アークナイツ シナリオ集

洪炉示歳・壱

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洪炉示歳・壱

年の瀬が目前に迫る中、龍門は未知の敵「年」に向けて、大々的に準備を進めていた……

第一章 迎春

子の矛を以て、子の盾を陥(とお)さん。子の盾を以て、子の矛を拒(ふせ)がん。子の矛を以て、子の盾を陥さん。子の盾を以て、子の矛を……矛を……矛を………………………ったく、何だってんだ。これじゃ一生終わらねぇじゃねーか。どうすればいいんだ?子の矛を以て、子の盾を陥さん。子の盾を以て、子の矛を拒がん……この先を……「それから」を考えねぇと。それから、それから……あ、そうだ!それから全部ドカンと大爆発!これで何もかも完璧じゃねぇか?

p.m.11:15 天気/晴天 大晦日 龍門 外周防衛指揮司令部

「14区から報告、問題なし。」

「5区から報告、異常なし。全て正常。」

「1区問題なし、不信な状況も見られません。」

「全エリア異常なし。ご苦労。引き続き警戒せよ。」

「了解。」

「承知しました。」

軽薄な近衛局隊員「ふわぁ~あ——」

真面目な近衛局隊員「今夜はあなたが当直ですか、状況は?」

軽薄な近衛局隊員「あー、計画通りに移動中だ。速度も正常、異常なし。唯一報告が必要な源石反応はこのくらいだな、見てみろ。」

真面目な近衛局隊員「……「源石爆薬による爆発の疑い」?どういう状況ですか?まさか違法に公園で花火でも打ち上げているんでしょうか?」

軽薄な近衛局隊員「場所をよく見ろ、場所を。」

真面目な近衛局隊員「東芳街122番倉庫、借主はペンギン——なるほど、では問題ありませんね。今年も最後まで何もない平和な一年になればいいですね。」

軽薄な近衛局隊員「そうだなあ、本当にそうなればいいよなあ。あーあ、さっさと当直交代して家に帰って、メシでも食いてぇ。」

真面目な近衛局隊員「ちょっと、真面目にやってくださいよ。ウェイ長官も気を抜くなとわざわざ仰っていたでしょう?」

軽薄な近衛局隊員「んなこと言ってもよ、龍門でこの歳になるまで暮らしてきて、一応年の瀬はいつも気を引き締めてはいるけどさ……真の意味での「年関」ってやつには一度も出くわしたことがないんだよ。お前はあるか?一体何が起きるんだ?」

真面目な近衛局隊員「私もありませんよ。それに、同じことを去年にも聞かれましたが。」

軽薄な近衛局隊員「そうだったか?でも正直なところ「真の年関」なんて、今の若い奴らはみんな、都市伝説だと思ってるぜ。火を噴く百メートルの巨人が出るって噂もあったが……本当にそんな奴がいれば、龍門から数十キロ圏内に入れば発見できる。そしたら都市防衛砲をぶっ放せば終いさ。」

真面目な近衛局隊員「恐らく特別大きい野獣か何かの噂に尾ひれが付いたものなのでしょうね。我々もずっと警備をしてはいますが、そんなものが都市を襲撃する可能性は低いと思います。」

軽薄な近衛局隊員「まぁそうは言っても、みんなしっかり持ち場を守ってるけどな。お前も言ってたように、ウェイ長官直々の命令だし。」

真面目な近衛局隊員「皆さんの擁護はしなくていいですよ。あなたたちがモニター室で即席麵を食べていた件は責めはしません。年越しの食事ですから。ですがお年玉を出す用意はしておいてくださいね。」

軽薄な近衛局隊員「……あーところでさ、ウェイ長官は「真の年関」を経験したことがあると思うか?」

真面目な近衛局隊員「もしかして、長官を疑っているんですか?」

軽薄な近衛局隊員「はぁ!?そんなわけないだろ!俺はウェイ長官に憧れて近衛局に入ったんだ!だがなー、何十年も現れたことのない巨人のために、都市全体の人手を総動員して監視するってのはどうかと思ってさ。」

真面目な近衛局隊員「ウェイ長官は、何事にも万全を期す慎重なお方です。あなたもよくわかっているでしょう?」

軽薄な近衛局隊員「そうは言ってもなぁ……」

???「あ、あのすいません!遅くなりました!こちらが一つ前の周期の源石観測報告になります!……えっ?あの……ウェイ長官は?」

真面目な近衛局隊員「……ここにはいらっしゃいませんが。」

???「えっ、ええっ?ですがチェンさんは、ウェイ長官は総合モニター室にいらっしゃるって……」

真面目な近衛局隊員「ですがここは屋上ですよ……下の階に降りて左手の、一番大きな部屋が総合モニター室です。」

???「ええっ、さっきそのあたりを通って来たんですが、気づきませんでした……すみませんでした!すぐに向かいます!」

軽薄な近衛局隊員「……誰だ、あれは?」

真面目な近衛局隊員「恐らく、どこかの技術部の新人でしょう。」

軽薄な近衛局隊員「あの慌てた様子、「年関」を迎えるのは初めてって感じだな。懐かしいなぁ、俺にもあんな時代が——」

???「ふうっ、ふうっ、すみません、総合モニター室はどこでしょうか……」

チェン「……スノーズント?どうしてまたここに?」

スノーズント「あれ?チェンさんはもう到着されてたんですか?」

チェン「それはこちらの質問だ。」

チェン、龍門近衛局高級警司 史上最年少の高級警司の一人、スノーズントの上司。

スノーズント「すすすすすみません!迷子になってました!だだだ大事な情報を時間通りに届けられなかったということで、私には罰則が下されるんでしょうか……?」

チェン「さすがにそこまではしない。君はまだ近衛局に来たばかりだしな。私がしっかり引率してやれなかったのが悪い。ついて来い。」

スノーズント「わかりました。あっ、承知致しました!」

スノーズント「もう夜遅いのに、こんなにたくさんの人が……」

チェン「万が一に備えてな。毎年のことだ。」

スノーズント「……万が一?あっ、年関の伝説のことですか?」

チェン「君はこれまでクルビアにいたから、近衛局が年関を迎える様子を見たことはないだろう?」

スノーズント「はい。「年関」やそこに現れるとされる「年」については、小さい頃に、おばあちゃんから昔話として聞きましたが……あまりにも怖かったので、ただのおとぎ話だと思い込むようにしていました……人々が都市を造るときに目覚めさせてしまった全身燃えている四足歩行の怪獣が、地底からやってくるなんて……ううっ!そんなの作り話ですよね!?」

チェン「作り話、か。多くの者がそう考えているようだが、残念ながらそれは、平和を信じ込むための自己暗示に過ぎない。龍門がこれまでの歴史上で受けた多大な損失も、墓石に刻まれた名前も、どれも作り話ではありえないんだ。だから私たちは、平静な年関が続いていても、警戒を緩めず、万が一に備えている。君は龍門で暮らしたことはあるが、ここに戻ってきてからまだ日が浅い。君が知らない多くの物事について、よく勉強してもらう必要があるな。」

スノーズント「すすすすすみません!皆さんがこれほど気を引き締めているのに、私ときたら……」

チェン「いや、そこまで恐縮しなくていい……いまこのビルにいる者たちの中でも、年の侵攻を見た経験のある者は数えるほどしかいない。存在を疑問に思う新人も、近衛局の行動に疑いを寄せる者もいる。ある意味普通の事だ、もう慣れた。」

スノーズント「そうですか……近衛局は大変なんですね……」

チェン「ウェイ長官への報告が済んだら、君は先に休んでいい。明日また仕事に戻ってくれ。」

スノーズント「ままま待ってください!チェンさん!あの、えっと、ウェイ長官はどのような方ですか?こんな新人の私が、報告とはいえ、お会いしてもいい方なんでしょうか……」

チェン「そんなことを聞く前に、君はもう少し自信を持ったほうがいい。ウェイ長官は君がクルビアから戻るよう、直々に要請状を出した。それが何を意味すると思う?自分の能力を信じ、それ以上に、自分は今後の任務でも大いに役に立てると信じるんだ。言い方を変えれば、もう少し胸を張れ。」

スノーズント「す、すみません……」

チェン「……はぁ。だからいつまでも謝ってばかりもやめろ。今私と話しているように、君が持っている情報を漏らさずウェイ長官に伝えれば、なんの問題もない。考えすぎるな。」

スノーズント「わかりました、努力します。うう……」

チェン「ウェイ長官。」

フミヅキ「二人共、ご苦労さま。」

フミヅキ、龍門現任最高執政者、その身の上は——謎。……献身的な夫が家事全般を取り仕切っているという噂があるが、真偽は不明。

フミヅキ「一晩中奮闘している仲間に厳しいことを言いたくはありませんが、この報告が届くのは予定よりも少し遅いようですね。」

スノーズント「それは、わ、私が——」

チェン「申し訳ございません。報告内容の整理に時間を取られていました。また、先程22区のモニター室で即席麵を食べている者を見つけましたので、ついでに指導していました。私の管理不足です、ウェイ長官のご指示を仰げればと。」

フミヅキ「……そうですか、わかりました。まずは、あなたの隣にいる可愛らしい新人さんをご紹介いただけますか。」

チェン「こちらは前進防衛線設備のメンテナンスを担当する上級エンジニアです。コードネームはスノーズント、ウェイ長官もご存知かとは思いますが。」

スノーズント「はははははじめまして!スススススノーズントです!」

スノーズント、龍門外周防衛エンジニア部所属の実習生兼責任者。史上最速での昇進記録の保持者だが、本人は意識しておらず、仕事についての自己評価は低い。

スノーズント「どうぞよろしくお願いします!」

フミヅキ「はじめましてではないでしょう、スノーズントさん。「三日会わざれば刮目して見よ」という言葉がありますが、クルビアで経験を積んで、見違えるように成熟しましたね。」

スノーズント「ク、クルビアに行く前の私をご存じなんですか?」

フミヅキ「もちろんです。あなたの才能と人徳は、私を含む多くの人を惹きつけますからね。それに、あなたが龍門を離れる前に見せた活躍はとても印象深いものでした。」

スノーズント「そんな前から私のことを……わ、私、もしかして何かやらかしていたんでしょうか?」

フミヅキ「期待する価値のある若者に注目していただけですよ。」

スノーズント「たたたたたいへん光栄でございます!私は先輩たちみたいに口が立つわけではなく、気が利くわけでもないので、まさか注目されているとは思わずっ……」

フミヅキ「残念ながら、その先輩たちが語っていた他人の受け売りや利己的な考えは、私の耳には一言も届いていないのですけどね。」

近衛局隊員「ウェイ長官、失礼致します。停泊要請の信号を受信しました、協定先の艦船です。」

フミヅキ「——わかりました。スノーズントさん、報告は簡潔にお願いします。近衛局に客人がいらしているようですから。今夜は、龍門が最も堅固な一晩になるでしょう。」

スノーズント「あっ、はい!」

スノーズント「ふわぁ~、もうこんな時間ですか……」

チェン「本来ならもう少し早く済んだのだがな。」

スノーズント「うう……申し訳ございません。帰ってからマニュアルを読み直しておきます。」

チェン「それがいい。」

スノーズント「はい!安心してください!明日チェンさんに会うまでに、必ず正確に全フロアの構造図を描けるようになってみせます!」

チェン「……そこまでしなくてもいい。とにかく、これから君の担当事項は直接ウェイ長官への報告が必要になる。緊張しすぎないようにな。」

スノーズント「は、はい!ですが、あの……チェンさんは帰って休まれないんですか?」

チェン「ああ、まだ任務があるからな。近衛局がこれ以上の人手を割けなくとも、対処が必要な奴らもいる。私が行くしかないだろう。それに、市民には通達していないが、近衛局は……ある痕跡を掴んでいるんだ。」

スノーズント「痕跡……調べものもあるんですね……お、お疲れ様です。それなのに私はお休みをいただいてしまって……」

チェン「気にするな、いつものことだ。それより君は、龍門に戻ってから初めての年越しだろう。大切に過ごすと良い。」

スノーズント「はい!ありがとうございます!」

龍門公園

鬼の姉御「乾杯。」

人々「乾杯!!」

舎弟「鬼の姉御、一献差し上げます。来年も頼みやす!姉御のおかげで今年も順調っす!姉御!廟街にはいつ繰り出しましょうか?」

鬼の姉御「……ああ、慌てるな。時間なら山ほどある——だがまずは客人を待たねばならん。奴は必ず現れる。朝、鏡が割れたのもきっとそのせいだ。」

舎弟「えっ?客人ですか?誰でしょう?」

チェン「……私だ。」

舎弟「なっ、いつからそこに!?」

チェン「公務の妨害、公共物の破壊、不法侵入、公共秩序の撹乱、故意の暴行……。今年は散々暴れてくれたな、「鬼の姉御」。」

鬼の姉御「あれは奴らの自業自得だ。」

チェン「好きに言い訳すればいい。」

鬼の姉御「チェン殿は忙しすぎて、アレコレごっちゃになっているのだろう。それにしても、終わったことを今さら言い出すとはな。おい、チェン殿に酒を。」

チェン「遠慮しておく。お前たちがこれから街に繰り出すことは知っているが……今日はどこへも行かせない。」

鬼の姉御「……そりゃちょっと横暴じゃないか、チェン殿?これまでのことは、我々にも非があったと認めよう。だが今は何もしちゃいない。それなのに外出禁止とはどういう了見だ?」

チェン「よく言うな。その非を認めた昨年末、お前たちの「お祭り騒ぎ」が最後にどうなったか、言ってやらなければ思い出せないか?近衛局にはこれ以上、人員の余剰はない。お前たちに面倒事を起こされるわけにはいかないんだ。これは冗談などではないぞ。」

鬼の姉御「じゃあ逆に聞こう。チェン殿は、私が冗談を言っていると思っているのか?」

チェン「……」

鬼の姉御「ふぅ……まあいい、長い付き合いだ。気にはするまい。チェン殿。今年の年関も対する防衛体制には寒気すら覚えるしな。まるでウルサスの大砲に狙われているのかと勘違いするほどに厳戒態勢だ。ただ、そちらの言う通りにする前に、我々のルールで白黒つけさせてもらう。」

チェン「……いいだろう。初めからそのつもりだ。」

鬼の姉御「だが一つだけ条件を加える。もし私が勝ったなら、近衛局が掴んだ情報を私にも教えろ。「今年は特殊な状況だ」……そうだろう、チェン殿?」

チェン「それを知ってどうする?」

鬼の姉御「なに、ただの好奇心だ。」

チェン「いいだろう、構わん。最期まで付き合うとしよう。」

鬼の姉御「その言葉を待っていた!おい!酒だ!」

一般市民ウェイさん「何やら隣が騒がしいですな。」

定年退職した老人「毎年のことじゃろうに、気にせんでいいわい。ゴロツキにもゴロツキの儀式感が必要じゃ。」

一般市民ウェイさん「我々が警官だった頃は、奴らをこうも好き勝手にはさせなかったのですがね。」

定年退職した老人「そりゃそうじゃ。わしらは年ですら退けたのじゃから。」

一般市民ウェイさん「あのメガサブソニックムシの時ですか?」

定年退職した老人「地底軍団の時じゃよ。」

一般市民ウェイさん「あれはまだあなたが警官ではなかった時の話です。私は当時から警官でしたがね。」

定年退職した老人「そうじゃったか?覚えておらんわい。」

一般市民ウェイさん「……待ってください、今石をこっそり動かしましたね?」

定年退職した老人「バカを言わんでくれ。わしは待ったはかけん主義でな。」

一般市民ウェイさん「そうですね、あなたは待ったをかけることはない。全て私が油断している時にイカサマを働いたものでしたね。」

定年退職した老人「おやおや、面白い冗談じゃ、ホッホッホッ——」

セレブ令嬢「フンフフン~♪フフン~♪」

優等生「機嫌がいいみたいね。」

セレブ令嬢「だって年越しよ?機嫌が悪いはずないでしょ?」

優等生「その通りかもしれないけど……もっと特別に良い事があったように見えるのよね。」

セレブ令嬢「あんたが近衛局の試験に受かったことは良い事じゃないの?それにしても、あんたが近衛局に入りたいのはお父様の影響を受けたからとばかり思ってたけど、案外積極的ね。」

優等生「それも理由の一つだけど、他人の言いなりになるよりも、自分でやりたいことを選んだ方がずっといいって思ったの。」

セレブ令嬢「あんたらしくないわね……」

優等生「そう?でも気づいたの。で、あなたは本当に私のことだけで、そんなに喜んでくれてるの?」

セレブ令嬢「ちょっと……傷つくこと言わないでよ……。喜んでるじゃない、こうして。」

優等生「フフッ、ありがとう。」

セレブ令嬢「もう、人の好意は素直に受け取りなさいよ。」

優等生「ごめんなさい。てっきりあなたが、ヴィクトリアの為替レートが急落したのに乗っかって空売りでボロ儲けして、ほくそ笑んでいるのかと思ったものだから。誤解してたみたいね。」

セレブ令嬢「えっ。」

優等生「それとも、レム・ビリトンで投資した産業が当たったのかしら?確か鉱業だったわね……しかもグレーなルートで資金を動かしてるみたいだし。」

セレブ令嬢「な、なんでそんなことまであんたが知ってんのよ……」

セレブ令嬢「真面目に聞いてるのよ!真面目に!こっそり調査なんてしてないでしょうね!」

優等生「そんなことするはずないじゃない。……でも近衛局にあなたの弱みを握らせてあげれば、近衛局員としてはお手柄よね。」

セレブ令嬢「ダメ。絶対ダメだからね。分かったわよ、正直に言う。実はもう一つ嬉しいことがあったの。」

優等生「そうよね、私たちはここでぶらぶらして、食事会を楽しみにしてるのに、彼女は近衛局でデータとにらめっこ。気晴らしは巡回で外に出るくらい。そりゃ嬉しいわよね。」

セレブ令嬢「なんでまた分かったの!?」

優等生「直感よ。私がほとんど何の準備もしてなかったのに、どうやって捜査科の試験を突破したと思ってるの?」

セレブ令嬢「違う、そうじゃなくて……あんた本当に、表に出しちゃいけない情報を賄賂として近衛局に渡したりしてないでしょうね……?」

優等生「そんなことしてな……うわっ!」

セレブ令嬢「あら、打ち上げ爆竹!賑やかね~。これでこそ年越しの雰囲気が出るってものだわ。……あんた、なんで急にあたしの背中に隠れて……あっ。」

優等生「……何よ。」

セレブ令嬢「まだ爆竹なんか怖がってるの?」

優等生「違うわよ。ああいう制御の効かない爆発物が日常生活に溶け込んでるという現状が不安なの。」

セレブ令嬢「爆発物って、爆竹のこと?」

優等生「ええ。現代の爆竹は源石爆薬を使った爆発物でしょ?」

セレブ令嬢「ちょっと大げさじゃない?」

優等生「——そんなことないわ。」

セレブ令嬢「……ホントに?」

優等生「うん。」

セレブ令嬢「じゃあせっかくだから、あたしたちも小さい頃を思い出して、爆竹を買いに——」

優等生「そうだ、急に思い出したんだけど、あなたに関する調査報告書が私の引き出しに入ってるんだった。」

セレブ令嬢「……や、やっぱり会場へ急ぐとしましょう。」

警告:ご注意ください、艦船が停泊致します。ご注意ください、艦船が停泊致します。

アーミヤ「ドクター、着きました。」

【ここが龍門か?】
【イメージと少し違うな。】
【……】

アーミヤ「年越しの時期に龍門へ来るのは初めてでしたよね?新年を迎える雰囲気に惹かれるかもしれませんが、私たちには任務がありますから。」

【夜通し年越しを見守る……「守歳」というやつだな。】
【そういえば「年関」とは?】
【……】

アーミヤ「年関に現れる「年」は伝説に過ぎない……そう考えている人は多いです。ですが記録では、「年関」にまつわる怪奇現象は確かに起こっています。実際年の瀬になると、龍門から炎国全土、さらにはこの付近を巡行するウルサスの一部も攻撃を受けるそうです。」

【攻撃?】
【怪奇現象?】
【今日は暑いな。】

アーミヤ「はい。ですが各都市の損害記録はどれもちぐはぐで、さらに記録以前の伝説となると、ハッキリとした情報はほとんどありません。「年」は巨大な食人怪獣だと言うものもあれば、得体の知れない軍隊や、不思議な術師の集団と言うものまであります……さらに、犯罪組織や悪事を企む陰謀家による作り話だと決めつけている人もいます。「年関」を災いに仕立て上げて、それを隠れ蓑にして犯罪行為を行っていると…………というか、ドクター。会議では聞いてなかったんですか?」

【……】
【……】
【……すまない。】

近衛局隊員「ロドスの皆様、龍門へようこそ。ウェイ長官が近衛局でお待ちです。こちらへどうぞ。」

アーミヤ「とにかく、まずはウェイ長官にご挨拶しましょう。詳しいお話は長官がお話し下さるでしょうし。そういえば……ドクター、ラヴァさんを見かけませんでしたか?」

鬼の姉御「こ、これで何本目だぁ?」

舎弟「姉御、もうやめておきましょう……」

鬼の姉御「何本目だ!」

舎弟「十七本目です!」

鬼の姉御「うぇ……お前、いつの間にそんな飲めるようになったんだ?」

チェン「近衛局にいれば、接待に付き合わされることも多いからな。」

鬼の姉御「この*龍門スラング*が、何の接待だって……くそっ……うえぇ……あー、アチぃ!おい、水だ、ビールでも構わん!持ってこい!」
舎弟「姉御、もうこれ以上は……」

チェン「ちょうどいい。街へは行かずここでじっとしているように、しっかり見ておいてくれ。」

舎弟「はぁ、そうするしかないな。姉御、水だ。」

鬼の姉御「ゴク——ゴク——プハッ!おいチェンの字、来年も挨拶に来るなら……ゲエッ、もう……変な言い訳を作らないわけにはいかねぇのか?」

チェン「本来、我々は交わるべきではない存在だ。お前が負けを認めたなら、私は帰る——っ。」

舎弟「——?チェン殿、あんたもフラついてるように見えるが?」

チェン「気のせいだ。……お前たちも準備しておけ。万が一ウェイ長官の推測が当たった場合は、ロンエンぜんらいがいっちらんけつして——」

舎弟「チェン殿、あんた本当に大丈夫か?」

チェン「*深呼吸*スゥー——こいつが起きたら教えてやれ。近衛局は「年」の痕跡を発見した。」

舎弟「痕跡?まさか巨大な足跡でも見つけたか?」

チェン「原因不明の巨大な穴、融解した廃墟、広範囲に渡る焦げ跡だ。」

舎弟「えっ……「年」の正体はとんでもなく長い源石ワームだって噂を聞いたことがあるが……まさか本当なのか?」

チェン「さあな。斥候たちはアーツ使用の形跡は発見していない。しかしさっき言った痕跡は、間違いなく最近できたものだ。とにかく、もし本当に万が一があれば……お前たちに助力を求めるかもしれない。」

舎弟「なんで俺たちがサツに協力しなきゃいけないんだ?」

チェン「お前たちにはそれだけの力があるからだ。」

舎弟「……おいおい良い事言うじゃねえか!さすがチェン殿だぜ!」

セレブ令嬢「真面目な話、今日暑いと思わない?」

優等生「一足早い春の訪れでしょ。」

セレブ令嬢「でももう夜よ。春の訪れがどうって話じゃない気がするけど……あー、まぁいいわ!あの龍女からの返事は?」

優等生「……まだ。近衛局の通信システムは本来、こんな風に使うものじゃないんだけど。」

セレブ令嬢「普段のチームは今日は休みでしょ?大丈夫だって、どっちにしろあたしの個人回線だし。ふふーん。もしかすると今頃、あまりの怒りでダウンタウンの路上で悪態をついてたりして!」

定年退職した老人「・……ウェイ、どこかでボヤでもあったのではないか?」

一般市民ウェイさん「年の瀬にまた何の世迷い言ですか?」

定年退職した老人「わしは真面目に言っとるわ。日は沈んだというのに気温が上がり続けておるのは、明らかに変じゃろ。実のところ、悪い予感がしているんじゃ。」

一般市民ウェイさん「今年は娘と過ごせず心が落ち着かないのでしょう。歳をとってからできた子だけにかわいくて仕方ない……親馬鹿というやつですね。」

定年退職した老人「お主にはわからんよ。」

一般市民ウェイさん「それより、さっさと参ったをしたらどうですか。話をすり替えても無駄ですよ。私がこれ以上イカサマを働くチャンスを与えるとお思いですか?」

定年退職した老人「……チッ。」

軽薄な近衛局隊員「おっ、交代の時間だな。」

真面目な近衛局隊員「報告の整理はできましたか?」

軽薄な近衛局隊員「ああ、とっくにできてるぜ。ってことで、明日の朝もしお前が先に来たら、俺のコーヒーも用意しといてくれよ。」

真面目な近衛局隊員「まったく……」

軽薄な近衛局隊員「ああそうだ。暇潰しにこれやるよ。」

真面目な近衛局隊員「……なんですかこれは?『年関逸事:多国災害史考拠』?はぁー、くだらない。まだこんな怪獣学説を信じてる人がいるんですか?「年」はきっと正体不明の秘密結社ですよ。」

???「ったく、探したよ。しばらく来なかっただけで、街の様子ががらっと変わっちまってるなんてな。いったい何なんだよ今時の奴らは。おっと、ここにあった。見てみるか。チッ、データの種類は山程増えてるけど、こんなの何の意味もねぇぞ。——レユ、ニ、オン?へぇ……ふむ……んん?何だぁ?情報はこれだけか?それなら私の想像力で……いや、止めとくか。あいつらが耐えきれるもんじゃねぇしな……んじゃあ、ちょっと考えてみるか……」

スノーズント「うう——よし——これで大丈夫かな?起動してみよう……」

室温校正システム「——*電子音*——システム起動成功。実験起動ログ、記録。声紋認証。所有者:スノーズント。現状の室温、14℃。判定:室温に異常あり。」

スノーズント「ああやっと成功した……!うう、これで使った電気代も報われる……あれ、異常あり?なんだろう……温度校正のログが残ってるはずだけど……どうやって見るんだっけ?」

室温校正システム「校正ログページ:1」

スノーズント「これかな?」

室温校正システム「室温判定:同エリア・同時期の温度より、明らかに高い傾向。実験によるものと推測される。熱源、源石反応は観測されず。以上を記録。」

スノーズント「うーん……源石反応の観測機能は追加されたものだけど、思ってたよりじっと感度が高いみたい……範囲を少し拡大してみよう。」

室温校正システム「観測範囲拡大失敗。原因:範囲内にて大量に無反応の対象が確認されたため。システム故障の可能性あり。調査中。」

スノーズント「えぇっ、失敗?えーっと……このシステムの観測技術は、源石反応の波形フィードバックを利用していて、無反応の対象というと、アーツでは完全に探知不能の——源石反応に対する絶縁体?源石に全く反応しない素材……?……そんなのあるわけない!うーん、だとしたら本当に故障したのかな……うう……また電気代が……」

フミヅキ「以上が今回の委託内容になります。ロドスはこれらの関連問題の処理について抜きん出ていますから、今回の依頼には期待していますよ。」

アーミヤ「ありがとうございます。ご期待に添えるよう、努力します。ウェイ長官。」

アーミヤ。ロドスの総責任者。年齢は若いが、人望は厚い。

アーミヤ(ドクター!まだラヴァさんは見つからないんですか?)

アーミヤ「コホン。ウェイ長官、あの……龍門境内で行動するオペレーターのリストですが、本人不在の状況でも登録できますか?」

フミヅキ「……ラヴァさんのことですね?」

【ウェイ長官は鋭いな。】
【驚いたほうがよいか?】
【……】

フミヅキ「それなら問題ありません。ラヴァさんは素晴らしい災害専門家ですからね。彼女の古来の災害に対する独自の研究は、我々がロドスを信頼する理由の一つなんですよ。もちろん、ロドスの他のオペレーターの皆様も見事な実力をお持ちであることは知っています。ですがラヴァさんには年の——」

近衛局隊員「ウェイ長官!お話中失礼します、緊急事態です。」

フミヅキ「どうしましたか?」

近衛局隊員「龍門市内に識別不能の部隊が現れました。……レユニオンのシンボルを身に着けているとのことです。」

???「この痕跡は……ということは、奴らは市内に身を潜めたということか。いや、一人だけのはずだ。奴らの中の一人、記録と同じだ。……まぁいい。」

???「今回は誰が来ようと、私が止めてみせる。絶対に同じ轍は踏まない。そう……絶対に。」

文字数:11,278文字 原稿用紙29枚分
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