「今向かわれて、某はどうすればよろしいか!」
とっさに出た言葉は卑怯なものだった。政宗に謝りたいほどに。
「幸村!お前も来……っ、」
何かを察して、僅か言葉が途切れる。
「おやめ下され政宗殿」
もう一度、今度は懇願じみた口調で訴えた。
「……ふざけるなよ。アンタに手ェだされて、落ち着いてろってか?」
答えには胸を抉るような色合いが滲む。
「某を案じるならば、今はここにいて下され」
ほっとして言うと、政宗の顔が引きつるように哀しく歪んだ。
「嘘付け。なら、もっと物欲しそうに言えよ」
「ならば欲しゅうござる」
これ以上なく、ここにいて欲しい。心の底からの思いをこめて訴えると、政宗は酷く空しい顔になった。
「嘘、つくなよ……よりによって……アンタが付くな、オレに」
緩く頭を振る政宗の頬を、幸村はそっと捕らえた。
「何故嘘と思われるか、某は政宗殿の妻にござろう」
「Yes,だから許せねぇって言ってるだろ。アンタはどうして笑ってるんだ?
オレの一人よがりだっていうのか?止めろよ……質の悪いjokeだ」
淡々としているはずの、その声音が幸村に刺さる。
「何がどう質が悪いか、どのように独りよがりかは解り申さぬ。
某に解るは、政宗殿が某の言葉を聞き、ここを駆け出さずにいてくれた喜びだけにござる。
あの可愛らしき毛利の方の身に何も起こらずに済んだ安堵のみでござる」
「ha……可愛かねぇよ……」
その言葉を、全力で否定する。夫を止められぬならば、何が妻か。
好敵手と目した人を止められずして、何が幸村か。
「否、まれに見る可愛らしき方。かのお方は長曾我部殿がいる時とおらぬ時で別人のようにござる。
おらぬ時は若き老人の如く倦みつかれ、からくり仕掛けのように動き語られる。
長曾我部殿が来てからは、眼差しが違っておりましたぞ。
一挙手一投足が何を引き起こすか、幼子のごとき興味と熱心さが身内に籠もられておられた。
我が身に何事かされることで毛利殿の本懐が遂げられる一助となるならば、それもようござろう」
苛立ちが政宗の目をよぎる。政宗の切なそうな様子も怒りも、幸村にはその理由も原因も解らない。
政宗には怒り狂うだけの事があるのだろう。
それを解ってやりたいとは思うけれど、同調してはならないとも思うのだ。
「アンタはオレの女だ。オレの生涯かけてたった一人のRivalだ。それを何かの道具扱いされて、
それでもこのオレに黙ってろって、アンタそう言うのか?」
胸を抉るこの声音。引きずられてはならじと幸村は政宗を見る。
時折混じる南蛮言葉の意味が分からず、もどかしくてたまらない。
「某がたった一人の相手であれば、某の言葉をお聞き届け下さられぬか。某何一つ不快な思いをしてはござらぬ。
某は客人に危害を加える政宗殿を見たくはござらぬ。某の言葉など意にも介さぬ政宗殿を見たくはござらぬ。
某の考えはおかしゅうござるか。某は、政宗殿を止められぬだけの小さき存在でありたくはないと……思いまする」
政宗は何でか哀しい目をしていた。真実切ない、辛い目をしていた。
暫し睨むように視線を交わしあい、それからやっと政宗が口を開いた。
「……Ok……」
呟く声が胸に痛い。
「幸村。アンタが止めるなら聞いてやる。意趣返しをしないことも、幸村の言葉を聞かないことも、
どっちもアンタへの裏切りなら、……幸村がいいと思う方にしてやるよ。Yes…yes,honey……アンタ残酷だ」
何が裏切りであるものか。
「手打ちにされようとも、文句は言いませぬ」
自分の感情でなく、表情を消し去った政宗から洩れ伝わる気持ちでどうしてか涙をこぼしたくなる。
切ない、辛い、そんな気持ちが肌と夜着越しに押し寄せてくる。
「手打ちに出来るなら、今ここにいやしねえよ」
少し解ってきた気がする。自分の言葉は、この独立不羈の独眼竜の矜持を叩き折ろうとしている。
それはひどく哀しい。とても切ない。そんなことはしたくない。
傷みを自分のものとして感じ取ってしまう。幸村は頬を包み込んだ政宗の目を見る。
深い色合いの瞳。その奥に渦巻くやりきれなさ。
「……アンタはオレを止めるんだな」
「全力を持ってお止め致す」
「オレと一緒に怒っちゃくれねえか」
「何も怒るようなことはござらぬ」
「O-key……My…Sweet.確かにオレは、幸村のそういうトコに惚れたんだ」
その体の裡に渦巻くやりきれなさごと抱きしめる。
オレの意のままにならねぇんだよな、と耳元を笹風のような声が吹き抜ける。
「幸村、幸村……本当にイイ女だよ、千人にひとりも、アンタみてーのはいねぇよ」
そんな言葉とは関係なく解る。政宗はいま、ここに留まり続けているのがどうしようもなく苦しいと。
「幸村!お前も来……っ、」
何かを察して、僅か言葉が途切れる。
「おやめ下され政宗殿」
もう一度、今度は懇願じみた口調で訴えた。
「……ふざけるなよ。アンタに手ェだされて、落ち着いてろってか?」
答えには胸を抉るような色合いが滲む。
「某を案じるならば、今はここにいて下され」
ほっとして言うと、政宗の顔が引きつるように哀しく歪んだ。
「嘘付け。なら、もっと物欲しそうに言えよ」
「ならば欲しゅうござる」
これ以上なく、ここにいて欲しい。心の底からの思いをこめて訴えると、政宗は酷く空しい顔になった。
「嘘、つくなよ……よりによって……アンタが付くな、オレに」
緩く頭を振る政宗の頬を、幸村はそっと捕らえた。
「何故嘘と思われるか、某は政宗殿の妻にござろう」
「Yes,だから許せねぇって言ってるだろ。アンタはどうして笑ってるんだ?
オレの一人よがりだっていうのか?止めろよ……質の悪いjokeだ」
淡々としているはずの、その声音が幸村に刺さる。
「何がどう質が悪いか、どのように独りよがりかは解り申さぬ。
某に解るは、政宗殿が某の言葉を聞き、ここを駆け出さずにいてくれた喜びだけにござる。
あの可愛らしき毛利の方の身に何も起こらずに済んだ安堵のみでござる」
「ha……可愛かねぇよ……」
その言葉を、全力で否定する。夫を止められぬならば、何が妻か。
好敵手と目した人を止められずして、何が幸村か。
「否、まれに見る可愛らしき方。かのお方は長曾我部殿がいる時とおらぬ時で別人のようにござる。
おらぬ時は若き老人の如く倦みつかれ、からくり仕掛けのように動き語られる。
長曾我部殿が来てからは、眼差しが違っておりましたぞ。
一挙手一投足が何を引き起こすか、幼子のごとき興味と熱心さが身内に籠もられておられた。
我が身に何事かされることで毛利殿の本懐が遂げられる一助となるならば、それもようござろう」
苛立ちが政宗の目をよぎる。政宗の切なそうな様子も怒りも、幸村にはその理由も原因も解らない。
政宗には怒り狂うだけの事があるのだろう。
それを解ってやりたいとは思うけれど、同調してはならないとも思うのだ。
「アンタはオレの女だ。オレの生涯かけてたった一人のRivalだ。それを何かの道具扱いされて、
それでもこのオレに黙ってろって、アンタそう言うのか?」
胸を抉るこの声音。引きずられてはならじと幸村は政宗を見る。
時折混じる南蛮言葉の意味が分からず、もどかしくてたまらない。
「某がたった一人の相手であれば、某の言葉をお聞き届け下さられぬか。某何一つ不快な思いをしてはござらぬ。
某は客人に危害を加える政宗殿を見たくはござらぬ。某の言葉など意にも介さぬ政宗殿を見たくはござらぬ。
某の考えはおかしゅうござるか。某は、政宗殿を止められぬだけの小さき存在でありたくはないと……思いまする」
政宗は何でか哀しい目をしていた。真実切ない、辛い目をしていた。
暫し睨むように視線を交わしあい、それからやっと政宗が口を開いた。
「……Ok……」
呟く声が胸に痛い。
「幸村。アンタが止めるなら聞いてやる。意趣返しをしないことも、幸村の言葉を聞かないことも、
どっちもアンタへの裏切りなら、……幸村がいいと思う方にしてやるよ。Yes…yes,honey……アンタ残酷だ」
何が裏切りであるものか。
「手打ちにされようとも、文句は言いませぬ」
自分の感情でなく、表情を消し去った政宗から洩れ伝わる気持ちでどうしてか涙をこぼしたくなる。
切ない、辛い、そんな気持ちが肌と夜着越しに押し寄せてくる。
「手打ちに出来るなら、今ここにいやしねえよ」
少し解ってきた気がする。自分の言葉は、この独立不羈の独眼竜の矜持を叩き折ろうとしている。
それはひどく哀しい。とても切ない。そんなことはしたくない。
傷みを自分のものとして感じ取ってしまう。幸村は頬を包み込んだ政宗の目を見る。
深い色合いの瞳。その奥に渦巻くやりきれなさ。
「……アンタはオレを止めるんだな」
「全力を持ってお止め致す」
「オレと一緒に怒っちゃくれねえか」
「何も怒るようなことはござらぬ」
「O-key……My…Sweet.確かにオレは、幸村のそういうトコに惚れたんだ」
その体の裡に渦巻くやりきれなさごと抱きしめる。
オレの意のままにならねぇんだよな、と耳元を笹風のような声が吹き抜ける。
「幸村、幸村……本当にイイ女だよ、千人にひとりも、アンタみてーのはいねぇよ」
そんな言葉とは関係なく解る。政宗はいま、ここに留まり続けているのがどうしようもなく苦しいと。




