アークナイツ シナリオ集

日記帳

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日記帳

フィリオプシスが日記をつけている。彼女には、忘れたくない大切な人や物事を、日記に記録する習慣があるのだ。ただ今は、字を書くよりも、直接その大切な人と話がしたいようだ。

サイレンス「フィリオプシス、帰ってきたんだね。」

フィリオプシス「はい。」

サイレンス「実地調査お疲れ様。あなたがいない間に私の実験はほとんど終わったから、今後は自分で行くよ。」

フィリオプシス「いえ。次もフィリオプシスが行きます。」

サイレンス「……えっ?何かあった?」

フィリオプシス「はい。では、フィリオプシスは部屋に戻ります。」

サイレンス「…………わかった。」

フィリオプシス「確か、この日記帳と記憶しています。いえ、これはライン生命時代に記録したものです。では、恐らくこちらが……見つかりました。サイレンスさんとロドスに来た後に、新調した日記帳です。閲覧します。」

日記「3月21日 薄曇り 本日、ロドスに新たなオペレーターが着任されました。ウンと呼ばれる方、アと呼ばれる方の二名です。ワイフーさんと同じところからいらっしゃったものと思われます。お二人のうち、アさんのことが印象に残りました。相当若く見えますが、龍門では非常に有名な闇医者だったと噂されています。しかし、医療部に加入する意向はない模様です。4月21日 曇り ……そういえば、アさんはワルファリンさんが「ブラッドさん」だと知ってから、頻繁に医療部を訪れるようになりました。ですが大部分の医療部のメンバーは彼のことを好ましく思っていない様子です。原因としては、彼が同業者である我々への嫌悪感を隠さないためです。アさんの医療は非常に優れているというのに、何故でしょうか?…… 4月15日 晴れ …… アさんは、前回ワルファリンさんとの「勝負」の終盤に、ウンさんに無理やり連れて行かれてから、少しだけ大人しくなりました。医療チームのメンバーも、少しずつ彼の性格に慣れてきた模様です——少なくとも表面上は。」

フィリオプシス「システム記録を参照したところ、この日記を記録したのは、アさんとワルファリンさんの二度目の「勝負」の時でした。」

ア「おい、「ブラッドさん」、勝負だ!」

ワルファリン「あーもう、ウザったいガキだ。前に妾に負けた時、圧倒的な力量差を感じなかったのか?」

ア「俺が負けた?冗談だろ!……ってまさか本気で言ってんのか?ったく……おい、そこの羽の姉ちゃん、あの時見てただろ、証言してくれ!」

サイレンス「……」

フィリオプシス「サイレンスさんを呼んでおられるものと思われます。」

サイレンス「私を?」

フィリオプシス「システム判定によると、50%の確率でフィリオプシスを呼んでいる可能性もあります。しかしフィリオプシスの思考ロジックは、あの呼称には反応したくないと判定しています。」

サイレンス「私もだよ。」

ア「おい、何をこそこそやってんだよ、早く言ってやってくれ。前のあれはどう見ても俺の負けにゃなんねーだろ?」

サイレンス「……ア、今は業務中だから、仕事の邪魔をするのはやめてくれる?」

ア「あーハイハイハイ、でもただ質問してるだけだろ?聞いたらすぐ帰るって。あんたたちの崇高なる「仕事」の邪魔はしねーよ。」

フィリオプシス「承知いたしました、システム記録参照中……システム記録によると、客観的に判断した結果、前回の勝負は最後に発生した突発的事象により、どちらが勝負したかの判断は難しい状況です。」

ア「ほら、聞いただろ!」

ワルファリン「チッ、いいだろう。今日はぐうの音も出ぬほどの敗北を味わわせてやるわ!」

軽口な医療オペレーター「はぁ、あのアが来てから、毎日どんちゃん騒ぎね。ドクターがどうしてあんな人を連れてきたのか理解できないわ……」

フィリオプシス「彼は悪辣な性格ですが、臨床経験と天賦の才が驚くべきものであることは、否定できません。」

軽口な医療オペレーター「そうだとしても、あの人は私たちを見下していると思うのよね。」

活発な医療オペレーター「そうそう、前回の手術は確かに目を見張るものがあったし、私も彼に対する考えを改めて仲良くなろうって思ったけどさ、あっちは人の気持ちを知ろうともせずに、皮肉ばっかり言ってくるんだよね。ああ思い出すだけですごいムカつく!」

早耳な医療オペレーター「あの人と仲良くやれるのはワルファリンの姐さんくらいだな。」

冷静な医療オペレーター「あれは仲良くやってると言えるのだろうか……フィリオプシスはどう思う?」

フィリオプシス「システムから適切なワードを検索中……検索結果、似た者同士、類は友を呼ぶ。」

活発な医療オペレーター「アハハ、そう、まさにそれ!」

アンセル「皆さん、楽しそうに何を話しているんですか。」

早耳な医療オペレーター「あっ、アンセル先生。アについて話してるんです。」

アンセル「ああ……私はあの手の性格の方に対応するのは苦手ですが、すごい新人であることには間違いありませんね。」

活発な医療オペレーター「さすがアンセル先生!アみたいな奴にもそんな優しいなんて……」

サイレンス「話はその辺にしておいて。今日はあまり忙しくないとは言え、仕事中は雑談禁止だから。みんな、自分の仕事に戻って。」

医療オペレーターたち「はい——」

サイレンス「アンセル、どう?」

アンセル「結果としては、あまり満足のできる効果だったとは言えません。こちらが報告書です。」

サイレンス「そう。元々予測されていたことではあるけど残念だね。では、次の実験の準備をお願い。フィリオプシス、あなたも一緒に。」

フィリオプシス「Zzzzzzz……え?はい、承知いたしました。」

日記「アさんの加入は医療部に喧噪と波紋をもたらしました。しかし多少の軋轢はありましたが、フィリオプシスは嫌だとは感じませんでした。理由は不明ですが。……」

フィリオプシス「ええ、この日の日記に、フィリオプシスは「嫌だとは感じませんでした」と記録しました。ここから測れば……そう、これです。」

日記「6月10日 小雨 偵察オペレーターの情報によると、周囲の山岳エリアで源石鉱脈と思われるものが発見されたとのこと。ケルシー先生が踏査の手配をしたそうです。念の為と、サイレンスさんも何人かの医療オペレーターを連れて、向かわれました。本日は実験の結果を待つ以外、他の仕事はありません。5月15日 晴れ ガヴィルさんが外勤から戻られました。夕食の際に、「チョロチョロ動き回る敵が鬱陶しいから、全員ぶちのめした」と武勇伝を語ってくださいました。彼女はご自身が医療オペレーターであることを忘れている可能性があります。しかしその言葉には、どこか憧れます。5月1日 曇り 本日は、新しい医療オペレーターの面接後、アンセルさんとロドスに来る以前の話をしました。機密保持義務により、ライン生命の内部状況については語ることができませんでしたが、とても有意義な対話となりました。」

フィリオプシス「そう、この時です。」

アンセル「つまり、フィリオプシスさんはライン生命在籍時も、半分患者で半分研究者の立場だったんですか?」

フィリオプシス「はい、フィリオプシスは該当時期から今に至るまで、サイレンスさんが作成した医療プランに則り治療を続けています。また、サイレンスさん自身も感染者であり、ご自身も専用の医療プランによる治療を受けています。ライン生命では、同様の事象は決して少なくありません。」

アンセル「ライン生命もロドスと同じようなことをされているんですね。一般的なテクノロジー企業だと思っていました。」

フィリオプシス「機密保持義務違反にならない範囲で説明します。業務内容があまり広く認知されていないのは、ロドスのように積極的に宣伝を実施していないためです。しかし、ライン生命とロドスの協定は成立しています。これは両者とも同じ志向を有していたからに他ならないことは、確実に肯定できます。」

アンセル「確かに。……フィリオプシスさんに話してもらうだけでは申し訳ないので、私の話もしましょうか。と言っても……たいしたことは話せませんが。私の故郷はレム・ビリトンです。裕福ではなかったので、最新のものに触れる機会は全くありませんでした。働き口に困り行き詰っていた時に、たまたまロドスの求人広告を目にして、物は試しと履歴書を出してみたんです。するととんとん拍子に話が進み、ここに来ることになりました。初めてロドスに来た時は驚きました。こんな最先端技術が溢れる場所で仕事をすることになるなんて、思ってもみませんでしたから。」

フィリオプシス「同意見です。フィリオプシスも、サイレンスさんから初めてロドスとの協定について聞いた際は、ロドスが小型の陸上空母だとは予測できませんでした。」

アンセル「そうですよね。ロドスに来てからは多くのことを学べましたし、待遇も悪くないので満足しています。里帰りできる機会が少ないので、あまり家族に会えないのは残念ですが。」

フィリオプシス「家族……」

アンセル「あっ、あまり好きではない話題でしたか?」

フィリオプシス「いいえ。データベース上で、フィリオプシスの家族について検索をしているだけです。見つかりました。なるほど、忘れてしまっている事象も少なくありません。」

アンセル「……家族に会えないのは辛いですよね。」

フィリオプシス「いいえ。」

アンセル「えっ、さみしくないんですか?」

フィリオプシス「はい。では、アンセルさんの話を続けてください。」

アンセル「うーん、では……レム・ビリトンのお話を。」

フィリオプシス「はい。」

日記「アンセルさんは、故郷のことを多く語ってくださいました。工業都市の風景、家族と妹のこと、医師を志す理由などです。アンセルさんの話はフィリオプシスにとって、遠い別世界の事象のように感じられました。データベース上にある両親の顔と同じように。理由は解析不可能です。……」

フィリオプシス「医療部の皆様はご自身の身の上を語ることがよくあります。そのためフィリオプシスは、皆様の過去を全く知らないと言うわけではありません。しかしフィリオプシスとは無縁だと感じます。これまではそれがごく当たり前の事象であると理解していました。ですが、それでは確かに問題があるようです。では、本日の日記を記録します。今回は、少し長くなる可能性が高いと予測されます。」

日記「X月X日 薄曇り ようやくロドスに帰還しました。今回の任務には、長い時間を費やしました。これまでもチームと共に外出することはありました。しかし今回は予想外の出来事により、いくつかの問題が発生しました。そうです、問題です。」

フィリオプシス「Zzzzz……」

???「……さん、フィリオプシスさん。」

フィリオプシス「……!フィリオプシスは、スリープモードに入っていましたか?」

前衛オペレーター「はい。連絡事項を伝えに来ました。採取の過程でちょっとした機材トラブルがあり、機材のデバッグを行うことになりました。」

フィリオプシス「サポートが必要でしょうか?」

前衛オペレーター「いえ、フィリオプシスさんは十分サポートをしてくださってます。デバッグは単純作業の体力勝負なので、お手数をおかけすることはありません。連絡事項というのは、隊長から、デバッグは今日中に終わらない可能性があると聞いているので、もしお暇であれば近くのカジミエーシュの村に行ってみてはどうでしょう?という話です。あそこはこの辺りで唯一の移動集落です。規模も大きいですし、偵察オペレーターの話だと市場も開いているようですから、いい時間つぶしになると思います。もちろん、ここで休憩して過ごしても全く問題ありませんが。」
フィリオプシス「……はい、行ってみたいです。」

前衛オペレーター「わかりました。ではこちらが地図になります。経費も用意してあります。恥ずかしながら、このような状況は考慮していなかったため、交換できたカジミエーシュ貨幣には限りがありますが。」

フィリオプシス「カジミエーシュ貨幣?交換?」

前衛オペレーター「あ、はい。龍門幣は多くの国家に認められていますが、万能ではありません。特に移動都市外の村などでは、現地の通貨しか使えない場合がほとんどです。」

フィリオプシス「……はい、確かにその通りのようです。データベースでも同様の情報が見つかりました。」

前衛オペレーター「では、出発しましょう。」

フィリオプシス「? あなたも行くのですか?」

前衛オペレーター「ええ、小型作戦の今回は臨時の基地局を作っておらず、通信設備が使えませんからね。戦闘に特化していないメンバーが外出する際は、護衛が付く決まりになっているんです。それに、あなたの身体状況は分かっていますから、安全のためにも一人で行かせることはできません。」

フィリオプシス「なるほど。基地局に関する情報は初めて知りました。データベースの更新が必要です。」

前衛オペレーター「えっ、ご存知なかったんですか?」

フィリオプシス「はい、フィリオプシスはあまり外出しませんので。」

前衛オペレーター「ああ、確かにそうですね。申し訳ありません、余計なことを言ってしまいました……」

フィリオプシス「どうして謝罪されるのですか?」

前衛オペレーター「いえ……なんでもありません。では出発しましょう。」

フィリオプシス「今であれば、彼はフィリオプシスの身体状況を考慮せず、傷つける可能性のある言葉を言ったと判断し、謝罪をしたのだと推測できます。しかし当時、フィリオプシスは彼の心情を推察できませんでした。それにその時……」

日記「フィリオプシスは、一つ目の問題を発見しました。フィリオプシスは多くの「当たり前」の事象を知らないという問題です。」

フィリオプシス「——表現を修正します。正確には、「知らない」ではありません。全ての事象はデータベース上には存在しています。ただ長期間使用されなかったことで、参照するのが難しくなっているのです。そして、二つ目の問題。」

日記「カジミエーシュの風景は、クルビアやロドスのデッキから見た風景とは大きく異なりました。空気の清浄度も非常に高く、緑化率も同様に高水準でした。村で暮らしている大部分の村民はクランタ人でした。とはいえ、他の種族の方もいらっしゃいました。驚いたのは、村の市場が想像以上に活気に満ちていたことです。仕入れ担当の後方支援オペレーターは合流後、フィリオプシスに市場についての説明を行い、買い物するか否かを訊ねました。フィリオプシスは、医療部の皆様にお土産を購入することを思いつきました。」

店主「お嬢さん、何かご入り用かい?」

フィリオプシス「……」

店主「おーい、お嬢さん?」

フィリオプシス「……わかりません。」

店主「ああ?いやいや、どういうことだい。買い物に来てるのに何を買うかわからないなんて……」

フィリオプシス「……」

前衛オペレーター「あっ、すみません。彼女、ぼーっとしやすいんです。なにかお土産になるカジミエーシュの特産品はありますか?」

日記「そしてフィリオプシスは、二つ目の問題を発見しました。フィリオプシスのデータベースには、医療部の皆様の好きなものについての記録がなかったのです。決して皆様と関係が悪いというわけではありません。むしろ、講義上の定義からすれば、フィリオプシスとサイレンスさんは良い友人と判断されます。サイレンスさんとはライン生命時代から何度も共に仕事をしてきています。ロドスに誘ってくださったのも彼女です。」

フィリオプシス「他の医療オペレーターたちとも、悪い関係とは判定しかねます。」

日記「ですが、フィリオプシスのデータには、皆様の趣味嗜好についてのデータが存在しません。これまで、そんな情報を検索したことはありませんでした。その後、フィリオプシスたちは拠点へ戻り、以降の実地調査も順調に進行しました。帰路、フィリオプシスは、これまで発見できていなかった問題について、データベースに問い合わせていました。」

フィリオプシス「はい……もちろん、半分の時間はスリープモード状態でしたが。村へ向かう途中も、道の中央に立ったままスリープモードに……読み返す際に理解しやすいよう、その過程は省略します。」

日記「ライン生命に加入し、ロドスに来てから……」

???「フィリ姉、開けてくれ!いるだろ!」

フィリオプシス「イフリータですか。どうされましたか。」

イフリータ「サイレンスが実験してて暇だし、フィリ姉が帰ってきたって聞いたから会いに来たんだ。フィリ姉はいつもここにいるから、いなくなるとサイレンスがいない時よりも変な感じがしちまって。戻ってきてくれてよかったぜ!」

フィリオプシス「確かに、フィリオプシスはあまり外出しません。……確かに、フィリオプシスはあまり外出しません。」

イフリータ「フィリ姉、なんで同じことを二回も言うんだよ?」

フィリオプシス「なんでもありません。突然、フィリオプシスはあまり外出しないという事実を発見しただけです。」

イフリータ「ああ?フィリ姉、外で頭でも打っておかしくなっちまったのか?」

フィリオプシス「いえ。ただシステムに未知のエラーが発生しました。エラーは既に修復されました。カジミエーシュの特産品をいくつかお土産に購入しました。あそこに置いてありますので、どうぞ。」

イフリータ「マジか!?見てみる!おおー、この木刀かっけーな。フンッ、セイッ、ハッ!ほら、あの飛び回って戦うクランタ人たちに似てるか?」

フィリオプシス「似ていません。」

イフリータ「なんだよ……まぁいいや、これオレサマが貰っていいか!?」

フィリオプシス「はい。絵本なら本棚にあります。あちらで読んでいて構いません。フィリオプシスは書き物をします。」

イフリータ「わかった!」

フィリオプシス「ふぅ……では開始します。」

日記「ライン生命に加入し、その後ロドスに来てから、もう長い時間が経過しました。フィリオプシスは今の生活に完全に適応し、無意識の内にこれが正常な暮らしだと感じていました。ですが今回の外出で、そうではないことを発見しました。現在の生活を否定したいわけではありません。ただ突然、それに気が付いただけです。フィリオプシスは現在、正常とはかけ離れた生活をしています。」

フィリオプシス「ここで「正常」という言葉を使うのは正しいでしょうか。フィリオプシスの現在の生活は、本当に正常ではないのでしょうか?……広義では確かに、フィリオプシスの生活は正常ではないと判定されます。」

日記「フィリオプシスはただ忘れてしまっただけです。鉱石病がフィリオプシスから何を奪い、何を与えたのか。フィリオプシスには、適切な表現はできません。ですが少なくとも、ライン生命でサイレンスさんが治療プランを作成してくださってから、科学研究と睡眠がフィリオプシスの生活の全てを埋め尽くしてきました。」

フィリオプシス「一人で時間のかかる仕事を成し遂げることは、フィリオプシスの現在の身体機能では不可能です。一人での外出の難易度は、さらに高くなります。フィリオプシスは、自分の状況を自覚しています。ですから、時々外出したとしても、ほとんど自由行動はしません。」

日記「かなり前の時期から、フィリオプシスの外界に関する知識は、同僚の言葉や各種資料、そして窓を通して見る少しも変わり映えしない景色から取得するものがほとんどになりました。今改めて考えると、ガヴィルさんやアンセルさんに憧れるのは、当然のことでした。ですがフィリオプシスは、本日に至るまで、何故あの二人に憧れるのか、気付いていませんでした。皆様が自身の生活を語る時、フィリオプシスは無意識に、自分とは関係ない世界の話だと判定していました。彼らの話題に参加することはできたと思われます。ですが、フィリオプシスは、無意識にそうするべきではないと判断していたようです。」

イフリータ「フィリ姉、何書いてんだ?報告書には見えねーけど。」

フィリオプシス「日記です。」

イフリータ「日記?あー、オレサマもサイレンスに書かせられたことあるよ。でも面倒だろ!?」

フィリオプシス「はい。毎日書くとなると、工程はかさみます。ですがフィリオプシスにとっては必要なものです。」

イフリータ「なんで?」

フィリオプシス「フィリオプシスが、忘れてしまわないように。」

イフリータ「なんで忘れんだ?」

フィリオプシス「忘れやすいからです。」

イフリータ「うーん……よくわかんねぇ。」

フィリオプシス「わからない方が良いです。」

イフリータ「そうか……見てもいいか?」

フィリオプシス「はい。しかし文字だけのものです。イフリータは好きではないと思われます。」

イフリータ「じゃあいや、戻って絵本を読んでるよ。」

フィリオプシス「はい。そういえば……」

サイレンス「……」

フィリオプシス「サイレンスさん、どうかしましたか。実験で問題が発生しましたか?」

サイレンス「えっ?あ、いや、違うよ。ただイフリータに何のプレゼントを買えばいいか考えてた。もうすぐあの子の誕生日だから。」

フィリオプシス「誕生日プレゼントですか?」

サイレンス「うん。燃えないもので、あの子が気に入るもの。はぁ、子供の心は本当にわからないな。思い切って手作りしようか。」
フィリオプシス「……」

サイレンス「どうしたの?」

フィリオプシス「なんでもありません。サイレンスさんがこのようなことを考えるとは思わなかっただけです。」

サイレンス「変?うん……確かに、私らしくないかもしれない。でもイフリータを連れてきたのは私だからね。これは私が負うべき責任なんだよ。」

フィリオプシス「サイレンスさんは何日も休息せず仕事に没頭することがあります。しかしこのような一面もあるのですね。」

日記「フィリオプシスは本当は理解しています。これはフィリオプシス自身の問題です。あるいは、初めから問題ですらなかった可能性もあります。不幸だとは思いません。フィリオプシスは科学研究に没頭する生活が嫌いではないためです。」

フィリオプシス「逆に言えば、もし科学研究が嫌いなら、フィリオプシスはライン生命に加入することはありませんでした。」

日記「ライン生命であろうと、ロドスであろうと、フィリオプシス以上に悲惨な経歴を持つ方は数え切れません。彼らと比べれば、フィリオプシスは幸運です。それにフィリオプシスは信じています。フィリオプシスが取り組んでいる研究には意味があると。」

フィリオプシス「フィリオプシスがこれらを記録するのは、現状を嘆くためではありません。誤った生活をしてきたことに突然気付いたと、意思表示をしたいわけでもありません。」

日記「日記をつけるようになった目的を思い出しました。フィリオプシスは時折、不思議な音を聞きます。金属の擦れる音、ぶつかる音、叫び声、爆発音。それらの音はまるで自分自身の奥底から発生しているようで、フィリオプシスを困らせ続けています。眠りから覚めると、頭がぼんやりして、自分が何処にいるかも、何をしているかも忘れてしまうことがあります。本当に忘れてしまったわけではありません。ですが、他の皆様よりも長い時間と気力をかけて、データを検索する必要があることは、否定できません。フィリオプシスが日記をつけ始めたのは、大切なものを忘れてしまわないためです。」

フィリオプシス「大切なもの……」

イフリータ「フィリ姉、オレサマを見つめてどうしたんだよ?しかもさっきからずっとブツブツ独り言なんか言ってさ。」

フィリオプシス「なんでもありません。」

イフリータ「まさか何かやらかして、オレサマにサイレンスへの詫びを入れてもらおうなんて考えてねーよな?まぁ、オレサマたちの仲に免じて、手伝ってやってもいいけど、あんまり派手なやらかしなら無理だからな。サイレンスにケツを叩かれたくねーしな。」

フィリオプシス「フフ、ご心配はいりません。」

日記「今日の出来事で、一つ、理解しました。大切なものに対しては、「忘れない」だけでは、充分ではない可能性がある、ということです。いえ、こう書くべきです。フィリオプシスは大切な人のことを、より理解して、より多くの物事を処理できるようになりたい。」

フィリオプシス「後悔することを、フィリオプシスは望みません。」

???「フィリオプシス、イフリータは来てない?」

イフリータ「あっ、サイレンスだ!」

サイレンス「やっぱりここにいた。フィリオプシス、イフリータが迷惑かけてないよね?」

フィリオプシス「いえ、お利口でした。」

イフリータ「へへっ。」

サイレンス「それならいいけど。それと、あなたは大丈夫?今日戻ってきた時の様子がちょっとおかしかったけど。」

フィリオプシス「特に問題ありません……ですが、サイレンスさんに会いに行こうと考えていました。」

サイレンス「私に?」

フィリオプシス「はい、あなたと話がしたいです。」

サイレンス「話したい?普段も話してるでしょう?」

フィリオプシス「はい、ですが今回は、これまでは考えもしなかったことを、あなたと話したいんです。」


文字数:10,066文字 原稿用紙26枚分
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