コンパでもやろうよ
バニラがメランサとスチュワードにペットのお世話を頼んでいると、感染者の少女とブレイズがやってきた。彼女たちは、任務が終わったら治療中の子たちのお見舞いに行き、コンパを開く約束をする。
p.m.04:22 天気/曇天 ロドス本艦 第五船室 訓練場
バニラ「フンッ!ハアッ!斬!突!払い!ふぅ……はぁ……今日の……トレーニングが……はぁっ、はぁっ、やっと終わりました……」
【自分に厳しくしすぎだ。】
バニラ「ふぅ……アドバイス、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、ドクター。自分の身体の限界なら、私自身よくわかっています。この程度の訓練程度なら、まだ耐えられますから。それにこれは、ドーベルマン教官とリスカム先輩が私に合うように調整してくださった訓練プログラムなんです。ですから、心配しないでくださいね。」
【……】
バニラ「はぁ……はぁ……あれ?どうかされましたか、ドクター。そんなに心配そうな顔をされて。ご心配無用ですよ。確かにキツイ訓練ですが、まだまだ耐えられますから!」
【はい、スポーツドリンクだ。】
バニラ「あっ、ふぅ……はぁ……ありがとうございます……ぷはぁ……生き返りました。でもこのドリンク、うえっ、相変わらず不味いですね。ドーベルマン教官とフランカ先輩から、運動後にこのドリンクを飲むと身体に良いと何度も言われていますが、この味にはなかなか慣れません……」
バニラ「ふぅ……アドバイス、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、ドクター。自分の身体の限界なら、私自身よくわかっています。この程度の訓練程度なら、まだ耐えられますから。それにこれは、ドーベルマン教官とリスカム先輩が私に合うように調整してくださった訓練プログラムなんです。ですから、心配しないでくださいね。」
【……】
バニラ「はぁ……はぁ……あれ?どうかされましたか、ドクター。そんなに心配そうな顔をされて。ご心配無用ですよ。確かにキツイ訓練ですが、まだまだ耐えられますから!」
【はい、スポーツドリンクだ。】
バニラ「あっ、ふぅ……はぁ……ありがとうございます……ぷはぁ……生き返りました。でもこのドリンク、うえっ、相変わらず不味いですね。ドーベルマン教官とフランカ先輩から、運動後にこのドリンクを飲むと身体に良いと何度も言われていますが、この味にはなかなか慣れません……」
バニラ「でも、ちゃんと飲みますよ。ここで訓練をしているオペレーターの皆さんみたいに、私もしっかり頑張らないと。足を引っ張るわけにはいきませんから。あ、そうだドクター。私は数日後にBSWの先輩たちと任務に出ますので、しばらく訓練場には来られなくなります。ここ最近は手厚いご指導をいただき、ありがとうございました!」
バニラ「……」
【まだ何か言いたそうだな。】
バニラ「そ、それは……流石ドクターです……今回、先輩たちと一緒の任務に参加できてすごく嬉しいのですが……私、えっと、ペットを飼っていて……任務に出るとなると、他の同僚にお世話を頼まないといけなくて……普段はBSWの先輩たちにお願いしているんです。リスカム先輩やフランカ先輩がよく手伝ってくださいます。でも先輩方はいつもお二人で任務に出られますし、休憩時間まで一緒にいますので……もしどちらかに頼めなければ、基本的にはお二人とも諦めざるを得ません。フランカ先輩はいつも冗談を言っておられますが、すごく頼りになるんですよ。マルコやトゲオ、ドスグロちゃん、それにツヨシくんも、みんなフランカ先輩のことが大好きなんです!お二人がお忙しい時は、ジェシカ先輩にお手伝いいただくこともあります。ですが、えっと、前にドスグロちゃんに驚いて半泣きに……」
【質問してもいいか……】
【いったいどんな「ペット」を飼っているんだ?】
【いったいどんな「ペット」を飼っているんだ?】
バニラ「あれっ。マルコたちを連れて、ドクターにご挨拶したことはありませんでしたか?マルコとトゲオ、ドスグロちゃんはカタツムリ型のオリジムシ、ツヨシくんはサルゴン砂漠の小型ハガネガニです。みんなすっごく可愛いですよ!」
【……】
バニラ「あれ?ドクター、その目は、もしかして……ダ、ダメですよ。マルコもトゲオもドスグロちゃんもツヨシくんも食べちゃダメ、絶対ダメです!私、ドクターがケルシー先生に隠れて変なおやつを食べてらっしゃること、知ってますからね!」
バニラ(ドクターにお世話をお願いしようと思ってたけど……やっぱり止めておこう……)
バニラ「ああ、困りました。皆さんも一緒に任務に行くとなれば、マルコたちはどうすれば……他の皆さんもそれぞれやることがあるでしょうし、軽々しくお願いするのはあまり良くないですよね?」
バニラ(ドクターにお世話をお願いしようと思ってたけど……やっぱり止めておこう……)
バニラ「ああ、困りました。皆さんも一緒に任務に行くとなれば、マルコたちはどうすれば……他の皆さんもそれぞれやることがあるでしょうし、軽々しくお願いするのはあまり良くないですよね?」
【聞いてみれば?】
【例えば、次に通りがかったオペレーターにとか。】
【例えば、次に通りがかったオペレーターにとか。】
バニラ「ええっ!?それってあまりにも適当過ぎませんか!?ドクター、本気ですか!?……ってその顔は本気ですね。だっ、誰が来るんでしょうか……うう、頼れる人でありますように……」
【誰か来た。】
バニラ「! 軽くてすごく落ち着いた足音……!きっと優秀な戦士ですね!あれ?この香りは……確か……」
バニラ「メランサさん!」
メランサ「!? は、はい。ドクター、バニラさん、こんにちは。えっと、あの……私に何か用ですか?」
メランサ「ごめんなさい。せっかく頼ってくださったのに、私……」
バニラ「いいえ!メランサさんのおかげで助かりました、本当にありがとうございます!」
メランサ「いえ……私はただ、スチュワードさんになすりつけただけですから……でもお力になれたのなら、嬉しいです。」
バニラ「あっ。」
バニラ(顔が赤くなってる!)
スチュワード「ハハッ、メランサは相変わらず戦闘中以外は恥ずかしがり屋だね。二人とも安心して。バニラさんのペットのことは僕に任せてよ。」
バニラ「お手数おかけします、ありがとうございます!」
メランサ「ありがとうございます、スチュワードさん。」
スチュワード「もう、大げさだって。特にバニラさん、そんなにかしこまらなくてもいいよ。」
バニラ「そ、そんな!ダメですよ!お二人とも私より先にロドスに加入している先輩なんですから!」
メランサ「先輩だなんて……私、そんな立派なものじゃありません……」
バニラ「そうだ、そういえば今回の任務は、メランサさんも参加されるんですか?私、ほかの先輩たちから何も聞いてませんでした……」
メランサ「は、はい。急に決まったことで、私もさっき聞いたばかりなんです。師匠が……あっ、フランカさんが、私の剣術のチェックにちょうどいい機会だからって、私も参加するようにと。」
バニラ「えっ、フランカ先輩?先輩がメランサさんの剣術指導を?」
メランサ「はい。」
バニラ「先輩、ちゃんと指導してますか……?フランカ先輩ってちゃんとした場面では頼りになりますけど、普段がアレですから……。いつも真面目なメランサさんに、変なことを教えてませんよね?ああ、考えれば考えるほど心配になってきました!」
メランサ「大丈夫です!フランカさんはいつも冗談ばかり仰ってますが、剣術に関してはすごく真面目ですから!変なことなんて教わってませんし、師匠のおかげで、私はここまで上達できたんです!あっ…………すみません、少し感情的になってしまいました。」
バニラ「いえ!メランサさんはフランカ先輩のこと、すごく尊敬されてるんですね。それに先輩もしっかり剣術の先生をされているようだし、安心しました。フランカ先輩の剣術は本当にすごいですよね。BSWにいた頃、交流会で練習試合があったんですが、私、先輩の負けた姿なんて見たこともありませんから!」
メランサ「はい、師匠はすごいです。私が学ぶべきことはまだまだたくさんあります。……あっ。あの、ごめんなさい。時間なのでそろそろ行かないと……アンセルさんに定期検査をしてもらう約束があるんです。」
メランサ「はい、師匠はすごいです。私が学ぶべきことはまだまだたくさんあります。……あっ。あの、ごめんなさい。時間なのでそろそろ行かないと……アンセルさんに定期検査をしてもらう約束があるんです。」
バニラ「定期検査?」
メランサ「はい。鉱石病の検査です……」
バニラ「……そうなんですね。」
スチュワード「ええっ、また?ちょっと頻繁過ぎじゃない?ついこの前検査したばかりじゃなかったっけ?しかもその時、医療チームが新しい薬に変えてくれたんだよね?」
メランサ「はい、新しい薬に変えたので効果を調べるために、再検査が必要なんです。大丈夫です、ワルファリン先生は病状のコントロールはできていると仰っていましたから。」
スチュワード「……そうか、それならいいけど。じゃあ後は僕に任せて、いってらっしゃい。」
バニラ「改めてありがとうございました!メランサさん、もしよければ、検査が終わったら一緒にお茶でもしませんか?」
メランサ「えっ、お茶?……は、はい!わかりました!ではまた後で!スチュワードさん、後のこと、よろしくお願いします。」
スチュワード「……ありがとう、バニラさん。」
バニラ「えっ?何がですか?」
スチュワード「いや、何でもない。気にしないで。」
バニラ「あっ、はい……。あの……。」
バニラ「なんだか……メランサさんは変わりましたね。前よりよく笑うようになったというか……」
スチュワード「バニラさんもそう思う?A4ができたばかりの頃と比べたら、メランサはとても自信が付いたよね。」
バニラ「自信……ですか?そっか、自信か……ロドスの皆さんは、これまでに見てきた感染者たちと違うように感じていましたが、それは皆さんがいつでも努力し続けていて、自分のことを決して軽んじないからなんですよね。私時々、皆さんが感染者だってことを忘れてしまいます。不思議ですね。」
スチュワード「ハハッ、不思議かな。僕はそう思わないけど。ロドスはいつも色んなことに巻き込まれるけど、基本はやっぱり製薬会社だし、薬の研究開発と感染者の治療が一番の中核にあるからね。ここに集まった感染者は、元々諦めたりなんかせずに、治療の道を探していた人たちだよ。そう思わない?」
バニラ「言われてみれば、確かにその通りです。」
スチュワード「その前向きさがあるからこそ、ロドスは、多くの局面で色んな組織と協定を結んで、自分たちに足りないところを補い、可能性を見出していけるんだ。……BSWとの協定関係だってそうさ。バニラさんみたいなプロの力を借りられると、僕たちオペレーターの負担はとても軽くなる。BSWの皆さんには感謝しないとね。」
バニラ「プロだなんて……とんでもないです。私はまだ実習生ですから。プロと呼べるのは経験豊富な先輩たちだけです!私はリスカム先輩たちとは違って、テストを受けてやっとロドスに来る資格を得ましたしね。」
スチュワード「テスト?」
バニラ「はい、実戦と筆記の試験を受けました。筆記試験の前は、図書館で一週間も寝ずに勉強したんですよ!」
スチュワード「……ははは、それはご苦労さまでした。でもちょっと意外だな。話を聞いた感じ、BSWは協定関係のことを想像以上に重要視してるみたいだね。」
バニラ「重要視というか……どう説明したらいいでしょう……鉱石病が爆発的に広がったことで、BSWの中にもたくさんの感染者が出てきたんです。とはいえ、組織内ではどうと言うことはありません。傭兵という立場から見て、鉱石病はそこまで怖いものではないんですよ。私たちの仕事は元々、普通の人からすればとても危険なものですから。」
スチュワード「どちらにせよ常に命を落とすリスクと向き合ってるってことだね。」
バニラ「はい。ですが、私たちが気にしなくても、感染者を雇うことに難色を示す依頼主は多かったようです。依頼は徐々に少なくなり、資金繰りの問題で上層部も頭を悩ませたのでしょう。ロドスとの協定関係は、恐らくその頃から始まったはずです。フランカ先輩から少し伺ったことがあります……具体的なことはわかりませんが。」
スチュワード「なるほどね……」
バニラ「私は運よく選考に通ったおかげで、これまで見たことのない世界に飛び込めたんです。たくさんの人にも出会えましたし、ここでの毎日はとても充実しています!それと、食堂で週一回出される無料スイーツが本当に美味しくて!私、ロドスに来てから、かなり太ったかもしれません……」
スチュワード「そんなことないさ。栄養のバランスが取れてれば、ちょっとくらい多く食べても大丈夫だよ。でも暴飲暴食はダメだよ。身体によくないからね。」
バニラ「いやいやいや、お気遣いはありがたいですが、スチュワードさんはわかってません!それに問題は、他の人がどう思うかではないんです。私自身が太ってるって思ってしまったら、もうダメなんです!」
スチュワード「そ、そうなの?」
???「そうそう、その通りだよ。バニラはよく分かってるね。」
バニラ「あ、ブレイズさん!……あれっ。あの、その子は……?」
ブレイズ「このガキンチョはドーラ、私の小さなお友達だよ。それより、まださん付けで呼ぶなんて。敬語はいらないって言ったでしょ、頭が固いんだから。」
ドーラ「……お兄ちゃん、お姉ちゃん、こんにちは。」
バニラ「あっ、こんにちは。」
スチュワード「やあ、ドーラお嬢様。今日はお利口に薬を飲んだかな?」
ドーラ(頷く)
ブレイズ「薬が苦いって騒いで、飲む代わりに私に三十分も本の読み聞かせをさせたくせに。ほんっとこずるいガキンチョなんだから。この前だって薬が苦くて飲めないとか言って、ケルシー先生に味を変えてもらった話、私は知ってるんだから!」
ドーラ「ま、不味いものは不味いよ!ブレイズお姉ちゃんだって不味いって言ってたでしょ!」
ブレイズ「私が飲んでるのは別の薬だよ、言い訳はやめなさい。」
ドーラ「うう。あ、お姉ちゃん、私もう戻らないと……」
ブレイズ「えっ?ああ、授業の時間?」
ドーラ「うん、医療部のお姉ちゃんが図工を教えてくれるの。今日は折り紙でお花を作るんだ!」
ブレイズ「じゃあできるようになったら、キャンディと交換で私にも一つ折ってくれる?」
ドーラ「へへへ、考えとく!お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバイ!」
スチュワード「ゆっくり、ゆっくり!そんなに走ると転ぶ——あ、転んだ。」
ブレイズ「あのおバカ……」
バニラ「ハハ、本当に元気ですね。」
ブレイズ「そうでしょ。見た目は大人しそうな子なのに、放っとくと暴れまわるんだ。ワルファリンの名前で脅して大人しくさせるしか……って話は置いといて——君たち二人が一緒にいるのは珍しいね。バニラはいつもBSWの人たちといるのに何事?あっ、もしかしてアーミヤちゃんがついに取引先とのコンパでも企画したとか?」
バニラ「えっ?違……」
スチュワード「ブレイズさん、急に変な冗談はやめてよ。」
ブレイズ「冗談に聞こえる?残念だけど、私は本当にコンパでも開けばいいのにって思ってるよ。みんな一緒に普段の疲れを癒せるようなさ。」
スチュワード「まぁ……機会はあると思うよ。それにブレイズさんは何回もやってるでしょ?それでどれだけ取引先の人を酔い潰したことか……飲ませすぎだよブレイズさん。」
ブレイズ「それはプライベートのやつでしょ、正式な催事じゃないよ!」
バニラ「前にリスカム先輩が言ってた悪夢のような飲み会って、そういうことだったんですね……そういえば、さっきの子もロドスの方ですか?」
スチュワード「ドーラのこと?彼女は元々は治療に来た子だったけど、まぁロドス所属と言っても差し支えないよね?」
ブレイズ「そうだね。でも管轄は私たちと違うよ。戦闘員の人事記録は特殊な処理がされてるし、後方支援部の記録も単独で管理されてる……はずだよね?」
スチュワード「そんな自信なさげに言われても……」
ブレイズ「だってそっち方面には明るくないから。どうしたの、ドーラが気になる?」
バニラ「はい、私がここに来たばかりの頃、あの子に会ったことがあるような気がして……」
ブレイズ「詳しく言ってみて?」
バニラ「はい。あれはドクターに、私の資料をお届けに上がった時でした。可愛らしい感染者の女の子と、彼女の両親が扉の外で待ってたんです。まだ小さい女の子でしたが、すごくお利口で落ち着いていました。そしてボロボロになったぬいぐるみをずっと抱きしめてました。なんてことない光景でしたが、何だか気になってしまって。」
ブレイズ「それは間違いなくドーラだね。あのぬいぐるみはひどい状態だったからさ、新しいのを買ってあげるって言ったんだけど、いらないって意地張っちゃってね。結局バイピークに直してもらったよ。」
バニラ「やっぱり……」
スチュワード「彼女は確か……ヴィクトリア人だったよね。」
ブレイズ「そうだったと思う。カルテには街での小競り合いに巻き込まれて、大量の源石粉末を吸い込んだって書いてあった。ハイビスに頼まれて、注射をするように諭してる時にちらっと見たんだけどね。」
スチュワード「あの病室の子たちは、みんな元々の境遇は違うけど、今の状況はどれも似通ってる。でも全員、明るくていい子たちさ。カーディはいつも一緒に遊んであげてるし、アンセルも夜に薬を飲ませる時に残って物語を聞かせてあげたりしてるよ。」
ブレイズ「明るいのはとても良いことだけどさ、程度ってものがあるでしょ。しかもドーラは、大人になったら私の作戦小隊に入りたいなんて言い出したんだよ。なんであんなに分別がないんだろうね。」
スチュワード「ブレイズさんの小隊に入りたいなんて、確かに分別がないね……」
ブレイズ「おい。」
スチュワード「でもさっきも言ったけど、あの子のような経歴を持つ子はここでは特段珍しいものじゃない。医療チームの医療エリア一つだけで、似た子は何人も見つかると思うよ。」
ブレイズ「だろうね。まったく、心底嫌な世の中だよ。」
バニラ「……あの子の病状は……ひどいんですか?家族の方はあまり裕福そうに見えませんでした……治療費が払えるようにも……。なのに、あの子にまたここで会うなんて……」
ブレイズ「まぁ普通に考えたらまともなお偉いさんは、お金もないもうすぐ死んじゃうような病人を受け入れたりはしないね。」
スチュワード「そんな言い方していいのかな……はぁ。でもブレイズさんの言う通りだ。今のところ鉱石病を完全に治す術はない。もし手当のできる組織があったとしても、資源は限られてるからね。……だからこそ感染者の境遇は、ここまで厳しいものになってる。」
バニラ「……でもロドスは、そんな人たちを拒絶したりはしてませんよね!ロドスの規模は決して小さくはないけれど……やっぱり本物の大組織とは比べ物にはなりません。ですが私はここに来てから、たくさんの感染者が、ロドスに治療を求めて来る様子を目にしました。しかもそんな病人の中には、率先して立ち上がり、戦場に出ることもいとわないと言う方もいるようです。」
スチュワード「そうだね、僕たちA4はそうやってできたんだ。」
バニラ「スチュワードさんもですか?」
スチュワード「うん。」
バニラ「……そうなんですね。私、BSWの協定プロジェクトに参加するまでは、こんな組織があるなんて聞いたことはありませんでした。感染者を時には無償で治療することもある組織なんて。」
ブレイズ「それは違う。」
バニラ「えっ?何が違うんですか?」
ブレイズ「「無償」じゃなくて、「金銭以外の報酬で治療を提供することもできる」が正解。報酬を顧みない一方的な援助は重すぎるからね。どちらにとっても重い枷になって長続きしない。アーミヤちゃんは優しい子だけど、それをちゃんとわかってるんだよ。だから私たちは治療を提供するけど、絶対にタダではやらない。そのいい例が、ここに立ってるこいつ!」
スチュワード「痛っ、ブレイズさん、これ以上叩くと肩が外れちゃうよ!」
ブレイズ「何でも良いからロドスに役立つことをしてもらって、その報酬として治療をしてあげるってわけ。もちろん、役に立つっていうのは戦うだけじゃないよ。っていうか、戦闘人員は少数派だしね。デスクワークをする後方支援部、ロドス艦船のメンテナンスをするエンジニア、各拠点と連絡を取る出向スタッフ、それに資源調達をする購買部、清掃員……食堂で皿洗いをしたっていい。君にできることで、ロドスにとって有益なことなら。」
スチュワード「改めて聞いても、理想論的な考え方だよね。」
ブレイズ「そういうの、嫌い?」
スチュワード「いえ、全く。」
ブレイズ(口笛)
バニラ「ですが、ですが!ドーラさんのように小さな子が、ロドスのためにできることなんてあるんですか?」
ブレイズ「さっき聞いたでしょ、これから折り紙を習うって。」
バニラ「えっ?」
ブレイズ「あの子たちが折った折り紙は、コンパ会場の飾り付けに使うし、外から戻ってきたオペレーターに渡して労ってあげることだってできる。」
スチュワード「コンパなんていつ決まったの?」
ブレイズ「今。私が決めた。」
スチュワード「……」
ブレイズ「まぁそれはいいとして、やっぱり働いた分の報酬があるってことが大事。あの子たちと私の仕事の内容は違って見えるけど、ロドスにとってはみんな重要なものだよ。そう言えば、君たちの中でこっそり、ロドスがブラック企業だなんて言ってる人がいるでしょ。私は知ってるんだから。」
バニラ「あれは冗談です、冗談ですよ!」
ブレイズ「いや別に良いって。小さな子にも仕事があるってだけ聞いたらそう思うのも当然だし、私もドクターをイジメる時にそうやって言ってるから。」
バニラ「ブレイズさん!あまりからかわないでください……!」
スチュワード「うーん……僕の考え方はブレイズさんとはちょっと違うかな。ロドスのために何かすることで治療を受けている人もいるけど、自分のやりたいことがあって、たまたまそれがロドスの向かっている方向と同じだからここにいるって人は、もっと多い。もちろん、アーミヤさんたちの理念を心から信じて、そのために尽力してるって人だってたくさんいる。」
ブレイズ(口笛)
スチュワード「皆が皆全く同じ意思を持ってるってわけじゃないけど、目指す方向がちょうど同じだから、肩を並べて戦えるんだ。」
バニラ「なんなく分かりました、ですが……」
スチュワード「あまり複雑に考えないで、バニラさん。僕からすれば、今だって十分悪くない状態だよ。みんな少しずつより良い方向に変わりつつあるって感覚は、とても喜ばしいものさ。バニラさんだって、最近笑顔が増えたしね。」
バニラ「えっ、ええっ、そうですか?ロドスでの生活が充実しているからかもしれません。まだ慣れないこともたくさんありますが……例えば急に自動で開く扉とか……あと、廊下を歩いていると急に医療ロボットに話しかけられたりして……とても驚きました!」
スチュワード「ハハハ、バニラさんはそういうものは本当に苦手みたいだね。そういえばアドナキエルが言ってたな。エクシアさんに作ってあげた輪ゴム銃をバニラさんにへし折られたって。」
バニラ「あれはアドナキエルさんが作ったものだったんですか!?ご、ごめんなさい。飛び出してきた輪ゴムに驚いてしまって反射的に……本当に申し訳ありません!」
スチュワード「大丈夫だって、アドナキエルは怒ってないよ。あいつはたくさん喋る方じゃないから何を考えてるか分かりづらいけど、悪いやつじゃないんだ。それは僕が保証するよ。だけど、そうだね、もしまたあいつが変な機械を持って来て君を困らせようとしたら、僕かメランサに言うといいよ。」
ブレイズ「あのさ、こんな話をしてたら思ったんだけど「ブラック企業」って言い方、割と筋が通ってると思わない?」
スチュワード「……何を言ってるんだよ。」
ブレイズ「だって私たちはあの子供たちに、なんて言うか、事前投資をしてるようなものでしょ?」
バニラ「事前……投資?」
ブレイズ「そう。だってあの子たちは、私が見たら頭が痛くなるような数字や記号の羅列を、平気で見てたりするんだよ。もしかしたら私たちよりも優れた能力を持ってたりして——ロドスでいろいろ習うことで、あの子たちは本当にすごい大人に成長するかもしれない。私よりもずっとすごい、私にはできないことをたくさん成し遂げられる大人に。そう考えれば事前投資でしょ。私たちは儲けものってわけ。」
スチュワード「儲けるって何をだよ?そんな必ずしも——」
ブレイズ「あーもう言わないで。シーッ、私にも夢を見させてよ。あっ、アーミヤちゃんから連絡だ。たぶんまた任務だね、あー面倒くさい、思い切ってサボっちゃおうかな……ってしないけど!じゃあ私はもう行くよ——バニラ、スチュワード、コンパが正式に決まったら一緒に一杯やろう!」
バニラ「憎まれ口を叩きながら、元気そうに去っていきましたね……本当にコンパなんてやるんでしょうか?わ、私お酒はあまり飲めないんですが……」
スチュワード「ああ、気にしなくていいよ。ブレイズさんはいつもあんな感じさ。それにあの人は無理強いしたりはしないから安心して。」
スチュワード「ああ、気にしなくていいよ。ブレイズさんはいつもあんな感じさ。それにあの人は無理強いしたりはしないから安心して。」
バニラ「そうなんですか?それはそれでちょっと残念……」
スチュワード「??」
バニラ「あ、ここが私の部屋です。」
バニラ「どうぞお入りください。」
スチュワード「ではお邪魔するね。わあ……ここがバニラさんの部屋か。」
バニラ「散らかっていてすみません。あ、マルコたちはあそこです。」
スチュワード「マルコって、可愛いなま…………名前だね。……バニラさん、あの、君が言ってたペットっていうのは、そこの、それらのこと?」
バニラ「そうですよ。みんな私の故郷ではよく見る生き物なんです。可愛いですよね!」
スチュワード「う、うん……」
スチュワード(可愛いってどういう意味だっけ……)
バニラ「あ、スチュワードさん心配しないでください。ドスグロちゃんは身体は大きいですが一番大人しいですから、少しも危なくありませんよ!戦場で似た子たちに出会うとなかなかトドメをさせなくて……ドーベルマン教官にいつも怒られてしまいます。でも仕方ないんです!」
スチュワード「わ、わかるよ、バニラさんは本当に生き物が大好きなんだね。この子たちもみんな……えーっと、個性的だし。」
バニラ「フフ、そうですよね!マルコたちはいい子ですから、暴れたりもしません。毎日少しだけ水と餌をやればいいんです!すごく飼いやすいですよ!あ、ですが、ドスグロちゃんの殻にあるこの突起は押さないように気をつけてください。でないと……」
スチュワード「でないと?」
バニラ「爆発します。」
スチュワード「爆発…………バニラさん、部屋の中でこんなのを飼ってて本当に大丈夫なの……」
バニラ「えっ?大丈夫ですよ!アーミヤさんもケルシー先生も許可をくださいました!この保温箱は特殊な素材でできていて、源石の影響を遮ることができるんです。とっても安全なんですよ!それに、餌はもう先に入れてありますから……ほら、このボタンを押すだけで、こんな風に自動的に餌やりをしてくれるんです。えへへ、不思議でしょう?」
スチュワード「不思議というなら、オリジムシを飼う君の方が……」
バニラ「えっ?なんですか?」
スチュワード「いや、なんでもないよ。」
バニラ「?? そうだ、お水は二日に一回少しだけで大丈夫です。そうすれば私の故郷に比較的近い乾燥した環境になります。」
スチュワード「わかった、気をつける。このオリジムシたちも、ハガネガニも、僕が見たことあるやつより綺麗な見た目だけど……バニラさんの故郷は確かサルゴンだっけ?」
バニラ「その通りです。サルゴンの辺境にある田舎です。」
スチュワード「どんなところだったの?」
バニラ「うーん、とても……貧しいところでした。資源も枯れていて。集落の周りはずっと砂漠で、耕作も難しいところでしたから、生きるためには狩りに出るしかありませんでした。なので部族の子供たちはみんな優秀なハンターになるように育てられるんです。」
スチュワード「バニラさんも?」
バニラ「はい、私もそうやって育てられました。」
スチュワード「じゃあどうしてBSWに入ることになったの……?」
バニラ「ちょっと恥ずかしいことなんですが……お金がなくて。」
スチュワード「お金?」
バニラ「はい。BSW、つまりブラック・スチール・ワールドワイドは、簡単に説明すると傭兵組織です。いろいろな人がいますが、お金が目的で傭兵をやっている人は少なくありません。私もそうでした。」
スチュワード「そうだったんだ。でも、同じBSWのジェシカさんはお金目的に見えないけど?」
バニラ「ジェシカ先輩は……他の理由があるようですが、先輩はあまりそれに触れませんし、私もよく知りません。私の故郷は、本当に貧しくて……砂漠にはたまに雨が降るんですが、オアシスの水が集まって小さい湖になると、隊商がやってくるんです。彼らが私たちの集落を通りかかると、しばらく留まって取引をしてくれます。基本的には物々交換でした。集落のみんなはお金はあまり持っていませんでしたが、交換に使える物は少しはありましたから。隊商は長くても二日程度しか滞在しませんが、冷える夜にはみんな分け隔てなく焚き火の周りに集まるんです。干し肉を少しずつ分け合って、大人たちはお酒で暖をとって、子供たちにはグミの実をおやつ代わりに食べさせてあげてました。そして商人たちは子供たちに砂漠の外のことを語ってくれました。どれも新鮮で、楽しい話でしたよ。例えば遠い遠い東方に、街中お花で溢れた香水の街と、富と幸福があふれる巨大都市があるなんて話も……」
スチュワード「面白そうだね。」
バニラ「そうですよね?ですが、私が集落を離れてから、東方の良さを確かめに行く機会はまだ巡ってきていません。何はともあれ、そんな物語を聞いていると、自然と外の世界に興味を持つものです。そうなると、砂漠に残って普通のハンターになるのはなんだか味気なく感じてしまって。それで商人たちについて、砂漠の端にある小さな都市に行ってみたんです。」
スチュワード「それから、外の世界は話に聞いてたほどのものじゃないって気付いたのかな?」
バニラ「確かに話ほどではありませんでしたが、そこまで悪いものでもありませんでした……少なくとも、故郷にいた時よりも良いものが食べられましたから。全財産を持って故郷を飛び出したんですが、やっぱりお金はすぐに足りなくなりました。ホテルも高かったので泊まる勇気もなくて。傭兵になったのはそれ以外の選択がなかったからです。でも後悔はしていませんよ。」
スチュワード「……この話はこの辺にしておきましょう。」
バニラ「スチュワードさんの話も聞かせてください。スチュワードさんの故郷はどちらですか?」
スチュワード「僕かい?僕はイェラグ人さ。」
バニラ「わぁ!一年中雪が降っているところですよね?聞いたことがあります。雪が積もる様子なんて、私はまだ一度も見たことがありません……」
スチュワード「ハハ、ロドスにいればいつか見られる機会があるかもしれないね。」
バニラ「本当ですか!では大急ぎで貯金しないと。ジェシカ先輩から新型の人体隔絶型防寒マシンはとても高いと聞いていますから!」
スチュワード「ハハ……防寒っていってもそこまでしなくていいと思うけど。」
スチュワード「……今回バニラさんからペットのことをお願いされて、メランサはすごく嬉しそうだった。そんな様子はあまり表に出してなかったけどね。常に落ち着いていて感情を見せないのは、彼女の長所であり、短所でもあるんだ。」
バニラ「そうなんですか……?私、もしかしたら面倒なことを押し付けてしまったんじゃないかって思ってました……」
スチュワード「大丈夫さ。僕もメランサも、絶対に面倒だなんて思わないよ。マルコたちはしっかり僕が預かるからね。バニラさんは安心して任務に行ってきて。」
バニラ「あ、待ってください、スチュワードさん!」
スチュワード「うん?どうしたの?」
バニラ「あの……私はまだ、スチュワードさんとブレイズさんの考え方を全部理解できたとは言えません、ですが——次にA4の皆さんが治療中の子供たちに会いに行く時は、私も連れて行ってもらえませんか?あの子たちと一緒に、折り紙をやってみたいんです。コンパの準備のために……できれば、皆さんと。」
文字数:12,511文字 原稿用紙32枚分