アークナイツ シナリオ集

無名氏の戦争

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無名氏の戦争

Scoutに救出されたロドスの前衛オペレーターは、ヘラグがパトリオットと話しているタイミングで目を覚ました。Scoutが残した依頼に向き合い、前衛オペレーターも自分の決断を下した。


前衛オペレーター「うう……。痛ッ……。あれ?俺、どうなったんだ?ここはどこだ?……一体誰が……。そうだ!チェルノボーグの作戦に参加してドクターの救出に——!隊長!いや、違う……隊長は……。……隊長……クッ……。ん?この紙切れはなんだ?いや待て、コイツはロドスで使われている特殊用紙!一体誰が……。あのあと、何が起きたんだ……。うーん、細かい字で書き殴られているな……。」

ロドス所属のオペレーターへ:まずは適当な場所で身を潜め、落ち着いてからこれを読んでほしい。君のドッグタグを確認したかったが、今は余裕がない。また別の機会に名前を教えてくれ。書き殴りでやや読みにくいかも知れないが、必ず最期まで目を通して欲しい。恐らく君が起きたとき、当面の危機は去っているはずだ。ここからは慌てずに行動した方がいいだろう。今の君の心理状態からすれば、すぐロドスへ撤退したいと考えるだろう。もしまだ完全に暗くなっていないなら止めておけ。敵に発見されるだけだ。当面の敵は去ったと言っても、まだ君自身は、敵の大部隊の中に孤立した存在だ。

前衛オペレーター「これは隊長の筆跡じゃない……。となると他のロドスの仲間が書いたのか?それにしても時間がないと言っている割には長く書いてあるな。なぜ俺を起こして直接言わなかったんだ——」

???「君か。」

前衛オペレーター(あれ?この声は?まさかレユニオンか、クソッ!……いや、待て、この声はどこかで聞いたことが……確かあの診療所の——)

ヘラグ「ほぅ…君たちは完全にチェルノボーグを陥落させることができたのだな。これは祝福すべきだろうか。」

???「——」

ヘラグ「しかし、まさか我々が二人とも鉱石病に蝕まれることになろうとはな……。」

???「やはり本当に、あなただったか。ただの、噂かと思って。」

ヘラグ「ああ、久しいな。もう何十年になるか。ボジョカスティ。いや、今の君は「パトリオット」と呼ぶべきか?」

パトリオット「……将軍。私を覚えて、いるのか。」

ヘラグ「無論だ。君があの時ブリザードの中で盾兵を率いて要塞へ支援に来てくれなければ、私とバークレイズ、そしてセミョーンも、皆あのカシミエージュペガサス騎士団のシルバーランスにやられていた。」

パトリオット「私の戦士たちは、勇敢だ。そして彼らは、犠牲すら厭わない。」

ヘラグ「ところで、どうしたんだ?君のその話し方、数十年前からずいぶん変わったようだが。君が兵たちの前で堂々と啖呵を切る様子を見たことがある。あの禿頭の屠殺師バークレイズですら拍手と喝采を送っていたな。」

パトリオット「鉱石病で、声帯が冒された……。長い言葉を、発することが、できない。可笑しく聞こえるのは、無理もない。」

ヘラグ「——それにしても今の君の立場は……。」

パトリオット「そうだ。」

ヘラグ「まさか北原のゲリラ部隊のリーダーが君だったとはな……。十数人のウェンディゴのうち、一番可能性が低いのが君だと思っていた。青ヒゲのアレクセイを覚えているか?そう、あの騎兵隊のアレクセイだ。奴から、君が生粋のウルサス軍人として元帥まで行けるか賭けをしないか?と持ちかけられたのをまだ覚えている。」

パトリオット「私は、ただの大尉に、過ぎない。将軍、時代は変わった。」

ヘラグ「……冗談だ。君の軍への忠誠心とその功績、作戦立案能力の高さ……君はウルサスで最も優れた現場指揮官の一人だった。」

パトリオット「買いかぶり、過ぎだ。それに、私は、サルカズなのだ。結局のところな。」

ヘラグ「君が将官として相応しくないというのなら、他のウルサスの将校たちは、能力不足の罪ですべて軍事法廷の被告になるだろうな。ただ、もう生きている者は居ないが……。」

パトリオット「私は彼らより、少しだけ、運が良かっただけ。貴方も、同じだ。生き残っている。何より陛下が、仰っていた。軍人というものは、国のために戦う。階級のためでは、なく。」

ヘラグ「ああ、そうだ。そしてこうも仰っていた。”ウルサスを強固なものにしているのは、血統ではなく信仰だ”と。しかしな、今となっては、私はもう陛下のご冥福を願うだけだ。今の皇帝は、相変わらず君たちをウルサスの戦士ではなく、怪物として扱っているようだな。それが理由で君と君たちの種族を迫害しているわけか。」

パトリオット「あの寛容な陛下は、もう亡くなった。彼らが、そうする理由、私も理解できる。ウルサスは、無数の戦争を貪る、まさに野獣。世界は容易く、飲み込まれる。私の存在など、影響はない。」

ヘラグ「つまり君がウルサスを離れた原因は、軍とは関係ないのだな。」

パトリオット「そうだ、それは気にして、いない。私はただ、戦士たちと、肩を並べて、戦いたかっただけだ。……。将軍、座ってくれ。酒だ、まだ少しある。北方から、持ってきた、ものだ。」

ヘラグ「……すまない、こちらはあまり時間がないのだ。また次の機会に酌み交わして、昔話でもするとしよう。」

パトリオット「そうか……わかった。問題ない。」

パトリオット「四番街に向かい、生存者を探せ。怖がらせないように、注意を払うんだ。できる限り、死傷者を減らせ。使える物資は、集めろ。我々の物資も、厳しい状況だ。」

レユニオン構成員「承知いたしました!」

パトリオット「あなたは死んだと、思っていた。」

ヘラグ「名を捨てて隠居するのは、過去と死別したようなものだ。今の私に、過去との繋がりはない。」

パトリオット「ここが、隠棲の地といえるのか?理想の欠片もない。」

ヘラグ「そうだな。確かにチェルノボーグは適してないな。天災の被害を受けていようがなかろうと。」

パトリオット「ここを、離れるのか。」

ヘラグ「診療所の被害は、略奪のおかげで壊滅的だ。ある程度は避難させていたが。それでもここを離れざるを得ない。だが、君の噂を耳にしてな。それを確かめたくてこうして留まっていたのだ。」

パトリオット「私に、それだけの価値はない。危険だ。」

ヘラグ「もう数えるぐらいに減ってしまった昔の友人が居るというのだ。その姿ぐらいは確かめておきたい。」

パトリオット「違うな、それは関係ない、だろう。」

ヘラグ「フッ……。」

パトリオット「……徹底的に、誰がやったか調べよう。診療所の件、明らかに、常軌を逸して、いる。」

ヘラグ「その必要はない。というよりも、君がいたのなら、今回の件をレユニオンが起こした可能性はいっそう低くなった。」

パトリオット「わからない。レユニオンは、バラバラだ。レユニオン同士でも、隔たりは大きい。しかし将軍。あなたは、レユニオンの一員に、なる資格が、ある。ウルサスは、解放される。感染者と、健常者は、平等になる。」

ヘラグ「……。あれを見てみろ。私の左手側のだ。あの源石に貫かれた建物が見えるか。」

パトリオット「ああ、見える。」

ヘラグ「あそこはかつて普通のショッピングモールだった。あの周囲、三区画ほどの住民たちは、みんな足繫くあそこに通っていたものだ。」

パトリオット「天災は、チェルノボーグを、破壊した。要塞も、都市も全て。賛同できない、やり方だったが。必要だった。どうしようもない。」

ヘラグ「昔のこの街は、交差点がイルミネーションの光の帯で彩られ、街中がランプの暖かな光に包まれていた。」

パトリオット「感染者には、それを享受する、権利がなかった。」

ヘラグ「だから君たちは革命という大きなランプに火を放ったのだろう。しかし私はただ、あのショッピングモールのような人々の拠り所を作りたいだけだ。これが君らと我々との違いだ。」

パトリオット「——昔なら、貴方は絶対に、こんな風な妥協など、しなかった。」

ヘラグ「あるいはそうかも知れない。ロドスの行末が明るいものとは限らないが、ただこの場所に対して、もう何の感情も湧かないのでな。」

パトリオット「あなたはただ、祖国と戦いたくないだけだ、将軍。この都市を、感染者たちを、そして源石採掘場に、打ち捨てられ、死を待つだけの人々を、見るべきだ。もっとも、貴方ほどの人なら、迫害されたところで、それを恐れないだろうが。」

ヘラグ「ああ、ウルサスが我々に対して害を及ぼすというのなら、それ相応の返礼をするまでだ。だが、レユニオンが”革命”という名目で起こした行動と、我々がする返礼は全く違う。眼前の広がるこの光景を見てみろ——レユニオンは戦争を起こしているんだ。一度の戦争でどれだけの人が死ぬ?一度の内戦でどれだけのウルサス人が命を落とす?ウルサス人同士が食らいつき、お互いを血祭りにあげ…。その先に行きつくのは、ウルサス人自らがウルサス人を滅ぼすディストピアだ。」

パトリオット「将軍……。」

ヘラグ「——」

パトリオット「では問いたい。もしウルサスが、感染者であっても、同じウルサス人と、見てくれていれば?そうだ。それなら、戦争など、起こることは、なかった。」

レユニオン構成員「よろしいですか。」

パトリオット「どうした?」

レユニオン構成員「報告いたします。リーダーより通信がありました。チェルノボーグの制圧を完了。そして掌握している全通信チャンネルを使い、レユニオンによる勝利宣言を行ったとのことです。各部隊は速やかに状況を報告せよとのことです。」

パトリオット「わかった。すぐに行く。申し訳ない、将軍、待っていてくれ。」

ヘラグ「——おい、そこの若いの。レユニオンは、君たちは本当に自分たちが何をしているのか分かっているのか?」

レユニオン構成員「……ジイさん、俺になんて答えて欲しいんだ?いや、アンタ……そもそも真っ当な答えなんて少しも求めてねぇんだろ?だが、敢えて俺は言わせてもらう。俺たちは指揮官の命令に従う。ただ、それだけだ。指揮官が何をしようと、俺たちはそれを信じる。それが正しいことなら、必ずやり抜いてくれる。そして仮にどこかで間違っていたとしても、それを正してくれるだろう。俺たちはタルラを、そして指揮官を信じている。俺たちは感染者の為に戦ってるんだ、分かるか?」

ヘラグ「……。」

パトリオット「将軍。」

ヘラグ「レユニオンが勝利したというのに、君の言葉からは少しも喜びを感じられんな。」

パトリオット「今のこの状況が、喜べるものだとでも、言うのか?もし、ウルサスが、そのつもりになれば、どんな都市でも、更地にしてみせるだろう。本当に困難なのは、勝つことよりも、勝ち続けることだ。ここまでの戦いでの、ウルサスの反応には、疑問が残る。」

ヘラグ「もうこの戦争は始まってしまった。いまさら後悔したところで、後戻りはできん。」

パトリオット「そうだ。だがいま我々は、愚者の行進をしているに、過ぎない可能性もある。だがもし今、何もしなければ、感染者への足かせは、重くなるばかりだ。一度、戦う意志を失えば、あとは壊滅するだけだ。」

ヘラグ「やはり君はこの現状を正確に理解したうえで、敢えて行動を起こしているということか。」

パトリオット「そうだ。我々は、生きるために、戦っている。」

ヘラグ「ならば私が言えることは、もう何もないな。」

レユニオン構成員「報告!」

パトリオット「ダウンタウンエリア、第三区画の、被災状況か?」

レユニオン構成員「はい!」

パトリオット「詳細はいい。市民は全員、救助だ。危険区画だ、防護を万全に、ただし、無理はするな。術師を連れていけ。ドローンで探せ。消耗は、気にしなくていい。」

レユニオン構成員「了解いたしました!」

パトリオット「そう言えば……。将軍、あなたは、これから、どこへ行くつもりだ?」

ヘラグ「ロドスへ。」

前衛オペレーター「……!?」

パトリオット「知っている。あの、ロドスだな。少し前に、我々レユニオンの部隊と、ロドスの戦士が、交戦したようだ。」

前衛オペレーター「クソッ……。アーミヤさんやドーベルマン教官…、一体あれからどうなったんだ……。どうすればいい、俺は今どうすれば……?」

ヘラグ「——このような時期にチェルノボーグに足を踏み入れれば、ロドスは全ての者から敵として見なされる可能性もあるのに。彼はどうしてそのようなことを?」

パトリオット「わからない。ただ私は、彼らが衝突するのを、止めることが、できなかった。戦士が、ササルカズの傭兵部隊に、一人で立ち向かっていた。意外なことに、あのロドスの戦士も、同じくサルカズだった。」

ヘラグ「同族同士の争いか……レユニオンのやっていることと何も変わらんな。」

パトリオット「いや……、民衆は、ウルサスに洗脳された。我々を同族とは、思っていない。」

前衛オペレーター「なんだって? サルカズ……ロドスのサルカズ?」

パトリオット「ロドスの戦士には、何かのために戦う意志が、あったようだ。あの戦い方は、報酬の為だけに戦う、傭兵とは違う。彼は敗れた。だが無数の精鋭を、道連れに、射殺した勇猛さは、傭兵部隊のリーダーでさえ、怒り狂うほどだった。そして彼の目的は、あの後ろの廃墟から、傭兵部隊を遠ざける、ことだったようだ。」

前衛オペレーター「!?」

パトリオット「そこにある何かを、彼は守りたかったのだろう。彼は立派に、やり遂げた。灰燼の中に、残されていた、彼の遺品だ。ロドスに着いたら、渡してくれ。彼は……あの在り方は、真の戦士そのもの、だった。名前すら、分からなかったが……。」

ヘラグ「承知した。必ず。」

前衛オペレーター「サルカズ……もしかしてScoutさんが俺を守るために……?」

ヘラグ「真の戦士か……。そうだ、君はこんなことを言っていたな。」

パトリオット「なんのことだ?」

ヘラグ「もう二十数年前のことだ。”私と一度戦ってみたい”とな。」

パトリオット「そうか。では今やるのか?いや……。私のアーマーは、貴方では貫けない。戦っても、無意味だ。」

ヘラグ「そうかな。そのアーマーはもうボロボロだ。性能は軍で絶えずメンテナンスされていた時と比べて及ばないのではないか?」

パトリオット「そうかも、知れない。このアーマーは、ウルサスのものだ。私が帝国の、裏切り者となった以上、いずれ壊れゆくだろう。」

ヘラグ「裏切り者か……なればこそ君は自らを”パトリオット(愛国者)”と名乗っているのではないか?もし自分の主が過ちを犯したときは、反対側に立ってでもそれを正すために……。」

パトリオット「それは、買いかぶりすぎだ、将軍。そんなつもりでは、ないさ。」

ヘラグ「では”パトリオット”よ、ウルサスとの戦争に正義はあるのか?」

パトリオット「無論だ。我々の戦争は、正義だ。そうでなければ、数多の犠牲が、意味を失う。将軍。本当の答えは、我々は、皆知っている。」

ヘラグ「——」

パトリオット「だが、ただ死なせるわけには、いかない。彼らの死には、意義がなくては、ならない。」

ヘラグ「だが君はもう立ったのではないか。ウルサスの反対側に。」

パトリオット「私が反旗を翻したのは、帝国という、国家に対して、だけだ。土地でも、人民でも、ましてやウルサスそのものでも、ない。もし医学大臣が、現状を作った、戦犯だというなら、それは敵だ。もし全てが、議会の企みなら、我々は、議会を解散させる。もし軍隊が、この対立を、生み出したというのなら、軍隊を消滅させる。タルラには、何か遠大な、目標があるようだ。だが、私の目標は、段階的でかつ、より明確なものだ。かつてのウルサスにとって、戦争とは、正義の執行、だった。そして、現在の感染者にとっても、同じように、戦争とは正義を行うことだ。私は正義の為に、戦う。正義は、永遠に、ウルサスと共にある」

レユニオン構成員「報告いたします!今回の作戦中に規律違反を行った者たちを捕らえました。こちらがリストになります。違反を行った者の中に、第二、第三、そして第六部隊のメンバーは見られません。」

パトリオット「これは、一部に過ぎない、だろう。」

レユニオン構成員「主犯格以外に関しては……なかなか調査が難しい状況です。同胞の多くがチェルノボーグで迫害を受けています。彼らがそのような行為を見ても通報するとは……。」

パトリオット「規律違反を犯し、無抵抗な、市民を手に掛けることが、”そのような行為”、だったとしてもか?」

レユニオン構成員「……。ですがチェルノボーグ人はあんなに冷酷ではないですか。当然の報いを受けるべきではありませんか!先にやったのは彼らです。それが無ければ、今頃多くの感染者が今日のようになってません。指揮官!どうか……」

パトリオット「どうか、市民に手を掛けることを、許可しろ、とでも?」

レユニオン構成員「……。」

パトリオット「伝令。主犯格は、処刑しろ。私の直属のメンバーで、実行しろ。メフィスト、クラウンスレイヤー、には警告を。」

レユニオン構成員「……はい。」

パトリオット「……残りは、記録しておけ。」

レユニオン構成員「き、記録ですか?」

パトリオット「再犯した場合は、処刑する。これも、各リーダーに伝えろ。」

レユニオン構成員「は、はい!」

パトリオット「憎しみが、深くなりすぎた。これ以上、戦わないでいれば、憎しみがウルサスの、全ての目を曇らせて、しまう。」

ヘラグ「レユニオンという組織は、私が想像している以上にずさんなのだな……。もっとも、君が部下に要求する規律はウルサスのどの部隊よりも厳しいものだろうが。」

パトリオット「ほとんどの兵士が、兵役の経験がない。訓練不足だ。規律で、部隊を律してこそ、初めて戦闘集団として、行動できる。」

ヘラグ「確かにこのまま行けば対立は深刻化して、対話の機会など巡ってこないだろう。君が正しいのかも知れないな。今のウルサスには、誰かが一度は警鐘を鳴らしてやる必要がある。」

パトリオット「ならば、将軍も我々と、共に……。」

ヘラグ「いや、パトリオットよ。私はもう二度と他の戦争には足を踏み入れまいと誓ったのだ。」

パトリオット「……そうだな。確かにこれは、戦争だ。そして貴方は、もう戦争を嫌悪し、過去のものと、捉えている。」

ヘラグ「そう、私にとってウルサスとの関係は過去のものだ。全ては時間と共に流れ去った。そしてもう以前ほど、この国家に対して感情が湧いてこない。許してくれ。今、君の前にいるのは志を失った、ただの臆病者だ。」

パトリオット「いや、違う!それは違う。貴方はそんな人ではない。もし私の息子が、生きていれば、今日の私は、いない。あなたのことも、理解できる。」

ヘラグ「なに?君の……。……そうか……彼は優秀だった。すまない……。」

パトリオット「なぜ謝る将軍?貴方は何も、間違っていない。死すべきだったのは、私の方だった。ああ、そうか。貴方のその刀、そうだ、あなたは、敵指揮官の、娘を引き取った、のだったな。私の娘はもう少し年上だ。次に会うときは、連れてこよう。」

ヘラグ「フッ、彼女たちが仲良くなってくれればいいがな。」

レユニオン構成員A「あそこに負傷者がいるぞ!血液型を確認しろ!感染者と健常者を取り違えるな!早くしろ!」

レユニオン構成員B「健常者の血液は感染者に輸血しても問題ない!」

レユニオン構成員A「これは誰の家族だ?いやそれどころじゃない、とにかく安全区画へ送れ!クソっ……早くしろ!」

パトリオット「タルラがロドスを、攻撃したこと。この誤解は、私では解けそうにない。もし、この誤解が、解けないとしても、貴方とは、敵対したくないものだ。」

ヘラグ「それについては、私や君では決められないかも知れないな。」

パトリオット「……将軍。もう二度と、あなたと肩を並べて、戦えないと思うと、残念だ。」

ヘラグ「……聞いて欲しい。パトリオットよ……。ウルサスという国の隆盛は、たかが私一人の力で変えられるものではない。今までどれだけの将校たちが帝国の実権を握ろうとして失敗したことか。そうだ。例え歴代の陛下たちでさえ、この運命という罠から逃れることはできなかった。不安定な情勢にありながらも過去の栄光を取り戻さんと帝国が足搔いていたあの時代。祈祷師やら道化師、ロビイストのような胡散臭い連中ですら、自信に満ちた最もらしい台詞を吐いていた。私は政治の場に顔を出したことは一度もない。それが議員のものであれ、軍人のものであれ、全て避けてきた。あの頃、彼らの根拠のない自信には羞恥心すら覚えた。勝利を確信した者たちは皆敗れ、生き延びられると思っていた者たちは皆死んだ。」

???「ママ、夜ご飯はなぁに?またポテト?も、もう味のないポテトなんて食べたくないよ!えっ?ママはまた戦争に行っちゃうの?ママ、行かないでよ。おじさん、またママと行っちゃうの?嫌だよ、ママを連れて行かないで!おじさん、ママを連れて行かないで。パパだってこないだおじさんと出ていった後、まだ帰ってきてないのに……。一人でお家にいるのは嫌だよ、おじさん……。」

ヘラグ「その勝敗に関わらず、我々はただ戦争を起こし続けている。そんな我々に付き添うのは、結局のところ破滅だけだ。そして我々もただの戦争の駒に過ぎない。誰が駒の名前など気に留めるものか」
パトリオット「貴方は、正しい。そして私も、自らの正義を、信じている。だが戦争に、正しいも正しくないも、ない。貴方がやるなら、私もやるだけだ。」

ヘラグ「なぜだ?レユニオンの愛国者よ、一つ問おう——例え戦争というものが、本当に何か意義があるものだとしても——ウルサスの積年の戦いで散っていった……そうだ、その死体の山は数十の都市の人口にも匹敵するだろう。彼らの命に意味はあったのか?誰が彼らの名前を覚えている?」

パトリオット「名前を、覚えるだと?必要ない。戦士は、そのようなことを、気にも留めない。」

ヘラグ「彼らを戦士と呼ぶか——その名前のない者たちは、自らが戦争に参加する理由すら、分かっていなかったのではないか?今となっては、その理由を考える機会すら失われてしまったが。私は、それら全てに嫌気がさしたのだ。今の私はただ周りの者たちを守りたいだけだ。そのくらいなら、まだ自分の力だけでもなんとかなるからな。それはウルサスに対しても、感染者に対しても同じだ。これが私の答えだ。」

パトリオット「貴方を、責めはしない、将軍。誰かと生きるのを選ぶのも、立派な戦いだ。鉱石病が、いつかは私を殺すだろう。私は兵士として、自分の死に価値を、見出したい。」

ヘラグ「君には君なりの戦い続ける理由があるという事か。それは喜ばしいことだな。」

パトリオット「……そうか。ところで将軍、私の推測を、聞いてくれるか。」

ヘラグ「ああ。」

パトリオット「あなたは、結局のところ、死を恐れていない。もし、本当に恐れているなら、今頃すでに、ロドスにいる、はずだ。だが貴方はここに残り、私との対話を選んだ。つまり、あなたは、天災を、恐れていない。あなたは、レユニオンの、目的を、知りたいのだろう。」

ヘラグ「……その通りだ。君たちがウルサスの感染者にどこまでやらせるつもりか、知りたくてな。」

パトリオット「では、私が、言おう。あなたが、戦争を嫌うなら、私が、代わりにやろう。感染者の権利を、私が、あなたと、あなたの子供、そして、全ての感染者のために、取り戻そう。あなたが、戦争を嫌うなら、最後まで、嫌っていて、ほしい。もしできるなら、全ての戦争を、終わらせようと、して欲しい。私に、残された時間は、もう少ない。最後の一瞬まで、戦い抜く、だけだ。」

ヘラグ「……。ああ、君こそ真のウルサス人と呼ぶべきだな……。それなのに、戦争に往く君の背中は悲しみに満ちている。私は残りの生涯で、二度とウルサスの地に足を踏み入れることはないかもしれん。だが、ボジョカスティ、聞いて欲しい。【私は君の敵にはならない。例え何があっても。】」

パトリオット「————私の、無念の一つは…将軍、貴方の旗下に、なる機会が、なかったことだ。【将軍、私も何があっても、あなたの敵には、ならない。】——もう時間が無い、将軍。私の兵に、あなたを外まで、送らせよう。誰にも、邪魔はさせない。」

ヘラグ「いや、もし君のリーダーが私を邪魔するつもりなら、君の手間はかけさせられない。」

パトリオット「大丈夫だ、将軍。彼女は、気にしない。」

ヘラグ「わかった。では、さらばだ。ボジョカスティ!」

パトリオット「——将軍!」

ヘラグ「どうした?」

パトリオット「……どうか……どうか……。貴方は、貴方の真の居場所を、見つけてくれ!」

前衛オペレーター「……。Scoutさん……俺なんかに…俺なんかに…こんなことする…価値なんてあったのかよッ!俺みたいな……クズのどこに……どこにアンタがそれだけやる価値があったっていうんだ!俺は今、一体何をやってるんだ?さっきのレユニオンの情報は、誰に言えばいい?あいつらは本当に俺たちが思うような奴らなのか?奴らとの誤解が解ければ、俺たちは……。そ……そうだ、この紙に何か命令は書いてないか?もしあれば、Scoutさん、俺は絶対にやって見せるよ……絶対にだ!そして俺に命をくれた隊長の期待に応えるんだ……!」

Scout「君に頼みたいことがある。まぁ、君を助けた料金だと思ってくれ。君の怪我には応急処置がしてある。少なくとも生命の危険はもうないだろう。まずは、俺のつまらない話に目を通してくれ。今回、我々の作戦目標はドクターの救出だった。アーミヤの意志も固く、誰も彼女の考えを変えることはできなかった。あるいは誰しも、自分の生命をかけてまでやるべき事だと思い込んだのだろう。Aceもアーミヤと同じ考えだったようだ。ドクターを救出できさえすれば、ロドスは袋小路に陥っている多くの局面を打開できると考えていた。もしドクターが昔と同じように事を成してくれるなら——ロドスはより一層繁栄することだろう。だが俺は臆病者だ。だから不安なんだ……。そんなロドスの繁栄を、受け止めきれる気概が俺にあるかどうか、分からないんだ。」

前衛オペレーター「なんだ……?どういう意味だ?」

Scout「そうだ…三年前だ。そして今日に至るまで、俺たちは沢山の兄弟姉妹を失ってきた。俺はこれまで「人と人は、生きてさえいれば、またどこかで再会できる」と考えてきた。それも俺がロドスに手を貸し続けている理由の一つでもある。だが俺たちは多くのものを失いすぎた。その結果、Miseryのように悲観的なヤツでさえ、絶対にドクターを取り戻す必要があると考えている始末だ。あいつはこれからは全てうまく行くと希望的観測をしている。死や別れは全て過去のものとなると、そんな風に思ってる。だが俺はそうは思わない。もちろんドクターの能力を疑ってはいない。ドクターがこの世界のパワーバランスを変えられる力を持っているのは間違いない。ドクターがいなければ、あのカズデルも泥沼に沈んでいただろう。そして、ドクター自身が俺に戦う理由を教えてくれたんだ。だが……ドクターに指揮を頼んだ時に……ドクターの眼の中には、勝利への確信しか見えなかった。そう、勝利以外のものは見えなかったんだ。何も見えなかった。あの瞳の中には他に何も映ってなかったんだ。ずっと考えていた。ケルシーさんが、俺たちに決して明かそうとしなかった真相は、ドクターと関係あるんじゃないかって。あの三年前の最後の時期だ。どうして写真のバツ印がどんどん増えていったのか、どうして犠牲が頻発するようになっていったのか、どうして戦う目的すらわからない戦いが増えたのか?想像したくない。想像することもできない。もし戦火と殺戮がドクターを感化し、ドクターを一人の指導者、研究者から一台の単なる戦争マシーンに変えてしまっていたら……。ドクターが戦争に加わることを望んだ者たち全員が、実は大きな過ちを犯していた、そう言う他ない。ドクターはもう二度と戦闘の指揮をすべきじゃないんだ。ドクター本人にとっても、ロドスにとっても同じだ。……すまない。これを見て馬鹿げていると思っただろう。俺の考えは、自分でも幼稚なものだと思う……だから誰にもこのことを話したことはなかった。フッ、誰が聞いたとしても笑い飛ばされるだろうな。でも俺は他人に嘲笑されるのが大嫌いなのさ。元々は墓場まで持っていくつもりだったが……。だがこんな状況になって、誰かがこのことを俺の代わりに気にかけておいて欲しいと考えちまったんだ……。俺はドクターには、新しい生活を歩んでほしいと考えてる。もしロドスとのかかわりが断たれれば、あるいは、ドクターを蚊帳の外に置いてしまえば……。これまでのことを全て忘れてしまったっていい……。ドクターが再び戦争の道を歩まなければ、何だって良い。はぁ、今の俺にはこんな夢みたいな願いしか残っちゃいない。」

前衛オペレーター「……。」

Scout「すまない。少し長くなったな。もし君が聞きたくない話だったら、俺の戯言だと思ってくれればいいさ。そうだ、ここからの三つは絶対に戯言じゃないぜ。君への頼みだ。一つ目、ドクターに……そうだな、こう伝えてくれ。「ドクターが俺たちと共に戦ってくれた日々を、俺は一秒たりとも忘れたことはない。」二つ目、俺のチームのことだ。——メンバーのコードネームは……スリンカーにプータル、スコーピオン、レイファ、ムラム、カクテル、ソラナ、ミミ、マリー、サムタック、ユラン、そしてロングトーンだ。全員俺のチームメイトだ、全部で12人いた。彼らが敵の防衛線を破り、敵の救援部隊をも退けた。彼らがいなければ、俺は敵の傭兵部隊のリーダーを倒すこともできなかっただろう。ただ、尊敬すべきその12名のオペレーターたちは、皆この戦いの中で生命を落とした。君が、彼らの戦いの証人となって欲しい。誰かに聞かれたら、俺の代わりに答えてやってくれ——誰も俺のチームメイト全員の名前なんて覚えちゃいないだろうが、彼らの死は敬われるべきだ。誰一人として死を恐れることも、萎縮すらすることもなかった。もちろん、ロドスのために生命を捧げた者たちは少なくない。誰かの死だけが特別というわけではないが……。ただ俺たちは、誰か一人の命のためだけに戦っているわけじゃないのは覚えておいてくれ。そんな風に言ってしまえば、彼らの死を貶めることになるからな!おっと…少し話しが逸れたが、誰かに俺のメンバーのことを聞かれたら「彼らは皆、自分の信じる理念のために犠牲になったんだ」と答えてやってくれ。三つ目——名も知れぬロドスの兄弟よ、君は自分の為に生き延びるんだ。俺の言葉は、死にゆく者に送ったつもりはないからな。そして生きたまま自分の理想を実現して欲しい。くれぐれも命を粗末にするなよ。それだけだ、兄弟。死ぬんじゃないぞ。」

前衛オペレーター「どうして……。ドクター……ロドス……。」

パトリオット「ロドスの騎士よ!」

前衛オペレーター「!」

パトリオット「私の声が、聞こえて、いるのだろう。君にはまだ、ここを離れる、機会が、残されている。夜を待て。光を避けて、南へ向かえ。機会は一度だけ、今晩だ。——あるいは——チェルノボーグには、多くの者が、助けを必要と、している。それをその眼で、見てみるのもいい。選択は、君の自由だ。」

前衛オペレーター「……。隊長、Scoutさん、そして兄弟たち……。俺……やるよ…。」

文字数:12,647文字 原稿用紙32枚分
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