アークナイツ シナリオ集

洪炉示歳・弐

最終更新:

arknightsdatabase

- view
だれでも歓迎! 編集

洪炉示歳・弐

敵の侵攻により龍門は大混乱に陥るが、近衛局と「親切な市民」が協力してその対処にあたる。真の黒幕は人知れずその魔の手を伸ばすが、そこに災害専門家のラヴァが立ちはだかる。

第二幕 賀正

無言なレユニオン構成員「……」

近衛局隊員「武器を置いて下がれ。」

無言なレユニオン構成員「……」

近衛局隊員「チッ、やはり交渉は無駄か、やるぞ!こいつらは人ならざるもの、情けは無用だ!聞こえるか!こちらは隠匿小隊!7区の全ターゲットが判別条件に合致することを確認、全て「幻影兵」だ!」

近衛局隊員「本当にレユニオンなのですか?」

フミヅキ「まやかしに過ぎません。まずは敵の身分を明かしてください。」

近衛局隊員「ウェイ長官!状況が一変しました!敵の数が……ぞ、増加しています。ほとんど全ての巡回小隊より、レユニオンを発見したとの報告が上がっています!」

近衛局隊員A「さ、更に一部の市街地区にて一時的な急激な気温の上昇を確認との報告。観測部は何をしている!?」

近衛局隊員B「なんの反応も見られません!他のデータを見ても全て正常通りで……!」

近衛局隊員A「敵は付近の小隊に攻撃を仕掛け始めた。掛け合っても反応はなく、意思疎通は不可能だ。」

近衛局隊員B「非常に弱い集団で抵抗もしてきませんが、如何せん数が膨大です!」

近衛局隊員A「本当にレユニオンなのかそれは?」

近衛局隊員B「熱源が移動中!追跡してみます!」

近衛局隊員A「都市の防衛体制には何ら綻びはなかったはずだ。それなのに市街地区に敵が出現するなどあり得ない——」

フミヅキ「落ち着きなさい!……偶数番の小隊には招集命令を。最悪の場合、市街地区で交戦することになります。市民の避難を優先してください。ダウンタウン……特に廟街には多くの人が集まっています。エリア内の警官は皆、市民の安全を第一にするように。外周エリアにいる者たちは、防衛線に抜け穴がないか確認を。敵の移動手段を調査し、彼らがこの期に乗じてなだれ込まないように対策をしてください。レユニオンは既に鳴りを潜めているはず。まずは敵の正体を明らかにしましょう。事態の抑制を最優先に。龍門が年関の際に特殊な状況に陥るのは初めてではありません。事を荒立てすぎないように。一致団結すれば、近衛局に恐れるものはありません。」

近衛局隊員「はっ!」

フミヅキ「……すみません、アーミヤさん、ドクターさん。せっかく龍門にいらっしゃったのに、観光して回る時間はなさそうです。」

アーミヤ「大丈夫です。ロドスが龍門に到着したその瞬間から、協定の内容は効力を有していますから。私たちに任せてください、近衛局をサポートします!」

幻影兵「…………」

龍門市民A「うわっ、あ、あいつらは一体何なんだ?いや、あの格好、そしてシンボルマークは見たことがある。でも確かあいつらはもう——!?」

龍門市民B「きゃああ!ここにもいるわ!!」

幻影兵「……」

チェン「チッ、下がれ——!」

龍門市民「あ、ありがとうございます!」

チェン「市民は市内放送に従って、指定の避難場所に避難するんだ。こんなところで油を売っている時間はないぞ!大通り沿いに進み、警官たちと合流しろ。早く行け!」

龍門市民B「わ、わかりました!」

チェン「……言葉を発さず、血も流さず、斬ってもスポンジのような手応えで、死体も消えてなくなる。「幻影兵」とはよく名付けたものだ。」

フミヅキ「ええ、そのまま「レユニオン」と呼べば、不要な混乱が見込まれますので。チェン警官、彼らは血肉を有する敵ではありません。」

チェン「承知しています。すでに当エリアの安全は確保しました。」

フミヅキ「ご苦労様でした。しかし残念ながら、ただ敵を倒すだけでは、解決とはならなそうです。「幻影兵」の数は際限なく増え続けています。彼らの特性も、まだ明らかになっていません。」

チェン「常軌を逸した規模ではありますが、何らかのアーツによるものの可能性はありませんか?」

フミヅキ「そこが一番悩ましげなのですが、源石反応はいまだ観測できていないのです。だからこそ彼らが、本物のレユニオンではないとわかるのですが……。」

チェン「……はい、感染者ではないのなら、彼らはレユニオンではあり得ません。私もしっかりと理解しています——これは偽装であって、ただのまやかしに過ぎないと。ですがレユニオンのシンボルをつけた者が、我が物顔で龍門の街を闊歩する様子は……あまりにも……不愉快です。」

フミヅキ「現段階では、彼らは源石とは完全に無縁の存在と言えるでしょう。この大地に生けるものとしてはあり得ないと言ってもいいほどに。」

チェン「とはいえ、今それらが目の前に存在するのは事実です。何処から侵入したのか、判明しているのでしょうか?」

フミヅキ「我々の有する一般的な観測方法では探知不能です。「どうやって現れたか」の報告は、一切上がっていません。彼らは初めからそこにいたようにひっそりと陣を成し、攻撃し、散り散りになる……それを繰り返しています。」

チェン「……まるで波しぶきのようですね。予備プランに則り封鎖線を張ります。」

フミヅキ「くれぐれもお気をつけて。近衛局はあなたを失うわけにはいきませんから。」

幻影兵「——」

チェン「……奴らの主は、本物紛いの幻を作り出した。その技術は大したものだが、この程度では、多少の混乱は起こせども、龍門に脅威をもたらす存在にはなり得ない。幻影兵は、あまりにも脆い。」

幻影兵「……」

近衛局隊員(本当に不気味な奴らだ……我々が隠れている限り、ずっとあそこに並んだままなんじゃないか?だが我々に気づけばすぐにでもこちらに飛んでくるだろうな。声を潜めろ。どちらにせよあいつらは相手にならないほど弱い。隙を狙って奇襲をかけて、速戦即決といこう。——おい待て、何をする!?)

近衛局隊員?「……」

近衛局隊員「お前たち!戻ってこい!——違う!お前は我々の仲間じゃない!」

近衛局隊員?「……」

近衛局隊員「こいつ、いつの間に潜り込んだんだ!?その防具の下の顔は……ど、どういうことだ?どうして、お前は一体何者だ!消えろ、こっちを見るな!」

近衛局隊員?「……」

鬼の姉御「何をしている。今の近衛局は自分とそっくりな敵を見ただけで動揺するような奴らなのか?立ち上がれ!」

近衛局隊員「は、はっ!申し訳ございません!……いや、あんた……チェン隊長じゃあるまいし、どうして私に命令する?」

鬼の姉御「まぁ、成り行きってやつだ。そのチェン隊長はどこだ?」

近衛局隊員「隊長は市街地の防衛線を張っているところだ。敵をこの市街地に閉じ込めて一網打尽にするためにな。」

鬼の姉御「何処から湧いて出てきてるかもわからないのに、何を根拠に一網打尽にできると思うんだ?」

近衛局隊員「これはウェイ長官の判断だ。」

鬼の姉御「お前たちが上司の判断に従うのは勝手だが、近衛局がこうして雁首揃えて敵に付け込まれているのに、私にまでそんなお前たちを信じろというのか?」

近衛局隊員「……」

鬼の姉御「クソっ、まだ頭がクラクラする……オイ!最後の質問だ!」

近衛局隊員「一般市民の質問に応える義務はない。近衛局はウェイ長官の命令に則り行動するだけだ。」

鬼の姉御「そうじゃない。近衛局は普段どんな相手に接待してるんだ?ウルサス人か?それとも姜斉からの客人か?それか、お前たちは普段から酒を水代わりに飲んでるのか?」

近衛局隊員「何だそれは……そいつは本当に答えられそうにない、そんな事知る由もない……」

鬼の姉御「チッ、チェンの字に飲み負けるなんて、恥さらしもいいところだ。ああもうしっかりしろ、私!ウォームアップといくぞ!」

近衛局隊員「我々には一般市民の助けなど——」

幻影兵「————」

鬼の姉御「クソっ、だめだ、まだ頭がガンガンする。酔いを醒まさないとどうにも……お前、何か言ったか?」

近衛局隊員「えっ。えっと、つまり、一般市民の助けなど必要ないが、熱烈な市民の手助けを拒む理由もないと……」

近衛局隊員A「熱源を見失った、測定器で追えるか?」

近衛局隊員B「だ、ダメです!一般的な観測機能は、気温の変化からおおよその位置が把握できる程度ですので、どうしても後手になってしまいます!」

近衛局隊員A「各小隊より連絡、敵が突然市街地に出現、依然としてアーツ使用の痕跡は見られない!」

近衛局隊員B「まずはこれまで通りに奴らを倒して——」

近衛局隊員A「さ、さらに小隊より連絡、幻影兵の性質が再び変化している。奴らは——奴らは——」

フミヅキ「……敵に何が?」

近衛局隊員A「ウェイ長官!奴らは武器の使い方を身につけ始めたようです!そして交戦中、それぞれに明らかな個体差があることも確認されました——まるで、本当に生きている人かのように……」

近衛局隊員B「あり得ません!そんな本物さながらの幻影をどうやって?奴らをアーツで操っている者がきっとどこかにいるはずです!斥候小隊に偵察を!」

近衛局隊員A「まだ幻影などと言っているのか?奴らは我々の装備を狙って破壊することまで心得ている!あれは幻ではない、実体としてそこにいるんだ!」

近衛局隊員B「ですが……ですがそれは……あり得ません!」

【混乱の渦中といったところだな。】
【……】
【何か手伝えることはあるか?】

フミヅキ「……ご心配には及びません。あなたには市街地区で近衛局のサポートをしているオペレーターの皆さんの指揮をお願いしていますから。それが一番の助けになります。」

スノーズント「ウェイ長官はいらっしゃいますか——うわっ!す、すみません!わざとじゃありません!あ、あなたは……」

フミヅキ「彼はロドス・アイランド製薬……龍門と協定を結んでいる企業の指揮官です。私たちはドクターと呼んでいます。」

スノーズント「ももも申し訳ございませんでしたドクター!それとウェイ長官、外の状況は一体何があったんですか?」

近衛局隊員「「幻影兵」に関する全ての情報は、端末を通して全局員に伝わっているはずだが……」

スノーズント「あっ、すみません。すっかり忘れていました————や、やっぱり熱源は補足できませんか?どう考えても怪しすぎます……」

近衛局隊員「それが……龍門全域の気温が既に上がり始めているせいで、サーモグラフィーを使っても意味がないんだ。どの探知機も熱源本体を見つけることはできない——さらには「幻影兵」が熱源と直接関係があるのかどうかも分かっていない。人手を割き過ぎれば防衛線の崩壊を起こし、大きな損失を生む可能性があるからな。まったくどうしたらいいか……」

スノーズント「うーん……では、逆にしてみてはどうでしょうか?」

近衛局隊員「逆?」

スノーズント「つまり、市街地区にある源石駆動の機器の出力を全て最大にして、それから「源石反応のない位置」を特定すれば……」

近衛局隊員「……」

スノーズント「す、すみません。思いついたことを言ってみただけです。私の専門ではありませんので……」

近衛局隊員A「いや……それはアリかもしれん!おい、近衛局が調達権を持っている設備はどれだけある?」

近衛局隊員B「市民用のものも数に入れれば、それはもう数え切れないほどにあります。」

近衛局隊員A「ということは、もしそれらの機器を全て過負荷稼働させれば、熱源本体が見つかった後に、反動でしばらく龍門全体がダウンしてしまうかもしれない……」

スノーズント「ダウン……?損失はどれくらいですか?」

近衛局隊員「さあ……数千万には上るか?」

スノーズント「——やややっぱりやめておきませんか……?」

フミヅキ「いえ、やってください。移動都市に関する技術が発達してから、「年」の出現頻度はどんどん低下しています。今回のことは「年」を知るいい機会です。「年」の秘密を暴くことができるのなら、それがたとえ全体の一部だとしても、近衛局は損失など厭いません。スノーズントさんの判断を信じます。」

スノーズント「ありがとうございます。で、ですが先に予算を計算してからの方が……」

近衛局隊員A「——!4区の防衛線が突破された!隊長に連絡がつかない!他のエリアの防衛線も苦戦している!敵の数が多すぎる!」

フミヅキ「……」

近衛局連絡員「各小隊ともに、常に無線の電波の確認を怠るな。繰り返す、無線の電波の確認を怠るな!そして10分ごとに変動認証コードを各隊長に発信しろ!各小隊はそれで本人確認するんだ!」

軽薄な近衛局隊員「畜生が、一人倒せばまた一人湧いて来やがる、いつになったら終わるんだ!?」

真面目な近衛局隊員「恨み言なら後で聞きます!動ける人は集まってください!負傷者は下がって!バリケードを死守します!」

幻影兵「——」

軽薄な近衛局隊員「チッ、嫌なことを思い出させる奴らだぜ。」

真面目な近衛局隊員「敵は強くなっているとは言え、レユニオン以下です。レユニオンに打ち勝った我々の敵ではありませんよ。陣形を立て直します!」

幻影兵「——」

軽薄な近衛局隊員「おい待て、お、お前?お前は……いや、お前はもう死んだはずだ、それがなぜ……」

真面目な近衛局隊員「まったく、馬鹿なことを言わないでください!それはただの偽物です!あなたの知ってるあの感染者じゃありません!」

幻影兵「——」

軽薄な近衛局隊員「あなたは、た、隊長!」

真面目な近衛局隊員「いつまでも*龍門スラング*なことを言ってないでください、あれもこれも全部偽物です、偽物ですから!」

軽薄な近衛局隊員「わかってる、わかってるんだよ!でも戦場に急に知り合いと同じ姿の奴が現れたら、俺は——」

真面目な近衛局隊員「だからなんです!?私はさきほどあなたと同じ顔の敵を斬りましたよ!」

軽薄な近衛局隊員「マジで……?」

真面目な近衛局隊員「同僚に不満を持ったことはないんですか?いい機会です、死に物狂いで戦って、歯を食いしばって持ちこたえてください!これ以上防衛線を下げるわけにはいきません、近衛局ビルへの侵入を許すつもりですか!?」

軽薄な近衛局隊員「そうだな、いくぞ!」

龍門近衛局

近衛局隊員「サーモグラフィーで異常反応を確認しました、ウェイ長官!!熱源を捉えました!うまくいったようです!ですが敵を抑えきれません……一部の敵が封鎖エリアの外に流れ出しました!ほ、報告です!複数の小隊より救援信号を受信しました!」

フミヅキ「チェン警官は?」

近衛局隊員「チェン隊長はロドスのオペレーターであるアーミヤ氏と合流し、近衛局に近づく敵を迎撃しています!」

【本当に手助けはいらないのか?】
【手を貸そうか?】

近衛局隊員「……ウェイ長官?」

フミヅキ「ロドスのオペレーターも戦闘に加わったのなら、ドクターにもチェン警官相当の指揮権が必要になりますね。龍門はドクターの力を信じます。ドクターに指揮権を。」

近衛局隊員「封鎖エリアから流れ出した敵は、一般市民を襲うかもしれない。それは何としても阻止しなくては——いや待て、急に強烈な源石反応が……砂嵐?あ、あれは——特別回線による通信を受信!リ、リン巡査長です!」

近衛局隊員「リンのおやっさんは七、八年前に引退しただろう!?なんて言ってるんだ?」

近衛局隊員「ふ、封鎖エリアを飛び出した敵は全員ゴミ箱に放り込んでおいたと……あと、ウェイ長官に話があると……」

フミヅキ「……リン巡査長は近衛局の英雄です。彼の意見は尊重しないといけませんね。」

近衛局隊員「はっ!」

定年退職した老人「ウェイの親分や、この程度の敵に防衛線を破られるとは、近頃の新人はぬるいのではないか?わしと若頭が中に入る許可を出してくれれば、10分もあれば片付くぞい。」

近衛局隊員「……」

フミヅキ「……」

近衛局隊員「……ウェイ長官?」

フミヅキ「……フッ、若かった時代を思い出しますね。ですが近衛局は、一般市民となった彼らに頼るほど落ちぶれてはいません。いいですか、チェン警官に連絡し、そしてドクターにもロドスのオペレーターたちの指揮を執ってもらいましょう。反撃に出ますよ。」

定年退職した老人「生けざる者が街中を闊歩するとは……。まったく、お主が不吉な春聨を書いたばっかりにこんなことになったんじゃ。」

一般市民ウェイさん「私のせいだとでも?それに何度も言ったでしょう。若頭なんて、同僚の前で昔のあだ名を呼ばないでください。」

定年退職した老人「お主の家で決めごとをする時に、主導権を握るのは誰じゃ?」

一般市民ウェイさん「……」

定年退職した老人「見てみぃ。彼女が親分でお主が若頭で合っとるじゃないか。」

一般市民ウェイさん「もう好きにしてください。……我々はどうしますか?」

定年退職した老人「ふむ、生きているうちにまた、真の年関と相見えようとはのう。」

一般市民ウェイさん「共に働いていた頃を思い出しましたか?」

定年退職した老人「いや、そうではないが、どちらにせよ娘は家におらん、帰ってもつまらんしのう。今回は何が起きるか見物するとしよう。我々にはもう、市民を守る職責はないのじゃから。」

近衛局隊員「……グッ、もう腕の感覚がない……クソッ……こいつら、どんどん強くなってきている……」

幻影兵「——」

近衛局隊員「何だ?」

勧善懲悪大義侠「押し黙ったまま突然襲ってくるなんて、怪しい人たちですね。」

闇医者「ワイフー姉、蹴り飛ばしたら消えちまうってことは、「人」じゃないのかもしれねーぜ。幽霊みたいなものかな?」

勧善懲悪大義侠「ゆ、幽霊だとしたらこんな簡単にやられないと思いますから、恐らく違うでしょう?」

事務所警備員「伝説では、年関を迎えるときには色んな怪物がそこら中に現れて市民を困らせるってことだから、多分そんなものだろうね。」

勧善懲悪大義侠「怪物だったら目に見えるし実態もありますよね!ということであれば幽霊ではありません!」

事務所警備員「ワイフーの一蹴りで姿形も残らず消えたんだから、実態があるとは言えないんじゃ……」

勧善懲悪大義侠「……」

闇医者「あ?急に俺たちに掴まってどうしたんだ?ワイフー姉、表情が硬いぜ。」

勧善懲悪大義侠「怖くない怖くない怖くない……」

近衛局隊員「君たち、何をしている!一般市民はここにいちゃまずい!指定の避難場所に移動するんだ!」

闇医者「あんたこそ、右腕の骨折に出血多量とひどい怪我じゃねーか。ここから近衛局までは一時間半ほど歩くぜ、持たねぇんじゃねーか?」

近衛局隊員「ぐっ……私は大丈夫だ……」

事務所警備員「ア、まさかお前……」

闇医者「何を隠そう、俺ぁ医者の家元出身で、ガキの頃から人命救助を使命としてきたんだ。街の様子に気付いて、何か手伝えることはないかと飛んできたんだよ——」

近衛局隊員「な、何をするつもりだ?」

闇医者「——止血、傷の手当、痛み止め、そして転生の手助け。」

事務所警備員「最後の一つはちょっとおかしいんじゃないか?」

闇医者「大丈夫、俺も分別はわきまえてるさ。さあさあ、無料で治療を受けられるまたとない機会だぜ。」

近衛局隊員「好意には感謝する、だが君はあまりにも怪し——痛っ!勝手に注射するな、いお!それは何の薬だ?君、医師免許は持っているか?今すぐ見せるんだ、さもなくば————あっ。あれ?痛みが引いた……?しかも何だこのフルーツの香りは……」

闇医者「スイカフレーバーの新薬さ、あんたが一人目の体験者だぜ!おめでとさん!」

事務所警備員「注射剤にスイカの香りを付ける意味はどこに?」

闇医者「真面目な話、痛みが引いたのは身体が錯覚してるだけだぜ。まぁ血は止めておいたから、近衛局まで戻るだけなら問題ねぇけどな。帰ったら、正式な医者の診断と治療を受けろよ。簡単な手当てじゃ何の解決にもならねぇ。その傷を作った物質が何だかも分かったもんじゃねぇからな。」

事務所警備員「……自分が正式な医者じゃないと認めてるのか?」

闇医者「これは応急処置ってことだよ!さあ、起き上がってみろ、もう大丈夫だ。」

スイカ香る近衛局隊員「本当に良くなった……心より感謝する。戦いが終わったら、上司に今回の助力について報告させてもらおう!」

闇医者「いやいやいいって。というか絶対報告しないでくれよ。気をつけて戻るんだぜ!じゃあな!」

スイカ香る近衛局隊員「……本当に変わったやつだ。」

闇医者「ふぅ!今日も良い事したな!第三実験アドレナリン試薬……有効……現状副作用は見られず……引き続き経過を観察……原因不明のスイカの香りあり……よし、これでオッケーだ!」

勧善懲悪大義侠「原因不明なんですか。」

闇医者「効果があって使っても死んでねぇ、つまりいい薬ってこった!」

勧善懲悪大義侠「もしこれで失敗していたら、あなたを気絶させて近衛局に引き渡して事を収めるところでしたよ。」

事務所警備員「あの幽霊たちはそこら中で暴れてるみたいだね。リー先生が急に外を回ってこいなんて言ったのはこれが原因かな?」

勧善懲悪大義侠「彼らの非道な行いを見過ごすことはできませんが、ゆ、幽霊となると……拳や足が当たらないのなら、どうしようもありませんよね?」

闇医者「いやでもさっき——」

勧善懲悪大義侠「幽霊は突きや蹴りでは倒せません!無理です!私ではどうにもなりません!以上です!」

闇医者「だからさっき一発で片付けたじゃねーか……あーあ、まぁいいぜ。ちょうど臨時収入が欲しかったところだ、あいつらを放っておけば新しい患者も増えるだろ?自転車を修理して稼ぐには街に釘を撒けってな。」

事務所警備員「ロクでもないことばかりしてるとバチが当たるよ。」

闇医者「バチが当たるべき奴は何人も知ってるが、みんな未だにピンピンしてやがる。つまりまだ俺の番じゃねぇってことだ、余裕余裕。そういえばよ、ウン、「年」の正体がなんなのか気にならねぇか?」

事務所警備員「俺はみんなが平和に過ごせればそれでいいよ。」

闇医者「つーまーらーねー奴だな!じゃあワイフー姉は?こっそり封鎖エリアに忍び込んでみねぇ?」

勧善懲悪大義侠「別に止めはしませんが、一部始終をリー先生に報告しますよ。」

闇医者「ハッ!生ける伝説ってやつと戦ってみたくないのかよ?「年」は強靭な肉体を持った血を啜る魔物って話だ。作り話でもまやかしでもねぇぜ!そうだ、もし年を倒せれば、あの武道の極みを追い求めてるっていう親父さんも、ワイフー姉と拳を交わしてくれるかもしれねぇぜ?親子二人が拳で語り合うなんて、美談だねぇ……」

勧善懲悪大義侠「…………」

闇医者「おいおい、ワイフー姉、冗談だって。真に受けないでくれよ……ってどこに行くんだ……まずい!ウン!早く止めてくれ!」

子供「——おかあさん?」

幻影兵「……」

子供「おじさん……おかあさん、どこ?おじさん?」

幻影兵「……」

子供「——うわっ、暑い!あれ?お姉ちゃん、さっきのおじさんは?」

???「お前みたいなガキンチョが、ああいう完全武装して黙んまりを決め込んでるような怪しい奴に、近づいたらダメだろ?」

子供「でもおかあさんは、まいごになったらけいさつさんにって言ってた……」

???「母ちゃんが言ったことでも、全部言う通りにしなくていいだろ。」

子供「でも……」

???「わーったわーった。けどな、今ここじゃ新世紀の喧嘩祭りをやってんだ、どっか他のところへ行ってろ。」

子供「えー、わかった……ありがとうお姉ちゃん!」

???「いい子だ。…………あのなぁ……普通なら、こんな心温まるシーンを見たら「あいつは悪い奴じゃないかもしれない」って考えて、そのナイフを下ろすもんじゃねぇのか?」

???「普通なら、一人の力で龍門近衛局をここまで苦しめられはしないだろう。」

???「おっ、直球で来るか。そういうのは好きだぜ。お前はただの一兵卒には見えねぇな、名前は?」

ラヴァ「ラヴァ。」

???「あぁ?現代人ってのはどうしちまったんだ。その変な名前は本当の名前じゃねーだろ?」

ラヴァ「ただのコードネームだ。」

???「面倒臭ぇな、本名だってある種のコードネームだろ?個としての独自性がそんなに大事か?」

ラヴァ「お前が聞いたんだろっ!まぁ、お前にアタシたちのことは理解できないだろうな、なぁ「年(ニェン)」。」

ニェン「へぇ、ひと目で私のことが分かるとはな。まぁ、確かにそんなふうに呼ばれてきたが、この名前は何かダセーなと思ってたところだ。お前みたいな名前に変えても良いかもな?」

ラヴァ「……逃げられないぞ。近衛局はもうお前を追跡する方法を見つけている。」

ニェン「私もどうあっても逃げようってわけじゃねぇよ。さあ来い、ブリキの兵隊たち。」

幻影兵「……」

ラヴァ「これがお前が龍門のメインデータベースから盗んだ「武器」か。こんな脆いまやかしに、何の意味があるんだ?」

ニェン「わお——ナイフで空間を切り裂いたのか?すげえ、そんな術は初めて見た!イカすじゃねーか!」

ラヴァ「お褒めに預かり光栄だ、やってみたいか?」

ニェン「へへ——悪くねぇ。この地盤ごと動く大都市を見ただけで感動してるからな。お前たちも面白いことするじゃねーか。お前の術もそうだ、ああ、そんな熟練した実用方法はこれまで見たことねぇ。お前たちなんて大して進歩しねーと思ってたのに、こんなに喜ばせてくれるなんてな……」

ラヴァ「お前は龍門の記録とデータを使って、レユニオンと近衛局の戦闘員の幻影を創り出したな。お前の能力はアーツとは違うもののようだが、アタシは欺けない。お前の行動パターンさえ理解すれば、龍門を百年千年と苦しめた怪物もその程度だ。」

ニェン「色々知ってるみてーだな。どこで仕入れた情報だ?」

ラヴァ「古くの記憶、現代の推測……アタシはずっとお前たちを追ってきたんだ。」

ニェン「へぇ、つまり私が何年も気持ちよく眠ってる間に、お前は私の情報をセコセコ集めてたってわけか?」

ラヴァ「まぁそんなところだ。アタシはお前とその同類たちを消し去る為に、今の今まで育てられてきたんだ。」

ニェン「ああん?お前は私のファンか何かか?」

ラヴァ「……もしお前を殺ってもファンと呼べるならそうかもしれないな。」

ニェン「まさかまだお前みたいな奴に出会えるなんてな……自分で自分が何者であるか忘れちまう前に。あー、なんか感動して泣きそうだよ。流行の過ぎた芸能人が古株のファンに出くわしたら、きっとこんな気持ちになるんだろうな。どうだ?一時休戦してバーでくっちゃべらねぇか?えーっと……あいつら何て名前だったか……ああ!近衛局だ!近衛局が消耗してくのをただ待ってるのもつまらねぇし、どうにかして時間を潰してぇんだ。」

ラヴァ「……記録によれば、お前たちが一番最近龍門を襲ったのは、もう数十年も前になるそうだな。我々の進歩を少しも知らないで、自分が相も変わらず無敵の存在だとでも思っているのか?」

ニェン「進歩?進歩がどこにあんだ?デカくなったビルか?無駄に増えた芸のない鉄くずか?それともまさか、あのパンチのなくなってきてる火鍋のことを言ってんのか?なぁ、それ以外に何が進歩したってんだ?これ以上、私に何を見せてくれんだ?」

ラヴァ「期待しているように見えるな。」

ニェン「ああ、期待してる。」

ラヴァ「すぐに分かるさ。占いの結果だと思って楽しみにしておけ。」

ニェン「なんだよ、まだ占いなんかが流行ってんのか。平民百姓がヘタに天象を語るのは、昔なら重罪だぜ。」

ラヴァ「占いが重罪なら、アタシはとっくの昔に大罪人だな。」

ニェン「へぇ……お前がどういう奴かますます気になってきた。マジで一回ゆっくり話さねぇか?」

ラヴァ「それならあの幻影たちを止めろ。」

ニェン「「大人しく捕まれば命だけは助けてやる」とでも言うつもりか?」

ラヴァ「アタシはお前とやる前に、真相を知りたいだけだ。」

ニェン「何が知りてぇんだ?具体的に言えよ。私たちは馬が合うし、教えてやらねぇこともないかもしんねえぞ。」

ラヴァ「お前たちの目的、そして、どうすれば根絶やしにできるかだ。」

ニェン「お前たち?」

ラヴァ「「年」はお前の呼び名に過ぎないが「厄災」はお前一人じゃない。アタシには分かっている。」

ニェン「分かったからってどうなるんだ?結局殺り合うだけだろ?」

ラヴァ「そうだな。もしお前たちの「本体」が本当に殺せるなら、戦って根絶やしにすればいいんだろうな。」

ニェン「………………はぁっ。」

ラヴァ(雰囲気が変わった……この威圧感は……)

ニェン「おい、ラヴァよぉ。」

ラヴァ「馴れ馴れしく名前を呼ぶな、そんな仲じゃないだろう。」

ニェン「そんなつれねーこと言うなよ。マジでちょっとびっくりしたぜ、お前の学識は私の予想を遥かに上回ってる。お前の言う通りさ。けど私はハナっからこの都市をどうにかしようなんて思ってねぇよ。お前たちは少しずつ、馬鹿みてぇに順序よくしか前に進めねえ、弱い存在だからな。だがそれは、お前たちが着実に進歩してるってことでもある。ビルをデカくする以外にも能があったんだと認めざるを得ないな。特に、ずっと私たちのことを嗅ぎ回ってる奴がいるなんて、とんだサプライズだったぜ。」

ラヴァ「お前たちは各地に恐ろしい伝説を残している。時には巨人、時には軍隊、時には天災と見紛うような術……無視しろと言っても無理な話だ。お前が言ったように、アタシだって生きていくために、成長し続けているんだ。だがそう考えると一つ疑問が残る……。太古の炎国は長矛や鉄戟でお前たちと戦ったとされる。それに対し近代の龍門は、都市防衛砲を有していた。攻撃力はけた違いだ。なのになぜ、どちらも辛勝という同じ結末を迎えたんだ?太古のお前たちがあまりにも寛容だったからか?それとも、お前たちもアタシたちと同じように少しづつ強くなってきたのか?或いは——」

ニェン「程良い破壊は一番の肥やしになんだよ。面白れぇな。目が覚めたら、長い間ほとんど変化がなかった奴らが急に真相に近づいてる。これなら……もうこんな小手調べは必要ねーな、次の難易度に移るか。」

ラヴァ「アタシがお前の思い通りにさせると思うか?」

ニェン「へぇ、炎か——そのナイフはただ手に持ってるだけで、本命はその杖ってわけか?お前たちはいつも自分たちの力を効率的に使おうとしねぇ。或いはできねぇのか。それだけは全然変わらねぇな。」

ラヴァ「盾……?初めて見る質感だ、それにアーツの作用範囲ごと遮っただと。いったいどうやって……」

ニェン「おい!アーツだなんて粋な呼び名をつけるじゃねーか!」

ラヴァ(だがなぜ炎のアーツを……奴はわざわざ能力を使って遮った?炎なんかよりずっと複雑な、空間を斬り裂くアーツを使った時はそんな素振りは見せなかったのに……まさか……)

ニェン「けどまだ一つ疑問が残るな。私、或いは「私たち」がこれだけ長い間眠りについていたのに、お前はどうやってここまでの答えに行きついた?伝説からだけじゃ、どう考えても無理だろ。」

ラヴァ「ノーコメントだ。」

ニェン「そうか。じゃあ話を変える。さっきお前は、私の能力はデータを元にあのオモチャの兵隊たちを創り出すものだって言ったな。だがそりゃハズレだ。こんな僅かな時間であんなに複雑なものを完璧に創れると思うか?そんな大それたことはやってねぇ。言葉にしろ、一見複雑な術にしろ、根底までたどっていけば、全部同じように単純なもんなんだよ。だがあのデータ——お前たちが戦ってきた敵、そして心の中の恐怖と不安が材料になったのは間違いねぇ。私はそれに息を吹き込んだだけだ、そしたらあぶくのように湧いて出てきやがったよ。興を添えるには、もってこいだろ?」

ラヴァ「……何が言いたい?」

ニェン「お前が私のことを分かってるなんて言ってくれて、私は結構嬉しいんだよ。もしお前が本当にできるなら……」

ラヴァ「なっ…………建物が上から……融解している?」

ニェン「安心しろ、周りに一般市民はいねぇからよ。」

ラヴァ「……何をするつもりだ?」

ニェン「精錬。鋳造。煉磨。この都市ごと、溶炉にしちまえば丁度良い。」

ラヴァ「——!」

ニェン「ラヴァ、このくらい我慢できなきゃ、良い鍛冶師にゃなれねぇぞ。」

ラヴァ「誰が鍛冶師になるって!?」

ラヴァ(チッ、あの信じられないほどに誇張された仮説の内容と合致している。年はアーツを使わなくても、恐ろしい現象を引き起こせるだけの力を持っているんだ。とはいえ、あの仮説通りなら……もう少し試してみるか。)

ニェン「ほう?ナイフで切り裂いた大気が圧縮されてるな。それもお前の例のアーツってやつか?」

ラヴァ「どの記録や考察からも、お前たちの正体は導き出せなかった。お前たちが個体ではなく群体であるという結論にたどり着くだけでも、途方もない時間を費やした。だがそれだけの情報で、どうしてアタシが堂々とここに立てていると思う?耳を塞いだほうが良いぞ、年。」

ニェン「ぐっ……!この音……!」

ラヴァ「「群石の将、其の魂魄は萁の如く」!」

ニェン「こいつは——」

ラヴァ「お前が後ずさるなんて、貴重な瞬間だな。」

ニェン「お前は一体何者だ!?どうしてそんなことまで知ってる——ああ……いや、互いに弱みを握り合ってるのが誰かなんて私が一番よくわかってる……クソッ、夕の奴、どんだけの情報を人間に教えやがったんだ——」

ラヴァ「驚いたか?多くの研究者が膨大な時間をかけて記録を読み漁ったのに、年関の対策は少しも発見できなかった。だが炎国に伝わる無数の伝説のうち、一見お前と関係なさそうなものの中で、考察する価値がありそうな内容が見つかったんだ。」

ニェン「伝説だと?」

ラヴァ「例えば「爆竹の音と共に年が明けゆく」とかな。」

ニェン「あー……そうか、そういうことか。お前たちには、原理を理解できなくとも畏れゆえに、伝説として伝えていることがあるんだな。天災に蹂躙された大地の上でも、いろんなものを整然と後世に伝えられてる。悪くねぇと思うぜ?じゃあ私ももうちょっと頭を使って……兵隊より面白いもんを創るとするか。」

ラヴァ「目を閉じた?なに、今口から取り出した……それは……剣の柄か?」

ニェン「やっと理解が追いついたか?あとな、人が演舞してる時に茶々を入れんじゃねぇ。喉に詰まったらどうすんだよ。」

ラヴァ「空間のアーツごと……切り裂いた?」

ニェン「何驚いてんだよ、ただ斬っただけだろ、お前はできねぇのか?歴史はあるが目立たねぇ職人技には見向きもしねーで、つまらねぇ見掛け倒しばっかり追い求めちまう。お前たちの悪い癖だな。歴史の重厚感ってやつを受けてみろ。」

ラヴァ「ぐっ!」

ニェン「おっと、すまない。ちょっと重すぎたか。おーい、生きてるか?」

ラヴァ「これが「年」の力か。だがそこまでとんでもないってわけじゃなさそうだな。」

ニェン「おいおい、さっきのはかなりキツかっただろ?無理すんなよ?」

ラヴァ「……どうやって対処すればいいかは分かった。逆にお前のほうが驚いてるんじゃないか?アタシが一発で虫ケラみたいに潰れなかったことにな。」

ニェン「……ハッ。知った風な口を利くんじゃねえよ。」

ラヴァ「——地面、いや大地が揺れてる。この都市全体を陥落させて我が物にするつもりか?」

ニェン「お前一人のために、そこまで大げさなことをするわけないだろ?私は、今のお前たちがどれだけやれるか、それを探りながら時間潰ししてるだけだ。お前はどれだけ持つかな?10分か?一時間か?それとも丸一日か?」

ラヴァ「お前のハッタリをアタシが明かすまでだ。」

ニェン「ハッ、そううまくはいかねぇよ!俗人の肉眼で、人に非ざる者は見抜けぬってな。」

ラヴァ「空を指した……?」

ニェン「……「天に洪炉ありて、地が五金を生まん。暉を以て冶り、寒を以て淬ぐ。其は雲にすら映えよう」!行け!」


文字数:14,374文字 原稿用紙36枚分
ウィキ募集バナー