欠けらのゆっくりフードを差し出した。
「おきゃーしゃんもいっしょにむーしゃむしゃしよーねー! ごはんしゃんはいっしょにたべりゅともっともっとゆっきゅりできゅりゅんだねー! わきゃりゅよー!」
「おちびちゃん……わかるよー! おちびちゃんはやさしーんだねー!」
「てれてれー。しょんなことないんだにぇー」
顔を赤くしてうつむき、もじもじしる赤ちぇんにちぇんは愛おしさでいっぱいになった。そしてその気持ちに応えようと、改めて差し出されたフードの欠片に口をつけようとした。
その時である。
「わっがるよおおおお!! いただぎまああああああす!!!」
「わがらにゃ!?」
突然後方から聞こえてきたゆっくりできない声にちぇん親子が固まった瞬間、赤ちぇんのくわえるゆっくりフードを何者かが突進の勢いのまま奪い取った。
赤ちぇんはその勢いで吹き飛ばされ、ベンチの足にぶつかり目を回す。慌ててちぇんは我が子に駆け寄り、ぺーろぺろを始めた。
「だ、だいじょうぶ!? ちぇんのおちびちゃん、しっかりするんだよー!!」
「わ、わきゃりゅよー? わきゃりゅ、わきゃりゅんだにぇー?」
あいかわらず赤ちぇんは目を回したままのようだが、幸い命に別状はないようだ。少し安心したちぇんは赤ちぇんを尻尾でくるみ庇いながら先ほど突っ込んできた何者かに目を向けた。
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせなんだねえええぇぇ!!」
「にゃ……!?」
そこには、一匹の薄汚れた野良ちぇんがいた。赤ちぇんの食べかけていたフードを横取りし、我が物顔でがっついている。
ちぇんは注意の声をかけようとした。しかしその瞬間には、野良ちぇんの大きな声を聞きつけて四方八方からゆっくりの声が響き渡ったのである。
「わかるよー! だれかごはんさんをむーしゃむしゃしてるんだねー」
「ちぇんもむーしゃむしゃいしたいんだよー! わかれよー!」
「ちぇんのごはんさんなんだねー! だれにもわたさないんだよおお!!」
いつの間にやらどこからか現われた野良ちぇんの大群は次から次へとフードにかぶりつき、布袋ごと包みを噛み破ってちぇんに渡されたはずの数日分のフードを喰い尽くそうとしていた。
焦ったちぇんは十匹ばかりもの野良ちぇんの群れに体当たりし、止めようとした。
「だめなんだよー! それはちぇんとおちびちゃんのごはんさんなんだよー! かってにたべないでねー!!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせなんだねー!」
「ゆべにゃ!?」
野良ちぇんたちは、ちぇんに目すら向けなかった。ただうっとうしい蚊でも追い払うかのように振り回した尻尾ではたかれただけでちぇんは追い出され、そうこうしているうちにフードは空になった。
「あああああ!? ちぇんとおちびちゃんのごはんさんがあああ!?」
「それなりだったんだねー。さ、あさごはんさんをさがしにいくよー」
「いくよー。こんなんじゃぜんぜんたりないんだねー。わかるよー」
「ちょっとまってねえええええ!! ちぇんとちぇんのおちびちゃんのごはんかってにぜんぶたべたのになんでひとこともあやまってくれないのおおお!? わからないよおおおお!!」
十匹ばかりの野良ちぇんはさっさと解散しようとしたが、ちぇんの言葉に反応した野良ちぇんが三匹ばかり残った。
その野良ちぇんたちはちぇんのおぼうしのバッジを取った後のほつれがまだ真新しいことに気づき、下卑た笑みを浮かべる。
「またばかなちぇんがすてられたんだねー。わかるよー」
「しんせつなちぇんはおしえてあげるよー。のらゆっくりはこんなことなーんにもわるくないっておもわなきゃやってられないんだねー。わかれよー」
「でも、まぬけなちぇんにありがとーくらいはいってあげるよー。あさごはんごちそーさまなんだねー」
「な……んにゃ……!?」
驚きで開いた口が塞がらないとはこのことだった。それほどちぇんのチョコ脳の中の野良ゆっくり像と、目の前の野良ちぇんたちの実態はかけ離れていたのである。
無理もない。ちぇんは出演したドラマの中で架空の野良ゆっくりと共演したことは何度もあったが、皆ちぇんに親切にする至って善良な野良ゆっくりばかりしかいなかったのである。だからちぇんは野良ゆっくりは皆協力し合い、困っていたら助け合い、困難には一致団結して立ち向かう健全なゆっくりだと思い込んでいたのである。
「ひどいんだねえええ! せめて、せめておちびちゃんのぶんだけでもかえしてよおお! おねがいなんだねえええ!!」
「たべちゃったものはかえせないよー。わかれよー」
「ねぇねぇそんなことより、あんまりさわいでいると――」
「ちぇえええええええええええええええん!!」
一匹の野良ちぇんが他の野良ちぇんに注意を促そうとした時、はるか彼方からちぇん種にとって本能に刻まれたゆっくりした叫び声が響いてきた。
ちぇんはその声に、今ついさっき食糧を奪われたことも忘れてぱっと顔を輝かせた。
一方、野良ちぇんたちの表情にははっきりとした戦慄が走り素早くちぇんたちに背中を向け全速力で走り出した。
「きたああああ! らんしゃまなんだねえええ! わかるよおおおお!!」
「らんしゃまはわからないよおおおお!」
「ゆっくりしないでちぇんははやくにげるよおおおお!!」
そんなことを叫びながら、らんの声がした方向とは反対の方向に全力で逃げ出す野良ちぇんの図は明らかに異常だった。しかしそんなことにはまるで目もくれず、ちぇんは浮き足立った様子で叫び声を上げる。
「わかるよおおおおお! らんしゃまなんだねええええ!!」
「ちぇええええええええええええん!!!」
「らんしゃまああああああああああ!!!」
はたして、公園の入り口からゆっくりらんは黄金色の九尾からジェット噴射のような土煙を吹きながら現われた。
「ゆにゃ!? らんしゃまにゃんだねー! わきゃりゅよー!!」
突き飛ばされて目を回していた赤ちぇんも回復してらんを認識したのか、嬉しそうな様子でベンチから飛び出し、ゆっくりらんを出迎えた。
「らんしゃまああああああああああ!!!」
「らんしゃまああああああ!!」
「ちぇええええええええええええん!!!」
二匹のちぇん親子とゆっくりらんはお互いに向かって駆け寄り、そして最後の一歩をらんは大きく踏み切った。
ところで、らんのぺにぺにはなぜかぎんぎんにおっ勃っていた。
「わぎゃ!?」
「ちぇえええええええええええん!!!」
ぶすっ、という鈍い音と共にチョコレートクリームの飛沫が散った。
ちぇんはらんとすーりすりしようとした笑顔の体勢のまま、固まり、凍りついた。
一方らんはすこすこと残像を伴うような速度で腰を前後に振り、ぺにぺにをしごいていた。そのたびチョコレートクリームが飛び散り、小さな目玉やおぼうしといった残骸が死体から零れ落ちていく。
ギ、ギ、ギ、とでも音がしそうなほど錆びついたロボットのような動きでちぇんはらんの方へと顔を向ける。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああわがががががががががらあああああああああああああああああああああわがああらないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?!??!?」
そこには、ちぇんが命にかえても惜しくない赤ちぇんをご立派なぺにぺにで文字通り貫通し、ヘブン状態で腰を振るゆっくりらんがいた。
ピンポン球ほどの赤ちぇんに、成体ゆっくりであるらんのぺにぺにはもはや人間で言えば赤ん坊にパイルバンカーをぶち込むようなものだった。一瞬にして即死した死体をオナホールにしてしごいているも同然である。
それでも性的快感は得られたのか、ゆっくりらんは恍惚の表情で叫びながらぺにぺにから精餡である麹を発射した。
「す、す、す、すっきり~~~~~~っ!!」
「あ、あ、あ、ああああ…………お、おちびちゃん……? ちぇんの……おちびちゃん……」
地面にへたばり、ちぇんは愛する我が子の残骸を呆然と眺めた。らんがぺにぺにを引き抜くと赤ちぇんはもはや皮もチョコクリームもほとんど残っていない、何がなんだかよくわからないモノになってしまっていた。ただ、そこに残るチョコクリームと麹液の飛沫だけが惨状を示していた。
滝のように涙を流すちぇんはせめて尻尾で我が子の名残をかき集めようとする。
「おちびちゃん、おちびちゃ、おちびちゃ――わがらな!?」
「はっはっは。わざわざ尻尾さんをどけてまむまむを晒すなんてちぇんはいんっらんっさんだなぁ♪」
爽やかな声でらんは未だ収まらぬぺにぺにをなんの用意も整っていないちぇんのまむまむにぶち込み、相手の痛みや快感など全く考慮しない動きでかくかくやり始めた。
「や、やめてらんしゃま!? まだごあいさつもしてないのに!? ぜんぜんわからないよおおおお!?」
「なんにもわからなくていいぞ~~! ちぇんはただらんのためにまむまむを締めてくれているだけでいいんだからな!! す、す、すっ」
「「すっきり~~~っ!!」
ちぇんの額から茎が伸び、実ゆが実る。一瞬にして我が子を失った衝撃からすぐに次の我が子を授かったちぇんはあまりのスピード展開に全然ゆっくりできなかった。
しかしらんはまだまだ全然すっきりしたりないのか、さらに腰を振りちぇんを孕まそうと次の精餡をチャージし始めている。
「やめてねらんしゃまあああ~~!? なんでこんなひどいことするのかわからないんだってばああああ~~!!」
「すっきり~~!!」
結局、らんはちぇんを相手に五回もすっきりしてからぺにぺにをまむまむから引き抜いた。
頭上に覆い茂る茎の多さにちぇんは青ざめる。これほどの実ゆを養う栄養を調達できるアテなどあるわけもない。いや、今の朝ごはんですらちぇんは食べられるかどうか怪しいのだ。
しかしちぇんのそんな心配すら杞憂だった。
「むーしゃむーしゃ。それなりー」
「わが!?」
らんはちぇんの茎にかぶりつき、まだ形もろくにできていない実ゆごと食いちぎり咀嚼してごっくんと嚥下した。
「な、な、な、なにしてるのらんしゃま~~~!?」
「なにって、朝食前の運動が終わったからな。朝ごはんをいただいているところさ!」
「らんしゃまがたべているのはおちびちゃんだよおおおお!? らんしゃまとちぇんのおちびちゃんなんだよおおおおお!?」
「ああ、とってもおいしいぞ♪ あ、これにはらんによく似たおちびちゃんが成っているな。ラッキーだなちぇん! ちぇんは希少種のらんのおちびちゃんを授かったんだからな! 大切に育てるんだぞ! じゃ、他の実ゆと茎さんはありがたくいただきまーす」
「いやああああああああああああああ!!!?」
茎に絶賛栄養を吸い取られている最中であるちぇんは、らんの暴食に対して抵抗することも逃げることもできなかった。
結局宣言通り、一匹だけ実った赤らんの茎だけ残されてちぇんへの非道をらんは止めた。
満腹になってげっぷするらんに、なんとか動けるだけの体力を取り戻したちぇんは涙を流しながら訴えた。
「ひどいよ、ひどいよらんしゃまあ~~! ちぇんが、ちぇんがなにかしたっていうのおお~~!? わからないよおおお!!」
「え? 別にちぇんは何も悪いことなんかしてないぞ? っていうか、らんがすっきりしたい時はちぇんがまむまむを差し出すのは当然だろ?」
「な、なにいってるのらんしゃま?」
「何って……おまえたちちぇんなんて、どこに行っても数え切れないほどいるじゃないか。人間さんも言っていたぞ。ちぇんを増やさずにすっきりするなら好きなだけすればいいって。だかららんは、ちぇんの成った茎さんは全部食べてあげたわけだ! えっへん」
もはやちぇんの理解できる範疇を越えた理屈をらんは当たり前のように、かつ自慢気に言ってのけた。
このらんはバッジをどこにも付けていないただの野良だ。親は飼いゆっくりのちぇんとらんの番で、生まれた直後に飼い主に捨てられた経緯を持つ。ちなみに育ての親はそこらへんの野良ちぇんである。
そんならんがなぜ本能的に愛情を覚えるはずのちぇんにこんな凶行をしでかしたのかというと、現在日本では膨大な数の野良ちぇんが溢れているので、らんの中でちぇん種に対する愛情がインスタントで消耗品扱いな方向へとシフトチェンジしたのである。
また、このらんは野良ちぇんに辟易している人間にちぇんを殺せば殺すほど生存権を認めてやると吹き込まれたせいで、愛情と殺害を両立させるすっきり死をちぇんに強要する死神となってしまったのである。
「なんでもドラマさんでちぇんブームが来たけど、結局みんな飽きちゃって捨てたらしいぞ。でも大丈夫だ、心配ない。らんはどんなちぇんでも分け隔てなく愛情を注いで永遠にゆっくりさせてあげるからな。あ、でもちぇんはらんのおちびちゃんがいるからそんなことはしないぞ♪」
「え……?」
命を見逃すというらんの発言より、明らかにゆっくりしていない一言でちぇんは我に返った。
「ドラマ……さんで? ちぇん……ブーム? みんな……あきて…………すてた?」
「ああ、なんでも親のらんを探すちぇんががんばりまくるっていうおはなしだったらしいな。というわけで、ちぇんもらんのおちびちゃんを育てるのにがんばりまくってくれ。それじゃ、またねー」
始終軽い調子でらんは言い切り、ちぇんの前から姿を消した。
呆然としてちぇんは、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「ちぇんブーム……ドラマさんで……みんなあきて……すてられた……
……じゃあ……じゃあ……じゃあ!?
いやだいやだいやだわからないよおおおおおおおお!! わかりたくないよおおおおおお!!」
だが、ちぇんは完全に理解してしまった。
日本全国を巻き込んだ「らんをたずねて三千ゆん」の人気は空前のちぇんブームを起こし、老いも若きもちぇんを買った。もちろんそんな流行に流されただけの人間が徐々に成長しかつての赤ゆ子ゆ時代の可愛さを失い、さらにきちんとした飼いゆ知識を持たずしつけも仕込まなかったためゲス化させてしまったちぇんを飼い続けるわけもなく、数ヶ月で無責任に捨てた。
捨てられた飼いちぇんはさらに子どもを増やし、結果がこんな住宅地の小さな公園に出現する野良ゆっくりがちぇん種オンリーという異常事態である。
頭の良いちぇんは、らんの言葉と自らが体験した状況から何もかも理解した。
それからちぇんは我が子を失ったショックとその遠因を知って呆然としていたが、しばらくするとスイッチが切り替わったかのようにもしゃもしゃと牛のような無感情な動作でそこらへんの雑草を食べ始めた。
通常の飼いゆと比較しても圧倒的に舌が肥えているはずのちぇんだったが、もはや味わったり楽しんで食事をしようというゆっくりの生物的本能が凍りついていた。ピンピンに尖った葉先などは容赦なくちぇんの口内や舌を切り裂きチョコだらけにするが、その痛みすら感じていないかのようにちぇんはひたすら雑草を腹の中に詰め込んでゆく。
ほんの幼い頃からストレス死しないのが不思議な環境で育てられたちぇんは、ある一定以上の精神負荷がかかるとこのように何も感じない状態になって精神的逃避を計る術を身につけてしまっていた。
今ちぇんの中を満たす心はたった一つだけだった。
(おちびちゃん……ちぇんにはまだおちびちゃんがいるよ……おちびちゃんのためにもちぇんはまだ死ねないよ……)
らんに殺害された愛する赤ちぇんはもういない。だがそのらんに授けられた実ゆっくりのらんが今のちぇんの子どもだ。この子を無事に産み落とし、立派に育てることだけが今のちぇんを動かすたった一つのエネルギーだった。
そうしてちぇんは、起きている間はひたすら雑草を腹の中に入れ、それ以外の間はベンチの下で眠るという生活を送り続けた。
他の野良ちぇんたちはこの新参者に対しどう対処すべきか迷っていたが、今のところ雑草を食べているだけなので食糧の奪い合いになることはなく、とりあえず様子見ということでなんとなく方向性が定まった。
公園の管理者が行う年に一、二度の草むしりの手間が省けるようになった頃、ちぇんの額に生えた茎からピンポン玉サイズにまで成長した赤らんが生まれ落ちた。
「ちぇんのおちびちゃん、ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしちぇいっちぇね? なにをいっちぇるんだこのグズちぇん! つーじょーしゅ! きしょーしゅのらんはおなきゃがぺーこぺこしゃんでじぇんじぇんゆっきゅりできちぇにゃいんだぞ! ゆっきゅりしないでいましゅぐごはんしゃんをよういしろ!!」
それが、生まれ落ちた次の我が子である赤らんの産声だった。
ちぇんはそんな我が子の酷い第一声にうろたえることも落ち込むこともなく茎を地面にすりつけて折り、赤らんの前に出してやった。
「はいおちびちゃん。ごはんさんなんだねー」
「こんにゃかちゃいのたべれりゅわけないだろ!? ばきゃなのか!? しね!!」
「ごめんねー。ごめんねー。いまやわらかくするからねー」
ちぇんは茎をもっきゅもっきゅと噛み潰し、改めて赤らんの前に出す。すると赤らんはいただきますの挨拶もお礼の言葉も無しに速攻でがっつき始めた。
どこでどのような因子が出てこの赤らんが生まれついてのゲスになったのかはわからない。もしかすると今を生き延び出産を迎えるために、ゆっくりにとってほとんど栄養のない雑草で栄養を補ったこと、そして胎教という言葉からはかけ離れた感情の無いロボットのようなサイクル生活が、赤らんの精神を実ゆの時点で歪めさせたのかもしれなかったが、それはもはや神のみぞ知る領域だ。
しかしいずれにせよ、ちぇんはげっそりと痩せこけた顔でにっこり微笑んで赤らんに言った。
「おちびちゃんがげんきにうまれてちぇんはうれしいんだねー。わかるよー」
「しょくじちゅうにはなしかけりゅな! グズ! つーじょーしゅ!!」
そして、ちぇんの本格的な野良としての子育て生活が始まった。
とは言っても食糧の調達方法などドラマに出演した知識で補えるものではないし、他の野良ちぇんは命を取らないかわりに生き延びる術を教えてやることもなく、ちぇん親子を放置状態のままでいたのでまともな方法で赤らんを育てることなどちぇんにはできなかった。
赤らんにどやされながらドラマで培った知識を総動員しちぇんが考え出した方法は、結局芸で喰っていくことだった。
「ほら、見てよ見てよあのちぇん! あれがわたしの言ってたすごい芸するちぇんだよ!」
ショートカットの活発そうな小学生くらいの少女が、同じ年頃の眼鏡の少女をちぇんが住処とする公園に引っ張っていった。
そこではシーソーをジャンプ台にしたちぇんが1メートル近くもの高さを跳躍して空中で二回転半捻りし、見事にシーソーの反対側に着地していた。
見物人である幼児たちのどよめきの中、さらにちぇんは着地の勢いをバネにしてさらなる跳躍を行い空中で尻尾を大きく広げぐるぐるとスピンしながら向こう側の砂場に着地。尻尾の先端が美しい旋条の軌跡を砂地に描き出す。
その芸を見た幼児たちは拍手を送りながらちぇんに給食の残りや駄菓子の欠片などをやるのだった。
「……す、すご」
「ね? 言ったでしょ? それにあのちぇんができる芸はジャンプだけじゃないのよ。ちぇ~~ん!」
「あ、おねーさん! ゆっくりしていってね~!」
手を振りながら近づいてきた少女にちぇんは営業スマイルを浮かべる。一方少女はポッキーの包み袋を破いて一本投げ渡してから、ちぇんにリクエストを出した。
「一曲お願い!」
「わかったよー」
「ちょ、ま、あんたゆっくりに歌わせるなんてマジやめ――」
ゆっくりの音楽感覚が人間で言えばひどい音痴だと知っていたらしい眼鏡の少女は止めようとしたが、その時には大きく息を吸い込んだちぇんは歌詞の第一節を歌い始めていた。
眼鏡の少女の目がレンズの奥で大きく開かれる。そのレンズには小気味の良いステップを刻み、時にターンを交え尻尾を振り振り耳をパタパタ、おぼうしをダイナミックに投げてキャッチするアクションも含んだ、実に見事なダンスを踊りながら一級の歌声を披露するちぇんの姿が映っていた。
今度もさらなる拍手喝采を受けて歌い終えたちぇんに、少女はポッキーを袋ごと渡してやる。そのお捻りを受け取って仕舞う間もなく次から次へと他の幼児たちがちぇんのやる次の芸のリクエストを言い出していた。
そんな様子を見ていた眼鏡の少女は、ショートカットの少女に十円玉を一枚渡す。
「……私今食べ物持ってないからそれでなんか買ってきてまた今度ちぇんにやっといて」
「え? 奢りじゃないの?」
「誰がそんなことするかバカ。というか、あのちぇんただごとじゃないわよ。明らかに人間の訓練……それもしっかりとしたプロの指導を受けた本物の芸よ。こんな寂れた公園で見れるレベルじゃないわ」
「うん、お得よね!」
「だからそこじゃないの問題は! 私が疑問なのは、あそこまですごい芸をできるちぇんを捨てる人間がいるなんて信じられないってことなの」
ポッキーを齧っていた少女は、そう眼鏡の少女に指摘されてはたと気づいたかのように口の動きを止め、あらぬ方向を見上げる。
「……そういやそうね。いや、でも逃げてきたのかもよ?」
「辛い練習に耐えかねて、とかかしらね? あーもう、話をしてみたいってのに他の連中が邪魔でできそうにもない」
「どんな話したいのさ?」
「まずはなんで飼いゆにならないのかってことね。あれだけ芸ができるってことは、つまりそれだけ基礎がしっかりしているってことよ。下手な金バッジのゆっくり飼うよりずっと飼いやすいと思うわ」
「あ、その理由ならあれ」
「どれ?」
少女がポッキーで指差す方向を、少女は眼鏡のズレを直しながら身を乗り出して眺めた。
そこには、ベンチの下で散乱したお菓子のクズに囲まれて腹を出しながら眠る、ふてぶてしい表情の子らんがいた。
眼鏡の少女は嫌なものでも見たというかのように眉間に皺を作りながら目線を逸らす。
「何よあのうすぎったないの」
「あのちぇんの子ども」
「ふーん。そういや最近なんでか野良ちぇんが連れている子どもってらん種しか見かけないんだけど、なんかおかしくない?」
「あ、そうなん? まぁともかく、あれが外見も口も汚くって、とてもじゃないけど飼いたくない奴だからさー。親のちぇんはあのらんを飼わないと自分は嫌だっていうし、むしろらんだけでもって頼み込んでくるし」
「まるで葉っぱ付き大根買ったら大根が腐っていたみたいな話ね……」
「例えの意味がわからん。で、他にも聞きたいことって?」
「捨てられたのか逃げてきたのか」
「悪趣味~」
「いいじゃない減るもんじゃなし。いやでも、私としてもあいつが心配で聞きたいってのもあるのよ? 逃げてきたっていうのなら、こんな目立つことをしていたら――見つかって捕まっちゃうゾ――ってね」
「ああなるへそ」
「あと最後に一つ」
「まだあんの?」
「知識や力を見せびらかすことはやめた方がいいってね」
そういう少女の眼鏡の奥の瞳は鋭く険しかった。
合点がいかないらしいショートカットの少女は、眼鏡の少女に解説を求める。
「どゆこと?」
「世の中には私たちのような、あのちぇんに食べ物あげていいもの見せてもらっただけで満足する人間しかいないわけじゃないってこと」
「そりゃあゆっくりを虐待するのが大好きって人もいるからね」
「それもあるけど……いずれにせよ、無力な奴、純粋な奴が無自覚にだろうがなんだろうが才能を周りに見せびらかすのは良くないわ。その才能や能力を利用して美味い汁を吸おうっていう奴が、まるでハエやカビのように湧いて出てくる」
眼鏡の少女はそう言うと、ベンチに置いていたポッキーに群がろうとしていたアリを指で弾いた。
「はい、おちびちゃん! きょうもしんせつなにんげんさんにたくっさんっ、ごはんさんをもらってきたよー」
「はやくそこにおけクズおや! がーつがーつ、しあわせー!」
子らんがちぇんの稼ぎを遠慮なく貪る光景も、すっかりいつものものとなった。
カロリーの豊富な人間の食事を腹いっぱい食べて育てられた子らんは、既に小柄な親ちぇんの一回り小さい体格にまで育っていた。他の野良ちぇんも、ここまで立派に育ったらんに手出しして無事で済むはずはないと、ちぇんの稼ぎを横取りしようとする者は出なかったくらいである。
ここまで来ると野良ゆっくりならばそろそろ独り立ちを考える頃合いなのだが、ちぇんはげっそりとしながらもゆっくりとした表情でらんの食事する姿を眺めている。
どれだけ罵られようとそしられようと、ちぇんにとってはたった一匹の愛する我が子だ。もちろん失った素直な赤ちぇんを思い出すと涙が止まらなくなるが、だからと言って今の子らんが可愛くなくなるわけではない。少なくとも、ちぇん種の本能によって外見だけは実にゆっくりしている姿には見えているのだ。
「あ、いたいた」
そんな歪んではいるが幸せな親子の風景に、一人の少年の声が割り込んできた。
既に陽は暮れている。こんな公園にやってくる人間などもういないはず――そう思いながらちぇんが顔を上げると、学生服を着た少年は鞄から彫刻刀を出しキャップを外していた。
そして突然ベンチの下に手を突っ込んできたかと思うと、ちぇんの髪の毛を乱暴に掴んで街灯の下に引きずり出した。
「いだだだ!? わ、わからないよー!?」
「だまれクズおや!」
「黙れだってさー」
「わがっ!?」
子らんは何が起こっているのか見もせずに食事を続けていた。当然助けてくれるはずもなく、ちぇんは少年が出してきた空き缶を口の中に突っ込まれて即席の猿轡を噛まされる。
少年はちぇんを押さえ込んだまま彫刻刀を逆手に握ると、その下腹部へと容赦なく刃を振り下ろした。
「わっがあああああ!!?!?」
「うっわマジチョコ吹いてくる。キッモ。マジキモいわ。しかもぬる! 温度的な意味と質感的な意味で二重にぬる! ああ彫刻刀これじゃバカになっちまうじゃん。ふざけんな。マジ弁償しろ」
「わが! わがあ! わがあああああああああああ!!」
ノコギリのように乱暴な手つきで少年はちぇんの体を切除しようとしていた。そこは狙いは乱雑だが、間違いなくちぇんのまむまむであり、子供を作るための大事な器官である。
結局彫刻刀ではまともに切れないとわかったらしい少年は、中途半端に切れた部分に嫌そうな顔で手を突っ込み、みちみちとちぇんの膣を引きちぎって抉り出し、公園の茂みに投げ捨てた。
「きったねぇ~~~! あーくそ、なんでこの公園水道も用意してねーんだよ! ハンカチ……出すのも汚れるな。貸せ」
「あ!? なにするんだクソジジイ!!」
子らんの頭に手を伸ばした少年は、取り上げたおぼうしでちぇんのチョコまみれになった手を拭いてやっぱり捨てた。
唖然とした表情でその惨状を見ていた子らんは、チョコで汚れよれよれになってしまったおぼうしに駆け寄り、必死でぺーろぺろを始めた。
「わーん! らんのイケてるおぼうしさんがー!!」
「ま、あっちはあっちでじゃれているからいいとして、おーいちぇん。意識はあるかー?」
「わ、わからな……わからないよぉぉぉ……」
空き缶を口から外した少年はちぇんの頬を叩き、意識をしっかりさせるとどっこいしょとベンチに座り込んで鞄の中から財布を取り出した。
それを虚ろな目をするちぇんの前に振りかざし、にやにやと笑みを浮かべる。
「わかるかちぇん? これはお財布さんだ」
「わか……るよー? おかねさん……いれるんだよねー……」
「おお、話がはえーじゃん。本当に頭いいんだなお前。じゃ、俺がこれから言うのもわかるよな? この――」
「ああ、らんのおぼうしさん!?」
チョコとらんの唾液まみれになったおぼうしを嫌そうにつまんだ少年はちぇんにそれを見せびらかし、次の言葉を吐いた。
「おちびちゃんのおぼうしを返してほしけりゃお財布さんを取ってこい」
「………………え?」
「手段は問わない……が、一番簡単なのはたぶん空き巣だろうなぁ~。誰もいない家に入り込んで、財布取ってくる。OK? 入る手段? そりゃガラス割って入ればいいんじゃねぇの? ま、お前が考えろ。財布手に入れたら誰にも見つからないようにここで持ってて待ってろ。たまーに取りに来て、ある程度の金額たまったらおぼうしさんは返してやるよ」
ケラケラと笑った少年はらんのおぼうしをビニール袋に入れてしっかりと口を縛り、鞄の中に仕舞う。
呆気に取られるちぇん親子に、少年はとどめの一言を置いて去って行った。
「あ、新しいおちびちゃん作ってどうにかしようとか無理だからな。お前のまむまむぐっちょんぐっちょんにして二度と子供が産めない体にしてやったから。じゃーねー」
来た時と同じくらい突然に少年は去っていった。
後には、まむまむをひきちぎられ破壊された息も絶え絶えのちぇんと、おぼうしをなくし狐耳を夜気にさらけ出した子らんだけが残された。
「……で、今に至ると」
「はぃぃ……」
ちぇんはバラバラに砕け散ったガラス片の脇でボロボロの体になって横たわっていた。この家の住人である青年に割れた窓ガラスの掃除に必要な雑巾がわりに使われ、無数のガラス片をその身に突き刺されたのである。
だが、子らんに比べればまだマシであった。
おぼうしを失った子らんは、さらに尻尾まで全部失い狐耳も片方をひきちぎられてしまっていた。それら全ての残骸はゴミ箱の中である。
青年はため息をついた。
「最近ここらへんで空き巣がよく出没しているって聞いたが、なぜだか通帳とかカードとかは盗られなくって財布だけが盗られていたんだよな。窓ガラスぶち破るなんて乱暴な入り方の割には足跡とか残ってなくてちぐはぐだと言われていたら、まさかゆっくりが犯人とは……いや人ですらないって」
ちぇんは、少年の言いつけ通りらんのおぼうしを取り返すため空き巣を始めた。
最初は上手く言っていた――つもりだった。なるべく人のいない家、時間帯を選び、素早く仕事を終えていた。自分のおぼうしがかかっているのだからと、珍しく子らんも財布探しなどを手伝ってくれた。
だが、いつも昼間は静かだと思い込んでいたこの家には、なぜか男のくせにやたらと長い髪を伸ばし無精髭を生やしただらしのない姿の青年がいて、ちぇんたちをとっ捕まえたのである。
青年は子らんを人質に、一体なぜこんなことをしたのかと聞いてきた。そしてちぇんは、なぜだか一番最初の最初、自分が生まれた所から話したのである。主人に口封じされていたはずの、自分があの「らんをたずねて三千ゆん」の主演ちぇんだということまでバラして。
一時間ばかりもの長い話を青年は割られた窓ガラスの掃除をしながら聞き終え、やっと膠着状態は終わったのである。
「わがっだららんをだずげろおおお~~~!! だずげだらどっどどじね、グゾニードおおおお!!」
「クソニートと磁界王様って似てるって思わね?」
「いだぁ!?」
「おちびちゃん!?」
あんよにガラス片を滅多刺しにされて身動きを取れない子らんの最後の耳を青年はひきちぎり、一際巨大なガラス片を手に取った。
何をするのか悟ったちぇんは、青年に懇願した。
「やめてねー! ちぇんはどうなってもいいんだよー! だから、だからおちびちゃんだけはたすけてあげてほしいんだよー! わかってねー!!」
「そうだ、らんはきしょうしゅなんだぞ! おまえみたいなくってねるだけのニートなんかよりずっとずっときしょうなんだぞ!!」
「ちぇんはもうおちびちゃんをつくれないんだよー! そのらんしゃまがずっとゆっくりしちゃったら、ちぇんにはもうなにものこされていないんだよー!! おねがいです! ほんとうにおねがいです!! どうか、どうかみのがしてねー!!」
「そうか」
青年はガラス片を広げた新聞紙に置き、子らんを両手で抱えた。
「だが断る」
「びにゃ!?」
引きちぎられた耳の間に両指を突き刺した青年は、子らんを真っ二つに引き裂いた。
ほかほかと湯気を上げる酢飯の山を見て、ちぇんは魂の絶叫を上げた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! わがらなああああああああ!! わからないいいいいいいい! わからないよおおおおおおおおおお!!!!」
「あ、これ生ゴミに出していいのか? 足にガラス突っ込んだままだったっけ」
とりあえず上辺だけ取っちまおうと青年はゴム手袋を嵌めた手で子らんの残骸をゴミ袋に詰めてゆく。
その身を己の流した涙で溶かしながら、身動きの取れないちぇんは青年に叫び、問いかけた。
「どうして、どうしてこんなひどいことするのおおおお!? わからないよおおおおおおお!!」
「まぁ……確かにお前のゆん生には同情するところがないでもない。それに対し、俺の対処は非道と言えるだろう……が、なぜか俺の心はあんま痛まない。だから生かしておいても処理が面倒だなーって思ったので、殺しました」
「そんなの、そんなのってないよおおおおおお!! ちぇんがなにしたっていうのおおおお!? おしえてよ、おしえてよにんげんさん!! ちぇんがなにかした!? ちぇんはがんばってきたんだよおおおお! ただ、かぞくといっしょにゆっくりしたくてがんばってがんばってがんばりまくってきただけなのにいいいいいい!!」
「あーそれだ!」
青年はそのちぇんの言葉に対し、びしっと指差した。
「お前が本当にあのテレビに出てたちぇんなのかどうかってことはともかく、あのテレビに出ていた時分から『がんばるんだねー』がイラッときてたんだよ俺は! 見てなかったけどな」
「にゃ、にゃんで!? ちぇんはただ、らんしゃまに……パパやママにあいたかっただけだよおお! おちびちゃんとゆっくりしたかっただけだよおおおお! そのためにがんばってなにがわるいのおおおおお!? わからないよおおおお!!」
「いや、それは悪くない。それは良いことだ。夢を叶えるために努力することは大切だ。お前のその姿勢は何一つ間違っていないぞ」「なら、ならにゃんで!?」
「お前のゆん生を聞いてきて、ドラマの中だけじゃなくお前自身が頑張ってきたのはわかった。だが、その頑張り方が間違っていた。それだけだ」
「……わからないよー?」
青年はらんのあんよをかき集めて広げた新聞紙に捨て、ゴム手袋を脱いだ。
そしてちぇんを指差す。
「お前、実の親と会うために具体的な方法を一度でも考えたことあるか?」
「え……それは……ちぇんが……ゆうめいになれば……」
「いかにも周りの連中に吹き込まれましたって理屈だ。いいか、ちぇん。夢を叶えるために努力は必要だ。だが、周囲に『これが夢を叶える方法ですよ』と言われて、それを盲目的にこなすことを努力とは言わん。それは決して夢を叶える本当の方法とは限らないからだ。いや、自分で探した方法ですらそうだ。最終的に叶わなかった夢に費やした頑張りは……ただの徒労だ。努力とは言わない」
「え……え……?」
「そりゃお前が頑張れば周囲はよく褒めただろうよ。得するのは褒めている連中だからな。頑張りの中身を吟味せずに、お前は利用されてし尽くされて、結局空き巣なんてヤクザな真似までするハメになって、しかもやっぱりまだ利用されている。あのなぁお前、そのおぼうし取ったってガキが本当に約束守るとでも思ってんのか?」
「そんな……そんな……」
「ま……俺だって同じバカやってニートやっているハメになっているわけだから、ゆっくりのお前にもっと上手くやれってのは酷な話なんだろうがな。それと俺が今迷惑喰っているのは別だ」
「わからない……わからないよおおおおお……ちぇんはがんばったのに……がんばったのに、どうしてにんげんさんは……ひどい……ひどすぎるよおおお……こんなのあんまりだよおおおおお!!」
青年に指摘され、今までのゆん生を振り返ったちぇんは誰も彼もがちぇんを利用して自分の欲望を満たそうとしているだけにすぎなかったということを、理解した。
そんなちぇんを悲しそうに見つめた青年は、電話をかけに出かけて、五分くらいしてから戻ってきた。
「おにいさん……どうして、どうしてにんげんさんはこんなひどいことができるの!? ぜんぜんわからないよー!」
「そりゃあなぁ……お前らゆっくりが、消耗品だからじゃね?」
「そんなの……なっとくできないよぉ……わからないよおおお……」
「あ、ごめん訂正。全部とは言わないが、大抵の人間は人間も何もかも消耗品として見てるわ。つまり……お前の送った苦労多きゆん生は、別にゆっくりに限るもんじゃない。慰めになるかどうかわからんが……」
「わからないよ……わからないよ……わかりたくないよぉ……」
「別にわかんなくてもいいがなぁ。でもお前に空き巣させたガキだけは覚えておけよー。こういうクソったれがいるから世の中ロクでもねぇんだ。今から事情説明した加工所がお前迎えに来るからさー」
「わかりたくない……わかりたくなひぃ……」
ぴんぽーん、というチャイムの音が玄関から響いてきた。
青年はちぇんを抱え、玄関へと出て行った。
anko2009 anko2010 足りないらんと足りすぎるちぇん(前後)
anko2227 anko2228 保母らん(前後)
anko2295 ブリーダーお兄さんの一日
anko2356 anko2357 浮気(前後)
anko2402 飛び魚のアーチをくぐって
anko2422 anko2423 ねこっかぶりと太陽に向く花(前後)
anko2645 野良ゆ生活はゆっくりできるね!!!
anko2646 anko2647 らんしゃまとちぇんの楽園(繁栄編)(衰退編)
anko3284 今日からちぇんを飼う貴方へ
※後日談
ちぇん「あのあとかこうじょさんのしょくいんのおにーさんにじじょうをせつめいしたらおにーさんはゆっくりのペットほうあんについてぎもんをいだいているひとでイギリスさんのどうぶつあいごだんたいさんにれんらくしてゆっくりペットほうあんのかいせいうんどうをしてさいばんでしょうそしてちぇんもゆんせいのたいけんだんをほんにしたらばかうれしていまはみよりのないかわいそうなすてゆっくりをほごしているおねーさんといっしょにしあわせー! にくらしているんだよー! それもこれもおにーさんのアドバイスさんのおかげなんだねー! わかるよー!!」
おにーさん「クソッたれリアゆん爆発しろ」